説明

P2Y12受容体遺伝子解析による血栓性疾患関連の遺伝子変異検出方法

【課題】血栓性疾患の早期診断および罹患危険率判定を可能にする手段を提供すること。
【解決手段】P2Y12受容体遺伝子のゲノム配列においてエキソン2より上流に存在する4種類の1塩基変異の検出を手段とする、血栓性疾患(末梢動脈疾患、冠動脈疾患や脳卒中等)を引き起こす可能性を有する遺伝子変異の検出方法、該検出方法を利用した血栓性疾患罹患危険率検査方法、該1塩基変異を有する遺伝子、前記方法に用いるポリヌクレオチドおよび試薬キット。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒトP2Y12受容体遺伝子の1塩基変異の解析による、血栓性疾患を引き起こす可能性を有する遺伝子変異の検出方法に関する。また前記検出方法を利用する血栓性疾患罹患危険率の検査方法に関する。さらに、前記1塩基変異を有する遺伝子、並びに前記検出方法および前記検査方法に用いるポリヌクレオチドおよび試薬キットに関する。
【背景技術】
【0002】
P2Y12受容体は、アデノシン 5´ジホスフェート(以下、ADPと略称する)と結合することにより、血小板を活性化させる受容体である(非特許文献1および非特許文献2)。血小板活性化は止血に関わる重要な生理現象である一方、血栓形成にも関わり血管閉塞や虚血性ダメージを引き起こす。
【0003】
ADPは血小板中の濃染顆粒に含まれており、血小板活性化に伴い細胞外に放出される。放出されたADPは周辺の血小板表面に存在する2種類のADP受容体(P2Y受容体およびP2Y12受容体)に結合することにより血小板凝集を促進する。P2Y受容体は三量体G蛋白質であるGqと共役しており、細胞内カルシウム濃度の上昇を介して形態変化等の血小板凝集の初期反応に関与している。P2Y12受容体はG蛋白質であるGiと共役しており、低分子量G蛋白質のRap1bやセリンスレオニンキナーゼのAktの活性化を介して血小板凝集塊の成長や安定化に関与している。
【0004】
ヒトP2Y12受容体遺伝子は、第3染色体q24−q25遺伝子座に存在する遺伝子である。該遺伝子は2つのエキソンを含み、その全長は約3.1kbであり、342アミノ酸からなる蛋白質をコードしている。
【0005】
ヒトP2Y12受容体遺伝子にはH1ハプロタイプおよびH2ハプロタイプと呼ばれる遺伝子多型が報告されている(特許文献1、非特許文献3および非特許文献4)。H1ハプロタイプは、アリル頻度が高く、正常遺伝子型であると考えられる。一方、H2ハプロタイプを有する個体ではADP誘起血小板凝集能が亢進していること、およびH2ハプロタイプが末梢動脈障害発症の危険因子となることが報告されている(非特許文献3および非特許文献4)。P2Y12受容体遺伝子のH2ハプロタイプを有する個体で血小板凝集能が亢進するメカニズムについては明らかになっていない。恐らく、細胞表面のP2Y12受容体数が増加しているのではないかと推測されている。
【0006】
ヒトP2Y12受容体遺伝子のH2ハプロタイプには、4種類の1塩基変異が存在する(表1)。以下、これら1塩基変異を既知1塩基変異と称する。これら既知1塩基変異を同定することにより、H2ハプロタイプを特定できることが開示されている(特許文献1)。また、H2ハプロタイプと末梢動脈疾患(Peripheral Arterial Disease、以下PADと略称することがある)との間に高い相関性が存在することが開示されている(特許文献1)。さらに、H2ハプロタイプの特定により、アテローム性血栓症の罹患危険率およびチエノピリジン抗血栓薬(例えばP2Y12受容体をターゲットとするクロピドグレルやチクロピジン等)に対する低感受性の検出を実施できると考えられることが開示されている(特許文献1)。
【0007】
【表1】

【0008】
表1において、ヒトP2Y12受容体遺伝子の1塩基変異の位置を、ヒトP2Y12受容体遺伝子が存在する第3染色体のゲノム塩基配列における位置として表した。
【0009】
ヒトP2Y12受容体遺伝子が存在する第3染色体の塩基配列は、GenBankアクセッション番号NC_000003として、NCBI(National Center for Biotechnology Information)公開データベースに開示されている。GenBankアクセッション番号NC_000003に開示されている塩基配列は、版の改訂が平成16年8月24日に行われた。平成16年8月24日以前の版はNC_000003.8[gi:42406220](NC_000003.8と称する)であり、それ以降の版はNC_000003.9[gi:51511463](NC_000003.9と称する)である。
【0010】
したがって、表1において、1塩基変異が存在する位置を、ヒトP2Y12受容体遺伝子が存在する第3染色体の塩基配列、すなわちGenBankアクセッション番号NC_000003.8に開示されている塩基配列における位置、およびGenBankアクセッション番号NC_000003.9に開示されている塩基配列における位置として表した。
【0011】
止血機構は、生体内で血管が損傷した場合、血管の機能、血小板機能、凝固・線溶系等の密接な相互作用のもとに働く生理的機構である。止血機構の異常は各種の出血性疾患や血栓性疾患等の原因になる。病的生理条件では、例えばアテローム斑の破裂により病的な血小板活性化が惹起され、その結果、動脈血栓が形成され、ひいては心筋梗塞、虚血性脳卒中、および末梢動脈疾患が引き起こされる可能性がある。
【0012】
血栓性疾患は、血栓による血管の狭窄あるいは閉塞に起因する疾患であり、血栓症と塞栓症とに分類できる。血栓症は、血栓がその形成箇所で血流を部分的にあるいは完全に閉塞することにより起こる症状であり、塞栓症は血栓がその形成箇所から剥がれて血流により移動し、他の箇所で血流を部分的にあるいは完全に閉塞することにより起こる症状をいう。向血栓性の血液凝固異常を伴う疾患として冠動脈疾患、末梢動脈疾患(PAD)、脳梗塞、および深部静脈血栓症を例示できる。
【0013】
冠動脈疾患(coronary artery disease、以下CADと略称することがある)は、冠状動脈の閉塞による疾患として知られている。CADは虚血性心疾患(ischemic heart disease)とも呼ばれ、心筋への血液供給が著しく減少するため、心筋梗塞、狭心症あるいは不整脈等の症状が引き起こされる。
【0014】
虚血性脳卒中は虚血性脳血管障害であり、脳梗塞や一過性脳虚血発作等が含まれる。脳梗塞は、脳卒中のなかに占める割合が高い。脳梗塞はその原因により2つ、すなわち脳血栓によるものと脳塞栓によるものとに大別される。脳血栓は脳の血管が動脈硬化等の変化により狭窄し、血流が悪くなって血栓を形成することに起因する。脳塞栓は心臓内や頚動脈において形成された血栓が血流により脳血管に運ばれた結果、脳血管の閉塞を起こすことに起因する。脳梗塞は心原性と非心原性に分類される。心原性脳梗塞では抗凝固薬、非心原性脳梗塞では抗血小板薬が特に有効であることが示されている。
【0015】
末梢動脈の閉塞による疾患として末梢動脈疾患(PAD)が知られている。PADは、ほとんどの患者ではアテローム性動脈硬化が基礎にあり、CADおよび心原性を除く脳梗塞と病態生理学的には極めて近いと考えられている。急性の虚血は近位の動脈硬化性プラークの破裂、先在するアテローム性動脈硬化による急性血栓症、心臓、大動脈または他の大型の脈管から飛来した塞栓、動脈瘤解離が原因である。慢性の虚血はアテローム斑が徐々に拡大することにより起こるとされている。この病態では、抗血小板薬が有効とされている。
【0016】
静脈血栓症は全身の表在性や深部のどの静脈にも起こり得るが、下腿静脈、大腿静脈、骨盤内深在静脈等の深部静脈血栓症(Deep Vein Thrombosis、以下DVTと略称することがある)は頻度も多く、致命的となり得る肺塞栓を生じる可能性があり臨床的に重要である。DVTでは、血管内皮細胞の傷害によりコラーゲンが露出し、組織トロンボブラスチンが放出され、ここにうっ血を伴うと血液凝固が亢進して血栓が形成すると考えられている。この病態では、抗凝固薬(ヘパリンやワーファリン等)や抗血小板薬(アスピリン等)が血栓の形成や拡大の防止に有効であることが知られている。
【0017】
【特許文献1】国際特許公開WO2004/035826号パンフレット。
【非特許文献1】ドーサム(Dorsam,R.T)ら、「ザ ジャーナル オブ クリニカル インベスティゲーション(The Journal Clinical Investigation)」、2004年、第113巻、第3号、p.340−345。
【非特許文献2】クナプリ(Kunapuli,S.P.)ら、「バイオケミカル ジャーナル(Biochemical Journal)」、1998年、第336巻、p.513−523。
【非特許文献3】フォンタナ(Fontana,P.)ら、「サーキュレーション(Circlation)」、2003年、第108巻、p.989−995。
【非特許文献4】フォンタナ(Fontana,P.)ら、「サーキュレーション(Circlation)」、2003年、第108巻、p.2971−2973。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
血栓形成に起因する血栓性疾患、例えば冠動脈疾患や脳卒中はヒトの死因において多くの割合を占める疾患である。冠動脈疾患や脳卒中は、これら疾患のリスクを高める因子、例えば喫煙、高血圧、高脂肪/高コレステロール食習慣、肥満およびストレス等の是正により、その発症の危険率を低下させることができる。これら疾患の発症リスクの回避、早期治療、治療法の選択および薬物の用量設定を可能にするため、当該疾患の早期診断が望まれる。
【0019】
血栓形成における初期反応である血小板凝集に中心的役割を果たすヒトP2Y12受容体をコードする遺伝子には、H1ハプロタイプおよびH2ハプロタイプと呼ばれる遺伝子多型が報告されている。H2ハプロタイプを有する個体では、血小板凝集能の亢進が認められている(非特許文献3および非特許文献4)。
【0020】
本発明の課題は、ヒトP2Y12受容体遺伝子のH2ハプロタイプを特定するのに有用な1塩基変異を見出し、さらに血栓性疾患の早期診断および罹患危険率判定を可能にする手段を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明者らは、ヒトP2Y12受容体遺伝子のゲノム配列においてエキソン2より上流に存在する4種類の1塩基変異が該遺伝子のH2ハプロタイプと連鎖していることを明らかにした。そして、これら1塩基変異を、血栓性疾患を引き起こす可能性を有する遺伝子変異の検出方法に利用すること、並びに該疾患の早期診断および罹患危険率判定のための検査方法に利用することにより本発明を完成した。
【0022】
ヒトP2Y12受容体遺伝子内の1塩基変異の検出は、ヒトP2Y12受容体遺伝子のテンプレートとして、遺伝子変異およびハプロタイプが考慮されていないGenBankアクセッション番号NC_000003遺伝子配列(第3染色体塩基配列であり、ヒトP2Y12受容体遺伝子のゲノム配列を含む)を用い、日本人のゲノム試料を母集団として実施した。このテンプレート配列を参照配列と呼称することがある。本明細書において、1塩基変異部位は、参照配列における塩基の位置として定義する。
【0023】
GenBankアクセッション番号NC_000003として、NCBI公開データベースに開示されている塩基配列は、版の改訂が平成16年8月24日に行われた。平成16年8月24日以前の版はNC_000003.8[gi:42406220](NC_000003.8と称する)であり、それ以降の版はNC_000003.9[gi:51511463](NC_000003.9と称する)である。
【0024】
ヒトP2Y12受容体遺伝子を含む領域の位置は、GenBankアクセッション番号NC_000003.9に開示された塩基配列ではGenBankアクセッション番号NC_000003.8に開示されたものと比較して161789bp下流にシフトしている。したがって、GenBankアクセッション番号NC_000003.9に開示された塩基配列におけるヒトP2Y12受容体遺伝子を含む領域内の各塩基の位置は、GenBankアクセッション番号NC_000003.8に開示されている塩基配列における当該各塩基の位置と比較して、161789bp下流に位置する。
【0025】
ヒトP2Y12受容体遺伝子を含む領域は、GenBankアクセッション番号NC_000003.9に開示されている塩基配列の第152544089位から第152537783位に相当する。一方、本領域は、GenBankアクセッション番号NC_000003.8に開示されている塩基配列の第152382300位から第152375994位に相当する。
【0026】
ヒトP2Y12受容体遺伝子を含む領域、すなわちGenBankアクセッション番号NC_000003.9に開示されている塩基配列の第152544089位から第152537783位の塩基配列と、GenBankアクセッション番号NC_000003.8に開示されている塩基配列の第152382300位から第152375994位の塩基配列は、完全に一致している。したがって、GenBankアクセッション番号NC_000003の版の改訂前後において、ヒトP2Y12受容体遺伝子の塩基配列は変化していない。
【0027】
このように、ヒトP2Y12受容体遺伝子を含む領域は、GenBankアクセッション番号NC_000003.8とGenBankアクセッション番号NC_000003.9とでその位置が相違するのみであることから、GenBankアクセッション番号NC_000003.8に開示されたヒト第3染色体塩基配列における位置として表示したヒトP2Y12受容体遺伝子内の1塩基変異の位置を該位置に相当するGenBankアクセッション番号NC_000003.9に開示されたヒト第3染色体塩基配列における位置として表示したとき、位置を示す塩基番号は異なるが、それぞれの塩基番号により特定されるのは同じ1塩基変異である。
【0028】
本明細書においては、特に定義しない限り、参照配列としてGenBankアクセッション番号NC_000003.8に開示されている塩基配列を用い、ヒトP2Y12受容体遺伝子の各塩基の位置は、GenBankアクセッション番号NC_000003.8に開示されている塩基配列における位置として示した。これら各塩基は、GenBankアクセッション番号NC_000003.9に開示されている塩基配列においては、GenBankアクセッション番号NC_000003.8に開示されている塩基配列における位置の161789bp下流に位置する。すなわち、これら各塩基の位置は、GenBankアクセッション番号NC_000003.9に開示されている塩基配列においては、GenBankアクセッション番号NC_000003.8に開示されている塩基配列における塩基番号に161789を加算した塩基番号で表すことができる。
