説明

エレベータ用簡易トイレ

【課題】使用上の利便性、信頼性の高いエレベータ用簡易トイレを提供する。
【解決手段】簡易トイレZを、内部を備品収納室61として利用可能とした下段ユニット1と、該下段ユニット1の上面側に着脱自在に載置される上段ユニット2を備えて構成し、且つ上段ユニット2の上面側に備えた便座板22の下側に汚物容器4を収納する一方、該便座板22の上面側にはこれを覆うようにしてシート体3を着脱自在に取付けて構成する。係る構成によれば、上記シート体3に腰を下ろすことで、簡易トイレZを椅子として有効に利用することができる。また、エレベータの非常停止によってゴンドラ100内に閉じ込められた人は、シート体3を取り外して便座板22に着座して用を足すことができ、且つ用便後は再度上記シート体3を取付けて臭気の拡散を抑制できるとともに、再度の用便にも供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、非常時に備えてエレベータのゴンドラ内に設置されるエレベータ用簡易トイレに関するものである。
【背景技術】
【0002】
エレベータは、通常、地震が発生し且つその規模が一定以上となった場合には、エレベータ使用者の安全を確保する観点から、直ちに主電源を落として運転を停止させるようになっており、しかもこの非常時における措置は、ゴンドラに人が搭乗しているか否かに拘らず、実行される。
【0003】
また、このような非常時の措置がとられた場合、エレベータの復旧操作(運転再開操作)は、安全性が確認されない状態で運転が再開されることに伴う二次災害を未然に防止する観点から、運転停止状態にあるゴンドラ内で行なうことはできず、安全性が確認された後、初めてエレベータ外においてのみ運転の再開操作を行うことができるようにしている。
【0004】
従って、地震発生時に、人が搭乗して稼働中のエレベータの運転が強制的に停止され、ゴンドラ内に人が閉じ込められるという事態は、当然に発生し得るものである。
【0005】
ところで、このように地震災害等の非常事態の発生時に、エレベータのゴンドラ内に人が閉じ込められてしまうと、災害の規模、被害の大小等の条件によっても異なるが、一般に、エレベータの復旧作業は、他の目に付き易い被災箇所の後になり勝ちで、そのため、一旦、災害によってエレベータのゴンドラ内に人が閉じ込められた場合、その閉じ込み状態が長時間に及ぶことが予想される。
【0006】
係る場合、ゴンドラは比較的小スペースの閉鎖空間であることから、ここに閉じ込められた人(以下においては「被災者」という)の不安感は大きく、特に主電源が切れることでゴンドラ内の照明も切れたような場合には殊更である。
【0007】
また、長時間立って救援を待つことは被災者の体力の消耗に拍車をかけ、特に被災者が幼児とか高齢者あるいは身体障害者等の身体的弱者である場合には、看過し難い状況となることが予想される。
【0008】
さらに、最も重要なことであるが、ゴンドラ内での長時間に亘る拘束状態の間に、被災者が尿意を訴えることは避けられず、係る事態に対する対策を講じることが要求される。
【0009】
このような問題に対して、従来から種々の提案(特許文献1〜3参照)がなされている。
【0010】
特許文献1には、エレベータのゴンドラのコーナ部の下端部に、略三角柱状の備品収納ボックス(図1参照)を設け、該備品収納ボックス内に、ゴンドラ内に閉じ込められた被災者の援護用の備品(非常食、懐中電灯等)を収納するとともに、平常時には上記備品収納ボックスを椅子としても利用できるようにし、これによって被災者の不安感の軽減を図ったものが示されている。
【0011】
特許文献2には、エレベータのゴンドラ内のコーナ部分に、矩形形状をもつ便器本体を設置し、その上面の便座部分を便器蓋によって開閉し得るように構成するとともに、便器使用時には、ゴンドラの内壁に沿って収納していた可動壁をゴンドラ内部側へ展開させ、これによって上記便器本体の外側を囲って目隠しをするようにし、これによって被災者の排尿要求に対処しようとするものが示されている。
