説明

コンバインの脱穀用補助搬送装置

【課題】刈取装置とその後方の脱穀装置との間に配置される中継搬送機構からなるコンバインの脱穀用中継搬送装置による手扱作業において、作業者が搬送異常に対応して修正操作をする場合や作業者に非常事態が及んだ場合でも、確実な緊急停止を可能とする脱穀用中継搬送装置を提供する。
【解決手段】コンバインの脱穀用中継搬送装置は、刈取装置3の搬送部3aから受けた刈取穀稈を脱穀装置4の扱室4bの入口で中継支持することにより同脱穀装置4のフィードチェーン4aに刈取穀稈を渡す中継部材11,12から構成され、上記扱室4bの入口部でその上方から投入された刈取穀稈を受けて後方側に移送する補助搬送装置13をフィードチェーン4aに引渡し可能に設け、この補助搬送装置13の近傍に復帰式押ボタンスイッチ14を設け、その操作信号を条件として走行停止下における補助搬送装置13の搬送動作を可能とするものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンバインの脱穀用補助搬送装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
コンバインの脱穀用補助搬送装置は、刈取装置とその後方の脱穀装置との間で、刈取装置の搬送部から受けた刈取穀稈を脱穀装置の供給部であるフィードチェーンに渡す補助搬送機構によって構成され、特許文献1に示すように、この脱穀用補助搬送装置によって刈取走行のみならず手刈り穀稈を脱穀するための手扱作業にも対応することができる。
【0003】
すなわち、脱穀用補助搬送装置により、刈取走行においては、刈取装置の昇降調節に対応しつつ、刈取穀稈の穂先位置を安定して脱穀装置の扱室に供給することができ、また、手扱作業においては、作業者が刈取った穀稈を補助搬送機構に直接投入することにより、コンバインによる刈取走行に適さない畦際等の穀稈の刈取脱穀に対応するとともに、補助搬送装置の近傍に緊急停止スイッチを配置して安全確保が図られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4162574号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、手扱作業については、上記緊急停止スイッチにより、作業者が搬送機構に直接関与する穀稈投入の際の誤操作等による搬送動作異常に対応可能とするものの、作業者が搬送異常に対応して修正操作をする場合や作業者に非常事態が及んだ場合は緊急停止スイッチの操作が困難となることがあり、緊急停止スイッチの機能を十分に発揮できないという問題があった。
【0006】
本発明の目的は、刈取装置とその後方の脱穀装置との間に配置される補助搬送機構からなるコンバインの脱穀用補助搬送装置による手扱作業において、作業者が搬送異常に対応して修正操作をする場合や作業者に非常事態が及んだ場合でも、確実な緊急停止を可能とする脱穀用補助搬送装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に係る発明は、刈取装置(3)とその後方の脱穀装置(4)との間で、刈取装置(3)の搬送部(3a)から受けた刈取穀稈の穂先側を脱穀装置(4)の扱室(4b)の入口部で支持しながら該刈取穀稈の株元側を同脱穀装置(4)への穀稈供給手段であるフィードチェーン(4a)に渡す中継部材(11,12)を備えたコンバインの脱穀用補助搬送装置において、上記扱室(4b)の入口部でその上方から投入された手刈り穀稈を受けて後方側に移送してフィードチェーン(4a)に引き渡す補助搬送装置(13)を設け、この補助搬送装置(13)の近傍に復帰式押ボタンスイッチ(14)を設け、該復帰式押ボタンスイッチ(14)の操作信号を条件として補助搬送装置(13)を起動する構成としたことを特徴とするコンバインの脱穀用補助搬送装置とする。
