説明

電極用酸化チタン系化合物及びそれを用いたリチウム二次電池

【課題】リチウム二次電池の電極材料に使用でき高容量且つ優れたサイクル安定性を有する新規なチタン系複合酸化物、その製造方法、及びそのチタン複合酸化物を用いたリチウム二次電池を提供する。
【解決手段】酸化チタンと異種元素を複合化した化合物、具体的には、化学式が Ti(1−x)で、Mは、Nb或いはP元素であり、又はこれら2種類の元素の任意の割合での組み合わせであり、xは0<x<0.17、yは1.8≦y≦2.1で表され、MがNb及びP元素の組み合わせの場合、xはNbとPの和であるチタン複合酸化物と、これを電極として使用したリチウム二次電池を開示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム二次電池の活物質として有用な新規チタン系複合酸化物及びそれを用いたリチウム二次電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
リチウム二次電池はそのエネルギー密度の高さから携帯電話やノートパソコン用の電源として進歩してきたが、近年のIT技術の進歩により携帯端末機器の小型、軽量化に伴って、その電源である電池にも更に小型、高容量化が求められるようになってきた。またエネルギー密度の高さを生かし電気自動車やハイブリッド自動車用としての電源や電力貯蔵用電源として注目され始めている。
【0003】
従来、リチウム電池の負極材料はカーボン系負極が一般的であり、それを用いたリチウム二次電池は放電時の電圧が大きくエネルギー密度が高い特徴がある。しかし、負極の電位が低いために、急速充電を行うとリチウム金属が析出して内部短絡が起きる危険性が増すことや更に内部短絡により発火に至る危険性が内在している。そこで、エネルギー密度は低下するものの高電位負極を用いることによって内部短絡時の発熱を減少させ、更に電解液の分解を抑制することで安全性が高く長寿命なリチウム電池が検討されている。中でも、LiTi12はリチウム基準で1.5Vの電位を有し、充放電に際して体積変化が無くサイクル特性が極めて良好なことから、LiTi12を使用したコイン電池が実用化されている。
【0004】
しかしながら、LiTi12の理論容量は175mAh/gであり、一般的に負極材料として使用されているカーボンに比べ、その電気容量は約半分と小さく、LiTi12を使用したリチウム二次電池のエネルギー密度も小さくなる欠点がある。そこで、安全性や長寿命の観点からリチウム基準で1.0〜1.5Vの電圧を有し、電気容量の大きい負極材料が望まれている。
【0005】
このような状況の中、層状構造のKTiやNaTiを出発原料とし、プロトン交換及び加熱脱水して得られる酸化チタンは、ブロンズ構造酸化チタン又はTiO(B)と呼ばれ、層状或いはトンネル構造を有することから、電極材料として注目されている。
【0006】
例えば、ブロンズ構造の酸化チタン化合物をナノ粒子化することにより200mAh/g以上の高い充放電容量が得られることが見いだされているが(非特許文献1)、この様な化合物はかさ密度が低く、比表面積が大きいため、電極の充填性が低くなり、塗膜と集電体との接着性が悪化する傾向が見られ、必ずしも活物質として優れているとは言えない。一方、固相法でKTiやNaTiを経由して得られるミクロンサイズのブロンズ構造の酸化チタンは比表面積を小さくすることが可能で、粒子骨格が堅固であるためサイクル特性は良好であるが、充放電容量が小さいという問題があった。(特許文献1,2)
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】A.R.Armstrong et al. ADVANCED MATERIALS, 2005, 17, No.7
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008−34368号公報
【特許文献2】特開2008−117625号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述したように、従来のリチウム二次電池の電気容量では未だ十分でなく、電気容量が大きな材料であり、尚かつその容量を維持することが出来る負極材料が要望されている。
【0010】
