説明

【課題】「体重が足裏に対して人間工学的な見地から適切な状態で作用するようなソール表面を具備した靴を提供することを目的とする。
【解決手段】表面1Aの前部に凹部2が形成されているソール1を備えた靴において、該凹部2が、靴のソール表面1Aの、幅方向において第1中足骨D1から第5中足骨D5にかけて及び前後方向においてこれら各5中足骨D1〜D5から先端方につづく各中足指節関節C1〜C5の中央部にかけての領域の下方の足裏部分が当接する部位に設けられ、且つ、該凹部2が、立脚期において踵部分1Rがつま先部分1Tに比べて約4cm〜6cm程度上方に位置する状態でこのソール1上に足を載せると、前後方向において足の各中足骨D1〜D5の各先端部と各中足指節関節をそれぞれ結ぶ各線P1〜P5を有する仮想面Pが略水平状態を形成するような形状の凹部2である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、体重を右あるいは左のいずれかの足の足裏に、それぞれ、左右方向において均等にかけた状態、特に、立脚期(歩行時においてその足が体重を支えている状態のとき:立脚相ともいう)において、足で体重を支える際に、足幅方向(単に幅方向ともいう)において均等に体重が作用し、理想的な歩行が行えるとともに且つ理想的な立位姿勢をとることができる靴に関する。
【背景技術】
【0002】
人が歩行する立脚期や立位の姿勢をとっている状態は、個人的な骨格及び歩行時の「くせ」等により、また、履いている靴等によっても、人それぞれに異なる。
しかし、一般的に、裸足の状態において、立脚期や立位の姿勢をとっている場合、脚を介して足裏に作用する体重の方向は真上方向からではなく、概ね脚の外側から内側を向くような斜め方向から作用している。このため、人は無意識下において、足や脚の種々の筋肉を使用して、前記傾きを是正するようにバランスをとっている。このような状態は、従来の靴を履いた場合にも生じている。
【0003】
この結果、歩行を所定時間おこなった場合や立位の姿勢を所定時間とった場合に、前記傾きを是正することに脚等の筋肉を費やす分だけ、また無理な姿勢を強いられる分だけ、無用な疲れを生じさせる。また、前記是正に費やしたエネルギーの他にも、各関節への負担が加わって、疲れが倍増する。
【0004】
ところで、従来技術として、歩行等している際に、靴のソール上面において足裏が前後左右にズレることにより、所謂「たこ」や「まめ」を生じさせることのないように、足の第1中足骨の先端部下方の足裏(親指丘ともいう)が接触するソール表面に貫通穴を形成した靴が開示されている(特許文献1参照)。
【特許文献1】特許第3462092号公報。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前記特許文献1に記載されている靴の場合には、確かにソール表面に対して足裏が前後左右にずれ難くなり前記「たこ」や「まめ」を防止できる。しかし、立脚期における足裏にかかる体重のかかり具合を考えると、前記した脚の傾きに起因する前記課題が存する。
【0006】
また、前記特許文献1記載の靴の場合には、ソール上に配置される中敷に貫通穴を設けているため、この中敷の高さだけ靴が高くなり、靴を履いた状態において、立脚期の底屈運動がし難くなり、この結果、無用に脚等の筋肉を使用することになる。また、婦人靴の場合には、ファッション性が重要視されることから、前述のような高い(厚い)中敷を用いると、靴の高さがその分だけ高くなり、ファッション性を損ない、従って、ファッション性を重視する靴には、このような中敷を採用することは難しい。
【0007】
本願発明は、このような現況に鑑みおこなわれたもので、体重が足裏に対して人間工学的な見地から適切な状態で作用するようなソール表面を具備ししかもファッション性を損なうことのない靴を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明にかかる靴は、表面の前部に凹部が形成されているソールを備えた靴において、
