階段室型共同住宅の増築方法及びこの方法で増築された建築物
【課題】階段室型共同住宅を片廊下型の共同住宅へと変更することができて、エレベータの設置や複数の避難経路の確保が可能となるとともに、居住者の希望に応じた住戸を提供することが可能な階段室型共同住宅の増築方法を提供すること。
【解決手段】隣接する2つの住戸1,1とその間にある屋外階段3からなる住戸対を同一階に複数備えている階段室型共同住宅からなる既存住宅について、屋外階段3側に各階の床高さと略同じ高さで且つ該既存住宅との間に空間12を有するように新規廊下11を設け、住戸の出入口と該住戸と同じ階に設けられた新規廊下とを通路にて連結するとともに、同一階にある複数の住戸対を屋外階段の撤去形態が異なる複数の形態に改築する。
【解決手段】隣接する2つの住戸1,1とその間にある屋外階段3からなる住戸対を同一階に複数備えている階段室型共同住宅からなる既存住宅について、屋外階段3側に各階の床高さと略同じ高さで且つ該既存住宅との間に空間12を有するように新規廊下11を設け、住戸の出入口と該住戸と同じ階に設けられた新規廊下とを通路にて連結するとともに、同一階にある複数の住戸対を屋外階段の撤去形態が異なる複数の形態に改築する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、隣接する住戸間に各住戸への出入口に接続する屋外階段を備えた構造の階段室型共同住宅を、居住者の多様な希望に合致する片廊下型の共同住宅に増築することができる増築方法及びこの方法で増築された建築物に関する。
【背景技術】
【0002】
隣接する住戸間に各住戸への出入口に接続する屋外階段を備えた構造の共同住宅は一般に階段室型共同住宅と呼ばれている。
このような階段室型共同住宅のうち、昭和30年代から40年代にかけて竣工された住棟は老朽化がすすんでいるため、早急な建て替え等が望まれているが、既存の全ての住棟を全て建て替えるのは現実的には容易なことではなく、膨大な量の建築廃材の発生や建て替えに伴う居住者の引越しの問題もある。
また、このような階段室型共同住宅は居住者に高齢者が多いことから、上層階に居住する高齢者にとっては階段での上り下りが大変であるという問題を抱えている。
更に、外部への経路が隣接する住戸と共通の階段室のみであるために、避難経路が限定されてしまい、火災や地震等の災害発生時における避難が困難となる場合があるという問題もあった。
また、階段室型共同住宅の居住者の中には、長年居住している間に家族が増える等して部屋が狭く感じるようになる者もいるが、従来は、引越しをしない限り部屋の狭さの問題を解決することはできなかった。
【0003】
上記したような移動に関する問題点に鑑みて、既存の階段室型共同住宅を片廊下型の共同住宅に改築してエレベータを設置する方法が提案されている(下記特許文献1参照)。
しかしながら、特許文献1の開示技術では、全ての階段室部分を完全に解体撤去してしまうため、工事に時間がかかり、長期間にわたって居住者の出入りが制限されてしまうという問題があった。
しかも、階段室の解体撤去作業は、部屋のごく近傍で行われることから室内に騒音が伝わりやすく、そのため居住者は長期間に亘って工事の騒音を我慢しなければならないという問題もあった。
また、この開示技術では、上述したような部屋の狭さの問題を解決することはできなかった。
【0004】
一方、本願出願人は、既存の階段室型共同住宅を片廊下型の共同住宅に改築すると同時に上方へと増築することができる方法を提案している(下記特許文献2参照)。
この特許文献2の開示技術は、住みながらにして既存の中層階段室型共同住宅を高層の片廊下型の共同住宅へと変更することができるとともに、部屋の増床も可能であるという従来にない非常に画期的な技術であったが、上記したような階段室の解体撤去作業に関わる問題点については解消できるものではなかった。
また、部屋の増床が可能ではあるものの、全ての住戸が一律に増床されるため、例えば一人暮らしの人など部屋の広さに不満を感じていない人にとっては、増床により発生する費用は余分な負担となってしまうという問題があった。
【0005】
更に、特許文献3には、階段室型共同住宅の折り返し階段の下半分を撤去し、その下部に新設階段を連結することにより、階段を直線化した改良階段とする、階段室型共同住宅のバリアフリー化改修方法が開示されている。
この方法によれば、階段室の解体撤去作業に関わる問題点を解消することが可能であるが、上記した部屋の狭さの問題を解決することはできなかった。
【0006】
上記実情に鑑みて、本願出願人は更に下記特許文献4の開示技術を提案している。
この特許文献4の開示技術は、上記特許文献3の開示技術が抱える問題点を解決することができる優れたものである。
しかしながら、階段室型共同住宅の居住者の中には、住みなれた環境の変化を好まない人、使い慣れた屋外階段をそのまま維持することを希望する人、施工中の工事の騒音をできるだけ避けたい人、工事による追加費用の負担をできるだけ少なくしたい人等も存在しており、全ての人が一様に屋外階段を撤去する増改築を希望しているとは限らなかった。しかしその一方で大幅な居住空間の拡張を希望する人等も存在しており、特許文献4の開示技術でもこのような居住者の多様な要求に応えることは困難であった。
【0007】
【特許文献1】特開平11−159153号公報
【特許文献2】特開2004−124558号公報
【特許文献3】特開2004−225473号公報
【特許文献4】特開2007−71008号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであって、階段室型共同住宅を片廊下型の共同住宅へと変更することができて、エレベータの設置や複数の避難経路の確保が可能となるとともに、居住者の希望に応じた住戸を提供することが可能な階段室型共同住宅の増築方法及びこの方法で増築された建築物を提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に係る発明は、隣接する2つの住戸とその間にある屋外階段からなる住戸対を同一階に複数備えている階段室型共同住宅からなる既存住宅の増築方法であって、前記既存住宅の屋外階段側に各階の床高さと略同じ高さで且つ該既存住宅との間に空間を有するように新規廊下を設け、前記住戸の出入口と該住戸と同じ階に設けられた新規廊下とを通路にて連結するとともに、前記同一階にある複数の住戸対を前記屋外階段の撤去形態が異なる複数の形態に改築することを特徴とする階段室型共同住宅の増築方法に関する。
【0010】
請求項2に係る発明は、前記複数の形態を得るための改築の1つが、前記屋外階段のうち上り側又は下り側のいずれか一方側の階段のみを撤去して、もう一方側の階段は撤去せずに維持してこれを各階において同様に繰り返し、前記撤去された側の階段部分の空間において、住戸の出入口と該住戸と同じ階に設けられた新規廊下とを通路にて連結し、前記維持された側の階段と住戸の出入口と該住戸の上階又は下階に設けられた新規廊下とを新たな階段にて連結する改築であることを特徴とする請求項1記載の階段室型共同住宅の増築方法に関する。
