説明

cBN焼結体及びcBN焼結体工具

【課題】難削性遠心鋳造鋳鉄加工において、耐欠損性、及び耐摩耗性に優れるcBN焼結体を提供する。
【解決手段】本発明は、体積で50%以上90%以下又は40%以上85%以下のcBN成分からなるcBN焼結体であって、前記cBN焼結体中に、アルミナ及びジルコニアが体積で、9%以上50%以下を含有し、ジルコニア/アルミナの重量比が0.1以上4以下であることを特徴とするcBN焼結体である。本発明に係るcBN焼結体を切削に関与する部位に用いた工具は、cBN焼結体の強度、硬度、靭性に優れるために、従来のcBN焼結体工具と比較し、難削性遠心鋳造鋳鉄加工において性能が向上する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋳鉄加工用cBN焼結体に関し、特に難削性に優れた遠心鋳造鋳鉄加工用cBN焼結体及びcBN焼結体工具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、立方晶窒化硼素は、ダイヤモンドに次ぐ高い硬度と優れた熱伝導性を持ち、ダイヤモンドに比べて鉄との親和性が低い。そのため、立方結晶窒化硼素を主に含有する工具材料が、焼入鋼や鋳鉄の仕上げ切削加工をするための工具として利用されている。
例えば、特許文献1には、立方晶窒化硼素が50〜80体積%と結合相が50〜20体積%から成り、この結合相がTiC、TiN及びTiCNからなる群から選択される少なくとも1種のチタン化合物とアルミニウムとから構成され、かつ該アルミニウムが結合相中に30〜70体積%含有されている焼結体が開示されている。この焼結体は鋳鉄の高速切削加工用として使用されている。
【0003】
他にも、特許文献2では、立方晶窒化硼素を30〜70体積%、Al23を20〜50体積%、遷移金属系炭化物及び窒化物を1種以上、かつ10〜30体積%で形成される、Al23の耐酸化性、化学的安定性の特徴を利用した耐摩耗性対策の焼結体が開示されている。
また、ジルコニアを添加した焼結体としては特許文献3があり、ここで開示されている焼結体は、立方晶窒化硼素の粉粒40〜70体積%と、結合相の主成分となる窒化チタン15〜45体積%と、結合相の副成分となるAl23、ZrO2、AlN及びSiCの針状結晶の混合粉粒15〜35体積%とからなる組成を有し、且つ上記結合相の副成分の組成がAl2350〜65体積%、ZrO21〜5体積%、AlN20〜40体積%、及びSiCの針状結晶5〜15体積%の比率で形成される。この焼結体は焼入鋼や超硬合金等の高硬度材料或いは耐熱合金等の切削加工や塑性加工において、結合相の立方晶窒化硼素の粉粒の担持能力を向上させ、高温時での耐摩耗性を改善する焼結体である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−44348号
【特許文献2】特開平7−172923号
【特許文献3】特許第2971203号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特に自動車エンジンのシリンダーライナーの素材としては、機械的性質に優れ、かつ低コストであることを理由として、遠心鋳造鋳鉄の需要が伸びている。この遠心鋳造鋳鉄の組織は、砂型鋳造鋳鉄等と同様に、片状黒鉛パーライトではある。
しかし、そのパーライトが微細であることから難削な鋳鉄となっている。これは微細組織である為に、熱伝導率が低くなる傾向があると考えられる。そのため切削加工の際、刃先に熱が集中し、上記特許文献1に開示されている焼結体では、鋳鉄と刃先成分が高温によって反応するために摩耗が急速に進行する。
また、耐摩耗性対策で耐化学反応性に優れたAl23を添加した上記特許文献2で開示されている焼結体では、難削な遠心鋳造鋳鉄加工においては、Al23の靭性が低く、熱伝導率が低い為、微細な組織による機械的及び熱的な刃先への衝撃で、刃先に欠けが発生しやすくなる。
【0006】
上記特許文献3に開示されている焼結体では、Al23、ZrO2、及びSiC針状結晶を添加することで焼結性を向上させることで靭性の向上する焼結体が開示されているが、これは切削中に発生するクラックではなく、焼結体作製時に焼結体中に潜在的に存在するクラックの減少を図るものであり、遠心鋳造鋳鉄加工において十分に靭性を発揮するには至らない。