【0012】
特許文献3には、ゴンドラのコーナ部分に、縦長三角柱状の外観形体を有する非常用ボックスを配置し、該非常用ボックスの上半部を収納ボックスとする一方、下半部には便座板が設けるとともに、該便座板を、その収納状態では上記収納ボックスと面一をなすように該収納ボックスの前面側に立設状態で収納され、使用時には手前側へ引き出すことで着座可能な状態とされるように構成し、且つその使用状態では蛇腹式の汚物受けが便座板の下側にセットされるようにしたものが示されている。
【特許文献2】特開2008−127189号公報
【特許文献2】特開2006−87964号公報
【特許文献3】特開2008−81224号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
ところが、特許文献1に示されるものでは、被災者の排尿要求に対する考慮がなされていないため、その利便性には限界がある。
【0014】
特許文献2に示されるものでは、便器本体が比較的大きな矩形箱状形体をもつことから、その設置に伴うゴンドラ内の搭乗スペースの狭小化が否めず、実用性という点において問題が残るものである。
【0015】
特許文献3に示される非常用ボックスでは、その全体形状が大きく、特にこれが縦長で且つ床面から天井面近くまで設けられていることから、該非常用ボックスの設置に伴うゴンドラスペースの狭小感、圧迫感があり、非常時における被災者の不安感の軽減効果はさほど望めない。また、正常時においては、U字形の開口が形成された便座板が非常用ボックスの表面に露出していることから、ゴンドラ内の清潔感、見映えを阻害する要因になり好ましくない。さらに、便座板は、排尿時にはこれに着座できるが、排尿時以外においてこれを椅子として使用するには抵抗感があり、被災者が椅子として使用する可能性は極めて低いものと考えられる。また、蛇腹式の汚物受けが備えられているが、一度これを展開させて使用した後、再度これを折り畳んでゴンドラの側壁側へ収納して尿臭の拡散を抑制することは汚物受けの構造上困難で、狭いゴンドラ内に臭気が充満し、空間環境の悪化が耐え難いものとなる。特に被災者が複数である場合には、係る問題は看過し難いものとなる。
【0016】
そこで本願発明は、これら従来の問題点に鑑み、使用上の利便性及び信頼性の高いエレベータ用簡易トイレを提供することを目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本願発明では、上記課題を解決するために以下のような構成を採用している。
(a) 本願の第1の発明では、ゴンドラ100の底面101と一対の側壁102,103によって形成される下端隅部104に設置される簡易トイレを、箱型形体をもちその内部を備品収納室61として利用可能とした下段ユニット1と、該下段ユニット1の上面側に着脱自在に載置される箱型形体をもつ上段ユニット2を備えて構成するとともに、上記上段ユニット2の上面側に備えた便座板22の下側に汚物容器4を収納する一方、上記便座板22の上面側にはこれを覆うようにしてシート体3を着脱自在に取付けたことを特徴としている。
【0018】
従って、平常時には、上記上段ユニット2の上面側に載置された上記シート体3に腰を下ろすことで、上記簡易トイレZを椅子として有効に利用することができ、特にエレベータ利用者が高齢者等である場合には、エレベータ利用に伴う利便性が向上することになる。
【0019】
また、地震等の災害発生に伴ってエレベータは非常停止し、ゴンドラ100内に人が閉じ込められた場合、例えば、救援を待つ時間が長引いたようなときには、上記上段ユニット2の上面側に載置された上記シート体3に腰を下ろすことで、上記簡易トイレZを椅子として有効に利用することができ、被災者の体力消耗を抑制することができ、特に被災者が高齢者等である場合にはその効果は顕著なものとなる。
【0020】
