説明

電気車制御装置

【課題】アクティブサスペンションや軸ばねの可変特性といったハードウェアの追加や変更を不要とし、電力変換回路の数を抑制して車体の振動乗り心地を改善する。
【解決手段】車体が搭載される2台の台車のうち,前方の台車の前方の車輪を駆動する電動機と後方の台車の前方の台車を駆動する電動機とが並列接続され,前方の台車の後方の車輪を駆動する電動機と後方の台車の後方の車輪を駆動する電動機とが並列接続され,2組の並列接続した電動機の組み合わせに対し逆方向の振動トルクが重畳するように制御することにより電動機のトルク変動を用いて2台の台車に同一の上下力を発生させてそれぞれの台車の上下振動を抑制することにより車体が前後線対称形状に弾性変形する振動を間接的に抑制することを特徴とする電気車制御装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気車の駆動及び振動制御を行う電気車制御装置に関するものであり、特に振動乗り心地向上に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図3から図7に従来の技術による電気車制御装置の一例を示し、この図に基づいて従来の技術を説明する。
【0003】
車体1の運転台にある主幹制御器2を運転士が操作することにより、加速指令が出力され電動機制御装置3に入力される。電動機制御装置3に入力された加速指令はトルク制御器31によってトルク指令に変換される。トルク指令は電流制御器32に入力され、電力変換回路33に流れる電流がトルク指令と対応した電流となるように電圧指令を生成する。また同時に、電流制御器は電圧指令と電力変換回路33に流れる電流から電動機61の回転速度を推定する。電力変換回路33は、集電装置4とレール5の間の電圧を用いて、電圧指令と等価的な電圧を台車6に搭載されている電動機61に電圧を印加する。(例えば特許文献1)
【0004】
台車6を上から見た図を図5に、横から見た図を図6に示す。台車6を横から見た際に構成が複雑でるため、図6では3つの図に分割したが、全て同一の台車6に組み込まれる構成である。
【0005】
台車6は走行用の車輪62が2組あり、車輪62と台車枠63は上下方向が軸ばね64、前後方向は前後支持装置65で結合されている。また、台車枠63と車体1は、上下方向が空気ばね66で、前後方向は牽引装置67で結合されている。
【0006】
電動機61のトルクは、継手68を介して駆動装置69に入力される。駆動装置69の小歯車691は歯車箱692に取り付けられている。小歯車691は車輪62とつながった大歯車693と噛み合って車輪62を回転させる。この時に、歯車箱692が回転運動をすることを防ぐために、台車枠63と結合する吊りリンク694によって歯車箱692の回転運動を防いでいる。
【0007】
車輪62はレール5上を走行するが、レール5の凹凸により上下に振動する。上下振動は、軸ばね64及び空気ばね66により吸収されるが、一部は車体1に伝達される。しかしながら、レール5の凹凸が大きいと十分に振動が減衰されずに車体1の振動も大きくなるため、乗り心地の悪化を招く。
【0008】
軸ばね64によって台車枠と軸箱の間の振動が吸収されるが、電動機61は台車枠63に結合されているため電動機61と小歯車691の相対位置がずれる。そのために、継手68により電動機61と小歯車691の相対位置がずれてもトルクが伝わるようになっている。
【0009】
台車6、電動機61、車輪62は一つの車体1に対して複数存在するため、説明の際に区別が必要な場合は下記のように記す。一両の車体1の中に2台の台車6が搭載されているうちの、前方のものを前台車6F、後方のものを後台車6Rとする。また、4台搭載されている電動機61は、前から順に第1電動機611、第2電動機612、第3電動機613、第4電動機614とし、4つある車輪62は、前方から順に、第1車輪621、第2車輪622、第3車輪623、第4車輪624、とする。電動機61と車輪62は同一番号のものが組み合わされており、第1電動機611と第1車輪621及び第2電動機612と第2車輪622は前台車6Fに、第3電動機613と第3車輪623及び第4電動機614と第4車輪624は前台車6Rに搭載されている。
【0010】
車体1の振動の形態として、車体全体が振動する剛体振動と呼ばれる振動形状以外に、車体自体が変形する弾性振動もしくは曲げ振動といわれる振動形態がある。特に図7に示すような形に車体が変形する弾性一次振動もしくは曲げ一次振動と呼ばれる振動は、固有振動数が8〜10Hz程度であり、乗客が敏感に感ずる周波数帯域と一致するため乗り心地の悪化につながる。また、弾性一次振動の固有振動数は、台車枠63の上下振動の固有振動数に近いため軌道の凹凸によって台車枠63が上下に振動し弾性一次振動が増大しやすい。そのため、軌道の凹凸があると弾性一次振動が増大し乗り心地の悪化を招く。
【0011】
車体1の振動を抑制するために、アクティブサスペンションを台車枠63と車体1の間に設ける場合がある。アクティブサスペンションは、車体1の振動を検出して車体1の振動を抑制するような力を発生する。(例えば、特許文献2)
【0012】
また、軸ばね64の特性を可変にすることによって、台車枠63の上下振動を制御し、間接的に車体1の振動の抑制を行う手法も提案されている。(例えば、特許文献3)
【0013】
しかしながら、アクティブサスペンションや軸ばねの特性を可変にすることによる振動制御は、新たなハードウェアの追加や改造が必要であり、コストを有する。その一方で、既存のハードウェアを用いて振動を抑制する手法として、電動機61のトルクを用いて車体振動を抑制することも可能である。図8から図9を用いてその詳細を説明する。