【0008】
上記の発明によれば、走行停止下において、復帰式押ボタンスイッチ(14)の操作によって補助搬送装置(13)が起動し、この補助搬送装置(13)の駆動中は、上方から投入された手刈り穀稈がフィードチェーン(4a)に引渡され、また、復帰式押ボタンスイッチ(14)の操作の終了によって補助搬送装置(13)が停止する。
【0009】
請求項2に係る発明は、前記復帰式押ボタンスイッチ(14)から所定の距離を隔てた位置に該復帰式押ボタンスイッチ(14)とは別の第2復帰式押ボタンスイッチ(17)を設け、この復帰式押ボタンスイッチ(14)の操作信号と第2復帰式押ボタンスイッチ(17)の操作信号とを条件として補助搬送装置(13)を起動する構成としたことを特徴とする請求項1記載のコンバインの脱穀用補助搬送装置とする。
上記復帰式押ボタンスイッチ(14)と第2復帰式押ボタンスイッチ(17)は、所定の距離を隔てた位置にありながら共に操作されたことを条件として補助搬送装置(13)が起動することから、復帰式押ボタンスイッチ(14)と第2復帰式押ボタンスイッチ(17)を両手操作に適する距離に配置すれば、作業者の両手操作によってのみ補助搬送装置(13)が起動し、また、搬送中にいずれかのスイッチ操作の終了によって補助搬送装置(13)が停止する。
【0010】
請求項3に係る発明は、前記補助搬送装置(13)の起動と連動してフィードチェーン(4a)を起動する構成としたことを特徴とする請求項1記載のコンバインの脱穀用補助搬送装置とする。
上記補助搬送装置(13)の起動と連動してフィードチェーン(4a)が起動し、また、同補助搬送装置(13)の停止と連動してフィードチェーンが停止する。
【0011】
請求項4に係る発明は、前記フィードチェーン(4a)は、その駆動停止とともに可動部の動作を拘束して強制停止させるブレーキ機構(53)を備えたことを特徴とする請求項3記載のコンバインの脱穀用補助搬送装置とする。
上記補助搬送装置(13)の停止時は、慣性によって移動するフィードチェーン(4a)の可動部をブレーキ機構(53)によって拘束して強制停止させる。
【0012】
請求項5に係る発明は、前記補助搬送装置(13)は、中継部材(11,12)の中継支持面に沿うように後下がりに配置した無端チェーン式搬送機構(21)により構成し、この無端チェーン式搬送機構(21)は、前端部下側の周回軌跡を円弧状として下面側に掻込み移動するタイン(T)を備える構成としたことを特徴とする請求項1記載のコンバインの脱穀用補助搬送装置とする。
上記補助搬送装置(13)は、中継部材(11,12)の中継支持面に沿うようにして後下がりに配置した無端チェーン式搬送機構(21)の前端側で掻込み移動するタイン(T)を備えることから、その下側に手刈り穀稈を掻き込んで中継部材(11,12)の中継支持面に沿って搬送し、このとき、前端部下側の円弧状の周回軌跡に沿って掻込み移動するタイン(T)により手刈り穀稈を掻込んで搬送する。
【0013】
請求項6に係る発明は、前記補助搬送装置(13)は、その駆動力の入力経路を切替える伝動切替部(25a,25b)を備え、この伝動切替部(25a,25b)は、刈取走行を終了して復帰式押ボタンスイッチ(14)を操作した場合に、補助搬送装置(13)の駆動力の入力経路を脱穀装置(4)駆動用の伝動経路から刈取装置(3)駆動用の伝動経路に切り替える構成としたことを特徴とする請求項1記載のコンバインの脱穀用補助搬送装置とする。
上記伝動切替部(25a,25b)により、刈取走行終了時は、復帰式押ボタンスイッチ(14)の操作による手扱作業と対応して脱穀装置(4)駆動用の伝動経路の回転動力により脱穀装置(4)の駆動速度と同調した速度で投入穀稈を搬送する。
【0014】
