説明

魚介類の閉鎖循環式養殖方法

【課題】魚介類の閉鎖循環式養殖装置を用いる飼育方法において、設備を簡略化して従来技術に比べて設備コスト及び運転維持管理の手数及びコストを大幅に低減できるとともに、養殖魚に特有の臭い及び身質が著しく改善された養殖魚の飼育方法を提供する。
【解決手段】飼育槽から抜き出した残餌や糞及び飼育魚が排泄したアンモニア及び有機性排泄物などを含む循環水から、懸濁物質及び排泄物質を分離または分解処理する主たる装置として、膜分離活性汚泥処理装置を備えた魚介類の閉鎖循環式養殖装置を使用して養殖魚を飼育するにあたり、膜分離活性汚泥処理装置の曝気槽に粒子状活性炭を添加して運転する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、飼育槽の水を浄化装置に通して浄化・循環させながら魚介類を飼育する閉鎖循環式養殖装置を用いた養殖方法に関する。さらに詳しくは、膜分離活性汚泥処理装置を魚介類が排泄したアンモニアや有機性排泄物の分解除去装置とする、飼育水を循環させて食用の魚介類を陸上の飼育槽中において高密度で養殖する閉鎖循環式養殖装置を用いた養殖方法に関する。
背景技術
【0002】
従来から、食用等の魚介類の陸上養殖は、海に近接した陸上において、海水または海水が地中に浸透した海水浸透水を、陸上の飼育槽へ多量に連続的にくみ上げて供給しつつ排水する「かけ流し方式」により行われている。あるいは、河川または湖沼などに隣接する陸上において、河川水、湖沼水または地下水等をくみ上げて飼育槽に供給しつつ排水する「かけ流し方式」により行われている。排水中には餌の残りかすや糞、粘性物質などの有機性排泄物が含まれている。したがって、特に閉鎖性水域に面している場合には、海域や湖沼の汚染を引き起こし、近接する自然界の生物相に著しい悪影響を与えるのみならず、飼育水として汲み上げている養殖場自体も水質汚染の影響を受けて、魚病発生や生育不良等の被害を受けることになる。
【0003】
さらに、従来の「掛け流し方式」では、取水された飼育水中に魚病の原因となる細菌やウィルスなどが生存していることがあるので、しばしば魚病が発生し大きな被害を受けている。特に最近は、一般的にも周辺水域の環境汚染が進んでおり、その結果、魚病の原因菌も増加しているため養殖業に大きな被害を与えている。このような問題に対して、成長を促進する化学物質に加えて、魚病対策には合成殺菌剤や抗生物質等の医薬品等が相当量使用されることになり、魚体中の残留化学物質の問題だけでなく、化学物質や医薬品等の環境中への排出も問題となっている。
【0004】
また、「かけ流し方式」であると、海から離れた場所で海水性魚介類を養殖することが困難であった。さらには、エビ等の暖水性魚介類を養殖する場合や、魚介類の成長に最適な水温を保とうとする場合、「かけ流し方式」は温度調節のために多大なエネルギーを要するという問題もあった。
【0005】
そこで近年、上述のような問題点を解決しうる方式として、飼育水を循環しつつ浄化処理をして用いる、閉鎖循環式養殖の技術に関する研究開発が種々進められ、一部、試験的な商業生産が行われるようになって来ている。
【0006】
従来開発されてきた閉鎖循環式養殖装置は基本的に次のような装置から構成されている。すなわち、飼育槽から抜き出された飼育水は懸濁物質を除去するための沈殿槽または物理ろ過装置を経由して泡沫分離装置に導入される。物理ろ過には液体サイクロンやドラムフィルターが使用されている。泡沫分離装置は蛋白質や脂質などの微細な懸濁物質を除去するもので、泡沫とともに除去される物質は系外に排出される。泡沫分離装置を通過した飼育水は有機物の分解を目的とする生物処理を受け、さらに飼育魚が排泄するアンモニアを無毒化する硝化装置に供給される。生物処理は、プラスチックスや無機質の担体を充填した槽や、浄水処理に使用されている濾過装置と同様の砂とアンスラサイトを濾材とする濾層等の担体表面に、BODやアンモニアの分解に効率的に作用する微生物を繁殖させた生物濾過が用いられている。硝化処理をされた飼育水は温度調節装置を経由して紫外線殺菌処理装置を通過し、酸素溶入装置で溶存酸素濃度を調節されて、飼育槽に供給される。
【0007】
一般的に、飼育水の循環量は1〜2時間で水槽の飼育水全量が1回入れ替わる程度に循環される。また、飼育水の約5%程度の新鮮水が供給され換水されれば、アンモニアの硝化で生成する硝酸イオン濃度を飼育魚に影響を与えない程度に維持することができて、脱窒処理等が不要とされている。さらに、閉鎖循環式養殖法で長期間運転すると飼育水の着色が進むので、そのためにも数%程度の換水が必要であると言われている。飼育水の換水が行われ難い場合には、泡沫分離−生物処理−硝化処理と並列して一部の循環水を脱窒処理する装置を設置して、処理水を硝化処理後の循環水に合流する方法も提案されている。あるいは、BOD分解と硝化を十分な能力を持った生物濾過槽で同時に行う方法もある。
【0008】
したがって、従来の閉鎖循環式養殖では、糞や餌の残りかす(残餌)等を分離し、アンモニア等の代謝物質を分解処理するために、上述のような複雑で大規模な浄化処理装置の組合せが必要である。その結果、建設費及び運転管理費がかさみ、養殖魚の生産コスト低減を困難にしているという問題がある。多種にわたる多数の設備の運転には、電力費のみならず、維持管理に修繕用備品費と同時に過大な人件費も必要となる。特に海水組成の飼育水を必要とする海水魚の場合には、その腐食性のため金属部品や電気系統などの維持管理が重要な問題となる。さらに、換水は養殖魚の生産コストを押し上げる要因の一つである。すなわち、新鮮水を供給するコストが必要であり、特に環境を考慮して人工海水を使用する陸上閉鎖循環式養殖の場合には、人工海水に使用する塩分の費用が養殖魚の生産コストに相当程度占めることになる。
【0009】
閉鎖循環式養殖の場合、飼育水中に魚病の原因となる細菌やウィルスを持ち込まなければ原理的に魚病発生の恐れはない。しかし、稚魚ないし幼魚が魚病の原因となる細菌やウィルスを潜在的に保有していることもあり、経済的に高密度で飼育することが要求され、魚種によっては細菌が増殖しやすい環境で運転され、給餌も十分に行うことなどから、細菌などが増殖しやすいという問題がある。そのため、従来は紫外線殺菌灯やオゾン処理による殺菌処理法が用いられることが多い。
【0010】
しかし、紫外線による殺菌は、飼育水のように懸濁物や紫外線を吸収する有機物などが多い環境では、懸濁物や有機物に遮光ないし吸収されるため効果が限定的であり、懸濁物や有機物の濃度の変動の影響を受け、殺菌効果に不確実性が付きまとうという問題がある。また、オゾンは殺菌能力が高いものの、飼育水のように水道水などと異なって、BOD負荷が高い場合にはBODすなわち有機物等の分解に費やされる上に、海水組成中の臭素やヨウ素、その他の物質と反応して生物に悪影響を与える様々な物質を生成する。したがって、オゾン添加量を微妙に調整する必要があり、さらに、オゾン処理によるこのような副生物を処理するための工程や設備を追加する必要もある。そのため、オゾン発生装置が高価であるばかりでなく、なお一層コストが増加してしまう。
【0011】