【0014】
電動機61のトルクが発生すると、駆動装置69の小歯車691は大歯車周りに公転運動をしようとする。しかしながら、小歯車691は歯車箱692に設置されており、歯車箱692は吊りリンク694によって台車枠63に結合されていることから、小歯車691の公転運動を抑制するように力を発生する。この力の反作用が台車枠63にかかるため、電動機61のトルクによって台車枠63は力を受ける。
【0015】
2台の電動機61に逆方向にトルクをかけた場合、図8に示すように台車枠63に対して吊りリンクからの力が働く。吊りリンク694によって発生する力によって台車枠の上下方向に重なり合うため、2台の電動機61に逆方向のトルクをかけることにより、台車枠の上下運動を制御できる。
【0016】
加速度センサ631がそれぞれの台車枠63につけられ、台車枠63の上下振動加速度を検出する。加速度センサ631の出力は、積分器34が積分することにより台車枠63上下絶対速度に変換される。積分器34の出力が比例器35により増幅したものを、該当する台車の電動機61に対応するトルク指令のうち、一方から減算しもう一方には加算する。
【0017】
この構成により、台車枠63の上下絶対速度に比例した振動トルクが2台の電動機61に逆方向に重畳される。逆方向の振動トルクは、[0015]に示した原理により台車枠63の上下力として作用する。台車枠63の上下振動絶対速度に比例した逆方向の力が台車枠63に発生することにより、台車枠63の上下振動を抑制できる。
【0018】
レールに凹凸がある場合、車輪62→軸ばね64→台車枠63→空気ばね66→車体1の順に減衰しながら伝達される。そこで、台車枠63の振動を抑制することにより、車体1への振動伝達がなくなり、レールに凹凸があっても車体1の振動を抑制することができる。特に、車体1の弾性一次振動は台車枠63の上下振動と固有振動数が近いため、台車枠63の振動抑制により大幅に車体1の弾性一次振動が低減できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【特許文献1】特開2005−160245号公報
【特許文献2】特開平7−267085号公報
【特許文献3】特開2005−145312号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
電気鉄道車両においては、複数の電動機61を並列接続させて一台の電力変換回路により駆動する場合が多い。電力変換回路33は、高価な半導体素子を利用しており、またスペースの多くとるため、一台の電力変換回路33により複数の電動機61を駆動することにより、電力変換回路の数を削減することができコスト削減及び小型化に貢献することが可能である。
【0021】
しかしながら、一台の電力変換回路33で複数の電動機61を並列に接続すると、並列に接続された電動機61のトルクを独立に制御することはできない。そのため、[0016]に示した2台の電動機に逆方向のトルクをかけて台車枠に上下力を発生させるためには、それぞれ異なる電力変換回路33が必要となる。そのため、電力変換回路のコストやスペースが問題となる。
【課題を解決するための手段】
【0022】
請求項1の発明によれば、車輪を有する2台の台車の上に車体が搭載されている電気車を制御する電気車制御装置において、2台の該台車に同一の上下力を発生させてそれぞれの2台の前記台車の上下振動を抑制することにより、該車体が前後線対称形状に弾性変形する振動を間接的に抑制することを特徴とする電気車制御装置。
【0023】
請求項2の発明によれば、2台の前記台車内にそれぞれ2台の電動機を有しそれぞれの該電動機が駆動装置を介して独立に車輪を駆動することにより加減速する電気車において、前記電気車制御装置は前記電動機を制御するものであり、それぞれの前記電動機のトルクに振動成分を重畳させることにより前記台車の上下振動を抑制することを特徴とする請求項1に記載の電気車制御装置。
【0024】
請求項3の発明によれば、前記車体が搭載される2台の前記台車のうち、前方の台車の前方の車輪を駆動する電動機と後方の台車の前方の台車を駆動する電動機とが電気的に並列接続され、前方の台車の後方の車輪を駆動する電動機と後方の台車の後方の車輪を駆動する電動機とが電気的に並列接続され、前記2組の電気的に並列接続した電動機の組み合わせに対し逆方向の振動トルクが重畳するように制御することを特徴とする請求項2に記載の電気車制御装置。
【0025】
請求項4の発明によれば、2台の前記台車の上下振動の絶対速度の和に比例して逆方向となるような上下力を2台の前記台車に発生させることにより前記台車の上下振動抑制を行うことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかの1項に記載の電気車制御装置。
【発明の効果】
【0026】
電動機を並列接続した状態であっても、電動機トルクによる車体の振動抑制を実現する。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の実施例1に係る電気車制御装置の一例を説明する図である。
【図2】本発明の実施例1に係る電気車制御装置の制御系の一例である。
【図3】従来の技術による電気車制御装置の一例を説明する図である。
【図4】従来の技術による電気車制御装置の制御系の一例である。
【図5】電気車制御装置の台車の上面図の一例である。
【図6】電気車制御装置の台車の側面図の一例である。
【図7】電気車の車体の弾性一次振動を説明する図である。
