説明

グラフェン、蓄電装置および電気機器

【課題】リチウムなどのイオンを透過させる能力と導電性を併せ持つグラフェンを提供する。また、該グラフェンを用いることにより、充放電特性に優れた蓄電装置を提供する。
【解決手段】炭素と窒素で形成された環状構造の内側の空孔を有するグラフェンは、リチウムなどのイオンを透過させる能力と、導電性を有する。グラフェンに含まれる窒素濃度は、0.4原子%以上40原子%以下であることが好ましい。また、該グラフェンを用いると、リチウムなどのイオンを好適に透過させることができるため、充放電特性に優れた蓄電装置を提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池用の材料に用いる等、リチウムなどのイオンの透過性および導電性に優れたグラフェンまたはグラフェンの積層体に関する。
【0002】
なお、本明細書等において、グラフェンとは、sp結合を有する1原子層の炭素分子のシートをいい、また、グラフェンの積層体とは、sp結合を有する1原子層の炭素分子のシートが、2層以上100層以下、好ましくは2層以上50層以下積層されているものをいう。
【背景技術】
【0003】
グラフェンは高い導電率や移動度という優れた電気特性、柔軟性や機械的強度という物理的特性のためにさまざまな製品に応用することが試みられている(特許文献1乃至特許文献3参照)。また、グラフェンをリチウムイオン二次電池に応用する技術も提案されている(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許公開第2011/0070146号公報
【特許文献2】米国特許公開第2009/0110627号公報
【特許文献3】米国特許公開第2007/0131915号公報
【特許文献4】米国特許公開第2010/0081057号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
グラフェンは、高い導電性を有するが、グラフェンのイオンを透過させる能力については未だ十分に解明されていない。上述の問題に鑑み、本発明の一態様は、リチウムなどのイオンを透過させる能力と高い導電性を併せ持つグラフェンを提供することを目的とする。または、該グラフェンを用いることにより、充放電特性に優れた蓄電装置を提供することを目的とする。または、該蓄電装置を備えることにより、信頼性が高く、長期または繰り返しの使用にも耐える電気機器を提供することを目的とする。本発明は上記の課題のいずれかを解決する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様に係る蓄電装置は、正極集電体上に設けられた正極活物質層を有する正極と、負極集電体上に設けられ、負極活物質と、空孔を有するグラフェンとを含む負極活物質層を有する負極と、正極と、負極との間に設けられたセパレータと、電解液と、を有する。グラフェンにおいて、空孔を有することで、イオンを通過させるパスを形成することができる。本明細書等において、空孔は、炭素と窒素、または炭素と酸素、硫黄などの16族の元素、及び塩素などのハロゲンの一または複数で構成される環状構造の内側をいう。なお、グラフェンが有する空孔は、1つでも良いし、複数であってもよい。
【0007】
本発明の一態様に係る蓄電装置は、正極集電体上に設けられた正極活物質層を有する正極と、負極集電体上に設けられ、負極活物質と、空孔を有するグラフェンとを含む負極活物質層を有する負極と、正極と、負極との間に設けられたセパレータと、電解液と、を有する。グラフェンにおいて、空孔を有することで、イオンを通過させるパスを形成することができる。
【0008】
また、本発明の一態様に係る蓄電装置は、正極集電体上に設けられ、正極活物質と、空孔を有するグラフェンとを含む正極活物質層を有する正極と、負極集電体上に設けられた負極活物質層を有する負極と、正極と、負極との間に設けられたセパレータと、電解液と、を有する。
【0009】
また、本発明の一態様に係る蓄電装置は、正極集電体上に設けられ、正極活物質と、空孔を有するグラフェンとを含む正極活物質層を有する正極と、負極集電体上に設けられ、負極活物質と、空孔を有するグラフェンとを含む負極活物質層を有する負極と、正極と、負極との間に設けられたセパレータと、電解液と、を有する。
【0010】
