説明

高摩擦材

【課題】高摩擦特性を維持しつつ、摩擦時に基板の水平方向にかかる荷重によって棒状の物体が剥離しない摩擦材を提供することにある。
【解決手段】基板上に凹凸構造を有する樹脂系材料層が接着されており、該凹凸構造の凸部内に繊維状或いは針状の物質が該基板平面に林立していることを特徴とする摩擦材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摩擦材および摩擦材を用いた駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノチューブなどは、ナノスケールの超微細構造であるため、低い電圧の引火で高電界が発生することから、低電圧電子放出材料や半導体への応用が大きく期待されている。
【0003】
カーボンナノチューブをデバイスとして用いる場合には、ベースとなる基板にナノチューブを揃えて取り付けることが求められている。
【0004】
かかる方法として、例えば、特許文献1には、ナノチューブを揃えて基板に接着する方法が開示されている。すなわち、カーボンナノチューブ粉体を封入したチャンバー内で、電極基板間に電圧を印加し、発生する電気力線の向きに沿って静電気力で前記粉体を飛翔させる。このように、電気力線にそって基板に垂直に立つ状態でナノチューブを基板に到達させることによりナノチューブを揃えて基板に接着する。
【特許文献1】特開2004−344992号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の方法により、一応カーボンナノチューブを基板に揃えて取り付けることはできるが、さらに、簡便な方法で作製し、より性能の向上したデバイスが求められている。
【0006】
一般的に、2物体間に相対すべりが生じる場合の摩擦力Fは、式(1)で示される。
【0007】
F=Fa+Fp+Fe (1)
(ただし、式中、Faは凝着項を、Fpは掘り起こし項を、Feは弾性ヒステリシス項を示す。)。
【0008】
Bowden−Taborによる固体摩擦の基本原理によれば、通常の材料では、式(1)右辺のFpおよびFeはゼロと見なせ、凝着項で表される。すなわち、摩擦係数や耐摩耗性は、材料の凝着のし易さにより決定される。
【0009】
したがって、例えば、材料に耐摩耗性を付与する場合には、材料の降伏強度を増加させることが有効となり、高硬度の材料が必要になるし、また、摩擦係数はFaの大きな材料やその組み合わせが必要となる。例えば、自動車のブレーキやフリクションドライブシステムなどを考えた場合、高摩擦係数と耐摩耗性を両立する必要がある。
【0010】
しかしながら、一般に凝着による摩擦摩耗の原理の場合、高摩擦を示す材料は凝着しやすく、材料は摩耗するため、高摩擦と耐摩耗性を両立することは困難である。
【0011】
このような問題を解決するための方策として、式(1)における弾性ヒステリシス損失を積極的に利用することが考えられる。具体的には、摺動する2物体の表面のいずれか一方もしくは両方に、垂直方向とせん断方向の弾性率が異なる薄層を形成し、その薄層に弾性ヒステリシスを発生させる構成である。すなわち、薄層として、多数の棒状の物体を、物体表面の垂直方向に配向させ、それらの棒状物体の側面同士が擦れること、或いは棒状物体がその長手方向に対して垂直方向にしなることにより弾性ヒステリシス損失を発生させる構造である。
【0012】
しかしながら、このような構成において、棒状の物体と基板との界面強度を維持しつつ、摩擦時に水平方向にかかる荷重によって剥離しないようにすることは困難であった。
【0013】
