説明

電動式直動アクチュエータおよび電動式ブレーキ装置

【課題】電動式ブレーキ装置に使用される電動式直動アクチュエータにパーキングブレーキ機能を持たせることである。
【解決手段】電動モータ2ロータ軸2aから回転を伝達される回転軸4の回転部位に、回転入力と回転出力を連結、遮断するクラッチ31と、クラッチ31を連結状態と遮断状態に切り替える連結遮断手段と、回転入力を溜める弾性部材としてのねじりコイルばね32と、ねじりコイルばね32に溜められた回転入力を保持する保持状態と、回転出力として解放する解放状態に切り替える保持解放手段と、連結遮断手段と保持解放手段を作動するアクチュエータとしてのソレノイド34とからなり、連結遮断手段を連結状態に作動して保持解放手段を解放状態に作動したときに、ねじりコイルばね32に溜められた回転入力を回転出力として回転軸4に付与する別途の回転付与機構30を設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動モータの回転運動を直線運動に変換して被駆動物を直線駆動する電動式直動アクチュエータと、電動式直動アクチュエータを用いてブレーキ部材を被制動部材に押圧する電動式ブレーキ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電動モータの回転運動を直線運動に変換して被駆動物を直線駆動する電動式直動アクチュエータには、電動モータのロータ軸またはロータ軸から回転を伝達される回転部材の回転運動を、滑りねじ機構、ボールねじ機構、ボールランプ機構等の運動変換機構によって、回転の軸線方向に駆動される出力部材の直線運動に変換するものがある。これらの電動式直動アクチュエータは、小容量の電動モータで大きな直線駆動力が得られるように、遊星歯車減速機構等の歯車減速機構を組み込んだものが多い(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
本発明者らは、別途の減速機構を組み込むことなく大きな直線駆動力を確保でき、直動ストロークが比較的小さい電動式ブレーキ装置にも好適な電動式直動アクチュエータとして、電動モータのロータ軸またはロータ軸から回転を伝達される回転軸のいずれかの回転軸部材と、回転軸部材の外径側でハウジングの内径面に内嵌された外輪部材との間に、キャリヤに回転自在に支持された複数の遊星ローラを介在させて、これらの遊星ローラが回転軸部材の回転に伴ってその周りを自転しながら公転するようにし、外輪部材の内径面に螺旋凸条を設け、遊星ローラの外径面に、螺旋凸条と同一ピッチで螺旋凸条が嵌まり込む周方向溝、または螺旋凸条と同一ピッチでリード角が異なり螺旋凸条が嵌まり込む螺旋溝を設けて、外輪部材とキャリヤとが回転の軸線方向へ相対移動するようにし、回転軸部材の回転運動をキャリヤの直線運動に変換して、キャリヤを被駆動物を直線駆動する出力部材とした機構を先に開発している(例えば、特許文献2、3参照)。また、外輪部材を被駆動物を直線駆動する出力部材とした機構も提案している(特願2008−260547)。
【0004】
一方、車両用ブレーキ装置としては油圧式のものが多く採用されてきたが、近年、ABS(Antilock Brake System)等の高度なブレーキ制御の導入に伴い、これらの制御を複雑な油圧回路なしに行うことができる電動式ブレーキ装置が注目されている。電動式ブレーキ装置は、ブレーキペダルの踏み込み信号等で電動モータを作動させ、上述したような電動式直動アクチュエータをキャリパボディに組み込んでブレーキ部材を被制動部材に押圧するものである(例えば、特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平6−327190号公報
【特許文献2】特開2007−32717号公報
【特許文献3】特開2007−37305号公報