さらに、「かけ流し方式」で飼育された魚にも共通する養殖魚の問題点であるが、閉鎖循環式養殖法で飼育された魚の場合には特に、ともすると身質や臭いなどに関して天然魚に劣るとされている。その理由として、身質の違いは養殖魚の運動不足が原因ではないかと考えられており、臭い等の違いは循環水の浄化処理方法に由来する飼育水の水質にあるのではないかと想像されるがいまだ確かめられてはいない。
【0012】
例えば、特許文献1の養殖装置によると、飼育水槽から引き出された水は、全量が沈殿槽に導入されてスラッジが分離され、次いで、一組となった泡沫分離槽及び硝化槽を通る。そして、この後、一部が脱窒槽を通って沈殿槽に戻され、残りは、紫外線殺菌装置を通って飼育水槽に戻される。すなわち、飼育水槽に戻る水は全て紫外線殺菌を経る。
【0013】
また、本公知例には実施の一例として、沈殿槽の下部から取り出された固形分を含む高度濃縮水を、濾過膜を用いる「固液分離手段」により分離して、この後、分離した水を沈殿槽に戻す方法が示されている。なお、引用文献1の0023段落には、中空糸膜が硝化菌や脱窒菌を通さないため、分離槽内部における濾過膜の外側の部分に、硝化菌や脱窒菌を含む活性汚泥を生息させることができるとの言及があるが、活性炭を濾過膜の外側の部分に添加する運転方法については記載が無いだけでなく示唆する記述もない。
【0014】
特許文献1の養殖装置では、大掛かりな紫外線殺菌装置を必要とする他、循環水の全量を通す大掛かりな硝化槽を必要とする。そのため、設備コスト及び運転コストを低減させることは困難である。
【0015】
他方、特許文献2では、同様の養殖装置において、沈殿装置として渦巻流れを生じさせて遠心力により固液分離を行う「沈殿槽」、及び、プラスチッ クの網などからなる「フィルター装置」を採用するとともに、硝化菌等が付着した濾材からなる「バイオフィルター(生物濾過槽)」と呼ばれる浄化装置が用いられる。また、温度調節にはヒートポンプが用いられている。特許文献2の装置では、「バイオフィルター(生物濾過槽)」装置が相当大掛かりになるためにコスト高となる他、循環水の全量を通す紫外線殺菌装置も必要であり、さらには、「沈殿槽」で分離された固形残渣を別途に処理する必要がある。
【0016】
また、特許文献3では、「漁港、魚市場および陸上養殖場等から発生する有機性廃水」を「膜分離活性汚泥処理槽」中に導入して処理した後、濾過膜により分離した処理水を排出するとともに、余剰汚泥を、ゴカイの養殖水槽へと排出して処理することが記載されている。特許文献3の方法によると、漁港での高濃度有機性廃水を処理するとともに、この際に発生する余剰汚泥をも処理することができる。しかし、比較的少量の高濃度廃水を処理するのに適した技術であり、閉鎖循環式養殖のように大量の飼育水を循環させて処理する場合には適してない。しかも、「膜分離活性汚泥処理槽」に活性炭を添加して運転する方法には全く言及していない。
【0017】
近年、膜分離活性汚泥処理法は、下水処理や工業排水処理の分野で徐々に採用され始めている(非特許文献1)。しかし、非特許文献1の表4.2及び4.5にあるように、一般的な膜分離活性汚泥処理装置(MBR:メンブレンバイオリアクター)の運転環境では、BOD容積負荷が数十〜数千g/m3であり、高濃度のBOD負荷が必須条件の一つとされている。また、活性汚泥処理槽(曝気槽)における内部MLSS(活性汚泥浮遊物質;Mixed liquor Suspended Solid)は、一般的な運転条件で、数百〜数万mg/Lである。
【0018】
しかるに、閉鎖循環式養殖法における飼育水中のBOD 容積負荷は数mg/Lと、通常実施されている膜分離活性汚泥法の処理原水に比較して、格段に低く、膜分離活性汚泥処理法を閉鎖循環式養殖法飼育水の処理に適用した場合、内部MLSSは100mg/L以下となってしまう。このように著しく低いMLSSで膜分離活性汚泥処理装置を運転した場合には、活性汚泥からなる懸濁粒子が曝気によって駆動される上向流に乗って膜面の目詰まり層を洗い取る効果が期待されず、分離膜の目詰まりが極めて生じやすくなり、長期間の安定運転が非常に困難であるので、このような処理原水には適用できないと考えられていた。さらに、膜分離活性汚泥法を海水などの塩分濃度の高い処理原水に対して適用した例のほとんどなく、海水組成の飼育水等に適用できるか否かは不明であった。
【0019】
すなわち、特許文献1中に、部分的に膜分離活性汚泥法を組み合わせることができる旨の示唆があるとしても、実際上の使用は困難であると考えられていた。そのためか、特許文献1以外で、膜分離活性汚泥法を閉鎖循環式養殖法に適用することを示唆する公知例は見いだされていない。なお、特許文献1の提案は、硝化槽と並列に、沈殿槽の回収系の高濃度の沈殿分離水に膜分離活性汚泥処理装置を配置するものである。
【0020】
他方、低濃度のBODに対して膜分離活性汚泥法と思われる技術を適用した例としては非特許文献2がある。この公知例では、水道浄水処理において原水中のトリハロメタンや臭気物質の除去に広く応用されている生物活性炭を適用し、水中の濁質や細菌類を浸漬膜ろ過で除去しようとするものであり、質的に劣る水道浄水用原水に対して生物活性炭と膜ろ過の組合せの効果を確かめることを目的とした実験に関するものである。その際に、浸漬膜エレメント間を上昇する循環流を起こさせる目的で散気をし、さらに生物活性炭の沈着を防ぐために死水部には間欠的に散気をして、たまたま膜分離活性汚泥処理法と同様の条件で運転した場合に、目詰まりを抑制するのに有効に作用することを見出して報告したものである。しかしながら、このような方法が、飼育魚が排泄する粘性物質や蛋白質等を含む閉鎖循環式養殖法の循環水の浄化処理に適用しうるか否かに関しては、何ら言及されていないし、示唆する記述も全くなく、さらに、活性炭を添加した場合に養殖魚の身質や匂い等が著しく改善され、換水も必要としなくなること等を想起させるような記述も勿論見当たらない。
【0021】
閉鎖循環式養殖法の上述のような状況を鑑みて、我々は先に、従来の閉鎖循環式養殖装置を構成している機器装置類を省略して著しく簡素化した、膜分離活性汚泥法を魚介類が排泄したアンモニアや有機性排泄物の分解除去装置とする、飼育水を循環させて食用の魚介類を陸上の飼育槽中において高密度で養殖する、設備コスト、運転維持管理の手数及びコスト等を大幅に低減する、新規な閉鎖循環式養殖装置および養殖方法を提案した。本発明はこれをさらに改善した発明である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0022】
【特許文献1】特開2002-223667
【特許文献2】特許3769680
【特許文献3】特開2005-074420
【非特許文献】
【0023】
【非特許文献1】"Membrane Bioreactors for Wastewater Treatment" T. Steph enson, K. Brindle, S. Judd, B. Jefferson; IWA publishing, 01 June 200 0; ISBN:9781900222075. (「膜利用生物反応槽による排水処理」 北尾高嶺監修: 石田宏司, 松村修三, 和泉清司訳; 財団法人日本環境整備教育センター, 2003.3.)
