説明

コンクリート複合構造体及びその施工方法

【課題】基礎架台と、ベースプレートとの間の空間への水硬性スラリー等の水硬性組成物の充填率を高めることによって、堅牢なコンクリート複合構造体及びその施工方法を得る。
【解決手段】基礎架台9上にベースプレートA1を固定する工程と、型枠2を配置する工程と、水硬性スラリー注入管4を配置する工程と、空気抜管を配置する工程と、ベースプレートA1と型枠2との間の隙間に水硬性モルタル3を充填して、水硬性モルタル充填部7を形成する工程と、水硬性スラリー注入管4から、被充填空間6に水硬性スラリー8を注入し充填する工程と、水硬性スラリー8を硬化させることによって水硬性組成物硬化部の少なくとも一部を形成する工程とを含む、コンクリート複合構造体の施工方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、免震建造物等の施工に用いることのできるコンクリート複合構造体の施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
免震建造物を得るために、ベースプレート上にアイソレータを配置する構造が用いられている。例えば、非特許文献1には、免震建造物の施工に適用される施工標準が記載されている。免震建造物を施工する場合には、構造物の荷重を支えるため、ベースプレート下部に高強度のコンクリートを充填することが必要である。具体的には、非特許文献1には、次のことが記載されている。ベースプレート下部にコンクリートを充填する場合、中央部にコンクリート打設用の穴(コンクリート充填孔)が必要である。また、ベースプレート下部にコンクリートを打設する際、中央部より外側に向かって空気を押し出すように打設するが、途中に空気溜まりが生じやすいため空気抜き穴(30φ程度)を数ヶ所設ける。また、グラウト充填の場合には、片押しで他方に向かって同様に施工するが、やはり適切な空気抜きを設ける。また、グラウト工法を採用する場合には、下部プレート(下部ベースプレート)との間に30〜50mm程度の隙間を残して立ち上がり基礎へのコンクリート打設を行い、その後隙間部への無収縮モルタル充填を行う。
【0003】
一方、特許文献1には、高充填性コンクリート材料、及び該高充填性コンクリート材料を用いた鉄筋コンクリート構造物及び鋼コンクリート複合部材が記載されている。具体的には、特許文献1には、セメントと、ブレーン比表面積が5,000〜10,000cm/gで、置換率(結合材中に占める重量比)が45〜90%の高炉スラグ微粉末とからなる結合材に、水結合材比(結合材に対する水の重量比)が25〜40%の水と、スランプフロー値59cm以上の値を得るに必要な量の界面活性剤とを加えることにより、型枠内へ非締固めで充填されたコンクリートの上面型枠との境界部の充填率で表わされる当該充填率が98%以上を達成する材料分離抵抗性を具備させてなることを特徴とする高充填性コンクリート材料が記載されている。
【0004】
特許文献2には、免震装置本体の下面を下部ベースプレートに受止させて取り付ける場合において、基礎コンクリート床面の前記免震装置本体取付部に凹所を設け、この凹所の上部に支持材を差し渡して仮固定し、この支持材の下に前記下部ベースプレートを仮固定すると共に、この下部ベースプレートの下面に複数本のアンカーボルトを吊り下げ、下部ベースプレートに形成されたコンクリート充填用孔からコンクリートを流し込んで前記凹所及び下部ベースプレートの下面までコンクリートを打設することで下部ベースプレートを固定し、この後前記支持材を除去して下部ベースプレートの上面に前記免震装置本体の下面を取り付けることを特徴とする免震装置の取付工法が記載されている。また、特許文献2には、コンクリート充填用孔が、下部ベースプレートの中心部に開けられていることが記載されている。
【0005】
特許文献3には、免震装置をコンクリート基礎の上へ取り付ける工法において、複数の袋ナットを周面に取り付け、該袋ナットの下側にスタッドボルト等を取り付け、上側には免震装置の据付ボルトを取り付けた材長の短い鋼管を、免震装置の底面位置に支持架台で支持させ、コンクリート基礎の型枠を組み立て、コンクリートを打設して前記コンクリート基礎を構築する段階と、前記鋼管の内部へ無収縮高強度モルタルを打設し、その上面を水平に仕上げる段階と、前記無収縮高強度モルタルの上に免震装置を据付け、前記袋ナットの据付ボルトによって下部フランジプレートを固定する段階と、から成ることを特徴とする、免震装置の基礎への取付工法が記載されている。また、特許文献3には、特許文献3記載の方法によれば、通常のコンクリート打設工法を適用することができ、後施工としてのグラウト注入工事は一切必要でないことが記載されている。
【0006】
特許文献4には、免震装置装着部の片面に免震装置を定着させるねじ孔を設け、該装着部の反対面に配備した複数の定着ボルトを有する免震ベースプレートを基礎に固定させてから、所定の型枠施工の下にコンクリートを打設する免震装置装着台座の施工方法であって、免震装置装着部に設けた複数の定着ボルトの一部を免震ベースプレートのレベル調整支柱にして免震ベースプレートを基礎に直接固定し、他の定着ボルトを基礎から開放することを特徴とする免震装置装着台座の施工方法が記載されている。特許文献4記載の免震ベースプレートは、免震ベースプレートの下部にコンクリートを打設する際に免震ベースプレートとコンクリートとの間に空気が閉塞されるのを防ぐための空気抜きである複数の孔を有することが記載されている。
【0007】
特許文献5には、免震装置据付架台の設置位置に、据付架台の設置位置を取り囲み支持脚で支えられる中空枠と該中空枠の上面に配置され据付下部プレートを装着した保持部材から成る据付架台設置枠を配置し、しかる後に、免震装置据付架台用の型枠を組んで据付架台コンクリートを打設し、所定の養生後に型枠及び上記設置枠を撤去することを特徴とする免震装置据付架台の施工方法が記載されている。また、特許文献5には、基礎部のコンクリートは、型枠の中で中空枠の上面まで打設されており、据付下部プレートの下面とコンクリートとの間には若干の隙間が存在する程度まで充填されていることが記載されている。
【0008】