【特許文献4】特開2003−343620号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1乃至3等に記載されたような、電動モータの回転運動を直線運動に変換して被駆動物を直線駆動する電動式直動アクチュエータを自動車のサービスブレーキとして使用する場合は、パーキングブレーキを別途に設ける必要があった。このため、ブレーキ装置全体をコンパクトに設計できるように、パーキングブレーキ機能を有する電動式直動アクチュエータを備えた電動式ブレーキ装置が要望されている。
【0007】
そこで、本発明の課題は、電動式ブレーキ装置に使用される電動式直動アクチュエータにパーキングブレーキ機能を持たせることである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明は、電動モータのロータ軸またはロータ軸から回転を伝達される回転部材の回転運動を、回転の軸線方向に駆動される出力部材の直線運動に変換する運動変換機構を備えた電動式直動アクチュエータにおいて、前記ロータ軸もしくは前記回転部材、または前記ロータ軸から回転部材へ回転を伝達する回転伝達部材のいずれかの回転部位に、回転入力と回転出力を連結、遮断するクラッチと、前記クラッチを連結状態と遮断状態に切り替える連結遮断手段と、前記回転入力を溜める弾性部材と、前記弾性部材に溜められた回転入力を保持する保持状態と、前記回転出力として解放する解放状態に切り替える保持解放手段と、前記連結遮断手段を作動する連結遮断アクチュエータと、前記保持解放手段を作動する保持解放アクチュエータとからなり、前記連結遮断手段を連結状態に作動して前記保持解放手段を解放状態に作動したときに、前記弾性部材に溜められた回転入力を回転出力として前記回転部位に付与する別途の回転付与機構を設けた構成を採用した。
【0009】
すなわち、ロータ軸もしくは回転部材、またはロータ軸から回転部材へ回転を伝達する回転伝達部材のいずれかの回転部位に、回転入力と回転出力を連結、遮断するクラッチと、クラッチを連結状態と遮断状態に切り替える連結遮断手段と、回転入力を溜める弾性部材と、弾性部材に溜められた回転入力を保持する保持状態と、回転出力として解放する解放状態に切り替える保持解放手段と、連結遮断手段を作動する連結遮断アクチュエータと、保持解放手段を作動する保持解放アクチュエータとからなり、連結遮断手段を連結状態に作動して保持解放手段を解放状態に作動したときに、弾性部材に溜められた回転入力を回転出力として回転部位に付与する別途の回転付与機構を設けることにより、この回転付与機構から回転部位に付与される回転を出力部材の直線運動に変換して、電動式ブレーキ装置に使用されるときにパーキングブレーキ機能を持たせることができるようにした。
【0010】
前記連結遮断アクチュエータと前記保持解放アクチュエータを電動式のアクチュエータとすることにより、駆動源を電源のみとすることができる。
【0011】
前記連結遮断アクチュエータと前記保持解放アクチュエータとの少なくともいずれかの電動式のアクチュエータを作動する電気系統を、前記電動モータを作動する電気系統と別に設けることにより、電動モータのバッテリや制御回路等の電気系統にトラブルが生じても、前記電動式のアクチュエータを作動させることができ、前記パーキングブレーキ機能を非常用ブレーキとして使用することもできる。
【0012】
前記連結遮断アクチュエータと前記保持解放アクチュエータを共通のアクチュエータとすることにより、アクチュエータの個数を減らして、コンパクトに設計することができる。
【0013】
前記クラッチは、内輪と外輪の間に配列された係合子としてのころを、前記内輪と外輪の間でくさび面に係合させるものとすることができる。
【0014】
前記弾性部材は、ねじりコイルばね、定荷重ばねまたは渦巻きばねのいずれかとすることができる。
【0015】
前記保持解放アクチュエータをソレノイドとすることにより、保持解放アクチュエータの応答性を高くして、弾性部材に溜められた回転入力を迅速に解放し、パーキングブレーキ機能を速やかに作用させることができる。ソレノイドはリニヤ型でもロータリ型でもよい。
