説明

電動乗用草刈機

【課題】走行安定性がよく、効果的にモアデッキを走行面の起伏に追随させることが可能な電動乗用草刈機を提供する。
【解決手段】モアブレードと、モアブレードを上方および側方から覆うモアデッキ15と、モアデッキ15上に配置されるモアモータ20と、モアデッキ15を左右両側にそれぞれ上下回動可能に懸架し、かつ、直進方向に延設されるメインフレーム18と、モアデッキ15に取り付けられ、走行面の起伏を検出するゲージホイール23とを備え、ゲージホイール23が検出した走行面の起伏に従って、それぞれのモアデッキ15が独立して上下に回動する。そして、モアデッキ15とメインフレーム18との間にモアデッキ15を昇降するためのサブフレーム55を備えるとともに、モアデッキ15を下方に回動するように付勢するコイルバネ42A,42Bを備え、コイルバネ42A,42Bの一端をモアモータ20の側部近傍に取り付けるとともに他端をサブフレーム55に取り付ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転して草を刈るモアブレードと、モアブレードを上方および側方から覆う略深皿状のモアデッキとを備え、モータによってモアブレードを回転させる乗用草刈機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エンジン搭載の4輪の乗用ローンモア(乗用草刈機)は、回転して草を刈る2つのモアブレードと、そのモアブレードを上方および側方から覆う略深皿状のモアデッキとを備えてなる。このモアデッキは、前輪と後輪との間で、かつ、シャーシの下方に懸架される。そして、後輪を回転させるエンジンの駆動力を分岐してモアデッキ上方に伝達し、2つのモアブレードを回転させていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平05−095716号公報
【0004】
近年、地球温暖化防止の観点から、温室効果ガスを含む排気ガスを規制する動きが社会的潮流となってきた。この動きに対する対応は自動車産業において顕著であり、ハイブリッドカー、電気自動車など、いわゆるエコカーの開発が進められている。特に、近年、バッテリーを電源とした電気自動車の実用化に対する技術開発が活発化している。
【0005】
しかし、このような技術開発は、農業機械の分野においてはさほど活発ではない。特に、乗用のローンモアの分野においては実施可能レベルの技術開発がなされていないのが現状である。したがって、電動による乗用ローンモアを開発することは重要な意義を持っている。
【0006】
そこで、発明者らは、電動による乗用ローンモアの製造を具体的に検討した。モアブレードをモータで回転させることから、個々のモアブレードにそれぞれ独立したモータを備えることが可能であることに想到した。このような形態をとることで、1つのモアデッキに2つのモアブレードを(略車幅方向に)並べて配置する従来型(以下、「ダブルブレードのモアデッキ」と称す)ではなく、1つのモアデッキに1つのモアブレード(以下、「シングルブレードのモアデッキ」と称す)を備えることが可能となった。このようなシングルブレードのモアデッキを車幅方向に2つ並べて備えることで従来のダブルブレードのモアデッキと同じ刈幅を確保することができる。
【0007】
2つのシングルブレードのモアデッキをそれぞれ独立にシャーシに懸架し、シャーシの周りに傾動可能な構造とした。詳しくは、それぞれのモアデッキの先端にゲージホイールを装備し、ゲージホイールが刈取面の地形の起伏に沿うことでモアデッキを上下に回動させる構成とする。これにより、車両の左右の芝の刈取面の地形に合わせてそれぞれのモアデッキを傾動させることが可能となり、刈取面の地形によらず刈高さを一定に保持することを可能ならしめた。
【0008】
しかし、モータなどを載置したモアデッキは比較的重量が重いため、運動エネルギーが大きい。このため、ローンモアが比較的高速で走行して、急激な起伏の変化、特に、隆起を乗り越える場合には、モアデッキは慣性力によってその凸地形に追随することができずにモアデッキ自体が跳ねてしまう(浮上してしまう)ことが想定され、モアデッキを確実に刈取面の地形に追随させることができなくなってしまう。そこでこれを補う方策として、モアデッキを上方から走行面に向けて常に押し付けることが考えられる。そして、その押し付け方法として圧縮バネを用いることが考えられる。この場合、圧縮バネをシャーシ(またはシャーシと連結された部材)とモアデッキとの間に取り付け、モアデッキを下方に付勢する。
【0009】
モアデッキを下方に付勢する位置として最も有効なのが、モアデッキの重心位置付近である。モータは重量が重く、モアデッキ全体の総重量の大部分を占める。このため、モータの重心位置(すなわち、モータの略中央)に圧縮バネの下端を取り付けることが効果的であるといえる。しかし、モータの上面の中心に圧縮バネの下端を取り付けると、モータの厚み分だけ、取付位置が高くなってしまう。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ローンモアは操作性の向上という見地から、小回りできることが求められる。走行安定性を確保しながら小回りを実現するために、車高を低くして車両の重心を下げる必要があり、シャーシをできるだけ低く配置することは重要である。ところが、モータの上面に圧縮バネの一端を取り付けた状態でシャーシを低くしようとすると、シャーシとモアデッキとの間のスペースに圧縮バネを納めることが困難になる。このため、圧縮バネの効果的な取り付け位置を選定することと、ローンモアの重心を低く抑えるという2つの要請を同時に達成することが重要となる。そこでこの発明は、走行安定性がよく、効果的にモアデッキを走行面の起伏に追随させることが可能な電動乗用草刈機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
このため請求項1に記載の発明は、回転して草を刈るモアブレードと、該モアブレードを上方および側方から覆う略深皿状のモアデッキと、該モアデッキ上の中央付近に配置されるとともに、前記モアブレードの回転軸に取り付けられたモアモータとで構成されるモアユニットと、
前記モアユニットを左右両側にそれぞれ上下回動可能に懸架し、かつ、直進方向に延設される支持フレームと、
前記モアデッキに取り付けられ、走行面の起伏を検出する検出手段とを備え、
該検出手段が検出した走行面の起伏に従って、それぞれの前記モアユニットが独立して上下に回動する電動乗用草刈機であって、
前記モアデッキと前記支持フレームとの間に前記モアユニットを昇降するための昇降手段を備えるとともに、前記モアユニットを下方に回動するように付勢する弾性部材を備え、
