説明

難燃性ウレタン樹脂および難燃性合成皮革

【課題】
良好な難燃性を示す難燃性ウレタン樹脂を提供する。
【解決手段】
ウレタン樹脂の主鎖中に鎖伸長剤として用いられるテトラメチレングリコール(PTG)または3,3−ジメチロールヘプタン(DMH)を用いて、リン含有のジカルボン酸である2−(9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−オキサイド−10−ホスファフェナントレン−10−イル)メチルコハク酸(化合物X)をエステル化し、これをリン含有鎖伸長剤として、ポリオールとイソシアネートと該リン含有鎖伸長剤とを用いてウレタン樹脂を構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難燃性ウレタン樹脂および難燃性合成皮革に関する。より詳しくは、非ハロゲン系難燃剤を用いず、リンをウレタン樹脂の主鎖中に組み込むことにより構成される難燃性ウレタン樹脂および、これを用いて形成される難燃性ウレタンフィルムを中間層に用いた難燃性合成皮革に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、樹脂製品に難燃性を付与するための手段としては、ヘキサブロモシクロドデカン等のハロゲン元素を含む化合物である難燃剤(以下、単に「ハロゲン系難燃剤」ともいう)を用いることが知られている。ハロゲン系難燃剤の使用によれば、良好な難燃性が示されるが、燃焼時にハロゲン化ガスを発生し、あるいはダイオキシンを発生する等の問題があり、主として環境への影響の観点からは、非ハロゲン系の難燃剤の使用が望まれている。
【0003】
これに対し、種々の樹脂において、非ハロゲン系であってリン系難燃剤の使用が試みられている。リン系難燃剤を使用するにあたり、樹脂に添加または含浸させて当該樹脂に難燃性を付与する添加型の難燃剤と、樹脂を合成する際に樹脂構成成分とを重合させることによって樹脂中に組み込むことが可能な反応型の難燃剤とがある。特に、反応型の難燃剤は、燃焼時の熱によっても、樹脂中に添加された難燃剤が容易には揮発せず、安定した難燃性が示され易いという長所を有する。そのため、リン系難燃剤を使用する際には、反応型のリン系難燃剤を用い、樹脂に組み込むことによって、当該樹脂に難燃性を付与することが好ましい。
【0004】
非ハロゲン系であって、反応型の難燃剤を用いた例として、たとえば、下記特許文献1には、スチレン系ゴム強化樹脂に対して、含リンエポキシ系難燃剤及びそれ以外のリン系難燃剤を併用した難燃性熱可塑性樹脂組成物の発明が開示されている。上記含リンエポキシ系難燃剤以外のリン系難燃剤としては、縮合リン酸エステル類(縮合リン酸エステル系難燃剤)が好適であることが開示されている。
【0005】
また別の例としては、下記特許文献2に難燃性熱可塑性樹脂組成物およびその成形体の発明が開示されている。上記難燃性熱可塑性樹脂は、芳香族ビニル化合物を主体とする少なくとも2個の重合体ブロックAと共役ジエン化合物を主体とする少なくとも1個の重合体ブロックBとからなるブロック共重合体等である樹脂を含有する樹脂組成物に、リン系難燃剤として、ホスフィン酸および/またはホスフィン酸誘導体の金属塩、およびリン酸と含窒素化合物の塩からなる群から選ばれる少なくとも1つが用いられることが開示されている。
【0006】
また別の例として、例えば、特許文献3に、強度と難燃性に優れた大型の硬質ウレタンスラブストックフォームの発明が開示されている。当該硬質ウレタンスラブストックフォームに難燃性を付与するための難燃剤としては、リン等を含有する反応型難燃剤の使用が好ましいとして、アミン含有型のファイロール6(アグゾノベル社製)などの具体的な難燃剤が例示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−67996号公報
【特許文献2】特開2007−197489号公報