【0016】
前記ソレノイドを、通電を止めたときにも吸引力を保持する自己保持型のものとすることにより、弾性部材に溜められた回転入力を保持するときの通電を不要とし、電力を節約することができる。なお、自己保持型のソレノイドは、電磁石のほかに永久磁石を組み込み、電磁石でプランジャを吸引し、吸引後は永久磁石でプランジャを吸着保持するものである。
【0017】
前記別途の回転付与機構を前記ロータ軸から回転を伝達される回転部材の回転部位に設けることにより、回転付与機構が付与する回転出力を運動変換機構に直接伝達することができ、伝達エネルギロスを少なくすることができる。
【0018】
前記運動変換機構を、前記ロータ軸またはロータ軸から回転を伝達される前記回転部材としての回転軸のいずれかの回転軸部材と、この回転軸部材の外径側でハウジングの内径面に内嵌された外輪部材との間に、キャリヤに回転自在に支持された複数の遊星ローラを介在させて、これらの遊星ローラが前記回転軸部材の回転に伴ってその周りを自転しながら公転するようにし、前記外輪部材の内径面に螺旋凸条を設け、前記遊星ローラの外径面に、螺旋凸条と同一ピッチで螺旋凸条が嵌まり込む周方向溝、または螺旋凸条と同一ピッチでリード角が異なり螺旋凸条が嵌まり込む螺旋溝を設けて、前記外輪部材と前記キャリヤとを回転の軸線方向へ相対移動させ、前記回転軸部材の回転運動を前記出力部材としての前記外輪部材または前記キャリヤの直線運動に変換するものとすることにより、別途の減速機構を組み込むことなく大きな直線駆動力を確保することができる。
【0019】
また、本発明は、電動モータの回転運動を出力部材の直線運動に変換してブレーキ部材を直線駆動する電動式直動アクチュエータを備え、前記直線駆動されるブレーキ部材を被制動部材に押圧する電動式ブレーキ装置において、前記電動式直動アクチュエータに上述したいずれかの電動式直動アクチュエータを用い、前記別途の回転付与機構で付与される回転を前記出力部材の直線運動に変換する構成を採用することにより、回転付与機構から回転部位に付与される回転を出力部材の直線運動に変換して、パーキングブレーキ機能を持たせることができるようにした。
【発明の効果】
【0020】
本発明の電動式直動アクチュエータは、ロータ軸もしくは回転部材、またはロータ軸から回転部材へ回転を伝達する回転伝達部材のいずれかの回転部位に、回転入力と回転出力を連結、遮断するクラッチと、クラッチを連結状態と遮断状態に切り替える連結遮断手段と、回転入力を溜める弾性部材と、弾性部材に溜められた回転入力を保持する保持状態と、回転出力として解放する解放状態に切り替える保持解放手段と、連結遮断手段を作動する連結遮断アクチュエータと、保持解放手段を作動する保持解放アクチュエータとからなり、連結遮断手段を連結状態に作動して保持解放手段を解放状態に作動したときに、弾性部材に溜められた回転入力を回転出力として回転部位に付与する別途の回転付与機構を設けたので、この回転付与機構から回転部位に付与される回転を出力部材の直線運動に変換して、電動式ブレーキ装置に使用されるときにパーキングブレーキ機能を持たせることができる。
【0021】
また、本発明の電動式ブレーキ装置は、電動式直動アクチュエータに上述したいずれかの電動式直動アクチュエータを用い、別途の回転付与機構で付与される回転を出力部材の直線運動に変換するようにしたので、パーキングブレーキ機能を持たせることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】電動式直動アクチュエータの実施形態を示す縦断面図
【図2】図1のII−II線に沿った断面図
【図3】図1のIII−III線に沿った断面図
【図4】(a)、(b)は、それぞれ図1の外輪部材の螺旋凸条と遊星ローラの螺旋溝を示す正面図
【図5】図1の回転付与機構を拡大して示す縦断面図
【図6】図5のVI−VI線に沿った断面図
【図7】図5のVII−VII線に沿った断面図
