説明

音響電気変換器

【課題】簡易な構成で、利用者の嗜好や用途に応じて指向特性を変更することのできる音響電気変換器を提供する。
【解決手段】静電型スピーカ1は、固定電極10,50と、固定電極10,50に離間配置され、導電性を有するシート状の振動体と、振動体30と固定電極10,50との間に設けられた通気性を有する弾性部材20,40と、通電により予め定められた複数の形状パターンのうちのいずれかに変形し、変形後の形状を保つ形状記憶部材60A〜60Hとを備えている。形状記憶部材60A〜60Hが変形すると、静電型スピーカ1は、形状記憶部材60A〜60Hの変形に伴って、凹曲面形状、平面形状、凸曲面形状、つづら折り形状のいずれかの形状に変形する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、音響電気変換器に関する。
【背景技術】
【0002】
静電型スピーカ(コンデンサスピーカ)といわれるスピーカが知られており、軽量、コンパクトに設計することができるという点において注目されている。ここで、静電型スピーカの構成の一例について説明する。静電型スピーカは、空隙を隔てて向かい合う2枚の固定電極と、固定電極の間に固定電極と接触しないように支持された通電性を有するシート状の部材(以下、振動体という)とから構成される。この固定電極と振動体との間に所定の電圧を印加すると、生じた電位差によって振動体を一方の電極側に引き寄せる力が働く。一方、印加する電圧の方向を反転させると、振動体には逆方向の力が働き、振動体は逆方向に移動する。このように、電極に適宜電圧を印加することによって、振動体の振動状態(振動数や振幅など)を変化させることができるから、印加電圧値を入力信号に応じて変化させれば、振動体はそれに応じて振動し、振動体から入力信号に対応した音波が発生する。固定電極を音波透過性の良い部材(例えば、多数の孔が設けられた金属板)で構成することにより、発生した音波は固定電極を通り抜けてスピーカ外部に音として出力される。
【0003】
ところで、静電型スピーカを含むいわゆる平面型のスピーカにおいては、その構造上、振動面積が大きく平面波に近い音波を発生させるため、振動体にて生成される音波の指向特性を広くなるように制御することが困難であることが知られている。また、スピーカにおいて、指向特性を制御するための技術が種々提案されている。例えば、特許文献1には、球殻状のリフレクターホーンとスピーカを組み合わせることによって、リフレクターホーンにより反射された音波を焦点に集音させる技術が提案されている。また、特許文献2には、湾曲形の音響振動放射板を用いることによって音響振動を一点に収束させる技術が提案されている。また、特許文献3には、複数のスピーカを球面状または平面上に配列するとともに、各スピーカから音声を出力する遅延量や音量を調整することで、各スピーカから出力した音が焦点を結ぶように放音させることができるスピーカ再生装置が提案されている。また、特許文献4には、アコーディオンカーテン状の振動膜を用いることによって、高音域の指向性を改善する静電型スピーカが提案されている。また、特許文献5には、振動膜をアコーディオンプリーツ状に折曲げた膜とし、固定電極を振動膜の前面及び後面からそのひだに入り込むように配置した複数の平面電極とした静電型スピーカが提案されている。また、特許文献6には、加撓性を有し、凹曲面状、平面状、凸曲面状のいずれの形状にも変形可能なコンデンサスピーカが提案されている。また、特許文献7には、未使用時には自在に形状を変更可能としつつ、使用時には形状記憶部材に通電することで所定の形状に変形する静電型スピーカが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平04−339494号公報
【特許文献2】特開平11−239394号公報
【特許文献3】特開平03−159500号公報
【特許文献4】特開昭52−069610号公報
【特許文献5】特開昭56−100600号公報