【0011】
請求項3に係る発明は、前記複数の形態を得るための改築の1つが、前記屋外階段を撤去せずにそのまま維持し、前記住戸の新規廊下側に前記通路に面する新規出入口を設ける改築であることを特徴とする請求項1記載の階段室型共同住宅の増築方法に関する。
【0012】
請求項4に係る発明は、前記複数の形態を得るための改築の1つが、前記屋外階段を全て撤去し、前記住戸の居住空間を該撤去により生じた空間へと拡張し、前記住戸の新規廊下側に前記通路に面する新規出入口を設ける改築であることを特徴とする請求項1記載の階段室型共同住宅の増築方法に関する。
【0013】
請求項5に係る発明は、隣接する2つの住戸とその間にある屋外階段からなる住戸対を同一階に複数備えている階段室型共同住宅からなる既存住宅を増築して得られる建築物であって、前記屋外階段側に各階の床高さと略同じ高さで且つ該既存住宅との間に空間を有するように新規廊下が設けられ、前記住戸の出入口と該住戸と同じ階に設けられた新規廊下とが通路にて連結されており、前記同一階にある複数の住戸対が前記屋外階段の撤去形態が異なる複数の形態に改築されていることを特徴とする建築物に関する。
【0014】
請求項6に係る発明は、前記改築の複数の形態の1つが、前記屋外階段のうち、上り側又は下り側のいずれか一方側の階段のみが撤去されて、もう一方側の階段は撤去されずに維持され、前記撤去された側の階段部分の空間において、住戸の出入口と該住戸と同じ階に設けられた新規廊下とが通路にて連結され、前記維持された側の階段と住戸の出入口と該住戸の上階又は下階に設けられた新規廊下とが新たな階段にて連結されている形態であることを特徴とする請求項5記載の建築物に関する。
【0015】
請求項7に係る発明は、前記改築の複数の形態の1つが、前記屋外階段が撤去されずにそのまま維持され、前記住戸の新規廊下側に前記通路に面する新規出入口が設けられた形態であることを特徴とする請求項5記載の建築物に関する。
【0016】
請求項8に係る発明は、前記改築の複数の形態の1つが、前記屋外階段が全て撤去され、前記住戸の居住空間が該撤去により生じた空間へと拡張され、前記住戸の新規廊下側に前記通路に面する新規出入口が設けられた形態であることを特徴とする請求項5記載の建築物に関する。
【発明の効果】
【0017】
請求項1及び5に係る発明によれば、階段室型共同住宅を片廊下型の共同住宅へと変更することができることにより、エレベータの設置や複数の避難経路の確保が可能となって、居住性や安全性を大きく高めることができる。
また、同一階にある複数の住戸対を屋外階段の撤去形態が異なる複数の形態に改築するため、従来の画一的な階段室型共同住宅の増築方法では得ることができなかった、居住者の多様な希望に応じることができる形態を備えた住戸を提供することが可能となる。
【0018】
請求項2及び6に係る発明によれば、屋外階段の上り側と下り側のいずれか一方の階段のみを撤去することにより、施工期間の短縮や施工費用の削減が可能であるとともに、工事の騒音も低減することができ、これによって、施工中においても居住者が快適に日常生活を営むことができる。また、増築後には、水平な通路を通って新規廊下からエレベータへの経路を確保することができ、居住者の利便性及び安全性に優れたものとなる。
【0019】
請求項3及び7に係る発明によれば、屋外階段を撤去せずにそのまま維持し、住戸の新規廊下側に通路に面する新規出入口を設けることにより、施工期間の大幅な短縮や施工費用の大幅な削減が可能であるとともに、工事の騒音も大幅に低減することができ、これによって、施工中においても居住者が非常に快適に日常生活を営むことができる。また、既存の屋外階段を利用した外部への経路を維持しつつ、新たに新規出入口から新規廊下への経路を確保することができる。そのため、居住者の利便性及び安全性に優れたものとなる。
【0020】
請求項4及び8に係る発明によれば、屋外階段を全て撤去し、住戸の居住空間を該撤去により生じた空間へと拡張し、住戸の新規廊下側に通路に面する新規出入口を設けることにより、住戸の居住空間を大幅に拡張することが可能となり、居住空間の大幅な拡張を希望する居住者の要求に沿うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明に係る階段室型共同住宅の増築方法及びこの方法で増築された建築物の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
本発明に係る方法は、隣接する住戸間に各住戸への出入口に接続する屋外階段を備えた構造の階段室型共同住宅を片廊下型の共同住宅へと増築する方法であり、本発明に係る建築物はこの方法により増築された片廊下型の共同住宅である。
【0022】
本発明に係る増築方法は、増築前後で階数を増やす場合と、増築前後で階数が同じである場合の両方を含んでいる。
以下、前者を第一実施形態、後者を第二実施形態と称し、これら2つの実施形態について順次説明する。
両実施形態は、新規廊下を設けるまでの工程が若干異なるが、それ以降の工程は共通しているため、先ず新規廊下を設けるまでの工程についての説明を行う。
【0023】
図1は本発明に係る増築方法の第一実施形態の施工前の状態を示す縦断面図、図2はその平面図である。
施工前の建築物は公知の階段室型共同住宅であって、隣接する2つの住戸(1)と、その間にある屋外階段(3)からなる住戸対を同一階に複数備えている。また、夫々の住戸には屋外階段(3)に面する出入口(2)が対向するように設けられている。尚、図示例の階段室型共同住宅は3つの住戸対を備えているが、2つ又は4つ以上の住戸対を備えているものであってもよい。
【0024】
第一実施形態に係る方法では、先ずこのような既存の階段室型共同住宅(以下、既存住宅と略)の既存基礎の外側に、既存住宅の周囲を囲うように増築用基礎を設けて、該増築用基礎の上に鉄骨柱等からなる支持部材(4)を既存住宅よりも上方に至るように立設し、支持部材間に梁を架設する(図3参照)。
【0025】
このとき、屋外階段(3)側には、支持部材(4)として、既存住宅のごく近傍に位置する内側支持部材(41)と、この内側支持部材(41)との間に間隔を空けて外側に位置する中間支持部材(42)と、この中間支持部材(42)との間に間隔を空けて更に外側に位置する外側支持部材(43)とを立設する。
【0026】
次いで、支持部材(4)の頂部に既存住宅の屋根の上方に位置する増築用屋根(5)を設けるとともに、前記既存住宅の屋根の上方に支持部材(4)の中途部に架設された梁で支持される床部材(6)を設けてこの床部材(6)と増築用屋根(5)との間に新たな住戸となる居住空間(7)を形成し、そして支持部材(4)の外側に壁部材を装着することによって既存住宅の周囲及び上部を囲う(図4参照)。