【非特許文献2】“ACT21 第3研究委員会持ち込み研究最終報告書、生物活性炭・膜ろ過システムの研究”((財)水道技術研究センター,平成14年4月).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0024】
本発明は、上記問題点を鑑みてなされたものであり、閉鎖循環式養殖装置を用いて生産された魚の身質および食感を顕著に改善する養殖方法を提供するものであり、さらに詳しくは、設備構成を大幅に簡略化した、膜分離活性汚泥法を魚介類が排泄したアンモニアや有機性排泄物の分解除去装置とする、魚介類の閉鎖循環式養殖装置の改善された運転方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0025】
本発明は、飼育槽から抜き出した残餌や糞及び飼育魚が排泄したアンモニア及び有機性排泄物などを含む飼育水から、懸濁物質や排泄物質を分離または分解処理する装置として膜分離活性汚泥処理装置(MBR:メンブレンバイオリアクター)を備えた魚介類の閉鎖循環式養殖装置を運転する際に、膜分離活性汚泥処理装置の曝気槽に粒子状活性炭を加えて運転することを特徴とする。
【0026】
膜分離活性汚泥処理装置を備えた魚介類の閉鎖循環式養殖装置としては、魚介類を飼育する飼育水槽と、飼育水槽の下端から引き出された残餌や糞などからなる沈降性懸濁物質を多く含む排水を一時蓄える貯留槽と、その下流に配置された貯留槽から引き出された未処理飼育水を浄化処理する膜分離活性汚泥処理装置と、その下流に配置された浄化処理済みの処理水を貯留する温度調節機能を有する調整槽と、及び調整槽から送りだされ飼育槽に供給される処理水の溶存酸素濃度を調整する酸素溶入装置とを備えている閉鎖循環式養殖装置であれば本発明を適用できる。
【0027】
あるいは、魚介類を飼育する飼育水槽と、飼育水槽の下端から引き出された排水を沈降性懸濁物質からなる液と1次上澄みとに分離する第1懸濁物質分離装置と、飼育水槽の上部から引き出された飼育水中の沈降性懸濁物質と、及び前記1次上澄み中の残余の沈降性懸濁 物質を2次上澄みとに分離する第2懸濁物質分離装置と、前記2次上澄みを第1〜3の分流路に分配する分配機構と、第2の分流路の下流に配置され、アンモニアを処理する活性汚泥を含む水槽及び活性汚泥処理された水から浮遊性懸濁物質及び細菌を分離するための濾過膜からなる膜分離活性汚泥処理装置(MBR)と、第3の分流路の下流に配置され、前記2次上みから浮遊性懸濁物質及び細菌を分離するための濾過膜からなる膜濾過装置と、膜分離活性汚泥処理装置及び膜濾過装置の下流に配置されて浄化処理済みの処理水を貯留する調整槽と、前記第3の分流路の下流端をなし飼育水槽中へと前記2次上澄みを戻す還流給水口と、調整槽中の処理水を飼育水槽中へと戻す処理水還流路と、膜分離活性汚泥処理装置の上流に配置され、前記2次上澄み、前記1次上澄み、または前記排水を貯留する未処理水貯留槽とからなる閉鎖循環式養殖装置であれば、さらに好ましく適用できる。このような閉鎖循環式養殖装置であれば、処理すべきアンモニア及び有機性排泄物の発生量に見合った最小限の膜分離活性汚泥処理装置の設備規模とすることができると同時に、曝気槽中に供給する有機物濃度を高めて活性汚泥濃度を高めることができるので、活性炭の添加量を低減してさらに生産コストを低減することができる。
【0028】
本発明の魚介類の閉鎖循環式養殖方法は、前段落(0027段落)に記載する閉鎖循環式養殖装置を用い、給餌直後及び/または排泄のピークに対応する期間に、調整槽から飼育水槽への処理水の供給、及び、飼育水槽の下部からの排水を増加させるとともに、前記のピークに対応する期間中、処理水の供給量と排水量との間に差を付けることにより、飼育水槽の水位を増減変動させて運転しても勿論問題ない。水質変動に比例または対応させて処理水の供給量と排水量とを制御すること(比例制御方式)によって、未処理水中のアンモニア及び有機性排泄物等の処理対象物質の濃度の低い時間帯の循環水の、膜分離活性汚泥処理装置に送る水量を低減することができるので、曝気槽中に供給する有機物濃度をさらに高めて活性汚泥濃度を高く維持することができる。したがって、このような比例制御方式による運転方法と併用して本発明を採用すると、膜分離活性汚泥処理装置(MBR)をより小型化して、かつ活性汚泥濃度を高めることが可能となるので、添加する活性炭量をさらに低減できるために、一層のコスト削減が可能となる。
【0029】
本発明の魚介類の閉鎖循環式養殖方法は、上記の閉鎖循環式養殖装置が備える膜分離活性汚泥処理装置の曝気槽中に、粒子状活性炭を曝気水槽中の活性汚泥を含む処理水量に対して乾燥炭重量で0.2〜5.0%、好ましくは0.4〜2.5%添加して運転することを特徴とする。粒子状活性炭は曝気槽内に閉じ込められているので、基本的に曝気空気と共に飛散するミストに含まれて失われるか、曝気槽内での運動で破砕されて微粉炭となり機能しなくなるだけであるので、粒子状活性炭が失われる割合は非常に微小であるが、減少分を適宜追加補充することで十分に維持管理される。
【0030】
粒子状活性炭としては、水道浄水処理や飲料水中の不純物を除去する目的に用いられる粒状活性炭または粉末活性炭が好ましく使用される。活性炭の性状としては、乾燥炭であっても湿式活性炭であってもよい。粒子状活性炭のサイズは20メッシュ以下、好ましくは100メッシュ以下のもので、曝気槽中で沈降してしまうことなく水流に乗ってMBRの膜面に損傷を与えることなく膜面に生成するケーク層を掻き取り、膜の目詰まりを抑制できるものであれば使用可能である。このような観点から、沈降しにくく柔らかい木質系の粉末活性炭が特に好ましく使用される。なお、粒子状活性炭の粒径が小さすぎると膜面に生成するケーク層を掻き取る力が弱く膜の目詰まりを抑制できず、うまく機能しないと考えられる。また、粒径が大きすぎると沈降しやすくなり、曝気によって起こる水流に乗って曝気槽内を流動しがたく、膜の目詰まりの抑制に機能し難いと考えられる。
【0031】
しかし、上記以外のものであっても、飼育魚や人に悪影響を与えるような溶出物がなく、たとえば食品製造工程等に使用されるもので、上述のような特性を備えたものであれば使用することができる。
【発明の効果】
【0032】