【0029】
後述するヒトP2Y12受容体遺伝子の各塩基の位置について、GenBankアクセッション番号NC_000003.8に開示されている塩基配列における位置と、GenBankアクセッション番号NC_000003.9に開示されている塩基配列における位置とを対比して、表2−1、表2−2、および表2−3に示す。
【0030】
【表2−1】

【0031】
【表2−2】

【0032】
【表2−3】

【0033】
ヒトP2Y12受容体遺伝子の各塩基の位置を示す塩基番号は、上述のように、ヒト第3染色体塩基配列を開示しているGenBankアクセッション番号NC_000003の版により、その版におけるヒトP2Y12受容体遺伝子を含む領域の位置がシフトすることがあるため、異なることがある。また、ヒトP2Y12受容体遺伝子の各塩基の位置を示す塩基番号は、GenBankアクセッション番号NC_000003に開示されている塩基配列とは別の塩基配列を参照配列として用いる場合、GenBankアクセッション番号NC_000003に開示されている塩基配列におけるものとは異なることがある。
【0034】
GenBankアクセッション番号NC_000003.8またはNC_000003.9に開示されている塩基配列とは別の塩基配列を参照配列として用いる場合、該参照配列におけるヒトP2Y12受容体遺伝子の1塩基変異部位は、次に示すように特定することができる。まず、GenBankアクセッション番号NC_000003.8またはNC_000003.9に開示されている塩基配列の部分塩基配列であって該1塩基変異部位のヌクレオチドを含む部分塩基配列を指標として用い、該部分塩基配列と相同な塩基配列を参照配列中に見出し、さらに該部分塩基配列と参照配列中の該部分塩基配列と相同な塩基配列とを比較して、参照配列における該1塩基変異部位を特定することにより決定することができる。GenBankアクセッション番号NC_000003.8またはNC_000003.9に開示されている塩基配列の部分塩基配列と相同な塩基配列を参照配列において検索することは、自体公知の相同性検索法、例えばブラストサーチ(BLAST search)により実施できる。GenBankアクセッション番号NC_000003.8またはNC_000003.9に開示されている塩基配列の部分塩基配列と、参照配列中の該部分塩基配列と相同な塩基配列は、完全に相同である必要はなく、参照配列中に複数の該部分塩基配列と相同な塩基配列が存在しない限りにおいて、1ないし数個の塩基が異なっていてもよい。
【0035】
具体的には、GenBankアクセッション番号NC_000003.8に開示されている塩基配列の第152381673位は、該塩基配列とは別の塩基配列を参照配列として用いる場合、該参照配列における位置を次に示すように特定することができる。まず、配列表の配列番号50に記載の塩基配列(GenBankアクセッション番号NC_000003.8に開示されている塩基配列の部分塩基配列)を指標として用いて該塩基配列と相同な塩基配列を参照配列中に見出す。GenBankアクセッション番号NC_000003.8に開示されている塩基配列の第152381673位は、配列表の配列番号50に記載の塩基配列の第51番目のヌクレオチドに相当する。したがって、配列表の配列番号50に記載の塩基配列と参照配列中の該塩基配列と相同な塩基配列とを比較することにより、参照配列中の該塩基配列と相同な塩基配列中で、配列表の配列番号50に記載の塩基配列の第51番目のヌクレオチドに相当する部位を特定でき、さらに該特定された部位の参照配列における位置を決定することができる。
【0036】
また、GenBankアクセッション番号NC_000003.8に開示されている塩基配列の第152380188位は、該塩基配列とは別の塩基配列を参照配列として用いる場合、該参照配列における位置を次に示すように特定することができる。まず、配列表の配列番号51に記載の塩基配列(GenBankアクセッション番号NC_000003.8に開示されている塩基配列の部分塩基配列)を指標として用いて該塩基配列と相同な塩基配列を参照配列中に見出す。GenBankアクセッション番号NC_000003.8に開示されている塩基配列の第152380188位は、配列表の配列番号51に記載の塩基配列の第51番目のヌクレオチドに相当する。したがって、配列表の配列番号51に記載の塩基配列と参照配列中の該塩基配列と相同な塩基配列とを比較することにより、参照配列中の該塩基配列と相同な塩基配列中で、配列表の配列番号51に記載の塩基配列の第51番目のヌクレオチドに相当する部位を特定でき、さらに該特定された部位の参照配列における位置を決定することができる。
【0037】
GenBankアクセッション番号NC_000003.8に開示されている塩基配列の第152379350位は、該塩基配列とは別の塩基配列を参照配列として用いる場合、該参照配列における位置を次に示すように特定することができる。まず、配列表の配列番号52に記載の塩基配列(GenBankアクセッション番号NC_000003.8に開示されている塩基配列の部分塩基配列)を指標として用いて該塩基配列と相同な塩基配列を参照配列中に見出す。GenBankアクセッション番号NC_000003.8に開示されている塩基配列の第152379350位は、配列表の配列番号52に記載の塩基配列の第51番目のヌクレオチドに相当する。したがって、配列表の配列番号52に記載の塩基配列と参照配列中の該塩基配列と相同な塩基配列とを比較することにより、参照配列中の該塩基配列と相同な塩基配列中で、配列表の配列番号52に記載の塩基配列の第51番目のヌクレオチドに相当する部位を特定でき、さらに該特定された部位の参照配列における位置を決定することができる。
【0038】
GenBankアクセッション番号NC_000003.8に開示されている塩基配列の第152378084位は、該塩基配列とは別の塩基配列を参照配列として用いる場合、該参照配列における位置を次に示すように特定することができる。まず、配列表の配列番号55に記載の塩基配列(GenBankアクセッション番号NC_000003.8に開示されている塩基配列の部分塩基配列)を指標として用いて該塩基配列と相同な塩基配列を参照配列中に見出す。GenBankアクセッション番号NC_000003.8に開示されている塩基配列の第152378084位は、配列表の配列番号55に記載の塩基配列の第51番目のヌクレオチドに相当する。したがって、配列表の配列番号55に記載の塩基配列と参照配列中の該塩基配列と相同な塩基配列とを比較することにより、参照配列中の該塩基配列と相同な塩基配列中で、配列表の配列番号55に記載の塩基配列の第51番目のヌクレオチドに相当する部位を特定でき、さらに該特定された部位の参照配列における位置を決定することができる。
【0039】
参照配列におけるヒトP2Y12受容体遺伝子の1塩基変異部位の決定に有用な塩基配列情報、すなわちNC_000003.8またはNC_000003.9に開示されている塩基配列の部分塩基配列情報と、該部分塩基配列情報におけるヒトP2Y12受容体遺伝子の1塩基変異部位を表3に示す。
【0040】
【表3】

【0041】
表3中、「*」にて表示したGenBankアクセッション番号NC_000003.8に開示されている塩基配列の第152378495位は、表1に示すように、ヒトP2Y12受容体遺伝子の遺伝子型がH2ハプロタイプである場合、その位置のヌクレオチドの塩基はAであるが、H1ハプロタイプである場合、その位置のヌクレオチドは欠失している。このような場合、GenBankアクセッション番号NC_000003.8に開示されている塩基配列の第152378495位(目的の塩基の位置と称することがある)は、該塩基配列とは別の塩基配列を参照配列として用いるとき、該参照配列における位置を、次に示すように特定することができる。まず、配列表の配列番号60に記載の塩基配列(GenBankアクセッション番号NC_000003.8に開示されている塩基配列の部分塩基配列)を指標として用いて該塩基配列と相同な塩基配列を参照配列中に見出す。次いで、配列表の配列番号60に記載の塩基配列の第107番目から第108番目のヌクレオチド(AA)に相当する部位を指標にして、参照配列における目的の塩基の位置を特定できる。
【0042】
すなわち、本発明は、
1.ヒトP2Y12受容体遺伝子のゲノム塩基配列において下記(1)から(4)より選ばれる1つまたは2つ以上の1塩基変異を検出することを手段とする、血栓性疾患を引き起こす可能性を有する遺伝子変異の検出方法:
(1)第152381673位の塩基がシトシンである;
(2)第152380188位の塩基がシトシンである;
(3)第152379350位の塩基がチミンである;
(4)第152378084位の塩基がシトシンである
(ここで、各塩基の位置はGenBankアクセッション番号NC_000003.8に記載されたヒトP2Y12受容体遺伝子のゲノム塩基配列における位置として定義する)、
2.1塩基変異の検出を、(i)ヒトP2Y12受容体遺伝子内の第152381673位、第152380188位、第152379350位または第152378084位のヌクレオチドを含むDNA断片をポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により増幅し、(ii)得られたPCR産物の配列をシーケンス法で決定すること、または、得られたPCR産物について上記位置の塩基をタイピング法で決定することにより行う、前記1.の遺伝子変異の検出方法、
3.下記工程を含む、ヒトP2Y12受容体遺伝子内の第152381673位の塩基がシトシンである1塩基変異の検出方法(ここで、第152381673位の塩基の位置はGenBankアクセッション番号NC_000003.8に記載されたヒトP2Y12受容体遺伝子のゲノム塩基配列における位置として定義する):
(i)ヒトP2Y12受容体遺伝子内の第152381673位のヌクレオチドを含むDNA断片を、配列番号1および配列番号2に記載のポリヌクレオチドをプライマーとして用いてポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により増幅する工程、
および
(ii)前記(i)の工程で得られたPCR産物の配列を、配列番号10および配列番号28に記載のポリヌクレオチドをプライマーとして用いてシーケンス法により決定する工程、
4.下記工程を含む、ヒトP2Y12受容体遺伝子内の第152380188位の塩基がシトシンである1塩基変異の検出方法(ここで、第152380188位の塩基の位置はGenBankアクセッション番号NC_000003.8に記載されたヒトP2Y12受容体遺伝子のゲノム塩基配列における位置として定義する):
(i)ヒトP2Y12受容体遺伝子内の第152380188位のヌクレオチドを含むDNA断片を、配列番号3および配列番号4に記載のポリヌクレオチドをプライマーとして用いてポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により増幅する工程、
および
(ii)前記(i)の工程で得られたPCR産物の配列を、配列番号32に記載のポリヌクレオチドをプライマーとして用いてシーケンス法により決定する工程、
5.下記工程を含む、ヒトP2Y12受容体遺伝子内の第152379350位の塩基がチミンである1塩基変異の検出方法(ここで、第152379350位の塩基の位置はGenBankアクセッション番号NC_000003.8に記載されたヒトP2Y12受容体遺伝子のゲノム塩基配列における位置として定義する):
(i)ヒトP2Y12受容体遺伝子内の第152379350位のヌクレオチドを含むDNA断片を、配列番号5および配列番号6に記載のポリヌクレオチドをプライマーとして用いてポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により増幅する工程、
および
(ii)前記(i)の工程で得られたPCR産物の配列を、配列番号18および配列番号34に記載のポリヌクレオチドをプライマーとして用いてシーケンス法により決定する工程、
6.下記工程を含む、ヒトP2Y12受容体遺伝子内の第152378084位の塩基がシトシンである1塩基変異の検出方法(ここで、第152378084位の塩基の位置はGenBankアクセッション番号NC_000003.8に記載されたヒトP2Y12受容体遺伝子のゲノム塩基配列における位置として定義する):
(i)ヒトP2Y12受容体遺伝子内の第152378084位のヌクレオチドを含むDNA断片を、配列番号7および配列番号8に記載のポリヌクレオチドをプライマーとして用いてポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により増幅する工程、
および
(ii)前記(i)の工程で得られたPCR産物の配列を、配列番号39に記載のポリヌクレオチドをプライマーとして用いてシーケンス法により決定する工程、
7.下記工程を含む、ヒトP2Y12受容体遺伝子内の第152379350位の塩基がチミンである1塩基変異の検出方法(ここで、第152379350位の塩基の位置はGenBankアクセッション番号NC_000003.8に記載されたヒトP2Y12受容体遺伝子のゲノム塩基配列における位置として定義する):
(i)ヒトP2Y12受容体遺伝子内の第152379350位のヌクレオチドを含むDNA断片を、配列番号17および配列番号34に記載のポリヌクレオチドをプライマーとして用いてポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により増幅する工程、
および
(ii)前記(i)の工程で得られたPCR産物について、第152379350位に相当する位置の塩基を、配列番号41または配列番号43に記載のポリヌクレオチドをプライマーとして用いてタイピング法により決定する工程、
8.下記工程を含む、ヒトP2Y12受容体遺伝子内の第152381673位の塩基がシトシンである1塩基変異の検出方法(ここで、第152381673位の塩基の位置はGenBankアクセッション番号NC_000003.8に記載されたヒトP2Y12受容体遺伝子のゲノム塩基配列における位置として定義する):