尚、図示例では、床部材(6)を上部に二層設けることによって、新たに2階分の居住空間(7)を形成した様子を示しているが、1階分若しくは3階分以上の居住空間(7)を形成するようにしてもよい。
また、床部材(6)の設置は、増築用屋根(5)を設けた後に行うことが好ましいが、増築用屋根(5)を設ける前であってもよい。
【0027】
上記の如く新たな居住空間(7)を形成した後もしくは形成する前に、各階の住戸の屋外階段(3)側に、同一階にある全ての住戸前を横切るように新規廊下(11)を設ける。
この新規廊下(11)は、中間支持部材(42)と外側支持部材(43)の間に設けられ、新規廊下(11)と既存住宅との間に吹き抜けの空間(12)が形成される。
図5はこの状態の平面図であり、一番端にある住戸(1)と新規廊下(11)の一部分が図示されている。新規廊下(11)は、その両端部において住戸側に向けて直角に折れ曲がっていることにより、全体として平面視コの字型を呈している。また、新規廊下(11)の両端部(折れ曲がった部分)には、避難時に用いられる階段(13)及びエレベータが設置される。但し、新規廊下(11)の平面視形状は図示例のようなコの字型に限定されず、例えば図7及び図11に示すように直線状としてもよい。
【0028】
以上が本発明の第一実施形態の増築方法の新規廊下を設けるまでの工程の説明であり、これ以降の工程は第二実施形態と共通している。
従って、続いて第二実施形態の増築方法の新規廊下を設けるまでの工程について説明し、その後で両実施形態に共通する新規廊下を設けた後の工程について説明する。
【0029】
第二実施形態の増築方法においても、第一実施形態と同様に、施工前の建築物は公知の階段室型共同住宅であり、図1は施工前の状態の縦断面図であって、図2はその平面図である。
【0030】
第二実施形態に係る方法では、先ずこのような既存住宅の既存基礎の屋外階段側に、増築用基礎を設けて、該増築用基礎の上に鉄骨柱等からなる支持部材(4)を既存住宅と略同じ高さに至るように立設し、支持部材間に梁を架設する(図6参照)。
【0031】
このとき、支持部材(4)としては、既存住宅のごく近傍に位置する内側支持部材(41)と、この内側支持部材(41)との間に間隔を空けて外側に位置する中間支持部材(42)と、この中間支持部材(42)との間に間隔を空けて更に外側に位置する外側支持部材(43)とを立設する。
【0032】
続いて、各階の住戸の屋外階段(3)側に、同一階にある全ての住戸前を横切るように新規廊下(11)を設ける。
この新規廊下(11)は、第一実施形態と同様に、中間支持部材(42)と外側支持部材(43)の間に設けられ、新規廊下(11)と既存住宅との間に吹き抜けの空間(12)が形成される。
図5はこの状態の平面図であり、一番端にある住戸(1)と新規廊下(11)の一部分が図示されている。新規廊下(11)は、その両端部において住戸側に向けて直角に折れ曲がっていることにより全体として平面視コの字型を呈しているが、前述の如く直線状であってもよい。また、新規廊下(11)の両端部には、避難時に用いられる階段(13)及びエレベータが設置される。
尚、第一及び第二実施形態において、新規廊下を含む増築部分と既存住宅部分とは、エキスパンションジョイントにより接続される。
【0033】
以上が本発明の第二実施形態の増築方法の新規廊下を設けるまでの工程の説明である。
続いて、第一及び第二実施形態の増築方法に共通する、新規廊下を設けた後の工程についてまとめて説明する。
本発明においては、上述したように、既存住宅の屋外階段(3)側に各階の床高さと略同じ高さで新規廊下(11)を設けた後(図5参照)、住戸の出入口と該住戸と同じ階に設けられた新規廊下(11)とを通路にて連結し、同一階にある複数の住戸対を屋外階段(3)の撤去形態が異なる複数の形態に改築する。
【0034】
図7は同一階に3つの住戸対を備えた既存住宅の増築後の平面図であり、新規廊下(11)にはエレベータ(25)及び/又は避難階段(13)が設けられている。
本発明は、増築後の建築物において、同一階にある複数の住戸対が屋外階段の撤去形態が異なる複数(2つ又は3つ以上)の形態に改築されていることを特徴とするものである。
図示例では、3つの住戸対がそれぞれ異なる形態に改築されており、以下夫々の形態について順次説明する。
【0035】
先ず、図7の1番左側の住戸対の形態の施工方法について、図8を参照しながら説明する。この形態では、既存の屋外階段の一部のみを撤去する。
施工前の図8(a)の状態から、先ず図8(b)に示すように、各住戸(1)の出入口(2)に接続する屋外階段(3)のうち、上り側又は下り側のいずれか一方側の階段のみを撤去する(図示例では上り側の階段を撤去している)。このとき、もう一方側の階段は撤去せずに維持する。
そして、これを各階において同様に繰り返し、撤去された側の階段部分の空間において、住戸の出入口と該住戸と同じ階に設けられた新規廊下(11)とを水平な通路(20)にて連結し、維持された側の階段と住戸の出入口と該住戸の下側(または上階)に設けられた新規廊下とを新たな階段(21)にて連結する。
尚、新たな階段(21)と下階の新規廊下(11)とは、腰壁を撤去した既設の踊り場(22)を介して連結される。
【0036】
このように、屋外階段の上り側と下り側のいずれか一方の階段、即ち階段の半分のみを撤去する形態によれば、全部を撤去する場合に比べて作業量が半分になる。そのため、施工期間を短縮できるとともに、工事の騒音も低減することが可能となり、これによって、施工中においても居住者が快適に日常生活を営むことができる。
また、住戸の居住者は、水平な通路(20)を通って新規廊下(11)へと出て、新規廊下(11)に設けられたエレベータ(25)を利用して昇降することができるようになるので増築前に比べて利便性が向上する。
【0037】
次に、図7の中央の住戸対の形態の施工方法について、図9を参照しながら説明する。この形態では、既存の屋外階段は撤去せずにそのまま維持する。
施工前の図9(a)の状態から、先ず図9(b)に示すように、屋外階段(3)を挟んだ2つの住戸の新規廊下側の外壁から夫々該住戸と同じ階に設けられた新規廊下(11)に向けて水平な通路(23)を延出し、これら2本の通路(23)と新規廊下(11)とを連結する。
次いで、通路(23)に面する住戸の外壁部分に夫々新規出入口(24)を設けて、該新規出入口(24)から通路(23)を通って新規廊下(11)へと出ることができるようにする。
【0038】
このように、屋外階段をそのまま維持する形態によれば、屋外階段の撤去作業が不要となるため、施工中においても居住者が快適に日常生活を営むことができる。
また、住戸の居住者は、従来通り既存の屋外階段を利用することもできるし、新規出入口(24)から水平な通路(20)を通って新規廊下(11)へと出て、新規廊下(11)に設けられたエレベータ(25)を利用することもできるため、増築前に比べて利便性が向上する。
【0039】
次に、図7の一番右側の住戸対の形態の施工方法について、図10を参照しながら説明する。この形態では、既存の屋外階段は完全に撤去する。