請求項7に係る発明は、前記補助搬送装置(13)の近傍には、手刈り穀稈の投入作業範囲として設定した所定範囲(S)内での作業者の存在を検出する人感センサ(18)を設け、この人感センサ(18)による検出信号を条件として、補助搬送装置(13)を起動可能とする構成としたことを特徴とする請求項1記載のコンバインの脱穀用補助搬送装置とする。
上記人感センサ(18)により、作業者が所定範囲(S)の外に出た時に補助搬送装置(13)が停止する。
【0015】
請求項8に係る発明は、前記刈取装置(3)の後端からその後方の脱穀装置(4)の扱室入口までの範囲に亘り、補助搬送装置(13)の上方を覆う防塵カバー(41)を設け、この防塵カバー(41)は、投入された手刈取り穀稈を受けて補助搬送装置(13)に案内する後下がりの傾斜姿勢に切替え可能に支持したことを特徴とする請求項1記載のコンバインの脱穀用補助搬送装置とする。
上記防塵カバー(41)は、刈取走行の際に補助搬送装置(13)周辺から巻き上がる塵埃の飛散を抑え、一方、手扱作業の際に傾斜姿勢に切替えることにより、投入された刈取穀稈を受けて補助搬送装置(13)に案内する案内板として機能する。
【発明の効果】
【0016】
請求項1に係る発明により、走行停止下において、補助搬送装置(13)の近傍に設けた復帰式押ボタンスイッチ(14)の操作によって補助搬送装置(13)が起動し、この補助搬送装置(13)の駆動中は、上方から投入された刈取穀稈がフィードチェーン(4a)に引渡され、また、この復帰式押ボタンスイッチ(14)の操作の終了によって補助搬送装置(13)が停止する。したがって、スイッチ操作による補助搬送装置(13)の起動前に刈取穀稈の投入状態を確認することができ、また、スイッチ操作の終了による補助搬送装置(13)の停止により、この補助搬送装置(13)の搬送状態の異常による不具合の進行が停止されることから、補助搬送装置(13)に作業者が直接関与する手扱作業の際の異常対応操作を容易に行えると共に、作業者の安全を確保することができる。
【0017】
請求項2に係る発明により、請求項1に係る発明の効果に加え、所定の距離を隔てた位置に配置された復帰式押ボタンスイッチ(14)と第2復帰式押ボタンスイッチ(17)とが共に操作されたことを条件として補助搬送装置(13)が起動することから、復帰式押ボタンスイッチ(14)と第2復帰式押ボタンスイッチ(17)とを両手操作に適する距離に配置すれば、作業者の両手操作によってのみ補助搬送装置(13)が起動し、また、搬送中にいずれかのスイッチ操作の終了によって補助搬送装置(13)が停止するので、手扱作業時の作業者の安全を確保することができる。
【0018】
請求項3に係る発明により、請求項1に係る発明の効果に加え、上記補助搬送装置(13)の搬送動作と連動してフィードチェーン(4a)が起動し、また、同補助搬送装置(13)の停止と連動してフィードチェーン(4a)が停止する。したがって、投入された刈取穀稈の搬送に伴う搬送異常がフィードチェーン(4a)に及んだ状況であっても、スイッチ操作の終了と対応して異常動作による不具合の進行が即時停止され、補助搬送装置(13)に直接関与する手扱作業の際の異常対応と作業者の安全を確保することができる。
【0019】
請求項4に係る発明により、請求項3に係る発明の効果に加え、上記補助搬送装置(13)の停止時は、慣性によって動作するフィードチェーン(4a)の可動部をブレーキ機構(53)によって拘束して強制停止することから、フィードチェーン(4a)が停止するまでの搬送異常による不具合の進行を最小限に抑えることができる。
【0020】
請求項5に係る発明により、請求項1に係る発明の効果に加え、上記補助搬送装置(13)は、中継部材の搬送面に沿う後下がりに配置した無端チェーン式搬送機構(21)の前端側で掻込み移動するタイン(T)を備えることから、その下面側に刈取穀稈を掻き込んで中継部材(11,12)の中継支持面に沿って搬送し、このとき、前端部下側の円弧状の周回軌跡に沿って掻込移動するタイン(T)によって、前端部に投入された刈取穀稈を確実に下面側に掻込んで搬送することができる。
