説明

2次電池用負極、電極用銅箔、2次電池および2次電池用負極の製造方法

【課題】電子機器や産業機器、自動車などに搭載される、充放電可能な2次電池と、これに適した負極電極、並びに負極集電体を提供する。
【解決手段】日本工業規格で規定される表面粗さRz(JIS B0601−1994 十点平均粗さ)が1μm以上の粗面を有する銅箔を用いた集電体基材の前記粗面上に、シリコン系の活物質皮膜が形成されている、非水溶媒電解液2次電池用負極であって、前記集電体基材の片面または両面の粗面上に、1g/m〜18g/mのシリコン系活物質皮膜が形成され、前記活物質皮膜は、水素化シリコンを含み、前記活物質皮膜全体に対する水素含有量が0.1原子%以上30原子%以下であることを特徴とする非水溶媒電解液2次電池用負極である。また、この負極を用いたことを特徴とする非水溶媒電解液を用いた2次電池である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2次電池に関し、特に非水溶媒電解液を用いるリチウムイオン2次電池と、これに用いられる負極電極とその製造方法、および負極用銅箔に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器のモバイル化と高機能化に伴い、駆動電源である2次電池は最重要部品のひとつになっている。特に、リチウム(Li)イオン2次電池は、用いられる正極活物質と負極活物質の高い電圧から得られるエネルギー密度の高さから、従来のNiCd電池やNi水素電池に替わり、2次電池の主流の位置を占めるに至っている。しかしながら、現在のLiイオン電池に標準的に用いられるコバルト酸リチウム(LiCoO)系正極活物質と、黒鉛主体のカーボン系負極活物質の組み合わせによるLiイオン2次電池は、昨今の高機能高負荷電子部品の消費電力量を長時間充分に供給することができず、携帯電源としては要求性能を満たすことができなくなっている。正極活物質の理論電気化学比容量は、一般に小さく、将来実用化を目指す物質にしても現在のカーボン系負極活物質の理論比容量よりも小さい値に止まる。
また、年々性能を向上させてきたカーボン系負極も理論比容量の限界に近付きつつあり、現用の正負活物質系統の組み合わせではもはや大きな電源容量の向上は見込めなくなっている。そのため、現在のLiイオン電池では、今後の更なる電子機器の高機能化と長時間携帯化の要求や、電動工具、無停電電源、蓄電装置などの産業用途、並びに電気自動車用途への搭載には限界がある。
【0003】
このような状況で、現状より飛躍的に電気容量を増加させることができる方法として、カーボン(C)系負極活物質に替わる金属系負極活物質の適用検討が行われている。これは現行のC系負極の数倍から十倍の理論比容量を有する、ゲルマニウム(Ge)やスズ(Sn)、シリコン(Si)系物質を負極活物質に用いるものであり、特にSiは、実用化が難しいとされる金属Liに匹敵する比容量を有するので、検討の中心となっている。ところで、2次電池に要求される基本性能は、充電により保持できる電気容量が大きいことと、充電と放電を繰り返す使用サイクルによっても、この電気容量の大きさをできるだけ維持できることである。初めの充電容量が大きくとも、充放電の繰り返しによって、充電できる容量や放電可能な容量がすぐに小さくなっては短寿命であり、2次電池として用いる価値は小さい。ところが、Siをはじめとする金属系負極ではいずれも充放電サイクル寿命が短いことが問題となっている。この原因に集電体と活物質との密着性の小さいことが挙げられ、これに対する対策として、集電体表面の形状を規定することや、集電体成分が活物質皮膜に拡散または合金化した構成が用いられている(例えば、特許文献1〜3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−319408号公報
【特許文献2】特許3733068号公報
【特許文献3】特許3935067号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1〜3に記載の発明においては、なお充放電サイクル特性の改善は不充分であり、実用化の目途は立っていない。また、基材集電体と金属系皮膜の拡散合金相はLiイオン電池において充電容量には寄与せず、せっかくの高比容量活物質の特性が低下するという欠点もあった。
【0006】
本発明は、Liイオン2次電池などに用いられようと検討されている、負極集電体上にSiなどの負極活物質を直接的に形成した負極電極と、これらを用いた2次電池に関し、充放電で高容量が得られ、しかもその繰り返しサイクルによっても容量の低下を従来よりも抑制できる負極電極と2次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは従来知見に捉われず、特にLiイオン電池用負極の充放電のサイクル数と容量、および負極材料構成形態について鋭意検討した結果、従来のシリコン活物質を用いると、充放電繰り返しサイクルに伴う充放電容量の低下が大きく、電池の寿命が短いことが、シリコン系皮膜膜質に関係の有ることに想到し、本発明を見出した。本発明の所定のSi系負極活物質を有する負極を用いることで、本来有する高い充放電容量が確実に得られ、集電体と活物質との良好な密着性の下に、その柔軟性から充放電時の膨張収縮の体積変化に対応し易く、サイクル特性が改善し得ることを見出した。
【0008】
すなわち、本発明は、
(1)日本工業規格で規定される表面粗さRz(JIS B0601−1994 十点平均粗さ)が1μm以上の粗面を有する銅箔を用いた集電体基材の前記粗面上に、シリコン系の活物質皮膜が形成されている、非水溶媒電解液2次電池用負極であって、前記集電体基材の片面または両面の粗面上に、1g/m〜18g/mのシリコン系活物質皮膜が形成され、前記活物質皮膜は、水素化シリコンを含み、前記活物質皮膜全体に対する水素含有量が0.1原子%以上30原子%以下であることを特徴とする非水溶媒電解液2次電池用負極。
(2)前記集電体基材と前記シリコン系活物質皮膜との間、または前記シリコン系活物質皮膜上層の少なくとも一方に、リンまたはボロンを含有するシリコン層が1層以上形成されていることを特徴とする、(1)に記載の2次電池用負極。
(3)前記シリコン系活物質皮膜は、リンを含み、前記活物質皮膜全体に対するリンの含有量が0.1原子%以上30原子%以下であることを特徴とする(1)または(2)に記載の2次電池用負極。
(4)前記シリコン系活物質皮膜は、さらに酸素を含み、前記活物質皮膜全体に対する酸素の含有量が1原子%以上50原子%以下であることを特徴とする(3)に記載の2次電池用負極。
(5)前記集電体基材の活物質形成面上に、ニッケルを0.01〜0.5g/m含有する層または亜鉛を0.001〜0.1g/m含有する層の少なくとも一方が形成された耐熱性層または耐熱性バリア皮膜を有することを特徴とする(1)〜(4)のいずれか1項に記載の二次電池用負極。
(6)さらに前記耐熱性層または前記耐熱性バリア皮膜の上層に防錆層および/またはシランカップリング処理層が形成されていることを特徴とする(5)に記載の2次電池用負極。
(7)前記耐熱性層または前記耐熱性バリア皮膜における前記亜鉛が単層亜鉛として存在することを特徴とする(5)または(6)に記載の2次電池用負極。
(8)前記耐熱性層または前記耐熱性バリア皮膜における前記亜鉛が集電体基材またはニッケル層に拡散していることを特徴とする(5)または(6)に記載の2次電池用負極。
(9)(1)〜(8)のいずれか1項に記載の2次電池用負極に用いられ、日本工業規格(JIS B0601−1994 十点平均粗さ)で規定される表面粗さRzが1μm以上の粗面を有することを特徴とする電極用銅箔。
(10)(1)〜(8)のいずれか1項に記載の負極を用いたことを特徴とする非水溶媒電解液を用いた2次電池。
(11)前記非水溶媒電解液が、フッ素を含む非水溶媒を含有することを特徴とする(10)に記載の2次電池。
