説明

電子回路、電子回路を備えた電子装置

【課題】LNAのスイッチング動作で発生するノイズの影響を軽減し、低消費電力で高感度のUWB−IR受信装置を実現する。
【解決手段】平衡型の差動信号である入力信号c1及び入力信号c2と、入力端子201に入力信号c1がインピーダンス素子121を介して入力され、入力端子202に入力信号c2がインピーダンス素子122を介して入力され、出力信号e1=c12+c22を出力する包絡線検出回路200と、入力端子301に入力信号c1がインピーダンス素子123を介して入力され、入力端子302に入力信号c2がインピーダンス素子124を介して入力され、入力端子301と入力端子302とが短絡線303により短絡され、出力信号e2=2((c1+c2)/2)2を出力する包絡線検出回路200と同等な特性を有する包絡線検出回路300と、出力信号e1と出力信号e2とから差動信号gを生成する差動回路600と、を含む電子回路1。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子回路、及び電子回路を備えた電子装置、特にUWB(Ultra Wide Band)信号を受信する電子装置に関する。
【背景技術】
【0002】
受信された信号の包絡線を検出しベースバンド信号を復調する回路は、古くから使用されており様々な回路が考え出されている。包絡線は、信号の尖頭値を結んだものであり交流成分の絶対値を平滑化して得られる。また、信号を二乗し平滑化して包絡線検出に替える方法も古くからあり、「二乗検波」などと呼ばれている。例えば特許文献1には、信号の二乗値を得る二乗検出回路と、二乗検出回路を使った振幅検波の方法が記載されている。
【0003】
また、UWB信号、特に搬送波を用いないIR(Impulse Radio)によるUWB通信(以下「UWB−IR」通信と言う)においても包絡線検出を使った受信機があり、例えば特許文献2または特許文献3においてその有効性が記載されている。これらの特許文献2または特許文献3では、整流回路と積分回路が用いられているが、これは信号の交流成分の絶対値を平滑化して包絡線を求めるものである。以降、変調された搬送波(経時的に振幅が変化する高周波の信号)についてその包絡線を検出する作用を「包絡線検出」と呼ぶことにする。また、UWB−IR受信機において二乗検波を用いた例は見当たらない。
【0004】
ところで非特許文献1には、UWB−IRの信号が断続的であり、信号がないときには送受信回路において電源を遮断して装置の消費電力を低減させる技術について開示されている。
【0005】
【特許文献1】特開平4−170807号公報
【特許文献2】特開2004−320083号公報
【特許文献3】特開2005−252740号公報
【非特許文献1】A CMOS IMPULSE RADIO ULTRA-WIDEBAND TRANCEIVER FOR 1Mb/s DATA COMMUNICATION AND ±2.5cm RANGE FINDINGS T.Terada et.al, 2005 Symposium on VLSI Circuits Digest of Technical Papers,pp.30-33
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、UWB−IR受信装置において信号の断続性を利用し、機器の消費電力を低減しようとすると大きな困難が伴う。図7は、従来の技術における課題を説明するための回路図、図8は従来の技術における課題を説明するためのタイミング図である。
【0007】
図7に示すように、従来の電子回路7は、スイッチング動作が可能な低雑音増幅回路(LNA:Low Noise Amplifier)100と、包絡線検出回路200と、から構成されている。
【0008】
LNA100は、電源電圧線vddと接地電位との間に直列に接続されたインダクタ107と抵抗105とNMOSトランジスタ103,101と、電源電圧線vddと接地電位との間に直列に接続されたインダクタ108と抵抗106とNMOSトランジスタ104,102と、から構成されるカスコート増幅回路を含んでいる。LNA100は、さらに、入力端子In1とNMOSトランジスタ101のゲート端子との間に直列に接続されたコンデンサ109とインダクタ110と、入力端子In2とNMOSトランジスタ102のゲート端子との間に直列に接続されたコンデンサ112とインダクタ113と、バイアス電圧端子bs1とコンデンサ109及びインダクタ110の接続線との間に接続された抵抗111と、バイアス電圧端子bs1とコンデンサ112及びインダクタ113の接続線との間に接続された抵抗114と、を含んでいる。また、NMOSトランジスタ103,104のゲート端子は、入力端子bs0に接続されている。
【0009】
LNA100は、入力端子In1,In2に入力される平衡型の差動信号a1,a2を増幅し、インダクタ108と抵抗106との接続線に接続された出力線115及びインダクタ107と抵抗105との接続線に接続された出力線116からそれぞれ差動信号c1,c2を出力する。
【0010】
LNA100は、入力端子bs0に印加される電圧Vbを制御することによってLNA100に流れる電流を制御することができる。つまり、電圧VbをNMOSトランジスタ103,104の閾値電圧よりも低く(Lレベル)すれば、NMOSトランジスタ103,104は遮断されるので、LNA100に流れる電流は0となる。一方、電圧VbをNMOSトランジスタ103,104の閾値電圧よりも高くNMOSトランジスタ103,104がカスコード段として作動するバイアス電圧値(Hレベル)に設定すれば、LNA100はカスコード増幅回路として作動する。抵抗105,106は、LNA100を安定化するために用いられる。カスコード段によって増幅された電流信号は、インダクタ107,108によって電圧に変換され、差動出力として出力線115,116から差動信号c1,c2として出力される。
【0011】
包絡線検出回路200は、電源電圧線vddとNMOSトランジスタ216を介した接地電位との間に直列に接続されたPMOSトランジスタ211,213と、電源電圧線vddとNMOSトランジスタ216を介した接地電位との間に直列に接続されたPMOSトランジスタ212,214と、から構成されるカスコード増幅回路を含んでいる。
【0012】
NMOSトランジスタ216のゲート端子は、バイアス電圧端子bs2に接続され、NMOSトランジスタ216のドレイン端子及びPMOSトランジスタ213,214のドレイン端子に接続された出力線215及び出力端子OutからLNA100の出力線115,116から出力された差動信号c1,c2の2乗和信号e=c12+c22を出力する。PMOSトランジスタ213,214のゲート端子は、バイアス電圧端子bs3に接続されている。PMOSトランジスタ211のゲート端子は、コンデンサ121を介して出力線115と接続され、PMOSトランジスタ212のゲート端子は、コンデンサ122を介して出力線116と接続されている。また、PMOSトランジスタ211のゲート端子は、抵抗217を介してバイアス電圧端子bs4に接続され、PMOSトランジスタ212のゲート端子は、抵抗218を介してバイアス電圧端子bs4に接続されている。
