説明

電磁ブレーキ装置及びブレーキ用電源回路

【課題】大型クレーン等の巻上機に適用した場合であっても、点検や部品交換に伴う保守管理作業の負担を大幅に軽減することができ、かつ、ブレーキの動作速度を高速化することができる電磁ブレーキ装置及びブレーキ用電源回路を提供する。
【解決手段】ブレーキ用電源回路は、交流電源ACが、電圧制御回路部30及び急速減磁回路部40を介して、ブレーキコイルL11に接続されている。交流電源ACの一端側が接続された端子NAとブレーキコイルL11の一端側が接続された端子NCとの間には、電圧制御回路部30を構成するサイリスタSCRが設けられ、交流電源ACの他端側が接続された端子NBと端子NCとの間には、ダイオードD11と急速減磁回路部40が直列に設けられている。急速減磁回路部40は、切替スイッチSW11と放電抵抗R11が並列に接続され、切替スイッチSW11は、IGBTとFWDが逆並列に接続されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クレーンやエレベータの巻上機等に適用される電動機に付設される電磁ブレーキ装置、及び、当該電磁ブレーキ装置に適用可能なブレーキ用電源回路に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、工場やコンテナヤード等の大型クレーンや、ビル等に設置されるエレベータに適用される巻上機においては、停電等の予期しない電源遮断時に吊り上げた荷物や乗りかごが落下することを防ぐために電磁ブレーキ装置が採用されている。この種の電磁ブレーキ装置は、一般に、ブレーキコイルに通電しない状態では、電動機(モータ)の回転軸に取り付けられたブレーキハブやブレーキドラムに対して、スプリングの付勢力によりブレーキシューが押し付けられて、回転軸の回転を拘束する制動力が働くように構成されている。一方、電磁ブレーキ装置は、ブレーキコイルに通電した状態では、ブレーキコイルに発生する電磁力によりスプリングの付勢力に抗して、ブレーキシューを吸引してブレーキハブ等から離間させることにより、回転軸への制動力が開放(ブレーキが解除)されるように構成されている。
【0003】
図10は、従来技術における電磁ブレーキ装置に適用される電源回路の構成例を示す概略回路図である。
上述したような電磁ブレーキ装置に適用される電源回路は、例えば図10(a)に示すように、商用の交流電源ACに整流回路110を介してブレーキコイルL111を接続した構成が知られている。図10(a)に示した整流回路110において、D111は半波整流用ダイオードであり、D112は還流用ダイオードである。このような電源回路は、例えば特許文献1に開示されている。
【0004】
図10(a)に示した電源回路においては、電動機の回転軸への制動力が開放された状態(ブレーキの解除状態)では、整流回路110における半波整流により生成される略一定の電流がブレーキコイルL111に継続的に供給される。ここで、大型クレーン等の巻上機に適用される電磁ブレーキ装置においては、回転軸への制動力を開放するためにブレーキ解除時に、大きなインダクタンスを持つブレーキコイルL111に大電流を流して強励磁状態にする必要がある。一方、一旦回転軸への制動力が開放された後においては、当該開放状態(ブレーキの解除状態)を保持するためにはブレーキコイルL111は弱励磁状態にあればよいので、上記のブレーキ解除時に比較して小さな電流をブレーキコイルL111に流せばよい。これに対して、上述した図10(a)に示した電源回路においては、ブレーキ解除後の、当該解除状態の保持期間においても、ブレーキコイルL111に大電流が流れ続けるため、消費電流が増大して電力のロスが生じるという問題を有していた。
【0005】
従来、このような問題を解決するために、例えば図10(b)に示すように、整流回路120にサイリスタSCRを用いた構成が知られている。図10(b)に示した整流回路120において、D121は還流用ダイオードである。このような電源回路は、例えば特許文献2に開示されている。
【0006】
図10(b)に示した電源回路においては、サイリスタSCRの点弧位相を制御することにより、ブレーキ解除時とブレーキ解除状態の保持期間とで、ブレーキコイルL121に供給する電圧や電流を変化させる制御を行う。これにより、上述したようなブレーキ解除状態の保持期間における消費電流が削減されて電力ロスが低減される。
【0007】
また、上述したような問題を解決するための他の構成としては、例えば図10(c)に示すように、整流回路130に、切替接点SW131と分圧抵抗R131が並列接続された回路部131を備えたものが知られている。図10(c)に示した整流回路130において、D131は半波整流用ダイオードであり、D132は還流用ダイオードである。このような電源回路は、例えば特許文献3に開示されている。
【0008】
図10(c)に示した電源回路においては、回路部131の切替接点SW131の導通状態(オン、オフ状態)を制御することにより、ブレーキ解除時とブレーキ解除状態の保持期間とで、整流回路130への分圧抵抗R131の接続を切り替えて、ブレーキコイルL121に供給する電圧や電流を変化させる制御を行う。これにより、上述したようなブレーキ解除状態の保持期間における消費電流が削減されて電力ロスが低減される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2001−349358号公報
【特許文献2】特開平06−200963号公報
【特許文献3】特開2004−262582号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述した特許文献2や特許文献3に開示された電源回路を備えた電磁ブレーキ装置においては、特許文献1における電力ロスの問題を解決することができるが、これらの特許文献に開示された電源回路においては、次のような観点について考慮されていない。
【0011】
すなわち、電磁ブレーキ装置においては、ブレーキコイルへの通電により、電動機の回転軸への制動力が開放(ブレーキが解除)されて、回転軸が回転し、一方、ブレーキコイルへの通電が遮断されると、回転軸への制動力が働き(ブレーキが動作して)、回転軸の回転が停止する。ここで、電磁ブレーキ装置において電源が遮断された場合であっても、ブレーキコイルの励磁状態が完全に消磁、又は、ある程度減磁されるまでには、ブレーキコイルのインダクタンスや巻線抵抗に基づく時定数に応じた所定時間が必要であった。このブレーキコイルの消磁や減磁に要する時間は、電磁ブレーキ装置の性能(ブレーキの動作速度)を規定するものであるため、極力短くすることが求められている。しかしながら、上述したような大型クレーン等の巻上機に適用される電磁ブレーキ装置の場合には、ブレーキコイルのインダクタンスが大きいため、上記消磁又は減磁のために、例えば0.5〜1秒程度の時間を必要としていた。
【0012】
