説明

MIMOフェージングシミュレータ

【課題】 アナログ入出力回路による歪を校正でき、さらに、アンテナ指向性に基づくMIMOチャネル間の相関を考慮したMIMOフェージングチャネルを模擬できるMIMOフェージングシミュレータを提供する。
【解決手段】 ダウンコンバータ21〜2Mと、入力校正回路41〜4Mと、チャネル係数生成器7と、FIRフィルタにより構成されたチャネル形成回路5と、出力校正回路101〜10Nと、アップコンバータ121〜12Nとを有し、入力校正回路41〜4M及び出力校正回路101〜10Nを用いて、ダウンコンバータ21〜2M及びアップコンバータ121〜12Nによって発生する歪を補償し、チャネル係数生成器7においてアンテナ指向性及び電力角度スペクトラムに基づいたアンテナ・空間相関係数を用いてチャネル係数を生成し、FIRフィルタで入力信号と前記チャネル係数との畳み込みを行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、MIMOフェージングシミュレータに関するものである。
【背景技術】
【0002】
無線通信において、複数の送受信アンテナを用いて信号伝送を行うMIMO(マルチインプット・マルチアウトプット)が注目されている。MIMOでは、複数の送信アンテナ間で相関のない信号を送信することで信号の空間多重を行い、また、複数の受信アンテナを用いて受信機においてそれらを分離することで高い伝送レートを実現できる。また、時空間符号化によって送信アンテナ間で相関のある信号を送信し、ダイバーシチ利得を向上させることで高信頼な伝送を実現することもできる。
【0003】
MIMOにおける様々な伝送方式を評価するためには、無線伝搬環境をモデル化したチャネルモデルが必要となる。IEEE802.11nによる無線LANの標準化においてもMIMO化の検討が行われており、伝送方式を評価するためのチャネルモデルがすでに非特許文献1で提案されている。
【0004】
MIMO伝送方式を評価する方法としては、まず、チャネルモデルに基づいて計算機シミュレーションを行う。次に、送信機と受信機の試作を行い、実際にRF信号またはIF信号により室内伝送実験系において評価を行う。その際、実際の伝搬路を模擬するのがフェージングシミュレータである。すなわち、フェージングシミュレータは、RF、或いはIFアナログ入出力でチャネルモデルを実現したものである。MIMO用のフェージングシミュレータも非特許文献1に記載されているチャネルモデルに基づいて作成することができるが、いくつかの問題点が考えられる。
【0005】
まず、MIMOフェージングシミュレータでは、MIMOに伴ってアナログ入力回路(ダウンコンバータ)及びアナログ出力回路(アップコンバータ)が複数となるため、それらの回路特性のばらつきや回路による歪により設定した通りのチャネルモデルを実現することができない。さらに、MIMOフェージングシミュレータにより歪が増えてしまうので、出力SNRが低下するなどの問題がある。非特許文献1ではこれらの解決法を明示していない。
【0006】
また、非特許文献1ではオムニアンテナのみを想定しているが、実際には様々なアンテナの使用が考えられるので、非特許文献1に基づいたMIMOフェージングシミュレータではこれらのアンテナに対応できないという問題がある。
【0007】
これらの問題を解決した高精度なMIMOフェージングシミュレータは今まで提案されていない。
【非特許文献1】V. Erceg他、「TGn Channel Models」IEEE 802.11-03/940r4、2004年5月。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来のMIMOフェージングシミュレータでは、以下のような問題点がある。
1.複数のアナログ入出力回路における回路特性のばらつきや回路による歪により設定した通りのチャネルモデルを実現できない。
2.アンテナ指向性及び素子間結合係数を考慮に入れることができないので、オムニアンテナ以外のアンテナを使用した場合のMIMOチャネルを高精度に実現できない。
以上の点を考慮すると、アナログ入出力回路における回路特性のばらつきや回路による歪を補償でき、アンテナ指向性及び素子間結合係数を考慮に入れてチャネル係数を生成できるMIMOフェージングシミュレータは存在しない。
【0009】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであり、複数のRF、或いはIFのアナログ入出力回路、すなわち、ダウンコンバータ及びアップコンバータにおける回路特性のばらつきや回路による歪を校正でき、さらに、アンテナ指向性及び素子間結合係数を用いてMIMOチャネルの相関係数を導出して、それを用いてチャネル係数を生成することができる高精度なMIMOフェージングシミュレータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明によれれば、M個の入力端子とN個の出力端子を有し、M個の送信アンテナとN個の受信アンテナ間の伝送路特性をシミュレートするMIMOフェージングシミュレータは、
上記M個の入力端子からの入力信号を複素ベースバンド入力信号に変換するM個のダウンコンバータと、Mは正の整数であり、
上記複素ベースバンド入力信号に対し、上記ダウンコンバータが生成した歪の補償を行って校正後入力信号として出力するM個の入力校正回路と、
上記M個の入力校正回路からの上記校正後入力信号が与えられ、M入力−N出力間にMN個のチャネルをそれぞれJタップの有限インパルス応答フィルタ、以下FIRフィルタと呼ぶ、で形成するチャネル形成回路と、N、Jは正の整数であり、
