説明

高電圧印加装置

【課題】菌床栽培にも対応でき、必要なだけの電気的刺激を与えられる高電圧印加装置を提供する。
【解決手段】高電圧発生部として、正極の高電圧発生装置7と、負極の高電圧発生装置7’とが並列に接続されており、高電圧コントローラ33は、前記正極の高電圧発生装置と、前記負極の高電圧発生装置とに交互に制御信号を送る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、農業用に高電圧の電気的刺激を与えるのに適した高電圧印加装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、ほだ木に雷が落ちるときのこが異常発生することが知られていたが、最近になって発芽直前のほだ木に高電圧の電気的刺激を与えると、きのこの発生を促進する効果があることまで判明した。
そこで、原木であるほだ木に人工的に高電圧の電気的刺激を与えようとする試みがなされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭63−98322号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】高木浩一、猪原哲著「パルスパワー技術の農業・食品分野への応用」電気学会論文誌Vol.129 No.7 2009 社団法人電気学会 p.439-445
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、近年では、年間を通じて安定的に供給できる等から、原木栽培に代えて菌床栽培も盛んになってきているが、菌床栽培では、菌床に菌を植え付けたものを絶縁性の瓶等の容器や袋に入れて、ビニールハウス内で栽培する。
而して、非特許文献1に従って50kV程度の高電圧をパルスで印加しようとして、原木栽培の場合と同じように菌床栽培でもパルス高電圧の電気的刺激を与えようとしても、上記したように、菌床を絶縁性のものに入れられているため、直ぐに電荷が飽和してしまい、必要なだけの電気的刺激を与えることはできない。
【0006】
本発明は上記従来の問題点に着目して為されたものであり、菌床栽培にも対応でき、必要なだけの電気的刺激を与えられる高電圧印加装置を提供することを、その目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、請求項1の発明は、高電圧発生部と、前記高電圧発生部をコントロールする高電圧コントローラと、前記高電圧発生部の出力端が接続された高電圧パルス印加部を有する高電圧印加装置であって、前記高電圧発生部には、正極の高電圧発生装置と、負極の高電圧発生装置とが並列に接続されており、前記高電圧コントローラは、前記正極の高電圧発生装置と、前記負極の高電圧発生装置とに択一的に制御信号を送ることを特徴とする高電圧印加装置である。
【0008】
請求項2の発明は、請求項1に記載した高電圧印加装置において、正極の高電圧発生装置と負極の高電圧発生装置との間の逆流を防止する逆流防止手段を備えることを特徴とする高電圧印加装置である。
【0009】
請求項3の発明は、請求項2に記載した高電圧印加装置において、逆流防止手段は、正極の高電圧発生装置と負極の高電圧発生装置のそれぞれの出力端と接続点との間に介装された抵抗であることを特徴とする高電圧印加装置である。
【0010】
請求項4の発明は、請求項2に記載した高電圧印加装置において、正極の高電圧発生装置と負極の高電圧発生装置のそれぞれに対応して正極側の高電圧パルス印加部と負極側の高電圧パルス印加部を備え、逆流防止手段として、前記正極側の高電圧パルス印加部と前記負極側の高電圧パルス印加部との間が短絡されていることを特徴とする高電圧印加装置である。
【0011】
請求項5の発明は、請求項1から4のいずれかに記載した高電圧印加装置において、高電圧コントローラは、プログラム可能な制御手段を備えることを特徴とする高電圧印加装置である。
【0012】
請求項6の発明は、請求項1から5のいずれかに記載した高電圧印加装置において、手持ち部を備え、高電圧パルス印加部は、前記手持ち部に一体に設けられ、高電圧発生部の出力端が接続される放電側電極と、前記放電側電極と放電ギャップを介して対向した接地側電極と、前記接地側電極と導通され被印加体に印加する印加側電極とを備え、保護筒内に前記高電圧パルス印加部の大部分が収容され、前記印加側電極のみが露出していることを特徴とする高電圧印加装置である。
【発明の効果】
【0013】