本発明の魚介類の閉鎖循環式養殖方法によると、従来技術による閉鎖循環式養殖方法で生産された養殖魚に比較して、飼育魚の身質が改善され、養殖魚に特有の匂いが消失し、食感が著しく向上した養殖魚を生産することができる。
【0033】
さらには、本発明の魚介類の閉鎖循環式養殖方法によると、閉鎖循環式養殖法で必要とされている新鮮水の換水が殆ど必要でなくなるので、特に人工海水を使用する海水性魚介類の生産コストに相当の割合でしめる塩類供給を大幅に削減できて、一層の生産コスト低減が可能となる。
【0034】
また、本発明の魚介類の閉鎖循環式養殖方法によると、アンモニア及び有機性排泄物、残餌や糞などの懸濁物質全てを膜分離活性汚泥処理装置に供給し活性汚泥として利用できて、換水も実質的に必要なくなるので、系外に排出される排水汚泥等の廃棄物量はほとんど無視できる程度に減少する。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の一実施形態に好ましく適用される閉鎖循環式養殖装置の基本構成を示すブロック図である。
【図2】図1の閉鎖循環式養殖装置における第1及び第2液体サイクロンの構成例を示す模式的な断面斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
本発明の一実施形態に好ましく適用される閉鎖循環式養殖装置について、図1〜2を用いて説明する。本実施形態の閉鎖循環式養殖装置10は、複数の飼育水槽1-1, 1- 2・・と、飼育水槽1ごとに設けられ、各飼育水槽1-1, 1-2・・下端から沈降性懸濁物質濃縮水すなわちスラッジ懸濁液Bを受け入れる第1液体サイクロン2-1, 2-2・・と、第1液体サイクロン2-1, 2-2・・から排出される上澄み( 1次上澄み)C、及び、各飼育水槽1-1, 1-2・・から取水した飼育水Aを受け入れる一つの第2液体サイクロン3と、第2液体サイクロン3から排出される上澄み(2次上澄み)Eを第1〜3の分流路81,82,83に分配する分配機構8と、第2の分流路82の下流端に配置される未処理水貯留槽4と、この下流の膜分離活性汚泥処理装置(MBR)5と、第3の分流路83の下流端に配置される膜濾過装置6と、膜分離活性汚泥処理装置5からの浄化処理水S、及び、膜濾過装置6からの膜濾過処理水Iを受け入れて貯留する調整槽7と、この下流の酸素溶入装置9とからなる。
【0037】
飼育水槽1-1, 1-2・・は、底面が中央部または特定の箇所に向かって深くなるように緩やかに傾斜しており、このようにして形成された最深部に、スラッジ懸濁液排出パイプ12が接続している。飼育水槽1-1, 1-2・・は、好ましくは、円形または楕円形、または正八角形等の正多角形である。
【0038】
なお、本明細書では、便宜上、第1液体サイクロン2-1, 2-2にて主として分離されるものを「沈降性懸濁物質」または「スラッジ」と呼ぶことにする。すなわち、残餌(えさの食べかす)や糞などに由来する、水中を漂う懸濁物質(SS)のうち、飼育水槽1-1, 1-2・・の底部に溜まって底から取り出し可能なものを「沈降性懸濁物質」または「スラッジ」と呼ぶことにする。また、「沈降性懸濁物質」以外の懸濁物質を「浮遊性懸濁物質」と呼ぶことにする。
【0039】
第1液体サイクロン2-1, 2-2・・の上部には、スラッジを高濃度で含むスラッジ懸濁液Bが、スラッジ懸濁液排出パイプ12を通って接線方向へと流入する。第1液体サイクロン2-1, 2-2・・の下端からは、スラッジMが、スラッジ排出パイプ24を通って未処理水貯留槽4へと送られる。また、第2液体サイクロン3の下端からも、スラッジ・SS排出パイプ34を通って、上澄み水中に残留していたスラッジを含むスラッジ懸濁液Jが未処理水貯留槽4へと送られる。
【0040】
図2に、第1液体サイクロン2-1, 2-2・・及び第2液体サイクロン3の構成例を模式的に示す。第2液体サイクロン3は、各第1液体サイクロン2よりも大型であり、例えば、内径が1.5〜4.0倍である。なお、第1液体サイクロン2 の内径は、例えば、飼育水槽1-1, 1-2・・の内径の0.3〜0.6倍である。
【0041】
第1液体サイクロン2及び第2液体サイクロン3には、適宜、じゃま板を内壁面に設けることができる。じゃま板は、円錐部分の内壁に軸方向に延びるものを設けることもでき、円筒部に、渦巻き流を強めるための、螺旋状などのものを設けることもできる。特に、沈降性懸濁物質が沈殿しにくいものの場合には、じゃま板を適宜配置することができる。
【0042】
第1液体サイクロン2-1, 2-2から、1次上澄みCが、サイクロン間パイプ23 を通って第2液体サイクロン3へと排出される。また、飼育水槽1-1, 1-2・・の上部から、飼育水Aが、飼育水排出パイプ13を通って第2液体サイクロン3 へと送られる。ここで、図2の例に示すように、サイクロン間パイプ23は、飼育水排出パイプ13に合流しており、1次上澄みCと、飼育水槽1-1, 1-2・・上部の飼育水Aとが混合した混合上澄みDが、第2液体サイクロン3の上部へと、接線方向に導入される。
【0043】
第2液体サイクロン3からの2次上澄み排出パイプ32が、第1の三方バルブ8 5に接続し、第1の三方バルブ85により、飼育水槽1-1, 1-2・・へと戻る第1の分流路81と、それ以外とに分けられる。第1の分流路81以外に振り分けられた2次上澄みGは、第2の三方バルブ86により、第2の分流路82及び第3の分流路8 3に分けられる。これら第1及び第2の三方バルブ85,86、及び後述の第3の三方 バルブ87は、好ましくは電動三方弁であり、電磁三方弁、手動弁またはこれらの組み合わせであって良い。
【0044】
膜分離活性汚泥処理装置(MBR)5には、未処理水供給パイプ45を通じて、未処理水貯留槽4の下部から、スラッジ懸濁液M及びJに第2の分流路82に送られた2次上澄みNを加えた混合液が供給される。
【0045】
膜分離活性汚泥処理装置(MBR)5は、活性汚泥を含む活性汚泥処理槽と、この処理槽に浸漬される分離膜モジュールと、分離膜を通じて処理水を吸引するためのポンプとからなる。ここでの分離膜は、微細な懸濁物質はもとより細菌をも透過させないものであり、好ましくは、大部分のウィルスを除去可能なものである。
【0046】
活性汚泥は、アンモニアを分解する硝化活性汚泥からなり、この硝化活性汚泥には、海水に馴化したものが用いられる。好ましくは、バイコム株式会社が開発した、減容された海水馴養硝化汚泥を製造する方法(WO00/077171) により得られる高活性の消化活性汚泥が用いられる。該活性汚泥は淡水中においても高い消化活性を示すものである。