(12)日本工業規格で規定される表面粗さRz(JIS B0601−1994 十点平均粗さ)が1μm以上の粗面を有する銅箔を用い、温度180℃における伸び率が5%以上である前記集電体基材を、供給濃度比[H]/[SiH]が0〜100の範囲内でシランガスと水素ガスが供給される製膜室内に連続的に導入する工程と、前記集電体基材の温度を100℃〜350℃の範囲内に保持したCVD法によって、連続的に導入した前記集電体基材の片面または両面に、連続的に0.1原子%以上30原子%以下の水素を含有するシリコン系活物質層を形成する工程と、を備えることを特徴とする非水溶媒電解液2次電池用負極の製造方法。
(13)前記CVD法において、さらにフォスフィンガスを連続供給し、シリコン系活物質を形成する前記工程において、リンを含有するシリコン系活物質皮膜を形成することを特徴とする(12)に記載の2次電池用負極の製造方法。
(14)シリコン系活物質被膜を形成する前記工程の後、大気酸化または熱処理により前記シリコン系活物質皮膜に酸素を導入する工程をさらに具備することを特徴とする(12)または(13)に記載の2次電池用負極の製造方法。
を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の2次電池用負極は、銅箔を用いた集電体基材表面に形成するシリコン系活物質に水素化シリコンを含むので、シリコンへの水素基結合構造による柔軟性を有し、皮膜は緻密過ぎず、欠陥も少ないので、前記の充放電時の膨張収縮による体積変化にも割れなどを抑止する耐性となり、サイクル寿命の維持に繋がる。さらに、水素化シリコンの存在によりシリコンと酸素との結合を抑止するので、充放電時のリチウムイオン侵入脱離におけるリチウムと酸素との結合を抑止し、不可逆容量を小さくすることができる。このため、充放電の初期容量を高くでき、サイクルを重ねる容量の低下を抑えることができる。
また、主にCVD法やEB蒸着法形成によるシリコン系皮膜を用いるので、均一均質な活物質皮膜を工業上経済的に形成することができる。また、シリコン系活物質皮膜の上層または下層に、リンまたはボロンを含有する層を形成すると、活物質の導電性が向上し、充放電に際してのLiイオンの移動が助けられ、特に高レートでの充放電に際して効果がある。シリコン系活物質皮膜にリンを含むと導電性が向上しLiイオンの挿入脱離がし易く、またさらに酸素を含有するとLiイオンの挿入脱離による体積変化を緩和するので、充放電サイクル寿命が向上する。
集電体銅箔上に、耐熱性層または耐熱性バリア皮膜と、防錆能を有する層と、シランカップリング処理層とを形成すると、活物質形成までの経時劣化や製膜時高温の耐熱性を保持し、形成活物質皮膜と集電体表面との密着性が向上する。また、集電体成分銅がシリコン系活物質皮膜へ拡散することを抑止するので、活物質と銅の拡散合金化による充放電容量の低下を防止し、本来有するシリコンの高い比容量を得ることができる。特に、亜鉛層の上層にニッケル層を有する耐熱性バリア皮膜を形成すると拡散合金化を防止することができる。これら前記の負極を用いた2次電池は、高容量で長寿命を得ることができ、さらに用いる電解液の非水溶媒にフッ素を含有する電解液を用いると、充放電繰り返しによっても容量低下のより少ない2次電池を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の2次電池用負極の第1の実施態様を示す拡大模式断面図である。
【図2】本発明の2次電池用負極の第2の実施態様を示す拡大模式断面図である。
【図3】本発明の2次電池用負極の第3の実施態様を示す拡大模式断面図である。
【図4】本発明の2次電池用負極の第4の実施態様を示す拡大模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の2次電池用負極は、銅箔を用いた集電体基材上に少なくとも0.1原子%の水素量である水素化シリコンを含むシリコン系活物質皮膜を形成する構成形態で提供される。また、本発明における2次電池は、本発明の2次電池用負極を用い、正極やセパレータ、電解液など他の構成材料を共に2次電池として組み立て、提供される。
【0012】
まず、本発明の2次電池用負極電極に用いられる集電体の基材(集電体基材)には銅箔が用いられる。充放電時にLiイオンの挿入脱離によって活物質が体積膨張収縮するので、180℃の高温時引張試験において破断に至る伸び率が3%以上の銅箔を用いることが好ましく、充放電による伸縮に追従できる意味で、より好適には破断に至る伸び率が5%以上の銅箔を用いる。
さらには、集電体基材に使用する銅箔の引っ張り強度が300MPa〜1000MPa(1GPa)の範囲にあることが望ましい。シリコンなどの高容量が得られる活物質は、リチウムイオンとの合金化によって、2〜4倍の体積膨張を生じる。そのため、充電時の合金化では、集電体基材と活物質皮膜の界面において、活物質の体積膨張により銅箔を伸ばす応力や歪みが生じる。一方で、放電時の脱合金化では、銅箔を縮める応力や歪みが生じる。銅箔の強度が小さい場合には、この充放電繰り返しサイクルにより、銅箔にシワを生じ、ひどい場合には銅箔が破断する。つまり、サイクル寿命が小さくなる。一方、銅箔の強度が1GPaを超える場合には、銅箔が硬くなり過ぎ、かえって膨張収縮に追従できる伸び率が小さくなってしまう。
また、集電体基材に用いられる銅箔については、表面が平滑ではなく、また光沢を有さず、少なくとも活物質を形成する表面が粗面を呈する銅箔のみを用いる。表面が平滑な銅箔や光沢銅箔を集電体基材に用いると、その面に形成するシリコン系活物質皮膜が密着性に劣り、活物質皮膜が剥離する場合がある。そこで、JIS B0601−1994で規定される十点平均粗さRzが1μm以上の粗面を活物質面に有する銅箔を集電体基材として用いることが望ましい。これらの粗面は、銅箔の片面または両面いずれでも可能である。銅箔には、電解銅箔と圧延銅箔の2種類があり、圧延銅箔の場合には、それ自体は両面光沢を有する平滑箔に相当するので、少なくとも活物質を形成する面には、例えば、エッチングやめっき等による粗面化処理が必要である。電解銅箔の両面光沢箔の場合にも同様である。
圧延銅箔は、例えば、純銅材料を溶解鋳造し、得られる鋳塊を、常法により、順に、熱間圧延、冷間圧延、均質化処理、および脱脂する工程により、所定箔厚に製造することができる。電解銅箔は、プリント回路用銅箔原箔を銅箔の基材とすることができ、ステンレス製やチタン製の回転ドラムを硫酸と銅イオンを主体とする酸性電解液中にその一部を浸漬還元電解することにより電着される銅箔を連続的に剥離、巻き取ることにより製造される。所定箔厚は電解電流とドラム回転速度の設定により得られる。電解銅箔の場合には電着面側(回転ドラム面側)は常に光沢平滑面であるが、電解液面側は粗面の場合と光沢平滑面の場合といずれの場合もある。粗面の場合にはそのまま本発明にも用いることが可能であり、比較的好適に活物質形成面に用いることができる。いずれの銅箔も、その両面に活物質形成する場合には、少なくとも片面の粗面化処理が必要になる。前記の粗面化処理のうち、エッチングでは塩素イオン含有電解液による交流エッチング、めっきではプリント回路用銅箔において従来用いられている硫酸銅系電解液による限界電流密度前後の電流密度を用いた電解銅めっきにより微小銅粒子を生成電着させる粗化処理は特に有効である。
【0013】