【特許文献3】特開昭59−108024号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、従来公知の反応型の難燃剤を用い、ウレタン樹脂に難燃性を付与しようとすると、種々の問題があった。例えば、反応型のアミン系難燃剤を用いた場合に、ウレタン樹脂フィルム等を形成する際の反応速度が望ましく調整できない場合があるという問題があった。また、ウレタン樹脂に組み込むための難燃剤は、予め、良溶媒に攪拌し分散させておき、ウレタン樹脂反応の際にプレポリマーに難燃剤含有の溶液を添加することが一般的であるが、難燃剤の良溶媒が、ウレタン樹脂製造に望ましくない影響を与える場合、あるいは、当該樹脂を用いて形成されるウレタン樹脂フィルムの風合いを損なう場合があり問題であった。
【0009】
そこで本発明者は、ポリオールとイソシアネートからなるウレタン樹脂の主鎖中にリン酸エステルを組み込み、ウレタン樹脂に難燃性を付与するにあたり、予め、リン含有化合物を共重合させたポリオールとして、後述する化合物Xをポリプロピレングリコールでエステル化した化合物を調製した。そして、上記化合物をポリオールとして用い、イソシアネートとを反応させてウレタン樹脂を形成することを検討した。そして上記ウレタン樹脂からなるウレタンフィルムの難燃性を評価した。その結果、ウレタン樹脂主鎖中にリン酸エステルが含有されているにも関わらず、難燃性の向上が確認されなかった。
【0010】
即ち、望ましい難燃性ウレタン樹脂を得ることは、従来公知の他の難燃性樹脂の技術を転用しただけでは容易に達成されず、ウレタン樹脂特有の問題が存在することがわかった。そして、実質的に、非ハロゲン系難燃剤を用いたウレタン樹脂については、いまだ充分な難燃性樹脂が得られていないのが現状であった。
【0011】
本発明は、上記問題に鑑みなされたものであって、良好な難燃性を示す難燃性ウレタン樹脂を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、ウレタン樹脂に難燃性を付与するための化合物として、特にリン含有のジカルボン酸である2−(9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−オキサイド−10−ホスファフェナントレン−10−イル)メチルコハク酸(以下、「化合物X」ともいう)に着目した。そして、上記化合物Xをエステル化させて得たポリオールを用いてウレタン樹脂を形成した場合に、ウレタン樹脂中にリン酸エステルが含有されているにもかかわらず望ましく難燃性が付与されない、という先の検討結果を踏まえ、さらに鋭意検討した。その結果、ウレタン樹脂の主鎖中に鎖伸長剤として用いられるテトラメチレングリコール(以下、「PTG」ともいう)または3,3−ジメチロールヘプタン(以下、「DMH」ともいう)を用いて上記化合物Xをエステル化し、これをリン含有鎖伸長剤として、ポリオールとイソシアネートと該リン含有鎖伸長剤とを用いてウレタン樹脂を構成することによれば、良好な難燃性をウレタン樹脂に付与することができることを見出し、本発明を完成させた。
【0013】
即ち本発明は、
(1)ポリオールと、イソシアネートと、鎖伸長剤とを含んで構成されるポリウレタン樹脂であって、上記鎖伸長剤が、下記化1で表される化合物1および/または下記化2で表される化合物2である、リン含有鎖伸長剤であることを特徴とする難燃性ポリウレタン樹脂、
(化合物1)
【化1】


(化合物2)
【化2】


(2)ポリウレタン樹脂中のリン濃度が、1400ppm以上20000ppm以下であることを特徴とする上記(1)に記載の難燃性ポリウレタン樹脂、
(3)繊維基材表面に接着層を介してポリウレタン樹脂中間層が積層され、さらに表皮層が積層されてなる合成皮革であって、上記中間層が、上記(1)または(2)に記載の難燃性ポリウレタン樹脂を用いて形成されていることを特徴とする難燃性合成皮革、
を要旨とするものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明の難燃性ウレタン樹脂は、特定のリン含有鎖伸長剤を主鎖中に備える。それ故、該ウレタン樹脂中にはリンが組み込まれており、この結果、良好に難燃性を発揮するに至った。したがって、本発明の難燃性ウレタン樹脂は、難燃性の、ウレタンフィルム、ウレタン系接着剤、ウレタン系シーラント、ウレタン系塗料などの構成樹脂として用いることができる。
【0015】