それゆえ、難削な遠心鋳造鋳鉄加工においては、従来の焼結体の耐摩耗性と耐欠損性の両方をさらに高めた材料が必要となっている。本発明は、遠心鋳造鋳鉄加工において、より長寿命のcBN複合焼結体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成する為に、立方晶窒化硼素(cBN成分)を50〜90体積%と、TiCを1〜20体積%、Al23とZrO2を合わせて9〜50体積%とから成る原料粉末、又は立方晶窒化硼素を40〜85体積%と、TiCNを0.5〜15体積%、Al23とZrO2を合わせて9〜50体積%とから成る原料粉末を、圧力4GPa以上7GPa以下、温度1200〜1950℃で焼結することにより得られる立方晶窒化硼素複合焼結体切削工具が、難削性遠心鋳造鋳鉄切削加工において良好な性能を示すことを見出した。
ここで、立方晶窒化硼素の焼結体原料中における含有量は50〜90体積%であり、好ましくは55〜70体積%である。cBN成分が50体積%未満では、難削な鋳鉄の切削加工において、強度が足りず、刃先に欠けが生じてしまう。また、90体積%を超えると、立方晶窒化硼素と被削材の鉄との切削加工の際に生じる熱によって反応しやすくなり、摩耗が進行しやすくなる。
【0008】
また結合材中にTiCNを含有する場合における立方晶窒化硼素の焼結体原料中における含有量は40〜85体積%である。cBN成分を前記の範囲とすることにより難削な鋳鉄の切削加工において十分な強度が得られ、刃先の欠損を抑制することができる。また、熱的摩耗が小さくなる。
【0009】
次に結合材について説明する。結合材中のTiCの焼結体原料中における含有量は1〜20体積%以下であり、好ましくは1〜10体積%である。又、TiCNは0.5〜15体積%であり、好ましくは0.5〜8体積%である。TiCが1体積%未満若しくはTiCNが0.5体積%未満では、立方晶窒化硼素の鉄との反応を妨げる効果を持つTiC又はTiCNの特性が活かされず、工具刃先の摩耗が進行しやすくなると考えられる。
【0010】
さらに、Al23及びZrO2の焼結体原料中における含有量は9〜50体積%以下であり、好ましくは15〜30体積%である。Al23等の含有量を前記範囲とした理由は以下のとおりである。
Al23の耐酸化性、化学的安定性の性質を利用して、鋳鉄と刃先成分の反応による摩耗の進行を防ぐことができる。しかし、Al23の硬度は高いが、靭性に欠ける為、Al23だけでは刃先にチッピングが発生しやすくなる。
この問題を解決する為、靭性を高める目的で、ZrO2を添加する。ZrO2単体は高温側から立方晶、正方晶、単斜晶と相転移する際に伴う体積変化が大きく、焼結時の高温から室温まで冷却する間に大きな体積変化が生じるので焼結体にクラックが入ってしまう。それゆえ単体で焼結原料に使用するには適さない。そこで一般に、Y23、MgO、CaO、ReOなどの安定化材を添加した、高温安定相の立方晶や中間相の正方晶の安定領域が低温側に広がり、室温でも安定した状態で立方晶や正方晶が存在するような部分安定化ジルコニアを使用する。
【0011】
例えば、安定化材Y23では、3mol%添加で部分安定化ジルコニアの曲げ強度が最大となる事や3mol%以上でKICが減少するなど、前記安定化材の添加量にはそれぞれ固有の適量があることが分かっているが、本発明では部分安定化ジルコニアの最も性能を発揮する適量と異なる量の安定化材添加の原料粉を使用した場合であっても、ジルコニアが他の原料粉であるcBN、TiC又はTiCNと超高圧で焼結することにより、従来のY23等の安定化材よりも、より十分に安定化され、立方晶と正方晶のどちらか一種か、もしくは混在の状態で存在させることができることが分かった。
ここで、部分安定化ジルコニアの主な性質を挙げると、室温における曲げ強さが750MPa〜1800MPaであり、1000℃においては同300MPa、破壊靭性KICは8〜12MPa・m-1/2である。
靭性を高めることのできるZrO2のメカニズムは、室温付近で立方晶や正方晶が混在する組織になっている部分安定化ジルコニアが大きな応力を受けると、正方晶粒子が体積膨張しながら単斜晶に相転移する。この体積膨張が大きな応力場で生じたクラックを押しつぶし、結果としてクラックの進展を防止する。よって、耐欠損性を高めることができる。
【0012】
本発明による焼結体のX線回折測定を行うと、焼結体中のジルコニアの結晶構造は立方晶と正方晶だけでなく単斜晶も微小であるが存在することが分かる。これは、上記で説明したとおり、焼結後の冷却時に全てのジルコニア粒子が立方晶、正方晶混在の状態で十分に部分安定化されずに、一部の粒子で冷却により単斜晶に相転移した為と考える。
しかし、単斜晶に相転移する際には約4.6%の体積膨張を伴う為、単斜晶の存在する付近にマイクロクラックが発生している可能性が高い。