該弾性部材の一端を前記モアモータの側部近傍に取り付けるとともに前記弾性部材の他端を前記昇降手段に取り付けることを特徴とする。
【0012】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の電動乗用草刈機において、前記モアモータを覆うケーシングを備え、
該ケーシングに取付部材を介して前記弾性部材の一端を取り付けることを特徴とする。
【0013】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の電動乗用草刈機において、前記ケーシングの内側側面に前記取付部材を介して前記弾性部材を取り付けることを特徴とする。
【0014】
請求項4に記載の発明は、請求項2に記載の電動乗用草刈機において、前記ケーシングの前後側面に前記取付部材を介して前記弾性部材をそれぞれ取り付けることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
請求項1に記載の発明によれば、回転して草を刈るモアブレードと、モアブレードを上方および側方から覆う略深皿状のモアデッキと、モアデッキ上の中央付近に配置されるとともに、モアブレードの回転軸に取り付けられたモアモータとで構成されるモアユニットと、モアユニットを左右両側にそれぞれ上下回動可能に懸架し、かつ、直進方向に延設される支持フレームと、モアデッキに取り付けられ、走行面の起伏を検出する検出手段とを備え、検出手段が検出した走行面の起伏に従って、それぞれのモアユニットが独立して上下に回動する電動乗用草刈機であって、モアデッキと支持フレームとの間にモアユニットを昇降するための昇降手段を備えるとともに、モアユニットを下方に回動するように付勢する弾性部材を備え、弾性部材の一端をモアモータの側部近傍に取り付けるとともに弾性部材の他端を昇降手段に取り付ける。
【0016】
モアユニットの重心は、モアモータの配置されるモアデッキ中央部付近に存在するため、モアモータ近傍に弾性部材を取り付けることで、弾性部材を有効に作用させることができ、モアユニットの上昇方向の慣性力(運動エネルギー)を効果的に押さえつけることができる。したがって、急激な起伏の変化、特に、隆起を乗り越える場合にも、その凸地形に追随することができ、モアユニットが跳ねてしまうことを防止することができる。これによって、モアデッキを確実に刈取面の地形に追随させることができ、刈高さ一定にすることができる。加えて、モアモータの上面を避け、弾性部材の一端をモアモータの側部近傍に取り付けたことで、弾性部材の取り付け位置を低くすることができる。これによって、支持フレームも低く配置することができ、車両の重心を低くすることができ、走行安定性をよくすることができる。したがって、走行安定性がよく、効果的にモアデッキを走行面の起伏に追随させることが可能な電動乗用草刈機を提供することができる。
【0017】
さらに、モアデッキが浮上することを抑止する部材として弾性部材を用いるので、簡単な構造でモアデッキを下方に付勢することができる。
【0018】
請求項2に記載の発明によれば、モアモータを覆うケーシングを備え、ケーシングに取付部材を介して弾性部材の一端を取り付けるので、モアデッキに金属片を溶接加工してステーを形成し、そのステーに弾性部材の一端を取り付ける必要がない。したがって、製造工程を簡略化することができる。
【0019】
請求項3に記載の発明によれば、ケーシングの内側側面に取付部材を介して弾性部材を取り付けるので、弾性部材の上端と下端との水平距離をさらに短くすることができ、弾性部材を立った状態にすることができる。これによって、弾性部材がより効率的にモアデッキを下方に付勢することを可能とする。
【0020】
請求項4に記載の発明によれば、ケーシングの前後側面に取付部材を介して弾性部材をそれぞれ取り付けるので、複数の弾性部材を用いてモアデッキを下方に付勢することができ、それぞれの弾性部材の付勢力を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】この発明の乗用草刈機の一例としての、電動ローンモアの左側からの側面図である。
【図2】その平面図である。
【図3】その正面図である。
【図4】その要部を拡大した左側からの側面図である。
【図5】その要部を拡大した右側からの概略側面図である。
【図6】モアデッキ付近の拡大斜視図である。
【図7】モアデッキ付近のさらに拡大斜視図である。
【図8】コイルバネ付近の拡大斜視図である。
【図9】バネ保持部材の詳細な構造を示す図であり、(a)は側面図、(b)および(c)は(a)の一部拡大図、(d)は(b)のX矢視図、(e)は(d)のY矢視図である。
【図10】モアデッキが上下方向に回動する様子を示すための要部概略斜視図である。
【図11】モアデッキの配置を説明するための要部拡大平面図である。
【図12】コイルバネを介してバネ支持ブラケットとモアモータとの取り付けを説明するための図であり、(a)はモアモータの後方側面図、(b)はモアモータの前方側面図である。
【図13】(a)はモアユニットの慣性力を説明するための図、(b)はコイルバネの取り付けを説明するための図である。
【図14】この例の電動ローンモアで芝刈りをする様子を示す正面図であり、(a)はモアデッキ近傍の走行面が全体にわたって平坦な場合、(b)は走行面の左側が隆起している場合、(c)は走行面の右側が隆起している場合、(d)は走行面の右側が隆起、左側が窪みにある場合を示す。
【図15】この発明の別の例の電動ローンモアのモアデッキの配置を説明するための要部拡大平面図である。
【図16】その要部拡大斜視図である。
【図17】モアモータとコイルバネとの連結部分を説明するための図であり、(a)は平面図、(b)は要部概略側面図である。
【図18】コイルバネを介してバネ支持ブラケットとモアモータとの取り付けを説明するための図であり、モアモータの後方側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照しつつ、この発明を実施するための最良の形態について詳述する。なお、この明細書において、「前」とは乗用草刈機の前進方向を、「後」とは後進方向を、「左右」とはそれぞれ、前進方向に向かって「左右」を、「上下」とはそれぞれ、車両の「上下」方向を意味するものとする。図1〜5にはそれぞれ、この発明の電動乗用草刈機の一例としての、電動ローンモア10の左側からの側面図、平面図、正面図、拡大した左側からの側面図、拡大した右側からの概略側面図を示す。電動ローンモア10は、前輪11、後輪12,12、運転席13、走行操作レバー14,14、モアブレード(不図示)、モアデッキ15,15などを備えてなる。前輪11は1つであり、電動ローンモア10の前端部中央に備える。前輪11はその中心に金属製のホイールを備え、ホイールの外側にはゴム製のタイヤを備える。ホイールの回転中心には車軸11Aを貫通させる。ホイールは、車軸11Aに対して回転自在となっている(すなわち、前輪11は従動回転する)。