施工前の図10(a)の状態から、先ず図10(b)に示すように、2つの住戸の間にある既存の屋外階段(3)を撤去する。そして、屋外階段を挟んだ2つの住戸の新規廊下側の外壁から夫々該住戸と同じ階に設けられた新規廊下(11)に向けて水平な通路(23)を延出し、これら2本の通路(23)と新規廊下(11)とを連結する。また、通路(23)に面する住戸の外壁部分に夫々新規出入口(24)を設けて、該新規出入口(24)から通路(23)を通って新規廊下(11)へと出ることができるようにし、更に新規廊下(11)と既存住宅との間に形成された吹き抜けの空間に各住戸内部と同じ高さで内部が連通する増設フロア(26)を構築する。
次いで、屋外階段が撤去されて生じた住戸間の空間に、更に各住戸内部と同じ高さで内部が連通する増設フロア(27)を構築する。
【0040】
このように、屋外階段を全て撤去する形態によれば、屋外階段を撤去した跡の空間に増設フロアを構築することが可能となり、既存の居住空間を大きく拡張することが可能となる。
また、住戸の居住者は、既存の屋外階段を利用することもできるし、水平な通路(20)を通って新規廊下(11)へと出て、新規廊下(11)に設けられたエレベータ(25)を利用することもできるため、増築前に比べて利便性が向上する。
【0041】
以上のように、同一階にある複数の住戸対が屋外階段の撤去形態が異なる複数の形態に改築されることにより、居住者の多様な希望に沿うことができると同時に、全ての住戸の居住者の利便性と安全性を向上させることができる。
【0042】
本発明においては、居住者の様々な要求を確実に満たすために、図7に示すように上述した3つの形態を全て同一階に設けることが最も好ましい。
この場合において、屋外階段を全て撤去する形態とされた住戸対は、屋外階段を通る避難経路が無くなくため、図7に示したように、新規廊下に設けられるエレベータに最も近い側に配置することが好ましい。
【0043】
また、本発明においては、図11に示すように、新規廊下(11)の外側(住戸と反対側)に、外側支持部材(43)により支持される新規のフロア(28)を構築することもできる。
このように設けられた新規フロア(28)は倉庫や物入れ或いはガーデニングの場として好適に利用できる。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明は、階段室型共同住宅を片廊下型共同住宅へと増改築するために利用される。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明に係る階段室型共同住宅の増築方法(第一及び第二実施形態)を概略的に示す縦断面図であって、施工前の状態を示している。
【図2】図1の平面図である。
【図3】本発明に係る階段室型共同住宅の増築方法(第一実施形態)を概略的に示す縦断面図であって、施工途中の状態を示している。
【図4】本発明に係る階段室型共同住宅の増築方法(第一実施形態)を概略的に示す縦断面図であって、施工途中の状態を示している。
【図5】本発明に係る階段室型共同住宅の増築方法(第一及び第二実施形態)の施工途中の状態を示す平面図である。
【図6】本発明に係る階段室型共同住宅の増築方法(第二実施形態)を概略的に示す縦断面図であって、施工途中の状態を示している。
【図7】本発明に係る階段室型共同住宅の増築方法(第一及び第二実施形態)の施工完了の状態を示す平面図である。
【図8】図7の1番左側の住戸対の形態の施工方法の説明図である。
【図9】図7の中央の住戸対の形態の施工方法の説明図である。
【図10】図7の1番右側の住戸対の形態の施工方法の説明図である。
【図11】本発明に係る階段室型共同住宅の増築方法(第一及び第二実施形態)の施工完了状態の変更例を示す平面図である。
【符号の説明】
【0046】
1 住戸
3 屋外階段
11 新規廊下
12 空間
20 通路
21 新たな階段
24 新規出入口
【技術分野】
【0001】
本発明は、隣接する住戸間に各住戸への出入口に接続する屋外階段を備えた構造の階段室型共同住宅を、居住者の多様な希望に合致する片廊下型の共同住宅に増築することができる増築方法及びこの方法で増築された建築物に関する。
【背景技術】
【0002】
隣接する住戸間に各住戸への出入口に接続する屋外階段を備えた構造の共同住宅は一般に階段室型共同住宅と呼ばれている。
このような階段室型共同住宅のうち、昭和30年代から40年代にかけて竣工された住棟は老朽化がすすんでいるため、早急な建て替え等が望まれているが、既存の全ての住棟を全て建て替えるのは現実的には容易なことではなく、膨大な量の建築廃材の発生や建て替えに伴う居住者の引越しの問題もある。
また、このような階段室型共同住宅は居住者に高齢者が多いことから、上層階に居住する高齢者にとっては階段での上り下りが大変であるという問題を抱えている。
更に、外部への経路が隣接する住戸と共通の階段室のみであるために、避難経路が限定されてしまい、火災や地震等の災害発生時における避難が困難となる場合があるという問題もあった。
また、階段室型共同住宅の居住者の中には、長年居住している間に家族が増える等して部屋が狭く感じるようになる者もいるが、従来は、引越しをしない限り部屋の狭さの問題を解決することはできなかった。
【0003】
上記したような移動に関する問題点に鑑みて、既存の階段室型共同住宅を片廊下型の共同住宅に改築してエレベータを設置する方法が提案されている(下記特許文献1参照)。
しかしながら、特許文献1の開示技術では、全ての階段室部分を完全に解体撤去してしまうため、工事に時間がかかり、長期間にわたって居住者の出入りが制限されてしまうという問題があった。
しかも、階段室の解体撤去作業は、部屋のごく近傍で行われることから室内に騒音が伝わりやすく、そのため居住者は長期間に亘って工事の騒音を我慢しなければならないという問題もあった。
また、この開示技術では、上述したような部屋の狭さの問題を解決することはできなかった。
【0004】
一方、本願出願人は、既存の階段室型共同住宅を片廊下型の共同住宅に改築すると同時に上方へと増築することができる方法を提案している(下記特許文献2参照)。
この特許文献2の開示技術は、住みながらにして既存の中層階段室型共同住宅を高層の片廊下型の共同住宅へと変更することができるとともに、部屋の増床も可能であるという従来にない非常に画期的な技術であったが、上記したような階段室の解体撤去作業に関わる問題点については解消できるものではなかった。
また、部屋の増床が可能ではあるものの、全ての住戸が一律に増床されるため、例えば一人暮らしの人など部屋の広さに不満を感じていない人にとっては、増床により発生する費用は余分な負担となってしまうという問題があった。
【0005】
更に、特許文献3には、階段室型共同住宅の折り返し階段の下半分を撤去し、その下部に新設階段を連結することにより、階段を直線化した改良階段とする、階段室型共同住宅のバリアフリー化改修方法が開示されている。
