説明

電動パワーステアリング装置

【課題】減速機構の駆動ギヤの支持部分での異音の発生を抑制する。
【解決手段】操舵部材1の操作に応じて電動モータ5を駆動して操舵補助する電動パワーステアリング装置であって、電動モータ5の回転軸5aに連結された駆動ギヤ61と、駆動ギヤ61の両端部をハウジング15に支持する一対の軸受16,16と、弾性体201とその軸方向両端部に接合された一対のプレート202,203とからなり上記各軸受16の内輪161と駆動ギヤ61の歯部61aとの間に介装されたダンパー20とを備えている。ダンパー20の一対のプレート202,203のうち、軸受16側に位置するプレート202には、内径側への延出部202aが形成され、延出部202aの少なくとも駆動ギヤ61の段部61cと当接しうる面部が、熱硬化処理による硬化層21、もしくは低摩擦材のコーティング層22等の耐摩耗層となっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、運転者により行われるステアリングホイール(ハンドル)等の操舵部材の操作に応じて電動モータを駆動して運転者の操舵補助を行う電動パワーステアリング装置に関し、特には、電動モータの回転を減速して操舵軸に伝達する減速機構を備えた電動パワーステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
上記電動パワーステアリング装置は、運転者によるステアリングホイールの操舵トルクを検出するトルクセンサと、操舵補助用の電動モータと、電動モータの回転を減速して操舵軸に伝達する減速機構と、トルクセンサ等のセンサ信号に基づいて電動モータを制御する電子制御ユニット(ECU)とを備えている。
【0003】
減速機構は、例えば、電動モータの回転軸に連結された駆動ギヤとしてのウォーム軸と、操舵軸に嵌着された従動ギヤとしてのウォームホイールとからなり、ウォーム軸とウォームホイールとの噛み合いにより、電動モータの回転を減速して操舵軸に伝達することで、運転者のステアリングホイールの操作によって加えられる操舵トルクと、電動モータが発生する操舵補助トルクとの和を、出力トルクとしてステアリング機構に与える。
【0004】
ところで、上記の電動パワーステアリング装置において、運転者が操舵を開始した時点では、ステアリングホイールの回転とともに、操舵軸と、この操舵軸に嵌着されたウォームホイールとが一体に回転し、ウォームホイールを介してウォーム軸を回転させることになる。この場合、ウォーム軸に連結された電動モータはまだ駆動を開始しておらず、そのロータは静止状態にあるから、ウォームホイールおよび操舵軸には、静止状態のロータの慣性重量が回転に対する抵抗として作用する。このため、操舵初期には、ステアリングホイールの動きが重く、この点で操舵フィーリングに問題がある。
【0005】
これに対して、従来の電動パワーステアリング装置では、ウォーム軸と、その両端部を支持する軸受との間にダンパーを介装することで、ウォーム軸が軸方向にある程度変位できるようにしている(特許文献1参照)。
【0006】
上記構成では、操舵初期、電動モータの駆動が開始されていない状態で、操舵軸およびウォームホイールが回転すると、ウォームホイールの回転に応じてウォーム軸が軸方向に変位することで、電動モータの静止しているロータの慣性重量を直接、ウォームホイールに作用させず、操舵開始時のステアリングホイールの動きが軽くなるようにしている。
【特許文献1】特開2002−284020号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記したような、駆動ギヤであるウォーム軸の両端にダンパーを設けてウォーム軸が軸方向に変位しうるようにした構造では、ウォーム軸が軸方向に大きく変位した場合、ウォーム軸の変位ストロークを規制する部分、例えば、ウォーム軸の一部と、ウォーム軸の軸部を支持する軸受の内輪とが直接、当接して耳障りな異音を発生する、という問題がある。
【0008】