(i)ヒトP2Y12受容体遺伝子内の第152381673位のヌクレオチドを含むDNA断片をポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により増幅する工程、
および
(ii)前記(i)の工程で得られたPCR産物について、第152381673位に相当する位置の塩基を、配列番号44または配列番号45に記載のポリヌクレオチドをプライマーとして用いてタイピング法により決定する工程、
9.下記工程を含む、ヒトP2Y12受容体遺伝子内の第152380188位の塩基がシトシンである1塩基変異の検出方法(ここで、第152380188位の塩基の位置はGenBankアクセッション番号NC_000003.8に記載されたヒトP2Y12受容体遺伝子のゲノム塩基配列における位置として定義する):
(i)ヒトP2Y12受容体遺伝子内の第152380188位のヌクレオチドを含むDNA断片をポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により増幅する工程、
および
(ii)前記(i)の工程で得られたPCR産物について、第152380188位に相当する位置の塩基を、配列番号46または配列番号47に記載のポリヌクレオチドをプライマーとして用いてタイピング法により決定する工程、
10.下記工程を含む、ヒトP2Y12受容体遺伝子内の第152378084位の塩基がシトシンである1塩基変異の検出方法(ここで、第152378084位の塩基の位置はGenBankアクセッション番号NC_000003.8に記載されたヒトP2Y12受容体遺伝子のゲノム塩基配列における位置として定義する):
(i)ヒトP2Y12受容体遺伝子内の第152378084位のヌクレオチドを含むDNA断片をポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により増幅する工程、
および
(ii)前記(i)の工程で得られたPCR産物について、第152378084位に相当する位置の塩基を、配列番号48または配列番号49に記載のポリヌクレオチドをプライマーとして用いてタイピング法により決定する工程、
11.前記3.から10.のいずれかの1塩基変異の検出方法を用いることを特徴とする前記1.の血栓性疾患を引き起こす可能性を有する遺伝子変異の検出方法、
12.ヒトP2Y12受容体遺伝子の塩基配列において下記(1)から(4)より選ばれる1つまたは2つ以上の1塩基変異を有する塩基配列または該塩基配列の相補的塩基配列を含むポリヌクレオチド:
(1)第152381673位の塩基がシトシンである;
(2)第152380188位の塩基がシトシンである;
(3)第152379350位の塩基がチミンである;および
(4)第152378084位の塩基がシトシンである
(ここで、各塩基の位置はGenBankアクセッション番号NC_000003.8に記載されたヒトP2Y12受容体遺伝子のゲノム塩基配列における位置として定義する)、
13.ヒトP2Y12受容体遺伝子のゲノム塩基配列において下記(1)から(4)より選ばれる1つまたは2つ以上の1塩基変異を検出可能な対立遺伝子特異的な核酸プローブ:
(1)第152381673位の塩基がシトシンである;
(2)第152380188位の塩基がシトシンである;
(3)第152379350位の塩基がチミンである;
(4)第152378084位の塩基がシトシンである
(ここで、各塩基の位置はGenBankアクセッション番号NC_000003.8に記載されたヒトP2Y12受容体遺伝子のゲノム塩基配列における位置として定義する)、
14.ヒトP2Y12受容体遺伝子のゲノム塩基配列において下記(1)から(4)より選ばれるいずれか1の1塩基変異を有する塩基配列または該塩基配列の相補的塩基配列からなるポリヌクレオチドの、当該1塩基変異を示す位置の塩基を含む塩基配列で表わされる遺伝子断片にストリンジェントな条件下でハイブリダイゼーションする8個ないし50個の塩基からなるポリヌクレオチド:
(1)第152381673位の塩基がシトシンである;
(2)第152380188位の塩基がシトシンである;
(3)第152379350位の塩基がチミンである;
(4)第152378084位の塩基がシトシンである
(ここで、各塩基の位置はGenBankアクセッション番号NC_000003.8に記載されたヒトP2Y12受容体遺伝子のゲノム塩基配列における位置として定義する)、
15.配列表の配列番号1から配列番号49のいずれか1に記載のポリヌクレオチド、
16.前記1.、2.または11.の血栓性疾患を引き起こす可能性を有する遺伝子変異の検出方法を用いることを特徴とする血栓性疾患の罹患危険率検査方法、
17.血栓性疾患がアテローム性血栓症である前記16.の血栓性疾患の罹患危険率検査方法、
18.血栓性疾患が末梢動脈疾患である前記16.の血栓性疾患の罹患危険率検査方法、
19.前記1.、2.または11.の血栓性疾患を引き起こす可能性を有する遺伝子変異の検出方法を用いることを特徴とする血栓性疾患の予防および/または治療剤を選択する方法、
20.前記1.、2.または11.の血栓性疾患を引き起こす可能性を有する遺伝子変異の検出方法を用いることを特徴とする血栓性疾患の予防および/または治療剤の用量を決定する方法、
21.前記13.の対立遺伝子特異的核酸プローブ並びに前記14.または15.のポリヌクレオチドのうちの少なくとも1を含む試薬キット、
22.ヒトP2Y12受容体遺伝子のゲノム塩基配列において下記(1)から(4)より選ばれる1つまたは2つ以上の1塩基変異を検出することを手段とする、血栓性疾患を引き起こす可能性を有する遺伝子変異の検出方法:
(1)第152543462位の塩基がシトシンである;
(2)第152541977位の塩基がシトシンである;
(3)第152541139位の塩基がチミンである;
(4)第152539873位の塩基がシトシンである
(ここで、各塩基の位置はGenBankアクセッション番号NC_000003.9に記載されたヒトP2Y12受容体遺伝子のゲノム塩基配列における位置として定義する)、
23.1塩基変異の検出を、(i)ヒトP2Y12受容体遺伝子内の第152543462位、第152541977位、第152541139位または第152539873位のヌクレオチドを含むDNA断片をポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により増幅し、(ii)得られたPCR産物の配列をシーケンス法で決定すること、または、得られたPCR産物について上記位置の塩基をタイピング法で決定することにより行う、前記22.の遺伝子変異の検出方法、
24.下記工程を含む、ヒトP2Y12受容体遺伝子内の第152543462位の塩基がシトシンである1塩基変異の検出方法(ここで、第152543462位の塩基の位置はGenBankアクセッション番号NC_000003.9に記載されたヒトP2Y12受容体遺伝子のゲノム塩基配列における位置として定義する):
(i)ヒトP2Y12受容体遺伝子内の第152543462位のヌクレオチドを含むDNA断片を、配列番号1および配列番号2に記載のポリヌクレオチドをプライマーとして用いてポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により増幅する工程、
および
(ii)前記(i)の工程で得られたPCR産物の配列を、配列番号10および配列番号28に記載のポリヌクレオチドをプライマーとして用いてシーケンス法により決定する工程、
25.下記工程を含む、ヒトP2Y12受容体遺伝子内の第152541977位の塩基がシトシンである1塩基変異の検出方法(ここで、第152541977位の塩基の位置はGenBankアクセッション番号NC_000003.9に記載されたヒトP2Y12受容体遺伝子のゲノム塩基配列における位置として定義する):
(i)ヒトP2Y12受容体遺伝子内の第152541977位のヌクレオチドを含むDNA断片を、配列番号3および配列番号4に記載のポリヌクレオチドをプライマーとして用いてポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により増幅する工程、
および
(ii)前記(i)の工程で得られたPCR産物の配列を、配列番号32に記載のポリヌクレオチドをプライマーとして用いてシーケンス法により決定する工程、
26.下記工程を含む、ヒトP2Y12受容体遺伝子内の第152541139位の塩基がチミンである1塩基変異の検出方法(ここで、第152541139位の塩基の位置はGenBankアクセッション番号NC_000003.9に記載されたヒトP2Y12受容体遺伝子のゲノム塩基配列における位置として定義する):
(i)ヒトP2Y12受容体遺伝子内の第152541139位のヌクレオチドを含むDNA断片を、配列番号5および配列番号6に記載のポリヌクレオチドをプライマーとして用いてポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により増幅する工程、
および
(ii)前記(i)の工程で得られたPCR産物の配列を、配列番号18および配列番号34に記載のポリヌクレオチドをプライマーとして用いてシーケンス法により決定する工程、
27.下記工程を含む、ヒトP2Y12受容体遺伝子内の第152539873位の塩基がシトシンである1塩基変異の検出方法(ここで、第152539873位の塩基の位置はGenBankアクセッション番号NC_000003.9に記載されたヒトP2Y12受容体遺伝子のゲノム塩基配列における位置として定義する):
(i)ヒトP2Y12受容体遺伝子内の第152539873位のヌクレオチドを含むDNA断片を、配列番号7および配列番号8に記載のポリヌクレオチドをプライマーとして用いてポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により増幅する工程、
および
(ii)前記(i)の工程で得られたPCR産物の配列を、配列番号39に記載のポリヌクレオチドをプライマーとして用いてシーケンス法により決定する工程、
28.下記工程を含む、ヒトP2Y12受容体遺伝子内の第152541139位の塩基がチミンである1塩基変異の検出方法(ここで、第152541139位の塩基の位置はGenBankアクセッション番号NC_000003.9に記載されたヒトP2Y12受容体遺伝子のゲノム塩基配列における位置として定義する):
(i)ヒトP2Y12受容体遺伝子内の第152541139位のヌクレオチドを含むDNA断片を、配列番号17および配列番号34に記載のポリヌクレオチドをプライマーとして用いてポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により増幅する工程、
および
(ii)前記(i)の工程で得られたPCR産物について、第152541139位に相当する位置の塩基を、配列番号41または配列番号43に記載のポリヌクレオチドをプライマーとして用いてタイピング法により決定する工程、
29.下記工程を含む、ヒトP2Y12受容体遺伝子内の第152543462位の塩基がシトシンである1塩基変異の検出方法(ここで、第152543462位の塩基の位置はGenBankアクセッション番号NC_000003.9に記載されたヒトP2Y12受容体遺伝子のゲノム塩基配列における位置として定義する):
(i)ヒトP2Y12受容体遺伝子内の第152543462位のヌクレオチドを含むDNA断片をポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により増幅する工程、
および
(ii)前記(i)の工程で得られたPCR産物について、第152543462位に相当する位置の塩基を、配列番号44または配列番号45に記載のポリヌクレオチドをプライマーとして用いてタイピング法により決定する工程、
30.下記工程を含む、ヒトP2Y12受容体遺伝子内の第152541977位の塩基がシトシンである1塩基変異の検出方法(ここで、第152541977位の塩基の位置はGenBankアクセッション番号NC_000003.9に記載されたヒトP2Y12受容体遺伝子のゲノム塩基配列における位置として定義する):
(i)ヒトP2Y12受容体遺伝子内の第152541977位のヌクレオチドを含むDNA断片をポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により増幅する工程、
および
(ii)前記(i)の工程で得られたPCR産物について、第152541977位に相当する位置の塩基を、配列番号46または配列番号47に記載のポリヌクレオチドをプライマーとして用いてタイピング法により決定する工程、
31.下記工程を含む、ヒトP2Y12受容体遺伝子内の第152539873位の塩基がシトシンである1塩基変異の検出方法(ここで、第152539873位の塩基の位置はGenBankアクセッション番号NC_000003.9に記載されたヒトP2Y12受容体遺伝子のゲノム塩基配列における位置として定義する):
(i)ヒトP2Y12受容体遺伝子内の第152539873位のヌクレオチドを含むDNA断片をポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により増幅する工程、
および
(ii)前記(i)の工程で得られたPCR産物について、第152539873位に相当する位置の塩基を、配列番号48または配列番号49に記載のポリヌクレオチドをプライマーとして用いてタイピング法により決定する工程、
32.前記24.から31.のいずれかの1塩基変異の検出方法を用いることを特徴とする前記22.の血栓性疾患を引き起こす可能性を有する遺伝子変異の検出方法、
33.ヒトP2Y12受容体遺伝子の塩基配列において下記(1)から(4)より選ばれる1つまたは2つ以上の1塩基変異を有する塩基配列または該塩基配列の相補的塩基配列を含むポリヌクレオチド:
(1)第152543462位の塩基がシトシンである;
(2)第152541977位の塩基がシトシンである;
(3)第152541139位の塩基がチミンである;および
(4)第152539873位の塩基がシトシンである
(ここで、各塩基の位置はGenBankアクセッション番号NC_000003.9に記載されたヒトP2Y12受容体遺伝子のゲノム塩基配列における位置として定義する)、
34.ヒトP2Y12受容体遺伝子のゲノム塩基配列において下記(1)から(4)より選ばれる1つまたは2つ以上の1塩基変異を検出可能な対立遺伝子特異的な核酸プローブ:
