説明

高圧放電ランプ点灯装置

【課題】 高圧放電ランプの始動時に流れる高周波電流の直流分を低減さ、かつその期間を短くさせる。
【解決手段】 第1のトランジスタ直列回路及び第2のトランジスタ直列回路を備え、直流電圧をスイッチングして出力をランプに電力を供給するブリッジ回路、並びに、第1のトランジスタ直列回路と第2のトランジスタ直列回路の中点に直列接続されるチョークコイル及び第1のコンデンサを備え、ランプを始動させる始動回路からなる高圧放電ランプ点灯装置において、第1のトランジスタ直列回路又は第2のトランジスタ直列回路を構成するトランジスタの一つに並列接続される第2のコンデンサを備える構成とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明、高圧放電ランプを高周波電流で始動させ、一定時間後に低周波の矩形波で点灯させる高圧放電ランプ点灯装置の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高圧放電ランプ点灯装置の電子化による小型、軽量化が進み、高圧放電ランプを低周波の矩形波電流にて安定に点灯させる高圧放電ランプ点灯装置が屋内の商業施設の照明、液晶プロジェクタ用の光源、自動車等の車輌の前照灯、産業機器用の光源装置などで普及してきている。
このような高圧放電ランプ点灯装置としては、図5に示す回路構成を備えたものが一般的に知られている。
図5に示す高圧放電ランプ点灯装置は、トランジスタ1、ダイオード2、チョークコイル3、コンデンサ4、抵抗6、7および抵抗8の電圧を受けて、前記トランジスタ1のデューティ比を制御するための第一の制御回路3からなる降圧チョッパ回路Iと前記降圧チョッパ回路Iの出力に接続されたトランジスタ9〜12およびこれらのトランジスタを制御する第2の制御回路13からなるブリッジ回路II、および前記ブリッジ回路を構成するトランジスタの中点に接続されたチョークコイル14、コンデンサ16の直列回路と、高圧放電ランプ17を始動させるためのパルストランス15よりなる始動回路IIIによって構成されている。
【0003】
ここで、図5に示す高圧放電ランプ点灯装置の動作は直流電源が供給されると降圧チョッパ回路Iの第一の制御回路3が動作し、トランジスタ1がPWM動作することにより降圧チョッパ回路Iの出力端であるコンデンサ4に直流電圧が発生する。
ここで、降圧チョッパ回路Iに供給される直流電圧を400Vとすると、高圧放電ランプ17が点灯していない状態では、トランジスタ1のデューティ比を一定幅に保った場合は、コンデンサ4に発生する直流電圧は入力した直流電圧とほぼ同じの約400Vとなり、また抵抗6、7の電圧を検出し第一の制御回路13によりトランジスタ1のデューティ比を制限した場合はコンデンサ4に発生する電圧は、設定された任意の電圧(たとえば200V)となる。
【0004】
また、ブリッジ回路IIは第二の制御回路13によりトランジスタ9、12および10、11が交互に導通/非導通を繰り返すことにより、ブリッジ回路IIを構成するトランジスタの中点に矩形波の交流電圧が出力される。
ここで図5に示す高圧放電ランプ点灯装置は、例えば装置起動直後の3秒間を30kHzで動作させ、その後200Hzで動作させるような高周波から低周波へ切り替える動作をおこなう。
【0005】
ブリッジ回路IIの矩形波出力を受ける始動回路IIIは、装置起動直後は前記のように高周波動作を行うと、高周波の矩形波電圧がチョークコイル14、コンデンサ16の直列回路に印加されチョークコイル14、コンデンサ16は共振し、コンデンサ16端には正弦波の共振電圧が発生し、これが高圧放電ランプ17に印加される。
この共振電圧はチョークコイル14のインダクタンス値、コンデンサ16の容量、ブリッジ回路IIの動作周波数によって決定され、例えば700Vピーク程度の電圧に調整される。
前記共振電圧を高圧放電ランプ17端に印加している間に、パルストランス15により数kVから十数kV程度のパルス電圧を共振電圧に重畳させ高圧放電ランプ17に印加させることにより高圧放電ランプ17は絶縁破壊をおこし、前記ブリッジ回路IIの動作周波数(例えば30kHz)で、チョークコイル14で制限される電流で高周波点灯し、高圧放電ランプ17の両電極が前記高周波電流により十分温度が上昇した後、例えば3秒後にブリッジ回路IIの動作周波数を例えば200Hzに低下し、安定した低周波の矩形波点灯に至る。