【0013】
ここで、差動信号c1,c2の電圧の交流成分をそれぞれv1,v2、バイアス電圧端子bs4に印加されるバイアス電圧をVbs4、PMOSトランジスタ211,212の閾値電圧をVt、チャネル幅をW、チャネル長をL、キャリア移動度をμ、単位面積あたりのゲート容量をC、比例定数をβ=μC(W/L)、PMOSトランジスタ213,214がバイアス電圧端子bs3に印加される電圧によってバイアスされ飽和領域で動作しているとすると、PMOSトランジスタ211,212に流れるドレイン電流Id1、Id2は、それぞれ、
Id1=(1/2)β(Vbs4+v1−Vt)2 ・・・(式1)
Id2=(1/2)β(Vbs4+v2−Vt)2 ・・・(式2)
となる。この合計の電流がトランジスタ216による電流源負荷に流れ込み大きな電圧信号に変換されて取り出すことができる。
【0014】
今、差動信号c1,c2を同相成分のない理想的な平衡信号として、それぞれv1=v0,v2=−v0とすると、
I0=Id1+Id2=β{v02+(Vbs4−Vt)2} ・・・(式3)
となる。
【0015】
PMOSトランジスタ213,214は、PMOSトランジスタ211,212のドレイン電圧変化を減少させ、チャネル長変調と呼ばれる現象によりPMOSトランジスタ211,212のドレイン電流が減少する(等価的にそのように見える)のを防いで(式3)の精度をより高める働きをする。
【0016】
(式3)の右辺の(Vbs4−Vt)2は直流成分であり、変化分のみを取り出せば包絡線検出回路200に入力された入力信号v0の二乗値を取り出せる。(Vbs4−Vt)2の直流成分は、コンデンサ121,122により簡単に排除できる。バイアス電圧Vbs4は、どのように選んでも誤差項としては簡単に排除できる直流成分しか残らないので、PMOSトランジスタ211,212を安定的に動作させる領域に設定することが可能である。
【0017】
しかしながら、入力端子bs0に印加する電圧VbによりLNA100にスイッチング動作を行わせようとすると、LNA100が出力する差動信号c1,c2は理想的な平衡信号とならず、大きな同相成分がノイズとして混入するため、ノイズを排除することができない。
【0018】
ここで、図8を参照して、LNA100をスイッチング動作させた場合について説明する。
【0019】
図8に示すように、先ず、時点t0〜t1の期間に”1”のデータを示す(パルスがある)差動信号a1,a2が入力されるので、時点t0に入力端子bs0に印加する電圧VbをLレベルからHレベルに遷移すると、LNA100が出力する差動信号c1,c2にノイズn0が発生し、2乗和信号eにもノイズn0が発生する。次に、時点t1〜t2の期間にLNA100を休止状態にするために電圧VbをHレベルからLレベルに遷移すると、差動信号c1,c2にノイズn1が発生し、2乗和信号eにもノイズn1が発生する。次に、時点t2〜t3の期間に”0”のデータを示す(パルスがない)差動信号a1,a2が入力されるが、時点t2に入力端子bs0に印加する電圧VbをHレベルからLレベルに遷移すると、LNA100が出力する差動信号c1,c2にノイズn2が発生し、2乗和信号eにもノイズn2が発生する。
【0020】
このように、LNA100を電圧Vbによりスイッチング動作をさせる毎にノイズが発生するため、差動信号a1,a2の正しいデータを判読することができなくなる。つまり、電子回路7の低消費電力化のためにLNA100のスイッチング動作をすることが、信号判読の感度劣化に繋がってしまうという課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明は、上述の課題を解決するためになされたものであり、以下の形態または適用例として実現することが可能である。
【0022】
[適用例1]
平衡型の差動信号である第1の入力信号及び第2の入力信号と、第1の入力端子と第2の入力端子と第1の出力端子とを有し、前記第1の入力端子に前記第1の入力信号が第1のインピーダンス素子を介して入力され、前記第2の入力端子に前記第2の入力信号が第2のインピーダンス素子を介して入力され、前記第1の入力信号の2乗と前記第2の入力信号の2乗との和である第1の出力信号を前記第1の出力端子から出力する第1の包絡線検出回路と、第3の入力端子と第4の入力端子と第2の出力端子とを有し、前記第3の入力端子に前記第1の入力信号が第3のインピーダンス素子を介して入力され、前記第4の入力端子に前記第2の入力信号が第4のインピーダンス素子を介して入力され、前記第1の入力信号と前記第2の入力信号との平均を2乗した値の2倍となる第2の出力信号を前記第2の出力端子から出力する第2の包絡線検出回路と、前記第1の出力信号と前記第2の出力信号とから差動信号を生成する差動回路と、を含む、ことを特徴とする電子回路。
【0023】
この構成によれば、第1の包絡線検出回路によって第1の入力信号の電位v1及び第2の入力信号の電位v2からv12+v22が得られ、また第2の包絡線検出回路によって(v1+v2)2/2を得る。両者の差は(v1−v2)2/2となる。今v1,v2を同相成分vcと差動成分(信号)vsを用いてv1=vc+vs、v2=vc−vsとすれば、上記差の信号は2vs2となり、スイッチング動作などで混入する同相のノイズ成分を排除し、信号の2乗値だけを取りだすことができる。この回路を使ってUWB信号等の二乗検出を行うことが可能となる。
【0024】
[適用例2]
上記に記載の電子回路において、前記第1の包絡線検出回路及び前記第2の包絡線検出回路は同等な特性を有し、ゲート端子に前記第1の入力信号が入力され、ソース端子が第1の電位線に接続された第1の電界効果型トランジスタと、ゲート端子に前記第2の入力信号が入力され、ソース端子が前記第1の電位線に接続された第2の電界効果型トランジスタと、ソース端子が前記第1の電界効果型トランジスタのドレイン端子に接続され、ゲート端子が所定の電位にバイアスされた第3の電界効果型トランジスタと、ソース端子が前記第2の電界効果型トランジスタのドレイン端子に接続され、ゲート端子が前記所定の電位にバイアスされた第4の電界効果型トランジスタと、前記第3の電界効果型トランジスタのドレイン端子と前記第4の電界効果型トランジスタのドレイン端子とを接続して出力信号を出力する出力線と、を含み、前記第2の包絡線検出回路は、前記第3の入力端子と前記第4の入力端子とが短絡線により短絡されている、ことを特徴とする電子回路。
【0025】
