説明

きのこ類菌床の高温障害防止栽培方法

【課題】きのこ栽培床の高温時期培養工程において、高温によるきのこ菌糸の生理的障害を抑制あるいは緩和するきのこ菌床の栽培管理方法の提供。
【解決手段】きのこ菌床栽培培養工程の高温時期において、菌床に接触している面を含む容器1表面を、該容器1の通気孔を確保しつつ吸水した水の層を薄く保つ吸水性素材で形成されたシート5で被覆し、該シート5に散布または噴霧により水を供給し、その水分の蒸散に伴う気化熱により容器1内の菌床を冷却するきのこ菌床管理方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、きのこ類菌床の高温時期培養工程において、高温によるきのこ菌糸の生理的障害を抑制あるいは緩和することを特徴とするきのこ菌床の栽培管理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
きのこ類の菌床栽培の自然栽培における夏場高温時期の培養管理において、培養の最適温度帯から高温側へ大きく逸脱する場合が多く見られ、菌床への高温度による負荷がかかり、一般に高温障害といわれる栽培不良の一要因となる弊害が発現する。
例えばシイタケでは、25℃以上の温度域では、シイタケ菌自体が衰弱したり障害を受けたりし、その結果、褐変した菌床表面が再生菌糸で覆われ、菌床が柔らかくなるなど栽培上大きな影響を受け、外見上極端な障害が目立たない場合でも菌床内部のシイタケ菌がダメージを受け、雑菌付着や菌床寿命の短縮などで収量の低下につながってしまう。
この高温障害を抑制あるいは回避するために、イ)栽培ハウスに天窓を設置する、ロ)遮光率の高いネットやフィルムを被覆する(特許文献1)、ハ)菌床に直接散水を行う、などの方法がとられている。
しかし、天窓設置や遮光率材被覆は経費がかかり温度は外気温以下には低下しないなどの問題がある。又、菌床への直接散水においては菌床の表面にかかった水で一時的に温度低下は図れるが、短時間で蒸散してしまうために効果が持続せず、継続的に散水を行っても、大量の水が必要であり、ハウス内が水浸しになり、菌床容器のフィルター部分が長時間濡れた状態になるため通気不足なり栽培容器内の酸欠で菌床自体が衰弱する、などの弊害があった。
【特許文献1】特開平6−327359号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、従来の栽培方法では、管理ハウス改装による経費がかかり温度は外気温以下には低下しないなどの問題や、菌床への直接散水においては菌床表面の温度低下は一時的であり、高温度の時間帯に継続的あるいは短時間の断続的な散水が行うために、大量の水が必要である、ハウス内が水浸しになる、菌床容器のフィルター部分が長時間濡れた状態になり通気不足なり栽培容器内の酸欠で菌床自体が衰弱する、などの課題を解決するための方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記目的を達成するために、本発明きのこ菌床の栽培方法は、きのこ類菌床栽培の培養工程の25℃以上の高温時期において、菌床に接触している面を含む容器表面を、該容器の通気性を確保しつつ吸水性素材のシート状物で被覆すると共に、該シート状物に水分を供給し、その水分の蒸散に伴う気化熱吸収によって容器内の菌床を冷却することを特徴とする。
【発明の効果】
【0005】
高温時期のきのこ類菌床培養工程において、外気温度あるいは菌床周辺温度よりも5度程度の低い温度を一定時間確保することで、高温障害による菌床のダメージを緩和でき、きのこの発生量の増加及び品質の向上となる。また、栽培容器上から吸水性のある紙あるいは布などの素材でできたシート状物を被覆し、散水や噴霧等で当該シート状物に水分を吸収させるという簡易的な方法で対応できるため、ハウス改造などの経費が軽減できる。さらに、水を多量に散水することから生じるハウス内が水浸しになる、菌床容器のフィルター部分が長時間濡れた状態になり通気不足なり栽培容器内の酸欠で菌床自体が衰弱する、などの問題も解消できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明の実施の形態を図1〜図4を基に説明する。