この方法によれば、階段室の解体撤去作業に関わる問題点を解消することが可能であるが、上記した部屋の狭さの問題を解決することはできなかった。
【0006】
上記実情に鑑みて、本願出願人は更に下記特許文献4の開示技術を提案している。
この特許文献4の開示技術は、上記特許文献3の開示技術が抱える問題点を解決することができる優れたものである。
しかしながら、階段室型共同住宅の居住者の中には、住みなれた環境の変化を好まない人、使い慣れた屋外階段をそのまま維持することを希望する人、施工中の工事の騒音をできるだけ避けたい人、工事による追加費用の負担をできるだけ少なくしたい人等も存在しており、全ての人が一様に屋外階段を撤去する増改築を希望しているとは限らなかった。しかしその一方で大幅な居住空間の拡張を希望する人等も存在しており、特許文献4の開示技術でもこのような居住者の多様な要求に応えることは困難であった。
【0007】
【特許文献1】特開平11−159153号公報
【特許文献2】特開2004−124558号公報
【特許文献3】特開2004−225473号公報
【特許文献4】特開2007−71008号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであって、階段室型共同住宅を片廊下型の共同住宅へと変更することができて、エレベータの設置や複数の避難経路の確保が可能となるとともに、居住者の希望に応じた住戸を提供することが可能な階段室型共同住宅の増築方法及びこの方法で増築された建築物を提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に係る発明は、隣接する2つの住戸とその間にある屋外階段からなる住戸対を同一階に複数備えている階段室型共同住宅からなる既存住宅の増築方法であって、前記既存住宅の屋外階段側に各階の床高さと略同じ高さで且つ該既存住宅との間に空間を有するように新規廊下を設け、前記住戸の出入口と該住戸と同じ階に設けられた新規廊下とを通路にて連結するとともに、前記同一階にある複数の住戸対を前記屋外階段の撤去形態が異なる複数の形態に改築することを特徴とする階段室型共同住宅の増築方法に関する。
【0010】
請求項2に係る発明は、前記複数の形態を得るための改築の1つが、前記屋外階段のうち上り側又は下り側のいずれか一方側の階段のみを撤去して、もう一方側の階段は撤去せずに維持してこれを各階において同様に繰り返し、前記撤去された側の階段部分の空間において、住戸の出入口と該住戸と同じ階に設けられた新規廊下とを通路にて連結し、前記維持された側の階段と住戸の出入口と該住戸の上階又は下階に設けられた新規廊下とを新たな階段にて連結する改築であることを特徴とする請求項1記載の階段室型共同住宅の増築方法に関する。
【0011】
請求項3に係る発明は、前記複数の形態を得るための改築の1つが、前記屋外階段を撤去せずにそのまま維持し、前記住戸の新規廊下側に前記通路に面する新規出入口を設ける改築であることを特徴とする請求項1記載の階段室型共同住宅の増築方法に関する。
【0012】
請求項4に係る発明は、前記複数の形態を得るための改築の1つが、前記屋外階段を全て撤去し、前記住戸の居住空間を該撤去により生じた空間へと拡張し、前記住戸の新規廊下側に前記通路に面する新規出入口を設ける改築であることを特徴とする請求項1記載の階段室型共同住宅の増築方法に関する。
【0013】
請求項5に係る発明は、隣接する2つの住戸とその間にある屋外階段からなる住戸対を同一階に複数備えている階段室型共同住宅からなる既存住宅を増築して得られる建築物であって、前記屋外階段側に各階の床高さと略同じ高さで且つ該既存住宅との間に空間を有するように新規廊下が設けられ、前記住戸の出入口と該住戸と同じ階に設けられた新規廊下とが通路にて連結されており、前記同一階にある複数の住戸対が前記屋外階段の撤去形態が異なる複数の形態に改築されていることを特徴とする建築物に関する。
【0014】
請求項6に係る発明は、前記改築の複数の形態の1つが、前記屋外階段のうち、上り側又は下り側のいずれか一方側の階段のみが撤去されて、もう一方側の階段は撤去されずに維持され、前記撤去された側の階段部分の空間において、住戸の出入口と該住戸と同じ階に設けられた新規廊下とが通路にて連結され、前記維持された側の階段と住戸の出入口と該住戸の上階又は下階に設けられた新規廊下とが新たな階段にて連結されている形態であることを特徴とする請求項5記載の建築物に関する。
【0015】
請求項7に係る発明は、前記改築の複数の形態の1つが、前記屋外階段が撤去されずにそのまま維持され、前記住戸の新規廊下側に前記通路に面する新規出入口が設けられた形態であることを特徴とする請求項5記載の建築物に関する。
【0016】
請求項8に係る発明は、前記改築の複数の形態の1つが、前記屋外階段が全て撤去され、前記住戸の居住空間が該撤去により生じた空間へと拡張され、前記住戸の新規廊下側に前記通路に面する新規出入口が設けられた形態であることを特徴とする請求項5記載の建築物に関する。
【発明の効果】
【0017】
請求項1及び5に係る発明によれば、階段室型共同住宅を片廊下型の共同住宅へと変更することができることにより、エレベータの設置や複数の避難経路の確保が可能となって、居住性や安全性を大きく高めることができる。
また、同一階にある複数の住戸対を屋外階段の撤去形態が異なる複数の形態に改築するため、従来の画一的な階段室型共同住宅の増築方法では得ることができなかった、居住者の多様な希望に応じることができる形態を備えた住戸を提供することが可能となる。
【0018】
請求項2及び6に係る発明によれば、屋外階段の上り側と下り側のいずれか一方の階段のみを撤去することにより、施工期間の短縮や施工費用の削減が可能であるとともに、工事の騒音も低減することができ、これによって、施工中においても居住者が快適に日常生活を営むことができる。また、増築後には、水平な通路を通って新規廊下からエレベータへの経路を確保することができ、居住者の利便性及び安全性に優れたものとなる。
【0019】
請求項3及び7に係る発明によれば、屋外階段を撤去せずにそのまま維持し、住戸の新規廊下側に通路に面する新規出入口を設けることにより、施工期間の大幅な短縮や施工費用の大幅な削減が可能であるとともに、工事の騒音も大幅に低減することができ、これによって、施工中においても居住者が非常に快適に日常生活を営むことができる。また、既存の屋外階段を利用した外部への経路を維持しつつ、新たに新規出入口から新規廊下への経路を確保することができる。そのため、居住者の利便性及び安全性に優れたものとなる。
【0020】
請求項4及び8に係る発明によれば、屋外階段を全て撤去し、住戸の居住空間を該撤去により生じた空間へと拡張し、住戸の新規廊下側に通路に面する新規出入口を設けることにより、住戸の居住空間を大幅に拡張することが可能となり、居住空間の大幅な拡張を希望する居住者の要求に沿うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明に係る階段室型共同住宅の増築方法及びこの方法で増築された建築物の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