このような銅箔を用いた集電体基材を用い、表面に前記の厚さのシリコン系活物質を形成することで本発明の負極が得られる。形成する皮膜厚さは、2次電池における実容量仕様を考慮して決められる。薄過ぎては容量が小さ過ぎて現実的でなく、また厚過ぎると集電体表面と活物質皮膜が平滑状となり、その実表面積が小さくなるので、充放電の反応サイトや表面積が小さくなり、却って充放電容量とサイクル寿命が低下する場合がある。皮膜厚さの下限は0.5μm程度(単位面積あたりの質量で1g/m)、上限は8μm程度(単位面積あたりの質量で18g/m)とすることができる。高エネルギーを必要とする高容量タイプ用途にも充分な実容量仕様を満たすためには皮膜厚さを6μm以上とすることが求められるが、本発明の負極はこれを満足する。よって、無停電電源やエンジン始動補助電源、ハイブリッド自動車などの高出力用途2次電池に適用可能である。本発明の負極において集電体基材上に形成される活物質は、シリコンを主体とする物質で構成され、水素含有量が少なくとも0.1原子%である水素化シリコンを含むシリコン系活物質皮膜である。大面積製膜が経済的に可能な各種のCVD(化学的気相成長)法や水素含有雰囲気でのEB(電子ビーム)蒸着法により、均一で均質な皮膜を集電体表面上に形成することができる。このようにして、前記集電体基材の粗面上に0.5μm〜8μm(単位面積あたりの質量で1〜18g/m)の厚さの活物質皮膜が形成される。
これにより本発明の効果が基本的に得られる。
【0014】
本発明において、集電体銅箔上に直接的に形成される、シリコンを主体とする負極活物質皮膜は次のように形成される。当該目的の製膜方法のひとつにCVD(化学的気相成長)法が挙げられる。例えば、プラズマCVD(PECVD、特にはVHF使用)や触媒CVD(Cat−CVD,ホットワイヤCVD)が好適に用いられる。これらの製膜法に拠った負極活物質皮膜には水素化シリコンが含まれ、シリコン基の1または2の結合手に水素が結合したSiHまたはSiHが主に含まれ、その結合濃度は概略0.1〜12原子%程度であり、水素濃度として0.1原子%以上含まれる。製膜方法により、またその製膜条件、例えば、製膜温度とシリコン原料によって含有割合は相違し、主に集電体基材の保持温度とシリコン原料によって制御することができる。特に、PE−CVDまたはCat−CVD法においては、主原料のモノシランガス(またはジシラン、或いはヘキサメチルジシランHMDS:Si(CHNH、など)の供給量や、加えることができる水素ガスの供給割合によっても水素濃度を制御することができる。なお、水素ガスを加えずにシランガスだけを原料とすることもでき、特にガス分解効率が高く、原子状水素を高濃度化できるCat−CVD法では有効であり、これにより低コスト化できる。
水素化シリコンまたは、シリコンへの水素基の導入によって、シリコン単体の場合に比較して、柔軟性に優れる構造となり、負極活物質であるシリコンが、充電時にLiイオンを受け入れ合金化する際の体積膨張に対して、シリコン系活物質皮膜(負極活物質皮膜)自体が割れや欠陥を生じてイオンの移動や導電経路が断たれたり、シリコン系活物質皮膜の一部が集電体から脱離したりするのを抑止することができるようになる。特に、2水素化シリコンのSiHを有すると、シリコンは2配位となるので、構造柔軟性が増加してその効果が増す。また、水素化シリコンは、シリコン系皮膜に不可避的に存在する未結合手(ダングリングボンド)の欠陥を水素終端しているので、不安定なシリコン欠陥の減少に繋がり、前記の導電経路に欠陥が生じるのを抑止する。これに対して、水素化シリコン割合が小さいか、含まないシリコン系皮膜は、緻密で堅い皮膜となるので、本用途には適さず、充放電の繰り返しによる体積変化によって、シリコン系皮膜が破壊され易く、集電体から脱離し易い傾向が認められる。
活物質シリコン系活物質はシリコンを主体とし、前記の水素のほか不可避的に含まれる物質から成り、特に何らかの特性向上効果を生ずる場合のほかは、原則として合金化成分など他の元素は含まないことが望ましい。さらに、水素化シリコンの存在によりシリコンと酸素との結合を抑止するので、結果として充放電時のリチウムイオン侵入脱離におけるリチウムと酸素との結合を抑止し、不可逆容量を小さくすることができ、初回充放電容量が高くなり、充放電繰り返しサイクルを重ねていくに従って生じる容量の低下を小さく抑えることができる。前記集電体基材表面には、このようなシリコン系活物質皮膜が1g/m〜18g/m形成される。なお、形成されるシリコン系活物質皮膜の結晶性は問わない。非晶質であっても、多結晶や微結晶のような結晶質であっても、または、これらが混在する形態であっても構わない。いずれのシリコン系活物質皮膜においても、本発明の効果は基本的に同様に得られる。
【0015】
前記負極の製造方法のうち、特に次の方法が推奨される。集電体基材として、前記の180℃伸び率が5%以上であり、かつ活物質形成面が平滑でないか、または光沢を有しない、表面粗さ(JIS B0601 十点平均粗さ)Rzが1μm以上の粗面を有する銅箔を用い、製膜室内に水素ガスとシランガスを供給濃度比[H]/[SiH]が0〜100の範囲内で連続的に供給し、銅箔温度を100℃〜350℃の範囲内に保持したCVD製膜法によって、連続的に導入した当該コイル状銅箔の片面または両面の活物質形成面に、連続的に0.1原子%以上30原子%以下(好ましくは20原子%以下)の水素を含有するシリコン系活物質層を形成する方法である。前記の原料ガス供給濃度比が0である(すなわち水素ガスを供給しない)条件は、前記のCat−CVD法において特に有効である。1枚ずつの枚葉を集電体として用いる場合にはバッチ製膜になるが、コイル状の大面積銅箔など大量生産する場合には、ロール・ツー・ロール形態の連続処理による製膜の方が経済的に優れる。
【0016】
本発明においては、さらにシリコン系活物質皮膜の下層または上層の少なくとも一方に、リンまたはボロンを含有する層を形成すると、シリコン自体の乏しい導電性が向上し、充電時のLiイオンのシリコンとの合金化、および放電時のLiイオンの脱離時の層内外への移動を容易にする。特に、シリコン系皮膜の下層にリンを形成し、かつ、上層にボロンを形成すると、充電時にLiイオンのシリコン系皮膜への侵入合金化が充分に行われる。また、シリコン系皮膜下層にボロンを形成し、かつ、上層にリンを形成した構成は、充電後にシリコン系皮膜と合金化して存在するLiイオンが、放電時のLiイオンのシリコン系皮膜からの脱合金化による放出を容易にする。このことにより、Liイオンが放出されずシリコン系皮膜内に残存することによる、充電しながら放電できない電気量の損失や不可逆容量を生ずるのを抑止する。ここでは、シリコン系皮膜自体の導電性を規定するものではないが、瞬時に高出力放電を必要とする用途や高速充電時などの高レート条件を考慮すると、10−2S/cm以上の導電性を有することが望ましい。シリコン系皮膜自体にリンやボロンをドープして導電性を上げることも可能である。リンやボロンをドープしたシリコン系皮膜、及び上層にリンまたはボロンを形成したシリコン系皮膜は、シリコンの酸化膜生成を抑制するので、前記の水素化シリコンによる効果に加えて、酸素とLiイオンの結合による不可逆容量の増加と充放電容量低下を小さくする。
【0017】
他方、リンをドープしたシリコン系皮膜に酸素を含有させると、初期の充放電効率は低下するものの、充放電繰り返しのサイクル寿命が向上する。前記のリンの効果に加え、酸素の導入またはシリコンの酸化によって、充放電時リチウムの合金化、脱合金化による体積変化が抑制される効果と推定される。シリコン系皮膜全体に対するリンの含有量は0.1原子%以上30原子%以下が望ましく、好ましくは0.5原子%以上10原子%以下である。リンが0.1原子%未満では導電性向上やLiイオンのシリコン中への侵入、脱離への効果発現が小さく、30原子%を超えるとシリコンに対して過剰な導入量となり過ぎて、リン自体のLiイオンとの挿入脱離まで生じることもあり、却って挿入脱離に障害を生ずるようになる。
シリコン系皮膜全体に対する酸素の含有量は1原子%以上50原子%以下が好ましく、充放電効率とサイクル性能やリン濃度との関係から選択される。1原子%未満ではLiイオンの挿入脱離による体積変化抑制効果が認められず、50原子%を超える導入濃度では、シリコン量に対して過剰となり過ぎて、活物質の厚さや体積が増大したり、充放電容量が小さくなったり、或いは酸素とLiイオンとの結合量増加による初期不可逆容量が大きくなったりして、正極とのバランスが崩れて、二次電池とすることができない。
【0018】
