説明

魚介類の感染予防及び/又は治療剤

【課題】感染症に対して予防及び/又は治療効果を有し、安価で副作用もない感染症の予防及び/又は治療剤、この予防及び/又は治療剤を投与することによる魚介類の感染予防及び/又は治療方法、前記薬剤を含有する飼料、これを投与することによる魚介類の養殖方法ならびに硫酸化処理されたフコイダンの製造方法を提供し、養殖場における魚介類の感染症を改善すること。
【解決手段】硫酸化処理されたフコイダンを有効成分とする魚介類の感染予防及び/又は治療剤、該感染予防及び/又は治療剤の有効量を投与することを特徴とする魚介類の感染症の予防及び/又は治療方法、前記感染予防及び/又は治療剤を含有する魚介類の養殖用飼料、該飼料を給餌することを特徴とする魚介類の養殖方法、ならびにフコイダンを酸性下で硫化アミン系化合物と混合して硫酸化処理する工程を有することを特徴とする硫酸化処理されたフコイダンの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、魚介類のウイルスまたは病原性細菌などによる感染を予防及び/又は治療する薬剤、これを投与することによる魚介類の感染予防及び/又は治療方法、前記薬剤を含有する養殖用飼料ならびにこれを投与することによる魚介類の養殖方法に関する。また、本発明は、硫酸化処理されたフコイダンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
クルマエビ(Penaeus japonicus)、ウシエビ(Penaeus monodon)などの甲殻類、ブリ、マダイ、ヒラメなどの養殖場では、魚介類が高い密度で飼育されているため、病気が発生することが多い。病気の原因としては、病原性細菌、ウイルス、寄生虫などによる感染が主であり、従来から様々な対策が講じられている。
【0003】
前記感染症の中でも、近年、エビを死滅させるウイルス感染症であるクルマエビ類急性ウイルス血症(Penaeid acute viremia(PAV))は、深刻な被害を発生させている。この感染症は、1993年に日本において初めて確認された感染症であるが、ピネイッド桿状DNAウイルス(Penaeid rod-shaped DNA virus(PRDV)、ニマウィルス科 ウィスポウィルス属)という病原性ウイルスにより媒介される。また、同様の病原性ウイルスとして、イエローヘッド病を引き起こすイエローヘッドウイルス(Yellowhead virus)が知られている。また、養殖される魚類においてもウイルス感染症や連鎖球菌症など発生頻度の高い感染症が知られており、いずれも重篤な被害をもたらしている。
【0004】
これらの感染症に対しては、これまで抗生物質や免疫活性物質などを投与するなどの対応処置がとられている。しかしながら、抗生物質を投与する場合、養殖している魚介類などへの残留が懸念され、またその効果は必ずしも満足できるものではなかった。
【0005】
一方、近年、海藻由来のフコイダンを用いて養殖場などにおける魚介類の感染を予防・治療する試みが行われているものの、まだ被害の発生は減少しておらず、より効果の高い新たな感染の予防・治療剤が要望されている(特許文献1〜8参照)。
【特許文献1】特開2004−30736号公報
【特許文献2】特開2000−336035号公報
【特許文献3】特開平11−80003号公報
【特許文献4】国際公開第2002/092114号公報
【特許文献5】国際公開第98/42204号公報
【特許文献6】特開平6−234651号公報
【特許文献7】特開平11−180813号公報
【特許文献8】特開平6−234652号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、本発明の目的は、魚介類の感染症に対して、フコイダンより高い予防及び/又は治療効果を有する感染予防及び/又は治療剤、この予防及び/又は治療剤を投与することによる魚介類の感染予防及び/又は治療方法、前記予防及び/又は治療剤を含有する養殖用飼料、これを投与することによる魚介類の養殖方法ならびに硫酸化処理されたフコイダンの製造方法を提供し、養殖場における魚介類の感染症を改善することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そこで、本発明者らは、鋭意研究を行った結果、硫酸化処理されたフコイダンが、天然物由来のフコイダンに比べて、ウイルスなどによる魚介類の感染症の予防・治療が顕著に高いことを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明の要旨は、