【特許文献6】特開2007−158658号公報
【特許文献7】特開2009−194442号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、スピーカにおいて利用者の嗜好や用途に応じて指向特性を適宜変更することができれば好適である。特許文献1に記載の技術では、球殻状のリフレクターホーンが固定されているため、指向特性を変更することはできなかった。また、特許文献2に記載の技術でも、音響振動放射板の形状は固定されているため、指向特性を変更することはできなかった。また、特許文献3に記載の技術では、指向性を変更するためには、スピーカ群を構成するスピーカ毎に遅延回路やゲイン調整回路を設けて、各回路の動作を制御する必要があり、制御が煩雑になる場合があった。また、スピーカアレイは、広帯域の音場を形成するには、多くのスピーカユニットが必要であり、コストがかかる場合があった。また、特許文献4や5に記載の技術でも、振動膜の形状がアコーディオンカーテン状(アコーディオンプリーツ状)で固定されており、指向特性を変更することはできなかった。また、特許文献6に記載の技術では、スピーカを変形するためにモータ等の駆動機構を設ける必要があり、装置構成が複雑になってしまう場合があった。また、特許文献7に記載の技術でも、指向特性を変更することはできなかった。また、これらのスピーカの構成をマイクロフォンの構成として用いることも可能であるが、この場合も、利用者の嗜好や用途に応じて集音の指向特性を変更することはできなかった。
本発明は上述した背景に鑑みてなされたものであり、簡易な構成で、利用者の指向や用途に応じて指向特性を変更することのできる音響電気変換器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決するため、本発明は、電極と、前記電極に対向して離間配置され、導電性を有するシート状の振動体と、前記振動体と前記電極との間に設けられた通気性を有する弾性部材と、前記電極及び前記弾性部材の少なくともいずれか一方に固定され、通電及び加熱を継続的に行うこと並びに力を加えることの少なくともいずれかひとつにより、複数の形状パターンのいずれかに変形し、変形後の形状を保つ形状記憶部材であって、通電及び加熱の態様並びに力の加わりかたの少なくともいずれかひとつに応じて変形する形状が異なる形状記憶部材とを有し、前記形状記憶部材の変形に伴って前記電極、前記振動体及び前記弾性部材が変形することを特徴とする音響電気変換器を提供する。
【0007】
本発明の好適な態様において、前記形状記憶部材の変形に伴って、前記電極、前記振動体及び前記弾性部材が、一の方向においてその中央がへこんだ凹曲面状、当該一の方向においてその中央が膨らんだ凸曲面状、平面状及びつづら折り形状の少なくともいずれかの形状に変形してもよい。
【0008】
本発明の更に好適な態様において、前記形状記憶部材は、複数の形状記憶合金で構成され、当該複数の形状記憶合金のいずれに通電するかにより形状が変わってもよい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、音響電気変換器において、簡易な構成で、利用者の嗜好や用途に応じて指向特性を変更することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の一実施形態に係る静電型スピーカ1の模式図である。
【図2】静電型スピーカ1の断面図である。
【図3】静電型スピーカ1の形状を概略的に示す図である。
【図4】形状記憶部材60A〜60Hと電源80との接続関係を示す結線図である。