シリコンにリンをドープするには例えばフォスフィンガスなどを、ボロンをドープする場合にはジボランなどの原料ガスを、前記のモノシランガスなどのシリコン原料ガスや水素の供給量を基準に、含有濃度に応じて同様に連続供給させながら製膜することができる。
【0019】
また、前記のシリコン系皮膜、或いはリンやボロンを含有するシリコン系皮膜を、大気酸化や酸素量を制御した雰囲気中で熱処理することにより酸素をシリコン系皮膜に導入させることができる。酸素量と熱処理温度、処理時間は含有させたい酸素濃度に拠る。
また、他の酸素を導入したシリコン系皮膜の製膜方法として、スパッタリングや酸素を導入した真空蒸着などに拠ることもできる。Siをターゲットとするスパッタリング装置や蒸着装置を用いて、製膜領域の雰囲気をアルゴン(Ar)と酸素(O)のガス濃度により調整制御することにより、所望の酸素量を含有する反応性スパッタリングSi膜や蒸着膜を形成することができる。さらには、SiOを直接ターゲットとするスパッタリングや蒸着によって、酸素含有割合を制御したSi膜を製膜することも可能である。この場合には、SiOと共にSi単体やSiOのターゲットも酸素濃度制御のために用いることができる。また、前記の製膜領域における雰囲気の酸素ガス濃度制御を併用することで、さらに微量の酸素濃度含有Si製膜制御が可能となる。
【0020】
本発明の負極において、シリコン系活物質皮膜の下層(シリコン系活物質皮膜の下層にリンまたはボロンの層が形成される場合はその下層)に、耐熱性または耐熱バリア性を有する層、防錆層、およびシランカップリング処理層の各処理層を形成すると、活物質形成までの経時劣化や製膜時高温の耐熱性を保持し、形成された負極活物質皮膜と集電体表面との密着性が向上する。また、集電体基材成分の銅と活物質が拡散合金化しないので、これによる充放電容量の低下を防止することができ、本来有するシリコンの高い比容量を得ることができる。特に、亜鉛層の上層にニッケル層を有する耐熱性バリア皮膜を形成すると拡散合金化を防止する。
【0021】
当該耐熱性層または耐熱性バリア皮膜は、銅箔表面を覆い、集電体銅箔の銅と負極活物質であるシリコンが相互に容易に混じり合わないように、両者の間に形成される少なくとも1層の皮膜でありまた、集電体銅箔上に形成するシリコン製膜時の高温や、2次電池として使用される間の環境温度と長期経時に対しても、集電体成分の銅のシリコン活物質中への拡散合金化を抑止または防止する皮膜とも定義できる。銅の拡散を抑え、或る程度汎用的な耐熱性元素としては、亜鉛やニッケル、コバルト、スズなどがある。スズのようなリチウムと合金化する元素を用いる場合には、それ自体が活物質として機能するので注意が必要になり、銅とも容易に拡散化合物を形成していく。当該耐熱性層または耐熱性バリア皮膜は、少なくともニッケル主体または亜鉛主体の層から構成される層であり、バリア性を完備する必要のない耐熱性層の場合には、銅箔上層のニッケル層と亜鉛層の順番は問わない。耐熱性バリア皮膜として、集電体基材成分である銅の活物質皮膜への拡散を防止する機能目的の場合には、銅箔上に亜鉛を形成し、その後にニッケル層を形成することが望ましい。これにより形成された亜鉛自体の活物質皮膜への拡散も抑えることができる。コバルトは、本発明におけるニッケルと同様の合目的機能特性を有するが、ニッケルよりさらに高コストになり、経済性に劣る懸念がある。
【0022】
前記の完全なバリア性までを要求しない耐熱性層として、例えば、好適には、銅箔表面上に少なくともニッケルを含有する耐熱皮膜が形成され、銅箔面上層に存在している。前記の耐熱性層は、ニッケルの含有量が0.01〜0.2g/mであることが望ましい。ニッケルの含有量が少なくては耐熱性に劣り、多過ぎては集電体基材の銅箔表面の粗面形状を平滑化してしまい、活物質との密着性を却って低下させてしまうためである。さらに、ニッケルの上層には亜鉛が単層で存在するか、またはニッケルや銅箔の面上に拡散して耐熱性層が形成される必要がある。
亜鉛は極めて容易に銅に拡散合金化し、銅の酸化、特に高温酸化を防止する耐熱性を付与することができる。その総量は少な過ぎては前記の効果が小さく、多過ぎては銅の集電性を低下させたり、上層皮膜との間に濃化して却って密着性を低下させたりする場合があり、好適には0.003〜0.05g/mの範囲である。亜鉛は前記のように銅への拡散によって耐熱性を付与するが、上層の活物質層への銅の拡散防止の点で不充分であり、自身拡散せず物理的遮蔽層として機能するニッケルを含有する層を形成することで、集電体成分の銅などを活物質中へ拡散させない耐熱性が達成される。なお、ニッケルと亜鉛皮膜の形成方法は、湿式法や乾式法などの各種の形成方法を用いることが可能であるが、経済性と均一均質皮膜が電解条件によって容易に得られるため、公知の硫酸浴等を用いた電気めっき法が推奨できる。
【0023】
さらに、前記の耐熱性バリア皮膜の好適な例としては、銅箔表面上に少なくとも亜鉛が形成され、銅箔面上層に拡散しているか、または亜鉛単層で銅箔面上に存在している。亜鉛は極めて容易に銅に拡散し、銅の酸化、特に高温酸化を防止する耐熱性を付与することができる。その総量は少な過ぎては前記の効果が小さく、多過ぎては銅の集電性を低下させたり、上層皮膜との間に濃化して却って密着性を低下させたりする場合があり、0.001〜0.1g/mの範囲に形成した方が望ましく、さらに好適には0.003〜0.07g/mの範囲である。さらに、亜鉛の上層にはニッケルを含有する耐熱皮膜が形成された構成が良好である。亜鉛は前記のように銅への拡散によって耐熱性を付与するが、その形成量が小さい場合には、上層の活物質層への銅および亜鉛自身の拡散防止の点で不充分であり、大きい場合には活物質層への拡散を生じて、充放電容量の低下を招く場合がある。また、自身は拡散し難い物理的バリア皮膜として機能するニッケルやコバルトなどの含有層を形成すると、集電体成分の銅などを活物質中へ拡散させない耐熱バリア性が向上する。例えば、前記の耐熱性バリア皮膜は、ニッケルの含有量が0.01〜0.5g/mであることが望ましく、少なくてはバリア性に劣り、厚過ぎては集電体銅箔表面の粗面形状を平滑化してしまい、活物質との密着性を低下させてしまうほか、皮膜割れを生じる可能性もあり、この場合には導電性と集電性を劣化させサイクル寿命を短くする。さらに、亜鉛とニッケル等の適度な形成量の組み合わせを用いることができる。なお、亜鉛とニッケル皮膜の形成方法は、前記耐熱性層同様に、公知の硫酸浴等を用いた電気めっき法が推奨できる。
【0024】
前記の耐熱性または耐熱性バリア処理層上には防錆処理を施しても良い。前記の集電体製造後すぐに活物質皮膜を形成するとは限らないためである。有機皮膜や無機皮膜誘電体によるパッシベーション機能を有する薄層を形成することにより防錆層は得られる。有機皮膜としては、伸銅品や圧延銅箔などに用いられるトリアゾール類のベンゾトリアゾールやトリルトリアゾールのほか、チアゾール類、イミダゾール類、メルカプタン類、トリエタノールアミン類、などの水溶液またはアルコール含有溶媒に浸漬して得られる形成有機薄層が好適である。無機皮膜としては、クロム酸塩や重クロム酸塩の水溶液に浸漬、または電解処理によるクロム水和酸化物であるクロメート薄層が好適に用いられ、有機薄層と異なり耐熱性も良好である。集電体基材の銅箔製造から活物質皮膜形成までの間の、銅箔の環境劣化を防止すると共に、活物質製膜時における耐熱性にも資する。さらに、前記の防錆処理層上や耐熱性処理層上に、シランカップリング処理層を形成して、耐熱性処理層や集電体とシリコン系活物質皮膜との密着性を向上させることもできる。シランカップリング処理は、一般に、シランカップリング剤を溶解した水溶液に、前記の耐熱性処理層や防錆処理層を形成した集電体用銅箔を浸漬して行われる。シランカップリング剤は、その化学構造置換基から耐熱性処理層や防錆処理層に応じて好適なものを選択する。特には、クリロキシ系やエポキシ系などのシランカップリング剤が推奨される。
【0025】