さらに、救援待機時間が長くなり、例えば、被災者が尿意をもようしたような場合には、上記上段ユニット2の上面側の上記シート体3を取り外し、上記便座板22を該上段ユニット2の上面に露出させ、該便座板22に着座して、該便座板22の下側に収納されている上記汚物容器4内に排尿等をすれば良く、これによって尿意のひっ迫に基づく精神的な動揺が解消され、延いては、ゴンドラ100という閉鎖空間内での閉じ込めに伴う不安感の軽減にもつながる。そして、排尿の終了後は、再度、上記シート体3を上記便座板22の上面側に取付けることで、尿臭等のゴンドラ100内への拡散を抑制してその空間環境を良好に保持できるとともに、再度の排尿にも対処できる。
(b) 本願の第2の発明では、上記第1の発明に係るエレベータ用簡易トイレにおいて、上記下段ユニット1と上記上段ユニット2が、ともに略扇形の平面視形状をもち、その隣接する二つの側面板14,15、同24,25を上記ゴンドラ100の一対の側壁102,103にそれぞれ近接対向させた姿勢で設置されることを特徴としている。
【0021】
従って、上記簡易トイレZが上記ゴンドラ100内のデッドスペースに配置されることになり、該簡易トイレZの設置に伴うゴンドラ100の内部スペースの狭小化の影響が最小限に抑えられ、エレベータの平常時における利便性の確保と、非常時における被災者保護とが両立されることになる。
(c) 本願の第3の発明では、上記第1又は第2の発明に係るエレベータ用簡易トイレにおいて、上記上段ユニット2の下面側に下方へ延出する脚29を備え、該上段ユニット2を上記下段ユニット1から分離させた状態では上記脚29によって上記底面101上に設置できるように構成したことを特徴としている。
【0022】
従って、上記上段ユニット2は、上記下段ユニット1上に載置したまま排尿に供することができる他に、該上段ユニット2を上記下段ユニット1側から取り外して、上記ゴンドラ100内の別の場所で、且つ別の方向に向けて設置して排尿に供することができ、特に後者の機能は使用者の意思に沿った使用が可能になるという点において、使用上の利便性の向上につながるものである。
(d) 本願の第4の発明では、上記第3の発明に係るエレベータ用簡易トイレにおいて、上記上段ユニット2の上記下段ユニット1側への載置状態では、上記脚29が上記下段ユニット1側に設けた脚挿通孔17に挿通されてこれら両者の横方向への相対変位を規制するように構成したことを特徴としている。
【0023】
従って、上記簡易トイレZを椅子として使用する場合、及び上記下段ユニット1上に上記上段ユニット2を載置した状態で簡易トイレZを使用する場合において、使用上の安定性及び信頼性が確保され、延いては簡易トイレZの商品価値の向上につながるものである。
(e) 本願の第5の発明では、上記第1、第2、第3又は第4の発明に係るエレベータ用簡易トイレにおいて、上記上段ユニット2の上記ゴンドラ100内部に臨む部位に、エレベータの非常停止時に点灯して所要の表示を行う表示部28が設けたことを特徴としている。
【0024】
従って、エレベータの非常停止に伴ってゴンドラ100内の照明が無くなったような場合でも、上記表示部28からの照明によって上記ゴンドラ100内の状況を判断することができ、被災者の不安感を軽減させて落ち着いた気持ちで救援を待つことができる。また、この際、上記表示部28によって表示される情報、例えば、簡易トイレZの使用法等の救援待機の仕方に関する情報とか、飲料水等の非常時備品の置き場に関する情報を取得することで、被災者は安心して救援を待つことができ、被災者の精神的な安定感を得るという点において好ましい。
【発明の効果】
【0025】
以上のように、本願各発明に係るエレベータ用簡易トイレによれば、平常時と非常時の双方において簡易トイレZを椅子として利用可能とした点、シート体3を備えることで非常時における簡易トイレZの繰り返し使用を可能にした点、簡易トイレZの使用形態を多様化して使用者の意思の沿わせ得るようにした点、及び非常時に表示部28において表示される各種情報によって被災者の安心感を高める点、等の相乗効果として使用上の利便性及び信頼性の高い簡易トイレZを提供できるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本願発明を好適な実施形態に基づいて具体的に説明する。
