説明

非水電解質二次電池

【課題】高い電気容量を有し、かつ、大電流で急速な充放電を行う場合にも優れたサイクル特性を示す非水電解質二次電池を提供する。
【解決手段】リチウムを可逆的に吸蔵および放出可能な正極、負極および非水電解質を含む非水電解質二次電池であって、負極は、Liを電気化学的に吸蔵および放出可能な合金材料を含み、合金材料は、Siを主体とするA相と、遷移金属元素とSiとの金属間化合物からなるB相とを含み、前記遷移金属元素が、Ti、Zr、Ni、CuおよびFeよりなる群から選ばれる少なくとも1種であり、A相およびB相の少なくとも一方が、微結晶または非晶質の領域からなり、A相とB相との合計重量に占めるA相の割合が、40重量%より多く、95重量%以下である非水電解質二次電池。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解質二次電池の負極の改良に関し、高い電気容量を有し、充放電サイクル特性に優れた非水電解質二次電池を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
非水電解質二次電池は、高電圧で高エネルギー密度を実現できることから、多くの研究が行われている。非水電解質二次電池の正極には、遷移金属酸化物や遷移金属カルコゲン化合物、例えばLiMn、LiCoO、LiNiO、V、Cr、MnO、TiS、MoS等が用いられている。これらはリチウムイオンが出入り可能な層状もしくはトンネル状の結晶構造を有している。一方、負極には、容量は比較的小さいが、リチウムを可逆的に吸蔵および放出可能であり、サイクル寿命と安全性に優れた電池を与えることから、炭素材料が用いられており、黒鉛系の炭素材料を負極に用いたリチウムイオン電池が実用化されている。
【0003】
しかし、黒鉛材料の理論容量は372mAh/gであり、理論密度が2.2g/cmと比較的小さいことから、黒鉛材料以上の高容量を実現可能な金属材料を負極として利用することが期待されている。金属材料の中でも、特にSiは4199mAh/g(理論密度2.33g/cm)と高容量であり、多くの研究開発が行われている。
【0004】
Siは、高容量な負極を実現できるが、電池の充放電サイクル特性に重要な課題を有する。これは、充電反応および放電反応の際に、リチウムの挿入および脱離に伴ってSiの膨脹および収縮が繰り返され、負極内部の粒子間の接触抵抗が増大し、集電ネットワークが劣化するために生じる問題である。集電ネットワークの劣化は、充放電サイクル寿命を短くする主要因となる。
【0005】
上記課題に対し、負極材料として、リチウムの可逆的な吸蔵および放出が可能であり、組成が互いに異なる固相Aと固相Bとを含み、固相Aの少なくとも一部が固相Bによって被覆されており、固相Aが、ケイ素、スズ、亜鉛等を含み、固相Bが、2A族元素、遷移元素、2B族元素、3B族元素、4B族元素等を含む合金材料が提案されている。また、固相Aは、非晶質もしくは低結晶状態であることが好ましいと提案されている(特許文献1、2)。
【0006】
また、サイクル寿命が向上させる観点から、Siを主体とするA相と、遷移金属とSiとの化合物を含むB相を含み、A相およびB相の少なくとも一方が、非晶質または低結晶の状態である負極活物質も提案されている(特許文献3)。
【0007】
上記関連技術によれば、合金材料の膨張および収縮時の割れを大幅に抑制可能であり、サイクル特性劣化の主要因である集電ネットワークの劣化を抑制できる点では一定の効果を有する。しかし、詳細な検討の結果、大電流で急速な充放電を行う場合には、上記関連技術では、サイクル特性の劣化を抑制する十分な効果が得られない場合があることが明らかになった。
【0008】
負極活物質の粒径を小さくすることも検討されている。例えば、平均粒径が1〜100nm(特許文献4)、0.1〜2.5μm(特許文献5)、1nm〜200nm(特許文献6)および0.01〜50μm(特許文献7)のSi粉末がそれぞれ提案されている。微粒子の負極活物質を用いることで、充電時に、リチウムとSiとの合金化が均一に進行し、反応の局在化が抑制される。よって、充電時の合金化による体積膨張と、放電時の体積収縮とを、小さくすることができ、負極は歪みを受けにくくなる。その結果、安定した充放電サイクルを繰り返すことができると考えられる。
【0009】
しかし、一般的な負極は、負極合剤を用いて作製される。例えばコイン型電池の負極は、負極合剤を円盤状のペレットに加圧成形したものである。負極合剤は、電気化学的反応を担う負極活物質、負極内の電子伝導性を補う導電材およびこれらを繋ぎ合わせる結着剤を含む。活物質の平均粒径が小さいと、負極合剤を成形して得られる負極の密度は小さくなる。よって、単位体積あたりのエネルギー密度が小さくなり、電池容量も小さくなる。
【0010】
また、活物質の平均粒径が小さいと、電池の不可逆容量が増大するため、電池容量は更に小さくなる。そして、活物質の粒径が小さいと、活物質と電解質中に含まれる水分などとの反応性も高くなり、ガスが発生しやすくなる。よって、サイクル特性や保存特性に不利となる。
【0011】
一方、高密度の負極を得るため、もしくはガス発生を抑制するために、活物質の平均粒径を大きくすると、負極内での活物質の分布が不均一となる。よって、充放電時のリチウムの挿入および脱離が電極内で不均一となり、電池のサイクル寿命に不利となる。
【特許文献1】米国特許第6090505号明細書
【特許文献2】特開2004−103340号公報
【特許文献3】特開2004−335272号公報
【特許文献4】特開2003−109590号公報
【特許文献5】特開2004−185810号公報
【特許文献6】特開2004−214055号公報
【特許文献7】特開2000−36323号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
特許文献1、特許文献2および特許文献3の提案では、大電流で急速な充放電を行う場合に問題がある。また、特許文献4、特許文献5、特許文献6および特許文献7の提案では、容量とサイクル特性とのバランスに問題がある。特に負極合剤をペレットに成形して負極を作製する場合には、高容量でサイクル特性に優れた非水電解質二次電池を得ることは困難である。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、大電流で急速な充放電を行う場合にもサイクル特性の劣化を十分に抑制する観点から、A相とB相の状態を最適化するための鋭意検討を行った。その結果、Siを主体とするA相と、遷移金属元素とSiとの金属間化合物からなるB相を含む合金材料において、特に結晶子(結晶粒)のサイズとともにA相とB相との存在割合およびこれらの組成を適正化することが有効であるという知見を得るに至り、本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち、本発明は、リチウムを可逆的に吸蔵および放出可能な正極、負極および非水電解質を含む非水電解質二次電池であって、負極は、Liを電気化学的に吸蔵および放出可能な合金材料(合金形成材料)を含み、合金材料は、Siを主体とするA相と、遷移金属元素とSiとの金属間化合物からなるB相とを含み、遷移金属元素は、Ti、Zr、Ni、CuおよびFeよりなる群から選ばれる少なくとも1種であり、A相およびB相の少なくとも一方が、微結晶または非晶質の領域からなり、A相と前記B相との合計重量に占めるA相の割合が、40重量%より多く、95重量%以下である非水電解質二次電池に関する。
【0015】
ここで、A相および/またはB相を構成する微結晶または非晶質の領域は、結晶子サイズが100nm以下であることが好ましく、5nm以上100nm以下であることが更に好ましい。
【0016】
また、線源としてCuKα線を用いて、合金材料のX線回折測定を行う場合、得られる回折スペクトルの回折角2θ=10°〜80°の範囲または回折角2θ=20°〜35°に観測される最も強度の強い回折ピークの半価幅は、0.1°以上であることが望ましい。
【0017】
遷移金属元素がTiである場合、合金材料に含まれるSiの含有量は、72.4〜97.7重量%であることが望ましい。
遷移金属元素がZrである場合、合金材料に含まれるSiの含有量は、62.8〜96.9重量%であることが望ましい。
