説明

電動パワーステアリング装置

【課題】動力変換機構の円滑な動作を確保しつつ、ラトル音の低減化を一層実現することができる電動パワーステアリング装置を提供する。
【解決手段】電動パワーステアリング装置10は、ラックバー1と、電動モータ40と、動力変換機構20とを備える。動力変換機構20は、ラックバー1に螺旋状に形成されたねじ溝21と、ねじ溝21にボール22を介して係合し、電動モータ40によって回転するボールねじナット23とを有するボールねじ機構である。
この電動パワーステアリング装置10において、ボールねじナット23の前端及び後端には、ねじ溝21の両側のねじ山1aのみに弾性的に当接し、ボールねじナット23の回転によってねじ山1aと摺接する振動減衰部材としての分離体2a、2b、3a、3bが固定されている。分離体2a、2b、3a、3bは、ラックバーの軸芯回りで分離されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電動パワーステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に従来の電動パワーステアリング装置が開示されている。この電動パワーステアリング装置は、ステアリングシャフトの回転運動を長手方向の直線運動に変換して転舵角を変更させるラックバーと、ステアリングシャフトに発生する操舵トルクに基づいてモータシャフトを回転駆動する電動モータと、モータシャフトの回転運動をラックバーの軸方向への直線運動に変換する動力変換機構とを備えている。
【0003】
ラックバーは1本の棒状体である。このラックバーの一方側には、ステアリングシャフトの回転運動により回転するピニオンと噛み合うラック歯が軸方向に沿って形成されている。また、ラックバーの他方側には動力変換機構が設けられ、ラックバーと動力変換機構とは互いに相対移動することが可能とされている。
【0004】
動力変換機構は、ラックバーに螺旋状に形成されたねじ溝と、ねじ溝にボールを介して係合し、モータシャフトによって回転するボールねじナットとを有するボールねじ機構である。
【0005】
このような構成である従来の電動パワーステアリング装置は、例えば、自動車に搭載されることにより、下記のように、基本的な機能を発揮する。
【0006】
すなわち、操縦者が操舵すると、電動モータがステアリングシャフトに発生する操舵トルクに基づいてモータシャフトを回転駆動することにより、ボールねじナットを回転させる。このため、ボールねじナットに係合されたボールを介して、ラックバーに形成されたねじ溝に力が伝達され、回転運動が直線運動に変換される。このため、モータシャフトの回転運動は、動力変換機構であるボールねじ機構によりラックバーの軸方向への直線運動に変換され、ラックバーの直線運動を補助する。こうして、この電動パワーステアリング装置は、操縦者が操舵する際に、過大な操作力を必要とすることがなく、車輪の方向を変えることが可能となっている。
【0007】
【特許文献1】特開平11−334612号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、自動車の快適性向上のニーズが近年ますます高くなっていることから、騒音についても一層の低減化が求められている。特に、自動車が石畳路等の凹凸路面を走行する際には車輪が振動し、その振動により電動パワーステアリング装置や車輪懸架装置等から生じる騒音(打音)に関しても、低減することが求められている。この騒音は、車内に侵入して搭乗者に不快に感知されるものであり、ラトル音と呼ばれる。
【0009】
このラトル音の原因の一つである電動パワーステアリング装置からのものについて、これまで各種の低減化が検討されているが、振動は様々な箇所から発生するため、改善策も個別対応とならざるを得なかった。このため、ラトル音の低減化について、一層の改善が求められていた。
【0010】
例えば、特許文献1の電動パワーステアリング装置は、ボールねじナットの前端及び後端に弾性材料からなる振動減衰部材が固定されている。振動減衰部材は、ねじ溝及びねじ溝の両側のねじ山に約1ピッチ分以上で弾性的に当接し、ボールねじナットの回転によってねじ溝及びねじ山と摺接する。また、この電動パワーステアリング装置では、振動減衰部材の外周にリテーナを設け、このリテーナによって振動減衰部材がねじ溝等に及ぼす弾性力が一定になるようにしている。
【0011】
このため、この電動パワーステアリング装置は、振動減衰部材が弾性変形したり、摩擦力を発生したりすることにより、ラックバーからボールねじナットに伝播する振動を吸収する。また、これにより、ラックバー、ボール及びボールねじナットの隙間の相対的変位を抑制し、ラックバー、ボール及びボールねじナット相互間の衝突によるラトル音の低減化を図っている。
【0012】
しかしながら、この電動パワーステアリング装置では、振動減衰部材がラックバーの軸芯回りを周回している。より詳細には、振動減衰部材がねじ溝と略相似形状をなす凸部を有する円環状をなしている。そして、この振動減衰部材自体がボールねじナットに強固に固定されている。
【0013】
このため、この電動パワーステアリング装置では、振動減衰部材が一体的にねじ溝及びねじ山と大きな面積で摺接していることから、ラックバーと振動減衰部材との間の摺動抵抗が過大になるおそれがあった。
【0014】
また、この電動パワーステアリング装置では、振動減衰部材がねじ溝内に拘束されやすいことから、ラックバーと振動減衰部材との位置関係がずれた場合に、振動減衰部材がその位置を是正するように変形し難い。特に、部品の加工時及び組み付け時のばらつきに起因し、振動減衰部材の軸芯とラックバーの軸芯とが公差の範囲内で不可避的にずれるため、この電動パワーステアリング装置はこの傾向を避けられない。
【0015】
このため、この電動パワーステアリング装置は、ボールねじナットの回転不良が生じやすく、動力変換機構の動作が円滑に行えなくなる不具合が生じるおそれがあった。
【0016】
本発明は、上記従来の実情に鑑みてなされたものであって、動力変換機構の円滑な動作を確保しつつ、ラトル音の低減化を一層実現することができる電動パワーステアリング装置を提供することを解決すべき課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0017】
第1発明の電動パワーステアリング装置は、ステアリングシャフトの回転運動を長手方向の直線運動に変換して転舵角を変更させるラックバーと、該ステアリングシャフトに発生する操舵トルクに基づいてモータシャフトを回転駆動する電動モータと、該モータシャフトの回転運動を該ラックバーの軸方向への直線運動に変換する動力変換機構とを備え、
該動力変換機構が該ラックバーに螺旋状に形成されたねじ溝と、該ねじ溝にボールを介して係合し、該モータシャフトによって回転するボールねじナットとを有するボールねじ機構である電動パワーステアリング装置において、
前記ボールねじナットの前端及び後端の少なくとも一方には、前記ねじ溝又は該ねじ溝の両側のねじ山に弾性的に当接し、該ボールねじナットの回転によって該ねじ溝又は該ねじ山と摺接する振動減衰部材が固定され、
該振動減衰部材は前記ラックバーの軸芯回りで分離された複数の分離体からなることを特徴とする。
【0018】
このような構成である第1発明の電動パワーステアリング装置は、例えば、自動車に搭載されることにより、下記のように、基本的な機能を発揮する。
【0019】
すなわち、操縦者が操舵すると、電動モータがステアリングシャフトに発生する操舵トルクに基づいてモータシャフトを回転駆動することにより、ボールねじナットを回転させる。このため、ボールねじナットに係合されたボールを介して、ラックバーに形成されたねじ溝に力が伝達され、回転運動が直線運動に変換される。このため、モータシャフトの回転運動は、動力変換機構であるボールねじ機構によりラックバーの軸方向への直線運動に変換され、ラックバーの直線運動を補助する。こうして、この電動パワーステアリング装置は、操縦者が操舵する際に、過大な操作力を必要とすることがなく、車輪の方向を変えることが可能となっている。
【0020】