【0023】
車軸11Aは、前輪ブラケット16の下端部に取り付けられている。前輪ブラケット16は、金属板を門型状に形成してなる。前輪ブラケット16の天面には円筒部17を載置する。円筒部17の中心には回動軸を備え、回動軸の下端は前輪ブラケット16にボルトなどで固設する。円筒部17の上下端にはそれぞれドーナツ状の金属板の蓋部を固設し、蓋部の中心には回動軸を回動自在に取り付ける。円筒部17の側面には、メインフレーム(支持フレーム)18の先端を溶接などで固定する。メインフレーム18は、縦断面視で門型状となる金属製である。メインフレーム18の前端部の両側には、それぞれフットレスト19,19を支持部材19A,19Aを介して固設する。
【0024】
メインフレーム18の下方の両側には、モアデッキ15,15を備える。モアデッキ15,15内にはそれぞれモアブレードを回動自在に備える。この例の電動ローンモア10には2つのモアデッキ15を備え、それぞれのモアデッキ15内には、1つのモアブレードを備える(前述の「シングルブレードのモアデッキ」に相当する)。そして、このモアブレードの中央は、モアデッキ15の上面に載置されたモアモータ20の出力軸に固設されている(モアデッキ15、モアブレード、モアモータ20を合わせてモアユニットと称する。なお、モアモータ20は、モータ本体をケーシングに内蔵してなる。ケーシングは、天板の付いた円筒状に形成される)。
【0025】
モアデッキ15,15はそれぞれ、2つのデッキアーム(昇降手段)21A,21Bを介してメインフレーム18に懸架されている。デッキアーム21Aの先端は後述するように、回動軸29によってメインフレーム18に回動自在に取り付けられている。一方、デッキアーム21Bの先端は、(図6(a)に示すように)ピンP4によってメインフレーム18に回動自在に取り付けられている。
【0026】
モアデッキ15,15の前部にはそれぞれ、ブラケット22を介してゲージホイール(補助車輪)23を取り付ける。ゲージホイール23は、その中心に金属製のホイールを備え、ホイールの外側にはゴム製のタイヤを備える。ホイールの回転中心には車軸23Aを貫通させる。ホイールは、車軸23Aに対して回転自在となっている(すなわち、ゲージホイール23は従動回転する)。なお、ゲージホイール23は走行面の起伏を検出する検出手段である。したがって、芝刈りを行うときは、ゲージホイール23は常に接地した状態である。
【0027】
車軸23Aは、補助前輪ブラケット24の下端部に取り付けられている。補助前輪ブラケット24は、板状の鉄を門型に形成してなる。補助前輪ブラケット24の天面には円筒部25を載置する。円筒部25の中心には回動軸を備え、回動軸の下端は補助前輪ブラケット24にボルトなどで固設する。円筒部25の上下端にはそれぞれドーナツ状の鉄板の蓋部を固設し、蓋部の中心には回動軸を回動自在に取り付ける。
【0028】
メインフレーム18の後端には、シャーシ27を連結する。シャーシ27は金属製の角筒で、平面視で略四角状に閉じた形状に形成される。シャーシ27上には載置板を介してバッテリー30を3つ並べて平置きにする。バッテリー30は、リチウムイオン電池を用いることが望ましい。詳しくは、二酸化マンガンリチウム電池、フッ化黒鉛リチウム電池、塩化チオニルリチウム電池、酸化銅リチウム電池、二硫化鉄リチウム電池、ヨウ素リチウム電池など、エネルギー密度が高く、寿命が長いものを用いることが望ましい。3つのバッテリー30は直列に接続される(直列の端子電圧は72V)。なお、バッテリー30の上方には不図示の収納ケースを備え、バッテリー30のコントローラ(電圧均等装置)などの電子機器を収納する。バッテリー30のコントローラは、バッテリー30の微小な電圧の変動を補正するものである。
【0029】
そして、バッテリー30を上方から覆うようにカウル28を設ける。カウル28は強化プラスチック製で複雑な曲面形状を一体成形によって形成する。カウル28の上面には、座席載置部材(不図示)を介して運転席13を取り付ける。座席載置部材は、運転席13を運転者の好みに応じて前後方向にスライド可能とするものである。なお、カウル28の左側面には、給電口を設けて、バッテリー30を充電できるようにしてもよい。この場合、給電口にはプラグを備え、家庭の電源に接続した電気コードを差し込んで、バッテリー30を充電する。バッテリー30とプラグとの間にはACアダプタおよび充電装置を適宜備える。
【0030】
シャーシ27の下方には、走行用モータ31を備える。走行用モータ31は、左右の後輪12,12に対して1つずつ備える。なお、走行用モータ31は、インホイールモータを適用してもよい。走行用モータ31のモータドライバはバッテリー30上の収納ケース(不図示)に収納する。
【0031】
走行用モータ31のモータドライバは、走行操作レバー14の傾動量に応じて走行用モータ31の回転方向および回転速度を制御する。なお、モアモータ20の回転は、走行用モータ31の回転数と連動するように制御される。すなわち、走行スピードを速めると、モアブレードの回転数も速まり、走行スピードを落とすと、モアブレードの回転数も遅くなる。
【0032】
走行操作レバー14は傾動可能に設けられ、運転者が走行操作レバー14を前に倒すと走行用モータ31が前進方向に回転する。一方、走行操作レバー14が後に倒されると走行用モータ31は後進方向に回転する。さらに、走行操作レバー14の傾動度合いによって走行用モータ31の回転速度が変化する。すなわち、走行操作レバー14を大きく前(後)に倒すと、走行用モータ31が前進(後進)方向により早く回転し、走行操作レバー14を小さく前(後)に倒すと、走行用モータ31が前進(後進)方向にゆっくりと回転する。運転席13の左右に備える走行操作レバー14,14はそれぞれ左右の走行用モータ31,31の操作に対応している。したがって、運転者は、左右の走行操作レバー14,14を前後に適宜操作することで、前後進、左右折、旋回などを行うことができる。
【0033】