【図8】(a)、(b)は、それぞれ図5の連結遮断レバーを遮断状態、保持解放レバーを保持状態としたときのVa−Va線とVb−Vb線に沿った断面図
【図9】図8(a)、(b)の状態での図6のクラッチを示す断面図
【図10】(a)、(b)は、それぞれ図5の連結遮断レバーを連結状態、保持解放レバーを解放状態としたときのVa−Va線とVb−Vb線に沿った断面図
【図11】図10(a)、(b)の状態での図6のクラッチを示す断面図
【図12】図1の電動式直動アクチュエータを採用した電動式ブレーキ装置を示す縦断面図
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面に基づき、本発明の実施形態を説明する。この電動式直動アクチュエータは、図1乃至図3に示すように、ハウジング1の円筒部1aの一端側に片側へ張り出すフランジ1bが設けられ、このフランジ1bに電動モータ2が円筒部1aと平行に取り付けられている。電動モータ2のロータ軸2aの回転は、歯車3a、3b、3cによって円筒部1aの中心に配設された回転軸4に伝達され、円筒部1aの内径面に内嵌された外輪部材5と回転軸4との間に介在する4個の遊星ローラ6が、キャリヤ7に回転自在に支持されて、回転軸4の回転に伴ってその周りを自転しながら公転し、後述する外輪部材5の螺旋凸条5aと遊星ローラ6の螺旋溝6aとの係合によって、遊星ローラ6を支持するキャリヤ7と外輪部材5とが軸線方向へ相対移動する運動変換機構を備えている。この実施形態では、キャリヤ7の軸方向移動が規制され、直線運動する外輪部材5が出力部材として被駆動物を直線駆動するようになっている。
【0024】
前記ハウジング1のフランジ1bを設けた側には蓋8が取り付けられ、蓋8で覆われた空間に、歯車3a、3b、3cが軸方向同一断面内で噛み合うように配設されるとともに、後述する回転付与機構30が設けられている。歯車3aはロータ軸2aに、歯車3cは回転軸4に取り付けられ、これらと噛み合う中間歯車3bは、フランジ1bと蓋8に差し渡された軸ピン9に玉軸受10で支持されている。
【0025】
前記回転軸4にロータ軸2aからの回転を伝達する歯車3cと、回転軸4に転接する遊星ローラ6との間には、回転軸4を支持するための軸受固定部材11が、ハウジング1の円筒部1aの内径面に止め輪12で固定されている。軸受固定部材11は、円筒部1aの内径面に固定された円環部11aと、その内径側で遊星ローラ6側へ張り出す円筒部11bとからなり、円環部11aと円筒部11bの内径面に、回転軸4を回転自在に支持する2つのアンギュラ玉軸受13a、13bが、互いに背面を向けるように軸方向で離間されて取り付けられている。
【0026】
前記キャリヤ7は、回転軸4にそれぞれすべり軸受14a、14bでスライド可能かつ相対回転可能に外嵌されたキャリヤ本体7aおよび支持板7bと、離間したキャリヤ本体7aと支持板7bに両端部を支持され、遊星ローラ6を回転自在に支持する支持ピン7cと、支持板7bをキャリヤ本体7aに位相合わせして連結する複数の連結棒7dとからなり、各連結棒7dの両端部はボルト7eでキャリヤ本体7aと支持板7bに連結されている。各支持ピン7cは、その両端側をキャリヤ本体7aと支持板7bとに設けられた半径方向の長孔15に、円周方向への移動を規制され、半径方向への移動を許容されて取り付けられている。
【0027】
前記各支持ピン7cの両端部の外径面には溝16が設けられ、円周方向の一部を切り欠いたばね鋼で形成された縮径リングばね17が、各溝16に嵌め込まれて、各支持ピン7cを包絡するように巻回されて装着されている。したがって、各支持ピン7cに回転自在に支持された各遊星ローラ6が回転軸4の外径面に押圧付勢され、回転軸4の回転トルクが安定して各遊星ローラ6に伝達される。
【0028】
前記各遊星ローラ6は、内径面に装着された針状ころ軸受18でキャリヤ7の支持ピン7cに回転自在に支持され、その自転をスラストころ軸受19でキャリヤ本体7aに支持されている。また、隣接する各遊星ローラ6間には、両側の遊星ローラ6の外径面に摺接してグリースを塗布する扇形状の潤滑剤塗布部材20が、キャリヤ7の連結棒7dと外輪部材5の内径面との間に保持されている。