また、上述した特許文献3等に開示された電源回路においては、ブレーキコイルL131に供給する電圧や電流を制御するための回路部131の切替接点SW131として、リレー等の有接点スイッチが使用されている。ここで、有接点スイッチは、一般に、可動部の部品の消耗に伴う定期的な点検や部品交換を必要とする。しかしながら、上述したような大型クレーン等の巻上機は、一般に工場の天井部や屋外の高所等に設置されているため、その近傍に付設される電源回路の点検や修理等の保守管理作業を簡易かつ頻繁に行うことは困難であった。
【0013】
そこで、本発明は、上述した問題点に鑑み、大型クレーン等の巻上機に適用した場合であっても、点検や部品交換に伴う保守管理作業の負担を大幅に軽減することができ、かつ、ブレーキの動作速度を高速化することができる電磁ブレーキ装置、及び、当該電磁ブレーキ装置に適用可能なブレーキ用電源回路を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
請求項1記載の発明は、
原動機の回転軸への制動力を制御する電磁ブレーキ装置において、
前記回転軸の回転を拘束するための制動手段と、
前記制動手段による前記回転軸への制動力を開放するブレーキコイルと、
前記ブレーキコイルに電力を供給して、所定の励磁状態に設定する電源回路と、
を備え、
前記電源回路は、
少なくとも、無接点スイッチング素子と、該無接点スイッチング素子に並列に接続された放電用の抵抗素子とを具備し、前記ブレーキコイルへの前記電力の遮断時に、前記ブレーキコイルに流れる電流を、前記抵抗素子を介して放電することにより、前記ブレーキコイルの前記励磁状態を減衰させる減磁手段を有することを特徴とする。
【0015】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の電磁ブレーキ装置において、
前記減磁手段は、
前記ブレーキコイルへの前記電力の供給時には、前記無接点スイッチング素子を導通状態に設定して、前記抵抗素子が接続された配線経路を無効にし、
前記ブレーキコイルへの前記電力の遮断時には、前記無接点スイッチング素子を非導通状態に設定して、前記抵抗素子が接続された配線経路を有効にすることを特徴とする。
【0016】
請求項3記載の発明は、請求項1又は2記載の電磁ブレーキ装置において、
前記無接点スイッチング素子は、絶縁ゲートバイポーラトランジスタを含む半導体素子であることを特徴とする。
請求項4記載の発明は、請求項1乃至3のいずれかに記載の電磁ブレーキ装置において、
前記電源回路は、
交流電源からの交流電圧成分を整流して整流電圧を生成する整流手段と、
前記整流電圧の電圧値を制御して励磁電圧として前記ブレーキコイルに印加する電圧制御手段と、
をさらに有することを特徴とする。
【0017】
請求項5記載の発明は、請求項4記載の電磁ブレーキ装置において、
前記電圧制御手段は、サイリスタを具備し、該サイリスタを点弧位相制御することにより、前記励磁電圧の電圧値を設定することを特徴とする。
請求項6記載の発明は、請求項4記載の電磁ブレーキ装置において、
前記電圧制御手段は、絶縁ゲートバイポーラトランジスタを含む半導体素子を具備し、該半導体素子をパルス幅変調制御することにより、前記励磁電圧の電圧値を設定することを特徴とする。
請求項7記載の発明は、請求項6記載の電磁ブレーキ装置において、
前記減磁手段及び前記電圧制御手段を構成する前記半導体素子は、1つのパッケージに収納されたモジュール化された電子部品であることを特徴とする。
【0018】
請求項8記載の発明は、
電磁ブレーキ装置を駆動するための電力を供給するブレーキ用電源回路において、
ブレーキの開放状態から該ブレーキの動作状態への移行時に、前記ブレーキを開放させるブレーキコイルの励磁状態を減衰させる減磁手段を備え、
前記減磁手段は、少なくとも、無接点スイッチング素子と、該無接点スイッチング素子に並列に接続された放電用の抵抗素子とを有し、前記ブレーキの動作状態への移行時に、前記ブレーキコイルに流れる電流を、前記抵抗素子を介して放電することにより、前記ブレーキコイルの前記励磁状態を減衰させることを特徴とする。
【0019】
請求項9記載の発明は、請求項8記載のブレーキ用電源回路において、
前記減磁手段は、
前記ブレーキの開放状態においては、前記無接点スイッチング素子を導通状態に設定して、前記抵抗素子が接続された配線経路を無効にし、
前記ブレーキの動作状態への移行時には、前記無接点スイッチング素子を非導通状態に設定して、前記抵抗素子が接続された配線経路を有効にすることを特徴とする。
【0020】
請求項10記載の発明は、請求項8又は9記載のブレーキ用電源回路において、
前記無接点スイッチング素子は、絶縁ゲートバイポーラトランジスタを含む半導体素子であることを特徴とする。
請求項11記載の発明は、請求項8乃至10のいずれかに記載のブレーキ用電源回路において、
交流電源からの交流電圧成分を整流して整流電圧を生成する整流手段と、
前記整流電圧の電圧値を制御して励磁電圧として前記ブレーキコイルに印加する電圧制御手段と、
をさらに有することを特徴とする。
【0021】
請求項12記載の発明は、請求項11記載のブレーキ用電源回路において、
前記電圧制御手段は、サイリスタを具備し、該サイリスタを点弧位相制御することにより、前記励磁電圧の電圧値を設定することを特徴とする。
請求項13記載の発明は、請求項11記載のブレーキ用電源回路において、
前記電圧制御手段は、絶縁ゲートバイポーラトランジスタを含む半導体素子を具備し、該半導体素子をパルス幅変調制御することにより、前記励磁電圧の電圧値を設定することを特徴とする。
請求項14記載の発明は、請求項13記載のブレーキ用電源回路において、
前記減磁手段及び前記電圧制御手段を構成する前記半導体素子は、1つのパッケージに収納されたモジュール化された電子部品であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、大型クレーン等の巻上機に適用した場合であっても、点検や部品交換に伴う保守管理作業の負担を大幅に軽減することができ、かつ、ブレーキの動作速度を高速化することができる電磁ブレーキ装置及びブレーキ用電源回路を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明に係る電磁ブレーキ装置を適用した電動機ユニットの概略構成の一例を示す斜視図である。
【図2】本発明に係る電磁ブレーキ装置に適用されるブレーキ用電源回路の第1の実施形態を示す回路構成図である。
【図3】第1の実施形態に係るブレーキ用電源回路におけるブレーキ解除時の制御動作を示す動作波形図である。
【図4】第1の実施形態に係るブレーキ用電源回路におけるブレーキ解除状態保持期間の制御動作を示す動作波形図である。
【図5】第1の実施形態に係るブレーキ用電源回路におけるブレーキ動作時の制御動作を示す動作波形図である。
【図6】本発明に係る電磁ブレーキ装置に適用されるブレーキ用電源回路の第2の実施形態を示す回路構成図である。