メインフレーム18の中央部付近の左右側面にはそれぞれ、ロック解除ペダル(ロック操作ペダル)33とデッキ昇降ペダル(昇降操作ペダル)34を回動自在に備える。ロック解除ペダル33は、デッキ昇降ペダル34の回動をロックしたり解除したりするためのものである。ロック解除ペダル33は、ペダル板に金属板製のブーメラン状のアーム部の一端を取り付け、そのアーム部の後端には、三角形状の爪部33Aを突設してなる。この爪部33Aにかみ合う歯車35をメインフレーム18に回動自在に取り付ける。詳しくは、回動軸29をメインフレーム18の左右方向に貫通して回動自在に設け、回動軸29の左端(すなわち、メインフレーム18の左外側)に歯車35の中心を固設する。また、回動軸29の中心付近(すなわち、メインフレーム18の内側)には、デッキアーム21Aの先端を固設する。
【0034】
なお、コイルバネ36の一端をロック解除ペダル33のアーム部の後部に取り付けるとともに、コイルバネ36の他端をメインフレーム18に(ブラケットを介して)取り付ける。このコイルバネ36の付勢力によって、ロック解除ペダル33はその爪部33Aが常時、歯車35にかみ合うようになっている。爪部33Aと歯車35とでロック手段を構成する(なお、図1,4では、爪部33Aが歯車35から外れた状態、すなわち、ロックが解除された状態を示している)。
【0035】
一方、デッキ昇降ペダル34は、モアデッキ15を下降させたり(芝刈状態)、上昇させたり(非芝刈状態)するためのものである。デッキ昇降ペダル34は、ペダル板に金属板製のブーメラン状のアーム部34Aの一端を取り付けてなる。そのアーム部34Aの途中には回動軸34Bを設ける。したがって、アーム部34Aは、回動軸34Bの回りに回動自在である。そして、アーム部34Aの後端には、ギア歯34Cを形成する。このギア歯34Cにかみ合うギア34Eを回動軸29の右端(すなわち、メインフレーム18の右外側)に固設する。このギア34Eは略扇形の鉄板で形成される。このようにして、ギア34E、回動軸29、歯車35は一体に回動する。
【0036】
モアデッキ15の取付構造について図6〜9を用いてさらに説明する。なお、2つのモアデッキ15,15の取付構造は、サブフレーム55に対して対称であるので、ここでは左側のモアデッキ15について説明する。モアデッキ15は略円形の金属製の深皿状に形成され、モアブレードを上方と側方より覆うように配置される。モアデッキ15の略中央部には、モアモータ20の出力軸を貫通させるための貫通孔を設ける。モアモータ20は、モアデッキ15の天部15Aの略中央に載置され、ボルトなどによって固定される。また、モアデッキ15内部に突出したモアモータ20の出力軸にはモアブレードの回転中心を連結する。モアモータ20の(電動ローンモア10の前後方向の)側面には、鉄製のパイプからなる支持棒(取付部材)40A,40Bをボルトなどで固設する。
【0037】
詳しくは、モアモータ20のケーシング(モータ本体を覆うケース)の側面に形成された平坦面状の取付部20Aと、支持棒40Aの後端部に形成された板状の取付部40AEとを合わせ、ボルトなどで両者を固定する。同様にして、モアモータ20の取付部20Aと、支持棒40Bの前端部に形成された板状の取付部40BEとを合わせ、ボルトなどで両者を固定する。
【0038】
支持棒40Aは直線状に形成され、その表面には、取付部40AEに隣接するようにステー(取付部材)43Aを設ける。ステー43Aは、圧縮バネであるコイルバネ(弾性部材)42Aの一端を取り付けるためのものである(コイルバネ42Aの他端は、後述するバネ支持ブラケット60に取り付ける)。ステー43Aは、1対の鉄片を所定の間隔をもって支持棒40Aに溶接などで固設されてなる。ステー43Aが支持棒40Aに当接する箇所は、ステー43Aの外周に沿うように円弧状に切り欠かれている。ステー43Aの中央部にはピンP5を嵌めつけるための貫通孔を形成する。ステー43Aには、バネ保持部材45をピンP5を介して回動自在に取り付ける。そして、コイルバネ42Aの下端をバネ保持部材45に嵌めつける。
【0039】
支持棒40Aの表面には、ステー43Aに隣接して規制部材41を設ける。規制部材41はモアデッキ15が回動する際、回動方向をガイドするものである。規制部材41は、その先端を支持棒40Aに溶接などで固定する。規制部材41は四角筒状の金属製フレームで形成され、支持棒40Aに固設する部分は、支持棒40Aの外周に沿うように円弧状に切り欠かれている(規制部材41の断面はその上下方向において支持棒40Aの断面よりも大きい)。
【0040】
規制部材41の略中央部分には幅方向両側に貫通孔を設け、ピンP1を嵌め付ける。このピンP1はピン受部材44に支持されている。ピン受部材44は、断面視U字状の鉄片で底面をモアデッキ15の天部15Aに溶接などで固定する。規制部材41は、支持棒40Aとモアデッキ15とを固定的に連結するためのものである(後述するように、規制部材41は、モアデッキ15を回動させる際のガイド部材としての役割もある)。
【0041】
そして、規制部材41の後端は、保持部50の上部に入り込んでいる(保持部50と規制部材41との間には一定の間隙が設けられている)。この保持部50は、サブフレーム55を挟んで反対側にあるモアユニットの支持棒40Bを取り付けるものである(保持部50の詳細については後述する)。
【0042】
モアモータ20に対して支持棒40Aと反対側に支持棒40Bを設ける。支持棒40Bは、その中央付近の屈曲部40B1にて略直角に2度屈曲してなる。すなわち、モアモータ20より水平に延出した支持棒40Bは、一旦、下方に屈曲し、その後、車幅方向の内側に向けて屈曲する。
【0043】
なお、支持棒40A,40Bの軸心線DL1は、メインフレーム18の延出方向(すなわち、電動ローンモア10の直進方向)と平行である。また、(電動ローンモア10が直進時の)ゲージホイール23の走行軌跡DL2(図6)は軸心線DL1と平行であり、かつ、電動ローンモア10の外側方向に距離Lだけ離れるように形成される。すなわち、ゲージホイール23は、モアデッキ15の前側で、かつ、モアモータ20の中心よりも外側に設けられる。なお、この例では、軸心線DL1は、モアモータ20の中心を通るように構成されているが、この発明はこれに限定されるものではない。
【0044】
支持棒40Bの表面には、取付部40BEに隣接するようにステー(取付部材)43Bを設ける。ステー43Bは、圧縮バネであるコイルバネ(弾性部材)42Bの一端を取り付けるためのものである(コイルバネ42Bの他端は、後述するバネ支持ブラケット61に取り付ける)。ステー43Bは、1対の金属片を所定の間隔をもって支持棒40Bに溶接などで固設されてなる。ステー43Bが支持棒40Bに当接する箇所は、ステー43Bの外周に沿うように円弧状に切り欠かれている。ステー43Bの中央部にはピンP5を嵌めつけるための貫通孔を形成する。ステー43Bには、バネ保持部材45をピンP5を介して回動自在に取り付ける。そして、コイルバネ42Bの下端をバネ保持部材45に当接させる。