以上の本発明における負極を用いた2次電池は、容量が高く、充放電の繰り返しサイクルによっても充放電容量が低下しない特性が得られる。さらに、2次電池を構成する非水溶媒を用いる電解液に、フッ素を含有する非水溶媒を用いるか添加すると、さらに充放電による繰り返しを経ても容量が低下しない期間が延びて長寿命となる。フッ素含有溶媒は充電時、特に初めての充電処理の際のLiイオンとの合金化によるシリコン系皮膜の体積膨張を緩和するので、充放電による容量低下を抑制することができる。フッ素含有非水溶媒にはフッ素化エチレンカーボネートやフッ素化鎖状カーボネートなどを用いることができる。フッ素化エチレンカーボネートにはモノ−テトラ−フルオロエチレンカーボネート(4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、FEC)が、フッ素化鎖状カーボネートにはメチル2,2,2−トリフルオロエチルカーボネート、エチル2,2,2−トリフルオロエチルカーボネートなどがあり、これらを単一または複数併用して電解液に添加して用いることができる。フッ素基はシリコンと結合し易く強固でもあるので、Liイオンとの充電合金化による膨張の際にも皮膜を安定化させ膨張の抑制に寄与することができるとみられる。このように、本発明による負極、負極集電体、並びに非水溶媒電解液2次電池は、長期間に亘ってモバイル電子機器の駆動電源や電動工具ほかの産業用途に、或いは高エネルギーを必要とする電気自動車用途などに用いることができる。
【0026】
以下に本発明の2次電池用負極の好ましい実施態様を、図面を参照して説明する。なお、本発明はこれらの実施態様に限定されるものではない。
【0027】
図1は、本発明負極の第1の実施態様を示す拡大模式断面図である。
集電体銅箔原箔1の山状粗面を、新たに粗面化処理をすることなくそのまま集電体基材として用いる。集電体銅箔原箔1の山状粗面は、例えば電解銅箔の電解液面側に形成された粗面が挙げられる。この表面に耐熱性層または耐熱性バリア層と防錆処理層またはシランカップリング処理層2を形成したのち、シリコン系活物質皮膜3が設けられている。
【0028】
図2は、本発明負極の第2の実施態様を示す拡大模式断面図である。
集電体銅箔原箔1の山状粗面に、さらに微細銅粒子4による粗面化処理を施したものを基材として用いる。この表面に耐熱性層または耐熱性バリア層と防錆処理層またはシランカップリング処理層2を形成したのち、シリコン系活物質皮膜3が設けられている。
【0029】
図3は、本発明負極の第3の実施態様を示す拡大模式断面図である。
集電体銅箔原箔5の両面平滑または光沢の片方の面に、さらに微細銅粒子4による粗面化処理を施したものを基材として用いる。集電体銅箔原箔5の両面平滑または光沢の片方の面は、例えば圧延銅箔の面や、電解銅箔の回転ドラム面側の面などが挙げられる。この表面に耐熱性層または耐熱性バリア層と防錆処理層またはシランカップリング処理層2を形成したのち、シリコン系活物質皮膜3が設けられている。
【0030】
図4は、本発明負極の第4の実施態様を示す拡大模式断面図である。
集電体銅箔原箔5の両面平滑または光沢の両方の面に、さらに微細銅粒子4による粗面化処理を施したものを基材として用いる。この両方の粗面化表面に耐熱性層または耐熱性バリア層と防錆処理層またはシランカップリング処理層2をそれぞれ形成したのち、それぞれの面にシリコン系活物質皮膜3が設けられており、図3の片面皮膜構成を両面に構成した形態である。なお、図3、図4では、微細銅粒子4は一層のみ積層して描かれているが、実際に粗面化処理を施すと、微細銅粒子4は複数層に積層することが多い。
【0031】
図1、図2、図3、および図4に示した本発明の2次電池用負極は、集電体基材を構成する所定の粗面を有する銅箔上に、耐熱性層または耐熱性バリア層と防錆処理層またはシランカップリング処理層を設けたのちに、シリコン系活物質皮膜を形成しているので、集電体基材の銅成分が活物質に拡散合金化することなく良好な密着性を有するので、本来シリコンが有する高い容量を充放電に際して得ることができる。
【実施例】
【0032】
実施例1〜52、および比較例1〜14
以下に、本発明を実施例により詳細に説明する。本実施例では図1〜3に説明した片面皮膜構成の本発明例を示すが、これらに限定されることはなく、例えば、片面の皮膜形成処理を両面に施した、図4の両面皮膜形成形態においても同様に実施することができる。
【0033】
(1)実施例と比較例の試料作製
まず、試験評価用の本発明によるシリコン系負極試料と、これに用いる負極集電体、および比較に用いるシリコン系負極試料を以下のように作製した。
集電体銅箔に用いる銅箔原箔(表面処理していない銅箔基体)には、各種厚みの圧延銅箔(日本製箔製)と電解銅箔(古河電工製)を用いた。圧延箔原箔は両面光沢タイプ12μmを、電解箔原箔は両面光沢タイプの12μm、並びに片面光沢タイプ12μmと18μmを使用した。これらの原箔の表面を粗面化する場合には、プリント回路用途銅箔において公知の硫酸銅系水溶液を用いた銅めっきである(a)銅微粒子成長めっき(限界電流密度以上か、それに近い高電流密度で行う、いわゆる焼けめっき)と(b)通常の銅平滑状めっき(付与微粒子が脱落しないように限界電流密度未満で行う、一般の銅めっき)、による粗化処理を行った。また、耐熱性層を設ける処理例として、(c)公知の硫酸ニッケル系めっき液を用いたニッケルめっき、または(d)公知の硫酸亜鉛系めっき液による亜鉛めっきを実施し、複層の場合にはニッケルめっき後に亜鉛めっきを行った。他方、耐熱性バリア皮膜を形成する例として複層を形成する場合には、亜鉛めっき後にニッケルめっきを行った。さらに、防錆処理には(e)ベンゾトリアゾール水溶液への浸漬か、(f)三酸化クロム水溶液中での電解を用い、密着向上処理には(g)シランカップリング剤水溶液への浸漬処理とした。これらの銅箔を集電体として用いるため、シリコン系活物質を製膜する前に3ヶ月間室内保管をした。なお、これら集電体用銅箔の180℃に5分間保持しての伸び率をテンシロン試験機による引張試験にて測定し、表面粗さRzをJIS B0601(1994年版)に従った触針式粗さ試験機(小坂研究所製)にて測定した。耐熱性層のニッケルと亜鉛量は、単位面積当たりの試料表面皮膜を溶解した水溶液をICP(誘導結合プラズマ)発光分光分析することにより測定した。
シリコン系活物質皮膜の製膜を、下記(h)〜(l)の方法により実施し、実施例1〜52、比較例1〜14とした。シリコンの製膜は、予め求めた製膜速度に基づいた製膜厚さと製膜時間の関係から各試料に付き、所定時間製膜を行い、製膜後にサンプル断面のSEM(走査型電子顕微鏡)像観察から確認を行った。また、シリコンの製膜前後での単位面積当たりの質量測定から、負極活物質であるシリコン製膜量を求めた。製膜したシリコン系皮膜は、まず、FT−IR(フーリエ変換赤外分光光度計)を用いた赤外吸収スペクトル分析から水素の結合状態分析を行い、次いで、SIMS(2次イオン質量分析法)により水素濃度を測定した。以上の、まず(ア)耐熱性層としてニッケルめっき後に亜鉛めっきを形成した実施例を含む一連について、各試料に用いた集電体銅箔の仕様を表1に、また製膜前の室内保管後の外観異常と製膜仕様を表2に、それぞれ後掲した。次に(イ)耐熱性バリア皮膜形成実施例について述べる一連に付き、同様に各仕様を表4に、室内保管後の外観異常と製膜仕様を表5に、それぞれ後掲した。実施例12の製膜条件により製膜厚さを変えた実施例53〜55を作製したのち、下記(m)の方法により酸素を導入した。後掲の試験評価結果と共に表7に示した。シリコン系活物質へ含有させたリンや酸素は前記のICP分析に拠った。
【0034】
(a)粗化処理の焼けめっき:銅30g/dm、硫酸150g/dmを主成分とする電解液中で、加温することなく、電流密度10〜20A/dmの範囲において、電解時間と共に適宜選択し、予め決定した所定の表面形状を得る条件によりカソード電解した。
【0035】
(b)粗化処理の平滑状銅めっき:銅70g/dm、硫酸100g/dmを主成分とし液温40℃に保った電解液中で、電流密度5〜10A/dmの範囲において、予め(a)の条件と共に決定した所定の表面形状を得る電解時間と共に適宜選択した条件によりカソード電解した。
