説明

電磁変換器

【課題】振動板の剛性が高く、かつ性能に優れた低コストの電磁変換器を得る。
【解決手段】第1鉄板15が永久磁石14をS極側から収容し、第2鉄板16がN極側に接着して磁気回路を構成する。凹凸形状に立体構造化した振動板12がフレーム11を被覆し、フレーム11内に複数の磁気回路が固定される。振動板12の磁気回路に対向する位置にあるコイル取付用凹部12cに、ボイスコイル18の巻回されたボイスコイルボビン17を接着すれば、第1鉄板15の上端部および第2鉄板16と略同一高さの高磁束密度位置にボイスコイル18が懸垂された状態となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、永久磁石と振動板とを組み合わせて、オーディオ信号から音声再生を行う電磁変換器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の電磁変換器は、永久磁石板と振動板とが対向するように配置されフレーム等の部材に挟み込まれるように覆われて、例えばスピーカ筐体に取り付けられる。
【0003】
上記の永久磁石板は、一定の間隔をもって交互に異なる極性にした帯状の磁石部位(多極着磁パターンとも言う)を有している。また、振動板は、永久磁石板の異なる極性の境界にある間隔に対向する位置、いわゆる着磁ニュートラルゾーンに、銅またはアルミの箔材で蛇行コイルパターンを形成したフレキシブルプリント基板(以下、FPC)である。振動板に形成された蛇行コイルパターンにオーディオ信号の電流が流れると、蛇行コイルパターンと永久磁石の多極着磁パターンとが電磁的に結合し、フレミングの法則によって上記の蛇行コイルパターンに電流が作用して振動板が振動する。この振動によって発生した音波は、永久磁石板およびフレームに穿孔された音放射孔を通して外部へ放射されてオーディオ再生が行われる(例えば、特許文献1〜3参照)。
【0004】
また、従来から、上記の電磁変換器と同様の構成で、上記の永久磁石板に替えて長尺の棒状磁石で構成した「ガムーゾン型」と呼ばれる薄型スピーカが存在している。ガムーゾン型の薄型スピーカは、振動板の表裏を、交互に異なる極性の棒状磁石を並べた棒状磁石板で挟み、振動板を挟んで対向する棒状磁石の極を同一に配置した構成であり、その他の部材は上記の電磁変換器と同一の部材で構成される。
このような薄型スピーカは、ポリエステルまたはポリイミドから成る薄膜に銅またはアルミの箔材を用いて蛇行コイルパターンを形成したFPCを振動板として使用している(例えば、非特許文献1参照)。この構成の薄型スピーカは、オーディオ再生の音波発生動作も上記の電磁変換器と同じになる。
【0005】
電磁変換器から発生する音の大きさFは、磁束の大きさB、導体の長さLおよび電流の大きさIによって決定され、F=B・L・Iの式に従う。上述のような構成の電磁変換器では、連続する蛇行コイルパターンを使用することによって導体の長さLを大きくして、音の大きさFを大きくしていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3192372号公報
【特許文献2】特開2006−287924号公報
【特許文献3】特開2006−20135号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】山本武雄編著、スピーカー・システム、ラジオ技術社、1977年7月発行
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来の電磁変換器は以上のように構成されているので、電磁変換器を構成する永久磁石を1本1本着磁した後、交互に異なる極性で並べて組み立てなければならず、組み立て後に1回の着磁操作で全ての磁石を着磁できるコーン型スピーカに比べてコスト高になってしまう課題があった。また、永久磁石が磁化された状態で電磁変換器の組み立て作業を行わねばならず、組み立ての際に鉄粉等が混入してしまう課題があった。