遷移金属元素がNiである場合、合金材料に含まれるSiの含有量は、69.4〜97.45重量%であることが望ましい。
遷移金属元素がCuである場合、合金材料に含まれるSiの含有量は、68.2〜97.35重量%であることが望ましい。
遷移金属元素がFeである場合、合金材料に含まれるSiの含有量は、70〜97.5重量%であることが望ましい。
合金材料中のSiの含有量が上記範囲であれば、合金材料中のA相の含有量は40〜95重量%の範囲内となる。
遷移金属元素がTiである場合、B相はTiSiを含むことが望ましい。
【0018】
合金材料の平均粒径(体積累積粒度分布のメディアン径:D50)は、0.5〜20μmであることが好ましい。また、合金材料の体積累積粒度分布の10%径(D10)および90%径(D90)は、それぞれ0.1〜5μmおよび5〜80μmであることが好ましい。
【0019】
本発明は、特に、正極缶および負極缶を含むコイン型の電池ケースを有し、正極および負極が、それぞれ円盤状で、正極缶および負極缶に収容されており、正極と負極との間にセパレータが介在しており、正極缶の開口端と負極缶の開口端とが、絶縁ガスケットを介して嵌合しているコイン型の非水電解質二次電池に関する。
【0020】
負極の密度は、1.6〜2.4g/cm3であることが好ましい。ここで、負極の密度とは、成形された負極合剤の密度と同義である。負極合剤は、活物質である合金材料を必須成分として含み、導電材や結着剤を任意成分として含む。また、負極の空隙率は、16〜43%であることが好ましい。負極の空隙率とは、成形された負極合剤の空隙率と同義である。
【0021】
本発明は、また、Liを電気化学的に吸蔵および放出可能な正極活物質を含む円盤状の正極を作製する工程、Liを電気化学的に吸蔵および放出可能な負極活物質を含む円盤状の負極を作製する工程、ならびに、正極および負極を、非水電解質とともにコイン型の電池ケースに収容する工程、を有する非水電解質二次電池の製造法であって、負極を作製する工程が、(a)メカニカルアロイング法により、Ti、Zr、Ni、CuおよびFeよりなる群から選ばれる少なくとも1種の遷移金属とSiとを含む原料に剪断力を付与して、Siを主体とするA相と、遷移金属元素とSiとの金属間化合物からなるB相とを含み、A相およびB相の少なくとも一方が、微結晶または非晶質の領域からなり、A相とB相との合計重量に占めるA相の割合が、40重量%より多く、95重量%以下である合金材料を得る工程、(b)合金材料を、ボール状の媒体とともに撹拌して、平均粒径(体積累積粒度分布のメディアン径:D50)が、0.5〜20μmであり、体積累積粒度分布の10%径(D10)および90%径(D90)が、それぞれ0.1〜5μmおよび5〜80μmの粉末を得る工程、ならびに(c)得られた粉末を円盤状に加圧成形する工程を有する非水電解質二次電池の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、高容量で、充放電サイクル特性に優れ、特に急速な充放電を行う場合にも優れたサイクル特性を有する非水電解質二次電池を提供することが可能である。上記構成を有する合金材料においては、充電時の膨張に対する合金材料の耐性が向上した状態が達成されていると考えられる。
【0023】
合金材料中のA相の含有量が40〜95重量%である場合、極めて高い容量が達成されるが、充電時の膨張率は、かなり大きくなると考えられる。上記構成によれば、そのような大きな膨張が生じたとしても、集電ネットワークの劣化は抑制される。特に、B相がTi、Zr、Ni、CuおよびFeよりなる群から選ばれる少なくとも1種を含む場合には、充電時の割れが生じにくく、急速な充放電を行う場合にも、極めて優れたサイクル特性が達成される。
【0024】
合金材料は、適正な粒度分布に整粒することが望ましい。適正な粒度分布を有する合金材料を用いることにより、負極内での活物質の分布が均一となる。よって、充放電時の負極の膨張と収縮も均一となり、非水電解質二次電池のサイクル寿命に有利となる。また、適正な粒度分布を有する合金材料を用いることにより、十分な密度(合剤密度)を有する負極を得ることができる。よって、非水電解質二次電池の高容量化に有利となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
本発明に係るLiを電気化学的に吸蔵および放出可能な合金材料は、従来の合金材料とは異なる特徴を有する。本発明に係る合金材料は、Siを主体とするA相と、遷移金属元素とSiとの金属間化合物からなるB相とを含む。この合金材料は、膨張による影響が緩和されているだけでなく、その膨張および収縮に伴う負極の電子伝導性の低下を抑制する。よって、この合金材料を含む本発明の非水電解質二次電池用負極は、高容量でサイクル特性に優れた電池を与える。
【0026】
A相は、Liの吸蔵および放出を担う相であり、電気化学的にLiと反応可能な相である。A相は、Siを主体とする相であればよいが、好ましくはSi単体からなる相である(is preferably Si single phase)。A相がSi単体からなる場合、単位重量もしくは単位体積あたりの合金材料が吸蔵および放出するLi量を非常に多量にすることができる。ただし、Si単体は半導体であるため、電子伝導性に乏しい。よって、微量の添加元素、例えばリン(P)、ホウ素(B)、水素(H)等、あるいは遷移金属元素等を5重量%程度までA相に含ませることが有効である。
【0027】
B相は、遷移金属元素とSiとの金属間化合物からなる。Siを含む金属間化合物は、A相との親和性が高く、特に充電時の合金体積の膨張時においてもA相とB相との界面での割れ等が生じにくい。また、B相は、Siを主体とする相に比較して電子伝導性が高く、かつ硬度も高い。よって、B相は、A相の低い電子伝導性を補うとともに、膨張応力に対抗して、合金粒子の形状を維持させるように働く。B相は、複数種存在していても構わない。すなわち、組成の異なる2種以上の金属間化合物がB相として存在してもよい。例えば、遷移金属元素をMで表すとき、MSiとMSiとが合金粒子内に存在してもよい。また、それぞれ異なる遷移金属元素を含む金属間化合物、例えばMSiとMSi(MとMは異なる)とが合金粒子内に存在してもよい。
【0028】
A相および/またはB相は、微結晶または非晶質の領域からなる。結晶質な合金材料を用いた場合、Liの吸蔵に伴い合金粒子が割れを引き起こしやすく、急速に負極の集電性が低下し、電池特性が低下する。一方、微結晶または非晶質の合金材料を用いる場合、Liの吸蔵に伴う膨張による合金粒子の割れが発生しにくい。
【0029】
A相および/またはB相を構成する微結晶または非晶質の領域は、結晶子(結晶粒)のサイズが100nm以下であることが好ましく、5nm以上100nm以下であることが更に好ましい。結晶子サイズが100nmより大きい場合、結晶子間の粒界が減少するため、粒子割れを抑制する効果が小さくなる。また、結晶子サイズが5nm未満の場合、結晶子間の粒界が多くなることで、合金材料中の電子伝導性が低下することがある。合金材料の電子伝導性が低下すると、負極の分極が上昇し、電池容量の低下を招くことがある。
【0030】
合金材料を構成するA相およびB相の状態は、以下のようなX線回折測定により知ることができる。
まず、測定対象となる合金材料の試料を、全ての方向に配向性を持たせないように、試料ホルダーに充填する。例えば、合金材料を試料ホルダーの中に圧力を加えずに充填する。具体的には、試料ホルダーに合金材料を入れた後、平板で合金材料の上面を覆い、合金材料が試料ホルダーから外部にこぼれ落ちないようにすればよい。その後、試料ホルダーに細かい振動を与え、上記平板を除去しても合金材料が試料ホルダーからこぼれ落ちないようにする。
【0031】
測定対象には、負極を作製する前の合金粉末を用いてもよいし、負極を作製後に負極から合剤を回収し、乳鉢で合剤中の粒子間を十分に分離させたものを用いてもよい。また、X線回折測定の際は、X線を入射させる試料面を平面とし、その面をゴニオメーターの回転軸に一致させれば、回折角および強度の測定誤差を極力小さくすることができる。
【0032】
上記のように準備した試料について、X線源としてCuKαを用い、回折角