【0021】
請求項6に係る発明により、請求項1に係る発明の効果に加え、伝動切替部(25a,25b)により、刈取走行終了時は、復帰式押ボタンスイッチ(14)の操作による手扱作業と対応して脱穀装置(4)駆動用の伝動経路の回転動力により脱穀装置(4)の駆動速度と同調した速度で投入穀稈を搬送する。したがって、刈取走行時には、刈取伝動系の回転動力によって走行車速連動の効率的な刈取穀稈の搬送を可能としつつ、手扱作業時は脱穀伝動系の駆動速度と同調した速度で安定した搬送が可能となり、状況に応じた穀稈搬送が行なえる。
【0022】
請求項7に係る発明により、請求項1に係る発明の効果に加え、上記人感センサ(18)により、作業者が所定の検出範囲の外に出た時に補助搬送装置(13)が停止することから、手扱作業の継続が困難な非常事態が発生した場合に、復帰式押ボタンスイッチ(14)の異常があっても、事態の悪化を防止することができる。
【0023】
請求項8に係る発明により、請求項1に係る発明の効果に加え、上記防塵カバー(41)は、刈取走行の際に補助搬送装置(13)から巻き上がる塵埃の飛散を抑えて作業環境の悪化を少なくでき、また、手扱作業の際に傾斜姿勢に切替えることにより、投入された刈取穀稈を受けて補助搬送装置(13)に案内する案内板として機能することから、刈取穀稈の投入による手扱作業を能率良く行なうことができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】コンバインの側面図
【図2】脱穀用中継搬送装置の要部拡大側面図
【図3】図2の脱穀用中継搬送装置の要部拡大平面図
【図4】補助搬送装置の要部拡大平面図
【図5】図4の補助搬送装置の要部拡大側面図
【図6】補助搬送装置の要部拡大側面図
【図7】図6の補助搬送装置の動作説明用の正面図
【図8】防塵カバーの刈取時(a)および投入時(b)の要部拡大側面図
【図9】伝動ボックスの断面図(a)および部分破断記載の側面図(b)
【図10】フィードチェーンの伝動構造の側面図
【発明を実施するための形態】
【0025】
上記技術思想に基づいて具体的に構成された実施の形態について以下に図面を参照しつつ説明する。
本発明の適用対象となるコンバイン1は、その側面図を図1に示すように、圃場走行可能に機体を支持するクローラ等の走行装置2と、機体の前部に昇降可能に支持した刈取装置3と、その後方で刈取装置3から受けた刈取穀稈を脱穀する脱穀装置4と、その側方で脱穀装置4により脱穀された籾米を収容する貯留装置5と、この貯留装置5の前側で走行を始めとする機器を操作するための操縦部6とを備えて構成される。また、刈取装置3の搬送部3aから脱穀装置4の供給部4aとの間には、刈取装置3が刈取った刈取穀稈を受けて脱穀装置4の扱室4bの入口で中継支持する脱穀用中継搬送装置7を備える。
【0026】
脱穀用中継搬送装置7は、その要部拡大側面図および平面図をそれぞれ図2、図3に示すように、脱穀装置4の扱室4bに刈取穀稈を供給する供給部を構成するフィードチェーン4aに刈取穀稈の株元側を渡す中継部材であるシンクロチェーン11と、扱室4bの入口で刈取穀稈の穂先側を受ける中継部材である入口漏斗板12に加え、さらに、補助搬送装置13を設けて構成する。
【0027】
補助搬送装置13は、扱室4bの入口部でその上方から投入された手刈り等による刈取穀稈を受けて後方の扱室4b側に移送してフィードチェーン4aに引渡し可能に設け、この補助搬送装置13の近傍で入口漏斗板12の付近に復帰式押ボタンスイッチ14を設ける。この押ボタンスイッチ14は、その操作信号を条件として走行停止下における補助搬送装置13の搬送動作を可能に構成する。また、フィードチェーン4aは、後述の電動式クラッチ52を介して補助搬送装置13の搬送動作と連動して供給駆動するように制御する。
