説明

MOPA方式ファイバレーザ加工装置及びシード用レーザダイオード電源装置

【課題】MOPA方式ファイバレーザ加工装置に用いるシード用レーザダイオード電源装置において高ピークパワーでパルス幅の短いシード光を安定に発振出力すること。
【解決手段】このシード用LD電源回路32は、シードLD30に供給する電力を蓄積するコンデンサ50と、このコンデンサ50を所定電圧に充電する充電部52とを有している。そして、充電部52とコンデンサ50との間に充電用スイッチン素子54を接続し、コンデンサ50に対してシードLD30と直列に放電用スイッチング素子56を接続している。さらに、放電用スイッチング素子56を介さずに、シードLD30と直列に順方向の向きで1個または複数個(N個)の整流用ダイオード58を接続するとともに、シードLD30およびダイオード58の直列回路と並列に放電バイパス用の抵抗60を接続している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シード光を光ファイバの中で増幅して得られるパルス波形の光ビームを被加工物に照射して所望のレーザ加工を行うMOPA方式ファイバレーザ加工装置およびこれに使用可能なシード用レーザダイオード電源装置に関する。
【背景技術】
【0002】
最近、ファイバレーザで生成したレーザ光を被加工物に照射して所望のレーザ加工を行うファイバレーザ加工装置が普及している。その中で、MOPA(Master Oscillator _ Power Amplifier)方式のファイバレーザ加工装置も注目されている。
【0003】
ファイバMOPA方式は、コアにYb等の希土類元素を添加した光ファイバをレーザ増幅用のアクティブファイバに使用し、シードレーザで生成した比較的低い出力のシード光を一端から該アクティブファイバのコアに入れて他端まで伝播させながら、コアを励起光で励起することによって、コアの中でシード光を高出力の加工用光ビームに増幅または変換するものであり、光/光変換効率が高くてビームモードが安定している等の特長を有している。
【0004】
ところで、マーキングやトリミング等のレーザ加工は、被加工物の表面部分を熱で溶かさずに一瞬に蒸発除去する方式の表面除去加工が有効であり、非常に短いパルスのレーザビームを用いる。古くから、この種のレーザ加工に使用されるレーザは、10ns以下の短パルス発振を安定に行えるQスイッチ方式のYAGパルスレーザがほとんどであった。しかし、近年になって、MOPA方式ファイバレーザ加工装置も使われ始めてきた。MOPA方式ファイバレーザのシードレーザには、レーザダイオード(LD)がよく用いられている(たとえば特許文献1)。
【0005】
図16に、シードLDを駆動するための従来のシード用LD電源装置の回路構成を示す。このシード用LD電源装置は、直流電源100に対してシードLD102と直列にスイッチング素子104、電流制限用の抵抗106およびチョークコイル108を接続している。また、直流電源100と並列に平滑用のコンデンサ110を接続し、シードLD102と並列に保護用のダイオード112を逆向きに接続している。スイッチング素子104には、一般にトランジスタが用いられる。
【0006】
図17に、このシード用LD電源装置において1パルスのシード光を生成する際の各部の波形を示す。スイッチング素子104を一定時間TSだけオンすると、この期間中TSに直流電源100の出力電圧VSが駆動電圧Vdとして抵抗106、チョークコイル108CおよびシードLD102からなる直列の負荷回路に印加され、この負荷回路のインピーダンスに応じた駆動電流idがシードLD102を流れ、シードLD102が所定波長のLD光を発生する。このLD光が、シード光として増幅用光ファイバ(図示せず)の入力端に注入され、増幅用光ファイバの中を伝搬する過程で増幅されるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第6275250号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
マーキングやトリミング等のレーザ加工に用いられるMOPA方式ファイバレーザ加工装置は、Qスイッチ方式のYAGパルスレーザ加工装置と同等に10ns以下の短パルスのレーザビームを安定に出力できる性能を求められている。
【0009】
この場合、上記のような従来のシード用LD電源装置(図16)は、スイッチング素子102をTS≦10nsのオン時間でスイッチング制御することになる。しかしながら、スイッチング素子102のスイッチング動作によって、つまりスイッチング素子102の応答特性に依存して、シードLD102に供給する駆動電流idを10ns以下の短パルスに制御することは、実際には無理があり、そのような短パルスの繰り返し発振を安定に行えないことが問題になっている。
【0010】
また、上記従来のシード用LD電源装置においては、スイッチング素子102の温度特性により、環境温度によってスイッチング・オン時間ひいてはLD光(シード光)のパルス幅が変動しやすいことや、抵抗106およびチョークコイル108のRL回路により駆動電流idのピーク値が抑制される(したがってシード光のピークパワーが低い)ことなども問題になっている。
【0011】
本発明は、上記のような従来技術の問題点を解決するものであり、高ピークパワーでパルス幅の短いシード光を安定に発振出力できるシード用レーザダイオード電源装置およびこれを用いるMOPA方式ファイバレーザ加工装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の第1のシード用レーザダイオード電源装置は、MOPA方式ファイバレーザ加工装置においてシード光を発生するレーザダイオードを駆動するためのシード用レーザダイオード電源装置であって、前記レーザダイオードに供給する電力を蓄積するコンデンサと、前記コンデンサを所定電圧に充電する充電部と、前記コンデンサに対して前記レーザダイオードと直列に接続される放電用スイッチング素子と、前記放電用スイッチング素子を介さずに前記レーザダイオードと直列に順方向の向きで接続される1個または複数個の整流用ダイオードと、前記放電用スイッチング素子を介さずに前記レーザダイオードおよび前記整流用ダイオードの直列回路と並列に接続される双方向通電型の放電用バイパス回路と、前記レーザダイオードを発光駆動するために前記放電用スイッチング素子をオンさせるスイッチング制御部とを有する。