前記凹部が、靴のソール表面の、幅方向において第1中足骨から第5中足骨にかけて及び前後方向においてこれら各中足骨から先端方につづく各中足指節関節を経て各基節骨の中央部にかけての領域の下方の足裏部分が当接する部位に設けられ、且つ、該凹部が、立脚期において足のつま先部分に比べて踵部分が約4cm〜6cm程度上方に位置する状態のときに、このソール上に載った足の各中足骨の各先端部から各中足指節関節を経て各基節骨の中央部をそれぞれ結ぶ前後方向に延びる各線を面内に有する仮想面が略水平状態を形成するような形状の凹部であることを特徴とする。
【0009】
このように構成された本発明にかかるソールを備えた靴によれば、ソールの前記凹部およびその近傍部分に最も体重が作用する立脚期の終期において、前記凹部が前述のように構成されていることに起因して、体重が幅方向において均等に且つ真上方向から足に対して作用するため、脚等の筋肉が最も適切な状態となる。具体的には、前述のように幅方向において体重が均等に且つ真上方向から作用するため、該立脚期の終期において作用する、下腿三頭筋(腓腹筋(内側頭,外側頭)とひらめ筋)のうちの腓腹筋外側頭と、底屈曲筋群のうちの後頸骨筋、長腓骨筋が、理想的な活動をする。このため、無用な筋肉の使用がないため、従来のソールを備えた靴等を履いた場合に比べて、格段に疲れの少ない靴となる。また、歩行時において、前述のように足に対して体重が真上方向から且つ幅方向において均等に作用するため、歩行時の体の軸線に歪みや傾きがなく、このため訓練されたモデルが歩行する如く綺麗な姿勢で歩行することが可能となる。かかる状態は、歩行の姿勢が綺麗であるだけでなく、前述の如く無駄な筋肉の使用がなく且つ関節等に無理な力が作用しないため、歩行時の疲れが大幅に軽減されることにもつながる。
また、立脚期に、足裏に作用する体重の移動軌跡が、踵部分から、前記第1中足骨部分から第5中足骨部分にかけての足裏部分の足幅方向における中央部分を通って、つま先に略直線的になるため、極めて無駄のない且つ安定した状態での体重移動が実現される。
また、立位の姿勢を保つ場合にも、前記第1中足骨部分から第5中足骨部分にかけての下方の足裏部分で、幅方向において均等に分布した状態で且つ真上方向から体重が作用するため、体のバランスをとるために無駄な脚や足の筋肉を活動させる必要がない。従って、従来のソールを備えた靴等を履いている場合に比べて、疲れが極端に少なくなる。
さらには、前述のように体重が幅方向において均等に分布した状態で且つ真上方向から作用することになるため、歩行時や立位の状態においても、膝等の関節への負担も大幅に軽減されることになる。そして、ソール表面に凹部を形成しているため、靴の高さを無用に高くすることがないため、高いファッション性を備えた靴となる。
【0010】
また、前記靴において、前記凹部が、幅方向において前記第1中足骨及び前後方向において該第1中足骨の前部から先端方につづく第1中足指節関節を経て第1基節骨の中央部にかけての領域の下方の足裏部分が当接する第1の凹部と、幅方向において前記第2中足骨から第5中足骨にかけて及び前後方向において第2中足骨〜第5中足骨の各前部から先端方につづく第2中足指節関節〜第5中足指節関節を経て第2基節骨〜第5基節骨の各中央部にかけての領域の下方の足裏部分が当接し且つ前記第1の凹部より凹みが浅い第2の凹部とが、ソールの幅方向において連接されることによって、構成されていると、さらに足裏の形状に合致した、幅方向においてより均等に分布した状態で体重が作用するとともに、履き心地の良い好ましい構成となる。
【0011】
また、前記靴において、前記ソールの、少なくとも前記凹部及びその近傍部分が、ゴム硬度がHs80度程度の硬さの材質のもので構成されていると、立脚期に、底屈運動(足裏にかかる体重を踵部分から足の前部に移動させる際に、中足指節関節を屈曲させる運動)が円滑に行える構成の靴を実現することができる。このため、立脚期に前記腓腹筋外側頭、後頸骨筋、長腓骨筋の理想的な活動が得られる。また、ソールが適度な硬さのため、足裏に接触しても心地良い状態の靴となる。