【0013】
よって、切削工具として性能を維持する為には、単斜晶の存在量を限定する必要があり、X解回折測定の結果より、単斜晶のピークが存在しないか、もしくは存在してもピーク強度比
【数1】

が0.4以下の範囲であることが望ましいと考える。
【0014】
すなわち、本発明に係るcBN焼結体及びcBN焼結体工具は、以下の構成を採用する。
i)少なくとも切削箇所がcBN成分と結合材とを原料として形成されている切削工具用cBN焼結体であって、前記原料中においてcBN成分が50体積%以上90体積%以下であり、前記結合材が前記原料中においてTiCを1体積%以上20体積%以下と、Al23及びZrO2を9体積%以上49体積%以下含有しており、かつZrO2/Al23の重量比が0.1以上4以下となる組成であることを特徴とするcBN焼結体である。
ii)少なくとも切削箇所がcBN成分と結合材とを原料として形成されている切削工具用cBN焼結体であって、前記原料中においてcBN成分が40体積%以上85体積%以下であり、前記結合材が前記原料中においてTiCNを0.5体積%以上15体積%以下と、Al23及びZrO2を9体積%以上50体積%以下含有しており、かつZrO2/Al23の重量比が0.1以上4以下となる組成であることを特徴とするcBN焼結体である。
iii)前記結合材として含有されるAl23及びZrO2の平均粒径が5.0μm以下であり、ZrO2における結晶構造が少なくとも立方晶又は正方晶のどちらか1種か、もしくは両方混在した状態で形成されていることを特徴とする上記i)又はii)に記載のcBN焼結体である。
iv)前記cBN焼結体が、X線回折測定により単斜晶のピークが存在しないか、もしくは存在してもピーク強度比
【数2】

が0.4以下となる状態で単斜晶が存在することを特徴とする上記i)〜iii)に記載されたcBN焼結体である。
【0015】
v)前記原料が、圧力4GPa以上7GPa以下、温度1200℃以上1950℃以下で焼結されたことを特徴とする上記i)〜iv)のいずれかに記載されたcBN焼結体である。
vi)前記結合材が残部として、周期律表第4a、5a、6a属の遷移金属の炭化物又は窒化物から選ばれる1種又は2種以上を原料粉末として含有することを特徴とする上記i)〜v)のいずれかに記載されたcBN焼結体である。
vii)上記i)〜vi)のいずれかに記載されたcBN焼結体が、支持体と一体焼結若しくはロー材を介して接合されており、前記支持体が超硬合金、サーメット、セラミックス、若しくは鉄系材料からなることを特徴とするcBN焼結体切削工具である。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係るcBN焼結体は、耐酸化性、化学的安定性の性質を持つAl23の添加により耐摩耗性に優れ、さらにZrO2を添加することにより、靭性が向上し、耐欠損性に優れた材質を得ることができる。特に難削な遠心鋳造鋳鉄加工において耐摩耗性、耐欠損性の両方を向上させた工具が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】No.2のX線回折測定結果のピークパターンを示す図である。
【図2】No.17のX線回折測定結果のピークパターンを示す図である。
【図3】No.21のX線回折測定結果のピークパターンを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、実施例に基いて本発明の実施の形態の一例を説明する。以下の実施例は例示であり、本発明を限定するものではない。
【0019】
[実施例1]
表1に示す組成の原料を混合し、原料粉末を作製した。試料No.1〜21(6、5、13を除く。)において、CBN、TiC、ZrO2及びAl23以外にバインダー残部としてTiN、Al等を混合している。これを圧力5.5G、温度1350℃で焼結した。比較の為、Al23とZrO2を合わせて混合していない材質として、Al23のみを含むNo.15と、ZrO2のみを含むNo.18を作製した。
また、Al23の原料粉について、試料No.19、20以外の試料には平均粒径が0.5μmのAl23粉末を使用し、試料No.19については平均粒径が5μmのAl23粉末を使用し、試料No.20については平均粒径が6μmのAl23粉末を使用している。
【0020】
表1に示す組成の焼結体をISO規格SNGN090312の切削加工用チップに加工し、円筒型の遠心鋳造鋳鉄ライナーの内径φ85mm部分を使用し、内径連続切削試験を行った。