特許文献6には、免震装置の設置部位にアンカーフレームを設置して鉄筋を配筋し、下面にスタッド、袋ナットなどを設けたベースプレートを前記アンカーフレームへ定着させてコンクリート打設を行い、前記ベースプレートの上面に免震装置を設置する工法において、前記免震装置の設置部位に、高さ調整用ボルトを備え、前記ベースプレート下面に設けられたスタッド、袋ナットと競合しない鉄筋の配筋位置をマーキングしたアンカーフレームを設置し、前記高さ調整用ボルトの天端を予めレベル調整する工程と、鉄筋を前記アンカーフレームのマーキングにしたがって配筋する工程と、下面にスタッド、袋ナットを設けたベースプレートを、レベル調整を行った前記高さ調整用ボルトの天端へ載置し、該ベースプレートのスタッドに、前記アンカーフレーム側へ設けたアングルを当接させ、前記スタッドとアングルとを溶接して位置決めを行う工程と、前記鉄筋を取り囲むように型枠を建て込み、前記ベースプレートの下面までコンクリートを打設して該ベースプレートを固定し、養生後に前記ベースプレートの上面に免震装置を設置する工程と、から成ることを特徴とする、免震装置の設置工法が記載されている。また、特許文献6には、前記鉄筋を取り囲むように型枠を建て込み、前記ベースプレートの下面までコンクリートを打設して該ベースプレートを固定することが記載されている。
【0009】
特許文献7には、下地コンクリート上に中空パイプの支持治具を固定する工程と、前記支持治具に中空パイプを立設する工程と、前記中空パイプの周囲に型枠を形成する工程と、前記型枠内に基礎コンクリートを打設する工程と、前記基礎コンクリートの硬化後に前記中空パイプを外して取付穴を形成する工程と、前記取付穴にアンカー部材を挿入し位置決めする工程と、前記取付穴に固定材を注入して前記アンカー部材を固定する工程とから構成されることを特徴とする基礎形成工法が記載されている。また、特許文献7には、アンカープレートの中央の注入口から固定材としてグラウト材を注入することが記載されている。
【0010】
特許文献8には、床支持体上に適宜の支持部材を介して所定高さに架設される打設用床版又は打設用型枠と、該打設用床版又は打設用型枠の要所々々に開設された開口部と、該開口部を経て前記床支持体上に載置される免震装置と、該免震装置と直接又は間接に連結されたアンカーボルトと、該アンカーボルトを埋め込んで前記打設用床版又は打設用型枠上に現場打ちされるコンクリート床版とからなることを特徴とする免震構造が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特許第2997893号公報
【特許文献2】特開平10−292668号公報
【特許文献3】特開2000−129953号公報
【特許文献4】特開2001−012107号公報
【特許文献5】特開2001−164792号公報
【特許文献6】特開2001−214636号公報
【特許文献7】特開2003−301468号公報
【特許文献8】特開2002−371724号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】社団法人日本免震構造協会編「JSSI免震構造施工標準2005」社団法人経済調査会、2005年7月15日
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
ベースプレート上にアイソレータを配置する構造の免震建造物の場合、従来、ベースプレート下部に高強度のコンクリートを充填する際に、ベースプレート中央部にコンクリート打設用の孔(コンクリート充填孔)を設け、そこからコンクリートを充填している。しかしながら、このような方法の場合には、コンクリートの充填がされない空間が残り、コンクリートの充填率が十分でないという問題がある。
【0014】
上述の問題を解決するために、本発明は、基礎架台と、ベースプレートとの間の空間への水硬性スラリー等の水硬性組成物の充填率を高めることによって、堅牢なコンクリート複合構造体及びその施工方法を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本願発明者らは、基礎架台と、ベースプレートとの間の空間へ水硬性スラリーを充填する際に、所定の位置に配置された水硬性スラリー注入管及び空気抜管を用いることにより、水硬性スラリー等の水硬性組成物の充填率を高めることを見出し、本発明に至った。
【0016】
すなわち、本発明は、基礎架台と、基礎架台の上部に形成される水硬性組成物硬化部と、水硬性組成物硬化部の端部に形成される水硬性モルタル充填部と、水硬性組成物硬化部及び水硬性モルタル充填部の上部に配置される略平板状のベースプレートAとを含むコンクリート複合構造体の施工方法であって、ベースプレートAと基礎架台との間に被充填空間を有するように、基礎架台上にベースプレートAを固定する工程(a)と、被充填空間の端部を取り囲み、かつ、ベースプレートAと型枠との間に隙間を有するように、型枠を配置する工程(b)と、ベースプレートAと型枠との隙間の1箇所に、水硬性スラリー注入管を配置する工程(c)と、ベースプレートAと型枠との隙間の少なくとも1箇所に、空気抜管を配置する工程(d)と、水硬性スラリー注入管及び空気抜管の開口部を除き被充填空間を密閉するために、ベースプレートAと型枠との間の隙間に水硬性モルタルを充填して、水硬性モルタル充填部を形成する工程(e)と、水硬性スラリー注入管から、被充填空間に水硬性スラリーを注入し充填する工程(f)と、水硬性スラリーを硬化させることによって水硬性組成物硬化部の少なくとも一部を形成する工程(g)とを含む、コンクリート複合構造体の施工方法である。
【0017】
本発明の施工方法の好ましい態様を以下に示す。本発明では、これらの態様を適宜組み合わせることができる。
(1)工程(a)が、基礎架台上に設けられたアンカーボルトの上面にアンカーフレームを設け、アンカーフレームにベースプレートAを固定することを含む。
(2)アンカーボルトを囲むように鉄筋を配筋することによって、配筋部を形成することを含む。
(3)工程(b)が、配筋部を囲むように型枠を配置することを含む。
(4)工程(b)の後であって、工程(c)の前に、被充填空間の一部に、コンクリートを注入して硬化させることによって、水硬性組成物硬化部の一部を形成する工程(b’)をさらに含む。
(5)工程(b’)が、被充填空間の容積の0〜90%に、コンクリートを注入することを含む。
(6)工程(c)が、水硬性スラリー注入管を、多角形のベースプレートAと型枠との隙間の隅部の1箇所に配置することを含む。
(7)工程(f)が、非脈動型ポンプを用いて、水硬性スラリーを注入することを含む。
(8)工程(f)が、0.5〜3.5m/時間の水硬性スラリー流量で水硬性スラリーを注入することを含む。
(9)水硬性スラリーが、セメント、細骨材、膨張材及び流動化剤を含む水硬性スラリーであって、JSCE・F541−1999に準拠したJ14ロート流下値が6〜10秒の範囲である。