さらに、ウォーム軸の一部と、軸受の内輪との当接個所では、当接を繰り返す毎に擦れ合って摩耗が生じ、ウォーム軸の一部と軸受の内輪との間隔が広がってウォーム軸の変位ストロークが拡大し、より大きな異音を発生するようになる、という問題もある。そこで、本発明は、上記異音の発生を抑制することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明による電動パワーステアリング装置は、操舵部材の操作に応じて電動モータを駆動して操舵補助する電動パワーステアリング装置であって、操舵軸に嵌着された従動ギヤに噛み合う状態で上記電動モータの回転軸に連結された駆動ギヤと、上記駆動ギヤの両端部をハウジングに支持する一対の軸受と、上記各軸受の内輪の端面と駆動ギヤの歯部の端面との間に介装されたダンパーとを備え、上記ダンパーは、弾性体と、この弾性体の軸方向両端部に接合されたプレートとからなり、上記プレートのうち、軸受側に位置するプレートには、駆動ギヤの段部と当接しうるよう内径側に延出する延出部が形成され、上記延出部の少なくとも上記段部と当接しうる面部が耐摩耗層となっていることを特徴とするものである。
【0010】
上記の構成において、耐摩耗層には、浸炭や窒化、浸炭窒化、高周波焼入れ等の熱硬化処理による硬化層や、低摩擦材のコーティング層が含まれる。コーティング層を構成する低摩擦材には、二硫化モリブデン、二硫化タングステン、黒鉛、鉛、すず、フッ素樹脂等がある。
【0011】
従来、駆動ギヤがその両端部に設けられたダンパーにより軸方向に変位可能となっている電動パワーステアリング装置では、操舵初期等に従動ギヤの回転に応じて駆動ギヤが軸方向に変位して、駆動ギヤの一部と、駆動ギヤの軸部を支持する軸受の内輪とが直接的に当接する。この場合、当接個所の接触面積は小さいので、当接の際の衝撃が大きく、比較的大きな異音を発生する。
【0012】
これに対して、本発明による上記構成の電動パワーステアリング装置では、ダンパーの軸受側のプレートに内径側への延出部があり、この延出部が軸受の内輪の端面にも、駆動ギヤの段部にも当接するようになっており、この延出部を介して、軸受の内輪と駆動ギヤの段部とが間接的に接触する。このため、軸受の内輪と駆動ギヤの段部との接触面積が拡大して相対的に単位面積当たりの接触圧が小さくなっており、駆動ギヤが軸方向に大きく変位することで駆動ギヤの段部がプレートの延出部に当接しても、衝撃が少なく、大きな異音の発生が抑制される。
【0013】
また、軸受側のプレートの各面部のうち、駆動ギヤの段部と当接する面部が耐摩耗層となっているので、接触と離間とを繰り返しても摩耗が少ない。プレートの延出部では、上記のように摩耗が少ないことから、駆動ギヤの段部との間の間隔が広がって駆動ギヤの変位ストロークが増大するようなことがなく、駆動ギヤの軸方向の変位量の増大に伴う異音の拡大が抑制される。
【0014】
本発明による他の電動パワーステアリング装置は、操舵部材の操作に応じて電動モータを駆動して操舵補助する電動パワーステアリング装置であって、操舵軸に嵌着された従動ギヤに噛み合う状態で上記電動モータの回転軸に連結された駆動ギヤと、上記駆動ギヤの両端部をハウジングに支持する一対の軸受と、上記各軸受の内輪の端面と駆動ギヤの歯部の端面との間に介装されたダンパーとを備え、上記ダンパーは、弾性体と、この弾性体の軸方向両端部に接合されたプレートとからなり、上記プレートのうち、軸受側に位置するプレートには、駆動ギヤの段部と当接しうるよう内径側に延出する延出部が形成され、上記軸受側のプレート、もしくはこのプレートの延出部と当接しうるよう駆動ギヤの段部側に設けた部材が制振性を有することを特徴とするものである。
【0015】
上記構成によれば、ダンパーの軸受側のプレートには、内径側への延出部があり、この延出部により、軸受の内輪の端面と、駆動ギヤの段部との接触面積が拡大して接触圧が小さくなっていて当接の際の衝撃が小さく、しかも、当接個所の部材は制振性を有するから、大きな異音の発生が抑制される。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、操舵初期等に駆動ギヤが軸方向に大きく変位した場合に発生する異音を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、図1ないし図3を参照して、本発明による最良の形態に係る電動パワーステアリング装置を説明する。図1は、最良の形態に係る電動パワーステアリング装置の減速機構部分の断面図で、関連する構成を併せて図示している。図2は、図1の減速機構の一部であるウォーム軸の軸受による支持部分の拡大断面図、図3は、図2のウォーム軸の支持部分に使用されるダンパーの拡大断面図である。
