説明

電動パワーステアリング装置

【課題】スプライン係合部の歯打ち音の発生を抑制するとともに、トルク伝達の遅れや破損を抑えることが可能な電動パワーステアリング装置を提供する。
【解決手段】動力伝達部材51は出力軸292やウォーム軸23と同一の金属製で、その軸方向の中央部に小径円柱部が形成されている。小径円柱部には、その外径寸法が、雌スプライン232及び雌スプライン293の小径よりも大きく、雌スプライン232及び雌スプライン293の大径よりも小さい弾性部材53が外嵌している。弾性部材53は中空円筒状で、ゴム、合成樹脂、エラストマー等の材質で形成され、小径円柱部の外周面にプレス成形や射出成形によって巻き付けられている。従って、弾性部材53の外周面は、雌スプライン232及び雌スプライン293の小径内周面に締まりばめ嵌合している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電動パワーステアリング装置、特に、補助操舵力を伝達するウォームギヤ減速機のバックラッシュを除去して、車輪から大きな衝撃や振動がウォームホイールに伝達されても、ウォームギヤ減速機の歯打ち音を抑制するようにした電動パワーステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ステアリングホイールの操舵トルクを検出し、アクチュエータによって回転駆動されるウォームの回転を、ウォームホイールを介してステアリングシャフトに伝達し、ステアリングホイールに付与された操舵力を補助して、ステアリングホイールの操作を楽に行うようにした操舵力補助装置を有する電動パワーステアリング装置がある。
【0003】
このような、電動パワーステアリング装置においては、部品単体の製造誤差や組付け誤差等に起因して、ウォームとウォームホイールとの間に大きなバックラッシュがあると、ウォームとウォームホイールの歯面同士が互いに衝突して、耳障りな歯打ち音が発生し、その音が車両の運転者に異常音として認識されるという問題がある。
【0004】
このため、ウォーム軸を支承する軸受をウォームとウォームホイールとの噛合方向に移動可能に構成すると共に、ウォームをウォームホイール方向に押圧する手段を設け、ウォームとウォームホイールとの噛合部のバックラッシュ量を減少させるものが提案されている。
【0005】
ところが、上記したウォームをウォームホイール方向に押圧するためには、ウォーム軸を保持する軸受の内輪又は外輪に対して、ウォーム軸の傾きを許容する構造が必要となる。しかし、ウォーム軸の傾きを許容する構造にすると、ウォーム軸の軸心とアクチュエータ出力軸の軸心とが同軸に配列されずに傾いたり(偏角)、また、両軸心が相対的にずれてしまう軸ずれ(偏心)が生じる。
【0006】
このため、それぞれが軸受により強固に支承されているウォーム軸とアクチュエータ出力軸とを、偏角や偏心を許容して結合する構造が提案されている(特許文献1、特許文献2)。特許文献1の電動パワーステアリング装置は、ウォーム軸の雌スプラインとモータ出力軸の雌スプラインとの間に、雄スプラインが両端に形成された動力伝達部材を介在させるとともに、このスプライン歯面の隙間を大きくしてウォーム軸とモータ出力軸を結合し、ウォーム軸の軸心とモータ出力軸の軸心との間の偏角や偏心を許容している。
【0007】
しかし、特許文献1の電動パワーステアリング装置は、偏角や偏心の量が大きい場合には、スプライン歯面の隙間が小さくなるため、スプライン係合部の歯打ち音の発生を抑制できる。しかし、偏角や偏心の量が小さい(すなわち、ウォーム軸の軸心とモータ出力軸の軸心が一致している)場合には、スプライン歯面の隙間が大きくなるため、スプライン係合部の歯打ち音が発生する恐れがあった。
【0008】
特許文献2の電動パワーステアリング装置は、ウォーム軸の軸心に形成された貫通孔にトーションバーを挿通して圧入し、トーションバーの一端を、継手を介してモータ出力軸に連結し、このトーションバーの弾性変形によって、ウォーム軸の軸心とモータ出力軸の軸心との間の偏角や偏心を許容している。
【0009】
しかし、特許文献2の電動パワーステアリング装置は、トーションバーを介してトルクを伝達するため、トーションバーの弾性変形に起因するトルク伝達の遅れや、トーションバーの破損の恐れがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2004−237755号公報