【0012】
また、前記靴において、前記靴が婦人靴であって、前記凹部の底からソール底面までの厚みが8mm以下であると、靴の屈曲性(底屈運動)が増して、さらに好ましい構成の靴となる。
【発明の効果】
【0013】
本発明にかかる靴によれば、体重が足裏に対して人間工学的な見地から最適な状態で作用するなソール表面を具備した靴を実現でき、歩行や立位の姿勢をとったときにも、疲れ難い靴となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態にかかる靴について、婦人用のやや踵の高い形態の靴を例に挙げて、図面を参照しながら、具体的に説明する。
【0015】
図1は本発明の靴のソールの構成を示すソール全体の斜め前方から見た斜視図、図2は図1に示すソールの第1及び第2中足骨部分が当接する部分に形成された凹部の断面形状を示す図1のII−II矢視断面図、図3は図1に示すソールの第2〜第5中足骨部分が当接する部分に形成された凹部の断面形状を示す図1のIII−III矢視断面図、図4は中足骨部分が当接する部分に形成された凹部の幅方向の断面形状を示す図1のIV−IV矢視断面図である。
【0016】
図1において、1は靴のソールで、このソール1の上方には、所謂アッパー5(図2の二点鎖線参照)と呼ばれる足の甲と側面を覆う皮あるいは布が一体に配設される。
【0017】
そして、前記ソール1の表面(上面)1Aの前部に凹部2が形成されている。この凹部2は、図5に示すように、幅方向において第1中足骨D1から第5中足骨D5にかけて及び前後方向においてこれら第1中足骨D1〜第5中足骨D5の各前部から先端方(つま先方)につづく各中足指節関節C1〜C1を経て各基節骨B1〜B5の各中央部にかけての領域の下方の足裏部分が当接する部位に設けられている。
【0018】
そして、この凹部2は、図2に図示するようにソール1のつま先部分1Tから踵部分1Rにわたる全体の裏面が接地している状態から、図6に図示する、立脚期の一課程においてソール表面1A上の踵部分1Rが同つま先部分1Tに比べて、符号H2で示す約5cm程度(約4cm〜6cm程度)上方に位置するような状態で、該ソール1上に載った足が、前後方向において足の各中足骨D1〜D5の前部と各中足指節関節C1〜C5を経て各基節骨B1〜B5を結ぶ各線P1〜P5(図5参照)を面内に有する仮想面P(図5参照:略平面状の仮想面)が略水平状態(真水平状態あるいはその状態から上下いずれかの方向に少し傾いた程度の状態をいう)になるような形状をしている。また、図2に図示するように、この実施形態にかかるソール1の場合には、その表面1Aが、踵部分1Rがつま先部分1Tに比べて3cm程度高くなった所謂「ハイヒール」に近い形態であることから、このソール1を具備した靴を履くと、履いた状態で前記した「ソール表面の踵部分1Rがつま先部分1Tに比べて3cm程度上方に位置する状態」となり、従って、このソール1を具備した靴を履くと、前後方向において足の各中足骨D1〜D5の前部と各中足指節関節C1〜C5を経て各基節骨B1〜B5の中央部を結ぶ各線P1〜P5を面内に有する仮想面Pが略水平状態に近い状態となる。
【0019】
さらに前記凹部2の形態に関して詳細に述べると、図1,図4に図示するように、該凹部2は、幅方向において前記第1中足骨D1(図2,図5参照)、前後方向において前記第1中足骨D1の前部から先端方につづく第1中足指節関節C1を経て第1基節骨B1にかけての領域の下方の足裏部分が当接する第1の凹部2Aと、幅方向において前記第2中足骨D2から第5中足骨D5にかけて、前後方向において第2中足骨D2〜第5中足骨D5の各前部から先端方につづく第2中足指節関節C2〜第5中足指節関節C5を経て第2基節骨B2〜第5基節骨B5の各中央部にかけての、領域の下方の足裏部分が当接し且つ前記第1の凹部2Aより凹みが浅い第2の凹部2Bとが、ソール1の幅方向において連接されることによって、構成されている。つまり、この凹部2は、図1〜図5に図示するように、人間の足裏の所謂「指丘M(図2の二点鎖線参照)」の形状に略対応した形状、つまり「指丘M」の下方への突出形状に対して略補完する立体形状を有している。換言すれば、前記凹部2は、前記仮想面Pが前記条件のときに略水平となる、足裏の前記指丘Mとその周辺の部分がソール1表面に対して、立体的に略一致するような状態を形成することが可能な形状に構成されている。
