説明

電気音響変換器用振動板およびその振動板を用いた電気音響変換器

【課題】振動板面内での共振モードを分散させ、周波数特性を安定にし平坦なものにした電気音響変換器用振動板およびその振動板を用いた電気音響変換器を提供する。
【解決手段】振動板の内側から外周部に向って複数のリブが間隔を介して形成された電気音響変換器用振動板において、振動板の周方向に沿って順次配列されたリブの形状、長さ、配置、間隔の少なくとも一つを異ならせ、不規則的なリブパターンとした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
マイクロホンやスピーカのような電気音響変換器用振動板としては図6や図7に示すように、円形のものやトラック形状のものがある。最近では、薄型TV用として省スペース化を図ったトラック形状の電気音響変換器が多く用いられている。
【0002】
しかるに、マイクロホンやスピーカなどの電気音響変換器の振動板は、振動板面内で共振モードが生じ、これが原因となって周波数特性の乱れ(暴れ)が生じる。
【背景技術】
【0003】
従来、これを解決するために、図6、図7に示すように、振動板100の面上に、規則性、対象性のある凸リブまたは凹リブ101を入れることによって剛性を向上させ、共振を抑え、周波数特性を平らにする手法が採られていた。
【0004】
ここで、凹リブとは、振動板面において、前面から背面側に突出したリブのことであり、前面から見ると溝のように見える。凸リブとは前面から前方に突出したリブのことである。
【0005】
従来においては、各リブの形状や長さ、配置パターン等に規則性、対象性を有している。
【0006】
図6や図7に示した従来例に相当する先行技術としては、例えば特開平9−224297、特表2007−535260が存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平9−224297
【特許文献2】特表2007−535260
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1の振動板は、図6に示したもののように、円形をなしその振動板100の周方向全体にわたって内側から外周部に向って所定の間隔で同形状の複数のリブが規則的に配列されている。
特許文献2の振動板は、振動板の形状はトラック形状をなしている。この文献2では振動板の長さ方向両端部に所定の間隔で内側の円形部分から外周にかけて放射状に多数のリブがそれぞれ形成され、両端部のリブパターンはそれぞれ等しくなっている。
【0009】
図8は、図7に示したトラック形状の振動板の周波数特性を示す。図7に示す振動板では、リブ101は振動板100の内側から外周部に向って延び、かつ所定の間隔で配置されている。また、全てのリブ101の外端部は振動板外周部まで延び、振動板の周方向全体にわたって規則的に配置されている。また、リブパターンは振動板101の長さ方向中央部の長軸に対し線対称となっている。また、短軸に対しても線対称となっており、対象性を有している。
【0010】
このトラック形状の振動板では、共振モードを分散させるために多数のリブ101を形成しても図8においてA部で示すように、高域においてピークとディップが生じ、かつ音圧も低下している。
【0011】
このように、共振モードを低減させるために振動板の面状にリブを規則的、対称的に形成しても高域において安定した平坦な周波数特性を実現することはできない、という課題があった。
【0012】
この発明は上記のことに鑑み提案されたもので、その目的とするところは、振動板面内での共振モードを分散させ、高域において周波数特性を安定にし平坦なものにした電気音響変換器用振動板およびその振動板を用いた電気音響変換器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
請求項1に係る発明は、振動板の内側から外周部に向って複数のリブが間隔を介して形成された電気音響変換器用振動板において、振動板の周方向に沿って順次配列されたリブの形状、長さ、配置、間隔の少なくとも一つを異ならせ、不規則的なリブパターンとしたことを特徴とする。
請求項2に係る発明は、請求項1記載の電気音響変換器用振動板において、前記振動板はトラック形状をなし、中央部に円形のドーム部が形成され、その外周部にボイスコイル取付部が形成され、かつその外周部はトラック形状のエッジ部が形成され、前記トラック形状をなす振動板の長軸方向に凸リブが形成され、トラック形状の上半部および下半部にそれぞれ凹リブが複数形成されたことを特徴とする。