【0028】
上記構成の脱穀用中継搬送装置7は、補助搬送装置13が扱室4bの入口部でその上方から投入された刈取穀稈を受けて後方の扱室4b側に移送してフィードチェーン4aに引渡し可能に構成され、走行停止状態において、復帰式押ボタンスイッチ14のスイッチ操作によって補助搬送装置13の搬送動作が可能となり、搬送動作中は上方から投入された刈取穀稈がフィードチェーン4aに引渡され、また、スイッチ操作の終了によって補助搬送装置13が停止する。
【0029】
したがって、スイッチ操作による補助搬送装置13の動作開始の前に刈取穀稈の投入状態を確認することができ、また、スイッチ操作の終了による搬送動作の停止により、補助搬送装置13の搬送異常による不具合の進行が停止されることから、中継搬送装置7に作業者が直接関与する手扱作業の際の異常対応操作と作業者の安全を確保することができる。
【0030】
また、電動式クラッチ52の制御により、補助搬送装置13の搬送動作と連動してフィードチェーン4aが動作し、また、補助搬送装置13の搬送動作の停止と連動してフィードチェーン4aが停止することから、投入された刈取穀稈の搬送に伴う搬送異常がフィードチェーン4aに及んだ状況であっても、スイッチ操作の終了と対応して異常動作による不具合の進行が停止されることから、中継搬送装置7に作業者が直接関与する手扱作業の際の異常対応と作業者の安全を確保することができる。
【0031】
また、脱穀用中継搬送装置7は、入口漏斗板12の付近において、復帰式押ボタンスイッチ14から所定の距離位置、例えば、脱穀装置4の前カバー16の位置に他の復帰式押ボタンスイッチ17を設け、その操作信号を条件として走行停止下における補助搬送装置13の搬送動作を可能に構成することにより、複数の復帰式押ボタンスイッチ14,17は、所定の距離位置で同時操作を条件として補助搬送装置13の搬送動作が可能となることから、複数の復帰式押ボタンスイッチを両手操作に適する距離に配置することにより、作業者の両手の同時操作によってのみ補助搬送装置13が搬送動作可能となり、また、搬送動作中はいずれかのスイッチ操作の終了によって補助搬送装置が停止するので、手扱作業時の作業者の安全を十分に確保することができる。
【0032】
また、補助搬送装置13の近傍には、手刈りによる刈取穀稈の投入作業範囲として設定した所定範囲内の作業者の存在を検出する人感センサ18を設け、この人感センサ18による検出信号を条件として、走行停止下における補助搬送装置13の搬送動作を可能に構成する。
【0033】
この人感センサ18は、入口漏斗板12から脱穀装置4の側端である機体の左側位置で、搬送される穀稈から外れる程度の高さの範囲S内の運動体を検出可能に配置した赤外線センサ等によって構成し、運動体の検出終了によって補助搬送装置13とフィードチェーン4aを停止するように制御する。
【0034】
このように人感センサ18による補助搬送装置13の動作制御を構成することにより、作業者が所定の検出範囲Sの外に出た時に補助搬送装置13とフィードチェーン4aが停止することから、手扱作業の継続が困難な非常事態が発生した場合に、復帰式押ボタンスイッチ14の異常があっても、事態の悪化を確実に防止することができる。
【0035】
また、上記人感センサ18は、所定の距離範囲内の実在体を検出する超音波センサを用いることにより、補助搬送装置13の近傍の所定距離範囲の外に作業者が出た場合に補助搬送装置13とフィードチェーン4aが停止することから、前記同様の作用効果を得ることができる。
【0036】