【図8】電動機トルクを用いた車体振動抑制の原理を説明する図である
【図9】従来の技術による電気車制御装置の制御系の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下に図面を参照して、本発明にかかる電気車制御装置の好適な実施の形態を詳細に説明する。
【実施例1】
【0029】
図1及び図2を用いて請求項1の発明の一実施例について説明するが、従来の技術と同一部分は省略する。
【0030】
前台車6Fの第1電動機611と後台車6Rの第3電動機613を電気的に並列接続し、第1電力変換回路331で駆動する。同様に前台車6Fの第2電動機612と後台車6Rの第4電動機614を電気的に並列接続し、第2電力変換回路332で駆動する。
【0031】
前台車61Fの台車枠63に搭載された加速度センサ631と前台車61Rの台車枠63に搭載された加速度センサ631の出力の和をとり、積分器34が積分することにより2台の台車枠63上下絶対速度の和が得られる。積分器34の出力が比例器35により増幅したものをトルク指令から減算したものを第1電流制御器321に入力し、加算したものを第2電流制御器322に入力する。第1電流制御器321は第1電力変換回路331に流れる電流を、第2電流制御器322は第2電力変換回路332に流れる電流を制御し、それぞれの電力変換回路33に接続された電動機のトルクが電流制御器32の入力に一致するように制御される。
【0032】
上記構成により、2台の台車6の台車枠63の上下速度の和に比例して逆方向の上下力が、2台の台車枠63に発生することになる。
【0033】
弾性一次振動は、前後線対象の形状であるため、前方と後方で同位相に上下力を発生することにより抑制可能である。すなわち、前後の台車枠63に同一方向に力を発生することにより、弾性一次振動が抑制される。
【0034】
台車の上下振動の抑制には、台車枠63の上下絶対速度に比例した力を発生できれば良い。弾性一次振動に対しては、2台の台車枠63の上下運動の和により加振される。つまり、2台の台車枠63の上下速度の和を抑制できれば良いため、2台の台車枠63の上下絶対速度の和に比例した力を発生すれば良い。
【0035】
本構成により、これまで電動機のトルクで車体振動を抑制するには4台の電力変換回路が必要であったのに対し、2台の電力変換回路で振動抑制を実現できる。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明は、電気鉄道車両の駆動システムに有効である。また既存の車両のハードウェアの変更なしに実現でき、電力変換回路の数も抑制できるため、極めて有効である。
【符号の説明】
【0037】
1 車体
2 主幹制御器
3 電動機制御装置
31 トルク制御器
32 電流制御器
321 第1電流制御器
322 第2電流制御器
33 電力変換回路
331 第1電力変換回路
332 第2電力変換回路
34 積分器
35 比例器
36 フィルタ
4 集電装置
5 レール
6 台車
6F 前台車
6R 後台車
61 電動機
611 第1電動機
612 第2電動機
613 第3電動機
614 第4電動機
62 車輪
621 第1車輪
622 第2車輪
623 第3車輪
624 第4車輪
63 台車枠
631 加速度センサ
64 軸ばね
65 前後支持装置
66 空気ばね
67 牽引装置
68 継手
69 駆動装置
691 小歯車
692 歯車箱
693 大歯車
694 吊りリンク


【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪を有する2台の台車の上に車体が搭載されている電気車を制御する電気車制御装置において、2台の該台車に同一の上下力を発生させてそれぞれの2台の前記台車の上下振動を抑制することにより、該車体が前後線対称形状に弾性変形する振動を間接的に抑制することを特徴とする電気車制御装置。
【請求項2】
2台の前記台車内にそれぞれ2台の電動機を有しそれぞれの該電動機が駆動装置を介して独立に車輪を駆動することにより加減速する電気車において、前記電気車制御装置は前記電動機を制御するものであり、それぞれの前記電動機のトルクに振動成分を重畳させることにより前記台車の上下振動を抑制することを特徴とする請求項1に記載の電気車制御装置。
【請求項3】
前記車体が搭載される2台の前記台車のうち、前方の台車の前方の車輪を駆動する電動機と後方の台車の前方の台車を駆動する電動機とが電気的に並列接続され、前方の台車の後方の車輪を駆動する電動機と後方の台車の後方の車輪を駆動する電動機とが電気的に並列接続され、前記2組の電気的に並列接続した電動機の組み合わせに対し逆方向の振動トルクが重畳するように制御することを特徴とする請求項2に記載の電気車制御装置。
【請求項4】
2台の前記台車の上下振動の絶対速度の和に比例して逆方向となるような上下力を2台の前記台車に発生させることにより前記台車の上下振動抑制を行うことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかの1項に記載の電気車制御装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−173441(P2011−173441A)
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−36954(P2010−36954)
【出願日】平成22年2月23日(2010.2.23)
【出願人】(000003115)東洋電機製造株式会社 (380)
【Fターム(参考)】