2θが10°〜80°の範囲でX線回折測定を行う。その際に得られる回折スペクトル中に、A相および/またはB相の結晶面に帰属されるピークが存在するかどうかを判定する。
【0033】
例えばSiからなる相の場合、Siの結晶面を反映して、回折角2θ=28.4°に結晶面(111)に対応するピークが観測され、47.3°に結晶面(220)に対応するピークが観測され、56.1°に結晶面(311)に対応するピークが観測され、69.1°に結晶面(400)に対応するピークが観測され、76.4°に結晶面(331)に対応するピークが観測される。また、回折角2θ=28.4°に観測される結晶面(111)に対応するピークは、強度が最も強くなる場合が多い。ただし、相が微結晶の領域からなる場合には、鋭いピークは観測されず、比較的ブロードなピークが観測される。一方、合金材料が非晶質な領域からなる場合、X線回折測定で得られる合金粒子の回折スペクトルには、半価幅を認識できない程度のブロードなハローパターンが観測される。
【0034】
結晶子サイズは、X線回折測定により求めることができる。具体的には、X線回折測定で得られる合金粒子の回折スペクトルのうち、各相に帰属されるピークの半価幅を求め、その半価幅と下記Scherrerの式から算出することができる。各相に帰属されるピークが複数存在する場合には、最も強度の大きなピークの半価幅を求め、これにScherrerの式を適用する。
【0035】
Scherrerの式によれば、結晶子サイズDの大きさは下記式(1):
D(nm)=0.9×λ/(β×cosθ) (1)
で与えられる。
ただし、式(1)中、λ、βおよびθは、それぞれ以下を示す。
λ=X線波長(nm)(CuKαの場合、1.5405nm)
β=上記ピークの半値幅(rad)
θ=上記ピーク角度2θの半分の値(rad)
【0036】
通常は、回折角2θが10°〜80°の範囲における最も強度の大きなピークに注目すればよいが、回折角2θが20°〜35°の範囲における最も強度の大きなピークに注目することがより好ましい。
【0037】
線源としてCuKα線を用いて、合金材料のX線回折測定を行う場合、得られる回折スペクトルの回折角2θ=10°〜80°もしくは回折角2θ=20°〜35°の範囲に観測される最も強度の強い回折ピークの半価幅は、0.09°以上であることが望ましい。この場合、結晶子サイズは100nm以下であると判定できる。
【0038】
その他、AFM(原子間力顕微鏡)、TEM(透過型電子顕微鏡)等を用い、合金材料粒子の断面を観察し、直接結晶子のサイズを測定することもできる。また、合金材料中のA相とB相との存在割合(相組成)は、EDX(エネルギー分散型X線分光法(EDS))等を用いて測定することができる。
【0039】
合金材料において、A相とB相との合計重量に占めるA相の割合は、40重量%より多く、95重量%以下である。A相の割合を40重量%より多くすることにより、効果的に高容量を達成することができる。また、A相の割合を95重量%以下とすることにより、A相の低い電子伝導性を補うとともに合金材料粒子の形状を維持させる効果を高く維持できる他、合金材料粒子を微結晶または非晶質にすることが容易となる。これらの効果を顕著にする観点からは、A相とB相との合計重量に占めるA相の割合は、65重量%以上85重量%以下が望ましく、
70重量%以上80重量%以下であることが特に好ましい。
【0040】
遷移金属元素は、Ti、Zr、Ni、CuおよびFeよりなる群から選ばれる少なくとも1種であり、好ましくはTiおよびZrよりなる群から選ばれる少なくとも1種である。これらの元素のケイ化物は、他の元素のケイ化物よりも高い電子伝導性を有し、かつ高い硬度を有する。
【0041】
本発明に係る合金材料に含まれるSiの含有量は、60重量%以上であることが好ましい。合金材料全体に占めるSiの割合が60重量%以上である場合、残部を占める遷移金属とSiとが金属間化合物(ケイ化物)を形成したときに、A相の割合が40重量%を上回り、効果的に高容量を実現することが可能となる。
【0042】
以下、遷移金属元素毎に好ましいSi含有量を例示する。
遷移金属元素がTiである場合、合金材料に含まれるSiの含有量は、72.4〜97.7重量%であることが望ましい。なお、遷移金属元素がTiである場合、B相はTiSiを含むことが望ましい。
【0043】
遷移金属元素がZrである場合、合金材料に含まれるSiの含有量は、62.8〜96.9重量%であることが望ましい。
遷移金属元素がNiである場合、合金材料に含まれるSiの含有量は、69.4〜97.45重量%であることが望ましい。
遷移金属元素がCuである場合、合金材料に含まれるSiの含有量は、68.2〜97.35重量%であることが望ましい。
遷移金属元素がFeである場合、合金材料に含まれるSiの含有量は、70〜97.5重量%であることが望ましい。
【0044】
容量とサイクル特性とのバランスの観点から、合金材料の平均粒径(体積累積粒度分布のメディアン径:D50)は、0.5〜20μmであることが好ましく、1〜10μmが特に好ましい。平均粒径が20μmを超えると、負極内での活物質の分布が不均一となり、充放電時の負極の膨張および収縮が不均一となりやすい。負極の膨張および収縮が不均一になると、集電性が劣化し、サイクル特性に不利となる場合がある。また、平均粒径が0.5μm未満では、負極密度を大きくすることが困難になるとともに、サイクル特性に不利となる場合がある。
【0045】
容量とサイクル特性とのバランスの観点から、合金材料の体積累積粒度分布の10%径(D10)および90%径(D90)は、それぞれ0.1〜5μmおよび5〜80μmであることが好ましく、0.2〜1μmおよび10〜50μmであることが更に好ましく、0.2〜0.9μmおよび11〜50μmであることが特に好ましい。
【0046】
上記のような粒度分布を有する合金材料は、特に、コイン型の非水電解質二次電池に用いる円盤状の負極を作製する場合に好適である。円盤状の負極は、合金材料を含む負極合剤を加圧成形して作製される。負極合剤には、例えば結着剤や導電材を含ませることができる。
【0047】
上記のような合金材料においては、Liを吸蔵する際のA相の膨張に伴う転位移動が、結晶子間の粒界でせき止められるため、粒子割れの発生が顕著に抑制されると考えられる。このように負極に含まれる合金材料の粒子割れを抑制することで、充放電サイクルに伴う劣化の少ない非水電解質二次電池を得ることができる。
【0048】
本発明に係る合金材料の製造方法は、特に限定されないが、例えば金属材料活用事典(産業調査会、870(1999))等に開示されているメカニカルアロイ法の他、鋳造法、ガスアトマイズ法、液体急冷法、イオンビームスパッタリング法、真空蒸着法、メッキ法、気相化学反応法等を挙げることができる。これらのうちでは、各相の結晶子の状態の制御を容易に行うことができる点で、Siを含む原材料と、遷移金属元素を含む原材料とを混合し、メカニカルアロイング処理を行うメカニカルアロイ法が特に好適である。
【0049】
また、メカニカルアロイング処理を行う前に、原材料の混合物を溶融し、溶融物を急冷して凝固させる工程を行っても良い。ただし、複合化の効果(異種の元素の混合による結晶子の微細化)を効率的にSiを含む原材料に与えるためには、最初から、Siを含む原材料と遷移金属元素を含む原材料とを混合し、メカニカルアロイング処理を行うメカニカルアロイ法が、特に好ましい。
【0050】
合金材料の原材料としては、特に限定されないが、例えば単体、合金、固溶体、金属間化合物等を用いることができる。
メカニカルアロイング法は、乾式雰囲気における合金材料の合成法である。メカニカルアロイング法で得られた合金材料には、粒度分布の幅が非常に大きいという特徴がある。よって、得られた合金材料には、粒度分布を制御するための整粒処理を施すことが好ましい。
【0051】
整粒処理の方法としては、例えば所定のメッシュサイズを有する篩い(ふるい)を通過させ、合金材料から大きな粒径の粒子を除去する分級法が挙げられる。また、流体媒体中における固体粒子の沈降速度が粒径により異なることを利用する沈降分級法も挙げられる。しかし、これらの分級法では、所定の粒径範囲を外れる粒子を有効利用できないという欠点があり、コストの点で不利である。
【0052】