上記構成において、グラフェンの窒素濃度は、0.4原子%以上40原子%以下であることが好ましい。
【0011】
また、空孔を有するグラフェンは、積層体であってもよい。
【0012】
また、本発明の一態様は、上記構成を有する蓄電装置を含む電気機器である。
【0013】
本発明の一態様に係る蓄電装置では、正極活物質層または負極活物質層の少なくとも一方に、空孔を有するグラフェンまたはグラフェンの積層体が用いられている。グラフェンに形成された空孔は、イオンを通過させるパスとなるため、イオンは活物質へ挿入、または活物質から脱離し易くなる。これにより、蓄電装置の充放電特性を向上させることができる。
【0014】
また、正極活物質層または負極活物質層の少なくとも一方に空孔を有するグラフェンまたはグラフェンの積層体が用いられることにより、活物質層表面での電解液の分解が起こりにくくなるため、活物質層表面に堆積してイオンの挿入・脱離を阻害する表面被膜を薄くすることができる。これによっても、イオンは、活物質へ挿入または活物質から脱離し易くなるため、蓄電装置の充放電特性を向上させることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の一態様により、リチウムなどのイオンを透過させる能力と高い導電性を併せ持つグラフェンを提供することができる。または、該グラフェンを用いることにより、充放電特性に優れた蓄電装置を提供することができる。または、該蓄電装置を備えることにより、信頼性が高く、長期または繰り返しの使用にも耐える電気機器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】グラフェンの模式図である。
【図2】欠陥のポテンシャルを説明する図。
【図3】コイン型の二次電池の構造を説明する図である。
【図4】電気機器を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、実施の形態について説明する。但し、実施の形態は多くの異なる態様で実施することが可能であり、趣旨およびその範囲から逸脱することなくその形態および詳細を様々に変更し得ることは当業者であれば容易に理解される。従って、本発明は、以下の実施の形態の記載内容に限定して解釈されるものではない。
【0018】
(実施の形態1)
本実施の形態では、シリコン粒子の表面にイオンを通過させるパスを有するグラフェン、またはイオンを通過させるパスを有するグラフェンの積層体を形成する例について説明する。
【0019】
最初に、グラファイトを酸化して、酸化グラファイトを作製し、これに超音波振動を加えることで酸化グラフェンを得る。詳細は特許文献2を参照すればよい。また、市販の酸化グラフェンを利用してもよい。
【0020】
次に、酸化グラフェンとシリコン粒子を混合する。酸化グラフェンの割合は、全体の1重量%乃至15重量%、好ましくは1重量%乃至5重量%とするとよい。
【0021】
さらに、酸化グラフェンまたは酸化グラフェンの積層体と、シリコン粒子との混合物に対して、アンモニア雰囲気で150℃以上、好ましくは200℃以上の温度で熱処理を行う。なお、酸化グラフェンは150℃で還元されることがわかっている。
【0022】
このようにしてシリコン粒子の表面に形成された酸化グラフェンは還元されグラフェンとなる。その際、隣接するグラフェン同士が結合し、より巨大な網目状あるはシート状のネットワークを形成すると同時に、グラフェンには空孔が形成される。また、アンモニア雰囲気で熱処理を行うことにより、グラフェンに窒素が添加される。グラフェンに対する窒素濃度は、0.4原子%以上40%原子以下であることが好ましい。また、グラフェンが、2層以上100層以下、好ましくは2層以上50層以下形成されることによりグラフェンの積層体となる。
【0023】
または、酸化グラフェンとシリコン粒子との混合物に対して、真空中または不活性ガス(窒素または希ガス等)の雰囲気下で、150℃以上、好ましくは200℃以上の熱処理を行った後、グラフェンまたはグラフェンの積層体に対して窒素を添加する処理を行ってもよい。この手段によっても、グラフェンに空孔を形成することができる。
【0024】
アンモニアプラズマ処理、窒素プラズマ処理を行うことによってもグラフェンまたはグラフェンの積層体に窒素を添加することができる。また、ドーピング法またはイオン注入法により、窒素イオンをグラフェンまたはグラフェン積層体に添加してもよい。
