説明

電磁変換器

【課題】より奥行きが小さく、平坦な振動板で低音域を再生することができる電磁変換器を提供することを目的とする。
【解決手段】棒状の磁性体からなるヨーク23と、ヨーク23と所定のギャップ25を有するように配置された棒状の磁石20と、表面に導体パターン15が形成されギャップ25に挿入された棒状の駆動部材4と、駆動部材4に固定された平板状の振動板10と、振動板10を支持するフレーム30とを備えたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、棒状の磁気回路によって駆動される平板型振動板を備えてオーディオ信号から音声再生を行う電磁変換器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
フラットパネルディスプレイ(FPD)を採用するテレビは、画面の大画面化と奥行の縮小化が進められ、設置スペースが削減された結果、壁掛けが可能となっている。特に奥行が小さくなったテレビでは、従来のコーン型等のスピーカ(以下、電磁変換器)では奥行きが大きく、テレビ筺体への組み込みが不可能な状態になっており、電磁変換器の配置に制約が出てきている。
従来の一般的なコーン型の電磁変換器は、例えば、振動系、磁気回路及びフレームからなる。振動系は、振動板、振動板の中心部に設けたキャップ、振動板の外周を支持するエッジ、筒に金属線などの導体を巻きつけて形成され、振動板の内周部に結合されるボイスコイル、ボイスコイルの外周面を支持するスパイダで構成されている。
磁気回路は、磁石、プレート、ポールピースで構成されている。また、フレームは、振動系のエッジとスパイダのそれぞれの外周を支持固定し、磁気回路に固定される。フレームには、給電用の端子とその端子からボイスコイルに至るリード線が固定されている。
【0003】
以上の電磁変換器の動作は次のようになる。端子にオーディオ入力信号が与えられるとリード線を経由してボイスコイルに供給される。磁気回路の磁気ギャップに存在するボイスコイルの導体部において、フレミング左手の法則に基づいて前記信号により駆動力が発生し振動する。すなわち、ボイスコイルの導体部は上下方向に駆動力が発生して振動し、そのボイスコイルに結合された振動系から音波を発生することになる。
【0004】
以上の従来の電磁変換器においては、深さのあるコーン型の振動板とその振動板に結合される筒状のボイスコイルの振動系は奥行きが必要である。
また、磁石、プレートとポールピースからなる磁気回路も奥行きが必要で、これらで構成される電磁変換器は必然的に大きな奥行きとなっていた。例えば、テレビで使うような小口径の全帯域の電磁変換器でも5cm程度の奥行きがあった。
【0005】
このような奥行きのある電磁変換器に対して、以前から平板型電磁変換器や平面型電磁変換器が各種提案されており、一部は製品化されていた(非特許文献1参照)。この非特許文献1によれば、前記平板型電磁変換器の一般的構造としては、振動板は平板状の平らな振動板、ボイスコイル、従来と同様の磁気回路から構成されている。一方、平面型電磁変換器としては、コーン型電磁変換器のボイスコイルに相当する導体を一枚の薄いシートにプリントした振動板が、棒状磁石を配置した磁気回路の磁界によって駆動するガムーゾンタイプの電磁変換器が存在する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】監修 佐伯多門、「スピーカー&エンクロージャー百科」、誠文堂新光社、1999年5月発行
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述した従来の平板型電磁変換器は、ボイスコイルが必要である構造及び磁気回路が従来電磁変換器と同じ構造であるため、奥行きを減少させることは難しかった。また、従来のガムーゾンタイプの電磁変換器は、平坦で奥行きが小さいので薄型テレビ向きであるが、振動板の振動変位を大きくできず低音再生に向かないという課題があった。
【0008】
この発明は、上述した課題を解決するためになされたもので、簡易な構成で、より奥行きが小さく、平坦な振動板で低音域を再生することができる電磁変換器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明に係る電磁変換器は、棒状の磁性体からなるヨークと、ヨークと所定のギャップを有するように配置された棒状の磁石と、表面に導体パターンが形成されギャップに挿入された棒状の駆動部材と、駆動部材に固定された平板状の振動板と、振動板を支持するフレームとを備えたものである。
【発明の効果】
【0010】
この発明に係る電磁変換器によれば、棒状のヨークと棒状の磁石とのギャップに、導体パターンを形成した駆動部材とを挿入して構成したことにより、簡易な構成で奥行きを小さくするとともに、平坦な音圧特性を得ることができる。その結果、より薄型で低音域まで再生可能な電磁変換器を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】この発明の実施の形態1に係る電磁変換器全体を示す概略斜視図である。
【図2】実施の形態1の電磁変換器の構造を示す図1のA−A線(a)縦断面図であり、(b)一部詳細斜視図である。
【図3】実施の形態1の電磁変換器の駆動部材の構造を示す斜視図である。
【図4】実施の形態1の電磁変換器の他の例を示す(a),(b)概略斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、この発明の実施の形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。
実施の形態1.