そこで本発明の目的は、高摩擦特性を維持しつつ、摩擦時に基板の水平方向にかかる荷重によって棒状の物体が剥離するのを抑制できる摩擦材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するための本発明は、基板上に凹凸構造を有する樹脂系材料層が接着されており、該凹凸構造の凸部内に繊維状或いは針状の物質が該基板平面に林立していることを特徴とする摩擦材である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、樹脂系材料が凸部内の繊維或いは針状の物質を補強するとともに、基板材料と繊維或いは針状の物質を接合する役割を果たしており、弾性ヒステリシス損失を発生しつつ、摩擦時に水平方向にかかる荷重によって棒状の物体が剥離するのを抑制することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
(摩擦材)
本発明の摩擦材は、基板上に凹凸構造を有する樹脂系材料層が接着されており、該凹凸構造の凸部内に繊維状或いは針状の物質が該基板平面に林立していることを特徴とする。
【0017】
本発明に用いられる基板は、繊維状或いは針状の物質を接着することができる板材であれば、特に制限されず用いることができる。セラミック、金属、半導体などの平板を例示することができる。
【0018】
本発明に用いられる樹脂系材料としては、繊維状或いは針状の物質と基板を強固に接着することができる材料であれば、特に制限されずに用いることができる。エポキシ系樹脂或いはアクリル系樹脂を例示することができる。
【0019】
ここで、エポキシ系樹脂とは、1分子中に2個以上のエポキシ基を持つ化合物を意味する。具体的には、グリシジルエーテル型、グリシジルエステル型、グリシジルアミン型、脂環型などが挙げられる。硬化剤には、脂肪族・芳香族の多価の第1級・第2級アミンやポリアミド、酸無水物、多価フェノール類やフェノール樹脂を用いる重付加型、酸或いは第3級アミン触媒によりエポキシ基の開環反応による架橋、硬化を行う付加重合型が挙げられる。また、加熱によって硬化する1液型、混合後自然に硬化する2液型も含まれる。さらに、アクリル系樹脂には、アクリル酸、メタクリル酸およびこれらのエステル化合物の共重合体、或いはアクリロニトリルやスチレンなどとの共重合体であって、溶剤型またはエマルション型を用いることができる。アクリル系樹脂としては、常温硬化型の接着剤が好ましい。該樹脂を採用することにより、後述するように、かかる樹脂が塗布面からカーボンナノチューブなどの繊維状或いは針状の物質の空間を伝わって上昇する、いわゆる毛管現象を発生させ、基板上に凹凸構造を容易に形成することが可能になる。
【0020】
本発明に用いられる繊維状或いは針状の物質は、繊維または針状物であれば、特に制限されずに用いることができる。Si、Sn、Zn、Al、V、Ti、Cr、Mn、およびWのいずれか一つを主成分とするウィスカー或いは炭素繊維を例示することができる。ウィスカーとしては、Wを主成分とするウィスカーがより好ましい。このような材料を用いて、ウィスカー或いは炭素繊維とすることによって、大きな弾性ヒステリシス損失を発生させることができるため、摩擦材の高摩擦化が可能となる。
【0021】
前記炭素繊維をカーボンナノチューブ(CNT)とすることによって、前記炭素繊維を用いた場合と比較して、より大きな弾性ヒステリシス損失を発生できる。よって、さらなる高摩擦化が可能となる。
【0022】
前記カーボンナノチューブを多層カーボンナノチューブとすることによって、多層カーボンナノチューブの相関に働く分子間力を利用でき、単層カーボンナノチューブを用いた場合と比較して、さらなる高摩擦化が可能となる。
【0023】
さらに、カーボンナノチューブについては、ラマン分光分析法で測定されるID/IG値が、1.5以下であることが好ましい。ID/IG値が1.5を超えるカーボンナノチューブと比較して、摩擦時の水平方向にかかる荷重によって折れる確率を大きく低減することができる。一般的に、カーボンナノチューブの強度は、グラファイトの結晶性化度に比例する。また、ID/IG値はグラファイトの結晶性化度の指標であり、ID/IG値が低いほど、欠陥が少なくて結晶性がよいといえる。
【0024】
前記カーボンナノチューブとしては、一般的に用いられているものであれば特に制限されることなく、チューブ状のものを用いることができる。
そのサイズも特に制限されることなく用いることができるが、通常、長さが1〜数百μm、直径が20〜数百nmの範囲のものが用いられる。
