説明

【課題】一体形成の靴底によりクッション性能を損なうことなく、靴内部の空気を循環し得る靴を提供する。
【解決手段】
クッション性の材質よりなる靴底(1)の外周面に通気孔(3)を開口し、この通気孔を靴底の靴内部に形成した条溝(4)に接続する。通気孔の入り口には狭窄部を形成する。条溝(4)は、通気孔より靴底の周縁に沿って長手方向に延びると共に、つま先部及び踵部で湾曲した形状に形成される。狭窄部は、側面開口側に形成した段差(30)と、この段差の上側及び下側よりそれぞれ開口側下方及び上方に向かって突き出た突片(31、32)とから形成される。通気孔(3)は、少なくとも靴底中央部の内側面の土踏まず領域に形成するのが望ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、靴内部の通気性を向上させた靴に関する。
【背景技術】
【0002】
靴は一般に通気性に乏しく、足からの発汗によって靴内部が蒸れることがある。そこで従来より、靴内部の通気性を向上させるための様々な工夫が施されている。
【0003】
たとえば特許文献1では、靴底の上面に通気溝を網目状に設け、靴底の側部に設けた外部との通気孔をこの通気溝に連通すると共に通気孔に逆止弁を取り付けており、歩行による踏圧で通気溝を変形させて吸排気すると共に、逆止弁により、外部からの埃や水の浸入を防止する構造となっている。
【0004】
しかし、歩行による通気溝の変形に伴う吸排気では逆止弁を動作させるだけの作動圧を生じにくく、通気溝の空気がうまく循環しないことがある。さらに、踏圧により逆止弁が変形してしまったりすると靴底に違和感を感じ、靴底のクッション性が損なわれるおそれがあった。
【特許文献1】実用新案登録第3071186号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、一体形成の靴底によりクッション性能を損なうことなく、靴内部の空気を循環し得る靴を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、請求項1記載の発明は、クッション性の材質よりなる靴底の外周面に少なくとも一つの通気孔を開口し、この通気孔を靴底の靴内部に形成した条溝に接続すると共に、通気孔の入り口に狭窄部を形成することを特徴とする。
上記構成の靴は、装着者の歩行または走行に伴って条溝が押しつぶされ、靴底の外周面に形成した通気孔より条溝を介して外気が取り入れられる一方、通気孔の入り口に形成した狭窄部により水等の進入が妨げられる。
請求項2記載の発明は、請求項1の構成において、前記条溝が、前記通気孔より靴底の周縁に沿って長手方向に延びると共に、つま先部または踵部で湾曲した形状であることを特徴とする。
上記構成の靴は、歩行に伴う体重移動によって通気孔と連通する長手方向の条溝が踵部からつま先部にかけて次第に圧迫されて空気が押し動かされ、通気孔や条溝を介して吸排気される。
請求項3記載の発明は、請求項1の構成において、前記条溝を、通気孔側に向かって深く、幅を広く形成したことを特徴とする。
上記構成の靴は、通気孔側が広くなっており、十分な量の空気を通気孔側から供給し、確実に外気が取り入れられる。
請求項4記載の発明は、請求項1の構成において、前記狭窄部を、側面開口側に形成した段差と、この段差の上側及び下側よりそれぞれ開口側下方及び上方に向かって突き出た突片とから形成したことを特徴とする。
上記構成の靴は、通気孔の側面開口部に靴底上面側に向かって狭くなる段差が形成されると共に段差部の下側には突起片が開口側上方に向かって突き出ており、空気の流出入を妨げることなく、水や埃の浸入が抑制される。
請求項5記載の発明は、請求項1の構成において、前記通気孔を、少なくとも靴底中央部の内側面の土踏まず領域に形成したことを特徴とする。
上記構成の靴は、十分なスペースを備えた土踏まず領域に通気孔が形成される。
請求項6記載の発明は、請求項1の構成において、前記通気孔は、靴底中央部の親指側外周面に前後に2個を形成すると共に小指側外周面に1個を形成し、前記条溝は、親指側前部の通気孔よりつま先側に、後部の通気孔より踵側に、小指側の通気孔よりつま先側に向かってそれぞれ形成したことを特徴とする。
上記構成の靴は、十分なスペースを備えた土踏まず領域に2個の通気孔が形成され、さらに小指側外周面にも1個の通気孔が形成されて、それぞれにつま先側又は踵側に向かう条溝が連通されており、歩行に伴う体重移動によって条溝が踵側からつま先側にかけて次第に圧迫されて十分な量の空気が押し出されると共に通気孔などから吸排気される。
【発明の効果】
【0007】
請求項1記載のごとく構成した靴は、装着者の歩行または歩行に伴って条溝が変形することにより、靴底の外周面に形成した通気孔より条溝を介して外気を取り入れて靴内部の換気をすることが可能であると共に靴底のクッション性を損なうことがなく、さらに、通気孔の入り口に形成した突片により、空気の流通を妨げることなく水等の進入を抑制できる。
【0008】