【0018】
本形態の電動パワーステアリング装置は、図1に示すように、ステアリングホイールのような操舵部材1に一端が固着された操舵軸2と、その操舵軸2の他端に連結されたラックピニオン機構等からなるステアリング機構3と、操舵部材1の操作によって操舵軸2に加えられる操舵トルクを検出するトルクセンサ4と、操舵部材1の操舵操作による運転者の負荷を軽減するための操舵補助トルクを発生させる電動モータ5と、電動モータ5が発生する操舵補助トルクを操舵軸2に伝達する減速機構6と、トルクセンサ4等からのセンサ信号に基づき電動モータ5の駆動を制御する電子制御ユニット(ECU)7とを備える。
【0019】
電動モータ5が発生する操舵補助トルクは、減速機構6を介して操舵軸2に加えられる。操舵軸2には、操舵部材1の操作による操舵トルクが加えられているから、この操舵トルクと、電動モータ5が発生する操舵補助トルクとの和が、出力トルクとして操舵軸2を介してステアリング機構3に与えられる。
【0020】
ステアリング機構3では、その入力軸の回転が、出力軸であるラック軸の往復運動に変換される。ラック軸の両端はタイロッドおよびナックルアーム等からなる連結部材8を介して操向用の車輪9に連結されており、ラック軸の往復運動に応じて車輪9の向きが変わる。
【0021】
操舵軸2の中途部は、本実施形態では、筒状の入力軸10と、トーションバー11と、筒状の出力軸12とから構成されている。入力軸10は、その筒状内部に挿入したトーションバー11と、圧入もしくは径方向に貫通するピン13により連結され、この入力軸10およびトーションバー11の上端部は、操舵軸2の上部を構成する軸(図示省略)の下端部に連結されている。トーションバー11は、その中間部に長尺で細径のねじり領域を有するもので、大径の上端部が前記したように入力軸10に連結されるとともに、同じく大径の下端部が出力軸12の筒状内部に挿入されて、圧入もしくは径方向に貫通するピン14により出力軸12に連結されている。このトーションバー11の外周で、入力軸10と出力軸12とは軸方向に近接して対向しており、その軸方向対向部の外周にトルクセンサ4が配置されている。
【0022】
減速機構6は、駆動ギヤとして電動モータ5の回転軸5aに連結されたウォーム軸61と、従動ギヤとして出力軸12の外周に嵌着されたウォームホイール62とからなり、ウォーム軸61とウォームホイール62とは互いに噛み合う状態で、ギヤハウジング15の内部に収容されている。
【0023】
ギヤハウジング15は、内部にウォーム軸61を収容するウォーム軸収容部151と、ウォームホイール62を収容するウォームホイール収容部152と、電動モータ5を装着するための円筒状の装着部153とを有し、装着部153には、電動モータ5がその回転軸5aを内向きにして装着されている。
【0024】
ギヤハウジング15のウォーム軸収容部151内において、ウォーム軸61は、軸方向の中間に歯部61aを、その両端に軸部61b,61bを有するもので、両端の軸部61b,61bにそれぞれ設けた軸受16,16を介してウォーム軸収容部151内に回転可能に支持され、その一方の軸部61bは電動モータ5の回転軸5aに、筒体17等により同軸に結合されている。上記の両軸受16,16のうち、電動モータ5側の軸受16の軸方向外側には、ナット18付きの押え環19が設けられている。
【0025】
なお、本実施形態では、ウォーム軸61の全体は、制振金属の粉末を含む金属粉末を、所定の形状に加圧成形した上で、融点以下の温度で加熱焼結して得られる焼結体で構成されている。制振金属としては、Mn−Cu系合金、Ni−Ti系合金、Fe−Al系合金、ジェラルミン等がある。この焼結体からなるウォーム軸61は、金属組成を比較的容易かつ正確に設定でき、製造が容易であり、完成品については、潤滑油を含浸させて摩耗を少なくすることができるほか、制振金属を含むので、振動の発生や伝播が抑制され、減速機構6の静音化に効果がある。