このような電動パワーステアリング装置が搭載された自動車が石畳路等の凹凸路面を走行する際、車輪は凹凸路面にあわせて上下左右に細かく振動する。このため、車輪の振動は、タイロッドを介して、電動パワーステアリング装置のラックバーの両端部に伝達される。このため、ラックバーは車輪の振動によって、軸方向及び軸と垂直方向に加振され、それに伴い、ラックバーのねじ溝内のボールおよび、ねじ溝にボールを介して係合するボールねじナットも加振されることとなる。
【0021】
ここで、この電動パワーステアリング装置において、ボールねじナットの前端及び後端の少なくとも一方には振動減衰部材が固定されている。この振動減衰部材は、ねじ溝又はねじ溝の両側のねじ山に弾性的に当接し、ボールねじナットの回転によってねじ溝又はねじ山と摺接する。
【0022】
このため、この電動パワーステアリング装置は、振動減衰部材が弾性変形したり、摩擦力を発生したりすることにより、ラックバーからボールねじナットに伝播する振動を吸収する。また、これにより、ラックバー、ボール及びボールねじナットの隙間の相対的変位を抑制し、ラックバー、ボール及びボールねじナット相互間の衝突によるラトル音を低減することができる。
【0023】
さらに、この電動パワーステアリング装置では、振動減衰部材がラックバーの軸芯回りで分離された複数の分離体からなるため、ラックバーと分離体との間に摺接していない領域が存在し、振動減衰部材がねじ溝又はねじ山と摺接する面積が従来のものよりも小さくなる。このため、たとえ本発明の振動減衰部材が従来のものと同程度の弾性力によって弾性的に当接しているとしても、本発明の振動減衰部材は従来のものよりも小さな摺動抵抗でラックバーと摺接することができる。
【0024】
また、この電動パワーステアリング装置では、ラックバーと分離体との間に摺接していない領域が存在し、その結果として、各分離体がラックバーを拘束し過ぎず、各分離体が各自間の空間に向かって適度に変形することができる。このため、この電動パワーステアリング装置では、ラックバーと振動減衰部材との位置関係がずれたとしても、個々の分離体がその位置を是正するように変形することができる。
【0025】
したがって、第1発明の電動パワーステアリング装置は、ボールねじナットの回転不良が生じ難いことから、動力変換機構の円滑な動作を確保しつつ、ラトル音の低減化を一層実現することができる。
【0026】
第1発明の電動パワーステアリング装置において、前記振動減衰部材は前記ねじ山のみに当接していることが好ましい。
【0027】
この場合、振動減衰部材を構成する各分離体はねじ溝に当接されない。このため、各分離体のねじ山と当接する面は、例えば、従来の電動パワーステアリング装置の振動減衰部材における当接面のように複雑な形状である必要がなく、略平面又はねじ山の外径とほぼ等しい円筒面でよい。このため、部品の加工時や組み付け時の精度要求に関して、各分離体が軸芯と平行な方向に位置ずれしても、ねじ山と当接する状態は殆ど変化せず、ボールねじナットの回転に悪影響を及ぼさないこととなる。このため、この電動パワーステアリング装置は第1発明の効果を確実に奏することができる。
【0028】
第1発明の電動パワーステアリング装置において、各前記分離体は、前記ラックバーの軸芯回りで等しい角度間隔で配設されていることが好ましい。
【0029】
この場合、ラックバーの軸芯を偏らせないように各分離体が配設されているため、ボールねじナットの回転によっても、ラックバーの軸芯を偏らせようとする力が作用し難くなっている。このため、この電動パワーステアリング装置は第1発明の効果をより確実に奏することができる。
【0030】
第1発明の電動パワーステアリング装置において、各前記分離体は、前記ラックバーの軸芯回りで互いに180°をなして配置されていることが好ましい。
【0031】
この場合、分離体の数を少なくして、振動減衰部材がねじ山に摺接することによる摩擦力をより小さくしつつ、本発明の効果を奏することができる。
【0032】
第1発明の電動パワーステアリング装置において、前記ボールねじナットの前端及び後端に各前記分離体が固定されている場合、該ボールねじナットの前端に固定された各該分離体と、該ボールねじナットの後端に固定された各該分離体とは、前記ラックバーの軸芯回りで90°又は270°ずれていることが好ましい。
【0033】
この場合、振動減衰部材を構成する分離体は、ボールねじナットの前端及び後端の離れた2箇所で、弾性変形したり、摩擦力を発生したりするので、振動の吸収と、ラックバー、ボール及びボールねじナットの隙間の相対的変位の抑制とをより確実に行うことができる。このため、この電動パワーステアリング装置は、第1発明の効果を一層確実に奏することがができる。
【0034】
なお、前端に固定された各分離体と後端に固定された各分離体とがラックバーの軸芯回りで90°又は270°ずれていることは、前後の分離体の互いに対応する位置において比較される。
【0035】
第1発明に係る振動減衰部材としては、直方体等のブロック形状、棒状体又は板状体等の各種の形状とすることができる。また、振動減衰部材の材質も、各種のゴム又はポリアミド樹脂、テフロン(登録商標)樹脂その他の樹脂を適用することができる。
【0036】
第2発明の電動パワーステアリング装置は、ステアリングシャフトの回転運動を長手方向の直線運動に変換して転舵角を変更させるラックバーと、該ステアリングシャフトに発生する操舵トルクに基づいてモータシャフトを回転駆動する電動モータと、該モータシャフトの回転運動を該ラックバーの軸方向への直線運動に変換する動力変換機構とを備え、
該動力変換機構が該ラックバーに螺旋状に形成されたねじ溝と、該ねじ溝にボールを介して係合し、該モータシャフトによって回転するボールねじナットとを有するボールねじ機構である電動パワーステアリング装置において、
前記ボールねじナットの前端及び後端の少なくとも一方には、前記ねじ溝との間に隙間を有して該ねじ溝に当接し、該ボールねじナットの回転によって該ねじ溝と摺接する振動減衰部材が固定され、
該振動減衰部材は、前記ラックバーの軸芯に平行な付勢力により浮上支持されていることを特徴とする。
【0037】
第2発明の電動パワーステアリング装置も自動車に搭載され、上述の第1発明の電動パワーステアリング装置と同様にして、基本的な機能を発揮する。
【0038】
ここで、この電動パワーステアリング装置において、ボールねじナットの前端及び後端の少なくとも一方には、振動減衰部材が固定されている。そして、この振動減衰部材は、ねじ溝に当接し、ボールねじナットの回転によってねじ溝と摺接するようになっている。
【0039】
このため、この電動パワーステアリング装置は、振動減衰部材が弾性変形したり、摩擦力を発生したりすることにより、ラックバーからボールねじナットに伝播する振動を吸収する。また、これにより、ラックバー、ボール及びボールねじナットの隙間の相対的変位を抑制し、ラックバー、ボール及びボールねじナット相互間の衝突によるラトル音を低減することができる。
【0040】
さらに、この電動パワーステアリング装置では、振動減衰部材がねじ溝との間に隙間を有し、この振動減衰部材がラックバーの軸芯に平行な付勢力により浮上支持されている。このため、振動減衰部材はねじ溝と小さな面積で摺接し、ラックバーと振動減衰部材との間の摺動抵抗が小さくなる。
【0041】
また、この電動パワーステアリング装置では、振動減衰部材がねじ溝との間に隙間を有していることから、振動減衰部材がラックバーを拘束し過ぎず、振動減衰部材がねじ溝との隙間によって適度に変位することができる。また、浮上支持は、ねじ溝との隙間に振動減衰部材が変位するように作用し、かつラックバーに対する振動減衰部材の軸芯のずれの許容にも作用する。このため、この電動パワーステアリング装置では、ラックバーと振動減衰部材との位置関係がずれたとしても、振動減衰部材がその位置を是正するように変位することができる。
【0042】
したがって、第2発明の電動パワーステアリング装置は、ボールねじナットの回転不良が生じ難いことから、動力変換機構の円滑な動作を確保しつつ、ラトル音の低減化を一層実現することができる。
【0043】
第2発明に係る振動減衰部材としては、棒状体、板状体又は円弧〜円環状体等の各種の形状とすることができる。また、振動減衰部材の材質も、各種のゴム又はポリアミド樹脂、テフロン(登録商標)樹脂その他の樹脂を適用することができる。
【0044】