整粒処理の方法としては、合金材料を粉砕する処理を行うことが好ましい。粉砕技術は、古くから様々な産業分野で利用されている。ただし、粉砕する対象物に応じて効率のよい粉砕方法を選ぶことが重要である。粉砕条件を操作することにより、(1)凝集粒子の解砕および粒度調整、(2)数種類の粒子の混合および分散、もしくは(3)粒子の表面改質および活性化、を同時に行うことも可能である。
【0053】
メカニカルアロイング法や合金材料の粉砕に用いる装置としては、例えば、アトライタ、振動ミル、ボールミル、遊星ボールミル、ビーズミル、ジェットミルなどが挙げられる。
【0054】
粉砕方法は、大きく分類すると乾式粉砕と湿式粉砕に分けられる。本発明では、どちらの方式を用いてもよい。
乾式粉砕の長所は、摩擦係数が大きく、湿式粉砕の数倍の粉砕効果が得られる点である。乾式粉砕の短所は、合金材料とともに粉砕容器に入れられるボール状の媒体や、粉砕容器の壁面に、合金材料が付着しやすい点である。合金材料の粒子自身の凝集も生じるため、粉砕が妨げられ、粒度分布の幅が比較的広くなることもある。
【0055】
一方、湿式粉砕は、合金材料に水などの液体を加え、スラリー状にして合金材料を粉砕する。そのためボール状の媒体や粉砕容器の壁面への合金材料の付着が起こりにくい。また、合金材料が液体中に分散するので、乾式粉砕に比べて、合金材料の粒度分布の幅を狭くすることが容易である。
【0056】
湿式粉砕を行う場合、構造が簡単なボールミル型の粉砕装置を用いることができる。また、合金材料とともに粉砕容器に入れられるボール状の媒体として、多様な材質からなる媒体を容易に入手できる。ボール状の媒体同士の接触点で合金材料の粉砕が起こるため、非常に多くの場所で均一に粉砕が進行する。
【0057】
以上より、合金材料の調製においては、乾式のメカニカルアロイング法で合金材料を得た後、例えばボールミルを用いた湿式粉砕により、合金材料の粒度分布を制御することが望ましい。例えば、振動ボールミルなどを用いる乾式のメカニカルアロイング法で合金材料を調製した後、得られた合金材料をボールミルで湿式粉砕することが望ましい。このようなボールミルを用いた湿式粉砕によれば、合金材料の平均粒径(D50)を0.5〜20μm、体積累積粒度分布の10%径(D10)を0.1〜5μm、体積累積粒度分布の90%径(D90)を5〜80μmに調整することができる。
【0058】
湿式粉砕によれば、合金材料の酸化を防止する薄い表面酸化物皮膜が形成されやすい。また、湿式粉砕によれば、合金材料に表面酸化皮膜が緩やかに形成される。よって、粉砕時の雰囲気の酸素濃度を厳密に管理する必要がない。ただし、湿式粉砕を行う場合、液体を除去するための固液分離工程や乾燥工程が必要となる。
【0059】
なお、合金材料の平均粒径(体積累積粒度分布のメディアン径:D50)、体積累積粒度分布の10%径(D10)および体積累積粒度分布の90%径(D90)は、レーザー散乱法を利用した粒度分布計で測定することができる。不定形粒子の粒径は、例えば円相当径やFeret径で表される。粒度分布はマイクロトラック法や粒子像解析を利用して測定できる。ここで、円相当径とは、相当円の直径であり、相当円とは、粒子の正投影像の面積と同じ面積を有する円である。
【0060】
マイクロトラック法は、水等の媒体中に分散した合金材料にレーザー光を照射し、その回折状態を調べる方法である。マイクロトラック法によれば、平均粒径(体積累積粒度分布のメディアン径:D50)、体積累積粒度分布の10%径(D10)および体積累積粒度分布の90%径(D90)を全て測定することができる。レーザー散乱法の他に、走査型電池顕微鏡(SEM)による合金材料の観察像を画像処理することによっても粒度分布を求めることができる。
【0061】
本発明に係る負極は、上記合金材料の他に、必要に応じて導電剤を含むことができる。導電剤としては、例えば天然黒鉛(鱗片状黒鉛等)、人造黒鉛、膨張黒鉛等の黒鉛類、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラック等のカーボンブラック類、炭素繊維、金属繊維等の導電性繊維類、銅粉、ニッケル粉等の金属粉末類、ポリフェニレン誘導体等の有機導電性材料等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、複数を組み合わせて用いてもよい。これらのうちでは、密度、電解液に対する安定性、容量、価格等の観点から、黒鉛類を用いることが好ましい。
【0062】
負極に導電剤を含ませる場合、導電剤の量は特に限定されないが、合金材料100重量部に対して、1〜50重量部が好ましく、1〜40重量部が特に好ましい。ただし、本発明に係る合金材料は、それ自身が電子伝導性を有するため、導電剤を用いなくても、十分に導電性を有する負極を得ることが可能である。
【0063】
負極は、例えば合金材料と、必要に応じて導電剤と、結着剤と、分散媒とを混合して、負極合剤を調製し、これを成形もしくは集電体に塗工し、乾燥すれば得ることができる。
【0064】
結着剤は、負極の使用電位範囲においてLiに対して電気化学的に不活性であり、他の物質にできるだけ影響を及ぼさない材料であることが好ましい。例えばスチレン−ブタジエン共重合ゴム、ポリアクリル酸、ポリエチレン、ポリウレタン、ポリメタクリル酸メチル、ポリフッ化ビニリデン、ポリ4フッ化エチレン、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース等が適している。本発明で用いる負極は充電時の体積変化が大きいため、体積変化に比較的柔軟に対応可能であるスチレン−ブタジエン共重合ゴムや、体積変化時にも強固な結着状態を維持しやすいポリアクリル酸等が好ましい。結着剤の添加量は、負極の構造維持の観点からは多いほど好ましいが、電池容量の向上および放電特性の向上の観点からは少ない方が好ましい。
【0065】
本発明の非水電解質二次電池は、上記の負極と、Liを電気化学的に吸蔵および放出可能な正極と、非水電解液とを具備する。非水電解液は、ゲル状電解質や固体電解質でもよいが、一般には非水溶媒とそれに溶解する溶質からなる電解液が用いられる。
【0066】
非水溶媒としては、例えば、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、ビニレンカーボネート(VC)等の環状カーボネート類、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジプロピルカーボネート(DPC)等の鎖状カーボネート類、ギ酸メチル、酢酸メチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル等の脂肪族カルボン酸エステル類、γ−ブチロラクトン等のγ−ラクトン類、1,2−ジメトキシエタン(DME)、1,2−ジエトキシエタン(DEE)、エトキシメトキシエタン(EME)等の鎖状エーテル類、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン等の環状エーテル類、ジメチルスルホキシド、1,3−ジオキソラン、ホルムアミド、アセトアミド、ジメチルホルムアミド、ジオキソラン、アセトニトリル、プロピルニトリル、ニトロメタン、エチルモノグライム、リン酸トリエステル、トリメトキシメタン、ジオキソラン誘導体、スルホラン、メチルスルホラン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、3−メチル−2−オキサゾリジノン、プロピレンカーボネート誘導体、テトラヒドロフラン誘導体、エチルエーテル、1,3−プロパンサルトン、アニソール、ジメチルスルホキシド、N−メチルピロリドン、ブチルジグライム、メチルテトラグライム、γ―ブチルラクトン等の非プロトン性有機溶媒等を挙げることができる。これらは複数を組み合わせて用いることが好ましい。
【0067】
非水溶媒に溶解させる溶質としては、例えばLiClO4、LiBF4、LiPF6、LiAlCl4、LiSbF6、LiSCN、LiCF3SO3、LiCF3CO2、Li(CF3SO22、LiAsF6、LiB10Cl10、低級脂肪族カルボン酸リチウム、LiCl、LiBr、LiI、クロロボランリチウム、四フェニルホウ酸リチウム、イミド類等を挙げることができる。これらは単独で用いてもよく、複数を組み合わせて用いてもよい。これらの溶質の非水溶媒に対する溶解量は、特に限定されないが、0.2〜2.0mol/Lが好ましく、0.5〜1.5mol/Lがより好ましい。