従って、本発明の目的は、チタン系負極材料を用いたリチウム二次電池の電気容量が大きくなり、サイクル安定性の良くなるチタン系化合物を製造し、該チタン系化合物を使用したリチウム二次電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、ニオブ及び/又はリンを含有するトンネル構造或いは層状構造を有するチタン系複合酸化物を得て、それを電池電極として用いたリチウム二次電池が安全性に優れ、高充放電容量と優れたサイクル安定性を示すことを見出し、本発明を完成させた。
【0012】
すなわち、本発明は、化学式がTi(1−x)で、MはNb或いはP元素、又はこれら2種類の元素の任意の割合での組み合わせであり、xは0<x<0.17であり、yは1.8≦y≦2.1で表され、MがNb及びP元素の組み合わせの場合、xはNbとPの和であるチタン系複合酸化物及びその製造方法、並びにそれを活物質として用いた電極で構成されるリチウム二次電池を提供することである。
【0013】
また、前記チタン系複合酸化物は、トンネル構造或いは層状構造を有し、単斜晶系、空間群はC2/mで、粉末X線回折による回折パターンがブロンズ構造に相当する化合物である。
また、前記チタン系複合酸化物は、比表面積が5〜50m/gの範囲にあることが好ましい。
また、前記チタン系複合酸化物を活物質としてリチウム電池用電極を形成することができる。
また、前記電池用電極を用いてリチウム二次電池を形成することができる。
【0014】
更に、前記チタン系複合酸化物を活物質とし、金属Liを対極として作製したリチウム二次電池であって、活物質1g当たり35mAで行った充放電試験における初期の放電容量が210mAh/g以上で、3サイクル目の放電容量が195mAh/g以上かつ、3サイクル目に対する50サイクル目の容量維持率が95%以上であることを特徴とするリチウム二次電池を形成することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明により新規なチタン系複合酸化物が提供され、リチウム二次電池の負極とした場合、エネルギー密度を大きくし、サイクル特性を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】電池評価を行ったコイン電池の模式図である。
【図2】ブロンズ構造Ti0.94Nb0.062.03試料(実施例)のX線回折図である。
【図3】ブロンズ構造TiO試料(比較例)のX線回折図である。
【図4】実施例1の走査型電子顕微鏡写真である。
【図5】実施例1及び比較例1(試料1及び9)のサイクル特性である。
【図6】実施例2及び比較例2(試料2及び10)のサイクル特性である。
【図7】実施例3及び比較例3(試料3及び11)のサイクル特性である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明のチタン系複合酸化物は、化学式がTi(1−x)で、MはNb又はP元素であり、又はこれら2種類の元素の任意の割合での組み合わせであり、xは0<x<0.17であり、yは1.8≦y≦2.1で表され、MがNb及びP元素の組み合わせの場合、xはNbとPの和である化合物である。ニオブ或いはリンの量が増加するにつれて充放電容量は増加するが、xが0.17を超えると、逆に充放電容量の低下を招くため、好ましくは0<x≦0.15である。なお、ニオブ或いはリンの含有量は、蛍光X線分析装置を用いてFP(Fundamental Parameter)法或いは検量線法、又はICP法により分析できる。
(結晶構造)
【0018】
結晶構造の解析には、ターゲットとしてCuを使用したX線回折装置により分析でき、X線回折パターンの同定は、付属のソフトウェアを用いてICDD(International Centre For Diffraction Data)のPDF(Powder Deffraction File)から既知のX線回折パターンと比較して行える。本発明のチタン系複合酸化物は、Ti、Nb、P、O系化合物でありながら、X線回折パターンがトンネル構造或いは層状構造を有するブロンズ構造酸化チタンに相当し、単斜晶系で空間群はC2/mである。なお、ブロンズ構造酸化チタンのX線回折パターンは、PDF#0035−0088、#0046−1237及び#0046−1238で示される。