〔1〕 硫酸化処理されたフコイダンを有効成分とする魚介類の感染予防及び/又は治療剤、
〔2〕 硫酸化処理されたフコイダンがフコイダンを溶解促進剤および硫化アミン系化合物と混合することで得られたものである前記〔1〕記載の魚介類の感染予防及び/又は治療剤、
〔3〕 溶解促進剤がテトラヒドロフランである前記〔2〕記載の魚介類の感染予防及び/又は治療剤、
〔4〕 未処理フコイダンの硫酸化率に対する硫酸化処理されたフコイダンの硫酸化率(硫酸化処理されたフコイダン/未処理フコイダン)が1.5倍以上である〔1〕〜〔3〕いずれか記載の魚介類の感染予防及び/又は治療剤、
〔5〕 硫酸化処理されたフコイダンの表面張力が25℃、湿度40%の条件で45〜60mN/mである前記〔1〕〜〔4〕いずれか記載の魚介類の感染予防及び/又は治療剤、
〔6〕 硫酸化処理されたフコイダンの水に対する溶解度が8〜48g/100mLである前記〔1〕〜〔5〕いずれか記載の魚介類の感染予防及び/又は治療剤、
〔7〕 前記〔1〕〜〔6〕いずれか記載の魚介類の感染予防及び/又は治療剤の有効量を投与することを特徴とする魚介類の感染症の予防及び/又は治療方法、
〔8〕 前記〔1〕〜〔6〕いずれか記載の魚介類の感染予防及び/又は治療剤を含有する魚介類の養殖用飼料、
〔9〕 前記〔8〕記載の飼料を給餌することを特徴とする魚介類の養殖方法、
〔10〕 フコイダン、溶解促進剤および硫化アミン系化合物を混合して硫酸化処理する工程を有することを特徴とする硫酸化処理されたフコイダンの製造方法
に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の感染予防及び/又は治療剤を使用することにより、病原性ウイルスが魚介類へ感染することを顕著に予防したり、感染した魚介類を治療することができる。これにより感染で生じる魚介類の死亡や商品価値の低減を防ぎ、魚介類の養殖業者の経済的損失を最小限に抑えることができる。
なお、本発明において「感染予防及び/又は治療剤」とは、感染症の予防または治療の一方、あるいは両方に使用できる薬剤を意味する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明でいうフコイダンとは、主としてフコース、ガラクトース、マンノース、キシロースなどの単糖類が直鎖状及び/又は分岐鎖状に結合した分子量数十万前後の硫酸化多糖類である。前記フコイダンは、コンブ、ワカメ、ヒジキ、モズク、ウミウチワ、マコンブなどの褐藻類などに豊富に含有されており、人体に無害のものである。
本発明に用いるフコイダンは、前記褐藻類などの天然物由来のものであればよく、抽出物が好ましいが、抽出方法などについては特に限定されない。また、加水分解などして低分子化処理されたものやさらに精製処理されたものでもよい。
【0011】
本発明では、前記フコイダンを硫酸化処理したものを用いる。
硫酸化処理とは、フコイダンを構成する単糖の2位や4位などの位置にある水酸基に硫酸基を付加する処理をいう。本発明において、前記フコイダンを溶解促進剤および硫化アミン系化合物と混合することで硫酸化処理を行う。
【0012】
前記硫酸化処理において、溶解促進剤としてはテトラヒドロフラン(THF)、ピリジン、ピリジン無水酢酸、ジメチルアセトアミド(DMF)などが挙げられ、中でも、取り扱い易く、経済性に優れる観点から、THFが好ましい。溶解促進剤の使用量としては、液体状の硫化アミン系化合物にフコイダンが溶ける程度または後述の有機溶媒にフコイダンが溶ける程度に添加すればよい。
【0013】
前記硫化アミン系化合物としては、硫酸基を含有するピリジン錯体、硫酸基を有するトリメチルアミン錯体、サルファオキサイドなどが挙げられる。これらの硫化アミン系化合物は、単独で又は2種以上を混合して用いてもよい。
【0014】
また、硫化アミン系化合物は、必要であればアミンなどの他の成分を併用してもよい。アミンなどの量としては、特に限定はない。