切削条件は、切削速度900m/min、切り込み0.3mm、送り量0.2mm/rev、湿式切削[クーラント:エマルジョン(製造元:日本フルードシステム、商品名:システムカット96)20倍希釈]である。10kmと12km切削後、刃先観察を行った。10km切削後のチッピングの有無及び逃げ面摩耗量VBと、12km切削後の摩耗形態及び欠損状況を観察し、表1にその結果を合わせて示す。
【0021】
表1に示す結果から、本発明による工具は、切れ刃の摩耗は正常に進行し、逃げ面摩耗量VBは250μm以下に抑えることができる。No.15、18共に、VBが250μmを越えた後、欠損に至る。切削後、SEMにて刃先摩耗部分を観察すると、ZrO2を添加していないNo.15では擦過痕のような筋状の摩耗の集積による摩耗となっており、一方、No.15以外のZrO2を添加した材質では、摩耗部分の擦過痕のような筋状の摩耗が小さくなり、平滑な摩耗(正常摩耗)となっていた。この筋状の摩耗はZrO2の添加量に依存しており、No.15、16、17、18の順に平滑になっており、No.18が最も摩耗部分が平滑であった。
【0022】
上記の試験結果より、遠心鋳造鋳鉄の切削では熱による摩耗と機械的衝撃による摩耗では機械的な摩耗が支配的となっており、機械的衝撃により、微小なチッピングが筋状の擦過痕として現れ、摩耗が進行すると考えられる。
よって、ZrO2を添加した材質では、機械的衝撃によりマイクロクラックが発生したとしても、そのマイクロクラックの広がろうとする応力により、立方晶と正方晶のZrO2が単斜晶へ体積膨張を伴いながら、マイクロクラックを押しつぶすように、相転移を起こすので、マイクロクラックの進展が抑制され、チッピングしなかったと推測する。
また、ZrO2のみを添加したNo.18では、擦過痕の摩耗は生じなかったが、熱的な摩耗が大きくVBが250μm以上に進行した。これは、ZrO2は高温用炉材やるつぼなどの用途で断熱材セラミック材料として使用されるように、熱伝導率が低い材料であり、切削時に刃先に熱が集中し、その熱が発散されにくい為刃先温度が上昇、焼結体のcBN成分が被削材の鉄成分と反応する。その結果、ZrO2の添加の多いものでは熱的摩耗が大きくなると推測される。
【0023】
No.19、20の結果より、原料粉に5μmを超える粒径のAl23を使用した場合は、組成がNo.1と同一の為、摩耗量はほぼ同等であるが、チッピングが発生した。これは、切れ刃に存在する粗粒のAl23が切削の際の負荷で脱落する事により起きたと推測する。
No.3、4、5、6の結果よりcBN含有率が50体積%未満では強度が足りず、欠損が生じ(No.3)、また、90体積%を越えると、切削熱によりcBNと被削材との熱的反応が進み、摩耗が大きい為に切削抵抗が増加、欠損に至る(No.6)。
【0024】
No.7、8、9、10の結果より、TiCの含有量は1体積%未満では、cBNより鉄との親和性の低いTiCの特性が活かされず、熱的摩耗が進行する為、250μm以上に摩耗が進行し、切削抵抗の増加により欠損に至った(No.7)。また、TiCの含有量が20体積%超の焼結体では、TiCの脆さにより刃先にチッピングが発生する結果となった(No.10)。
No.11、12、13、14の結果よりAl23とZrO2の含有率合計が9体積%未満では、ZrO2の添加量が減る為筋状の擦過痕状態の摩耗形態となり250μm以上の摩耗量に進展した(No.11)。50体積%を超えるとcBNの含有量が減る為、強度不足になり欠損が生じる結果となった(No.14)。
以上の試験結果より、本発明による焼結体の切削工具は、従来の材質であるNo.15と比較して耐欠損性の向上、No.18と比較して耐摩耗性の向上が確認でき、難削な遠心鋳造鋳鉄加工における長寿命の工具となる。
【0025】
表1に示す組成の焼結体をX線回折装置(X線管球にCuを使用)で測定したところ、No.15以外の焼結体では共通して、cBN、TiC、TiCN、α−Al23、c−ZrO2(立方晶)、t−ZrO2(正方晶)のピークが確認できた。No.2、No.17とNo.21の組成である焼結体のX線回折測定結果のピークパターンをそれぞれ図1、図2及び図3に、焼結体No.2、No.17とNo.21のX線回折測定結果として示す。
さらに単斜晶のピーク強度について調査すると、図1に示す如くNo.2のX線回折ピークにはm−ZrO2(単斜晶)のピークが存在しない。No.17ではピーク強度比
【数3】