(比表面積)
【0019】
比表面積はBET法にて測定され、該チタン系複合酸化物がリチウムイオンの挿入脱離に伴う電極反応を行う際の反応界面の大きさを表すパラメーターであり、急速充放電を行う際に重要な因子である。即ち、数値が大きい程反応性は向上するが、大き過ぎると電極集電体との接着性の低下や粒子間の界面抵抗の増加による電池の内部抵抗の増加が起こり、小さ過ぎると反応性が低下し、十分な特性が得られないため、比表面積は5〜50m/gの範囲に制御することが好ましい。
(一次粒子と二次粒子)
【0020】
該チタン系複合酸化物は、走査電子顕微鏡で一次粒子及び二次粒子を観察することができる。一般的に、活物質の一次粒子径は、比表面積と同様にリチウムイオンとの反応界面や、リチウムイオンの移動距離の大きさを表し、充放電容量の大きさを左右する重要な因子の一つである。粒子径が小さいほど反応界面が大きく且つリチウムイオンの移動距離が短いので、大きい充放電容量と高い負荷特性を得やすい。一方で、リチウム二次電池の電極は活物質を有機溶剤及び結着剤と混合して塗料を作製しこれを集電体に塗布して作製するので、活物質の粒子径が小さく比表面積が大きい或いは針状又は棒状といった異方的な粒子では塗料化が困難であり、塗膜が集電体から剥離する可能性がある。また、塗料性を向上させるために有機溶剤を多く使用したり、結着剤の比率を高めたりすると、電極の単位面積あたりの活物質量が低下し、結果として高い充放電容量を生かせない。
【0021】
既存のブロンズ構造酸化チタンは、水熱合成等の湿式法で得られる高比表面積の化合物であるか、或いは固相法で低比表面積であっても縦軸と横軸の比率が大きい針状或いは棒状で立体障害があるかさ密度の小さい化合物であった。該チタン系複合酸化物は第3元素を添加することにより長軸長の成長を抑制することができ、中間体の焼成温度が1000℃の産物であっても長軸の最大粒径を5μm以下、平均粒径を3μm以下にすることができる。更に、原料の混合を噴霧乾燥法で行うか、圧密成形後に粒度調整することにより、棒状粒子が集合した二次粒子を形成することができる。この二次粒子は立体障害が小さいために、かさ密度を0.4g/ml以上に高くすることが可能であり、塗料化したときの適正な粘度に調整しやすく、高い塗膜充填性を実現できる。
【0022】
また、球状或いは塊状に造粒された該チタン系複合酸化物は充放電に伴う体積膨張を緩和することができ、塗膜へのダメージを抑制しサイクル安定性に寄与することができる。
(導電性付与)
【0023】
本発明のチタン系複合酸化物は、前駆体から脱水によりブロンズ構造を得る熱処理工程において、通常は大気中で熱処理を行うが、非酸化性或いは還元性雰囲気下で熱処理を行っても得ることができ、その場合は酸素欠損構造による電子伝導性の向上が期待できる。また、一次粒子表面に炭素を被覆し、導電性を付与することも有効である。有機物と該チタン系複合酸化物或いはその前駆体を非酸化性雰囲気或いは還元性雰囲気下で熱処理して得られ、電子伝導性が向上し、又充放電に伴う粒子の膨張収縮によるダメージを緩和することができ、負荷特性及びサイクル安定性に効果がある。
(電池特性)
【0024】
該チタン系複合酸化物を正極活物質として使用し、負極にLi金属を使用したコイン型二次電池を作製して活物質1g当たり35mAで充放電試験を行うと、本発明によるチタン系複合酸化物は初期放電容量が210mAh/g以上の高い値を得ることが可能である。また、サイクル特性の指標を3サイクル目の放電容量(C3サイクル目)に対する50サイクル目の放電容量(C50サイクル目)の維持率、すなわち容量維持率=C50サイクル目/C3サイクル目×100で表し、該活物質を用いたコイン型二次電池の容量維持率は95%以上得ることができる。これは、同等の結晶子径且つ比表面積を有するニオブ或いはリンを含有しない酸化チタン化合物に比べ約5〜30%充放電容量が高いものであり、その容量差は比表面積が小さいものほど大きくなる。ニオブ及び/又はリンを酸化チタンと複合化することにより容量が向上する機構は現段階では明確ではないが、トンネル構造或いは層状構造のTiO骨格にニオブ及び/又はリンを一部置換することで骨格に若干の歪みが生じ、リチウムイオンの拡散経路を広くし、リチウムイオンの挿入・脱離を容易にしているものと推察する。実際に、ニオブ及び/又はリンを添加して得たブロンズ構造チタン酸化物は、未添加ものに比べ層間距離に相当する格子定数a値が大きく保持される。
