説明

子癇前症の診断及び治療

本発明は、子癇前症のバイオマーカー及びこの疾患の治療に関する。詳細には、本発明は、遊離ヘモグロビン(特に遊離胎児ヘモグロビン)の上昇レベルを検出して妊娠雌性哺乳動物の子癇前症を診断する方法又は該診断を補助する方法に関する。このことにより、早期の診断及び子癇前症の状態が発見された場合には臨床的介入が容易になり可能になる。加えて、本発明は、子癇前症に関連する病的状態を後戻りさせる目的で、子癇前症を有する雌性哺乳動物を治療する方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、子癇前症(preeclampsia)のバイオマーカー及び該疾患の治療に関する。詳細には、本発明は、特定物質の上昇したレベルを検出して妊娠雌性哺乳動物の子癇前症を診断する方法又は該診断を補助する方法に関する。これは、早期の診断及び子癇前症状態が発見された場合には臨床的介入を容易にし、可能にする。加えて、本発明は、子癇前症に関連する病的状態を後戻りさせる目的で、子癇前症を有する雌性哺乳動物を治療する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
子癇前症(PE)(妊娠性蛋白尿高血圧)は、全妊婦の3〜7%が患い、母体多系障害(multisystem maternal disorder)である。世界中で年に8,500,000症例が報告され、このうち5,000例がスウェーデンで報告されている。今日、これは、妊娠間の子及び母親の最も一般的な死因である。
【0003】
PEは理論の疾患(the disease of theories)と名付けられ[Roberts,2001]、古代エジプト人が3000年も前に記載していた[Stevens,1975]。PEは依然として産科における優勢な(子及び母体の罹病及び死亡を引き起こす)合併症の1つである。臨床徴候(すなわち、高血圧及び蛋白尿)は、妊娠20週以降に現れるが、基礎となる機序は早くも着床時に開始し得る。疾患が進行するにつれ、脳内の血管痙攣及び脳浮腫が、癲癇性の痙攣−子癇−を引き起こし得る[Lipsteinら,2003]。
【0004】
PEの病因は依然として不明である。しかし、最近のデータはこの疾患が二段階で進展することを示唆している:
ステージ1。胎盤形成の間に、らせん動脈の筋肉層中への胎盤細胞、トロホブラストの欠陥侵入が示されている[Brosensら,2002;Page,1939]。増加しつつある多数の証拠により、酸化ストレス(下記参照)が胎盤中の血管機能を更に悪化させ[Roberts,1999]、このことが次に[Shennanら,2001]血液灌流障害を生じる[Hungら,2002]。結果として、血管収縮及び血液の流れに対する上昇した抵抗が次に起こる。本発明者らの多数の結果は、レドックス調節及び炎症の両方で遺伝子の関与を示す[Hanssonら,2005]。
【0005】
ステージ2。減少した胎盤の灌流は、酸化ストレスとの組合せで、胎盤内で網羅的な内皮細胞損傷を引き起こす。ステージ2の後期では、内皮炎症はまた母体脈管系も損傷し、特に肝臓がPEにおける代表的な組織学的所見である[Robertsら,1989;de Groot及びTaylor,1993;Grangerら,2001;Strevensら,2003]。ステージ1及び2の連関は、現在まで解明されていない。
【0006】
一般には、子癇前症は、女性で、最初の妊娠の間に起こり、十代及び35歳を超える女性がより罹患し易い。高血圧になる素因となる基礎疾患を有する女性もまた、この病状を発現するリスクが比較的高い女性に含まれる。子癇前症は、母体の罹患及び死亡の一番の原因である。子癇前症は、妊娠に関連した全ての母体死の12〜18%を占める(米国では1年あたりほぼ70人の母親が死亡し、世界中では推定50,000人の母親が死亡している)。子癇前症はまた、主に医原性早産に起因する、子の高い罹患及び死亡にも関連している。神経学的徴候は子癇前症で一般的であり、これには頭痛、視覚異常が含まれ、これらはより重篤な徴候(例えば痙攣、卒中及び皮質盲)に至る。胎児出産及び胎盤除去が、子癇前症の唯一の根治治療である−このことは、胎盤の病変が子癇前症の発症の中核であるという一般に受け容れられている理論へと導いている事実である。集中的な研究努力にもかかわらず、子癇前症の病因はほとんどが未解明のままである。
【0007】
上記のように、不適切な胎盤形成(これは胎盤灌流の減少を生じる)は、PE発症における初期段階であると考えられている。血管抵抗の増大に関連する灌流の減少は、ドップラー超音波で検出可能であり、妊娠初期に子宮動脈の抵抗増大(「ノッチング」)の証拠がある女性は、この所見がない女性より高いPE発症のリスクを有している。PEが進行するにつれ、母体の血管床は影響を受け、全身性の内皮炎症が見られる。胎盤灌流が乏しいと、病理学的変化のカスケードを生じるようである:酸素送達の減少、酸化ストレス、反応性酸素種の形成、内皮損傷、血管透過性の増大、及び炎症(図1を参照)。
【0008】
子癇前症の症状は、代表的には、妊娠第3三半期に現れ、通常、女性の血圧及び尿をルーチンでモニターすることによって検出される。しかし、これらのモニター法は初期段階でのこの症候群の診断に関しては有効でない。早期診断は、被検体(subject)又は発育中の胎児に対するリスクを減少させ得、高リスク患者はより具体的にモニターし得る。更に、(今日、依然として存在しないのではあるが)効果的な治療は、早期検出と組み合わせることが理想であろう。
【0009】
幾つかの診断方法が先行技術に記載されているが、それらのうち大規模に臨床で成功裡に使用されているものは未だない。例として以下のものが挙げられる:米国特許第5,079,171号及び同第5,108,898号。これらは、子癇前症、妊娠誘導高血圧及び子癇が、妊娠女性の血液、血漿又は血清サンプル中の内皮細胞マーカーたる細胞フィブロネクチンの存在を、例えばサンドイッチ又は競合イムノアッセイを用いることにより同定することによって診断可能であることを開示している。細胞フィブロネクチンは、疾患プロセスの間に破裂するか乱される内皮細胞に由来する。米国特許第5,238,819号は、血液中の分裂促進因子を測定するアッセイを使用する子癇前症の診断を開示している。分裂促進因子は、約160kDaのタンパク質性化合物であり、フィブロブラストの有糸分裂を刺激することができる。その存在は、子癇前症被検体の血清又は血漿により活性化された細胞による放射性標識チミジン取り込みを検出することによって検出される。このマーカーは、母体の血管床に対する損傷が既に生じた後に、よって疾患進行の後期に出現する。
【0010】
国際公開第WO 05/093413号(Yale University及びBrigham and Woman's Hospital)は、妊娠女性における重篤な子癇前症の診断方法を開示しており、この方法は、脳脊髄液サンプル中の遊離ヘモグロビンレベルを測定することを含んでなる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
現在、子癇前症の療法は知られていない。子癇前症は、重篤度が軽症から生死にかかわるものまで変化することがある。軽症の子癇前症は、床上安静及び頻繁なモニタリングにより軽症のままであることがある。中程度から重症の症例に関しては、入院が必要であり、血圧薬物療法及び痙攣を予防するための抗痙攣薬投薬療法が処方される。病状が母体又は赤ん坊にとって生死にかかわるものになると、唯一の療法は、妊娠を終了させることである(これは、しばしば結果として赤ん坊の早期産となる)。
【0012】
明らかに、子癇前症の治療法がないことは、子癇前症がより重篤な形態に進行するまでこの疾患を診断することが長年できていないことと併せて、子癇前症を診断及び治療するための新規なアプローチ(これは重要な公衆衛生上の課題である)に対する必要性を駆り立てる。
【課題を解決するための手段】
【0013】
発明の説明
したがって、i)子癇前症を発症するリスクがある妊娠被検体、ii)初期段階の子癇前症を患っている妊娠被検体、及び/又はiii)(そのように診断されているか否かに関わらず)子癇前症を患っている妊娠被検体を確実に同定することができるバイオマーカーを同定する必要性が存在する。更に、上記i)〜iii)の群のいずれかの妊娠女性のための治療レジメンを開発する必要性が存在する。
【0014】
本発明は、子癇前症を患っている妊娠女性において母体循環系に進入することが示されているバイオマーカー(すなわち、胎児ヘモグロビン)を提供する。
【0015】
本発明は、妊娠女性における上昇した遊離胎児ヘモグロビンレベルが増加した子癇前症発症リスクと関係しているという本発明者らの知見及び理解に基づく。よって、遊離胎児ヘモグロビンは、子癇前症の診断用バイオマーカーとして使用することができ、また候補の子癇前症の治療の標的候補である。
【0016】
このバイオマーカーにより、早期段階での増加した子癇前症発症リスクの検出が可能になり、よって有意義な治療の更なる希望が提供される。また、本発明による子癇前症の診断方法は、リスク群ではない妊娠女性の不必要な入院を回避することができる。更に、子癇前症の進行又は退行をモニターする方法は、胎児出産を計画することを助け、早産のリスクを減少させることを助けることができる。
【0017】
子癇前症は、簡潔に、本明細書中で前述した。女性では、妊娠12週後に既に、子宮-胎盤血流が確立する。胎盤障壁は、胎児血液循環が母体から十分に分離されるように維持する(図2参照)。胎盤の最小機能単位(すなわち、絨毛)は、障壁を越えて輸送された栄養及び酸素を胎児に提供する。しかし、PEでは、胎盤灌流の減少は、結果として、胎盤への血液の低酸素化となる。酸素の欠如及び一様でない血液灌流は、胎盤内で酸化ストレスを生じる。酸化ストレスは胎盤細胞でアポトーシスを誘導し、続いて胎盤内で炎症及び包括的な内皮細胞損傷を引き起こす(図3を参照)。胎盤障壁が損傷すると、胎児細胞は母体循環中に移行することができる。母体循環中への胎児細胞移行は、およそ10年前から知られていたが、今までに誰も遊離ヘモグロビン(すなわち、細胞外(例えば、血漿中)で見出され、しがたって細胞中で結合していないヘモグロビン)を観察しなかった。主に、遊離胎児DNAの分析が調べられた。
【0018】
本明細書の実験の章で報告される知見により支持されるように、本発明は、PEを患っている患者において、上昇した遊離胎児ヘモグロビン(又はそのサブユニット、α及び/又はγ鎖)レベルを見出した。PEを患っていない女性において、遊離胎児ヘモグロビンレベルは、ほぼ0.038μg/ml[Turpeinenら,1992]である一方、本発明者らの知見は、疾患の重篤度に依存して、ほぼ1μg/mlレベルまで20倍増加又はそれ以上の増加を示している。
【0019】
PEを患っている女性は総ヘモグロビンレベルが上昇しているという指摘があったとしても、遊離胎児ヘモグロビンが信頼性のある指標であるという報告は今までなかった。更に、総ヘモグロビンの増分よりむしろ遊離胎児ヘモグロビンレベルの増分の測定が、遥かにより安全で信頼性のある結果を提供する。この理由は、正常総ヘモグロビンレベルは胎児ヘモグロビンレベルより遥かに高いからである。正常妊娠女性における血漿中の胎児ヘモグロビンレベルが0.05μg/mlであり、PE患者では1μg/mlである場合、その増加は、(1-0.05)/0.05×100 = 2000%(又は21倍)である。相対的に、正常及びPE患者における総ヘモグロビンレベルはそれぞれ3μg/ml及び4.5μg/mlである(実施例5.1参照)。これは、(4.5-3)/3×100 = 50%(又は1.5倍)の増加に相当する。
【0020】
図1に示すように、本明細書において実施例に報告する本発明者らの結果は、胎児ヘモグロビン(Hb-F)がステージ1とステージ2との間の連結するもの(link)であることを示している。胎盤毒素はPEの指標として長年仮説であった。ステージIは、灌流変化に起因する低酸素症の結果として胎盤において起こることが知られている。次いで、胎盤の反応は母体系に影響を与えるが、特異的因子は同定されていない。実験の章に提示される結果に基づいて、本発明者らは、そのような因子が上記機序に従う胎児Hbであることを示唆する。早期診断は、PEを発症するリスクがある女性を追跡すること-「早期健康」の手助けとなり得る。進行を特異的にモニターすることが可能であれば、胎児Hbレベル及び/又は胎児Hb/総Hb比を追跡することにより、PEの臨床徴候を有する女性を外来患者としてモニターし得る。新たな治療の必要性は明らかであり、その利益は多大であろう。
【0021】
胎児ヘモグロビンレベルは、患者に子癇前症のリスクがあるか又は該患者が既に子癇前症を発症しているかの評価についてのみ使用し得るが、疾患進行の指標として、特定の身体サンプル中に存在する総ヘモグロビンレベル又は成体ヘモグロビンレベルと組み合わせて使用し得る。
【0022】
本発明によれば、驚くべきことに、妊娠女性における遊離ヘモグロビンレベル(特に胎児ヘモグロビンレベル)の上昇は、子癇前症発症リスクの増大に関連していることが見い出された。よって、胎児ヘモグロビンは、子癇前症の診断のバイオマーカーとして使用することができ、また子癇前症治療の候補標的でもある。
【0023】
この観察に基づいて、本発明は以下に関する:
i)PEを診断する方法
ii)PEの進行及び退行を評価する方法
iii)PE治療の有効性を評価する方法
iv)上記方法の1つにおいて使用するキット
v)PE治療に使用する物質及び組成物
vi)バイオマーカーとしてのヒト白血球抗原DPA1(HLA-DPA1)
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】
【発明を実施するための形態】
【0025】
定義
本明細書において、他に特に示さない限り、「a」又は「an」は「1又はそれより多い」を意味する。
本明細書で使用される用語「子癇前症」は、米国産科婦人科学会の用語委員会により確立された基準(すなわち、高血圧及び蛋白尿、顕性浮腫又は両方)に従って定義される。例えば、子癇前症は、血圧>140/90mmHg及び蛋白尿>0.3g/Lと定義することができる。
【0026】
異なる形態のヘモグロビンが存在する。成体ヘモグロビン(ヘモグロビンA)は、各々が1つの酸素分子と可逆的に結合する非ペプチドヘム基を含む2つのαポリペプチド鎖及び2つのβポリペプチド鎖(Hbα、Hbβ)からなる。ヘモグロビンA2(別の成体ヘモグロビン成分)は、2つのα鎖及び2つのδ鎖(Hbα、Hbδ)から構成される。一方、胎児ヘモグロビン(ヘモグロビンF)は、胎児におけるヘモグロビンの主要な成分である。このヘモグロビンは、2つのαポリペプチド鎖及び2つのγポリペプチド鎖(Hbα、Hbγ)を有する。
【0027】
用語「遊離ヘモグロビン」は、本明細書では、遊離ヘモグロビン一般をいい、総遊離ヘモグロビン、遊離ヘモグロビンA、遊離ヘモグロビンA2、遊離ヘモグロビンF、任意の遊離ヘモグロビンサブユニット(例えば、Hbα鎖、Hbβ鎖、Hbδ鎖又はHbγ鎖)、又はこれらの任意の組合せを含む。「遊離ヘモグロビン」は、治療の標的として適用される場合を除き、ポリペプチド(タンパク質)形態又はヌクレオチド(RNA)形態のいずれのこれらヘモグロビン体をも更に含む。用語「遊離胎児ヘモグロビン」は遊離ヘモグロビンF又はヘモグロビンFの任意のサブユニットをいい、治療の標的として適用される場合を除き、ポリペプチド(タンパク質)形態又はヌクレオチド(RNA)形態のいずれのヘモグロビンF体をも含む。
【0028】
本明細書において、用語「遊離」は、とりわけ表現「遊離ヘモグロビン」、「遊離胎児ヘモグロビン」又は「遊離ヘモグロビンサブユニット(例えば、Hbα鎖、Hbβ鎖、Hbδ鎖又はHbγ鎖)」中で使用する場合、生物学的流体中を自由に循環しているヘモグロビン、胎児ヘモグロビン又はヘモグロビンサブユニットをいう。これに対し、細胞内に存在する分子は細胞ヘモグロビンという。よって、用語「遊離」は、この意味で、主に、遊離ヘモグロビンを無傷の赤血球中に存在するヘモグロビンと区別するために使用する。
【0029】
用語「マーカー」又は「バイオマーカー」は、本明細書において、子癇前症を有さず、子癇前症を発症するリスクも増大していない女性(「正常」女性/被検体と呼ぶ)から採取した匹敵するサンプルと比較して、子癇前症を有する女性又は子癇前症を発症するリスクが増大している女性から採取したサンプル中に異なって存在する生体分子、好ましくはポリペプチド又はタンパク質をいう。
【0030】
用語「妊娠雌性哺乳動物からの生物学的サンプル」又はその等価物は、該哺乳動物自体からのサンプルを指称するとものとする;したがって、該サンプルは、例えば、胎児からも羊水からも得られない。
【0031】
本明細書を通して、あらゆる参考文献は、参照により本明細書中に具体的に取り込まれる。
【0032】
i)PEを診断する方法
本発明の第1の観点によれば、子癇前症を診断するため又は子癇前症診断を補助するための方法が提供され、この方法は以下の工程を含んでなる:(a)妊娠雌性哺乳動物から生物学的サンプルを得る工程;(b)前記生物学的サンプル中の遊離胎児ヘモグロビンのレベルを測定するか又は遊離胎児ヘモグロビンのレベル及び総遊離ヘモグロビンのレベルを測定する工程;及び(c)サンプル中の遊離胎児ヘモグロビンのレベルを参照値と比較し、又はサンプル中の遊離胎児ヘモグロビンのレベルと総遊離ヘモグロビンのレベルとの間の比を参照値と比較して、前記妊娠雌性体が子癇前症を有するか否か又は子癇前症を発症するリスクが増大しているか否かを決定する工程。
【0033】
前記妊娠雌性哺乳動物から生物学的サンプルを得る工程は、当該分野において周知である標準的方法で得た生物学的サンプルを提供するプロセスを含む。
【0034】
生物学的サンプルは、例えば、血液、血清、血漿、尿、膣分泌物、涙、組織、血清、便、痰、羊水及び脳脊髄液であり得る。具体的実施形態では、生物学的サンプルは、血液、尿、羊水又は胎盤組織である。
或る実施形態では、生物学的サンプルは、血液、血漿、尿又は胎盤組織である。
【0035】
採集した生物学的サンプルのサンプルサイズは、個々のニーズ及び感度によって変化する。採集量は、使用する試験のタイプ、採集部位及び母体又は胎児への有害効果の可能性により幅広く変化し得る。具体的実施形態では、血液サンプルのサイズは、約5〜約75mlの範囲、好ましくは約20〜約40mlの範囲である。
【0036】
本発明の方法は、「胎盤」動物(すなわち、未だ産まれていない胎児を胎盤を通じて養育する動物)である任意の動物に適用可能であると考えられる。このような動物としては、とりわけ、ヒト、他の霊長類、哺乳動物の食用動物が挙げられる。診断に好適な動物は、ヒト又は商業的に価値のある動物若しくは家畜である。
好適な実施形態では、哺乳動物はヒトである。
【0037】
或る実施形態では、サンプルは妊娠女性から採集される。妊娠女性は、彼女の個人的又は家族の病歴に基づいて子癇前症のリスクが高いと決定された個人であり得る。その他(とりわけ患者)には、子癇前症を有すると判っている妊娠女性、及び受けている治療又は処置の有効性を決定する試験が用いられている妊娠女性が含まれる。また、患者は、ルーチン検査の一部として試験を受けている健常な妊娠女性を含み得る。