【0020】
そして、前記ソール1は、実際には、ゴム硬度Hs70〜90度程度の硬さのウレタンゴムで構成されることが望ましく、この実施形態ではゴム硬度Hs80度程度の硬さのウレタンゴムで構成され、また、このソール1は金型を用いて一体成形されることによって製造されている。このようにソール1の材質としてウレタンゴムを使用するのは、立脚期の底屈運動が円滑に行えるような薄さの厚み(なお、図2〜図4、図6に図示されるソール1はやや厚く表示されている)を得るためであり、且つ、ソール1の厚みを薄くしても靴として一般に要求される程度の耐摩耗性(耐久性)を得るためである。また、この実施形態では、ソール1全体が前記硬度のウレタンゴムで構成されているが、少なくとも、前記凹部2およびその近傍部分が前記硬度のウレタンゴムで構成されていればよい。
【0021】
また、前記凹部2の底、つまり最も凹んでいる箇所からソール1の底面までの厚さH(図4参照)は、8mm以下であることが、前述の円滑な底屈運動をおこなう上で好ましく、この実施形態では、4mm〜5mm程度、正確には約4mmになっている。しかし、この4mmあるいは4mm〜5mmという数値に限定されるものでなく、8mm以下であればよく、例えば、7mmであってもよく、6mmであっても、3mmであってもよい。但し、最小厚さは、現実的な耐久性の点から最低限3mmあることが望ましい。
【0022】
また、前記ソール1の表面の外縁1aは、角部がラウンド状になって所定高さ(この実施形態では1mm程度)だけ立ち上がり、このソール1を備えた靴を履いたときに、足裏が周囲から該ソール1の外縁で外方から包み込まれるような状態で保持されるよう構成されている。また、この実施形態の場合、ソール1の前後方向(長手方向)の重量的なバランスの点及び全体の重量の軽量化の点から、厚みの厚くなったソール1の踵部分1Rには、厚み方向に延びる有底穴(ソール1の底まで貫通していない穴)1hが複数形成されている。しかし、このような有底穴1hは、付加的な構成であり、必ずしも必須のものではない。また、有底穴1hの径により、その数を増減させてもよい。
【0023】
また、このように構成されたソール1は、実際に靴のソール1として使用される場合には、このソール1の表面1Aには、前記有底穴1hを上方から覆うために、薄い厚みのビニールレザー又は布,皮等のシート材が張られる。また、靴のアッパー5(図2参照)の端部は、一般に前記ソール1と前記シート材の間に巻き込まれた状態(挟まれた状態)で固定される。しかし、アッパー5の固定については、このような構成に限定されるものでなく、ソール1の側面にアッパー5の端部が固着されたような構成であってもよい。
【0024】
そして、上述のように構成された本実施形態にかかるソール1は、靴の一部として、つまり靴のソール1として使用されることによって、以下のように作用し、且つ効果を奏する。即ち、
前述のようなソール1を備えた靴の場合、この靴を履いて立位の姿勢を維持している場合(あるいは立脚期)には、前述のように、各中足骨D1〜D5の先端部と各中足指節関節C1〜C5を経て各基節骨B1〜B5の中央部を結ぶ各線P1〜P5(図5参照)を面内に有する仮想面Pが略水平状態になるため、ソール1に対して体重は略真上方向から作用するとともに、該体重はソール1の幅方向において略均等に分布した状態となる。このため、立位(あるいは立脚期)の姿勢を保つ際に作用する種々の筋は、従来の靴(普通の靴ともいう)を履いた場合や裸足の場合のように、脚等の傾きを是正するために無用な活動をする必要がない。従って、この靴を履いて立位の姿勢を長時間しても、あるいは歩行しても、従来の靴を履いた場合に比べて、大幅に疲れ難くなる。