(10)水硬性モルタルが、セメント、細骨材及び膨張材を含み、かつ流動化剤を含まない水硬性モルタルであって、水硬性モルタルの硬化体が、水硬性スラリーの硬化体と同じ特性である。
(11)工程(g)の後に、ベースプレートAの上面に免震装置のアイソレータを設置する工程(h)をさらに含む。
【0018】
また、本発明は、上述の施工方法によって施工されるコンクリート複合構造体である。
【発明の効果】
【0019】
本発明により、基礎架台と、ベースプレートとの間の空間への水硬性スラリー等の水硬性組成物の充填率を高めることができるので、堅牢なコンクリート複合構造体及びその施工方法を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明のコンクリート複合構造体の一例の、型枠取り外し直前の上面模式図である。
【図2】図1の端部の断面模式図である。
【図3】本発明の施工方法の工程(a)の一例を示す断面模式図である。
【図4】本発明の施工方法の工程(b)の一例を示す断面模式図である。
【図5】本発明の施工方法の工程(b’)の一例を示す断面模式図である。
【図6】本発明の施工方法の工程(c)の一例を示す断面模式図である。
【図7】本発明の施工方法の工程(d)の一例を示す断面模式図である。
【図8】本発明の施工方法の工程(e)の一例を示す断面模式図である。
【図9】本発明の施工方法の工程(e)において、水硬性スラリー注入管付近の一例を示す断面模式図である。
【図10】本発明の施工方法の工程(e)において、空気抜管付近の一例を示す断面模式図である。
【図11】本発明の施工方法の工程(f)の一例を示す断面模式図である。
【図12】本発明の施工方法の工程(f)の別の一例を示す断面模式図である。
【図13】水硬性スラリー調製・施工用トラックの模式図である。
【図14】実施例1の脱型後の表面を示す写真図である。
【図15】実施例1の打設を示す写真図である。
【図16】実施例2の脱型後の表面を示す写真図である。
【図17】実施例2の脱型を示す写真図である。
【図18】比較例1の脱型後の表面を示す写真図である。
【図19】比較例1の脱型を示す写真図である。
【図20】比較例2の脱型後の表面を示す写真図である。
【図21】比較例2の脱型を示す写真図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明のコンクリート複合構造体の施工方法は、基礎架台9と、基礎架台9の上部に形成される水硬性組成物硬化部と、水硬性組成物硬化部の端部に形成される水硬性モルタル充填部7と、水硬性組成物硬化部及び水硬性モルタル充填部7の上部に配置される略平板状のベースプレートA1とを含むコンクリート複合構造体の施工方法である。本発明の施工方法によれば、堅牢なコンクリート複合構造体を得ることができるので、基礎架台9とベースプレートA1との間に高密度の水硬性組成物硬化部を形成する必要のあるコンクリート複合構造体を用いる建造物において広く用いることができる。本発明の施工方法は、特に、堅牢なコンクリート複合構造体を必要とする免震建造物の免震構造を施工するために好ましく用いることができる。
【0022】
本発明のコンクリート複合構造体の施工方法により施工されるコンクリート複合構造体は、基礎架台9と、水硬性組成物硬化部と、水硬性モルタル充填部7と、ベースプレートA1とを含む。図1に、本発明の施工方法の型枠2取り外し直前の上面模式図を示す。また、図1の端部の断面模式図を図2に示す。水硬性組成物(コンクリート3及び/又は水硬性スラリー8)を硬化した水硬性組成物硬化部は、基礎架台9の上部に形成される。水硬性モルタルを硬化した水硬性モルタル充填部7は、水硬性組成物硬化部に接するように、水硬性組成物硬化部の端部に形成される。「水硬性組成物硬化部の端部」とは、水硬性組成物硬化部の表面のうち、ベースプレートA1又は基礎架台9と接していない側面のことをいう。また、ベースプレートA1は、略平板状の形状であり、水硬性組成物硬化部及び水硬性モルタル充填部7の上部に配置される。本発明の施工方法によれば、基礎架台9と、ベースプレートA1との間に、高密度の水硬性組成物硬化部を形成することができる。この結果、堅牢なコンクリート複合構造体を得ることができる。以下、本発明の施工方法について説明する。
【0023】
図3に断面模式図を示すように、本発明の施工方法は、ベースプレートA1と基礎架台9との間に被充填空間6を有するように、基礎架台9上にベースプレートA1を固定する工程(a)を含む。基礎架台9の上に建築物を安定に設置するために、基礎架台9の表面は水平面であることが好ましい。
【0024】
本明細書において「基礎架台9」とは、コンクリート複合構造体の基礎となる最下部の部分であり、コンクリート3等を打設することによって形成することができる。また、本明細書において、「ベースプレートA1」とは、剛性及び強度の高い金属材料、具体的には鋼等を材料とする平板状の構造体である。また、ベースプレートA1の大きさは、コンクリート複合構造体の用途によって適宜選択される。例えば、免震建造物を得るために免震装置を形成する場合には、一般に「下部ベースプレート」といわれる鋼を材料とするプレートが、本発明のベースプレートA1に相当する。ベースプレートA1の形状は、その用途によって適宜選択できるが、例えば四角形又は円盤状等の形状のプレートを用いることができる。ベースプレートA1の形状が四角形の場合には、一辺が500〜3000mm程度、好ましくは1000〜2500mm程度の正方形の形状のものを用いることができる。
【0025】
一般的な「下部ベースプレート」では、プレートの中央にコンクリート3打設用の貫通孔(コンクリート3充填孔)及び周辺部に空気抜き用の貫通孔を設けるが、本発明の施工方法に用いるベースプレートA1は、これらの貫通孔を設けないことが好ましい。本発明の施工方法においては、貫通孔を設けたベースプレートA1を用いる場合には、被充填空間6に水硬性スラリー8を注入し充填する工程(f)の前に、コンクリート3打設用及び空気抜き用等の貫通孔を塞ぐ必要があるためである。
【0026】
図3において、ベースプレートA1の固定方法は図示していないが、ベースプレートA1は、基礎架台9上に被充填空間6を有するように公知の方法で固定される。本明細書において「被充填空間6」とは、ベースプレートA1と基礎架台9との間の空間であって、水硬性組成物を充填するための空間である。ベースプレートA1の上に建築物を安定に設置するために、ベースプレートA1は、基礎架台9の表面と平行に配置されることが好ましく、また、ベースプレートA1の表面は水平面であることが好ましい。
【0027】