【0013】
上記第1のシード用レーザダイオード電源装置においては、充電部によりコンデンサを所定電圧まで充電してから、スイッチング制御部により放電用スイッチング素子をオンさせると、コンデンサに蓄えられていた電荷が瞬時に負荷側に放出され、負荷回路にピーク値の非常に高い放電電流が流れ、レーザダイオードにも放電電流の一部が駆動電流として流れ、レーザダイオードがシード光を発生する。このシード光は、コンデンサの放電電流に基づくため、短いパルス幅と高いピークパワーを実現できる。
【0014】
また、放電用スイッチング素子がオンすると、負荷回路に存在する寄生インダクタンスの影響により、放電用スイッチング素子の出力端子側に得られる駆動電圧が交流波形になりやすい。しかし、放電用バイパス回路の通電により減衰し、かつレーザダイオードが通電するための閾値が整流用ダイオードとの直列接続によって増倍されているので、該交流波形の駆動電圧の極性がレーザダイオードの順方向に再度転じても、レーザダイオードが再び通電することはない。
【0015】
本発明の好適な一態様によれば、上記放電用バイパス回路は、典型的には抵抗を有し、あるいは互いに逆向きで並列に接続される複数のダイオードを有してもよい。
【0016】
本発明の第2のシード用レーザダイオード電源装置は、MOPA方式ファイバレーザ加工装置においてシード光を発生するレーザダイオードを駆動するためのシード用レーザダイオード電源装置であって、前記レーザダイオードに供給する電力を蓄積するコンデンサと、前記コンデンサを所定電圧に充電する充電部と、前記コンデンサに対して前記レーザダイオードと直列に接続される放電用スイッチング素子と、前記放電用スイッチング素子を介さずに前記レーザダイオードと直列に順方向の向きで接続される1個または複数個の第1ダイオードと、前記放電用スイッチング素子の前記コンデンサと反対側の端子と所定の基準電圧の端子との間に接続される放電用のプルダウン回路またはプルアップ回路と、前記レーザダイオードを発光駆動するために前記放電用スイッチング素子をオンさせるスイッチング制御部とを有する。
【0017】
上記第2のシード用レーザダイオード電源装置においては、充電部によりコンデンサを所定電圧まで充電してから、スイッチング制御部により放電用スイッチング素子をオンさせると、コンデンサに蓄えられていた電荷が瞬時に負荷側に放出され、負荷回路にピーク値の非常に高い放電電流が流れ、レーザダイオードにも放電電流の一部が駆動電流として流れ、レーザダイオードがシード光を発生する。このシード光は、コンデンサの放電電流に基づくため、短いパルス幅と高いピークパワーを実現できる。
【0018】
また、この装置構成においては、負荷回路に寄生インダクタンスが有っても、電流が逆方向に流れるパスが存在しないため、放電用スイッチング素子の出力端子側に得られる駆動電圧は交流波形にはならず、プルダウン回路またはプルアップ回路を介して基準電圧に引っ張られるように最初のピーク値から単調に低下または上昇する。したがって、駆動電圧がレーザダイオードおよび整流用ダイオードの合成閾値を再度超えることはなく、意図しない2発目ないし3発目のパルス発振を確実に防止することができる。
【0019】
本発明の好適な一態様によれば、上記放電用プルダウン回路またはプルアップ回路は、典型的には抵抗を有し、あるいは順方向で直列に接続される1個または複数個のダイオードを有してもよい。
【0020】
本発明の好適な一態様によれば、放電用スイッチング素子のオン時間は500ns以下である。また、本発明態様によれば、10ns以下のシード光のパルス幅でも発振を安定に行うことができる。また、放電用スイッチング素子を20kHz〜1MHzの繰り返し周波数で周期的にオンさせることができる。
【0021】
また、好適な一態様においては、充電部とコンデンサとの間に充電用スイッチング素子を接続する。そして、放電用スイッチング素子がオフしている期間中にコンデンサの充電を行うために充電用スイッチング素子をオンさせ、放電用スイッチング素子がオンしている期間中は充電用スイッチング素子をオフ状態に保持しておく。
【0022】
本発明の第1のMOPA方式ファイバレーザ加工装置は、シード光を生成するためのレーザダイオードと、前記レーザダイオードを点灯駆動するための本発明のシード用レーザダイオード電源装置と、希土類元素として少なくともYbを添加したコアを有し、前記レーザダイオードからの前記シード光を入力端より前記コアの中に入れ、前記シード光を出力端に向けて伝搬させながら誘導放出により増幅する増幅用光ファイバと、前記増幅用光ファイバのコアを励起するための励起光を発生する励起光源と、前記レーザダイオードおよび前記励起光源を前記増幅用光ファイバの入力端に光学的に結合する光結合器と、前記増幅用光ファイバの出力端から出るパルス波形の光ビームを被加工物に集光照射する光ビーム照射部とを有する。
【0023】