他方、安価なスピーカを得るために振動板の片側表面のみに永久磁石板を配置した場合には、永久磁石板のない側のコイルパターン付近の磁束密度が小さくなるために音圧レベルも小さくなるという課題があった。さらに、コイルパターンをFPCの片側に一層、表裏面合わせても二層までしか形成できないため、音圧レベルを上げることが困難であった。
さらに、振動板基材が数十ミクロンの平たい薄膜構造であるために機械的強度が小さく、低い周波数でも固有共振が生じてしまった。共振が生じることにより、振動板の異常振動による異音、および振動板の振幅増大による振動板磁石当り音が発生するという課題があった。
【0009】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたもので、振動板の剛性が高く、かつ性能に優れた低コストの電磁変換器を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明に係る電磁変換器は、永久磁石、当該永久磁石を一方の磁極側から収容して他方の磁極側が開口したヨーク、および他方の磁極側に固定したプレートからなる磁気回路と、複数の磁気回路を所定間隔に並べて固定したフレームと、複数の磁気回路を間に挟んでフレームを被覆する凹凸形状の振動板と、振動板の各磁気回路に対向する面に取り付けてプレートと同一の高さ位置に懸垂された各ボイスコイルとを備えるようにしたものである。
【発明の効果】
【0011】
この発明によれば、永久磁石にプレートを接着して磁束を集中させ、磁束が集中した高磁束密度位置にボイスコイルを懸垂することにより音圧レベルを高めることができ、かつ永久磁石を振動板片側のみに配置することにより低コスト化が可能となる。また、振動板を凹凸形状の立体構造にしたことにより、振動板の剛性を高めることができる。この結果、振動板の剛性が高く、かつ性能に優れた低コストの電磁変換器を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】この発明の実施の形態1に係る電磁変換器の構成を示す平面図である。
【図2】この発明の実施の形態1に係る電磁変換器の構成を示し、図2(a)は図1に示すAA線に沿って切断した断面図であり、図2(b)はBB線に沿って切断した断面図である。
【図3】この発明の実施の形態1に係る電磁変換器のボイスコイルボビンおよびボイスコイルの構成を示す断面図である。
【図4】この発明の実施の形態1に係る電磁変換器に振動板表面材を追加した構成を示し、図2(b)に相当する位置の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
実施の形態1.
図1はこの発明の実施の形態1に係る電磁変換器10の構成を示す平面図であり、図2(a)はAA線に沿って切断した断面図、図2(b)はBB線に沿って切断した断面図である。図3は、電磁変換器10のボイスコイルボビン17およびボイスコイル18の構成を示す断面図である。図1〜3は説明を簡単にするために誇張拡大して示したものであり、実際の縮尺とは異なる。
【0014】
電磁変換器10は、永久磁石14、第1鉄板(ヨーク)15および第2鉄板(プレート)16からなる磁気回路が複数、フレーム11の内壁に取り付けられている。このフレーム11は、ボイスコイルボビン17およびボイスコイル18が複数取り付けられた振動板12に被覆されている。振動板12の周縁には振動板支持部13が接続され、この振動板支持部13の外周縁がフレーム11の開口面周縁に固着している。このように振動板支持部13を設けることにより、フレーム11の開口面を被覆した振動板12が上下方向に変位可能となる。
【0015】
フレーム11の内壁面には、内部に永久磁石14を収容した第1鉄板15が、所定の間隔に並んで固定されている。第1鉄板15は永久磁石14をS極側から収容して、N極側端面と略同一高さで開口している。このN極側の端面には第2鉄板16が接着されている。よって、第1鉄板15の上端部と第2鉄板16とが略同一高さ位置にある。なお、各永久磁石14の磁極が同一方向を向いているため、従来のコーン型スピーカと同様に組み立て跡に1回の着磁で全ての永久磁石14を着磁することができ、組み立ての際に鉄粉等が混入する恐れがない。
【0016】