【図5】静電型マイクロフォン2の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して本発明の一実施形態について説明する。本実施形態においては、音響電気変換器を、音響信号(電気信号)を音波(音響)に変換する静電型スピーカとして適用した例を説明する。なお、以下の説明において音と音波とは同義で用いる。図1は、本発明の一実施形態に係る静電型スピーカ1の外観を模式的に示した図、図2は静電型スピーカ1の断面及び電気的構成を模式的に示した図である。本実施形態における静電型スピーカ1は、平面が長方形状で厚さが薄い柔軟な構造となっている。これらの図中のX,Y,Z軸はそれぞれ静電型スピーカ1の長手方向、幅方方向、厚さ方向を示している。また、図2における「○」の中に「・」が記載された記号は図面の裏から表に向かうことを示している。
図1,2に示す静電型スピーカ1は、所定距離隔ててほぼ並行に設けられた方形平板状の固定電極10及び固定電極50を有する、いわゆるプッシュ・プル型の静電型スピーカである。静電型スピーカ1は、固定電極10と固定電極50の間に空間を介して挟まれた振動体30を有する。固定電極10と振動体30との間および固定電極50と振動体30の間には各々、弾性と通気性を有する方形平板状の弾性部材20,40が設けられており、これにより、振動体30は固定電極10側および固定電極50側に移動可能となっている。固定電極10と固定電極50とは、ゴム等の絶縁材料により形成された固定部材(図示略)によってその両端が固定されている。この固定部材は、接着剤などを用いて固定電極10および固定電極50に対して固定される。なお、図中の振動体30、固定電極10,50等の各構成要素の寸法は、構成要素の形状を容易に理解できるように実際の寸法とは異ならせてある。
【0012】
(静電型スピーカ1の構成)
まず、静電型スピーカ1を構成する各部について説明する。固定電極10及び固定電極50はスパッタ処理により金属などの導電性材料を蒸着した不織布により構成されている。このように不織布で構成することにより、不織布の繊維の隙間から音波が通過することができる。なお、固定電極10及び固定電極50は、導電染料を塗布した不織布により形成されていてもよい。また、固定電極10及び固定電極50は、導電性を有する経糸と、同じく導電性を有する緯糸を織って形成された導電布により形成されていてもよい。要するに、固定電極10及び固定電極50は、導電性、音波透過性(通気性)および柔軟性を兼ね備えた材料であればよい。固定電極10及び固定電極50は折れ曲がりが可能な柔軟な部材で構成されているため、任意の形状例えばつづら折り形状に変形が可能である。
【0013】
振動体30は、薄い箔状の方形の電極である。振動体30は、例えば、PET(polyethylene terephthalate、ポリエチレンテレフタレート)、PP(polypropylene、ポリプロピレン)、ポリエステルなどの高分子材料を用いたフィルム(薄膜あるいはシート)に、金属などの導電性材料を蒸着して形成される。なお、振動体30は、フィルムに導電染料を塗布した材料により形成されてもよい。このように、本実施形態においては振動体30も折れ曲がりが可能な柔軟な部材で構成されているため、任意の形状例えばつづら折り形状に変形が可能である。
【0014】
弾性部材20,40は、柔軟で通気性のある部材で構成され、例えば、中綿に熱を加えて圧縮したものであってもよく、また、合成樹脂をスポンジ状や不織布状にしたものなどであってもよい。これ以外でも、柔軟で絶縁性と音響透過性とを有する部材であればよい。この実施形態では、弾性部材として通気性を有するものを用いるが、弾性部材は通気性を有さないものであってもよく、絶縁性と音響透過性とを有するものであればよい。弾性部材20,40は折れ曲がりが可能な柔軟な部材で構成されているため、任意の形状例えばつづら折り形状に変形が可能である。本実施形態においては、弾性部材20,40のX方向およびY方向の長さは、固定電極10のX方向およびY方向の長さより長くなっており、また、振動体30のX方向およびY方向の長さより長くなっている。また、弾性部材20と弾性部材40の厚み(Z方向の高さ)は、いずれも同じとなっている。
【0015】