本発明の第2のMOPA方式ファイバレーザ加工装置は、シード光を生成するためのレーザダイオードと、前記レーザダイオードを点灯駆動するための本発明のシード用レーザダイオード電源装置と、希土類元素として少なくともYbを添加した第1のコアを有し、前記シード用レーザダイオードからの前記シード光を入力端より前記第1のコアの中に入れ、前記シード光を伝搬させながら誘導放出より増幅して、出力端より第1段増幅パルスの光ビームを出す第1の増幅用光ファイバと、前記第1の増幅用光ファイバの第1のコアを励起するための第1の励起光を発生する第1の励起光源と、前記レーザダイオードおよび前記第1の励起光源を前記第1の増幅用光ファイバの入力端に光学的に結合する第1の光結合器と、希土類元素として少なくともYbを添加した第2のコアを有し、前記第1の増幅用光ファイバの出力端からの前記第1段増幅パルスの光ビームを入力端より前記第2のコアの中に入れ、前記第1段増幅パルスの光ビームを伝搬させながら誘導放出により増幅して、出力端より第2段増幅パルスの光ビームを出す第2の増幅用光ファイバと、前記第2の増幅用光ファイバの第2のコアを励起するための第2の励起光を発生する第2の励起光源と、前記第1の増幅用光ファイバの出力端および前記第2の励起光源を前記第2の増幅用光ファイバの入力端に光学的に結合する第2の光結合器と、前記第2の増幅用光ファイバの出力端から出た前記第2段増幅パルスの光ビームを被加工物に集光照射する光ビーム照射部とを有する。
【0024】
上記第1および第2のMOPA方式ファイバレーザ加工装置においては、本発明のシード用レーザダイオード電源装置によりシード用のレーザダイオードを駆動してシード光を生成するので、Qスイッチ方式のYAGパルスレーザ加工装置と同等に非常に短いパルスで加工用レーザビームを安定に出力することが可能であり、しかも加工用レーザビームのピークパワーをQスイッチ方式のYAGパルスレーザ加工装置よりも各段に高くすることも容易である。
【発明の効果】
【0025】
本発明のシード用レーザダイオード電源装置によれば、上記のような構成および作用により、高ピークパワーでパルス幅の短いシード光を安定に発振出力することができる。
【0026】
また、本発明のMOPA方式ファイバレーザ加工装置によれば、上記のような構成および作用により、レーザ加工の品質、加工能力および効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の一実施形態におけるMOPA方式ファイバレーザ加工装置の構成を示すブロック図である。
【図2】上記ファイバレーザ加工装置に含まれるシード用LD電源回路の回路構成を示す図である。
【図3】上記シード用LD電源回路において充電用スイッチング素子および放電用スイッチング素子を交互にオンさせるシーケンスをタイミング図である。
【図4】上記シード用LD電源回路の放電期間内の各部の波形を示す図である。
【図5】上記シード用LD電源回路から整流用ダイオードおよび放電バイパス用抵抗の双方を省いた回路構成を示す図である。
【図6】図6の回路構成における放電期間内の各部の波形を示す図である。
【図7】上記シード用LD電源回路から放電バイパス用抵抗を省いた回路構成を示す図である。
【図8】図7の回路構成における放電期間内の各部の波形を示す図である。
【図9】上記シード用LD電源回路から整流用ダイオードを省いた回路構成を示す図である。
【図10】上記シード用LD電源回路において放電バイパス用抵抗の代わりに電流制限用抵抗を設ける回路構成を示す図である。
【図11】実施形態の一変形例によるシード用LD電源回路の回路構成を示す図である。
【図12】実施形態の別の変形例によるシード用LD電源回路の回路構成を示す図である。
【図13】放電バイパス用抵抗の代わりにプルダウン抵抗を用いる実施形態の回路構成を示す図である。
【図14】放電バイパス用抵抗の代わりにプルアップ抵抗を用いる実施形態の回路構成を示す図である。
【図15】図13の回路構成における放電期間内の各部の波形を示す図である。
【図16】従来のシード用LD電源回路の回路構成を示す図である。
【図17】図16のシード用LD電源回路における各部の波形を示す図である
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、図1〜図15を参照して本発明の好適な実施形態を説明する。
【0029】
図1に、本発明の一実施形態におけるMOPA方式ファイバレーザ加工装置の構成を示す。このファイバレーザ加工装置は、シード光発生部10、第1および第2の増幅用光ファイバ(以下「アクティブファイバ」と称する)12,14および光ビーム照射部16をアイソレータ18,20,22および光結合器24,26を介して光学的に縦続接続している。
【0030】
シード光発生部10は、シード用のレーザダイオード(以下「シードLD」と称する。)30と、このシードLD30をパルス波形の電流で駆動してパルス発振させるシード用LD電源回路32と、シードLD30の温度を制御するLD温調部34とを有している。シードLD30は、ファイバカップリングLDとして構成されている。
【0031】
シード光発生部10と第1のアクティブファイバ12との間に設けられる光結合器24は、複数たとえば3つの入力ポート24IN(1),24IN(2),24IN(3)と1つの出力ポート24OUTとを有している。第1の入力ポート24IN(1)には、アイソレータ18を介してシードLD30が接続される。第2の入力ポート24IN(2)には、第1のアクティブファイバ12のコアを励起するための励起用LD(以下「ポンプLD」と称する。)36が接続される。第3の入力ポート24IN(3)は、増設ポートであり、ここに別のポンプLD36(図示せず)を接続することも可能となっている。出力ポート24OUTには、アクティブファイバ12の入力端が接続される。
【0032】
シード光発生部10、アイソレータ18および光結合器24によって、第1のアクティブファイバ12に対するシード光注入部が構成されている。また、ポンプLD36および光結合器24によって、第1のアクティブファイバ12に対する励起光注入部が構成されている。
【0033】
第1のアクティブファイバ12は、少なくともYbイオンを添加した石英からなるコアと、このコアを同軸に取り囲むたとえば石英からなるクラッドとを有しており、全長(ファイバ長)がたとえば3〜15mに選ばれている。第1のアクティブファイバ12(第1段アンプ)の利得は、ポンプLD36の総合出力によりたとえば10〜40dBの範囲で調節可能となっている。
【0034】