【0025】
また、この実施形態にかかるソール1を備えた靴を履いて歩行すると、立脚期に、ソール1の足幅方向に略均等に分布した状態で体重が作用するため、立脚期に主として脚の傾きを是正するために活動する、前記腓腹筋外側頭が該是正のための無駄な活動をすることなく、且つ、立脚期において、該腓腹筋外側頭、前記後頸骨筋、前記長腓骨筋等の理想的な活動が得られる。このため、歩行による疲れが大幅に緩和されることになる。また、股関節や膝関節や足関節に、無理な力が作用することがないため、これらの関節を無用に傷めるようなこともない。
【0026】
前記作用を科学的に証明するために、専門の機関である「関西鍼灸大学(所在地:大阪府泉南郡熊取町若葉2丁目11の1)の神経病研究センター」及び「神戸リハビリテーション専門学校(所在地:兵庫県神戸市中央区古湊通1丁目2-2)」に依頼して、立脚期を含む歩行時における前記腓腹筋外側頭、前記後頸骨筋、前記長腓骨筋等の活動についての計測データを得た。即ち、図7に示す、本実施形態にかかるソール1を備えた靴を履いて歩行したときに得られるデータ(脚の各種の筋の活動を示す筋電図ポリグラフ)は、図8に示す従来の靴を履いて歩行したときに得られるデータや図9に示す裸足で歩行したときに得られるデータに比べて、歩行時に得られる理想的な筋の活動を示すデータに近似している。具体的には、同一の被検者(データ採取のためにこのソール1を具備した靴を履いて歩行し立位の姿勢をとった人)に、特段意識することなく且つ特段の注文をつけることなく普通に歩行してもらって採取したデータである、
図9に示す裸足の場合には、歩行時の1工程W8(踵部分を着地してから次に踵部分を着地するまでの工程)が時間的に短く、図8に図示する普通の靴の場合には、裸足の場合に比べて歩行時の1工程W7がそれより長く、図7に図示する本実施形態にかかるソール1を具備した靴の場合には、歩行時の1工程W6がさらに長くなっていることが判る。このように1工程が時間的に長くなることは、歩行状態において足による体重の支持性が向上していることを意味する。つまり、支持性が低くなる(不安定な状態)ほど、倒れまいとして次の1歩を早いタイミングで踏みだすことが知られ、このように、前記1工程が短くなることは、歩行が安定しない状態から徐々に安定した状態になる幼児の歩行状態の進歩や2足歩行ロボット等の進化状態を見ても明らかである。このように、本実施形態にかかるソール1を具備した靴は、支持性において裸足の場合や普通の靴を履いている場合に比べて、良好なことが判る。
【0027】
次に、立脚期の終期の所謂「蹴り出し」動作は、その反作用によって前方に進むためのものであり、効率的な歩行を実現するために重要な要素となるが、図9に図示する裸足の場合の腓腹筋外側頭A1の活動を示す線図において、「立脚期の終期にのみ現れる」如き目立った活動は無く、その前の状態とほとんどかわらない活動状態を示している。これに対して、図8に図示する普通の靴を履いた場合の腓腹筋外側頭A1の活動を示す線図では、立脚期の終期にのみ目立った活動を示し前記「蹴り出し」動作がなされていることが判る。これらに対して、図7に図示する本実施形態にかかるソール1を具備した靴を履いた場合の腓腹筋外側頭A1の活動を示す線図において、立脚期の終期にのみに目立った活動を示しさらに強い前記「蹴り出し」動作がなされていることが筋電図から判る。このことから、本実施形態にかかるソール1を具備した靴の場合には、裸足の場合や普通の靴を履いた場合に比べて、より効率的な歩行が行われていることが判る。また、図7に図示する本実施形態にかかるソール1を具備した靴を履いた場合には、図8に図示する普通の靴を履いた場合に比べて、前記腓腹筋外側頭A1の活動時間が長く、踵部分からつま先部分への体重の移動がより明確におこなわれ、理想に近い歩行状態が得られていることが判る。
【0028】