また、ラックバーの軸芯に平行な付勢力を振動減衰部材に作用させる具体的な方法としては、ボールねじナット内の振動減衰部材を固定する部位に、コイルバネ、皿バネ、ゴム材等の弾性体を介在させるもの等が挙げられる。さらに、弾性体には、プリロードを調整するための調整ボルト等が付設されていてもよい。この調節ボルトの締め付けの程度を調整して、弾性体を予め所定長に圧縮しておくことにより、振動減衰部材に対する付勢力を調整することができる。
【0045】
第2発明の電動パワーステアリング装置において、前記振動減衰部材は前記ねじ溝内に突出する凸部を有する円環状をなしていることが好ましい。
【0046】
この場合、振動減衰部材は、ラックバーの軸芯回りを周回しつつ、ねじ溝に当接することになる。このため、振動減衰部材は、ラックバーの軸芯回りにほぼ均等に摺接することができ、第2発明の効果を確実に発揮することができる。
【0047】
第3発明の電動パワーステアリング装置は、ステアリングシャフトの回転運動を長手方向の直線運動に変換して転舵角を変更させるラックバーと、該ステアリングシャフトに発生する操舵トルクに基づいてモータシャフトを回転駆動する電動モータと、該モータシャフトの回転運動を該ラックバーの軸方向への直線運動に変換する動力変換機構とを備え、
該動力変換機構が該ラックバーに螺旋状に形成されたねじ溝と、該ねじ溝にボールを介して係合し、該モータシャフトによって回転するボールねじナットとを有するボールねじ機構である電動パワーステアリング装置において、
前記ボールねじナットの前端及び後端の少なくとも一方には、前記ねじ溝との間に隙間を有してねじ溝に当接し、該ボールねじナットの回転によって該ねじ溝と摺接する振動減衰部材が固定され、
該振動減衰部材は、前記ラックバーの軸芯に平行であって互いに距離をおいた逆向きの付勢力により浮上支持されていることを特徴とする。
【0048】
第3発明の電動パワーステアリング装置も自動車に搭載され、上述の第1、2発明の電動パワーステアリング装置と同様にして、基本的な機能を発揮する。
【0049】
ここで、この電動パワーステアリング装置において、ボールねじナットの前端及び後端の少なくとも一方には、振動減衰部材が固定されている。そして、この振動減衰部材は、ねじ溝に当接し、ボールねじナットの回転によってねじ溝と摺接するようになっている。
【0050】
このため、この電動パワーステアリング装置は、振動減衰部材が弾性変形したり、摩擦力を発生したりすることにより、ラックバーからボールねじナットに伝播する振動を吸収する。また、これにより、ラックバー、ボール及びボールねじナットの隙間の相対的変位を抑制し、ラックバー、ボール及びボールねじナット相互間の衝突によるラトル音を低減することができる。
【0051】
さらに、この電動パワーステアリング装置では、振動減衰部材がねじ溝との間に隙間を有し、この振動減衰部材がラックバーの軸芯に平行であって互いに距離をおいた逆向きの付勢力により浮上支持されている。このため、振動減衰部材はねじ溝と小さな面積で摺接し、ラックバーと振動減衰部材との間の摺動抵抗が小さくなる。
【0052】
また、この電動パワーステアリング装置では、振動減衰部材がねじ溝との間に隙間を有していることから、振動減衰部材がラックバーを拘束し過ぎず、振動減衰部材がねじ溝との隙間によって適度に変位することができる。また、浮上支持は、ねじ溝との隙間に振動減衰部材が変位するように作用し、かつラックバーに対する振動減衰部材の軸芯のずれの許容にも作用する。このため、この電動パワーステアリング装置では、ラックバーと振動減衰部材との位置関係がずれたとしても、振動減衰部材がその位置を是正するように変位することができる。
【0053】
特に、振動減衰部材はラックバーの軸芯に平行であって互いに距離をおいた逆向きの付勢力でねじ溝に摺接されている。より具体的には、この電動パワーステアリング装置において、振動減衰部材は、ねじ溝をこじるような、つまり曲げ方向の弾性変形が主体となってねじ溝と摺接している。このため、ラックバーと振動減衰部材との相対的変位が大きくなっても、振動減衰部材の変位が追従しやすくなっている。また、振動減衰部材はねじ溝の両側のねじ山に当接することとなるため、ねじ山の両方向で振動を吸収し、振動減衰効果が大きい。
【0054】
したがって、第3発明の電動パワーステアリング装置は、ボールねじナットの回転不良が生じ難いことから、動力変換機構の円滑な動作を確保しつつ、ラトル音の低減化を一層実現することができる。
【0055】
第3発明に係る振動減衰部材としても、棒状体、板状体又は円弧〜円環状体等の各種の形状とすることができる。また、振動減衰部材の材質も、各種のゴム又はポリアミド樹脂、テフロン(登録商標)樹脂その他の樹脂を適用することができる。
【0056】
また、ラックバーの軸芯に平行であって互いに距離をおいた逆向きの付勢力を振動減衰部材に作用させる具体的な方法としては、ボールねじナット内の振動減衰部材を固定する部位に、コイルバネ、皿バネ、ゴム材等の弾性体を介在させるもの等が挙げられる。さらに、弾性体には、プリロードを調整するための調整ボルト等が付設されていてもよい。この調節ボルトの締め付けの程度を調整して、弾性体を予め所定長に圧縮しておくことにより、振動減衰部材に対する付勢力を調整することができる。
【0057】
第3発明の電動パワーステアリング装置において、前記振動減衰部材は、前記ねじ溝内に中央部が位置する円弧状をなしていることが好ましい。
【0058】
この場合、ボールねじナットの外径をそれ程大きくしなくても、振動減衰部材をラックバーとボールねじナットとの間の空間に配設することができる。このため、この電動パワーステアリング装置は、装置の大型化を抑制しつつ、第3発明の効果を奏することができる。
【0059】
第4発明の電動パワーステアリング装置は、ステアリングシャフトの回転運動を長手方向の直線運動に変換して転舵角を変更させるラックバーと、該ステアリングシャフトに発生する操舵トルクに基づいてモータシャフトを回転駆動する電動モータと、該モータシャフトの回転運動を該ラックバーの軸方向への直線運動に変換する動力変換機構とを備え、
該動力変換機構が該ラックバーに螺旋状に形成されたねじ溝と、該ねじ溝にボールを介して係合し、該モータシャフトによって回転するボールねじナットとを有するボールねじ機構である電動パワーステアリング装置において、
前記ボールねじナットの前端及び後端の少なくとも一方には、前記ラックバーの軸芯に対して前記ねじ溝の山の高さを少なくとも超えて偏芯する軸受からなる振動減衰部材が設けられ、
該振動減衰部材は、該ねじ溝の両側のねじ山の外径を超える内径を有し、一部が前記ねじ溝内に設けられて該ボールねじナットの回転によって該ねじ溝を転動する内輪と、該ボールねじナットに固定され、該内輪を転動体によって転動させる外輪とを有していることを特徴とする。
【0060】
第4発明の電動パワーステアリング装置も自動車に搭載され、上述の第1〜3発明の電動パワーステアリング装置と同様にして、基本的な機能を発揮する。
【0061】
ここで、この電動パワーステアリング装置において、ボールねじナットの前端及び後端の少なくとも一方には、ラックバーの軸芯に対してねじ溝の山の高さを少なくとも超えて偏芯する軸受からなる振動減衰部材が設けられている。この振動減衰部材は、ねじ溝の両側のねじ山の外径を超える内径を有し、一部がねじ溝内に設けられてボールねじナットの回転によってねじ溝と転動する内輪と、ボールねじナットに固定され、内輪を転動体によって転動させる外輪とを有している。
【0062】
このため、この電動パワーステアリング装置は、振動減衰部材の内輪がボールねじナットの回転によってねじ溝に対してフラフープのように転動する。この際、内輪は従来の振動減衰部材が行っていた摺動とは異なる転動によりねじ溝と関係するため、その抵抗力は小さくなる。そして、ねじ溝は内輪、転動体及び外輪からなる振動減衰部材を介してボールねじナットに当接しているため、ねじ溝の振動がこれらによって吸収される。また、ラックバー、ボール及びボールねじナットの隙間の相対的変位が抑制され、ラックバー、ボール及びボールねじナット相互間の衝突によるラトル音を低減することができる。
【0063】
したがって、第4発明の電動パワーステアリング装置は、ボールねじナットの回転不良が生じ難いことから、動力変換機構の円滑な動作を確保しつつ、ラトル音の低減化を一層実現することができる。