また、上記人感センサ18は、所定の方向範囲内の温度分布を検出するサーモグラフィを用い、人体表面温度部分の広がりの大きさを有する発熱体を検出することにより、補助搬送装置13の近傍の所定距離範囲の外に作業者が出た場合に補助搬送装置13とフィードチェーン4aを停止するように制御することにより、同様の作用効果を得ることができる。
【0037】
また、上記人感センサ18は、所定の方向範囲内の温度分布を検出するサーモグラフィを用い、人体表面温度部分の広がりによる所定の大きさの発熱体の検出、またはその位置の変化による運動体の検出により、補助搬送装置13の近傍の所定距離範囲の外に作業者が出た場合に補助搬送装置13とフィードチェーン4aが停止するように制御することにより、前記同様の作用効果を得ることができる。
【0038】
(補助搬送装置)
補助搬送装置13の構成については、その要部拡大平面図および側面図をそれぞれ図4、図5に示すように、穀稈掻込用の可倒ラグ状のタインTを備えて掻込み動作する2つの周回チェーン機構21,21を中継部材である入口漏斗板12の中継支持面に沿うようにして後下がりに配置し、その前端部が刈取装置3の搬送部である刈取穂先チェーンの上方に臨んで構成する。
【0039】
このように、補助搬送装置13は、周回動作するタインTを備えて中継部材11,12の搬送面に沿うようにして後下がりに配置した周回チェーン機構21,21の前端側の掻込み作用により、その下面側に刈取穀稈を掻き込んで中継部材11,12の中継面に沿って搬送し、このとき、投入穀稈を掻込む2つの周回チェーン機構21,21の前端部を刈取穂先チェーンの上方まで延ばすことにより、刈取穀稈を投入するために脱穀装置4の上に置いた穀稈に対して、フィードチェーン4aより先に周回チェーン機構21,21による補助搬送装置13が作用して穀稈の穂先部の取込みを促進することができる。
【0040】
2つの周回チェーン機構21,21の共通駆動軸21aは、刈取装置3を駆動する刈取入力軸23と脱穀装置4を駆動する脱穀カウンタ軸24からそれぞれテンションクラッチ25a,25bによる伝動切替部を備えたベルト伝動部26a,26bを備えて刈取伝動系と脱穀伝動系の動力を切替え可能に構成し、刈取走行を終了した停車状態において、復帰式押ボタンスイッチ14の操作時に伝動系を刈取伝動系から脱穀伝動系に切替えるように制御する。
【0041】
上記伝動切替部25a,25bにより、刈取走行終了時は、復帰式押ボタンスイッチ14の操作による手扱作業と対応して脱穀伝動系の回転動力により脱穀装置4の動作速度と同期して投入穀稈を搬送する。したがって、刈取走行時に刈取伝動系の回転動力によって走行車速連動の効率的な刈取穀稈の搬送を可能としつつ、手扱作業時は刈取装置3を停止させた状態で、周回チェーン機構21,21を駆動でき、脱穀伝動系と合わせた安定した搬送が可能となり、状況に応じた穀稈搬送を行うことができる。
【0042】
補助搬送装置13の2つの周回チェーン機構21,21の構成は、要部拡大側面図および動作説明用の正面図をそれぞれ図6、図7に示すように、穂先側と株元側の位置に互いに平行に配置するとともに、前端部下側の円弧状レール31a,31bによって下方に穀稈掻込み可能に構成する。穂先側位置の円弧状レール31aは、その掻込位置を高くして掻込量に対応するために、株元側位置の円弧状レール31bより曲率半径を大きく形成する。
【0043】
このように、穂先側位置の円弧状レール31aの曲率半径を株元側位置の円弧状レール31bより大きく形成することにより、タインTと2つの周回チェーン機構21,21の前端部の穀稈掻込を確保しつつ、投入穀稈の穂先側と株元側とを同時に掻込むようにして、穀稈の姿勢を乱すことなく脱穀装置4に引き渡すことができる。
【0044】