請求項3に係る発明は、請求項1または2記載の電気音響変換器用振動板を備えた電気音響変換器であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明では、振動板の内側から外周部に向って複数のリブが間隔を介して形成された電気音響変換器用振動板において、共振モードを分散させるために形成された前記各リブの形状、長さ、配置、間隔の少なくとも一つは異ならせ、振動板内の剛性の弱い部分に共振モードが乗り易いのを防止し、かつエッジ部とドーム部の逆共振が発生するなどしても音圧の打ち消し合い、または強め合いを抑制するようにしたため、高域において、大きなディップ・ピークを抑制でき、良好な音質を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施例のトラック形状の振動板の平面図を示す。
【図2】同上の斜視図を示す。
【図3】同上の振動板を用いた電気音響変換器の音圧に対する周波数特性のシミュレーションを示す。
【図4】本発明に対する比較例の振動板の共振モードのシミュレーションの説明図である。
【図5】本発明品の共振モードのシミュレーションの説明図である。
【図6】従来の円形の振動板の平面図を示す。
【図7】従来のトラック形状の振動板の平面図を示す。
【図8】従来のトラック形状の振動板を用いた電気音響変換器の音圧に対する周波数特性のシミュレーションを示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面に沿って本発明を説明する。
【実施例1】
【0017】
図1は本発明の一実施例の平面図、図2はその斜視図を示す。この例では振動板としてトラック形状のものを例として示す。
【0018】
振動板1の振動面は、図2から明らかなように、円形で示すドーム部1aと、その外周に形成されたトラック形状のエッジ部1bとを有し、エッジ部1bはドーム部1aの外周のボイスコイル取付部2から外周固定部に向って音響放射方向に湾曲形成され、側断面がほぼコーン状をなす。ボイスコイル取付部2の内部には孔がなく塞がれており、ドーム部1aが形成されている。エッジ部1bの外周部には外周固定部3が設けられている。
【0019】
この実施例では、振動板面上に、前面から見て前方に突出した凸状のリブと、背面側に突出し、前面から見るとへこみ溝のように見える凹状のリブを複数形成し、各リブ相互の形状、長さ、配置、間隔の少なくとも一つを異ならせてリブパターンを部分的に無原則とすることにより、振動板面内での共振モードを分散させ、周波数特性を安定した平坦のものとしたことを特徴としている。
【0020】
ここで無原則とは、規則的なリブパターンに対する反対の概念であり、リブの形状、長さ、位置、間隔の少なくとも一つを異ならせたことをいう。そして、リブの形態としては、前方に突出する凸リブ、背面側に突出し、前面から見ると背面側にへこんだ凹リブのいずれか、またはそれらを混在させたものでも良い。凸リブおよび凹リブ混在の場合、本発明ではそれらの数を異ならせ、凹凸の面積を等しくなりづらくし、大きなピーク・ディップの発生を抑制するようにしている。
【0021】
図1において、説明の便宜上、トラック形状の振動板の中央部に形成された円形のボイスコイル取付部2の中心を0とする。また、トラック形状の長径方向の長さ方向に沿って延び、中心0を通る長軸をX−X’、短径方向の長さ方向に沿って延び、中心0を通る短軸をY−Y’とする。
【0022】
また、中心0を中心とするX−Yの扇形の領域を第1の領域、Y−X’の領域を第2の領域、X’−Y’の領域を第3の領域、Y’−Xの領域を第4の領域とする。
【0023】
このトラック形状の振動板1では、X−X’線上であってボイスコイル取付部2の両側であって長軸方向には前方に向って突出するほぼ逆U字状をなすアップロール状の凸リブ4、4’がそれぞれ一つずつ形成されている。
【0024】
また、Y−Y’線上の短軸方向には、細長いレンズ形をなし、背面に向って突出し、前面から見て凹状の凹リブ5、5’がそれぞれ形成されている。この凹リブ5、5’の形状は上記凸リブ4、4’に比べ形状は小さい。
【0025】
トラック形状の振動板1では、X−X’線の長軸方向において、円形のボイスコイル取付部2の外周から振動板1の外周部までの距離が長い。したがって、この部分は剛性が低く、共振モードが生じやすいため、後述する他のリブに比べこの凸リブ4の幅を大きくし、振動板1の長軸方向の剛性を高めている。