【0026】
ウォーム軸61の軸方向両端側には、それぞれウォーム軸61の軸方向の変位を可能とするための環状のダンパー20,20が設けられている。これら2つのダンパー20,20と、その周辺部の構造を図2および図3を参照して説明する。
【0027】
ウォーム軸61の軸方向一方側のダンパー20およびその周辺部は、他方側のものと、ウォーム軸61の歯部61aに関して対称をなす構造なので、図2および図3により、電動モータ5に近い側(図1では右側)に位置するダンパー20と、その周辺部についてのみ構造を説明し、他の側(図1で左側)については説明は省略する。
【0028】
ウォーム軸61の電動モータ5側において、軸受16は深溝玉軸受であって、内輪161と、外輪162と、転動体としての玉163と、保持器164と、シールド板165とを備えている。ウォーム軸61の歯部16aの軸方向端部には段落状の端面があり、この端面と軸部61bとの間には当接用の段部61cが形成されている。この段部61cは、軸受16の内輪161と共働して、ウォーム軸61の軸方向の変位ストロークを規制するためのもので、軸受内輪161の端面の一部もしくは全部と軸方向に対応しうる外径を有する。ダンパー20は、ウォーム軸61の歯部61aの端面と軸受内輪161の端面との間に若干圧縮された状態で介装されており、環状でゴムのような弾性体201と、この弾性体201の軸方向端面に焼付け等により接合した一対のプレート202,203とからなる。
【0029】
上記一対のプレート202,203のうち、軸受16側(図2で右側)に位置するプレート202には、内径側に延出する延出部202aが形成されており、この延出部202aは、軸受内輪161の端面と、ウォーム軸61の段部61cとの間に介在する。
【0030】
そして、この軸受16側プレート202では、軸受内輪161より外径側の部分の肉厚Toが、内径側部分の肉厚Tiより薄く(To<Ti)形成され、これにより、プレート202の内径側部分が外径側の部分よりも軸方向両外方に張り出している。これは、該プレート202が軸受16のシールド板165等と干渉するのを回避するためである。
【0031】
従来のこの種のダンパーでは、軸受側プレートと軸受のシールド板等との干渉を回避するために、軸受内輪に、これを内径側から覆うように断面が上向きコ字形のフランジブッシュを装着したり、ダンパーの軸受側プレートを、その内径部分が軸受内輪の側に張り出すよう曲げ加工したりすることが行われている。しかし、前者の場合、部品点数が増え、工数も増加するという問題がある。後者の場合は、部品点数の増加はないものの、軸受側プレートに方向性が生じ、このプレートを弾性体と接合する場合、プレートの向きを揃える必要があり、ダンパーの製造に負担がかかる。これに対して、本発明の上記の構造では、部品点数や工数が増加することがなく、しかも、軸受16側のプレート202に方向性が生じないので、ダンパー20を従来通りの方法で容易に製造することができる。
【0032】
また、プレート202の表面には、耐摩耗層として、浸炭や窒化、浸炭窒化、高周波焼入れ等の熱硬化処理による硬化層21が形成されている。硬化層21の表面は、550〜750Hvの硬さを有していればよい。硬化層21は、プレート202の延出部202aの表面のうち、ウォーム軸61の段部61cと対向する面部に形成されていればよいが、本実施形態では、プレート202の表面全面に形成されている。
【0033】
なお、上記のような硬化層21は、プレート202の延出部202aが当接する相手側である、ウォーム軸61の段部61cの表面にも形成する場合がある。
【0034】
上記構成において、運転者が操舵部材1の操作を開始すると、操舵軸2とウォームホイール62とが一体に回転し、ウォームホイール62を介してウォーム軸61を回転させようとする。この時点では、電動モータ5はまだ駆動を開始しておらず、そのロータは静止状態にあり、その慣性重量が、回転に対する抵抗としてウォーム軸61に作用するが、ウォーム軸61はダンパー20,20により軸方向に変位しうるから、ウォームホイール62の回転に応じて軸方向に変位し、これにより、電動モータ5のロータの慣性重量は直接的にはウォームホイール62に作用しない。