本発明に係る方法は、隣接する住戸間に各住戸への出入口に接続する屋外階段を備えた構造の階段室型共同住宅を片廊下型の共同住宅へと増築する方法であり、本発明に係る建築物はこの方法により増築された片廊下型の共同住宅である。
【0022】
本発明に係る増築方法は、増築前後で階数を増やす場合と、増築前後で階数が同じである場合の両方を含んでいる。
以下、前者を第一実施形態、後者を第二実施形態と称し、これら2つの実施形態について順次説明する。
両実施形態は、新規廊下を設けるまでの工程が若干異なるが、それ以降の工程は共通しているため、先ず新規廊下を設けるまでの工程についての説明を行う。
【0023】
図1は本発明に係る増築方法の第一実施形態の施工前の状態を示す縦断面図、図2はその平面図である。
施工前の建築物は公知の階段室型共同住宅であって、隣接する2つの住戸(1)と、その間にある屋外階段(3)からなる住戸対を同一階に複数備えている。また、夫々の住戸には屋外階段(3)に面する出入口(2)が対向するように設けられている。尚、図示例の階段室型共同住宅は3つの住戸対を備えているが、2つ又は4つ以上の住戸対を備えているものであってもよい。
【0024】
第一実施形態に係る方法では、先ずこのような既存の階段室型共同住宅(以下、既存住宅と略)の既存基礎の外側に、既存住宅の周囲を囲うように増築用基礎を設けて、該増築用基礎の上に鉄骨柱等からなる支持部材(4)を既存住宅よりも上方に至るように立設し、支持部材間に梁を架設する(図3参照)。
【0025】
このとき、屋外階段(3)側には、支持部材(4)として、既存住宅のごく近傍に位置する内側支持部材(41)と、この内側支持部材(41)との間に間隔を空けて外側に位置する中間支持部材(42)と、この中間支持部材(42)との間に間隔を空けて更に外側に位置する外側支持部材(43)とを立設する。
【0026】
次いで、支持部材(4)の頂部に既存住宅の屋根の上方に位置する増築用屋根(5)を設けるとともに、前記既存住宅の屋根の上方に支持部材(4)の中途部に架設された梁で支持される床部材(6)を設けてこの床部材(6)と増築用屋根(5)との間に新たな住戸となる居住空間(7)を形成し、そして支持部材(4)の外側に壁部材を装着することによって既存住宅の周囲及び上部を囲う(図4参照)。
尚、図示例では、床部材(6)を上部に二層設けることによって、新たに2階分の居住空間(7)を形成した様子を示しているが、1階分若しくは3階分以上の居住空間(7)を形成するようにしてもよい。
また、床部材(6)の設置は、増築用屋根(5)を設けた後に行うことが好ましいが、増築用屋根(5)を設ける前であってもよい。
【0027】
上記の如く新たな居住空間(7)を形成した後もしくは形成する前に、各階の住戸の屋外階段(3)側に、同一階にある全ての住戸前を横切るように新規廊下(11)を設ける。
この新規廊下(11)は、中間支持部材(42)と外側支持部材(43)の間に設けられ、新規廊下(11)と既存住宅との間に吹き抜けの空間(12)が形成される。
図5はこの状態の平面図であり、一番端にある住戸(1)と新規廊下(11)の一部分が図示されている。新規廊下(11)は、その両端部において住戸側に向けて直角に折れ曲がっていることにより、全体として平面視コの字型を呈している。また、新規廊下(11)の両端部(折れ曲がった部分)には、避難時に用いられる階段(13)及びエレベータが設置される。但し、新規廊下(11)の平面視形状は図示例のようなコの字型に限定されず、例えば図7及び図11に示すように直線状としてもよい。
【0028】
以上が本発明の第一実施形態の増築方法の新規廊下を設けるまでの工程の説明であり、これ以降の工程は第二実施形態と共通している。
従って、続いて第二実施形態の増築方法の新規廊下を設けるまでの工程について説明し、その後で両実施形態に共通する新規廊下を設けた後の工程について説明する。
【0029】
第二実施形態の増築方法においても、第一実施形態と同様に、施工前の建築物は公知の階段室型共同住宅であり、図1は施工前の状態の縦断面図であって、図2はその平面図である。
【0030】
第二実施形態に係る方法では、先ずこのような既存住宅の既存基礎の屋外階段側に、増築用基礎を設けて、該増築用基礎の上に鉄骨柱等からなる支持部材(4)を既存住宅と略同じ高さに至るように立設し、支持部材間に梁を架設する(図6参照)。
【0031】
このとき、支持部材(4)としては、既存住宅のごく近傍に位置する内側支持部材(41)と、この内側支持部材(41)との間に間隔を空けて外側に位置する中間支持部材(42)と、この中間支持部材(42)との間に間隔を空けて更に外側に位置する外側支持部材(43)とを立設する。
【0032】
続いて、各階の住戸の屋外階段(3)側に、同一階にある全ての住戸前を横切るように新規廊下(11)を設ける。
この新規廊下(11)は、第一実施形態と同様に、中間支持部材(42)と外側支持部材(43)の間に設けられ、新規廊下(11)と既存住宅との間に吹き抜けの空間(12)が形成される。
図5はこの状態の平面図であり、一番端にある住戸(1)と新規廊下(11)の一部分が図示されている。新規廊下(11)は、その両端部において住戸側に向けて直角に折れ曲がっていることにより全体として平面視コの字型を呈しているが、前述の如く直線状であってもよい。また、新規廊下(11)の両端部には、避難時に用いられる階段(13)及びエレベータが設置される。
尚、第一及び第二実施形態において、新規廊下を含む増築部分と既存住宅部分とは、エキスパンションジョイントにより接続される。
【0033】
以上が本発明の第二実施形態の増築方法の新規廊下を設けるまでの工程の説明である。
続いて、第一及び第二実施形態の増築方法に共通する、新規廊下を設けた後の工程についてまとめて説明する。
本発明においては、上述したように、既存住宅の屋外階段(3)側に各階の床高さと略同じ高さで新規廊下(11)を設けた後(図5参照)、住戸の出入口と該住戸と同じ階に設けられた新規廊下(11)とを通路にて連結し、同一階にある複数の住戸対を屋外階段(3)の撤去形態が異なる複数の形態に改築する。
【0034】
図7は同一階に3つの住戸対を備えた既存住宅の増築後の平面図であり、新規廊下(11)にはエレベータ(25)及び/又は避難階段(13)が設けられている。
本発明は、増築後の建築物において、同一階にある複数の住戸対が屋外階段の撤去形態が異なる複数(2つ又は3つ以上)の形態に改築されていることを特徴とするものである。
図示例では、3つの住戸対がそれぞれ異なる形態に改築されており、以下夫々の形態について順次説明する。
【0035】
先ず、図7の1番左側の住戸対の形態の施工方法について、図8を参照しながら説明する。この形態では、既存の屋外階段の一部のみを撤去する。