(1)第152543462位の塩基がシトシンである;
(2)第152541977位の塩基がシトシンである;
(3)第152541139位の塩基がチミンである;
(4)第152539873位の塩基がシトシンである
(ここで、各塩基の位置はGenBankアクセッション番号NC_000003.9に記載されたヒトP2Y12受容体遺伝子のゲノム塩基配列における位置として定義する)、
35.ヒトP2Y12受容体遺伝子のゲノム塩基配列において下記(1)から(4)より選ばれるいずれか1の1塩基変異を有する塩基配列または該塩基配列の相補的塩基配列からなるポリヌクレオチドの、当該1塩基変異を示す位置の塩基を含む塩基配列で表わされる遺伝子断片にストリンジェントな条件下でハイブリダイゼーションする8個ないし50個の塩基からなるポリヌクレオチド:
(1)第152543462位の塩基がシトシンである;
(2)第152541977位の塩基がシトシンである;
(3)第152541139位の塩基がチミンである;
(4)第152539873位の塩基がシトシンである
(ここで、各塩基の位置はGenBankアクセッション番号NC_000003.9に記載されたヒトP2Y12受容体遺伝子のゲノム塩基配列における位置として定義する)、
36.前記22.、23.または32.の血栓性疾患を引き起こす可能性を有する遺伝子変異の検出方法を用いることを特徴とする血栓性疾患の罹患危険率検査方法、
37.血栓性疾患がアテローム性血栓症である前記36.の血栓性疾患の罹患危険率検査方法、
38.血栓性疾患が末梢動脈疾患である前記36.の血栓性疾患の罹患危険率検査方法、
39.前記22.、23.または32.の血栓性疾患を引き起こす可能性を有する遺伝子変異の検出方法を用いることを特徴とする血栓性疾患の予防および/または治療剤を選択する方法、
40.前記22.、23.または32.の血栓性疾患を引き起こす可能性を有する遺伝子変異の検出方法を用いることを特徴とする血栓性疾患の予防および/または治療剤の用量を決定する方法、
41.前記34.の対立遺伝子特異的核酸プローブ並びに前記15.または35.のポリヌクレオチドのうちの少なくとも1を含む試薬キット、
からなる。
【発明の効果】
【0043】
本発明によれば、ヒトP2Y12受容体遺伝子のゲノム配列における1塩基変異を解析することにより、該遺伝子のH2ハプロタイプを特定することができる。P2Y12受容体遺伝子のH2ハプロタイプを有する個体においては、血小板凝集能の亢進が認められる(非特許文献3)。また、ヒトP2Y12受容体遺伝子のH2ハプロタイプが、末梢動脈障害発症の危険因子となること(非特許文献4)、および末梢動脈疾患(PAD)との間に高い相関性が存在すること(特許文献1)が報告されている。さらに、ヒトP2Y12受容体遺伝子のH2ハプロタイプの特定により、アテローム性血栓症の罹患危険率およびチエノピリジン抗血栓薬(例えばP2Y12受容体をターゲットとするクロピドグレルやチクロピジン等)に対する低感受性の検出を実施できると考えられている(特許文献1)。したがって、本発明によりヒトP2Y12受容体遺伝子のH2ハプロタイプを特定することで、血小板凝集能の亢進に係る疾患、例えば血栓性疾患を引き起こす可能性を有する遺伝子変異の検出が可能になる。本発明により血栓性疾患の罹患危険率が高いと判定された場合、発症する前にそれらの危険因子、例えば喫煙、高血圧、高脂肪/高コレステロール食習慣、肥満およびストレス等の是正を行なうことができる。また、本発明によりヒトP2Y12受容体遺伝子のH2ハプロタイプを特定することで、チエノピリジン抗血栓薬や、P2Y12受容体を競合的に阻害する抗血栓薬に対する低感受性の判定が可能になる。本発明によりチエノピリジン抗血栓薬やP2Y12受容体を競合的に阻害する抗血栓薬に対して低感受性であると判定された場合は、これら薬剤の用量を増加するといった選択や、これら薬剤を用いる治療法以外の治療法の選択が可能になる。
【0044】
このように本発明は、血栓性疾患の診断並びに当該疾患の防止および治療のための検査に有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0045】
本発明は、ヒト血小板表面に存在するP2Y12受容体をコードする遺伝子のゲノム配列における1塩基変異を、血小板凝集能の亢進に係る疾患、例えば血栓性疾患を引き起こす可能性を有する遺伝子変異の検出方法に利用することにより達成したものである。さらに、本発明において、該検出方法を用いることを特徴とする血栓性疾患の罹患危険率の検査方法を提供することができる。
【0046】
本発明において、ヒトP2Y12受容体遺伝子のゲノム配列においてエキソン2より上流に存在する4種類の1塩基変異が該遺伝子のH2ハプロタイプと連鎖していることを明らかにした。以下、P2Y12受容体遺伝子とは、ヒトP2Y12受容体遺伝子を意味する。
【0047】
P2Y12受容体遺伝子のH2ハプロタイプを有する個体においては、血小板凝集能の亢進が認められることが報告されている(非特許文献3)。また、P2Y12受容体遺伝子のH2ハプロタイプが、末梢動脈障害発症の危険因子となること(非特許文献4)、および末梢動脈疾患(PAD)との間に高い相関性が存在すること(特許文献1)が報告されている。PADと同様に脳卒中や冠動脈疾患は動脈血栓を発症原因とする疾患であることから、脳卒中や冠動脈疾患とP2Y12受容体遺伝子のH2ハプロタイプとの間に高い相関性が存在すると考える。一方、深部静脈血栓症は、脳卒中、冠動脈疾患およびPADとは異なり、静脈血栓を発症原因とする疾患である。深部静脈血栓症では抗血小板薬が血栓の形成や拡大の防止に有効であることから、血小板凝集能の亢進は、深部静脈血栓症の発症に関与する可能性がある。これらから、P2Y12受容体遺伝子のH2ハプロタイプに認められる1塩基変異は血栓性疾患を引き起こす可能性を有する遺伝子変異であると考える。
【0048】
本発明に係るP2Y12受容体遺伝子の1塩基変異を検出することや手段により、該遺伝子のH2ハプロタイプを特定することができ、さらに血小板凝集能の亢進に係る疾患、例えば血栓性疾患を引き起こす可能性を有する遺伝子変異を検出することができる。
【0049】
以下においてP2Y12受容体遺伝子の各塩基の位置を示すときには、特に定義しない限り、GenBankアクセッション番号NC_000003.8に開示されている塩基配列における位置として示す。
【0050】
本発明に係るP2Y12受容体遺伝子の1塩基変異は、第152381673位、第152380188位、第152379350位および第152378084位における1塩基変異である。これら1塩基変異が認められたP2Y12受容体遺伝子において、各位置の塩基はそれぞれ、シトシン(C)、シトシン(C)、チミン(T)およびシトシン(C)であった(実施例および表7参照)。これら各位置の塩基は、H1ハプロタイプのP2Y12受容体遺伝子においては、それぞれグアニン(G)、チミン(T)、シトシン(C)およびチミン(T)である。これら1塩基変異とP2Y12受容体遺伝子のH2ハプロタイプとの連鎖を示唆する報告はない。
【0051】
P2Y12受容体遺伝子のH2ハプロタイプは、表1に示した既知1塩基変異4種類の検出により特定できることが開示されている(特許文献1)。これら既知1塩基変異は、白色人種健常人由来のゲノム試料において見出されたものである。また、欧米人においてH1ハプロタイプおよびH2ハプロタイプのアリル頻度は、それぞれ86.2%および13.8%であることが報告されている(非特許文献3)。
【0052】
しかしながら、表1に示した既知1塩基変異のうち、エキソン2に存在する1塩基変異(第152377507位のGからTへの変異)が認められないH2ハプロタイプを有する5例を日本人健常人由来のゲノム試料において見出した。これらの例においては、P2Y12受容体遺伝子に、本発明において見出した4種類の1塩基変異(実施例および表7参照)が認められ、さらに表1に示した4種類の既知1塩基変異のうちエキソン2に存在する1塩基変異を除いた3種類の1塩基変異が認められた。
【0053】
このように、P2Y12受容体遺伝子のエキソン2に存在する1塩基変異(第152377507位のGからTへの変異)が従来のH2ハプロタイプと異なる遺伝子型を示す例が存在することが明らかになった(実施例および表8参照)。ここで見出したP2Y12受容体遺伝子の遺伝子型をH2´ハプロタイプと呼称する(例数=5)。H2´ハプロタイプの存在は日本人のゲノムDNA試料を用いた解析で判明したが、既報のハプロタイプが日本人にも全く同位置に存在することから、H2´ハプロタイプは欧米人にも存在すると推察する。H2´ハプロタイプには、表1に示した既知1塩基変異のうち、エキソン2に存在する1塩基変異(第152377507位のGからTへの変異)が認められないが、本発明に係るP2Y12受容体遺伝子の1塩基変異の4種類すべてが認められた。H2´ハプロタイプは、H2ハプロタイプと1箇所の1塩基変異の有無が異なるのみであることから、H2ハプロタイプと同様に血小板凝集能の亢進に関連すると考える。
【0054】
P2Y12受容体遺伝子の1塩基変異について検討したゲノムDNA141例において、H1ハプロタイプのホモ接合体は94例であった。また、H1/H2ハプロタイプのヘテロ接合体、H1/H2´ハプロタイプのヘテロ接合体およびH2/H2´ハプロタイプのヘテロ接合体はそれぞれ、42例、4例および1例であった。
【0055】
本発明に係るP2Y12受容体遺伝子の1塩基変異の検出によりH2ハプロタイプであると特定されるP2Y12受容体遺伝子には、H2´ハプロタイプのP2Y12受容体遺伝子が含まれる。上記のように、H2´ハプロタイプは、H2ハプロタイプと1箇所の1塩基変異の有無が異なるのみであることから、H2ハプロタイプと同様に血小板凝集能の亢進に関連すると考える。したがって、本発明に係るP2Y12受容体遺伝子の1塩基変異の検出により、血小板凝集能の亢進に起因する疾患、例えば血栓性疾患を惹き起こす可能性を有する遺伝子変異の検出方法を実施できる。
【0056】
P2Y12受容体遺伝子のH2ハプロタイプの特定は、本発明に係るP2Y12受容体遺伝子の1塩基変異の検出により行うことができる。該遺伝子のH2ハプロタイプの特定は、表1に示した既知1塩基変異4種類の検出によっても行うことができるが、本発明に係るP2Y12受容体遺伝子の1塩基変異の検出をさらに行うことにより、特定の確度はより高くなる。既知4種類の1塩基変異(表1)のうちイントロン1に存在する1塩基変異は全てH2ハプロタイプと完全に連鎖するのに対し、エキソン2に存在する1塩基変異とH2ハプロタイプには完全な連鎖が認められない。したがって、エキソン2に存在する1塩基変異の検出のみではH2ハプロタイプの特定は難しい。また、イントロン1に存在する1塩基挿入を伴う1塩基変異の検出は、一般的に塩基の挿入による変異の検出の精度が低いことが知られていることから、その検出の精度が低いと考える。それに対し、本発明に係るP2Y12受容体遺伝子の1塩基変異はいずれも置換変異であり、H2ハプロタイプと完全に連鎖している。このことから、本発明に係るP2Y12受容体遺伝子の1塩基変異を検出することや手段により、既報の1塩基変異(表1)の検出と比較して、より高い精度および確度でH2ハプロタイプを検出することができる。
【0057】
また、従来のH2ハプロタイプと異なる遺伝子型(H2´ハプロタイプ)を示す例が存在することが判明した。H2´ハプロタイプは、表1に示した既知1塩基変異のうち、エキソン2に存在する1塩基変異(第152377507位のGからTへの変異)が認められないが、本発明に係るP2Y12受容体遺伝子の1塩基変異の4種類すべてが認められた。したがって、表1に示した4種類の既知1塩基変異の全てを検出する方法においては、H2´ハプロタイプが検出されない。本発明に係るP2Y12受容体遺伝子の1塩基変異を検出することや手段により、H2ハプロタイプおよびH2´ハプロタイプの両方の検出ができる。
【0058】
本発明に係る遺伝子変異の検出方法は、P2Y12受容体遺伝子のゲノム塩基配列において、該遺伝子のH2ハプロタイプと連鎖する1塩基変異を検出することを手段とする。より具体的には、本検出方法は、(i)P2Y12受容体遺伝子内の1塩基変異が存在する位置における塩基を決定し、(ii)該塩基の種類とP2Y12受容体遺伝子のH2ハプロタイプとの連鎖の有無を特定し、(iii)それにより血小板凝集能の亢進に係る疾患、例えば血栓性疾患を引き起こす可能性を有する遺伝子変異を検出することを手段とする。
【0059】
塩基の決定は、P2Y12受容体遺伝子の塩基配列における次の位置に相当する塩基について行なう:好ましくは第152381673位、第152380188位、第152379350位および第152378084位である。塩基の決定はこれら位置の少なくとも1箇所、好ましくは2箇所以上、より好ましくは3箇所以上、さらに好ましくは4箇所について行う。これら位置の1塩基変異に加え、P2Y12受容体遺伝子のH2ハプロタイプに連鎖することが報告されている既知1塩基変異をさらに検出することもできる。
【0060】
決定された塩基の種類とP2Y12受容体遺伝子のH2ハプロタイプとの連鎖の有無の特定は、該塩基の種類を本発明に係るP2Y12受容体遺伝子の1塩基変異と比較することにより実施できる。本発明に係るP2Y12受容体遺伝子の1塩基変異は下記4種類の1塩基変異である;(1)第152381673位の塩基がシトシン(C)である;(2)第152380188位の塩基がシトシン(C)である;(3)第152379350位の塩基がチミン(T)である;(4)第152378084位の塩基がシトシン(C)である。決定された塩基の種類をこれら4種類の1塩基変異と比較して、少なくとも1、好ましくは2以上、より好ましくは3以上、さらに好ましくは4が一致すると認められた場合、該変異はP2Y12受容体遺伝子のH2ハプロタイプと連鎖すると判定できる。本発明に係るP2Y12受容体遺伝子の1塩基変異との比較に加え、P2Y12受容体遺伝子のH2ハプロタイプに連鎖することが報告されている既知1塩基変異と比較して既知1塩基変異と同一の1塩基変異の有無を判定することにより、P2Y12受容体遺伝子のH2ハプロタイプとの連鎖の有無を特定することもできる。
【0061】
塩基の決定は、自体公知の方法を使用して実施できる。例えば、ポリメラーゼ連鎖反応(以下、PCRと略称する)により、所望の位置の塩基を含むP2Y12受容体遺伝子の部分配列を増幅し、得られた増幅産物の塩基配列をシークエンス法、例えばダイレクトシークエンシング法により配列決定する方法を用いることができる。配列決定法としてはシークエンス法以外に、ハイブリダイゼーション法および制限酵素断片長多型(RFLP)解析法等が利用できる。