第1のアクティブファイバ12と第2のアクティブファイバ14との間に設けられる光結合器26は、複数たとえば7つの入力ポート26IN(1),26IN(2)〜26IN(7)と1つの出力ポート26OUTとを有している。第1の入力ポート26IN(1)には、アイソレータ20を介して第1のアクティブファイバ12の出力端が接続される。第2〜第5の入力ポート26IN(2) 〜26IN(5)には、第2のアクティブファイバ14のコアを励起するためのポンプLD38がそれぞれ接続される。第6および第7の入力ポート26IN(2),26IN(7)は空きポートとなっているが、必要に応じてポンプLDを増設することもできる。出力ポート26OUTには、第2のアクティブファイバ14の入力端が接続される。
【0035】
第2のアクティブファイバ14も、第1のアクティブファイバ12と同様に、少なくともYbを添加した石英からなるコアと、このコアを同軸に取り囲むたとえば石英からなるクラッドとを有しており、全長(ファイバ長)がたとえば3〜15mに選ばれている。第2のアクティブファイバ14(第2段アンプ)の利得は、ポンプLD38の総合出力によりたとえば10〜40dBの範囲で調節可能となっている。
【0036】
光ビーム照射部16は、第2のアクティブファイバ14の出力端より取り出されるパルス波形の加工用光ビームLBをたとえばコリメータ39、ベントミラー40等の光伝送系を介して受け取り、受け取った光ビームLBをステージ42上の被加工物W表面の所望の位置に集光照射するようになっている。たとえば、マーキング加工を行う場合、光ビーム照射部16にはガルバノスキャナが搭載される。
【0037】
主制御部44は、キーボードあるいはマウス等の入力装置46およびディスプレイ(図示せず)等と接続するマイクロコンピュータからなり、メモリに格納された制御プログラムに基づいて上述した装置内の各部および装置全体の制御を行う。
【0038】
このMOPA方式ファイバレーザ加工装置において、マーキング加工を行う場合、シード光発生部10は、所定の波長を有するパルス波形のシード光(LD光)を所望のパルス幅(たとえば0.1〜200ns)、所望のピークパワー(たとえば10〜1000mW)および所望の繰り返し周波数(たとえば20〜500kHz)で出力するように構成されている。なお、繰り返し周波数は、10kHz〜1MHzの範囲で出力するように構成することができる。シード光発生部10より出力されたパルス波形のシード光は、アイソレータ18および光結合器24を介して第1のアクティブファイバ12のコアに注入される。
【0039】
一方、ポンプLD36は、所定の波長を有する連続波(cw)の励起光を出力するように構成されている。ポンプLD36より出力される連続波の励起光は光結合器24を介して第1のアクティブファイバ12のコアに注入される。
【0040】
第1のアクティブファイバ12の中で、シード光は、コアとクラッドとの境界面での全反射によって閉じ込められながらコアの中を軸方向にファイバ出力端側に向って伝搬する。一方、励起光は、クラッド外周界面の全反射によって閉じ込められながらアクティブファイバ12の中を軸方向に伝搬し、その伝搬中にコアを何度も横切ることでコア中のYbイオンを光励起する。
【0041】
こうして、シード光と励起光とがアクティブファイバ12を伝搬する間に、そのYb添加コアにおいて励起光スペクトルの吸収とシード光スペクトルの誘導放出とが繰り返し行われ、アクティブファイバ12の出力端より所望のパワー(たとえば200Wのピークパワー)を有するまでに増幅されたシード光つまり第1段増幅パルスの光ビームが出力される。
【0042】
第1のアクティブファイバ12の出力端から出た第1段増幅パルスの光ビームは、アイソレータ20および光結合器26を介して第2のアクティブファイバ14のコアに注入される。一方で、ポンプLD38からの連続波(cw)の励起光が光結合器26を介して第2のアクティブファイバ14のコアに注入される。
【0043】
第2のアクティブファイバ14においても、増幅対象の光ビームが異なるだけで、つまりシード光が第1段増幅光ビームに置き換わるだけで、第1のアクティブファイバ12と同様の誘導放出機構による光増幅が行われ、アクティブファイバ14の出力端より所望のパワー(たとえば20kWのピークパワー)を有する第2段増幅パルスの光ビームが出される。
【0044】
こうして、第2のアクティブファイバ14の出力端から取り出された第2段増幅パルスの光ビームが、加工用の光ビームLBとして、たとえばコリメータ39、ベントミラー40を介して光ビーム照射部16へ送られる。
【0045】
光ビーム照射部16は、マーキング加工用のガルバノスキャナおよびfθレンズを備えている。ガルバノスキャナは、直交する2方向に首振り運動の可能な一対の可動ミラーを有しており、制御部44の制御の下でシード光発生部10のパルス発振動作に同期して両可動ミラーの向きを所定角度に制御することで、加工用光ビームLBをステージ42上の被加工物W表面の所望の位置に集光照射する。被加工物Wの表面に施されるレーザ加工は、典型的には文字や図形等を描画するマーキング加工であるが、トリミング等の他の表面除去加工等も可能である。
【0046】
このMOPA方式ファイバレーザ加工装置においては、上記のようにシードLD30より出力されるパルス波形のシード光を第1および第2のアクティブファイバ12,14の中で増幅して得られるパルス波形の光ビームを加工用レーザ光LBとするので、シード光の特性(パルス幅、ピーク値、繰り返し周波数等)がそのまま、または一定の比例関係で、加工用レーザ光LBの特性を左右する。
【0047】
以下、シードLD30を駆動するシード用LD電源回路32の構成および作用を説明する。
【0048】
図2に示すように、このシード用LD電源回路32は、シードLD30に供給する電力を蓄積するコンデンサ50と、このコンデンサ50を所定電圧に充電する充電部52とを有している。そして、充電部52とコンデンサ50との間に充電用スイッチング素子54を接続し、コンデンサ50に対してシードLD30と直列に放電用スイッチング素子56を接続している。
【0049】