【0068】
正極は、非水電解質二次電池の正極として提案されているものであれば、特に限定なく用いることができる。正極は、一般に正極活物質と、導電剤と、結着剤とを含む。正極活物質としては、非水電解質二次電池の正極活物質として提案されているものであれば、特に限定なく用いることができるが、リチウム含有遷移金属化合物が好ましい。リチウム含有遷移金属化合物の代表的な例としては、
LiCoO、LiNiO、LiMnO、LiMnO、LiCoNi1−y、LiCo1−y、LiNi1−y、LiMn、LiMn2−y、LiCo1−xMg、LiNi1−yCo、LiNi1−y−zCoMn等が挙げられるが、これらに限定されない。なお、これらのリチウム含有遷移金属化合物において、Mは、Na、Mg、Sc、Y、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Al、Cr、Pb、SbおよびBよりなる群から選択される少なくとも1種であり、x=0〜1.2、y=0〜0.9、z=2.0〜2.3である。また、x値は、電池の充放電により増減する。また、遷移金属カルコゲン化物、バナジウム酸化物およびそのリチウム化合物、ニオブ酸化物およびそのリチウム化合物、有機導電性物質を用いた共役系ポリマー、シェブレル相化合物等を正極活物質として用いることも可能である。複数の活物質を組み合わせて用いることも可能である。
【0069】
正極と負極との間に介在させるセパレータとしては、大きなイオン透過度、所定の機械的強度、および電子絶縁性を有する微多孔性薄膜が用いられる。非水溶媒に対する耐性と疎水性に優れていることから、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリフェニレンスルフイド、ポリエチレンテレフタレート、ポリアミド、ポリイミド等の材質からなる微多孔性薄膜が好ましく用いられる。これらの材質は単独で用いてもよく、複数を組み合わせて用いてもよい。製造コストの観点からは、安価なポリプロピレン等を用いることが有利である。また、電池に耐リフロー性を付与する場合には、熱変形温度が230℃以上のポリエチレンテレフタレート、ポリアミド、ポリイミド等を用いることが好ましい。また、ガラス繊維等からなるシート、不織布、織布等も用いられる。セパレータの厚みは、一般的には10〜300μmであり、セパレータの空隙率は、電子伝導性、イオン透過性、素材等に応じて決定されるが、一般的には30〜80%であることが望ましい。
【0070】
本発明は、円筒型、扁平型、コイン型、角形等の様々な形状の非水電解質二次電池に適用可能であり、電池の形状は特に限定されない。本発明は、金属製の電池缶やラミネートフィルム製のケースに、電極、電解液等の発電要素を収容した電池を含め、様々な封止形態の電池に適用可能であり、電池の封止形態は特に限定されない。ただし、本発明は、コイン型の非水電解質二次電池において特に好適である。コイン型の非水電解質二次電池は、正極缶および負極缶を含むコイン型の電池ケースを有し、正極および負極は、それぞれ円盤状で、正極缶および負極缶に収容されている。正極と負極との間にセパレータが介在している。正極缶の開口端と負極缶の開口端とは、絶縁ガスケットを介して嵌合しており、電池は密封されている。電池の密封は、リチウムイオン導電性の非水電解質を、正極、負極およびセパレータに含浸させた後に行われる。
【0071】
次に、本発明を実施例および比較例に基づいて具体的に説明するが、下記の実施例は本発明の好ましい形態を例示するものであり、本発明が下記の実施例に限られるわけではない。
【0072】
《実施例1》
実施例および比較例においては、以下の要領で負極およびコイン型電池を作製し、そのサイクル寿命と放電容量について評価した。
(1)合金材料の製造
遷移金属元素Mの原料としては、Ti、Zr、Ni、CuおよびFeを金属状態で用いた。これらはいずれも、純度99.9%であり、粒径100〜150μmの粉体であった。Siの原料としては、Si粉末(純度99.9%、平均粒径3μm)を用いた。
【0073】
MSiがB相を構成すると仮定した場合に、生成する合金材料中のA相とB相の合計重量に占めるA相の割合が約80%となるように、下記の重量比で原料を混合した。
Ti:Si=9.2:90.8
Zr:Si=12.4:87.6
Ni:Si=10.2:89.8
Cu:Si=10.6:89.4
Fe:Si=10.2:89.8
【0074】
各混合粉を3.5kg秤量し、振動ミル装置(中央化工機(株)製、型番FV−20)に投入し、さらにステンレス鋼製ボール(直径2cm)をミル装置内容量の70体積%を占めるように投入した。容器内部を真空に引いた後、Ar(純度99.999%、日本酸素(株)製)を導入して、1気圧になるようにした。これらの条件でメカニカルアロイング操作を行った。ミル装置の作動条件は、振幅8mm、回転数1200rpmとした。これらの条件でメカニカルアロイング操作を80時間行った。
【0075】
上記操作によって得られたTi−Si合金材料、Zr−Si合金材料、Ni−Si合金材料、Cu−Si合金材料およびFe−Si合金材料を、それぞれ回収し、粒度分布を調べたところ0.5μm〜80μmの広い粒度分布を有することが判明した。これらの合金材料を篩い(10μmメッシュサイズ)で分級することによって、最大粒径8μm、平均粒径5μmのTi−Si合金材料(以下、合金材料aという)、Zr−Si合金材料(以下、合金材料bという)、Ni−Si合金材料(以下、合金材料cという)、Cu−Si合金材料(以下、合金材料dという)およびFe−Si合金材料(以下、合金材料eという)を得た。
【0076】
線源としてCuKα線を用い、合金aをX線回折測定で分析したところ、微結晶を示すスペクトルが得られた。また、X線回折測定で得られた回折スペクトルにおいて、回折角2θ=10°〜80°の範囲に観測される最も強度の強い回折ピークの半価幅と、Scherrerの式に基づいて算出した合金材料aの結晶粒(結晶子)の粒径は10nmであった。
【0077】
X線回折測定の結果から、合金材料aの中には、Si単体相(A相)とTiSi相(B相)とが存在していると推定された。合金材料aの中にこれらの2相のみが存在すると仮定し、Si単体相とTiSi相との存在割合を計算すると、Si:TiSi=80:20(重量比)であることが判明した。
合金材料b、合金材料c、合金材料dおよび合金材料eについても、X線回折測定を行い、結晶子サイズとA相:B相(重量比)を求めたところ、合金材料aと同様の結果が得られた。
【0078】
合金材料aの断面を透過電子顕微鏡(TEM)で観察したところ、非晶質領域と、粒径10nm程度の結晶粒(結晶子)からなるSi単体相と、粒径15〜20nm程度の結晶粒(結晶子)を有するTiSi相とが、それぞれ存在していることが判明した。合金材料b、合金材料c、合金材料dおよび合金材料eについても同様の測定を行ったところ、合金材料aと同様の結果が得られた。
【0079】
本実施例において、合金材料の最大粒径および平均粒径の測定には、マイクロトラック社製の粒度分布測定装置であるHRA(MODEL No.9320−X100)を用いた。なお、粒径を測定する前に、合金材料を水と混合し、超音波分散を180秒間実施した。以下の実施例および比較例においても同様である。
【0080】
(2)負極の作製
上記で得た合金材料a〜eと、黒鉛と、結着剤とを用いて、以下の要領で負極を作製した。
合金材料と、黒鉛(日本黒鉛工業(株)製、SP−5030)と、結着剤であるポリアクリル酸(和光純薬工業(株)製、平均分子量15万)とを、重量比
70.5:21.5:7の割合で混合し、負極合剤を得た。この負極合剤を、直径4mm、厚さ0.3mmのペレット状に成形し、その後、ペレット状の負極を200℃で12時間乾燥した。乾燥後の負極の厚さは300μm、空隙率は26.6%、合剤密度は1.721g/cmであった。以下、合金材料a〜eを用いて作製したペレット状の負極を、それぞれ負極a〜eと称する。
【0081】
(3)正極の作製