なお、上述の補助搬送装置にあっては、2つの周回チェーン機構21,21による構成例であるが、単一の周回チェーン機構21のみによって構成することも可能である。この場合は、株元側位置の周回チェーン機構21を省略し、穂先側位置の周回チェーン機構21のみを配置する簡易な構成により、投入された刈取穀稈の搬送が可能となる。
【0045】
(防塵カバー)
次に、補助搬送装置13の上方を覆う防塵カバー41について説明する。
防塵カバー41は、刈取時(a)と投入時(b)の要部拡大側面図を図8に示すように、刈取装置3側の刈取カバー42と脱穀装置4の上カバー43の間に可動式に架設し、下側に回動操作可能にレール上のローラ44を回動支点とし、投入された刈取穀稈を受けて補助搬送装置13に案内する後下がりの傾斜姿勢に切替え可能に可動支持する。
【0046】
上記防塵カバー41は、刈取走行の際には、刈取装置3で発生した塵埃の操縦部6への巻き上がりを防ぎ、手扱作業時は、ローラ44を回動支点として防塵カバー41を下側に回動操作することにより、防塵カバー41で刈取カバー42と入口漏斗板12の前方部分に亘って突起物をカバーするとともに、防塵カバー41が後ろ下がりに傾斜して穀稈の投入ガイドとして機能することから、手刈り穀稈の投入操作が容易となり、補助搬送装置13による安定搬送が可能となる。
【0047】
(フィードチェーン)
フィードチェーン4aの伝動ボックス51は、その断面図(a)と部部破断の側面図(b)を図9に示すように、クラッチ板52と連動するブレーキアーム53を設け、クラッチ板52のシフト動作とともにブレーキアーム53を作動して強制停止するように構成することにより、伝動系の慣性力によって継続される搬送異常による不具合の進行を最小限に抑えることができる。
【0048】
詳細には、フィードチェーン4aのスプロケット軸54の出力ギヤ54aを押圧拘束可能にブレーキアーム53を軸支し、このブレーキアーム53を回動させるブレーキレバー53aを一体に構成し、このブレーキレバー53aは、その一端をクラッチ板52に臨んで配置する。このクラッチ板52を電動式のローラ付きアーム52aによってシフト動作させることにより、入力軸55からスプロケット軸54への伝動動力の遮断と共に、ブレーキアーム53の拘束動作によってスプロケット軸54の回動が拘束される。
【0049】
また、フィードチェーン4aの伝動構造の側面図を図10に示すように、フィードチェーン4aのテンションを電動機61aによって調節する電動式テンショナ61を設け、緊急時にスプロケット軸54が空転する範囲までテンションを緩めて原動部側からの駆動力を遮断することにより、フィードチェーン4aの緊急停止機能を簡易な構成によって実現することができる。
【0050】
そのほか、伝動ボックス51を介してフィードチェーン4aを駆動する駆動ベルト62のテンションを電動機63aによって調節する電動式テンショナ63を設けることによっても、緊急時にテンションを緩めて駆動ベルト62からの駆動力を遮断することにより、フィードチェーン4aの緊急停止機能を簡易な構成によって実現することができる。
【符号の説明】
【0051】
1 コンバイン
3 刈取装置
3a 搬送部
4 脱穀装置
4a フィードチェーン(供給部)
4b 扱室
7 脱穀用中継搬送装置
11 シンクロチェーン(中継部材)
12 入口漏斗板(中継部材)
13 補助搬送装置
14 復帰式押ボタンスイッチ
16 前カバー
17 復帰式押ボタンスイッチ
18 人感センサ
21 周回チェーン機構
21a 共通駆動軸
23 刈取入力軸
24 脱穀カウンタ軸
25a,25b テンションクラッチ(伝動切替部)
26a,26b ベルト伝動部
31a,31b 円弧状レール
41 防塵カバー
51 伝動ボックス
52 クラッチ板(電動式クラッチ)
52a アーム
53 ブレーキアーム(ブレーキ機構)
53a ブレーキレバー
S 検出範囲