【0064】
第4発明に係る振動減衰部材としての軸受の内輪は、ねじ溝と転動する面が金属であってもよいし、ゴムや樹脂製のリングが一体化されていたり、テフロン(登録商標)樹脂等の樹脂コーティングが施されていてもよい。
【0065】
第4発明の電動パワーステアリング装置において、前記内輪は前記ねじ溝との間に隙間を有し、前記外輪は、前記ラックバーの軸芯に平行な付勢力又は前記ラックバーの軸芯に平行であって互いに距離をおいた逆向きの付勢力により浮上支持されていることが好ましい。
【0066】
この場合、内輪がねじ溝との間に隙間を有し、外輪がラックバーの軸芯に平行な付勢力により浮上支持されている。このため、内輪はねじ溝と小さな面積で転動し、ラックバーと内輪との間の転動抵抗がさらに小さくなる。
【0067】
また、内輪がねじ溝との間に隙間を有していることから、振動減衰部材がラックバーを拘束し過ぎず、振動減衰部材がねじ溝との隙間によって適度に変位することができる。また、浮上支持は、ねじ溝との隙間に内輪が変位するように作用し、かつラックバーに対する振動減衰部材の軸芯のずれの許容にも作用する。このため、この電動パワーステアリング装置では、ラックバーと振動減衰部材との位置関係がずれたとしても、振動減衰部材がその位置を是正するように変位することができる。
【0068】
特に、外輪がラックバーの軸芯に平行であって互いに距離をおいた逆向きの付勢力で浮上支持されている場合には、内輪は、ねじ溝をこじるような変位が主体となってねじ溝と転動する。このため、ラックバーと振動減衰部材との相対的変位が大きくなっても、振動減衰部材の変位が追従しやすくなっている。また、内輪はねじ溝の両側面に接触しながら転動することとなるため、軸芯と平行な両方向で振動を効果的に吸収することができ、振動減衰効果が大きい。
【0069】
ラックバーの軸芯に平行な付勢力又はラックバーの軸芯に平行であって互いに距離をおいた逆向きの付勢力を振動減衰部材に作用させる具体的な方法としては、ボールねじナット内の振動減衰部材を固定する部位に、コイルバネ、皿バネ、ゴム材等の弾性体を介在させるもの等が挙げられる。さらに、弾性体には、プリロードを調整するための調整ボルト等が付設されていてもよい。この調節ボルトの締め付けの程度を調整して、弾性体を予め所定長に圧縮しておくことにより、振動減衰部材に対する付勢力を調整することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0070】
以下、図面を参照しつつ、第1発明を具体化した実施例1、第2発明を具体化した実施例2、第3発明を具体化した実施例3及び第4発明を具体化した実施例4を説明する。
【実施例1】
【0071】
まず、図1及び図2に示すように、実施例1の電動パワーステアリング装置10を説明する。このパワーステアリング装置10は、ラックバー1と、電動モータ40と、動力変換機構20とを備えている。
【0072】
ラックバー1は1本の棒状体である。このラックバー1の一方側には、図示しないステアリングシャフトに一体に設けられ、ステアリングシャフトの回転によって回転するピニオン9と噛み合うラック歯8が軸方向に沿って形成されている。また、このラックバー1の他方側には、後述する動力変換機構20を構成するねじ溝21が螺旋状に形成されている。このラックバー1は、ステアリングシャフトの回転運動を長手方向の直線運動に変換し、両端部1L、1Rに接続された図示しないタイロッドを介して、図示しない車輪の転舵角を変更させることができるようになっている。
【0073】
動力変換機構20は、ラックバー1に螺旋状に形成されたねじ溝21と、ねじ溝21にボール22を介して係合するボールねじナット23とを備えるボールねじ機構である。
【0074】
電動モータ40は、ハウジング30内に設置された電機子鉄心41(コイル、給電端子44)と、ハウジング30内に軸受96、97を介して回転可能に支承された円筒状のモータシャフト42と、モータシャフト42の外筒面に一体に装着されたリング状のマグネット43とを有する。また、モータシャフト42の内筒面にはボールねじナット23が固定されている。
【0075】
ボールねじナット23は、図2に示すように、ボールねじナット23の中央に位置する本体23aと、ボールねじナット23の前端に位置する分離体保持体23bと、ボールねじナット23の後端に位置するロックナット23cとからなる。
【0076】
本体23aは円筒状であり、その内周面には螺旋状のナット側ねじ溝24が形成されている。本体23aの外周面とモータシャフト42とは嵌合構造をなしており、本体23aはモータシャフト42に挿入されて、所定の位置に収まるようにされている。
【0077】
図2及び図4に示すように、分離体保持体23bも円筒状であり、その内周面には後述する振動減衰部材としての分離体3a、3bが固定されている。分離体保持体23bの外周面とモータシャフト42とは嵌合構造をなしており、分離体保持体23bは、本体23aよりも先にモータシャフト42に挿入されて、所定の位置に収まるようにされている。
【0078】
図2及び図3に示すように、ロックナット23cも円筒状であり、その内周面に後述する振動減衰部材としての分離体2a、2bが固定されている。また、ロックナット23cは、分離体保持体23b及び本体23aをモータシャフト42に固定するようになっており、ロックナット23cの外周面に雄ねじ25aが加工され、モータシャフト42の内周面には雌ねじ25bが加工され、これら雄ねじ25aと雌ねじ25bとは各々螺合するようになっている。このため、分離体保持体23b及び本体23aがモータシャフト42に挿入された後に、ロックナット23cをモータシャフト42の一端から螺入することにより、分離体保持体23b及び本体23aをモータシャフト42に固定することができる。
【0079】
ロックナット23cの内周面には、ラックバー1の軸芯回りで互いに180°をなして配置された2体の分離体2a、2bが固定されている。各分離体2a、2bは、樹脂からなり、振動吸収機能を発揮できる程度の厚みを有する板状をなしている。そして、各分離体2a、2bは、ねじ溝21の両側のねじ山1aのみに弾性的に当接し、ボールねじナット23の回転によって、ねじ溝21の両側のねじ山1aと摺接するようになっている。この際、各分離体2a、2bのねじ山1aと摺接する面は、各分離体2a、2bが板状であることから、単なる平面である。
【0080】
分離体保持体23bの内周面には、図2及び図4に示すように、ラックバー1の軸芯回りで互いに180°をなして配置された2体の分離体3a、3bが固定されている。各分離体3a、3bは、ロックナット23cの内周面に固定されている分離体2a、2bと同じものであって、樹脂からなり、振動吸収機能を発揮できる程度の厚みを有する板状をなしている。そして、各分離体3a、3bも、ねじ溝21の両側のねじ山1aのみに弾性的に当接し、ボールねじナット23の回転によって、ねじ溝21の両側のねじ山1aと摺接するようになっている。この際、各分離体3a、3bのねじ山1aと摺接する面は、各分離体2a、2bが板状であることから、単なる平面である。
【0081】
分離体保持体23bの内周面に固定されている分離体3a、3bと、ロックナット23cの内周面に固定されている分離体2a、2bとは、ラックバー1の軸芯回りで90°ずれている。つまり、図2〜4に示す断面図において、分離体2a、2bがラックバー1の上下に配置されているのに対して、分離体3a、3bは、ラックバー1の両側面に配置されている。このため、分離体2a、2b、3a、3bは、ラックバー1の軸芯回りで90°間隔となるように配置されている。
【0082】
以上の構成をした実施例1の電動パワーステアリング装置10は自動車に搭載され、下記のように、基本的な機能を発揮する。
【0083】
すなわち、操縦者がステアリングを操作すると、ステアリングシャフトが回転してピニオン9が回転し、ラックバー1が長手方向に直線運動する。このため、ラックバー1に接続されたタイロッドを介して、車輪が転舵される。
【0084】
この際、動力変換機構20及び電動モータ40では、操舵の際、操舵トルクに応じて制御された電流が給電端子44から電機子鉄心41に給電され、電機子鉄心41とマグネット43との間の電磁力の作用により、モータシャフト42が回転駆動される。このため、モータシャフト42に一体に設置されたボールねじナット23も同時に回転し、ボール22及びねじ溝21を介して、ラックバー1に軸方向の駆動力が伝達される。