【0045】
支持棒40Bの表面には、ステー43Bに隣接して固定部材46の先端を溶接などで固定する。固定部材46は四角筒状の金属製フレームで形成され、支持棒40Bに固設する部分は、支持棒40Bの表面に追随するように切り欠かれている(固定部材46の断面はその上下方向において支持棒40Bの断面よりも大きい)。支持棒40Bの後端部分には貫通孔を設け、ピンP3を嵌め付ける。このピンP3はピン受部材47に支持されている。ピン受部材47は、断面視U字状の金属片で底面をモアデッキ15の天部15Aに溶接などで固定する。固定部材46は、支持棒40Bとモアデッキ15とを固定的に連結するためのものである。
【0046】
支持棒40Bの後端部40BBは、保持部50内に回動自在に保持されている。保持部50は金属製で、横断面視において略U字状に形成される。保持部50の下部50Bは上部50Aに比べて幅が広くなっているとともに、切り欠き50Cが形成され、その切り欠き50Cの下端部の両側板間に金属製の丸棒55Bが渡されている。丸棒55Bの外周には回動筒55Cが回動自在に取り付けられている。支持棒40Bの後端部40BBは、回動筒55Cの表面に溶接などで固定されている(後端部40BBの端面を回動筒55Cの外周に沿うように切り欠いて溶接などで両者を固定する)。これによって、支持棒40Bは回動筒55Cの回動中心線CLを回動中心として上下方向に回動する。支持棒40Bはモアデッキ15に固設されているので、回動中心線CLがモアデッキ15が上方に回動する際の回動中心線ともなる。なお、車両の左右に備えるモアデッキ15,15はそれぞれのゲージホイール23,23が検出する走行面の起伏にしたがって独立に上下回動する。
【0047】
なお、保持部50の下端にはストッパー55STを設ける。これは、デッキ昇降ペダル34によってモアデッキ15を上昇させて、非芝刈位置とした場合に、コイルバネ42A,42Bの付勢力によってゲージホイール23が接地することを防止するためである。すなわち、モアデッキ15が所定角度以上下方に回動するのを規制するためのものである(この所定角度は適宜設定できるものとする)。
【0048】
保持部50の前部の下端に断面視にて矩形のストッパー55STを溶接などによって固設する。このストッパー55STは保持部50と溶接可能な金属を用い、かつ、モアユニットを固定している支持棒40Bを支えることができるだけの強度を有するものとする。
【0049】
丸棒55Bの一端は、サブフレーム(昇降手段)55の端部に取り付けられたリブ55Aの下端に溶接などによって固定される。一方、丸棒55Bと保持部50とはリング55Dを介して固定される。なお、丸棒55Bの軸芯とサブフレーム55の延出方向とは一致している。また、サブフレーム55の延出方向とメインフレーム18の延出方向とも一致している。これらはいずれも電動ローンモア10の前進方向である。丸棒55B、保持部50、リング55Dは全て金属製であり、丸棒55Bとリング55D、リング55Dと保持部50とがそれぞれ溶接などによって固定される。なお、サブフレーム55は金属製の角筒状に形成される。
【0050】
保持部50は、サブフレーム55の両端にそれぞれ備えられる。サブフレーム55上には、バネ支持ブラケット60,60を所定の間隔をもって備える(バネ支持ブラケット60,60は、サブフレーム55の長手方向の一方側と他方側とにそれぞれ張り出して設けられる)。バネ支持ブラケット60は、コイルバネ42Aの上端を保持するためのものであり、サブフレーム55に溶接などで固定される。バネ支持ブラケット60,60の間には、アームブラケット56,57を備える。アームブラケット56は、デッキアーム21Aの下端を回動自在にサブフレーム55に固定するためのものであり、アームブラケット57は、デッキアーム21Bの下端を回動自在にサブフレーム55に固定するためのものである。そして、アームブラケット56,57の間には、別のバネ支持ブラケット61,61を隣接して設ける(バネ支持ブラケット61,61は、サブフレーム55の長手方向の一方側と他方側とにそれぞれ張り出して設けられる)。バネ支持ブラケット61は、コイルバネ42Bの上端を保持するためのものである。
【0051】
アームブラケット56,57は、それぞれ金属板を幅方向に略直角に2回折り曲げて断面視が略門型(アーチ)状に形成される。そして、両側にピンP4を貫通させるための貫通孔を設ける。アームブラケット56,57は、それらの下端をサブフレーム55に溶接などで固定する。アームブラケット56には、その側面を外側からデッキアーム21Bの下端で覆い、両者をピンP4で取り付ける。なお、デッキアーム21Bは、アームブラケット56に対して回動自在である。アームブラケット57には、その側面を外側からデッキアーム21Aの下端で覆い、両者をピンP4で取り付ける。なお、デッキアーム21Aは、アームブラケット57に対して回動自在である。
【0052】
バネ支持ブラケット61は、アームブラケット56を挟んで反対側に設けられたバネ支持ブラケット60とは(サブフレーム55の長手方向に対して)逆側に張り出すように備える。同様に、バネ支持ブラケット61をアームブラケット57から一定の距離を隔ててサブフレーム55上に固設する。このバネ支持ブラケット61は、アームブラケット57を挟んで反対側に設けられたバネ支持ブラケット60とは(サブフレーム55の長手方向に対して)逆側に張り出すように備える。
【0053】
バネ支持ブラケット60とバネ支持ブラケット61は同一形状に形成される。バネ支持ブラケット60,61は、金属製のフレームで、側面視で略L字状に形成される(図9中では、アームブラケット56,57は省略している)。バネ支持ブラケット60,61の上端部には張出部60A,61Aを設ける。この張出部60A,61Aの両側には貫通孔を設け、ピンP2を嵌めつける。そして、バネ保持部材45を介してコイルバネ42Aの先端を張出部60Aに、コイルバネ42Bの先端を張出部60Bにそれぞれ取り付ける。
【0054】
バネ保持部材45は金属製で、円筒部45A、連結部45B、台座部45C、ガイド部45Dからなり、これらは一体に形成される(図9)。円筒部45Aには、ピンP2(またはピンP5)を貫通させて、バネ保持部材45をバネ支持ブラケット61(またはステー43B)に回動自在に取り付けるためのものである(バネ保持部材45の後端部とピンP2との間には一定の隙間がある)。連結部45Bは円筒状の円筒部45Aと円板状の台座部45Cとを連結するためのものである。台座部45Cはコイルバネ42Bの端部を当接させるためのものであり、その直径は、コイルバネ42Bの外径以上であることが望ましい。ガイド部45Dは円柱状に形成され、コイルバネ42Bの内側に挿入してコイルバネ42Bの円心がずれるのを内側より防止するためのものである。ガイド部45Dの軸芯は台座部45Cの中心と合わせるようにする。また、ガイド部45Dの外径は、コイルバネ42Bの内径よりも小さくする。