【0015】
前記フコイダン、溶解促進剤および硫化アミン系化合物を混合して行う硫酸化処理条件としては、例えば、常温を越える温度で混合する場合、1〜2日程度静置することが好ましく、硫酸化処理を効率よく行える観点から、60℃付近で20〜30時間程度静置することがより好ましい。また、混合時には攪拌などしてもよい。
【0016】
前記フコイダンと硫化アミン系化合物との混合割合については、フコイダン:硫化アミン系化合物(重量比)が、1:2〜1:15好ましくは1:10〜1:15となるように調整することが望ましい。
【0017】
また、前記硫酸化処理は、前記硫化アミン系化合物を有機溶媒と混合した後、前記フコイダンと混合して行うことが好ましい。有機溶媒は、硫化アミン系化合物およびフコイダンを溶解させるために用いられ、かかる状態で硫化アミン系化合物と混合することで、フコイダンの硫酸化が効率よく行える。
前記有機溶媒としては、メタノール、クロロホルム、ジオキサン、ジメチルホルムアミド、トルエン、エチルエーテルなどが挙げられる。これらの有機溶媒は、単独でまたは2種以上を混合して用いることができる。中でも、効率よく反応を行える観点から、ジメチルホルムアミドの有機溶媒が好ましい。
【0018】
前記有機溶媒の量としては、フコイダン1gに対して有機溶媒が10〜30mL、好ましくは10〜20mLとなるように調整することが望ましい。
【0019】
前記硫酸化率などが目的の数値になることを確認することで硫酸化処理を終了すればよい。処理後、前記混合物を遠心分離することで沈殿物を得、この沈殿物をクロロホルム、アセトンなどの有機溶媒で洗浄する。洗浄後、沈殿物をトリフルオロ酢酸と混合して、常温にて0.5〜2時間程度放置することで、残った硫酸アミン系化合物を分解させる。次いで、3〜8倍溶のクロロホルム、アセトンなどの有機溶媒で処理物を洗浄することで、硫酸化処理されたフコイダンを得ることができる。
【0020】
硫酸化処理されたフコイダンは、前記のように洗浄した処理物から有機溶媒などを脱気して除去したのち、乾燥させることで固形物とすることができる。
【0021】
前記のようにして得られる硫酸化処理されたフコイダンは、天然物由来の未処理フコイダンに比べて、その硫酸化率の比(硫酸化処理されたフコイダン/未処理フコイダン)が1.5倍以上であるものが好ましく、2〜10倍であるものがより好ましい。
なお、本発明において硫酸化率とは、フコイダン中における硫黄含量を百分率で示した値をいう。
硫酸化処理されたフコイダンの硫酸化率としては8.0%以上であるものが好ましく、9.0%以上であるものがより好ましい。硫酸化率は、元素分析法にて硫黄含量を測定することで得ることができる。
【0022】
本発明で用いられる硫酸化処理されたフコイダンは、海藻などの天然原料から抽出された未処理フコイダンに比べて、前記硫酸化率の点で相違したものである。
したがって、本発明は、フコイダン、溶解促進剤および硫化アミン系化合物を混合して硫酸化処理する工程を有することを特徴とする新規な物性を有するフコイダンの製造方法に関する。
【0023】
また、前記硫酸化処理されたフコイダンの25℃,湿度40%の条件における表面張力は、硫酸化処理されている観点から、45mN/m以上であることが好ましく、45〜60mN/mであることがより好ましい。
【0024】
硫酸化処理されたフコイダンの水に対する溶解度(23.5℃)は、効果効能の観点から、8〜48g/100mLであることが好ましく、8〜25g/100mLであることがより好ましい。
【0025】
本発明の感染予防及び/又は治療剤は、前記硫酸化処理されたフコイダンを有効成分として含有するものであり、前記硫酸化処理されたフコイダンそのものを用いてもよいし、その形態により、他の成分を含有してもよい。
【0026】
本発明の感染予防及び/又は治療剤の形態は、特に限定されず、例えば、シロップ剤、乳剤、懸濁剤、注射剤などの液剤、錠剤、細粒剤、顆粒剤、散剤、丸剤、カプセル剤、トローチ剤などの固形製剤などとすることができる。これらの製剤の調製には製剤の種類に応じて、慣用の担体成分を用いることができる。
【0027】