【特許文献2】特開2006−56296号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、ウォーム軸とモータ出力軸の雌スプラインとの間を、偏角や偏心を許容する動力伝達部材を介在させてスプライン係合し、このスプライン係合部の歯打ち音の発生を抑制するとともに、トルク伝達の遅れや破損を抑えることが可能な電動パワーステアリング装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題は以下の手段によって解決される。すなわち、第1番目の発明は、ギヤハウジング、上記ギヤハウジングに設けられ、ステアリングホイールに付与された操舵トルクに対応する補助操舵トルクを発生させるアクチュエータ、上記アクチュエータの回転を出力する出力軸、上記出力軸に連結されたウォーム、上記ウォームに噛み合い、上記ウォームの回転を減速してステアリングシャフトに伝達するウォームホイール、上記出力軸の軸心に形成された出力軸側雌スプライン、上記ウォームの軸心に形成されたウォーム側雌スプライン、上記出力軸側雌スプライン及びウォーム側雌スプラインのスプライン歯面に隙間を有してスプライン係合する雄スプラインが軸方向の両端に形成された動力伝達部材、上記動力伝達部材の軸方向の中央部に形成され、その外径寸法が、上記出力軸側雌スプライン及びウォーム側雌スプラインの小径よりも大きく、出力軸側雌スプライン及びウォーム側雌スプラインの大径よりも小さい弾性部材を備えたことを特徴とする電動パワーステアリング装置である。
【0013】
第2番目の発明は、第1番目の発明の電動パワーステアリング装置において、上記弾性部材の外周面は、上記出力軸側雌スプライン及びウォーム側雌スプラインの小径内周面に締まりばめ嵌合していることを特徴とする電動パワーステアリング装置である。
【0014】
第3番目の発明は、第1番目の発明の電動パワーステアリング装置において、上記動力伝達部材が金属製であることを特徴とする電動パワーステアリング装置である。
【0015】
第4番目の発明は、第1番目の発明の電動パワーステアリング装置において、上記ギヤハウジングに設けられ、上記ウォームを上記ウォームホイールに向かって付勢する予圧付与機構を備えたことを特徴とする電動パワーステアリング装置である。
【0016】
第5番目の発明は、第1番目の発明の電動パワーステアリング装置において、上記ギヤハウジングに設けられ、上記アクチュエータからステアリングシャフトに伝達されるトルクが所定値以上になることを制限するトルクリミッタを備えたことを特徴とする電動パワーステアリング装置である。
【発明の効果】
【0017】
本発明の電動パワーステアリング装置は、出力軸の軸心に形成された出力軸側雌スプラインと、ウォームの軸心に形成されたウォーム側雌スプラインと、出力軸側雌スプライン及びウォーム側雌スプラインのスプライン歯面に隙間を有してスプライン係合する雄スプラインが軸方向の両端に形成された動力伝達部材と、動力伝達部材の軸方向の中央部に形成され、その外径寸法が、出力軸側雌スプライン及びウォーム側雌スプラインの小径よりも大きく、出力軸側雌スプライン及びウォーム側雌スプラインの大径よりも小さい弾性部材とから構成されている。
【0018】
従って、ウォームと出力軸の軸心に偏心や偏角が生じても、スプライン係合部の隙間が偏心や偏角を許容して、アクチュエータの回転を円滑にウォームに伝達することができる。また、偏角や偏心の量が小さくて、スプライン歯面の隙間が大きくなっても、動力伝達部材の弾性部材が弾性変形して、スプライン係合部の歯打ち音の発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の電動パワーステアリング装置の全体を示し、一部を切断した正面図である。
【図2】図1のA−A線で断面した断面図である。
【図3】図2のウォームとウォームホイールの噛み合い部の拡大断面図である。
【図4】図2のモータ出力軸とウォーム軸との結合部近傍を示す拡大断面図である。
【図5】(a)は動力伝達部材を取り外した状態のモータ出力軸とウォーム軸を示す拡大断面図、(b)は動力伝達部材を示す拡大断面図である。
【図6】図4のウォーム軸左端の軸支部近傍を示す拡大断面図である。