【0027】
図1には、本願発明の実施形態に係る簡易トイレZを示している。この簡易トイレZは、例えば、地震等の災害発生に伴って非常停止したエレベータのゴンドラ100内に人が閉じ込められた非常状態において、該ゴンドラ100内で救援を待つ被災者の使用に供されるものであって、ゴンドラ100の底面101と一対の側壁102,103によって形成される下端隅部104に設置される。
【0028】
上記簡易トイレZは、図1〜図3に示すように、次述の下段ユニット1と上段ユニット2からなる上下二段分離構造とされ、これら両者を一体化した形体で(図2参照)、又は分離させた形体で(図3、図4参照)、使用される。
【0029】
A:下段ユニット1の構成
上記下段ユニット1は、図1〜図3に示すように、略扇形の平面視形状をもつ所定高さの箱状体であって、略扇形の底面板11と、該底面板11と同様の平面形状をもつとともにその内側の略扇形の開口16を形成した扇形枠状の上面板12と、上記底面板11の弧状部分と上記上面板12の弧状部分を連結する湾曲板でなる前面板13と、上記底面板11の左右の直線部と上記上面板12の左右の直線部を連結する左右一対に側面板14,15を備えて構成され、上記開口16を通して上方に臨む内部空間を備品収納室61としている。なお、上記備品収納室61には、非常時用の飲料水等の備品55とか非常食等の備品56が収納される。
【0030】
上記上面板12の三つのコーナ部分には、所定径の脚挿通孔17が形成されている。また、これら三個の脚挿通孔17の中間位置には、センサ受け孔18が形成されている。
【0031】
上記下段ユニット1は、図1に示すように上記底面板11を上記ゴンドラ100の底面101の所定位置に位置決め設置した状態で、固定ビス19によって側底面板11を上記底面101側に締着固定することで、上記ゴンドラ100側に固定配置される。
【0032】
B:上段ユニット2の構成
上記上段ユニット2は、図3及び図4に示すように、上記下段ユニット1と略同等の外観形体をもつ箱状体であって、略扇形の底面板21と、該底面板21と同様の平面形状をもつとともにその内側中央部分に所定大きさの開口26を形成した扇形枠状の便座板22と、上記底面板21の弧状部分と上記便座板22の弧状部分を連結する湾曲板でなる前面板23と、上記底面板21の左右の直線部と上記前面板23の左右の直線部を連結する左右一対に側面板24,25を備えて構成され、上記開口26を通して上方に臨む内部空間を機材収納室62としている。
【0033】
なお、上記便座板22は、図4に示すように、固定ビス53によって上記各側面板24,25の上面に、着脱自在に締着固定される。この便座板22は、上記容器収納室62内への機材の出し入れ時に取り外される。また、図8に示すように、上記開口26の裏面側には、該開口26の周縁全域に跨って下方へ突出する周縁材27が取付けられている。そして、上記開口26の裏面側には、汚物容器4が、その上端縁4aを上記周縁材27の外周面と上記便座板22の裏面とのコーナ部分に進入させた状態で配置される。
【0034】
上記底面板21の三つのコーナ部分には、所定径及び所定長さの棒体で構成される脚29が、該底面板21から垂直延出状態で取付けられている。これら各脚29は、上記下段ユニット1の上面板12の設けた上記各脚挿通孔17に嵌挿されることで、上記下段ユニット1と上段ユニット2の水平方向における相対変位を規制する機能と、図4に示すように上記上段ユニット2を上記下段ユニット1から分離させて、該上段ユニット2のみを単独でゴンドラ100の底面101上に設置する場合の支持脚として機能する。
【0035】
即ち、上記上段ユニット2の使用形態は、図2に示すように上記下段ユニット1の上側に載置された状態で使用される形態と、図4に示すように上記上段ユニット2のみが単独で載置使用される形態の二つがあり、これらの使用形態の選択はトイレ使用者の意思によって決定される。