(製造方法)
本発明のチタン系複合酸化物に関する製造方法を詳しく説明する。
【0025】
チタン原料には、アナターゼ及びルチル型酸化チタン、含水酸化チタン(メタチタン酸)、水酸化チタンが使用できるが、副原料との反応性の良いアナターゼ型酸化チタンまたは含水酸化チタンを使用することが好ましい。カリウム原料には、炭酸カリウムまたは水酸化カリウムが使用できるが、作業安全性の面で炭酸カリウムが好ましい。ニオブ原料には、水酸化ニオブ、五酸化ニオブ又はニオブ酸カリウムが使用できる。リン原料には、リン酸、五酸化二リン、リン酸カリウム、リン酸水素カリウム、メタリン酸カリウム、ピロリン酸カリウム、ピロリン酸水素カリウム又はリン酸アンモニウムが使用できる。
【0026】
まずは、各原料を混合し、原料混合物を作製する。チタン原料とカリウム原料の混合割合は、KTiの化学量論比から若干カリウム過剰の範囲で混合することが好ましい。これは焼成工程におけるカリウムの揮発を考慮したものであり、部分的に化学量論比よりもチタン過剰の混合比率になればKTi13が生成し、カリウムイオンの除去が不十分になり、充放電容量低下の原因となる。又、ニオブ或いはリンも同様にカリウムと化合物を形成するので、それに見合うようにカリウム量を過剰に調整する。混合方法は、ヘンシェルミキサー、振動ミル、遊星ボールミル或いは擂潰機などの一般的な粉砕混合機が使用可能であり、又、原料を水に混合溶解してスラリー化し、スプレードライヤー等の噴霧乾燥又は噴霧熱分解法等によるドライアップで原料混合物を調製できる。なお、後者の湿式での原料混合の場合は、ボールミル等で予め原料同士を粉砕することにより、反応性を高めることができる。
【0027】
次に、原料混合物を700〜1100℃の範囲で、大気中で焼成する。焼成時間は、焼成温度、炉への仕込み量により適宜調整できる。冷却は、炉内で自然冷却するか、炉外に排出し放冷すればよく、特に限定されない。得られた焼成物はX線回折により構成相を確認することで評価が可能で、主成分は単斜晶系、空間群C2/mに属する層状構造のKTiであることが好ましい。ただし、ニオブ及び/又はリン元素の添加量によっては副生成物の回折線を若干含む。なお、KTi13 、KTi或いはその両相がある場合は、焼成物を振動ミル、ハンマーミルや擂潰機などで粉砕して、再び大気中で焼成することでKTi13 及びKTiの副生成物量を減らすことができる。
【0028】
焼成物は必要に応じて振動ミル、ハンマーミルやジェットミル等の一般的な粉砕機で粉砕した後、0.1N〜5Nの希硫酸、塩酸或いは硝酸の中から単独又は組み合わせて選択し、粉砕物を浸漬してイオン交換する。このイオン交換処理は、1時間から1週間の範囲で実施し、その後はデカンテーションやフィルタープレス等で雑塩除去を行う。また、イオン交換は2回以上行うことにより効果的にカリウムイオンを除去することできる。雑塩除去後は、フィルタープレスや遠心分離機等で固液分離し、100℃以上で乾燥し、チタン系複合酸化物の前駆体が得られる。
【0029】
前駆体は300〜700℃、より好ましくは400〜600℃の範囲で大気中或いは窒素雰囲気下で熱処理することにより、該チタン系複合酸化物が得られる。なお、熱処理時間は、焼成温度、炉への仕込み量により適宜調整できる。冷却は、炉内で自然冷却するか、炉外に排出し放冷すればよく、特に限定されない。
【0030】
炭素被覆は、工程途中のチタン系複合酸化物前駆体或いはチタン系複合酸化物を得た段階で行える。炭素を含有する有機物を該前駆体或いはチタン系複合酸化物と乾式混合するか、水戻ししてスプレードライヤーで噴霧乾燥することにより有機物との混合物を作製できる。有機物としては、炭素又は炭素、水素及び酸素で構成された有機物はすべて使用することが出来るが、噴霧乾燥法等によって混合する場合はブドウ糖、マルトース等の水溶性の糖類やPVAなどの水溶性のアルコール類が好ましい。この混合物を非酸化性雰囲気の下で500〜800℃に加熱して有機物を分解炭化することで、チタン系複合酸化物に均一に炭素被覆できる。なお、該前駆体を用いた場合では、チタン系複合酸化物の熱処理と炭化が同時に行えるので工程簡略が可能になる。
【実施例】