形状記憶部材60A〜60Hは、線状の形状記憶合金の表面を絶縁性と耐熱性を有する合成樹脂で被覆した部材である。形状記憶部材60A〜60Hは、接着剤や粘着テープなどによって固定電極10に接着して配置される。この場合、形状記憶部材60A,60C,60E,60Gは各々隣接して配置され、固定電極10の幅方向の一方の端部に沿って設けられている。また、形状記憶部材60B,60D,60F,60Hは各々隣接して配置され、固定電極10の幅方向の他方の端部に沿って設けられている。形状記憶部材60A〜60Hの取り付け方は、例えば、固定電極10が不織布や導電布である場合に、固定電極に縫い付けることによって取り付けてもよい。要は、形状記憶部材60A〜60Hが、固定電極10に固定され、形状記憶部材60A〜60Hの形状の変化が固定電極10と連動するように構成されていればよい。形状記憶部材60A〜60Hの形状記憶合金は、例えば特開2002−20848号公報に開示されている形状記憶合金である。
【0016】
形状記憶部材60A〜60Hは、電流が流れるとジュール熱により温度が上昇し、硬く収縮して記憶している形状に変形する。一方、形状記憶部材60A〜60Hは、通電をやめると温度が下がり、柔らかくなって容易に変形可能となる。
この実施形態における形状記憶部材60A,60Bは、図3(a)に示すように固定電極10側が円の内側になるような円弧状の形状を記憶している。形状記憶部材60C,60Dは直線形状を記憶しており、形状記憶部材60E,60Fは図3(b)に示すように固定電極10側が円の外側になるような円弧状の曲線形状を記憶している。形状記憶部材60G,60Hは図3(c)に示すように山と谷が交互に繰り返す、いわゆるつづら折りの形状を記憶している。
【0017】
図4は、形状記憶部材60A〜60Hと電源80との接続関係を示す結線図である。図4に示すように、形状記憶部材60A,60C,60E,60Gの各一端は、各々スイッチ81A,81B,81C,81Dを介して電源80の正側端子に接続されている。形状記憶部材60A,60C,60E,60Gの各他端は、各々形状記憶部材60B,60D,60F,60Hの各一端に接続され、形状記憶部材60B,60D,60F,60Hの各他端は電源80の負側端子に接続されている。図4に示す破線は、平坦で水平な面に静電型スピーカ1を置いたときの固定電極10の外縁を示しており、上述した結線に用いられる導線Lのうち、外縁の内側に配置されるものは、絶縁性と耐熱性を有する合成樹脂で表面が被覆され、かつ、静電型スピーカ1の柔軟性を阻害することがない程度に柔軟な素材で形成されている。これらの導線も形状記憶部材60A〜60Hと同様に接着剤や粘着テープなどによって固定電極10に固定されている。なお、固定電極10が不織布や導電布である場合に、導線を固定電極10に縫い付けることによって取り付けてもよい。
また、各導線Lのスイッチ81A,81B,81C,81Dに接続される端部は、固定電極10上においてハーネス状にまとめられて配置され、コネクタCNの端子に接続され、このコネクタCNを介してスイッチ81A,81B,81C,81Dおよび電源80に接続されている。
【0018】
図2に示したように、静電型スピーカ1は変圧器70、外部から音響信号が入力される入力部71、振動体30に対して直流バイアスを与えるバイアス電源72とを備えている。バイアス電源72は、振動体30と、変圧器70の出力側の中点と接続されており、2つの固定電極10,50はそれぞれ変圧器70の出力側の一端および他端に接続されている。操作部83は、ボタン等の操作子を備え、利用者によって操作された内容に応じた信号を出力する操作手段である。スイッチ制御部82は、操作部83から出力される信号に応じて、スイッチ81A,81B,81C,81Dのオン/オフの制御を行う。スイッチ制御部82は、利用者からの形状を指定する操作を受け付ける操作受付手段であるとともに、受け付けた操作に応じた形状になるように、指定された形状に対応する態様で形状記憶部材60A〜60Hに対して通電を行うことによって形状記憶部材60A〜60Hを変形する変形手段である。なお、図2においては、図面が煩雑になるのを防ぐため、形状記憶部材60A,60Bのみを図示し、形状記憶部材60C〜60Hの図示を省略している。