【0036】
(c)ニッケルめっき液:硫酸ニッケル(6水和物)160g/dm、ホウ酸30g/dm、1A/dm、の条件にて形成量に応じた時間を選定してカソード電解した。
【0037】
(d)亜鉛めっき:亜鉛10g/dm、pH12、0.1A/dm、の条件にてめっき量に応じためっき時間を適宜選択してカソード電解を行った。
【0038】
(e)防錆処理1:1重量%ベンゾトリアゾール水溶液への浸漬
(f)防錆処理2:70g/dm三酸化クロム水溶液、pH12、1C/dm、カソード電解
(g)シランカップリング処理:クリロキシ系シランカップリング剤(信越化学製)4g/dm水溶液への浸漬
【0039】
(h)シリコン製膜法1、及びシリコンへのリンまたはボロンドープ方法:Cat−CVD装置(アネルバ社製、放電周波数13.56〜40MHz)により、モノシランガス20sccm(Standard cc/min.:標準条件体積流量)、集電体温度250℃、タングステン線触媒体温度1800℃、を基本条件として、製膜厚さに応じて適宜製膜時間を選択した。リンをドープしながら製膜する場合にはフォスフィンガス10sccmを、またボロンをドープする場合にはジボランガスを、それぞれモノシランガスと同時に供給しながら製膜した。またシリコン系皮膜の上層または下層に、リンまたはボロンを含有する層を形成する場合には、前記のリンまたはボロンをドープする製膜方法に拠って製膜した。試料によっては、前記のシランガス等の原料ガスに水素ガスをさらに同時に供給して製膜した。水素ガスとモノシランガスの供給濃度比[H]/[SiH]、すなわち水素希釈比を変えて、水素化シリコン含有割合の異なるシリコン系活物質皮膜を形成した。
(i)シリコン製膜法2:シャワーヘッド構造のプラズマ電極を備えた平行平板型CVD(PECVD)装置(放電周波数60MHz)により、集電体温度200℃、水素希釈比=0のシランガス100sccm単独供給濃度を標準条件として、前記同様に水素希釈比を変えて製膜した。
(j)シリコン製膜法3:EB(電子ビーム)ガンとシリコン蒸発源を備えた蒸着装置(アルバック社製)により、高純度シリコン原料をEBにより200W加熱昇華させて集電体上に堆積させた。ここでは、水素ガス供給等による水素存在雰囲気とはしなかった。
(k)シリコン製膜法4:高純度シリコン原料、スパッタカソードを備えたスパッタリング装置(アルバック社製)により、アルゴンガス(スパッタガス)80sccm、高周波出力1kWにて集電体上に付着形成させた。
(l)シリコン製膜法5:高純度シリコン原料、抵抗加熱源を備えた真空蒸着装置(アルバック社製)により、原料を抵抗加熱溶融揮発させて製膜させた。
【0040】
(m)酸化処理:大気中100℃にて加熱処理を、導入酸素濃度に応じて所定時間実施した。
【0041】
(2)試料の試験評価
次に、前記のように作製した、本発明によるシリコン系負極試料、および比較に用いるシリコン系負極試料の試験評価を、次のように実施した。
前記の負極試料を20mm径に打ち抜き、これを試験極とし、リチウム箔を対極と参照極に用いた3極式セルを、非水溶媒電解液に、エチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)を3:7の容量比の溶媒に、1Mの六フッ化リン酸リチウム(LiPF)を溶解させた電解液を用いて、湿度7%以下の乾燥雰囲気25℃に密閉セルとして組み立てた。但し、一部の実施例では、フッ素をその化学構造に含む非水溶媒である、フルオロエチレンカーボネート(FEC)とメチルトリフルオロエチルカーボネート(MFEC)を1:3の容量比を有する溶媒を用いた。初回充電処理は、0.1Cレート定電流で、リチウムの酸化還元電位を基準として+0.02Vの電位まで行い、このとき得られた初回充電容量を各試料に付き試験測定し、活物質シリコンの単位質量当たりに換算した。これに続く、初回放電処理には、0.1Cレート定電流で、前記の同じリチウム電位基準に対して1.5Vまで放電させ、同様にその初回放電容量をそれぞれに付き測定し、シリコン単位質量当たりに換算した。また、先に測定しておいたシリコン活物質の製膜質量と放電電流量から、初回の実放電容量値を求めた。初回充放電処理終了後に、充放電レートを0.2Cとして、前記の初回充放電処理の各終了電位まで、充放電を繰り返すサイクルを50回実施した。50サイクル終了時の放電容量をそれぞれの試料に付き求め、単位質量当たりに換算した。以上の、初回の充放電容量と実放電容量値、並びに50サイクル後の放電容量値を、(ア)耐熱性層を含む一連の試料については表3に、(イ)耐熱性バリア皮膜については表6に、それぞれ後掲して示した。実施例5、12、53〜55のサンプルについては、充電容量を1000mAh/gに規制して、前記同様に放電させる容量規制による充放電サイクル試験を1千サイクル実施して、表7に示した。
【0042】
【表1】

【0043】
【表2】

【0044】
【表3】

【0045】
【表4】

【0046】
【表5】

【0047】
【表6】

【0048】
【表7】

【0049】
以上の試料作製と試験評価から以下のことがわかる。はじめに、(ア)表1〜3に示した、耐熱性層を含む一連の実施例1〜40、並びに比較例1〜14により、主要な本発明例について述べる。各試料の初回充電容量、放電容量、並びに50サイクル後の放電容量を比較すると、実施例による試料の充放電特性が良好であることがわかる。例えば、集電体に圧延銅箔を用いた実施例1〜2と比較例1では、その銅箔表面粗さRzが0.8μmと小さい比較例では、集電体表面の実面積と凹凸が不充分なことから集電体と活物質皮膜の密着が弱く、充放電繰り返し50サイクル後の容量が大きく低下し、400mAh/gを割る結果になっている。充放電時の体積膨張収縮繰り返しにより、活物質と銅箔界面に乖離が生じて集電性等の劣化を招いたものとみられる。Rz1μm以上、所定の集電体表面粗さを有する実施例1〜2では、500mAh/gを越える50サイクル後の放電容量を示す。また、同じ両面光沢箔の電解箔を用いたRz1μmを超える実施例3も良好な充放電特性を示し、50サイクル後放電容量が1000mAh/g以上となっている。
【0050】
シリコン系活物質の皮膜形成量は、実施例4〜6と比較例2〜3の比較から解る。比較例2の薄過ぎる場合には、単位質量当たりの初期容量も他に比較して低くなり、一般的に機器に必要な電気量の実容量には小さ過ぎ、電子機器において必要な約5mAhの10分の1の容量に止まっている。さらに、不可逆容量によると推定するサイクル後の放電容量の大きな低下もみられる。単セル当たりに少ない容量でも適用可能な高出力用途などの場合にも、実施例4の0.5μm以上、または1g/m以上が望ましい。また、活物質皮膜を8μmか、または18g/mに上限を設定するのは、表面粗さが低めの集電体を用いる場合、厚めの皮膜を形成すると、微細表面形状を平坦化して密着性低下を招くこと等から、比較例3に示す8.5μmの厚過ぎる活物質形成例では、充放電サイクル後の放電容量を大きく劣化させるためである。このため、このような低粗さ集電体を用いる場合も想定した実施例5〜6に示す8μm程度の厚さか、または18g/m以下の形成量に抑えた方が良い。
【0051】