【0025】
前記ウィスカーとしては、一般的に用いられているものであれば特に制限されることなく、用いることができる。そのサイズも特に制限されることなく用いることができるが、通常、長さが10〜数百μm、直径が10nm〜数十μmの範囲のものが用いられる。
【0026】
このように、基板の少なくとも1平面上に凹凸構造を有する樹脂系材料層が接着されている。この凹凸構造を有する樹脂系材料層の凸部内に繊維状或いは針状の物質が該基板平面に林立している。
【0027】
図1は本願の摩擦材を説明する概略断面図である。図1において、基板1上にカーボンナノチューブ4が樹脂系材料2で複数個或いは単数単位で基板1上に接着固定されるとともに、ほぼ全体が被覆されている。該カーボンナノチューブ4の存在する箇所が凸部に相当し、それ以外のカーボンナノチューブが存在しない箇所が凹部に相当する。なお、該カーボンナノチューブは樹脂系材料の毛管現象で被覆されることから、通常、単数のカーボンナノチューブはカーボンナノチューブの集団内に位置する。
【0028】
繊維状或いは針状の物質の一つは、全体が樹脂で被覆されていてもよいし、先端部(基板と反対側)を除いてその他の部分が被覆されていてもよい。また、基板の1平面全体が凸状に樹脂で被覆されている場合には、基板上に凹凸構造を有せず、弾性ヒステリシシ損失を発生させないことから、本発明には含まれない。繊維状或いは針状の物質が該基板平面に林立する方向は、通常、略垂直方向である。このように、多数の繊維状或いは針状の物質が、基板の面に対し、略垂直方向に林立することにより、弾性ヒステリシス損失を発生しつつ、摩擦時に水平方向にかかる荷重によって剥離し難くなる。
【0029】
本発明の摩擦材の用途としては、車両のブレーキやフリクションドライブシステムなどが挙げられる。
【0030】
(摩擦材の製造方法)
以下、本発明の摩擦材の製造方法について説明する。
【0031】
Si基板などの基板を準備し、エポキシ樹脂などの樹脂系材料を該基板上に滴下する。スピンコート法によって、樹脂層の厚みを所定値に調整する。
【0032】
予めCなどの原料ガスを用いた熱CVD法により合成された多層カーボンナノチューブ、単層カーボンナノチューブなどの繊維状或いは針状の物質の先端を、上記で得られた樹脂層と接触させる。なお、カーボンナノチューブは、カーボンナノチューブの成長基板から略垂直方向に、多数のカーボンナノチューブが林立している。カーボンナノチューブは、成長基板から剥離させることなく該樹脂層と接触させる。
【0033】
このとき、樹脂層中の樹脂が毛管現象により、接触するカーボンナノチューブに沿って上昇し、カーボンナノチューブのほぼ全体を被覆する。ただし、カーボンナノチューブが成長基板と接触する点では、樹脂で被覆されない。
【0034】
毛管現象を利用して該カーボンナノチューブなどの繊維状或いは針状の物質を実質的にその全体を被覆することから、繊維状或いは針状の物質が樹脂系材料と接する際に、樹脂系材料は、液状またはペースト状などの毛管現象を生ずる形態であることが必要である。
【0035】
樹脂を硬化した後、カーボンナノチューブの成長基板を剥離し、本発明の摩擦材が得られる。樹脂の硬化については、自然に硬化する場合には、時間の経過を経ればよいが、自然に硬化しない場合には、熱などの硬化手段を加えて硬化させることが必要である。
【0036】
後述する実施例1で説明するように、得られた摩擦材は、基板上に不規則な凹凸構造を有する樹脂系材料層が接着されており、その凸部内に前記多層カーボンナノチューブなどの繊維状或いは針状の物質が基板平面に対して略垂直方向に林立した構造となっている。
【0037】
なお、基板をSiとして説明したが、基板に関して特に制限はなく、Fe,Alなどの金属及びそれらを主成分とする合金でも何ら問題は生じない。
【0038】
すなわち、本発明の摩擦材は、基板上に樹脂系接着剤を塗布し、該塗布面に繊維状或いは針状の物質の一方の先端部に接触させて毛管現象によって繊維状或いは針状の物質を被覆し、その後該樹脂を硬化させることによって作製することができる。