【0019】
(静電型スピーカ1の動作)
静電型スピーカ1においては、スイッチ81Aがオフの状態では電源80と形状記憶部材60Aとの間の導通がなく電流が電源80から形状記憶部材60A,60Bに流れない。同様に、スイッチ81Bがオフの状態では電源80と形状記憶部材60Cとの間の導通がなく電流が電源80から形状記憶部材60C,60Dに流れない。同様に、スイッチ8
1Cがオフの状態では電源80と形状記憶部材60Eとの間の導通がなく電流が電源80から形状記憶部材60E,60Fに流れず、スイッチ81Dがオフの状態では電源80と形状記憶部材60Gとの間の導通がなく電流が電源80から形状記憶部材60G,60Hに流れない。形状記憶部材60A〜60Hは、電流が流れていない時には柔らかくなって自在に変形可能である。
【0020】
一方、スイッチ81Aがオンとなると、電流が電源80から形状記憶部材60A,60Bに流れ、形状記憶部材60A,60Bにおいて電流が流れるとジュール熱により形状記憶部材60A,60Bの温度が上昇し、形状記憶部材60A,60Bは固定電極10側が円の内側になるような円弧状の曲線形状に変形する。形状記憶部材60A,60Bは固定電極10に固定されているから、形状記憶部材60A,60Bの変形に伴って、固定電極10,50,弾性部材20,40及び振動体30(すなわち静電型スピーカ1全体)の幅方向両端が湾曲し、これにより静電型スピーカ1全体が湾曲する。図3の(a)は、スイッチ81Aがオンとなった場合の静電型スピーカ1の形状を概略的に示す図である。形状記憶部材60A,60Bは固定電極10の長手方向の二辺に沿って位置しているため、形状記憶部材60A,60Bが曲線状に変形すると、静電型スピーカ1は人の手で形状を整えなくとも長手方向においてカーブした曲面形状になる。すなわち、スイッチ81Aがオンとなると、形状記憶部材60A,60Bの変形に伴って、固定電極10,50、振動体30、弾性部材20,40が、Z方向を正面とした場合に正面からみてその中央がへこんだ凹曲面形状に変形する。
【0021】
また、スイッチ81Bがオンとなると、電流が電源80から形状記憶部材60C,60Dに流れ、形状記憶部材60C,60Dにおいて電流が流れるとジュール熱により形状記憶部材60C,60Dの温度が上昇し、形状記憶部材60C,60Dの形状が変形する。形状記憶部材60C,60Dは固定電極10の幅方向両端に沿って位置しているため、形状記憶部材60C,60Dが直線状に変形すると、人の手で形状を整えなくとも静電型スピーカ1が図1に例示したような平面形状となる。すなわち、形状記憶部材60C,60Dの変形に伴って、固定電極10,50、振動体30、弾性部材20,40が平面形状に変形する。
【0022】
また、スイッチ81Cがオンとなると、電流が電源80から形状記憶部材60E,60Fに流れ、形状記憶部材60E,60Fの形状が、固定電極10側が円の外側になるような円弧状の曲線形状に変形する。図3の(b)は、スイッチ81Cがオンとなった場合の静電型スピーカ1の形状を概略的に示す図である。形状記憶部材60E,60Fは固定電極10の幅方向両端に沿って位置しているため、形状記憶部材60E,60Fが凸曲線形状に変形すると、静電型スピーカ1の幅方向両端が湾曲し、これにより静電型スピーカ1は長手方向においてカーブした凸曲面形状となる。すなわち、形状記憶部材60E,60Fの変形に伴って、固定電極10,50、振動体30、弾性部材20,40が、Z方向を正面とした場合に正面からみてその中央が膨らんだ凸曲面形状に変形する。
【0023】