施工前の図8(a)の状態から、先ず図8(b)に示すように、各住戸(1)の出入口(2)に接続する屋外階段(3)のうち、上り側又は下り側のいずれか一方側の階段のみを撤去する(図示例では上り側の階段を撤去している)。このとき、もう一方側の階段は撤去せずに維持する。
そして、これを各階において同様に繰り返し、撤去された側の階段部分の空間において、住戸の出入口と該住戸と同じ階に設けられた新規廊下(11)とを水平な通路(20)にて連結し、維持された側の階段と住戸の出入口と該住戸の下側(または上階)に設けられた新規廊下とを新たな階段(21)にて連結する。
尚、新たな階段(21)と下階の新規廊下(11)とは、腰壁を撤去した既設の踊り場(22)を介して連結される。
【0036】
このように、屋外階段の上り側と下り側のいずれか一方の階段、即ち階段の半分のみを撤去する形態によれば、全部を撤去する場合に比べて作業量が半分になる。そのため、施工期間を短縮できるとともに、工事の騒音も低減することが可能となり、これによって、施工中においても居住者が快適に日常生活を営むことができる。
また、住戸の居住者は、水平な通路(20)を通って新規廊下(11)へと出て、新規廊下(11)に設けられたエレベータ(25)を利用して昇降することができるようになるので増築前に比べて利便性が向上する。
【0037】
次に、図7の中央の住戸対の形態の施工方法について、図9を参照しながら説明する。この形態では、既存の屋外階段は撤去せずにそのまま維持する。
施工前の図9(a)の状態から、先ず図9(b)に示すように、屋外階段(3)を挟んだ2つの住戸の新規廊下側の外壁から夫々該住戸と同じ階に設けられた新規廊下(11)に向けて水平な通路(23)を延出し、これら2本の通路(23)と新規廊下(11)とを連結する。
次いで、通路(23)に面する住戸の外壁部分に夫々新規出入口(24)を設けて、該新規出入口(24)から通路(23)を通って新規廊下(11)へと出ることができるようにする。
【0038】
このように、屋外階段をそのまま維持する形態によれば、屋外階段の撤去作業が不要となるため、施工中においても居住者が快適に日常生活を営むことができる。
また、住戸の居住者は、従来通り既存の屋外階段を利用することもできるし、新規出入口(24)から水平な通路(20)を通って新規廊下(11)へと出て、新規廊下(11)に設けられたエレベータ(25)を利用することもできるため、増築前に比べて利便性が向上する。
【0039】
次に、図7の一番右側の住戸対の形態の施工方法について、図10を参照しながら説明する。この形態では、既存の屋外階段は完全に撤去する。
施工前の図10(a)の状態から、先ず図10(b)に示すように、2つの住戸の間にある既存の屋外階段(3)を撤去する。そして、屋外階段を挟んだ2つの住戸の新規廊下側の外壁から夫々該住戸と同じ階に設けられた新規廊下(11)に向けて水平な通路(23)を延出し、これら2本の通路(23)と新規廊下(11)とを連結する。また、通路(23)に面する住戸の外壁部分に夫々新規出入口(24)を設けて、該新規出入口(24)から通路(23)を通って新規廊下(11)へと出ることができるようにし、更に新規廊下(11)と既存住宅との間に形成された吹き抜けの空間に各住戸内部と同じ高さで内部が連通する増設フロア(26)を構築する。
次いで、屋外階段が撤去されて生じた住戸間の空間に、更に各住戸内部と同じ高さで内部が連通する増設フロア(27)を構築する。
【0040】
このように、屋外階段を全て撤去する形態によれば、屋外階段を撤去した跡の空間に増設フロアを構築することが可能となり、既存の居住空間を大きく拡張することが可能となる。
また、住戸の居住者は、既存の屋外階段を利用することもできるし、水平な通路(20)を通って新規廊下(11)へと出て、新規廊下(11)に設けられたエレベータ(25)を利用することもできるため、増築前に比べて利便性が向上する。
【0041】
以上のように、同一階にある複数の住戸対が屋外階段の撤去形態が異なる複数の形態に改築されることにより、居住者の多様な希望に沿うことができると同時に、全ての住戸の居住者の利便性と安全性を向上させることができる。
【0042】
本発明においては、居住者の様々な要求を確実に満たすために、図7に示すように上述した3つの形態を全て同一階に設けることが最も好ましい。
この場合において、屋外階段を全て撤去する形態とされた住戸対は、屋外階段を通る避難経路が無くなくため、図7に示したように、新規廊下に設けられるエレベータに最も近い側に配置することが好ましい。
【0043】
また、本発明においては、図11に示すように、新規廊下(11)の外側(住戸と反対側)に、外側支持部材(43)により支持される新規のフロア(28)を構築することもできる。
このように設けられた新規フロア(28)は倉庫や物入れ或いはガーデニングの場として好適に利用できる。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明は、階段室型共同住宅を片廊下型共同住宅へと増改築するために利用される。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明に係る階段室型共同住宅の増築方法(第一及び第二実施形態)を概略的に示す縦断面図であって、施工前の状態を示している。
【図2】図1の平面図である。
【図3】本発明に係る階段室型共同住宅の増築方法(第一実施形態)を概略的に示す縦断面図であって、施工途中の状態を示している。
【図4】本発明に係る階段室型共同住宅の増築方法(第一実施形態)を概略的に示す縦断面図であって、施工途中の状態を示している。
【図5】本発明に係る階段室型共同住宅の増築方法(第一及び第二実施形態)の施工途中の状態を示す平面図である。
【図6】本発明に係る階段室型共同住宅の増築方法(第二実施形態)を概略的に示す縦断面図であって、施工途中の状態を示している。
【図7】本発明に係る階段室型共同住宅の増築方法(第一及び第二実施形態)の施工完了の状態を示す平面図である。
【図8】図7の1番左側の住戸対の形態の施工方法の説明図である。
【図9】図7の中央の住戸対の形態の施工方法の説明図である。
【図10】図7の1番右側の住戸対の形態の施工方法の説明図である。
【図11】本発明に係る階段室型共同住宅の増築方法(第一及び第二実施形態)の施工完了状態の変更例を示す平面図である。
【符号の説明】
【0046】
1 住戸
3 屋外階段
11 新規廊下
12 空間
20 通路
21 新たな階段
24 新規出入口
【特許請求の範囲】
【請求項1】
隣接する2つの住戸とその間にある屋外階段からなる住戸対を同一階に複数備えている階段室型共同住宅からなる既存住宅の増築方法であって、
前記既存住宅の屋外階段側に各階の床高さと略同じ高さで且つ該既存住宅との間に空間を有するように新規廊下を設け、