【図7】図3のB−B断面図である。
【図8】ホルダ、予圧パッド、捩りコイルばねを組付けた予圧付与機構をギヤハウジングから取り出して示す斜視図である。
【図9】図8の分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面に基づいて本発明の実施例を説明する。図1は本発明の電動パワーステアリング装置の全体を示し、一部を切断した正面図、図2は図1のA−A線で断面した断面図、図3は図2のウォームとウォームホイールの噛み合い部の拡大断面図である。図4は図2のモータ出力軸とウォーム軸との結合部近傍を示す拡大断面図である。
【0021】
図5(a)は動力伝達部材を取り外した状態のモータ出力軸とウォーム軸を示す拡大断面図、図5(b)は動力伝達部材を示す拡大断面図である。図6は図4のウォーム軸左端の軸支部近傍を示す拡大断面図、図7は図3のB−B断面図である。図8はホルダ、予圧パッド、捩りコイルばねを組付けた予圧付与機構をギヤハウジングから取り出して示す斜視図、図9は図8の分解斜視図である。
【0022】
本発明の電動パワーステアリング装置は、図1に示すように、車体後方側(図1の右側)にステアリングホイール11を固定したステアリングシャフト12と、このステアリングシャフト12を挿通したステアリングコラム13と、このステアリングシャフト12に補助トルクを付与する為のアシスト装置20と、このステアリングシャフト12の車体前方側(図1の左側)に、図示しないラック/ピニオン機構を介して連結されたステアリングギヤ30とを備える。
【0023】
ステアリングシャフト12は、アウターシャフト12Aとインナーシャフト12Bとを、スプライン係合により、回転力を伝達自在に、かつ軸方向に関して相対変位可能に組み合わせて成る。また、上記アウターシャフト12Aの車体前方側とインナーシャフト12Bの車体後方側とをスプライン係合させると共に、合成樹脂を介して結合している。従って、上記アウターシャフト12Aとインナーシャフト12Bとは、衝突時にはこの合成樹脂を破断させて、全長を縮めることができる。
【0024】
また、上記ステアリングシャフト12を挿通した筒状のステアリングコラム13は、アウターコラム13Aとインナーコラム13Bとをテレスコピック移動可能に組み合わせて成り、軸方向の衝撃が加わった場合に、この衝撃によるエネルギを吸収しつつ全長が縮まる、所謂コラプシブル構造としている。そして、上記インナーコラム13Bの車体前方側端部を、ギヤハウジング21の車体後方側端面に結合固定している。また、上記インナーシャフト12Bの車体前方側端部を、このギヤハウジング21の内側に通し、後記するウォームホイールに連結している。
【0025】
ステアリングコラム13は、その中間部を支持ブラケット14により、ダッシュボードの下面等、車体18の一部に支承している。また、この支持ブラケット14と車体18との間に、図示しない係止部を設けて、この支持ブラケット14に車体前方側に向かう方向の衝撃が加わった場合に、この支持ブラケット14が上記係止部から外れ、車体前方側に移動するようにしている。
【0026】
また、上記ギヤハウジング21の上端部も、上記車体18の一部に支承している。また、本実施例の場合には、チルト機構及びテレスコピック機構を設けることにより、上記ステアリングホイール11の車体前後方向位置及び高さ位置の調節を自在としている。このようなチルト機構及びテレスコピック機構は、従来から周知であり、本発明の特徴部分でもない為、詳しい説明は省略する。
【0027】
また、上記インナーシャフト12Bの車体前方側端部で、上記ギヤハウジング21の車体前方側端面から突出した出力軸19は、自在継手15を介して、中間シャフト16の後端部に連結している。また、この中間シャフト16の前端部に、別の自在継手17を介して、ステアリングギヤ30の入力軸31を連結している。図示しないピニオンが、この入力軸31に結合している。また、ステアリングギヤ30に往復摺動可能に内嵌された図示しないラックが、このピニオンに噛み合っており、ステアリングホイール11の回転が、タイロッド32を移動させて、図示しない車輪を操舵する。
【0028】
なお、上記各自在継手15、17に、地面から車輪を介して中間シャフト16に加わった振動が、上記ステアリングホイール11に迄伝達されるのを防止する為の振動吸収装置を設けることもできる。