【0025】
また、元素の添加によって炭素原子と置換される原子は、窒素原子に換えて酸素原子、塩素原子などのハロゲン原子、硫黄原子であってもよい。この場合、空孔は、炭素と、酸素、硫黄などの16族の元素、及び塩素などのハロゲンの一または複数で構成される環状構造の内側をいう。
【0026】
ここで、リチウムイオンが透過しうるグラフェンの空孔構造について図1及び図2を参照して説明する。図1は、グラフェンの格子構造を模式的に表したものであり、図1(A)は、グラフェン中の炭素原子を1個抜くことで生じる欠陥にリチウムイオンが近づく様子であり、図1(B)は、グラフェン中の隣り合う炭素原子を2個抜き、それらの炭素原子それぞれに最隣接する炭素原子を2個ずつ抜き、前記最隣接する炭素原子と窒素原子と置換したときに生じる欠陥にリチウムイオンが近づく様子である。
【0027】
図2は、図1(A)及び図1(B)のそれぞれについて、第一原理計算によりリチウムイオンとグラフェンの欠陥との間のポテンシャルを求めた結果である。図2において、横軸は、グラフェンからの距離(nm)であり、縦軸は、エネルギー(eV)である。また、図2に示す曲線Aは、図1(A)のグラフェンの欠陥のポテンシャルであり、曲線Bは、図1(B)のグラフェンの欠陥のポテンシャルである。
【0028】
図2において、曲線Aに示すリチウムイオンとグラフェンの欠陥との間のポテンシャルは、グラフェンの欠陥とリチウムとの距離が0.2nm近辺でエネルギーが極小となる。さらに距離が小さくなると、エネルギーは増加に転じ、グラフェンの欠陥とリチウムとの距離が0nmになるとエネルギーは3eVとなる。これにより、リチウムイオンがグラフェンの欠陥に到達するには、3eVのエネルギーが必要となるため、図1(A)においては、リチウムイオンはグラフェンの欠陥を透過することが困難であるとわかる。
【0029】
これに対し、曲線Bに示すリチウムイオンとグラフェンの欠陥との間のポテンシャルは、グラフェンの欠陥とリチウムイオンとの距離が近づくにつれて、エネルギーが減少していく。これは、リチウムイオンとグラフェンの欠陥(空孔)との間に引力が働き、エネルギー障壁がなくなることを意味する。よって、図1(B)においては、リチウムイオンが空孔を透過することが容易となることがわかる。
【0030】
グラフェンは、sp結合を有する1原子層の炭素分子のシートであるため、リチウムなどのイオンがグラフェンを透過することは困難である。しかし、本発明の一態様に係るグラフェンは、空孔(イオンを透過させるパス)を有しているため、リチウムなどのイオンが、グラフェンを容易に透過することができる。また、グラフェンはイオンを透過させるパスを有するため、グラフェンが積層されても、イオンは容易に透過することができる。また、グラフェンの空孔において、炭素と窒素とが結合した構造を有することにより、イオンが透過しやすくなるため、好ましい。
【0031】
グラフェンを透過するイオンとしては、リチウムイオン、ナトリウムイオン、もしくはカリウムなどのアルカリ金属イオン、カルシウム、ストロンチウムもしくはバリウムなどのアルカリ土類金属イオン、ベリリウムイオン、またはマグネシウムイオンなどが挙げられる。グラフェンが有する空孔の大きさは、これらのイオンが通過できる大きさであればよい。なお、グラフェンが有する空孔は、9員環以上の多員環であってもよい。また、グラフェンが有する空孔は、1つでも良いし、複数あってもよい。
【0032】
以上の処理を経たシリコン粒子を適切な溶媒(水やクロロホルムやN,N−dimethylformamide(DMF)やN−methylpyrrolidone(NMP)等の極性溶媒が好ましい)に分散させスラリーを得る。このスラリーを用いて二次電池を作製することができる。
【0033】
図3はコイン型の二次電池の構造を示す模式図である。図3に示すように、コイン型の二次電池は、負極204、正極232、セパレータ210、電解液(図示せず)、筐体206および筐体244を有する。このほかにはリング状絶縁体220、スペーサー240およびワッシャー242を有する。負極204と、正極232とは、対向するように設けられ、その間に、セパレータが設けられている。
【0034】
負極204は、負極集電体200上に負極活物質層202を有する。
【0035】