また、本発明に用いられるリン含有鎖伸長剤は、従来のウレタン樹脂製造に用いられる一般的な短鎖ジオールである鎖伸長剤と同様に、酢酸エチルや酢酸プロピルなどの溶媒に良好に攪拌され、分散される。したがって、上記リン含有鎖伸長剤を用いてウレタン樹脂を製造する場合であっても、ウレタン樹脂の製造に阻害的に働く溶媒を使用する必要がない。したがって、溶媒の選択により、製造されるウレタン樹脂フィルムの風合いを損なうという問題がない。また、上記リン含有鎖伸長剤は、ウレタン樹脂製造において、反応速度に対し特段の影響を及ぼすことがないことも本発明者によって確認された。
【0016】
したがって、本発明の難燃性ウレタン樹脂を用いて、ウレタンフィルムを形成した場合、従来のウレタンフィルム以上の風合いのフィルムが提供することが可能である。特に、好ましいリン原子濃度により製造された本発明のウレタン樹脂を用いて合成皮革の中間層を形成した場合に、望ましい風合いが示される優れた難燃性合成皮革を提供することができる。
【0017】
加えて本発明は、難燃性を付与するための化合物として、非ハロゲン系のリン含有化合物を使用するため、従来のハロゲン系難燃性付与剤を用いて製造された難燃性樹脂と比較し、環境への配慮がなされている。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明のウレタン樹脂を実施するための形態を説明する。尚、本発明のウレタン樹脂は、本発明におけるリン含有鎖伸長剤がウレタン樹脂の主鎖の一部を構成することにより難燃性が付与されているものであれば、熱可塑性であるか熱硬化性であるかを問わない。したがって、本発明の難燃性ウレタン樹脂は、たとえば、ウレタンフィルム、ウレタン系接着剤、ウレタン系シーラント、ウレタン系塗料などのいずれであってもよい。即ち、本発明は、ウレタン樹脂の基本構成であるポリオールおよびポリイソシアネートについては従来公知のものが適宜選択され、これに特定のリン含有鎖伸長剤が用いられて構成されるウレタン樹脂である。
【0019】
[難燃性ウレタン樹脂]
リン含有鎖伸長剤:
本発明において用いられるリン含有鎖伸長剤は、下記の化学式であらわされる化合物1および/または化合物2である。これらの化合物は、ウレタン樹脂を製造する際に、単独で鎖伸長剤として用いることもできるし、2種を任意の比率でブレンドして用いることもできる。
【0020】
(化合物1)
【化3】




【0021】
(化合物2)
【化4】



【0022】
本発明におけるリン含有鎖伸長剤は、難燃性を付与するための化合物である2−(9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−オキサイド−10−ホスファフェナントレン−10−イル)メチルコハク酸(以下、「化合物X」ともいう)を、テトラメチレングリコール(PTG)または3,3−ジメチロールヘプタン(DMH)でエステル化することによって得られる。下記に、化合物Xの化学式を示す。下記に示すとおり化合物Xは、リン含有のジカルボン酸であり、1モルの化合物Xに対し、約2モルのPTGまたはDMHを反応させることによって化合物Xをエステル化し、これによって、本発明におけるリン含有鎖伸長剤である化合物1または化合物2を得ることができる。
【0023】
(化合物X)
【化5】



【0024】
ポリオール:
本発明のウレタン樹脂を構成するために用いられるポリオールは、ウレタン樹脂を構成するための成分として従来公知のものであれば、特に限定されず、用いることができる。具体例として、本発明におけるポリオールとしては、例えば、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリカプロラクトンポリオール等を挙げることができる。上記各ポリオールは、ウレタン樹脂中に1種あるいは2種以上の組み合わせ(縮合重合物を含む)で存在していても良い。
【0025】
尚、本発明におけるポリオールは、上述のとおり、一般的にウレタン樹脂製造において用いられるポリオールから適宜選択して用いることができるが、好ましくは、数平均分子量が500〜7000のものが用いられ、さらに好ましくは数平均分子量が1000〜3000である。
【0026】
上記ポリエーテルポリオールとしては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ポリ−2−メチルテトラメチレングリコール等が挙げられる。
【0027】