【0029】
また、図2から図9に示すように、上記アシスト装置20は、出力軸19に外嵌固定されたウォームホイール22、ウォーム軸23、予圧付与機構24とを備える。このうちの予圧付与機構24は、弾性体である捩りコイルばね25と、単一の部材である予圧パッド26とを備える。更に、上記アシスト装置20は、玉軸受27、28を備える。
【0030】
また、上記インナーシャフト12Bの中間部の周囲に、図示しないトルクセンサを設けて、上記ステアリングホイール11からこのインナーシャフト12Bに加えられるトルクの方向と大きさとを検出し、この検出信号に応じて、電動モータ(アクチュエータ)29を駆動し、所定の方向に所定の大きさで補助トルクを発生させる。
【0031】
また、上記ウォームホイール22とウォーム軸23とは、上記ギヤハウジング21の内側に設けて、ウォームホイール22とウォーム軸23の中間部に形成したウォーム231とを噛合させている。電動モータ29は、このギヤハウジング21に固定されたケース291と、このケース291の内周面に設けた図示しない永久磁石製のステータと、このケース291の内側に設けた出力軸292と、この出力軸292の中間部にステータと対向する状態で設けた図示しないロータとを備える。
【0032】
図2に示すように、ウォームホイール22の内周面と出力軸19の外周面との間には、中空円筒状のスリップリング(トルクリミッタ)221が挿入されている。電動モータ29から出力軸19に伝達されるトルクが所定値以上になると、ウォームホイール22の内周面と出力軸19の外周面との間でスリップリング221が滑り、電動モータ29から出力軸19に伝達されるトルクを制限して、ウォームホイール22やウォーム231の歯面の損傷を防止する。スリップリング221の代わりに、電動モータ29の内部にトルクリミッタを設けて、電動モータ29から出力軸19に伝達されるトルクを制限してもよい。
【0033】
上記ウォーム軸23の基端部(図2から図6の左端部)の軸心には雌スプライン(ウォーム側雌スプライン)232が形成され、出力軸292の先端部(図2から図6の右端部)の軸心には雌スプライン(出力軸側雌スプライン)293が形成されている。雌スプライン232及び雌スプライン293は、同一の呼び径に形成されている。
【0034】
円柱状の動力伝達部材51の両端には、雄スプライン511及び512が形成され、左側の雄スプライン511が出力軸292の雌スプライン293にスプライン係合し、右側の雄スプライン512がウォーム軸23の雌スプライン232にスプライン係合している。雄スプライン511及び512は、雌スプライン293及び雌スプライン232のスプライン歯面に隙間を有してスプライン係合する寸法に形成されている。従って、動力伝達部材51はウォーム軸23と出力軸292の端部同士を、スプライン係合により連結し、ウォーム軸23は出力軸292と共に回転する。
【0035】
動力伝達部材51は出力軸292やウォーム軸23と同一の金属製で、図5に詳細に示すように、その軸方向の中央部に小径円柱部52が形成されている。小径円柱部52には、その外径寸法dが、上記雌スプライン232及び雌スプライン293の小径WD2、OD2よりも大きく、雌スプライン232及び雌スプライン293の大径WD1、OD1よりも小さい弾性部材53が外嵌している。弾性部材53は中空円筒状で、ゴム、合成樹脂、エラストマー等の材質で形成され、小径円柱部52の外周面に、プレス成形や射出成形等によって被覆されている。従って、弾性部材53の外周面531は、雌スプライン232及び雌スプライン293の小径内周面に締まりばめ嵌合している。
【0036】
図6に詳細に示すように、玉軸受27は、上記ギヤハウジング21の内側に、ウォーム軸23の基端部を、回転自在に軸支している。玉軸受27は単列深溝型で、各玉271の転動面と、外輪272の内周面に設けた外輪軌道、及び内輪273の外周面に設けた内輪軌道とを、各玉271毎に、それぞれ1点ずつで接触させている。
【0037】
また、この内輪273を、ウォーム軸23の基端寄りの外周面で、軸方向に関してスプライン係合部(雌スプライン232と雄スプライン512のスプライン係合部)と一致する部分に外嵌している。そして、このスプライン係合部の軸方向中央位置と玉軸受27の軸方向中央位置とを、ほぼ一致させている。また、内輪273の内周面とウォーム軸23の外周面との間に微小隙間を設けることにより、玉軸受27に対するウォーム軸23の所定の範囲での傾きを自在としている。