【0039】
このような方法によって、本発明の摩擦材は簡便に作製することができる。
【0040】
(駆動装置)
本発明によれば、所定の方向に移動可能な被駆動部材と、前記方向に対して垂直方向の押付け力により被駆動部材と摩擦係合する駆動部材と、駆動部材に当接し、駆動部材を前記方向に往復運動させるための駆動力を駆動部材に入力する駆動源、を有する駆動装置において、被駆動部材および摩擦係合する駆動部材のいずれか一方もしくは両方に、前記記載の摩擦材(摩擦摺動部材)を適用することにより、摩擦力を駆動源として装置を駆動させることが可能となる。
【0041】
次に、本発明の摩擦材10を用いた駆動装置の例について説明する。
【0042】
<第1実施形態>
図2は第1実施形態に係る駆動装置100の側面図、図3は第1実施形態に係る駆動部材110の往復運動周波数と被駆動部材140の速度の関係を示す図である。
【0043】
図2を参照して、本実施形態の駆動装置100は、所定方向に移動可能な被駆動部材140と、所定方向に対して垂直方向に押し付け力により被駆動部材140と摩擦係合する駆動部材110と、駆動部材に当接し、駆動部材110を所定方向に往復運動させるための駆動力を駆動部材110に入力する駆動源150と、を有し、駆動部材110が、上述の摩擦材10を備え、摩擦材10を介して被駆動部材140および駆動部材110が係合していることを特徴とする。
【0044】
本実施形態では駆動部材110が摩擦材10を有するが、被駆動部材140が摩擦材10を有していてもよく、また駆動部材110および被駆動部材140の両方が摩擦材10を有していてもよい。
【0045】
駆動装置100は、正弦波電圧を駆動源に供給する制御部170を有する。正弦波電圧は、指令値に応じた振幅および周波数を有する。
【0046】
駆動源は圧電素子150である。圧電素子150は、その伸縮方向(図2の左右方向)の一面が固定部材160に固定され、他面には駆動部材110が取り付けられている。この圧電素子150には、制御部170を経由して図外の電源から電力が供給される。
【0047】
圧電素子150は、電圧を上昇させることにより伸長し、電圧を下げることにより収縮する特性を有する。圧電素子150は、面積当りに発生する力が大きいため、小さな寸法で必要な力を得ることができ、装置を小型化できる。また、矩形波や三角波などに対して正弦波電圧は、電流の最大値が小さいため、制御部170を含む電気回路の小型化、低コスト化を図ることができる。
【0048】
図3を参照して、ある周波数近傍において駆動部材110と被駆動部材140との共振現象が起き、被駆動部材140の速度が、急減に増加している。よって、制御部170が、この条件を満たす電圧波形を圧電素子150に与えることにより、被駆動部材140を高速に移動させることができる。なお、図3の横軸および縦軸は任意の単位である。
【0049】
駆動部材110は、圧電素子150の伸縮運動と平行な面で、摩擦材10を介して被駆動部材140と摩擦係合する。駆動部材110は、圧電素子150に取り付けられた第1部材120と、被駆動部材140に接触する第2部材130とから構成されている。
【0050】
第1部材120および第2部材130は、第2部材130と被駆動部材140との接触面に対して角度αを有する第1カム面123、133と、第2部材130と被駆動部材140との接触面に対して垂直な第2カム面126,136と、を有する。ただし、角度αは、0<α<90°に範囲内にある。
【0051】
第1部材120が駆動方向(図2左方向)へ移動し、第1部材120の第1カム面123および第2部材130の第1カム面133が互いに当接すると、第1部材120は、第2部材130の第1カム面133を押す。このとき、第2部材130の第1カム面133にカム発生力が生じる。カム発生力の垂直方向の成分が、第2部材130と被駆動部材140との接触面に与えられる押し付け力となる。
【0052】