【0055】
ところで、ゲージホイール23は芝を刈る状態(芝刈位置)では、常に走行面に接地している。コイルバネ42A,42Bは、ゲージホイール23が走行面の小さな凹凸に出くわしたときにも、跳ねることなく常に接地するようにモアデッキ15(およびゲージホイール23)を路面に対して押し当てるように機能する。したがって、モアデッキ15のゲージホイール23が平坦面に接地した状態でコイルバネ42A,42Bは圧縮された状態にある。なお、コイルバネ42A,42Bのバネ定数は同じであることが望ましい。
【0056】
なお、モアデッキ15のゲージホイール23は芝刈りを行う際には接地しており、走行面の起伏に追随して上下動する。ゲージホイール23はモアデッキ15の前部の外側寄りに固設されているとともに、支持棒40Bの端部にある丸棒55Bに回動自在に取り付けられている。したがって、図10に示すように、モアデッキ15は、ゲージホイール23の上下動に応じて、従動的に上下回動する。なお、モアデッキ15の回動中心は、丸棒55Bの回動中心線CLである。モアデッキ15が上方に向けて回動するときは、コイルバネ42A,42Bはさらに圧縮され、モアデッキ15が下方に向けて回動するときは、コイルバネ42A,42Bは伸張する。
【0057】
図11,12に示すように、この例のモアデッキ15は、コイルバネ42A,42Bの一端をモアモータ20の前後の側面に隣接して備えてなる。モアモータ20は、幅Lm、高さHmの略円柱形状に形成される。前述のように、コイルバネ42Aの一端はステー43Aに取り付けられる。ステー43Aは支持棒40A上に、かつ、モアモータ20の前側面に隣接するように固設される。支持棒40Aの後端部には、前述のように矩形の板状の取付部40AEが固設されている。支持棒40Aは、その中心がモアモータ20の中央と略一致するようにモアモータ20に取り付けられる。一方、コイルバネ42Bの一端はステー43Bに取り付けられる。ステー43Bは支持棒40B上に、かつ、モアモータ20の後側面に隣接するように固設される。支持棒40Bの前端部には、前述のように矩形の板状の取付部40BEが固設されている。支持棒40Bは、その中心がモアモータ20の中央と略一致するようにモアモータ20に取り付けられる。
【0058】
支持棒40A,40Bは、それらの中心線DL1が一致するとともにモアモータ20の中心を通るように配置される。また、中心線DL1はサブフレーム55の長手方向CLと一致する(サブフレーム55の長手方向CLはメインフレーム18の長手方向とも一致している)。一方、コイルバネ42A,42Bは、それらの伸縮方向の中心線DX1が中心線DL1と直行するように配置される。
【0059】
ところで、図13(a)に示すように、モアユニット(モアデッキ15、モアブレード、モアモータ20)は、その合計重量が重いことから慣性力(運動エネルギー)が大きい。このため、電動ローンモア10が走行しながら草刈作業を行う際、急激な起伏の変化、特に、隆起を乗り越える場合には、その急な凸地形に追随することができずにモアデッキ15が跳ねてしまうことが予想される。すなわち、急な凸地形の頂部を乗り越えて急な下降にさしかかるとき、モアユニットは急な凸地形を上昇する際の慣性力Iを保持したままでいるため、モアユニットは地形の変化に追随できず、浮き上がってしまう。これを防ぐために圧縮バネであるコイルバネ42A,42Bを配置して、モアデッキ15を上方から走行面に向けて常に押し付けている。すなわち、コイルバネ42A,42Bは急激な起伏の変化が起こった際のモアユニットの慣性力Iを打ち消すためのものである。したがって、コイルバネ42A,42Bのバネ定数は、モアユニットの重量、電動ローンモア10の走行速度、想定される隆起の角度などをもとにして設定される必要がある。
【0060】
また、モアユニットの構成要素のうち、モアモータ20は重量がもっともかさむものである。さらに、モアモータ20をモアデッキ15の天板の略中央に載置し、モアモータ20の出力軸にモアブレードを取り付けていることから、モアユニットの重量Mgがかかる重心はモアモータ20付近にあるといってよい。したがって、モアユニットの慣性力Iを打ち消すためには、モアモータ20の近傍にコイルバネ42A,42Bを配置することが効果的である(すなわち、小さいバネ定数で慣性力Iを打ち消す効果を得ることができる)。このような観点から、この例では、コイルバネ42A,42Bの下端をモアモータ20の前後に隣接して配置している。
【0061】
一方、コイルバネ42A,42Bの上端の高さには次のような制限がある。図13(b)に示すように、コイルバネ42Bは水平から角度αだけ上向きに取り付けられている(なお、コイルバネ42Aとバネ支持ブラケット60との関係も同様である)。コイルバネ42Bはこの方向に沿ってモアデッキ15を付勢力Fで押す。すると、モアデッキ15は丸棒55Bを回動支点として図中で反時計回りに押される(実際にはゲージホイール23が走行面Gに押しあてられることによってモアデッキ15の回動は抑止されている)。したがって、付勢力Fがモアデッキ15に及ぼされる角度αが90度に近いほど(すなわち、付勢力Fが走行面Gに垂直に近いほど)小さい付勢力Fで効果的にモアユニットの慣性力を打ち消すことができるといえる(角度αが90度に近くなるほど、バネ定数の小さいコイルバネを使用することが可能となる)。このような観点から、コイルバネ42Bと走行面Gとのなす角度αをできるだけ大きくして取り付けることが望ましい。
【0062】
角度αをできるだけ大きくした状態でモアデッキ15上に配置するためには、コイルバネ42Bの上端と下端との水平距離Dを短くする必要がある。これを実現する一つとしてコイルバネ42Bの上端の水平位置を下端側に近づける方法がある。すなわち、バネ支持ブラケット61の張り出し量を大きくすることである。しかし、このようにすると、モアデッキ15が上方へ回動する際に、張り出した支持ブラケット61がモアモータ20などと干渉してしまう恐れがある。したがって、この例では、ステー43Bを用いてコイルバネ42Bの下端の水平位置を上端側に近づけるようにしている。
【0063】