【0038】
ウォーム軸23の外周面であって、玉軸受27の内輪273の径方向内側に形成された環状溝46に、弾性体としてのOリング47が組み込まれている。このOリング47は、玉軸受27の内輪273とウォーム軸23の間で圧縮され、ウォーム軸23のラジアル方向の変位に対して、全周において均一な反発力を発生する。
【0039】
従って、路面からの入力等による軽負荷がウォーム軸23にかかると、ラジアル方向の荷重が発生して、ウォーム軸23が変位するが、Oリング47によりその荷重を受ける為、ウォーム軸23と玉軸受27の内輪273とが直接接触することが無く、両者の金属打音が発生することがない。
【0040】
また、電動モータ29のアシスト等により発生する重負荷がウォーム軸23にかかると、ウォーム軸23と玉軸受27の内輪273が接触して荷重を受けるが、Oリング47によりその速度は減衰している為、接触音が問題になることはない。さらに、ウォーム軸23は、玉軸受27から均一な荷重を受ける為、玉軸受27に対してウォーム軸23を良好に保持することが出来る。
【0041】
ウォーム軸23の基端部(図6の左端部)外周面は、雄ねじ部を形成しない円筒面としている。そして、この円筒面を外周面に有する筒部238の基端寄り部分に、抑え部材43を外嵌している。抑え部材43は、全体を円筒状に形成したもので、基端部外周面に外向鍔部431を設けている。また、この抑え部材43の基端面(図6の左端部)に、軸方向(図6の左方)に突出する薄肉の円筒部432を形成している。
【0042】
そして、筒部238の外周面に抑え部材43を外嵌した状態で、この抑え部材43に設けた円筒部432の先端縁を、ウォーム軸23の筒部238の外周面に全周にわたり形成した係止溝239にカシメることにより、筒部238に抑え部材43を結合固定している。
【0043】
そして、玉軸受27を構成する内輪273の軸方向両端面と、抑え部材43の外周面に形成した外向鍔部431の片面(図6の右側面)、及び上記ウォーム軸23の基端寄り(図6の左端寄り)の外周面に設けた鍔部233の側面との間に、それぞれ一対の係止リング45、45を設けている。また、両係止リング45、45の間に、弾性材製の筒状部材44、44を設けている。そして、抑え部材43の外向鍔部431の片面とウォーム軸23の鍔部233の側面との間に内輪273を、この内輪273の両側に設けた係止リング45、45と筒状部材44、44とを介して、弾性的に挟持している。
【0044】
そして、玉軸受27に対するウォーム軸23の、軸方向に関する所定の範囲での変位を自在としている。筒状部材44、44の材質は、ゴムや合成樹脂、または皿ばね等の金属を用いることができる。また、本実施例の場合には、この玉軸受27の内部に、C2またはC3程度の、径方向の隙間を設けている。
【0045】
また、この玉軸受27を構成する外輪272を、ギヤハウジング21の一部に設けた支持孔211の内周面に外嵌している。また、この外輪272の軸方向一端面(図6の右端面)を、この支持孔211の内周面に設けた段部212に突き当てると共に、外輪272の軸方向他端面(図6の左端面)を、この内周面に係止した係止リング213により抑え付けている。
【0046】
また、上記玉軸受28は、ギヤハウジング21の内側に、ウォーム軸23の先端部(図2、図3の右端部)を、回転自在に支持している。この玉軸受28は単列深構型で、各玉281の転動面と、外輪282の内周面に設けた外輪軌道及び内輪283の外周面に設けた内輪軌道とを、各玉281毎にそれぞれ1点ずつで接触させている。そして、玉軸受28を構成する外輪282を、ギヤハウジング21の内側に固定したホルダ41に固定している。
【0047】
ホルダ41は、断面L字形で全体を円環状に形成しており、このホルダ41の片半部(図2、図3の左半部)内周面に設けた大径部411に、外輪282を内嵌固定している。また、上記ウォーム軸23の先端寄り部分の外周面で、上記ウォーム231から外れた部分に設けた大径部234に、弾性材製のブッシュ42を外嵌している。このブッシュ42は、全体を円筒状に形成している。
【0048】