また、スイッチ81Dがオンとなると、電流が電源80から形状記憶部材60G,60Hに流れ、形状記憶部材60G,60Hの形状がつづら折り形状に変形する。図3の(c)は、スイッチ81Dがオンとなった場合の静電型スピーカ1の形状を概略的に示す図である。形状記憶部材60G,60Hは固定電極10の幅方向両端に沿って位置しているため、形状記憶部材60G,60Hがつづら折り形状に変形すると、静電型スピーカ1は長手方向においてつづら折りされた形状となる。すなわち、形状記憶部材60G,60Hの変形に伴って、固定電極10,50、振動体30、弾性部材20,40がつづら折り形状に変形する。このように、本実施形態では、形状記憶部材60A〜60Hの変形に伴って、固定電極10,50、振動体30、弾性部材20,40が、凹曲面形状、平面形状、凸曲面形状及びつづら折り形状のうちのいずれかの形状に変形する。
【0024】
静電型スピーカ1が変形した状態で入力部71に音響信号が入力されると、バイアス電圧が印加された固定電極10,50には入力される音響信号に応じた電圧が印加される。これにより、振動体30は入力信号に対応して振動する。この結果、入力信号に対応する音波が発生し、発生した音は、固定電極10,50を通り抜けて静電型スピーカ1の外部に放射される。
【0025】
静電型スピーカ1が図中のZ方向に対して凹曲面形状の場合は、静電型スピーカ1からZ方向に出力される音波は、焦点がしぼられ、狭い範囲にだけ音波が伝搬して、周囲への音の漏れが生じにくい音場が形成される(音波が焦点に集中する)。一方、静電型スピーカ1が平面形状の場合には、静電型スピーカ1から出力される音波は、直進性が強くなるので、減衰が少なく遠方まで音が伝搬する音場が形成される(平面波が生成される)。静電型スピーカ1がZ方向に対して凸曲面形状の場合は、静電型スピーカ1からZ方向に出力される音波は拡散されるから、広い範囲に音が伝搬される(凸曲面に対応する曲面波が生成される)。静電型スピーカ1がつづら折り形状の場合は、つづら折りの凹形状の部分のそれぞれで空気が圧縮されて押し出され、静電型スピーカ1から出力される音波によって、凸曲面形状よりも更に無指向性に近い音場が形成される(点音源に近い曲面波が生成される)。
【0026】
この実施形態では、静電型スピーカ1の形状を平面形状からつづら折り形状に変形させることで、指向性の狭い平面スピーカから指向性の広いスピーカに変更することが可能となる。凸曲面形状の場合でも指向性は広くなるが、凸曲面形状の場合は、ひとつの凸曲面のみで構成されるためスピーカの幅がそれほど狭くならないのに対し、静電型スピーカ1の形状をつづら折り形状とした場合は、振動体が複数のひだ(すなわち複数の凸曲面と凹曲面)で構成されるので、スピーカ幅を大幅に小さくすることができる。また、凸曲面形状の場合は静電型スピーカ1の前後の奥行きがある程度必要となるのに対し、つづら折り形状の場合は、凸曲面形状よりも奥行きを狭くすることができる。また、つづら折り形状は、全体を見れば平面的な形状であるため、曲面形状の場合よりも安定性があると言える。
【0027】
静電型スピーカ1の利用者は、自身の嗜好や用途に応じて静電型スピーカ1の形状を選択して用いることができる。具体的には、例えば、静電型スピーカ1をつづら折り形状で用いたい場合には、利用者は、操作部83を用いてスイッチ81Dをオンにするための操作を行う。スイッチ制御部82は操作部83から出力される信号に応じてスイッチ81Dをオンにし、スイッチ81Dがオンにされると、上述したように静電型スピーカ1はつづら折り形状に変形する。
【0028】
平面形状のスピーカは狭い指向性が特徴であるが、場合によっては広い領域に音を放音したい場合もある。このような場合であっても本実施形態によれば、ひとつの静電型スピーカ1で、平面形状の(狭い指向性の)スピーカとつづら折り形状の(広い指向性の)スピーカとの両方を実現することができる。このように本実施形態によれば、利用者は、煩雑な操作を行うことなく、静電型スピーカ1を用いて自身の嗜好や用途に応じた指向特性を実現することができる。また、この実施形態では、静電型スピーカ1を変形させるためのモータ等の駆動機構を別途設ける必要がなく、装置構成を簡易なものとすることができる。
【0029】
[変形例]