MN個の上記FIRフィルタにそれぞれのチャネルの特性をシミュレートするJ個のチャネル係数を与えるチャネル係数生成器と、
上記チャネル形成回路のN個の出力が与えられ、それぞれ歪補償を行って複素ベースバンド信号である校正後出力信号として出力するN個の出力校正回路と、
上記N個の出力校正回路の校正後出力信号をそれぞれアップコンバートして上記N個の出力端子に出力するN個のアップコンバータ、
とを含み、上記チャネル係数生成器は、上記M個の送信アンテナとN個の受信アンテナのアンテナ指向性および素子間結合係数を含んだアンテナ・空間相関係数に基づいてそれぞれ上記J個のチャネル係数を生成して上記MN個のFIRフィルタに対し設定し、上記N個の出力校正回路は上記チャネル形成回路のN個の出力に対し、上記N個のアップコンバータが生成する歪をそれぞれ補償するよう処理を行って上記校正後出力信号を生成するように構成されている。
【発明の効果】
【0011】
この発明のMIMOフェージングシミュレータによれば、入力校正回路、或いは出力校正回路を用いることで、M個のダウンコンバータ、或いはN個のアップコンバータ間の回路特性のばらつきを補償でき、さらに、アンテナ指向性に基づいてMIMOチャネルの相関係数を導出して、それを用いてチャネル係数を生成することで、実環境に近いフェージング伝送路を模擬できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための最良の形態について図面を参照して説明する。
【0013】
まず、MIMOフェージングシミュレータに係るこの発明を実施するための最良の形態について説明する。MIMOフェージングシミュレータの構成を図1に示す。この発明のMIMOフェージングシミュレータは、送信側のM個のアンテナ(図示せず)と受信側のN個のアンテナ(図示せず)との間に形成されるM×Nチャネルの伝送路をシミュレートする。M,Nは1以上の整数である。従って、M個の入力端子11〜1Mは送信側のM個の送信アンテナに対応し、出力端子151〜15Nは受信側のN個の受信アンテナに対応する。
図1に示されるように、本発明に係るMIMOフェージングシミュレータは、M個の入力端子11〜1Mに接続されたM個のダウンコンバータ21〜2Mと、M個のアナログ・ディジタル変換器(以下、ADCと呼ぶ)31〜3Mと、M個の入力校正回路41〜4Mと、チャネル形成回路5と、チャネル係数生成器7と、 N個の加算器81〜8Nと、N個の雑音生成器91〜9Nと、N個の出力校正回路101〜10Nと、N個のディジタル・アナログ変換器(以下、DACと呼ぶ)111〜11Nと、N個のアップコンバータ121〜12Nと、N個の出力端子151〜15Nに接続されたN個の可変減衰器131〜13Nから構成される。
チャネル形成回路5はM入力−N出力間にMN個のチャネルを形成する回路であり、各入力端子1m(m=1, 2, …, M)に対応して設けられたN個のチャネルの伝送特性を規定するN個のFIRフィルタ5m1〜5mNと、各出力端子15n(n=1, 2, …, N)に対応して設けられたM入力加算器6nとから構成されている。
【0014】
MIMOフェージングシミュレータは、入力端子11〜1Mから入力されたRF、或いはIFのアナログ入力信号に対して、ダウンコンバータ21〜2Mを用いて周波数変換及び直交復調を行って複素ベースバンド入力信号に変換し、さらに、ADC31〜3Mを用いてサンプリングすることでディジタル信号である入力信号に変換する。
【0015】
各入力校正回路41〜4Mは同様の構成であり、図2に入力校正回路4mを示すように入力歪補償回路4Aと歪学習回路4Bとから構成され、後述するように入力信号に対して歪補償を行い、校正後入力信号を出力する。各入力校正回路4mからの校正後入力信号はチャネル形成回路5内のN個のチャネルをシミュレートするN個のFIRフィルタ5m1〜5mNに分配され、それぞれチャネル係数生成器7により設定された伝送路特性の影響が与えられる。各入力端子1mに対応するN個のFIRフィルタ5m1〜5mNのうちのn番目のFIRフィルタ5mnの出力が出力端子15nに対応するM入力加算器6nに与えられ、従って、各M入力加算器6nはM個のFIRフィルタ51n〜5Mnの出力を加算する。
【0016】
受信側のn番目の受信アンテナに対応するM入力加算器6nの出力は加算器8nで雑音生成器9nから与えられた雑音が加算され、加算結果は出力校正回路10nに与えられる。各出力校正回路10nは、図3に示すように出力歪補償回路10Aと、トレーニング信号生成回路10Bと、信号選択スイッチ10Cとから構成され、後述するように出力校正回路10nの入力信号に対しアップコンバータ12nが生成する歪を補償する校正後出力信号を生成する。DAC11nは、校正後出力信号をアナログ信号である複素ベースバンド出力信号に変換する。アップコンバータ12nは、複素ベースバンド出力信号を直交変調及び周波数変換によりRF、或いはIFに変換し、更に、可変減衰器13nは後述するチャネル係数生成器7のパスロス乗算器により設定するパスロスに合わせて出力信号レベルが最適なダイナミックレンジとなるようアップコンバータ12nの出力を減衰させ、出力端子15nよりアナログ出力信号を出力する。N個の校正後出力信号に対してそれぞれこれらの処理が行われる。
【0017】
以下、より詳細に主要部の説明を行う。
入力校正回路4m(m=1, 2, …, M)の構成を図2に示す。入力校正回路4mは、歪補償回路4Aと歪学習回路4Bから構成される。m番目のダウンコンバータ2mの入力信号をstmとし、ダウンコンバータ2mのDCオフセットを表す2次元のベクトルをadmとし、IQインバランスおよびチャネル間偏差を表す2行2列の行列をDmとすると、ダウコンバータ2mの出力、従ってADC3mの出力sbbmは次式で表される。
【数1】