固形製剤の調製には、例えば、賦形剤、結合剤、潤沢剤、崩壊剤、崩壊助剤、糖類、保湿剤、界面活性剤などを使用することができる。また、液剤の調製には、例えば、溶剤、溶解補助剤、緩衝剤、懸濁剤、等張化剤、界面活性剤、無痛化剤、ブドウ糖、アミノ酸などを使用することができる。また、固形製剤や液剤には、保存剤、抗酸化剤、可溶化剤、乳化剤、増粘剤、可塑剤、吸着剤、香料、着色剤、分散剤、甘味剤、防腐剤なども使用できる。
【0028】
本発明の感染予防及び/又は治療剤は、その形態に応じて、例えば、混和、混練、造粒、打錠、コーティング、滅菌処理、乳化などの慣用の方法により、製造することができる。
【0029】
また、本発明では、前記のように製造された感染予防及び/又は治療剤の有効量を魚介類に投与することで魚介類の感染症の予防及び/又は治療を行うことができる。
【0030】
前記投与方法としては、常套手段に従って行えばよく、本発明の感染予防及び/又は治療剤をそのまま、あるいは担体成分に担持して投与してもよい。なお、有効量とは、予防及び/又は治療効果が奏される量をいう。
【0031】
本発明の感染予防及び/又は治療剤を魚介類の感染症の予防・治療目的で用いるには、通常経口または非経口で魚介類に投与される。感染予防及び/又は治療剤の投与量は魚介類の種類、体重、症状、治療効果、投与ルート等により異なり、これらを考慮して適宜設定されるが、例えば、エビ類であれば、有効成分である硫酸化処理されたフコイダンの量が0.66g/kg・日程度が好ましい。これを1日1回であるいは2〜数回に分けて投与される。投与量は目的やその他の種々の条件によって変動するので、上記投与量範囲より少ない量で十分な場合もある。エビ類以外の魚介類であれば上記のエビ類に準じて投与量を調整すればよい。
【0032】
また、本発明の感染予防及び/又は治療剤は、魚介類の養殖に用いられる飼料原料に配合してもよい。養殖用飼料に混合又は配合する感染予防及び/又は治療剤の量は魚介類の種類や養殖方法により異なるが、飼料の給餌量としては1日に魚介類の体重の1%程度がよい。本発明の感染予防及び/又は治療剤を配合した飼料を魚介類に給餌することで、魚介類の感染症を予防し、また、感染後の魚介類に給餌することで感染症の悪化を防ぎ、治療を行うことができる。
また、治療方法としては、例えば、エビ類の養殖場においてPRDVなどの病原性ウイルスの感染が確認された場合、その養殖場内のエビ類を治療剤を含有する処理液で洗ったり、処理液中にエビ類を所定の時間浸漬させる方法などが挙げられる。前記処理液は、例えば、養殖場付近の海水、真水、生理食塩水などに、本発明の予防及び/又は治療剤を有効量配合することで調製することができる。
【0033】
本発明の感染予防及び/又は治療剤は、例えば、クルマエビ、ウシエビ(ブラックタイガー)、コウライエビ、クマエビ、イセエビ、ペナエウス・バンナメイ(Penaeus vannamei)、ガザミなどの甲殻類、コイ、フナ、ウナギ、ニジマス、アユ、キンギョなどの淡水魚、フグ、タイ、ヒラメ、カレイ、アジ、ブリ等の海水魚に対して投与することができる。
【0034】
また、適用できる感染症としては、PRDV、イエローヘッドウイルス、イリドウイルス、ビルナウイルスなどのウイルス感染症、ビブリオ、シュードモナス、連鎖球菌などの細菌感染症が挙げられる。中でも、感染後の致死率の高いPRDV、イエローヘッドウイルスに対しても効果が高く好ましい。
【0035】
本発明に用いられる硫酸化処理されたフコイダンが、従来の天然物由来の未処理フコイダンに比べて魚介類の感染症の予防又は治療に顕著な効果を示すメカニズムは未だ明確ではないが、感染症を媒介する細菌やウイルスの表面にある糖脂質や糖鎖は、体内細胞にくっついて感染するときに重要な役割を果たしていることがわかっているので、例えば、フコイダンを構成する単糖中の硫酸基の数が増加することで、細菌やウイルスの細胞への付着を顕著に防いで、感染を防ぐことが考えられる。また、硫酸化処理されたフコイダンは、未処理フコイダンに比べて魚介類の免疫系をより顕著に活性化するため、既に感染症を発症している魚介類に対しても治療効果を奏することが考えられる。したがって、前記硫酸化処理されたフコイダンを有効成分として含有する本発明の感染予防及び/又は治療剤は、上記効果が相乗的に作用することで天然物由来のフコイダンに比べて顕著な予防又は治療効果を生じていると考えられる。
【実施例】
【0036】
