説明

カーボン含有耐火物

【課題】カーボン含有耐火物の耐熱衝撃性、耐酸化性及び耐食性をさらに向上させること。
【解決手段】AlCを15.5質量%以上95質量%以下含有するカーボン含有耐火物である。AlC源としては、炭素質原料とアルミナ質原料に、炭化珪素、炭化硼素、窒化アルミニウム、窒化硼素及び金属のうち1種以上を添加し、アーク炉で溶融することにより製造され、カーボンを3.1質量%以上6.5質量%以下含有するアルミニウムオキシカーバイド組成物原料を使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高炉、混銑車、溶銑鍋、転炉、電気炉、溶鋼鍋、スライディングノズル、連続鋳造用ノズルなどで使用されるカーボン含有耐火物に関する。
【背景技術】
【0002】
製銑、製鋼などで用いられる耐火物は、高温下で使用されることから、熱膨張率や弾性率の低減による耐熱衝撃性の付与、組織の緻密化及びスラグの浸透防止を目的として、アルミナれんがにカーボンを添加したカーボン含有耐火物が広く適用されている。
【0003】
また、アルミナよりも耐食性に優れ、アルミニウムと同様の酸化防止効果を有するものとして、アルミニウムオキシカーバイドの一つであるAlCが知られている。
【0004】
そして、特許文献1には、カーボン含有れんがにAlCを添加することにより、炭素質材料の酸化が防止されると共に、熱間強度が向上し、また、スラグ浸透防止によって耐食性が向上することが報告されている。また、特許文献2には、AlC含有組成物を骨材として適用した例が記載されており、高炉の出銑樋材に適用した結果、耐食性が向上し、寿命が20〜30%向上したことが報告されている。
【0005】
しかし、特許文献1では、金属粉末(焼結材)の代わりとしてAlCを使用しており、添加量が限られることから、AlCの添加による耐食性の向上効果も限られる。また、微粉であることから、熱膨張率や熱応力の低減効果も低い。
【0006】
また、特許文献2は、バイヤー法アルミナに炭素を添加してアーク溶融すると、耐食性悪化の原因となる不純物であるNaOが大幅に減少すると共に、溶融スラグに濡れ難いAlCが生成するという知見に基づく発明であり、AlC含有組成物の含有炭素量が0.5〜3.0質量%と少ない。AlC含有組成物の含有炭素量は、AlC含有組成物中のAlC含有量の指標であり、AlCが100質量%の場合に、AlC含有組成物の含有炭素量はC/AlC=6.5質量%であるから、含有炭素量が0.5〜3.0質量%ではAlC含有量が少ないということである。このため、特許文献2では、熱膨張率の低減(耐熱衝撃性の改善)、耐酸化性・耐食性の改善といったAlCに起因する十分な効果が得られない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平9−295857号公報
【特許文献2】特公昭57−61708号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、カーボン含有耐火物の耐熱衝撃性、耐酸化性及び耐食性をさらに向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係るカーボン含有耐火物は、AlCを15.5質量%以上95質量%以下含有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、カーボン含有耐火物にAlCを15.5質量%以上95質量%以下含有させたことにより、AlCに起因する、熱膨張率の低減による熱応力の低減(耐熱衝撃性の向上)、並びに耐酸化性及び耐食性の向上効果がいかんなく発揮され、カーボン含有耐火物の耐用向上が達成される。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明に係るカーボン含有耐火物は、アルミニウムオキシカーバイド、なかでもAlCを15.5質量%以上95質量%以下含有する。
【0012】