請求項2記載のごとく構成した靴は、歩行に伴う体重移動によって通気孔と連通する長手方向の条溝が踵側からつま先側にかけて次第に圧迫され、通気孔より踵側に延びる条溝は、空気が踵側から押し出されて通気孔より排出されると共に踵側から再び供給され、また、通気孔よりつま先側に延びる条溝は、押し出された空気がつま先側から排出されると共に通気孔から再び供給される。その結果、靴内部の空気が踵側から外部へ、外部からつま先側へと循環して十分な通気性が得られ、靴内部に新鮮な空気を供給して蒸れを抑制することが可能となる。
【0009】
請求項3記載のごとく構成した靴は、つま先側および踵側が通気孔側よりも狭くなっており、深く幅が広い通気孔側より十分な量の空気が供給される。その結果、確実に外気を取り入れて靴内部の空気を入れ換えることができる。
【0010】
請求項4記載のごとく構成した靴は、通気孔に形成した段差と突起片とにより空気の流出入を妨げることなく水の浸入を抑制する。その結果、空気の流出入を妨げることなく靴内部の通気性を確保しつつ、靴内部への異物の浸入が有効に抑止できる。
【0011】
請求項5記載のごとく構成した靴は、十分なスペースを備えた土踏まず領域に通気孔が形成される。その結果、靴底のクッション性への影響を抑えることができ、従来のクッション性を保持しつつ十分な通気性を得ることができる。
【0012】
請求項6記載のごとく構成した靴は、適度な数の通気孔と条溝が適切に形成される。その結果、靴底のクッション性への影響を低く抑えて従来のクッション性を保持しつつ、靴内部の空気を循環させて十分な通気性と通気量を確保して、靴内部の蒸れを確実に抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明に係る靴について、図1乃至図3を参照して説明する。図1は本発明に係る靴の親指側を示す側面図であり、図2は靴の靴底の平面図である。
【0014】
靴は、図1に示すように、靴底1とアッパー2と、通気性を備えた中底(図示しない)や中敷き(後述する)とにより構成される。靴底1はゴムなどのクッション性の材質により形成し、外周面には通気孔3の一端を開口する。通気孔3の他端は、図2に示すように、靴底1の上面に開口する。
【0015】
図3に通気孔3の断面を示す。図3は、図2のA−A線断面である。通気孔3は、外周面に形成した入り口側の開口と靴底上面に形成した出口側の開口とがL字状に連通された形状で、外周面側の開口付近には下辺側を深くした段差部30を形成する。この段差部30には、上側と下側に、開口側に向けて斜めに突き出した突起片31、32を設ける。
【0016】
図例では、上側の突起片31を、下側の突起片32よりも長く開口側に突出しているが、下側の突起片32を上側の突起片31よりも長く開口側に突出して形成してもよい。また図例では、外周面側の開口付近にのみ段差部30と突起片31、32を形成しているが、靴底上面側の開口にも突起片を形成してもよい。
【0017】
この通気孔3は、二個の抜き型を使用し、L字の折れ曲がり付近の型抜き線33を境にして、一方の抜き型は外周面側の開口より図面右方向に型抜きし、他方は靴底上面側の開口より図面上方向に型抜きすることで形成される。靴底1はゴムなどのクッション性の材質により形成されており、段差部30および突起片31、32を形成しつつ型抜きすることができ、通気孔3を備えた靴底1を一体成型できる。
【0018】
さらに、靴底1の上面には条溝4を形成する。この条溝4は、通気孔3と靴底上面側の開口を通じて接続される。それぞれの通気孔3には、一条の条溝4を接続している。この条溝4は、靴の周縁部を通気孔3から長手方向に長く延伸すると共に、靴のつま先部および踵部において左右方向に湾曲させている。
【0019】
図例では、靴底1の親指側外周面の土踏まず領域に2個の通気孔3、3を形成すると共に小指側外周面の前後方向略中央部に一個の通気孔3を形成し、それぞれの通気孔3に丸溝状の一条の条溝4を接続している。また条溝4は、土踏まず領域のつま先側の通気孔3および小指側外周面の通気孔3よりそれぞれつま先部まで長く延伸すると共に、土踏まず領域の踵側の通気孔3より踵部まで長く延伸している。
【0020】
また図例の条溝4は、ほぼ同深同幅の一条の丸溝により形成されているが、楔溝などの他の形状で形成してもよい。また、条溝4の幅と深さについて、通気孔側からつま先側または踵側に向かって浅く、徐々に幅を狭くなるように形成してもよい。
【0021】
図4は、靴底1に中敷き10を装着した状態を示す平面図である。靴底1の上面に形成した条溝4を破線で示している。中敷き10は、つま先部と踵部とに多数の貫通孔11、11を備えている。この貫通孔11は、多数形成した内のいずれかがつま先部または踵部において左右方向に湾曲したそれぞれの条溝4と連通するように適当な密度で配置する。
【0022】
上記のごとく構成した靴の作用について、図5を参照して説明する。