図1は、本実施の形態の電磁変換器全体を示す概略斜視図である。
図2は、電磁変換器の構成を示す図であり、図2(a)が図1のA−A断面図、図2(b)が図2(a)を一部拡大して示す詳細斜視図である。
図3は、駆動部材の構造を示す斜視図である。
【0013】
電磁変換器1は大きく分けて振動系2と磁気回路3からなり、振動系2及び磁気回路3が支持部材としてのフレーム30により支持され構成されている。実施の形態1の電磁変換器1は、図1に示すように振動系2と、棒状で二組並行に配置した磁気回路3とが設けられている。
【0014】
振動系2は、振動板10、振動板10を支持するエッジ12、及び駆動部材4で構成されている。
振動板10は、軽量な材料からなる矩形平板状で、その外周にエッジ12を接着しており、エッジ12は、断面が半ロール状であり、内周を振動板10に接着され、外周をフレーム30に接着固定されている。
駆動部材4は、基材14及び基材14面上に形成された導体パターン15から構成されている。駆動部材4の形状は、断面がコの字形状(以下、断面コ形状と述べる)に成形された棒状であり、駆動部材4の一面は振動板10の裏面に接着固定されている。駆動部材4の詳細な構造については後述する。
【0015】
磁気回路3は、磁石20とヨーク23とで構成されている。磁石20は断面が長方形の棒状の永久磁石で断面の幅方向に着磁されており、ヨーク23は断面コ形状の棒状の磁性体からなり、磁石20の磁束を誘導して効率よく磁力線が結ばれるように作用している。磁石20がヨーク23の断面コ形状の内側に配置され、ヨーク23の断面コ形状の内壁と磁石20との間には磁気空隙(以下、ギャップ)25として一定の間隔を空けている。ギャップ25には、駆動部材4の断面コ形状の対向する辺が挿入されている。
なお、磁石20とヨーク23との間に構成されるギャップ25の間隔は適宜設定されるものであり、その間隔を小さく設定することで、ギャップ25中の磁束密度を大きくすることができ、磁石20の高さ範囲内において強力な磁路を形成することができる。
【0016】
磁気回路3は、断面がほぼ矩形で長さ方向に大きい細長い棒状であり、それに対向する駆動部材4も同等の長さになっている。磁気回路3及び駆動部材4の長さは振動板10の一辺に近い長さである。
【0017】
ここで、駆動部材4の構造及び製造方法について説明する。
駆動部材4は、図3に示すように、基材14に導体パターン15を形成したシート状のものである。導体パターン15は、基板14の両面あるいは片面に渦巻状に形成されており、導体パターン15の両端には端子16が形成され外部からの信号を受け入れるようになっている。
基材14は、例えば、高分子樹脂あるいはエンジニアリングプラスチックの平板状のシートからなり、厚さや強度を有して十分に自立するように形成されている。導体パターン15は、例えば、銅あるいはアルミニウム等の箔材からなり、基材14の表面上に貼り合わされる。基材14上に貼り合わせた箔材をFPC(Flexible Printed Circuits)の製法と同様にエッチング等により所定のパターンが残るように処理する。
このように製造された駆動部材4は、熱成形等により断面コ形状に折り曲げて形成される。
【0018】
電磁変換器1の動作について説明する。電磁変換器1は、図示しない制御部から、駆動部材4の導体パターン15に信号が印加されると、導体パターン15に沿って電流が流れ、この電流の流れる方向が永久磁石による磁界に直交するためにフレミングの左手の法則に則り、駆動部材4には断面高さ方向に上下に駆動力が発生し、駆動部材4に結合した振動板10は上下に振動して音を発生する。
【0019】
以上のように、この発明の実施の形態1の電磁変換器によれば、狭い磁気ギャップ25の高磁束密度の磁界を利用する構造のために大きな駆動力を得ることができ、再生音圧レベルが大きい高能率な電磁変換器を実現できる。
また、複数の磁気回路3を分散配置して駆動力を均一化できるので変動が少なく平坦な音圧周波数特性が得られる。
【0020】