【0062】
塩基の決定は、具体的には以下のように実施できる。第152381673位の塩基の決定は、例えば、ゲノムDNAについて、配列番号1および配列番号2に記載の各ポリヌクレオチドをプライマーとして用いてPCRを行い、得られた増幅産物の塩基配列をシークエンス法により決定することにより実施できる。シークエンス法に用いるプライマーとして、配列番号10および配列番号28に記載の各ポリヌクレオチドを例示できる。第152380188位の塩基の決定は、例えば、ゲノムDNAについて、配列番号3および配列番号4に記載の各ポリヌクレオチドをプライマーとして用いてPCRを行い、得られた増幅産物の塩基配列をシークエンス法により決定することにより実施できる。シークエンス法に用いるプライマーとして、配列番号32に記載のポリヌクレオチドを例示できる。第152379350位の塩基の決定は、例えば、ゲノムDNAについて、配列番号5および配列番号6に記載の各ポリヌクレオチドをプライマーとして用いてPCRを行い、得られた増幅産物の塩基配列をシークエンス法により決定することにより実施できる。シークエンス法に用いるプライマーとして、配列番号18および配列番号34に記載の各ポリヌクレオチドを例示できる。第152378084位の塩基の決定は、例えば、ゲノムDNAについて、配列番号7および配列番号8に記載の各ポリヌクレオチドをプライマーとして用いてPCRを行い、得られた増幅産物の塩基配列をシークエンス法により決定することにより実施できる。シークエンス法に用いるプライマーとして、配列番号39に記載のポリヌクレオチドを例示できる。P2Y12受容体遺伝子のこれら各位置を含む所望の領域を増幅するためのPCRに用いるプライマーは上記例示したポリヌクレオチドに限定されず、該所望の領域を増幅し得るプライマーであればいずれも使用できる。また、シークエンス法に用いるプライマーも上記例示したポリヌクレオチドに限定されず、P2Y12受容体遺伝子のこれら各位置を含む所望の領域の塩基配列を決定し得るプライマーであればいずれも使用できる。PCRおよびシークエンス法は、一般的に知られている方法に準じて実施することができる。
【0063】
塩基の決定は、その他、公知の1塩基変異検出法を使用して実施できる。1塩基変異検出法として、例えば、SNuPe法等の遺伝子タイピング法が挙げられる。SNuPe法による塩基の決定は、具体的には、第152379350位の塩基の決定を例に取ると、該塩基を含むDNA断片を配列番号17および配列番号34に記載の各ポリヌクレオチドをプライマーとして用いてゲノムDNAからPCRにより増幅し、得られた増幅産物の標的位置の塩基の種類を配列番号41に記載のポリヌクレオチドをタイピング用プライマーとして用いてSNuPe法でタイピングすることにより実施できる(実施例参照)。また、タイピング用プライマーとして、配列番号43に記載のポリヌクレオチドを使用して同様に第152379350位の塩基の種類を決定することができる。第152381673位、第152380188位および第152378084位の塩基の決定も、同様に実施できる。これら位置の塩基のタイピングに用いるタイピング用プライマーは、該位置に隣接する上流または下流の塩基配列から適宜設計し取得できる。具体的には、第152381673位の塩基のタイピング用プライマーとして、配列番号44または配列番号45に記載のポリヌクレオチドを例示できる。第152380188位の位の塩基のタイピング用プライマーとして、配列番号46または配列番号47に記載のポリヌクレオチドを例示できる。第152378084位の塩基のタイピング用プライマーとして、配列番号48または配列番号49に記載のポリヌクレオチドを例示できる。
【0064】
また、本発明に係るP2Y12受容体遺伝子の1塩基変異を検出し、さらに、第152377507位の塩基がグアニン(G)であることを検出することまたは手段により、H2´ハプロタイプの特定ができる。第152377507位の塩基の決定は、具体的には例えば、ゲノムDNAについて、配列番号23および配列番号40に記載の各ポリヌクレオチドを用いてPCRを行い、得られた増幅産物の標的位置の塩基の種類を遺伝子タイピング法により決定することにより実施できる(実施例参照)。遺伝子タイピング法として、SNuPe法が挙げられる。タイピング用プライマーとして、配列番号42に記載のポリヌクレオチドが挙げられる。
【0065】
本発明に係るP2Y12受容体遺伝子の1塩基変異の検出や手段は、その他、自体公知の1塩基変異解析方法を適用して実施できる。1塩基変異解析方法として、蛍光を用いる方法、例えばインベーダーアッセイ(リアミチェフ(Lyamichev,V.)ら、「ネイチャー バイオテクノロジー(Nature Biotechnology)」、1999年、第17巻、p.292−296)やルミネックス法(チェン(Chen,J.)ら、「ゲノム リサーチ(Genome Research)」、2000年、第10巻、p.549−557)を例示できる。また、マススペクトルを用いる方法、例えばプライマー伸張法を応用した方法を用いることもできる。このような方法として、ピンポイントアッセイ(ロス(Ross,P.)ら、「ネイチャー バイオテクノロジー(Nature Biotechnology)」、1998年、第16巻、p.1347−1351)やプローブ法(ブラウン(Braun,A.)ら、「クリニカル ケミストリー(Clinical Chemistry)」、1997年、第43巻、p.1151−1158)等を例示できる。さらに、ドールアッセイ(DOL assay、チェン(Chen,X.)ら、「プロシーディング オブ ザ ナショナル アカデミー オブ サイエンス オブ ザ ユナイテッド ステーツ オブ アメリカ(Proceedings of The National Academy of Sciences of The United States of America)」、1997年、第94巻、p.10756−10761)、スナイパーアッセイ(ピアテク(Piatek,A.S.)ら、「ネイチャー バイオテクノロジー(Nature Biotechnology)」、1998年、第16巻、p.359−363)およびタグアレイ法(ファン(Fan,J−B.)ら、「ゲノム リサーチ(Genome Research)」、2000年、第10巻、p.853−860)等も使用できる。これら方法は、これらが報告されている引用文献を参照することにより容易に実施することができる。また、蛍光共鳴エネルギー移動(fluorescence resonance energy transfer、FRET)やタックマン(Taqman)法等、1塩基変異の検出方法としてよく知られた方法を用いることができる。
【0066】
本発明に係るP2Y12受容体遺伝子の1塩基変異の検出や手段はまた、対立遺伝子特異的核酸プローブを用いて、それぞれハイブリダイゼーション法により実施できる。対立遺伝子(allele)とは、同一遺伝子座に起こったDNA塩基配列の差に基づく差異を有する2個以上の遺伝子をいう。
【0067】
核酸プローブとしては、P2Y12受容体遺伝子のゲノム塩基配列において本発明に係る1塩基変異を含む塩基配列またはその相補的塩基配列で表されるポリヌクレオチドの、当該1塩基変異を示す位置の塩基を含む塩基配列に実質的に相補的な塩基配列を有するポリヌクレオチドを例示できる。「実質的に相補的な塩基配列を有する」とは、プローブとして使用したときに、調べようとする試料(以下、被検試料と称する)中において1塩基変異を含む塩基配列またはその相補的塩基配列を例えばストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下で検出することができることを意味する。ハイブリダイゼーションの条件は、例えば成書に記載の方法(サムブルック(Sambrook)ら編、「モレキュラークローニング,ア ラボラトリーマニュアル 第2版」、1989年、コールドスプリングハーバーラボラトリー)等に従うことができる。ストリンジェントなハイブリダイゼーションの条件として具体的には、6×SSC、0.5%SDSおよび50%ホルムアミドの溶液中で42℃にて加温した後、0.1×SSC、0.5%SDSの溶液中で68℃にて洗浄する条件でも依然として陽性のハイブリダイゼーションのシグナルが観察される条件を例示できる。
【0068】
プローブとして用いるポリヌクレオチドは、好ましくは8個ないし50個のヌクレオチド、より好ましくは17個ないし35個のヌクレオチド、さらに好ましくは17個ないし30個のヌクレオチドからなる。プローブは、本発明に係る1塩基変異を有するP2Y12受容体遺伝子の塩基配列またはその相補的塩基配列に基づいて設計し、慣用の方法、例えば化学合成等により作製できる。得られたポリヌクレオチドから、上記1塩基変異を有する塩基配列または該塩基配列の相補的塩基配列で表されるポリヌクレオチドの、当該1塩基変異を示す位置の塩基を含む塩基配列で表される遺伝子断片にストリンジェントな条件下でハイブリダイゼーションするものを選択することにより、目的とするプローブが得られる。プローブとして具体的には、P2Y12受容体遺伝子の部分塩基配列であって本発明に係る1塩基変異のいずれか1を有する塩基配列またはその相補的塩基配列からなるポリヌクレオチドを例示できる。これらプローブは、検出のためのマーカー、例えば蛍光物質や放射性同位体等の標識体で標識されたものであってもよい。標識体はこれらに限らず、プローブとそれに対応するポリヌクレオチドとのハイブリダイゼーションが阻害されないものであればいずれも使用できる。上記1塩基変異の検出方法は例示に過ぎず、本発明において用いることのできる検出方法はこれらに限定されない。
【0069】
被検試料は、ヒト由来の血液、髄液、気管支肺胞洗浄液、痰、または他の体液、あるいは組織等から調製した核酸試料のいずれであってもよい。核酸試料の調製は、自体公知の核酸調製法により実施できる。核酸試料として、好ましくはゲノムDNAを用いる。調製した核酸は直接検出に使用してもよく、あるいは分析前に所望の領域をPCRまたはその他の増幅法を用いることにより酵素的に増幅してもよい。
【0070】
本発明に係る血小板凝集能の亢進に係る疾患を引き起こす可能性を有する遺伝子変異の検出方法を用いることにより、血小板凝集能の亢進に係る疾患の罹患危険率の検査方法を実施することができる。また、本遺伝子変異の検出方法を用いて、血小板凝集能の亢進に係る疾患の早期診断を実施できる。
【0071】
血小板凝集能の亢進に係る疾患として、血栓性疾患が挙げられる。好ましくはアテローム性血栓症が挙げられる。より具体的には、動脈の閉塞に起因する冠状動脈疾患、脳卒中、および末梢動脈疾患(PAD)等、また、静脈の閉塞に起因する静脈血栓症等を例示できる。P2Y12受容体遺伝子のH2ハプロタイプを有する個体においてPADとの間に高い相関性が存在すること(特許文献1)が報告されていることから、さらに好ましくはPADが挙げられる。
【0072】
疾患の罹患危険率の検査方法は、具体的には、被検試料中のP2Y12受容体遺伝子について、本発明に係る1塩基変異が認められた位置に相当する位置の塩基のうち少なくとも1の塩基を決定し、当該位置における塩基の種類をP2Y12受容体遺伝子のH2ハプロタイプの塩基配列と比較することにより実施できる。本発明に係るP2Y12受容体遺伝子の1塩基変異は下記4種類の1塩基変異である;(1)第152381673位の塩基がシトシン(C)である;(2)第152380188位の塩基がシトシン(C)である;(3)第152379350位の塩基がチミン(T)である;(4)第152378084位の塩基がシトシン(C)である。決定された塩基の種類をこれら4種類の1塩基変異と比較して、少なくとも1、好ましくは2以上、より好ましくは3以上、さらに好ましくは4が一致すると認められた場合、被検試料中のP2Y12受容体遺伝子の遺伝子型はH2ハプロタイプであると判定でき、それにより血小板凝集能の亢進に係る疾患の罹患危険率が高いと判定できる。対立遺伝子の双方の遺伝子型がH2ハプロタイプであっても、一方の遺伝子型のみがH2ハプロタイプであっても血小板凝集能の亢進に係る疾患の罹患危険率が高いと判定することができる。
【0073】
本発明に係る血小板凝集能の亢進に係る疾患を引き起こす可能性を有する遺伝子変異の検出方法を用いることにより、血小板凝集能の亢進に係る疾患の予防および/または治療剤に対する反応性の予測方法を実施することができる。H2ハプロタイプの特定により、チエノピリジン抗血栓薬(P2Y12受容体を標的とするクロピドグレル、チクロピジンおよびCS−747等)や、その他のP2Y12受容体を競合的に阻害する抗血栓薬(以下、P2Y12受容体競合型抗血栓薬と称する)に対する低感受性を検出できると考えられている(特許文献1)。また、H2ハプロタイプを有する個体では血小板凝集能が亢進していることが報告されており(非特許文献3)、この血小板凝集能の亢進には細胞表面のP2Y12受容体数の増加が関与していると推測されている。P2Y12受容体数の増加は、P2Y12受容体をターゲットとする抗血栓薬に対する低感受性の原因になり得ると考える。したがって、本発明によりH2ハプロタイプを特定することで、チエノピリジン抗血栓薬およびP2Y12受容体競合型抗血栓薬に対する低感受性の判定が可能になる。
【0074】
本発明に係る抗血栓薬に対する反応性の予測方法は、具体的には、被検試料中のP2Y12受容体遺伝子について、本発明に係る1塩基変異が認められた位置に相当する位置の塩基のうち少なくとも1の塩基を決定し、当該位置における塩基の種類をP2Y12受容体遺伝子のH2ハプロタイプの塩基配列と比較することにより実施できる。本発明に係るP2Y12受容体遺伝子の1塩基変異は下記4種類の1塩基変異である;(1)第152381673位の塩基がシトシン(C)である;(2)第152380188位の塩基がシトシン(C)である;(3)第152379350位の塩基がチミン(T)である;(4)第152378084位の塩基がシトシン(C)である。決定された塩基の種類をこれら4種類の1塩基変異と比較して、少なくとも1、好ましくは2以上、より好ましくは3以上、さらに好ましくは4が一致すると認められた場合、被検試料中のP2Y12受容体遺伝子の遺伝子型はH2ハプロタイプであると判定でき、それにより抗血栓薬に対する反応性が低いと判定できる。対立遺伝子の双方の遺伝子型がH2ハプロタイプであっても、一方の遺伝子型のみがH2ハプロタイプであっても抗血栓薬に対する反応性が低いと判定することができる。