振動板12の基材となる振動板基材12aは、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等の熱可塑性フィルムからなる。振動板基材12aを熱プレス、真空成形等によって振動板凹部12bおよびコイル取付用凹部(凹凸形状凹部)12cを凹設することにより、振動板12を凹凸形状に立体構造化する。このように凹凸形状にすることによって振動板12の剛性を向上させることができる。図1において、凹凸形状の凹部に相当する部分を斜線で示す。
【0017】
コイル取付用凹部12cは、振動板12の永久磁石14に対向する位置に永久磁石14の形状に合わせた形状に成形されている。このコイル取付用凹部12cの外周面にはボイスコイルボビン17が接着される。即ち、コイル取付用凹部12cは、凹凸形状を構成すると共に、ボイスコイル18を取り付けるための機能も有する。本実施の形態では、永久磁石14を図1に示すように丸形状にしたためにコイル取付用凹部12cも合わせて丸形状にしたが、これに限定されるものではなく、永久磁石14を例えば四角形状にした場合にはコイル取付用凹部12cも合わせて四角形状にすればよい。また、コイル取付用凹部12cを凹設する際に振動板凸部12dを成形しておくことにより、振動板12自体の剛性を向上させると共にコイル取付用凹部12c部分の剛性を向上させることができる。なお、振動板凹部12b、コイル取付用凹部12cおよび振動板凸部12dの形状、個数、配置等は図1,2に例示した構成に限定されるものではなく、任意に決定すればよい。振動板凹部12bおよびコイル取付用凹部12cの永久磁石14側への突出高さは、振動板支持部13に支持された振動板12が振動して上下変位したときに永久磁石14に接触しない程度とする。
【0018】
ボイスコイルボビン17の内径は、コイル取付用凹部12cの外径と略同じに形成され、その外周面にはボイスコイル18が巻回されている。本実施の形態で用いるボイスコイルは、図3に示すように所定位置毎に導体18aを巻回して、複数のボイスコイル18を直列に連続して生成したものである。図3では巻数を3回として4層作成したボイスコイル18の例を示す。箔材ではなく線状の導体18aを使用してボイスコイル18を作成することにより多層かつ複数の巻数で巻回することができる。ボイスコイル18が巻回されたボイスコイルボビン17をコイル取付用凹部12cの外周面に接着して、ボイスコイル18を振動板12から懸垂された状態に固定する。このとき、ボイスコイル18と第2鉄板16の高さ位置が同じになるようにボイスコイルボビン17の高さを位置合わせしておく。よって、ボイスコイル18が、第1鉄板15の上端部と第2鉄板16の間かつ略同一高さ位置に固定される。
【0019】
次に、電磁変換器10の動作原理について説明する。永久磁石14、第1鉄板15および第2鉄板16からなる磁気回路において、永久磁石14の第2鉄板16が接着されたN極から出る磁束がボイスコイル18を横切って、第1鉄板15の上端部へ至りS極へ流れる。ボイスコイル18に外部から電流(オーディオ信号)が供給されると、ボイスコイル18を流れる電流と磁気回路の磁束が電磁的に結合し、フレミングの法則に従って駆動力が発生する。発生した駆動力によって、振動板支持部13によって変位可能に支持されている振動板12が振動する。永久磁石14の上端面には第2鉄板16が接着されているため、第2鉄板16が磁極を作り、N極から第1鉄板15の上端部へ直線的に進む部分に磁束密度が集中する。本実施の形態では、磁気ギャップにおいて磁束密度が最大になる第1鉄板15の上端部と第2鉄板16とを結ぶ高さ位置(高磁束密度位置)にボイスコイル18を配置するため、ボイスコイル18を横切る磁束が大きくなり、音圧レベルを向上させることができる。また、各ボイスコイル18を多層かつ複数の巻数に巻回すると共に複数個を直列に連続して用いることにより、音圧レベルをさらに向上させることができる。
【0020】
以上のように、実施の形態1によれば、薄い熱可塑性フィルムを用いて振動板12を形成したので薄型の電磁変換器10を得ることができる。振動板凹部12b、コイル取付用凹部12cおよび振動板凸部12dを成形することによって振動板12を凹凸形状にしたので、薄膜の振動板12の剛性が向上し、共振発生を抑制することができる。