【0047】
バイコム株式会社が開発した海水馴養硝化汚泥の製造方法は、アンモニア酸化細菌及び亜硝酸酸化細菌の混合系からなる硝化細菌と、その他の活性細菌とを含むし尿用活性汚泥から、前記硝化細菌のみを高濃度に含む減容された海水馴養硝化汚泥を製造する方法であって、以下のA−Eの工程からなる。A : 前記し尿用活性汚泥を、海水で希釈するとともに、下水処理場で発生する消化脱離液及び/または汚泥脱水濾液を加えることで、アンモニアの濃度が100〜300mg/リットルである海水希釈汚泥を得て、また、必要な場合にはこの海水希釈汚泥に希硫酸を加えることでpHを8.5以下とする。B: 0.4〜0.7mol の炭酸ナトリウムに対し0.4〜0.8molの炭酸水素ナトリウムを含む混合塩・水溶液を用意する。C: 1〜3カ月の間、前記海水希釈汚泥について、一つの培養槽中にて、(1) pHを監視しつつ適宜に前記混合塩水溶液を加えることでpHを7.5〜8.5に保ち、(2) 溶存酸素が2〜5mg/リットルとなるように曝気量を調節し、(3) 温度を20〜40℃に保ち、また、(4) 逐次、アンモニアの濃度が100〜300mg/リットルとなるように、前記の消化脱離液及び/または汚 泥脱水濾液を加え、必要に応じて海水を加える。D: このような培養操作により、他の細菌をほとんど死滅させ、死滅した細菌に由来する難分解性有機物を含んでなる核(例えば20〜100μmのグラニュール)の周囲に硝化細菌が取り付いた硝化細菌フロック(例えば直径50〜100μm)を形成させる。E: この硝化細菌フロックを沈殿させることで、減容された海水馴養硝化汚泥を得る。例えば、し尿用活性汚泥が硝化細菌を0.35%程度含み、前記の海水馴養硝化汚泥が消化細菌をその約10倍の含有率で含む。また、例えば、し尿用活性汚泥の1/3〜1/4に減容される。上記「比例制御方式」を採用するとともに、このような高度に減容された海水馴養硝化汚泥を用いることで、アンモニア濃度が、通常の汚水処理に比べて格段に低い条件でも、高い効率で硝化処理を行うことができる。
【0048】
しかし、本発明に使用される硝化活性汚泥としては、上記の海水馴養硝化汚泥に限定されるものではない。
【0049】
膜分離活性汚泥処理装置(MBR)5の分離膜モジュールとしては、平膜型、及び中空型のいずれでも良い。平膜型の分離膜モジュールは、濾過水通路を確保するためのスペーサーを平坦な濾過膜(平膜)で包み込んで封筒状に折り畳み、端部を液密に封止した膜エレメントから成る。膜エレメントの上端部には、濾過水を集水するチューブが取り付けられている。このような膜エレメントを多数枚、スペーサーを挟み込むようにして重ね合わせ、一定間隔で積層された膜モジュールとしている。活性汚泥処理槽内に浸漬配置された各膜エレメントの間の間隙を通って、活性汚泥に供給する曝気空気が上昇する。このようにして、活性汚泥が懸濁した水に随伴流を発生させることで、膜エレメントの表面に発生する汚泥の堆積層(ケーク層)を洗い流す。すなわち、このような効果により、濾過速度を一定レベルに維持している。
【0050】
中空糸型の分離膜モジュールは、束状にまとめられた中空糸の両端部または一端部を開口させ、中空糸膜側面から中空糸膜内部に濾過した処理水を吸引するものである。通常、垂直方向に中空糸膜のモジュールを設置し、上記と同様の曝気空気の上昇流により、汚泥の堆積層(ケーク層)を洗い流す。
【0051】
なお、曝気槽に粒子状活性炭を添加して用いる本発明においては、平膜型膜モジュールからなる膜分離活性汚泥処理装置(MBR)がより好ましく適用される。中空糸型の分離膜モジュールの場合には、しばしば、粒子状活性炭中に含まれる微粉炭等が中空糸膜の両端部の密接した部位に入り込み、洗浄操作等でも除去しにくく、分離膜モジュールとしての機能が低下しやすいため、平膜型膜モジュールからなる膜分離活性汚泥処理装置(MBR)の方が使い勝手がよい。
【0052】
活性汚泥処理槽に所定量以上の粒子状活性炭を含む汚泥が貯留した場合には活性汚泥槽に設けられた排出弁54から排出することができる。
【0053】
また、曝気槽の外に膜分離装置を配置したいわゆる槽外設置型膜分離活性汚泥処理装置(MBR)も使用することができる。この方式は、曝気槽からポンプで引き抜いた活性汚泥を含む処理水を槽外に設置した膜分離装置に導入して濾過水を取り出し、濃縮された活性汚泥水を曝気槽に返送、循環する方式である。濾過水の取り出し方法は、吸引式であっても加圧式であってもよいが、吸引式の方が動力費が少なくて済むのでより好ましい。
【0054】
膜分離活性汚泥処理装置(MBR)に使用される分離膜の材質に関しては、通常よく使われるのは高分子物質からなる分離膜であるが、特に材質によって制約を受けるものではない。しかし、強度が高く耐薬品性に優れているものが、耐久性に優れるので好ましい。耐久性の観点からいえば、セラミックからなる分離膜も好ましく使用される。
【0055】
膜濾過装置6は、膜分離活性汚泥処理装置(MBR)5に用いられると同様の濾過膜、すなわち、精密濾過膜または限外濾過膜からなる。濾過膜モジュールの形式としては、膜分離活性汚泥処理装置(MBR)5のものと同様である。また、好ましく採用できるものとしては、中空糸型の膜モジュール、例えば水道浄水プロセス用のものを挙げることができる。中空糸膜モジュールは、全濾過型の他、クロスフロー型であっても良い。全濾過型の場合、一定時間ごとに、適宜、逆流洗浄、及び/またはエアレーションを行って目詰まり物質を洗い落とす。このような洗浄の際に出てくる懸濁液Lは、スラッジ濃縮液Jなどとともに、未処理水貯留槽4へ送られる。
【0056】
なお、膜濾過装置6の上流には、必要に応じて、金属メッシュや濾布などからなる簡易なフィルターを配置しておくことができる。このフィルターは、粗いごみを取り除くためのものである。フィルターで捕捉された懸濁物質等は、間欠的に逆流洗浄を行うか、系外に取り外して洗浄して再使用する。逆流洗浄水または系外で洗浄した時の洗浄廃水は未処理水貯留槽4または膜分離活性汚泥処理装置(MBR)5に戻して処理される。
【0057】