【0038】
所望であれば、サンプルは、遊離胎児ヘモグロビンの検出性が増強されるように調製され得る。代表的には、サンプル調製には、サンプルの分画及び遊離ヘモグロビンを含有すると判明した画分の採集が含まれる。予備分画の方法には、例えば、遠心分離、RNA/DNA抽出、サイズ排除クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、ゲル電気泳動及び液体クロマトグラフィーが含まれる
【0039】
遊離胎児ヘモグロビンのレベルを測定する工程は、例えば免疫学的アッセイ(例えばELISA又は他の固相ベースのイムノアッセイ、例えばSPRIA又は増幅ELISA(いわゆるIMRAMP))、タンパク質チップアッセイ、定量リアルタイムPCR増幅、表面増強レーザ脱離/イオン化(SELDI)、高速液体クロマトグラフィー、質量分析、インサイチュハイブリダイゼーション、免疫組織化学、化学発光、比濁分析/ターボメトリー(turbometry)、側方流動又は純粋又は偏光蛍光又は電気泳動により達成することができる。しかし、この技法リストが完全ではなく、これら技法のみが遊離胎児ヘモグロビンのレベルを測定するために本発明において使用し得る適切な方法ではないことは、当業者に明白である。
【0040】
本発明の方法において検出及び/又は測定する物質としては、総ヘモグロビン、ヘモグロビンA、ヘモグロビンA2、ヘモグロビンF、ヘモグロビン鎖(Hbα、Hbβ、Hbδ及びHbγ)のいずれか、又はこれらの任意の組合せが挙げられる。本発明の1つの具体的実施形態では、ヘモグロビンγ鎖(Hbγ)が本発明の方法において検出及び/又は測定される。明らかに、ヘモグロビンF及びそのサブユニットが最も重要である。なぜならば、本知見が、遊離胎児ヘモグロビンレベルの増大及びPE発症に対するその影響に基づいているからである。本明細書中で検討するように、γ鎖は胎児ヘモグロビンの指標である一方、例えばβ鎖及びδ鎖は成体ヘモグロビンの指標である。本明細書中の開示に基づけば、当業者はどのヘモグロビン鎖を測定すべきであるかを理解する。
【0041】
本発明によれば、免疫学的アッセイ(イムノアッセイ)を使用して、遊離ヘモグロビンレベルを測定することができる。イムノアッセイは、抗原(例えばヘモグロビン)に特異的に結合する抗体を使用するアッセイである。イムノアッセイは、標的の単離及び/又は抗原の定量のために特定抗体の特異的結合特性を使用することによって特徴付けられる。よって、示されたイムノアッセイ条件下で、特異抗体は、特定タンパク質にバックグランドの少なくとも2倍結合し、サンプル中に存在する他のタンパク質に有意な量で実質的に結合しない。精製マーカー又はそれらの核酸配列を使用して、マーカー(例えばヘモグロビン)に特異的に結合する抗体を、当該分野で公知の任意の適切な方法で作製することができる[例えばColigan,1991参照]。
【0042】
第1の観点の或る実施形態では、例えば免疫学的アッセイを使用して、遊離胎児ヘモグロビンレベルを測定する。詳細には、免疫学的アッセイはELISAである。しかし、本明細書中の実施例に示されるように、ウェスタンブロッティングもまた用い得る。
【0043】
第1の観点の或る実施形態では、遊離胎児ヘモグロビンレベルは、遊離胎児ヘモグロビンRNAを測定することにより決定する。詳細には、遊離胎児ヘモグロビンRNAは、リアルタイムPCRを使用して測定する。総ヘモグロビンレベルも決定する場合には、このレベルもまた、ヘモグロビンα鎖RNAを例えばリアルタイムPCRにより測定することによって決定し得る。
【0044】
一般に、被検体から得られるサンプルを、マーカーに特異的に結合する抗体と接触させることができる。任意に、抗体をサンプルと接触させる前に、抗体を固相支持体に固定して、洗浄及びその後の複合体の単離を容易にすることができる。固相支持体の例として、例えばマイクロタイタープレート、スティック、ビーズ又はマイクロビーズの形態のガラス又はプラスチックが挙げられる。
【0045】
サンプルを抗体とインキュベートした後、混合物を洗浄し、形成した抗体-マーカー複合体を検出することができる。これは、洗浄した混合物を検出試薬とインキュベートすることにより達成することができる。この検出試薬は、例えば、検出標識で標識された第2抗体であり得る。例示の検出標識として、磁性ビーズ、蛍光染料、放射性標識、酵素(例えば西洋ワサビペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ及びELISAで一般に使用される他の酵素)及び熱量標識(例えばコロイド金)又は着色ガラス若しくはプラスチックビーズが挙げられる。
【0046】
或いは、サンプル中のマーカーは、(例えば、第2の標識抗体を使用して、結合したマーカー特異的抗体を検出する)間接アッセイを使用して、及び/又は(例えばマーカーの異なるエピトープに結合するモノクローナル抗体を同時に混合物とインキュベートする)競合又は阻害アッセイで検出することができる。
【0047】
抗体-マーカー複合体の量又は存在を測定する方法としては、例えば、蛍光、発光、化学発光、吸光度、反射率、透過率、屈折率(例えば、表面プラズモン共鳴、偏光解析法、共振ミラー法、ゲーティングカプラ導波法(gating coupler waveguide method)又は干渉分光法)又は放射活性の検出が挙げられる。光学的方法としては、顕微鏡観察(共焦点及び非共焦点の両方)、画像法及び非画像法が挙げられる。電気化学的方法としては、ボルタンメトリー法及びアンペロメトリー法が挙げられる。高周波法としては多極共鳴分光法が挙げられる。
【0048】
有用なアッセイは、当該分野において周知であり、例えば、酵素イムノアッセイ(EIA)(例えば、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA))、ラジオイムノアッセイ(例えばRIA及びSPRIA);ウェスタンブロットアッセイ;又はスロットブロットアッセイを挙げることができる。
具体的実施形態において、ELISAは、遊離ヘモグロビンレベルを測定する好適な方法である。
【0049】
本発明によれば、遊離胎児ヘモグロビンのレベルを測定する工程は、サンプル中のヘモグロビンポリペプチドをコードする遊離RNAの検出及び測定によって、例えば、血漿中のヘモグロビンγ鎖(Hbγ)又はそのフラグメントをコードするRNA配列の検出により、達成することもできる。
具体的実施形態によれば、遊離ヘモグロビンRNAは、リアルタイムPCRを使用して定量する。
【0050】
サンプル中の遊離ヘモグロビンのレベルを参照値と比較するか、又はサンプル中の遊離ヘモグロビンサブユニットのレベルと総遊離ヘモグロビンのレベルとの間の比を参照値と比較する工程において、本発明に関する用語「参照値」は、実施形態に応じて、コントロール群からのサンプル中の、遊離ヘモグロビン(すなわち、工程(b)で測定される同種類の遊離ヘモグロビン)の決定されたベースラインレベル若しくは平均レベル又は遊離ヘモグロビンサブユニットレベルと総遊離ヘモグロビンレベルとの間の比をいう。好ましくは、コントロール群は、子癇前症と診断されていない妊娠雌性哺乳動物を含んでなる。
【0051】
コントロール群を使用する場合、遊離胎児ヘモグロビンの参照値の決定は、当該分野において周知の標準的な分析方法を使用して行う。その値は、当然のことながら、例えば、使用するアッセイのタイプ、測定する遊離ヘモグロビンの形態、生物学的サンプルの種類及び被検体の群に依存して変化する。例えば、子癇前症と診断されていない妊娠女性の群における、ELISAで測定した正常な平均血中総遊離ヘモグロビンレベルは、通常、2.5〜3.5μg/mlの範囲であるが、当然のことながら、年齢、体重、初期妊婦の数などに依存して変わることがある。
【0052】
参照値が、コントロール群からのサンプル中の遊離胎児ヘモグロビンレベルであるか又は遊離胎児ヘモグロビンレベルと総遊離ヘモグロビンレベルとの間の比である場合、該参照値に比べてより高いサンプル中の遊離胎児ヘモグロビンレベル又は前記比の値は、その妊娠女性が子癇前症を有しているか又は子癇前症を発症するリスクが増大していることを示す。
【0053】
第1の観点の或る実施形態において、参照値は、コントロール群からのサンプル中の遊離胎児ヘモグロビンレベルであるか又は遊離胎児ヘモグロビンレベルと総遊離ヘモグロビンレベルとの間の比であり、ここで、該参照値に比べてより高いサンプル中の遊離胎児ヘモグロビンレベル又は高い前記比の値は、その妊娠女性が子癇前症を有しているか又は子癇前症を発症するリスクが増大していることを示す。予備的結果−遊離胎児ヘモグロビンの決定にウェスタンブロット法を用いた結果−は、約5μg/ml又はそれより多い血漿レベルを有するか或いは1μg/ml又はそれより多い尿レベルを有する女性がPEに罹り易いか又はPEを発症し易いことを示す。しかし、これら値は、例えばELISAのようなより高感度の方法を使用してより十分に特定することが期待される。文献から、約0.3〜76μg/l、すなわち0.0003〜0.076μg/ml(平均値0.038μg/ml)の正常血漿胎児ヘモグロビンレベルが報告されている(Turpeinenら,1992参照)。したがって、顕著な胎児ヘモグロビンレベルはPEを発症しているか既にPEに罹患している女性に見られる。したがって、正常レベルより5〜10倍の又はそれより高い(すなわち、0.3μg/ml又はそれより多い)血漿胎児ヘモグロビンレベルを有する女性はPEを発症するリスクがあると考えられる。しかし、この値もまた、例えばELISAのようなより高感度の方法を使用してより十分に特定することが期待される。
【0054】
具体的実施形態では、血漿胎児ヘモグロビンレベルが、約20倍であるか若しくはそれより多い、約50倍であるか若しくはそれより多い、約75倍であるか若しくはそれより多い又は約100倍であるか若しくはそれより多いと、その女性はPEを発症するリスクがあるか又はステージ1若しくは2のいずれかのPEに罹患していると考えられる。別の観点で、上記正常範囲の適用を前提とすると、血漿遊離胎児ヘモグロビンレベルが、例えば約0.75μg/ml若しくはそれより多い、約1μg/ml若しくはそれより多い、約1.25μg/ml若しくはそれより多い、約1.5μg/ml若しくはそれより多い、約1.75μg/ml若しくはそれより多い、約2μg/ml若しくはそれより多い、約2.5μg/ml若しくはそれより多い、約3μg/ml若しくはそれより多い、約3.5μg/ml若しくはそれより多い、約4μg/ml若しくはそれより多い、約4.5μg/ml若しくはそれより多い又は約5μg/mlのような、約0.5μg/mlであるか又はそれより多いとき、その女性はPEのリスクがあるか又はPEに罹患している。胎児ヘモグロビンレベルが低ければ低いほど、疾患は現ステージでは重篤度が低いと考えられる。次いで、同じ女性の胎児ヘモグロビンレベルの頻繁な測定により、疾患の進行(又は退行)を追跡することができる。
【0055】
本明細書の実施例の結果は、上記の考察を支持する。よって、ウェスタンブロッティング法を使用することにより、群II(すなわち既にPEに罹患している群)の女性の約20%が、5μg/ml又はそれより多い血漿レベルを有していた。尿レベルに関しては、PEを患っている女性の約20%が、1μg/ml又はそれより多い胎児Hbの尿レベルを有していた(実施例5.2を参照)。したがって、尿レベルに関しては、レベルが血漿レベルより少し低いようであり、したがって尿において、血漿に関して上記した全てのレベルが適用されるが、低い方のレベルは、約0.06μg/ml若しくはそれより多い、約0.1μg/ml若しくはそれより多い、約0.2μg/ml若しくはそれより多い、0.4μg/ml若しくはそれより多いなどに引き下げられる。
【0056】
PEのリスクがあるか又は既にPEの兆候を有しているかを判定するために正確な血漿又は尿胎児ヘモグロビンレベルを調べる別の方法は、血漿又は尿レベル(又は、実際には、他の任意の適切な体液中のレベル)を決定するときに行う試験について標準偏差を調べることである。ここで、関連パラメータは、正常レベル(例えば、血漿又は尿などにおける)からの、例えば標準偏差の10倍若しくはそれより大きい、25倍若しくはそれより大きい、50倍若しくはそれより大きい又は100倍若しくはそれより大きいというような、標準偏差の5倍又はそれより大きい増加であると考えられる。
【0057】
遊離胎児Hb(Hb F)と遊離総Hb(総Hb)との間の比(R)の測定に関して、正常女性(すなわち、PEに罹患していない女性)の比は、当該2つのパラメータをTurpeinenらにより記載されたような時間分解免疫蛍光アッセイ及び下記(実施例5)に記載されたようなELISAにより測定すると、約0.038μg/ml/3μg/ml = 0.012である。したがって、0.12又はそれより大きい比Rは、その女性にPEのリスクがあるか又はその女性が既に或るステージのPEを発症していることを示すと考えられる。或る実施形態では、Rが、例えば0.2若しくはそれより高い、0.3若しくはそれより高い、0.4若しくはそれより高い、0.5若しくはそれより高い又は0.6若しくはそれより高いというような、0.15又はそれより高いとき、PEリスク又は或るステージの疾患が示される。理論的には、遊離総Hbの全て(100%)が胎児Hbであるとき、R=1である。よって、これが上限である。
【0058】
本発明はまた、本明細書に記載の方法を他の診断方法と組み合わせて使用することを企図する。本発明の診断方法と組み合わせて使用することができる診断方法としては、当該分野の医師に公知である子癇前症を診断するか又は子癇前症の診断を補助する現行の方法が挙げられる。そのような方法の例として、血清中の尿酸塩レベル又はシスタチンCレベルの測定を挙げることができる。生物学的サンプルを、先ず、本明細書に記載の方法により分析し、次いでその観察を裏付けるために生物学的サンプルを他の方法により試験してもよい。よって、本発明の診断方法の正確性は、他の診断方法との組合せにより改善することができる。
【0059】
ii)PEの進行/退行の評価
本発明の更なる実施形態では、遊離胎児ヘモグロビン(例えば、遊離胎児ヘモグロビンサブユニット)は、患者の子癇前症の状態(例えば重症子癇前症)を決定するため又は予後(prognosis)(すなわち該疾患の転帰(outcome)の予測)のために用いることができる。例えば、遊離ヘモグロビンの濃度は、子癇前症の重篤度(例えば、軽症又は重症の子癇前症)と相関する。神経学的発現(例えば、痙攣又は昏睡(子癇))、卒中、高血圧性脳症、頭痛、及び視覚異常(視野暗点、複視、黒内障、同側性半盲)は重症子癇前症に一般的であることが知られている[Douglas and Redman,1994]。
【0060】
よって本発明の第2の観点によれば、子癇前症の進行又は退行をモニターする方法が提供され、該方法は:(a)妊娠雌性哺乳動物から単離した第1の生物学的サンプル中の遊離胎児ヘモグロビンのレベルを測定するか又は遊離胎児ヘモグロビンのレベル及び総遊離ヘモグロビンのレベルを測定し;(b)前記妊娠雌性哺乳動物からその後に単離した第2の生物学的サンプル中の遊離胎児ヘモグロビンのレベルを測定するか又は遊離胎児ヘモグロビンのレベル及び総遊離ヘモグロビンのレベルを測定し;そして(c)工程(a)及び(b)において測定した値を比較することを含んでなり、ここで、第1のサンプル中の遊離胎児ヘモグロビンレベルに対する第2のサンプル中の遊離胎児ヘモグロビンレベルの増加又は第1のサンプル中の遊離胎児ヘモグロビンのレベルと総遊離ヘモグロビンのレベルとの間の比に対する第2のサンプル中の遊離胎児ヘモグロビンのレベルと総遊離ヘモグロビンのレベルとの間の比の増加は、子癇前症の進行を示し;第1のサンプル中の遊離胎児ヘモグロビンレベルに対する第2のサンプル中の遊離胎児ヘモグロビンレベルの減少又は第1のサンプル中の遊離胎児ヘモグロビンのレベルと総遊離ヘモグロビンのレベルとの間の比に対する第2のサンプル中の遊離胎児ヘモグロビンのレベルと総遊離ヘモグロビンのレベルとの間の比の減少は子癇前症の退行を示す。
【0061】
本発明者らは、タンザニアの主要都市であるDar es SalaamのMuhimbili Hospitalで研究の現場研究の部分を行った(実施例5参照)。Muhimbili Hospitalは大部分が地域病院からの患者を受け容れる第3レベルのレフェラルセンターである。Muhimbili University of Health and Allied Sciences(MUHAS)は、健康科学を指導する高等教育を提供するタンザニアで唯一の公立大学である。タンザニアにおいてPE及び子癇を併発する妊婦の数が多いことは、本発明者らの研究に適切な設定であった。Muhimbili Hospitalでは、PEが産科医院(antenatal clinic)に通院する女性の16%に見出された。病院ベースの子癇の発症率は、1999〜2000年の間の研究に基づいて、200/10,000出産例であった。これは、欧州における発症率5/10,000妊婦と比較することができる。重症PE又は子癇を有する10人の患者及び10人の適合コントロールを本研究に含ませた(下記の表を参照)。
【0062】
【表1】

【0063】
PE=子癇前症
群間の差を統計学的に評価するために片側ANOVAを事後(post-hoc)Bonferroni検定と共に使用した。p値<0.05を統計学的に有意とみなした。
*** 本検定によりPEとコントロールとの間に有意差(p<0.001)が示された。
a PE群で出産後24時間以内に母親が死亡した1症例。
b 蛋白尿の値は方法の限界のために不正確である。測定可能な最高値は3g/lであった。
【0064】
Muhimbili Hospitalの産婦人科で、2007年9月〜10月の6週間の間に、患者を選択した。子癇前症群は子癇集中治療病棟から選択した。集中治療病棟には、1日当たり平均2人のPE患者が入院する。試験対象患者基準は、重篤なPE(2つの場合について弛緩期血圧≧110mmHg)又は子癇のいずれかであった。妊娠前に記録上慢性高血圧を有していた患者は全て本研究から排除した。スワヒリ語に翻訳した問診表を用いて患者を面接した。更なる情報を得るために、参加する患者の各々についてカルテを調べた。本研究に含まれる女性は、入院の最初の24時間に血圧の持続的な上昇及び蛋白尿≧1g/lを有していた。年齢、経産回数、出産前来診の回数、出産の態様、入院から出産までの期間、母体及び胎児の転帰を記録した。
【0065】
出産前に収集した尿サンプルは、PE群とコントロール群との間で総ヘモグロビンレベルに統計学的有意差を示した(図21)。統計計算は、ノンパラメトリックMann-Whitney U-検定により行い、0.0093のp値を示した。子癇前症群の中間値は31.0μg/mlであり、これに対してコントロール群では2.5μg/mlであった。コントロール群の高い値は、マラリアの高い発生率に起因している可能性が最も高い。出産後に収集した尿サンプルも分析した。
【0066】