【0085】
こうして、電動モータ40は、ステアリングシャフトに発生する操舵トルクに基づいてモータシャフト42を回転駆動し、動力変換機構20がモータシャフト42の回転運動をラックバー1の軸方向への直線運動に変換する。このため、電動モータ40はラックバー1の直線運動を補助する。このため、操縦者が操舵する際に、過大な操作力を必要とすることがなく、車輪の方向を変えることができる。
【0086】
このような電動パワーステアリング装置10が搭載された自動車が石畳路等の凹凸路面を走行する際、車輪は凹凸路面にあわせて上下左右に細かく振動する。このため、車輪の振動は、タイロッドを介して、電動パワーステアリング装置10のラックバー1の両端部に伝達される。このため、ラックバー1は車輪の振動によって、軸方向及び軸と垂直方向に加振され、それに伴い、ラックバー1のねじ溝21内のボール22および、ねじ溝21にボール22を介して係合するボールねじナット23も加振されることとなる。
【0087】
ここで、この電動パワーステアリング装置10において、ボールねじナット23の前端及び後端には振動減衰部材としての分離体2a、2b、3a、3bが固定されている。この分離体2a、2b、3a、3bは、ねじ溝21の両側のねじ山1aに弾性的に当接し、ボールねじナット23の回転によってねじ山1aと摺接する。
【0088】
このため、この電動パワーステアリング装置10は、分離体2a、2b、3a、3bが弾性変形したり、摩擦力を発生したりすることにより、ラックバー1からボールねじナット23に伝播する振動を吸収することができている。また、これにより、ラックバー1、ボール22及びボールねじナット23の隙間の相対的変位を抑制し、ラックバー1、ボール22及びボールねじナット23相互間の衝突によるラトル音を低減することができている。
【0089】
さらに、この電動パワーステアリング装置10では、振動減衰部材がラックバー1の軸芯回りで分離された4体の分離体2a、2b、3a、3bからなるため、ラックバー1と分離体2a、2b、3a、3bとの間に摺接していない領域が存在し、振動減衰部材がねじ山と摺接する面積が従来のものよりも小さくなる。このため、たとえ実施例1に係る振動減衰部材が従来のものと同程度の弾性力によって弾性的に当接しているとしても、実施例1に係る振動減衰部材は従来のものよりも小さな摺動抵抗でラックバー1と摺接することができている。
【0090】
また、この電動パワーステアリング装置10では、ラックバー1と分離体2a、2b、3a、3bとの間に摺接していない領域が存在し、その結果として、各分離体2a、2b、3a、3bがラックバー1を拘束し過ぎず、各分離体2a、2b、3a、3bが各自間の空間に向かって適度に変形することができる。このため、この電動パワーステアリング装置10では、ラックバー1と各分離体2a、2b、3a、3bとの位置関係がずれたとしても、個々の分離体2a、2b、3a、3bがその位置を是正するように変形することができる。
【0091】
したがって、実施例1の電動パワーステアリング装置10は、ボールねじナット23の回転不良が生じ難くなっており、その結果として、動力変換機構20の円滑な動作を確保しつつ、ラトル音の低減化を一層実現することができている。
【0092】
また、この電動パワーステアリング装置10において、各分離体2a、2b、3a、3bはねじ山1aのみに当接しており、ねじ溝21に当接されていない。このため、各分離体2a、2b、3a、3bのねじ山1aと当接する面は、例えば、従来の電動パワーステアリング装置の振動減衰部材における当接面のように複雑な形状ではなく、製造が容易な平面とされている。このため、部品の加工時や組み付け時の精度要求に関して、各分離体2a、2b、3a、3bがラックバー1の軸芯と平行な方向に位置ずれしても、ねじ山1aと当接する状態は殆ど変化せず、ボールねじナット23の回転に悪影響を及ぼさないこととなる。このため、この電動パワーステアリング装置10は第1発明の効果を確実に奏することができている。
【0093】
さらに、この電動パワーステアリング装置10において、各分離体2a、2b、3a、3bは、ラックバー1の軸芯回りで等しい角度間隔、つまり90°間隔となるように配設されているため、ボールねじナット23の回転によっても、ラックバー1の軸芯を偏らせようとする力が作用し難くなっている。このため、この電動パワーステアリング装置10は第1発明の効果をより確実に奏することができている。
【0094】
また、この電動パワーステアリング装置10において、ボールねじナット23の後端に固定された各分離体2a、2bは、ラックバー1の軸芯回りで互いに180°をなして配置され、ボールねじナット23の前端に固定された各分離体3a、3bも、ラックバー1の軸芯回りで互いに180°をなして配置されていることから、分離体の数を少なくして、振動減衰部材がねじ山1aに摺接することによる摩擦力をより小さくしつつ、本発明の効果を奏することができている。
【0095】
さらに、この電動パワーステアリング装置10において、ボールねじナット23の後端に固定された各分離体2a、2bと、ボールねじナット23の前端に固定された各分離体3a、3bとは、ラックバー1の軸芯回りで90°ずれていることから、分離体2a、2bと分離体3a、3bとは、ボールねじナット23の前端及び後端の離れた2箇所で、弾性変形したり、摩擦力を発生したりすることができている。このため、分離体2a、2b3a、3bは、振動の吸収と、ラックバー1、ボール22及びボールねじナット23の隙間の相対的変位の抑制とをより確実に行うことができている。このため、この電動パワーステアリング装置10は、第1発明の効果を一層確実に奏することがができている。
【実施例2】
【0096】
実施例2の電動パワーステアリング装置11は、図5〜7に示すように、実施例1の本体23aと、分離体保持体23bと、ロックナット23cとからなるボールねじナット23及び振動減衰部材としての分離体2a、2b、3a、3bに対して、ボールねじナット23が本体23aとロックナット231cとからなり、振動減衰部材4がラックバー1の軸芯に平行な付勢力により浮上支持されている点が異なる。その他の構成は、実施例1の電動パワーステアリング装置10と同様であるので、説明を省く。
【0097】
ボールねじナット23は、図5〜7に示すように、ボールねじナット23の前端に位置する本体23aと、ボールねじナット23の後端に位置するロックナット231cとからなる。
【0098】
本体23aは円筒状であり、その内周面には螺旋状のナット側ねじ溝24が形成されている。本体23aの外周面とモータシャフト42とは嵌合構造をなしており、本体23aはモータシャフト42に挿入されて、所定の位置に収まるようにされている。
【0099】
ロックナット231cも円筒状であり、その内周面に後述する振動減衰部材4が固定されている。また、ロックナット231cは、本体23aをモータシャフト42に固定するようになっており、ロックナット231cの外周面に雄ねじ25aが加工され、モータシャフト42の内周面には雌ねじ25bが加工され、これら雄ねじ25aと雌ねじ25bとは各々螺合するようになっている。このため、本体23aがモータシャフト42に挿入された後に、ロックナット231cをモータシャフト42の一端から螺入することにより、本体23aをモータシャフト42に固定することができる。
【0100】
ロックナット231cの内周面に固定されている振動減衰部材4は、樹脂からなり、ねじ溝21内に突出する凸部4aを有する円環状をなしている。凸部4aは、ねじ溝21の約1リード分と略相似形状をなし、かつねじ溝21との間に僅かに隙間4bを有している。
【0101】
そして、振動減衰部材4は、ロックナット231cの内周面との隙間に設けられた支持用弾性体4cによって浮上支持されている。この支持用弾性体4cは、軟質なゴムからなっており、円環状の振動減衰部材4の軸芯をラックバー1の軸芯に合わせて変位させることが可能とされている。また、振動減衰部材4は、ロックナット231cから突出する回り止めピン4dにより係止されることにより、ボールねじナット23と一体に回転するようになっている。さらに、振動減衰部材4には、軸芯回りに互いに180°をなして配置された1対の調整ボルト4e、押さえゴム4fによって、ラックバー1の軸芯に平行な付勢力が負荷されている。調整ボルト4eによって押さえゴム4fを予め所定長に圧縮しておくことにより、振動減衰部材4に対する付勢力を調整可能とされている。