(実施例1) 硫酸化処理されたフコイダンの調製方法
硫酸トリオクサイド・トリメチルアミン複合体(N Me3・SO3)4gをジメチルホルムアミド30mLに入れて溶解させ、次いで、フコイダン(焼津水産化学社製、商品名フコイダンYSK(NB))3.2gを混合した。次いで、150rpmで混合物を攪拌しながら、溶解促進剤(THF:テトラヒドロフラン)を3%になるように滴下した後、60℃下で30時間静置した。その後12000rpm、10分間の遠心で沈殿物を得た。これをクロロホルムで洗い、さらに50%TFA(トリフルオロ酢酸)に2時間、常温に静置した。
静置後、混合物をシリカゲルクロマトグラフィー(抽出溶媒:アセトン)により、硫酸化処理されたフコイダンを分離して回収した後、有機溶媒を脱気し、さらに0.5%TFAを加えたアセトンで洗浄して乾燥させた。得られた硫酸化処理されたフコイダンは茶色の粉末状固形物であった。
【0037】
硫酸化処理されたフコイダンの物性(表面張力、溶解度、硫酸化率)を測定したところ、表面張力は47.2mN/m、水に対する溶解度20.0g/100mL、硫酸化率が約9.6%であった。
なお、未処理のフコイダンの物性は、表面張力38.3mN/m、水に対する溶解度40.0g/100mL程度、硫酸化率3.78%程度であった。
【0038】
なお、前記表面張力は、25℃,湿度40%の一定の環境で表面張力測定装置(ウイルヘルミー型)を用いて測定した。具体的にはフコイダンを溶解した水溶液(濃度:0.5wt%)をビーカーの中に入れて、白金盤を糸で釣り垂らし、液体表面に付いたときに白金が液に引かれる力を測定した。
溶解度は、一定温度で、水100gに溶けるフコイダンの質量(g)で表した。
硫酸化率は、元素分析機器にてフコイダン中の硫黄含量(重量)を測定して算出した。
【0039】
(実施例2) 〔予防剤としての作用効果〕
クルマエビ(松本水産(株)より購入、1尾あたり約10g)を3日間海水の入った水槽(30L容、水温23℃、43mL/分でエアレーション)内で休ませた後、予防効果の実験に供した。
海水を入れた別の水槽(条件は同じ)にPRDVの濃度を186μg/mLとなるように入れ、次いで、予防剤として実施例1で得られた硫酸化処理されたフコイダン0mg/mL、5mg/mL、20mg/mL、未処理フコイダン(焼津水産化学社製、商品名フコイダンYSK(NB))5mg/mLとなるように濃度を変えたものをそれぞれ用意した。
各水槽にクルマエビを20尾づつ入れ、0、24、48、72、80時間毎に死亡率を測定した。その結果を図1に示す。
【0040】
図1に示すように、フコイダンを含まない場合および未処理フコイダンを用いた場合に比べて、硫酸化処理されたフコイダンでは死亡率が有意に低いことがわかる。特に、80時間後の死亡率について、フコイダンを加えた場合でも100%となるのに対して、硫酸化処理されたフコイダンが20mg/mLの場合では40%程度であることから、硫酸化処理されたフコイダンの予防効果は顕著な差があることがわかる。
なお、本実験は、予防剤を一定期間与えた後に病原性ウイルスの攻撃を行う予防効果の実験に比べて、より厳しい条件下で行っており、かかる条件下でも効果が確認されていることから、予防効果は顕著なものであることがわかる。
【0041】
(実施例3) 〔治療剤としての作用効果〕
浸漬法にてPRDVに感染させたクルマエビを用いて、実施例1で得られた処理剤の治療効果を以下の手順に従って調べた。
【0042】
〔試験条件〕
供試サンプル: クルマエビ(約10g)を松本水産より購入後、2日間水槽にて休ませた後、実験に使用。
PRDV溶液: PRDVに感染した2尾のエビの心臓(各0.2g)を取り出し、生理食塩水2mL内にて粉砕した後に10倍希釈したものをPRDV溶液とする。
抗PAV溶液: 実施例1で得られた硫酸化処理したフコイダンの濃度が10mg/mLとなる水溶液を2L作製(試験区)
実験使用尾数: 1試験区当たり20尾(合計:40尾)
水槽の状態: 水温23℃、エアレーション(43 mL/min)
死亡確認時間: 水槽に戻してから0、12、24、48、60、72、84、96、108、120時間後
測定項目: 体重、死亡数、時間、PRDV溶液のPRDV量
【0043】
〔実験方法〕