本発明の高電圧印加装置によれば、菌床栽培にも対応でき、必要なだけの電気的刺激を与えられる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る高電圧印加装置の全体の構成図である。
【図2】図1の高電圧印加装置の電気的配線図である。
【図3】図2の高電圧発生部の詳細な電気的配線図である。
【図4】図1の高電圧印加装置の使用方法の説明図である。
【図5】図1の高電圧印加装置の印加パターンの図である。
【図6】本発明の第2の実施の形態に係る高電圧印加装置の電気的配線図である。
【図7】図6の高電圧印加装置の使用方法の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の第1の実施の形態に係る高電圧印加装置1を、図面にしたがって説明する。
図1に示すように、高電圧印加装置1は、高電圧発生部3、高電圧コントローラ33、高電圧パルス印加部41とから主になっており、装置本体内に高電圧発生部3と高電圧コントローラ33が格納されている。高電圧パルス印加部41には手持ち部43が一体に取り付けられて手動による印加作業が可能となっている。
図2に示すように、高電圧発生部3は低電圧ケーブルXを介して高電圧コントローラ33と接続され、高電圧ケーブルYを介して高電圧パルス印加部41と接続されている。
【0016】
高電圧発生部3は、図1に示すように、設置型ハウジング5で構成され、内部が収容空間となっている。その内部空間に、ユニット化された正極方向に帯電させる正極の高電圧発生装置7と、被印加体(O)を負極方向に帯電させる負極の高電圧発生装置7’と、調整用のコンデンサ8とがそれぞれ出し入れ自在に収容されている。
【0017】
図3に示すのは、正極の高電圧発生装置7であり、入力側には複数の端子9(9a〜9g)を有するメタルコネクタ10が備えられている。その右側には昇圧変圧器11が配置されており、昇圧変圧器11の右側にはコッククロフトウォルトン回路13が配置されている。コッククロフトウォルトン回路13は複数のコンデンサ15と複数のダイオード17とから成っている。コッククロフトウォルトン回路13の右側には出力用抵抗19が配置されており、出力用抵抗19の右側には出力端21が配置されている。昇圧変圧器11、コッククロフトウォルトン回路13の下側にはブリーダ抵抗23、25、保護抵抗27が配置されている。符号29は温度センサを示し、この温度センサ29は昇圧変圧器11の近傍に配置されている。
【0018】
昇圧変圧器11の一次側コイルは端子9a、9b、9cを介して高電圧コントローラ33に接続されている。昇圧変圧器11の二次側コイルはコッククロフトウォルトン回路13に接続されている。コッククロフトウォルトン回路13の高電圧側(図2において右側)には出力用抵抗19の一端が接続されており、この出力用抵抗19の他端は出力端21に接続されている。
また、コッククロフトウォルトン回路13の高電圧側にはブリーダ抵抗23の一端が接続されており、ブリーダ抵抗23の他端にはブリーダ抵抗25の一端が接続されている。ブリーダ抵抗25の他端は端子9fを介して高電圧コントローラ33に接続されており、高電圧コントローラ33内で接地されている。
【0019】
ブリーダ抵抗23とブリーダ抵抗25との接続点は端子9eを介して高電圧コントローラ33に接続されている。
昇圧変圧器11の二次側コイルの一端は端子9dを介して高電圧コントローラ33に接続されている。保護抵抗27の一端は端子9dに接続され、他端は端子9fに接続されている。
また、温度センサ29の一端は端子9gを介して高電圧コントローラ33に接続されており、他端はメタルコネクタ10を介して高電圧コントローラ33内で接地されている。
【0020】
負極の高電圧発生装置7’は、ダイオード17の方向が逆になっていることを除いては、正極の高電圧発生装置7と同じ構成を有している。
また、正極の高電圧発生装置7と負極の高電圧発生装置7’のそれぞれの出力用抵抗19、19はそれぞれの出力端21と接続点22との間に介装されており、対極側への逆流が緩和されている。
【0021】
高電圧コントローラ33には、CPU35の他に、高電圧パルスの印加方法、即ち、電圧、時間、印加タイミングを規定したプログラムが記憶されたメモリ37と、直流電源の電源ラインに介挿されるトランジスタ39が備えられている。
高電圧コントローラ33は、制御手段としての機能を担っており、上記構成要素のプログラムに従った制御・監視により、入力電圧・電流値、出力電圧・電流値、温度異常を監視しながら、所望の高電圧の安定した発生を可能としている。プログラムは固定でなく、オンボード上での書き換えが可能となっている。