【0036】
一方、上記便座板22の左右のコーナ部分には、図6に拡大図示するような回転取手36がそれぞれ設けられている。この回転取手36は、後述のように上記上段ユニット2と上記下段ユニット1に対して着脱する場合には、上記便座板22の表面上に突出させて使用される(図6に符号6´で示す鎖線図示状態)一方、それ以外の場合(即ち、上記便座板22の上面に次述のシート体3を載置する場合とか、上記便座板22に着座して用を足すような場合)には、上記便座板22の内部に埋設配置される(図6に符号36で示す実線図示状態)。
【0037】
上記シート体3は、その上面側にクッション性をもたせた略扇形の板状体であって、これを上記上段ユニット2の上記便座板22上に衝合固定した状態では、上記簡易トイレZを椅子として利用する場合の座部として機能する。従って、上記シート体3は、上記上段ユニット2を上記下段ユニット1に対して着脱する場合(上記回転取手36を必要とする場合)及び上記便座板22に着座するといて使用時にのみ、上記便座板22から取り外され、それ以外の無用な取り外しは阻止する必要がある。
【0038】
このため、上記便座板22の上面と上記シート体3の下面の間には、図7に示すような嵌着体50が設けられている。即ち、上記嵌着体50は、嵌合孔をもち上記便座板22側の埋設配置されている受体51と、嵌合突起を持ち上記シート体3の下面に突出時で固定されて上記受体51の嵌合孔の弾圧嵌合される嵌入体52で構成され、これら両者の嵌合及び嵌合離脱には適度の抵抗感が付与されている。
【0039】
また、上記上段ユニット2の前面板23の中央部には、横長矩形のアクリル板等の透明板材で構成された表示部28が設けられている。この表示部28には、非常時に関する各種情報、例えば、簡易トイレZが非常用であることを示す「非常用」等の文字情報とか、上記簡易トイレZの使用方法とか、上記上段ユニット2側に各種の非常用備品が在ること等を知らしめるための文字情報が表示されている。なお、この表示は、上記機材収納室62側から照明された場合にのみ表側から視認でき、上記照明が無い場合には表側から視認できないようになっている。
【0040】
これは、上記表示部28における各種情報の表示は、平常時には必要がなく(表示されると、却って、無用の不安感を与えることになる)、非常時においてのみ必要となるものである。このため、上記表示部28の表示は非常時のみに表示されるようにしており、そのための機器が上記機材収納室62内に配置されている。
【0041】
即ち、図5に示すように、上記表示部28の裏面側(機材収納室62の内部側)にはこれに対向してLED素子等からなる照明体32が取付けられている。また、上記前面板23には、ゴンドラ100内の照明が所定光度以下に低下した場合(即ち、停電状態を含む)にこれを検出して信号を出力する光センサ30が設けられている。そして、この光センサ30からの検出信号は、上記機材収納室62内に配置された電装品箱33内の制御装置部(図示省略)に入力され、これを受けて初めて上記照明体32が照明光を発し、上記表示部28に記載された文字情報が上記上段ユニット2の外部から視認可能とされるものである。
【0042】
なお、上記機材収納室62内には、ブザー34も配置されている、このブザー34は、図3に示すように、上記上段ユニット2の底面板21に設けた接触センサ31から上記制御装置部に信号が入力されたとき、短時間だけ警報音を発して、上記上段ユニット2が上記下段ユニット1から不必要に分離されること(即ち、本来的な必要性がないにも拘らず、悪戯によって上記上段ユニット2の分離操作がなされること)を阻止することを主目的とするものである。即ち、上記接触センサ31は、上記上段ユニット2が上記下段ユニット1に取付けられている状態では、その先端が上記センサ受け孔18の底面に当接して非作動状態を維持するが、上記上段ユニット2が上記下段ユニット1から分離方法(上方)へ移動されて上記接触センサ31の先端が上記センサ受け孔18の底面から離間すると作動し、上記制御装置部に信号を出力し、上記ブザー34から警報音を発生させるようになっている。また、上記機材収納室62内の上記電装品箱33には、上記制御装置部のほかに、給電用のバッテリーも収納されている。