負極集電体200としては、例えば、導電材料を用いることができる。導電材料としては、アルミニウム(Al)、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、またはチタン(Ti)を用いることができる。また、負極集電体200として、上記導電材料のうち複数からないる合金材料を用いることもでき、合金材料としては、例えば、Al−Ni合金またはAl−Cu合金などを用いることもできる。また、負極集電体200は、箔状、板状、網状等の形状を適宜用いることができる。また、別の作製基板に導電層を成膜し、導電層を剥離することで、負極集電体200として用いることもできる。
【0036】
負極活物質層202は、金属の溶解・析出または金属イオンの挿入・脱離が可能な材料であれば、特に限定されない。負極活物質としては、例えば、リチウム金属、炭素系材料、シリコン、シリコン合金、スズなどを用いることができる。リチウムイオンの挿入・脱離が可能な炭素系材料としては、粉末状もしくは繊維状の黒鉛、またはグラファイトなどを用いることができる。負極活物質層202は、上述したスラリー単独、あるいはバインダーで混合したものを、負極集電体200上に塗布して、乾燥させたものを用いればよい。
【0037】
正極232は、正極集電体228上に正極活物質層230を有する。なお、図3においては、正極232の上下を逆さまにして記載している。
【0038】
正極集電体228としては、負極集電体200と同様の導電材料などを用いることができる。
【0039】
正極活物質としては、例えば、キャリアとなるイオンおよび遷移金属を含む材料を用いることができる。キャリアとなるイオンおよび遷移金属を含む材料としては、例えば、一般式APO(h>0、i>0、j>0)で表される材料を用いることができる。ここでAは、例えば、リチウム、ナトリウムもしくはカリウムなどのアルカリ金属、またはカルシウム、ストロンチウムもしくはバリウムなどのアルカリ土類金属、ベリリウム、またはマグネシウムである。Mは、例えば、鉄、ニッケル、マンガンもしくはコバルトなどの遷移金属である。一般式APO(h>0、i>0、j>0)で表される材料としては、例えば、リン酸鉄リチウム、リン酸鉄ナトリウムなどが挙げられる。Aで表される材料およびMで表される材料は、上記のいずれか一または複数を選択すればよい。
【0040】
または、一般式A(h>0、i>0、j>0)で表される材料を用いることができる。ここでAは、例えば、リチウム、ナトリウム、もしくはカリウムなどのアルカリ金属、カルシウム、ストロンチウムもしくはバリウムなどのアルカリ土類金属、ベリリウム、またはマグネシウムである。Mは、例えば、鉄、ニッケル、マンガン、もしくはコバルトなどの遷移金属である。一般式A(h>0、i>0、j>0)で表される材料としては、例えば、コバルト酸リチウム、マンガン酸リチウムまたはニッケル酸リチウムなどが挙げられる。Aで表される材料およびMで表される材料は、上記のいずれか一または複数を選択すればよい。
【0041】
リチウムイオン二次電池の場合、正極活物質として、リチウムを含む材料を選択することが好ましい。つまり、上記一般式APO(h>0、i>0、j>0)、または一般式A(h>0、i>0、j>0)におけるAを、リチウムとする。
【0042】
正極活物質層230は、上述の正極活物質粒子をバインダーや導電助剤ともに混合したスラリーを正極集電体228上に塗布して、乾燥させたものを用いればよい。
【0043】
また、活物質粒子の粒径は20nm乃至100nmとするとよい。また、焼成時にグルコース等の炭水化物を混合して、正極活物質粒子にカーボンがコーティングされるようにしてもよい。この処理により導電性が高まる。
【0044】
また、正極活物質層230を形成するためのスラリーとして、正極活物質に加えて、上述の酸化グラフェンを混合してもよい。少なくとも、正極活物質および酸化グラフェンを含むスラリーを正極集電体228上に塗布して、乾燥させた後、還元を行うことにより、正極活物質及びグラフェンを含む正極活物質層230を形成することができる。
【0045】