基礎架台9上にベースプレートA1を固定する工程(a)において、基礎架台9上へのベースプレートA1の固定を確実にするために、例えば、アンカーボルトが設けられた基礎架台9を用い、そのアンカーボルトの上面にアンカーフレームを設け、アンカーフレームにベースプレートA1を固定することによって行うことができる。また、この方法によりアンカーフレームにベースプレートA1を固定する場合には、固定をさらに確実にし、コンクリート複合構造体をより堅牢にするために、アンカーボルトを囲むように鉄筋を配筋することによって、配筋部を形成することが好ましい。
【0028】
図4に断面模式図を示すように、本発明のコンクリート複合構造体の施工方法は、次に、被充填空間6の端部を取り囲み、かつ、ベースプレートA1と型枠2との間に隙間を有するように、型枠2を配置する工程(b)を含む。
【0029】
本明細書において、「被充填空間6の端部」とは、基礎架台9と、ベースプレートA1との間の空間である被充填空間6の周囲及びその周辺の部分をいう。図4に示すように、型枠2は、ベースプレートA1と型枠2との間に隙間wを有するように配置される。したがって、図4に示す例では、型枠2は、被充填空間6の端部から距離(隙間)wだけ離れて、被充填空間6を切れ目なく取り囲むこととなる。隙間wは、後述するように、水硬性スラリー注入管4及び空気抜管5を挿入できる程度であればよい。したがって、隙間wは20〜100mm、好ましくは30〜50mm、より好ましくは35〜45mmである。
【0030】
型枠2としては、木材を材料とするものなど、公知のものを用いることができる。型枠2の大きさは、後述する被充填空間6への水硬性スラリー8の注入を確実にするため、被充填空間6の高さh以上の高さのものを用いることが好ましい。
【0031】
なお、被充填空間6の高さhは、本コンクリート複合構造体の用途によって異なる。本発明の施工方法を免震建造物の施工に用いる場合には、より堅牢な構造を必要とする点から、h=100mm〜500mm、好ましくはh=150mm〜400mm、より好ましくはh=200mm〜300mmである。
【0032】
また、基礎架台9のアンカーボルトを囲むように鉄筋を配筋することによって、配筋部を形成している場合には、型枠2を配置する際に、基礎架台9の鉄筋の配筋部を囲むように型枠2を配置することが好ましい。
【0033】
図5に断面模式図を示すように、本発明のコンクリート複合構造体の施工方法は、次に、型枠2を配置する工程(b)の後であって、水硬性スラリー注入管4を配置する工程(c)の前に、被充填空間6の一部に、コンクリート3を注入して硬化させることによって、水硬性組成物硬化部の一部を形成する工程(b’)をさらに含むことが好ましい。被充填空間6は、後述する水硬性スラリー8のみ充填することができる。しかしながら、水硬性スラリー8を充填する前にコンクリート3を充填することが、作業性及び水硬性スラリー8の使用量を減少することによる低コスト化の点から好ましい。
【0034】
なお、コンクリート3を注入することによって水硬性組成物硬化部の一部を形成する場合には、作業性の点から、被充填空間6の容積の0〜90%、好ましくは80〜90%に、コンクリート3を注入することが好ましい。コンクリート3の注入量が少ないと、高コストとなり、水硬性スラリー8の充填量が少ないと高密度に充填することが困難となるためである。
【0035】
コンクリート3の注入は、ベースプレートA1と型枠2との間の隙間から行うことができる。また、ベースプレートA1にコンクリート3注入孔を設け、そこからコンクリート3を注入することができる。ベースプレートA1にコンクリート3注入孔を設ける場合には、コンクリート3注入後であって、被充填空間6に水硬性スラリー8を注入する前にコンクリート3注入孔を塞ぐことが必要である。したがって、ベースプレートA1にはコンクリート3注入孔を設けず、コンクリート3の注入は、ベースプレートA1と型枠2との間の隙間から行うことが好ましい。
【0036】
被充填空間6に注入するコンクリート3としては、コンクリート複合構造体の用途に応じて公知のコンクリート3を用いることができる。具体的には、本発明の施工方法を免震建造物の施工に用いる場合には、被充填空間6に注入するコンクリート3として、圧縮強度は21〜60N/mm、好ましくは47N/mm、スランプフローは45〜65cm、好ましくは55cm、粗骨材の最大寸法は10〜40mm、好ましくは20mmのものを用いることができる。なお、「スランプフロー」とは、JIS A1150:2007「コンクリートのスランプフロー試験方法」に規定されているスランプフローである。
【0037】
図6に断面模式図を示すように、本発明のコンクリート複合構造体の施工方法は、次に、ベースプレートA1と型枠2との隙間の1箇所に、水硬性スラリー注入管4を配置する工程(c)を含む。水硬性スラリー注入管4を1箇所のみに配置することによって、後の工程(f)で注入する水硬性スラリー8を、1箇所から徐々に広がるように被充填空間6に充填することができる。その結果、水硬性スラリー8を隙間なく充填することができ、水硬性スラリー8の充填率を高めることができる。
【0038】
水硬性スラリー注入管4の配置場所としては、ベースプレートA1の平面形状が多角形の場合には、ベースプレートA1と型枠2との隙間の隅部の1箇所に配置することが好ましい。隅部とは、例えばベースプレートA1が四角形等の多角形であるために被充填空間6の平面形状が多角形になる場合に、多角形の頂点にあたる部分又はその周辺の部分のことをいう。図1に示す平面図の例では、ベースプレートA1の平面形状が四角形であり、水硬性スラリー注入管4が図1において左下の四角形の頂点にあたる部分の周辺に配置されている様子を示す。水硬性スラリー注入管4を隅部に配置することにより、後の工程(f)で注入する水硬性スラリー8を、1つの隅部から徐々に広がるように被充填空間6に充填することができる。その結果、水硬性スラリー8の隅部への充填を確実にすることができるので、水硬性スラリー8の充填率を高めることをより確実にすることができる。
【0039】
水硬性スラリー注入管4の種類及び形状は、適宜選択することができる。水硬性スラリー8の注入を効率的に行うことができる点から、水硬性スラリー注入管4は、ホース状の形状のものを用いることができる。この場合の水硬性スラリー注入管4の内径は10〜50mm、好ましくは20〜30mm、外径は20〜60mm、好ましくは25〜35mmのものを用いることができる。水硬性スラリーの注入の際には圧力がかかるため、水硬性スラリー注入管4は耐圧ホースであることが好ましい。
【0040】