【0102】
こうして、振動減衰部材4は、ラックバー1の軸芯に平行な付勢力により浮上支持されることにより、ねじ溝21との間に隙間4bを有してねじ溝21に当接し、ボールねじナット23の回転によってねじ溝21と摺接するようになっている。
【0103】
以上の構成をした実施例2の電動パワーステアリング装置11も自動車に搭載され、上述の実施例1の電動パワーステアリング装置10と同様にして、基本的な機能を発揮する。
【0104】
ここで、この電動パワーステアリング装置11において、ボールねじナット23の後端には、振動減衰部材4が固定されている。そして、この振動減衰部材4は、ねじ溝21に当接し、ボールねじナット23の回転によってねじ溝21と摺接するようになっている。
【0105】
このため、この電動パワーステアリング装置11は、振動減衰部材4が弾性変形したり、摩擦力を発生したりすることにより、ラックバー1からボールねじナット23に伝播する振動を吸収することができている。また、これにより、ラックバー1、ボール22及びボールねじナット23の隙間の相対的変位を抑制し、ラックバー1、ボール22及びボールねじナット23相互間の衝突によるラトル音を低減することができている。
【0106】
さらに、この電動パワーステアリング装置11では、振動減衰部材4がねじ溝21との間に隙間4bを有し、この振動減衰部材4がラックバー1の軸芯に平行な付勢力により浮上支持されている。このため、振動減衰部材4はねじ溝21と小さな面積で摺接し、ラックバー1と振動減衰部材4との間の摺動抵抗が小さくなる。
【0107】
また、この電動パワーステアリング装置11では、振動減衰部材4がねじ溝21との間に隙間4bを有していることから、振動減衰部材4がラックバー1を拘束し過ぎず、振動減衰部材4がねじ溝21との隙間4bによって適度に変位することができる。また、浮上支持は、ねじ溝21との隙間に振動減衰部材4が変位するように作用し、かつラックバー1に対する振動減衰部材4の軸芯のずれの許容にも作用する。このため、この電動パワーステアリング装置11では、ラックバー1と振動減衰部材4との位置関係がずれたとしても、振動減衰部材4がその位置を是正するように変位することができている。
【0108】
したがって、実施例2の電動パワーステアリング装置11も、ボールねじナット23の回転不良が生じ難くなっており、その結果として、動力変換機構20の円滑な動作を確保しつつ、ラトル音の低減化を一層実現することができている。
【0109】
また、この電動パワーステアリング装置11において、振動減衰部材4はねじ溝21内に突出する凸部4aを有する円環状をなしているので、振動減衰部材4は、ラックバー1の軸芯回りを周回しつつ、ねじ溝21に当接することができている。このため、振動減衰部材4は、ラックバー1の軸芯回りにほぼ均等に摺接することができており、第2発明の効果を確実に発揮することができている。
【実施例3】
【0110】
実施例3の電動パワーステアリング装置12は、図8〜10に示すように、実施例1の本体23aと、分離体保持体23b、23cと、ロックナット23cとからなるボールねじナット23及び振動減衰部材としての分離体2a、2b、3a、3bに対して、ボールねじナット23が本体23aとロックナット232cとからなり、振動減衰部材5がラックバー1の軸芯に平行であって互いに距離をおいた逆向きの付勢力により浮上支持されている点が異なる。その他の構成は、実施例1の電動パワーステアリング装置10と同様であるので、説明を省く。
【0111】
ボールねじナット23は、図8〜10に示すように、ボールねじナット23の前端に位置する本体23aと、ボールねじナット23の後端に位置するロックナット232cとからなる。
【0112】
本体23aは円筒状であり、その内周面には螺旋状のナット側ねじ溝24が形成されている。本体23aの外周面とモータシャフト42とは嵌合構造をなしており、本体23aはモータシャフト42に挿入されて、所定の位置に収まるようにされている。
【0113】
ロックナット232cも円筒状であり、その内周面に後述する振動減衰部材5が固定されている。また、ロックナット232cは、本体23aをモータシャフト42に固定するようになっており、ロックナット232cの外周面に雄ねじ25aが加工され、モータシャフト42の内周面には雌ねじ25bが加工され、これら雄ねじ25aと雌ねじ25bとは各々螺合するようになっている。このため、本体23aがモータシャフト42に挿入された後に、ロックナット232cをモータシャフト42の一端から螺入することにより、本体23aをモータシャフト42に固定することができる。
【0114】
ロックナット232cの内周面に固定されている振動減衰部材5は、樹脂からなり、ねじ溝21内に中央部5aが位置する円弧状をなしている。振動減衰部材5が円弧状であることにより、ボールねじナット23の外径をそれ程大きくしなくても、振動減衰部材5をラックバー1とボールねじナット23との間の空間に配設することが可能となっている。ねじ溝21内に位置する円弧の中央部5aは、ねじ溝21との間に僅かに隙間5bを有している。
【0115】
そして、振動減衰部材5は、ロックナット232cの内周面との隙間に設けられた支持用弾性体5dによって浮上支持されている。この支持用弾性体5dは、軟質なゴムからなっており、円弧状の振動減衰部材5の軸芯をラックバー1の軸芯に合わせて変位させつつ、振動減衰部材5をボールねじナット23と一体に回転できるように支持している。さらに振動減衰部材5には、円弧状の振動減衰部材5の両端に配置された1対の調整ボルト5e、押さえゴム5fによって、ラックバー1の軸芯に平行であって互いに距離をおいた逆向きの付勢力が負荷されている。調整ボルト5eによって押さえゴム5fを予め所定長に圧縮しておくことにより、振動減衰部材5に対する付勢力を調整可能とされている。このように振動減衰部材5に付勢力が負荷されることにより、ねじ溝21内に位置する中央部5aは、ねじ溝21内でこじられるように変形し、ねじ溝21の両側面に当接するようになっている。
【0116】
こうして、振動減衰部材5がラックバー1の軸芯に平行であって互いに距離をおいた逆向きの付勢力により浮上支持されることにより、中央部5aがねじ溝21との間に隙間5bを有してねじ溝21に当接し、ボールねじナット23の回転によってねじ溝21と摺接するようになっている。
【0117】
以上の構成をした実施例3の電動パワーステアリング装置12も自動車に搭載され、上述の実施例1の電動パワーステアリング装置10と同様にして、基本的な機能を発揮する。
【0118】
ここで、この電動パワーステアリング装置12において、ボールねじナット23の後端には、振動減衰部材5が固定されている。そして、この振動減衰部材5は、ねじ溝21に当接し、ボールねじナット23の回転によってねじ溝21と摺接するようになっている。
【0119】
このため、この電動パワーステアリング装置12は、振動減衰部材5が弾性変形したり、摩擦力を発生したりすることにより、ラックバー1からボールねじナット23に伝播する振動を吸収することができている。また、これにより、ラックバー1、ボール22及びボールねじナット23の隙間の相対的変位を抑制し、ラックバー1、ボール22及びボールねじナット23相互間の衝突によるラトル音を低減することができている。
【0120】
さらに、この電動パワーステアリング装置12では、振動減衰部材5がねじ溝21との間に隙間5bを有し、この振動減衰部材5がラックバー1の軸芯に平行であって互いに距離をおいた逆向きの付勢力により浮上支持されている。このため、振動減衰部材5はねじ溝21と小さな面積で摺接し、ラックバー1と振動減衰部材5との間の摺動抵抗が小さくなっている。
【0121】