【図7】第2の実施形態に係るブレーキ用電源回路におけるブレーキ解除時の制御動作を示す動作波形図である。
【図8】第2の実施形態に係るブレーキ用電源回路におけるブレーキ解除状態保持期間の制御動作を示す動作波形図である。
【図9】第2の実施形態に係るブレーキ用電源回路におけるブレーキ動作時の制御動作を示す動作波形図である。
【図10】従来技術における電磁ブレーキ装置に適用される電源回路の構成例を示す概略回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明に係る電磁ブレーキ装置及びブレーキ用電源回路について、実施形態を示して詳しく説明する。
(電動機ユニット)
まず、本発明に係る電磁ブレーキ装置を適用した電動機ユニットの概略構成について説明する。なお、以下に示す電動機ユニットの構成は一例であって、本発明に係る電磁ブレーキ装置の適用対象は、これに限定されるものではない。
【0025】
図1は、本発明に係る電磁ブレーキ装置を適用した電動機ユニットの概略構成の一例を示す斜視図である。図1(a)は、電動機に電磁ブレーキ装置が組み付けられた電動機ユニットの全体構成を示す斜視図であり、図1(b)は、図1(a)に示した電動機ユニットにおける、電動機と電磁ブレーキ装置の組み付け構造を示す斜視図である。
【0026】
図1(a)、(b)に示すように、電動機ユニット1は、大別して、電動機(モータ)10と、電磁ブレーキ装置20と、図示を省略した制御回路及び電源回路を有している。
電動機10は、概略、電動機本体11と、ブレーキドラム13と、端子箱14と、を有している。
【0027】
電動機本体11は、周知の商用の交流電源から供給される電力により回転する回転軸12を備えている。ブレーキドラム13は、回転軸12の一端側(図面左端)に取り付けられ、回転軸12の回転に応じて、円周方向に回転する円筒状の側面13sを有している。端子箱14は、例えば電動機本体11の側部に設けられ、電動機本体11に上記交流電源からの電力を供給するための配線(図示を省略)が接続される。
【0028】
電磁ブレーキ装置20は、ブレーキ基部21上に、概略、ブレーキシュー22と、ブレーキ用バネ23と、ブレーキコイル24と、アーム25と、端子箱26と、を有している。ここで、ブレーキシュー22とブレーキ用バネ23は、本発明における制動手段に対応する。また、図1に示した電磁ブレーキ装置20の近傍には、図示を省略した制御回路及び電源回路が設置されている。
【0029】
ブレーキシュー22は、上記電動機10の回転軸12に取り付けられたブレーキドラム13の側面13sに対向するとともに、当該ブレーキドラム13を挟み込むように一対設けられている。ブレーキ用バネ23は、アーム25を介して、各ブレーキシュー22をブレーキドラム13の側面13s方向に押し付ける付勢力を発生する。ブレーキコイル24は、上記ブレーキ用バネ23により生じる付勢力に抗して、各ブレーキシュー22をブレーキドラム13の側面13sから離間させる吸引力を発生する。端子箱26は、ブレーキコイル24に後述する電源回路からの電力を供給するための配線(図示を省略)が接続される。
【0030】
このような電磁ブレーキ装置20において、ブレーキコイル24に通電されていない状態では、ブレーキ用バネ23の圧縮力(圧縮に対する反発力)によりアーム25が押し縮められて、各ブレーキシュー22がブレーキドラム13の側面13sに押し付けられ、回転軸12の回転を拘束する制動力が働く。一方、ブレーキコイル24に通電された状態では、ブレーキ用バネ23の圧縮力に抗してアーム25が押し広げられて、各ブレーキシュー22がブレーキドラム13の側面13sから離間して、回転軸12の回転を拘束する制動力が開放される。
【0031】
<第1の実施形態>
(ブレーキ用電源回路)
次に、上述した電磁ブレーキ装置に適用可能なブレーキ用電源回路の第1の実施形態について説明する。
図2は、本発明に係る電磁ブレーキ装置に適用されるブレーキ用電源回路の第1の実施形態を示す回路構成図である。
【0032】
本実施形態に係るブレーキ用電源回路は、図2に示すように、概略、商用の交流電源ACが、電圧制御回路部(電圧制御手段)30及び急速減磁回路部(減磁手段)40を介して、ブレーキコイルL11に接続されている。電圧制御回路部30は、サイリスタSCRとダイオードD11を備えている。また、急速減磁回路部40は、切替スイッチSW11と放電抵抗(抵抗素子)R11を備えている。ここで、ブレーキコイルL11は、図1に示した電磁ブレーキ装置20のブレーキコイル24に対応する。
【0033】
具体的には、図2に示すように、商用の交流電源ACは、一端側が端子NAに接続され、他端側が端子NBに接続されている。また、ブレーキコイルL11は、一端側が端子NCに接続され、他端側が端子NDに接続されている。ここで、端子NC、NDは、図1に示した端子箱26に対応する。
【0034】
端子NAと端子NCの間には、交流電源ACからの電圧成分を点弧位相制御するためのサイリスタSCRが設けられている。サイリスタSCRは、アノード(A)が端子NAに接続され、カソード(K)が端子NC側に接続されている。サイリスタSCRのゲート(G)は、図示を省略したゲート回路(制御回路)に接続されている。
【0035】
端子ND(又は、端子NB)と端子NCの間には、ダイオードD11と急速減磁回路部40が直列に設けられている。ダイオードD11は、上述したサイリスタSCRと組み合わさることにより交流電源ACからの電圧成分(交流電圧成分)を半波整流する整流手段として機能する。ダイオードD11は、アノードが端子ND(又は、端子NB)に接続され、カソードが接点N11に接続されている。急速減磁回路部40は、接点N11と端子NCの間に、切替スイッチSW11と放電抵抗R11が並列に接続されている。切替スイッチSW11は、絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(IGBT;無接点スイッチング素子)と、負荷電流を転流させるためのフリーホイールダイオード(FWD)が逆並列に接続されている。すなわち、接点N11には、IGBTのコレクタ(C)とFWDのカソードが接続され、端子NCには、IGBTのエミッタ(E)とFWDのアノードが接続されている。なお、IGBTのゲート(G)は、図示を省略したゲート回路(制御回路)に接続されている。
【0036】
(ブレーキ制御動作)
次に、上述した回路構成を有するブレーキ用電源回路における制御動作について説明する。
図3は、本実施形態に係るブレーキ用電源回路におけるブレーキ解除時の制御動作を示す動作波形図であり、図4は、本実施形態に係るブレーキ用電源回路におけるブレーキ解除状態保持期間の制御動作を示す動作波形図である。また、図5は、本実施形態に係るブレーキ用電源回路におけるブレーキ動作時の制御動作を示す動作波形図である。
【0037】