具体的実施形態では、例えば3倍若しくはそれより大きい、4倍若しくはそれより大きい、5倍若しくはそれより大きい、7倍若しくはそれより大きい又は10倍若しくはそれより大きい標準偏差のような、2倍又はそれより大きい標準偏差に対応する遊離胎児ヘモグロビンレベルの増加は、PEの発症リスクの増大及び/又はこの疾患の進行を示すと考えられる。同様に、例えば3倍若しくはそれより大きい、4倍若しくはそれより大きい、5倍若しくはそれより大きい、7倍若しくはそれより大きい又は10倍若しくはそれより大きい標準偏差のような、2倍又はそれより大きい標準偏差に対応する遊離胎児ヘモグロビンレベルの減少は、PEの発症リスクの減少及び/又はこの疾患の退行を示す。別の尺度は、時間t2でのHb Fと時間t1でのHb Fとの間の比(Rt)であり得る。ここで、t1は、第1のサンプルの採取時であり、t2は第2のサンプルの採取時である。Rtの増加はこの疾患の進行を示し、Rtの減少はこの疾患の退行を示す。試験する被検体が同じ女性であるという事実に起因して個体変動は最小であることが期待されるので、小さな増加又は減少でさえも妥当な指標であると考えられる。1.1又はそれより大きいRt値がこの疾患の進行を示す一方、0.9又はそれより小さいRt値はこの疾患の退行を示すと予測される。
【0067】
比R(すなわち、Hb Fと総Hbとの比)が用いられる場合、この尺度は代表的には第2の時点で得られたR(R2)と第1の時点で得られたR(R1)との比である。R2/R1の増加はこの疾患の進行を示し、R2/R1の減少はこの疾患の退行を示す。試験する被検体が同じ女性であるという事実に起因して個体変動は最小であることが期待されるので、小さな増加又は減少でさえも妥当な指標であると考えられる。1.1又はそれより大きい比R2/R1の値がこの疾患の進行を示す一方で、0.9又はそれより小さい比R2/R1の値はこの疾患の退行を示すと予測される。
第1の観点で言及した詳細はこの観点及び以下の観点にも適用される。
【0068】
iii)PEの特異的治療の有効性を評価する方法
本発明の第3の観点によれば、子癇前症の治療の効力を評価する方法が提供され、この方法は、以下の工程を含んでなる:(a)治療前の妊娠雌性哺乳動物から得た第1の生物学的サンプル中の遊離胎児ヘモグロビンのレベルを測定するか又は遊離胎児ヘモグロビンのレベル及び総遊離ヘモグロビンのレベルを測定する工程;(b)治療後の同じ妊娠哺乳動物からの第2の生物学的サンプル中の遊離胎児ヘモグロビンのレベルを測定するか又は遊離胎児ヘモグロビンのレベル及び総遊離ヘモグロビンのレベルを測定する工程;及び(c)(a)で決定したレベルを(b)で決定したレベルと比較する工程。ここで、第1のサンプル中の遊離胎児ヘモグロビンレベルに対する第2のサンプル中の遊離胎児ヘモグロビンレベルの減少又は第1のサンプル中の遊離胎児ヘモグロビンのレベルと総遊離ヘモグロビンのレベルとの間の比に対する第2のサンプル中の遊離胎児ヘモグロビンのレベルと総遊離ヘモグロビンのレベルとの間の比の減少は、該治療が子癇前症を治療することに有効であることを示す。
【0069】
具体的実施形態では、遊離胎児ヘモグロビンレベルの減少を決定することにより治療の効力を評価し得ると考えられる。減少は、例えば3倍若しくはそれより大きい、4倍若しくはそれより大きい、5倍若しくはそれより大きい、7倍若しくはそれより大きい又は10倍若しくはそれより大きい標準偏差のような、2倍又はそれより大きい標準偏差に対応する場合、治療がPEの進行の抑制及び/又はこの疾患の治療及び/又はこの疾患に伴う症状の軽減に有効であることを示す。同様に、例えば3倍若しくはそれより大きい、4倍若しくはそれより大きい、5倍若しくはそれより大きい、7倍若しくはそれより大きい又は10倍若しくはそれより大きい標準偏差のような、2倍又はそれより大きい標準偏差に対応する遊離胎児ヘモグロビンレベルの増加は、有効でない治療を示す。別の尺度は、時間t2でのHb Fと時間t1でのHb Fとの間の比(Rt)であり得る。ここで、t1は、第1のサンプルの採取時であり、t2は第2のサンプルの採取時である。Rtの増加はこの疾患の進行(すなわち、当該治療が十分でないこと)を示す一方、Rtの減少はこの疾患の退行及び有効な治療を示す。試験する被検体が同じ女性であるという事実に起因して個体変動は最小であることが期待されるので、小さな増加又は減少でさえも妥当な指標であると考えられる。1.1又はそれより大きいRt値がこの疾患の進行を示す一方、0.9又はそれより小さいRt値はこの疾患の退行を示すと予測される。
【0070】
比R(すなわち、Hb Fと総Hbとの比)が用いられる場合、この尺度は代表的には第2の時点で得られたR(R2)と第1の時点で得られたR(R1)との比である。R2/R1の増加はこの疾患の進行(すなわち、当該治療が十分であるようにはみえないこと)を示し、R2/R1の減少はこの疾患の退行(すなわち、該治療が所望の効果を有するようであること)を示す。試験する被検体が同じ女性であるという事実に起因して個体変動は最小であることが期待されるので、小さな増加又は減少でさえも妥当な指標であると考えられる。1.1又はそれより大きい比R2/R1の値がこの疾患の進行を示す一方で、0.9又はそれより小さい比R2/R1の値はこの疾患の退行を示すと予測される。
【0071】
iv)診断キット
本発明の第4の観点によれば、本発明に従う子癇前症の診断又は該診断の補助のためのアッセイキットが提供され、このキットは、妊娠雌性哺乳動物の生物学的サンプル中の遊離胎児ヘモグロビンのレベルを測定する手段と該検出手段を使用するための指示書とを含んでなる。
【0072】
本発明は、子癇前症の診断又は該診断の補助のためのキットを提供する。このキットは、子癇前症を有する被検体からのサンプル中に異なって存在する遊離ヘモグロビンの存在を検出又はスクリーニングするために使用する。
【0073】
1つの実施形態では、本キットは、妊娠雌性哺乳動物の生物学的サンプル中の遊離ヘモグロビンレベル(例えば、ヘモグロビンα鎖(Hbα)、ヘモグロビンβ鎖(Hbβ)、ヘモグロビンδ鎖(Hbδ)、ヘモグロビンγ鎖(Hbγ)及び総遊離ヘモグロビン)を単独で又は他の検出手段との組合せのいずれかで検出する手段と該検出手段を使用するための指示書とを含んでなる。択一的に又は追加的に、本発明によるキットは、胎児Hb mRNAを測定する手段を含んでなる。
【0074】
好適な実施形態では、本キットは、サンプル中の遊離胎児ヘモグロビンのレベルを検出する手段、例えばヘモグロビンγ鎖(Hbγ)のレベルを測定する手段を含んでなる。別の実施形態では、本キットは、総遊離ヘモグロビンのレベルを検出するための手段を更に含んでなる。
1つの実施形態では、検出手段は、ヘモグロビン(好ましくは、胎児ヘモグロビン)に特異的な抗体(例えば、抗-ヒト-Hbγ抗体)を含んでなる。
【0075】
更なる実施形態では、指示書は、ラベル又は折込紙片の形態で適切な操作パラメータを含んでなる。例えば、指示書は、消費者に、サンプルの収集方法及びプローブの洗浄方法の情報を与え得る。虚偽の総Hb値を回避するために血液サンプルの溶血を最小限にするように特に注意を払うべきである。
本発明の方法に使用すべきキットは、分析物標準物、試薬などを更に含んでなることができる。
【0076】
第4の観点の或る実施形態では、遊離胎児ヘモグロビンのレベルは、ヘモグロビンγ鎖(Hbγ)のレベルを測定することにより決定される。
第4の観点の或る実施形態では、本アッセイキットは、例えば総Hb 対 胎児Hbの比及び/又は総Hb mRNA 対 胎児Hb mRNAを決定するために、総遊離ヘモグロビンのレベルを検出する手段を更に含んでなる。
【0077】
より具体的には、本発明の診断キットは、例えば、サンプル中の胎児ヘモグロビン濃度を測定するために設計されたELISA又はサンプル中の胎児ヘモグロビン濃度及び総ヘモグロビン濃度の両方を測定するように設計された2つのELISAを実行するために必要な全ての構成要素(水を除く)を含んでなり得る。胎児ヘモグロビンの濃度を測定する好適な方法は、下記に記載するようなELISAの競合的変形物である:
【0078】
一晩のインキュベーションにより、ヘモグロビン-F(水溶液中に1〜5μg/mlに希釈)を96ウェルマイクロタイタープレートに被覆する。予め被覆したプレートは、キット中で即時使用可能な状態で提供される。マイクロタイタープレートウェルは、診療所で、水溶液A(例えば、0.1%の界面活性剤(例えばTween 20)及び0.1%のウシ血清アルブミンを含む0.9% NaCl)で1000〜10000倍希釈した50μlのウサギ抗-ヘモグロビン-Fと50μlの一連の標準オキシヘモグロビン-Fサンプル(水溶液Aで濃度1〜10000ng/mlに希釈)又は50μlの患者サンプル(水溶液Aで100〜10000×希釈)のいずれかとを含有する混合物とインキュベートされる。この混合物は、マイクロタイタープレートウェル中に、30分間〜3時間の間室温で放置される。次いで、プレートは水溶液Aで3回洗浄され、各ウェルを水溶液A中1000〜10000×希釈した100μlのブタ-抗-ウサギIgG-アルカリホスファターゼ(ALP)と、30分間インキュベートする。次いで、プレートを水溶液Aで3回洗浄し、最後にALPが特異的に反応し着色生成物になり得る基質とインキュベートする。基質溶液は、例えば、1Mジエタノールアミン中1mg/mlのp-ニトロフェニルリン酸+0.5mM MgCl2(pH9.8)であり得る。ウェル中の生成物の濃度(=色強度)は、ウェル中のヘモグロビン-Fの量に比例する。抗体の量は、患者サンプル又はコントロールサンプル中のヘモグロビン-Fの量に反比例する。色強度は、光吸収タイプのマイクロタイタープレート-リーダーにより正確に決定するか、又は肉眼により評価することさえできる。
【0079】
酵素であるホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP)は、ALPよりむしろ、二次抗体への酵素カップリングについての当業者に明らかな選択である。しかし、本発明に関しては、HRPを使用することはできない。なぜなら、ヘモグロビン(同じマイクロタイタープレートウェル中に存在する)もまたペルオキシダーゼ酵素であり、着色生成物の虚偽の高値を与えるからである。
【0080】
我々の知る限り、ポリクローナルウサギ抗血清をALPと組み合わせて使用する競合ELISAは、以前には、胎児ヘモグロビン-Fを使用するために使用されていない。
【0081】
手順、正確な容量、希釈度、濃度、インキュベーション時間及び各工程の温度及び試薬に関する指示書を含むマニュアルが本キットと共に提供される。予め被覆されたマイクロタイタープレート、被覆用及び標準希釈系列用のオキシヘモグロビン-F又は「総」オキシヘモグロビンFの溶液、ウサギ抗-ヘモグロビン-F又はウサギ抗-総ヘモグロビンの溶液、ブタ抗-ウサギIgG-ALP溶液、ALP基質溶液及び水溶液Aもまた提供される。
【0082】
オキシヘモグロビン-F及び「総」オキシヘモグロビンは、本発明者らの実験室で、以下のとおりに準備する。50mlヒト臍帯血(Hb-Fの調製)又は成人血液(総Hbの調製)からの赤血球を遠心分離(1200×g,10分)により単離し、10容量のリン酸緩衝化食塩水(PBS,10mMリン酸(pH7.4);120mM NaCl及び3mM KCl)で4回洗浄する。次いで、氷上で低張性緩衝液(20容量のH2O:1容量のPBS)中に再懸濁することにより血液細胞を溶解させる。遠心分離(14000×g,20分)によりサイトゾルから膜を分離し、上清を4℃で15mM Tris-HCl(pH8.0)に対して3回透析する。200mlのDEAE-Sepharose(GE Healthcare)をカラムに詰め、透析した上清をゲルに適用し、15mM Tris-HCl(pH8.0)及び15mM Tris-HCl(pH8.0)+0.2M NaClからなるグラジエントにより分離する。画分を収集し、280nm、577nm及び630nmで吸光度を測定してオキシヘモグロビン-F又は総オキシヘモグロビンを同定してその濃度を決定する[Winterbourn,1990]。被覆用及び標準系列用の溶液は水溶液A中への希釈により調製する。
【0083】
ウサギ抗-総ヘモグロビンはDako(デンマーク)から購入し、ウサギ抗-ヘモグロビン-Fは、標準プロトコルに従って、ウサギを精製ヘモグロビン-γ鎖(Hb-γ)で免疫し、ウサギから採血することにより調製する。免疫及び採血は営利機関で行う(「アウトソーシング」)。Hb-γは、本発明者らの研究室で、主としてKajitaら[1969]及びNoble[1971]のプロトコールに従って、α-鎖及びγ-鎖を解離及び分離させることによりHb-Fから精製する。リン酸カリウム(0.1mlの1M KH2PO4)及び塩化ナトリウム(0.2mlの2M NaCl)を10mlの3%(w/v)ヘモグロビン-F溶液に加える。50mgのp-安息香酸水銀(mercuribenzoate)を0.2mlの1M NaOH中に溶解し、これに1mlの水を加える。これら2つの溶液を混合し、1M酢酸でpH4.5に注意深く滴定し、冷所で穏やかに動かしながら一晩放置する。翌朝、1M NaOHでpHを7に調整し、遠心分離する(5000×g,10分,10℃)。ペレットを廃棄し、上清を10mM Tris-HCl(pH7.5)に対して透析する。次いで、透析したサンプルを10-ml DEAE-Sepharose(GE Healthcare)カラムに適用する。このカラムは、事前に10mM Tris-HCl(pH7.5)で平衡化しておく。サンプル適用後、カラムを50mlの10mM Tris-HCl(pH7.5)でリンスし、次いで100mlの10mM Tris-HCl(pH7.5)及び100mlの10mM Tris-HCl(pH7.5)+0.2M NaClからなる塩緩衝液グラジエントでリンスする。サンプル適用、洗浄及びグラジエント溶出は、40ml/時の流量で行い、3ml画分を収集する。次いで、各溶出画分のα-鎖及びγ-鎖の濃度を、415nmの光吸収、SDS-PAGE、本来のPAGE及びアミノ末端アミノ酸配列決定により評価する。純粋なγ-鎖を含有する画分をプールし、2-メルカプトエタノールを50mMまで加えてp-安息香酸水銀をハーフシスチン(half-cystine)から解離させる。次いで、Sephadex G-25カラム(PD-10,GE Healthcare)での脱塩、0.1Mリン酸ナトリウム(pH7.5)+50mM2-メルカプトエタノールでの溶出により、p-安息香酸水銀をタンパク質から除去する。最後に、溶出タンパク質画分を0.1Mリン酸ナトリウム(pH7.5)に対して透析する。
【0084】
ブタ抗-ウサギIgG-ALPはSigmaから購入し、一方で基質溶液及び水溶液Aは発明者らの研究室で市販の化学薬品から調製する。
或いは、胎児ヘモグロビン-ELISAは、インキュベーション工程1では被覆用のHb-γ、適切な希釈率の臨床サンプル又は胎児ヘモグロビン標準系列に特異的なモノクローナル又はポリクローナル抗体を用い、第2のインキュベーション工程のウサギ抗-ヘモグロビン-ALPを用いるサンドイッチタイプのELISAであり得る。
【0085】
或いは、診断キットにおいて、Hb-γと特異的に反応するモノクローナル抗体を被覆したタンパク質チップを、臨床サンプル中の胎児ヘモグロビン濃度を測定する手段として使用し得る。
【0086】
v)PEの予防及び/又は治療に使用する物質及び組成物
本明細書中で報告した、遊離胎児ヘモグロビンがPEの指標であり、Hb Fレベル(又はHbレベル一般)の減少がこの疾患の進行を抑制している可能性が高いとの知見に従って、i)遊離Hb(遊離Hb F又は他の任意のHb)の形成を阻害する能力、ii)遊離Hb(遊離Hb F又は他の任意のHb)に結合する能力、又はiii)循環遊離Hb(遊離Hb F又は他の任意のHb)の濃度を減少させる能力を有する任意の物質がPEの有効な治療及び/又は予防のための可能性のある物質であると考えられる。したがって、本発明の更なる観点では、ヘモグロビン結合剤;ヘム結合/分解剤;鉄結合剤;ヘモグロビン分解、ヘム分解及び/又は鉄隔離を刺激する薬剤;及び/又は胎盤の造血を阻害する薬剤からなる群より選択される少なくとも1つのメンバーのPEの治療のための使用が提供される。更に、本発明の更なる観点では、このような物質の子癇前症の治療又は予防用医薬調製物の製造のための使用が提供される。
【0087】
用語「治療又は予防」は、本発明に関連した種々の文法的形態で、(1)子癇前症の有害な効果、(2)障害の進行又は(3)障害の原因因子の予防、治癒、反転、減衰、軽減、寛解、阻害、最小化、抑制又は停止をいう。
【0088】
ヘモグロビンは酸素添加に重要であるが、循環中の遊離ヘモグロビンは、第1鉄状態から第2鉄状態へのヘムの自己酸化の間に血管レドックスバランスを改変することにより[Motterliniら,1995]、及びおそらくグロビン中心フリーラジカルの誘導により[Svistunenkoら,1997]組織に対して毒性である。
【0089】
出願人は、子癇前症を有する女性の血液中の上昇した遊離ヘモグロビンレベルは、この疾患のマーカーとして役立つだけでなく、そのような患者において共通して見られる疾患症状発現を担っているか、又は部分的に担っていると提案する。よって、遊離ヘモグロビンはまた子癇前症治療の候補標的でもある。遊離胎児ヘモグロビンがPEのマーカーと見なされても、遊離ヘモグロビン一般(すなわち、胎児ヘモグロビン及びより非特異的なヘモグロビン、例えば成体ヘモグロビン)の減少は、PEの進行を最小にし、PEを治療すると考えられる。
【0090】
この観点の或る実施形態では、ヘモグロビン結合剤及び/又はヘム結合剤はα1-ミクログロブリンである。以下、この薬剤をα-1-ミクログロブリン又はα1-ミクログロブリンと呼び、α1mと略す。科学文献で使用されているこの物質の他の名称は、プロテインHC(電荷が不均一(heterogeneous in charge);ヒト複合体形成性)、AMBP-タンパク質及びα-1-ミクロ糖タンパク質であるが、これらの名称はα1mと同義である。
【0091】
この観点の或る実施形態では、ヘモグロビン結合剤及び/又はヘム結合剤は、ヘモグロビン及び/又はヘムに特異的な抗体である。
【0092】
したがって、本発明はまた、子癇前症の治療又は予防方法を提供する。この方法は、有効量の1又はそれより多い上記のような薬剤(ヘモグロビン結合剤及び/又はヘム結合/分解剤及び/又は鉄結合剤;ヘモグロビン分解及び/又はヘム分解及び/又は鉄隔離を刺激する薬剤;及び胎盤の造血を阻害する薬剤からなる群より選択される少なくとも1つのメンバーを含む)を治療又は予防を必要とする被検体に投与することを含んでなる。この薬剤は、代表的には、1又はそれより多い医薬的に許容される賦形剤との組合せで活性薬剤を含んでなる医薬組成物の形態で投与され得る。
【0093】
更に、本発明は、ヘモグロビン結合剤及び/又はヘム結合/分解剤、ヘモグロビン分解及び/又はヘム分解及び/又は鉄隔離を刺激する薬剤、及び胎盤の造血を阻害する薬剤からなる群より選択される少なくとも1つのメンバーの、子癇前症の治療又は予防用医薬調製物の製造のための使用;及びヘモグロビン結合剤及び/又はヘム結合/分解剤及び/又は鉄結合剤、ヘモグロビン分解及び/又はヘム分解及び/又は鉄隔離を刺激する薬剤及び胎盤の造血を阻害する薬剤からなる群より選択される少なくとも1つのメンバーを含んでなる医薬調製物の有効量を治療又は予防を必要とする被検体に投与することを含んでなる子癇前症の治療又は予防方法を提供する。これら観点では、目的は、組織損傷及びこの疾患の更なる進行を予防するために、例えば母体の血液中の、遊離ヘモグロビン及びその分解産物ヘムの量を減少させることである。