歪学習回路4Bでは、以下の3つのステップによりダウンコンバータ2mのDCオフセットを表す2次元のベクトルadmとIQインバランスおよびチャネル間偏差を表す2行2列の行列Dmを求める。
(a) 第1のステップとして基準信号発生器(図示せず)を入力端子1mに接続する。
(b) 第2のステップとして基準信号発生器の出力をオフにした状態、即ちstm=0の状態でADC3mの出力信号
【数2】


を観測し、式(1) におけるDCオフセットを表すベクトルadmを推定する。
【数3】


(c) 第3のステップとして基準信号発生器より予め決められた校正用のトレーニング信号
【数4】


を入力してADC3mの出力sbbmを測定し、式(1) によりIQインバランスおよびチャネル間偏差を表す行列Dmを推定する。
入力歪補償回路4Aでは以下の式(3) によりADC3mの出力信号sbbmに対してDCオフセットとIQインバランスおよびチャネル間偏差Dmの補償を行い、校正後入力信号
【数5】


を出力する。
ここでは基準信号発生器を入力端子1mに接続したが、図3に示した出力校正回路10nのトレーニング信号生成回路10Bにおいて出力歪補償を行ったトレーニング信号を生成し、信号選択スイッチ10Cをトレーニング信号生成回路10B側に切り替え、出力端子15nを入力端子1mに結線することによっても同様の校正を行うことができる。
【0018】
チャネル係数生成器7は、チャネル係数を生成して出力する。チャネル係数生成器7の詳細について後述する。チャネル形成回路5のJタップFIRフィルタ5mnは、m(m=1, 2, …, M)番目の入力端子1mから入力された信号に対してチャネル係数を畳み込み、n(n=1, 2, …, N)番目の出力端子15nに出力する。さらに、このFIRフィルタ5mn用のチャネル係数をhmn,j(tk)(j=1, 2, …, J)とする。ここで、tkはサンプリング時刻であり、サンプリング間隔Δtの整数倍である。FIRフィルタ5mnは、m番目の入力校正回路4の出力である校正後入力信号sm(tk)を入力し、重み付け係数としてチャネル係数hmn,j(tk)を用いて、チャネル信号smn(tk)を生成する。このとき、チャネル信号smn(tk)は
【数6】