膜分離活性汚泥処理装置(MBR)5を通過して処理された浄化処理水S、及び膜濾過装置6を通過して処理された濾過処理水Iは、これらが混合された混合処理水Uとして調整槽7中に貯留される間に、調整槽7に付属する温調機構75 により所定の温度に調整される。また、処理水還流路84中には、酸素発生装置95を備えた酸素溶入装置9が備えられる。なお、酸素溶入装置9は、加圧式、減圧式(ディフューザー方式など)などでも良く、また、酸素源は、ガス分離膜(PSA)で分離した酸素ガス、液体酸素などでも良い。
【0058】
図示の例において、第1分流路81中に、さらに第3の三方バルブ87が設けられており、これからの分岐路88が酸素溶入装置9にまで延びている。アンモニアなどの発生が少なく、膜分離活性汚泥処理装置(MBR)5及び膜濾過装置6を通過する循環水の割合が低いが、飼育水槽中の酸素濃度を高く保つ必要がある場合などに、適宜、第3の三方バルブ87の制御により第1分流路81の水Fの一部が酸素溶入装置9へと送られる。
【0059】
なお、海水を飼育水に使用する例で、塩分濃度を低下させる必要がある場合には、調整槽7、または膜濾過装置6の逆洗水にpH調整剤とともに、塩分濃度調整のための補給水を給水する事ができる。逆に、塩分濃度を上昇させる必要がある場合には、飼育槽1-1,1-2,1-3,1-4、または未処理水貯留槽4に塩類を供給する事ができる。しかし、実際の運転経験からは、おそらく曝気槽から水が蒸発して失われるためか、塩分濃度が上昇する傾向があり、水道水を補給する必要があった。
【0060】
図示の例では、水流ポンプ89として、膜分離活性汚泥処理装置(MBR)5に付属する吸引式のもの、及び、膜濾過装置6に付属する押し出し式のもののみが配置されている。しかし、これ以外にも、各水槽の水位の差の調整などの必要に応じて、適宜、1つまたは複数の水流ポンプが、配置される。
【0061】
本実施形態の閉鎖循環式養殖装置であると、二重の懸濁物質分離装置により、懸濁物質を効率的に分離濃縮できるため、膜分離活性汚泥処理装置(MBR )5に養殖魚の排泄する糞や残餌など有機性汚濁物質を効率的に供給して、MBRの機能維持を安定化できると同時に、膜濾過装置6への負荷を軽減する事で目詰まり及びこれを解消する洗浄操作を最小限に抑えることができる。
【0062】
また、膜分離活性汚泥処理装置(MBR)5においては、アンモニアや有機物などの排泄物を分解処理するだけでなく細菌類も活性汚泥に捕食されて死滅分解され、さらに濾過膜は細菌やウィルスを効率よく除去することができるので、紫外線殺菌装置などの殺菌設備を省略するか、あるいは規模を著しく小さくする事が出来る。飼育方法によっては図1の経路Fにのみ紫外線殺菌設備を設ければ良い。
【0063】
本実施形態の閉鎖循環式養殖装置では、二重の懸濁物質分離装置で懸濁物質(SS)を除去した後の2次上澄みについて、全量を膜分離活性汚泥処理装置(MBR)5や膜濾過装置6に送るのではなく、アンモニア、SS、及び細菌の除去に必要な分だけこれらに送る方式である。一の好ましい実施形態において、膜分離活性汚泥処理装置(MBR)5の側へと送られる懸濁液の水量Lは、膜濾過装置6へと送られる水量Hの5〜15%である。また、一の好ましい運転条件において、2次上澄みEのうち、第1分流路81を通って飼育水槽1-1, 1-2・・へと還流する水量Fと、膜濾過装置6へと送られる水量Hと、膜分離活性汚泥処理装置(MBR)5の側へと送られる水量Nとの比、F/H/Nはおよそ、4〜6%/39〜43%/53〜55%である。
【0064】
したがって、アンモニア及び細菌や懸濁物質を除去するための設備コスト及び運転コストを最小限に抑えることができる。細菌及び浮遊性懸濁物質を除去するだけのためには、膜分離活性汚泥処理装置(MBR)5だけでなく、膜濾過装置6をも用いることができるので、膜分離活性汚泥処理装置(MBR)5は、アンモニア除去などの活性汚泥処理のために必要な程度の能力及びサイズを備えれば足りる。また、二重の液体サイクロン装置を通って出てきた2次上澄みについて、どれだけを膜分離活性汚泥処理装置(MBR)5に送り、どれだけを膜濾過装置6に送るかについては、飼育水槽1から引き出される飼育水について、アンモニア濃度、懸濁物質(SS)、細菌数などを測定し、測定結果に基づき決定することができる。
【0065】
本実施形態の閉鎖循環式養殖装置であると、特に、飼育水槽内でのアンモニア及び有機性排泄物の発生量が多い時間帯に、アンモニア及び有機性排泄物濃度の高い排水を一時貯留しておき、安定的に膜分離活性汚泥処理装置(MBR)5へと送ることができるため、活性汚泥処理装置の効率を高く保つことができる。さらに、より高い活性汚泥濃度を維持することができるために、添加する粒子状活性炭をより少なくすることができる。
【0066】
なお、上述の液体サイクロンによる沈降性懸濁物質の分離機能や、膜濾過装置による浮遊性懸濁物質の分離機能は、膜分離活性汚泥処理装置(MBR)の設備規模を小さくすると同時に活性汚泥濃度を高濃度に維持して効率的に機能させるために付設される機能装置であり、本発明を適用するための必要条件でないことは以上の記述から明らかである。すなわち、養殖装置全体の規模によっては、飼育循環水全量を膜分離活性汚泥処理装置(MBR)に供給する簡素なプロセスフローからなる閉鎖循環式養殖装置であっても、さらには、液体サイクロンまたは従来公知の物理濾過装置あるいは膜濾過装置だけを付設した閉鎖循環式養殖装置であっても、好ましく本発明を適用できることは以上の説明から明らかである。
【0067】
膜分離活性汚泥処理装置(MBR)と液体サイクロン及び/または膜濾過装置を主要な浄化処理装置とする閉鎖循環式養殖装置は、従来技術からなる閉鎖循環式養殖装置に比べて、簡素な構成により維持管理の容易なことに加えて、可動機械装置が格段に少なく、また海水等の腐食を受ける機材の使用も著しく少なく、電力費及び維持管理費用が少なくて済むうえに、活性炭添加によって換水もほとんど必要なくなるので、一層の生産コストが低減されるのである。
【0068】
次に本発明の一実施例と比較例をもって本発明について説明するが、本発明はこの実施例によって限定されるものではない。
【0069】