電解液は、非水溶媒に電解質塩を溶解させたものを用いればよい。非水溶媒としては、エチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)の混合溶媒、四級アンモニウム系カチオンを含むイオン液体、イミダゾリウム系カチオンを含むイオン液体を用いることができる。また、電解質塩としては、キャリアであるイオンを含み、正極活物質層230に対応した電解質塩であればよい。例えば、塩化リチウム(LiCl)、フッ化リチウム(LiF)、過塩素酸リチウム(LiClO)、硼弗化リチウム(LiBF)、LiAsF、LiPF、Li(CFSONなどを用いるとよいが、これに限定されない。
【0046】
セパレータ210には、空孔が設けられた絶縁体(例えば、ポリプロピレン)を用いてもよく、イオンを透過させる固体電解質を用いてもよい。
【0047】
筐体206、筐体244、スペーサー240およびワッシャー242は、金属(例えば、ステンレス)製のものを用いるとよい。筐体206および筐体244は、負極204および正極232を外部と電気的に接続する機能を有している。
【0048】
これら負極204、正極232およびセパレータ210を電解液に含浸させ、図3に示すように、筐体206を下にして負極204、セパレータ210、リング状絶縁体220、正極232、スペーサー240、ワッシャー242、筐体244をこの順で積層し、筐体206と筐体244とを圧着してコイン型の二次電池を作製する。
【0049】
なお、図3においては、主にリチウムイオン二次電池の作製方法について説明したが、本発明の一態様に係る蓄電装置はこれに限定されない。本発明の一態様に係る蓄電装置として、キャパシタが挙げられる。キャパシタとしては、リチウムイオンキャパシタ及び電気二重層キャパシタなどが挙げられる。
【0050】
本発明の一態様に係る蓄電装置では、正極活物質層または負極活物質層の少なくとも一方に、空孔を有するグラフェンまたはグラフェンの積層体が用いられている。グラフェンに形成された空孔は、イオンを通過させるパスとなるため、イオンは活物質へ挿入、または活物質から脱離し易くなる。これにより、蓄電装置の充放電特性を向上させることができる。
【0051】
また、正極活物質層または負極活物質層の少なくとも一方に空孔を有するグラフェンまたはグラフェンの積層体が用いられることにより、活物質層表面での電解液の分解が起こりにくくなるため、活物質層表面に堆積してイオンの挿入・脱離を阻害する表面被膜を薄くすることができる。これによっても、イオンは、活物質へ挿入または活物質から脱離し易くなるため、蓄電装置の充放電特性を向上させることができる。
【0052】
本実施の形態は、他の実施の形態と適宜組み合わせて実施することが可能である。
【0053】
(実施の形態2)
本実施の形態では、集電体上に形成されたシリコンを含む活物質層の表面にイオンを通過させるパスを有するグラフェン、またはグラフェンの積層体を形成する例について説明する。
【0054】
最初に、酸化グラフェンを水やNMP等の溶媒に分散させる。溶媒は極性溶媒であることが好ましい。酸化グラフェンの濃度は1リットル当たり0.1g乃至10gとすればよい。
【0055】
この溶液にシリコンを含む活物質層を集電体ごと浸漬し、これを引き上げた後、乾燥させる。
【0056】
さらに、酸化グラフェンとシリコン粒子との混合物に対して、アンモニア雰囲気下で熱処理を行う。熱処理の温度は、150℃以上、集電体に用いられる導電材料の融点以下であればよい。以上の工程により、シリコン活物質層表面に、空孔を有するグラフェンまたはグラフェンの積層体を形成することができる。
【0057】
なお、このようにして一度、グラフェンまたはグラフェンの積層体を形成した後、もう一度、同じ処理を繰り返して、さらに同様にグラフェンの積層体を形成してもよい。同じことを3回以上繰り返してもよい。このようにグラフェンの積層体を形成すると強度が高くなるため好ましい。
【0058】
なお、一度に厚いグラフェンの積層体を形成する場合には、グラフェンのsp結合の向きに乱雑さが生じ、グラフェン積層体の強度が厚さに比例しなくなるが、このように何度かに分けてグラフェンの積層体を形成する場合には、グラフェンのsp結合が概略シリコンの表面と平行であるため、厚くするほどグラフェンの積層体の強度が増す。
【0059】
また、グラフェンの積層体において、それぞれのグラフェンは空孔を有しているため、リチウムの移動を妨げることがない。したがって、イオンは活物質へ挿入、または活物質から脱離しやすくなる。これにより、蓄電装置の充放電特性を向上させることができる。
【0060】
本実施の形態は、上記実施の形態と適宜組み合わせて実施することが可能である。