上記ポリエステルポリオールとしては、例えば、アジピン酸と多価アルコールの縮合物であるポリブタンジオールアジペート、ポリ−3−メチルペンタンジオールアジペート、ポリ−1,6−ヘキサンジオールアジペート、ポリネオペンチルグリコールアジペートや、アルキレンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオール、ジメチロールヘプチン、ノナンジオール等とセバシン酸、アゼライン酸、イソフタール酸、フタル酸等の二塩基酸とのエステル化物等が挙げられる。
【0028】
上記ポリカーボネートポリオールとしては、例えば、ポリ−1,6ヘキサンジオールカーボネートの他に、プロピレンジオール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、3−メチルペンタンジオール、シクロヘキサンジメタノール、オクタンジオール、ノナンジオール、デカンジオール等のアルキレングリコールを適宜組み合わせて合成して得られるポリアルキレンカーボネートポリオールが挙げられる。
【0029】
上記ポリシロキサンポリオールとしては、例えば、ジメチルポリシロキサンポリオールやメチルフェニルポリシロキサンポリオール等が挙げられる。
【0030】
イソシアネート:
本発明のウレタン樹脂を構成するために用いられるイソシアネートは、ウレタン樹脂を構成するための成分として従来公知のものであれば、特に限定されず、用いることができる。たとえば、トリレンジイソシアネート(以下、「TDI」ともいう)、イソホロンジイソシアネート(以下、「IPDI」ともいう)、ノルボルナンジイソシアネート(以下、「NBDI」ともいう)、ヘキサメチレンジイソシアネート(以下、「HDI」ともいう)、ヘキシルメタンジイソシアネート(以下、「HMDI」ともいう)、またはジフェニルメタンジイソシアネート(以下、「MDI」ともいう)などを挙げることができる。尚、本発明においてイソシアネートは、単独で用いてもよいし、2種以上のものを組み合わせて用いてもよい。
【0031】
以上に説明する本発明の難燃性ウレタン樹脂において、本発明におけるリン含有鎖伸長剤、ポリオール、ポリイソシアネートの配合割合は、目的とするウレタン樹脂製品、あるいはウレタン樹脂に求められる物性を勘案し、適宜決定することができる。特にリン含有鎖伸長剤の配合量については、後述するウレタン樹脂中のリン原子の濃度を勘案し、その配合量を決定することが望ましい。鎖伸長剤を多く配合した場合には、当然、ウレタン樹脂中のリン原子濃度が増大し、また、ウレタン樹脂を構成において架橋点が増大するため、強度が増加する傾向にある。したがって、ウレタン樹脂として一般的に設計可能な範囲内において、所望のリン原子濃度を勘案して配合量を決定することができる。
【0032】
上述する本発明の難燃性ウレタン樹脂には、その使用目的に応じ、さらに酸化防止剤、発泡剤、各種触媒などの任意の成分を含有させ、目的に応じた種々のウレタン樹脂を製造することができる。
【0033】
例えば、本発明の難燃性ウレタン樹脂を用い、難燃性ウレタンフィルム又はシートを製造する場合には、上述する本発明のウレタン樹脂の構成成分であるポリオール、イソシアネート及びリン含有鎖伸長剤を、さらに酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル等の酢酸エステル溶媒を用いて混合させるとともに、従来公知の方法によりウレタンフィルム又はシートとして製造することができる。
【0034】
あるいは、上記難燃性ウレタンフィルム又はシートと同様の構成であって、希釈率を変更することによって、難燃性ウレタン系接着剤を製造することもできる。
【0035】
また、合成皮革において、本発明の難燃性ウレタン樹脂からなる層を、繊維基材と表皮層との間における中間層として設けることによれば、難燃性が付与され、且つ、従来以上の優れた風合いを備える合成皮革を提供することが可能である。
【0036】
[難燃性合成皮革]
以下に、本発明の難燃性合成皮革について説明する。本発明の難燃性合成皮革は、繊維基材表面に接着層を介してウレタン樹脂からなる中間層が積層され、さらに表皮層が積層されてなる合成皮革であって、上記中間層が、本発明の難燃性ポリウレタン樹脂を用いて形成される。
【0037】