また、上記大径部234を内嵌する為のブッシュ42の左端外周面に、外向鍔部421を形成している。そして、この外向鍔部421の内側面を、玉軸受28を構成する内輪283の軸方向一端面(図2、図3の左端面)に突き当てている。また、本実施例の場合には、ブッシュ42の内周面は、内向鍔部を形成していない、単なる円筒面としている。
【0049】
そして、このブッシュ42の内側に、ウォーム軸23の大径部234を緩く挿通すると共に、ブッシュ42の軸方向一端部(図2、図3の右端部)から、ウォーム軸23の先端部を突出させている。また、ブッシュ42の軸方向中間部に、玉軸受28を構成する内輪283を外嵌している。
【0050】
また、ブッシュ42の内周面と大径部234の外周面との間に、微小隙間を設けることにより、ブッシュ42に対するウォーム軸23の所定の範囲での傾きを自在としている。
【0051】
また、ウォーム軸23に設けた大径部234と、この大径部234よりも先端側に設けた小径部235とは、テーパ面236により連続させている。また、ウォーム軸23の右端面と小径部235との接続部に、テーパ面237を設けている。
【0052】
一方、上記小径部235を、予圧パッド26に挿入している。この予圧パッド26は、固体潤滑材を混入した合成樹脂により形成されている。そして、ホルダ41の他端面(図2、図3の右端面)と、ギヤハウジング21の一部に設けた凹孔214の底面との間に、予圧パッド26を設けている。
【0053】
また、この予圧パッド26の中心部に、軸方向に貫通する通孔261を形成すると共に
、この通孔261の内側にウォーム軸23の小径部235を挿入自在としている。この通孔261の内周面は、ウォーム軸23の小径部235を支持する滑り軸受としての機能を有する。
【0054】
また、上記通孔261のうち、電動モータ29側の内周面を、開口端に向かう程直径が大きくなったテーパ面262としている。このテーパ面262の開口部の直径は、ウォーム軸23の先端部に設けた小径部235の直径よりも0.5mm以上大きくしている。また、予圧パッド26は、凹孔214の内側に、所定の範囲での変位を自在に支持されている。
【0055】
本実施例の場合には、ギヤハウジング21の一部に固定する為のホルダ41と、予圧パッド26と、捩りコイルばね25とを、図3、図7〜図9に詳示する様に組み合わせている。このうちのホルダ41は、図9に詳細に示すように、中心部に断面矩形状の通孔412を形成している。また、このホルダ41の軸方向片面(図9の表側面)で、この通孔412の開口周辺部に位置する4個所位置に、それぞれ2個ずつの第一の突部413、413、及び、第二の突部414、414を形成している。
【0056】
このうちの第一の突部413、413は、ウォーム軸23の中心軸線230を挟んでウォームホイール22側(図7〜9の上側で−Y側)に存在し、第二の突部414、414は、ウォーム軸23の中心軸線230を挟んで、この第一の突部413、413とは反対側の+Y側(図7〜9の下側)に存在する。また、上記第一、第二の突部413、413、414、414の外径側側面に、互いに同心の部分円筒面部415a、415a、415b、415bを、それぞれ設けている。更に、これら各第二の突部414、414の先端寄り部分で、ウォームホイール22と反対側の側面に、このウォームホイール22と反対側に突出する係止突部416、416を設けている。
【0057】
一方、上記予圧パッド26の外周面で、ウォームホイール22と反対側の部分に設けた第一部分円筒面部263の円弧方向中間部に、幅の狭い突部264を設けると共に、この突部264の先端面を、この第一部分円筒面部263と同心の第三部分円筒面部265としている。また、予圧パッド26の外周面の径方向反対側2個所位置に、それぞれ平面部266、266を設けている。
【0058】
また、予圧パッド26の外周面と、捩りコイルばね25の内周縁との当接部を円弧状とすると共に、この当接部の円弧方向長さを、捩りコイルばね25の1巻きの長さに関して十分に小さくしている。また、予圧パッド26の外周面のうち、ウォームホイール22側(図7から図9の上側)に設けた第二部分円筒面269の曲率半径を、第一部分円筒面263の曲率半径よりも小さくしている。
【0059】
更に、これら各平面部266、266のうち、ウォームホイール22と反対側の一端部(図7〜9の下端部)で、ホルダ41側の軸方向片半部(図7〜9の裏側半部)に、一対の腕部267、267を形成している。また、上記予圧パッド26の外周面で上記ウォームホイール22と反対側部分の、上記ホルダ41と反対側の軸方向一端部(図7〜9の表側端部)に、外径側に突出する係止突部268を設けている。