一方、第1部材120は反駆動方向(図2右方向)へ移動し、第1部材120の第1カム面123および第2部材130の第1カム面133が離間すると、垂直方向の押し付け力が発生しないため、第2部材130と被駆動部材140との間に摩擦力が生じない。また、第1部材120の第2カム面126が、第2部材130の第2カム面136に当接したとき、第2カム面126,136が被駆動部材120に対して垂直であるため、押し付け力が発生せず、摩擦力が生じない。
【0053】
駆動部材110の第1部材120は、圧電素子150の伸縮により往復運動する。一方、被駆動部材140は、ほぼ一定の速度で運動している。
【0054】
したがって、被駆動部材140に対する第1部材120の相対速度が駆動方向に正のとき、第1部材120が第2部材130の第1カム面133に当接して、駆動力の一部が垂直方向の押し付け力に変換される。ここで、被駆動部材140に対する第1部材120の相対速度が駆動方向に正のときは、被駆動部材140に対する駆動部材110の相対速度が正のときを意味する。
【0055】
一方、被駆動部材140に対する第1部材120の相対速度の駆動方向に負のとき、すなわち、被駆動部材140に対する駆動部材110の相対速度がゼロまたは負のとき、第1部材120は第2部材130の第1カム面133に当接しないため、駆動力を垂直方向の押し付け力に変換しない。押し付け力が発生しないため、摩擦力が、被駆動部材140の運動方向に対して逆方向に生じない。ここで、被駆動部材140に対する第1部材120の相対速度の駆動方向に負のときは、被駆動部材140に対する駆動部材110の相対速度がゼロまたは負のときを意味する。
【0056】
このように、被駆動部材140の運動方向に対して逆方向に摩擦力が生じないように、押し付け力の有無を切り替えているため、動力損失を抑えることができる。
【0057】
以上説明したように、本実施形態の駆動装置100は、大掛かりな装置を使うことなく、第1カム面により駆動力を押し付け力に変換している。また、本実施形態の駆動装置100は、被駆動部材140に対する駆動部材110の相対速度に応じて、押し付け力の有無を切り替えている。したがって、本実施形態の駆動装置100は、コスト/サイズアップを伴うことなく、動力損失を抑制して安定した駆動性能を実現することができる。
【0058】
また、駆動部材110および被駆動部材140が、摩擦材10を介して摩擦係合しているため、部材の摩耗が抑制される。更に、摩擦材10を介さずに駆動部材110および被駆動部材140が摩擦係合される場合に比べ、押し付け力が小さくても大きな摩擦力を生じさせることができる。したがって、高い効率で駆動することができる。
【0059】
<実施形態2>
図4は第2実施形態に係る駆動装置200の側面図である。なお、図2に示す部材と共通する部材には同一符号を使用し、説明は省略する。
【0060】
第2実施形態に係る駆動装置200は、駆動方向と反駆動方向とを切り替えることができる。
【0061】
図4を参照して、駆動部材210は、固定部材160に支持された2つの第1,第2圧電素子250,255により挟まれている。駆動部材210は、第1部材220および第2部材230により構成されている。ここで、第1部材220には左右第1カム面226,228と左右第2カム面222,224とが形成され、第2部材230には、左右第1カム面236,238と左右第2カム面232,234とが形成されている。
【0062】
第1部材220の左右第2カム面222,224と第2部材230の左右第2カム面232,234との間には、伸縮可能な左右切り替え素子280,285が介装されている。左切り替え素子280は、駆動方向が左方向のとき縮退し、右方向のとき伸長するように制御される。右切り替え素子285は、駆動方向が左方向のとき伸長し、右方向のとき縮退するように制御される。
【0063】
左切り替え素子280を伸長させて右切り替え素子285を縮退させた場合には、右第1カム面同士が接触するとともに、左第2カム面同士が左切り替え素子280を介して連結する。
【0064】