【0029】
前記キャリヤ7のキャリヤ本体7aは、サポート部材7fを介してスラストころ軸受21で、軸受固定部材11の円環部11aに回転自在に支持されている。また、遊星ローラ6に対して反対側の支持板7bは、すべり軸受22を介して止め輪23で回転軸4に抜け止めされており、キャリヤ7の軸方向への移動が規制されている。
【0030】
前記出力部材としての外輪部材5は、ハウジング1の円筒部1aにスライド可能に内嵌され、被駆動物に連結されて回り止めするキー24が前端面に設けられている。また、外輪部材5の外径側は、円筒部1aとの間を環状のシール部材25でシールされ、外輪部材5の内径側は、キャリヤ7の支持板7bに内嵌された回転軸4の端を覆うように、膜状のシール部材26でシールされている。
【0031】
図4(a)、(b)に示すように、前記外輪部材5の内径面には2条の螺旋凸条5aが設けられ、遊星ローラ6の外径面には、螺旋凸条5aが嵌まり込み、螺旋凸条5aと同一ピッチでリード角の異なる1条の螺旋溝6aが設けられている。これらの螺旋凸条5aと螺旋溝6aの係合によって、回転軸4の周りを自転しながら公転する遊星ローラ6が、螺旋凸条5aと螺旋溝6aとのリード角の差で、外輪部材5と軸方向へ相対移動する。なお、外輪部材5の螺旋凸条5aを2条の多条螺旋としたのは、遊星ローラ6の螺旋溝6aとのリード角の差の設定自由度を大きくするためであり、螺旋凸条5aは1条のものとしてもよい。また、遊星ローラ6の螺旋溝6aは、螺旋凸条5aと同一ピッチの周方向溝とすることもできる。
【0032】
図5に示すように、前記回転付与機構30は、蓋8の内面側に設けられた円筒部8aに挿入された回転軸4の延長部4aに、後述する回転入力と回転出力を連結、遮断するクラッチ31と、回転入力を溜める弾性部材としてのねじりコイルばね32と、クラッチ31を連結状態と遮断状態に切り替える連結遮断手段を構成する連結遮断レバー33aと、ねじりコイルばね32に溜められた回転入力を保持する保持状態と、回転出力として解放する解放状態に切り替える保持解放手段を構成する保持解放レバー33bと、連結遮断レバー33aを作動する連結遮断アクチュエータと、保持解放レバー33bを作動する保持解放アクチュエータを兼ねたリニヤ型のソレノイド34とからなる。
【0033】
前記ソレノイド34は円筒部8aの外側に固定され、電動モータ2とは別の電気系統で作動されるようになっている。また、ソレノイド34に連結された連結遮断レバー33aと保持解放レバー33bは、円筒部8aに設けられた切欠き部8bから円筒部8aの中に挿入されている。
【0034】
図5および図6に示すように、前記クラッチ31は、円筒部8aの内径面に軸受35で回転自在に支持された外輪36と、内輪となる回転軸4の延長部4aとの間に、係合子としてのころ37を保持器38で保持して、外輪36の内径面に設けられたカム面36aに係合させるものであり、外輪36に取り付けられたセンタリングばね39によって、各ころ37がカム面36aの逃げる中央位置に来るように保持器38が付勢されている。
【0035】
前記外輪36の外端側には、保持器38の外端側への移動を規制する内向きの鍔36bが設けられ、内端側には、後述するように保持解放レバー33bが噛み合うラチェット歯車36cが設けられている。また、保持器38の内端側には、後述するように連結遮断レバー33aが押圧される大径部38aが設けられ、この大径部38aがすべり軸受40を介して、蓋8の円筒部8aの内端部に取り付けられた止め輪41によって、内端側への移動を規制されている。
【0036】
図7に示すように、前記ねじりコイルばね32は、一端側が蓋8の円筒部8aに固定され、他端側がクラッチ31の外輪36に取り付けられており、外輪36が時計回りに回転すると回転入力が溜められるようになっている。