ここで、充電部52は、たとえばAC−DCコンバータ、DC−DCコンバータあるいはバッテリからなり、所定レベルの直流電圧VCでコンデンサ50に充電電流を供給する機能を有している。充電用スイッチング素子54および放電用スイッチング素子56は、いずれも任意のトランジスタを使用できるが、好ましくは電界効果型トランジスタ(FET)で構成される。
【0050】
さらに、このシード用LD電源回路32は、放電用スイッチング素子56を介さずに、シードLD30と直列に順方向の向きで1個または複数個(N個)の整流用ダイオード58を接続するとともに、シードLD30およびダイオード58の直列回路と並列に抵抗60を接続している。ここで、抵抗60は、双方向通電型の放電用バイパス回路を形成している。また、シードLD30に対して逆向きで保護用のダイオード62を並列に接続している。
【0051】
整流用ダイオード58は、任意のダイオードを使用できるが、好ましくは応答性に優れたショットキー・バリア・ダイオードを用いてよい。同様に、保護ダイオード62も、ショットキー・バリア・ダイオードが好ましい。
【0052】
そして、このシード用LD電源回路32は、主制御部44からの指令を受けて、充電用スイッチング素子54および放電用スイッチング素子56のオン/オフを制御するスイッチング制御部64を備えている。
【0053】
図3および図4につき、このシード用LD電源回路32の作用を説明する。
【0054】
上記のようなマーキング加工においてパルス波形のシード光を繰り返し発振出力する場合、図3に示すように交互または相補的にオン/オフするスイッチング制御信号SC1,SC2がスイッチング制御部64より充電用スイッチング素子54および放電用スイッチング素子56にそれぞれ与えられる。たとえば、シード光の繰り返し周波数を1MHzとする場合は、後述する放電期間を規定するスイッチング制御信号SC2のオン時間を500ns以下あるいは200ns以下に設定することができる。
【0055】
繰り返しパルス発振の各サイクルTMにおいて、最初の期間(t0〜t1)では、放電用スイッチング素子56がオフ状態のままで充電用スイッチング素子54がオンし、充電部52より充電用スイッチング素子54を介して充電電流がコンデンサ50に供給され、コンデンサ50が所定電圧(たとえばVC)まで充電される。
【0056】
この充電期間の終了後にいったん放電用スイッチング素子56および充電用スイッチング素子54の双方がオフ状態になる(t1〜t2)。そして、その直後の期間(t2〜t3)で、充電用スイッチング素子54がオフ状態のままで放電用スイッチング素子56がオンする。
【0057】
図4に、放電期間(t2〜t3)内の各部の波形を示す。放電用スイッチング素子56がオンすると、これと同時に、コンデンサ50に蓄積されていた電荷が瞬時に放電用スイッチング素子56を介して負荷側に放出され、負荷回路にピーク値の非常に高い放電電流ICが流れる。この時、負荷回路に存在する寄生インダクタンスの影響により、コンデンサ50の両端子に相当するノードA,Bの間にはLD駆動電圧Vdとして図4の(b)に示すような交流波形の電圧が現れる。この交流波形の周期TLCはコンデンサ54のキャパシタンスと寄生インダクタンスのインダクタンスによって決まり、その半周期TLC/2を10ns以下あるいは5nsとすることも容易にできる。また、この交流波形の減衰率は主に抵抗60の抵抗値R60に依存する。
【0058】
この交流波形のLD駆動電圧Vdは、シードLD30および整流用ダイオード58の直列回路と放電バイパス用の抵抗60とに並列に印加される。ここで、シードLD30と整流用ダイオード58の直列回路においては、シードLD30の閾値電圧Vth30と整流用ダイオード58の閾値電圧N*Vth58とを足し合わせた合成閾値(Vth30+N*Vth58)よりもLD駆動電圧Vdの電圧レベルが高くなっている期間Td中のみ、コンデンサ50からの放電電流の一部がLD駆動電流Idとして流れる。一方、抵抗60には、IR=Vd/R60で表わされる放電電流が流れる。
【0059】
このように、放電用スイッチング素子56がオンした直後、交流波形のLD駆動電圧Vdの最初の半周期TLC/2サイクルではコンデンサ50からのピーク値の非常に高い放電電流ICが負荷回路に供給され、シードLD30にも相当大きなピーク値PIdでLD駆動電流Idが流れる(図4の(c))。このLD駆動電流Idのピーク値PIdは、コンデンサ放電電流に基づくため、従来のシード用レーザダイオード電源回路(図16)でLR回路の制限を受けるLD駆動電流idのピーク値Pidに比して各段に大きく、たとえば数倍以上にすることもできる。また、このLD駆動電流Idのパルス幅または半値幅を10ns以下とすることも容易にできる。このLD駆動電流IdによってシードLD30が励起され、シードLD30からパルス波形のLD光が出力される。
【0060】
一方で、コンデンサ50からの放電電流ICの多くは放電バイパス用の抵抗60に流れ、ここでジュール熱を発生して指数関数的に減衰する。これによって、交流波形のLD駆動電圧Vdが再び正極性に転じても、合成閾値(Vth30+N*Vth58)よりは低くなり、シードLD30にはLD駆動電流Idが流れない。
【0061】
したがって、シードLD30は、放電用スイッチング素子56がオンした直後の最初の半周期TLC/2の期間内だけLD駆動電流Idにより励起され、パルス波形のLD光をシード光として1発だけ発生し、それ以上の余計なLD光を発生することはない。上記したように、このパルス波形のシード光が第1および第2のアクティブファイバ12,14の中で増幅されることによってパルス波形の加工用レーザ光LBが得られる(図4の(d))。この加工用レーザ光LBは、シード光と略同じパルス幅を有し、シード光の数千倍ないし数万倍のピークパワーを有する。
【0062】