二酸化マンガンと、水酸化リチウムとを、モル比で2:1の割合で混合し、混合物を空気中で400℃で12時間焼成し、マンガン酸リチウムを得た。
得られたマンガン酸リチウムと、導電剤であるカーボンブラックと、結着剤であるフッ素樹脂(ポリテトラフルオロエチレン)とを、重量比88:6:6の割合で混合し、正極合剤を得た。結着剤は水性ディスパージョンの状態で使用した。この正極合剤を、直径4mm、厚さ1.0mmのペレット状に成形し、その後、ペレット状の正極を250℃で12時間乾燥した。
【0082】
(4)コイン型電池の作製
図1に示すような外径6.8mm、厚み2.1mmの寸法を有するコイン型の非水電解質二次電池を作製した。
正極缶1は、正極端子を兼ねており、耐食性に優れたステンレス鋼からなる。負極缶2は、負極端子を兼ねており、正極缶1と同じステンレス鋼からなる。ガスケット3は、正極缶1と負極缶2を絶縁しており、ポリプロピレン製である。正極缶1および負極缶2とガスケット3との接する面には、ピッチが塗布されている。正極缶1および負極缶2の内面には、カーボンペースト8aおよび8bを塗布した。
【0083】
ペレット状の負極5に含まれる合金材料(活物質)は、リチウムと合金化させる必要がある。そこで、電池組立時に、上記で得たペレット状の負極5の表面にリチウム箔4を圧着した。電池組立後、電解質の存在下で、リチウム箔4を電気化学的に負極に吸蔵させ、負極5の内部にリチウム合金を生成させた。
【0084】
ポリエチレン製の不織布からなるセパレータ6を上記で得た正極7と負極5との間に配した。以下、ペレット状の負極a〜eを用いて作製した電池を、それぞれ電池a〜eと称する。この電池の設計容量は、6mAhである。
電解質には、プロピレンカーボネート(PC)と、エチレンカーボネート(EC)と、ジメトキシエタン(DME)とを、体積比PC:EC:DME=1:1:1で含む混合溶媒に、LiN(CFSOを1モル/Lの濃度で溶解させたものを用いた。
【0085】
(5)電池の評価
20℃に設定した恒温槽の中で、電池a〜eの定電流充放電を、充電電流2C(1Cは1時間率電流)、放電電流0.2Cで、電池電圧2.0〜3.3Vの範囲で200サイクル繰り返した。
【0086】
その際、2サイクル目の放電容量を初回放電容量として求めた。また、2サイクル目の放電容量に対する200サイクル目の放電容量の割合を百分率(%)で求め、容量維持率とした。容量維持率が100(%)に近いほどサイクル寿命が優れていることを示す。初回放電容量および容量維持率の結果を表1に示す。
【0087】
【表1】

【0088】
《比較例1》
遷移金属元素Mの原料として、金属状態のCoおよびMnを用いた。これらはいずれも、純度99.9%であり、粒径100〜150μmの粉体であった。
【0089】
Siの原料としては、Si粉末(純度99.9%、平均粒径3μm)を用いた。
B相がMSiを構成すると仮定した場合に、生成する合金材料中のA相とB相の合計重量に占めるA相の割合が約80%となるように、下記の重量比で原料を混合した。
【0090】
Co:Si=10.2:89.8
Mn:Si=9.9:90.1
各混合粉のメカニカルアロイング操作を実施例1と同様の条件で行い、同様の分級を行って、最大粒径8μm、平均粒径5μmのCo−Si合金材料(以下、合金材料fという)およびMn−Si合金材料(以下、合金材料gという)を得た。また、合金材料f、gを用い、実施例1と同様にして、ペレット状の負極f、gを作製し、これらを用いて電池f、gを作製し、評価した。結果を表2に示す。
【0091】
【表2】

【0092】
実施例1の電池a〜eは、いずれも比較例1の電池f、gに比べて、200サイクル目の容量維持率が高く、急速充放電によるサイクルを繰り返した場合の寿命特性に優れていた。
【0093】
詳細は不明であるが、サイクル特性劣化の主要因は、充放電に伴う集電ネットワークの劣化であると考えられる。すなわち、リチウムを吸蔵および放出する際に発生する合金材料の膨張および収縮により、電極内の粒子間の接続が破断され、粒子の遊離や位置ずれが生じ、集電性が劣化して、負極全体の抵抗が増大すると考えられる。このような劣化は、大電流による急速な充放電を繰り返す場合に顕著となる。
【0094】
一方、実施例1においては、充電時の膨張に対する合金材料の耐性が向上しているため、上記のような劣化が抑制されているものと考えられる。また、表1、2を比較すると、膨張に対する合金材料の耐性は、遷移金属の種類によって、顕著な差を生じることがわかる。Ti、Zr、Ni、CuおよびFeを含む合金材料は、CoやMnを含む合金材料に比べ、高い電子伝導性を有し、かつ高い硬度を有することが、充電時の割れを抑制し、充電時の膨張に対する合金材料の耐性を向上させていると考えられる。
【0095】
ただし、比較例1の電池であっても、通常の充放電サイクル条件(例えば1時間率の電流による充放電)の場合には、充分に優れたサイクル特性を示した。よって、急速充放電が要求される場合でも、従来の合金材料を用いた電池に比べれば優れた性能が期待できる。
【0096】
《実施例2》
本実施例では、合金材料の結晶子サイズについて詳細に検討した。
メカニカルアロイング操作の条件(周波数と合成時間)を変化させることで、合金材料の結晶子サイズを表3に示すように変化させたこと以外、実施例1と同様にして、A相:B相(重量比)が80:20となるように、各種合金材料を製造し、分級を行って、最大粒径8μm、平均粒径5μmのTi−Si合金材料、Zr−Si合金材料、Ni−Si合金材料、Cu−Si合金材料およびFe−Si合金材料を得た。
【0097】
ここでも実施例1と同様に、合金材料のX線回折測定で得られる強度の最も大きなピークの半価幅とScherrerの式からA相の結晶子サイズを算出した。
なお、表3には、A相の結晶子サイズだけを示すが、B相の結晶子サイズもA相のそれと同等であった。
【0098】
メカニカルアロイング操作の条件は、例えば以下のように制御した。
結晶子サイズが0nmの合金材料を得る場合、作動条件は、振幅8mm、回転数1200rpm、合成時間を2000時間とした。ここでは、X線回折スペクトルが非晶質のスペクトルを示し、半価幅を認識できるピークが観測されなかった場合を、結晶子サイズ0nmとした。
【0099】
結晶子サイズが5nm程度の合金材料を得る場合、作動条件は、振幅8mm、回転数1200rpm、合成時間を300時間とした。
結晶子サイズが50nmの合金材料を得る場合、作動条件は、振幅8mm、回転数1200rpm、合成時間を4時間とした。
結晶子サイズが100nmの合金材料を得る場合、作動条件は、振幅8mm、回転数1200rpm、合成時間を1時間とした。
結晶子サイズが200nm程度の合金材料を得る場合、作動条件は、振幅8mm、回転数1200rpm、合成時間を0.3時間とした。
上記の合金材料を用いたこと以外、実施例1と同様にして、ペレット状の負極を作製し、これらを用いて電池を作製し、評価した。結果を表3に示す。
【0100】
【表3】

【0101】
表3において明らかなように、A相の結晶子サイズが100nm以下の場合、高容量で200サイクル後の容量維持率が高くなることが示された。結晶子サイズが100nmより大きい場合には、充放電時の合金材料の膨張および収縮により、合金材料に割れが発生しやすく、集電ネットワークが劣化を引き起こしたものと思われる。また、結晶子サイズが5nmよりも小さい場合には、僅かではあるが、容量が低下する傾向があった。結晶子サイズが過度に小さい場合には、結晶子の粒界が多くなるため、電導性が低下し、充放電時の抵抗が上昇し、容量が若干低下したものと思われる。よって、結晶子サイズは5nm〜100nmとすることが望まれる。また、結晶子サイズが5nm〜50nmの場合に、200サイクル後の容量維持率がより高くなり、容量も大きくなることが示された。
【0102】
《実施例3》
本実施例では、線源としてCuKα線を用いた場合の合金材料のX線回折測定で得られる回折スペクトルにおいて、回折角2θ=10°〜80°の範囲に観測される最も強度の強い回折ピークの半価幅について、詳細に検討した。
【0103】