となっている。No.21の試料には表1に記載のように単斜晶のZrO2が5wt%混合しているZrO2粉末を原料粉に使用している為、図2に示す如くNo.21ではピーク強度比
【数4】

となっており、単斜晶のZrO2が焼結中に存在している事が分かる。また、No.2、No.17とNo.21のそれぞれの焼結体を上記と同様にチップに加工し、円筒型の遠心鋳造鋳鉄ライナーの内径連続切削試験を行った。
その結果、10km切削後の刃先損傷はNo.2、No.17の組成のものは表1に示すように、逃げ面摩耗量がそれぞれVB=175μm、198μmで正常摩耗であったのに対し、No.21の組成のものは10km切削時にVB=187μm、微小チッピングが発生した。
このことより、単斜晶であるZrO2の存在量が多くなると、応力変態による体積膨張が小さく、マイクロクラックの進展を抑制することができず、チッピングの発生に至ったと考えられる。
【0026】
【表1】

【0027】
[実施例2]
表2に示す組成の原料を混合し、原料粉末を作製した。試料No.1〜9において、CBN、TiC、ZrO2及びAl23以外にバインダー残部としてTiN、Al等を混合している。これをそれぞれ表2に示す焼結条件で焼結した。得られた焼結体をISO規格SNGN090312の切削加工用チップに加工し、外径Φ95mmの円筒型の遠心鋳造鋳鉄ライナーの黒皮厚さ約0.5mmずつ削りだしたものを被削材とし、外径連続切削試験を行った。
切削条件は、切削速度900m/min、切り込み1.0mm、送り量0.5mm/rev、湿式切削[クーラント:エマルジョン(製造元:日本フルードシステム、商品名:システムカット96)20倍希釈]である。10kmと12km切削後、刃先観察を行った。10km切削後のチッピングの有無と切削後の逃げ面摩耗量VBと、12km切削後の摩耗形態及び欠損状況を観察し、表2にその結果を合わせて示す。
【0028】
表2に示した結果より、焼結圧力が4GPa未満の条件で作製したNo.2では、焼結体の組織が十分に緻密化しなかったと考えられ、その為、焼結体の強度が低下し、12km切削後には欠損している状態になった。また、焼結圧力が7GPaを超えた条件で作製したNo.5では高圧力によりZrO2やTiCが異常粒成長し、その為焼結体の強度が低下し欠損に至ったと考えられる。4〜7GPaの焼結圧力条件で得られた焼結体では12km切削後の損傷形態も正常摩耗であった。
【0029】
焼結温度が1200℃未満、及び1950℃を超えた焼結条件で作製したNo.6、9では、No.7、8と比較して逃げ面摩耗量が大きく、更に、チッピングが発生した。これは、焼結温度が1200℃以下であるNo.6では、焼結体の組織が緻密化せず、cBN粒子間の強度が低くなり、機械的衝撃に弱くなる為と考える。
また、安定化されたジルコニアは1400℃以上で粒成長、特に立方晶の粒成長が急速に進むことが分かっている。焼結条件1700℃以上で粒径が約30μmまで粒成長する事が分かっており、その為、1950℃を超えるNo.9では、ZrO2が巨大に粒成長した分、cBN焼結体の強度が低下し欠損に至ったと推測できる。
以上のことより、本発明による焼結体の切削工具は、焼結圧力が4GPa以上7GPa以下、焼結温度1200℃以上1950℃以下である焼結条件であれば、難削な遠心鋳造鋳鉄加工において、より長寿命の工具となる。
【0030】
【表2】

【0031】
[実施例3]
表3に示す組成の原料である、cBN,Al23、ZrO2、TiCN、Al及びTi2AlNを混合し、5.5G、1350℃で焼結した。表1は配合組成ではなく焼結体分析により測定される各化合物の体積%を示す。
表3に示す組成の焼結体をISO規格SNGN090312の切削加工用チップに加工し、筒型の遠心鋳造鋳鉄ライナーの内径Φ85mm部分を使用し、内径連続切削試験を行った。
切削条件は、切削速度900m/min、切り込み0.3mm、送り量0.2mm/rev、湿式切削[クーラント:エマルジョン(製造元:日本フルードシステム、商品名:システムカット96)20倍希釈]である。10kmと12km切削後、刃先観察を行った。10km切削後のチッピングの有無と切削後の逃げ面摩耗量VBと、12km切削後の摩耗形態及び欠損状況を観察し、表3にその結果を合わせて示す。
【0032】
表3に示した結果より、本発明に係るcBN焼結体工具は、切れ刃の摩耗が正常に進行し、逃げ面摩耗量VBを250μm以下に抑えることができた。No.2はNo.19に対して混合原料中のTiCをTiCNに置換することにより強度が向上し、欠損が抑制され正常摩耗となっている。
【0033】