水硬性スラリー注入管4を配置する工程(c)では、水硬性スラリー注入管4の一端が被充填空間6に位置し、他端がベースプレートA1と型枠2との隙間の外部に位置するように、ベースプレートA1と型枠2との隙間の1箇所に、水硬性スラリー注入管4を配置する。水硬性スラリー注入管4の長さは、ベースプレートA1と型枠2との間に隙間wの長さ及びスラリーホースの接続部の長さによって適宜選択することが必要である。具体的は、水硬性スラリー注入管4は、長さが200〜1000mm、好ましくは300〜500mm、より好ましくは350〜450mmのものを用いることができる。
【0041】
水硬性スラリー注入管4の隙間の外部に位置する端部は、スラリーホースに接続して、スラリーホースを介して水硬性スラリーを注入することができる。スラリーホースは、さらに水硬性スラリー調製・施工用トラックに接続することにより、水硬性スラリー調製・施工用トラックを用いて施工現場で調製した水硬性スラリーを注入することができる。
【0042】
図7に断面模式図を示すように、本発明のコンクリート複合構造体の施工方法は、次に、ベースプレートA1と型枠2との隙間の少なくとも1箇所、好ましくは複数箇所に、空気抜管5を配置する工程(d)を含む。空気抜管5を複数箇所に配置する場合には、後の工程(f)で水硬性スラリー8を注入するときに、徐々に広がるように被充填空間6に充填される水硬性スラリー8に応じて、空気を複数箇所から適宜抜くことができるため好ましい。その結果、水硬性スラリー8を隙間なく充填することができ、水硬性スラリー8の充填率を高めることができる。なお、空気抜管5を配置する工程(d)は、水硬性スラリー注入管4を配置する工程(c)の前、同時又は後に行うことができる。
【0043】
空気抜管5を複数箇所に配置する場合には、空気抜管5の配置場所として、ベースプレートA1と型枠2との隙間に等間隔に複数箇所配置することが好ましい。水硬性スラリー8の注入の際に被充填空間6から空気を確実に抜くために、空気抜管5の配置間隔は200〜1000mm、好ましくは300〜800mm、より好ましくは400〜600mmとすることができる。
【0044】
空気抜管5の種類及び形状は、適宜選択することができる。空気を確実に抜くために、水硬性スラリー注入管4は、ホース状の形状のものを用いることができる。この場合の空気抜管5の内径は空気をスムーズに抜くことができる程度の径であればよく、具体的には5〜30mm、より好ましくは10〜20mmのものを用いることができる。また、気抜管5の外径は8〜30mm、好ましくは15〜25mmのものを用いることができる。
【0045】
空気抜管5を配置する工程(d)では、空気抜管5のそれぞれの一端が被充填空間6に位置し、他端がベースプレートA1と型枠2との隙間の外部に位置するように、ベースプレートA1と型枠2との隙間に空気抜管5を配置する。したがって、空気抜管5の長さは、ベースプレートA1と型枠2との間に隙間wの長さ及び水硬性モルタル充填部7の形成の際の作業性等を考慮して適宜選択することが必要である。具体的には、空気抜管5の長さは、200〜1000mm、好ましくは300〜500mm、より好ましくは350〜450mmである。
【0046】
図8に断面模式図を示すように、本発明のコンクリート複合構造体の施工方法は、次に、水硬性スラリー注入管4及び空気抜管5の開口部を除き被充填空間6を密閉するために、ベースプレートA1と型枠2との間の隙間に水硬性モルタルを充填して、水硬性モルタル充填部7を形成する工程(e)を含む。ベースプレートA1と型枠2との間の隙間には、水硬性スラリー注入管4及が配置されているので、図9に断面模式図を示すように、水硬性モルタルを水硬性スラリー注入管4の側面を覆いかつ両端が埋め込まれないように水硬性モルタル充填部7を形成する。また、図10に断面模式図を示すように、ベースプレートA1と型枠2との間の隙間に配置されている空気抜管5についても同様に、水硬性モルタルを空気抜管5の側面を覆いかつ両端が埋め込まれないように水硬性モルタル充填部7を形成する。なお、ベースプレートA1が貫通孔を有する場合には、この工程(e)の際に貫通孔を塞ぐことが必要である。この結果、水硬性スラリー注入管4及び空気抜管5の開口部を除き被充填空間6が密閉される。
【0047】
本発明の施工方法に用いる水硬性モルタルは、セメント、細骨材及び膨張材を含み、かつ流動化剤を含まない水硬性モルタルであることが好ましい。水硬性モルタルの流動性が低いため、被充填空間6が密閉を確実に行うことができる。また、本発明の施工方法に用いる水硬性モルタルは、水硬性モルタルの硬化体が、水硬性スラリー8の硬化体と同じ特性であることが好ましい。その場合には、水硬性モルタルの硬化体も水硬性組成物硬化部の一部として、コンクリート複合構造体に対する強度の付与に寄与することができる。なお、「同じ特性」とは、圧縮強度や膨張率などの硬化体としての機械的特性が同程度の値であることをいう。
【0048】
本発明のコンクリート複合構造体の施工方法は、次に、水硬性スラリー注入管4から、被充填空間6に水硬性スラリー8を注入し充填する工程(f)を含む。図11に断面模式図を示すように、被充填空間6に対してコンクリート3を注入して硬化させることによって水硬性組成物硬化部の一部を既に形成した後に、コンクリート3が存在しない被充填空間6に対して水硬性スラリー注入管4から水硬性スラリー8を注入し充填する。また、図12に断面模式図を示すように、被充填空間6にコンクリート3の硬化体が存在しない場合には、被充填空間6全体に対して水硬性スラリー注入管4から水硬性スラリー8を注入し充填する。
【0049】
本発明のコンクリート複合構造体の施工方法では、水硬性スラリー注入管4を、ベースプレートA1と型枠2との隙間の1箇所のみに配置するので、図11に示すように、水硬性スラリー8を、水硬性スラリー注入管4の1箇所の出口から徐々に広がるように被充填空間6に充填することができる。その結果、水硬性スラリー8を隙間なく充填することができ、水硬性スラリー8の充填率を高めることができる。また、被充填空間6には空気抜管5が少なくとも1箇所、好ましくは複数箇所に配置されているので、水硬性スラリー8の注入に伴い被充填空間6を確実に抜くことができる。そのため、本発明の施工方法を用いた場合には、被充填空間6への水硬性スラリー8の充填率を高めることができる。
【0050】
水硬性スラリー8を注入し充填する工程(f)において、水硬性スラリー8を注入する際に、非脈動型ポンプを用いることが好ましい。この場合には、水硬性スラリー8を、脈動なく一定の速度で注入することができるので、被充填空間6への水硬性スラリー8の注入がスムーズになり、水硬性スラリー8の充填率を高くすることができる。