逆に、左切り替え素子280を縮退させて右切り替え素子285を伸長させた場合には、左第1カム面同士が接触するとともに、右第2カム面同士が右切り替え素子285を介して連結する。
【0065】
本実施形態の駆動装置200は、右切り替え素子285を伸ばして左第1カム面同士を接触させ、右第2カム面同士を連結する。それとともに、左切り替え素子280を縮めて右第1カム面同士および左第2カム面同士は接触させず隙間を空けることにより、実施形態1の駆動装置100と同じ駆動方向とすることができる。この状態で、左右圧電素子250,255を互いに反対の位相で伸縮させることにより、実施形態1と同様に、左方向の摩擦力だけが被駆動部材140に伝わり、高い効率で駆動できる。
【0066】
一方、左切り替え素子280を伸ばして右第1カム面同士を接触させ、左第2カム面同士を連結する。それとともに、右切り替え素子285を縮めて左第1カム面同士および右第2カム面同士は接触させず隙間を空けることにより、右方向の摩擦力だけが被駆動部材140に伝わり、高い効率で駆動できる。
【0067】
以上の説明の如く、実施形態2に係る駆動装置200は、駆動方向と反駆動方向とを切り替えることができるため、実施形態1の駆動装置100の効果に加え、被駆動部材140の運動方向を選択的に決定することが可能であり、適用範囲の拡大を図ることができる。
【0068】
<実施形態3>
図5は第3実施形態に係る駆動装置300の側面図、図6は図5のVI−VI線に沿う断面図である。なお、図2〜4に示す部材と共通する部材には同一符号を使用し、説明は省略する。
【0069】
図5を参照して、本実施形態の駆動装置300は、実施形態1の駆動装置2つが駆動部材110を間にして対向する構造を有する。駆動部材110と駆動部材110との間には、押し付け力発生手段としてバネ390が配置され、このバネ390は2つの駆動部材110を連結している。
【0070】
図6を参照して、本実施形態の駆動装置300は、2つの被駆動部材140が、連結部345により断面コ字状に連結されている。
【0071】
実施形態1の駆動装置100は、駆動部材110が、押し付け力の反力を被駆動部材140から受ける。このため、軸受け等を介して駆動部材110を固定物に支持する必要がある。同様に、押しつけ力を受ける被駆動部材140も支持する必要がある。したがって、駆動部材110と支持部(図示せず)との間、および被駆動部材140と支持部(図示せず)との間で、摩擦損失が発生する。
【0072】
これに対し、実施形態3の駆動装置300は、押し付け力に対する反力が、同じ大きさで逆方向に、それぞれの駆動部材110に作用する。したがって、押し付け力に対する反力は、駆動部材110の間に配置したバネ390を介して相殺され、別途支持部を設ける必要がない。
【0073】
同様に、2つの被駆動部材140には、同じ大きさで逆方向の押し付け力が作用するが、連結部345を介して押し付け力が相殺されるため、別途支持部を設ける必要がない。
【0074】
したがって、駆動部材110と支持部との間、および被駆動部材140と支持部との間で発生する摩擦損失を抑制することができる。
【0075】
第1部材120および第2部材130は、第1カム面123,133または第2カム面126,136で接触する。寸法誤差等がある場合、接触時に、隙間がこれら接触面の間に生じる。このような隙間が生じると、圧電素子150および駆動部材110の移動量に対して、隙間がガタとなることにより、被駆動部材140の移動量が小さくなり、駆動装置300として得られる速度が小さくなる。
【0076】
本実施形態の駆動装置300は、駆動部材110が、バネ390により被駆動部材140に対して押し付けられるため、寸法誤差等により生じる隙間を小さくすることができる。
【0077】
以上説明したように、実施形態3に係る駆動装置300は、駆動部材110にはたらく押し付け力の反力および被駆動部材140にはたらく押し付け力を相殺することができる。したがって、駆動部材110および被駆動部材140を支持する支持部が必要なく、実施形態3に係る駆動装置300は、実施形態1の駆動装置100の効果に加え、支持部での摺動による摩擦損失をなくすことができる。