また、この電動パワーステアリング装置12では、振動減衰部材5がねじ溝21との間に隙間5bを有していることから、振動減衰部材5がラックバー1を拘束し過ぎず、振動減衰部材5がねじ溝21との隙間5bによって適度に変位することができている。また、浮上支持は、ねじ溝21との隙間5bに振動減衰部材5が変位するように作用し、かつラックバー1に対する振動減衰部材5の軸芯のずれの許容にも作用する。このため、この電動パワーステアリング装置12では、ラックバー1と振動減衰部材5との位置関係がずれたとしても、振動減衰部材5がその位置を是正するように変位することができている。
【0122】
特に、振動減衰部材5はラックバー1の軸芯に平行であって互いに距離をおいた逆向きの付勢力でねじ溝21に摺接されている。より具体的には、この電動パワーステアリング装置12において、振動減衰部材5は、ねじ溝21をこじるような、つまり曲げ方向の弾性変形が主体となってねじ溝21と摺接している。このため、ラックバー1と振動減衰部材5との相対的変位が大きくなっても、振動減衰部材5の変位が追従しやすくなっている。また、振動減衰部材5はねじ溝21の両側のねじ山に当接することとなるため、ねじ山の両方向で振動を吸収し、振動減衰効果が大きくなっている。
【0123】
したがって、実施例3の電動パワーステアリング装置12も、ボールねじナット23の回転不良が生じ難くなっており、その結果として、動力変換機構20の円滑な動作を確保しつつ、ラトル音の低減化を一層実現することができている。
【0124】
また、この電動パワーステアリング装置12において、振動減衰部材5は、ねじ溝21内に中央部5aが位置する円弧状をなしているため、ボールねじナット23の外径をそれ程大きくしなくても、振動減衰部材5をラックバー1とボールねじナット23との間の空間に配設することができている。このため、この電動パワーステアリング装置12は、装置の大型化を抑制しつつ、第3発明の効果を奏することができている。
【実施例4】
【0125】
実施例4の電動パワーステアリング装置13は、図11〜13に示すように、実施例1の本体23aと、分離体保持体23bと、ロックナット23cとからなるボールねじナット23及び振動減衰部材としての分離体2a、2b、3a、3bに対して、ボールねじナット23が本体23aとロックナット233cとからなり、振動減衰部材6が偏芯する軸受からなる点が異なる。その他の構成は、実施例1の電動パワーステアリング装置10と同様であるので、説明を省く。
【0126】
ボールねじナット23は、図11〜13に示すように、ボールねじナット23の前端に位置する本体23aと、ボールねじナット23の後端に位置するロックナット233cとからなる。
【0127】
本体23aは円筒状であり、その内周面には螺旋状のナット側ねじ溝24が形成されている。本体23aの外周面とモータシャフト42とは嵌合構造をなしており、本体23aはモータシャフト42に挿入されて、所定の位置に収まるようにされている。
【0128】
ロックナット233cも段付きの円筒状であり、その内周面に後述する振動減衰部材6が固定されている。また、ロックナット233cは、本体23aをモータシャフト42に固定するようになっており、ロックナット233cの外周面に雄ねじ25aが加工され、モータシャフト42の内周面には雌ねじ25bが加工され、これら雄ねじ25aと雌ねじ25bとは各々螺合するようになっている。このため、本体23aがモータシャフト42に挿入された後に、ロックナット233cをモータシャフト42の一端から螺入することにより、本体23aをモータシャフト42に固定することができる。
【0129】
ロックナット233cの内周面に固定されている振動減衰部材6は、ラックバー1の軸芯に対してねじ溝21の山1aの高さを少なくとも超えて偏芯する軸受としての外輪7a、転動体7b及び内輪7cとからなる。内輪7cは、ねじ溝21の両側のねじ山1aの外径を超える内径を有し、内輪7cの一部6aがねじ溝21内に設けられて、ボールねじナット23の回転によってねじ溝21を転動するようにされている。外輪7aは、内輪7cを転動体7bによって転動させるものであり、ラックバー1の軸芯対して偏芯したままボールねじ23と一体回転可能に設けられている。外輪7a、転動体7b及び内輪7cは、鋼製であり、特に内輪7cのねじ溝21と転動する面には樹脂コーティングが施されている。また、内輪7cは、内輪7cの一部6aとねじ溝21との間に僅かに隙間6bを有している。
【0130】
外輪7aは、ロックナット233cの内周面との隙間に設けられた支持用弾性体6dによって浮上支持されている。この支持用弾性体6dは、軟質なゴムからなっており、ラックバー1の軸芯に対して偏芯する外輪7aの軸芯を、ラックバー1とボールねじナット23との隙間の相対的変位に合わせて変位させつつ、外輪7aをボールねじナット23と一体に回転できるように支持している。さらに、外輪7aには、軸芯回りに互いに180°をなして配置された1対の調整ボルト6e、押さえゴム6fによって、ラックバー1の軸芯に平行であって互いに距離をおいた逆向きの付勢力が負荷されている。調整ボルト6eによって押さえゴム6fを予め所定長に圧縮しておくことにより、外輪7aに対する付勢力を調整可能とされている。このように外輪7aに付勢力が負荷されることにより、ねじ溝21内に設けられた内輪7aの一部6bは、ねじ溝21内でこじられるように変位し、ねじ溝21の両側面に当接するようになっている。
【0131】
こうして、外輪8aがラックバー1の軸芯に平行であって互いに距離をおいた逆向きの付勢力により浮上支持されることにより、内輪7cの一部6aがねじ溝21との間に隙間6bを有してねじ溝21に当接し、ボールねじナット23の回転によってねじ溝21と転動するようになっている。
【0132】
以上の構成をした実施例4の電動パワーステアリング装置13も自動車に搭載され、上述の実施例1の電動パワーステアリング装置10と同様にして、基本的な機能を発揮する。
【0133】
ここで、この電動パワーステアリング装置13において、ボールねじナット23の後端には、ラックバー1の軸芯に対してねじ溝21の山1aの高さを少なくとも超えて偏芯する軸受からなる振動減衰部材6が設けられている。この振動減衰部材6は、ねじ溝21の両側のねじ山1aの外径を超える内径を有し、一部がねじ溝21内に設けられてボールねじナット23の回転によってねじ溝21と転動する内輪7cと、ボールねじナット23に固定され、内輪7cを転動体7bによって転動させる外輪7aとを有している。
【0134】
このため、この電動パワーステアリング装置13は、振動減衰部材6の内輪7cがボールねじナット23の回転によってねじ溝21に対してフラフープのように転動する。この際、内輪7cは従来の振動減衰部材が行っていた摺動とは異なる転動によりねじ溝21と関係するため、その抵抗力は小さくなっている。そして、ねじ溝21は内輪7c、転動体7b及び外輪7aからなる振動減衰部材6を介してボールねじナット23に当接しているため、ねじ溝21の振動をこれらによって吸収することができている。また、ラックバー1、ボール22及びボールねじナット23の隙間の相対的変位を抑制することができ、その結果として、ラックバー1、ボール22及びボールねじナット23相互間の衝突によるラトル音を低減することができている。
【0135】
したがって、実施例4の電動パワーステアリング装置13も、ボールねじナット23の回転不良が生じ難くなっており、その結果として、動力変換機構20の円滑な動作を確保しつつ、ラトル音の低減化を一層実現することができている。
【0136】
また、この電動パワーステアリング装置13において、内輪7cはねじ溝21との間に隙間6bを有し、外輪7aは、ラックバー1の軸芯に平行であって互いに距離をおいた逆向きの付勢力により浮上支持されている。
【0137】
このため、内輪7cはねじ溝21と小さな面積で転動することができ、ラックバー1と内輪7cとの間の転動抵抗がさらに小さくなっている。また、内輪7cがねじ溝21との間に隙間7bを有していることから、振動減衰部材6がラックバー1を拘束し過ぎず、振動減衰部材6がねじ溝21との隙間6bによって適度に変位することができる。また、浮上支持は、ねじ溝21との隙間6bに内輪7cが変位するように作用し、かつラックバー1に対する振動減衰部材6の軸芯のずれの許容にも作用する。このため、この電動パワーステアリング装置13では、ラックバー1と振動減衰部材6との位置関係がずれたとしても、振動減衰部材6がその位置を是正するように変位することができている。
【0138】