【0061】
(実施の形態3)
本実施の形態では、集電体上に形成されたシリコン活物質層の表面にイオンを通過させるパスを有するグラフェン、またはグラフェンの積層体を形成する別の例について説明する。
【0062】
まず、実施の形態2と同様に、酸化グラフェンを水やNMP等の溶媒に分散させる。酸化グラフェンの濃度は1リットル当たり0.1g乃至10gとすればよい。
【0063】
酸化グラフェンを分散させた溶液にシリコン活物質層が形成された集電体を入れ、これを正極とする。また、溶液に負極となる導電体を入れ、正極と負極の間に適切な電圧(例えば、5V乃至20V)を加える。酸化グラフェンは、ある大きさのグラフェンシートの端の一部がカルボキシル基(−COOH)で終端されているため、水等の溶液中では、カルボキシル基から水素イオンが離脱し、酸化グラフェン自体は負に帯電する。そのため、正極に引き寄せられ、付着する。なお、この際、電圧は一定でなくてもよい。正極と負極の間を流れる電荷量を測定することで、シリコン活物質層に付着した酸化グラフェンの層の厚さを見積もることができる。
【0064】
必要な厚さの酸化グラフェンが得られたら、集電体を溶液から引き上げ、乾燥させる。
【0065】
さらに、酸化グラフェンとシリコン粒子との混合物に対して、アンモニア雰囲気下で熱処理を行う。熱処理の温度は、150℃以上、集電体に用いられる導電材料の融点以下であればよい。以上の工程により、シリコン活物質層表面に、空孔を有するグラフェンまたはグラフェンの積層体を形成することができる。
【0066】
上記のように形成されたグラフェンは、シリコン活物質に凹凸があっても、その凹部にも凸部にもほぼ均一な厚さで形成される。このようにして、シリコン活物質層の表面にイオンを通過させるパスを有するグラフェン、またはグラフェンの積層体を形成することができる。このようにして形成されたグラフェンまたはグラフェンの積層体は、上記で説明したような空孔があるため、イオンを透過させることができる。
【0067】
なお、このようにグラフェンまたはグラフェンの積層体を形成した後に、本実施の形態の方法によるグラフェンまたはグラフェンの積層体の形成や、実施の形態2の方法によるグラフェンまたはグラフェンの積層体の形成を1回以上おこなってもよい。
【0068】
本実施の形態は、上記実施の形態と適宜組み合わせて実施することが可能である。
【0069】
(実施の形態4)
本発明の一態様に係る蓄電装置は、電力により駆動する様々な電気機器の電源として用いることができる。
【0070】
本発明の一態様に係る蓄電装置を用いた電気機器の具体例として、表示装置、照明装置、デスクトップ型或いはノート型のパーソナルコンピュータ、DVD(Digital Versatile Disc)などの記録媒体に記憶された静止画または動画を再生する画像再生装置、携帯電話、携帯型ゲーム機、携帯情報端末、電子書籍、ビデオカメラ、デジタルスチルカメラ、電子レンジ等の高周波加熱装置、電気炊飯器、電気洗濯機、エアコンディショナーなどの空調設備、電気冷蔵庫、電気冷凍庫、電気冷凍冷蔵庫、DNA保存用冷凍庫、透析装置などが挙げられる。また、蓄電装置からの電力を用いて電動機により推進する移動体なども、電気機器の範疇に含まれるものとする。上記移動体として、例えば、電気自動車、内燃機関と電動機を併せ持った複合型自動車(ハイブリッドカー)、電動アシスト自転車を含む原動機付自転車などが挙げられる。
【0071】
なお、上記電気機器は、消費電力の殆ど全てを賄うための蓄電装置(主電源と呼ぶ)として、本発明の一態様に係る蓄電装置を用いることができる。或いは、上記電気機器は、上記主電源や商用電源からの電力の供給が停止した場合に、電子機器への電力の供給を行うことができる蓄電装置(無停電電源と呼ぶ)として、本発明の一態様に係る蓄電装置を用いることができる。或いは、上記電気機器は、上記主電源や商用電源からの電気機器への電力の供給と並行して、電気機器への電力の供給を行うための蓄電装置(補助電源と呼ぶ)として、本発明の一態様に係る蓄電装置を用いることができる。
【0072】