本発明の対象となるのは、シイタケ、ナメコ等を主体とするきのこの栽培容器1であって、例えば図1に示す如く、合成樹脂で成形された角形の容器で、下方が菌床を充填する四角形の箱形2で、上方がきのこの成長空間を確保する傾斜壁3に形成した容器である。
但し、該容器はこれに限らず、円筒形等であっても良い。
【0007】
次いで、吸水性シート5は、吸水性の素材で形成されたシート状物をいい、例えば、新聞紙等の紙材、又は、布体等を用いることができる。
このとき、該シート5に吸収された水の層は、可級的に薄い方が良く、従って、紙材、布体も吸収した水の層を薄く保つものの方が望ましい。
これは、例えば、水の層が厚く、新聞紙に含まれる水が外気に暖められて温水に近くなると、この温水が多量に存在することになり、温度を下げる効果が緩慢になるからである。
【0008】
当該吸水性シート5による容器の覆い方は、上記容器の菌床が充填されている面にシートが接している状態とする。何故なら、菌床が充填されている面にシートが直接触れることで、シートによる冷却効果が菌床に直接的に影響して冷却効率が高くなるからである。
例えば、図2に示す如く、側面2aとなる3面を覆う場合、又、これに底面2bを加えて4面を覆う場合等がある。
そして、究極的には容器の表面すべてを覆う場合もあるが、この場合にも、通気孔4部分は覆うことなく、通気性を確保する必要がある。水の浸透したシートは密閉状となり通気性を失って、菌床が酸欠状態となるおそれがあるからである。
【0009】
そして、該シート5に水を供給する手段は、原始的にはじょうろ等を手に持って散水するが、その他容器の載置された棚等に配水管を配設し、その適当箇所に水の噴射ノズルを配する手段がある。このとき、タイマーと連動させて、一定時間毎に噴射させることができる。
又、図4に示す如く、下方に水の貯留槽を設け、そこにシート5に接続した布を垂らし、毛管現象による吸水作用で自動的に吸い上げを図ることができる。
又、栽培室の一部に、超音波等によって霧を発生させる器機を配し、発生した霧で部屋全体のシートに吸水させる手段もとり得る。
いずれにあっても、この該シート5への水の供給は、シート5が連続的に濡れている状態を保つのが好ましく、毛管現象による自動吸水以外は、タイマー等との連動で適当間隔を保って給水を連続させる必要がある。
【0010】
上記本発明容器による作用を説明すると、上記シートで覆われた容器を設けると、これまでは一般的な秋冬発生の自然栽培を行う場合には、夏期カット管理や秋期カットを行うまでの培養期間中に、地域や立地条件によって夏期ハウス内温度が35℃前後まで上昇してしまうことがあり、このとき、栽培袋にフィルターを備えた通気孔を設けただけの態様で培養を行っているところでは、フィルターからの通気では充分な空気を確保できず、酸欠・窒息状態となることに加え、25℃以上の高温ではシイタケ菌等のきのこの菌糸が衰弱したりする、所謂高温障害を受けるおそれがある。
【0011】
ところが、本発明容器では、外気温が25℃以上の温度域に至ると、シート5に吸水された水がその25℃以上の高温を受けて吸熱し、それが可及的に薄い水の層で形成されていると、短時間のうちに昇温して蒸気として気化する。その際に、周囲から気化熱を奪うが、このときシート5は、菌床の充填された面に接しているので、直接的に菌床から熱を奪い、効率的に冷却効果を挙げることができる。
その結果、外気温度あるいは菌床周辺温度よりも5度程度の低い温度を一定時間確保することができ、高温障害による菌床のダメージを緩和し、きのこの発生量の増加及び品質の向上を図ることができる。
【0012】
また、必要とされる容器にのみ、直接的に冷却効果を作用させることができるので、従来の如く水を多量に散水してハウス内を水浸しにしてしまったり、菌床容器のフィルター部分を長時間濡れた状態してしまい、通気不足による栽培容器内の酸欠で菌床自体が衰弱する等の問題が解消できる。