この構成によれば、カスコード接続されたトランジスタの二乗特性によって、簡単に信号の2乗値を高感度で検出することが可能である。また電子回路は、電界効果型トランジスタで構成でき、PN接合を用いないために通常のCMOS半導体プロセスによるオンチップ化が可能である。回路構成も極めてシンプルであり、MOSトランジスタの限界周波数程度の高周波高速動作が可能であり、IR通信などの高速動作が必要なシステムへの応用が可能となる。システム一体化が容易な包絡線検出回路が実現できる。
【0026】
[適用例3]
平衡型の差動信号である第1の入力信号及び第2の入力信号と、第1の入力端子と第2の入力端子と第1の出力端子とを有し、前記第1の入力端子に前記第1の入力信号が第1のインピーダンス素子を介して入力され、前記第2の入力端子に前記第2の入力信号が第2のインピーダンス素子を介して入力され、前記第1の入力信号と前記第2の入力信号とを比較し大きい方の信号を選択し増幅した第1の出力信号を前記第1の出力端子から出力する第1の増幅回路と、第3の入力端子と第4の入力端子と第2の出力端子とを有し、前記第3の入力端子に前記第1の入力信号が第3のインピーダンス素子を介して入力され、前記第4の入力端子に前記第2の入力信号が第4のインピーダンス素子を介して入力され、前記第1の入力信号と前記第2の入力信号との平均を増幅した第2の出力信号を前記第2の出力端子から出力する前記第1の増幅回路と同等な特性を有する第2の増幅回路と、前記第1の出力信号と前記第2の出力信号とから差動信号を生成する差動回路と、を含む、ことを特徴とする電子回路。
【0027】
この構成によれば、第1の増幅回路によって第1の入力信号の電位v1及び第2の入力信号の電位v2からレベルの高い方(または低い方)が得られる。すなわち、v1,v2を同相成分vcと差動成分(信号)vsを用いてv1=vc+vs、v2=vc−vsとすれば、第1の増幅回路の出力は、vc+|vs|(または、低い方を取ったときvc−|vs|)と表すことができる(|vs|は、vsの絶対値)。また、第2の増幅回路によってvcを得ることができる。両者の差は、|vs|となる。これによって、スイッチングなどで混入する同相のノイズ成分を排除し、信号の絶対値だけを取りだすことが可能となる。この回路を使ってUWB信号等の包絡線検出(全波整流)を行うことが可能となる。
【0028】
[適用例4]
上記に記載の電子回路において、前記第1の増幅回路及び前記第2の増幅回路は同等な特性を有し、ゲート端子に前記第1の入力信号が入力され、ドレイン端子が第1の電位線に接続された第1の電界効果型トランジスタと、ゲート端子に前記第2の入力信号が入力され、ドレイン端子が前記第1の電位線に接続された第2の電界効果型トランジスタと、前記第1の電界効果型トランジスタのソース端子と前記第2の電界効果型トランジスタのソース端子とを接続して出力信号を出力する出力線と、を含み、前記第2の増幅回路は、前記第3の入力端子と前記第4の入力端子とが短絡線により短絡されている、ことを特徴とする電子回路。
【0029】
この構成によれば、共通の出力負荷を駆動する第1の電界効果型トランジスタ及び第2の電界効果型トランジスタのソースフォロワ接続によって、簡単に信号の絶対値を高感度で検出することが可能である。また、電子回路は、電界効果型トランジスタで構成でき、PN接合を用いないために通常のCMOS半導体プロセスによるオンチップ化が可能である。回路構成も極めてシンプルであり、MOSトランジスタの限界周波数程度の高周波高速動作が可能であり、IR通信などの高速動作が必要なシステムへの応用が可能となる。システム一体化が容易な包絡線検出回路が実現できる。
【0030】
[適用例5]
上記に記載の電子回路を備えて構成されることを特徴とする電子装置。
【0031】
この構成によれば、電子回路によって簡単に信号の二乗値、あるいは絶対値を検出することができる。また、二乗検波あるいは包絡線検波を用いる受信装置などの簡単かつ低電力の電子装置を実現できる。
【0032】
[適用例6]
上記に記載の電子装置において、前記電子装置は、供給されたUWB信号が担うパルスを検出する信号処理部を備えることを特徴とする電子装置。
【0033】
この構成によれば、電子回路によって簡単に信号の二乗値をあるいは絶対値を検出することができる。特に、UWB信号が担うパルスを検出する受信装置で簡単かつ低電力の電子装置を実現できる。
【0034】
[適用例7]
上記に記載の電子装置において、少なくともその一部にUWB信号のあるときにのみ電源供給される回路部分とそのためのスイッチ回路を備えることを特徴とする電子装置。
【0035】
この構成によれば、回路のスイッチング等による同相ノイズを排除し、信号の二乗検波や包絡線検波ができるので、UWB−IR信号のような断続的なパルス信号を受信する際において、信号が存在する(と期待される)時にのみ受信装置の低雑音増幅回路(LNA)などの回路電源を入れればよく、そのほかのときは受信機電源をオフすることが可能となり装置の消費電力を大幅に削減することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
以下、電子回路の実施形態について図面に従って説明する。
【0037】
(第1実施形態)
<電子回路の構成>
先ず、第1実施形態に係る電子回路の構成について、図1および図2を参照して説明する。図1は、第1実施形態に係る電子回路の構成を示す回路図であり、図2は、第1実施形態に係る電子回路の動作を説明する波形図である。
【0038】
図1に示すように、電子回路1は、スイッチング動作が可能な低雑音増幅回路(LNA:Low Noise Amplifier)100と、第1の包絡線検出回路である包絡線検出回路200と、第2の包絡線検出回路である包絡線検出回路300と、差動回路600と、から構成されている。
【0039】
LNA100は、第1の電位線である電源電圧線vddと接地電位線GNDとの間に直列に接続されたインダクタ107と抵抗105とNMOSトランジスタ103,101と、電源電圧線vddと接地電位線GNDとの間に直列に接続されたインダクタ108と抵抗106とNMOSトランジスタ104,102と、から構成されるカスコート増幅回路を含んでいる。LNA100は、さらに、入力端子In1とNMOSトランジスタ101のゲート端子との間に直列に接続されたコンデンサ109及びインダクタ110と、入力端子In2とNMOSトランジスタ102のゲート端子との間に直列に接続されたコンデンサ112及びインダクタ113と、バイアス電圧端子bs1とコンデンサ109及びインダクタ110の接続線との間に接続された抵抗111と、バイアス電圧端子bs1とコンデンサ112及びインダクタ113の接続線との間に接続された抵抗114と、を含んでいる。また、NMOSトランジスタ103,104のゲート端子は、入力端子bs0に接続されている。
【0040】
LNA100は、入力端子In1,In2に入力される平衡型の差動信号a1(第1の入力信号),a2(第2の入力信号)を増幅し、インダクタ108と抵抗106との接続線に接続された出力線115及びインダクタ107と抵抗105との接続線に接続された出力線116からそれぞれ差動信号c1,c2を出力する。
【0041】