【0078】
さらに、実施形態3に係る駆動装置300は、バネ390により第1部材120を第2部材130に対して押し付けているため、寸法誤差等により生じる第1部材120と第2部材130との間の隙間を小さくすることができる。
【0079】
<実施形態4>
図7は、第4実施形態に係る駆動装置400の側面図である。なお、図2〜6に示す部材と共通する部材には同一符号を使用し、説明は省略する。
【0080】
図7を参照して、実施形態4に係る駆動装置400は、被駆動部材440が、回転体であり、所定の回動中心445回りに回動可能である。駆動部材210の往復運動の方向は、被駆動部材440の回転運動における接線方向である。
【0081】
本実施形態の被駆動部材440は、円筒形状であり、実施形態2の駆動部材210が90°ピッチで外周面に接して4つ配置されている。
【0082】
このように配置することにより被駆動部材440を回転させ、回転出力を得ることができる。したがって、駆動装置400は、直動アクチュエータだけでなく回転アクチュエータとしての用途にも使用することができる。
【0083】
したがって、実施形態4に記載の駆動装置400は、実施形態1および実施形態2の効果に加え、新たな機構の追加なしに回転出力を得ることができるという効果を有する。
【0084】
本発明は、上述した実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲で種々改変することができる。
【実施例】
【0085】
以下、本発明について実施例により詳しく説明するが、これらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0086】
(実施例1)
図8は本発明の摩擦材を作製する手順を示す模式図である。
【0087】
図8の(a)〜(d)の順に説明する。
(a)本摩擦材の基板となるSi基板1に、エポキシ樹脂(3M社製、DP−460)2を滴下した。
(b)(図示しない回転装置を用い)スピンコートによってエポキシ樹脂層の厚さを約30μmに調整した。
(c)CNTの成長基板が収納されたチャンバー内にアセチレンガスを導入し、Feを触媒とする熱CVD法により、合成された多層カーボンナノチューブ(直径:20nm、長さ:100μm)4の先端を、(b)で調整された樹脂層と接着させた。なお、用いた多層カーボンナノチューブのID/IG値は、1.2であった。
(d)樹脂を硬化させた後、CNTの成長基板3を多層カーボンナノチューブから剥離、といった工程により本発明の摩擦材を作製した。
【0088】
図8(d)に示すように、作製した摩擦材は、Si基板上に不規則な凹凸構造を有する樹脂系材料層が接着されており、その凸部内に前記多層カーボンナノチューブがSi基板平面に対して垂直方向に林立させた構造となっている。
【0089】
図9(a)は、実施例1の摩擦材をSEM(Scanning Electron Microscopy)を用いて、基板平面に対し垂直方向から観察した像を、図9(b)は、図9(a)の矢印部の拡大像(先端部拡大像)を示している。図9(a)、(b)より、本摩擦材が、図1(d)で示すような構造が確認された。
【0090】
(比較例1)
実施例1で記載した、多層カーボンナノチューブが林立しているカーボンナノチューブの成長基板そのものを比較例とした。
【0091】
<評価結果>
(摩擦特性評価)
得られた摩擦材に対し、Hysitron Inc.製 High Load tribo Indenterを用い、先端半径84.5μmのダイヤモンド製球形圧子を用いたスクラッチ評価(単一引っ掻き測定)を実施し、摩擦特性を評価した。
【0092】
実施例1と比較例1について摩擦試験を行った。
【0093】
図10は摩擦試験から得られた、基板平面に対して垂直方向の荷重の結果を示すグラフであり、図11は水平方向の荷重の結果を示すグラフである。
【0094】
