説明

コンバイン

【課題】コンバインの走行駆動経路にブレーキを設けた構成で、枕扱ぎ作業時に使用する刈取掻き込み操作具の入り操作時にエンジンの駆動力が走行装置へ伝わらず、動力伝動機構やブレーキに制動に伴う過負荷が加わらないようにして、耐久性を高める。
【解決手段】エンジンの駆動力を変速して刈取装置(9)と走行装置(3)に伝動する静油圧式無段変速装置(18)と、該静油圧式無段変速装置(18)の出力回転速度を変速操作する主変速レバー(23)と、前記走行装置(3)のブレーキ(68)を作動させる刈取掻き込み操作具(5)と、該刈取掻き込み操作具(5)によるブレーキ(68)の入り操作および切り操作を前記主変速レバー(23)が変速中立位置でのみ操作可能に牽制する牽制機構(97)を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、コンバインに関するものである。
【背景技術】
【0002】
コンバインは、エンジンから走行装置への走行駆動経路に組み込んだ油圧無段変速装置(以下、「HST」という)で、走行速度を低速から高速まで滑らかに変速出来るようにしている。
【0003】
畦際の穀稈を刈り取る作業いわゆる枕扱ぎ作業は、機体の走行を停止して刈取装置と脱穀装置を駆動状態にして行う。この枕扱ぎ作業を行うために、刈取掻き込み操作具を「入」にすることで左右サイドクラッチを切って走行装置への動力伝動を断ち、刈取装置を駆動状態にするようにしている。そして、コンバインが路上走行を行っている際にこの刈取掻き込み操作具を誤って入り操作すると左右サイドクラッチが切れて走行装置がフリー状態になって坂道走行中であれば機体が暴走することになって危険である。これを防ぐ為に、特開2001−54314号公報には刈取装置を駆動する刈取クラッチが入り状態すなわち収穫作業中でないと刈取掻き込み操作具を入り操作出来ないようにする牽制機構を設ける構成が記載されている。
【特許文献1】特開2001−54314号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記の刈取掻き込み操作具の誤操作による機体の暴走を防ぐ為に牽制機構を設ける構成の他に、刈取掻き込み操作具を入り操作し、左右サイドクラッチを切り操作すると共に左右サイドクラッチより走行装置側に設けたブレーキを作用させて走行装置を制動して走行を確実に停止させる構成が知られているが、左右サイドクラッチが完全に切られても慣性力で駆動力が作用している状態でブレーキを作用させると、動力伝動機構やブレーキ自体に過大な力が加わり、動力伝動機構やブレーキの摩耗が激しい。
【0005】
そこで、本発明では、コンバインの走行駆動経路にブレーキを設けた構成で、枕扱ぎ作業時に使用する刈取掻き込み操作具の入り操作時にエンジンの駆動力が走行装置へ伝わらず、動力伝動機構やブレーキに制動に伴う過負荷が加わらないようにすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明は、上述の如き課題を解決するために、以下のような技術的手段を講じる。
即ち、請求項1記載の発明では、エンジンの駆動力を変速して刈取装置(9)と走行装置(3)に伝動する静油圧式無段変速装置(18)と、該静油圧式無段変速装置(18)の出力回転速度を変速操作する主変速レバー(23)と、前記走行装置(3)のブレーキ(68)を作動させる刈取掻き込み操作具(5)と、該刈取掻き込み操作具(5)によるブレーキ(68)の入り操作および切り操作を前記主変速レバー(23)が変速中立位置でのみ操作可能に牽制する牽制機構(97)を設けたことを特徴とするコンバインとした。
【0007】
請求項2記載の発明では、刈取掻き込み操作具(5)によってブレーキが入り操作された状態でブザーを鳴動する構成としたことを特徴とする請求項1記載のコンバインとした。
【発明の効果】
【0008】