【0051】
また、水硬性スラリー8を注入し充填する工程(f)において、高い水硬性スラリー8の充填率を確実に得るために、注入の際の水硬性スラリー8の流量は0.5〜3.5m/時間、好ましくは1〜3m/時間とすることができる。
【0052】
また、充填空間6への水硬性スラリー8の充填を効率的に行うために、水硬性スラリー8の粘度は、0.8〜15.0Pa・秒であることが好ましく、1.0〜10.0Pa・秒であることがより好ましい。また、水硬性スラリー8の充填最終時の圧力は、0.12MPa程度であることが好ましい。
【0053】
また、水硬性スラリー8の被充填空間6への充填速度は0.25〜2.00m/秒であることが好ましく、0.50〜1.50m/秒であることがより好ましい。
【0054】
また、水硬性スラリー8の高い充填率を確実に得るために、水硬性スラリー8の流動性を適切に制御する必要がある。したがって、本発明の施工方法に用いる水硬性スラリー8は、セメント、細骨材、膨張材及び流動化剤を含む水硬性スラリー8であって、土木学会規準JSCE・F541−1999に準拠したJ14ロート流下値が6〜10秒の範囲であることが好ましく、7〜9秒の範囲であることがより好ましい。
【0055】
本発明の施工方法に用いる水硬性スラリー8の調製・施工用設備は、その設備が移動装置に搭載された水硬性スラリー調製・施工用移動設備であることが好ましい。これにより、大規模な施工現場で大量の水硬性スラリー8を施工するような場合に、安定品質の水硬性スラリー8を大量かつ連続的に製造・供給でき、高い施工効率を得ることができる。移動装置は、例えば、図13の模式図に示すような水硬性スラリー調製・施工用移動設備(図13の例では水硬性スラリー調製・施工用トラック31)を使用することが好ましい。水硬性スラリー調製・施工用トラック31は、水硬性組成物12を貯蔵する水硬性組成物貯蔵タンク33、水硬性組成物12と混練水とを連続的に混練する混練装置16、水硬性スラリー21を一旦収容するリザーバータンク20、及び前記リザーバータンク20から水硬性スラリー21を圧送するスラリーポンプ24などを搭載している。スラリーポンプ24としては、非脈動型ポンプを用いることが好ましい。
【0056】
なお、水硬性スラリー調製・施工用移動設備は、混練装置16等を搭載できるものであればどのような移動装置を用いてもよい。移動装置の例としては、トラック等の自動車、リヤカー等の軽車両、被牽引車両、鉄道車両、船などを用いることもできる。移動装置としてトラックを用いると、陸上の大部分の場所への自力移動が可能になるため好ましい。
【0057】
次に、図13に示す水硬性スラリー調製・施工用トラック31を用いた場合の、本発明の水硬性スラリー8の注入方法について説明する。
【0058】
水硬性組成物12の製造工場において、水硬性成分、特定の粒度構成を有する細骨材、流動化剤及び膨張材などの原材料を混合して水硬性組成物12を製造し、水硬性スラリー調製・施工用トラック31に備えられた水硬性組成物貯蔵タンク33に充填する。水硬性スラリー調製・施工用トラック31は、水硬性組成物貯蔵タンク33を有するため、水硬性組成物12を積載して水硬性スラリー8を施工する施工現場近傍へ水硬性組成物12を輸送することができる。
【0059】
施工現場の近傍に水硬性スラリー調製・施工用トラック31が配置されたのち、水硬性組成物12は水硬性組成物貯蔵タンク33下部からスクリューコンベアによって排出されて、スクリューフィーダー38によってホッパー13へ供給され、ホッパー13底部から定量的に混練装置16へ供給される。この時、水硬性組成物12が混練装置16へ供給されるのに合わせて、混練装置16に所定量の混練水17が供給される。この水硬性組成物12と混練水17とは混練装置16において強力に混練され、均質な水硬性スラリー21が調製される。水硬性組成物12と混練水17との供給割合は、現場毎の施工条件や水硬性スラリー8の性状に合わせて調整される。
【0060】
混練装置16にて調製された水硬性スラリー21は、水硬性スラリー調製・施工用トラック31に備えられたリザーバータンク20に一旦収容され、リザーバータンク20に設置され、スターラースクリュー22を装着した攪拌機によって強制攪拌養生され、スラリーの流動特性が安定化される。水硬性スラリー8は、水硬性スラリー調製・施工用トラック31に搭載されたスラリーポンプ24によって圧送され、水硬性スラリー注入管4に接続されたスラリーホース45を介して施工箇所へ連続的に圧送・供給されて打設・施工される。
【0061】
本発明のコンクリート複合構造体の施工方法では、次に、上述のように被充填空間6に充填した水硬性スラリー8を硬化させることによって水硬性組成物硬化部の少なくとも一部を形成する工程(g)を含む。水硬性組成物硬化部は、水硬性スラリー8を硬化させた部分及び水硬性モルタル充填部7を硬化させた部分からなることができる。また、水硬性組成物硬化部は、コンクリート3を硬化させた部分と、水硬性スラリー8を硬化させた部分と、水硬性モルタル充填部7とからなることができる。
【0062】
なお、本発明の施工方法で用いる水硬性スラリー注入管4及び空気抜管5は、水硬性モルタル充填部7にそのまま残しておくこともできる。しかしながら、コンクリート複合構造体の強度を向上する点から、水硬性スラリー8の硬化後、水硬性スラリー注入管4及び空気抜管5を抜取り、所定の水硬性モルタルで充填することが好ましい。
【0063】
上述の本発明の施工方法によって得られるコンクリート複合構造体は、免震建造物の施工に用いることができる。本発明のコンクリート複合構造体を免震建造物の施工に用いる場合には、水硬性スラリー8を硬化させることによって水硬性組成物硬化部の少なくとも一部を形成する工程(g)の後に、ベースプレートA1の上面に免震装置のアイソレータを設置する工程(h)をさらに含む。免震装置としては公知の装置を用いることができる。
【0064】
以上述べた本発明の施工方法によって、例えば図2に断面模式図を示すような、被充填空間6に水硬性組成物硬化部がほとんど隙間なく形成されたコンクリート複合構造体を得ることができる。本発明の施工方法により施工されたコンクリート複合構造体は堅牢であり、免震建造物等の施工に用いることができる。
【実施例】
【0065】
本発明の施工方法を、実施例に基づいてさらに詳細に説明する。但し、本発明は下記実施例により制限されるものでない。
【0066】