T タイン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
刈取装置(3)とその後方の脱穀装置(4)との間で、刈取装置(3)の搬送部(3a)から受けた刈取穀稈の穂先側を脱穀装置(4)の扱室(4b)の入口部で支持しながら該刈取穀稈の株元側を同脱穀装置(4)への穀稈供給手段であるフィードチェーン(4a)に渡す中継部材(11,12)を備えたコンバインの脱穀用補助搬送装置において、
上記扱室(4b)の入口部でその上方から投入された手刈取り穀稈を受けて後方側に移送してフィードチェーン(4a)に引き渡す補助搬送装置(13)を設け、この補助搬送装置(13)の近傍に復帰式押ボタンスイッチ(14)を設け、該復帰式押ボタンスイッチ(14)の操作信号を条件として補助搬送装置(13)を起動する構成としたことを特徴とするコンバインの脱穀用補助搬送装置。
【請求項2】
前記復帰式押ボタンスイッチ(14)から所定の距離を隔てた位置に該復帰式押ボタンスイッチ(14)とは別の第2復帰式押ボタンスイッチ(17)を設け、この復帰式押ボタンスイッチ(14)の操作信号と第2復帰式押ボタンスイッチ(17)の操作信号とを条件として補助搬送装置(13)を起動する構成としたことを特徴とする請求項1記載のコンバインの脱穀用補助搬送装置。
【請求項3】
前記補助搬送装置(13)の起動と連動してフィードチェーン(4a)を起動する構成としたことを特徴とする請求項1記載のコンバインの脱穀用補助搬送装置。
【請求項4】
前記フィードチェーン(4a)は、その駆動停止とともに可動部の動作を拘束して強制停止させるブレーキ機構(53)を備えたことを特徴とする請求項3記載のコンバインの脱穀用補助搬送装置。
【請求項5】
前記補助搬送装置(13)は、中継部材(11,12)の中継支持面に沿うように後下がりに配置した無端チェーン式搬送機構(21)により構成し、この無端チェーン式搬送機構(21)は、前端部下側の周回軌跡を円弧状として下面側に掻込み移動するタイン(T)を備える構成としたことを特徴とする請求項1記載のコンバインの脱穀用補助搬送装置。
【請求項6】
前記補助搬送装置(13)は、その駆動力の入力経路を切替える伝動切替部(25a,25b)を備え、この伝動切替部(25a,25b)は、刈取走行を終了して復帰式押ボタンスイッチ(14)を操作した場合に、補助搬送装置(13)の駆動力の入力経路を脱穀装置(4)駆動用の伝動経路から刈取装置(3)駆動用の伝動経路に切り替える構成としたことを特徴とする請求項1記載のコンバインの脱穀用補助搬送装置。
【請求項7】
前記補助搬送装置(13)の近傍には、手刈り穀稈の投入作業範囲として設定した所定範囲(S)内での作業者の存在を検出する人感センサ(18)を設け、この人感センサ(18)による検出信号を条件として、補助搬送装置(13)を起動可能とする構成としたことを特徴とする請求項1記載のコンバインの脱穀用補助搬送装置。
【請求項8】
前記刈取装置(3)の後端からその後方の脱穀装置(4)の扱室入口までの範囲に亘り、補助搬送装置(13)の上方を覆う防塵カバー(41)を設け、この防塵カバー(41)は、投入された手刈り穀稈を受けて補助搬送装置(13)に案内する後下がりの傾斜姿勢に切替え可能に支持したことを特徴とする請求項1記載のコンバインの脱穀用補助搬送装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−130289(P2012−130289A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−285493(P2010−285493)
【出願日】平成22年12月22日(2010.12.22)
【出願人】(000000125)井関農機株式会社 (3,813)
【Fターム(参考)】