LNA100は、入力端子bs0に印加される電圧Vbを制御することによってLNA100に流れる電流を制御することができる。つまり、電圧VbをNMOSトランジスタ103,104の閾値電圧よりも低い電圧値(Lレベル)に設定すれば、NMOSトランジスタ103,104は遮断されるので、LNA100に流れる電流は0となる。一方、電圧VbをNMOSトランジスタ103,104の閾値電圧よりも高くNMOSトランジスタ103,104がカスコード段として作動するバイアス電圧値(Hレベル)に設定すれば、LNA100はカスコード増幅回路として作動する。抵抗105,106は、LNA100を安定化するために用いられる。カスコード段によって増幅された電流信号は、インダクタ107,108によって電圧に変換され、差動出力として出力線115,116から差動信号c1,c2として出力される。
【0042】
包絡線検出回路200は、第1の入力端子201と第2の入力端子202と第1の出力端子204とを有し、第1の入力端子201には、第1の入力信号である差動信号c1が第1のインピーダンス素子であるコンデンサ121を介して入力され、第2の入力端子202には、第2の入力信号である差動信号c2が第2のインピーダンス素子であるコンデンサ122を介して入力され、第1の出力端子204から差動信号c1の2乗と差動信号c2の2乗との和である第1の出力信号e1(=c12+c22)を出力する。
【0043】
包絡線検出回路300は、第3の入力端子301と第4の入力端子302と第2の出力端子304とを有し、第3の入力端子301には、差動信号c1が第3のインピーダンス素子であるコンデンサ123を介して入力され、第4の入力端子302には、差動信号c2が第4のインピーダンス素子であるコンデンサ124を介して入力され、第3の入力端子301と第4の入力端子302とが短絡線303により短絡され、第2の出力端子304から差動信号c1と差動信号c2との平均を2乗した値の2倍となる第2の出力信号e2(=2((c1+c2)/2)2を出力する。
【0044】
包絡線検出回路200と包絡線検出回路300とは、同等な特性を有する。また、コンデンサ121〜124は、すべて同じ定数とする。
【0045】
包絡線検出回路200(または包絡線検出回路300)は、第1の電界効果型トランジスタであるPMOSトランジスタ211と、第2の電界効果型トランジスタであるPMOSトランジスタ212と、第3の電界効果型トランジスタであるPMOSトランジスタ213と、第4の電界効果型トランジスタであるPMOSトランジスタ214と、信号加算部を構成するNMOSトランジスタ216と、を含んで構成されている。
【0046】
PMOSトランジスタ211は、ゲート端子に第1の入力信号である差動信号c1がコンデンサ121(またはコンデンサ123)を介して第1の入力端子201(または第3の入力端子301)から入力され、ソース端子が第1の電位線である電源電圧線vddに接続されている。PMOSトランジスタ212は、ゲート端子に第2の入力信号である差動信号c2がコンデンサ122(またはコンデンサ124)を介して第2の入力端子202(または第4の入力端子302)から入力され、ソース端子が第1の電位線である電源電圧線vddに接続されている。PMOSトランジスタ213は、ソース端子がPMOSトランジスタ211のドレイン端子と接続され、ゲート端子が所定の電位を供給するバイアス電圧端子bs3と接続されている。PMOSトランジスタ214は、ソース端子がPMOSトランジスタ212のドレイン端子と接続され、ゲート端子がバイアス電圧端子bs3と接続されている。
【0047】
PMOSトランジスタ213及びPMOSトランジスタ214のドレイン端子は、出力線215に接続されている。NMOSトランジスタ216は、ソース端子が接地電位線GNDに接続され、ドレイン端子が出力線215に接続され、ゲート端子がバイアス電圧端子bs2に接続されている。出力線215は、第1の出力端子204(または第2の出力端子304)と接続されている。PMOSトランジスタ211のゲート端子は、抵抗217を介してバイアス電圧端子bs4に接続されている。PMOSトランジスタ212のゲート端子は、抵抗218を介してバイアス電圧端子bs4に接続されている。
【0048】
差動回路600は、第1の出力信号e1と第2の出力信号e2とから差動出力信号f1,f2を出力する差動増幅器601と、差動出力信号f1,f2から出力信号gを出力する差動増幅器602と、から構成されている。
【0049】
ここで、差動信号c1,c2の電圧をそれぞれv1,v2、バイアス電圧端子bs4に印加されるバイアス電圧をVbs4、PMOSトランジスタ211,212の閾値電圧をVt、チャネル幅をW、チャネル長をL、キャリア移動度をμ、単位面積あたりのゲート容量をC、比例定数をβ=μC(W/L)、PMOSトランジスタ213,214がバイアス電圧端子bs3に印加される電圧によってバイアスされ飽和領域で動作しているとすると、PMOSトランジスタ211,212に流れるドレイン電流Id1,Id2は、それぞれ、
Id1=(1/2)β(Vbs4+v1−Vt)2 ・・・(式1)
Id2=(1/2)β(Vbs4+v2−Vt)2 ・・・(式2)
となる。ドレイン電流Id1,Id2の合計の電流は、NMOSトランジスタ216による電流源負荷に流れ込み、大きな電圧信号に変換されて取り出すことができる。
【0050】
今、差動信号c1,c2を同相成分のない理想的な平衡信号として、それぞれv1=v0,v2=−v0とすると、
I0=Id1+Id2=β{v02+(Vbs4−Vt)2} ・・・(式3)
となる。
【0051】
PMOSトランジスタ213,214は、PMOSトランジスタ211,212のドレイン電圧変化を減少させ、チャネル長変調と呼ばれる現象によりPMOSトランジスタ211,212のドレイン電流が減少するのを防ぐので、(式3)の精度をより高める働きをする。
【0052】
(式3)の右辺の(Vbs4−Vt)2は、直流成分であり、変化分のみを取り出せば包絡線検出回路200に入力された入力信号v0の二乗値を取り出せる。(Vbs4−Vt)2の直流成分は、コンデンサ121,122により簡単に排除できるので、バイアス電圧Vbs4に依存することがなく、PMOSトランジスタ211,212を安定的に動作させる領域に設定することが可能である。
【0053】
LNA100の入力端子In1,In2に印加される入力信号電圧を±vi、スイッチング動作によって生じるLNA100の同相ノイズ成分をvn、LNA100の電圧増幅度をGとすると、v0=G×viとなるので、LNA100から出力される差動信号c1,c2の電圧v1,v2は、 v1=vn+G×vi=vn+v0 ・・・(式4)
v2=vn−G×vi=vn−v0 ・・・(式5)
と表すことができる。
【0054】
このとき包絡線検出回路200のNMOSトランジスタ216のドレイン電流I0は、 I0=β{v02+(Vb+vn−Vt)2} ・・・(式6)
となる。
【0055】