となる。さらに、M入力加算器6nは、smn(tk)をmに関してM個加算してn番目の出力端子15nから出力されるチャネル受信信号yn(tk)を生成する。チャネル受信信号yn(tk)は
【数7】


となる。
【0019】
雑音生成器9nは、雑音として平均が0で、分散が設定値となる複素ガウス乱数wn(tk)を生成する。さらに、加算器8nは、チャネル受信信号yn(tk)と、雑音wn(tk)とを加算して出力信号
rn(tk)=yn(tk)+wn(tk) (6)
を出力する。
【0020】
出力校正回路10nは、図3に示したように出力歪補償回路10Aと、トレーニング信号生成回路10Bと、信号選択スイッチ10Cから構成され、出力信号に対して歪補償を行い、校正後出力信号を出力する。n番目のアップコンバータ12nのDCオフセットを表す2次元ベクトルをaunとし、IQインバランスおよびチャネル間偏差を表す2行2列の行列をMnとし、トレーニング信号生成回路10Bが生成するトレーニング信号をrtnとし、アップコンバータ12nの出力信号をsnとすると、出力信号sn
sn=Mnrtn+Mnaun (7)
と表される。そこで、歪学習を行う場合は、入力校正回路4mの歪学習回路4Bを使って、以下の4つのステップによりアップコンバータ12nのMnとaunを求める。
【0021】
(a) 第1のステップとして、信号選択スイッチ10Cをトレーニング信号生成回路10B側に切り替え、出力端子15nを入力端子1mに結線する。
(b) 第2のステップとしてトレーニング信号生成回路10Bの出力をオフにした状態、即ちrtn=0の状態で、歪学習回路4Bにより校正後入力信号smを観測する。ダウンコンバータ2mの歪は入力歪補償回路4Aにより補償されているのでsm=snである。従って、式(7)によりDCオフセットを表すベクトルaunとIQインバランスおよびチャネル間偏差を表す行列Mnの積を推定することができる。
【数8】


(c) 第3のステップとしてトレーニング信号生成回路10Bにより予め決められた校正用のトレーニング信号
【数9】


を出力し、その状態で歪学習回路4Bにより校正後入力信号smを観測して式(7) によりIQインバランスおよびチャネル間偏差を表す行列Mnを推定する。
(d) 第4のステップとして、第2のステップで推定したMnaunと第3のステップで推定したMnからDCオフセットを表すベクトルaunを求める。得られたMnとaunは出力校正回路10nの出力歪補償回路10Aに与えられる。
出力歪補償回路10Aでは以下の式(9) により加算器8nの出力信号ベクトル
【数10】