【0035】
ウォーム軸61が軸方向一方(図2の場合、右方向)に大きく変位すると、ウォーム軸61の段部61cがダンパー20の軸受16側のプレート202に当接し、該プレート202の延出部202aは、ウォーム軸61の段部61cと、軸受16の内輪161との間に挟圧される。このように、ウォーム軸61の段部61cと軸受内輪161とは、プレート202の延出部202aを介して間接的に当接し、これにより、ウォーム軸61の軸方向の最大変位量が規制される。もしも、ウォーム軸61の段部61cと軸受内輪161とが直接的に当接する場合は、軸受内輪161の端面に面取り部等があり、ウォーム軸61の段部61cとの接触面積は比較的狭いものとなるが、上記のように、プレート202の延出部202aを介して当接することになれば、接触面積が広く、相対的に単位面積当たりの接触圧が小さくなっており、当接の際の衝撃が少なく、大きな異音の発生が抑制される。
【0036】
また、軸受16側のプレート202の延出部202aと、ウォーム軸61の段部61cとは、ウォーム軸61が軸方向に大きく変位する度毎に接触と離間とを繰り返すが、該プレート202の延出部202aの表面は硬化層21となっているので、接触と離間との繰り返しによっても摩耗することが少なく、ウォーム軸61の段部61cとプレート202の延出部202aとの間の間隔が広がってウォーム軸61の変位ストロークが増大するようなことがない。したがって、ウォーム軸61の軸方向の変位量の増大に伴う異音の拡大が抑制される。
【0037】
<第2実施形態>
図1ないし図3に示す最良の実施形態では、ダンパー20の一対のプレート202,203のうち、軸受16側に位置し、かつ内径側への延出部202aを有するプレート202に耐摩耗層として、熱硬化処理による硬化層21を形成しているが、図4に示すように、同プレートには、耐摩耗層として、低摩擦材のコーティング層22を形成してもよい。
【0038】
図4は、第2の実施形態に係る電動パワーステアリング装置に使用されるダンパーの拡大断面図である。この実施形態のダンパー20では、軸受16側のプレート202の表面のうち、延出部202aのウォーム軸61の段部61cと当接する面部に、低摩擦材のコーティング層22を形成されている。コーティング層22を構成する低摩擦材には、二硫化モリブデン、二硫化タングステン、黒鉛、鉛、すず、フッ素樹脂等がある。低摩擦材のコーティング層22は、軸受16側のプレート202の露出面全面に形成してもよい。軸受16側のプレート202の軸受内輪161より外径側の部分の肉厚が、内径側部分の肉厚より薄く形成されている点は、図1ないし図3の実施形態と同じである。低摩擦材のコーティング層22は、プレート202の延出部202aと当接するウォーム軸61の段部61cに形成することができる。
【0039】
図4に示すダンパー20を含む電動パワーステアリング装置では、軸受側のプレート202の延出部202aを介して、軸受16の内輪161とウォーム軸61の段部61cとが間接的に広い接触面積で接触することになるので、衝撃が少なく、大きな異音の発生が抑制されるほか、プレート202の延出部202aとウォーム軸段部61cが接触と離間とを繰り返しても、コーティング層22の存在により、摩耗が少なく、ウォーム軸61の変位ストロークの増大に伴う異音の拡大が抑制される。
【0040】
<第3実施形態>
図5は、第3の実施形態に係る電動パワーステアリング装置のウォーム軸支持部分の拡大断面図である。
【0041】