【0075】
本発明に係る抗血栓薬に対する反応性の予測方法は、好ましくはチエノピリジン抗血栓薬(P2Y12受容体を標的とするクロピドグレル、チクロピジンおよびCS−747等)や、その他のP2Y12受容体競合型抗血栓薬に対する反応性の予測に使用できる。
【0076】
本発明に係る血小板凝集能の亢進に係る疾患を引き起こす可能性を有する遺伝子変異の検出方法を用いることにより、さらに、血小板凝集能の亢進に係る疾患の予防および/または治療剤の選択方法、および該予防および/または治療剤の用量を決定する方法を実施できる。本遺伝子変異の検出方法により、P2Y12受容体遺伝子の遺伝子型がH2ハプロタイプであると判定された場合、抗血栓薬に対し低感受性であると判定できるため、抗血栓薬の用量を増加する等の調節を行うことができる。あるいは、低感受性であると考えられる抗血栓薬を選択せずに他の抗血栓薬を選択することができる。
【0077】
本発明は、ゲノム塩基配列第152381673位がシトシン(C)である1塩基変異を有するP2Y12受容体遺伝子の塩基配列または該塩基配列に相補的塩基配列を有するポリヌクレオチドを提供する。また、上記対立遺伝子特異的なプローブやプライマーも提供できる。例えば、P2Y12受容体遺伝子内の第152381673位を含む領域を増幅するためのプライマーとして、配列番号1および配列番号2に記載のポリヌクレオチドの組合せを提供できる。また、該領域の塩基配列の決定に使用するためのプライマーとして配列番号10および配列番号28に記載のポリヌクレオチドの組合せを提供できる。また、第152381673位の塩基のタイピングに使用し得るプライマーとして配列番号44または配列番号45に記載のポリヌクレオチドを提供できる。
【0078】
本発明はまた、ゲノム塩基配列第152380188位がシトシン(C)である1塩基変異を有するP2Y12受容体遺伝子の塩基配列または該塩基配列に相補的塩基配列を有するポリヌクレオチドを提供する。また、上記対立遺伝子特異的なプローブやプライマーも提供できる。例えば、P2Y12受容体遺伝子内の第152380188位を含む領域を増幅するためのプライマーとして、配列番号3および配列番号4に記載のポリヌクレオチドの組合せを提供できる。また、該領域の塩基配列の決定に使用するためのプライマーとして配列番号32に記載のポリヌクレオチドを提供できる。また、第152380188位の塩基のタイピングに使用し得るプライマーとして配列番号46または配列番号47に記載のポリヌクレオチドを提供できる。
【0079】
本発明はまた、ゲノム塩基配列第152379350位がチミン(T)である1塩基変異を有するP2Y12受容体遺伝子の塩基配列または該塩基配列に相補的塩基配列を有するポリヌクレオチドを提供する。また、上記対立遺伝子特異的なプローブやプライマーも提供できる。例えば、P2Y12受容体遺伝子内の第152379350位を含む領域を増幅するためのプライマーとして、配列番号5および配列番号6に記載のポリヌクレオチドの組合せ、または配列番号17および配列番号34に記載のポリヌクレオチドの組み合わせを提供できる。また、該領域の塩基配列の決定に使用するためのプライマーとして配列番号18および配列番号34に記載のポリヌクレオチドの組合せを提供できる。また、該該領域に含まれる標的位置の塩基のタイピングに用いるタイピング用プライマーとして配列番号41に記載のポリヌクレオチドを提供できる。また、第152379350位の塩基のタイピングに使用し得るプライマーとして配列番号41または配列番号43に記載のポリヌクレオチドを提供できる。
【0080】
本発明はまた、ゲノム塩基配列第152378084位がシトシン(C)である1塩基変異を有するP2Y12受容体遺伝子の塩基配列または該塩基配列に相補的塩基配列を有するポリヌクレオチドを提供する。また、上記対立遺伝子特異的なプローブやプライマーも提供できる。例えば、P2Y12受容体遺伝子内の第152378084位を含む領域を増幅するためのプライマーとして、配列番号7および配列番号8に記載のポリヌクレオチドの組合せを提供できる。また、該領域の塩基配列の決定に使用するためのプライマーとして配列番号39に記載のポリヌクレオチドを提供できる。また、第152378084位の塩基のタイピングに使用し得るプライマーとして配列番号48または配列番号49に記載のポリヌクレオチドを提供できる。
【0081】
本発明に係るポリヌクレオチドは、本発明により開示されたその具体的な塩基配列に関わる情報に基づいて、公知の遺伝子工学的手法(例えば、サムブルック(Sambrook)ら編、「モレキュラークローニング,ア ラボラトリーマニュアル 第2版」、1989年、コールドスプリングハーバーラボラトリー;および村松正實編、「ラボマニュアル遺伝子工学」、1988年、丸善株式会社等を参照)により容易に取得できる。
【0082】
プローブやプライマーは、本発明に係る1塩基変異を有するP2Y12受容体遺伝子の塩基配列またはその相補的塩基配列に基づいて設計し、慣用の方法、例えば化学合成等により作製することができる。
【0083】
上記ポリヌクレオチド、上記プロ−ブおよび上記プライマーは、いずれも試薬として使用できる。また、これらの1種またはそれ以上を充填した、1個またはそれ以上の容器を含んでなる試薬キットも本発明の範囲に包含される。本試薬キットは、1塩基変異検出用の標識物質、緩衝液、並びに塩等、測定の実施に必要とされる物質を含むことができる。さらに、安定化剤および/または防腐剤等の物質を含んでいてもよい。製剤化にあたっては、使用する各物質、例えばポリヌクレオチドに応じた自体公知の製剤化手段を導入すればよい。このような試薬および試薬キットは、本発明に係る検出方法および検査方法に、検査剤並びに検査用キットとして使用できる。
【0084】
以下、本発明を実施例に基づき具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されない。本実施例においてP2Y12受容体遺伝子の各塩基の位置を示すときには、特に定義しない限り、GenBankアクセッション番号NC_000003.8に開示されている塩基配列における位置として示す。
【実施例1】
【0085】
(P2Y12受容体遺伝子のゲノム配列の解析)
P2Y12受容体遺伝子のエキソン1上流3kbの地点からエキソン2の5´側約150bpについて(全長約5kb)、ゲノム配列の解析により変異の検出を行なった。試料は141例の日本人健常人から供与を受けたゲノムDNAを用いた。
【0086】
まず、20例のゲノムDNAを用い、ゲノムDNAからP2Y12受容体遺伝子の標的領域を増幅し、得られた増幅産物の塩基配列をダイレクトシークエンス法を用いて決定することにより変異の検出を実施した。
【0087】
標的領域の増幅はPCRにより行なった。標的領域は、GenBankアクセッション番号NC_000003.8に開示されたゲノム塩基配列を参照配列として、該ゲノム塩基配列に含まれるP2Y12受容体遺伝子のゲノム配列の4箇所に設定し、PCR用プライマーは、該塩基配列に基づいて設計し作製した(表4)。ゲノムDNA試料2μlを鋳型として、Ex Taq(タカラバイオ社製)またはLA Taq(タカラバイオ社製)を用いて、20μlの反応系でPCRを行った。PCR反応条件は、各標的領域により異なる反応条件を用いた(表5)。
【0088】
【表4】

【0089】
【表5】

【0090】
PCR反応条件A
1) 94℃ 4分間
2) 94℃ 30秒間
3) 62℃ 30秒間
4) 72℃ 2分間
2)から4)の工程は40サイクル行なった。
5) 72℃ 10分間
【0091】
PCR反応条件B
1) 94℃ 4分間
2) 94℃ 30秒間
3) 58℃ 30秒間
4) 72℃ 2分間
2)から4)の工程は40サイクル行なった。
5) 72℃ 10分間
【0092】
PCR増幅産物をエキソサップ(Exo SAP、Amersham Biosciences社製)を用いて精製し、シークエンス反応の鋳型として用いた。シークエンス反応は表6に示したプライマーおよびダイナミックETダイターミネーターキット(DyEnamic ET dye terminator kit、Amersham Biosciences社製)を用いて行った。反応産物はセファデックス−50(Sephadex−50)を用いてゲルろ過法により精製した。シークエンサーは、メガベース1000(MegaBACE1000、Amersham Biosciences社製)を使用した。
【0093】
得られた配列データを用いて、フレッド/フラップ/ポリフレッド(Phred/Phrap/PolyPhred)ソフトウエアにより各塩基の精度(クオリティー値)の算出、アセンブルおよび変異の検出を行った。標準塩基配列および塩基位置として、GenBankアクセッション番号NC_000003.8に開示されている塩基配列および塩基位置を使用した。
【0094】
【表6】

【0095】
塩基配列解析の結果、表7に示す4種類の1塩基変異がH2ハプロタイプと完全に連鎖していることが明らかになった。表7に示す4種類の1塩基変異が認められたゲノムDNAにおいては、既知1塩基変異(表1)のうち、イントロン1に存在する3種類の1塩基変異が全て認められた。
【0096】
【表7】

【0097】
また、塩基配列解析の結果、P2Y12受容体遺伝子のH2ハプロタイプと連鎖していると報告されている既知1塩基変異(表1、特許文献1、非特許文献3および特許文献4)のうち、エキソン2に存在する1塩基変異(第152377507位のGからTへの変異)が認められないH2ハプロタイプを有する例を見出した。すなわち、エキソン2に存在するこの1塩基変異は、H2ハプロタイプと完全に連鎖していないと考える。この例においては、P2Y12受容体遺伝子に、本発明において見出した4種類の1塩基変異(表
7)が認められ、さらに表1に示した4種類の既知1塩基変異のうちエキソン2に存在する1塩基変異を除いた3種類の1塩基変異が認められた。
【0098】
このことから、P2Y12受容体遺伝子のエキソン2に存在する1塩基変異(第152377507位のGからTへの変異)が従来のH2ハプロタイプと異なる遺伝子型を示す例が存在することが明らかになった。ここで見出したP2Y12受容体遺伝子の遺伝子型をH2´ハプロタイプと呼称する。H2´ハプロタイプは、H2ハプロタイプと1箇所の1塩基変異の有無が異なるのみであることから、H2ハプロタイプと同様に血小板凝集能の亢進に関連すると考える。
【0099】
H2ハプロタイプおよびH2´ハプロタイプと連鎖するP2Y12受容体遺伝子の1塩基変異を表8にまとめて示す。
【0100】
【表8】

【0101】
表8において、#1、#2、#3および#7に示した1塩基変異は、本発明においてH2ハプロタイプと完全に連鎖することを明らかにした1塩基変異である。#4、#5および#6に示した1塩基変異は、既知1塩基変異(表1、特許文献1、非特許文献3および特許文献4)である。#8に示した1塩基変異は、H2ハプロタイプと連鎖すると報告されている1塩基変異である(特許文献1、非特許文献3および特許文献4)が、日本人においてはこの1塩基変異が認められない数例を見出した。既報のハプロタイプが日本人にも全く同位置に存在することから、H2´ハプロタイプは欧米人にも存在すると推察する。
【0102】
(第152379350位の塩基および第152377507位の塩基の解析)
次に、121例の健常人のゲノムDNAを用い、P2Y12受容体遺伝子のH2ハプロタイプと完全に連鎖している1塩基変異、およびH2ハプロタイプとの連鎖が完全ではないと判明した第152377507位の1塩基変異について解析した。P2Y12受容体遺伝子のH2ハプロタイプと完全に連鎖している1塩基変異として、第152379350位の1塩基変異を解析した。第152379350位の1塩基変異を有するP2Y12受容体遺伝子はH2ハプロタイプであることから、第152379350位の1塩基変異が認められたゲノムDNAにおいては、P2Y12受容体遺伝子のH2ハプロタイプと完全に連鎖する他の1塩基変異(第152381673位、第152380188位、第152378084位の1塩基変異等)も存在する。
【0103】
これら2種類の1塩基変異の検出は、各ゲノムDNAからPCRにより増幅したP2Y12受容体遺伝子の検出を標的位置の塩基を含むDNA断片を用いて、SNuPe反応により行った。PCRは、各ゲノムDNAを鋳型として、PCRプライマーを用いて行った。PCRプライマーは、第152379350位の塩基を含むDNA断片の増幅のために、配列番号17および配列番号34に記載の各ポリヌクレオチドを用いた。また、第152377507位の塩基を含むDNA断片の増幅のために、配列番号23および配列番号40に記載の各ポリヌクレオチドを用いた。具体的には、各鋳型2μlを使用し、Ex Taq(タカラバイオ)を用いて10μlの反応系でPCRを行った。なおポジティブコントロールは10ng/μlに調製したヒトゲノムDNA(クロンテック社製)を使用し、ネガティブコントロールには鋳型を加えずにPCRを行った。
【0104】
PCR反応条件は以下に示す。
1) 94℃ 4分間
2) 94℃ 30秒間
3) 54℃ 30秒間
4) 72℃ 45秒間
2)から4)の工程は40サイクル行なった。
5) 72℃ 4分間
【0105】
PCR増幅産物は4℃で冷却後、セファデックス G50 ファイン(Amersham Biosciences社製)を用いたゲルろ過法により精製し、SNuPe反応に使用した。
【0106】
SNuPe反応は、各1塩基変異が存在する位置の直前に設計したSNuPeプライマー、鋳型である精製PCR増幅産物およびメガベース SNuPe遺伝子タイピングキット(MegaBACE SNuPe Genotyping kit、Amersham Biosciences社製)を用いて、キットの添付資料に記載の方法に従って実施した。第152379350位および第152377507位の塩基のタイピング用SNuPeプライマーとしてそれぞれ表9に記載の各ポリヌクレオチドを用いた。なお、配列番号42に記載の塩基配列で表されるポリヌクレオチドは、P2Y12受容体遺伝子ゲノム塩基配列の第152377532位から第152377508位までの25ヌクレオチドからなる塩基配列に基づいて設計したポリヌクレオチドであるが、第152377519位のヌクレオチドを含まない24ヌクレオチドからなるポリヌクレオチドである。
【0107】
【表9】

【0108】