ベースプレート及び水硬性モルタル充填部を形成するための目止め用グラウト材を用いて、実験装置を製作した。また、水硬性スラリーとして、所定の注入用グラウト材を、本発明の施工方法にしたがって充填し、注入用グラウト材(水硬性スラリー)の充填率を測定した。
【0067】
実験装置を製作するためのコンクリートとして、圧縮強度は好ましくは47N/mm、スランプフローは55cm、粗骨材の最大寸法は20mmのものを用いた。
【0068】
<目止め用グラウト材(水硬性モルタル充填部形成用)>
目止め用グラウト材として、「Uグラウトパッド用」(宇部興産株式会社製)を用いた。
【0069】
目止め用グラウト材(Uグラウトパッド用)の原料は以下のものである。
1)水硬性成分:
・ポルトランドセメント(普通セメント、宇部三菱セメント社製、ブレーン比表面積4500cm/g)を用いた。比表面積の評価法は、JIS・R−5201に規定されているブレーン空気透過装置を用いて測定されたものである。
【0070】
2)細骨材:
細骨材(1)は、珪砂A〜Bを混合して調製する。
・珪砂A : SS5A、宇部サンド工業社製。
・珪砂B : S6、宇部サンド工業社製。
細骨材(2)は、珪砂D〜Fを混合して調製する。
・珪砂D : 川鉄4号、川鉄鉱業社製。
・珪砂E : N50、瓢屋社製。
・珪砂F : N70、瓢屋社製。
篩を使用して測定した珪砂A、B及びD〜Fの粒度構成を表1に示す。
【0071】
【表1】

【0072】
3)膨張材:
・無機系膨張材:アサノジブカル(太平洋セメント社製)。
・金属系膨張材:アルミニウム粉(粒度44μm以下60%以上、大和金属粉工業社製)。
【0073】
4)増粘剤: メチルセルロース系増粘剤、ハイユーローズ(宇部興産株式会社製)
【0074】
<注入用グラウト材(水硬性スラリー)>
注入用グラウト材(水硬性スラリー)として、「Uグラウト一般用」(宇部興産株式会社製)を用いた。注入用グラウト材(Uグラウト一般用)の規格項目及び20℃での規格値は、下記のとおりである。
混練水比:14.8〜18.4%
J14ロート値:8±2秒
ブリーディング率:2%以下(2時間後)
凝結時間:始発1時間以上、終結10時間以内
膨張率:収縮のないこと(7日後)
圧縮強度:25.0N/mm以上(3日)、45.0N/mm以上(28日)
【0075】
注入用グラウト材(Uグラウト一般用)の原料は以下のものである。
1)水硬性成分:
・ポルトランドセメント(早強セメント、宇部三菱セメント社製、ブレーン比表面積4500cm/g)を用いた。比表面積の評価法は、JIS・R−5201に規定されているブレーン空気透過装置を用いて測定されたものである。
【0076】
2)細骨材:
細骨材(1)は、珪砂A〜Cを混合して調製する。
・珪砂A : SS5A、宇部サンド工業社製。
・珪砂B : S6、宇部サンド工業社製。
・珪砂C : S7、宇部サンド工業社製。
細骨材(2)は、珪砂D〜Fを混合して調製する。
・珪砂D : 川鉄4号、川鉄鉱業社製。
・珪砂E : N50、瓢屋社製。
・珪砂F : N70、瓢屋社製。
篩を使用して測定した珪砂A〜Fの粒度構成を表1に示す。
【0077】
3)膨張材:
・無機系膨張材:アサノジブカル(太平洋セメント社製)。
・金属系膨張材:アルミニウム粉(粒度44μm以下60%以上、大和金属粉工業社製)。
【0078】
4)減水剤:
・流動化剤a: 変性ポリカルボン酸系流動化剤、メルフラクスAP101F(BASFポゾリス社製)。
・流動化剤b: ナフタレンスルフォン酸系流動化剤、マイティ100(花王社製)。
・流動化剤c: ポリカルボン酸系流動化剤、マイティ21P(花王社製)。
・流動化剤d: ポリエーテル・ポリカルボン酸系流動化剤、メルフラスクVP2651(BASFポゾリス社製)。
・流動化剤e: ポリエーテル・ポリカルボン酸系流動化剤、メルフラスクVP2641(BASFポゾリス社製)。
【0079】
<試験方法>
実施例1〜2及び比較例1〜2における注入用グラウト材の充填は、次のようにして行い、得られた硬化体の空隙率を算出した。実施例及び比較例の実験条件を表2に示す。表2記載のスランプフローは、実験装置を製作する際に測定した実測値である。
【0080】
<実施例1>
本発明の方法による水硬性スラリー注入の様子を目視で観察するために、実施例1で用いたベースプレートは、貫通孔のない四角形の形状のアクリル板を使用した。注入用グラウト材(水硬性スラリー)の注入は、鋼板の上面と、ベースプレート(アクリル板)下面との間に行い、被充填空間の深さ(鋼板の上面と、ベースプレート下面との距離)を40mmとした。ベースプレートとなるアクリル板の設置後、水硬性スラリー注入管(内径25mm、外径30mm)を1つ、隅部(四角形の形状の被充填空間の一つの頂点近傍)に配置した。空気抜管(内径15mm、外径18mm、長さ400mm)を被充填空間の各辺に複数個、間隔が500mm程度となるように配置した。次に、目止め用グラウト材(水硬性モルタル充填部形成用)を用いて水硬性モルタル充填部を形成した。その後、水硬性スラリー注入管を水硬性スラリー調製・施工用トラックのスラリーホースに接続し、水硬性スラリー調製・施工用トラックから注入用グラウト材(Uグラウト一般用)を注入した。ベースプレートとなるアクリル板を通して、水硬性スラリー注入管から注入用グラウト材が注入され、ほぼ隙間無く徐々に広がる様子を目視することができた。グラウト材の硬化後、ベースプレートを剥し、表面の空隙割合から空隙率を算出した。
【0081】
<実施例2>
実施例2で用いたベースプレートは、貫通孔のない四角形の形状の鋼板を使用した。注入用グラウト材(水硬性スラリー)の注入前に、コンクリートを210mmの深さで注入し、被充填空間の深さ(コンクリート硬化体の上面と、ベースプレート下面との距離)を40mmとした。コンクリートの硬化後、水硬性スラリー注入管(内径25mm、外径30mm)を1つ、隅部(四角形の形状の被充填空間の一つの頂点近傍)に配置した。空気抜管(内径15mm、外径18mm、長さ400mm)を被充填空間の各辺に複数個、間隔が500mm程度となるように配置した。次に、目止め用グラウト材(水硬性モルタル充填部形成用)を用いて水硬性モルタル充填部を形成した。その後、水硬性スラリー注入管を水硬性スラリー調製・施工用トラックのスラリーホースに接続し、水硬性スラリー調製・施工用トラックから注入用グラウト材(Uグラウト一般用)を注入した。グラウト材の硬化後、ベースプレートを剥し、表面の空隙割合から空隙率を算出した。
【0082】
<比較例1>