この高電圧印加装置1によれば、高電圧コントローラ33が、正極の高電圧発生装置7と、負極の高電圧発生装置7’とに交互に制御信号を送ってそれぞれの装置を択一的に動作できる。
【0022】
高電圧パルス印加部41は、図2に示すように、長棒状を為しており、左方から保護筒としての機能を担う手持ち部43、保護カバー45、および放電ギャップカバー47がそれぞれ連結されて一体になっている。
手持ち部43は導電材、例えば金属材で構成されており、アース線44が接続されている。保護カバー45は絶縁体、例えばPVC、PE、PP、POM、PETP、PFA、PTFEなどで構成されている。放電ギャップカバー47は透明乃至半透明で、上記した絶縁体や、10〜1010Ω程度の抵抗値を有する半導電体、例えば、PVC、PETP、PMMA、PCなどで構成される。
【0023】
高電圧ケーブルYは放電ギャップカバー47側まで延びており、その先端側に球状の放電側電極49が裸出している。
この放電側電極49に放電ギャップを介して球状の接地側電極51が対向している。棒状の連結部53を挟んでこの接地側電極51の反対側には印加側電極55が裸出している。
したがって、屋外で作業しても、周囲の環境にかかわらず、継続して安定的に、且つ安全に高電圧パルスが出せるようになっている。
【0024】
高電圧印加装置1は、上記した構成を備えており、図4に示すように、印加側電極55を菌床に接触させて、電気的刺激を与える。
菌床は絶縁性容器等に収められているので、電気的刺激を与えると電荷が逃げずに滞留する。
【0025】
高電圧パルスの印加は、図5に示すように色々なパターンが考えられる。
例1は、正極の高電圧発生装置7と、負極の高電圧発生装置7’を交互に同値まで動作させてパルス電圧を発生した例である。正極側から負極側、またはその反対に負極側から正極側へと帯電方向を交互に代えているので、正極の高電圧発生装置7または負極の高電圧発生装置7’のいずれか一方のみを動作させた場合の2倍の強さの電気的刺激を与えることができる。
例2は、正極の高電圧発生装置7と負極の高電圧発生装置7’をそれぞれ複数回動作させてから交替させた例である。必要な電気的刺激が比較的弱い場合には、このように複数回同極側で電気的刺激を与えた後に、反転させてもよい。例1より、電気的刺激は弱くなるが、正極の高電圧発生装置7と負極の高電圧発生装置7’の間の逆流のリスクは格段に減る。
例3は、正極側の値を負極側の値より高くした例である。
【0026】
栽培物や培地材の種類、形状、大きさ、湿気等の周囲環境などで、菌床に必要な電気的刺激や電荷の飽和し易さが異なる。従って、上記のことを考慮した上で、高電圧パルスの印加パターンを決め、プログラミングすることになる。
例1が標準的なパターンであるが、負極側がより飽和し易い場合には、例3のパターンが好ましく、正極側がより飽和し易い場合には、例3の逆パターンが好ましい。
【0027】
本発明の第2の実施の形態に係る高電圧印加装置61を、図6にしたがって説明する。
高電圧印加装置61は、第1の実施の形態に係る高電圧印加装置1と同じ構成部分を備えており、同じ構成部分は同じ符号を付して詳細な説明を省略する。
この高電圧印加装置61では、正極の高電圧発生装置7には正極側の高電圧パルス印加部41が接続され、負極の高電圧発生装置7’には負極側の高電圧パルス印加部41’が接続されている。負極側の高電圧パルス印加部41’は、正極側の高電圧パルス印加部41と同じ構成となっている。
【0028】
正極側、負極側のいずれも高電圧発生装置7、7’にも、逆流緩和抵抗器である出力用抵抗19に相当するものは備えられていない。
その代わりに、正極側の高電圧パルス印加部41の連結部53と、負極側の高電圧パルス印加部41’の連結部53との間が短絡部63によって短絡されており、放電側電極49と接地側電極51との間のギャップを利用して対極への逆流を阻止している。
ギャップ長さは調整可能になっており、電圧の大きさに応じて変更することで逆流を安定的に防止することができる。但し、被印加体(O)に電荷飽和点以上の電荷を与えようとすると、対極への逆流が起こるので、電気的刺激を与える作業に際しては、印加レベルを被印加体(O)に電荷飽和点未満に抑えることが好ましい。また、同様の理由で、正極側と負極側の印加レベルと略同じに揃えると共に、ギャップ長も略同じに揃えることが好ましい。
【0029】
この高電圧印加装置61を使用すると、図7に示すように、駆動させた側の高電圧パルス印加部41(または41’)の先端の印加側電極55からは菌床に向けて電荷が供給されていくと共に、残りの電荷は短絡部63を介して他方側の駆動させた側の高電圧パルス印加部41’(または41)の連結部53に向かい、そこに留まり、逆流が阻止される。