に対してDCオフセットとIQインバランスおよびチャネル間偏差の補償を行い、校正後出力信号
【数11】


を出力する。
【数12】


ここでは出力端子15nを入力端子1mに結線し、歪学習回路4BでDCオフセットとIQインバランスおよびチャネル間偏差を学習したが、出力端子15nに信号解析器を接続して信号の解析を行うことによっても同様の校正を行うことができる。
【0022】
以上のことから、本発明を実施するための最良の形態によれば、入力校正回路及び出力校正回路を用いることで、M個のダウンコンバータ及びN個のアップコンバータ間のIQインバランス及びDCオフセット等による歪や回路特性のばらつきを補償でき、設定した通りの高精度なMIMOチャネルを実現できる。
【0023】
次に、チャネル係数生成器7の構成例を図4に示す。図4に示すように、本発明に係るチャネル係数生成器7は、第1〜第Jパス成分生成器141〜14Jとアンテナ空間相関係数生成器14Kとから構成されている。Jは1以上の整数である。第1パス成分生成器141は、 MN個の複素ガウス乱数生成器14A1〜14AMNと、MN個のドップラーフィルタ14B1〜14BMNと、アンテナ・空間相関係数乗算器14Cと、MN個のパス電力乗算器14D1〜14DMNと、MN個の見通し成分加算器14E1〜14EMNと、MN個の蛍光灯成分加算器14F1〜14FMNと、MN個のパスロス乗算器14G1〜14GMNと、MN個の補間器14H1〜14HMNとから構成されている。他のパス成分生成器142〜14Jも同様の構成である。
【0024】
各パス成分生成器14jは、複素ガウス乱数生成器14A1〜14AMNを用いて複素ガウス乱数を生成し、さらに、ドップラーフィルタ14B1〜14BMNを用いて設定したドップラースペクトラムとなるようにフィルタ処理を行う。この処理はFIRフィルタ、或いは、無限インパルス応答(IIR)フィルタにより複素ガウス乱数に対して重み付け係数を畳み込むことで実現される。チャネルが生成される時刻thにおいて、MN個の複素ガウス乱数生成器14A1〜14AMNとドップラーフィルタ14B1〜14BMNが、それぞれこれらの処理を行う。各複素ガウス乱数生成器14A1〜14AMNは、互いに独立な乱数を発生させる。
【0025】
アンテナ・空間相関係数生成器14Kは、M個の送信アンテナとN個の受信アンテナに対し予め決めたアンテナ指向性及び電力角度スペクトラムを用いて、MN行MN列のアンテナ・空間相関係数行列Rを生成する。アンテナ指向性を含めた送信のM次元アレー応答ベクトルをatt)、受信のN次元アレー応答ベクトルをarr)とする。ただし、φtとφrは、送信アンテナからの放射方向と受信アンテナへの到来方向である。このとき、アンテナ指向性を考慮した送信のM行M列のアンテナ・空間相関係数行列Rtと受信のN行N列のアンテナ・空間相関係数行列Rrは、放射方向の電力角度スペクトラムPtt)と到来方向の電力角度スペクトラムPrr)を用いて、
【数13】


となる。さらに、送信と受信アンテナの素子間結合を表す係数行列をそれぞれM行M列のQt、N行N列のQrとすると、アンテナ・空間相関係数行列Rは、
【数14】


となり、アンテナ指向性、電力角度スペクトラム、素子間結合、アレイ応答ベクトルを設定することで、アンテナ・空間相関係数を計算できる。Rは、パス毎に電力角度スペクトラムを設定することで、パス毎に異なったものを生成することも可能である。
【0026】
第jパス成分生成器14jにおけるアンテナ・空間相関係数乗算器14Cは、ドップラーチャネル係数umn,j(th)にアンテナ・空間相関係数を乗算し、相関チャネル係数gmn,j(th)を生成する。いま、ドップラーチャネル係数を要素に持つMN次元のドップラーチャネル係数ベクトルをuj(th)とすると、相関チャネル係数を要素に持つMN次元の相関チャネル係数ベクトルgj(th)は、アンテナ・空間相関係数生成器14Kの出力Rを用いて
【数15】