まず、図2に示したブレーキ用電源回路に交流電源ACから電力が供給されていない状態(非通電時)においては、ブレーキコイルL11が励磁されていない状態(非励磁状態)であるので、図1に示した電磁ブレーキ装置20のブレーキシュー22は、ブレーキ用バネ23により生じる付勢力により、電動機10側のブレーキドラム13の側面13sに押し付けられて、電動機10の回転軸12が拘束された制動状態(ブレーキ動作状態)を維持する。
【0038】
一方、ブレーキ用電源回路に交流電源ACから電力が供給された状態(通電時)においては、(1)当該電力が供給された直後のブレーキ解除時と、(2)当該ブレーキ解除状態を保持する期間(ブレーキ解除状態保持期間)において、各々、以下のような制御動作が実行される。さらに、本実施形態においては、ブレーキ用電源回路が上記(1)、(2)の通電状態から再び非通電状態となった場合に、以下のような(3)ブレーキ動作時の制御動作が実行される。
【0039】
(1)ブレーキ解除時
ブレーキ解除時においては、まず、図3中の「切換スイッチ動作状態」に示すように、図2に示した急速減磁回路部40の切替スイッチSW11のゲート(G)にON電圧を印加することにより、IGBTをオン動作させる。この状態で、交流電源ACから供給される正弦波形を有する電圧成分(図3中の「交流電源電圧波形」)のうち、正の電圧成分(整流電圧)が供給される任意のタイミングtaで、電圧制御回路部30のサイリスタSCRを点弧させることにより、図3中の「ブレーキコイル電圧波形」に示すような電圧成分(励磁電圧)に基づく高電圧をブレーキコイルL11に供給する。
【0040】
ここで、電圧制御回路部30のサイリスタSCRを点弧させるタイミングtaは、交流電源ACから供給される正弦波形を有する電圧成分のうち、所定の高電圧がブレーキコイルL11に供給されて、当該ブレーキコイルL11が強励磁状態に設定されるように位相制御される。具体的には、図3中の「サイリスタ点弧位相制御」に示すように、交流電源ACからの電圧成分において、1サイクルの正弦波形を規定する時間t11〜t12〜t13のうち、正の電圧となる時間t11〜t12の初期の任意のタイミング(時間t11寄りの任意のタイミング)taで、サイリスタSCRを点弧させるように設定される。これにより、サイリスタSCRはフル導通するため、図3中の「ブレーキコイル電圧波形」に示すような電圧成分に基づいて、ブレーキコイルL11に正の高電圧が印加され、これに応じてブレーキコイルL11に図3中の「ブレーキコイル電流波形」に示すような大電流が継続的に流れて、ブレーキコイルL11が強励磁状態に設定される。ブレーキコイルL11が強励磁状態に設定されると、図1に示した電磁ブレーキ装置20のブレーキシュー22が、ブレーキ用バネ23により生じる付勢力に抗して、ブレーキドラム13の側面13sから離間するように吸引されて、回転軸12への制動力が開放(ブレーキが解除)される。
【0041】
なお、タイミングtaで点呼したサイリスタSCRは、周知の通り、交流電源ACから供給される電圧成分が正の電圧成分を有し、アノード(A)からカソード(K)に順方向の電流が流れている期間(時間ta〜t12)のみオン動作を持続し、交流電源ACから負の電圧成分が供給されて、カソード(K)からアノード(A)に逆方向の電流が流れた時点(概ね時間t12)でオフ動作する。
【0042】
(2)ブレーキ解除状態保持期間
ブレーキ解除状態保持期間においては、図4中の「切換スイッチ動作状態」に示すように、上述したブレーキ解除時と同様に、急速減磁回路部40の切替スイッチSW11のゲート(G)にON電圧を印加してIGBTをオン動作させた状態で、交流電源ACから供給される正弦波形を有する電圧成分(図4中の「交流電源電圧波形」)のうち、正の電圧成分が供給される任意のタイミングtbでサイリスタSCRを点弧させることにより、図4中の「ブレーキコイル電圧波形」に示すような電圧成分に基づく低電圧をブレーキコイルL11に供給する。
【0043】
ここで、電圧制御回路部30のサイリスタSCRを点弧させるタイミングtbは、交流電源ACから供給される正弦波形を有する電圧成分のうち、所定の低電圧がブレーキコイルL11に供給されて、当該ブレーキコイルL11が上述したブレーキ解除状態を保持するのに十分な弱励磁状態に設定されるように位相制御される。具体的には、図4中の「サイリスタ点弧位相制御」に示すように、交流電源ACからの電圧成分において、1サイクルの正弦波形を規定する時間t21〜t22〜t23のうち、正の電圧となる時間t21〜t22の終期の任意のタイミング(時間t22寄りの任意のタイミング)tbで、サイリスタSCRを点弧させるように設定される。これにより、サイリスタSCRは限定的に導通するため、図4中の「ブレーキコイル電圧波形」に示すような電圧成分に基づいて、ブレーキコイルL11に正の低電圧が印加され、これに応じてブレーキコイルL11に図4中の「ブレーキコイル電流波形」に示すような小電流が継続的に流れて、ブレーキコイルL11が上述したブレーキ解除状態を保持するのに十分な弱励磁状態に設定される。ブレーキコイルL11が上述したように強励磁状態に設定されたのち、所定の弱励磁状態に設定されると、一旦ブレーキドラム13の側面13sから離間するように吸引されたブレーキシュー22はその状態を保持するので、回転軸12への制動力が開放(ブレーキが解除)された状態が維持される。
【0044】
なお、タイミングtbで点呼したサイリスタSCRは、上述したように、アノード(A)からカソード(K)に順方向の電流が流れている期間(時間tb〜t22)のみオン動作を持続し、カソード(K)からアノード(A)に逆方向の電流が流れた時点(概ね時間t22)でオフ動作する。
【0045】
(3)ブレーキ動作時
ブレーキ動作時においては、上述したブレーキ解除状態保持期間において、ブレーキ操作により、あるいは、停電等により、図5中の「交流電源電圧波形」に示すように、交流電源ACから供給される電力が任意のタイミングtcで遮断される。このとき、交流電源ACからの電力の遮断に同期して、図5中の「切換スイッチ動作状態」に示すように、急速減磁回路部40の切替スイッチSW11のゲート(G)にOFF電圧を印加してIGBTをオフ動作させて、切替スイッチSW11に並列に接続された放電抵抗R11の配線経路を有効にする。
【0046】
このように、急速減磁回路部40の切替スイッチSW11(すなわち、IGBT)がオフ動作されると、図5中の「ブレーキコイル電流波形」に示すように、ブレーキコイルL11に流れる電流に急激な変化が生じて、図5中の「ブレーキコイル電圧波形」に示すような逆電圧Veが発生する。この逆電圧Veは、次の(11)式で表される。そして、このときの放電時定数Tcは、(12)式で表される。(11)、(12)式において、LはブレーキコイルL11のインダクタンスであり、RはブレーキコイルL11の巻線抵抗であり、Rは外部接続する放電抵抗R11である。
【0047】
【数1】

【0048】