また、特許文献1にはインダクタンス素子及びコンデンサの共振回路とを備え、高圧放電ランプ始動時には高周波点灯、その後、低周波の矩形波点灯とする同様の点灯方式が記載されているが、特に高周波点灯の直流成分についての記載はされていない。
【0006】
【特許文献1】特開平8−124687
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、高圧放電ランプ17がパルストランス15のパルス電圧により絶縁破壊後、高周波のランプ電流が流れる過程において、絶縁破壊直後は高圧放電ランプ17の電極が冷えているため、図6に示すように一定の期間は放電しやすい側の電極からしか電流が流れず、整流性のある直流成分が重畳された高周波電流となる。
その後、高圧放電ランプ17の温度が上昇し、反対側の電極からも徐々に放電が進むことにより直流成分が低減し、最終的には対称な高周波電流へと移行するが、この過程において、短時間ではあるが直流成分が重畳された高周波電流が非対称な時に陽極側となった電極の発熱が著しく、電極が損傷しランプ寿命を低下させてしまう要因となっていた。
【0008】
そこで本発明は上記問題を解決するために、矩形波点灯を行うブリッジ回路IIの高周波点灯時の動作を改良し、高圧放電ランプ17の始動時に流れる高周波電流の直流分を低減させ、かつその期間を短くさせることを技術課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1の側面は、第1のトランジスタ直列回路及び第2のトランジスタ直列回路を備え、直流電圧をスイッチングしてランプに電力を供給するブリッジ回路、並びに、第1のトランジスタ直列回路と第2のトランジスタ直列回路の中点に直列接続されるチョークコイル及び第1のコンデンサを備え、ランプを始動させる始動回路からなる高圧放電ランプ点灯装置であって、第1のトランジスタ直列回路又は第2のトランジスタ直列回路を構成するトランジスタの一つに並列接続され、少なくとも上記直流電圧よりも低い電圧を保持可能な直流電圧回路を備える高圧放電ランプ点灯装置である。ここで、
直流電圧回路が第2のコンデンサである構成とした。この構成において、ランプ点灯開始前及び点灯開始後の所定の期間は第1又は第2のトランジスタ直列回路の一方を交互に導通させ、他方を非導通とするようにした。さらに、第2のコンデンサの電圧を検出する電圧検出回路を備え、所定の期間が、電圧検出回路で検出される第2のコンデンサの電圧が所定の範囲内となるまでの期間であるようにした。ここで、所定の範囲の中心値を、ブリッジ回路に印加する直流電圧の1/2とした。さらに、第2のコンデンサに直列接続されたスイッチを備え、所定の期間経過前はスイッチの導通状態を維持し、その後非導通とするようにした。またさらに、ブリッジ回路に直流電圧を供給する直流電源回路を備える構成とした。
【0010】
本発明の第2の側面は、高圧放電ランプ、及び、上記第1の側面の高圧放電ランプ点灯装置を備えた高圧放電ランプ装置である。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る高圧放電ランプ点灯装置においては、ランプ始動直後の高周波点灯時に高圧放電ランプの片側の電極に与える電流ストレスを軽減することによりランプ寿命を延ばすことが可能となる。
【0012】
〔発明の実施の形態〕
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて具体的に説明する。
図1は本発明に係る高圧放電ランプ点灯装置を示す回路構成図であり、図2は図1の動作を示すための回路動作図である。
図1の回路構成図は従来例の回路構成を示した図5のブリッジ回路のトランジスタ12のドレイン−ソース間にコンデンサ18を接続したもので、その他は図5と同じである。
【0013】
図1に示す回路の動作は、降圧チョッパ回路Iの図5に示す回路と同じである。