このドレイン電流I0は、NMOSトランジスタ216の働きによって電圧に変換され、差動増幅器601に入力される。NMOSトランジスタ216の等価的な動インピーダンスをZとすると、電圧信号として、
va1=Z×I0=Z×β{v02+(Vb+vn−Vt)2} ・・・(式7)
が差動増幅器601に入力される。
【0056】
包絡線検出回路300は、短絡線303によってPMOSトランジスタ211,212のゲート端子が短絡されているので、包絡線検出回路300のPMOSトランジスタ211,212のゲート端子には、コンデンサ123,124を介してLNA100の出力線115,116からの差動信号c1,c2の平均値((v1+v2)/2)=vnが印加されるので、包絡線検出回路300のPMOSトランジスタ211,212のドレイン電流Idは、どちらも、
Id=(1/2)β(Vb+vn−Vt)2 ・・・(式8)
となる。
【0057】
従って、包絡線検出回路300のNMOSトランジスタ216に流れる電流は、
2×Id=β(Vb+vn−Vt)2 ・・・(式9)
となる。この電流信号2×Idは、NMOSトランジスタ216の働きによって電圧に変換され、差動増幅器601に入力される。NMOSトランジスタ216の等価的な動インピーダンスをZとすると、電圧信号として、
va2=2ZId=Zβ(Vb+vn−Vt)2 ・・・(式10)
が差動増幅器601に入力される。
【0058】
差動増幅器601は、上記(式7)及び(式10)の電圧va1,va2を増幅し、差動出力信号f1,f2として、電圧va3,va4を出力する。差動増幅器601の同相ゲイン及び逆相ゲインをGc1,Gs1とすると、電圧va1,va2,va3,va4は、以下の関係がある。
va3−va4=Gs1(va2−va1)=Gs1×Z×β×v02 ・・・(式11)
va3+va4=Gc1(va2+va1)=Gc1×Z×β{2×v02+(Vb+vn−Vt)2} ・・・(式12)
【0059】
これらの電圧va3,va4は、差動増幅器602に入力され、差動信号からシングル信号に変換される。差動増幅器602のゲインをGs2とすると、差動増幅器602は、出力信号gとして、 va5=Gs2(va3−va4)=Gs1×Gs2×Z×β×v02・・・(式13)を出力する。つまり、スイッチングノイズなどによるvnを排除し、v0=G×viの二乗値を得ることができる。
【0060】
ここで、図2を参照して、LNA100をスイッチング動作させた場合について説明する。
【0061】
図2に示すように、先ず、時点t0〜t1の期間に”1”のデータを示す(パルスがある)差動信号a1,a2が入力されるので、時点t0に入力端子bs0に印加する電圧VbをLレベルからHレベルに遷移すると、LNA100が出力する差動信号c1,c2にノイズn0が発生し、第1の出力信号e1及び第2の出力信号e2にもノイズn0が発生する。次に、時点t1〜t2の期間にLNA100を休止状態にするために電圧VbをHレベルからLレベルに遷移すると、差動信号c1,c2にノイズn1が発生し、第1の出力信号e1及び第2の出力信号e2にもノイズn1が発生する。次に、時点t2〜t3の期間に”0”のデータを示す(パルスがない)差動信号a1,a2が入力されるが、時点t2に入力端子bs0に印加する電圧VbをHレベルからLレベルに遷移すると、LNA100が出力する差動信号c1,c2にノイズn2が発生し、第1の出力信号e1及び第2の出力信号e2にもノイズn2が発生する。
【0062】
第2の出力信号e2は、包絡線検出回路300の出力波形であり、LNA100の出力線115,116に出力される差動信号c1,c2の雑音成分(同相成分)のみを取り出したものである。この第2の出力信号e2と包絡線検出回路200から出力される第1の出力信号e1との差は、図2に示すようにごく僅かである。すなわち、第2の出力信号e2のほとんどは雑音成分であり、第1の出力信号e1と同一のグラフにプロットするとほぼ重なってしまう。電子回路1では、大きな雑音成分を取り除き、信号成分のみを取り出すことができる。第1の出力信号e1及び第2の出力信号e2は、差動増幅器601によって増幅され、差動出力信号f1,f2を出力する。差動増幅器601は、同相成分(雑音)を減衰させ、第1の出力信号e1及び第2の出力信号e2の差動を増幅するので、差動出力信号f1,f2は、第1の出力信号e1及び第2の出力信号e2よりも振幅は小さくなり、図2に示すように僅かな違いが見えるようになる。出力信号gは、差動増幅器602の出力信号であり、差動出力信号f1,f2の信号成分のみを増幅し取り出した信号である。
【0063】
以上に述べた本実施形態によれば、以下の効果が得られる。
【0064】
本実施形態では、LNA100のスイッチング動作によって発生する大きな雑音を取り除き、信号成分のみを取り出すことができる。これによってUWB−IRのような間欠動作を要求する装置にも利用が可能となり、電子回路1の消費電力を大幅に低減することができる。さらに、本実施形態の電子回路1は、電界効果型トランジスタによって構成できるため、安価なCMOS半導体プロセスによるオンチップ化が可能であるという特徴があり、特に、電界効果型トランジスタの限界周波数程度の高周波高速動作が可能なので、高価で特殊な半導体プロセスを使わずにIR通信などの高速動作が必要なシステムへの応用が可能となる。これによって、システム一体化が容易な受信機の復調回路やパルス検出回路が実現できる。
【0065】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態に係る電子回路の構成について、図3および図4を参照して説明する。図3は、第2実施形態に係る電子回路の構成を示す回路図であり、図4は、第2実施形態に係る電子回路の動作を説明する波形図である。
【0066】
図3に示すように、電子回路3は、LNA100と、第1の増幅回路400と、第2の増幅回路500と、を含んで構成される。LNA100は、第1実施形態で説明したのでここでは省略する。
【0067】
第1の増幅回路400は、第1の入力端子401と第2の入力端子402と第1の出力端子404とを有し、第1の入力端子401には、第1の入力信号である差動信号c1が第1のインピーダンス素子であるコンデンサ121を介して入力され、第2の入力端子402には、第2の入力信号である差動信号c2が第2のインピーダンス素子であるコンデンサ122を介して入力され、第1の出力端子404から差動信号c1と差動信号c2との電圧値を比較し、電圧値が高い方を選択して増幅した第1の出力信号j1を出力する。
【0068】
第2の増幅回路500は、第3の入力端子501と第4の入力端子502と第2の出力端子504とを有し、第3の入力端子501には、差動信号c1が第3のインピーダンス素子であるコンデンサ123を介して入力され、第4の入力端子502には、差動信号c2が第4のインピーダンス素子であるコンデンサ124を介して入力され、第3の入力端子501と第4の入力端子502とが短絡線503により短絡され、第2の出力端子504から差動信号c1と差動信号c2との平均を増幅した第2の出力信号j2を出力する。