【0037】
図5および図8(a)、(b)に示すように、前記連結遮断レバー33aと保持解放レバー33bは、回転自在な支持軸42に取り付けられ、保持解放レバー33bの基端がソレノイド34のプランジャ34aの延長部材34bにピン34cで連結されており、ソレノイド34を作動することにより、連結遮断レバー33aと保持解放レバー33bが支持軸42の回りに一体で回動するようになっている。図示は省略するが、ソレノイド34は、電磁石のほかに永久磁石を組み込んだ自己保持型のものとされ、プランジャ34aを吸引した状態で通電を止めても、プランジャ34aが永久磁石で吸着保持されるようになっている。
【0038】
図8(a)、(b)は、前記ソレノイド34のプランジャ34aを吸引して、連結遮断レバー33aを遮断状態、保持解放レバー33bを保持状態とした場合であり、連結遮断レバー33aが保持器38の大径部38aから離反するように回動するとともに、保持解放レバー33bが外輪36のラチェット歯車36cと噛み合うように回動している。図8(b)の保持解放レバー33bは左側からラチェット歯車36cと噛み合っており、ラチェット歯車36cは反時計回りの回転を拘束され、時計回りには回転可能になっている。したがって、外輪36の時計回りの回転によってねじりコイルばね32に溜められた回転入力を保持することができる。
【0039】
図9に示すように、前記連結遮断レバー33aが遮断状態のときは、クラッチ31の保持器38が連結遮断レバー33aで拘束されないので、センタリングばね39によってころ37がカム面36aの中央位置に来るように付勢され、ころ37がカム面36aと係合せずに、クラッチ31の内輪としての回転軸4の延長部4aのみが回転する。この実施形態では、回転軸4が反時計回りに回転するときに、出力部材としての外輪部材5が前進するようになっており、電動モータ2によって回転軸4を反時計回りに駆動すると、クラッチ31が切の状態で回転軸4のみが回転し、電動式ブレーキ装置等の被駆動部材をブレーキが作動するように押圧する。
【0040】
図10(a)、(b)は、前記ソレノイド34のプランジャ34aを押し出して、連結遮断レバー33aを連結状態、保持解放レバー33bを解放状態とした場合であり、連結遮断レバー33aが保持器38の大径部38aの外径面を押圧するように回動するとともに、保持解放レバー33bが外輪36のラチェット歯車36cから逃げるように回動して、前記ねじりコイルばね32に外輪36の時計回りの回転で溜められた回転入力が、外輪36の反時計回りの回転出力として解放されるようになっている。
【0041】
図11に示すように、前記連結遮断レバー33aが連結状態のときは、クラッチ31の保持器38が連結遮断レバー33aで拘束されるので、外輪36が回転出力を解放するように反時計回りに回転すると、保持器38がセンタリングばね39の付勢に打ち勝って、外輪36に対して時計回りに相対回転し、ころ37がカム面36aと係合してクラッチ31が入となる。したがって、回転出力を解放する外輪36の反時計回りの回転が回転軸4の延長部4aに伝達され、出力部材としての外輪部材5が前進して被駆動部材を押圧し、電動式ブレーキ装置に使用されたときにパーキングブレーキ機能を発揮する。
【0042】
前記ねじりコイルばね32に回転入力を溜めるときは、図11に示したように、クラッチ31が入の状態で、図8(a)、(b)に示したように、連結遮断レバー33aを遮断状態、保持解放レバー33bを保持状態とし、回転軸4を電動モータ2で時計回りに回転駆動することにより、ラチェット歯車36cに保持解放レバー33bを噛み合わせた状態で外輪36を時計回りに回転させて、ねじりコイルばね32に回転入力を溜めることができる。溜められた回転入力は、保持解放レバー33bによるラチェット歯車36cの反時計回りの係止によって保持される。なお、入状態となったクラッチ31は、つぎに回転軸4を時計回りに回転駆動するときに、ころ37がカム面36aから離脱して切状態となる。
【0043】