図5(a)は、体重がかかっていない状態の靴の断面図であり、図5(b)は体重が掛けられた状態の靴の断面図である。この図5では、靴の小指側に形成された条溝を示している。
【0023】
図5(a)の状態のときは体重がかけられておらず、靴底1の上面に形成された条溝4により、靴底1と中敷き10との間には隙間が形成されている。装着者が歩行または走行することにより、図5(b)に示したように、靴底1は圧迫されて条溝4が圧縮され、各条溝4と接続された通気孔3や、つま先部または踵部で湾曲した条溝4と連通する貫通孔11より空気が排出される。再び靴底1に体重がかからなくなると、条溝4が復元すると共に上記通気孔3や貫通孔11より空気が取り入れられ、この繰り返しにより、靴内部の空気が入れ換えられる。
【0024】
上記のごとく構成した靴は以下のような効果を奏する。
【0025】
靴には靴底1の外周面に入り口となる開口を備えており、この入り口側の開口に突片を形成したことにより、装着者の歩行または歩行に伴って靴底の外周面に形成した通気孔より条溝を介して外気を取り入れて靴内部の換気をすることが可能であると共に、空気の流通を妨げることなく水等の進入を抑制できる。
【0026】
また条溝は、前記通気孔よりつま先側、踵側またはこれら両側に向かって長手方向に延びると共に、つま先側または踵側で横方向に湾曲した形状に形成されており、歩行に伴う体重移動によって踵側からつま先側にかけて次第に圧迫され、通気孔より踵側に延びる条溝は、空気が踵側から押し出されて通気孔より排出されると共に踵側から再び供給され、また、通気孔よりつま先側に延びる条溝は、押し出された空気がつま先側から排出されると共に通気孔から再び供給される。その結果、靴内部の空気が踵側から外部へ、外部からつま先側へと循環して十分な通気性が得られ、靴内部に新鮮な空気を供給して蒸れを抑制することが可能となる。
【0027】
また条溝のつま先側および踵側を通気孔側よりも浅く、幅を狭く形成したことにより、深く幅が広い通気孔側より十分な量の空気が供給され、確実に外気を取り入れて靴内部の空気を入れ換えることができる。
【0028】
また外周面に形成した入り口側の開口に段差を形成すると共に段差部の下側より開口側上方に向かって突起片を形成したことにより、空気の流出入を妨げることなく水の浸入を抑制し、靴内部の通気性を確保しつつ、靴内部への異物の浸入が有効に抑止できる。
【0029】
また通気孔を、十分なスペースを備えた土踏まず領域に形成することにより、靴底のクッション性への影響を抑えることができ、従来のクッション性を保持しつつ十分な通気性を得ることができる。
【0030】
また通気孔は、靴底中央部の親指側外周面に前後に2個を形成すると共に小指側外周面に1個を形成し、前記条溝は、親指側前部の通気孔よりつま先側に、後部の通気孔より踵側に、小指側の通気孔よりつま先側に向かってそれぞれ形成することにより、適度な数の通気孔と条溝が適切に形成され、靴底のクッション性への影響を低く抑えて従来のクッション性を保持しつつ、靴内部の空気を循環させて十分な通気性と通気量を確保して、靴内部の蒸れを確実に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明に係る靴の親指側を示す側面図である。
【図2】靴の靴底の平面図である。
【図3】図2のA−A線断面図である。
【図4】靴底に中敷きを装着した状態を示す平面図である。
【図5】本発明に係る突き靴の作用を示す図である。
【符号の説明】
【0032】
1 靴底
10 中敷き
11 貫通孔
2 アッパー
3 通気孔
30 段差部
31、32 突起片
33 型抜き線
4 条溝


【特許請求の範囲】
【請求項1】
クッション性の材質よりなる靴底の外周面に少なくとも一つの通気孔を開口し、この通気孔を靴底の靴内部に形成した条溝に接続すると共に、通気孔の入り口に狭窄部を形成することを特徴とする靴。
【請求項2】
前記条溝が、前記通気孔より靴底の周縁に沿って長手方向に延びると共に、つま先部及び踵部で湾曲した形状であることを特徴とする請求項1記載の靴。
【請求項3】
前記条溝を、通気孔側に向かって深く、幅を広く形成したことを特徴とする請求項1記載の靴。
【請求項4】
前記狭窄部を、側面開口側に形成した段差と、この段差の上側及び下側よりそれぞれ開口側下方及び上方に向かって突き出た突片とから形成したことを特徴とする請求項1記載の靴。
【請求項5】
前記通気孔を、少なくとも靴底中央部の内側面の土踏まず領域に形成したことを特徴とする請求項1記載の靴。
【請求項6】
前記通気孔は、靴底中央部の親指側外周面に前後に2個を形成すると共に小指側外周面に1個を形成し、前記条溝は、親指側前部の通気孔よりつま先側に、後部の通気孔より踵側に、小指側の通気孔よりつま先側に向かってそれぞれ形成したことを特徴とする請求項1記載の靴。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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