説明

陶磁器製食器の製造方法

【課題】原料全体に対する陶磁器粉砕物の割合を高めても、機械的強度が高く、且つ、嵩密度が抑えられた陶磁器製食器の製造方法を提供する。
【解決手段】陶磁器製食器の製造方法は、陶磁器粉砕物20質量%〜60質量%、石英10質量%〜30質量%、及び粘土30質量%〜40質量%を含む原料を水と混合して得た混合物を食器の形状に成形し、焼成することにより、石英からクリストバライトを析出させることを特徴とする。石英は20質量%以上を含有させれば、陶磁器粉砕物の割合増加に伴う素地の熱膨張率の低下を抑制でき、望ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、陶磁器製食器の製造方法に関するものであり、特に、廃棄された陶磁器を原料とする陶磁器製食器の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
廃棄された陶磁器の粉砕物を原料とした陶磁器製食器、いわゆるリサイクル食器が、従前より実施されている。しかしながら、従来のリサイクル食器では、原料全体に対する陶磁器粉砕物の割合は、20質量%未満にとどまっていた。例えば、特許文献1では、磁器製食器を粉砕したリサイクル材料を、16質量%含有する組成物から製造された磁器製食器を開示している。
【0003】
ここで、原料全体に対する陶磁器粉砕物の割合を増加させると、製造される陶磁器製食器の機械的強度が低下する傾向がある。そこで、原料にアルミナを添加することによって、機械的強度が高められたリサイクル食器が製造されている。しかしながら、従来の一般的なリサイクル食器の嵩密度が約2.4であるのに対し、アルミナを添加したリサイクル食器は嵩密度が約2.8と嵩密度が高い。そのため、アルミナを添加して強度を高めたリサイクル食器は、重くて使用しにくいという問題があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで、本発明は、上記の実情に鑑み、原料全体に対する陶磁器粉砕物の割合を高めても、機械的強度が高く、且つ、嵩密度が抑えられた陶磁器製食器の製造方法の提供を、課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の課題を解決するため、本発明にかかる陶磁器製食器の製造方法は、「陶磁器粉砕物20質量%〜60質量%、石英10質量%〜30質量%、及び粘土30質量%〜40質量%を含む原料を水と混合して得た混合物を食器の形状に成形し、焼成することにより、石英からクリストバライトを析出させる」ものである。
【0006】
従来のリサイクル食器では陶磁器粉砕物の含有率が20質量%未満にとどまっていたところ、上記構成によれば、陶磁器粉砕物を20質量%〜60質量%という従来のリサイクル食器より高い含有率で含有させても、後述のように、実用的な強度を有し、かつ、嵩密度が2.5未満に抑えられた陶磁器製食器を製造することができる。
【0007】
従って、上記の製造方法で製造される陶磁器製食器は、陶磁器のリサイクル率が高く、資源の有効利用に資するものである。加えて、軽量でありながら実用的な強度を備えているため、使用しやすいと共に耐久性が高く、特に、学校給食用食器、航空機機内食用食器、社員食堂用食器など、一度に大量の食器が取り扱われる場で使用される食器に適している。
【0008】
本発明にかかる陶磁器製食器の製造方法は、上記構成に加え、「前記原料は石英を20質量%以上含む」ものとすることができる。
【0009】
原料における陶磁器粉砕物の含有率が高くなると、製造される陶磁器製食器の素地に含有されるムライトの割合が高くなる。ムライトは熱膨張率が小さいため、素地の熱膨張率が小さくなり、釉薬の熱膨張率との差に起因して貫入が生じ易くなる。これに対し、本発明では、石英からクリストバライトを析出させており、クリストバライトは約230℃付近でα型からβ型に相転移して熱膨張率が大きくなる。従って、素地中にクリストバライトを析出させることにより、ムライトの含有率が高いことに起因して素地の熱膨張率が小さくなる度合いを低減することができる。検討の結果、原料中に石英を20質量%以上含有させた場合、陶磁器粉砕物の含有率を増加させても、素地全体の熱膨張率の低下が抑制できるという知見を得た。
【0010】