【0031】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明する。以下の実施例は単に例示の為に記すものであり、発明の範囲がこれらによって制限されるものではない。
[実施例1]
【0032】
炭酸カリウム粉末、二酸化チタン粉末及び水酸化ニオブ粉末をモル比でK:Ti:Nb=34:62:4になるように秤量し、純水に混合溶解して、原料混合スラリーを調製した。このスラリーをスプレードライヤーを使用して噴霧乾燥し、箱形電気炉にて850℃で1h焼成した。焼成物を3.6N HSO の水溶液中で15h撹拌してカリウムイオンをプロトン交換し、その後、デカンテーション洗浄で雑塩を除去した。このプロトン交換及びデカンテーション洗浄は二回行った。ヌッチェにろ紙を敷いて固液分離し、固形物を110℃で24h乾燥した。乾燥物は、箱形電気炉にて400℃で熱処理し、試料1を得た。
【0033】
得られた試料はX線回折装置(リガク製、商品名RINT−TTRIII)によりX線回折パターンを測定し、単斜晶系、空間群C2/mのブロンズ構造の酸化チタン単一相であることを確認した。また、リガク製サイマル10型蛍光X線装置によりニオブの含有量を測定したところ、組成はTi0.94Nb0.062.03であることを確認した。マイクロメリティックス社製ジェミニ2375によりBET一点法による比表面積を測定し、比表面積は25m/gであった。
【0034】
本試料82重量部とアセチレンブラック9重量部及びポリフッ化ビニリデン9重量部を混合後、N−メチル−2−ピロリドンに対して固形分濃度30%でこの混合試料を加え、ハイシェアーミキサーにより5分間混練し、塗料を作製した。次に上記塗料を銅箔上にドクターブレード法で塗布した。110℃で真空乾燥後、初期電極合剤の厚みに対して80%にロールプレスした。1cmの円形に打ち抜き後、図1に示すコイン電池の正極とした。図1において負極は金属リチウム板を、電解液はエチレンカーボネートとジメチルカーボネートの等容量混合物にLiPF6を1mol/Lで溶解したものを、セパレーターはグラスフィルターを使用した。上記により作製したコイン電池を用いて活物質1g当たり35mAで1.0Vまで放電後、同電流値で3.0Vまで充電し、このサイクルを50回繰り返した。なお、測定環境は25℃とした。初期放電容量は247mAh/g、3サイクル目の放電容量は226mAh/gであった。また、50サイクル後の放電容量は217mAh/gと3サイクル目に対する50サイクル目の容量維持率は96%と良好なサイクル安定性を示した。
[実施例2]
【0035】
原料混合後の焼成温度が1000℃であること以外は実施例1と同様にして試料2を作製した。得られた試料は単斜晶系、空間群C2/mのブロンズ構造の酸化チタン単一相であり、組成はTi0.94Nb0.062.03であることを確認した。比表面積は15m/gであった。初期放電容量は231mAh/g、3サイクル目の放電容量は210mAh/gであった。また、50サイクル目の放電容量は210mAh/gであり、容量維持率は99%以上であった。
[実施例3]
【0036】
原料混合後の焼成温度が1050℃であること以外は実施例1と同様にして試料3を作製した。得られた試料は単斜晶系、空間群C2/mの結晶構造のブロンズ構造の酸化チタン単一相であり、組成はTi0.94Nb0.062.03であることを確認した。比表面積は10m/gであった。初期放電容量は216mAh/g、3サイクル目の放電容量は199mAh/gであった。また、50サイクル目の放電容量は199mAh/gであり、容量維持率は99%以上であった。
[実施例4]
【0037】
原料混合において、炭酸カリウム粉末、二酸化チタン粉末及び水酸化ニオブ粉末の混合比率をモル比でK:Ti:Nb=34:65:1にする以外は実施例2(原料混合後の焼成温度が1000℃)と同様にして試料4を作製した。得られた試料は、単斜晶系、空間群C2/mのブロンズ構造の酸化チタン単一相であり、組成はTi0.99Nb0.012.00であることを確認した。比表面積は15m/gであった。初期放電容量は220mAh/g、3サイクル目の放電容量は198mAh/gであった。また、50サイクル目の放電容量は195mAh/gであり、容量維持率は99%であった。
[実施例5]
【0038】