実施例7〜11と比較例4〜7から、シリコン系活物質に含まれる水素化シリコンや水素濃度、および供給原料ガスの水素希釈比、並びに製膜時の集電体温度について、良否が得られる。実施例7では、製膜時の標準的な基材集電体銅箔加熱温度250℃に原料ガスの水素供給濃度を高めた条件から20原子%の水素を含むシリコン系皮膜が得られ、初期容量が低下するものの、サイクル試験後の容量は1千mAh/gを維持した。しかし、実施例8の集電体温度を低下させた条件では水素濃度30原子%の皮膜が得られ、初期容量は3千mAh/gを、サイクル試験後の容量は1千mAh/gを下回った。さらに、加熱温度を100℃未満にし、水素供給濃度を希釈比120まで高めた比較例4の製膜条件では、パーティクルが発生し、製膜が不良状態を示した。水素供給割合や水素含有割合を高めると、製膜時のパーティクル(粒状堆積)傾向が見られ、また初期容量の低下、並びにサイクル後の容量にも低下傾向が認められるので、シリコン系皮膜中の水素含有割合は30原子%程度を上限とし、製膜条件の集電体加熱温度は100℃程度以上、および原料ガスの水素希釈比は最大100以下とすることが望ましい。また、比較例5〜6のPECVDにおける水素希釈をせずに集電体を450℃と550℃の高温した条件、および比較例7のCat−CVDにおける水素希釈比110で、集電体を450℃にした条件では、水素含有割合が0.1原子%を下回るシリコン系皮膜が得られて、サイクル後の放電容量が500mAh/gを割る結果を示した。他方、実施例9と実施例11の0.15原子%水素を含有するシリコン系皮膜は、同容量1千mAh/g前後を示したので、水素を水素化シリコンとしてシリコン系皮膜中にある程度の量を含むことが必要で、水素量として0.1原子%以上が望ましい。また、比較例5と比較例7のシリコン系皮膜のFT−IR分析からはSiHしか検出されないので、柔構造を示すSiHを含まないことも、実施例9または実施例11との比較からサイクル後の放電用量が小さくなる原因とも推定される。さらに水素量の少ない比較例6ではSiHも検出されない、水素化シリコンを含まないシリコン系皮膜になっていると指定され、さらに劣る充放電特性を示した。すなわち、水素基を含まないシリコン系皮膜は緻密であり、硬いことから、初期容量は比較的高く得られても、充放電のLiイオンとの合金化・脱合金化を繰り返し過程で、皮膜劣化を生じると推定される。なお、実施例10には、Cat−CVD製膜に拠れば、水素希釈のないシランガス単独供給原料の条件からも、水素化シリコンを充分に含む皮膜を得ることができる例を示している。
【0052】
実施例12〜13と比較例8〜9には、活物質のシリコンにリンまたはボロンをドープした皮膜形成例を示した。ドープした実施例12および13は、ドープしない実施例と同様に良好な充放電特性を示す。しかし、水素化シリコンを水素濃度として0.1原子%に満たない比較例は、いずれも実施例との比較において、50サイクル後の容量が大きく低下した。前記の例と同様に、SiHも含んでいない製膜結果であった。
【0053】
実施例14〜16と比較例10には、シリコン系活物質皮膜の下層または上層に、さらにリンまたはボロンを含有したシリコン層を形成した例を示した。比較例10の水素濃度の低いシリコン系皮膜は、前記同様に実施例14と比較すると大きく放電容量が低下した。3つの実施例による本発明例では、良好な充放電特性を示し、特に実施例16は非フッ素含有非水溶媒電解液を用いた試験の中では最も良い結果を示した。これは、下層にリンを上層にボロンを含有した層を形成した皮膜構成が、電界ドリフト効果によるLiイオンと電子の移動が促進されて、2次電池に付随する不可逆容量を低下させるためと推定される。
【0054】
耐熱性層として少なくとも一部に形成したニッケル層と亜鉛層の形成量と評価については、主に実施例17〜28の比較から判明する。いずれの皮膜も形成しない実施例28では、集電体成分の銅が活物質皮膜に拡散合金化し、初回の充放電容量が2000mAh/g程度で他と比較すると低く、50サイクル後の容量も700mAh/gを割っている。ニッケル単層の場合、実施例24の0.008g/mでは銅の少量拡散が残り、実施例25の0.012g/mでは起こっていないので、0.01g/m以上を形成すると良い。実施例26〜27ではサイクルを重ねると容量低下も示しているので、耐熱性層の場合の上限は0.2g/m以下が好ましい。0.003g/m以上の亜鉛層と組み合わせる場合には、0.01g/m以下のニッケル量でもよく、実施例22〜23の比較からわかる。また、実施例18〜21にみられるように、亜鉛量が多い場合には、亜鉛のシリコン系皮膜への拡散による活物質容量低下する傾向も認められるので考慮する必要のあることがわかる。また、0.02〜0.04g/m程度に亜鉛量を高めた単層皮膜も有効であるが、高過ぎると容量低下を示すので、耐熱性層の場合には0.05g/m程度を上限とした方が良い。実施例17の特別厚い耐熱層を付与しない実施例でも標準的に良好なサイクル特性を示し、厚い耐熱層による初期容量低下の弊害も認められるので、通常は2層によるバランスの取れた耐熱層が望ましい。
【0055】
次に、防錆処理と密着向上処理の効果について、実施例29〜31、およびこれら以外の例との比較から判明する。いずれも行わない実施例29では製膜までの室内保管で錆が発生し、充放電特性も劣っている。他方、防錆処理だけを実施した実施例30は良好な充放電特性を示し、密着向上処理だけを施した実施例31は初回充放電容量が低めで、斑点変色も発生したが、サイクル終了後には700mAh/g以上の容量を有した。製膜までに長期在庫の可能性のある場合に備え、防錆処理または密着向上処理も実施する方が好ましい。また、実施例1の有機系誘電体皮膜であるベンゾトリアゾールによる防錆処理も、クロメート処理層と同様に防錆効果を示し充放電特性も良好であった。
【0056】
次に、シリコン系活物質皮膜の製膜法に付き、実施例32〜33と比較例11〜13を比較すると、2μmを製膜するに要した時間は、Cat−CVDとPECVDが比較的短く、次いでEB蒸着による場合であった。スパッタリングや抵抗加熱源蒸着法では量産化には難しい製膜速度であった。また、比較例製膜皮膜には水素化シリコンが検出されなかった。但し、量産適用可能なEB蒸着法の場合には、比較例では行わなかった水素ガス供給雰囲気等による蒸着製膜では水素化シリコンの導入も可能である。これらより、本発明の集電体銅箔の大面積製膜用途には前2者の製膜方法が望ましいが、次いで水素雰囲気EB蒸着方法に可能性が認められる。また、後2者のサイクル終了後の放電容量は劣っており、低い皮膜密着性や、基材加熱はないにもかかわらず、長時間製膜による輻射熱等による劣化の影響と考えられる。すなわち、CVD法による製膜法が良好であり、その中でも既に前記に示した、表面粗さRzが1μm以上の集電体銅箔を用い、シランと水素の原料ガス供給濃度比、および集電体加熱温度による製造方法に拠った水素濃度0.1原子%〜30原子%を含むシリコン系皮膜を有する負極電極が、優れた充放電特性を示すことが判った。
【0057】
実施例34〜36には、集電体銅箔の機械的特性である、180℃における高温伸び率の値と充放電特性を知ることができ、伸び率が3.1%を示す実施例34ではサイクル試験終了後に1000mAh/gを維持したが、伸び率が3%を下回る実施例36では低めの容量を示し、この場合には充放電の繰り返しによるシリコン系皮膜の体積膨張収縮によって集電体と活物質皮膜との界面密着性が劣化を生じた結果、集電性と皮膜導電性が劣化した箇所が一部に生じたと考えられる。伸び率が5%以上を示す実施例35では他の実施例と同程度のサイクル特性を示した。他の実施例の結果も考慮すると、集電体銅箔の機械的特性のひとつである180℃高温伸び率は3%以上が、さらには5%以上を有することが好適であるといえる。体積膨張時や万一の温度上昇時には集電体断裂や粒界亀裂による不具合の可能性が低下する。
【0058】
また、実施例34〜40の集電体銅箔には、プリント回路用途汎箔でもある片面光沢箔を用い、このうち実施例37と39ではその粗面側に粗化処理を行った箔にシリコン系皮膜を形成した。前記の集電体機械的特性の影響が認められる例はあるものの、いずれも特には問題のない充放電特性を示した。
【0059】
実施例40には、3極セル試験の電解液にフッ素を含有する非水溶媒を含む実施例を挙げた。これによれば、初回充放電容量も高く、50サイクル試験後の放電容量は最も高く残存する結果を示した。フッ素を含有しない従来タイプ非水溶媒に比較して、Liイオンとシリコンの合金化と脱合金化による、充放電の際の体積膨張収縮の体積変化が少なく、活物質と集電体との密着性と集電性、並びに活物質皮膜内の導電性の劣化が抑制される効果と考えられる。