【0060】
そして、ホルダ41に予圧パッド26を組み合わせると共に、これらホルダ41、予圧パッド26の周囲に捩りコイルばね25を設けたものを上記ギヤハウジング21の内側に組み付ける。続いて、この予圧パッド26の中心部に設けた通孔261の内側にウォーム軸23の先端部を挿通することにより、このウォーム軸23に、ウォームホイール22に向かう方向の弾力を付与している。
【0061】
ホルダ41と予圧パッド26と捩りコイルばね25とを組み合わせるに次のように行う。先ず、このホルダ41の各第二の突部414、414の片面(図7〜9の下側面)とこれら各第二の突部414、414に設けた係止突部416、416の片面(図7〜9の裏側面)とに、予圧パッド26に設けた各腕部267、267の側面を対向させる。この状態で、ホルダ41と予圧パッド26とを組み合わせる。ホルダ41と予圧パッド26とをこのように組み合わせると、ホルダ41に対する予圧パッド26の軸方向に関する変位が阻止される。
【0062】
次いで、互いに隣り合う第一、第二の突部413、413、414、414の間部分に、捩りコイルばね25の両端部に設けた各係止部251、251を配置する。この状態で、各第一、第二の突部413、413、414、414の外径側側面と予圧パッド26の外周面とに、捩りコイルばね25を外嵌する。予圧パッド26に設けた第三部分円筒面部265がこの捩りコイルばね25の内周縁に接触しない状態では、この予圧パッド26に設けた通孔261の中心軸は、上記ホルダ41の中心軸に対し、片側(図7〜9の上側)に片寄っている。
【0063】
このホルダ41に予圧パッド26と捩りコイルばね25とを組み合わせた状態で、このホルダ41をギヤハウジング21の所定部分に固定し、更に、予圧パッド26に設けた通孔261にウォーム軸23の先端部の小径部235を挿入する。すると、この予圧パッド26に設けた第三部分円筒面部265により捩りコイルばね25の直径が弾性的に押し広げられる。そして、この捩りコイルばね25が巻き戻る(直径を縮める)方向に弾性復帰する傾向となることにより、この捩りコイルばね25から予圧パッド26に、ウォームホイール22に向かう方向の弾力が付与される。
【0064】
上記したように、内輪273の内周面とウォーム軸23の外周面との間に微小隙間があり、玉軸受27に対するウォーム軸23の所定の範囲での傾きが自在である。従って、予圧パッド26にウォームホイール22に向かう方向の弾力を付与することにより、玉軸受27の軸方向中央位置を支点として、ウォーム軸23は、ウォームホイール22に向かう方向に傾動する。そして、ウォーム軸23のウォーム231とウォームホイール22の歯面同士を、予圧を付与した状態で当接させ、ウォーム231とウォームホイール22の噛合部のバックラッシュ量を減少させる。
【0065】
本発明の実施例では、動力伝達部材51の両端の雄スプライン511及び512は、出力軸292の雌スプライン293及びウォーム軸23の雌スプライン232のスプライン歯面に隙間を有してスプライン係合している。従って、ウォーム軸23と出力軸292の軸心に偏心があったり、ウォーム軸23をウォームホイール22に向かう方向に傾動した結果、ウォーム軸23と出力軸292の軸心に偏角が生じても、スプライン係合部の隙間が偏心や偏角を許容して、電動モータ29の回転を円滑にウォーム軸23に伝達することができる。また、動力伝達部材51は金属製であるので剛性が大きく、トルク伝達の遅れや、動力伝達部材51が損傷する恐れはない。
【0066】
また、本発明の実施例では、動力伝達部材51の外周の弾性部材53が、雌スプライン232及び雌スプライン293の小径内周面に締まりばめ嵌合している。従って、偏角や偏心の量が小さい(すなわち、ウォーム軸23の軸心と出力軸292の軸心がほぼ一致している)場合で、スプライン歯面の隙間が大きくなっても、弾性部材53が弾性変形して、スプライン係合部の歯打ち音の発生を抑制することができる。また、トルク反転時や車体の振動によるスプライン係合部の歯打ち音の発生も、動力伝達部材51の外周の弾性部材53が抑制することができる。
【符号の説明】
【0067】
11 ステアリングホイール