ここで、本実施形態におけるブレーキ動作時(電源遮断時)のブレーキコイル電流と、図2に示した回路構成において急速減磁回路部40(又は、放電抵抗R11)を備えていない電源回路(以下、便宜的に「比較例」と記す)におけるブレーキコイル電流の挙動(放電特性)とを比較する。図5中の「ブレーキコイル電流波形」に示した点線CEは、比較例となる電源回路において、電源遮断後にブレーキコイルに流れる電流の変化を示すものである。なお、比較例となる電源回路は、図10(b)に示した電源回路の回路構成に対応する。
【0049】
比較例となる電源回路において、上述したようなブレーキ動作により交流電源ACからの電力の供給が遮断された場合の放電時定数Tcは、次の(13)式で表される。
【0050】
【数2】

【0051】
この場合のブレーキコイル電流の放電特性は、図5中の「ブレーキコイル電流波形」に示した点線CEのように、タイミングtcで電源が遮断されたのち、上記(13)式で表される放電時定数Tcに基づいて徐々に放電が進んで電流値が低下し、タイミングteで放電が完了してブレーキコイルに流れる電流がゼロになる。ここで、比較例となる電源回路においては、放電時定数Tcを規定する抵抗成分がブレーキコイルの巻線抵抗Rのみであるため、放電時定数Tcの値が相対的に大きくなる。そのため、放電時間(タイミングtc〜te間の時間)が、例えば0.5〜1秒程度を要する場合がある。
【0052】
これに対して、本実施形態に係るブレーキ用電源回路においては、電源遮断時(タイミングtc)に急速減磁回路部40の切替スイッチSW11のIGBTをオフ動作させることにより、放電抵抗R11の配線経路が有効にされる。これにより、上記(12)式で表されるように、放電時定数Tcを規定する抵抗成分が、ブレーキコイルの巻線抵抗Rと放電抵抗R11(=R)の和(R+R)となるので、放電時定数Tcの値を上述した比較例となる電源回路の場合((13)式)に比較して小さく設定することができる。すなわち、本実施形態によれば、図5中の「ブレーキコイル電流波形」に示すように、電源が遮断されたタイミングtcから放電が完了するタイミングtdまでの放電時間を、比較例となる電源回路に比較して、タイミングtd〜te間の時間Tdifだけ短縮することができる。
【0053】
このように、本実施形態に係るブレーキ用電源回路においては、電源遮断直後にブレーキコイルL11に流れる電流を短時間で放電して、その励磁状態を急速に減衰(すなわち、残留磁束を急激に減磁又は消磁)させることができるので、図1に示した電磁ブレーキ装置20のブレーキシュー22が、ブレーキ用バネ23により生じる付勢力により、ブレーキドラム13の側面13sに押し付けられて、電動機10の回転軸12の回転が略瞬時に拘束されて制動状態(ブレーキ動作状態)に移行する。すなわち、本実施形態によれば、ブレーキの動作速度を向上させることができる。
【0054】
また、上述したように、本実施形態によれば、ブレーキ解除直後においては、ブレーキコイルL11に大電流を供給して強励磁状態に設定することにより、ブレーキシュー22が迅速に吸引されて回転軸12への制動力が開放され、また、その後のブレーキ解除状態保持期間においては、ブレーキコイルL11に小電流を供給して所定の弱励磁状態に設定することにより、当該ブレーキ解除状態が維持されるので、ブレーキ解除中の消費電流を削減して電力ロスを低減することができる。
【0055】
さらに、本実施形態によれば、ブレーキ用電源回路に設けられる切替スイッチSW11として、リレー等の有接点スイッチではなく、IGBT等の無接点スイッチを使用している。これにより、有接点スイッチを使用した場合に必須となる、可動部の部品の消耗に伴う点検や部品交換等の保守管理作業を行う必要がなくなる、又は、その頻度を大幅に削減することができる。また、サイリスタやIGBTを使用してブレーキ用電源回路を構成することにより、大電力に対する耐圧を高めることができるので、部品の故障修理等の保守管理作業の頻度を削減することもできる。したがって、本実施形態に係るブレーキ用電源回路を備えた電動機ユニットを、工場の大型クレーン等の巻上機のように保守管理作業が困難な場所に設置した場合であっても、保守管理作業の負担を軽減しつつ、長期にわたり良好に電磁ブレーキ装置を動作させることができる。
【0056】
加えて、本実施形態に係るブレーキ用電源回路によれば、図2に示したように、サイリスタSCRのカソード(K)と、切替スイッチSW11のIGBTのエミッタ(E)が共通の配線又は接点に接続された回路構成を有している。これにより、サイリスタSCRとIGBTのゲート(G)に制御電圧を供給する各ゲート回路の回路電源を共通化することができるので、当該回路電源を簡易かつ安価に構成することができる。
【0057】
<第2の実施形態>
(ブレーキ用電源回路)
次に、本発明に係るブレーキ用電源回路の第2の実施形態について説明する。
【0058】
上述した第1の実施形態においては、サイリスタSCRを備えた電圧制御回路部30と、IGBTからなる切替スイッチSW11を備えた急速減磁回路部40を使用してブレーキ用電源回路を構成することにより、ブレーキ解除時に交流電源ACからの電圧成分を点弧位相制御してブレーキコイルL11の励磁状態を制御するとともに、ブレーキ動作時に急速減磁する場合について説明した。第2の実施形態においては、電圧制御回路部にサイリスタを使用することなく、IGBTを使用した回路構成により、ブレーキコイルに最適な電圧を安定的に供給することを特徴とする。
【0059】
図6は、本発明に係る電磁ブレーキ装置に適用されるブレーキ用電源回路の第2の実施形態を示す回路構成図である。ここで、上述した第1の実施形態と同等の構成については、同等の符号を付して説明する。
【0060】
本実施形態に係るブレーキ用電源回路は、図6に示すように、概略、商用の交流電源ACが、整流回路部(整流手段)50、電圧制御回路部(電圧制御手段)60及び急速減磁回路部(減磁手段)70を介して、ブレーキコイルL21に接続されている。整流回路部50は、ダイオードD21〜D24を備え、交流電源ACからの電圧成分を全波整流する。また、電圧制御回路部60は、電圧制御スイッチSW21とダイオードD25を備えている。急速減磁回路部70は、切替スイッチSW22と放電抵抗R21を備えている。ここで、ブレーキコイルL21は、図1に示した電磁ブレーキ装置20のブレーキコイル24に対応する。
【0061】
具体的には、図6に示すように、上述した第1の実施形態と同様に、商用の交流電源ACの一端側が端子NAに接続され、他端側が端子NBに接続され、また、ブレーキコイルL21の一端側が端子NCに接続され、他端側が端子NDに接続されている。
【0062】