【0094】
ヘモグロビン結合剤及び/又はヘム結合/分解剤は、ヘモグロビン及び/又はヘムの結合/分解特性を示す化合物である。鉄隔離剤は、遊離鉄に結合し、それがレドックス反応に関与することを予防する化合物である。
【0095】
1つの実施形態では、ヘモグロビン結合剤及び/又はヘム結合/分解剤はα1mである。この小さな血漿及び組織タンパク質はヘム-結合体[Allhornら,2002;Larssonら,2004]及びラジカルスカベンジャーであり[Akerstromら,2007]、α1mが遊離ヘモグロビンと混合されると、C末端テトラペプチドLIPRのタンパク質分解的除去によりヘム分解形態t-α1mが誘導される[Allhornら,2002]。これもまた、胎盤中のヘモグロビンに結合することができる(下記参照)。遊離ヘモグロビン及び反応性酸素種は、肝臓細胞及び血液細胞におけるα1mの増大した産生を引き起こす[Olssonら,2007]。したがって、α1mは、細胞及び組織成分に対するヘム誘導性及びヘモグロビン誘導性の損傷から保護することができる可能性のあるヘムアンタゴニストかつヘモグロビンアンタゴニストである。実施例5.4〜5.7はこのことについての更なる証拠を提供する。よって、実施例5.4は、子癇前症患者がα1mのレベルを増加させることによってこの疾患に応答することを示し、実施例5.5は、α1mが細胞及び組織に対するヘム誘導性酸化的損傷を阻害し、修復することを示し、実施例5.6は、治療薬剤の試験をインビボ試験により近い一工程で行うことができる胎盤のインビトロモデルを記載し、実施例5.7は、胎盤組織でヘモグロビンがα1mによって結合されていることを示す。
【0096】
PEの治療又は予防に可能性のある活性薬剤であると考えられる他の薬剤は以下のものである:
ヘモグロビン結合剤:
抗体
ヘモグロビンと強力に結合し、ヘモグロビンのレドックス酵素活性をブロックするモノクローナル抗体を開発することができる。この抗体は、インビボ若しくはインビトロ免疫により産生することができるか、又は既存のライブラリから選択することができる。この抗体は、α-、β-、δ-又はγ-グロビン鎖に対する特異性又はこれらグロビン鎖の共通部分に対する特異性について選択され得る。この抗体は、ヒトにおける治療に適切となるように改変することができる。すなわち、ヒトイムノグロブリンフレームワークを有して提供することができる。抗体の任意の部分を使用し得る:Fv-、Fab-フラグメント又は全イムノグロブリン。
【0097】
ハプトグロブリン
ハプトグロブリンは血漿中に見出される糖タンパク質である。3つの形態のハプトグロビンが存在する:Hp1-1、Hp2-1及びHp2-2。全ての形態がヘモグロビンと結合し、Hp-Hb複合体を形成する。Hb-Hp複合体は、遊離ヘモグロビンより弱いレドックス酵素活性を有し、したがって酸化的損傷を引き起こすことがより少ない。Hbへの結合は、例えばヘム基からの鉄喪失を予防する。
【0098】
CD163
CD163は、マクロファージ、単球及び血管を裏打ちする網内系に見出されるスカベンジャーレセプターである。このレセプターはHp-Hb複合体を認識し、エンドサイトーシス及びリソソームへのこの複合体の送達、HO-1による分解(下記参照)及び細胞フェリチンによる遊離鉄の隔離を媒介する。したがって、CD163はヘモグロビン誘導性酸化ストレスの排除に寄与する。
【0099】
ヘム結合剤/分解剤:
ヘモペキシン
ヘモペキシンは、ヒト血漿中に見出され、遊離ヘムと強力(Kd約1pmol/L)に結合し網内系での分解のためにヘムを肝臓に輸送することにより血漿から遊離ヘムを排除する糖タンパク質(60kDa)である。
【0100】
ヘムオキシゲナーゼ
ヘムオキシゲナーゼは、ヘムをビリベルジン、一酸化炭素及び遊離鉄に変換する細胞性ヘム結合及び分解酵素複合体である。遊離鉄は細胞フェリチンにより隔離され、ビリベルジンはビリベルジンレダクターゼによりビリルビンに還元される。ビリルビンは最終的には尿中に排泄される。構造が非常に異なる3つの形態のヘムオキシゲナーゼ遺伝子HO-1、HO-2及びHO-3が記載されている。HO-1は最も重要である。この遺伝子は、身体中の実質的に全ての細胞において、ヘモグロビン、遊離ヘム、低酸素症、フリーラジカル、ROS(反応性酸素種)及び多くの種々の炎症シグナルによりアップレギュレートされる。HO-1は強力な抗酸化剤である。なぜなら、これは酸化剤であるヘム及び鉄を排除するからであるが、ビリルビン(幾つかの酸化剤に対して抗酸化効果を有する)を産生するからでもある。
【0101】
アルブミン
アルブミンは、ヘムと結合することができるヒト血漿中の66kDaタンパク質である。アルブミン-ヘム複合体の細胞取込み及び分解の証拠はなく、アルブミンの効果は、おそらく、ヘムの貯蔵庫(depot)として作用し、よってヘムが内皮細胞膜、脈管基底膜などに進入することを予防するためである。
【0102】
鉄結合剤:
トランスフェリン
トランスフェリンは最も重要な血液中の鉄の輸送体である。トランスフェリン-鉄複合体は、該複合体を内在化し解離させる細胞レセプターにより認識され結合される。
【0103】
フェリチン
この多量体タンパク質は、2つのタイプの24サブユニットからなり、遊離鉄の主要な細胞内貯蔵庫である。これは4500鉄原子/フェリチン分子の高い鉄貯蔵能を有する。フェリチンへの結合により、鉄は酸化還元反応がほとんど予防され、よって酸化的損傷を引き起こすことがほとんど予防される。
【0104】
更なる実施形態では、ヘモグロビン結合剤は、ヘモグロビン及び/又はヘムに特異的な抗体である。
具体的実施形態では、医薬調製物は、ヘモグロビン結合剤及び/又はヘム結合剤及び/又は鉄隔離剤の組合せを含んでなる。
ヘモグロビン分解及び/又はヘム分解を刺激する薬剤としては、タンパク質様ハプトグロビン、ヘモペキシン及びヘムオキシゲナーゼが挙げられるが、これらに限定されない。
【0105】
本発明の医薬調製物は、「胎盤」動物、例えばヒト、他の霊長類又は食用哺乳動物に投与され得る。投与に好適な動物はヒト又は商業的に価値のある動物若しくは家畜である。
【0106】
投与は、治療する動物、治療を必要とする動物の状態及び治療する特定の適応症に依存して、種々の方法で実行され得る。投与経路は、経口、直腸、非経口、経鼻胃チューブを通じてであり得る。非経口投与経路の例は、静脈内、腹腔内、筋肉内又は皮下注射である。
【0107】
医薬調製物の製剤化は、活性成分の薬理学的特性だけでなく、その物理化学的特性及び投与経路の種類にも依存して選択されなければならない。医薬調製物を製剤化する種々の方法は、当業者に周知である。
【0108】
非経口組成物に関しては、液体組成物又は適用前に例えば水性媒体で再構成されるように設計される固体組成物が好適である。適切な賦形剤としては以下が挙げられる:溶媒(例えば、水、水性媒体、アルコール、植物油、脂質、プロピレングリコールのような有機溶媒など)、浸透圧調整剤(例えば、塩化ナトリウム、マンニトールなど)、可溶化剤、pH調整剤、防腐剤(該当する場合)、吸収増強剤など。
【0109】
経口組成物に関しては、組成物は固体、半固体又は液体形態であり得る。適切な組成物には、固体剤形(例えば、全ての種類の錠剤を含む錠剤、薬袋(sachet)及びカプセル)、粉剤、顆粒、ペレット、ビーズ、シロップ、混合物、懸濁物、乳剤などが含まれる。
【0110】
適切な賦形剤は、固体剤形又は固体形態の組成物用には、例えば、充填剤、バインダー、崩壊剤、潤滑剤など、液体又は半固体形態用には、溶媒(例えば、水、有機溶媒、植物油など)を含む。更に、pH調整剤、味覚マスキング剤、香料、安定化剤などのような添加物を添加し得る。
【0111】
更に、活性物質を身体の特異部分に標的化する特異的キャリアを含ませることができる。例えば、抗体が胎盤エピトープに対する特異性により胎盤に標的化されている(「ホーミング」)抗体-α1m複合体;胎盤ホーミング特性(例えば、胎盤に特異的なインテグリン-レセプター)及び大量のα1mを分泌する人工的な又は天然の能力を有する幹細胞又は組換え細胞。薬物が胎盤に集中するので治療はより効率的になる。
【0112】
用語「有効量」とは、本発明に関しては、所与の病的状態及び投与レジメンに対して治療効果を提供する量をいう。これは、必要とされる添加剤及び希釈剤;すなわちキャリア、又は投与ビヒクルとの組合せで所望の治療効果を生じると計算される活性材料の所定の量である。更に、これは、ホストの活性及び応答の臨床的に有意な減損を低減するに(最も好適には防止するに)十分な量を意味するものとする。或いは、治療有効量は、ホストにおける臨床的に有意な状態に改善を引き起こすに十分である。当業者により理解されるように、化合物の量は、特異活性に依存して変化し得る。適切な投薬量は、必要とされる希釈剤;すなわち、キャリア、又は添加剤との組合せで、所望の治療効果を生じると計算される活性組成物の所定量を含有し得る。更に、投与すべき投薬量は、使用すべき活性主成分、治療すべき患者の年齢、体重などに依存して変化するが、一般には0,001〜1000mg/kg体重/日の範囲内である。更に、用量は投与経路に依存する。
【0113】
vi)バイオマーカーとしてのHLA-DPA-1
本発明の更なる観点は、胎児細胞が異なるので母体の免疫応答をトリガーするという観察に関連する。HLA遺伝子ファミリーの役割は外来抗原を母体の免疫系に提示することである。HLA-DPA1遺伝子を発現する女性は、早期の段階で胎児細胞が「見え」得る。このことは、更なる損傷からの保護を助け得る(本明細書中で報告した研究において、本発明者らは、ノッチを有するがPEを発症していない女性がHLA-DPA1を発現したことを観察している)
【0114】
したがって、HLA-DPA1は、胎児ヘモグロビン及び/又はPEの間接的指標として使用することができる。よって、本発明の更なる観点では、子癇前症の予後の方法が提供される。この方法は、以下の工程:(a)妊娠雌性哺乳動物から生物学的サンプルを得る工程;(b)前記生物学的サンプル中のヒト白血球抗原DPA1(HLA-DPA1)のレベルを測定する工程;及び(c)サンプル中のHLA-DPA1のレベルを参照値と比較する工程を含んでなる。上記HLA組成物が存在する場合、女性はおそらく、PEを発症するリスクがより低い(遊離胎児HBを有しても有さなくても)一方、その女性がこの保護的HLAを有しない場合、特に遊離胎児Hbレベルが増大すると、リスクがより高いと考えられる。
【0115】
この観点の或る実施形態では、工程(a)〜(c)は、妊娠女性が子癇前症を発症するリスクが増大しているか否か、或いは重篤な形態の子癇前症を発症するリスクが増大しているか否かを決定するために実施される。
【0116】
この観点の或る実施形態では、HLA-DPA1の発現又は高発現は、HLA-DPA1を発現しない場合より良好な予後を示す。
本発明の最後の観点では、本発明による子癇前症の予後の方法に従う、子癇前症の予後のため又は予後の助けとするためのアッセイキットが提供される。このキットは、妊娠雌性哺乳動物の生物学的サンプル中のHLA-DPA1のレベルを検出する手段と、前記検出手段を使用するための指示書とを含んでなる。
以下に、本発明をより詳細に説明する。
【0117】
図面の簡単な説明
図1は、母体血漿中にHb-F及びHb-Aを見出したことに基づき、子癇前症の異なるステージのマーカーとしてのHb-F及びHb-Aの出現及びそれらの使用可能性を強調する、子癇前症発症の拡大モデルを示す。
【0118】
図2Aは妊娠初期の胎盤を示し(超音波)、図2Bは母体血液が満たされた絨毛間スペース中に浸かっている絨毛中の胎児循環を示し、図2Cは最小機能単位−絨毛を胎児循環と共に示す。
【0119】
図3Aは、酸素化がより少ない母体血液(より暗い)が満たされた絨毛間スペースに浸かっている絨毛中の胎児循環を示し、図3Bは反応性酸化種(ROS)により胎盤細胞-トロホブラスト中でアポトーシス(楕円のドット)が誘導されることを示し、図3Cは血液-胎盤障壁が損傷していることを示す。
【0120】
図4は、胎盤中のHbα、Hbγ、Hbβ及びHLA-DPA1 mRNAのリアルタイムPCR定量化の結果を示す。
図5は、ヒト胎盤及び胎盤床サンプルのインサイチュハイブリダイゼーションの画像を示す。
図6は、胎盤におけるHbγタンパク質発現の代表的な画像を示す。
【0121】
図7は、リアルタイムPCRにより定量化した、PEを有する女性の出産前に採取した母体血漿中のHbγ mRNAレベルの散布図を示す。この図は、サンプル中のHbγ mRNAレベルの推定量を与えるCt値を左軸に示す。
【0122】
図8は、Hbに関する代表的なゲル画像を示す。A)PEサンプル。Hbδ-スポットが明りょうに見える(矢印)。B)コントロールサンプルのゲル。Hbδスポットが見えない(円)。
図9は、散布図で示した、qPCRで定量化した胎盤中のHbδ mRNA値を示す。
図10は、Hbδ mRNAを発現している子癇前症の胎盤からのインサイチュ画像を示す。
【0123】
図11。胎盤及び胎盤床サンプルからのインサイチュハイブリダイゼーション(左パネル)。代表的な子癇前症胎盤サンプル及びコントロール中のヘモグロビンmRNA-発現の暗視野画像。ヘモグロビンmRNA発現は、血管内及び血管周辺に特に見られた(矢頭)。絨毛間スペースに散乱した幾つかの細胞がPEで見られる。免疫組織化学(右パネル)は、胎盤脈管組織の管腔(lu)中での遊離胎児ヘモグロビンの蓄積を示す(矢印)。
【0124】
図12。子癇前症の妊娠女性(n=30)及び正常妊娠女性(n=30)の血漿中の総ヘモグロビン濃度。濃度は、血漿を1000×に希釈して、成体ヘモグロビン(Hb-A)に対する抗体を使用するELISAにより測定した。
図13。ウェスタンブロッティングによる、癇前症を有する2人の患者(PE1及びPE2)及び正常妊娠の2人のコントロール個体(コントロール1及びコントロール2)の血漿中のHb-Fの決定。血漿サンプルを記載されたようにアルブミン抽出ビーズで処理し、次いで希釈しないでSDS-PAGE/ウェスタンブロッティング手順に適用した(15μl)。濃度(μg/ml)の推定を可能にするために、0.1μgの精製Hb-Fを別のレーンに適用した(「精製Hb-F」)。
【0125】
図14。胎児循環とヘモグロビン合成細胞(黒いドットを有する白楕円)。胎盤障壁に対する損傷に起因して、胎児細胞が絨毛間スペース中(よって、母体循環中)に漏れている。
図15。子癇前症の妊娠女性(n=30)及び正常妊娠女性(n=30)の血漿中の総α1m濃度。濃度は、血漿を500×に希釈してRIAにより測定した。
【0126】
図16。A。ヘム誘導性及びROS誘導性酸化に対するα1mの細胞保護特性。K562細胞を酸化感受性プローブH2DCFDAで標識し、洗浄し、α1m(2、5又は10μM)、AGP(2、5又は10μM)又はアスコルベート(10μM)とインキュベートした後に10μMヘムを添加した。細胞を2時間インキュベートしFACSで分析した。B。K562細胞をα1m(2、5又は10μM)又はコントロールタンパク質(α1-酸性糖タンパク質、AGP)(10μM)と培養した後、200μMヘムを添加して4時間培養した。細胞懸濁物を収集し、ヨウ化プロピジウムと混合し、FACSで分析した。
【0127】
図17。α1mによる酸化コラーゲンのカルボニル基の還元。50μMヘムとの17時間のインキュベーションにより、マイクロタイタープレートに被覆したコラーゲンを酸化させた。洗浄後、0.1、0.3又は1μMのα1m、オボアルブミン又はアスコルベートを加え、2時間インキュベートした。カルボニル基をELISAにより測定した。各カラムは、3連の平均±SEを表す。
【0128】
図18。α1mによる細胞ヘムの捕捉(scavenging)。ヒト赤白血病細胞(K562)を緩衝液又は10μMヘムのいずれかと30分間培養し、洗浄して新鮮な培養培地中に再懸濁した。A:次いで、細胞をα1m(2又は10μM)と2時間インキュベートし、その後培養培地を残しておいた。細胞を洗浄し、1% NP-40を含有する緩衝液中に懸濁することにより可溶化した。次いで、吸光スペクトル(300〜700nm)を読み取ることにより、培養培地及び細胞懸濁物の分光光度分析をした。B:種々の培養物を視覚的にも分析した。細胞を緩衝液又は10μMヘムのいずれかと30分間インキュベートし(工程1)、洗浄後、緩衝液、10μM α1m又は10μM AGPと2時間インキュベートし(工程2)、洗浄し上記のように可溶化した。
【0129】
図19は、胎児側(中抜き記号)においてHb-A溶液(2mg/ml)で、母体側(中塗り記号)において緩衝液のみで120分間(「第1灌流」)、両側において緩衝液のみで120分間(「第2灌流」)の「健常」胎盤のインビトロ灌流を示す。サンプルを定期的に採取し、ELISAによるHb-Aの濃度(左図)、RIAによるα1mの濃度(右図)及びウェスタンブロッティングによる胎児Hb-Aの濃度(左写真)を測定した。
【0130】
図20は、胎盤組織から単離したヘモグロビン-α1m複合体のSDS-PAGE及びウェスタンブロッティングを示す。健常ドナーの胎盤をホモジナイズし、100,000Gで60分間遠心分離した。上清を抗-α1m Affigelカラムに適用し、カラムをリンスし、0.1Mグリシン-HCl(pH2.3)で溶出させた。溶出液をSDS-PAGEにより分離し、ゲルをクーマシーで染色するか(左の2つのレーン)、又はPVDFメンブレンに転写し、抗-α1m又は抗-Hb-Aでブロットした。
【0131】
図21はタンザニア研究の結果を示す。出産前の尿中総ヘモグロビン(μg/ml)を示す。
【実施例】
【0132】
以下の実施例は本発明を例示するためのものである。しかし、本発明は、これら実施例に記載の具体的条件及び細部に限定されるものではないことを理解すべきである。
【0133】
実施例1
胎盤中のHb RNA及びタンパク質の検出
定量的RT-PCR、インサイチュハイブリダイゼーション及び免疫組織化学を行い、PE及びコントロール被検体の胎盤サンプル中のHbα、Hbβ及びHbγ mRNA並びにタンパク質発現を分析した。
【0134】
サンプル収集
胎盤組織はLund University Hospitalの産婦人科で収集した。書面による同意を得て実施したサンプリングは、ヒト被検体における研究のための倫理委員会審査部(Ethical Committee Review Board)により承認された。10人の子癇前症妊婦、15人の正常妊婦、両側のノッチを有する5人の患者並びに両側のノッチ及び子癇前症を有する5人の患者からの胎盤組織を本研究に含めた。PEを有する患者の5人及びコントロールの5人からの胎盤床サンプル(下記参照)もまた収集した。子癇前症は、血圧>140/90mmHgかつ蛋白尿>0.3g/Lと定義した。本態性高血圧又は他の全身性疾患を有する患者は排除した。出産時に胎盤サンプルを収集し、直後に−80℃に凍結して保存した。
【0135】
組織サンプリング及び取扱い