特に、外輪7aがラックバー1の軸芯に平行であって互いに距離をおいた逆向きの付勢力で浮上支持されているので、内輪7cは、ねじ溝21をこじるような変位が主体となってねじ溝21と転動する。このため、ラックバー1と振動減衰部材6との相対的変位が大きくなっても、振動減衰部材6の変位が追従しやすくなっている。また、内輪7cはねじ溝21の両側面に接触しながら転動することとなるため、軸芯と平行な両方向で振動を効果的に吸収することができ、振動減衰効果が大きい。
【0139】
以上において、本発明を実施例1〜4に即して説明したが、本発明は上記実施例1〜4に制限されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更して適用できることはいうまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0140】
本発明は電動パワーステアリング装置に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0141】
【図1】実施例1の電動パワーステアリング装置の概略断面図である。
【図2】実施例1の電動パワーステアリング装置の要部拡大断面図である。
【図3】実施例1の電動パワーステアリング装置に係り、図2のA−A断面を示す断面図である。
【図4】実施例1の電動パワーステアリング装置に係り、図2のB−B断面を示す断面図である。
【図5】実施例2の電動パワーステアリング装置の要部拡大断面図である。
【図6】実施例2の電動パワーステアリング装置に係り、図5のC−C断面を示す断面図である。
【図7】実施例2の電動パワーステアリング装置の要部拡大断面図である。
【図8】実施例3の電動パワーステアリング装置の要部拡大断面図である。
【図9】実施例3の電動パワーステアリング装置に係り、図8のD−D断面を示す断面図である。
【図10】実施例3の電動パワーステアリング装置の要部拡大断面図である。
【図11】実施例4の電動パワーステアリング装置の要部拡大断面図である。
【図12】実施例4の電動パワーステアリング装置に係り、図11のE−E断面を示す断面図である。
【図13】実施例4の電動パワーステアリング装置の要部拡大断面図である。
【符号の説明】
【0142】
1…ラックバー
1a…ねじ山
2a、2b、3a、3b…分離体
4、5、6…振動減衰部材
5a…中央部
6a…内輪の一部
7a、7b、7c…軸受(7a…外輪、7b…転動体、7c…内輪)
10、11、12、13…電動パワーステアリング装置
20…動力変換機構
21…ねじ溝
22…ボール
23…ボールねじナット 40…電動モータ
42…モータシャフト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステアリングシャフトの回転運動を長手方向の直線運動に変換して転舵角を変更させるラックバーと、該ステアリングシャフトに発生する操舵トルクに基づいてモータシャフトを回転駆動する電動モータと、該モータシャフトの回転運動を該ラックバーの軸方向への直線運動に変換する動力変換機構とを備え、
該動力変換機構が該ラックバーに螺旋状に形成されたねじ溝と、該ねじ溝にボールを介して係合し、該モータシャフトによって回転するボールねじナットとを有するボールねじ機構である電動パワーステアリング装置において、
前記ボールねじナットの前端及び後端の少なくとも一方には、前記ねじ溝又は該ねじ溝の両側のねじ山に弾性的に当接し、該ボールねじナットの回転によって該ねじ溝又は該ねじ山と摺接する振動減衰部材が固定され、
該振動減衰部材は前記ラックバーの軸芯回りで分離された複数の分離体からなることを特徴とする電動パワーステアリング装置。
【請求項2】
前記振動減衰部材は前記ねじ山のみに当接していることを特徴とする請求項1記載の電動パワーステアリング装置。
【請求項3】
各前記分離体は、前記ラックバーの軸芯回りで等しい角度間隔で配設されていることを特徴とする請求項1又は2記載の電動パワーステアリング装置。
【請求項4】
各前記分離体は、前記ラックバーの軸芯回りで互いに180°をなして配置されていることを特徴とする請求項3記載の電動パワーステアリング装置。
【請求項5】
前記ボールねじナットの前端及び後端に各前記分離体が固定されている場合、該ボールねじナットの前端に固定された各該分離体と、該ボールねじナットの後端に固定された各該分離体とは、前記ラックバーの軸芯回りで90°又は270°ずれていることを特徴とする請求項4記載の電動パワーステアリング装置。
【請求項6】
ステアリングシャフトの回転運動を長手方向の直線運動に変換して転舵角を変更させるラックバーと、該ステアリングシャフトに発生する操舵トルクに基づいてモータシャフトを回転駆動する電動モータと、該モータシャフトの回転運動を該ラックバーの軸方向への直線運動に変換する動力変換機構とを備え、
該動力変換機構が該ラックバーに螺旋状に形成されたねじ溝と、該ねじ溝にボールを介して係合し、該モータシャフトによって回転するボールねじナットとを有するボールねじ機構である電動パワーステアリング装置において、
前記ボールねじナットの前端及び後端の少なくとも一方には、前記ねじ溝との間に隙間を有して該ねじ溝に当接し、該ボールねじナットの回転によって該ねじ溝と摺接する振動減衰部材が固定され、
該振動減衰部材は、前記ラックバーの軸芯に平行な付勢力により浮上支持されていることを特徴とする電動パワーステアリング装置。
【請求項7】
前記振動減衰部材は前記ねじ溝内に突出する凸部を有する円環状をなしていることを特徴とする請求項6記載の電動パワーステアリング装置。
【請求項8】
ステアリングシャフトの回転運動を長手方向の直線運動に変換して転舵角を変更させるラックバーと、該ステアリングシャフトに発生する操舵トルクに基づいてモータシャフトを回転駆動する電動モータと、該モータシャフトの回転運動を該ラックバーの軸方向への直線運動に変換する動力変換機構とを備え、
該動力変換機構が該ラックバーに螺旋状に形成されたねじ溝と、該ねじ溝にボールを介して係合し、該モータシャフトによって回転するボールねじナットとを有するボールねじ機構である電動パワーステアリング装置において、
前記ボールねじナットの前端及び後端の少なくとも一方には、前記ねじ溝との間に隙間を有してねじ溝に当接し、該ボールねじナットの回転によって該ねじ溝と摺接する振動減衰部材が固定され、
該振動減衰部材は、前記ラックバーの軸芯に平行であって互いに距離をおいた逆向きの付勢力により浮上支持されていることを特徴とする電動パワーステアリング装置。
【請求項9】
前記振動減衰部材は前記ねじ溝内に中央部が位置する円弧状をなしていることを特徴とする請求項8記載の電動パワーステアリング装置。
【請求項10】
ステアリングシャフトの回転運動を長手方向の直線運動に変換して転舵角を変更させるラックバーと、該ステアリングシャフトに発生する操舵トルクに基づいてモータシャフトを回転駆動する電動モータと、該モータシャフトの回転運動を該ラックバーの軸方向への直線運動に変換する動力変換機構とを備え、
該動力変換機構が該ラックバーに螺旋状に形成されたねじ溝と、該ねじ溝にボールを介して係合し、該モータシャフトによって回転するボールねじナットとを有するボールねじ機構である電動パワーステアリング装置において、
前記ボールねじナットの前端及び後端の少なくとも一方には、前記ラックバーの軸芯に対して前記ねじ溝の山の高さを少なくとも超えて偏芯する軸受からなる振動減衰部材が設けられ、
該振動減衰部材は、該ねじ溝の両側のねじ山の外径を超える内径を有し、一部が前記ねじ溝内に設けられて該ボールねじナットの回転によって該ねじ溝を転動する内輪と、該ボールねじナットに固定され、該内輪を転動体によって転動させる外輪とを有していることを特徴とする電動パワーステアリング装置。
【請求項11】
前記内輪は前記ねじ溝との間に隙間を有し、前記外輪は、前記ラックバーの軸芯に平行な付勢力又は前記ラックバーの軸芯に平行であって互いに距離をおいた逆向きの付勢力により浮上支持されていることを特徴とする請求項10記載の電動パワーステアリング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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