さらに、図1又は図2に示したように、平面振動板10を主部材とする振動系2と、棒状の磁気回路3とを薄型のフレーム30で支持する電磁変換器1を構成できるため、非常に薄型にできると同時に、部品点数が少なく簡易構造で安価な電磁変換器を得ることができる効果がある。
【0021】
なお、説明において、エッジ12は、その外周をフレーム30に接着固定されるものとして説明したが、これに限られるものではなく、必要に応じてテレビの筺体に直接固定されるものであってもよい。
【0022】
また、一般的に振動板10は中高域において固有共振である分割振動が発生することが多いが、この分割振動を高域に押しやって広い再生帯域を実現するために図1又は図2に示すように磁気回路3は2本(更には3本以上)にすることが望ましい。すなわち、複数本にすることによって、駆動力を分散させ振動板に均等に駆動力が伝わるようにして分割振動を抑制し、広帯域を実現するものである。
【0023】
また、実施の形態1の電磁変換器では、矩形の振動板10に2組の磁気回路3で駆動する構成を示したが、本発明は他の形態の電磁変換器に適用可能である。その例として、図4(a)に示すように縦横比の大きい振動板10を1個の磁気回路3で駆動する形態や、図4(b)に示すように鋭角三角形の振動板10を2組の磁気回路3で駆動する形態等、多様な組み合わせが考えられる。
【0024】
また、上記の実施例における駆動部材4は、上記のように、断面コ形状の構造としているが、駆動力による変形を抑えたり構造的な強さを保つために駆動部材4の端部を基材14(又はその同等品)で塞ぎ側面を形成したりしても良い。すなわち、駆動部材4を箱型の構造にしても良い。
【0025】
また、平板状の振動板10は構造的に弱いので、ハニカム構造体等の三層構造にして構成材自体が剛性のあるものや、厚さのある板を使うのが望ましく、発泡材や無数の中空球体をバインドしたマイクロバブル構造体等の軽量材の使用も可能である。
【0026】
また、図1または図2に示したように、平面振動板10はエッジ12だけで支持し駆動部材4で駆動する構造であるが、振動系2が重たい状態になるとエッジ12が弛んだり駆動したときにローリングが起こる場合がある。この対策として、振動板10の中央部や周辺部を支持する手段、或いは、従来の電磁変換器のスパイダと同様に駆動部材4にスパイダを接合して支持する構造を採用しても良い。
【0027】
また、図1、図4(a),(b)においては説明を容易にするため、フレーム30を省略して示している。
【符号の説明】
【0028】
1 電磁変換器、2 振動系、3 磁気回路、4 駆動部材、10 振動板、12 エッジ、14 基材、15 導体パターン、16 端子、20 磁石、23 ヨーク、25 磁気空隙(ギャップ)、30 フレーム。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
棒状の磁性体からなるヨークと、
前記ヨークと所定のギャップを有するように配置された棒状の磁石と、
表面に導体パターンが形成され前記ギャップに挿入された棒状の駆動部材と、
前記駆動部材に固定された平板状の振動板と、
前記振動板を支持するフレームとを備えた電磁変換器。
【請求項2】
前記ヨーク、前記磁石及び前記駆動部材を複数備えたことを特徴とする請求項1記載の電磁変換器。
【請求項3】
前記ヨークは断面がコの字形状を有し、
前記磁石は前記ヨークのコの字形状の内側に所定のギャップを有するように配置され、
前記駆動部材は、断面がコの字形状に成形され、成形されたコの字形状の対向する辺が前記ギャップに挿入されることを特徴とする請求項1記載の電磁変換器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−206509(P2010−206509A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−49603(P2009−49603)
【出願日】平成21年3月3日(2009.3.3)
【出願人】(591036457)三菱電機エンジニアリング株式会社 (419)
【Fターム(参考)】