このように、この実施形態のシード用LD電源回路32は、ピークパワーが高くてパルス幅の短いシード光を安定に発振出力することができる。このことにより、この実施形態のMOPA方式ファイバレーザ加工装置は、Qスイッチ方式のYAGパルスレーザ加工装置と同等に10ns以下の短パルスで加工用レーザビームLBを安定に出力することが可能であり、しかも加工用レーザビームLBのピークパワーをQスイッチ方式のYAGパルスレーザ加工装置よりも各段に高くすることも容易であり、マーキングやトリミング等の表面除去加工の品質、加工能力および効率を大きく向上させることができる。
【0063】
上記のように、この実施形態は、シード用LD電源回路32において、シードLD30と直列に順方向の向きで1個または複数個(N個)の整流用ダイオード58を接続するとともに、シードLD30およびダイオード58の直列回路と並列に放電バイパス用の抵抗60を接続する構成を主たる特徴としている。ここで、整流用ダイオード58および/または抵抗60を設けない場合の不利点を説明する。
【0064】
先ず、整流用ダイオード58および抵抗60のいずれも設けないときの回路構成は、図5に示すようになる。この場合も、放電用スイッチング素子56をオンさせると、シード用LD電源回路32の負荷回路に存在する寄生インダクタンスの影響により、放電期間(t3〜t4)中に放電用スイッチング素子56の出力端子側に図6の(a)に示すような交流波形のLD駆動電圧Vdが得られる。
【0065】
ところが、実施形態(図2)とは異なり、整流用ダイオード58が無いのでシードLDの閾値Vth30だけが整流に寄与し、しかも放電バイパス用の抵抗60が無いのでLD駆動電圧Vdの減衰率が小さく、最初の半周期だけでなく交流波形のLD駆動電圧Vdが再度正極性に転じる2回目ないし3回目の半周期でもLD駆動電圧Vdが閾値Vth30を優に超えてしまう。これによって、図6の(b)に示すように、パルス波形のLD駆動電流Idとして、本来の1つ目(ファーストパルス)だけでなく、余計な2つ目(セカンドパルス)ないし3つ目(サードパルス)もシード用LD30に流れる。
【0066】
その結果、シード用LD30からは、本来のファーストパルスのLD光(シード光)に続いて、意図しないセカンドパルスないしサードパルスのLD光も出力される。これらセカンドパルスないしサードパルスのLD光は、ファーストパルスのLD光(シード光)と同様に第1および第2のアクティブファイバ12,14の中で増幅されて、被加工物Wに誤照射される。たとえばマーキング加工の場合は、そのような誤照射によって、被加工物W上の非描画位置に不所望な表面除去跡(汚れ)が生じる。
【0067】
次に、シード用LD電源回路32において、整流用ダイオード58を設けるものの放電バイパス用の抵抗60を設けない場合は、図7に示すような回路構成になる。この場合は、放電用スイッチング素子56がオンした直後に、交流最初の半周期TLC/2ではコンデンサ54からのピーク値の非常に高い放電電流が負荷回路に供給され、シードLD30にはパルス波形のLD駆動電流Idが流れる。しかし、LD駆動電圧Vdが合成閾値(Vth30+N*Vth58)まで低下すると、その後はコンデンサ54が放電しなくなり、LD駆動電圧Vdは合成閾値(Vth30+N*Vth58)のレベルにホールドされる。実際には、図8に一点鎖線で示すようにこのレベルを中心にリンギングが発生し、意図しない2発目ないし3発目のパルス発振が起こりやすい。
【0068】
次に、シード用LD電源回路32において、放電バイパス用の抵抗60を設けるものの整流用ダイオード58を設けない場合は、図9に示すような回路構成になる。この場合は、放電用スイッチング素子56がオンしている期間中にその出力端子側に得られるLD駆動電圧Vdは、図6の一点鎖線で示すように、抵抗60が無い場合よりは幾らか低くなるだけで、最初の半周期だけでなく交流波形のLD駆動電圧Vdが再度正極性に転じる2回目ないし3回目の半周期でも閾値Vth30を超えてしまう。これによって、図5の回路構成の場合と同様に、意図しない2発目ないし3発目のパルスを発振出力してしまう。
【0069】
また、整流用ダイオード58を設けない場合において、図10に示すように、放電バイパス用の抵抗60を設ける代わりに、電流制限用の抵抗64をシードLD30と直列に接続する構成も考えられる。この構成によれば、図示省略するが、LD駆動電圧Vdの減衰率が著しく大きいため、意図しない2発目ないし3発目のパルスを抑制ないし減少させることも可能ではあるが、LD駆動電圧VABの最初(1発目)のピーク値も著しく低下し、LD駆動電流Idのピーク値ないしシード光のピークパワーが不十分になる。この問題に対して、コンデンサ50の充電電圧あるいは充電部52の出力電圧VCを上げる対処法も考えられるが、充電用スイッチング素子54の耐圧には限界があることと、電気部品ないし電源の大幅なコストアップを伴う不利点がある。
【0070】
上記のように、この実施形態におけるシード用LD電源回路32は、シードLD30と直列に順方向の向きで整流用ダイオード58を接続し、かつシードLD30およびダイオード58の直列回路と並列に放電バイパス用の抵抗60を接続する構成により、繰り返しパルス発振の各サイクル毎に高ピークパワーでパルス幅の非常に小さな1パルスのシード光を安定に出力することができる。
【0071】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、上述した実施形態は本発明を限定するものではない。当業者にあっては、具体的な実施態様において本発明の技術思想および技術範囲から逸脱せずに種々の変形・変更を加えることが可能である。
【0072】
たとえば、上記実施形態では、放電用スイッチング素子56が、コンデンサ50の正極端子とシードLD30のアノード端子との間に接続されている。しかし、図11に示すように、放電用スイッチング素子56がシードLD30のカソード端子とコンデンサ50の負極端子との間に接続される構成も可能である。この場合も、放電用スイッチング素子56は、コンデンサ50と負荷回路との間に接続される。つまり、放電用スイッチング素子56を介さずに、整流用ダイオード58はシードLD30と直列に接続され、放電バイパス用の抵抗60は整流用ダイオード58およびシードLD30の直列回路と並列に接続される。