本実施例は、容量4m3の飼育水槽を2槽、同3.5m3の貯留槽、8m3の膜分離活性汚泥処理装置(MBR)、3m3の調整槽、及び膜面積12m2の膜ろ過装置を備えた、一実施形態として図1〜2に示したと同様の構成の閉鎖循環式養殖装置を使用して、平均体重約65gのヒラメ幼魚500尾を投入し、MBRには乾燥炭として0.65重量%の粒子状活性炭を投入して運転、飼育した。本実施例の養殖期間中、換水は一度もなく、人工海水濃度が上昇するので、適宜水道水にpH調整剤を添加して補給し、濃度調整をした。したがって、水質分析のサンプリングと濾過膜モジュールを取り外して洗浄する際に系外に取り出される水以外に、養殖装置系外に排出された飼育水はなかった。飼育期間中、アンモニア濃度は0.1〜3.1mg-N/L(飼育水1リットルあたりのアンモニア性窒素量)、亜硝酸濃度は0.00〜2.3mg-N/Lに維持され、ヒラメ養殖の飼育水として十分に満足できる水準であった。また、硝酸イオン濃度は、飼育90日目で176mg-N/L、159日目で268mg-N/Lで、それぞれ給餌量から推定した理論値に対して、71.6%と59.4%であって、基準値とされている600mg-N/に対して十分に低い値で維持された。脱窒装置を備えていないにも関わらず硝酸イオン濃度が著しく低く維持されている理由は明らかでないが、粒子状活性炭を添加して運転されるMBRの性能によるものなのか、あるいは貯留槽内で脱窒反応が起こっているのか、または両者の生物反応の相加的効果ではないかと推定される。飼育期間を通じて、飼育水の外観は無色・透明であった。一般細菌数は、簡易測定法の結果であるが、膜濾過装置では100%、MBRでは99%以上が除去されていた。また、この方式の閉鎖循環式養殖装置の場合には、点検・監視・管理の必要な駆動装置付きの機器が非常に少なくて、日常の維持管理は飼育魚への給餌と状態の観察、及び水質分析とその監視に集中することができて、著しく管理の手数が省けることが確かめられた。
【0070】
約150日後、平均体重約450gに達したところで1回目の試食評価した。当初の実験条件の都合で一時期給餌量に制限を加えていたので成長は若干遅くなっているが、本発明の効果を確認する上でなんら支障はない。
【0071】
試食評価に当たっては、数日間給餌を停止して飼育した後、絞めて1昼夜後に試食した。評価を魚介類の養殖の専門技術者からパネラーを選んで行った結果、匂いについては延べ人数で、「匂いを感じない」が20人中19人、「食べると匂いを感じる」が1人であった。食感に関しては、「しっかりしている」と「やや柔らかい」が19人で、「柔らかい感じ」という評価が1人であった。旨みについては、「旨い」と「旨みがある」と答えた人数は、14人、「味がない」という評価が4人、「その他」が2人であった。
【0072】
さらにその2ヶ月後、飼育開始から210日後に720〜770gのほぼ出荷サイズに近いサンプル魚で2回目の試食評価をした。その結果、匂いについては延べ人数で、「匂いを感じない」が8人中7人、「食べると匂いを感じる」が1人であった。食感に関しては、「しっかりしている」と「やや柔らかい」が8人で、「柔らかい感じ」という評価が0人であった。旨みについては、「旨い」と「旨みがある」「甘みがある」と答えた人数は7人、「味がない」という評価が1人であった。
【0073】
比較例は、液体サイクロン式沈降性懸濁物質分離装置を備えた40m3の飼育水槽5槽、ドラムフィルター式物理濾過装置、泡沫分離装置、有機物分解用の回転円板床型生物処理装置、砂流動床型アンモニア硝化装置、紫外線殺菌装置、温度調節機能を有する調整槽、及びPSAで製造される酸素を飼育水に溶解・調整する酸素溶入装置からなる、商業的規模の閉鎖循環式養殖装置を使用して、ヒラメを1水槽当たり4000尾投入した水槽2槽、2000尾投入した水槽2槽、尾数調整用の予備のヒラメを1槽に投入して、試験生産を行った。この飼育期間中、1日の換水率を約5%として人工海水を補給した。水質は各項目とも基準値の範囲内に管理されていたが、外観は着色があり、若干濁りが認められた。
【0074】
なお、水質条件の調整にやや問題があって生育速度が若干従来の経験より劣ったが、本発明の効果の比較には問題はない。
【0075】
評価は1〜2月毎に試食評価したが、実施例と比較するために、平均体重が450gに達した時点で評価したデータを次に示すと次のようになる。すなわち、4000尾投入した水槽のヒラメと2000尾投入したヒラメのデータに差は認められていないので、両者を含めて示した。パネラーと評価方法は実施例と同様である。匂いについては延べ人数で、「匂いを感じない」が25人中17人、「食べると少し臭い」が5人、「食べると臭い」が3人であった。食感に関しては、「しっかりしている」と「やや柔らかい」が26人中21人で、「柔らかい感じ」という評価が5人であった。旨みについては、「旨い」と「旨みがある」と答えた人数は、26人中18人、「味がない」という評価が4人、「不味い」という評価が1人、「生臭い」が2人、「その他」が1人であった。
【0076】
さらに、比較例の約800gに達したヒラメの試食評価では、上述の450gサイズより若干匂いと食感で改善がみられたもののほぼ同様の評価結果であった。
【0077】
以上の評価結果は、本発明の方法で飼育した養殖魚の方が、匂い、食感、旨みで明らかに改善されていることを示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
魚介類を飼育する閉鎖循環式養殖装置の飼育槽から抜き出した、残餌や糞及び飼育魚が排泄したアンモニア及び有機性排泄物などを含む飼育水から、懸濁物質や排泄物質を分離または分解処理する装置として、膜分離活性汚泥処理装置を備えた閉鎖循環式養殖装置を使用して養殖魚を飼育するにあたり、膜分離活性汚泥処理装置の曝気槽に粒子状活性炭を添加して運転することを特徴とする魚介類の飼育方法。
【請求項2】
請求項1に記載の飼育方法において、閉鎖循環式養殖装置が少なくとも、魚介類を飼育する飼育水槽(1)と、飼育水槽(1)の下端から引き出された残餌や糞などからなる沈降性懸濁物質を多く含む排水を一時蓄える貯留槽(2)と、その下流に配置された貯留槽から引き出された未処理飼育水を浄化処理する膜分離活性汚泥処理装置(3)と、その下流に配置された浄化処理済みの処理水を貯留する温度調節機能を有する調整槽(4)と、調整槽から送りだされ飼育槽に供給される処理水の溶存酸素濃度を調整する酸素溶入装置(5)と、を備えていることを特徴とする魚介類の飼育方法。
【請求項3】