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述した実施形態に限定されることなく、他の様々な形態で実施可能である。例えば、上述の実施形態を以下のように変形して本発明を実施してもよい。
(1)上述した実施形態においては、バイアス電源72と電源80とで2つの電源を要しているが、バイアス電源72から分圧して形状記憶部材60A〜60Hに電流を流し、電源を一つにするようにしてもよい。この構成において静電型スピーカ1を使用する時のみスイッチでバイアス電源72から電流が流れるようにすれば、静電型スピーカ1の電源を入れるだけで静電型スピーカ1を所定の形状に変形することができる。また、バイアス電源72が入れられておらず静電型スピーカ1が発音不可となっている状態では形状記憶部材60A〜60Hに電流が流れないため、発音させないとき無駄に静電型スピーカ1を変形させることがなく消費電力を抑えることができる。
【0030】
(2)また、本発明においては、固定電極10,50、弾性部材20,40および振動体30の形状は矩形に限定されるものではなく、多角形、円形、楕円形など、他の形状であってもよい。また、本発明においては、非導電性で音響透過性を有する部材で静電型スピーカ1の全体を覆ってもよい。
【0031】
また、固定電極10,50として導電布を用いる場合において、上述した形状記憶合金を糸状にして固定電極10,50に織り込み、この糸状にした形状記憶合金に電流を流して変形させるようにしてもよい。
【0032】
(3)上述した実施形態においては、固定電極10の長手方向(図1のX方向)の二辺に沿って形状記憶部材60A〜60Hが位置しているが、固定電極10の各辺(矩形の場合は四辺)に沿って形状記憶部材が配置されるようにしてもよい。また、固定電極10のY方向の二辺にそって形状記憶部材が配置されるようにしてもよい。また、上述した実施形態においては、固定電極10の各辺に沿って形状記憶部材60A〜60Hが位置しているが、固定電極10の対角線に沿って形状記憶部材が位置するようにしてもよい。
【0033】
また、形状記憶部材60A〜60Hと平行に複数の形状記憶部材が固定電極10と弾性部材20,40の間に位置するようにしてもよい。また、形状記憶部材60A〜60Hは、固定電極10の縁部分だけでなく固定電極50の縁部分にも配置して、静電型スピーカ1の両面を用いて静電型スピーカ1を変形するようにしてもよい。また、形状記憶部材60A〜60Hは、固定電極10,50ではなく弾性部材20と弾性部材40の両方または弾性部材20,40のいずれかに配置するようにしてもよい。
【0034】
(4)上述の実施形態では、静電型スピーカ1の形状として、凹曲面形状、平面形状、凸曲面形状、つづら折り形状のいずれかに変形する場合について説明したが、静電型スピーカ1の形状は上述したものに限らず、他の形状であってもよい。要は、形状記憶部材の変形に伴って、固定電極10,50,振動体30,弾性部材20,40が複数の形状に変形するものであればよい。
【0035】
(5)上述の実施形態では、形状記憶部材として複数の形状記憶合金を用いたが、形状記憶部材は上述したものに限らず、例えば、力を加えることにより変形し、変形後の形状を保つ部材であってもよい。要は、形状記憶部材は、通電及び加熱を継続して行うこと並びに力を加えることの少なくともいずれかひとつにより、複数の形状パターンのいずれかに変形し、変形後の形状を保つ形状記憶部材であって、通電及び加熱の態様並びに力の加わりかたの少なくともいずれかひとつに応じて変形する形状が異なるものであればどのようなものであってもよい。通電の態様としては、複数の形状記憶合金のいずれに通電するかによって形状を異ならせるものであってもよい。また、加熱の態様としては、例えば、形状記憶部材として、温度の変化によって変形するバイメタルを複数用いる構成とし、いずれのバイメタルを加熱するかによって形状が変わるものであってもよい。また、例えば、加熱の温度を異ならせることによって形状が変わるものであってもよい。
【0036】