【0073】
また、図12に示すように、互いに逆向きで並列に接続される1個または複数個のダイオード(好ましくはショットキー・バリア・ダイオード)66,68によって、双方向通電型の放電用バイパス回路を構成することも可能である。この場合、放電用スイッチング素子56がオンした時にその出力端子側に発生する交流波形のLD駆動電圧は、ダイオード66,68の抵抗成分によって減衰する。
【0074】
図示省略するが、別の変形例として、そのような並列接続のダイオード66,68および上記抵抗60の合成直列回路により、双方向通電型の放電用バイパス回路を形成することも可能である。また、図12に示すように、整流用ダイオード58をシードLD30のカソード端子とコンデンサ50の負極端子との間に接続する構成も可能である。
【0075】
また、双方向通電型の放電用バイパス回路に代えて、図13に示すようなプルダウン回路または図14に示すようなプルアップ回路を設ける実施形態も可能である。
【0076】
図13の構成例は、放電用スイッチング素子56がコンデンサ50の正極端子側に接続される場合であり、放電用スイッチング素子56のコンデンサ50と反対側の端子またはノードAと所定の基準電圧VSSの端子70との間にプルダウン抵抗72を接続している。ここで、基準電圧VSSは、放電用スイッチング素子56がオンした直後にシードLD30が通電するのに必要な電位以下であればよい。
【0077】
図14の構成例は、放電用スイッチング素子56がコンデンサ50の負極端子側に接続される場合であり、放電用スイッチング素子56のコンデンサ50と反対側の端子またはノードBと所定の基準電圧VBBの端子74との間にプルアップ抵抗76を接続している。ここで、基準電圧VBBは、コンデンサ50の端子から電気的に分離(独立)しており、放電用スイッチング素子56がオンした直後にシードLD30が通電するのに必要な電位以上であればよい。
【0078】
図15に、図13の構成例における放電期間(t3〜t4)内の各部の波形を示す。なお、理解を容易にするため、図13の構成例においてコンデンサ50の負極端子が接地電位に接続されている場合について説明する。
【0079】
放電用スイッチング素子56がオンすると、これと同時に、コンデンサ50に蓄積されていた電荷が瞬時に放電用スイッチング素子56を介して負荷側に放出され、負荷回路にピーク値の非常に高い放電電流が流れる。この時、シードLD30の閾値電圧Vth30と整流用ダイオード58の閾値電圧N*Vth58とを足し合わせた合成閾値(Vth30+N*Vth58)よりもLD駆動電圧Vdの電圧レベルが高くなっている期間Td中のみ、コンデンサ50からの放電電流の一部がLD駆動電流Idとして流れる。一方、抵抗72には、IR={(Vd−VSS)/R58}で表わされる放電電流が流れる。
【0080】
この場合、交流波形が収束する電圧がVSSになるため、減衰が大きくなる。したがって、LD駆動電圧Vdは合成閾値(Vth30+N*Vth58)を再度超えにくくなり、意図しない2発目ないし3発目のパルス発振を防止することができる。
【0081】
図14の構成例においても、プルアップ抵抗76により上記と同様の作用が奏され、不所望な2発目ないし3発目のパルス発振を確実に防止することができる。
【0082】
なお、図13の構成例において、プルダウン抵抗72の代わりに、あるいはそれとの組み合わせで、順方向で直列に接続される1個または複数個のダイオード(図示せず)を用いることも可能である。図14の構成例においても、プルアップ抵抗76の代わりに、あるいはそれとの組み合わせで、順方向で直列に接続される1個または複数個のダイオード(図示せず)を用いることも可能である。
【0083】
シード用LD30周りの構成においても種種の変形例が可能である。たとえば、シード用LD30を直列または並列接続で複数個設ける構成も可能である。また、整流ダイオード58によってシード用LD30が逆バイアスから十分に保護されるので、保護ダイオード62を省くことも可能である。
【0084】
上記実施形態のMOPA方式ファイバレーザ加工装置(図1)は、第1のアクティブファイバ12に第2のアクティブファイバ14を従続接続して2段アンプとしている。しかし、第2のアクティブファイバ14を省いて一段(単)アンプの構成とすることや、あるいは第2のアクティブファイバ14の後段に第3のアクティブファイバを接続して3段アンプの構成とすることも可能である。
【0085】
本発明のMOPA方式ファイバレーザ加工装置は、マーキング等の表面除去加工に限るものではなく、穴あけ、切断、溶接等の他のレーザ加工にも使用可能である。
【符号の説明】
【0086】
10 シード光発生部
12 第1のアクティブファイバ
14 第2のアクティブファイバ
16 光ビーム照射部
30 シードLD
32 シード用LD電源回路
36,38 ポンプLD
50 コンデンサ
52 充電部
54 充電用スイッチング素子
56 放電用スイッチング素子
58 整流用ダイオード
60 放電バイパス用抵抗
64 スイッチング制御部
66,68 放電バイパス用ダイオード
70,74 基準電圧端子
72 プルダウン抵抗
76 プルアップ抵抗

【特許請求の範囲】
【請求項1】
MOPA方式ファイバレーザ加工装置においてシード光を発生するレーザダイオードを駆動するためのシード用レーザダイオード電源装置であって、
前記レーザダイオードに供給する電力を蓄積するコンデンサと、
前記コンデンサを所定電圧に充電する充電部と、
前記コンデンサに対して前記レーザダイオードと直列に接続される放電用スイッチング素子と、
前記放電用スイッチング素子を介さずに前記レーザダイオードと直列に順方向の向きで接続される1個または複数個の整流用ダイオードと、
前記放電用スイッチング素子を介さずに前記レーザダイオードおよび前記整流用ダイオードの直列回路と並列に接続される双方向通電型の放電用バイパス回路と、