胎盤サンプルは出産直後に収集した。胎盤の中央部から、肉眼により壊死部及び梗塞部を避けて10×10×10mm立方体の絨毛組織を取り出した。帝王切開を受けた女性から10×10×10mm立方体の子宮筋層組織を収集した。サンプルを直後にドライアイスで凍結し、RNAを抽出するまで−80℃で保存した。この組織は、最大級のRNA完全性を確実にするために、RNA抽出前にも凍結切片化の前にも解凍しなかった。
【0136】
RNA抽出
Trizol(登録商標)(Invitrogen)を製造業者の指示に従って用いて、凍結組織からトータルRNAを抽出した。0.8Mクエン酸ナトリウム及び1.2M塩化ナトリウムでの高塩沈降を実施してプロテオグリカン及び多糖を除去した。6.7%ホルマリン及び1×MOPS緩衝液を用いる変性1%アガロースゲル電気泳動によりRNA完全性を決定した。使用まで、サンプルはRNAseを含まない水中に−80℃にて保存した。使用前に、サンプルをもう1回沈降させ、70%エタノールで洗浄してTrizol残留物を除去した。
【0137】
リアルタイムPCR増幅
Applied Biosystemsの逆転写酵素をプロトコルに従って用いてcDNAを合成した。0.5mgのトータルRNA、1×TaqMan RT緩衝液、5.5mM MgCl2、500mM dNTP、2.5mMランダムヘキサマー、0.4U/ml RNase阻害剤及び1.25U/ml MultiScribe逆転写酵素を含有する50mlの反応液を使用した。この反応液を25℃にて10分間、48℃にて30分間、最後に95℃にて5分間インキュベートした。分析までサンプルを−20℃で保存した。
【0138】
ABI PRISM(登録商標) 7000配列検出システム(Applied Biosystems)を用いるリアルタイムPCRにより遺伝子転写物をアッセイした。プライマー及びプローブはPrimer Express(登録商標)ソフトウェアプログラムを用いて設計したか、又はAssays on-Design/Demand(商標)(Applied Biosystems)に注文した。混入ゲノムDNAの増幅を回避するために、プライマーを目的の遺伝子の異なるエキソンに標的化した。反応は、以下を含有する25mlの最終容量で行った:1×Universal PCR Master Mix(Applied Biosystems)、0.25mmol/lのプローブ、それぞれ0.9mmol/lのフォワード及びリバースプライマー及び1mlの10ng/ml DNAアリコート。熱サイクル条件は、50℃にて2分間のUNG活性化及び95℃にて10分間の最初の変性で開始した。次いで、40サイクルを行った:95℃にて15秒間、60℃にて1分間。テンプレートを含まない2つの陰性コントロールを増幅セットごとに含ませた。β-アクチンを参照として使用して、サンプルからのシグナルを規格化した。定量化は、テンプレートDNAの系列4倍希釈物(0.08〜80ng)を用いて較正曲線を作成することによって達成した。結果は、分母にβ-アクチンを用いた比として表す。
【0139】
インサイチュハイブリダイゼーション(ISHH)
ハイブリダイゼーションは、以前に[Hanssonら,2005]に記載されたように行った。クリオスタット切片を解凍して、シアリン処理したスライド上にマウントし、これを使用するまで−80℃にて保存した。新鮮な凍結組織を用いてmRNA検出を最大化した。以前に[Bradleyら,1992]に記載のように、切片を固定し、脱水し、脱脂し、ハイブリダイズさせた。80mlのハイブリダイゼーション緩衝液(20mM Tris-HCl(pH7.4)、1mM EDTA(pH8.0)、300mM NaCl、50%ホルムアミド、10%硫酸デキストラン、1×Denhardtの25mg/ml酵母tRNA、100mg/mlサケ精子DNA、250mg/mlトータル酵母RNA(画分XI、Sigma)、150mMジチオトレイトール(DTT)、0.15%チオ硫酸ナトリウム(NTS)及び0.15%硫酸ドデシルナトリウム(SDS))当たり2×106cpmの変性35S-cRNAプローブを用いて、20〜24時間、55℃でハイブリダイゼーションを行った。洗浄後、スライドをKodak Hyperfilm Biomax MRに2日間並置し、その後核トラック乳剤(nuclear track emulsion)(NTB-3,Kodak)で被覆した。スライドに4℃で3週間(Hbα2、Hbγ2)及び4週間(Hbβ)曝露し、その後Dektol(Kodak)で現像し、固定してギムザ染色で対比染色した。
【0140】
免疫組織化学
胎盤サンプルの14μm厚の新鮮凍結切片を、4%緩衝液化ホルムアルデヒド中に室温にて10分間浸漬することにより固定した。次いで、ブロッキング溶液(Powerblock;Zymed)中RTにて30分間切片をインキュベートした。PBS洗浄後、切片を1:500希釈の(ヒツジで惹起させた)抗-ヒト胎児Hb抗体(Bethyl Laboratories)中に移した。1時間のRTインキュベーション後、切片をリンスし、1:1000希釈の(ロバで惹起させた)抗-ヒツジCY3抗体(Jackson laboratories)中にRTにて1時間移した。次いで、切片をリンスし、0.1M Trisで覆ってLeica DMA 6000倒立蛍光顕微鏡下で観察した。Volocityソフトウェアを用いて写真を撮影した。
【0141】
結果
図4は、胎盤中のHbα、Hbγ及びHbβのリアルタイムPCR定量化を示す。全ての値をβ-アクチンの量に対して規格化し、散布図で表す。(A)胎盤中のHbα mRNA発現。PEとコントロールとの間(p=0.004)及びPE&ノッチ(ノッチを有するPE)とコントロールとの間(p=0.03)に有意な変化が見出された。(B)PEとコントロールとの間(p=0.003)及びPE&ノッチとコントロールとの間(p=0.03)の有意な変化を示すHbγ mRNA相対値。(C)Hbβは、コントロールに対してPE(p=0.02)及びコントロールに対してPE&ノッチ(p=0.04)で有意な過剰発現を示した。
【0142】
要約すると、Hbα mRNAレベル(p=0.004)、Hbγ mRNAレベル(p=0.003)及びHbβ mRNAレベル(p=0.02)は、コントロールに対してPEサンプルで有意に増大していることが見出され(図4A、B、C)、またコントロールと比較してノッチを有するPEからのサンプル中でも有意に増大していることが見出された(Hbα p=0.02、Hbγ p=0.03及びHbβ p=0.04)。(Hbβはアレイでは表さなかったが、Hbα及びHbγで変化が検出されたので調べた)。
【0143】
図5は、胎盤及び胎盤床サンプルのインサイチュハイブリダイゼーションの結果を示す。この図はヒト胎盤の画像を示し、胎盤の絨毛セクション(V)、その下方の胎盤床セクション(M)及びその間のらせん動脈(S)を示す。(A)代表的な子癇前症胎盤サンプル中のHbα mRNA発現の明視野画像。Hbα発現は特に血管中及び血管周辺で見られた。しかし、絨毛間スペースに散在する幾つかの細胞も見られた。(B)同じ切片の暗視野画像。(C)代表的なコントロール胎盤におけるHbα mRNA発現の暗視野画像。PE胎盤と比較して、コントロール胎盤は、絨毛間スペース中でより少ないHbα発現細胞を示す。(D)PE患者からの代表的な子宮筋層サンプルの明視野画像。Hbα発現はらせん動脈でのみ見られ、子宮筋層組織では発現は見られない。(E)暗視野での同じ子宮筋層切片。(F)コントロール胎盤からの子宮筋層サンプル。Hbα mRNA発現は、PE子宮筋層で見られた発現と同様である。
【0144】
要約すると、インサイチュハイブリダイゼーションにより、PE及びコントロールサンプルの両方で絨毛間スペースを通じて散在する有核Hbα-及びHbγ-発現細胞が明らかになった。PE患者の胎盤は、コントロールサンプルより多いHb含有細胞(胎児Hb)を有しているようであり、細胞当たりのシグナルはコントロール中より強いようであった。調べたサンプルの幾つかでは、Hb-陽性細胞は血管の壁に結合し、幾つかの細胞は管腔中に遊離していた。多くの単一細胞が絨毛内スペースに見出された。形態、位置及び分布に基づけば、それらはトロホブラストではなかった。
【0145】
図6は、胎盤におけるHbγタンパク質発現代表的な画像である。タンパク質発現は赤い蛍光マーカーで示されている。PE胎盤には、脈管管腔(lu)内に強い発現が存在するが、Hbγは脈管内皮(矢印)中でも発現している。(A)しかし、正常血圧コントロールの胎盤は、脈管管腔内でHbγの発現を示さないが、(B)Hbγ(すなわち、遊離胎児ヘモグロビン)は脈管内皮(矢印)中で発現している。画像中のスケールバーは25μmである。
【0146】
要約すると、Hbγ-発現は、PE胎盤サンプル中で特に胎盤血管管腔内で検出されたが、脈管壁の内皮細胞の近傍でも検出された。コントロール胎盤サンプルは、脈管内皮中でHbγ-発現を示したが、脈管管腔中では発現しなかった。
【0147】
考察
定量的RT-PCRは、PEにおいて、コントロールに対して増大したHbα及びHbγ mRNA発現を示した。インサイチュハイブリダイゼーションは、PEからの胎盤サンプル中で、コントロール被検体からの胎盤サンプルに対して増加した数のHb発現細胞を示した。Hb発現細胞が管壁に結合して位置していたという事実は、細胞が管の中又は外へ移動中であることを示しているか、又は管壁にこれら細胞用の結合部位が存在することを示しているかのいずれかであろう。子宮筋層の管が胎盤の管(下記のような細胞に富んでいる)に対してHb mRNAを発現する有核細胞に乏しいという事実は、これら細胞が母体起源ではない可能性を示唆する。(胎児)Hbγ mRNAが胎盤のHb-陽性細胞に存在し、子宮筋層血管管腔にはHb発現細胞の数が少ないという本発明者らの知見は、PE胎盤中及び血液中で見られる増加したHb発現を担っているのは胎児細胞であることを示している。
【0148】
本発明者らが説明した胎児Hb産生細胞が、迅速に代謝回転する場合、高レベルのヘムを絨毛外スペース中及び胎盤血管中に放出し得る。確かに、本発明者らの免疫組織化学は、PE胎盤の血管管腔中に高レベルのヘモグロビンを示している。一方、コントロール胎盤は、血管中へのヘモグロビンの放出を示さなかった。更に悪いことに、PE胎盤の壊死及び血栓領域での溶血は、或る量の遊離ヘムを其処に加え得る。
【0149】
遊離ヘムは、反応性酸素種(ROS)の創出を通じて重篤な損傷を引き起こすことがある強力なレドックス物質である。ヘムは、低比重リポタンパク質(LDL)を含む幾つかの脂質を酸化し、内皮損傷を引き起こす細胞傷害性ペルオキシダーゼに転換する。更に、ヘムは、細胞膜を崩壊させ、膜タンパク質を酸化することによって細胞膜を直接損傷して、膜透過性の増大及び細胞溶解を導き得る。
【0150】
よって、多数のHb陽性細胞(すなわち、胎児細胞)の胎盤への浸潤は気がかりなサインである。これら細胞から放出されたヘムは、かなり有害でありPEに関連する胎盤の病理の多くを担っている可能性がある。
【0151】
まとめると、理論に拘束されることは望まないが、本発明者らの知見は、子癇前症の胎盤中の或る細胞亜集団でHb遺伝子が過剰発現することを示唆していると考えられる。灌流減少及びおそらくは局所低酸素症に応答した胎盤細胞による造血を刺激する物質の産生は、該細胞の形成、動員及び分布に寄与し得る。該細胞は、正常妊娠を有する被検体の胎盤に存在するようである一方で、PE患者の胎盤におけるその増大は懸案事項である。該細胞は、迅速に代謝回転し過剰にHb(及びヘム)を放出する場合には、脈管内皮を含む近接構造を損傷し得る。
【0152】
実施例2
母体血液中の胎児Hbの検出
定量的RT-PCRを実施して、PE被検体の血液サンプル中のHbγ mRNAを分析した。
リアルタイムPCR
QIAamp Viral RNAミニキット(Qiagen)を製造業者の指示に従って用いてRNAを抽出した。簡潔には、3.6mlのAVL緩衝液を36μlのキャリア-RNA(Qiagen)と、試験管を10回転倒させることにより混合した。1mlの血漿サンプルを1150gで10分間遠心した。900μlの血漿及び3.6μlの99%エタノールをAVL緩衝液溶液に加えた。約650μlのこの溶液をQIAampカラムに加え、6000gで1分間遠心した。総血漿容量がカラムに加えられるまで、これを繰り返した。カラムをAW1緩衝液で1回洗浄し、次いで6000gで1分間遠心し、続いてAW2緩衝液で洗浄し、次いで20,000gで3分間遠心した。50μlのRNAseを含まない水でRNAを溶出させた。
胎児Hb RNAをリアルタイムPCRで定量した。
【0153】
結果
図7は、リアルタイムPCRにより定量した、PEを有する女性から出産前に採取した母体血漿中の胎児Hbγ mRNAレベルの散布図を示す。この図は、サンプル中のHbγ mRNAレベルの推定量を与えるCt値を左軸に示す。これは、母体の血液サンプル中のヘモグロビンγのタンパク質レベルを測定することが可能であるだけでなくmRNA量も測定することが可能であることを示す。
【0154】
実施例3
2D-ゲル電気泳動を用いた子癇前症胎盤のタンパク質発現プロファイリング
コントロール胎盤と比較してPE胎盤で異なって発現するタンパク質についてスクリーニングするために、本発明者らは、PEを有する女性(n=30)及び健常コントロール(n=30)から出産時に胎盤サンプルを収集した。プロテオミック技術(2次元ゲル電気泳動)を用いて、本発明者らは、種々の胎盤サンプル中のヘモグロビンδ(Hbδ)発現レベルを比較した。
【0155】
患者及びサンプル収集
Lund University Hospitalの産婦人科に入院した60人の女性を含ませ、2群に割り振った;PE(n=30)及びコントロール(n=30)(表2)。PEは血圧>140/90mmHg及び蛋白尿>0.3g/l、又は妊娠第1三半期から20mmHgを上回る血圧上昇と定義した。胎盤を取り出した直後に10×10×10mm立方体の胎盤組織を収集した。サンプルを直ぐにドライアイス上で凍結させ、−80℃で保存した。他の全身疾患を有する患者は本研究から排除した。本研究は、ヒト被検体における研究のための倫理委員会審査部により承認され、全ての女性に対して書面によるインフォームドコンセントを得た。
【0156】
【表2】

【0157】
タンパク質抽出
Trizol(登録商標)(Invitrogen)を製造業者の指示に従って用いてタンパク質を抽出した。簡潔には、氷上のTrizol中で胎盤組織をホモジナイズし、次いで12000gにて10分間4℃で遠心分離した。クロロホルムを用いてタンパク質画分を分離し、2-プロパノールを用いて沈降させた。タンパク質ペレットを1.5mlの0.3M塩酸グアニジン中で3回及び1.5mlの75%エタノール中で1回洗浄した。ペレットを0.8M尿素及び2% chapsに溶解し、分光測光手順を用いてタンパク質濃度を測定した。使用まで、タンパク質を−20℃で保存した。
【0158】
タンパク質沈降
等電点電気泳動(IEF)の前に、サンプルをアセトンで沈降させてタンパク質分解性酵素を不活化し、塩及び干渉物質を除去した。各胎盤から抽出したタンパク質(400μg)を、80%アセトンの最終濃度まで氷冷アセトンと混合した。サンプルを1時間−20℃にてインキュベートし、続いて9000×gで2分間遠心分離した。アセトンを除去し、タンパク質ペレットを風乾させた。
【0159】
二次元ゲル電気泳動
Immobiline Dryストリップ(180×3×0.5mm、pH3〜10 NL、GE Healthcare Life Sciences)を、8M尿素、2% CHAPS、10mMジチオトレイトール(DTT)及び2% IPG 3-10緩衝液を含有する350μlの可溶化溶液中で、400又は800μgのサンプルと共に、室温にて一晩再水和させた。Multiphor IIを用いてIEF工程を20℃で行い、以下のスケジュールで泳動した:(1)150Vで1時間、(2)300Vで3時間、及び(3)3000Vで約60 000vhrに到達するまで。ストリップを、65mM DTT、6M尿素、30%(w/v)グリセロール、2%(w/v)ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)及び50mM Tris-HCl(pH8.8)を含有する溶液中で10分間平衡化した。第2の平衡工程も、259mMヨードアセトアミドで置換したDTTを除き同じ溶液中で10分間行った。第2次元の直前に、ストリップを電気泳動緩衝液(24mM Tris塩基、0.2Mグリシン及び0.1% SDS)中に浸漬した。ストリップを12.5%の均質なDuracryl Slabgel(240×190×1mm又は290×245×1mm)に適用した。ストリップの上に電気泳動緩衝液(60℃に維持)中1%アガロース溶液を載せた。Hoefer DALTゲル装置(Amersham Pharmacia Biotech, San Francisco, CA,米国)を使用して20℃にて80Vの低電圧で19時間、又は上記と同じ電気泳動緩衝液を用いるゲル装置を使用して20℃にて18mAで色素の先端がゲルの底に到達するまでのいずれかで電気泳動を行った。泳動時間は、約17時間であった。
【0160】
ゲル染色
ゲルを銀染色し、染色後、ゲルドライヤー(Slab gel Dryer SGD2000, Savant)を使用してゲルを乾燥させた。
【0161】
スポット分析
CanoScan 995OF(Canon)を使用してゲルを走査した。PDQUEST(バージョン7.1.0)二次元ゲル分析システム(Bio-Rad discovery series, Bio-Rad Laboratories, Sundbyberg,スウェーデン)を使用してスポット分析を行った。
【0162】
質量分析による同定
目的のスポットを0.5ml Milli-Q水で1時間洗浄し、続いて25mM重炭酸アンモニウム中40%アセトニトリル(ACN) 0.5mlで各30分間4回洗浄した。次いで、ゲル片をSpeedVacコンセントレータ中で乾燥させた後、一晩37℃にて25mM重炭酸アンモニウム中のトリプシン(配列決定等級,Promega)を用いてタンパク質を特徴的フラグメントに分解させた。20μlの2%トリフルオロ酢酸(これはまたゲルからペプチドを抽出した)を添加して消化を終結させた。室温にて2時間後、C18 Ziptips(Millipore)を使用して消化緩衝液からペプチドを精製した。簡潔には、2×10μlのMilli-Q水中50% ACN、0.1% TFAを用いて固相を馴化した。10μlの0.1% TFAでの2回の洗浄により有機溶媒を洗い流した。サンプルを数回吸引分配し、続いて0.1% TFAで2回洗浄して塩及び未結合物質を除去した。精製ペプチドを(0.7μlのマトリックス、2,5-ジヒドロキシ安息香酸(30% CAN中3mg/ml)が添加された)サンプルターゲット(Anchorchip target, Bruker Daltonik)に直接溶出した。正帯電イオンの質量スペクトルを、リフレクターモードで稼動したBruker Reflex III装置(Bruker Daltonik)に記録した。各サンプルから合計160〜210のシングルショットスペクトルを蓄積した。製造業者から提供されたXMASS 5.0及びMS Biotoolsソフトウェアパッケージをデータ処理に使用した。トリプシンからの公知の自己タンパク質分解産物を内部キャリブレーションに使用した。