さらに、図9に示す裸足の場合には、立脚期から遊脚期(歩行時においてその足が体重を支えていない状態のとき:遊脚相ともいう)にかけて、足関節底屈曲筋群である前記腓腹筋外側頭A1、長腓骨筋A4の活動が持続的に認められ、左右の足間での体重移動が明確になされていないことが判る。これに対して、図8に図示する普通の靴を履いた場合には、前記腓腹筋外側頭A1、長腓骨筋A4の活動が一定の周期毎に認められ、左右の足間での体重移動が明確におこなわれていることが判る。これらに対して、図7に図示する本実施形態にかかるソール1を具備した靴を履いた場合には、前記腓腹筋外側頭A1、長腓骨筋A4の活動が一定の周期毎に認められ、左右の足間での体重移動が「さらに明確」におこなわれていることが判る。このことから、本実施形態にかかるソール1を具備した靴の場合には、左右の足間での体重の移動が極めて明確におこなわれ、効率的な歩行が行われていることが判る。
【0029】
また、図7に図示する本実施形態にかかるソール1を具備した靴を履いた場合には、前記立脚期の直後に、立脚の終期において活動していた前記腓腹筋外側頭A1や前頸骨筋A3、後頸骨筋A4、足趾伸筋A5等の活動が停止しこれらの筋がリラックスしていることが判る。これに対して、図8に図示する普通の靴を履いた場合には、前記立脚期の直後に、前記後頸骨筋A4や足趾伸筋A5の活動はおこなわれ、これらの筋がリラックスしていないことが判る。
このことは、本実施形態にかかるソール1を具備した靴の場合には、歩行による疲労が普通の靴を履いた場合に比べてより少ないことを示している。
【0030】
また、歩行における該歩行時に活動する各筋の活動量に関しては、筋電の値を時間で積分した図10に図示するように、本実施形態にかかるソール1を具備した靴の場合には、裸足や普通の靴を履いた場合に比べて、脚の傾きを是正するために活動する前記腓腹筋外側頭A1の活動量が少ないことが判る。また、本実施形態にかかるソール1を具備した靴の場合には、普通の靴を履いた場合に比べて、歩行のときに活動する、前記腓腹筋内側頭A2、前記前頸骨筋A3、前記後頸骨筋A4、前記長腓骨筋A4、前記足趾伸筋A5の各筋の活動量が少ないことが明らかである。特に、前記足趾伸筋A5の活動量については、本実施形態にかかるソール1を具備した靴と普通の靴とでは両者の活動量の差異が特に顕著であることが判る。
【0031】
このことから、本実施形態にかかるソール1を具備した靴を履いた場合には、裸足や普通の靴を履いた場合に比べて、理想的な歩行状態と理想的な立位の状態が得られ、歩行時において又立位の姿勢を維持するときにおいて、疲れが少なく、また、足関節は勿論のこと、股関節や膝関節にも無理な負担を生じさせることはない。
【0032】
また、本実施形態のように、ソールそのものの表面に凹部を形成することによって、前記作用効果を奏するとともに、靴自体の高さが高くならないため、ファッション性に優れた靴を実現することができる。
【0033】
なお、図7〜図9において、縦線E01〜E01間(W6,W7,W8)は、歩行時の1の立脚期を示している。また、これらの図において、横軸に時間軸を、縦軸に各筋が生じさせる筋電(微弱電圧:単位mV)をとって、各筋の活動状態を示している。
【0034】
ところで、前記実施形態では、ソール1全体が、ゴム硬度がHs80度程度の硬さの材質のもので構成されているが、このような構成に限定されるものでなく、少なくとも前記凹部2及びその近傍部分がこのようなゴム硬度がHs80度程度の硬さの材質のもので構成されていればよい。また、前記実施形態では、ややハイヒールに近い形態の婦人靴を例に挙げて説明したが、この実施形態に限定されるものでなく、ローヒールであってもよく、またその他の、例えば、紳士靴に適用することもできる。また、サイズ的には、足のサイズの大きい者から小さいサイズの者まで、使用する者の足のサイズに合わせた前記構成の靴を履くことによって、前述した作用効果を得ることができることは言うまでもない。
【0035】