従って、上記構成の本発明によれば、陶磁器粉砕物の含有率を高めても、素地中にクリストバライトを析出させることにより、素地全体の熱膨張率が小さくなる度合いを低減することができるため、陶磁器製食器に使用される一般的な釉薬を使用しても、釉薬と素地との熱膨張率との差に起因して貫入が生じるおそれを低減することができる。
【発明の効果】
【0011】
以上のように、本発明の効果として、原料全体に対する陶磁器粉砕物の割合を高めても、機械的強度が高く、且つ、嵩密度が抑えられた陶磁器製食器の製造方法を、提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】試料4のX線回折パターンである。
【図2】試料4の走査型電子顕微鏡による観察像である。
【図3】各試料について昇温時の熱膨張率の変化を示す曲線である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の一実施形態の陶磁器製食器の製造方法(以下、単に「製造方法」と称することがある)について説明する。
【0014】
本実施形態の製造方法は、陶磁器を粉砕した陶磁器粉砕物20質量%〜60質量%、石英10質量%〜30質量%、及び粘土30質量%〜40質量%を所定の割合で配合した原料を、水と混合して混合物を得る混合工程と、混合物を食器の形状に成形し成形体とする成形工程と、成形体を乾燥させる乾燥工程と、乾燥した成形体を仮焼し仮焼体とする仮焼工程と、仮焼体に施釉する施釉工程と、施釉された仮焼体を焼成する焼成工程とを具備している。
【0015】
より詳細に説明すると、混合工程では、まず、陶磁器粉砕物、石英、及び粘土を所定割合で配合した原料を、ボールミル等を用いて水と共に十分に混合する。次に、原料が水と共に十分混合された泥しょうを加圧ろ過し、ある程度脱水された混合物とする。
【0016】
成形工程では、混合物を食器の形状に成形する。成形に先立ち、水の添加または脱水により混合物の濃度を成形に適した濃度に調整する。成形方法は特に限定されないが、機械ロクロ成形、ローラーマシン成形、鋳込み成形を例示することができる。
【0017】
焼成工程は、1200℃〜1400℃で行うことができる。焼成雰囲気は、釉薬の種類または所望の発色により、還元雰囲気または酸化雰囲気の何れも選択可能である。この焼成工程において、素地中にクリストバライトが析出する。
【実施例】
【0018】
本実施形態の具体的な実施例について説明する。ここでは、原料に、陶磁器粉砕物が40質量%〜60質量%と、極めて高含有率で含まれる実施例を説明する。
【0019】
表1に示す7種類の組成の原料から、次のように試料1〜試料7を作製した。まず、各組成の原料を、水と共にボールミル粉砕し、フィルタープレスにより脱水して混合物を得た。鋳込み成形により混合物からサイズ5mm×10mm×70mmの試験片を成形し、24時間自然乾燥させた。乾燥した成形体を、800℃で1時間仮焼した後、焼成した。焼成温度は1305℃とし、ローラーハースキルン炉内の移動による焼成時間は260分であった。焼成雰囲気は、ブタンガス、CO濃度約4%の還元雰囲気とした。なお、施釉工程は行っていない。
【0020】
【表1】

【0021】
各試料(焼結体)について、X線回折により結晶相の同定を行った。測定にはX線回折装置(リガク製、ultimaIV)を使用し、銅管球、電圧40kV、電流20mA、スキャン速度2θについて1度/minの条件で測定した。何れの試料についても、回折強度の大きなクリストバライトのピークが認められ、原料に含まれる石英からクリストバライトが析出していることが確認された。代表的な回折パターンとして、試料4の回折パターンを図1に示す。
【0022】
また、各試料について、研磨面をフッ化水素の10%水溶液に50秒間浸漬処理し、走査型電子顕微鏡(日本電子製、JSM−7001GC)で観察したところ、クリストバライトの結晶が確認された。例として、試料4の観察像を図2に示す。図2から分かるように、径が1μmより大きいクリストバライトの結晶が析出している。
【0023】
更に、各試料について、次の方法で、三点曲げ強度、及び、嵩密度を測定した。測定は試験片8個について行い、平均値を算出した。測定結果を、表1にあわせて示す。
<三点曲げ強度>
日本セラミックス協会規格JCRS−203−1996「食器用強化磁器の曲げ強さ試験方法」に則り、スパン30mm、クロスヘッドスピード5mm/minで測定した。
<嵩密度>