第3の実施形態では、ウォーム軸61の軸方向両端側において、軸受16の内輪161の端面とウォーム軸61の歯部61aの端面との間に、ゴムのような弾性体201と、この弾性体201の軸方向両端部に接合されたプレート202,203とからなる環状のダンパー20が介装されている点は、最良の実施形態と同じである。また、ダンパー20の両プレート202,203のうち、軸受16側に位置するプレート202が、ウォーム軸61の段部61cと当接しうるよう内径側に延出する延出部202aを有するとともに、軸受内輪161より外径側の部分の肉厚が、内径側部分の肉厚より薄肉に形成されている点も、最良の実施形態と同じである。第3の実施形態では、軸受16側のプレート202の全体が制振金属で構成されている点に特徴がある。制振金属としては、Mn−Cu系合金、Ni−Ti系合金、Fe−Al系合金、ジェラルミン等が使用される。
【0042】
第3の実施形態の電動パワーステアリング装置では、軸受16側のプレート202の延出部202aを介して、軸受16の内輪161とウォーム軸61の段部61cとが広い接触面積で間接的に接触することになるので、当接の際の衝撃が少なく、しかも、プレート202自体が制振金属で構成されているから、衝撃音の発生量が少なく、大きな異音を発生することがない。
【0043】
<第4実施形態>
図6は、第4の実施形態に係る電動パワーステアリング装置のウォーム軸支持部分の拡大断面図である。
【0044】
第4の実施形態では、軸受16側のプレート202の延出部202aと、ウォーム軸61の段部61cとの間に、環状の制振部材23が介装されている。この制振部材23は、金属系、樹脂系、ゴム系等の制振材料で構成されている。金属系の制振材料としては、Mn−Cu系合金、Ni−Ti系合金、Fe−Al系合金、ジェラルミン等がある。樹脂系の制振材料としては、フッ素系、シリコン系、ウレタン系、エステル系、アミド系等の樹脂がある。
【0045】
上記構成によれば、軸受16側のプレート202には内径側への延出部202aがあり、この延出部202aにより、軸受16の内輪161の端面と、ウォーム軸61の段部61cとの接触面積が拡大して接触圧が小さくなっていて当接の際の衝撃が小さく、しかも当接個所に制振部材23が介在するから、大きな異音の発生が抑制される。
【0046】
なお、上記の制振部材23を設けるとともに、軸受16側のプレート202の全体を、Mn−Cu系合金等の制振金属で構成してもよい。このように、互いに当接する二つの部材(軸受16側のプレート202および制振部材23)にともに制振性をもたせると、防音、防振効果が一層増大する。
【0047】
<その他の実施形態>
図7は、本発明の電動パワーステアリング装置におけるハウジングの組立て方法を示すためのハウジングの外観図である。
【0048】
図7を参照して、ハウジングの組立て方法を説明すると、まず、ギヤハウジング15の内部には、ウォーム軸61とウォームホイール62とが収容され、センサハウジング24の内部にはトルクセンサ4が収容される。これら両ハウジング15,24は、操舵軸2(図1に即して言えば、入力軸10とトーションバー11と出力軸12)が軸方向に貫通する状態で、各ハウジング15,24の軸周り部分に形成されている嵌合部を互いに嵌め合わせた後、各ハウジング15,24の外周の径方向2個所に形成されている取り付け耳15a,24aの孔にそれぞれボルト25,25を螺挿して、これらボルト25,25を相次いで締め付けることで、両ハウジング15,24を結合する。
【0049】
この場合、ギヤハウジング15とセンサハウジング24との嵌合部には、若干の隙間があり、従来のボルト25の締め付け方では、ギヤハウジング15とセンサハウジング24とが操舵軸2の径方向にずれた状態で結合されることがある。これは、従来、両ハウジング15,24外周の2本のボルト25,25を同方向(右ネジ方向なら、2本とも右ネジ方向)に回すために、各ハウジング15,24がネジ回転方向に共回りして、一方のハウジング15(24)に対して他方のハウジング24(15)にずれが生じるため、と考えられる。ギヤハウジング15とセンサハウジング24との間にずれがあると、その内部のウォーム軸61とウォームホイール62との噛み合い深さが、所要の値からはずれ、両者の間のバックラッシュが過大となったり、噛み合いが深すぎて回転に支障が生じたりする。
【0050】