【0163】
MS/MS分析
ペプチド抽出物の各々から、ステンレス鋼製MALDIターゲット上に直接0.5μlをスポット状に塗布し、乾燥させた。5mg/mlのα-シアノ-4-ヒドロキシ桂皮酸、50%アセトニトリル、0.1% TFA及び50mMクエン酸を含有する0.5μlのマトリックス溶液を添加し、乾燥させた。4700 Proteomics Analyzer(Applied Biosystems, Framingham, CA,米国)マススペクトロメータをポジティブリフレクターモードで使用して、MALDI-TOF-MS及びMS/MSスペクトルを獲得した。m/z値が842.51及び2211.097の2つのトリプシン自己タンパク質分解ペプチドを使用して、得られたMSスペクトルを内部較正した。NCBI非冗長データベースを検索するインハウスMascotサーチエンジン(Matrix Science, London,英国){Perkins, 1999 #132}と共にGPS Explorerソフトウェアを用いてタンパク質同定を行った。検索で指定したパラメータは以下のとおりであった:taxa、Mammalia;missed cleavages、1;peptide mass tolerance、±30ppm;fragment ion mass tolerance、±0.15Da;variable modifications、none。
【0164】
データベース検索
タンパク質同定のために、ProFoundペプチドマッピング(バージョン4.10.5, The Rockefeller University Edition)及びMascotソフトウェア(Matrix Science Ltd)を用いて、NCBIデータベース中のヒトタンパク質配列を検索した。
【0165】
ウェスタンブロット
製造業者の指示に従って12% Bis-Trisゲル(Invitrogen,米国)でウェスタンブロットを行った。簡潔には、20μgのタンパク質を2.5mlのLDSサンプル緩衝液(Invitrogen,米国)と共にゲルにロードし、1×MOPSランニング緩衝液中で50分間200Vで泳動した。電気泳動後、ゲルを1時間30VでPDVFメンブレン(Bio-Rad,米国)上にブロットし、その後メンブレンを、0.1% Tween20(登録商標)(ICN Biomedichals Inc., Ohio,米国)及び2%脱脂粉乳(Bio-Rad,米国)を含有するTris緩衝化生理食塩水(TBS)と一晩4℃でインキュベートした。
【0166】
ブロットを一次マウスモノクローナルIgG1抗体(抗-ヒト-Hbγ(2%脱脂粉乳を含むTBS-T中1:8000希釈)(Nordic Biosite AB,スウェーデン)と1時間インキュベートし、その後、メンブレンをTBS-T中で1回15分間及びTBS-T中で3×5分間洗浄した。洗浄後、ブロットをヤギ抗-マウスIgG1-HRP二次抗体(TBS-T中1:5000希釈)(SDS Santa Cruz Biotechnology,米国)と1時間インキュベートし、その後メンブレンを上記のように洗浄した。その後、メンブレンをEnhanced chemilumeniscence ECL+(GE Healthcare Biosciences,英国)に3分間曝露した。オートラジオグラフィックフィルム(Hyperfilm ECL, Amersham,米国)をブロットに1分間適用して、十分な露光を得た。
【0167】
RNA抽出
RNEasy(Qiagen)を製造業者の指示に従って用いて、上記と同じ患者の10のPE-サンプル及び10のコントロール-サンプルからトータルRNAを抽出した。簡潔には、RNEeasy溶解緩衝液(RLT緩衝液t及びβ-メルカプトエタノール)(Qiagen)中でTissueLyzerを用いて胎盤サンプルをホモジナイズした。70%エタノール中でサンプルを沈降させ、次いでRNEasyミニカラムを製造業者のプロトコルに従って用いて分離した。50μlのRNAseを含まないH2O中にサンプルを溶出させた。
【0168】
リアルタイムPCR(同上)
逆転写酵素を製造業者のプロトコル(Applied Biosystems)に従って用いてcDNAを合成した。簡潔には、50mlの反応ミックス(0.5mgのトータルRNA、1×TaqMan RT緩衝液、5.5mM MgCl2、500mM dNTP、2.5mMランダムヘキサマー、0.4U/ml RNase阻害剤及び1.25U/ml MultiScribe逆転写酵素)を使用した。この反応液を25℃(10分間)、48℃(30分間)、最後に95℃(5分間)でインキュベートした。分析までサンプルを−20℃で保存した。
【0169】
ABI PRISM(登録商標) 7000配列検出システム(Applied Biosystems)を用いる定量的RT-PCRにより、獲得した遺伝子転写物を定量した。TF(アッセイID:Hs00169070_m1)及びHbδ(アッセイID:Hs00426283_m1)用のプライマー及びプローブは、Assays-on-Demand(商標)(Applied Biosystems)に注文した。混入ゲノムDNAの増幅を回避するために、プライマーは、少なくとも1つのエキソン境界をカバーした。反応は、以下の最終濃度を含有する25mlの最終容量で行った:1×Universal PCR Master Mix(Applied Biosystems)、0.25mmol/lのプローブ、それぞれ0.9mmol/lのフォワード及びリバースプライマー及び2.2mlのDNAアリコート。熱サイクルは、50℃にて2分間のUNG活性化及び95℃にて10分間の最初の変性で開始した。変性後、40サイクルを行った:95℃にて15秒間、60℃にて1分間。テンプレートを含まない2つの陰性コントロールを増幅セットごとに含ませた。β-アクチンを参照として使用して、サンプルからのシグナルを規格化した。定量化は、テンプレートDNAの4倍系列希釈物(0.08〜80ng)を用いて較正曲線を作成することによって達成した。結果は、分母にβ-アクチンを用いた比として表す。
【0170】
インサイチュハイブリダイゼーション(同上)
インサイチュハイブリダイゼーションは、18のPEサンプル及び19のコントロールサンプルについて行った。クリオスタット切片を解凍して、シアリン処理したスライド上にマウントし、これを使用するまで−80℃にて保存した。新鮮な凍結組織を用いてmRNA検出を最大化した。切片を固定し、脱水し、脱脂し、ハイブリダイズさせた。80mlのハイブリダイゼーション緩衝液(20mM Tris-HCl(pH7.4)、1mM EDTA(pH8.0)、300mM NaCl、50%ホルムアミド、10%硫酸デキストラン、1×Denhardtの25mg/ml酵母tRNA、100mg/mlサケ精子DNA、250mg/mlトータル酵母RNA(画分XI、Sigma)、150mM DTT、0.15%チオ硫酸ナトリウム(NTS)及び0.15% SDS)当たり2×106cpmの変性35S-cRNAプローブを用いて、20〜24時間、55℃でハイブリダイゼーションを行った。洗浄後、スライドをKodak Hyperfilm Biomax MRに2日間並置し、その後核トラック乳剤(nuclear track emulsion)(NTB,Kodak)で被覆した。スライドに4℃で4週間曝露し、その後Dektol(Kodak)で現像し、固定してギムザ染色で対比染色した。
【0171】
結果
抽出した胎盤タンパク質を2D-PAGEにより分離し、PEを有する患者と健常コントロールとの間のタンパク質発現の差を調べた。第1の実験設定では、400μgのサンプルをIPG-ストリップにロードし、Hoefer DALTゲル装置を用いて第2次元目を泳動した。唯一のスポットが2群間で有意に異なって提示された。このスポットを同定するために、800μgのサンプルをゲルにロードし、2つのPE及び2つのコントロールサンプルの合計4つのサンプルを泳動した。定性分析のために、第2次元目を泳動した。その際、PEサンプル中に、2つ目の異なって発現するスポットを裸眼で検出した(図8)。この目的の2つのタンパク質スポットをゲルから打ち抜き、酵素消化し、MALDI-TOF MSを用いて同定した。第1のタンパク質をトランスフェリンと、第2のタンパク質をヘモグロビンと同定した。
【0172】
MALDIデータを用いてヘモグロビンのサブクラスを確証することはできなかった。したがって、このスポットを更に、MS-MS分析を用いる配列分析に供した。MS-MSデータは、得られた配列がヘモグロビンのδ鎖(Hbδ)に属することを示した。タンパク質分析と一致して、リアルタイムPCRもまた、PE胎盤中で、Hbδの遺伝子発現がコントロールに対して有意に増加したことを示した(p=0.04)(図9)。
【0173】
インサイチュハイブリダイゼーションにより、絨毛内スペースの全体にわたるHbδ mRNAを発現する単一細胞が示された。Hbδ mRNA発現細胞は胎盤血管中及び胎盤血管の周囲に特に見られた。PE胎盤は、管の外に散在しているHbδ mRNA発現細胞がコントロールより多いようであった。トロホブラスト細胞中にはシグナルは検出されなかった。Hbδ発現細胞の細胞形態は、陽性細胞上に被さった銀粒子によって隠されていた(図10)。
【0174】
考察
本発明者らの現在の知見は、本明細書において、PE中のHbδ-タンパク質及び対応する遺伝子の増加した発現を証明することによって胎盤の造血を支持している。
胎盤では、増加したレベルのHbδ mRNAがタンパク質に翻訳される。本発明者らは本明細書中で、このタンパク質がPE胎盤中に蓄積されることを示した。しかし、産生されるHb鎖がポルフィリン環及びFeイオンを有する機能的なHb分子に編成されるかは確かではない。鉄の輸送及び細胞取り込みはトランスフェリン(TF)により促進される。本発明者らの2D-ゲルにより、PE胎盤は細胞内TFが欠乏していることが示される。PE胎盤中でのTFタンパク質の欠乏は、Hbδ発現細胞集団中への鉄輸送の損傷を反映している可能性がある。よって、Hb産生細胞は鉄供給を欠損し、PE胎盤中でのHb鎖及び/又は機能不全Hb分子の蓄積を導いている可能性がある。
【0175】
興味深いことに、インサイチュハイブリダイゼーションはHbδのmRNA発現を示したにもかかわらず、コントロール胎盤ではヘモグロビンは蓄積しなかった。健常胎盤は、PE胎盤とは対照的に、タンパク質分解の調節によるか、又は単に造血の髄外部位であることによるかのいずれかでHbの産生を調節できる可能性がある。欠損Hb合成は赤芽球の欠損を導き、次いでこれらは耐性が減少し、容易に崩壊し、より多い遊離Hbを導き得る。
【0176】
実施例4
HLA-DPA1 RNA発現の検出
定量的RT-PCRを行って、HLA-DPA1 RNA発現を分析した。
サンプル収集;組織サンプリング及び取扱い;RNA抽出;及びリアルタイムPCR増幅は、必要な改変を加えて実施例1に記載のように行った。
【0177】
結果
主要組織適合性複合体クラスII、DPα1(HLA-DPA1)は、他の全ての群と比較してノッチを有する群で有意にアップレギュレートされた(ノッチを有さないPEに対してはp=0.01、ノッチを有するPEに対してはp=0.02、コントロールに対してはp=0.01)(図4Dを参照)。
【0178】
考察
ノッチを有すると診断された女性は、妊娠後期にPEを発症するリスクがより高い。しかし、ノッチを有する全ての女性がPEを発症するわけではないという事実は、ノッチを有する女性が保護遺伝子を発現するか有害遺伝子を抑制する可能性を示唆する。マイクロアレイ及びqPCRの両方が、他の全ての群に対するノッチ群におけるHLA-DPA1の発現増大を示した。HLA-DPA1は、そのメンバーが適応免疫応答の一部として外来抗原の提示を担うクラスII主要組織適合性複合体(MHC)ファミリーの一部である。クラスI MHC分子(HLAタイプG及びE)のみがトロホブラスト細胞で発現する。これらは、胎児-母体境界で、母体免疫応答を変化させ、母体の免疫応答から胎児を保護すると考えられている。よって、MHCクラスII分子であるHLA-DPA1は、トロホブラストにより製造されない可能性がある。代わりに、それは、胎盤中の胎児細胞の存在に対する母体の反応であり得る。
【0179】
胎児細胞は、妊娠の間に母体循環に進入することが知られており、そのレベルは正常妊娠の過程で増加する。このことは、胎盤障壁を横切る母体系への胎児細胞の連続的な流れを示唆する。PEでは、母体循環中の胎児細胞の数が、正常血圧妊婦に対して増加している。上記のように、ノッチ群におけるHLA-DPA1の発現増大は、母体免疫系が胎盤中の「外来」抗原(具体的には、その中の胎児細胞)に対して反応している可能性を示唆している。よって、HLA-DPA1は、破壊のために細胞を同定し、タグ化することにより、胎児細胞が母体系へ進入することを予防する免疫学的障壁の構築に寄与している可能性がある。本発明者らの実験で観察されたHb-発現細胞が胎児起源であれば、HLA-DPA1はまたこれら細胞が胎盤中に漏れ出ることを予防し、そうすることによりヘモグロビン及び遊離ヘムの過剰産生から胎盤を保護している可能性がある。
【0180】
実施例5
血漿及び尿中のヘモグロビン及びα1-ミクログロブリン濃度、α1-ミクログロブリンによる抗酸化及びインビトロ胎盤灌流
材料及び方法
ヘモグロビン
ヘモグロビンはSigmaより購入した。オキシヘモグロビン-Aは本発明者らの研究室で以下のとおり調製した。50mlのヒト血液からの赤血球を遠心分離(1200×g,10分)により単離し、10容量のリン酸緩衝化食塩水(PBS,10mMリン酸,pH7.4;120mM NaCl及び3mM KCl)で4回洗浄した。次いで、氷上で低張性緩衝液(20容量のH2O:1容量のPBS)中に再懸濁することにより血液細胞を溶解させた。遠心分離(14000×g,20分)によりサイトゾルから膜を分離し、上清を4℃で15mM Tris-HCl(pH8.0)に対して3回透析した。200mlのDEAE-Sephandex A-50(Amersham Biosciences AB, Uppsala,スウェーデン)をカラムに詰め、透析した上清をゲルに適用し、15mM Tris-HCl(pH8.0)及び15mM Tris-HCl(pH8.0)+0.2M NaClからなるグラジエントにより分離した。画分を収集し、280nm、577nm及び630nmで吸光度を測定してオキシヘモグロビン-Aを同定してその濃度を決定したオキシヘモグロビンFは同じプロトコルに従ってヒト臍帯血から調製した。
【0181】
タンパク質及び抗体
[Kwasekら,2007]に記載のとおりに、組換えヒトα1-ミクログロブリン(α1m)をE.coliで発現させ、精製し、リフォールディングさせた。ウサギ抗-マウスイムノグロブリン、ウサギ抗-ヘモグロビン及びブタ抗-ウサギイムノグロブリン-アルカリホスファターゼ(ALP)はDako(デンマーク)から購入した。マウスモノクローナル抗-ヘモグロビンγ鎖抗体は、Santa Cruz Biotechnologies Inc(カタログ番号sc-21756)から購入した。ウサギ抗-ヒトα1m及びヤギ抗-ウサギイムノグロブリンはそれぞれ[Elbashirら,1990、Bjorckら,1977]に記載のように調製した。ヒトα1mに対するモノクローナルマウス抗体(BN11.10)は、[Babiker-Mohamedら,1991]に記載のように調製した。
【0182】
ヨウ素での標識
クロマリン-T法[Greenwoodら,1963]を用いて、タンパク質を125I(Bio-Nuclear AB, Stockholm,スウェーデン)で標識した。Sephadex G-25 カラム(PD-10,GE Healthcare)でのゲル濾過により、標識タンパク質を遊離ヨウ素から分離した。比活性は、α1mについては約0.3MBq/μgタンパク質であり、イムノグロブリンについては0.5MBq/μgタンパク質であった。
【0183】
患者及びサンプリング
胎盤及び血液サンプルは、Lund University Hospitalに入院した女性から収集した(30のコントロール、30のPE)。サンプリングは、書面による同意を得て実施し、スウェーデン倫理委員会審査部により承認された。子癇前症は、140/90mmHgを上回る血圧かつ0.3g/Lを上回る蛋白尿と定義した{Milne、2005 #89}。両側にノッチを有する患者のみをPEなしでノッチを有する群としてサンプリングした。
【0184】
10×10×10mm立方体の絨毛組織を出産後に取り出し、直後にドライアイス上に置いた。サンプルは、使用まで−80℃で保存した。この組織は、最大級のRNA完全性を確実にするために、RNA抽出前にも凍結切片化の前にも解凍しなかった。血液サンプルは出産前に収集し、使用までPaxgene Blood RNAシステム(Qiagen, Valencia,米国)を用いて−20℃に保存した。これら群の種々のパラメータを表2(段落0156)に記載する。加えて、タンザニア研究の10人の患者及び10人のコントロール被検体からのサンプルを実施例5で調べた(表1参照、段落0062及び0063)。
【0185】
ELISA
競合酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)を固相ラジオイムノアッセイ(SPRIA)について記載したように使用し、[Nilsonら,1986]に記載のような緩衝液、洗浄手順及びインキュベーション時間を用いてヘモグロビン-A濃度を測定した。ヘモグロビン(Sigma)を4μg/mlで被覆し、プレートを洗浄し、ウサギ抗-ヘモグロビンと標準オキシヘモグロビン-A又は未知のサンプルのいずれかとの混合物とインキュベートし、洗浄し、ブタ-抗-ウサギIgG-ALP(Dako)とインキュベートし、洗浄し、最後に基質とインキュベートした。各工程の適切な希釈物及び試薬を別々に力価測定した。吸光度は415nmで読み取った(Bio-Rad Model 550、マイクロプレートリーダー)。全てのインキュベーション工程に使用した容量は、100μlであった。全ての実験を3連で行った。
【0186】
RIA
[Plesnerら,1975;Akerstrom,1985]に記載のようなラジオイムノアッセイ(RIA)によりα1m濃度を決定した。簡潔には、ヒトα1mに対するヤギ抗血清(0.2ml、1:6000希釈)を125I-標識α1m(0.1ml、約0.05pg/ml)及び未知のサンプル又は標準α1m-濃度(0.2ml)と混合した。希釈は0.1Mリン酸ナトリウム(pH7.5)+0.1% BSA(RIA緩衝液)で行った。室温にて一晩インキュベート後、0.3mlのウシ血清及び1.6mlのRIA-緩衝液中15%ポリエチレングリコールを添加することにより抗体結合α1mを沈降させ、1500×Gで40分間遠心分離し、ペレットの125I-活性をWallac Wizard 1470 γカウンター(Perkin Elmer Life Sciences)で分析した。
【0187】
Hb-F濃度の決定