ここで、カーボン含有耐火物とは、一般に、炭素質原料を0.5〜30質量%含有する耐火物をいう。炭素質原料としては、天然に産出する黒鉛、ピッチ、タール、無煙炭等の他に、工業的に製造される、カーボンブラックや人造黒鉛、フェノール、フラン、エポキシ等の樹脂などを使用できる。
【0013】
AlC含有量が15.5質量%未満の場合は、熱膨張率の低減効果による耐熱衝撃性の効果が十分に得られない。また、耐酸化性及び耐食性に関しても、十分な効果を得ることができない。なお、AlCを含むアルミニウムオキシカーバイド組成物原料は、主成分であるAlCのほか、一般にAlOCやAl、Al、Al等の不純物を含むことから、炭素質原料以外の原料として、AlCを含むアルミニウムオキシカーバイド組成物原料を全量使用するとしても、AlC含有量の上限は95質量%程度となる。
【0014】
本発明では、AlC源として、AlCを主成分とするアルミニウムオキシカーバイド組成物原料を使用することができる。そしてこのアルミニウムオキシカーバイド組成物原料としては、炭素質原料とアルミナ質原料に、炭素収率を高めるため、炭化珪素、炭化硼素、窒化アルミニウム、窒化硼素及び金属のうち1種以上を添加し、アーク炉で溶融することにより製造されたものを使用することが好ましい。この場合、炭化珪素、炭化硼素、窒化アルミニウム、窒化硼素及び金属は、主原料である炭素質原料とアルミナ質原料に、外掛けで0.2〜10.0質量%添加することが好ましく、金属は、1000℃以上の温度域でカーボンよりも酸素親和力が強い必要がある。また、アルミニウムオキシカーバイド組成物原料は、耐食性の面から気孔率の低い緻密なものが好ましい。
【0015】
アルミニウムオキシカーバイド組成物原料としては、本願出願人がPCT/JP2010/055754で提案したように、炭素質原料の微粉とアルミナ質原料の微粉を均一に混合し、アーク炉で溶融して製造したものを用いることもできるが、この製法では、工業的に大量生産することが困難である。本発明者らは、アルミナ質原料と炭素質原料を主原料として、酸化雰囲気でも炭素収率を高めるため、上記主原料に、炭化珪素、炭化硼素、窒化アルミニウム、窒化硼素及び金属のうち1種以上を添加することにより、AlC含有量が高くかつAlを殆ど含有しないアルミニウムオキシカーバイド組成物原料を大量生産可能であることを見出した。本発明では、この製造方法により製造されたアルミニウムオキシカーバイド組成物原料を使用することが好ましい。
【0016】
このアルミニウムオキシカーバイド組成物原料のカーボン含有量は3.1質量%以上6.5質量%以下であることが好ましい。理想的なAlCのカーボン含有量は6.5質量%である。また、アルミニウムオキシカーバイド組成物原料中の炭素成分が全てAlCである場合、カーボン含有量が3.1質量%のアルミニウムオキシカーバイド組成原料中のAlC含有量は、46質量%となる。Alや、AlOC等の、炭化物、オキシカーバイド組成物、黒鉛等のフリーカーボンが殆ど含有されない場合は、アルミニウムオキシカーバイド組成物原料中のカーボン含有量が多いほどAlC含有量が多く、原料自体の熱膨張率は低下する。理想組成のAlCの熱膨張係数は、4×10−6とほぼアルミナ(コランダム)の約半分である。アルミニウムオキシカーバイド組成物原料のカーボン含有量が3.1質量%未満である場合、熱膨張率の低減効果が小さく、十分な耐熱衝撃性が得られないだけでなく、また、十分な耐酸化性及び耐食性の効果も得ることができない。一方、6.5質量%を超える場合は、Alが存在することから水和反応により、原料自体が崩壊することから耐火物への適用は困難である。
【0017】
また、本発明では、アルミニウムオキシカーバイド組成物原料が、少なくとも粒度0.2mm以上の骨材として含有されていることが好ましい。このように骨材として使用すると、マトリックスにあるアルミナ等との熱膨張率差によりマイクロスペースが形成される。このマイクロスペースは、耐火物の弾性率を低減する効果があるだけでなく、高温下、マトリックスの膨張を吸収することから、熱膨張率を低減する効果も高い。さらに、骨材として使用する方が、高温下での使用中にAlCとマトリックス中にある一酸化炭素雰囲気との反応によるAl化が進行し難く、長時間、低熱膨張率の効果を維持することが可能となる。