タイピング解析は96ウエルプレートフォーマットのキャピラリーシークエンサー メガベース1000(Amersham Biosciences社製)を用いて行い、データ解析ソフトであるSNPプロファイラーを用いてタイピングを行った。
【0109】
検討した141例(上記ダイレクトシークエンス法で解析した20例を含む)において、H1ハプロタイプのホモ接合体は94例であった。また、H1/H2ハプロタイプのヘテロ接合体、H1/H2´ハプロタイプのヘテロ接合体およびH2/H2´ハプロタイプのヘテロ接合体はそれぞれ、42例、4例および1例であった。
【産業上の利用可能性】
【0110】
本発明によれば、P2Y12受容体遺伝子のH2ハプロタイプおよびH2´ハプロタイプの特定ができ、その結果、該遺伝子のH2ハプロタイプと関連する易血栓性を検出することができる。さらに、本発明によれば、血栓性疾患、例えばアテローム性血栓症、具体的には心筋梗塞、脳卒中および末梢動脈疾患等の罹患危険率の判定および早期診断の実施が可能になる。本発明は、血栓性疾患の診断並びに当該疾患の防止および治療のための検査に有用であり、医薬分野において多大に寄与するものである。
【配列表フリーテキスト】
【0111】
配列番号1:プライマー用の設計されたポリヌクレオチド。
配列番号2:プライマー用の設計されたポリヌクレオチド。
配列番号3:プライマー用の設計されたポリヌクレオチド。
配列番号4:プライマー用の設計されたポリヌクレオチド。
配列番号5:プライマー用の設計されたポリヌクレオチド。
配列番号6:プライマー用の設計されたポリヌクレオチド。
配列番号7:プライマー用の設計されたポリヌクレオチド。
配列番号8:プライマー用の設計されたポリヌクレオチド。
配列番号9:プライマー用の設計されたポリヌクレオチド。
配列番号10:プライマー用の設計されたポリヌクレオチド。
配列番号11:プライマー用の設計されたポリヌクレオチド。
配列番号12:プライマー用の設計されたポリヌクレオチド。
配列番号13:プライマー用の設計されたポリヌクレオチド。
配列番号14:プライマー用の設計されたポリヌクレオチド。
配列番号15:プライマー用の設計されたポリヌクレオチド。
配列番号16:プライマー用の設計されたポリヌクレオチド。
配列番号17:プライマー用の設計されたポリヌクレオチド。
配列番号18:プライマー用の設計されたポリヌクレオチド。
配列番号19:プライマー用の設計されたポリヌクレオチド。
配列番号20:プライマー用の設計されたポリヌクレオチド。
配列番号21:プライマー用の設計されたポリヌクレオチド。
配列番号22:プライマー用の設計されたポリヌクレオチド。
配列番号23:プライマー用の設計されたポリヌクレオチド。
配列番号24:プライマー用の設計されたポリヌクレオチド。
配列番号25:プライマー用の設計されたポリヌクレオチド。
配列番号26:プライマー用の設計されたポリヌクレオチド。
配列番号27:プライマー用の設計されたポリヌクレオチド。
配列番号28:プライマー用の設計されたポリヌクレオチド。
配列番号29:プライマー用の設計されたポリヌクレオチド。
配列番号30:プライマー用の設計されたポリヌクレオチド。
配列番号31:プライマー用の設計されたポリヌクレオチド。
配列番号32:プライマー用の設計されたポリヌクレオチド。
配列番号33:プライマー用の設計されたポリヌクレオチド。
配列番号34:プライマー用の設計されたポリヌクレオチド。
配列番号35:プライマー用の設計されたポリヌクレオチド。
配列番号36:プライマー用の設計されたポリヌクレオチド。
配列番号37:プライマー用の設計されたポリヌクレオチド。
配列番号38:プライマー用の設計されたポリヌクレオチド。
配列番号39:プライマー用の設計されたポリヌクレオチド。
配列番号40:プライマー用の設計されたポリヌクレオチド。
配列番号41:プライマー用の設計されたポリヌクレオチド。
配列番号42:プライマー用の設計されたポリヌクレオチド。
配列番号43:プライマー用の設計されたポリヌクレオチド。
配列番号44:プライマー用の設計されたポリヌクレオチド。
配列番号45:プライマー用の設計されたポリヌクレオチド。
配列番号46:プライマー用の設計されたポリヌクレオチド。
配列番号47:プライマー用の設計されたポリヌクレオチド。
配列番号48:プライマー用の設計されたポリヌクレオチド。
配列番号49:プライマー用の設計されたポリヌクレオチド。
配列番号50:ヒトP2Y12受容体遺伝子内の1塩基変異の位置を特定するための配列情報。
配列番号51:ヒトP2Y12受容体遺伝子内の1塩基変異の位置を特定するための配列情報。
配列番号52:ヒトP2Y12受容体遺伝子内の1塩基変異の位置を特定するための配列情報。
配列番号53:ヒトP2Y12受容体遺伝子内の1塩基変異の位置を特定するための配列情報。
配列番号54:ヒトP2Y12受容体遺伝子内の1塩基変異の位置を特定するための配列情報。
配列番号54:(30):(30)NはA、C、GまたはTであり得る。
配列番号54:(68):(68)NはA、C、GまたはTであり得る。
配列番号55:ヒトP2Y12受容体遺伝子内の1塩基変異の位置を特定するための配列情報。
配列番号55:(1):(6)NはA、C、GまたはTであり得る。
配列番号56:ヒトP2Y12受容体遺伝子内の1塩基変異の位置を特定するための配列情報。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトP2Y12受容体遺伝子のゲノム塩基配列において下記(1)から(4)より選ばれる1つまたは2つ以上の1塩基変異を検出することを手段とする、血栓性疾患を引き起こす可能性を有する遺伝子変異の検出方法:
(1)第152381673位の塩基がシトシンである;
(2)第152380188位の塩基がシトシンである;
(3)第152379350位の塩基がチミンである;
(4)第152378084位の塩基がシトシンである
(ここで、各塩基の位置はGenBankアクセッション番号NC_000003.8に記載されたヒトP2Y12受容体遺伝子のゲノム塩基配列における位置として定義する)。
【請求項2】
1塩基変異の検出を、(i)ヒトP2Y12受容体遺伝子内の第152381673位、第152380188位、第152379350位または第152378084位のヌクレオチドを含むDNA断片をポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により増幅し、(ii)得られたPCR産物の配列をシーケンス法で決定すること、または、得られたPCR産物について上記位置の塩基をタイピング法で決定することにより行う、請求項1に記載の遺伝子変異の検出方法。
【請求項3】
下記工程を含む、ヒトP2Y12受容体遺伝子内の第152381673位の塩基がシトシンである1塩基変異の検出方法(ここで、第152381673位の塩基の位置はGenBankアクセッション番号NC_000003.8に記載されたヒトP2Y12受容体遺伝子のゲノム塩基配列における位置として定義する):
(i)ヒトP2Y12受容体遺伝子内の第152381673位のヌクレオチドを含むDNA断片を、配列番号1および配列番号2に記載のポリヌクレオチドをプライマーとして用いてポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により増幅する工程、
および
(ii)前記(i)の工程で得られたPCR産物の配列を、配列番号10および配列番号28に記載のポリヌクレオチドをプライマーとして用いてシーケンス法により決定する工程。
【請求項4】
下記工程を含む、ヒトP2Y12受容体遺伝子内の第152380188位の塩基がシトシンである1塩基変異の検出方法(ここで、第152380188位の塩基の位置はGenBankアクセッション番号NC_000003.8に記載されたヒトP2Y12受容体遺伝子のゲノム塩基配列における位置として定義する):
(i)ヒトP2Y12受容体遺伝子内の第152380188位のヌクレオチドを含むDNA断片を、配列番号3および配列番号4に記載のポリヌクレオチドをプライマーとして用いてポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により増幅する工程、
および
(ii)前記(i)の工程で得られたPCR産物の配列を、配列番号32に記載のポリヌクレオチドをプライマーとして用いてシーケンス法により決定する工程。
【請求項5】
下記工程を含む、ヒトP2Y12受容体遺伝子内の第152379350位の塩基がチミンである1塩基変異の検出方法(ここで、第152379350位の塩基の位置はGenBankアクセッション番号NC_000003.8に記載されたヒトP2Y12受容体遺伝子のゲノム塩基配列における位置として定義する):
(i)ヒトP2Y12受容体遺伝子内の第152379350位のヌクレオチドを含むDNA断片を、配列番号5および配列番号6に記載のポリヌクレオチドをプライマーとして用いてポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により増幅する工程、
および
(ii)前記(i)の工程で得られたPCR産物の配列を、配列番号18および配列番号34に記載のポリヌクレオチドをプライマーとして用いてシーケンス法により決定する工程。
【請求項6】
下記工程を含む、ヒトP2Y12受容体遺伝子内の第152378084位の塩基がシトシンである1塩基変異の検出方法(ここで、第152378084位の塩基の位置はGenBankアクセッション番号NC_000003.8に記載されたヒトP2Y12受容体遺伝子のゲノム塩基配列における位置として定義する):
(i)ヒトP2Y12受容体遺伝子内の第152378084位のヌクレオチドを含むDNA断片を、配列番号7および配列番号8に記載のポリヌクレオチドをプライマーとして用いてポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により増幅する工程、
および
(ii)前記(i)の工程で得られたPCR産物の配列を、配列番号39に記載のポリヌクレオチドをプライマーとして用いてシーケンス法により決定する工程。
【請求項7】
下記工程を含む、ヒトP2Y12受容体遺伝子内の第152379350位の塩基がチミンである1塩基変異の検出方法(ここで、第152379350位の塩基の位置はGenBankアクセッション番号NC_000003.8に記載されたヒトP2Y12受容体遺伝子のゲノム塩基配列における位置として定義する):
(i)ヒトP2Y12受容体遺伝子内の第152379350位のヌクレオチドを含むDNA断片を、配列番号17および配列番号34に記載のポリヌクレオチドをプライマーとして用いてポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により増幅する工程、
および
(ii)前記(i)の工程で得られたPCR産物について、第152379350位に相当する位置の塩基を、配列番号41または配列番号43に記載のポリヌクレオチドをプライマーとして用いてタイピング法により決定する工程。
【請求項8】
下記工程を含む、ヒトP2Y12受容体遺伝子内の第152381673位の塩基がシトシンである1塩基変異の検出方法(ここで、第152381673位の塩基の位置はGenBankアクセッション番号NC_000003.8に記載されたヒトP2Y12受容体遺伝子のゲノム塩基配列における位置として定義する):
(i)ヒトP2Y12受容体遺伝子内の第152381673位のヌクレオチドを含むDNA断片をポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により増幅する工程、
および
(ii)前記(i)の工程で得られたPCR産物について、第152381673位に相当する位置の塩基を、配列番号44または配列番号45に記載のポリヌクレオチドをプライマーとして用いてタイピング法により決定する工程。
【請求項9】
下記工程を含む、ヒトP2Y12受容体遺伝子内の第152380188位の塩基がシトシンである1塩基変異の検出方法(ここで、第152380188位の塩基の位置はGenBankアクセッション番号NC_000003.8に記載されたヒトP2Y12受容体遺伝子のゲノム塩基配列における位置として定義する):
(i)ヒトP2Y12受容体遺伝子内の第152380188位のヌクレオチドを含むDNA断片をポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により増幅する工程、
および
(ii)前記(i)の工程で得られたPCR産物について、第152380188位に相当する位置の塩基を、配列番号46または配列番号47に記載のポリヌクレオチドをプライマーとして用いてタイピング法により決定する工程。
【請求項10】
下記工程を含む、ヒトP2Y12受容体遺伝子内の第152378084位の塩基がシトシンである1塩基変異の検出方法(ここで、第152378084位の塩基の位置はGenBankアクセッション番号NC_000003.8に記載されたヒトP2Y12受容体遺伝子のゲノム塩基配列における位置として定義する):
(i)ヒトP2Y12受容体遺伝子内の第152378084位のヌクレオチドを含むDNA断片をポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により増幅する工程、
および
(ii)前記(i)の工程で得られたPCR産物について、第152378084位に相当する位置の塩基を、配列番号48または配列番号49に記載のポリヌクレオチドをプライマーとして用いてタイピング法により決定する工程。
【請求項11】
請求項3から10のいずれか1項に記載の1塩基変異の検出方法を用いることを特徴とする請求項1に記載の血栓性疾患を引き起こす可能性を有する遺伝子変異の検出方法。
【請求項12】
ヒトP2Y12受容体遺伝子の塩基配列において下記(1)から(4)より選ばれる1つまたは2つ以上の1塩基変異を有する塩基配列または該塩基配列の相補的塩基配列を含むポリヌクレオチド:
(1)第152381673位の塩基がシトシンである;
(2)第152380188位の塩基がシトシンである;
(3)第152379350位の塩基がチミンである;および
(4)第152378084位の塩基がシトシンである
(ここで、各塩基の位置はGenBankアクセッション番号NC_000003.8に記載されたヒトP2Y12受容体遺伝子のゲノム塩基配列における位置として定義する)。
【請求項13】