ところで、本発明は、前述した実施形態に限定されるものでなく、当業者が自明の範囲において、適宜変更した形態で実施することができることを言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明にかかる靴は、種々の靴やスリッパ等に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の靴のソールの構成を示すソール全体の斜視図である。
【図2】図1に示すソールの第1及び第2中足骨が当接する部分に形成された凹部の断面形状を示す図1のII−II矢視断面図である。
【図3】図1に示すソールの第2〜第5中足骨が当接する部分に形成された凹部の断面形状を示す図1のIII−III矢視断面図である。
【図4】中足骨が当接する部分に形成された凹部の幅方向の断面形状を示す図1のIV−IV矢視断面図である。
【図5】第1〜第5中足骨、中足指節関節等とソールの凹部等との位置関係を示す平面図である。
【図6】立脚期の一課程において、図2に図示する状態からつま先部分に比べて踵部分が4〜6cm程度上方に位置する状態となり仮想面が略水平になった状態を示す図である。
【図7】本実施形態にかかるソールを具備した靴を履いて歩行した場合の各筋の筋電図である。
【図8】従来の靴を履いて歩行した場合の各筋の筋電図である。
【図9】裸足で歩行した場合の各筋の筋電図である。
【図10】図7〜図9に示す各筋電図の各筋の筋電の値を時間で積分した積分値を各筋毎に棒グラフで対比して示した図である。
【符号の説明】
【0038】
D1…第1中足骨
D5…第5中足骨
B1〜B5…各基節骨
C1〜C5…各中足指節関節
D1〜D5…各中足骨
P1〜P5…各線
P…仮想面
1…ソール
1R…踵部分
1T…踵部分
2…凹部
2A…第1凹部
2B…第2凹部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面の前部に凹部が形成されているソールを備えた靴において、
前記凹部が、靴のソール表面の、幅方向において第1中足骨から第5中足骨にかけて及び前後方向においてこれら各中足骨から先端方につづく各中足指節関節を経て各基節骨の中央部にかけての領域の下方の足裏部分が当接する部位に設けられ、且つ、該凹部が、立脚期において足のつま先部分に比べて踵部分が約4cm〜6cm程度上方に位置する状態のときに、このソール上に載った足の各中足骨の各先端部から各中足指節関節を経て各基節骨の中央部をそれぞれ結ぶ前後方向に延びる各線を面内に有する仮想面が略水平状態を形成するような形状の凹部であることを特徴とする靴。
【請求項2】
前記凹部が、幅方向において前記第1中足骨及び前後方向において該第1中足骨の前部から先端方につづく第1中足指節関節を経て第1基節骨の中央部にかけての領域の下方の足裏部分が当接する第1の凹部と、幅方向において前記第2中足骨から第5中足骨にかけて及び前後方向において第2中足骨〜第5中足骨の各前部から先端方につづく第2中足指節関節〜第5中足指節関節を経て第2基節骨〜第5基節骨の各中央部にかけての領域の下方の足裏部分が当接し且つ前記第1の凹部より凹みが浅い第2の凹部とが、ソールの幅方向において連接されることによって、構成されていることを特徴とする請求項1記載の靴。
【請求項3】
前記ソールの、少なくとも前記凹部及びその近傍部分が、ゴム硬度がHs80度程度の硬さの材質のもので構成されていることを特徴とする請求項2記載の靴。
【請求項4】
前記靴が婦人靴であって、前記凹部の底からソール底面までの厚みが8mm以下である請求項2記載の靴。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−43646(P2008−43646A)
【公開日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−224223(P2006−224223)
【出願日】平成18年8月21日(2006.8.21)
【出願人】(506284049)
【Fターム(参考)】