ところで、コイルバネ42Bの下端をモアモータ20の天面に取り付ける方法も考えられる。しかし、このようにすると、コイルバネ42Bの下端の設置高さが高くなってしまう。コイルバネ42Bには、前述のように付勢力Fを及ぼす角度αを大きく確保する必要があるので、バネ支持ブラケット61の高さが高くなってしまうことになる。バネ支持ブラケット61の上端の高さがメインフレーム18の上端の高さを越えると、運転者の足元にバネ支持ブラケット61の上端が及んでしまい、操作性を低下させたり、運転者がバネ支持ブラケット61の上端に足を引っ掛けたりして危険であるという問題が生じる。
【0064】
したがって、バネ支持ブラケット61の上端の高さが高くなると、それに応じてメインフレーム18の高さも高くすることとなる。メインフレーム18の高さが高くなると、運転席13などの位置も高くなってしまい、全体として電動ローンモア10の重心を高くしてしまう。電動ローンモア10の重心が高くなると、走行の安定性を低下させてしまう。したがって、コイルバネ42Bの下端はできるだけ低い位置にあることが望ましい。このような観点から、この例では、コイルバネ42A,42Bの下端を側面視でモアモータ20の高さ方向の中央付近に配置している。
【0065】
このように構成された電動ローンモア10を用いて芝を刈る方法を図1〜13を参照しつつ、図14を用いて説明する。まず、モアデッキ15を芝刈状態とするために、デッキ昇降ペダル34に右足を置く。次に、ロック解除ペダル33を左足で踏み込む。すると、ロック解除ペダル33はコイルバネ36の付勢力に抗して前方に回動する。これによって、爪部33Aが歯車35から外れ、ロックが解除される。デッキ昇降ペダル34に足をかけた状態を保持すると、モアユニットの自重によって回動軸29が前方に向けて回動し、デッキアーム21Aが下降する。これによって、デッキアーム21Aの後端と連結されたモアデッキ15も下降する。ゲージホイール23が接地するまでモアデッキ15を下降させたらロック解除ペダル33から足を離す。すると、コイルバネ36の付勢力によってロック解除ペダル33が回動し、爪部33Aが歯車35とかみ合い、回動軸29の回動がロックされる。これによって、モアデッキ15が芝刈状態となる。そして、デッキ昇降ペダル34から右足を離す。
【0066】
次に、電動ローンモア10で芝の刈り取りを行う様子を図14(a)〜(d)を用いて説明する。平坦な地面Gの芝を刈り取るときは、左右のモアデッキ15,15のゲージホイール23,23は同一高さであり、左右のモアデッキ15,15も水平に保持されて芝を刈る(図14(a))。車両前部の左側が隆起を乗り越える場合には、左側のゲージホイール23が走行面の隆起を検出し、前側の隆起した地面GFに追随して上昇する(図14(b))。これによって、左側のモアデッキ15が保持部50の回動中心線CLを基準として上側に向けて回動する(符号GBは左右両側の後輪12が走行している平坦な路面を示す)。左側のモアデッキ15が上方に回動することで、このモアデッキ15に備える規制部材41の後端は、(右側のモアデッキ15の支持棒50Bと連結された)保持部50内を下方に向けて回動する。なお、モアデッキ15の回動の中心軸はメインフレーム18の延出方向(すなわち、電動ローンモア10の前進方向)である。
【0067】
左側のモアデッキ15のゲージホイール23が地面GFの隆起に追随することで、モアデッキ15と地面GFとの間の刈高さは所定の値に維持される。したがって、隆起した部分の芝の刈り高さが短くなることを防止することができる。
【0068】
なお、コイルバネ(弾性部材)42A,42Bがそれぞれモアモータ20の前後側面にステー(取付部材)43A,43Bを介して取り付けられているので、隆起に乗り上げる際に生じる、左側のモアユニット(モアデッキ15、モアブレード、モアモータ20)の上方に向かう慣性力を効果的に打ち消すことができる。
【0069】
次に、車両前部の右側が隆起を乗り越える場合には、右側のゲージホイール23が走行面の隆起を検出し、前側の隆起した地面GFに追随して上昇する(図14(c))。これによって、右側のモアデッキ15が(コイルバネ42A,42Bの付勢力に抗して)保持部50の回動中心線CLを基準として上側に向けて回動する(符号GBは左右両側の後輪12が走行している平坦な路面を示す)。右側のモアデッキ15が上方に回動することで、このモアデッキ15に備える規制部材41の後端は、(左側のモアデッキ15の支持棒50Bと連結された)保持部50内を下方に向けて回動する。なお、モアデッキ15の回動の中心軸はメインフレーム18の延出方向(すなわち、電動ローンモア10の前進方向)である。
【0070】
なお、この場合にも、コイルバネ42A,42Bがそれぞれモアモータ20の前後側面にステー43A,43Bを介して取り付けられているので、隆起に乗り上げる際に生じる、右側のモアユニットの上方に向かう慣性力を効果的に打ち消すことができる。
【0071】
さらに、電動ローンモア10の前部の右側に隆起、左側に窪みがある場合には(図14(d))、右側のゲージホイール23が走行面の隆起を検出し、前側の隆起した地面GFに追随して上昇する。これによって、右側のモアデッキ15が(コイルバネ42A,42Bの付勢力に抗して)保持部50の回動中心線CLを基準として上側に向けて回動する。同時に、左側のゲージホイール23が走行面の窪みを検出し、前側の窪んだ地面GFに追随して下降する。これによって、左側のモアデッキ15が保持部50の回動中心線CLを基準として下側に向けて回動する(符号GBは左右両側の後輪12が走行している平坦な路面を示す)。
【0072】
芝刈りを終えた後は、モアデッキ15を上昇させて、非芝刈状態とする。左足でロック解除ペダル33を踏み込んだ後、右足でデッキ昇降ペダル34を踏み込む。すると、回動軸29が後方に向けて回動し、デッキアーム21Aが上昇する。これによって、デッキアーム21Aの後端と連結されたモアデッキ15も上昇する。所望の高さまでモアデッキ15を上昇させたらロック解除ペダル33から左足を離す。すると、コイルバネ36の付勢力によってロック解除ペダル33が回動し、爪部33Aが歯車35とかみ合い、回動軸29の回動がロックされる。これによって、モアデッキ15が所望の高さに保持される。そして、デッキ昇降ペダル34から右足を離す。
【0073】
なお、ブラケット22や円筒部25の構造を変更し、車両の上下方向に高さ調節可能とすることで、ゲージホイール23の最下面とモアデッキ15の下面との高さ変更可能としてもよい。このようにすることで、芝の刈高さを調節することができる。
【0074】