【0026】
各凸リブ4、4’の内端は円形をなすボイスコイル取付部2の外周部から振動板1の外周部に向って直線状に延びている。しかし、各凸リブ4、4’の外端は振動板1の外周部に接することなく、外周部とは離間した内側に位置している。
【0027】
凸リブ4の幅は広く、内端部はほぼ円弧状に形成され、外端部は内端部に比べ尖っている。
【0028】
また、凸リブ4、4’の頂部4a、4a’はRがついて湾曲している。
【0029】
図1の図示の状態において、左側上方の第1の領域側における長軸上の一方の凸リブ4の時計方向上方位置には、凸リブ4と間隔lを介し背面側に向って突出し、前面から見ると凹状をなす第1の凹リブ6が形成されている。この第1の凹リブ6の内端は尖り、外端は内端に比べ尖り度は小さく全体形状は細長いほぼ流線形の形状に形成されている。この凹リブ6の内端部は先細となっており、内端部から外端部に向って徐々に幅広となり、かつ外端は再び先細となっているが外端部の幅は内端部の幅より若干幅広となっている。また、凹リブ6の外端は振動板1の外周部に接している。凹リブ6の内端は下側に位置する凸リブ4のほぼ中央部に位置し、ボイスコイル取付部2に接していない。
【0030】
図示の状態において、第1の凹リブ6の時計方向上方には凹リブ6より寸法が長く、同じくほぼ流線形をなす第2の凹リブ7が間隔をあけて形成されている。この第2の凹リブ7の内端はボイスコイル取付部2の外周に接し、かつ外端は振動板1の外周部に向って直線状に延びるが、外端は振動板1の外周部に接することなく、やや内側に位置している。
【0031】
この第2の凹リブ7の時計方向上方には間隔をあけて第1、第2の凹リブ6、7に比べ長さが短く前面から見ると細長いレンズ形をなす第1の凹リブ8が形成されている。この第1の凹リブ8の外端および内端は尖っている。外端は振動板1の外周部に接している。内端はボイスコイル取付部2側に向って延びるが、ボイスコイル取付部2に接することはなく、内端とボイスコイル取付部2の外周間には若干の距離がある。
【0032】
この第1のほぼレンズ形の凹リブ8の時計方向であって横方向には間隔を介してほぼレンズ形をなす第2の凹リブ9が形成されている。この第2の凹リブ9は上記第1の凹リブ8より長く、さらに細長い形をなす。外端は振動板1の外周部に接している。内端はボイスコイル取付部2に向って延びるが、内端は第1の凹リブ8に比べボイスコイル取付部2の外周に接近しているが、若干の間隔がある。
【0033】
この第2の凹リブ9の時計方向には間隔を介しほぼレンズ形をなす第3の凹リブ10が形成されている。この第3の凹リブ10は先のレンズ形をなす第2の凹リブ9より長さは短い。外端は振動板1の外周部に接している。内端はボイスコイル取付部2に向って延びるが、内端とボイスコイル取付部2の外周間には若干の間隔がある。
【0034】
この第3の凹リブ10の時計方向には、この凹リブ10より若干長さが短く細長いほぼレンズ形の凹リブ5が間隔を介し形成されている。この凹リブ5はY−Y’線の短軸上に位置している。外端は振動板1の外周に接している。内端はボイスコイル取付部2に向って延びるが、内端とボイスコイル取付部2の外周間には若干の間隔がある。
【0035】
第1の領域において、凸リブ4と、ほぼ流線形をなす第1の凹リブ6との間隔、第1の凹リブ6と第2の凹リブ7との間隔、第2の凹リブ7とほぼレンズ形をなす第1の凹リブ8との間隔、第1の凹リブ8と同じくほぼレンズ形をなす第2の凹リブ9との間隔、第2の凹リブ9と同じくほぼレンズ形をなす第3の凹リブ10との間隔、第3の凹リブ10とY−Y’線上に位置する凹リブ5との間隔は、図示の態様から明らかなように、それぞれ異なっている。
【0036】
また、各リブの内端とボイスコイル取付部2の外周間の距離、つまり中心0からの距離はそれぞれ異なっている。第1の領域におけるリブパターンは無原則になっている。
【0037】
第2の領域において、Y−Y’線上の凹リブ5の時計方向には間隔を介し凹リブ10が形成されている。この凹リブ10の形状は、凹リブ5を基準とすると、反時計方向(図示の状態において左側)に隣接して形成された第1の領域の上記した第3の凹リブ10と同じである。
【0038】
第2の領域内の凹リブ10の時計方向には間隔を介して凹リブ9が形成されている。この凹リブ9の形状は、第1の領域の第2の凹リブ9と同様である。