【0069】
第1の増幅回路400と第2の増幅回路500とは、同等な特性を有する。また、コンデンサ121〜124は、すべて同じ定数とする。
【0070】
第1の増幅回路400(または第2の増幅回路500)は、第1の電界効果型トランジスタであるNMOSトランジスタ411と、第2の電界効果型トランジスタであるNMOSトランジスタ412と、信号加算部を構成する抵抗416と、を含んで構成されている。
【0071】
NMOSトランジスタ411は、ゲート端子に第1の入力信号である差動信号c1がコンデンサ121(またはコンデンサ123)を介して第1の入力端子401(または第3の入力端子501)から入力され、ドレイン端子が第1の電位線である電源電圧線vddに接続されている。NMOSトランジスタ412は、ゲート端子に第2の入力信号である差動信号c2がコンデンサ122(またはコンデンサ124)を介して第2の入力端子402(または第4の入力端子502)から入力され、ドレイン端子が第1の電位線である電源電圧線vddに接続されている。
【0072】
NMOSトランジスタ411及びNMOSトランジスタ412のソース端子は、出力線415に接続されている。抵抗416は、一方が接地電位線GNDに接続され、他方が出力線415に接続されている。出力線415は、第1の出力端子404(または第2の出力端子504)と接続されている。NMOSトランジスタ411のゲート端子は、抵抗417を介して電源電圧線vddに接続されている。NMOSトランジスタ412のゲート端子は、抵抗418を介して電源電圧線vddに接続されている。電源電圧線vddと出力線415との間には、電流バイアス源413が接続されている。
【0073】
第1の増幅回路400(または第2の増幅回路500)は、NMOSトランジスタ411,412のゲート端子にコンデンサ121,122(またはコンデンサ123,124)を介して差動信号c1,c2が入力されない場合、第1の出力端子404(または第2の出力端子504)に出力されるDC電圧は、VDD−Vt−Vovとなる。ここで、VDDは電源電圧、VtはNMOSトランジスタ411,412の閾値電圧、Vovは抵抗416に上記DC電圧を発生させるために必要なオーバードライブ電圧である。静止時には、NMOSトランジスタ411,412が同一の特性であるとすれば、各ゲート端子には同じ電源電圧VDDが印加されているので全く対称であり、抵抗416に流れる電流の半分が各NMOSトランジスタ411,412に流れる。第1の増幅回路400(または第2の増幅回路500)は、抵抗416の抵抗値を大きくするか電流バイアス源413の電流バイアスを調整することによって、このオーバードライブ電圧Vovを0に近づけることができる。
【0074】
第1の増幅回路400は、NMOSトランジスタ411,412のゲート端子にコンデンサ121,122を介して差動信号c1,c2が入力され、NMOSトランジスタ411,412のゲート電位が高くなった場合、第1の出力端子404の電位は、このゲート電位上昇分と同じだけ上がる。NMOSトランジスタ412のゲート端子に入力された差動信号c2のレベルがNMOSトランジスタ411のゲート端子に入力された差動信号c1のレベルより低い場合、NMOSトランジスタ412のゲート−ソース間の電圧は閾値電圧Vtより低くなり、NMOSトランジスタ412を流れる電流は0になる。そのため、第1の増幅回路400は、NMOSトランジスタ411によるソースフォロワにより第1の入力端子401に入力された差動信号c1を緩衝増幅し、第1の出力端子404から第1の出力信号j1を出力する。
【0075】
逆に、第2の入力端子402に入力された差動信号c2のレベルが第1の入力端子401に入力された差動信号c1のレベルより高い場合、第1の増幅回路400は、第2の入力端子402に入力された差動信号c2を緩衝増幅し、第1の出力端子404から第1の出力信号j1を出力する。
【0076】
以上説明したように、第1の増幅回路400は、上記動作によって第1の入力端子401及び第2の入力端子402に入力される差動信号c1,c2のうちで、信号レベルの高い方を選択及び増幅し、第1の出力信号j1として出力する。
【0077】
上記では、オーバードライブ電圧Vovがほとんど0の場合を説明した。第1の増幅回路400は、差動信号c1,c2がごく小さな信号の場合、第1の入力端子401及び第2の入力端子402に入力された差動信号c1,c2の2乗の和に相当する信号が出力されることが分かっている。このような小さい差動信号c1,c2が入力された場合の動作の説明は、上記第1実施形態の説明と同じになる。
【0078】
第2の増幅回路500は、差動信号c1,c2の平均を出力する回路である。第2の増幅回路500は、第1の増幅回路400との対称性を保ち、雑音成分の除去性能を上げるためになるべく第1の増幅回路400と同一の回路構成とする。第1の増幅回路400と第2の増幅回路500との違いは、第2の増幅回路500が短絡線503によってNMOSトランジスタ411とNMOSトランジスタ412とのゲート端子が短絡されていることである。NMOSトランジスタ411及びNMOSトランジスタ412のゲート端子には、コンデンサ123,124を介して第3の入力端子501及び第4の入力端子502に入力された差動信号c1,c2の電圧が分圧され、印加される。コンデンサ123,124および抵抗417,418の定数を同じとすれば、この電圧は2つの入力信号の平均値となり、第2の出力端子504にはLNA100の出力線115,116から出力された差動信号c1,c2の平均を第2の出力信号j2として出力する。
【0079】
差動回路600は、第1の出力信号j1と第2の出力信号j2とから差動出力信号k1,k2を出力する差動増幅器601と、差動出力信号k1,k2から出力信号mを出力する差動増幅器602と、から構成されている。
【0080】
電子回路3は、上述した第1の増幅回路400、第2の増幅回路500及び差動回路600により、LNA100のスイッチング動作により生じる雑音を除去することができる。
【0081】
まず、LNA100に入力された差動信号a1,a2(電位±vi)は、増幅され、出力線115,116に差動信号c1,c2として出力される。ここでスイッチング動作による同相成分vcが加わるので、差動信号c1,c2の電位はvc±viとなる(ただしLNA100のゲインは省略する)。
【0082】
第1の増幅回路400では、差動信号c1,c2の信号レベルの高い方を取るので、第1の出力端子404から出力される第1の出力信号j1の電位は、vc+|vi|となる。第2の増幅回路500では、差動信号c1,c2の平均を取るので、vcが第2の出力信号j2として出力される。差動増幅器601,602によって第1の出力信号j1及び第2の出力信号j2の差を取れば、差動信号a1,a2の電位の絶対値|vi|が正しく検出できる。これはLNA100に入力された差動信号a1,a2を全波整流した波形であり、信号検出も同時に行うことができる。