となる。
【0027】
パス電力乗算器14Dmn,j、見通し成分加算器14Emn,j、蛍光灯加算器14Fmn,j、パスロス乗算器14Gmn,jは、相関チャネル係数gmn,j(th)に対して、設定した電力遅延プロファイルに基づいて相関チャネル係数にパス振幅を乗算し、見通し成分及び蛍光灯によるチャネル変動成分を加算し、さらに、伝搬及びシャドウィングによる減衰係数を乗算して、補間前チャネル係数hmn,j(th)を生成する。その際、減衰係数は設定したい減衰量を可変減衰器15nでも実現することを考慮して量子化雑音が大きくならないように最適に調整する。
【0028】
補間器14Hmn,jは、時刻thに生成される補間前チャネル係数hmn,j(th)に対して補間を行って、サンプリング時刻tkのチャネル係数hmn,j(tk)を生成する。
【0029】
以上のことから、本発明を実施するための最良の形態によれば、チャネル係数生成器においてアンテナ指向性及び電力角度スペクトラムに基づいたアンテナ・空間相関係数を用いてチャネル係数を生成することで、アンテナ指向性を考慮に入れたMIMOチャネルのフェージング伝送路を模擬できる。
【0030】
図5はMIMOフェージングシミュレータに係る他の実施例を示す。図5の構成は、図1の構成において各入力校正回路4mとFIRフィルタ5m1〜5mNとの間に歪付加回路16mが挿入されている点を除けば図1の構成と同じなので重複説明は省略する。入力校正回路4m及び出力校正回路10nによって、ダウンコンバータ2m及びアップコンバータ12nによる歪は補償されるため、MIMOフェージングシミュレータを通すことで歪が増えることはない。しかしながら、送信機で発生する歪等の影響を、本発明であるMIMOフェージングシミュレータで検証できるようにするため、歪付加回路161〜16Mを用いる。入力校正回路4mの出力である校正後入力信号は、歪付加回路16mに入力され、設定した関数に基づいた歪を付加され、歪付加入力信号として出力される。歪付加入力信号は、校正後入力信号の代わりにFIRフィルタ5m1〜5mNに入力され、以降の処理は全て同じとなる。
【0031】
以上のことから、本発明を実施するための最良の形態によれば、歪付加回路を用いて入力信号に対して設定した関数に基づいた歪を付加することにより、任意の歪による影響をMIMOフェージングシミュレータにより検証できる。
【0032】
なお、上述した各発明を実施するための最良の形態に限らず、本発明の要旨を逸脱することなくその他種々の構成を採り得ることはもちろんである。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明によるMIMOフェージングシミュレータの機能構成を示すブロック図。
【図2】図1における入力校正回路4mの機能構成を示すブロック図。
【図3】図1における出力校正回路10nの機能構成を示すブロック図。
【図4】図1におけるチャネル係数生成器7の機能構成を示すブロック図。
【図5】この発明によるMIMOフェージングシミュレータの他の構成例を示すブロック図。
【符号の説明】
【0034】
1〜1M:入力端子、21〜2M:ダウンコンバータ、31〜3M:ADC、41〜4M:入力校正回路、5:チャネル形成回路:511〜5MN:JタップFIRフィルタ、61〜6N:M入力加算器、7:チャネル係数生成器、81〜8N:加算器、91〜9N:雑音生成器、101〜10N:出力校正回路、111〜11N:DAC、121〜12N:アップコンバータ、131〜13N:可変減衰器、151〜15N:出力端子、141〜14J:パス成分生成器、14A1〜14AMN:複素ガウス乱数生成器、14B1〜14BMN:ドップラーフィルタ、14C:アンテナ・空間相関係数乗算器、14K:アンテナ・空間相関係数生成器、14D1〜14DMN:パス電力乗算器、14E1〜14EMN:見通し成分加算器、14F1〜14FMN:蛍光灯成分加算器、14G1〜14GMN:パスロス乗算器、14H1〜14HMN:補間器、161〜16M:歪付加回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
M個の入力端子とN個の出力端子を有し、M個の送信アンテナとN個の受信アンテナ間の伝送路特性をシミュレートするMIMOフェージングシミュレータにおいて、
上記M個の入力端子からの入力信号を複素ベースバンド入力信号に変換するM個のダウンコンバータと、Mは正の整数であり、
上記複素ベースバンド入力信号に対し、上記ダウンコンバータが生成した歪の補償を行って校正後入力信号として出力するM個の入力校正回路と、
上記M個の入力校正回路からの上記校正後入力信号が与えられ、M入力−N出力間にMN個のチャネルをそれぞれJタップの有限インパルス応答フィルタ、以下FIRフィルタと呼ぶ、で形成するチャネル形成回路と、N、Jは正の整数であり、
MN個の上記FIRフィルタにそれぞれのチャネルの特性をシミュレートするJ個のチャネル係数を与えるチャネル係数生成器と、
上記チャネル形成回路のN個の出力が与えられ、それぞれ歪補償を行って複素ベースバンド信号である校正後出力信号として出力するN個の出力校正回路と、