端子NAと接点N21の間には、ダイオードD21が設けられ、端子NAと接点N22の間には、ダイオードD23が設けられている。また、端子NBと接点N21の間には、ダイオードD22が設けられ、端子NBと接点N22の間には、ダイオードD24が設けられている。ダイオードD21は、アノードが端子NAに接続され、カソードが接点N21に接続されている。ダイオードD22は、アノードが端子NBに接続され、カソードが接点N21に接続されている。ダイオードD23は、アノードが接点N22に接続され、カソードが端子NAに接続されている。ダイオードD24は、アノードが接点N22に接続され、カソードが端子NBに接続されている。
【0063】
接点N21と接点N23の間には、電圧制御回路部60を構成する電圧制御スイッチSW21が設けられている。電圧制御スイッチSW21は、IGBT(無接点スイッチング素子)とFWDが逆並列に接続されている。すなわち、接点N21には、IGBTのコレクタ(C)とFWDのカソードが接続され、接点N23には、IGBTのエミッタ(E)とFWDのアノードが接続されている。なお、IGBTのゲート(G)は、図示を省略したゲート回路(制御回路)に接続されている。また、接点N22と接点N23の間には、ダイオードD25が設けられている。ダイオードD25は、アノードが接点N22に接続され、カソードが接点N23に接続されている。
【0064】
接点N23と端子NCの間には、急速減磁回路部70が設けられている。急速減磁回路部70は、接点N23と端子NCの間に、切替スイッチSW22と放電抵抗R21が並列に接続されている。切替スイッチSW22は、IGBT(無接点スイッチング素子)とFWDが逆並列に接続されている。すなわち、接点N23には、IGBTのコレクタ(C)とFWDのカソードが接続され、端子NCには、IGBTのエミッタ(E)とFWDのアノードが接続されている。なお、IGBTのゲート(G)は、図示を省略したゲート回路(制御回路)に接続されている。
【0065】
(ブレーキ制御動作)
次に、上述した回路構成を有するブレーキ用電源回路における制御動作について説明する。ここで、上述した第1の実施形態と同等の制御動作については、その説明を簡略化する。
【0066】
図7は、本実施形態に係るブレーキ用電源回路におけるブレーキ解除時の制御動作を示す動作波形図であり、図8は、本実施形態に係るブレーキ用電源回路におけるブレーキ解除状態保持期間の制御動作を示す動作波形図である。また、図9は、本実施形態に係るブレーキ用電源回路におけるブレーキ動作時の制御動作を示す動作波形図である。
【0067】
まず、図6に示したブレーキ用電源回路に交流電源ACから電力が供給されていない状態(非通電時)においては、上述した第1の実施形態と同様に、ブレーキコイルL21が励磁されていない状態(非励磁状態)であるので、図1に示した電磁ブレーキ装置20のブレーキシュー22は、ブレーキ用バネ23により生じる付勢力により、電動機10のブレーキドラム13の側面13sに押し付けられて、回転軸12が拘束された制動状態(ブレーキ動作有効状態)を維持する。
【0068】
一方、ブレーキ用電源回路に交流電源ACから電力が供給された状態(通電時)、及び、通電状態から再び非通電状態となった場合においては、上述した第1の実施形態と同様の(1)ブレーキ解除時と、(2)ブレーキ解除状態保持期間と、(3)ブレーキ動作時において、各々、以下のような制御動作が実行される。
【0069】
(1)ブレーキ解除時
ブレーキ解除時においては、図7中の「電圧制御スイッチPWM制御」に示すように、図6に示した電圧制御回路部60の電圧制御スイッチSW21をパルス幅変調(PWM;Pulse Width Modulation)方式で動作制御することにより、図7中の「ブレーキコイル電圧波形」に示すように、ブレーキコイルL21に供給する電圧成分を設定する。また、図7中の「切換スイッチ動作状態」に示すように、急速減磁回路部70の切替スイッチSW22のゲート(G)にON電圧を印加することにより、IGBTをオン動作させる。
【0070】
そして、このような設定状態において、まず、図7中の「交流電源電圧波形」及び「整流後電圧波形」に示すように、交流電源ACから供給される正弦波形を有する電圧成分(交流電圧成分)が、整流回路部50により全波整流される。次いで、図7中の「電圧制御スイッチPWM制御」に示すように、電圧制御回路部60の電圧制御スイッチSW21のゲート(G)に対して、PWM制御されたON電圧を印加することにより、IGBTを断続的にオン動作させる。ここで、本実施形態においては、交流電源ACから供給される電圧成分の周波数に対して、電圧制御スイッチSW21を、例えば10倍以上の周波数でPWM制御する。具体的には、図7中の「電圧制御スイッチPWM制御」に示すように、時間t11〜t13の交流電源ACからの電圧成分の電圧波形の1周期中に、10周期以上のパルス信号を設定して、電圧制御スイッチSW21のゲート(G)にON電圧を印加する。また、このブレーキ解除時においては、各パルス信号の幅(ON電圧となるパルス幅)Tpaを、例えば当該パルス信号の周期と同等、もしくは、それに近似する時間幅(例えばパルス周期の80〜100%)になるようにデューティ比を設定する。
【0071】
これにより、図7中の「整流後電圧波形」及び「ブレーキコイル電圧波形」に示すように、整流回路部50により全波整流された電圧成分(整流電圧)と略同等(例えばデューティ比80〜100%)の電圧成分が、電圧制御回路部60及び急速減磁回路部70を介して、ブレーキコイルL21に印加される。このとき、図7中の「ブレーキコイル電圧波形」に示すように、ブレーキコイルL21に印加される実質電圧(励磁電圧)Vcは、略均一な高電圧に設定される。
【0072】
このように、高いデューティ比で電圧制御回路部60(電圧制御スイッチSW21)をPWM制御することにより、ブレーキコイルL21に正の高電圧が印加され、これに応じてブレーキコイルL21に図7中の「ブレーキコイル電流波形」に示すような大電流が継続的に流れて、ブレーキコイルL21が強励磁状態に設定される。ブレーキコイルL21が強励磁状態に設定されると、電磁ブレーキ装置20のブレーキシュー22が、ブレーキ用バネ23により生じる付勢力に抗して、ブレーキドラム13の側面13sから離間するように吸引されて、回転軸12への制動力が開放(ブレーキが解除)される。
【0073】
(2)ブレーキ解除状態保持期間
ブレーキ解除状態保持期間においては、図8中の「電圧制御スイッチPWM制御」に示すように、上述したブレーキ解除時とは異なるデューティ比で、電圧制御回路部60の電圧制御スイッチSW21をPWM制御するとともに、図8中の「切換スイッチ動作状態」に示すように、上述したブレーキ解除時と同様に、急速減磁回路部70の切替スイッチSW22のゲート(G)にON電圧を印加してIGBTをオン動作させる。ここで、ブレーキ解除状態保持期間においては、電圧制御スイッチSW21をPWM制御する際の、各パルス信号の幅(パルス幅)Tpbが、上述したブレーキ解除時のパルス幅Tpaよりも小さい時間幅(例えばパルス周期の10〜30%)になるようにデューティ比を設定する。
【0074】