【0083】
ここで、図4を参照して、LNA100をスイッチング動作させた場合について説明する。
【0084】
図4に示すように、a1−a2は、LNA100の入力端子In1,In2に入力される差動信号a1,a2の差である。電圧Vbは、LNA100の動作を差動信号a1,a2の存在に合わせてスイッチング動作させるために入力端子bs0に入力される。差動信号c1,c2は、LNA100の出力線115,116に出力される出力信号である。出力される差動信号c1,c2は、スイッチング動作による大きな同相成分が雑音として重畳され、信号成分がほとんど識別できない。
【0085】
c1−c2は、差動信号c1,c2の差を取り信号成分を取り出したものであり、参考として掲載した。差動増幅回路によって差動信号c1,c2の差を取れば雑音成分は取り除けるが、入力される差動信号a1,a2は変調された高周波すなわちRF(Radio Frequency)信号であり、このような差動増幅回路を低消費電力で安定に作るのは困難である。
【0086】
第1の出力信号j1及び第2の出力信号j2は、大きな雑音成分vcを含み、差動信号a1,a2はほとんどかき消されている。j1−j2は、第1の出力信号j1及び第2の出力信号j2の差を示す。差動回路600により、第1の出力信号j1に含まれるvcを取り除き、|vi|を取り出すことができる。ここで、j1−j2に含まれる信号の周波数成分は、高々ベースバンド帯域であり、このようなベースバンド帯域に対応した低周波の安定した低消費電力な差動回路600を構成することは容易である。
【0087】
上記第2実施形態では、第1の増幅回路400に入力される差動信号c1,c2のレベルの高い方を選択して出力するように説明したが、入力信号レベルの低い方を選択出力するように構成しても全く同様に動作させることができる。このときの第1の増幅回路400の出力は、vc−|vi|となるが、第2の増幅回路500の出力との差を取れば、|vi|を正しく検出することができる。これは第1の増幅回路400及び第2の増幅回路500におけるNMOSトランジスタ411,412をPMOSトランジスタで構成すれば実現できる。
【0088】
以上に述べた本実施形態によれば、以下の効果が得られる。
【0089】
本実施形態では、LNA100のスイッチング動作によって発生する大きな雑音を取り除き、信号成分のみを取り出すことができる。これによってUWB−IRのような間欠動作を要求する装置にも利用が可能となり、電子回路3の消費電力を大幅に低減することができる。さらに、本実施形態の電子回路3では、電界効果型トランジスタによって構成できるため、安価なCMOS半導体プロセスによるオンチップ化が可能であるという特徴があり、特に、電界効果型トランジスタの限界周波数程度の高周波高速動作が可能なので、高価で特殊な半導体プロセスを使わずにIR通信などの高速動作が必要なシステムへの応用が可能となる。これによって、システム一体化が容易な受信機の復調回路やパルス検出回路が実現できる。
【0090】
(第3実施形態)
次に、第3実施形態に係る電子回路を備えた電子装置である受信装置の構成について、図5及び図6を参照して説明する。図5は、第3実施形態に係る受信装置の構成を示す回路図であり、図6は、第3実施形態に係る受信装置の動作を示すタイミング図である。
【0091】
本第3実施形態では、UWB−IRのパルス信号として矩形のパルスを搬送波周波数fcの正弦波によって乗算した図6の受信信号aに示すような波形を用いる場合を例に説明するが、これに限ったものではない。IR信号として多用されるガウシアンモノパルス、エルミートパルス、あるいはそれらのn階微分波形(nは自然数)、さらに、それらに搬送波周波数fcの正弦波を乗算しスペクトルを周波数軸上で移動したパルス、その他のパルスでもよい。特に、搬送波周波数fcの正弦波を乗算して得られるパルスは、直流成分を含まず、スペクトルが搬送波周波数fcを中心に対称であるなどの理由で多用される。本第3実施形態では、最も簡単な矩形パルスに正弦波を乗算して得られるパルス(図6のa)をIR信号として使用するUWB−IRの受信装置(電子装置)を例に説明する。
【0092】
図5に示すように、受信装置5は、アンテナ551と、低雑音増幅回路(LNA:Low Noise Amplifier)552と、電子回路1(図1)または電子回路3(図3)で構成される検波回路553と、増幅回路554と、信号処理部である判別回路555と、から構成されている。
【0093】
アンテナ551によって受信された受信信号a(図6)は、LNA552によって増幅され、平衡出力を持つ。検波回路553は、上記第1実施形態の包絡線検出回路200、包絡線検出回路300および差動回路600による入力信号の二乗を出力する回路、または、上記第2実施形態で示した第1の増幅回路400、第2の増幅回路500および差動回路600による信号の絶対値を出力する回路であり、二乗検波または包絡線検波を行う回路である。
【0094】
図6のbは、受信信号aの二乗または絶対値を模式的に描いた図である。このような信号は実際には構成回路の周波数応答によって高周波成分が減衰し、図2のgまたは図4のj1−j2のようになる。増幅回路554は、この信号を増幅し、判別回路555で判別できるレベルまで信号を増幅する。増幅回路554は、必要ならば上記信号に含まれる高周波成分を取り除く動作(図6のc)も行う。
【0095】
判別回路555は、増幅回路554の出力信号cの二値化処理を行い、二値化信号d(図6のd)を出力端子556から出力し、パルスの有無を検出できる。判別回路555は、信号を受信したタイミングから次に信号が送られてくる時刻を予想することができる。これによって信号557を発生させ、必要の無い時はLNA552、検波回路553、増幅回路554の動作を停止させ、受信装置5の消費電力を削減することが可能である。そのときに発生するスイッチング雑音の影響は、検波回路553により排除できる。
不要時に動作を停止させる方法は、既に上記第1,2実施形態のLNA100に例示した。検波回路553、増幅回路554も同様にバイアス電圧の制御や、電源線に直列にスイッチを配して直接スイッチング制御するなどの方法によって動作を停止させ消費電力を節約できる。
【0096】
UWB−IRでは、送信する情報のビット1または0に応じて、パルスを送る送らないを制御するようにすれば、OOK(On-Off-Keying)と呼ばれる変調方式となる。また、送信ビット情報に応じてパルスの位置を制御すれば、PPM(Pulse Position Modulation:パルス位置変調)と呼ばれる変調方式となる。上記受信装置5の構成では、送信されたパルスの有無、または位置を検出できるのでUWB−IRの復調ができる。
【0097】