上記繊維基材は、合成皮革の基布として一般的に知られる材料を適宜選択して使用することができる。例えばポリエステル、ポリアミド、ポリアクリロニトリル等の合成繊維、綿、麻、等の天然繊維、レーヨン、アセテート等の再生繊維の単独又はこれらの混紡繊維よりなる織布、編布、不織布等を使用することができるが、これに限定されない。
【0038】
上記接着層は、合成皮革において従来公知の接着層であれば適宜選択して使用することができる。一般的には、接着層は、ポリウレタン系接着剤、あるいはポリカーボネート系ポリウレタン樹脂によって構成される。また、上記表皮層についても、特に限定されないが、ウレタン樹脂で形成されることが一般的である。
【0039】
本発明の難燃性合成皮革は、従来公知の合成皮革製造方法と同様の方法に倣い製造することができる。例えば、まず表皮層を構成する樹脂材料を、離型紙に塗布する。塗布する方法は、従来公知の塗布方法であればよく、例えば、ロールコーター、グラビアコーター、ナイフコーター、コンマコーター、Tダイコーターなどの装置を用いて塗布することができる。また離型紙は、表皮層を構成する樹脂に対して離型性を示すものであればよく、ポリエチレン樹脂またはポリプロピレン樹脂などからなるオレフィンシートまたはフィルムが汎用されるが、これに限定されない。上記表皮層の厚みは、特に限定されず任意に決定してよい。次いで、離型紙に塗布された樹脂材料中の溶媒を蒸発させるとともに、樹脂の架橋反応を起こすため、必要に応じて熱処理を行う。
【0040】
次に、上述のとおり離型紙上に形成された表皮層上面に、本発明の難燃性ウレタン樹脂を塗布する。塗布方法は、上記表皮層において記載した内容と同様であるため、ここでは割愛する。そして、表皮層上に塗布された本発明のウレタン樹脂を加熱して、溶媒を蒸発させるともに架橋反応を進行させることによって、表皮層上に中間層を形成することができる。尚、本発明の難燃性合成皮革における中間層の厚みは、特に限定されず、合成皮革の他の層の厚みなどを勘案しながら適宜決定してよいが、一般的には、100μm以上600μ以下であることが好ましい。100μm未満であると、中間層において示される強度が十分でない場合があり、また600μmを超える厚みとした場合には、合成皮革全体の風合いが損なわれる場合があるからである。
【0041】
そして、上記中間層表面に、接着剤層を構成する樹脂材料を、塗布する。塗布方法は、上記表皮層において記載した内容と同様であるため、ここでは割愛する。接着材料を塗布した後、接着剤層の表面に粘着性が残っている間に、繊維基材を張り合わせ、最後に離型紙を剥離して、本発明の難燃性合成皮革が完成される。
【0042】
ここで、一般的な合成皮革としては、中間層を備えず、繊維基材と表皮層とが接着剤層によって接合されてなる構成が多く知られる。しかし、繊維基材と樹脂から構成される表皮層とでは、燃焼性や燃焼機構が異なるため、繊維基材にのみ難燃性を付与しただけでは、合成皮革として十分な難燃性が発揮されるとは言い難かった。一方、表皮層において難燃剤を添加すると難燃剤がブリードアウトしてしまうため実質的ではなかった。これに対し、繊維基材と表皮層との間にさらなる樹脂層である中間層を設け、該中間層に難燃性を付与しようとする試みも、知られている。しかしながら、繊維基材と表皮層との間にさらに中間層を設けた場合には、合成皮革の風合いが損なわれ易いという問題があった。これに対し、本発明の難燃性合成皮革は、繊維基材と表皮層との間に上述する本発明の難燃性ウレタン樹脂によって形成される中間層を備えることによって、難燃性が付与されているとともに、その風合いが従来以上であるため、難燃性および風合いともに良好な合成皮革を提供することができる。
【0043】
尚、本発明の合成皮革において、さらに難燃性を向上させるために、上記繊維基材および/または繊維基材と中間層との間に設けられる上記接着剤層にも難燃性を付与してよい。難燃性の繊維基材や、難燃性の接着剤は、従来公知の難燃性合成皮革に用いられているものを適宜選択して使用することができるが、特に、接着剤層については、本発明の難燃性ウレタン樹脂を用いて接着剤層を形成してもよい。この場合には、本発明のウレタン樹脂を、中間層形成用として用いる場合よりも1〜20%希釈して用いればよい。
【0044】
[リン原子濃度]