対照区と試験区の水槽に2Lの海水およびエアレーションを入れた後、PRDV溶液をそれぞれ5mL入れたのを浸漬用とした。それぞれの水槽にクルマエビを20尾づつ入れて、2時間放置し、PRDV感染をさせた。その後、対照区は37Lの水槽にクルマエビのみを戻し、試験区の20尾は、さらにエアレーションの入った抗PAV溶液に2時間浸漬させた後、別の水槽に戻し、実験を行った。結果を図2に示す。
【0044】
図2に示されるように、対照区のクルマエビは感染処理から4日後には全て死んだのに対し、処理区のクルマエビは4日後でも生存率が50%あり、7日後でも生存率は30%であった。通常、本実験でPRDVに感染したクルマエビの死亡率が100%であることを考慮すると、本発明の処理剤の治療効果は顕著なものであるといえる。
なお、上記処理期間中、処理区のクルマエビには、通常のエビと同様に行動障害などの悪影響は見られなかった。
【0045】
(実施例4)〔飼料の調製〕
以下の配合量にてエビ養殖用飼料を調製した。
125μメッシュのふるいにかけたイカ肉35%、オキアミ12%、血合肉10%、さけ白子8%になるように混合した。その後,さらに実施例1で得られた硫酸化処理したフコイダンを抗PAV薬として0.3%加え、脂質8%、残部水を入れて、練り上げた後、ペレット成型機にて、2mmの餌を成型後、オートクレーブにて121℃、15分間滅菌した。その後、温風乾燥機にて乾燥後、エビ養殖用飼料を調製した。このエビ養殖用飼料をクルマエビに与えたところ、通常の飼料と同様に(忌避せずに)摂食した。したがって、硫酸化処理されたフコイダンを配合した飼料を作製することおよび該飼料を魚介類に給餌することで魚介類を養殖することがともに可能であることがわかる。
また、上記の結果より、エビ類以外の魚介類の飼料に硫酸化処理されたフコイダンを配合したり、当該飼料を所望の魚介類に給餌することは、当該分野の日常的な技術を用いれば可能である。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】図1は、実施例2における予防効果の結果を示すグラフである。
【図2】図2は、実施例3における治療効果の結果を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫酸化処理されたフコイダンを有効成分とする魚介類の感染予防及び/又は治療剤。
【請求項2】
硫酸化処理されたフコイダンがフコイダンを溶解促進剤および硫化アミン系化合物と混合することで得られたものである請求項1記載の魚介類の感染予防及び/又は治療剤。
【請求項3】
溶解促進剤がテトラヒドロフランである請求項2記載の魚介類の感染予防及び/又は治療剤。
【請求項4】
未処理フコイダンの硫酸化率に対する硫酸化処理されたフコイダンの硫酸化率(硫酸化処理されたフコイダン/未処理フコイダン)が1.5倍以上である請求項1〜3いずれか記載の魚介類の感染予防及び/又は治療剤。
【請求項5】
硫酸化処理されたフコイダンの表面張力が25℃,湿度40%の条件で45〜60mN/mである請求項1〜4いずれか記載の魚介類の感染予防及び/又は治療剤。
【請求項6】
硫酸化処理されたフコイダンの水に対する溶解度が8〜48g/100mLである請求項1〜5いずれか記載の魚介類の感染予防及び/又は治療剤。
【請求項7】
請求項1〜6いずれか記載の魚介類の感染予防及び/又は治療剤の有効量を投与することを特徴とする魚介類の感染症の予防及び/又は治療方法。
【請求項8】
請求項1〜6いずれか記載の魚介類の感染予防及び/又は治療剤を含有する魚介類の養殖用飼料。
【請求項9】
請求項8記載の飼料を給餌することを特徴とする魚介類の養殖方法。
【請求項10】
フコイダン、溶解促進剤および硫化アミン系化合物を混合して硫酸化処理する工程を有することを特徴とする硫酸化処理されたフコイダンの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−169181(P2008−169181A)
【公開日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−6257(P2007−6257)
【出願日】平成19年1月15日(2007.1.15)
【出願人】(501110134)株式会社関門海 (14)
【Fターム(参考)】