前記レーザダイオードを発光駆動するために前記放電用スイッチング素子をオンさせるスイッチング制御部と
を有するシード用レーザダイオード電源装置。
【請求項2】
前記放電用バイパス回路は抵抗を有する、請求項1に記載のシード用レーザダイオード電源装置。
【請求項3】
前記放電用バイパス回路は、互いに逆向きで並列に接続される複数個のダイオードを有する、請求項1または請求項2に記載のシード用レーザダイオード電源装置。
【請求項4】
MOPA方式ファイバレーザ加工装置においてシード光を発生するレーザダイオードを駆動するためのシード用レーザダイオード電源装置であって、
前記レーザダイオードに供給する電力を蓄積するコンデンサと、
前記コンデンサを所定電圧に充電する充電部と、
前記コンデンサに対して前記レーザダイオードと直列に接続される放電用スイッチング素子と、
前記放電用スイッチング素子を介さずに前記レーザダイオードと直列に順方向の向きで接続される1個または複数個の整流用ダイオードと、
前記放電用スイッチング素子の前記コンデンサと反対側の端子と前記コンデンサから電気的に分離された所定の基準電圧の端子との間に接続される放電用のプルダウン回路またはプルアップ回路と、
前記レーザダイオードを発光駆動するために前記放電用スイッチング素子をオンさせるスイッチング制御部と
を有するシード用レーザダイオード電源装置。
【請求項5】
前記放電用プルダウン回路またはプルアップ回路は抵抗を有する、請求項4に記載のシード用レーザダイオード電源装置。
【請求項6】
前記放電用プルダウン回路またはプルアップ回路は順方向で直列に接続される1個または複数個のダイオードを有する、請求項4または請求項5に記載のシード用レーザダイオード電源装置。
【請求項7】
前記放電用スイッチング素子のオン時間は500ns以下である、請求項1〜6のいずれか一項に記載のシード用レーザダイオード電源装置。
【請求項8】
前記放電用スイッチング素子がオンすることによって前記レーザダイオードより発せられるパルス光のパルス幅は10ns以下である、請求項7に記載のシード用レーザダイオード電源装置。
【請求項9】
前記放電用スイッチング素子を20kHz〜1MHzの繰り返し周波数で周期的にオンさせる、請求項1〜8のいずれか一項に記載のシード用レーザダイオード電源装置。
【請求項10】
前記放電用スイッチング素子は、電界効果型トランジスタである、請求項1〜9のいずれか一項に記載のシード用レーザダイオード電源装置。
【請求項11】
前記充電部と前記コンデンサとの間に接続される充電用スイッチング素子 を有し、
前記放電用スイッチング素子がオフしている期間中に前記コンデンサの充電を行うために前記充電用スイッチング素子をオンさせ、前記放電用スイッチング素子がオンしている期間中は前記充電用スイッチング素子をオフ状態に保持しておく、
請求項1〜10のいずれか一項に記載のシード用レーザダイオード電源装置。
【請求項12】
前記充電用スイッチング素子は、電界効果型トランジスタである、請求項11に記載のシード用レーザダイオード電源装置。
【請求項13】
前記整流用ダイオードは、ショットキー・バリア・ダイオードである、請求項1〜12のいずれか一項に記載のシード用レーザダイオード電源装置。
【請求項14】
シード光を生成するためのレーザダイオードと、
前記レーザダイオードを点灯駆動するための請求項1〜15のいずれか一項に記載のシード用レーザダイオード電源装置と、
希土類元素として少なくともYbを添加したコアを有し、前記レーザダイオードからの前記シード光を入力端より前記コアの中に入れ、前記シード光を出力端に向けて伝搬させながら誘導放出により増幅する増幅用光ファイバと、
前記増幅用光ファイバのコアを励起するための励起光を発生する励起光源と、
前記レーザダイオードおよび前記励起光源を前記増幅用光ファイバの入力端に光学的に結合する光結合器と、
前記増幅用光ファイバの出力端から出るパルス波形の光ビームを被加工物に集光照射する光ビーム照射部と
を有するMOPA方式ファイバレーザ加工装置。
【請求項15】
シード光を生成するためのレーザダイオードと、
前記レーザダイオードを点灯駆動するための請求項1〜15のいずれか一項に記載のシード用レーザダイオード電源装置と、
希土類元素として少なくともYbを添加した第1のコアを有し、前記シード用レーザダイオードからの前記シード光を入力端より前記第1のコアの中に入れ、前記シード光を伝搬させながら誘導放出より増幅して、出力端より第1段増幅パルスの光ビームを出す第1の増幅用光ファイバと、
前記第1の増幅用光ファイバの第1のコアを励起するための第1の励起光を発生する第1の励起光源と、
前記レーザダイオードおよび前記第1の励起光源を前記第1の増幅用光ファイバの入力端に光学的に結合する第1の光結合器と、
希土類元素として少なくともYbを添加した第2のコアを有し、前記第1の増幅用光ファイバの出力端からの前記第1段増幅パルスの光ビームを入力端より前記第2のコアの中に入れ、前記第1段増幅パルスの光ビームを伝搬させながら誘導放出により増幅して、出力端より第2段増幅パルスの光ビームを出す第2の増幅用光ファイバと、
前記第2の増幅用光ファイバの第2のコアを励起するための第2の励起光を発生する第2の励起光源と、
前記第1の増幅用光ファイバの出力端および前記第2の励起光源を前記第2の増幅用光ファイバの入力端に光学的に結合する第2の光結合器と、
前記第2の増幅用光ファイバの出力端から出た前記第2段増幅パルスの光ビームを被加工物に集光照射する光ビーム照射部と
を有するMOPA方式ファイバレーザ加工装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2012−33541(P2012−33541A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−169342(P2010−169342)
【出願日】平成22年7月28日(2010.7.28)
【出願人】(000161367)ミヤチテクノス株式会社 (103)
【Fターム(参考)】