ブリッジ回路IIについては図2に示すように、最初はトランジスタ11、12が非導通の状態でトランジスタ9、10が交互に高周波にて導通/非導通を繰り返す。
まずトランジスタ9が導通、トランジスタ10が非導通とすると、降圧チョッパ回路Iよりトランジスタ9、チョークコイル14、コンデンサ16、コンデンサ18の経路で電流が流れコンデンサ18が充電される。
次のサイクルでトランジスタ9が非導通、トランジスタ10が導通になるとコンデンサ18を電源とし、コンデンサ16、チョークコイル14、トランジスタ10の経路で電流が流れる。
【0014】
上記の動作を繰り返すことにより、従来例と同様にブリッジ回路の中点に高周波の矩形波電圧が発生し、チョークコイル14、コンデンサ16の直列回路は共振し、コンデンサ16端には正弦波の共振電圧が発生し、高圧放電ランプ17に印加されることになる。
【0015】
次に前記共振電圧が高圧放電ランプ17端に印加している間に、パルストランス15により数kVから十数kV程度のパルス電圧を共振電圧に重畳させ、高圧放電ランプに印加させることにより高圧放電ランプ17は絶縁破壊を起こし、今度はトランジスタ9、チョークコイル14、パルストランス15、高圧放電ランプ17、コンデンサ18、同様に次のサイクルでコンデンサ18を電源とし高圧放電ランプ17、パルストランス15、チョークコイル14、トランジスタ10の経路で電流が流れ、従来例と同様に高圧放電ランプは高周波点灯を行う。
【0016】
ここで、従来例と同様に高圧放電ランプ17の電極が冷えており、最初にトランジスタ9、チョークコイル14、パルストランス15、高圧放電ランプ17、コンデンサ18の方向で電流が流れ、その反対方向であるコンデンサ18を電源とし高圧放電ランプ17、パルストランス15、チョークコイル14、トランジスタ10の方向では電流が流れにくい場合はコンデンサ18が、その分コンデンサ18が充電され電圧が上昇していく。
そのため整流性が出た状態でトランジスタ9、10が導通・非導通を繰り返すにつれてコンデンサ18の電位が高まり、トランジスタ9、チョークコイル14、コンデンサ16、コンデンサ18の経路で流れる高周波電流の値が低くなる。
この状態を繰り返すうちに高圧放電ランプ17の温度が上昇し、反対側の電極からも放電が開始され、最終的には対称な高周波電流へと移行するが、コンデンサ18により従来例のような直流成分の重畳した高周波電流が流れる期間が短いため陽極側の電極へのダメージを低減できる。
【0017】
また、コンデンサ18を接続するブリッジ回路IIのトランジスタはトランジスタ12以外でもよく、コンデンサを取り付けた側のトランジスタの直列回路を高周波動作時に停止し、もう一方のトランジスタの直列回路のトランジスタを交互に導通させれば、同様の効果は得られる。さらに、コンデンサ18は、片方のトランジスタ直列回路のみの動作(ハーフブリッジ動作)時に、降圧チョッパ回路Iの出力電圧よりも低い電圧(理想的には半分の電圧値)を保持する能力があれば、コンデンサ以外の回路であってもよい。
【0018】
さらに、本実施例においては、片方のトランジスタ直列回路のみの動作(ハーフブリッジ動作)から両方のトランジスタ直列回路での動作(フルブリッジ動作)に移行するまでの期間について、予め数秒の期間を定めるものを示したが、コンデンサ18にかかる電圧を検出して整流点灯状態か否かを判断し、整流状態の終了時に上記動作の移行を行ってもよい。
詳しくは、高周波点灯時に放電が正常である場合(整流点灯でない場合)、コンデンサ18には降圧チョッパ回路Iの出力電圧の約半分の電圧がかかる。また、整流点灯状態、例えば、チョークコイル14からコンデンサ18方向に整流状態の場合は、コンデンサ18には降圧チョッパ回路Iの出力電圧の半分よりも大きい電圧がかかり、逆方向に整流状態の場合は、コンデンサ18には降圧チョッパ回路Iの出力電圧の半分よりも小さい電圧がかかることになる。従って、コンデンサ18の電圧が所定の範囲、即ち、降圧チョッパ回路Iの出力電圧の半分の値を中心としたある範囲に入っていれば、ランプは正常に点灯していることになり、範囲外であれば整流点灯状態であるということになるので、この検出電圧に基づいてブリッジ回路の動作状態を移行させればよい。