【0030】
以上、本発明の実施の形態について詳述してきたが、具体的構成は、この実施の形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における設計の変更などがあっても発明に含まれる。
例えば、上記の実施の形態では、高電圧発生回路としてコッククロフトウォルトン回路13が利用されている。小型で、比較的容易に、しかも安価に入手できるようになっているからである。しかしながら、これに限らず、静電発電機、ウィムスハースト発電機、ヴァンデグラーフ発電機、圧電トランス高電圧発生装置などを利用してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明の高電圧印加装置は、正極の高電圧発生回路と、負極の高電圧発生回路を併用することで、コッククロフトウォルトン回路を利用して装置を小型化しても、必要な強さの電気的刺激を与えることができ、取扱い易くなっている。
【符号の説明】
【0032】
1…高電圧印加装置(第1の実施の形態)
3…高電圧発生部 5…設置型ハウジング
7…正極の高電圧発生装置 7’…負極の高電圧発生装置
8…調整用コンデンサ 9…入力側端子
10…メタルコネクタ 11…昇圧変圧器
13…コッククロフトウォルトン回路 15…コンデンサ
17…ダイオード 19…出力用抵抗
21…出力端 22…接続点
23、25…ブリーダ抵抗
27…保護抵抗 29…温度センサ
33…高電圧コントローラ 35…CPU
37…メモリ 39…トランジスタ
41…高電圧パルス印加部 43…手持ち部
44…アース線 45…保護カバー
47…放電ギャップカバー 49…放電側電極
51…接地側電極 53…連結部
55…印加側電極
61…高電圧印加装置(第2の実施の形態)
41’…高電圧パルス印加部 63…短絡部
X…低電圧ケーブル Y…高電圧ケーブル
O…被印加体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高電圧発生部と、前記高電圧発生部をコントロールする高電圧コントローラと、前記高電圧発生部の出力端が接続された高電圧パルス印加部を有する高電圧印加装置であって、
前記高電圧発生部には、正極の高電圧発生装置と、負極の高電圧発生装置とが並列に接続されており、
前記高電圧コントローラは、前記正極の高電圧発生装置と、前記負極の高電圧発生装置とに択一的に制御信号を送ることを特徴とする高電圧印加装置。
【請求項2】
請求項1に記載した高電圧印加装置において、
正極の高電圧発生装置と負極の高電圧発生装置との間の逆流を防止する逆流防止手段を備えることを特徴とする高電圧印加装置。
【請求項3】
請求項2に記載した高電圧印加装置において、
逆流防止手段は、正極の高電圧発生装置と負極の高電圧発生装置のそれぞれの出力端と接続点との間に介装された抵抗であることを特徴とする高電圧印加装置。
【請求項4】
請求項2に記載した高電圧印加装置において、
正極の高電圧発生装置と負極の高電圧発生装置のそれぞれに対応して正極側の高電圧パルス印加部と負極側の高電圧パルス印加部を備え、
逆流防止手段として、前記正極側の高電圧パルス印加部と前記負極側の高電圧パルス印加部との間が短絡されていることを特徴とする高電圧印加装置。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載した高電圧印加装置において、
高電圧コントローラは、プログラム可能な制御手段を備えることを特徴とする高電圧印加装置。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかに記載した高電圧印加装置において、
手持ち部を備え、
高電圧パルス印加部は、前記手持ち部に一体に設けられ、高電圧発生部の出力端が接続される放電側電極と、前記放電側電極と放電ギャップを介して対向した接地側電極と、前記接地側電極と導通され被印加体に印加する印加側電極とを備え、保護筒内に前記高電圧パルス印加部の大部分が収容され、前記印加側電極のみが露出していることを特徴とする高電圧印加装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−186885(P2012−186885A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−46658(P2011−46658)
【出願日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【出願人】(309007818)友信工機株式会社 (19)
【Fターム(参考)】