説明

あと施工アンカーおよびその施工方法

【課題】施工時の騒音・振動や粉塵の発生を低減することができるあと施工アンカーおよびその施工方法を提供する。
【解決手段】本発明のあと施工アンカー10は、既存躯体2に新設躯体4を増し打ちする際に双方を一体化するために用いるあと施工アンカーであって、棒状のアンカー筋12と、このアンカー筋12が貫通して固定され、新設躯体4側に向けて突出する突起14を有する鋼製プレート16とからなるものである。本発明のあと施工アンカー10の施工方法は、既存躯体2に新設躯体4を増し打ちする前に、既存躯体2にアンカー筋12の一端を埋設するとともに鋼製プレート16を既存躯体の表面2aに配置し、アンカー筋12と既存躯体2との間の隙間18にグラウトを注入することより施工するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、あと施工アンカーおよびその施工方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、コンクリート構造物の耐震補強工事において、既存躯体にアンカー筋を打設し、耐震壁などの新設躯体と定着して一体化することが知られている(例えば、特許文献1参照)。この場合、既存躯体と新設躯体との間の付着性を高めるために、既存躯体のコンクリート表面に対して目荒らしを行うことが多い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−332750号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、既存躯体の表面に対する目荒らしは、通常、電動ピックなどを用いて行われるため、騒音・振動が大きいうえに粉塵が発生することから、居住者が建物内に居る状態で施工するいわゆる「居ながらの改修」においては居住快適性が損なわれるため弊害が大きい。また、目荒らしを梁下に対して行う場合には、作業員は粉塵をかぶりながらの作業を強いられることになり、作業環境としても好ましくない。
【0005】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、施工時の騒音・振動や粉塵の発生を低減することができるあと施工アンカーおよびその施工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記した課題を解決し、目的を達成するために、本発明の請求項1に係るあと施工アンカーは、既存躯体に新設躯体を増し打ちする際に双方を一体化するために用いるあと施工アンカーであって、棒状のアンカー筋と、このアンカー筋が貫通して固定され、新設躯体側に向けて突出する突起を有する鋼製プレートとからなることを特徴とする。
【0007】
また、本発明の請求項2に係るあと施工アンカーは、上述した請求項1において、前記鋼製プレートに、前記アンカー筋と既存躯体との間の隙間にグラウトを注入するためのグラウト注入孔を設けたことを特徴とする。
【0008】
また、本発明の請求項3に係るあと施工アンカーは、上述した請求項1または2において、前記アンカー筋にネジを切り、ナットにより前記アンカー筋と前記鋼製プレートとを固定したことを特徴とする。
【0009】
また、本発明の請求項4に係るあと施工アンカーの施工方法は、上述した請求項1〜3のいずれか一つに記載のあと施工アンカーを施工する方法であって、既存躯体に新設躯体を増し打ちする前に、既存躯体に前記アンカー筋の一端を埋設するとともに前記鋼製プレートを既存躯体の表面に配置し、前記アンカー筋と既存躯体との間の隙間にグラウトを注入することを特徴とする。
【0010】
また、本発明の請求項5に係るあと施工アンカーの施工方法は、上述した請求項4において、既存躯体に埋設した前記アンカー筋の周囲に補強部を設けたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係るあと施工アンカーによれば、既存躯体に新設躯体を増し打ちする際に双方を一体化するために用いるあと施工アンカーであって、棒状のアンカー筋と、このアンカー筋が貫通して固定され、新設躯体側に向けて突出する突起を有する鋼製プレートとからなるので、鋼製プレートの突起によって既存躯体と新設躯体の付着性が高められ、既存躯体の表面に対して目荒らしを行わずに済み、施工時の騒音・振動や粉塵の発生を低減することができるという効果を奏する。
【0012】
また、本発明に係るあと施工アンカーの施工方法によれば、既存躯体に新設躯体を増し打ちする前に、既存躯体に前記アンカー筋の一端を埋設するとともに前記鋼製プレートを既存躯体の表面に配置し、前記アンカー筋と既存躯体との間の隙間にグラウトを注入するので、既存躯体の表面に対して目荒らしを行わずに済み、施工時の騒音・振動や粉塵の発生を低減することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、本発明に係るあと施工アンカーおよびその施工方法の実施例を示す断面図である。
【図2】図2は、円形の鋼製プレートの一例を示す平面図である。
【図3】図3は、矩形の鋼製プレートの一例を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明に係るあと施工アンカーおよびその施工方法の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施例によりこの発明が限定されるものではない。
【0015】
図1に示すように、本発明に係るあと施工アンカー10は、コンクリート構造物の耐震補強工事などにおいて、既存躯体2に新設躯体4を増し打ちする際に双方を一体化するために用いるものである。あと施工アンカー10は、棒状のアンカー筋12と、既存躯体2の表面2aに密着して配置され、アンカー筋12が貫通した鋼製プレート16とからなる。
【0016】
鋼製プレート16には、新設躯体4側に向けて突出した突起14が設けてある。この突起14によって新設躯体4側へのダボ効果を期待できるので、既存躯体2の表面2aに目荒らしを施したのと同等以上の効果が見込める。
【0017】
これにより、新設躯体4との一体化を図る上で必要な目荒らしを行わずに済み、目荒らし作業に伴う騒音・振動や粉塵の発生を回避することが可能となる。したがって、増し打ち施工時の騒音・振動や粉塵の発生を低減することができる。とりわけ、梁下やスラブ下で目荒らし作業を回避できるメリットは、作業員の安全衛生面においても大きい。