アルキメデス法により測定した。
【0024】
表1に示すように、陶磁器粉砕物を40質量%〜60質量%という極めて高い割合で含有した原料から製造したにも関わらず、何れの試料も無釉で150MPa以上の三点曲げ強度を示し、実用的な食器に一般的に要請される強度を備えていた。加えて、何れの試料の嵩密度も2.40〜2.46の範囲内であり、従来の一般的なリサイクル食器の嵩密度と同程度であった。すなわち、アルミナの添加により強度が高められた陶磁器とは異なり、嵩密度の増加を伴うことなく、高い機械的強度が実現されている。
【0025】
また、試料1と試料2は陶磁器粉砕物の割合が40質量%と等しく、石英の割合は試料1の方が大きい。試料2より試料1の方が三点曲げ強度が高いことから、石英から析出したクリストバライトが強度を高めることに寄与していると考えられた。同じことは、陶磁器粉砕物の割合が45質量%と等しい試料3と試料4との組み合わせ、及び、陶磁器粉砕物の割合が50質量%と等しい試料5と試料6との組み合わせについても言うことができ、何れの組み合わせにおいても、石英の割合が大きい試料の方が、高い三点曲げ強度を示している。
【0026】
次に、各試料について、線熱膨張率を測定した結果を、図3を用いて説明する。線熱膨張率は、常温から900℃まで昇温しながら測定した。図中、カッコ内に示した数値は、石英の割合(質量%)である。図3から、何れの試料についても、約230℃において熱膨張率が増加している。これは、クリストバライトのα型からβ型への相転移によるものである。このことからも、各試料において、石英からクリストバライトが析出していることを確認することができる。
【0027】
また、図3から、石英の割合が10質量%、15質量%、20質量%、30質量%と増加するのに伴い、熱膨張率が大きくなっていることが明らかである。このことから、石英からクリストバライトを析出させることにより、素地全体の熱膨張率を高めることができることが分かる。
【0028】
加えて、試料2、試料3、及び試料5は、ほぼ等しい熱膨張率を示している。これら三つの試料は、陶磁器粉砕物の割合はそれぞれ40質量%、45質量%、50質量%と異なるものの、石英の割合は20質量%と同一の試料である。このことから、陶磁器粉砕物の割合を高めることによって、低熱膨張率であるムライトの割合が素地において増加しても、石英を少なくとも20質量%含有させてクリストバライトを析出させることにより、素地全体の熱膨張率の低下を抑制できると考えられた。
【0029】
以上、本発明について好適な実施形態を挙げて説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、以下に示すように、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の改良及び設計の変更が可能である。
【0030】
例えば、焼成工程の後に、絵付けを行い、焼成温度より低い温度で焼き付ける上絵付け工程を設けることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0031】
【特許文献1】特開2007−151875号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
陶磁器粉砕物20質量%〜60質量%、石英10質量%〜30質量%、及び粘土30質量%〜40質量%を含む原料を水と混合して得た混合物を食器の形状に成形し、焼成することにより、石英からクリストバライトを析出させることを特徴とする陶磁器製食器の製造方法。
【請求項2】
前記原料は石英を20質量%以上含むことを特徴とする請求項1に記載の陶磁器製食器の製造方法。

【図1】
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【図3】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−205861(P2012−205861A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−76051(P2011−76051)
【出願日】平成23年3月30日(2011.3.30)
【出願人】(391016842)岐阜県 (70)
【出願人】(311003640)株式会社丸小セラミック (1)
【Fターム(参考)】