【0018】
以下、本発明を実施例により詳細に説明する。
【実施例】
【0019】
AlCの含有量等が、カーボン含有耐火物の特性に及ぼす影響を調査した。
【0020】
AlC源となるアルミニウムオキシカーバイド組成物原料は、以下の方法により製造した。
【0021】
すなわち出発原料として、仮焼アルミナ(Al成分99.9質量%)と鱗状黒鉛(C成分99質量%)とを合計500kgになるように秤量し、それに対して、金属Siを外掛けで1.0質量%の割合で添加し、1000KVAのアーク炉に入れて溶融後、流し出して金型に鋳込む等の急冷は行わず、そのまま徐冷してアルミニウムオキシカーバイド組成物を製造した。
【0022】
製造されたアルミニウムオキシカーバイド組成物原料のカーボン含有量は5.6質量%で、カーボン成分の全てがAlCに含まれるとすると計算上のAlC含有量は約86質量%である。なお、アルミニウムオキシカーバイド組成物原料のカーボン含有量は、JIS−R2205に記載のカーボン、及び炭化珪素中の炭素の合計であるトータルカーボン量とした。すなわち、AlCは、理想的には820℃以上の温度で酸化がはじまることから、900℃で測定するカーボンと1350℃で測定する炭化珪素中のカーボン量の合計から、カーボン含有量を評価した。
【0023】
上記のアルミニウムオキシカーバイド組成物原料を用いてカーボン含有耐火物を製造し、その特性を評価した。具体的には、所定の原料を所定の割合で混合した後、バインダーとしてフェノールレジンを添加し、混練後、成形し、300℃の温度で加熱することによりカーボン含有耐火物を製造した。
【0024】
製造されたカーボン含有耐火物は、JIS−R−2205、JIS−R−2213、JIS−R−2207に記載された方法により、かさ比重、見掛け気孔率、曲げ強さ、熱膨張率を評価した。
【0025】
耐食性については、誘導炉を用い溶鉄と酸化鉄粉を溶融してCaO/Al=2の合成スラグを作製し、この合成スラグ中で1600℃×2時間の試験を行い溶損量を測定した。そして後述する表3の比較例2の溶損量を100として指数化した。数値が小さいほど耐食性は良好である。
【0026】
耐酸化性については、試料を800℃で酸化した後にショットブラストして磨耗量を評価する、いわゆる酸化後のBS磨耗法により評価を行い、表3の比較例2の磨耗量を100として指数化した。数値が小さいほど耐酸化性は良好である。
【0027】
耐熱衝撃性については、試料を1600℃の溶鋼に3分浸漬した後に水冷するサイクルを繰り返し、剥落するまでの回数から良否を判断した。具体的には、N=2の試料が剥落に至る平均回数で評価した。数値が大きいほど耐熱衝撃性は良好である。
【0028】
耐消化性については、学振法4によるマグネシアクリンカーの消化試験方法に準じ、粉化率で評価した。
【0029】
また、カーボン含有耐火物のAlC含有量は、X線回折法による評価では、AlC及びAl以外の鉱物相は殆ど検出されなかったことから、化学成分分析値をもとに計算した。すなわち、化学成分分析におけるC成分が全てAlCであるとみなしてC成分よりAlC量を計算した。またAlC以外の部分はコランダムとみなして計算した。
【0030】
表1は、アルミニウムオキシカーバイド組成物原料(表1及び3では「AOC組成物」と表記)の配合量及び粒度分布を変え、カーボン含有耐火物のAlC含有量を12.9〜77.5質量%を変化させて評価を行った結果を示す。
【0031】
【表1】

【0032】
アルミニウムオキシカーバイド組成物原料は、粒度3−1mmの粗粒域から焼結アルミナと置換した。焼結アルミナはAl成分99.5質量%のものを所定の粒度で、また、鱗状黒鉛は、カーボン含有量が99質量%で、#100の粒度を使用した。
【0033】