上記N個の出力校正回路の校正後出力信号をそれぞれアップコンバートして上記N個の出力端子に出力するN個のアップコンバータ、
とを含み、上記チャネル係数生成器は、上記M個の送信アンテナとN個の受信アンテナのアンテナ指向性および素子間結合係数を含んだアンテナ・空間相関係数に基づいてそれぞれ上記J個のチャネル係数を生成して上記MN個のFIRフィルタに対し設定し、上記N個の出力校正回路は上記チャネル形成回路のN個の出力に対し、上記N個のアップコンバータが生成する歪をそれぞれ補償するよう処理を行って上記校正後出力信号を生成することを特徴とするMIMOフェージングシミュレータ。
【請求項2】
請求項1記載のMIMOフェージングシミュレータにおいて、
M個の上記ダウンコンバータの出力をそれぞれディジタル信号に変換してM個の上記入力校正回路に与えるM個のアナログ・ディジタルコンバータと、
それぞれ雑音を発生するN個の雑音生成器と、
上記N個の雑音発生器からの雑音をそれぞれ上記チャネル形成回路のN個の出力に加算して加算結果をN個の上記出力校正回路にそれぞれ入力するN個の加算器と、
N個の上記出力校正回路からの上記校正後出力信号をアナログ信号に変換してN個の上記アップコンバータにそれぞれ与えるN個のディジタル・アナログコンバータと、
N個の上記アップコンバータの出力のレベルをそれぞれ調整して出力するN個の可変減衰器、
とを更に含むことを特徴とするMIMOフェージングシミュレータ。
【請求項3】
請求項1記載のMIMOフェージングシミュレータにおいて、各上記入力校正回路は、学習により対応する上記ダウンコンバータのDCオフセットとIQインバランスを推定する歪学習回路と、上記推定したDCオフセットとIQインバランスを補償するよう上記ダウンコンバータからの信号を処理して上記校正後入力信号を生成する入力歪補償回路とを含むことを特徴とするMIMOフェージングシミュレータ。
【請求項4】
請求項3記載のMIMOフェージングシミュレータにおいて、各上記出力校正回路は既知のトレーニング信号を生成するトレーニング信号生成回路と、上記チャネル形成回路の対応する出力信号を処理して上記校正後出力信号を生成する出力歪補償回路とを含み、歪学習時に上記トレーニング信号生成回路のトレーニング信号を上記N個の出力端子の対応する1つから上記M個の入力端子の任意の1つに入力して上記アップコンバータのDCオフセットとIQインバランスを上記入力校正回路の上記歪学習回路を使って学習により推定し、上記出力歪補償回路は、推定した上記アップコンバータのDCオフセットとIQインバランスに基づいて上記チャネル形成回路の対応する出力信号を処理して上記校正後出力信号を生成することを特徴とするMIMOフェージングシミュレータ。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1つに記載のMIMOフェージングシミュレータにおいて、上記チャネル係数生成器は、
複素ガウス乱数を生成するMNJ個の複素ガウス乱数生成器と、
上記複素ガウス乱数に対し設定したドップラースペクトルと成るように重み付け係数を畳み込み演算するMNJ個のドップラーフィルタと、
上記アンテナ指向性及び上記素子間結合係数を用いてアンテナ・空間相関係数を生成して出力するアンテナ・空間相関係数生成器と、
上記ドップラーチャネル係数に上記アンテナ・空間相関係数を乗算して相関チャネル係数を生成するJ個のアンテナ・空間相関係数乗算器、
とを含むことを特徴とするMIMOフェージングシミュレータ。
【請求項6】
請求項5記載のMIMOフェージングシミュレータにおいて、上記チャネル係数生成器は更に、上記相関チャネル係数に対し、設定した電力遅延プロファイルに基づいてパス振幅を乗算するMNJ個のパス電力乗算器と、上記パス電力乗算器の出力に設定した見通し成分と蛍光灯によるチャネル変動成分を加算するMNJ個の見通し成分加算器および蛍光灯加算器と、その加算結果に伝搬及びシャドウィングによる減衰係数を乗算して乗算結果を補間前チャネル係数として出力するMNJ個のパスロス乗算器と、上記補間前チャネル係数に対して補間を行ってMN組の上記J個のチャネル係数を出力するMNJ個の補間器とを含むことを特徴とするMIMOフェージングシミュレータ。
【請求項7】
請求項1乃至4のいずれか1つに記載のMIMOフェージングシミュレータにおいて、上記入力校正回路と上記チャネル形成回路との間に歪付加回路が設けられ、上記入力校正回路の出力である上記校正後入力信号を上記歪付加回路に入力し、設定した関数に基づいて歪を付加して出力し、上記チャネル形成回路に入力することを特徴とするMIMOフェージングシミュレータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−67951(P2007−67951A)
【公開日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−252585(P2005−252585)
【出願日】平成17年8月31日(2005.8.31)
【出願人】(000001177)株式会社光電製作所 (32)
【Fターム(参考)】