図15〜18には、モアデッキの別の取付例を示す。この例では、コイルバネ(弾性部材)142の一端をモアモータ20の内側の側面に取り付けられる。モアモータ20は、モータ本体Mをケーシング20Cに内蔵してなる(このモアモータ20の構成は前述の例のものと同一である)。ケーシング20Cは、天板の付いた円筒状に形成され、その側面に4つの取付部20Aを備える(4つの側面はそれぞれケーシング20Cの中心に対して中心角90度を隔てて配置される)。また、取付部20Aは平坦状に形成される。ケーシング20Cの前側側面に形成された取付部20Aには、支持棒40Aを取付部40AEを介して取り付ける。一方、ケーシング20Cの後側側面に形成された取付部20Aには、支持棒40Bを取付部40BEを介して取り付ける。また、ケーシング20Cの内側(サブフレーム55側の)側面に形成された取付部20Aには、ブラケット(取付部材)100を介してコイルバネ142を取り付ける。なお、符号20Bはケーシング20Cをモアデッキ15にネジで固定するためのモータ取付片である。
【0075】
ブラケット100は、金属板の中央部に一対の矩形の金属片を平行に並べて固定してなる。それぞれの金属片の中央にはピンP6を貫通させるための貫通孔を形成する。そして、ピンP6をバネ保持部材45の円筒部45Aに通すことで、バネ保持部材45をブラケット100に回動自在に固定する(バネ保持部材45については前述)。このバネ保持部材45には、コイルバネ142の下端を当接させる。一方、コイルバネ142の上端は、バネ支持ブラケット160に取り付けられた別のバネ保持部材45に当接させる(この状態でコイルバネ142は圧縮されて設置される)。この例では、モアデッキ15を1つのコイルバネ142で下方に押している。したがって、前述の例と同程度の付勢力Fを生み出すには、コイルバネ142のバネ定数をコイルバネ42A,42Bのそれの2倍とする必要がある。
【0076】
なお、バネ支持ブラケット160の構成およびバネ保持部材45との取り付けは、前述のバネ支持ブラケット60と同一であるので説明を省略する。なお、前述の例と同様に、支持棒40A,40Bは、それらの中心線DL1が一致するとともにモアモータ20の中心を通るように配置される。また、中心線DL1はサブフレーム55の長手方向CLと一致する(サブフレーム55の長手方向CLはメインフレーム18の長手方向とも一致している)。また、コイルバネ142は、それらの伸縮方向の中心線DX2が中心線DL1と直行するように配置される。なお、符号160Aは、バネ支持ブラケット160の張出部である)。その他の構成は、前述の例と同様であるので説明を省略する。
【0077】
また、コイルバネ142をモアモータ20のケーシング20Cの内側側面にブラケット100を介して取り付けることで、前述のような課題、すなわち、(1)モアユニットの慣性力を打ち消すためのコイルバネをモアモータの近傍に配置すること、(2)前記コイルバネの上下端の高さをできるだけ低く抑えること、を解決することができ、前述の例と同様の効果を得ることができる。
【0078】
上述の例では、検出手段の一例としてゲージホイール23を用いたが、この発明はこれに限定されるものではなく、例えば、ローラなどであってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0079】
この発明の電動乗用草刈機は、芝刈りに限定されるものではなく、草を刈るためのあらゆる作業に適用しうる。
【符号の説明】
【0080】
10 電動ローンモア(電動乗用草刈機)
11 前輪
12 後輪
13 運転席
14 走行操作レバー
15 モアデッキ
15A 天部
18 メインフレーム(支持フレーム)
20 モアモータ
20A 取付部
20C ケーシング
21A,21B デッキアーム
22 ブラケット
23 ゲージホイール(補助車輪)
23A 車軸
24 補助前輪ブラケット
25 円筒部
27 シャーシ
29 回動軸
30 バッテリー
31 走行用モータ
33 ロック解除ペダル
33A 爪部
34 デッキ昇降ペダル
34A アーム部
34B 回動軸
34C ギア歯
34E ギア
35 歯車
36 コイルバネ
40A,40B 支持棒(取付部材)
40AE,40BE 取付部
42A,42B,142 コイルバネ(弾性部材)
43A,43B ステー(取付部材)
45 バネ保持部材
46 固定部材
50 保持部
55 サブフレーム(昇降手段)
55ST ストッパー
56,57 アームブラケット
60,61,160 バネ支持ブラケット
60A,61A,160A 張出部
100 ブラケット(取付部材)
M モータ本体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転して草を刈るモアブレードと、該モアブレードを上方および側方から覆う略深皿状のモアデッキと、該モアデッキ上の中央付近に配置されるとともに、前記モアブレードの回転軸に取り付けられたモアモータとで構成されるモアユニットと、
前記モアユニットを左右両側にそれぞれ上下回動可能に懸架し、かつ、直進方向に延設される支持フレームと、
前記モアデッキに取り付けられ、走行面の起伏を検出する検出手段とを備え、
該検出手段が検出した走行面の起伏に従って、それぞれの前記モアユニットが独立して上下に回動する電動乗用草刈機であって、
前記モアデッキと前記支持フレームとの間に前記モアユニットを昇降するための昇降手段を備えるとともに、前記モアユニットを下方に回動するように付勢する弾性部材を備え、
該弾性部材の一端を前記モアモータの側部近傍に取り付けるとともに前記弾性部材の他端を前記昇降手段に取り付けることを特徴とする、電動乗用草刈機。
【請求項2】
前記モアモータを覆うケーシングを備え、
該ケーシングに取付部材を介して前記弾性部材の一端を取り付けることを特徴とする、請求項1に記載の電動乗用草刈機。
【請求項3】
前記ケーシングの内側側面に前記取付部材を介して前記弾性部材を取り付けることを特徴とする、請求項2に記載の電動乗用草刈機。
【請求項4】
前記ケーシングの前後側面に前記取付部材を介して前記弾性部材をそれぞれ取り付けることを特徴とする、請求項2に記載の電動乗用草刈機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2012−29591(P2012−29591A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−170090(P2010−170090)
【出願日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【出願人】(000006781)ヤンマー株式会社 (3,810)
【Fターム(参考)】