【0060】
比較例14では、粗化処理を実施しない両面光沢箔原箔そのままの光沢面に、直接シリコンを製膜しようとしたところ、部分的な皮膜剥離を生じたので、電池用負極試料として試験評価に供することができなかった。
【0061】
次に、(イ)表4〜6に示した、実施例41〜52により、耐熱性バリア皮膜について述べる。耐熱性バリア皮膜として少なくとも一部に形成した亜鉛層とニッケル層の形成量と評価については、主に実施例41〜52の比較から判明する。いずれの皮膜も形成しない実施例52では、集電体成分の銅が活物質皮膜に拡散合金化し、初回の充放電容量が2000mAh/gを割る低い値であり、50サイクル後の容量も1000mAh/gを割っている。主たるバリア皮膜であるニッケル単層の場合、実施例48の0.008g/mでは銅の少量拡散がやはり起こり、実施例49の0.012g/mでは起こっていないので、0.01g/m以上を形成した方が良い。厚く形成し過ぎると皮膜割れを生じる可能性があり、実施例50〜51ではサイクルを重ねると容量低下も示しているので、上限は0.5g/m以下が好ましい。0.003g/m以上の亜鉛層と組み合わせる場合には、0.01g/m以下のニッケル量でも耐熱性バリア皮膜足り得ることが、実施例46と実施例47からわかる。また、実施例41〜45にみられるように、亜鉛量が多い場合には、亜鉛の拡散による活物質容量低下する傾向も認められるので、2層形成のニッケル量は0.01g/m以上が望ましい。また、実施例41の0.03g/m程度に亜鉛量を高めた単層皮膜も耐熱性を充分有し、実施例44〜45にまで高めると、亜鉛自身のシリコン系皮膜中への拡散によるとみられる放電容量低下を招くので、0.1g/m程度を上限とした方が良い。
【0062】
さらに、表7の容量規制サイクル試験結果に示したように、実施例5のPドープも酸素含有もない条件では容量が取れないものの、実施例12のPドープSiでは1千サイクル後にも充放電容量が残り、Pドープかつ酸素原子を所定濃度導入した実施例53〜55は、いずれも1000mAh/g保持して良好である。すなわち、Pドープをし、さらに酸素を含有するシリコン系皮膜が、充放電サイクル特性が良好であることが判る。
【0063】
以上に説明したように、本発明に示した所定のシリコン系皮膜を所定の集電体銅箔に形成した負極電極、並びに本発明の所定の方法で製造した負極電極は、いずれも非水溶媒を電解液に用いるリチウムイオン2次電池をはじめとする充放電可能な2次電池において、優れた充放電特性を示す負極として用いることができる。従来の電子機器用途をはじめ、今後実用化が始まる産業用途や自動車用途の2次電池に、従来にない高エネルギーや高出力を示す特性を付与することができる。しかも、既に量産されている銅箔を集電体として用いることが可能な上、直接的に大面積製膜可能な方法で活物質を形成することができるので、経済的にも有利な条件で産業上利用可能になる。
【符号の説明】
【0064】
1 集電体銅箔基材(山状粗面を有する原箔)
2 耐熱性層または耐熱性バリア層と防錆処理層またはシランカップリング処理層
3 シリコン系活物質皮膜
4 粗化処理により付着した銅系微細粒子
5 集電体銅箔基材(両面平滑箔または光沢箔)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
日本工業規格で規定される表面粗さRz(JIS B0601−1994 十点平均粗さ)が1μm以上の粗面を有する銅箔を用いた集電体基材の前記粗面上に、シリコン系の活物質皮膜が形成されている、非水溶媒電解液2次電池用負極であって、
前記集電体基材の片面または両面の粗面上に、1g/m〜18g/mのシリコン系活物質皮膜が形成され、
前記活物質皮膜は、水素化シリコンを含み、前記活物質皮膜全体に対する水素含有量が0.1原子%以上30原子%以下であることを特徴とする非水溶媒電解液2次電池用負極。
【請求項2】
前記集電体基材と前記シリコン系活物質皮膜との間、または前記シリコン系活物質皮膜上層の少なくとも一方に、
リンまたはボロンを含有するシリコン層が1層以上形成されていることを特徴とする、請求項1に記載の2次電池用負極。
【請求項3】
前記シリコン系活物質皮膜は、リンを含み、
前記活物質皮膜全体に対するリンの含有量が0.1原子%以上30原子%以下であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の2次電池用負極。
【請求項4】
前記シリコン系活物質皮膜は、さらに酸素を含み、
前記活物質皮膜全体に対する酸素の含有量が1原子%以上50原子%以下であることを特徴とする請求項3に記載の2次電池用負極。
【請求項5】
前記集電体基材の活物質皮膜形成面上に、ニッケルを0.01〜0.5g/m含有する層または亜鉛を0.001〜0.1g/m含有する層の少なくとも一方が形成された耐熱性層または耐熱性バリア皮膜を有することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の二次電池用負極。
【請求項6】
さらに前記耐熱性層または前記耐熱性バリア皮膜の上層に防錆層および/またはシランカップリング処理層が形成されていることを特徴とする請求項5に記載の2次電池用負極。
【請求項7】
前記耐熱性層または前記耐熱性バリア皮膜における前記亜鉛が単層亜鉛として存在することを特徴とする請求項5または請求項6に記載の2次電池用負極。
【請求項8】
前記耐熱性層または前記耐熱性バリア皮膜における前記亜鉛が集電体基材またはニッケル層に拡散していることを特徴とする請求項5または請求項6に記載の2次電池用負極。
【請求項9】
請求項1〜請求項8のいずれか1項に記載の2次電池用負極に用いられ、日本工業規格で規定される表面粗さRz(JIS B0601−1994 十点平均粗さ)が1μm以上の粗面を有することを特徴とする電極用銅箔。
【請求項10】
請求項1〜請求項8のいずれか1項に記載の負極を用いたことを特徴とする非水溶媒電解液を用いた2次電池。
【請求項11】
前記非水溶媒電解液が、フッ素を含む非水溶媒を含有することを特徴とする請求項10に記載の2次電池。
【請求項12】
日本工業規格で規定される表面粗さRz(JIS B0601−1994 十点平均粗さ)が1μm以上の粗面を有する銅箔を用い、温度180℃における伸び率が5%以上である前記集電体基材を、供給濃度比[H]/[SiH]が0〜100の範囲内でシランガスと水素ガスが供給される製膜室内に連続的に導入する工程と、
前記集電体基材の温度を100℃〜350℃の範囲内に保持したCVD法によって、連続的に導入した前記集電体基材の片面または両面に、連続的に0.1原子%以上30原子%以下の水素を含有するシリコン系活物質層を形成する工程と、
を備えることを特徴とする非水溶媒電解液2次電池用負極の製造方法。
【請求項13】
前記CVD法において、さらにフォスフィンガスを連続供給し、
シリコン系活物質を形成する前記工程において、リンを含有するシリコン系活物質皮膜を形成することを特徴とする請求項12に記載の2次電池用負極の製造方法。
【請求項14】
シリコン系活物質被膜を形成する前記工程の後、大気酸化または熱処理により前記シリコン系活物質皮膜に酸素を導入する工程をさらに具備することを特徴とする請求項12または請求項13に記載の2次電池用負極の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2010−282957(P2010−282957A)
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−108186(P2010−108186)
【出願日】平成22年5月10日(2010.5.10)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【出願人】(000005382)古河電池株式会社 (314)
【Fターム(参考)】