【0043】
C:簡易トイレZの使用状態
C−1:平常時の使用
平常時には、上記簡易トイレZは、図1に示すように、上記下段ユニット1と上記上段ユニット2を一体化し、且つ上記上段ユニット2の上面側に上記シート体3を取付けた形体で、エレベータのゴンドラ100内に設置されている。従って、この状態では、上記簡易トイレZをトイレとして使用する要求は殆どなく、専ら椅子として利用される。即ち、上記シート体3に腰を下ろして座ることで、足腰の疲れを和らげることができ、特に高齢者とか身体障害者にあっては、その効果は顕著なものとなり、エレベータ利用に伴う利便性が向上することになる。
【0044】
また、この場合、上記下段ユニット1と上記上段ユニット2が、ともに略扇形の平面視形状をもち、その隣接する二つの側面板14,15、同24,25を上記ゴンドラ100の一対の側壁102,103にそれぞれ近接対向させた姿勢で設置されていることから上記簡易トイレZは上記ゴンドラ100内のデッドスペースに配置されることになり、該簡易トイレZの設置に伴うゴンドラ100の内部スペースの狭小化の影響が最小限に抑えられることになる。
【0045】
その他の利点としては、平常時には、上記表示部28は何等の表示をしない(表示内容が視認できない)ことから、ゴンドラ100内の人に非常時に対する不安感を与えることも無いこと、及び上記下段ユニット1が上記ゴンドラ100の底面101側に固定されていることから、悪戯によって移動されることが無く、さらにトイレとして使用する必要製性が無いにも拘らず悪戯で、上記上段ユニット2を上記下段ユニット1から分離させようとした場合には、上記接触センサ31が作動して警報が発せられ、それ以上の悪戯が未然に防止される点が挙げられる。
【0046】
なお、この実施形態の構成では、非常時において、悪戯ではなく上記上段ユニット2を上記下段ユニット1から分離させる必要があって上記上段ユニット2を持ち上げた場合にも警報が発せられるが、この場合には、元来分離させる必要性があっての行為で、且つ警報も短時間であることから、警報によって操作者が行為を中断することはなく、何等問題は生じない。
【0047】
C−2:非常時の使用
地震等の災害の発生によって、安全確保上、エレベータが強制的に運転停止され、ゴンドラ100内の人が閉じ込められた場合の使用状態としては、以下の通りである。
【0048】
地震発生等の非常時には、エレベータの運転停止とともに、停電によってゴンドラ100内の照明が無くなるとか、非常用電源の投入によって光度は落ちるが照明が継続されることが考えられる。この場合、上記簡易トイレZにおいては、ゴンドラ100内の明るさが所定以下となれば、上記光センサ30によってこれが感知され、上記照明体32が点灯し、上記表示部28において非常時の情報が表示されるとともに、フットライト的な照明がなされる。従って、例え停電によってゴンドラ100内の照明が切れても、これによってゴンドラ100内が暗闇となることは回避され、被災者の不安感が軽減される。
【0049】
上記表示部28における表示点灯によって、被災者は、上記上段ユニット2にトイレ設備が備えられていること、飲料水等の非常用の備品が上記下段ユニット1内に備えられていること等を容易に知ることができる。そして、備品が必要となった場合には、図3に示すように、上記上段ユニット2を上記下段ユニット1から分離させ、該下段ユニット1の上面側を露出させ、上記開口16から上記備品収納室61内に手を入れて所望の備品を取り出して使用すれば良い。
【0050】
備品の取り出し後は、再度、上記上段ユニット2を上記下段ユニット1上に載置すれば、平常時と同様に、上記簡易トイレZを椅子として使用することができる。なお、非常時においては、精神的な疲れが増し、特に救援待機時間が長くなればなるほど身体的な疲れも増すことから、上記簡易トイレZを椅子として使用したいという要求は、平常時よりも多いものと考えられる。