以上に説明する本発明の難燃性ウレタン樹脂は、その目的に応じて、含有されるリン原子濃度を適宜決定してよい。即ち、ウレタン樹脂の設計可能とする範囲内において、求められる難燃性の程度により、使用するリン含有鎖伸長剤の配合量を決定することができる。充分な難燃性を発揮させるための1つの目安としては、ウレタン樹脂中のリン原子濃度が、1400ppm以上、より望ましくは4500ppm以上であることが挙げられる。尚、本発明および本明細書において述べるリン原子濃度(ppm)は、ウレタン樹脂中におけるリン原子について、リン原子換算で求められる値である。
【0045】
中でも、ウレタンフィルム、ウレタンシート、あるいは中間層を本発明のウレタン樹脂を用いて作成した合成皮革において、ウレタン樹脂中におけるリン原子濃度と、樹脂形成品の風合いとが密接に関連することが本発明で明らかになった。即ち、化合物1または化合物2を鎖伸長剤として用いて製造された本発明の難燃性ウレタン樹脂からなるフィルム、シート、あるいはこれを含む合成皮革では、リン原子濃度が、1400ppm以上20000ppm未満、より好ましくは、4500ppm以上14000ppm未満である場合に、風合いが非常に好ましく、またリン原子濃度の増大に連れて難燃性効果も向上することがわかった。
【0046】
一方、ウレタン樹脂中のリン原子濃度が20000ppmを上回ると、難燃性の効果は良好ではあるが、リン原子濃度の増大に伴う難燃性の向上は認められず、難燃性効果が頭打ちとなることがわかった。さらに、リン原子濃度が20000ppmを上回ると、樹脂形成品の風合いが低下する傾向にあることがわかった。かかる傾向は、特に、化合物2を用いた場合に顕著に示された。したがって、ウレタン樹脂中のリン原子濃度が、1400ppm以上、20000ppm以下であることが、経済的に不利益が生じず、且つ、特にフィルム、シートあるいは合成皮革の中間層に利用する場合には、形成品の風合いを損なうことがなく望ましい。
【0047】
上記リン原子濃度は、ICP発光分光分析により測定することができる。あるいは、本発明の難燃性ウレタン樹脂を生成するにあたり用いられるリン含有鎖伸長剤の配合量から、理論値としてリン原子濃度を算出することもできる。具体的には、リン原子量をウレタン樹脂組成物の固形分量で除することにより、生成される難燃性ウレタン樹脂中に含有されるリン原子濃度を算出することができる。
【0048】
[難燃性評価]
本発明の難燃性ウレタン樹脂の難燃性は、その目的に応じて、上述するリン原子濃度を勘案し、その難燃性の度合を決定することが可能である。本発明において難燃性は、たとえば「限界酸素指数」で評価することができる。限界酸素指数が大きいほど難燃効果が高いと判断される。上記限界酸素指数の測定は、プラスチックの燃焼試験方法(JIS K 7201)に準じて実施される。
【0049】
上述に説明する本発明の難燃性ウレタン樹脂は、ウレタン樹脂の基本骨格の一部を構成する化合物(即ち、鎖伸長剤)中にリン原子が含まれており、これによって、ウレタン樹脂中に難燃性を付与可能なリン原子が組み込まれていることが重要である。即ち、予め、特定の化合物Xを含む鎖伸長剤である化合物1または化合物2を調製し、これを用いてウレタン樹脂の製造を行うため、一般的なウレタン樹脂の製造方法にならって本発明の難燃性ウレタン樹脂を製造することができる。したがって、材料の取り扱い性が良好であり、また特種な溶媒を使用する必要がないとうメリットがある。加えて、特種な溶媒の使用によって、製造されるウレタン樹脂の物性が損なわれることもない。またポリオールよりも数平均分子量の小さい鎖伸長剤を用いるため、ウレタン樹脂中の架橋点が増大し、望ましい強度と柔軟性を発揮しうる。したがって、本発明の難燃性ウレタン樹脂を用いて形成されたフィルム、シート、あるいは本発明の難燃性ウレタン樹脂よりなる中間層を備える合成皮革などにおいて、良好な風合いを示すことが可能である。
【実施例】
【0050】
以下、実施例、及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0051】
(化合物1の調製)