ここでも、メカニカルアロイング操作の条件(周波数と合成時間)を変化させることで、最も強度の強い回折ピークの半価幅を表4のように変化させたこと以外、実施例1と同様にして、A相:B相(重量比)が80:20となるように、各種合金材料を製造し、分級を行って、最大粒径8μm、平均粒径5μmのTi−Si合金材料、Zr−Si合金材料、Ni−Si合金材料、Cu−Si合金材料およびFe−Si合金材料を得た。
【0104】
なお、表4には、A相に帰属されるピークの半価幅だけを示すが、B相に帰属されるピークの半価幅もA相のそれと同等であった。
【0105】
メカニカルアロイング操作の条件は、例えば以下のように制御した。
半価幅が0.05°の合金材料を得る場合、作動条件は、振幅8mm、回転数1200rpm、合成時間を0.35時間とした。
半価幅が0.1°の合金材料を得る場合、作動条件は、振幅8mm、回転数1200rpm、合成時間を1.3時間とした。
半価幅が0.4°の合金材料を得る場合、作動条件は、振幅8mm、回転数1200rpm、合成時間を18時間とした。
半価幅が0.5°の合金材料を得る場合、作動条件は、振幅8mm、回転数1200rpm、合成時間を27時間とした。
半価幅が1°の合金材料を得る場合、作動条件は、振幅8mm、回転数1200rpm、合成時間を100時間とした。
半価幅が2°の合金材料を得る場合、作動条件は、振幅8mm、回転数1200rpm、合成時間を380時間とした。
【0106】
上記の合金材料を用いたこと以外、実施例1と同様にして、ペレット状の負極を作製し、これらを用いて電池を作製し、評価した。200サイクル後の容量維持率の結果を表4に示す。
【0107】
【表4】

【0108】
半価幅が0.1以上の場合には、200サイクル後の容量維持率が高いことがわかった。一方、半価幅が0.1より小さい場合には、合金材料の結晶性は比較的高く、微結晶状態であるとは言えない。そのため、充放電時の膨張および収縮に合金材料が充分に追随できず、合金材料粒子に割れが発生し、負極の集電ネットワークが損なわれたものと思われる。
【0109】
《実施例4》
本実施例では、合金材料中に占めるA相の割合について、詳細に検討した。
B相がMSiを構成すると仮定した場合に、生成する合金材料中のA相とB相の合計重量に占めるA相の割合が表5に示す割合(30〜98重量%)になるように原料を混合したこと以外、実施例1と同様にして、各種合金材料を製造し、分級を行って、最大粒径8μm、平均粒径5μmのTi−Si合金材料、Zr−Si合金材料、Ni−Si合金材料、Cu−Si合金材料およびFe−Si合金材料を得た。
【0110】
線源としてCuKα線を用い、各合金材料をX線回折測定で分析したところ、微結晶を示すスペクトルが得られた。また、X線回折測定で得られた回折スペクトルにおいて、回折角2θ=10°〜80°の範囲に観測される最も強度の強い回折ピークの半価幅と、Scherrerの式に基づいて算出した各合金材料の結晶粒(結晶子)の粒径は10nmであった。
【0111】
上記の合金材料を用いたこと以外、実施例1と同様にして、ペレット状の負極を作製し、これらを用いて電池を作製し、評価した。200サイクル後の容量維持率の結果を表5に示す。
【0112】
【表5】

【0113】
合金材料中のA相の割合が95重量%より小さい範囲で、200サイクル後の容量維持率が高いことが示された。また、合金材料中のA相の割合が40重量%よりも小さいと、僅かではあるが、容量の低い電池となることが示された。よって、容量およびサイクル特性がバランスよく両立されるのは、合金材料中のA相の割合が40重量%〜95重量%の範囲であることが示された。
【0114】
《比較例2》
B相がMSiを構成すると仮定した場合に、生成する合金材料中のA相とB相の合計重量に占めるA相の割合が表6に示す割合(30〜98重量%)になるように原料を混合したこと以外、比較例1と同様にして、各種合金材料を製造し、分級を行って、最大粒径8μm、平均粒径5μmのCo−Si合金材料およびMn−Si合金材料を得た。
【0115】
線源としてCuKα線を用い、各合金材料をX線回折測定で分析したところ、微結晶を示すスペクトルが得られた。また、X線回折測定で得られた回折スペクトルにおいて、回折角2θ=10°〜80°の範囲に観測される最も強度の強い回折ピークの半価幅と、Scherrerの式に基づいて算出した各合金材料の結晶粒(結晶子)の粒径は10nmであった。
【0116】
上記の合金材料を用いたこと以外、実施例1と同様にして、ペレット状の負極を作製し、これらを用いて電池を作製し、評価した。200サイクル後の容量維持率の結果を表6に示す。
【0117】
【表6】

【0118】
遷移金属元素としてCoまたはMnを用いた場合、A相の割合が40重量%よりも大きい場合には、容量は高くなるが、200サイクル後の容量維持率が顕著に低くなることが示された。
遷移金属元素としてCoやMnを用いた場合、充電時の膨張に対する合金材料の耐性を、あまり向上させることができず、充電時の合金粒子の割れを十分に抑制できないものと考えられる。
【0119】
ただし、比較例2の電池であっても、通常の充放電サイクル条件(例えば1時間率の電流による充放電)の場合には、充分に優れたサイクル特性を示した。よって、急速充放電が要求される場合でも、従来の合金材料を用いた電池に比べれば優れた性能が期待できる。
【0120】
《実施例5》
本実施例では、B相に含まれる遷移金属元素がTiの場合に関し、合金材料の粒度分布について検討した。
A相:B相(重量比)が80:20となるように原料を混合したこと以外、実施例1と同様にしてTi−Si合金材料を得た。得られた合金材料の粒度分布を調べたところ、粒径は0.5〜200μmの範囲に広く分布していた。平均粒径(D50)は50μmであった。また、得られた合金材料の結晶粒(結晶子)の粒径は10nmであった。
【0121】
このTi−Si合金材料を、ふるい分級することにより、表1に示す様々な粒度分布を有する合金材料を得た。これらの合金材料を用いたこと以外、実施例1と同様にして、ペレット状の負極を作製し、これらを用いて電池を作製し、実施例1と同様に評価した。結果を表7に示す。
【0122】
【表7】

【0123】
表7より、体積累積粒度分布における平均粒径(D50)が0.5〜20μmであり、10%径(D10)が0.1〜5μmであり、90%径(D90)が5〜80μmの場合に、電池が高容量となり、優れたサイクル特性(容量維持率)が得られることがわかった。
【0124】
合金材料の平均粒径が大きくなると、電池容量は大きくなったが、容量維持率は低くなった。これは、合金材料の平均粒径が大きくなると、負極内での活物質の分布が不均一となり、充放電時の負極の膨張と収縮も不均一となり、集電劣化を引き起こしたためと考えられる。一方、合金材料の平均粒径が小さくなると、容量維持率は高くなったが、電池容量は低下した。これは、負極の合剤密度が低下したためと考えられる。
【0125】
《実施例6》
本実施例では、好ましい粒度分布を有する合金材料のB相に含まれる遷移金属元素の種類について検討した。遷移金属元素には、表8に示すように、Ti、Zr、Ni、Cu、Fe、CoおよびMnを用いた。
【0126】
A相:B相(重量比)が80:20となるように原料を混合したこと以外、実施例1と同様にしてTi−Si合金材料、Zr−Si合金材料、Ni−Si合金材料、Cu−Si合金材料、Fe−Si合金材料、Co−Si合金材料およびMn−Si合金材料を得た。得られた合金材料の結晶粒(結晶子)の粒径は10nmであった。
【0127】
これらの合金材料を、表8に示す粒度分布を有するように、ふるい分級した。全ての合金材料の平均粒径(D50)は1μmに統一した。これらの合金材料を用いたこと以外、実施例1と同様にして、ペレット状の負極を作製し、これらを用いて電池を作製し、実施例1と同様に評価した。なお、全ての合金材料に関し、負極の空隙率は22%に統一した。結果を表8に示す。
【0128】
【表8】

【0129】
表8が示すように、全ての電池が良好な初回放電容量を示した。一方、容量維持率は、遷移金属元素にCoおよびMnを用いた電池では低くなった。サイクル特性の劣化の主要因は、充放電に伴う集電性の劣化である。集電性の劣化は、充放電に伴う負極の膨張および収縮により、電極構造が変化し、負極全体の抵抗が増大するために起こる。このような現象は、合金材料を構成する遷移金属元素の種類に影響される。遷移金属元素を適切に選択することにより、合金材料の強度は、充放電時の膨張および収縮に適合した状態になると考えられる。