これにより、図8中の「整流後電圧波形」及び「ブレーキコイル電圧波形」に示すように、整流回路部50により全波整流された電圧成分の一部分(例えばデューティ比10〜30%)の電圧成分が、電圧制御回路部60及び急速減磁回路部70を介して、ブレーキコイルL21に印加される。このとき、図8中の「ブレーキコイル電圧波形」に示すように、ブレーキコイルL21に印加される実質電圧Vcは、略均一な低電圧に設定される。
【0075】
このように、低いデューティ比で電圧制御回路部60(電圧制御スイッチSW21)をPWM制御することにより、ブレーキコイルL21に正の低電圧が印加され、これに応じてブレーキコイルL21に図8中の「ブレーキコイル電流波形」に示すような小電流が継続的に流れて、ブレーキコイルL21が上述したブレーキ解除状態を保持するのに十分な弱励磁状態に設定される。ブレーキコイルL21が上述したように強励磁状態に設定されたのち、所定の弱励磁状態に設定されると、一旦ブレーキドラム13の側面13sから離間するように吸引されたブレーキシュー22はその状態を保持するので、回転軸12への制動力が開放(ブレーキが解除)された状態が維持される。このように、ブレーキ解除状態保持期間において、電圧制御回路部60の電圧制御スイッチSW21をPWM制御する際のデューティ比は、ブレーキコイルL21が上述したブレーキ解除状態を保持するのに十分な弱励磁状態を実現することができる程度の電圧成分(低電圧)が、ブレーキコイルL21に印加されるように適宜設定される。
【0076】
(3)ブレーキ動作時
ブレーキ動作時においては、上述したブレーキ解除状態保持期間において、ブレーキ操作により、あるいは、停電等により、図9中の「交流電源電圧波形」に示すように、交流電源ACから供給される電力が任意のタイミングtcで遮断される。このとき、交流電源ACからの電力の遮断に同期して、図9中の「切換スイッチ動作状態」に示すように、電圧制御回路部60の電圧制御スイッチSW21、及び、急速減磁回路部70の切替スイッチSW22の各ゲート(G)にOFF電圧を印加して各IGBTをオフ動作させる。これにより、急速減磁回路部70において、切替スイッチSW22に並列に接続された放電抵抗R21の配線経路を有効にする。
【0077】
このように、急速減磁回路部70の切替スイッチSW22(すなわち、IGBT)がオフ動作されると、上述した第1の実施形態と同様に、図9中の「ブレーキコイル電流波形」に示すように、ブレーキコイルL21に流れる電流に急激な変化が生じて、図9中の「ブレーキコイル電圧波形」に示すような逆電圧Veが発生する。この逆電圧Veは、上記(11)式で表される。また、このときの放電時定数Tcは、上記(12)式で表される。
【0078】
したがって、上述した第1の実施形態と同様に、本実施形態に係るブレーキ用電源回路においては、電源遮断時(タイミングtc)に急速減磁回路部70の切替スイッチSW22のIGBTをオフ動作させて、放電抵抗R21の配線経路を有効にすることにより、上記(12)式で表された放電時定数Tcに基づいて、ブレーキコイルL21の放電時間が設定される。ここで、本実施形態における放電時定数Tc(上記(12)式)は、急速減磁回路部70(又は、放電抵抗R21)を備えていない電源回路における放電時定数Tc(上記(13)式)に比較して小さく設定することができるので、本実施形態によれば、図9中の「ブレーキコイル電流波形」に示すように、電源が遮断されたタイミングtcから放電が完了するタイミングtdまでの放電時間を、急速減磁回路部70(又は、放電抵抗R21)を備えていない電源回路における放電時間(図9中の「ブレーキコイル電流波形」に示した点線CEの放電完了タイミングte)に比較して、時間Tdifだけ短縮することができる。
【0079】
このように、本実施形態に係るブレーキ用電源回路においても、上述した第1の実施形態と同様に、電源遮断後にブレーキコイルL21に流れる電流を短時間で放電して、その励磁状態を急速に減衰(すなわち、残留磁束を急激に減磁又は消磁)させることができるので、図1に示した電磁ブレーキ装置20のブレーキシュー22が、ブレーキ用バネ23により生じる付勢力により、ブレーキドラム13の側面13sに押し付けられて、電動機10の回転軸12の回転が略瞬時に拘束されて制動状態(ブレーキ動作状態)に移行する。すなわち、本実施形態においても、ブレーキの動作速度を向上させることができる。
【0080】
また、本実施形態においても、上述した第1の実施形態と同様に、ブレーキ解除直後に、ブレーキコイルL21が強励磁状態に設定されることにより、回転軸12への制動力が開放され、また、その後のブレーキ解除状態保持期間に、ブレーキコイルL21が所定の弱励磁状態に設定されることにより、当該ブレーキ解除状態が維持されるので、ブレーキ解除中の消費電流を削減して電力ロスを低減することができる。
【0081】
さらに、本実施形態においても、上述した第1の実施形態と同様に、ブレーキ用電源回路に設けられる電圧制御スイッチSW21及び切替スイッチSW22として、リレー等の有接点スイッチではなく、IGBT等の無接点スイッチを使用しているので、可動部の部品の消耗に伴う保守管理作業を軽減することができる。また、IGBTを使用してブレーキ用電源回路の電圧制御回路部60及び急速減磁回路部70を構成することにより、大電力に対する耐圧を高めることができるので、部品の故障修理等の保守管理作業の頻度を削減することもできる。したがって、本実施形態に係るブレーキ用電源回路を備えた電動機ユニットを、工場の大型クレーン等の巻上機のように保守管理作業が困難な場所に設置した場合であっても、保守管理作業の負担を軽減しつつ、長期にわたり良好に電磁ブレーキ装置を動作させることができる。
【0082】
加えて、本実施形態に係るブレーキ用電源回路によれば、電圧制御回路部60の電源制御スイッチSW21をPWM制御することにより、ブレーキコイルL21に印加される実質電圧Vcを略一定に制御することができるので、ブレーキコイルL21にリップルの少ない電流を流すことができる。したがって、このときのブレーキコイルL21に印加される電圧(端子NCの電圧)の値を適切に制御することにより、交流電源ACの電源周波数や電圧変動に影響されることなく、ブレーキコイルL21に略一定の電圧を供給して、安定した励磁状態を実現することができる。
【0083】
すなわち、図2や図10(b)に示したように、サイリスタを使用してブレーキコイルに印加される電圧を制御する電源回路においては、商用の交流電源の電源周波数である50Hzと60Hzに対応するために、電源周波数に応じて回路機能を切り替えるための切替回路を別個に設けたり、その切替操作を行う必要がある。また、一般的な電源回路においては、交流電源ACに電圧変動が生じると、その変動が出力電圧(すなわち、ブレーキコイルに印加される電圧)に影響を与える問題を有している。
【0084】