Montage Albumin Depleteキット(カタログ番号LSKAD0024;Millipore)を用いて血漿アルブミンを除去した後に、ヘモグロビンFの血漿濃度をウェスタンブロッティングにより決定した。簡潔には、10のカラムからのビーズを1つのバッチ中にプールし、PBSで洗浄し、50の同じアリコートに分けた。遠心分離後、各アリコートの上清を廃棄し、40μlの血漿(PBSで1:1希釈)を加え、RTにて1時間2回インキュベートした。チューブを遠心分離し、上清を残し、ビーズを1mlの0.1Mグリシン-HCl(pH2.3)及び1mlの0.1M Tris-HCl(pH8)で続けて洗浄した。遠心分離及び上清の除去後、血漿を加え、再びRTにて1時間インキュベートした。遠心分離及びペレットの廃棄後、このようにアルブミンを除去した血漿10μlをSDS-PAGE(T=13.5%;C=3.3%)により分離し、600×希釈したマウス抗-ヒトHb-F/γ-鎖で、続いてウサギ抗-マウスIg(1μg/ml)及び125I-標識ヤギ抗-ウサギIgGで下記のとおりにブロットした。Image Gauge V4.0ソフトウェア(Fuji, Tokyo,日本)及び標準ヘモグロビンF(15及び75ng/ウェル)を用いる陽性バンドの濃度測定によりヘモグロビンFの定量化を達成した。同じプロトコールを使用したがMontage Albumin Depleteキットを用いる工程を省略して、ヘモグロビンFの尿濃度を決定した。
【0188】
ウェスタンブロッティング
SDS-PAGE(T=12%、C=3.3%)を[Laemmli,1970]に記載のとおりに行った。高分子量標準(Rainbow markers, Amersham Biosciences, Buckinghamshire,英国)を用い、還元条件下でゲルを電気泳動した。分離したタンパク質を、[Matsudaira,1987]に記載のようにポリビニリデンジフルオリド(PVDF)メンブレン(Immobilon, Millipore, Bedford, MA,米国)に移した。次いで、メンブレンを適切な抗体とインキュベートし、Westerら[1997]により以前に記載されたように125I-標識二次ヤギ抗-ウサギイムノグロブリンを用いてウェスタンブロットを行い、Fuji FLA 3000 phosphoimaging system(Fujifilm Sweden AB, Stockholm,スウェーデン)を用いてメンブレン上に現像した。
【0189】
α1m-分子の胎盤組織抽出及び調製
[Berggardら,1999]に記載のように、α1mを含有する分子を胎盤組織から精製した。出産後3時間以内に採取した約200gの見かけ上正常期のヒト胎盤を、200mlの50mM Tris-HCl(pH8.0)、0.25Mスクロース、2mM EDTA、ペプスタチン1mg/l、アンチパイン5mg/l、及びロイペプチン10mg/l中でPotter-Elvehjem装置及びタイトフィットのテフロン(登録商標)ペストルを使用してホモジネートした。ホモジネートを10,000Gで10分間遠心分離した。ホモジナイゼーション緩衝液中への1:1懸濁及び10,000Gで10分間の再遠心分離を繰り返すことにより、このペレットを洗浄した。上清を100,000Gで90分間遠心分離した。胎盤膜及び膜結合タンパク質を含有するこのペレットを、0.5%(w/v) Nonidet P-40(BDH Chemicals)も含有する40mlのホモジナイゼーション緩衝液中に溶解させ、20,000Gで30分間遠心分離して微粒子物質を除去した。全ての工程を氷上又は4℃で行った。Affigel Hz(20mg/ml)に製造業者の指示(Bio-Rad Laboratories, Richmond, CA,米国)に従って固定化したモノクローナルマウス抗-α1m(BN11.10)を用いて免疫吸着アフィニティークロマトグラフィーを行った。
【0190】
インビトロ胎盤灌流
今日まで、PEの妥当な動物モデルは存在しない。遊離ヘモグロビンの効果を調べるため、本発明者らは、Henning Schneider(Greifswald,ドイツ)と共同でデュアル胎盤灌流モデルを構築している。デュアル-胎盤灌流は、胎盤血流をインビトロで研究するための十分に確立したモデルである[Schneiderら,1985]。最近、このモデルは、キサンチン及びキサンチンオキシダーゼでROS形成を誘導することによりPEを模擬するために使用された[Di Santoら,2007]。本発明者らのごく最近のデータは、キサンチンを灌流した胎盤がPE胎盤と類似する遺伝子プロフィールを有することを示している。
【0191】
ヒト胎盤に酸素化媒体を人工的に灌流させる。蠕動ポンプを用いて母体循環及び胎児循環の両方(したがって「デュアル」)を灌流する。2つの別々の回路からの媒体を漏れについてモニターする。上記の技術で媒体及び胎盤組織を分析する。
【0192】
実施例5.1
ヘモグロビン-Aは子癇前症の血漿中で上昇する
結果
結果を図11〜12に示す。30人の子癇前症を有する患者及び30人のコントロール妊婦の血漿中の総ヘモグロビン濃度のELISAによる決定は、子癇前症群におけるほぼ2倍の増加を示した。患者群の平均値±SDは3.01±0.39ug/mlであり、コントロール群では4.44±1.0であった。この差は有意である(P<0.05)。
【0193】
実施例5.2
ヘモグロビン-Fは子癇前症の血漿及び尿中で上昇する
血漿及び尿中の胎児ヘモグロビンは、ウェスタンブロッティングで、抗-γ鎖と反応する15kDa-バンドとして観察された。図13は、2人の患者(PE1及びPE2)及び2人のコントロール被検体(コントロール1及び2)の血漿に適用したウェスタンブロッティング法の例を示す。この方法の検出限界は、血漿中では約5μg/ml、尿中では1ug/mlであった。Hb-Fの濃度を濃度測定により推定した。表1は、PE群及びコントロール群からの血漿サンプル及び尿サンプル中のHb-Fの頻度を示す。9人の患者の血漿中でバンドが見られた一方、陽性であったコントロール個体はいなかった。よって、9人の患者女性が血漿中5μg/mlより多い胎児ヘモグロビンを有しており、コントロール女性はそのような多い胎児ヘモグロビンを有していなかった。コントロール女性の血漿濃度(すなわち、正常血漿濃度)がTurpeinenら[1992]の研究により示唆されているように0.04ug/mlであると仮定すると、本発明者らの結果は、PEを有する患者の20%において胎児ヘモグロビンが125倍増加していることを示している。8人の患者及び2人のコントロールの尿がバンドを含んでいた(表3)。これら2人のコントロール個体は、マラリア感染の発生率が高いタンザニア人女性に見出された。67kDaの弱い陽性バンド(アルブミンを示す可能性が最も高い)は、全てのサンプルで等しい強度で見られた。
【0194】
【表3】

【0195】
実施例5.3
血漿ヘモグロビン-A及びFの時間依存性
子癇前症の可能性のある初期病原因子は、例えば灌流揺らぎ(faltering perfusion)、異常着床又は飢餓による、低酸素症である。低酸素症は、胎児及び成人の両方の造血幹細胞及び始原細胞でのHb-F発現をアップレギュレートし得る[Narayanら,2005]。これは、胎盤の物理的障壁に対する傷害と共に、ステージ1と2との間で胎児細胞及び遊離Hb-Fの母体循環中への漏れを導き得る(図15を参照)。この疾患が進行するにつれて、数は増加し、このことは増加した遊離胎児ヘモグロビンレベルとしてモニターすることができる。母体の脈管壁が遊離胎児ヘモグロビンにより損傷を受けると、母体の血液細胞もまた死に始める。これは遊離母体ヘモグロビンレベルの増加を導き、この疾患の負のスパイラルを更に駆動する。この仮説は、Hb-Fが総Hbに先行することである。
【0196】
実施例5.4
α1mは子癇前症の血漿及び尿中で上昇する
小さな血漿及び組織タンパク質α1-ミクログロブリン(α1m)がヘム-結合体[Allhornら,2002;Larssonら,2004]及びラジカルスカベンジャー[Akerstromら,2007]であり、α1mが遊離ヘモグロビンと混合されると、C末端テトラペプチドLIPRのタンパク質分解的除去によりヘム分解形態t-α1mが誘導される[Allhornら,2002]。遊離ヘモグロビン及び反応性酸素種は、肝臓細胞及び血液細胞におけるα1mの増大した産生を引き起こす[Allhornら,2002]。したがって、α1mは、細胞及び組織成分に対するヘム誘導性及びヘモグロビン誘導性の損傷から保護することができる可能性のあるヘムアンタゴニストかつヘモグロビンアンタゴニストである。
【0197】
この仮説に合わせて、本発明者らは、α1mの濃度が子癇前症を有する患者の血漿及び尿中で、コントロール妊婦と比較して上昇することを見出した(血漿及び尿の両方でP<0.01の有意性)(図15)。患者の平均血漿α1m濃度(±SD)は19.1(±5.5)ug/mlであり、コントロールでは16.1(±3.7)μg/mlであった。患者の平均尿α1m濃度(±SD)は9.4(±5.5)μg/mlでありコントロールでは5.3(±4.6)μg/mlであった。これら結果は、1)身体が子癇前症の侵襲に対してα1m産生増加によって応答し、そのために血漿濃度が上昇すること、及び2)α1mが増加したヘモグロビン、ヘム、鉄及び/又はROSにより細胞中でアップレギュレートされるので、ヘモグロビン、ヘム、鉄及び/又はROSがその侵襲の成分であることを示唆している。したがって、α1mは子癇前症侵襲に対する身体の防御反応である可能性が最も高い。結果的に、α1m濃度の更により高いレベル(例えば32μg/ml(正常濃度の2倍))への増加は抗-子癇前症効果を有するはずであり、したがってα1mはこの疾患の治療のための潜在的薬物である。
【0198】
実施例5.5
α1mは抗酸化及びヘム結合により細胞成分及び組織成分を保護する
α1mの抗酸化特性を図16及び17で説明する。第1に、細胞外に与えたα1mは、細胞サイトゾル及びサイトゾルタンパク質チオール基のレドックス電荷を減少させ、ヘム及びROSによるこれら成分の酸化を阻害することができることが示された。細胞外に与えたα1mはまた、ヘムにより誘導される細胞溶解(すなわち、細胞死)を阻害する(図16)。コラーゲン及び低比重リポタンパク質(LDL)の酸化的改変は、多くの疾患の病因に関与し、子癇前症におけるHb-誘導性酸化の標的でもあり得る。α1mはコラーゲン、LDL、膜脂質及び全細胞のヘム-及びROS-誘導性酸化を阻害した。α1mはまた、コラーゲン及びLDL上の予め形成された酸化産物を除去した(図17)。これら作用の可能性のある機序は、酸化剤を還元するα1mのレダクターゼ特性、酸化改変、又はその両方であり得る。
【0199】
α1mの細胞保護効果の機序を調べるために、本発明者らは、一連の実験を行ってタンパク質と細胞結合ヘムとの間の相互作用を分析しようと試みた。第1に、細胞を10μMのヘムと30分間インキュベートし、過剰なヘムを洗い流し、α1m又はコントロールタンパク質を2又は10μMの濃度に与え、2時間インキュベートした。培養培地を残し、細胞を洗浄して可溶化させ、培地及び可溶化細胞の両方を質量分析(図18A)により、及び視覚的に(図18B)分析した。ヘムは、細胞の強い茶色の着色部として観察され、代表的吸光スペクトルは400nm付近の明確でないピークを有した。α1mを加えると、ヘムは細胞からほぼ完全に除去され、代わりに培地中に見出された。コントロールリポカリン(lipocalin)AGPは細胞結合ヘムに効果を有さなかった。本発明者らは、子癇前症における遊離ヘムのレベルは少なくとも局所的には10μM以上に達し得、遊離ヘムの毒性効果により影響される細胞としては血管を裏打ちする内皮細胞が挙げられると予測した。
【0200】
上記の幾つかの場合で記載したように、ヘモグロビン及びヘムの自己酸化により賛成した遊離ヘモグロビン、遊離ヘム及びROSによる酸化的侵襲は、子癇前症の進行の主要な病原因子を構成すると考えられる。コラーゲン並びに内皮細胞の膜及びサイトゾルは、当然のことながら、酸化的侵襲の重要な標的である。本実施例の結果によれば、おそらく、α1mはインビボでも遊離ヘモグロビン、ヘム及びROSによる損傷を阻害及び修復することができ、したがって子癇前症における治療薬として作用することができる。
【0201】
実施例5.6
ヘモグロビンのインビトロ灌流は胎盤漏れ及びα1m-アップレギュレーションを誘導する
インビトロ胎盤灌流モデルを使用して、2つの別々の循環系、胎児側及び母体側で子癇前症を研究した。両方の循環系をまずリンスした。次いで、胎盤を、胎児側ではHb-A溶液(2mg/ml)で120分間、母体側では緩衝液のみで120分間灌流し(「第1灌流」)、そして両側で緩衝液のみで120分間灌流した(「第2灌流」)。両方の循環から定期的に小さなアリコートを採取し、Hb-A、Hb-F及びα1mの濃度を測定した。図19(左側)に示すように、Hb-Aは、第1灌流の間に母体側に迅速に出現し、第2灌流の間により少ない程度になった。これは、Hb-Aの漏れ若しくは胎盤組織中の内因性産生又はその両方の結果であり得る。α1mはまた、両方の灌流期間の間に母体側に出現した(図19(右側))。このことは、α1mが、ヘモグロビン灌流の結果、胎盤組織で産生されることを示唆する。最後に、Hb-Fは、おそらくは胎盤における産生及び母体の循環中への漏の結果として、第1灌流(120分)の終わりに母体循環中に出現した。
【0202】
よって、インビトロ灌流モデルは、胎盤の障壁機能に対する胎児循環中の遊離ヘモグロビンの効果、α1mの保護効果及び組織の保護的細胞応答を研究するために使用することができる。
【0203】
実施例5.7
互いに結合したα1m及びヘモグロビンからなる胎盤中の新たな分子
2つの分子を溶液中で混合するとα1mがヘモグロビンからヘム基を「盗む」ことができることは以前に示された[Allhornら,2002;Larssonら,2004]。これをインビボで達成するために、ヘモグロビン及びα1m分子は互い必需であるべきである。このようなα1m-ヘモグロビン分子の証拠は、α1m-含有分子種の単離に続く抗-Hbブロッティングでの分析後に、胎盤抽出物中で観察された(図20)。43-kDaタンパク質バンドは、α1m及びHb-Aの両方に対する抗体と反応した。このバンドは、Maldi-MSペプチドマッピングにより、α1m並びにα-及びβ-の両方のグロビン鎖を含有することが示された(示さず)。この分子のサイズは、該分子がα1mからなる一方の鎖及びHbα又はHbγのいずれかであり得る別の1つの鎖から構成されることを示唆している。このバンドは、メルカプトエタノールの添加後には観察できなくなった。このことは、これら鎖がジスルフィド結合により一緒に保持されていることを示している。
【0204】
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【0212】
項目(本発明の具体的実施形態)
1.以下の工程:
(a)妊娠雌性哺乳動物から生物学的サンプルを得る工程;
(b)前記生物学的サンプル中の遊離胎児ヘモグロビンのレベルを測定するか又は遊離胎児ヘモグロビンのレベル及び総遊離ヘモグロビンのレベルを測定する工程;及び
(c)サンプル中の遊離胎児ヘモグロビンのレベルを参照値と比較するか又はサンプル中の遊離胎児ヘモグロビンのレベルと総遊離ヘモグロビンのレベルとの間の比を参照値と比較して、前記妊娠雌性体が子癇前症を有するか否か又は子癇前症を発症するリスクが増大しているか否かを決定する工程
を含んでなる子癇前症を診断するため又は子癇前症診断を補助するための方法。
【0213】
2.前記参照値が、コントロール群からのサンプル中の遊離胎児ヘモグロビンのレベル又は遊離胎児ヘモグロビンのレベルと総遊離ヘモグロビンのレベルとの間の比であり、ここで、参照値より高いサンプル中の遊離胎児ヘモグロビンのレベル又は比が、前記妊娠雌性体が子癇前症を有するか又は子癇前症を発症するリスクが増大していることを示す項目1に記載の方法。
【0214】
3.生物学的サンプルが血液である項目1又は2に記載の方法。
4.生物学的サンプルが尿である項目1又は2に記載の方法。
5.生物学的サンプルが胎盤組織である項目1又は2に記載の方法。
6.遊離胎児ヘモグロビンのレベルが、サンプル中のヘモグロビンγ鎖(Hbγ)のレベルを測定することにより測定される項目1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【0215】
7.遊離胎児ヘモグロビンレベルが免疫学的アッセイを使用して測定される項目1〜6のいずれか1項に記載の方法。
8.免疫学的アッセイがELISAである項目7に記載の方法。
9.遊離胎児ヘモグロビンレベルが遊離胎児ヘモグロビンRNAを測定することにより決定される項目1〜6のいずれか1項に記載の方法。
10.遊離胎児ヘモグロビンRNAがリアルタイムPCRを使用して測定される項目9に記載の方法。
11.前記哺乳動物がヒトである項目1〜10のいずれか1項に記載の方法。
【0216】
12.(a)妊娠雌性哺乳動物から単離した第1の生物学的サンプル中の遊離胎児ヘモグロビンのレベルを測定するか又は遊離胎児ヘモグロビンのレベル及び総遊離ヘモグロビンのレベルを測定すること;
(b)前記妊娠雌性哺乳動物からその後に単離した第2の生物学的サンプル中の遊離胎児ヘモグロビンのレベルを測定するか又は遊離胎児ヘモグロビンのレベル及び総遊離ヘモグロビンのレベルを測定すること;及び
(c)工程(a)及び(b)で測定した値を比較すること
を含んでなり、ここで、第1のサンプル中の遊離胎児ヘモグロビンレベルに対する第2のサンプル中の遊離胎児ヘモグロビンレベルの増加又は第1のサンプル中の遊離胎児ヘモグロビンのレベルと総遊離ヘモグロビンのレベルとの間の比に対する第2のサンプル中の遊離胎児ヘモグロビンのレベルと総遊離ヘモグロビンのレベルとの間の比の増加が、子癇前症の進行を示し;第1のサンプル中の遊離胎児ヘモグロビンレベルに対する第2のサンプル中の遊離胎児ヘモグロビンレベルの減少又は第1のサンプル中の遊離胎児ヘモグロビンのレベルと総遊離ヘモグロビンのレベルとの間の比に対する第2のサンプル中の遊離胎児ヘモグロビンのレベルと総遊離ヘモグロビンのレベルとの間の比の減少が子癇前症の退行を示す、子癇前症の進行又は退行をモニターする方法。
【0217】
13.以下の工程:
(a)治療前の妊娠雌性哺乳動物から得た第1の生物学的サンプル中の遊離胎児ヘモグロビンのレベルを測定するか又は遊離胎児ヘモグロビンのレベル及び総遊離ヘモグロビンのレベルを測定する工程;
(b)治療後の同じ妊娠哺乳動物からの第2の生物学的サンプル中の遊離胎児ヘモグロビンのレベルを測定するか又は遊離胎児ヘモグロビンのレベル及び総遊離ヘモグロビンのレベルを測定する工程;及び
(c)(a)で決定したレベルを(b)で決定したレベルと比較する工程
を含んでなり、ここで、第1のサンプル中の遊離胎児ヘモグロビンレベルに対する第2のサンプル中の遊離胎児ヘモグロビンレベルの減少又は第1のサンプル中の遊離胎児ヘモグロビンのレベルと総遊離ヘモグロビンのレベルとの間の比に対する第2のサンプル中の遊離胎児ヘモグロビンのレベルと総遊離ヘモグロビンのレベルとの間の比の減少が、前記治療が子癇前症の治療に対して効果的であることを示す、子癇前症ついての治療の効力を評価する方法。
【0218】