上述する化合物X(M−Acid、三光株式会社製)1molに対し、PTGを3mol用い、且つ、リン系変色防止剤、チタン系重合触媒を配合した組成物を、150℃で10時間加熱し、さらに180℃に昇温した後、180℃に維持したまま10時間加熱し、さらに200℃に昇温した後、200℃を維持したまま10時間加熱して反応させ、脱水縮合した。その後、減圧蒸留して酸を除去して、化合物Xのエステル化物である化合物1(1mol)を得た。尚、上記で得られた化合物1は、PTGの残留物(1mol)との混合物として得られた。上記混合物の数平均分子量は、530Mwであった。尚、後述する実施例では、化合物1としては、上記混合物を使用する。
【0052】
(化合物2の調製)
PTGの代わりに、DMHを2moL用いた以外は、化合物1と同様にエステル化を行い、化合物2を得た。得られた化合物2の数平均分子量は、630.8Mwであった。
【0053】
(化合物3の調製)
PTGの代わりに、ポリプロピレングリコール(PPG)を2moL用いた以外は、化合物1と同様にエステル化を行い、化合物3を得た。得られた化合物3の数平均分子量は、1650Mwであった。
【0054】
(実施例1)
2Lフラスコに、ポリプロピレングリコール(PPG−1500 三井武田ケミカル(株))を1410重量部、上述のとおり得た化合物1を212重量部、酢酸プロピルを295.86重量部、および酸化防止剤(イルガノックス245 チバ・スペシャリティケミカルズ社製)24.66重量部を添加し、80℃、2時間攪拌し、上記ポリプロピレングリコールに化合物1を溶解させた。その後、常温にてイソシアネート(MDI(ジフェニルメタンジイソシアネート)三井化学(株)社製)を643.51重量部さらに添加し、80℃に昇温して3時間反応させ、末端イソシアネートのプレポリマーを作成し、1液(プレポリマー)とした。
【0055】
2Lフラスコに、ポリプロピレントリオール(GP−5000 三洋化成工業(株))を200重量部、シリコーン(L−540 東レ・ダウコーニングシリコーン社製)を24.66重量部、および触媒としてDTL(日東化成(株)社製)を4.93重量部とNo1(花王(株)カオーライザー)を1.23重量部添加し、常温で30分攪拌し、2液(レジン)を得た。
【0056】
上述のとおり調整した1液と2液の全量を混合し、離型紙上に塗布して塗膜を形成した。そして、塗膜の形成された離型紙を熱風循環式オーブン内に設置し、80℃で30分で加熱し、さらに120℃で20分加熱して、塗膜の乾燥および、ウレタン樹脂合成の反応促進を行った。次いで、オーブンから取り出した離型紙を、乾燥デシケータに入れて室温まで放冷し、3日間放置して養生した。乾燥デシケータから離型紙を取出し、該離型紙上に形成されたフィルムを剥離して、ポリウレタンフィルムを得てこれを実施例1とした。
【0057】
(膜厚の測定)
上記実施例1の厚みを、ガンマ線膜厚測定器を用いて、非接触で測定した。厚みは、0.26μmであった。
【0058】
(難燃性評価)
実施例1であるポリウレタンフィルムの難燃性を評価するため、JIS K 7201に準拠して限界酸素指数(LOI値)を測定したところ、22.88であった。
【0059】
(風合い評価)
実施例1のフィルムの風合いを評価するために、フィルムの手触り(触感)を確認し、下記のとおり評価した。実施例1のフィルムは非常に優れた風合いであり、◎と評価された。
柔軟性に優れ、触感がよい・・・・・・・・・・・◎
柔軟性を有する・・・・・・・・・・・・・・・・○
柔軟性が不足する・・・・・・・・・・・・・・・△
硬い・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・×
【0060】
(柔軟性、引張強度、および破断伸び評価)
JIS K 6251に準拠して、柔軟性評価として100%モジュラス(kg/cm)、引張強度評価としてTSB(kgf/cm)、破断伸び評価としてEB(%)を測定した。結果は、表3に示す。
【0061】
(実施例2〜7)
表1または表2に示す材料および配合量に変更したこと以外は、実施例1と同様にポリウレタン樹脂フィルムを形成し、実施例2〜7とした。尚、表1および表2には、材料の配合量をモル数で示した。
【0062】
(比較例1)