【0130】
遷移金属元素として、Ti、Zr、Ni、CuおよびFeを用いた場合、容量維持率は良好であり、特にTiおよびZrを用いた場合が良好であり、Tiを用いた場合が最も良好であった。これは合金材料の強度が適度であり、充電時の割れが抑制されたためと考えられる。なお、遷移金属元素としてCoやMnを用いる場合でも、電極材料の導電性の改良や導電材の種類や量を改善することで、良好な特性が得られる可能性がある。
【0131】
《実施例7》
本実施例では、メカニカルアロイング法で得られた合金材料を、湿式粉砕することにより、粒度分布を制御した。遷移金属元素にはTiを用いた。
具体的には、以下の操作を行った。
まず、A相:B相(重量比)が80:20となるように原料を混合したこと以外、実施例1と同様にしてTi−Si合金材料を得た。得られた合金材料の平均粒径(D50)は50μmであり、結晶粒(結晶子)の粒径は10nmであった。
【0132】
このTi−Si合金材料を、湿式ボールミルにより粉砕して、表9に示す様々な粒度分布を有する合金材料を得た。ボール状の媒体(メディア)にはφ5mmのジルコニアボールを用いた。粉砕容器にはポリエチレン製の500ml容器を用いた。粉砕容器内に酢酸n−ブチル120mlとともに、合金材料200gとジルコニアボール100個を投入した。ボールミルの回転数は120rpmとした。粉砕時間は所望の粒度分布に応じて変化させた。その後、酢酸n−ブチルを除去して合金材料を回収した。
【0133】
湿式粉砕により得られた合金材料の収率を、実施例5のふるい分級の場合とともに表9に示す。
【0134】
【表9】

【0135】
表9が示すように、ふるい分級の場合に比べ、湿式粉砕を行った場合には、合金材料の収率が大きく向上した。よって、合金材料の粒度分布の制御は、合金材料をボール状の媒体とともに撹拌して粉砕することにより行うことが望ましい。
【0136】
ここで、収率とは、分級(ふるい分級もしくは粉砕)する前の合金材料の仕込み重量に対する、分級後に回収された合金材料の重量の比を百分率(%)で示した値である。収率が100に近いほど、製造法が優れていることを示す。
【0137】
湿式粉砕では、ふるい分級の場合に比べ、D50とD10との差およびD90とD50との差が小さくなり、粒度分布の幅が狭くなった。よって、湿式粉砕は、粒度分布の幅の狭い合金材料を得るのに適している。
【産業上の利用可能性】
【0138】
本発明は、特に、携帯電話、デジタルカメラ等の各種電子機器の主電源およびメモリーバックアップ用電源として最適な非水電解質二次電池を提供するものであり、さらに、高い電気容量が要求されるとともに、大電流で急速な充放電を行う場合にも優れたサイクル特性が要求される用途に対しても好適な非水電解質二次電池を提供するものである。
【図面の簡単な説明】
【0139】
【図1】本発明の非水電解質二次電池の一例であるコイン型電池の断面図である。
【符号の説明】
【0140】
1 正極缶
2 負極缶
3 ガスケット
4 リチウム箔
5 負極
6 セパレータ
7 正極
8a、8b カーボンペースト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムを可逆的に吸蔵および放出可能な正極、負極および非水電解質を含む非水電解質二次電池であって、
前記負極は、Liを電気化学的に吸蔵および放出可能な合金材料を含み、
前記合金材料は、Siを主体とするA相と、遷移金属元素とSiとの金属間化合物からなるB相とを含み、
前記遷移金属元素が、Ti、Zr、Ni、CuおよびFeよりなる群から選ばれる少なくとも1種であり、
前記A相および前記B相の少なくとも一方が、微結晶または非晶質の領域からなり、
前記A相と前記B相との合計重量に占める前記A相の割合が、40重量%より多く、95重量%以下である、非水電解質二次電池。
【請求項2】
前記微結晶または非晶質の領域は、結晶子サイズが100nm以下である、請求項1記載の非水電解質二次電池。
【請求項3】
前記微結晶または非晶質の領域は、結晶子サイズが5nm以上、100nm以下である、請求項2記載の非水電解質二次電池。
【請求項4】
線源としてCuKα線を用いた場合の前記合金材料のX線回折測定で得られる回折スペクトルにおいて、回折角2θ=10°〜80°の範囲に観測される最も強度の強い回折ピークの半価幅が0.1°以上である、請求項1記載の非水電解質二次電池。
【請求項5】
線源としてCuKα線を用いた場合の前記合金材料のX線回折測定で得られる回折スペクトルにおいて、回折角2θ=20°〜35°の範囲に観測される最も強度の強い回折ピークの半価幅が0.1°以上である、請求項1記載の非水電解質二次電池。
【請求項6】
前記遷移金属元素がTiであり、前記合金材料に含まれるSiの含有量が72.4〜97.7重量%である、請求項1記載の非水電解質二次電池。
【請求項7】
前記遷移金属元素がZrであり、前記合金材料に含まれるSiの含有量が62.8〜96.9重量%である、請求項1記載の非水電解質二次電池。
【請求項8】
前記遷移金属元素がNiであり、前記合金材料に含まれるSiの含有量が69.4〜97.45重量%である、請求項1記載の非水電解質二次電池。
【請求項9】
前記遷移金属元素がCuであり、前記合金材料に含まれるSiの含有量が68.2〜97.35重量%である、請求項1記載の非水電解質二次電池。
【請求項10】
前記遷移金属元素がFeであり、前記合金材料に含まれるSiの含有量が70〜97.5重量%である、請求項1記載の非水電解質二次電池。
【請求項11】
前記遷移金属元素がTiであり、前記B相がTiSiを含む、請求項1記載の非水電解質二次電池。
【請求項12】
前記合金材料の平均粒径(体積累積粒度分布のメディアン径:D50)が、0.5〜20μmであり、体積累積粒度分布の10%径(D10)および90%径(D90)が、それぞれ0.1〜5μmおよび5〜80μmである、請求項1記載の非水電解質二次電池。
【請求項13】
正極缶および負極缶を含むコイン型の電池ケースを有し、前記正極および前記負極が、それぞれ円盤状で、前記正極缶および前記負極缶に収容されており、前記正極と前記負極との間にセパレータが介在しており、前記正極缶の開口端と負極缶の開口端とが、絶縁ガスケットを介して嵌合している、請求項1記載の非水電解質二次電池。
【請求項14】
前記負極の密度が、1.6〜2.4g/cm3である、請求項13記載の非水電解質二次電池。
【請求項15】
Liを電気化学的に吸蔵および放出可能な正極活物質を含む円盤状の正極を作製する工程、Liを電気化学的に吸蔵および放出可能な負極活物質を含む円盤状の負極を作製する工程、ならびに、前記正極および前記負極を、非水電解質とともにコイン型の電池ケースに収容する工程、を有する非水電解質二次電池の製造法であって、
前記負極を作製する工程が、
(a)メカニカルアロイング法により、Ti、Zr、Ni、CuおよびFeよりなる群から選ばれる少なくとも1種の遷移金属とSiとを含む原料に剪断力を付与して、Siを主体とするA相と、遷移金属元素とSiとの金属間化合物からなるB相とを含み、前記A相および前記B相の少なくとも一方が、微結晶または非晶質の領域からなり、前記A相と前記B相との合計重量に占める前記A相の割合が、40重量%より多く、95重量%以下である合金材料を得る工程、
(b)前記合金材料を、ボール状の媒体とともに撹拌して、平均粒径(体積累積粒度分布のメディアン径:D50)が、0.5〜20μmであり、体積累積粒度分布の10%径(D10)および90%径(D90)が、それぞれ0.1〜5μmおよび5〜80μmの粉末を得る工程、ならびに
(c)前記粉末を円盤状に加圧成形する工程、を有する非水電解質二次電池の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2006−164960(P2006−164960A)
【公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−323945(P2005−323945)
【出願日】平成17年11月8日(2005.11.8)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】