また、ボイスコイルボビン17を取り付けるためのコイル取付用凹部12cを成形したことにより、振動板12にボイスコイル18を容易に接着することができる。さらに、複数の連続したボイスコイル18を直列に形成したため、個別のボイスコイルを振動板12にそれぞれ半田付けする作業が不要となり、組み立て性に優れた電磁変換器10を得ることができる。
また、永久磁石14の端面に第2鉄板16を接着して磁束を集中させ、磁束が集中した高磁束密度位置にボイスコイル18を配置することにより、音圧レベルを高めることができる。さらに、電磁変換器10に取り付けるボイスコイル18を多層かつ複数の巻数で巻回すると共にこれら複数のボイスコイル18を直列に連続させて用いることにより、音圧レベルをさらに高めることができる。このように音圧レベルを向上させたため、振動板12の片側表面のみに永久磁石14を配置して永久磁石の数量を半減させることも可能となり、低コスト化を図ることができる。
【0021】
なお、上記実施の形態1に示す電磁変換器10において、振動板12の表面にアルミ、高分子材等の軽量かつ剛性の大きい部材からなる振動板表面材19を貼り付けてもよい。図4は、振動板表面材19を追加した構成の電磁変換器10を、図1に示すBB線に相当する位置で切断した断面図である。凹凸形状の振動板12をハニカムコア材として用い、そこへ振動板表面材19を貼り付けて略ハニカムパネルにすることによって、高剛性の振動板12を得ることができ、軽量のまま、共振発生を抑制することができる。
【0022】
また、上記実施の形態1では、コイル取付用凹部12cを丸形状にして外周面にボイスコイルボビン17の内面を接着する構成としたが、コイル取付用凹部12cの内側にコイル取付用凹部12cと同心円環状の振動板凸部12dを形成して振動板凸部12dの内周面にボイスコイルボビン17の外面を接着する構成としてもよい。
【符号の説明】
【0023】
10 電磁変換器、11 フレーム、12 振動板、12a 振動板基材、12b 振動板凹部、12c コイル取付用凹部(凹凸形状凹部)、12d 振動板凸部、13 振動板支持部、14 永久磁石、15 第1鉄板(ヨーク)、16 第2鉄板(プレート)、17 ボイスコイルボビン、18 ボイスコイル、18a 導体、19 振動板表面材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
永久磁石、当該永久磁石を一方の磁極側から収容して他方の磁極側が開口したヨーク、および前記他方の磁極側に固定したプレートからなる磁気回路と、
複数の前記磁気回路を所定間隔に並べて固定したフレームと、
複数の前記磁気回路を間に挟んで前記フレームを被覆する凹凸形状の振動板と、
前記振動板の前記各磁気回路に対向する面に取り付けて前記プレートと同一の高さ位置に懸垂された各ボイスコイルとを備える電磁変換器。
【請求項2】
ボイスコイルは線状導体を所定位置毎に多層かつ複数の巻数で巻回してなり、当該各ボイスコイルは直列に連続していることを特徴とする請求項1記載の電磁変換器。
【請求項3】
ボイスコイルを外周面に巻回したボイスコイルボビンを備え、
振動板の磁気回路に対向する位置にあって前記磁気回路側に突出した凹凸形状凹部は、前記ボイスコイルボビンに応じた形状であり、前記ボイスコイルボビンを前記凹凸形状凹部に接着することによって前記振動板に前記ボイスコイルを取り付けることを特徴とする請求項1または請求項2記載の電磁変換器。
【請求項4】
振動板の磁気回路に対向する面とは逆側の表面に貼り付けられた表面材を備えることを特徴とする請求項1から請求項3のうちのいずれか1項記載の電磁変換器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−104864(P2012−104864A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−50866(P2009−50866)
【出願日】平成21年3月4日(2009.3.4)
【出願人】(591036457)三菱電機エンジニアリング株式会社 (419)
【Fターム(参考)】