第1実施形態の電子回路1、または、第2実施形態の電子回路3を用いれば、UWB−IRの簡単に受信装置5が構成できる。受信装置5で使用される回路は、どれもCMOSによる半導体集積回路などで集積化が可能であり、高信頼かつ低価格の受信装置実現が可能である。
【0098】
本実施形態では、このときのスイッチングに伴う雑音の影響を排除できるので低消費電力で高性能の受信装置を簡素な回路構成で構成することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0099】
【図1】第1実施形態に係る電子回路の構成を示す回路図。
【図2】第1実施形態に係る電子回路の動作を説明する波形図。
【図3】第2実施形態に係る電子回路の構成を示す回路図。
【図4】第2実施形態に係る電子回路の動作を説明する波形図。
【図5】第3実施形態に係る受信装置の構成を示す回路図。
【図6】第3実施形態に係る受信装置の動作を示すタイミング図。
【図7】従来の電子回路の構成を示す回路図。
【図8】従来の電子回路の動作を説明する波形図。
【符号の説明】
【0100】
1,3…電子回路、5…受信装置、100…LNA、101〜104…NMOSトランジスタ、105,106…抵抗、107,108…インダクタ、109…コンデンサ、110…インダクタ、111…抵抗、112…コンデンサ、113…インダクタ、114…抵抗、115,116…出力線、121〜124…コンデンサ、200…包絡線検出回路、201…第1の入力端子、202…第2の入力端子、204…第1の出力端子、211〜214…PMOSトランジスタ、215…出力線、216…NMOSトランジスタ、217,218…抵抗、300…包絡線検出回路、301…第3の入力端子、302…第4の入力端子、303…短絡線、304…第2の出力端子、400…第1の増幅回路、401…第1の入力端子、402…第2の入力端子、404…第1の出力端子、411,412…NMOSトランジスタ、413…電流バイアス源、415…出力線、416…抵抗、417,418…抵抗、500…第2の増幅回路、501…第3の入力端子、502…第4の入力端子、503…短絡線、504…第2の出力端子、551…アンテナ、552…LNA、553…検波回路、554…増幅回路、555…判別回路、556…出力端子、557…信号、600…差動回路、601,602…差動増幅器。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平衡型の差動信号である第1の入力信号及び第2の入力信号と、
第1の入力端子と第2の入力端子と第1の出力端子とを有し、前記第1の入力端子に前記第1の入力信号が第1のインピーダンス素子を介して入力され、前記第2の入力端子に前記第2の入力信号が第2のインピーダンス素子を介して入力され、前記第1の入力信号の2乗と前記第2の入力信号の2乗との和である第1の出力信号を前記第1の出力端子から出力する第1の包絡線検出回路と、
第3の入力端子と第4の入力端子と第2の出力端子とを有し、前記第3の入力端子に前記第1の入力信号が第3のインピーダンス素子を介して入力され、前記第4の入力端子に前記第2の入力信号が第4のインピーダンス素子を介して入力され、前記第1の入力信号と前記第2の入力信号との平均を2乗した値の2倍となる第2の出力信号を前記第2の出力端子から出力する第2の包絡線検出回路と、
前記第1の出力信号と前記第2の出力信号とから差動信号を生成する差動回路と、
を含む、
ことを特徴とする電子回路。
【請求項2】
請求項1に記載の電子回路において、
前記第1の包絡線検出回路及び前記第2の包絡線検出回路は同等な特性を有し、
ゲート端子に前記第1の入力信号が入力され、ソース端子が第1の電位線に接続された第1の電界効果型トランジスタと、
ゲート端子に前記第2の入力信号が入力され、ソース端子が前記第1の電位線に接続された第2の電界効果型トランジスタと、
ソース端子が前記第1の電界効果型トランジスタのドレイン端子に接続され、ゲート端子が所定の電位にバイアスされた第3の電界効果型トランジスタと、
ソース端子が前記第2の電界効果型トランジスタのドレイン端子に接続され、ゲート端子が前記所定の電位にバイアスされた第4の電界効果型トランジスタと、
前記第3の電界効果型トランジスタのドレイン端子と前記第4の電界効果型トランジスタのドレイン端子とを接続して出力信号を出力する出力線と、
を含み、
前記第2の包絡線検出回路は、前記第3の入力端子と前記第4の入力端子とが短絡線により短絡されている、
ことを特徴とする電子回路。
【請求項3】
平衡型の差動信号である第1の入力信号及び第2の入力信号と、
第1の入力端子と第2の入力端子と第1の出力端子とを有し、前記第1の入力端子に前記第1の入力信号が第1のインピーダンス素子を介して入力され、前記第2の入力端子に前記第2の入力信号が第2のインピーダンス素子を介して入力され、前記第1の入力信号と前記第2の入力信号とを比較し大きい方の信号を選択し増幅した第1の出力信号を前記第1の出力端子から出力する第1の増幅回路と、
第3の入力端子と第4の入力端子と第2の出力端子とを有し、前記第3の入力端子に前記第1の入力信号が第3のインピーダンス素子を介して入力され、前記第4の入力端子に前記第2の入力信号が第4のインピーダンス素子を介して入力され、前記第1の入力信号と前記第2の入力信号との平均を増幅した第2の出力信号を前記第2の出力端子から出力する前記第1の増幅回路と同等な特性を有する第2の増幅回路と、
前記第1の出力信号と前記第2の出力信号とから差動信号を生成する差動回路と、
を含む、
ことを特徴とする電子回路。
【請求項4】
請求項3に記載の電子回路において、
前記第1の増幅回路及び前記第2の増幅回路は同等な特性を有し、
ゲート端子に前記第1の入力信号が入力され、ドレイン端子が第1の電位線に接続された第1の電界効果型トランジスタと、
ゲート端子に前記第2の入力信号が入力され、ドレイン端子が前記第1の電位線に接続された第2の電界効果型トランジスタと、
前記第1の電界効果型トランジスタのソース端子と前記第2の電界効果型トランジスタのソース端子とを接続して出力信号を出力する出力線と、
を含み、
前記第2の増幅回路は、前記第3の入力端子と前記第4の入力端子とが短絡線により短絡されている、
ことを特徴とする電子回路。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項に記載の電子回路を備えて構成されることを特徴とする電子装置。
【請求項6】
請求項5に記載の電子装置において、前記電子装置は、供給されたUWB信号が担うパルスを検出する信号処理部を備えることを特徴とする電子装置。
【請求項7】
請求項6に記載の電子装置において、少なくともその一部にUWB信号のあるときにのみ電源供給される回路部分とそのためのスイッチ回路を備えることを特徴とする電子装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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