12 ステアリングシャフト
12A アウターシャフト
12B インナーシャフト
13 ステアリングコラム
13A アウターコラム
13B インナーコラム
14 支持ブラケット
15 自在継手
16 中間シャフト
17 自在継手
18 車体
19 出力軸
20 アシスト装置
21 ギヤハウジング
211 支持孔
212 段部
213 係止リング
214 凹孔
22 ウォームホイール
221 スリップリング(トルクリミッタ)
23 ウォーム軸
230 中心軸線
231 ウォーム
232 雌スプライン(ウォーム側雌スプライン)
233 鍔部
234 大径部
235 小径部
236 テーパ面
237 テーパ面
238 筒部
239 係止構
24 予圧付与機構
25 捩りコイルばね
251 係止部
26 予圧パッド
261 通孔
262 テーパ面
263 第一部分円筒面部
264 突部
265 第三部分円筒面部
266 平面部
267 腕部
268 係止突部
269 第二部分円筒面部
27 玉軸受
271 玉
272 外輪
273 内輪
28 玉軸受
281 玉
282 外輪
283 内輪
29 電動モータ(アクチュエータ)
291 ケース
292 出力軸
293 雌スプライン(出力軸側雌スプライン)
30 ステアリングギヤ
31 入力軸
32 タイロッド
41 ホルダ
411 大径部
412 通孔
413 第一の突部
414 第二の突部
415a、415b 部分円筒面部
416 係止突部
42 ブッシュ
421 外向鍔部
43 抑え部材
431 外向鍔部
432 円筒部
44 筒状部材
45 係止リング
46 環状溝
47 Oリング
51 動力伝達部材
511、512 雄スプライン
52 小径円柱部
53 弾性部材
531 外周面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ギヤハウジング、
上記ギヤハウジングに設けられ、ステアリングホイールに付与された操舵トルクに対応する補助操舵トルクを発生させるアクチュエータ、
上記アクチュエータの回転を出力する出力軸、
上記出力軸に連結されたウォーム、
上記ウォームに噛み合い、上記ウォームの回転を減速してステアリングシャフトに伝達するウォームホイール、
上記出力軸の軸心に形成された出力軸側雌スプライン、
上記ウォームの軸心に形成されたウォーム側雌スプライン、
上記出力軸側雌スプライン及びウォーム側雌スプラインのスプライン歯面に隙間を有してスプライン係合する雄スプラインが軸方向の両端に形成された動力伝達部材、
上記動力伝達部材の軸方向の中央部に形成され、その外径寸法が、上記出力軸側雌スプライン及びウォーム側雌スプラインの小径よりも大きく、出力軸側雌スプライン及びウォーム側雌スプラインの大径よりも小さい弾性部材を備えたこと
を特徴とする電動パワーステアリング装置。
【請求項2】
請求項1に記載された電動パワーステアリング装置において、
上記弾性部材の外周面は、上記出力軸側雌スプライン及びウォーム側雌スプラインの小径内周面に締まりばめ嵌合していること
を特徴とする電動パワーステアリング装置。
【請求項3】
請求項1に記載された電動パワーステアリング装置において、
上記動力伝達部材が金属製であること
を特徴とする電動パワーステアリング装置。
【請求項4】
請求項1に記載された電動パワーステアリング装置において、
上記ギヤハウジングに設けられ、上記ウォームを上記ウォームホイールに向かって付勢する予圧付与機構を備えたこと
を特徴とする電動パワーステアリング装置。
【請求項5】
請求項1に記載された電動パワーステアリング装置において、
上記ギヤハウジングに設けられ、上記アクチュエータからステアリングシャフトに伝達されるトルクが所定値以上になることを制限するトルクリミッタを備えたこと
を特徴とする電動パワーステアリング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−106580(P2012−106580A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−256411(P2010−256411)
【出願日】平成22年11月17日(2010.11.17)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】