原料混合において、炭酸カリウム粉末、二酸化チタン粉末及び水酸化ニオブ粉末の混合比率をモル比でK:Ti:Nb=34:59:7にする以外は実施例2(原料混合後の焼成温度が1000℃)と同様にして試料5を作製した。得られた試料は、単斜晶系、空間群C2/mのブロンズ構造の酸化チタン単一相であり、組成はTi0.90Nb0.102.05であることを確認した。比表面積は12m/gであった。初期放電容量は217mAh/g、3サイクル目の放電容量は197mAh/gであった。また、50サイクル目の放電容量は194mAh/gであり、容量維持率は99%であった。
[実施例6]
【0039】
原料混合において、炭酸カリウム粉末、二酸化チタン粉末及び水酸化ニオブ粉末の混合比率をモル比でK:Ti:Nb=34:57:9にする以外は実施例1(原料混合後の焼成温度が850℃)と同様にして試料6を作製した。得られた試料は、単斜晶系、空間群C2/mのブロンズ構造の酸化チタン単一相であり、組成はTi0.87Nb0.132.06であることを確認した。比表面積は23m/gであった。初期放電容量は215mAh/g、3サイクル目の放電容量は195mAh/gであった。また、50サイクル目の放電容量は187mAh/gであり、容量維持率は96%であった。
[実施例7]
【0040】
原料混合において、水酸化ニオブの代わりにピロリン酸カリウムをK:Ti:P=34:65:1になるように混合した以外は、実施例1(原料混合後の焼成温度が850℃)と同様にして試料7を作製した。得られた試料は単斜晶系、空間群C2/mのブロンズ構造酸化チタン単一相であり、組成はTi0.9940.0062.003であることを確認した。比表面積は28m/gであった。初期放電容量は241mAh/g、3サイクル目の放電容量は217mAh/gであった。また、50サイクル目の放電容量は208mAh/gであり、容量維持率は96%であった。
[実施例8]
【0041】
原料混合において、水酸化ニオブの代わりにピロリン酸カリウムをK:Ti:P=34:65:1になるように混合した以外は、実施例2(原料混合後の焼成温度が1000℃)と同様にして試料8を作製した。得られた試料は単斜晶系、空間群C2/mのブロンズ構造の酸化チタン単一相であり、組成はTi0.9940.0062.003であることを確認した。比表面積は15m/gであった。初期放電容量は214mAh/g、3サイクル目の放電容量は198mAh/gであった。また、50サイクル目の放電容量は196mAh/gであり、容量維持率は99%であった。
[実施例9]
【0042】
原料混合において、炭酸カリウム粉末、酸化チタン粉末、水酸化ニオブ粉末、ピロリン酸カリウム粉末をK:Ti:Nb:P=34:64:1.5:0.5になるように混合した以外は、実施例2(原料混合後の焼成温度が1000℃)と同様にして試料9を作製した。得られた試料は単斜晶系、空間群C2/mのブロンズ構造の酸化チタン単一相であり、組成はTi0.953Nb0.0410.0062.023であることを確認した。比表面積は14m/gであった。初期放電容量は224mAh/g、3サイクル目の放電容量は202mAh/gであった。また、50サイクル目の放電容量は200mAh/gであり、容量維持率は99%であった。
[比較例1]
【0043】
原料混合において水酸化ニオブを添加せずに実施例1(原料混合後の焼成温度が850℃)と同様にして試料9を作製した。得られた試料は単斜晶系、空間群C2/mのブロンズ構造酸化チタン単一相であり、組成はTiOであることを確認した。比表面積は25m/gであった。初期放電容量は228mAh/g、3サイクル目の放電容量は210mAh/g、50サイクル目の放電容量は195mAh/gであり、容量維持率は93%であった。
[比較例2]
【0044】
原料混合において水酸化ニオブを添加せずに実施例2(原料混合後の焼成温度が1000℃)と同様にして試料10を作製した。得られた試料は単斜晶系、空間群C2/mのブロンズ構造酸化チタン単一相であり、組成はTiO2であることを確認した。比表面積は13m/gであった。初期放電容量は209mAh/g、3サイクル目の放電容量は192mAh/g、50サイクル目の放電容量は190mAh/gであり、容量維持率は99%以上であった。
[比較例3]
【0045】