なお、コンデンサ18にかかる電圧の検出回路は、例えば、図3に示すような抵抗分割回路19等で構成することができる。
【0019】
また、上記実施例においては、コンデンサ18を常に接続させておく構成としたが、図4に示すようにコンデンサ18にスイッチング素子等からなるスイッチ20を直列接続して、フルブリッジ動作状態に移行した後は、その後の安定動作のためにコンデンサ18を切り離す構成としてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明における高圧放電ランプ点灯装置の回路構成図
【図2】図1の回路の動作を説明する図
【図3】本発明の展開例を説明する図である。
【図4】本発明の展開例を説明する図である。
【図5】従来の高圧放電ランプ点灯装置の回路構成図
【図6】図5の回路の動作を説明する図
【符号の説明】
【0021】
I 降圧チョッパ回路
II ブリッジ回路
III 始動回路
9、10、11、12 トランジスタ
13 制御回路
14 チョークコイル
15 パルストランス
16、18 コンデンサ
17 高圧放電ランプ
19 抵抗分割回路
20 スイッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1のトランジスタ直列回路及び第2のトランジスタ直列回路を備え、直流電圧をスイッチングしてランプに電力を供給するブリッジ回路、並びに、
該第1のトランジスタ直列回路と該第2のトランジスタ直列回路の中点に直列接続されたチョークコイル及び第1のコンデンサを備え、該ランプを始動させる始動回路、からなる高圧放電ランプ点灯装置であって、
前記第1のトランジスタ直列回路又は第2のトランジスタ直列回路を構成するトランジスタの一つに並列接続され、少なくとも前記直流電圧よりも低い電圧を保持可能な直流電圧回路を備えることを特徴とする高圧放電ランプ点灯装置。
【請求項2】
請求項1記載の高圧放電ランプ点灯装置であって、
前記直流電圧回路が第2のコンデンサであることを特徴とする高圧放電ランプ点灯装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2記載の高圧放電ランプ点灯装置であって、
ランプ点灯開始前及び点灯開始後の所定の期間は前記第1又は第2のトランジスタ直列回路の一方を交互に導通させ、他方を非導通とすることを特徴とする高圧放電ランプ点灯装置。
【請求項4】
請求項3記載の高圧放電ランプ点灯装置であって、
さらに、前記第2のコンデンサの電圧を検出する電圧検出回路を備え、
前記所定の期間が、前記電圧検出回路で検出される前記第2のコンデンサの電圧が所定の範囲内となるまでの期間であることを特徴とする高圧放電ランプ点灯装置。
【請求項5】
請求項4記載の高圧放電ランプ点灯装置であって、
前記所定の範囲の中心値を、前記直流電圧の1/2としたことを特徴とする高圧放電ランプ点灯装置。
【請求項6】
請求項1から請求項5いずれか一項に記載の高圧放電ランプ点灯装置であって、
さらに、前記第2のコンデンサに直列接続されたスイッチを備え、
前記所定の期間経過前は前記スイッチの導通状態を維持し、その後非導通とすることを特徴とする高圧放電ランプ点灯装置。
【請求項7】
請求項1から請求項いずれか一項に記載の高圧放電ランプ点灯装置であって、さらに、前記ブリッジ回路に直流電圧を供給する直流電源回路を備えたことを特徴とする高圧放電ランプ点灯装置。
【請求項8】
高圧放電ランプ、及び、請求項1から請求項いずれか一項に記載の高圧放電ランプ点灯装置を備えたことを特徴とする高圧放電ランプ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−49181(P2006−49181A)
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−230613(P2004−230613)
【出願日】平成16年8月6日(2004.8.6)
【出願人】(000000192)岩崎電気株式会社 (533)
【Fターム(参考)】