14.妊娠雌性哺乳動物の生物学的サンプル中の遊離胎児ヘモグロビンのレベルを測定する手段及び前記検出手段を使用するための指示書を含んでなる、項目1〜11のいずれか1項に記載の方法に従う、子癇前症の診断又は該診断の補助のためのアッセイキット。
15.遊離胎児ヘモグロビンのレベルがヘモグロビンγ鎖(Hbγ)のレベルを測定することにより測定される項目14に記載のアッセイキット。
16.総遊離ヘモグロビンのレベルを検出するための手段を更に含んでなる項目14又は15に記載のアッセイキット。
【0219】
17.以下の工程:
(a)妊娠雌性哺乳動物から生物学的サンプルを得る工程;
(b)前記生物学的サンプル中の遊離ヘモグロビンのレベルを測定するか又は遊離ヘモグロビンサブユニットのレベル及び総遊離ヘモグロビンのレベルを測定する工程;及び
(c)サンプル中の遊離ヘモグロビンのレベルを参照値と比較するか又はサンプル中の遊離ヘモグロビンサブユニットのレベルと総遊離ヘモグロビンのレベルとの間の比を参照値と比較して、前記妊娠雌性体が子癇前症を有するか否か又は子癇前症を発症するリスクが増大しているか否かを決定する工程
を含んでなる子癇前症を診断するため又は子癇前症診断を補助するための方法
【0220】
18.前記参照値が、コントロール群からのサンプル中の遊離ヘモグロビンのレベル又は遊離ヘモグロビンサブユニットのレベルと総遊離ヘモグロビンのレベルとの間の比であり、ここで、参照値より高いサンプル中の遊離ヘモグロビンのレベル又は比が、前記妊娠雌性体が子癇前症を有するか又は子癇前症を発症するリスクが増大していることを示す、項目17に記載の方法。
【0221】
19.生物学的サンプルが血液である項目17又は18に記載の方法。
20.生物学的サンプルが尿である項目17又は18に記載の方法。
21.生物学的サンプルが胎盤組織である項目17又は18に記載の方法。
【0222】
22.遊離ヘモグロビンのレベルが、サンプル中のヘモグロビンα鎖(Hbα)、ヘモグロビンβ鎖(Hbβ)、ヘモグロビンδ鎖(Hbδ)、ヘモグロビンγ鎖(Hbγ)及び/又は総遊離ヘモグロビンのレベルを測定することにより測定される項目17〜21のいずれか1項に記載の方法。
23.遊離ヘモグロビンレベルが免疫学的アッセイを使用して測定される項目17〜22のいずれか1項に記載の方法。
【0223】
24.免疫学的アッセイがELISAである項目23に記載の方法。
25.遊離ヘモグロビンレベルが遊離ヘモグロビンRNAを測定することにより決定される項目17〜22のいずれか1項に記載の方法。
26.遊離ヘモグロビンRNAがリアルタイムPCRを使用して測定される項目25に記載の方法。
27.前記哺乳動物がヒトである項目17〜26のいずれか1項に記載の方法。
【0224】
28.(a)妊娠雌性哺乳動物から単離した第1の生物学的サンプル中の遊離ヘモグロビンのレベルを測定すること;
(b)前記妊娠雌性哺乳動物からその後に単離した第2の生物学的サンプル中の遊離ヘモグロビンのレベルを測定すること
を含んでなり、ここで、第1のサンプル中の遊離ヘモグロビンレベルに対する第2のサンプル中の遊離ヘモグロビンレベルの増加が、子癇前症の進行を示し;第1のサンプル中の遊離ヘモグロビンレベルに対する第2のサンプル中の遊離ヘモグロビンレベルの減少が子癇前症の退行を示す、子癇前症の進行又は退行をモニターする方法。
【0225】
29.遊離ヘモグロビンのレベルが、ヘモグロビンα鎖(Hbα)、ヘモグロビンβ鎖(Hbβ)、ヘモグロビンδ鎖(Hbδ)、ヘモグロビンγ鎖(Hbγ)及び/又は総遊離ヘモグロビンのレベルを測定することにより測定される項目28に記載の方法。
【0226】
30.以下の工程:
(a)治療前の妊娠雌性哺乳動物から得た第1の生物学的サンプル中の遊離ヘモグロビンのレベルを測定する工程;
(b)治療後の同じ妊娠哺乳動物からの第2の生物学的サンプル中の遊離ヘモグロビンのレベルを測定する工程;及び
(c)(a)で決定したレベルを(b)で決定したレベルと比較する工程
を含んでなり、ここで、第1のサンプル中の遊離ヘモグロビンレベルに対する第2のサンプル中の遊離ヘモグロビンレベルの減少が、前記治療が子癇前症の治療に対して効果的であることを示す、子癇前症ついての治療の効力を評価する方法。
【0227】
31.遊離ヘモグロビンのレベルが、ヘモグロビンα鎖(Hbα)、ヘモグロビンβ鎖(Hbβ)、ヘモグロビンδ鎖(Hbδ)、ヘモグロビンγ鎖(Hbγ)及び/又は総遊離ヘモグロビンのレベルを測定することにより測定される項目30に記載の方法。
【0228】
32.妊娠雌性哺乳動物の生物学的サンプル中の遊離ヘモグロビンのレベルを測定する手段及び前記検出手段を使用するための指示書を含んでなる、項目17〜27のいずれか1項に記載の方法に従う、子癇前症の診断又は該診断の補助のためのアッセイキット。
33.遊離ヘモグロビンのレベルが、ヘモグロビンα鎖(Hbα)、ヘモグロビンβ鎖(Hbβ)、ヘモグロビンδ鎖(Hbδ)、ヘモグロビンγ鎖(Hbγ)及び/又は総遊離ヘモグロビンのレベルを測定することにより測定される項目32に記載のアッセイキット。
【0229】
34.ヘモグロビン結合剤及び/又はヘム結合剤;ヘモグロビン分解及び/又はヘム分解を刺激する薬剤;及び胎盤の造血を阻害する薬剤からなる群より選択される少なくとも1つのメンバーを含んでなる組成物の、子癇前症の治療又は予防のための医薬調製物の製造のための使用。
35.前記ヘモグロビン結合剤及び/又はヘム結合剤がα1-ミクログロブリンである項目34に記載の使用。
36.前記ヘモグロビン結合剤及び/又はヘム結合剤がヘモグロビン及び/又はヘムに対して特異的な抗体である項目34に記載の物質の使用。
【0230】
37.治療又は予防を必要とする対象に、ヘモグロビン結合剤及び/又はヘム結合剤;ヘモグロビン分解及び/又はヘム分解を刺激する薬剤;及び胎盤の造血を阻害する薬剤からなる群より選択される少なくとも1つのメンバーを含んでなる有効量の医薬調製物を投与することを含んでなる子癇前症の治療又は予防方法。
38.前記ヘモグロビン結合剤及び/又はヘム結合剤がα1-ミクログロブリンである項目37に記載の方法。
39.前記ヘモグロビン結合剤及び/又はヘム結合剤がヘモグロビン及び/又はヘムに対して特異的な抗体である項目37に記載の方法。
【0231】
40.以下の工程:
(a)妊娠雌性哺乳動物から生物学的サンプルを得る工程;
(b)前記生物学的サンプル中のヒト白血球抗原DPA1(HLA-DPA1)のレベルを測定する工程;及び
(c)サンプル中のHLA-DPA1のレベルを参照値と比較する
を含んでなる子癇前症の予後のための方法。
41.工程(a)〜(c)が、前記妊娠雌性体が子癇前症を発症するリスクが増大しているか否か又は重篤形態の子癇前症を発症するリスクが増大しているか否かを決定するために行う項目40に記載の方法。
【0232】
42.HLA-DPA1の発現又は高発現がHLA-DPA1の無発現より良好な予後を示す項目40又は41に記載の方法。
42.妊娠雌性哺乳動物の生物学的サンプル中のHLA-DPA1のレベルを検出するための手段及び前記検出手段を使用するための指示書を含んでなる項目40〜42のいずれか1項に記載の方法に従う、子癇前症の予後又は該予後を補助するためのアッセイキット。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
子癇前症のマーカーとしての胎児ヘモグロビンの使用。
【請求項2】
前記胎児ヘモグロビンを妊娠雌性哺乳動物の非胎児生物学的サンプル中で測定する請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記非胎児生物学的サンプルが血液サンプル、血漿サンプル、尿サンプル又は胎盤組織のサンプルである請求項2に記載の使用。
【請求項4】
前記サンプルが血漿サンプルである請求項3に記載の使用。
【請求項5】
胎児ヘモグロビンの血漿濃度が血漿中の胎児ヘモグロビンの正常濃度と比較して約20倍又はそれ以上増大している場合、妊娠雌性哺乳動物が子癇前症を有するか、又は子癇前症を発症するリスクが増大している請求項2〜4のいずれか1項に記載の使用。
【請求項6】
胎児ヘモグロビンの血漿濃度が約0.5μg/ml又はそれ以上である場合、妊娠雌性哺乳動物が子癇前症を有するか、又は子癇前症を発症するリスクが増大している請求項2〜5のいずれか1項に記載の使用。
【請求項7】
胎児ヘモグロビン尿濃度が約0.06μg/ml又はそれ以上である場合、妊娠雌性哺乳動物が子癇前症を有するか、又は子癇前症を発症するリスクが増大している請求項2〜6のいずれか1項に記載の使用。
【請求項8】
以下の方法:
i)子癇前症を診断する方法又は子癇前症の診断を補助する方法、
ii)子癇前症の進行又は退行をモニターする方法、
iii)子癇前症治療の効力を評価する方法
の1又はそれ以上における請求項1〜7のいずれか1項の使用。
【請求項9】
子癇前症のマーカーとしての胎児ヘモグロビン。
【請求項10】
以下の工程:
i)妊娠雌性哺乳動物から非胎児生物学的サンプルを得る工程;
ii)前記生物学的サンプル中の遊離胎児ヘモグロビンのレベルを測定するか又は遊離胎児ヘモグロビンのレベル及び総遊離ヘモグロビンのレベルを測定する工程
を含んでなる子癇前症を診断するか又はその診断を補助する方法。
【請求項11】
iii)前記サンプル中の遊離胎児ヘモグロビンのレベルを参照値と比較するか又は前記サンプル中の遊離胎児ヘモグロビンのレベルと総遊離ヘモグロビンのレベルとの間の比を参照値と比較する工程
を更に含んでなる請求項10に記載の方法。
【請求項12】
i)妊娠雌性哺乳動物から単離した第1の生物学的サンプル中の遊離胎児ヘモグロビンのレベルを測定するか又は遊離胎児ヘモグロビンのレベル及び総遊離ヘモグロビンのレベルを測定する工程、
ii)前記妊娠雌性哺乳動物から後に単離した第2の生物学的サンプル中の遊離胎児ヘモグロビンのレベルを測定するか又は遊離胎児ヘモグロビンのレベル及び総遊離ヘモグロビンのレベルを測定する工程
を含んでなる子癇前症の進行又は退行をモニターする方法。
【請求項13】
iii)工程i)及びii)で測定した値を比較する工程
を更に含んでなる請求項12に記載の方法。
【請求項14】
i)治療前に又は時間t1で妊娠雌性哺乳動物から得た第1の生物学的サンプル中の遊離胎児ヘモグロビンのレベルを測定するか又は遊離胎児ヘモグロビンのレベル及び総遊離ヘモグロビンのレベルを測定する工程、
ii)同じ妊娠雌性哺乳動物から後の時点t2に得た第2の生物学的サンプル中の遊離胎児ヘモグロビンのレベルを測定するか又は遊離胎児ヘモグロビンのレベル及び総遊離ヘモグロビンのレベルを測定する工程
を含んでなる子癇前症の治療の効力を評価する方法。
【請求項15】
iii)工程i)及びii)で測定した値を比較する工程
を更に含んでなる請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記生物学的サンプルが血液サンプル、血漿サンプル、尿サンプル又は胎盤組織のサンプルである請求項10〜15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
遊離胎児ヘモグロビンのレベルを、前記サンプル中のヘモグロビンγ鎖(Hbγ)のレベルを測定することにより測定する請求項10〜16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
遊離胎児ヘモグロビンのレベル及び/又は該当する場合には総遊離ヘモグロビンを、免疫学的アッセイを用いて測定する請求項10〜17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
アッセイがELISAである請求項18に記載の方法。
【請求項20】
遊離胎児ヘモグロビンレベルを、遊離胎児ヘモグロビンRNAを測定することにより決定する請求項10〜17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項21】
前記レベルを、リアルタイムPCRを用いて測定する請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記哺乳動物がヒトである請求項10〜21のいずれか1項に記載の方法。
【請求項23】
i)前記生物学的サンプル中のヒト白血球抗原DPA1(HLA-DPA1)のレベルを測定することを更に又は択一的に含んでなる請求項10〜22のいずれか1項に記載の方法。
【請求項24】
ii)前記サンプル中のHLA-DPA1のレベルを参照値と比較すること
を更に含んでなる請求項23に記載の方法。
【請求項25】
i)妊娠雌性哺乳動物の生物学的サンプル中の遊離胎児及び該当する場合には総ヘモグロビンのレベルを検出する手段と、
ii)前記検出手段を使用するための指示書と
を含んでなる請求項10〜22のいずれか1項に規定の方法で使用するアッセイキット。
【請求項26】
i)胎児ヘモグロビンを予め被覆した固相表面と、
ii)妊娠雌性哺乳動物からの単離遊離胎児ヘモグロビン又はその免疫原性ペプチド、フラグメント若しくはエピトープに特異的に結合する1又はそれより多い抗体又はその免疫反応性フラグメントと、
iii)抗原-抗体複合体の形成を検出する手段と、
iv)任意に、使用指示書と
を含んでなる請求項25に記載のキット。
【請求項27】
サンプル中の総ヘモグロビン濃度を測定する構成要素を更に含んでなる請求項26に記載のキット。
【請求項28】
サンプル中の総ヘモグロビン濃度を測定するために必要な構成要素が
i)ヘモグロビンを予め被覆した固相表面と、
ii)妊娠雌性哺乳動物からの単離遊離ヘモグロビン又はその免疫原性ペプチド、フラグメント若しくはエピトープに特異的に結合する1又はそれより多い抗体又はその免疫反応性フラグメントと、
iii)抗原-抗体複合体の形成を検出する手段と、
iv)任意に、使用指示書と
を含んでなる請求項27に記載のキット。
【請求項29】
前記固相表面i)がマイクロタイタープレート中の1又はそれより多いウェルである請求項26〜28のいずれか1項に記載のキット。
【請求項30】
前記抗体又は抗体フラグメントi)が、ヘモグロビンα鎖、ヘモグロビンβ鎖、ヘモグロビンδ鎖、ヘモグロビンγ鎖又はその免疫原性ペプチド、フラグメント若しくはエピトープに特異的である請求項26〜29のいずれか1項に記載のキット。
【請求項31】
前記抗体i)がモノクローナル抗体又はポリクローナル抗体である請求項26〜30のいずれか1項に記載のキット。
【請求項32】
前記抗体がウサギから得られた請求項31に記載のキット。
【請求項33】
前記抗原-抗体複合体の検出手段が標識モノクローナル又はポリクローナル抗体を含んでなる請求項26〜32のいずれか1項に記載のキット。
【請求項34】
前記標識抗体がii)の抗体又はその免疫原性ペプチド、フラグメント若しくはエピトープに特異的に結合する請求項33に記載のキット。
【請求項35】
前記標識抗体が例えばアルカリホスファターゼ標識抗体のような酵素-標識抗体である請求項34又は35に記載のキット。
【請求項36】
前記抗原-抗体複合体の形成を検出する手段が、ブタ-抗-ウサギIgG-アルカリホスファターゼ抗体を含んでなる請求項26〜35のいずれか1項に記載のキット。
【請求項37】
即時使用可能な瓶入りのヘモグロビンの標準希釈系列を更に含んでなる請求項25〜36のいずれか1項に記載のキット。
【請求項38】
子癇前症の予防又は治療のための、ヘモグロビン結合剤、ヘム結合剤、ヘム分解剤及び/又は鉄結合剤から選択される1又はそれより多い物質の使用。
【請求項39】
子癇前症の予防又は治療用の医薬組成物の製造のための、ヘモグロビン結合剤、ヘム結合剤、ヘム分解剤及び/又は鉄結合剤から選択される1又はそれより多い物質の使用。
【請求項40】
前記物質が
i)ヘモグロビンの抗体又はそのフラグメント
ii)ハプトグロブリン
iii)CD163
iv)α1-ミクログロブリン
v)ヘモペキシン
vi)ヘムオキシゲナーゼ
vii)アルブミン
viii)トランスフェリン
ix)フェリチン
から選択される請求項38又は39に記載の使用。
【請求項41】
前記医薬組成物が非経口使用のためである請求項38〜40のいずれか1項に記載の使用。
【請求項42】
前記医薬組成物が経口使用のためである請求項38〜40のいずれか1項に記載の使用。
【請求項43】
その必要がある妊娠雌性哺乳動物に、ヘモグロビン結合剤、ヘム結合剤、ヘム分解剤及び/又は鉄結合剤から選択される1又はそれより多い物質の有効量を投与することを含んでなる子癇前症を予防又は治療する方法。
【請求項44】
以下の工程
i)妊娠雌性哺乳動物から生物学的サンプルを得る工程と;
ii)前記生物学的サンプル中のヒト白血球抗原DPA1(HLA-DPA1)のレベルを測定する工程と;
iii)前記サンプル中のHLA-DPA1のレベルを参照値と比較する工程と
を含んでなる子癇前症の予後法。
【請求項45】
工程(a)〜(c)を実行して、前記妊娠雌性体が子癇前症を発症するリスクが増大しているか否か、又は子癇前症の重篤形態を発症するリスクが増大しているか否かを決定する請求項44に記載の方法。
【請求項46】
HLA-DPA1の発現又は高発現がHLA-DPA1の無発現より良好な予後を示す請求項44又は45に記載の方法。
【請求項47】
妊娠雌性哺乳動物の生物学的サンプル中のHLA-DPA1のレベルを検出する手段と前記検出手段を使用するための指示書とを含んでなる、請求項44〜46のいずれか1項に記載の方法による子癇前症の予後のため又は子癇前症の予後を補助するためのアッセイキット。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図4】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図21】
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【図5】
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【図6】
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【図13】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公表番号】特表2010−518386(P2010−518386A)
【公表日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−548631(P2009−548631)
【出願日】平成20年2月12日(2008.2.12)
【国際出願番号】PCT/EP2008/001051
【国際公開番号】WO2008/098734
【国際公開日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【出願人】(509227012)
【氏名又は名称原語表記】HANSSON, Stefan
【住所又は居所原語表記】Karstopsvagen 46, S−234 42 Lomma, Sweden
【出願人】(509227023)
【氏名又は名称原語表記】AKERSTROM, Bo
【住所又は居所原語表記】Skordevagen 3, S−227 38 Lund, Sweden
【Fターム(参考)】