【0051】
一方、長時間の閉じ込みに伴って、被災者が尿意を訴えることも多くなると考えられる。係る場合に上記簡易トイレZが用いられるが、その使用態様としては、第1の使用態様と第2の使用態様があり、使用者の意思によって選択できる。
【0052】
即ち、第1の使用態様は、図9に示すように、上記下段ユニット1の上側に上記上段ユニット2を載置したまま、上記シート体3を取り外して上記便座板22を露出させ、このまま上記便座板22に着座して用を足す態様である。この第1の使用態様では、使用者はゴンドラ100の中央側へ向かって座ることになるため、例え何らかの目隠し材で(例えば、予め上記備品収納室61に目隠し布を備品として備えている場合にはこの目隠し布で、また備品として備えられていないような場合には衣服等で)で目隠し壁を設けるとしても、依然として抵抗感をもつ場合もあり、係る場合は後述の第2の態様が好適である。
【0053】
また、第1の態様での使用に際しては、図9に示すように、上記便座板22の下側に配置された汚物容器4内に直接排尿する場合と、図10に示すように、上記便座板22の開口26部分から上記汚物容器4内に跨ってビニール袋とか、紙おむつのような吸水性素材でなる吸水シート等の処理材5を配置し、該処理材5内に排尿する場合とが考えられる。
【0054】
前者の場合は、非常状態の解除後、上記汚物容器4を上記上段ユニット2から取り出して捨てれば良いため経済的であるが、さらに事後処理の容易化とか、尿臭の発生を抑えて複数回の使用を可能にする等の観点からは、後者のように、上記汚物容器4内に予め尿を固める作用のある凝固剤を投入しておくことも有効である。
【0055】
後者の場合、処理材5としてビニール袋を用いる場合には、予め袋内に凝固剤を投入しておくと事後の処理が容易である。また、吸水シートを用いる場合には、そのまま捨てられるため、事後の処理が容易である。
【0056】
なお、上記処理材5を備品として上記下段ユニット1の備品収納室61内に備えておくことも可能なことは言うまでもない。
【0057】
第2の使用態様は、上述のような使用に対しての抵抗感をもつ場合に好適な態様であって、図11に示すように、上記上段ユニット2を上記下段ユニット1から分離させて、これをその脚29によって、上記ゴンドラ100内の所望の場所に、且つ所望の方向に向けて設置し、上記便座板22に着座して用を足す態様である。
【0058】
この第2の態様での使用に際しても、上記第1の態様と同様に、図11に示すように、上記便座板22の下側に配置された汚物容器4内に直接排尿する場合と、図12に示すように、上記便座板22の開口26部分から上記汚物容器4内に跨ってビニール袋とか、紙おむつのような吸水性素材でなる吸水シート等の処理材5を配置し、該処理材5内に排尿する場合とが考えられる。
【0059】
なお、上記第1及び第2の何れの使用態様であっても、排尿の終了後は、再度、上記シート体3を上記便座板22の上面側に取付けることで、尿臭等のゴンドラ100内への拡散が抑制され、その空間環境が良好に保持できる。特に、上記処理材5を用いた場合には、尿臭の発生そのものが抑制されることから、上記効果はより顕著となる。
【0060】
また、上記第1及び第2の何れの使用態様であっても、一度排尿しても、上記汚物容器4が上記上段ユニット2側にそのまま残存することから、非常時状態が続く間、繰り返して排尿に供することができることは言うまでも無い。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本願発明の実施形態に係るエレベータ用簡易トイレの設置状態を示す斜視図である。
【図2】図1に示す簡易トイレの座板体を取り外した状態を示す斜視図である。
【図3】図1に示す簡易トイレの下段ユニットと上段ユニットの分離状態を示す斜視図である。
【図4】上段ユニットの分解斜視図である。
【図5】図1のV−V断面図である。
【図6】図3のVI部分の拡大断面図である。