(6)また、上述の実施形態においては、静電型スピーカ1がプッシュ・プル型の静電型スピーカである態様について説明した。しかし、静電型スピーカ1は、固定電極を1枚しか有しない、いわゆるシングル型の静電型スピーカであってもよい。
【0037】
(7)上述した実施形態及び変形例では、音響電気変換器を、音響信号(電気信号)を音(音響)に変換する静電型スピーカに適用した例を説明したが、音響電気変換器を、音波(音響)を音響信号(電気信号)に変換する静電型マイクロフォンに適用してもよい。図5は、この変形例に係る静電型マイクロフォン2の電気的構成を示した図である。図5に示す静電型マイクロフォン2の構成が上述した図2の静電型スピーカ1と異なる点は、入力部71に代えて出力端子73を備えている点である。なお、変圧器70の変圧比は適宜調整される。
【0038】
外部で音が発生した場合には、その音によって振動体30が振動することにより、その振動に応じて振動体30と電極10,50との間の距離が変わるため、振動体30と電極10,50との間の静電容量に変化が発生する。この静電容量の変化によって電極10と電極50との間で電流が流れ、これにより、電圧出力、つまり、音響信号が得られる。そして、この音響信号は変圧器70に供給され、この変圧器70によって変圧された後に出力端子73へと出力される。
【0039】
静電型マイクロフォン2も、上述の実施形態における静電型スピーカ1と同様に、種々の形状に変形することが可能である。静電型マイクロフォン2の利用者は、自身の嗜好や用途に応じて静電型マイクロフォン2の形状を選択して用いることができる。具体的には、例えば、マイクロフォン2をつづら折り形状で用いたい場合には、利用者は、操作部83を用いてスイッチ81Dをオンにするための操作を行う。スイッチ制御部82は操作部83から出力される信号に応じてスイッチ81Dをオンにし、スイッチ81Dがオンにされると、上述した実施形態と同様にマイクロフォン2はつづら折り形状に変形する。
【符号の説明】
【0040】
1…静電型スピーカ(音響電気変換器)、2…静電型マイクロフォン(電気音響変換器)、10,50…固定電極、20,40…弾性部材、30…振動体、60A,60B,60C,60D,60E,60F,60G…形状記憶部材、70…変圧器、71…入力部、72…バイアス電源、80…電源、81A,81B,81C,81D…スイッチ、82…スイッチ制御部、83…操作部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極と、
前記電極に対向して離間配置され、導電性を有するシート状の振動体と、
前記振動体と前記電極との間に設けられた通気性を有する弾性部材と、
前記電極及び前記弾性部材の少なくともいずれか一方に固定され、通電及び加熱を継続的に行うこと並びに力を加えることの少なくともいずれかひとつにより、複数の形状パターンのいずれかに変形し、変形後の形状を保つ形状記憶部材であって、通電及び加熱の態様並びに力の加わりかたの少なくともいずれかひとつに応じて変形する形状が異なる形状記憶部材と
を有し、
前記形状記憶部材の変形に伴って前記電極、前記振動体及び前記弾性部材が変形する
ことを特徴とする音響電気変換器。
【請求項2】
前記形状記憶部材の変形に伴って、前記電極、前記振動体及び前記弾性部材が、一の方向においてその中央がへこんだ凹曲面状、当該一の方向においてその中央が膨らんだ凸曲面状、平面状及びつづら折り形状の少なくともいずれかの形状に変形する
ことを特徴とする請求項1に記載の音響電気変換器。
【請求項3】
前記形状記憶部材は、複数の形状記憶合金で構成され、当該複数の形状記憶合金のいずれに通電するかにより形状が変わる
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の音響電気変換器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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