本発明の範囲内である実施例1〜実施例4では、AlC含有量を、15.5〜77.5質量%の範囲で変化させており、AlC含有量が多いほど、熱膨張率が低く、また、耐食性及び耐酸化性が優れており、いずれも本発明の範囲外である比較例1と比較して、優れていることがわかる。さらに、耐熱衝撃性に関しては、AlC含有量との明確な相関は認められないが、いずれも比較例1と比較して良好であることがわかる。
【0034】
表2は、上述のアーク溶融法により製造されたアルミニウムオキシカーバイド組成物原料(表2では「AOC組成物1」と表記)と、焼結法により製造されたアルミニウムオキシカーバイド組成物原料(表2では「AOC組成物2」と表記)の使用を比較した結果を示す。なお、上記焼結法では、仮焼アルミナ(平均粒径1μm、Al含有量99.9質量%)と鱗状黒鉛(平均粒径5μm、カーボン含有量99.5%)を、アルミナとカーボンのモル比1.5(Al/C)で混合した後、電気炉中Arガス雰囲気下、1850℃の条件で焼成してアルミニウムオキシカーバイド組成物原料約100gを製造し、これを繰り返し、耐火物へ添加する供試サンプルを得た。焼結法により製造されたアルミニウムオキシカーバイド組成物原料のカーボン含有量は5.6質量%で、AlC含有量は多いが、粉末としてのみ製造することが可能である。
【0035】
【表2】

【0036】
実施例6では、焼結法により製造されたアルミニウムオキシカーバイド組成物原料を0.074−0mmの粒度で添加し、アーク溶融法で製造された同じ粒度のアルミニウムオキシカーバイド組成物原料を適用した実施例5とその効果を評価した。
【0037】
実施例5は、実施例6と比較して、耐酸化性及び耐食性に優れており、アーク溶融法によるアルミニウムオキシカーバイド組成物原料がより効果が高いことがわかる。
【0038】
実施例6も、本発明の範囲外である比較例1と比較すると、耐酸化性、耐食性、耐熱衝撃性のいずれも優れていることがわかる。
【0039】
表3は、使用するアルミニウムオキシカーバイド組成物原料の粒度の影響を調査した結果を示す。
【0040】
【表3】

【0041】
実施例1、7〜9、5では、アーク溶融法により製造されたアルミニウムオキシカーバイド組成物を18質量%添加し、AlCの含有量を15.5質量%と一定として、粒度を3−1mmから0.074mm−0の範囲で変えてその効果を比較した。その結果、粒度が粗いほど熱膨張率の低減効果が高く、耐食性及び耐熱衝撃性も良好である。これに対して耐酸化性は、粒度が小さいほど良好である。いずれの粒度で添加しても無添加の比較例1及び2と比較して、耐酸化性及び耐食性に優れ、耐熱衝撃性も同等以上の効果が得られる。
【0042】
ただし、AlCの特徴である低熱膨張率による耐熱衝撃性の効果に関しては、0.2mm以上の骨材を使用した実施例1、7、8の方が微粉で使用した実施例9、5よりも良好であり、0.2mm以上の骨材として使用した方が好ましいといえる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
AlCを15.5質量%以上95質量%以下含有するカーボン含有耐火物。
【請求項2】
前記AlCが、AlCを主成分とするアルミニウムオキシカーバイド組成物原料に由来し、前記アルミニウムオキシカーバイド組成物原料が、炭素質原料とアルミナ質原料に、炭化珪素、炭化硼素、窒化アルミニウム、窒化硼素及び金属のうち1種以上を添加し、アーク炉で溶融することにより製造され、カーボンを3.1質量%以上6.5質量%以下含有するものである請求項1に記載のカーボン含有耐火物。
【請求項3】
前記アルミニウムオキシカーバイド組成物原料が、少なくとも粒度0.2mm以上の骨材として含有されている請求項2に記載のカーボン含有耐火物。

【公開番号】特開2012−72006(P2012−72006A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−217212(P2010−217212)
【出願日】平成22年9月28日(2010.9.28)
【出願人】(000170716)黒崎播磨株式会社 (314)
【Fターム(参考)】