比較のために、従来の方法を用いて水硬性スラリーを被充填空間に対して充填した。この方法の場合には、貫通孔(コンクリート充填孔)を有するベースプレートを用い、基礎架台上にコンクリートを210mm打設し、被充填空間の深さ(コンクリート硬化体の上面と、ベースプレート下面との距離)を40mmとした。コンクリートの硬化後、コンクリート充填孔から水硬性スラリーを充填した。空隙率は、実施例と同様に算出した。
【0083】
<比較例2>
比較のために、従来の方法を用いて、水硬性スラリーを用いず、コンクリートのみを充填した。この方法の場合には、貫通孔(コンクリート充填孔)を有するベースプレートを用いた。基礎架台とベースプレート下面との間の被充填空間(被充填空間の深さ250mm)に対して、コンクリート充填孔からコンクリートを充填した。空隙率は、実施例と同様に算出した。
【0084】
<試験結果>
試験結果を図14〜図21及び表2に示す。図14に、実施例1の結果(脱型後の表面)を示す。また、図15には、実施例1の打設状況を示す。実施例1の空隙率は、0.79%という低い値であり、高密度の水硬性組成物硬化体を形成することができた。同様に、実施例2(図16、図17)においても低い空隙率を得ることができた。これに対して比較例1(図18、図19)の場合には、空隙率が15.04%と高く、同様に、比較例2(図20、図21)においても空隙率が8%以上となった。以上の結果から、本発明の施工方法を用いることにより、高い充填率の水硬性組成物硬化体を得ることができることが明らかとなった。
【0085】
【表2】

【符号の説明】
【0086】
1 : ベースプレートA
2 : 型枠
3 : コンクリート
4 : 水硬性スラリー注入管
5 : 空気抜管
6 : 被充填空間
7 : 水硬性モルタル充填部
8 : 水硬性スラリー
9 : 基礎架台
12 : 水硬性組成物
13 : ホッパー
16 : 混練装置(ミキサー)
20 : リザーバータンク
21 : 水硬性スラリー
22 : スターラースクリュー
24 : スラリーポンプ(スネークポンプ)
31 : 水硬性スラリー調製・施工用トラック
32 : 水硬性組成物の供給口
33 : 水硬性組成物貯蔵タンク
38 : スクリューフィーダー
39 : 冷却水タンク
40 : 水供給ポンプ
41 : 水供給パイプ
45 : スラリーホース
w : ベースプレートAと型枠との間の隙間の大きさ
h : 被充填空間の高さ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基礎架台と、基礎架台の上部に形成される水硬性組成物硬化部と、水硬性組成物硬化部の端部に形成される水硬性モルタル充填部と、水硬性組成物硬化部及び水硬性モルタル充填部の上部に配置される略平板状のベースプレートAとを含むコンクリート複合構造体の施工方法であって、
ベースプレートAと基礎架台との間に被充填空間を有するように、基礎架台上にベースプレートAを固定する工程(a)と、
被充填空間の端部を取り囲み、かつ、ベースプレートAと型枠との間に隙間を有するように、型枠を配置する工程(b)と、
ベースプレートAと型枠との隙間の1箇所に、水硬性スラリー注入管を配置する工程(c)と、
ベースプレートAと型枠との隙間の少なくとも1箇所に、空気抜管を配置する工程(d)と、
水硬性スラリー注入管及び空気抜管の開口部を除き被充填空間を密閉するために、ベースプレートAと型枠との間の隙間に水硬性モルタルを充填して、水硬性モルタル充填部を形成する工程(e)と、
水硬性スラリー注入管から、被充填空間に水硬性スラリーを注入し充填する工程(f)と、
水硬性スラリーを硬化させることによって水硬性組成物硬化部の少なくとも一部を形成する工程(g)とを含む、コンクリート複合構造体の施工方法。
【請求項2】
工程(a)が、基礎架台上に設けられたアンカーボルトの上面にアンカーフレームを設け、アンカーフレームにベースプレートAを固定することを含む、請求項1記載の施工方法。
【請求項3】
アンカーボルトを囲むように鉄筋を配筋することによって、配筋部を形成することを含む、請求項2記載の施工方法。
【請求項4】
工程(b)が、配筋部を囲むように型枠を配置することを含む、請求項3記載の施工方法。
【請求項5】
工程(b)の後であって、工程(c)の前に、被充填空間の一部に、コンクリートを注入して硬化させることによって、水硬性組成物硬化部の一部を形成する工程(b’)をさらに含む、請求項1〜4のいずれか一項記載の施工方法。
【請求項6】
工程(b’)が、被充填空間の容積の0〜90%に、コンクリートを注入することを含む、請求項5記載の施工方法。
【請求項7】
工程(c)が、水硬性スラリー注入管を、多角形のベースプレートAと型枠との隙間の隅部の1箇所に配置することを含む、請求項1〜6のいずれか一項記載の施工方法。
【請求項8】
工程(f)が、非脈動型ポンプを用いて、水硬性スラリーを注入することを含む、請求項1〜7のいずれか一項記載の施工方法。
【請求項9】
工程(f)が、0.5〜3.5m/時間の水硬性スラリー流量で水硬性スラリーを注入することを含む、請求項1〜8のいずれか一項記載の施工方法。
【請求項10】
水硬性スラリーが、セメント、細骨材、膨張材及び流動化剤を含む水硬性スラリーであって、JSCE・F541−1999に準拠したJ14ロート流下値が6〜10秒の範囲である、請求項1〜9のいずれか一項記載の施工方法。
【請求項11】
水硬性モルタルが、セメント、細骨材及び膨張材を含み、かつ流動化剤を含まない水硬性モルタルであって、水硬性モルタルの硬化体が、水硬性スラリーの硬化体と同じ特性である、請求項1〜10のいずれか一項記載の施工方法。
【請求項12】
工程(g)の後に、ベースプレートAの上面に免震装置のアイソレータを設置する工程(h)をさらに含む、請求項1〜11のいずれか一項記載の施工方法。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれか一項記載の施工方法によって施工されるコンクリート複合構造体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【公開番号】特開2010−242332(P2010−242332A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−90491(P2009−90491)
【出願日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【出願人】(000150615)株式会社長谷工コーポレーション (94)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】