No.1,2,3,4は、実施例1におけるNo.3,4,5,6の結果と同様にcBNの含有率が30体積%未満では強度が足りず、欠損が生じ、また90体積%を超えると切削熱によるcBNとの熱的は反応により、摩耗が進行し切削抵抗が増加、欠損に至った。
No.5,6,7,8の結果より、TiCNは1体積%未満では逃げ面摩耗の進行により欠損に至る。これは、TiCNがcBNとAl23とZrO2の反応を促進させるためと考えられる。一方、TiCNの含有率が15体積%以上の焼結体では、TiCNの脆さにより欠損に至った。
No.9,10,11,12は、Al23とZrO2の含有率合計が9体積%未満では、ZrO2の添加が減るため、強度が低下、チッピングが発生した。Al23とZrO2の含有率合計が50体積%以上では、cBNの含有率が減るため、強度不測となり欠損が生じるという実施例1におけるNo.11,12,13,14と同様の結果が得られた。
【0034】
表3に示す組成の焼結体をX線回折装置(X線管球にCuを使用)で測定したところ、No.17以外の焼結体は共通して、cBN、TiCN、α−Al23、c−ZrO2(立方晶)、t−ZrO2(正方晶)、TiB2、AlB2、AlNのピークが確認できた。
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
切削箇所がcBN成分と結合材とを原料として形成されている切削工具用cBN焼結体であって、
前記原料中においてcBN成分が50体積%以上90体積%以下であり、
前記結合材が前記原料中においてTiCを3体積%以上20体積%以下と、Al23及びZrO2を15体積%以上49体積%以下含有しており、かつZrO2/Al23の重量比が0.1以上4以下となる組成であることを特徴とするcBN焼結体。
【請求項2】
切削箇所がcBN成分と結合材とを原料として形成されている切削工具用cBN焼結体であって、
前記原料中においてcBN成分が40体積%以上85体積%以下であり、
前記結合材が前記原料中においてTiCNを3体積%以上15体積%以下と、Al23及びZrO2を15体積%以上50体積%以下含有しており、かつZrO2/Al23の重量比が0.1以上4以下となる組成であることを特徴とするcBN焼結体。
【請求項3】
前記結合材として含有されるAl23及びZrO2の平均粒径が5.0μm以下であり、ZrO2における結晶構造が少なくとも立方晶又は正方晶のどちらか1種か、もしくは両方混在した状態で形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載のcBN焼結体。
【請求項4】
前記cBN焼結体が、X線回折測定により単斜晶のピークが存在しないか、もしくは存在してもピーク強度比
【数1】

が0.4以下となる状態で単斜晶が存在することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載されたcBN焼結体。
【請求項5】
前記原料が、圧力4GPa以上7GPa以下、温度1200℃以上1950℃以下で焼結されたことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のcBN焼結体。
【請求項6】
前記結合材が残部として、周期律表第4a、5a、6a属の遷移金属の炭化物又は窒化物から選ばれる1種又は2種以上を原料粉末として含有することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のcBN焼結体。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載されたcBN焼結体が、支持体と一体焼結若しくはロー材を介して接合されており、前記支持体が超硬合金、サーメット、セラミックス、若しくは鉄系材料からなることを特徴とするcBN焼結体切削工具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−39668(P2013−39668A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−248459(P2012−248459)
【出願日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【分割の表示】特願2008−554036(P2008−554036)の分割
【原出願日】平成20年1月15日(2008.1.15)
【出願人】(503212652)住友電工ハードメタル株式会社 (390)
【Fターム(参考)】