原料混合において水酸化ニオブを添加せずに実施例3(原料混合後の焼成温度が1050℃)と同様にして試料11を作製した。得られた試料は単斜晶系、空間群C2/mの結晶構造の酸化チタン単一相であり、組成はTiO2であることを確認した。比表面積は9m/gであった。初期放電容量は184mAh/g、3サイクル目の放電容量は158mAh/g、50サイクル目の放電容量は160mAh/gであり、容量維持率は99%以上であった。
[比較例4]
【0046】
原料混合において、炭酸カリウム粉末、二酸化チタン粉末及び水酸化ニオブ粉末の原料混合比率をモル比でK:Ti:Nb=34:54:12にする以外は実施例2と同様にして試料12を作製した。得られた試料は、単斜晶系、空間群C2/mの結晶構造のTiO及びKNbOの二相であることを確認した。また、組成はTi0.83Nb0.172.08であることを確認した。比表面積は7m/gであった。初期放電容量は180mAh/g、3サイクル目の放電容量は147mAh/gであった。また、50サイクル目の放電容量は147mAh/gであり容量維持率は99%以上であった。
[比較例5]
【0047】
原料混合後の焼成時間が24hであること以外は実施例3(原料混合後の焼成温度及び焼成時間が1000℃、1h)と同様にして試料13を作製した。得られた試料は単斜晶系、空間群C2/mの結晶構造の酸化チタン単一相であり、組成はTi0.94Nb0.062.03であることを確認した。比表面積は3m/gであった。初期放電容量は178mAh/g、3サイクル目の放電容量は117mAh/g、50サイクル目の放電容量は94mAh/gであり、容量維持率は80%であった。
【比較例6】
【0048】
原料混合において、炭酸カリウム粉末、二酸化チタン粉末及び水酸化ニオブ粉末の原料混合比率をモル比でK:Ti:Nb=38:58:4にする以外は実施例2(原料混合後の焼成温度が1000℃)と同様にして試料14を作製した。得られた試料は単斜晶系、空間群C2/mの結晶構造の酸化チタン単一相であり、組成はTi0.94Nb0.062.03であることを確認した。比表面積は55m/gであった。初期放電容量は205mAh/g、3サイクル目の放電容量は180mAh/g、50サイクル目の放電容量は175mAh/gであり、容量維持率は97%であった。
以上の実施例と比較例の結果を表1に示す。
【0049】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学式がTi(1−x)で、Mは、Nb又はP元素、又はこれら2種類の元素の任意の割合での組み合わせであり、xは0<x<0.17、yは1.8≦y≦2.1で表され、MがNb及びP元素の組み合わせの場合、xはNbとPの和であるチタン系複合酸化物。
【請求項2】
結晶構造の特徴としてトンネル構造或いは層状構造を有し、単斜晶系、空間群C2/mであり、粉末X線回折による回折パターンがブロンズ構造に相当する請求項1記載のチタン系複合酸化物。
【請求項3】
比表面積が5〜50m/gの範囲にあることを特徴とする請求項2記載のチタン系複合酸化物化合物。
【請求項4】
金属Liを対極としてリチウム二次電池を作製した際に、活物質1g当たり35mAで行った充放電試験における初期放電容量(Li挿入容量)が210mAh/g以上であり、3サイクル目の放電容量(Li挿入容量)が195mAh/g以上且つ、3サイクル目の放電容量に対する50サイクル目の放電容量の維持率が95%以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のチタン系複合酸化物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の化合物を電極活物質として用いた電池用電極。
【請求項6】
請求項5に記載の電池用電極を用いたリチウム二次電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−173761(P2011−173761A)
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−39774(P2010−39774)
【出願日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【出願人】(000109255)チタン工業株式会社 (17)
【Fターム(参考)】