請求項1に記載の飼育方法において、閉鎖循環式養殖装置が、魚介類を飼育する飼育水槽(1)と、飼育水槽(1)の下端から引き出された排水(B)を、沈降性懸濁物質を含む液(M)と1次上澄み(C)とに分離する第1懸濁物質分離装置(2)と、飼育水槽(1)の上部から引き出された飼育水(A)、及び前記1次上澄み(C)を、残余の沈降性懸濁物質を含む液(J)と2次上澄み(E)とに分離する第2懸濁物質分離装置(3)と、前記2次上澄み(E)を第1〜3の分流路(81〜83)に分配する分配機構(85,86)と、第2の分流路(82)の下流に配置され、アンモニア等を処理する活性汚泥を含む水槽及び活性汚泥処理された水から浮遊性懸濁物質及び細菌を分離するための濾過膜からなる膜分離活性汚泥処理装置(MBR :メンブレンバイオリアクター)(5)と、第3の分流路(83)の下流に配置され、前記2次上澄み(E)から浮遊性懸濁物質及び細菌を分離するための濾過膜からなる膜濾過装置(6)と、膜分離活性汚泥処理装置(5)及び膜濾過装置(6)の下流に配置されて浄化処理済みの処理水を貯留する調整槽(7)と、前記第1の分流路(81)の下流端をなし飼育水槽(1)中へと前記2次上澄み(E)を戻す還流給水口(81A)と、調整槽(7)中の処理水を飼育水槽(1)中へと戻す処理水還流路(84)と、膜分離活性汚泥処理装置(5)の上流に配置され、前記2次上澄み、前記1次上澄み、または前記排水を貯留する未処理水貯留槽(4)とからなることを特徴とする魚介類の飼育方法。
【請求項4】
請求項1に記載の飼育方法において、粒子状活性炭の添加量が曝気槽中の活性汚泥を含む処理水に対して、乾燥重量で0.2〜5.0重量%であることを特徴とする魚介類の飼育方法。
【請求項5】
請求項1に記載の飼育方法において、粒子状活性炭の添加量が曝気槽中の活性汚泥を含む処理水に対して、乾燥重量で0.4〜2.5重量%であることを特徴とする魚介類の飼育方法。
【請求項6】
請求項2に記載の飼育方法において、粒子状活性炭の添加量が曝気槽中の活性汚泥を含む処理水に対して、乾燥重量で0.2〜5.0重量%であることを特徴とする魚介類の飼育方法。
【請求項7】
請求項2に記載の飼育方法において、粒子状活性炭の添加量が曝気槽中の活性汚泥を含む処理水に対して、乾燥重量で0.4〜2.5重量%であることを特徴とする魚介類の飼育方法。
【請求項8】
請求項3に記載の飼育方法において、粒子状活性炭の添加量が曝気槽中の活性汚泥を含む処理水に対して、乾燥重量で0.2〜5.0重量%であることを特徴とする魚介類の飼育方法。
【請求項9】
請求項3に記載の飼育方法において、粒子状活性炭の添加量が曝気槽中の活性汚泥を含む処理水に対して、乾燥重量で0.4〜2.5重量%であることを特徴とする魚介類の飼育方法。
【請求項10】
請求項1に記載の飼育方法において、粒子状活性炭の粒子サイズが20メッシュ以下である粉末活性炭または粒状活性炭であることを特徴とする魚介類の飼育方法。
【請求項11】
請求項2に記載の飼育方法において、粒子状活性炭の粒子サイズが20メッシュ以下である粉末活性炭または粒状活性炭であることを特徴とする魚介類の飼育方法。
【請求項12】
請求項3に記載の飼育方法において、粒子状活性炭の粒子サイズが20メッシュ以下である粉末活性炭または粒状活性炭であることを特徴とする魚介類の飼育方法。
【請求項13】
魚介類を飼育する閉鎖循環式養殖装置の飼育槽から抜き出した、残餌や糞及び飼育魚が排泄したアンモニア及び有機性排泄物などを含む飼育水から、懸濁物質や排泄物質を分離または分解処理する装置として、膜分離活性汚泥処理装置を備えた閉鎖循環式養殖装置を使用して養殖魚を飼育するにあたり、膜分離活性汚泥処理装置の曝気槽に、粒子サイズが20メッシュ以下である粉末活性炭または粒状活性炭を、曝気槽中の活性汚泥を含む処理水に対して、乾燥重量で0.2〜5.0重量%添加して運転することを特徴とする魚介類の飼育方法。
【請求項14】
請求項13に記載の飼育方法において、閉鎖循環式養殖装置が少なくとも、魚介類を飼育する飼育水槽(1)と、飼育水槽(1)の下端から引き出された残餌や糞などからなる沈降性懸濁物質を多く含む排水を一時蓄える貯留槽(2)と、その下流に配置された貯留槽から引き出された未処理飼育水を浄化処理する膜分離活性汚泥処理装置(3)と、その下流に配置された浄化処理済みの処理水を貯留する温度調節機能を有する調整槽(4)と、及び調整槽から送りだされ飼育槽に供給される処理水の溶存酸素濃度を調整する酸素溶入装置(5)を備えていることを特徴とする魚介類の飼育方法。
【請求項15】
請求項13に記載の飼育方法において、閉鎖循環式養殖装置が、魚介類を飼育する飼育水槽(1)と、飼育水槽(1)の下端から引き出された排水(B)を、沈降性懸濁物質を含む液(M)と1次上澄み(C)とに分離する第1懸濁物質分離装置(2)と、飼育水槽(1)の上部から引き出された飼育水(A)、及び前記1次上澄み(C)を、残余の沈降性懸濁物質を含む液(J)と2次上澄み( E)とに分離する第2懸濁物質分離装置(3)と、前記2次上澄み(E)を第1〜3の分流路(81〜83)に分配する分配機構(85,86)と、第2の分流路(82)の下流に配置され、アンモニア等を処理する活性汚泥を含む水槽及び活性汚泥処理された水から浮遊性懸濁物質及び細菌を分離するための濾過膜からなる膜分離活性汚泥処理装置(5)と、第3の分流路(83)の下流に配置され、前記2次上澄み(E)から浮遊性懸濁物質及び細菌を分離するための濾過膜からなる膜濾過装置(6)と、膜分離活性汚泥処理装置(5)及び膜濾過装置(6)の下流に配置されて浄化処理済みの処理水を貯留する調整槽(7)と、前記第1の分流路(81)の下流端をなし飼育水槽(1)中へと前記2次上澄み(E)を戻す還流給水口(81A)と、調整槽(7)中の処理水を飼育水槽(1)中へと戻す処理水還流路(84)と、膜分離活性汚泥処理装置(5)の上流に配置され、前記2次上澄み、前記1次上澄み、または前記排水を貯留する未処理水貯留槽(4)とからなることを特徴とする魚介類の飼育方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−130685(P2011−130685A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−291041(P2009−291041)
【出願日】平成21年12月22日(2009.12.22)
【出願人】(504011601)シープラス株式会社 (2)
【Fターム(参考)】