表1はその結果をまとめたものである。なお、摩擦係数は、図10および11の結果から算出したものである。
【0095】
【表1】

【0096】
表1から、実施例1の摩擦材は、比較例1に比べ垂直荷重が2〜3桁増加したこと、摩擦係数が1を超えており、高摩擦特性を維持(*)していることが確認できた。
(*)摩擦材として一般的な商品に、ブレーキパッドがあるが、普通車、スポーツ車に使用されるブレーキパッドの摩擦係数はそれぞれ0.35〜0.4、0.4〜0.5程度であり、摩擦係数が1を超えている摩擦材は、高摩擦特性を有していると言える。
【図面の簡単な説明】
【0097】
【図1】本発明の摩擦材の一例を示す概略断面図である。
【図2】第1実施形態に係る駆動装置の一例を示す側面図である。
【図3】第1実施形態に係る駆動部材の往復運動周波数と被駆動部材の速度の関係の一例を示す図である。
【図4】第2実施形態に係る駆動装置の一例を示す側面図である。
【図5】第3実施形態に係る駆動装置の一例を示す側面図である。
【図6】図5のVI−VI線に沿う断面図である。
【図7】第4実施形態に係る駆動装置の一例を示す側面図である。
【図8】本発明の摩擦材を作製する手順の一例を示す概略断面図である。
【図9】(a)は、実施例1の摩擦材についてSEMを用い、基板平面に対し垂直方向から観察した像を、(b)は、(a)の矢印部の拡大像の一例を示す図面である。
【図10】摩擦試験によって得られた垂直荷重の結果の一例を示すグラフである。
【図11】摩擦試験によって得られた水平荷重の結果の一例を示すグラフである。
【符号の説明】
【0098】
1 基板
2 エポキシ樹脂
3 カーボンナノチューブの成長基板
4 カーボンナノチューブ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に凹凸構造を有する樹脂系材料層が接着されており、該凹凸構造の凸部内に繊維状或いは針状の物質が該基板平面に林立していることを特徴とする摩擦材。
【請求項2】
前記樹脂系材料層は、エポキシ系樹脂或いはアクリル系樹脂から構成されてなることを特徴とする請求項1記載の摩擦材。
【請求項3】
前記繊維状或いは針状の物質は、炭素繊維であることを特徴とする請求項1または2記載の摩擦材。
【請求項4】
前記炭素繊維は、カーボンナノチューブであることを特徴とする請求項3記載の摩擦材。
【請求項5】
前記カーボンナノチューブは、多層カーボンナノチューブであることを特徴とする請求項4記載の摩擦材。
【請求項6】
前記カーボンナノチューブは、ラマン分光分析法で測定されたID/IG値が、1.5以下であることを特徴とする請求項4または5記載の摩擦材。
【請求項7】
前記繊維状或いは針状の物質は、Si、Sn、Zn、Al、V、Ti、Cr、Mn、およびWからなる群から選ばれた少なくとも一つを主成分とするウィスカーであることを特徴とする請求項1または2記載の摩擦材。
【請求項8】
所定の方向に移動可能な被駆動部材と、前記方向に対して垂直方向の押付け力により被駆動部材と摩擦係合する駆動部材と、駆動部材に当接し、駆動部材を前記方向に往復運動させるための駆動力を駆動部材に入力する駆動源、を有する駆動装置において、被駆動部材および摩擦係合する駆動部材のいずれか一方もしくは両方に、請求項1〜7のいずれか1項に記載の摩擦材を適用したことを特徴とする駆動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図10】
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【図11】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−287677(P2009−287677A)
【公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−141104(P2008−141104)
【出願日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】