そこで、本発明では、両ハウジング15,24の外周2個所でボルト25を締め付ける場合、ネジ方向を互いに逆にし、一方のボルト25(右ネジ)を右ネジ方向(矢印イの方向)に締め付けるとすると、他方のボルト25(左ネジ)を左ネジ方向(矢印ロの方向)に締め付ける。このように、ボルト25の締め付け方向を互いに逆にすると、一方のボルト25の締め付けで生じたずれが、他方のボルト25の締め付けで修正されることになり、ギヤハウジング15とセンサハウジング24とを径方向にずれのない状態で結合することができる。
【0051】
上記した各実施形態において、減速機構6は、ウォーム軸61とウォームホイール62とから構成されるものに限らず、ヘリカルギヤ等、他種のギヤで構成されるものであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の最良の形態に係る電動パワーステアリング装置の減速機構部分の断面図で、関連する構成を併せて図示している。
【図2】図1の減速機構の一部であるウォーム軸の軸受による支持部分の拡大断面図
【図3】図2のウォーム軸の支持部分に使用されるダンパーの拡大断面図
【図4】本発明の第2実施形態に係る電動パワーステアリング装置に使用されるダンパーの拡大断面図
【図5】本発明の第3実施形態に係る電動パワーステアリング装置のウォーム軸支持部分の拡大断面図
【図6】本発明の第4実施形態に係る電動パワーステアリング装置のウォーム軸支持部分の拡大断面図
【図7】本発明の電動パワーステアリング装置におけるハウジングの組立て方法を示すためのハウジングの外観図
【符号の説明】
【0053】
1 操舵部材
2 操舵軸
5 電動モータ
5a 回転軸
6 減速機構
61 ウォーム軸(駆動ギヤ)
61a 歯部
61c 段部
62 ウォームホイール(従動ギヤ)
15 ギヤハウジング(ハウジング)
16 軸受
161 内輪
20 ダンパー
201 弾性体
202,203 プレート
202a 延出部
21 硬化層(耐摩耗層)
22 コーティング層(耐摩耗層)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
操舵部材の操作に応じて電動モータを駆動して操舵補助する電動パワーステアリング装置であって、
操舵軸に嵌着された従動ギヤに噛み合う状態で上記電動モータの回転軸に連結された駆動ギヤと、上記駆動ギヤの両端部をハウジングに支持する一対の軸受と、上記各軸受の内輪の端面と駆動ギヤの歯部の端面との間に介装されたダンパーとを備え、
上記ダンパーは、弾性体と、この弾性体の軸方向両端部に接合されたプレートとからなり、
上記プレートのうち、軸受側に位置するプレートには、駆動ギヤの段部と当接しうるよう内径側に延出する延出部が形成され、
上記延出部の少なくとも上記段部と当接しうる面部が耐摩耗層となっている、
ことを特徴とする電動パワーステアリング装置。
【請求項2】
操舵部材の操作に応じて電動モータを駆動して操舵補助する電動パワーステアリング装置であって、
操舵軸に嵌着された従動ギヤに噛み合う状態で上記電動モータの回転軸に連結された駆動ギヤと、上記駆動ギヤの両端部をハウジングに支持する一対の軸受と、上記各軸受の内輪の端面と駆動ギヤの歯部の端面との間に介装されたダンパーとを備え、
上記ダンパーは、弾性体と、この弾性体の軸方向両端部に接合されたプレートとからなり、
上記プレートのうち、軸受側に位置するプレートには、駆動ギヤの段部と当接しうるよう内径側に延出する延出部が形成され、
上記軸受側のプレート、もしくはこのプレートの延出部と当接しうるよう駆動ギヤの段部側に設けた部材が制振性を有する、
ことを特徴とする電動パワーステアリング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−131024(P2006−131024A)
【公開日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−320529(P2004−320529)
【出願日】平成16年11月4日(2004.11.4)
【出願人】(302066630)株式会社ファーベス (138)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【出願人】(000003470)豊田工機株式会社 (198)
【Fターム(参考)】