【0039】
この凹リブ9の時計方向には間隔を介しほぼレンズ形の凹リブ11が形成されている。凹リブ11の外端は振動板1の外周部に接している。内端はボイスコイル取付外周部2と離間している。この凹リブ11は第1の領域の第1の凹リブ8と形状が異なる。また、第2の領域における凹リブ11と凹リブ9との間隔は、第1の領域におけるほぼレンズ形をなす第2の凹リブ9と、これと隣接する反時計方向側の第1の凹リブ8との間隔より広い。
【0040】
第2の領域の凹リブ11の時計方向には間隔を介しほぼ流線形をなす凹リブ7が形成されている。この第2の領域の凹リブ7の形状は第1の領域のほぼ流線形をなす第2の凹リブ7と同じであるが、両隣にそれぞれ位置する他のリブとの間隔は異なる。
【0041】
第2の領域の凹リブ7の時計方向には間隔を介しほぼ流線形をなす凹リブ6が形成されている。この凹リブ6の形状は、第1の領域のほぼ流線形をなす第1の凹リブ6とほぼ同じであるが、両隣にそれぞれ位置する他のリブ相互の間隔は異なる。
【0042】
第2の領域の上記凹リブ6の時計方向には間隔lを介しX−X’線上の他方の凸リブ4’が形成されている。この間隔lは、第1の領域側の一方の凸リブ4と凹リブ6との間の間隔lより短い。第2の領域内のリブ相互も無原則になっている。
【0043】
次に第3の領域内のリブについて説明する。
【0044】
長軸上の他方の凸リブ4の時計方向には間隔lを介し凹リブ6が形成されている。この凹リブ6の形状は、第1の領域の第1の凹リブ6とほぼ同様である。また、他方の凸リブ4’との間隔は、第1の領域の第1の凹リブ6と一方の凸リブ4との間の間隔lとほぼ同じである。
【0045】
第3の領域の凹リブ6の時計方向には間隔を介しそれぞれ凹リブ7、凹リブ8、凹リブ9、凹リブ10、Y−Y’線上の凹リブ5’が形成されている。これらの各リブ6〜10の形状は第1の領域におけるほぼ流線形をなす第1、第2の凹リブ6、7、ほぼレンズ形をなす第1〜第3の凹リブ8〜10と同じであるが、第3の領域内のリブ相互は無原則となっている。
【0046】
次に第4の領域内のリブについて説明する。
【0047】
第3および第4の領域の境界のY−Y’線上の凹リブ5’と、第4および第1の領域の境界のX−X’線上の凸リブ4との間に、Y−Y’線上の凹リブ5’から間隔を介し凹リブ10、凹リブ9、凹リブ11、凹リブ7、凹リブ6が順次形成されている。
【0048】
これらのリブの形状は、第2の領域において、Y−Y’線上の一方の凹リブ5から間隔を介して順次形成された凹リブ10、凹リブ9、凹リブ11、凹リブ7、凹リブ6とほぼ同じであるが、第4の領域内のリブ相互は無原則となっている。
【0049】
以上のように、凸リブ4、4’は長軸方向に一対形成され、長軸を基準としたトラック形状の振動板1の上半部および下半部には間隔を介し複数の凹リブが形成されており、これらの各リブは、ボイスコイル取付部2の外周と振動板1の外周部との間に放射状に形成されている。
【0050】
以上の各リブの形状、配置は、X−X’線に対し、その上半部と下半部とは線対称ではない。Y−Y’線に対し、その左半部と右半部も線対称でない。本発明では、振動板の周方向に順次隣接して配列されリブ相互の形状、長さ、間隔等を異ならせている。本発明では、振動板を均等に2以上の領域に分割したとき、少なくとも一方の領域内では隣接するリブ相互の形状、長さ、配置、間隔は異なっており不規則に形成されている。そして、周方向における第1〜第4の各領域内の各リブの形状、長さ、配置、間隔等は全て異なり、完全なる無原則となっている。
【0051】
この振動板1のボイスコイル取付部2の背面にボイスコイル(図示せず)を取付け、それを適宜の構成の磁気回路(図示せず)の磁気ギャップ内に配置し、かつ振動板1をトラック形のフレーム(図示せず)に組み込むなどしてトラック型の電気音響変換器を作製した。
【0052】
図3はその電気音響変換器の音圧に対する周波数特性のシミュレーションを示す。
【0053】
本発明によれば、丸で囲んだBで示すように、高域において共振モードが抑制され、音圧が向上し、かつピーク・ディップの発生が抑制され、良好な周波数特性が得られ、音質が向上した。
【0054】
本発明によれば共振モードが抑制されるが、それを立証するための比較例として、図7に示す規則性、かつ対称性を有するリブ101からなる振動板を用いた電気音響変換器の共振モード測定のシミュレーションを示す。
【0055】