【図7】図7のVII部分の拡大断面図である。
【図8】図3のVIII−VIII断面図である。
【図9】簡易トイレの第1の使用形態における第1の使用例を示す斜視図である。
【図10】簡易トイレの第1の使用形態における第2の使用例を示す斜視図である。
【図11】簡易トイレの第2の使用形態における第1の使用例を示す斜視図である。
【図12】簡易トイレの第2の使用形態における第2の使用例を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0062】
1 ・・下段ユニット
2 ・・上段ユニット
3 ・・シート体
4 ・・汚物容器
5 ・・処理材
11 ・・底面板
12 ・・上面板
13 ・・前面板
14 ・・側面板
15 ・・側面板
16 ・・開口
17 ・・脚挿通孔
18 ・・センサ受け孔
19 ・・固定ビス
21 ・・底面板
22 ・・便座板
23 ・・前面板
24 ・・側面板
25 ・・側面板
26 ・・開口
27 ・・周縁材
28 ・・表示部
29 ・・脚
30 ・・光センサ
31 ・・接触センサ
32 ・・照明体3
33 ・・電装品箱
34 ・・警報器
36 ・・回転取手
50 ・・嵌着体
51 ・・受体
52 ・・嵌入体
55 ・・備品
56 ・・備品
61 ・・備品収納室
62 ・・機材収納室
100 ・・ゴンドラ
101 ・・底面
102 ・・側壁
103 ・・側壁
104 ・・下端隅部
Z ・・簡易トイレ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴンドラ(100)の底面(101)と一対の側壁(102),(103)によって形成される下端隅部(104)に設置される簡易トイレであって、
箱型形体をもちその内部を備品収納室(61)として利用可能な下段ユニット(1)と、該下段ユニット(1)の上面側に着脱自在に載置される箱型形体をもつ上段ユニット(2)を備え、
上記上段ユニット(2)は、その上面側に便座板(22)を備えるとともに、該便座板(22)の下側には汚物容器(4)が収納される一方、
上記便座板(22)の上面側にはこれを覆うようにしてシート体(3)が着脱自在に取付けられることを特徴とするエレベータ用簡易トイレ。
【請求項2】
請求項1において、
上記下段ユニット(1)と上記上段ユニット(2)は、ともに略扇形の平面視形状をもち、その隣接する二つの側面板(14,15)、同(24,25)を上記ゴンドラ(100)の一対の側壁(102),(103)にそれぞれ近接対向させた姿勢で設置されることを特徴とするエレベータ用簡易トイレ。
【請求項3】
請求項1又は2において、
上記上段ユニット(2)はその下面側に下方へ延出する脚(29)を備え、上記下段ユニット(1)からの分離状態では上記脚(29)によって上記底面(101)上に設置可能に構成されていることを特徴とするエレベータ用簡易トイレ。
【請求項4】
請求項3において、
上記脚(29)は、上記上段ユニット(2)の上記下段ユニット(1)側への載置状態では、該下段ユニット(1)側に設けた脚挿通孔(17)に挿通されてこれら両者の横方向への相対変位を規制するように構成されていることを特徴とするエレベータ用簡易トイレ。
【請求項5】
請求項1,2,3又は4において、
上記上段ユニット(2)の上記ゴンドラ(100)内部に臨む部位に、エレベータの非常停止時に点灯して所要の表示を行う表示部(28)が設けられていることを特徴とするエレベータ用簡易トイレ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate


【公開番号】特開2010−64839(P2010−64839A)
【公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−232093(P2008−232093)
【出願日】平成20年9月10日(2008.9.10)
【出願人】(599117255)株式会社 シコク (28)
【Fターム(参考)】