2Lフラスコに、ポリプロピレングリコール(PPG−1500 三井武田ケミカル(株))を1410重量部、酢酸エチルを105.57重量部、および酸化防止剤(イルガノックス245 チバ・スペシャリティケミカルズ社製)21.11重量部を添加し、80℃、2時間攪拌し、上記ポリプロピレングリコールに化合物1を溶解させた。その後、常温にてイソシアネート(MDI(ジフェニルメタンジイソシアネート)三井化学(株)社製)を501.35重量部さらに添加し、80℃に昇温して3時間反応させ、末端イソシアネートのプレポリマーを作成し、1液(プレポリマー)とした。
【0063】
2Lフラスコに、ポリプロピレントリオール(GF−5000 三洋化成工業(株))を200重量部、シリコーン(L−540 東レ・ダウコーニングシリコーン社製)を21.11重量部、および触媒としてDTL(日東化成(株)社製)を4.34重量部とNo1(花王(株)カオーライザー)を1.08重量部添加し、常温で30分攪拌し、2液(レジン)を得た。
【0064】
上述のとおり調整した1液と2液の全量を混合し、離型紙上に塗布して塗膜を形成した。そして、塗膜の形成された離型紙を熱風循環式オーブン内に設置し、80℃で30分で加熱し、さらに120℃で20分加熱して、塗膜の乾燥および、ウレタン樹脂合成の反応促進を行った。次いで、オーブンから取り出した離型紙を、乾燥デシケータに入れて室温まで放冷し、3日間放置して養生した。乾燥デシケータから離型紙を取出し、該離型紙上に形成されたフィルムを剥離して、ポリウレタンフィルムを得てこれを比較例1とした。
【0065】
(比較例2)
ポリプロピレングリコール(PPG−1500 三井武田ケミカル(株))を1410重量部配合する代わりに、同じポリプロピレングリコールを900重量部、上述で調製した化合物3を561重量部用いたこと、および、そのほかの材料の配合量を表2に示す内容に変更したこと以外は、比較例1と同様にポリウレタンフィルムを得て、これを比較例2とした。
【0066】
上述のとおり得た実施例2から7および比較例1および2について、実施例と同様の方法で、膜厚の測定、難燃性評価、風合い評価、柔軟性、引張強度、および破断伸び評価を行った。結果は、表3に示す。
【0067】
上述の結果から、本発明の実施例1から7はいずれも好ましく難燃性が付与されていることが確認された。即ち、リンを全く付与されていない比較例1に対し、比較例2はリン原子濃度が4900ppmであるにもかかわらず、難燃性の指標である酸素限界指数の向上が確認されなかった。これに対し、実施例1から7はいずれも、比較例1に対し、酸素限界指数が向上していることが確認された。
【0068】
また、鎖伸長剤として化合物2が含まれる実施例3〜7において、実施例3〜5までは、リン原子濃度の増加にしたがい、酸素限界指数も向上していたのに対し、実施例6、実施例7では、さらにリン原子濃度が増大しているにもかかわらず、酸素限界指数の向上は見られなかった。
【0069】
また、上記柔軟性評価(100%M(kg/cm))、引張強度評価(TSB(kgf/cm))、破断伸び評価(EB(%))の結果、特に、実施例1、2および5において合成皮革における中間層としての好ましい物性が示された。
【0070】
【表1】

【0071】
【表2】

【0072】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオールと、イソシアネートと、鎖伸長剤とを含んで構成されるポリウレタン樹脂であって、
上記鎖伸長剤が、下記化1で表される化合物1および/または下記化2で表される化合物2である、リン含有鎖伸長剤であることを特徴とする難燃性ポリウレタン樹脂。
(化合物1)
【化1】

(化合物2)
【化2】



【請求項2】
ポリウレタン樹脂中のリン濃度が、1400ppm以上20000ppm以下であることを特徴とする請求項1に記載の難燃性ポリウレタン樹脂。
【請求項3】
繊維基材表面に接着層を介してポリウレタン樹脂中間層が積層され、さらに表皮層が積層されてなる合成皮革であって、上記中間層が、請求項1または2に記載の難燃性ポリウレタン樹脂を用いて形成されていることを特徴とする難燃性合成皮革。

【公開番号】特開2011−236284(P2011−236284A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−107176(P2010−107176)
【出願日】平成22年5月7日(2010.5.7)
【出願人】(000000077)アキレス株式会社 (402)
【Fターム(参考)】