図12は、上述した電動式直動アクチュエータを採用した電動式ブレーキ装置を示す。この電動式ブレーキ装置は、キャリパボディ51の内部で被制動部材としてのディスクロータ52の両側に、ブレーキ部材としてのブレーキパッド53を対向配置したディスクブレーキであり、キャリパボディ51に電動式直動アクチュエータのハウジング1が固定され、出力部材としての外輪部材5が左方へ直線運動するときに、被駆動物としてのブレーキパッド53をディスクロータ52に押圧するように直線駆動する。なお、この図では、電動式直動アクチュエータが図1で示した断面と直交する断面で示されている。
【0044】
上述した実施形態では、回転付与機構を電動モータのロータ軸から回転を伝達される回転軸の回転部位に設けたが、回転付与機構はロータ軸やロータ軸の回転を回転軸に伝達する歯車等の回転伝達部材の回転部位に設けることもできる。
【0045】
上述した実施形態では、回転付与機構の連結遮断アクチュエータと保持解放アクチュエータを兼用のリニヤ型のソレノイドとしたが、これらのアクチュエータはロータリ型のソレノイドや他の電動式等のアクチュエータとすることもでき、両者のアクチュエータを個別のものとすることもできる。また、回転入力を溜める弾性部材をねじりコイルばねとしたが、この弾性部材は、定荷重ばねや渦巻きばね等とすることもできる。
【0046】
上述した実施形態では、電動モータの回転運動を直線運動に変換する運動変換機構を、電動モータから回転を伝達される回転軸と外輪部材との間に遊星ローラを介在させ、回転軸の回転運動を外輪部材の直線運動に変換するものとしたが、この運動変換機構は、滑りねじ機構、ボールねじ機構、ボールランプ機構等を用いたものとすることもできる。
【0047】
上述した実施形態では、運動変換機構の相対移動するキャリヤと外輪部材のうち、キャリヤの軸方向移動を規制して、外輪部材を直線運動する出力部材としたが、外輪部材の軸方向移動を規制して、キャリヤを直線運動する出力部材とすることもできる。また、外輪部材の内径面の螺旋凸条を一体に形成したが、外輪部材の内径面に螺旋溝を設け、この螺旋溝に嵌め込まれた別体の条部材で螺旋凸条を形成することもできる。
【符号の説明】
【0048】
1 ハウジング
1a 円筒部
1b フランジ
2 電動モータ
2a ロータ軸
3a、3b、3c 歯車
4 回転軸
5 外輪部材
5a 螺旋凸条
6 遊星ローラ
6a 螺旋溝
7 キャリヤ
7a キャリヤ本体
7b 支持板
7c 支持ピン
7d 連結棒
7e ボルト
7f サポート部材
8 蓋
8a 円筒部
8b 切欠き部
9 軸ピン
10 玉軸受
11 軸受固定部材
11a 円環部
11b 円筒部
12 止め輪
13a、13b アンギュラ玉軸受
14a、14b すべり軸受
15 長孔
16 溝
17 縮径リングばね
18 針状ころ軸受
19 スラストころ軸受
20 潤滑剤塗布部材
21 スラストころ軸受
22 すべり軸受
23 止め輪
24 キー
25、26 シール部材
30 回転付与機構
31 クラッチ
32 ねじりコイルばね
33a 連結遮断レバー
33b 保持解放レバー
34 ソレノイド
34a プランジャ
34b 延長部材
34c ピン
35 軸受
36 外輪
36a カム面
36b 鍔
36c ラチェット歯車
37 ころ
38 保持器
38a 大径部
39 センタリングばね
40 すべり軸受
41 止め輪
42 支持軸
51 キャリパボディ
52 ディスクロータ