更に、栽培容器を被覆したシート5には、散水や噴霧等で水分を吸収させるので、大規模な装置等が必要なく、簡易的に対応でき、ハウス改造などの経費が軽減できる。
【実施例1】
【0013】
培養容器にポリエチレン製袋にフィルターが装着された栽培袋を使用し、横20cm縦12cm高さ17cm重量約2700gの角型培地を成型し、常法により菌床を製造した。培養は3月上旬〜9月下旬に自然環境により管理を行った。
7月初旬から外気温度が25℃を超えてきたため、半切サイズに切り揃えた新聞紙を二つ折りにして、培養中の菌床に栽培袋の上からかぶせ、その上から散水を行った。
散水は、外気温が25℃以上に上昇してから1回目を行い、新聞紙の乾燥する前に次の散水を行った。具体的には午前中に1回、午後に1回、新聞紙が充分に濡れる程度行い、外気温度が30℃を超える日には午後2回の散水を行った。
【0014】
そのデータを図5の表図に示す。その結果、菌床温度は新聞紙の乾くまでの長時間20〜25℃の範囲で推移し、これを繰り返すことでその状態を維持した。
即ち、外気が高温となる夏期においても、菌床が高温障害になる可能性が高い25℃以上の温度帯に到達することは少なく、良好な温度環境で培養管理が行えたことになる。
【0015】
上記の結果から明らかなように、半切サイズに切り揃えた新聞紙を二つ折りにし、培養中の菌床に栽培袋の上からかぶせ、その上から散水を行い、新聞紙が乾燥する前に次の散水を行うことにより、外気温度が30℃以上の菌床が障害を受ける可能性が高い温度になっても、菌床温度は新聞紙の乾くまでの長時間20〜25℃の範囲で推移した。
即ち、外気が高温となる夏期においても、簡易な方法により菌床温度を25℃程度以下に抑制することができ、良好な温度環境で培養管理が行えることが実証された。
【産業上の利用可能性】
【0016】
本発明は、以上のように構成されているので、菌床きのこの自然栽培における夏期の菌床高温障害を回避するための温度管理が簡易に行えるとともに、散水する水量が通常に比較して格段に少なくなるため、きのこの収穫量増加及びランニングコストの節減にも期待ができるので、総合的にきのこ栽培農家の栽培方法に適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の容器全体の斜視図である。
【図2】本発明の一形態における断面図である。
【図3】本発明の作用を示す部分断面図である。
【図4】本発明の別の形態における平断面図である。
【図5】本発明実施例の結果を示すグラフ図である。
【符号の説明】
【0018】
1 容器
2 箱形
3 傾斜壁
4 通気孔
5 吸水性シート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
きのこ類菌床栽培の培養工程の25℃以上の高温時期において、菌床に接触している面を含む容器表面を、該容器の通気性を確保しつつ吸水性素材のシート状物で被覆すると共に、該シート状物に水分を供給し、その水分の蒸散に伴う気化熱吸収によって容器内の菌床を冷却することを特徴とするきのこの栽培方法。
【請求項2】
シート状物を薄膜の布体とした請求項1記載のきのこの栽培方法。
【請求項3】
シートに水分を吸収させる給水手段が、下方に水の貯留槽を設け、そこにシートに接続した布を垂らし、毛管現象による吸水作用で自動的に吸い上げを図るものである請求項1又は2項記載のきのこの栽培方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−195502(P2007−195502A)
【公開日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−20022(P2006−20022)
【出願日】平成18年1月30日(2006.1.30)
【出願人】(000242024)株式会社北研 (17)
【Fターム(参考)】