図4に、上記電気機器の具体的な構成を示す。図4において、表示装置5000は、本発明の一態様に係る蓄電装置5004を用いた電気機器の一例である。具体的に、表示装置5000は、TV放送受信用の表示装置に相当し、筐体5001、表示部5002、スピーカー部5003、蓄電装置5004等を有する。本発明の一態様に係る蓄電装置5004は、筐体5001の内部に設けられている。表示装置5000は、商用電源から電力の供給を受けることもできるし、蓄電装置5004に蓄積された電力を用いることもできる。よって、停電などにより商用電源から電力の供給が受けられない時でも、本発明の一態様に係る蓄電装置5004を無停電電源として用いることで、表示装置5000の利用が可能となる。
【0073】
表示部5002には、液晶表示装置、有機EL素子などの発光素子を各画素に備えた発光装置、電気泳動表示装置、DMD(Digital Micromirror Device)、PDP(Plasma Display Panel)、FED(Field Emission Display)などの、半導体表示装置を用いることができる。
【0074】
なお、表示装置には、TV放送受信用の他、パーソナルコンピュータ用、広告表示用など、全ての情報表示用表示装置が含まれる。
【0075】
図4において、据え付け型の照明装置5100は、本発明の一態様に係る蓄電装置5103を用いた電気機器の一例である。具体的に、照明装置5100は、筐体5101、光源5102、蓄電装置5103等を有する。図4では、蓄電装置5103が、筐体5101及び光源5102が据え付けられた天井5104の内部に設けられている場合を例示しているが、蓄電装置5103は、筐体5101の内部に設けられていても良い。照明装置5100は、商用電源から電力の供給を受けることもできるし、蓄電装置5103に蓄積された電力を用いることもできる。よって、停電などにより商用電源から電力の供給が受けられない時でも、本発明の一態様に係る蓄電装置5103を無停電電源として用いることで、照明装置5100の利用が可能となる。
【0076】
なお、図4では天井5104に設けられた据え付け型の照明装置5100を例示しているが、本発明の一態様に係る蓄電装置は、天井5104以外、例えば側壁5105、床5106、窓5107等に設けられた据え付け型の照明装置に用いることもできるし、卓上型の照明装置などに用いることもできる。
【0077】
また、光源5102には、電力を利用して人工的に光を得る人工光源を用いることができる。具体的には、白熱電球、蛍光灯などの放電ランプ、LEDや有機EL素子などの発光素子が、上記人工光源の一例として挙げられる。
【0078】
図4において、室内機5200及び室外機5204を有するエアコンディショナーは、本発明の一態様に係る蓄電装置5203を用いた電気機器の一例である。具体的に、室内機5200は、筐体5201、送風口5202、蓄電装置5203等を有する。図4では、蓄電装置5203が、室内機5200に設けられている場合を例示しているが、蓄電装置5203は室外機5204に設けられていても良い。或いは、室内機5200と室外機5204の両方に、蓄電装置5203が設けられていても良い。エアコンディショナーは、商用電源から電力の供給を受けることもできるし、蓄電装置5203に蓄積された電力を用いることもできる。特に、室内機5200と室外機5204の両方に蓄電装置5203が設けられている場合、停電などにより商用電源から電力の供給が受けられない時でも、本発明の一態様に係る蓄電装置5203を無停電電源として用いることで、エアコンディショナーの利用が可能となる。
【0079】
なお、図4では、室内機と室外機で構成されるセパレート型のエアコンディショナーを例示しているが、室内機の機能と室外機の機能とを1つの筐体に有するエアコンディショナーに、本発明の一態様に係る蓄電装置を用いることもできる。
【0080】
図4において、電気冷凍冷蔵庫5300は、本発明の一態様に係る蓄電装置5304を用いた電気機器の一例である。具体的に、電気冷凍冷蔵庫5300は、筐体5301、冷蔵室用扉5302、冷凍室用扉5303、蓄電装置5304等を有する。図4では、蓄電装置5304が、筐体5301の内部に設けられている。電気冷凍冷蔵庫5300は、商用電源から電力の供給を受けることもできるし、蓄電装置5304に蓄積された電力を用いることもできる。よって、停電などにより商用電源から電力の供給が受けられない時でも、本発明の一態様に係る蓄電装置5304を無停電電源として用いることで、電気冷凍冷蔵庫5300の利用が可能となる。
【0081】