ヒトP2Y12受容体遺伝子のゲノム塩基配列において下記(1)から(4)より選ばれる1つまたは2つ以上の1塩基変異を検出可能な対立遺伝子特異的な核酸プローブ:
(1)第152381673位の塩基がシトシンである;
(2)第152380188位の塩基がシトシンである;
(3)第152379350位の塩基がチミンである;
(4)第152378084位の塩基がシトシンである
(ここで、各塩基の位置はGenBankアクセッション番号NC_000003.8に記載されたヒトP2Y12受容体遺伝子のゲノム塩基配列における位置として定義する)。
【請求項14】
ヒトP2Y12受容体遺伝子のゲノム塩基配列において下記(1)から(4)より選ばれるいずれか1の1塩基変異を有する塩基配列または該塩基配列の相補的塩基配列からなるポリヌクレオチドの、当該1塩基変異を示す位置の塩基を含む塩基配列で表わされる遺伝子断片にストリンジェントな条件下でハイブリダイゼーションする8個ないし50個の塩基からなるポリヌクレオチド:
(1)第152381673位の塩基がシトシンである;
(2)第152380188位の塩基がシトシンである;
(3)第152379350位の塩基がチミンである;
(4)第152378084位の塩基がシトシンである
(ここで、各塩基の位置はGenBankアクセッション番号NC_000003.8に記載されたヒトP2Y12受容体遺伝子のゲノム塩基配列における位置として定義する)。
【請求項15】
配列表の配列番号1から配列番号49のいずれか1に記載のポリヌクレオチド。
【請求項16】
請求項1、2または11に記載の血栓性疾患を引き起こす可能性を有する遺伝子変異の検出方法を用いることを特徴とする血栓性疾患の罹患危険率検査方法。
【請求項17】
血栓性疾患がアテローム性血栓症である請求項16に記載の血栓性疾患の罹患危険率検査方法。
【請求項18】
血栓性疾患が末梢動脈疾患である請求項16に記載の血栓性疾患の罹患危険率検査方法。
【請求項19】
請求項1、2または11に記載の血栓性疾患を引き起こす可能性を有する遺伝子変異の検出方法を用いることを特徴とする血栓性疾患の予防および/または治療剤を選択する方法。
【請求項20】
請求項1、2または11に記載の血栓性疾患を引き起こす可能性を有する遺伝子変異の検出方法を用いることを特徴とする血栓性疾患の予防および/または治療剤の用量を決定する方法。
【請求項21】
請求項13に記載の対立遺伝子特異的核酸プローブ並びに請求項14または15に記載のポリヌクレオチドのうちの少なくとも1を含む試薬キット。
【請求項22】
ヒトP2Y12受容体遺伝子のゲノム塩基配列において下記(1)から(4)より選ばれる1つまたは2つ以上の1塩基変異を検出することを手段とする、血栓性疾患を引き起こす可能性を有する遺伝子変異の検出方法:
(1)第152543462位の塩基がシトシンである;
(2)第152541977位の塩基がシトシンである;
(3)第152541139位の塩基がチミンである;
(4)第152539873位の塩基がシトシンである
(ここで、各塩基の位置はGenBankアクセッション番号NC_000003.9に記載されたヒトP2Y12受容体遺伝子のゲノム塩基配列における位置として定義する)。
【請求項23】
1塩基変異の検出を、(i)ヒトP2Y12受容体遺伝子内の第152543462位、第152541977位、第152541139位または第152539873位のヌクレオチドを含むDNA断片をポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により増幅し、(ii)得られたPCR産物の配列をシーケンス法で決定すること、または、得られたPCR産物について上記位置の塩基をタイピング法で決定することにより行う、請求項22に記載の遺伝子変異の検出方法。
【請求項24】
下記工程を含む、ヒトP2Y12受容体遺伝子内の第152543462位の塩基がシトシンである1塩基変異の検出方法(ここで、第152543462位の塩基の位置はGenBankアクセッション番号NC_000003.9に記載されたヒトP2Y12受容体遺伝子のゲノム塩基配列における位置として定義する):
(i)ヒトP2Y12受容体遺伝子内の第152543462位のヌクレオチドを含むDNA断片を、配列番号1および配列番号2に記載のポリヌクレオチドをプライマーとして用いてポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により増幅する工程、
および
(ii)前記(i)の工程で得られたPCR産物の配列を、配列番号10および配列番号28に記載のポリヌクレオチドをプライマーとして用いてシーケンス法により決定する工程。
【請求項25】
下記工程を含む、ヒトP2Y12受容体遺伝子内の第152541977位の塩基がシトシンである1塩基変異の検出方法(ここで、第152541977位の塩基の位置はGenBankアクセッション番号NC_000003.9に記載されたヒトP2Y12受容体遺伝子のゲノム塩基配列における位置として定義する):
(i)ヒトP2Y12受容体遺伝子内の第152541977位のヌクレオチドを含むDNA断片を、配列番号3および配列番号4に記載のポリヌクレオチドをプライマーとして用いてポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により増幅する工程、
および
(ii)前記(i)の工程で得られたPCR産物の配列を、配列番号32に記載のポリヌクレオチドをプライマーとして用いてシーケンス法により決定する工程。
【請求項26】
下記工程を含む、ヒトP2Y12受容体遺伝子内の第152541139位の塩基がチミンである1塩基変異の検出方法(ここで、第152541139位の塩基の位置はGenBankアクセッション番号NC_000003.9に記載されたヒトP2Y12受容体遺伝子のゲノム塩基配列における位置として定義する):
(i)ヒトP2Y12受容体遺伝子内の第152541139位のヌクレオチドを含むDNA断片を、配列番号5および配列番号6に記載のポリヌクレオチドをプライマーとして用いてポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により増幅する工程、
および
(ii)前記(i)の工程で得られたPCR産物の配列を、配列番号18および配列番号34に記載のポリヌクレオチドをプライマーとして用いてシーケンス法により決定する工程。
【請求項27】
下記工程を含む、ヒトP2Y12受容体遺伝子内の第152539873位の塩基がシトシンである1塩基変異の検出方法(ここで、第152539873位の塩基の位置はGenBankアクセッション番号NC_000003.9に記載されたヒトP2Y12受容体遺伝子のゲノム塩基配列における位置として定義する):
(i)ヒトP2Y12受容体遺伝子内の第152539873位のヌクレオチドを含むDNA断片を、配列番号7および配列番号8に記載のポリヌクレオチドをプライマーとして用いてポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により増幅する工程、
および
(ii)前記(i)の工程で得られたPCR産物の配列を、配列番号39に記載のポリヌクレオチドをプライマーとして用いてシーケンス法により決定する工程。
【請求項28】
下記工程を含む、ヒトP2Y12受容体遺伝子内の第152541139位の塩基がチミンである1塩基変異の検出方法(ここで、第152541139位の塩基の位置はGenBankアクセッション番号NC_000003.9に記載されたヒトP2Y12受容体遺伝子のゲノム塩基配列における位置として定義する):
(i)ヒトP2Y12受容体遺伝子内の第152541139位のヌクレオチドを含むDNA断片を、配列番号17および配列番号34に記載のポリヌクレオチドをプライマーとして用いてポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により増幅する工程、
および
(ii)前記(i)の工程で得られたPCR産物について、第152541139位に相当する位置の塩基を、配列番号41または配列番号43に記載のポリヌクレオチドをプライマーとして用いてタイピング法により決定する工程。
【請求項29】
下記工程を含む、ヒトP2Y12受容体遺伝子内の第152543462位の塩基がシトシンである1塩基変異の検出方法(ここで、第152543462位の塩基の位置はGenBankアクセッション番号NC_000003.9に記載されたヒトP2Y12受容体遺伝子のゲノム塩基配列における位置として定義する):
(i)ヒトP2Y12受容体遺伝子内の第152543462位のヌクレオチドを含むDNA断片をポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により増幅する工程、
および
(ii)前記(i)の工程で得られたPCR産物について、第152543462位に相当する位置の塩基を、配列番号44または配列番号45に記載のポリヌクレオチドをプライマーとして用いてタイピング法により決定する工程。
【請求項30】
下記工程を含む、ヒトP2Y12受容体遺伝子内の第152541977位の塩基がシトシンである1塩基変異の検出方法(ここで、第152541977位の塩基の位置はGenBankアクセッション番号NC_000003.9に記載されたヒトP2Y12受容体遺伝子のゲノム塩基配列における位置として定義する):
(i)ヒトP2Y12受容体遺伝子内の第152541977位のヌクレオチドを含むDNA断片をポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により増幅する工程、
および
(ii)前記(i)の工程で得られたPCR産物について、第152541977位に相当する位置の塩基を、配列番号46または配列番号47に記載のポリヌクレオチドをプライマーとして用いてタイピング法により決定する工程。
【請求項31】
下記工程を含む、ヒトP2Y12受容体遺伝子内の第152539873位の塩基がシトシンである1塩基変異の検出方法(ここで、第152539873位の塩基の位置はGenBankアクセッション番号NC_000003.9に記載されたヒトP2Y12受容体遺伝子のゲノム塩基配列における位置として定義する):
(i)ヒトP2Y12受容体遺伝子内の第152539873位のヌクレオチドを含むDNA断片をポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により増幅する工程、
および
(ii)前記(i)の工程で得られたPCR産物について、第152539873位に相当する位置の塩基を、配列番号48または配列番号49に記載のポリヌクレオチドをプライマーとして用いてタイピング法により決定する工程。
【請求項32】
請求項24から31のいずれか1項に記載の1塩基変異の検出方法を用いることを特徴とする請求項22に記載の血栓性疾患を引き起こす可能性を有する遺伝子変異の検出方法。
【請求項33】
ヒトP2Y12受容体遺伝子の塩基配列において下記(1)から(4)より選ばれる1つまたは2つ以上の1塩基変異を有する塩基配列または該塩基配列の相補的塩基配列を含むポリヌクレオチド:
(1)第152543462位の塩基がシトシンである;
(2)第152541977位の塩基がシトシンである;
(3)第152541139位の塩基がチミンである;および
(4)第152539873位の塩基がシトシンである
(ここで、各塩基の位置はGenBankアクセッション番号NC_000003.9に記載されたヒトP2Y12受容体遺伝子のゲノム塩基配列における位置として定義する)。
【請求項34】
ヒトP2Y12受容体遺伝子のゲノム塩基配列において下記(1)から(4)より選ばれる1つまたは2つ以上の1塩基変異を検出可能な対立遺伝子特異的な核酸プローブ:
(1)第152543462位の塩基がシトシンである;
(2)第152541977位の塩基がシトシンである;
(3)第152541139位の塩基がチミンである;
(4)第152539873位の塩基がシトシンである
(ここで、各塩基の位置はGenBankアクセッション番号NC_000003.9に記載されたヒトP2Y12受容体遺伝子のゲノム塩基配列における位置として定義する)。
【請求項35】
ヒトP2Y12受容体遺伝子のゲノム塩基配列において下記(1)から(4)より選ばれるいずれか1の1塩基変異を有する塩基配列または該塩基配列の相補的塩基配列からなるポリヌクレオチドの、当該1塩基変異を示す位置の塩基を含む塩基配列で表わされる遺伝子断片にストリンジェントな条件下でハイブリダイゼーションする8個ないし50個の塩基からなるポリヌクレオチド:
(1)第152543462位の塩基がシトシンである;
(2)第152541977位の塩基がシトシンである;
(3)第152541139位の塩基がチミンである;
(4)第152539873位の塩基がシトシンである
(ここで、各塩基の位置はGenBankアクセッション番号NC_000003.9に記載されたヒトP2Y12受容体遺伝子のゲノム塩基配列における位置として定義する)。
【請求項36】
請求項22、23または32に記載の血栓性疾患を引き起こす可能性を有する遺伝子変異の検出方法を用いることを特徴とする血栓性疾患の罹患危険率検査方法。
【請求項37】
血栓性疾患がアテローム性血栓症である請求項36に記載の血栓性疾患の罹患危険率検査方法。
【請求項38】
血栓性疾患が末梢動脈疾患である請求項36に記載の血栓性疾患の罹患危険率検査方法。
【請求項39】
請求項22、23または32に記載の血栓性疾患を引き起こす可能性を有する遺伝子変異の検出方法を用いることを特徴とする血栓性疾患の予防および/または治療剤を選択する方法。
【請求項40】
請求項22、23または32に記載の血栓性疾患を引き起こす可能性を有する遺伝子変異の検出方法を用いることを特徴とする血栓性疾患の予防および/または治療剤の用量を決定する方法。
【請求項41】
請求項34に記載の対立遺伝子特異的核酸プローブ並びに請求項15または35に記載のポリヌクレオチドのうちの少なくとも1を含む試薬キット。

【公開番号】特開2006−180876(P2006−180876A)
【公開日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−349302(P2005−349302)
【出願日】平成17年12月2日(2005.12.2)
【出願人】(899000079)学校法人慶應義塾 (742)
【出願人】(000002831)第一製薬株式会社 (129)
【Fターム(参考)】