前記住戸の出入口と該住戸と同じ階に設けられた新規廊下とを通路にて連結するとともに、前記同一階にある複数の住戸対を前記屋外階段の撤去形態が異なる複数の形態に改築することを特徴とする階段室型共同住宅の増築方法。
【請求項2】
前記複数の形態を得るための改築の1つが、前記屋外階段のうち上り側又は下り側のいずれか一方側の階段のみを撤去して、もう一方側の階段は撤去せずに維持してこれを各階において同様に繰り返し、前記撤去された側の階段部分の空間において、住戸の出入口と該住戸と同じ階に設けられた新規廊下とを通路にて連結し、前記維持された側の階段と住戸の出入口と該住戸の上階又は下階に設けられた新規廊下とを新たな階段にて連結する改築であることを特徴とする請求項1記載の階段室型共同住宅の増築方法。
【請求項3】
前記複数の形態を得るための改築の1つが、前記屋外階段を撤去せずにそのまま維持し、前記住戸の新規廊下側に前記通路に面する新規出入口を設ける改築であることを特徴とする請求項1記載の階段室型共同住宅の増築方法。
【請求項4】
前記複数の形態を得るための改築の1つが、前記屋外階段を全て撤去し、前記住戸の居住空間を該撤去により生じた空間へと拡張し、前記住戸の新規廊下側に前記通路に面する新規出入口を設ける改築であることを特徴とする請求項1記載の階段室型共同住宅の増築方法。
【請求項5】
隣接する2つの住戸とその間にある屋外階段からなる住戸対を同一階に複数備えている階段室型共同住宅からなる既存住宅を増築して得られる建築物であって、
前記屋外階段側に各階の床高さと略同じ高さで且つ該既存住宅との間に空間を有するように新規廊下が設けられ、
前記住戸の出入口と該住戸と同じ階に設けられた新規廊下とが通路にて連結されており、
前記同一階にある複数の住戸対が前記屋外階段の撤去形態が異なる複数の形態に改築されていることを特徴とする建築物。
【請求項6】
前記改築の複数の形態の1つが、前記屋外階段のうち、上り側又は下り側のいずれか一方側の階段のみが撤去されて、もう一方側の階段は撤去されずに維持され、前記撤去された側の階段部分の空間において、住戸の出入口と該住戸と同じ階に設けられた新規廊下とが通路にて連結され、前記維持された側の階段と住戸の出入口と該住戸の上階又は下階に設けられた新規廊下とが新たな階段にて連結されている形態であることを特徴とする請求項5記載の建築物。
【請求項7】
前記改築の複数の形態の1つが、前記屋外階段が撤去されずにそのまま維持され、前記住戸の新規廊下側に前記通路に面する新規出入口が設けられた形態であることを特徴とする請求項5記載の建築物。
【請求項8】
前記改築の複数の形態の1つが、前記屋外階段が全て撤去され、前記住戸の居住空間が該撤去により生じた空間へと拡張され、前記住戸の新規廊下側に前記通路に面する新規出入口が設けられた形態であることを特徴とする請求項5記載の建築物。
【請求項1】
隣接する2つの住戸とその間にある屋外階段からなる住戸対を同一階に複数備えている階段室型共同住宅からなる既存住宅の増築方法であって、
前記既存住宅の屋外階段側に各階の床高さと略同じ高さで且つ該既存住宅との間に空間を有するように新規廊下を設け、
前記住戸の出入口と該住戸と同じ階に設けられた新規廊下とを通路にて連結するとともに、前記同一階にある複数の住戸対を前記屋外階段の撤去形態が異なる複数の形態に改築することを特徴とする階段室型共同住宅の増築方法。
【請求項2】
前記複数の形態を得るための改築の1つが、前記屋外階段のうち上り側又は下り側のいずれか一方側の階段のみを撤去して、もう一方側の階段は撤去せずに維持してこれを各階において同様に繰り返し、前記撤去された側の階段部分の空間において、住戸の出入口と該住戸と同じ階に設けられた新規廊下とを通路にて連結し、前記維持された側の階段と住戸の出入口と該住戸の上階又は下階に設けられた新規廊下とを新たな階段にて連結する改築であることを特徴とする請求項1記載の階段室型共同住宅の増築方法。
【請求項3】
前記複数の形態を得るための改築の1つが、前記屋外階段を撤去せずにそのまま維持し、前記住戸の新規廊下側に前記通路に面する新規出入口を設ける改築であることを特徴とする請求項1記載の階段室型共同住宅の増築方法。
【請求項4】
前記複数の形態を得るための改築の1つが、前記屋外階段を全て撤去し、前記住戸の居住空間を該撤去により生じた空間へと拡張し、前記住戸の新規廊下側に前記通路に面する新規出入口を設ける改築であることを特徴とする請求項1記載の階段室型共同住宅の増築方法。
【請求項5】
隣接する2つの住戸とその間にある屋外階段からなる住戸対を同一階に複数備えている階段室型共同住宅からなる既存住宅を増築して得られる建築物であって、
前記屋外階段側に各階の床高さと略同じ高さで且つ該既存住宅との間に空間を有するように新規廊下が設けられ、
前記住戸の出入口と該住戸と同じ階に設けられた新規廊下とが通路にて連結されており、
前記同一階にある複数の住戸対が前記屋外階段の撤去形態が異なる複数の形態に改築されていることを特徴とする建築物。
【請求項6】
前記改築の複数の形態の1つが、前記屋外階段のうち、上り側又は下り側のいずれか一方側の階段のみが撤去されて、もう一方側の階段は撤去されずに維持され、前記撤去された側の階段部分の空間において、住戸の出入口と該住戸と同じ階に設けられた新規廊下とが通路にて連結され、前記維持された側の階段と住戸の出入口と該住戸の上階又は下階に設けられた新規廊下とが新たな階段にて連結されている形態であることを特徴とする請求項5記載の建築物。
【請求項7】
前記改築の複数の形態の1つが、前記屋外階段が撤去されずにそのまま維持され、前記住戸の新規廊下側に前記通路に面する新規出入口が設けられた形態であることを特徴とする請求項5記載の建築物。
【請求項8】
前記改築の複数の形態の1つが、前記屋外階段が全て撤去され、前記住戸の居住空間が該撤去により生じた空間へと拡張され、前記住戸の新規廊下側に前記通路に面する新規出入口が設けられた形態であることを特徴とする請求項5記載の建築物。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2009−7786(P2009−7786A)
【公開日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−168292(P2007−168292)
【出願日】平成19年6月26日(2007.6.26)
【出願人】(501200354)株式会社ミラクルスリーコーポレーション (21)
【出願人】(507214500)
【出願人】(507214418)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年6月26日(2007.6.26)
【出願人】(501200354)株式会社ミラクルスリーコーポレーション (21)
【出願人】(507214500)
【出願人】(507214418)
【Fターム(参考)】
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