なお、上述した電気機器のうち、電子レンジ等の高周波加熱装置、電気炊飯器などの電気機器は、短時間で高い電力を必要とする。よって、商用電源では賄いきれない電力を補助するための補助電源として、本発明の一態様に係る蓄電装置を用いることで、電気機器の使用時に商用電源のブレーカーが落ちるのを防ぐことができる。
【0082】
また、電気機器が使用されない時間帯、特に、商用電源の供給元が供給可能な総電力量のうち、実際に使用される電力量の割合(電力使用率と呼ぶ)が低い時間帯において、蓄電装置に電力を蓄えておくことで、上記時間帯以外において電力使用率が高まるのを抑えることができる。例えば、電気冷凍冷蔵庫5300の場合、気温が低く、冷蔵室用扉5302、冷凍室用扉5303の開閉が行われない夜間において、蓄電装置5304に電力を蓄える。そして、気温が高くなり、冷蔵室用扉5302、冷凍室用扉5303の開閉が行われる昼間において、蓄電装置5304を補助電源として用いることで、昼間の電力使用率を低く抑えることができる。
【0083】
本発明の一態様に係る蓄電装置には、リチウムなどのイオンを透過させる能力と高い導電性を併せ持つグラフェンが用いられている。蓄電装置に該グラフェンが用いられていることにより、充放電特性に優れた蓄電装置とすることができる。また、電気機器に、該蓄電装置を備えることにより、信頼性が高く、長期または繰り返しの使用にも耐える電気機器を提供することができる。
【0084】
本実施の形態は、上記実施の形態と適宜組み合わせて実施することが可能である。
【符号の説明】
【0085】
200 負極集電体
202 負極活物質層
204 負極
206 筐体
210 セパレータ
220 リング状絶縁体
228 正極集電体
230 正極活物質層
232 正極
240 スペーサー
242 ワッシャー
244 筐体
5000 表示装置
5001 筐体
5002 表示部
5003 スピーカー部
5004 蓄電装置
5100 照明装置
5101 筐体
5102 光源
5103 蓄電装置
5104 天井
5105 側壁
5106 床
5107 窓
5200 室内機
5201 筐体
5202 送風口
5203 蓄電装置
5204 室外機
5300 電気冷凍冷蔵庫
5301 筐体
5302 冷蔵室用扉
5303 冷凍室用扉
5304 蓄電装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極集電体上に設けられた正極活物質層を有する正極と、
負極集電体上に設けられ、負極活物質と、炭素原子と結合する窒素原子による空孔を有するグラフェンとを含む負極活物質層を有する負極と、
前記正極と、前記負極との間に設けられたセパレータと、
電解液と、
を有する蓄電装置。
【請求項2】
正極集電体上に設けられ、正極活物質と、炭素原子と結合する窒素原子による空孔を有するグラフェンとを含む正極活物質層を有する正極と、
負極集電体上に設けられた負極活物質層を有する負極と、
前記正極と、前記負極との間に設けられたセパレータと、
電解液と、
を有する蓄電装置。
【請求項3】
正極集電体上に設けられ、正極活物質と、炭素原子と結合する窒素原子による空孔を有するグラフェンとを含む正極活物質層を有する正極と、
負極集電体上に設けられ、負極活物質と、炭素原子と結合する窒素原子による空孔を有するグラフェンとを含む負極活物質層を有する負極と、
前記正極と、前記負極との間に設けられたセパレータと、
電解液と、
を有する蓄電装置。
【請求項4】
前記グラフェンは、窒素濃度が0.4原子%以上40原子%以下である請求項1乃至請求項3のいずれか一に記載の蓄電装置。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれか一に記載の蓄電装置を含む電気機器。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図1】
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【公開番号】特開2013−30472(P2013−30472A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−138897(P2012−138897)
【出願日】平成24年6月20日(2012.6.20)
【出願人】(000153878)株式会社半導体エネルギー研究所 (5,264)
【Fターム(参考)】