【0018】
ここで、突起14の数やアンカー筋12の新設躯体4側への跳出し長は、鋼製プレート16の大きさやアンカー筋12の径などに応じて適宜変更することができる。また、鋼製プレート16の厚さや形状も、アンカー筋12の寸法などに応じて適宜変更することができる。
【0019】
鋼製プレート16にはグラウト注入孔20が開けてある。このグラウト注入孔20を通じてアンカー筋12と既存躯体2との間の隙間18へグラウトを注入することが可能である。鋼製プレート16は既存躯体2に密着して配置され、アンカー筋12周囲からグラウトが漏れ出すのを防ぐ。このため、アンカー筋12の施工品質を向上することができる。
【0020】
また、アンカー筋12の一部にはネジが切ってあり、ナット22でアンカー筋12と鋼製プレート16とを接続し、鋼製プレート16を既存躯体2側に固定している。鋼製プレート16をナット22によって固定したことで、梁下におけるアンカー筋12周囲のグラウト施工も容易に行うことができる。
【0021】
既存躯体2内の表面2a近傍のアンカー筋12の周囲には、補強部24が設けてある。この補強部24は、アンカー筋12の頂部の支配面積を拡大することによってアンカー筋12の定着性能を改善するためのものであり、アンカー筋12の頂部の周囲をコンクリートグラウトで置換したものである。定着補強効果を高めるので、特に、既存躯体2のコンクリート強度が低い場合に有効である。補強部24へのグラウト注入は、鋼製プレート16のグラウト注入孔20を通じて行うことができる。
【0022】
上記の実施の形態において、鋼製プレート16は、図2および図3に示すように、円形もしくは矩形のプレートを用いることができる。鋼製プレート16の大きさはアンカー筋12の径によって異なるが、例えば、アンカー筋12の径がφ16mm程度の場合には、φ150mmもしくは150mm角程度の大きさの鋼製プレートを用いることができ、その厚さは5〜6mm程度とすることができる。グラウト注入孔20は2つ以上開けておくのが好ましく、注入したグラウトがこの孔20から溢れ出ることで内部の充填状況を確認することができる。
【0023】
また、本発明に係るあと施工アンカーの施工方法は、既存躯体2に新設躯体4のコンクリートを増し打ちする前に、既存躯体2にアンカー筋12の一端を埋設するとともに鋼製プレート16を既存躯体2の表面2aに密着して配置し、アンカー筋12と既存躯体2との間の隙間18にグラウトを注入することによってあと施工アンカー10を施工するものである。こうすることで、突起14を有する鋼製プレート16が既存躯体2と新設躯体4との間に挟み込まれた態様となって双方の一体化が図られ、従来要していた目荒らし作業を不要にすることができる。
【0024】
以上説明したように、本発明に係るあと施工アンカーによれば、既存躯体に新設躯体を増し打ちする際に双方を一体化するために用いるあと施工アンカーであって、棒状のアンカー筋と、このアンカー筋が貫通して固定され、新設躯体側に向けて突出する突起を有する鋼製プレートとからなるので、鋼製プレートの突起によって既存躯体と新設躯体の付着性が高められ、既存躯体の表面に対して目荒らしを行わずに済み、施工時の騒音・振動や粉塵の発生を低減することができる。
【0025】
また、本発明に係るあと施工アンカーの施工方法によれば、既存躯体に新設躯体を増し打ちする前に、既存躯体に前記アンカー筋の一端を埋設するとともに前記鋼製プレートを既存躯体の表面に配置し、前記アンカー筋と既存躯体との間の隙間にグラウトを注入するので、既存躯体の表面に対して目荒らしを行わずに済み、施工時の騒音・振動や粉塵の発生を低減することができる。
【産業上の利用可能性】
【0026】
以上のように、本発明に係るあと施工アンカーおよびその施工方法は、コンクリート構造物の耐震補強工事などで多用されるアンカー工事や、既存躯体に対する目荒らしの施工性向上を図るのに有用であり、特に、既存躯体の表面に対する目荒らしが不要であり、その施工時に騒音・振動や粉塵が発生しないので、建物内に居住者が滞在する状態で施工するいわゆる「居ながらの改修」を行うのに適している。
【符号の説明】
【0027】
2 既存躯体
4 新設躯体
2a 表面
10 あと施工アンカー
12 アンカー筋
14 突起
16 鋼製プレート
18 隙間
20 グラウト注入孔
22 ナット
24 補強部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
既存躯体に新設躯体を増し打ちする際に双方を一体化するために用いるあと施工アンカーであって、
棒状のアンカー筋と、このアンカー筋が貫通して固定され、新設躯体側に向けて突出する突起を有する鋼製プレートとからなることを特徴とするあと施工アンカー。
【請求項2】
前記鋼製プレートに、前記アンカー筋と既存躯体との間の隙間にグラウトを注入するためのグラウト注入孔を設けたことを特徴とする請求項1に記載のあと施工アンカー。
【請求項3】
前記アンカー筋にネジを切り、ナットにより前記アンカー筋と前記鋼製プレートとを固定したことを特徴とする請求項1または2に記載のあと施工アンカー。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一つに記載のあと施工アンカーを施工する方法であって、
既存躯体に新設躯体を増し打ちする前に、既存躯体に前記アンカー筋の一端を埋設するとともに前記鋼製プレートを既存躯体の表面に配置し、前記アンカー筋と既存躯体との間の隙間にグラウトを注入することを特徴とするあと施工アンカーの施工方法。
【請求項5】
既存躯体に埋設した前記アンカー筋の周囲に補強部を設けたことを特徴とする請求項4に記載のあと施工アンカーの施工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−144957(P2012−144957A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−6304(P2011−6304)
【出願日】平成23年1月14日(2011.1.14)
【出願人】(000002299)清水建設株式会社 (2,433)
【Fターム(参考)】