図4は比較例の電気音響変換器の、ある特定の周波数での共振モードのシミュレーションを示す。
【0056】
この振動板では長さ方向両端部であってボイスコイル取付部2に赤色部分aの集中した形状の強い共振モードが生じ、その周囲に黄色bの部分、さらにその周囲に緑色cの部分、さらにその周囲に空色dの部分の共振モードが生じた。その他の短径方向や外周部は概ね青色eを呈した。色は振動板の偏位量の絶対値に対応しており、青色e→空色d→緑色c→黄色b→赤色aは振動の度合いを示し、青色eは共振が少なく、赤色aは良く振動していることを示す。この振動板は、短径側に比べ長径側の両端部側であってボイスコイル取付部2側の中央部に赤色aの部分が集中しており、共振モードが大である。
【0057】
したがって、共振モードを低減させるために振動板の面状にリブ101を周方向に所定の間隔を介し規則的に形成しても共振が生じ、高域側において安定した平坦な周波数特性を実現することはできないことがわかる。
【0058】
図5は、リブパターンを無原則とした本発明に係る振動板1を用いた電気音響変換器の同じくある特定の周波数での共振モードのシミュレーションを示す。
【0059】
本発明によれば、共振モードは分散され、赤色aの強い共振モードが低減した。また、その周辺の黄色bの部分、緑色cの部分、空色dの部分の領域が低減した。なお、図中a’は橙色で、赤色aより共振モードは低い。
【0060】
従来品のように、振動板に形成するリブが規則的なパターンでは集中した形状の共振モードが現れる。この理由としては、規則的パターンを持つ振動板では、振動板内の、剛性の弱い部分に共振モードが乗り易く、場合によってはエッジ部とドーム部の逆共振が発生するなどして音圧を打ち消し合いまたは強め合い、図8において、Aで示すように、周波数特性に大きなディップ・ピークを生じさせる。
【0061】
これに対し、本発明品では、少なくとも隣接するリブ相互の形状、長さ、配置、間隔等の少なくとも一つを異ならせるなどしてリブパターンを不規則的にし、振動板内に共振モードが乗りにくくし、仮にエッジ部1bとドーム部1aの逆共振が発生した場合、音圧の打ち消し合い、または強め合いを防止するようにし、高域における大きなピーク・ディップの発生を抑制している。
【0062】
したがって、図3に示す良好な周波数特性を得ることができた。
【0063】
なお、図1、図2において、凸リブ4、4’や凹リブ5〜11の数、形状、長さ、配置、間隔、リブが振動板の内側から外周部に向かって延びる方向等は本発明の最適と思われる実施例を例示したもので、図示例に限定されるものでなく、本発明の精神を逸脱しない範囲で種々の変更は可能である。
【0064】
また、図1および図2に示す実施例では、リブとしては凸リブ4、4’と凹リブ5〜11とを混在させたが、混在させずいずれか一方のリブとしても良い。
【0065】
また、上記実施例ではトラック形状の振動板について説明したが、円形の振動板についても本発明を適用し得る。
【符号の説明】
【0066】
1 振動板
1a ドーム部
1b エッジ部
2 ボイスコイル取付部
3 外周固定部
4、4’ 凸リブ
5、5’ 凹リブ
6 ほぼ流線形の凹リブ
7 ほぼ流線形の凹リブ
8 ほぼレンズ形の凹リブ
9 ほぼレンズ形の凹リブ
10 ほぼレンズ形の凹リブ
11 ほぼレンズ形の凹リブ
、l 距離
0 中心
X−X’ 長軸
Y−Y’ 短軸


【特許請求の範囲】
【請求項1】
振動板の内側から外周部に向って複数のリブが間隔を介して形成された電気音響変換器用振動板において、
振動板の周方向に沿って順次配列されたリブの形状、長さ、配置、間隔の少なくとも一つを異ならせ、不規則的なリブパターンとしたことを特徴とする電気音響変換器用振動板。
【請求項2】
請求項1記載の電気音響変換器用振動板において、前記振動板はトラック形状をなし、中央部に円形のドーム部が形成され、その外周部にボイスコイル取付部が形成され、かつその外周部はトラック形状のエッジ部が形成され、前記トラック形状をなす振動板の長軸方向に凸リブが形成され、トラック形状の上半部および下半部にそれぞれ凹リブが複数形成されたことを特徴とする電気音響変換器用振動板。
【請求項3】
請求項1または2記載の電気音響変換器用振動板を備えてなることを特徴とする電気音響変換器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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