53 ブレーキパッド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動モータのロータ軸またはロータ軸から回転を伝達される回転部材の回転運動を、回転の軸線方向に駆動される出力部材の直線運動に変換する運動変換機構を備えた電動式直動アクチュエータにおいて、前記ロータ軸もしくは前記回転部材、または前記ロータ軸から回転部材へ回転を伝達する回転伝達部材のいずれかの回転部位に、回転入力と回転出力を連結、遮断するクラッチと、前記クラッチを連結状態と遮断状態に切り替える連結遮断手段と、前記回転入力を溜める弾性部材と、前記弾性部材に溜められた回転入力を保持する保持状態と、前記回転出力として解放する解放状態に切り替える保持解放手段と、前記連結遮断手段を作動する連結遮断アクチュエータと、前記保持解放手段を作動する保持解放アクチュエータとからなり、前記連結遮断手段を連結状態に作動して前記保持解放手段を解放状態に作動したときに、前記弾性部材に溜められた回転入力を回転出力として前記回転部位に付与する別途の回転付与機構を設けたことを特徴とする電動式直動アクチュエータ。
【請求項2】
前記連結遮断アクチュエータと前記保持解放アクチュエータを電動式のアクチュエータとした請求項1に記載の電動式直動アクチュエータ。
【請求項3】
前記連結遮断アクチュエータと前記保持解放アクチュエータとの少なくともいずれかの電動式のアクチュエータを作動する電気系統を、前記電動モータを作動する電気系統と別に設けた請求項2に記載の電動式直動アクチュエータ。
【請求項4】
前記連結遮断アクチュエータと前記保持解放アクチュエータを共通のアクチュエータとした請求項1乃至3のいずれかに記載の電動式直動アクチュエータ。
【請求項5】
前記クラッチを、内輪と外輪の間に配列された係合子としてのころを、前記内輪と外輪の間でくさび面に係合させるものとした請求項1乃至4のいずれかに記載の電動式直動アクチュエータ。
【請求項6】
前記弾性部材を、ねじりコイルばね、定荷重ばねまたは渦巻きばねのいずれかとした請求項1乃至5のいずれかに記載の電動式直動アクチュエータ。
【請求項7】
前記保持解放アクチュエータをソレノイドとした請求項1乃至6のいずれかに記載の電動式直動アクチュエータ。
【請求項8】
前記ソレノイドを、通電を止めたときにも吸引力を保持する自己保持型のものとした請求項7に記載の電動式直動アクチュエータ。
【請求項9】
前記別途の回転付与機構を前記ロータ軸から回転を伝達される回転部材の回転部位に設けた請求項1乃至8のいずれかに記載の電動式直動アクチュエータ。
【請求項10】
前記運動変換機構を、前記ロータ軸またはロータ軸から回転を伝達される前記回転部材としての回転軸のいずれかの回転軸部材と、この回転軸部材の外径側でハウジングの内径面に内嵌された外輪部材との間に、キャリヤに回転自在に支持された複数の遊星ローラを介在させて、これらの遊星ローラが前記回転軸部材の回転に伴ってその周りを自転しながら公転するようにし、前記外輪部材の内径面に螺旋凸条を設け、前記遊星ローラの外径面に、螺旋凸条と同一ピッチで螺旋凸条が嵌まり込む周方向溝、または螺旋凸条と同一ピッチでリード角が異なり螺旋凸条が嵌まり込む螺旋溝を設けて、前記外輪部材と前記キャリヤとを回転の軸線方向へ相対移動させ、前記回転軸部材の回転運動を前記出力部材としての前記外輪部材または前記キャリヤの直線運動に変換するものとした請求項1乃至9のいずれかに記載の電動式直動アクチュエータ。
【請求項11】
電動モータの回転運動を出力部材の直線運動に変換してブレーキ部材を直線駆動する電動式直動アクチュエータを備え、前記直線駆動されるブレーキ部材を被制動部材に押圧する電動式ブレーキ装置において、前記電動式直動アクチュエータに請求項1乃至10のいずれかに記載の電動式直動アクチュエータを用い、前記別途の回転付与機構で付与される回転を前記出力部材の直線運動に変換するようにしたことを特徴とする電動式ブレーキ装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate


【公開番号】特開2011−236984(P2011−236984A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−109365(P2010−109365)
【出願日】平成22年5月11日(2010.5.11)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】