これに対して、本実施形態においては、上述したように、電圧制御回路部60においてPWM制御を行い、ブレーキコイルL21に印加される電圧を任意の値に制御することができる。したがって、本実施形態によれば、電源周波数の切替回路を設けたり、その切替操作を行うことなく、商用電源の周波数の違いに対応することができ、ブレーキコイルL21に略一定の電圧を供給することができる。また、本実施形態により生成される略一定の電圧をフィードバックして、電圧制御回路部60における電圧制御に取り込むことにより、交流電源ACの電圧変動に関わらず、ブレーキコイルに常時最適な電圧を供給することができる。
【0085】
なお、本実施形態においては、ブレーキ用電源回路の回路構成例として、図6に示したように、電圧制御回路部60を構成する電圧制御スイッチSW21、及び、急速減磁回路部70を構成する切替スイッチSW22を、説明の都合上、IGBTを備えた個別のスイッチング部品として示した。本発明の回路構成は、これに限定されるものではなく、上記の個別の部品に替えて、少なくとも、これらのスイッチSW21及びSW22を含む回路素子及び接続配線が1つのパッケージに収納されたIPM(Intelligent Power Module)と呼ばれる電子部品を適用するものであってもよい。これによれば、回路構成のモジュール化による利便性の向上や接続配線の短縮によるインピーダンスの低下、装置構成の小型化や信頼性の向上等、種々の効果に寄与することができる。
【符号の説明】
【0086】
1 電動機ユニット
10 電動機
11 電動機本体
12 回転軸
13 ブレーキドラム
20 電磁ブレーキ装置
22 ブレーキシュー
23 ブレーキ用バネ
24 ブレーキコイル
30 電圧制御回路部
40 急速減磁回路部
50 整流回路部
60 電圧制御回路部
70 急速減磁回路部
AC 交流電源
L11、L21 ブレーキコイル
SCR サイリスタ
SW11、SW22 切替スイッチ
SW21 電圧制御スイッチ
R11、R21 放電抵抗

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原動機の回転軸への制動力を制御する電磁ブレーキ装置において、
前記回転軸の回転を拘束するための制動手段と、
前記制動手段による前記回転軸への制動力を開放するブレーキコイルと、
前記ブレーキコイルに電力を供給して、所定の励磁状態に設定する電源回路と、
を備え、
前記電源回路は、
少なくとも、無接点スイッチング素子と、該無接点スイッチング素子に並列に接続された放電用の抵抗素子とを具備し、前記ブレーキコイルへの前記電力の遮断時に、前記ブレーキコイルに流れる電流を、前記抵抗素子を介して放電することにより、前記ブレーキコイルの前記励磁状態を減衰させる減磁手段を有することを特徴とする電磁ブレーキ装置。
【請求項2】
前記減磁手段は、
前記ブレーキコイルへの前記電力の供給時には、前記無接点スイッチング素子を導通状態に設定して、前記抵抗素子が接続された配線経路を無効にし、
前記ブレーキコイルへの前記電力の遮断時には、前記無接点スイッチング素子を非導通状態に設定して、前記抵抗素子が接続された配線経路を有効にすることを特徴とする請求項1記載の電磁ブレーキ装置。
【請求項3】
前記無接点スイッチング素子は、絶縁ゲートバイポーラトランジスタを含む半導体素子であることを特徴とする請求項1又は2記載の電磁ブレーキ装置。
【請求項4】
前記電源回路は、
交流電源からの交流電圧成分を整流して整流電圧を生成する整流手段と、
前記整流電圧の電圧値を制御して励磁電圧として前記ブレーキコイルに印加する電圧制御手段と、
をさらに有することを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の電磁ブレーキ装置。
【請求項5】
前記電圧制御手段は、サイリスタを具備し、該サイリスタを点弧位相制御することにより、前記励磁電圧の電圧値を設定することを特徴とする請求項4記載の電磁ブレーキ装置。
【請求項6】
前記電圧制御手段は、絶縁ゲートバイポーラトランジスタを含む半導体素子を具備し、該半導体素子をパルス幅変調制御することにより、前記励磁電圧の電圧値を設定することを特徴とする請求項4記載の電磁ブレーキ装置。
【請求項7】
前記減磁手段及び前記電圧制御手段を構成する前記半導体素子は、1つのパッケージに収納されたモジュール化された電子部品であることを特徴とする請求項6記載の電磁ブレーキ装置。
【請求項8】
電磁ブレーキ装置を駆動するための電力を供給するブレーキ用電源回路において、
ブレーキの開放状態から該ブレーキの動作状態への移行時に、前記ブレーキを開放させるブレーキコイルの励磁状態を減衰させる減磁手段を備え、
前記減磁手段は、少なくとも、無接点スイッチング素子と、該無接点スイッチング素子に並列に接続された放電用の抵抗素子とを有し、前記ブレーキの動作状態への移行時に、前記ブレーキコイルに流れる電流を、前記抵抗素子を介して放電することにより、前記ブレーキコイルの前記励磁状態を減衰させることを特徴とするブレーキ用電源回路。
【請求項9】
前記減磁手段は、
前記ブレーキの開放状態においては、前記無接点スイッチング素子を導通状態に設定して、前記抵抗素子が接続された配線経路を無効にし、
前記ブレーキの動作状態への移行時には、前記無接点スイッチング素子を非導通状態に設定して、前記抵抗素子が接続された配線経路を有効にすることを特徴とする請求項8記載のブレーキ用電源回路。
【請求項10】
前記無接点スイッチング素子は、絶縁ゲートバイポーラトランジスタを含む半導体素子であることを特徴とする請求項8又は9記載のブレーキ用電源回路。
【請求項11】
交流電源からの交流電圧成分を整流して整流電圧を生成する整流手段と、
前記整流電圧の電圧値を制御して励磁電圧として前記ブレーキコイルに印加する電圧制御手段と、
をさらに有することを特徴とする請求項8乃至10のいずれかに記載のブレーキ用電源回路。
【請求項12】
前記電圧制御手段は、サイリスタを具備し、該サイリスタを点弧位相制御することにより、前記励磁電圧の電圧値を設定することを特徴とする請求項11記載のブレーキ用電源回路。
【請求項13】
前記電圧制御手段は、絶縁ゲートバイポーラトランジスタを含む半導体素子を具備し、該半導体素子をパルス幅変調制御することにより、前記励磁電圧の電圧値を設定することを特徴とする請求項11記載のブレーキ用電源回路。
【請求項14】
前記減磁手段及び前記電圧制御手段を構成する前記半導体素子は、1つのパッケージに収納されたモジュール化された電子部品であることを特徴とする請求項13記載のブレーキ用電源回路。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2012−255468(P2012−255468A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−127949(P2011−127949)
【出願日】平成23年6月8日(2011.6.8)
【出願人】(592046150)トライテック株式会社 (2)
【Fターム(参考)】