請求項1記載の発明によると、走行中に誤って刈取掻き込み操作具5を操作しても、牽制機構97で、主変速レバー23が中立以外であればブレーキ68を入りに操作することが出来ず、主変速レバー23を中立位置にして走行装置3に駆動力が伝動されていない場合のみに刈取掻き込み操作具5を入り操作してブレーキ68を作動させるので、動力伝動機構やブレーキ68に過負荷が加わらず、耐久性を向上させることができる。
【0009】
請求項2記載の発明によると、上記請求項1記載の発明の効果に加えて、枕扱ぎのために走行を停止していることがオペレータに良く分かって戸惑うことが無く、操作性が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態を図面を用いて具体的に説明する。なお、本明細書ではコンバインの前進方向に向かって左右方向(幅方向)をそれぞれ左右とし、前進方向を前、後進方向を後とする。
【0011】
図1は本発明のコンバインの左側面図である。
図1に示すように、コンバイン1の車体フレーム2の下部側に土壌面を走行する左右一対の走行装置(以下、「走行クローラ」と称す)3を有する走行装置本体4を配設し、車体フレーム2の前端側に分草杆8を備えた刈取装置9が設けられている。該刈取装置9は車体フレーム2の上方の支点を中心にして上下動する刈取装置支持フレーム7で支持されているので、コンバイン1に搭乗したオペレータが操縦席20の操向レバー21を前後に傾倒操作することにより、刈取装置支持フレーム7と共に上下に昇降する構成である。
【0012】
車体フレーム2の上方には、刈取装置9から搬送されてくる穀桿を引き継いで搬送して脱穀、選別する脱穀装置10と該脱穀装置10で脱穀選別された穀粒を一時貯溜するグレンタンク13が載置され、該グレンタンク13の後部にオーガ15を連接して、グレンタンク13内の穀粒をコンバイン1の外部に排出する構成としている。
【0013】
すなわち、コンバイン1はオペレータが操縦席20において主変速レバー23および副変速レバー22を操作し、エンジン(図示せず)の動力を図2に示す走行トランスミッションケース12内の主変速機の静油圧式無段変速装置(HST)18および副変速装置24の歯車変速手段を介して変速し、左右の走行クローラ3,3に伝動して任意の速度で走行する。
【0014】
また、コンバイン1は、オペレータが操縦席20において操向レバー21を左右に傾倒操作することにより各種旋回走行することができる。すなわち、操向レバー21をコンバイン1を旋回させようとする方向に傾倒操作することにより、図2に示す走行ミッションケース12内のサイドクラッチ44と旋回クラッチ82が作動し、左右のクローラ駆動スプロケット16L,16Rに選択的に伝動されるので、左右の走行クローラ3,3に速度差が与えられて走行方向の変更が行われる構成としている。
【0015】
本実施の形態のコンバイン1の走行ミッション装置14を展開して示す断面図を図2に示す。また、図3に差動歯車装置のギアの回転数の関係図を示す。図4にはクラッチ軸70部分の拡大図を示す。
【0016】
走行ミッション装置14は、図2に示すHST18の出力軸17、ミッション出力軸27、ミッションカウンタ軸33、サイドクラッチ軸41、走行軸11L,11Rからなる走行トランスミッション基本伝動系と、クラッチ軸70及び差動歯車機構支持軸50を備えた走行ミッション差動伝動系(補助伝動系)を備えている。
【0017】
まず、走行ミッション装置14の走行トランスミッション基本伝動系を主に図2で説明する。
図示しないエンジンからの回転駆動力がHST18に伝動され、正・逆転の切換えや変速回転動力が出力軸17から出力される構成としている。そして、主変速レバー23によりHST18の増減速の変速と前後進(正・逆転の切換え)の切換えができる構成としている。
【0018】
そして、操向レバー21を操作して、後述のサイドクラッチ44の「入・切」と差動歯車装置6を変速させて旋回走行ができる構成としている。
走行ミッションケース12内には、副変速装置24とサイドクラッチ装置25と差動歯車装置6が設けられ、これらの装置の伝動下手側の左右の走行軸11L,11Rから駆動スプロケット16L,16Rを介して左右の走行クローラ3,3を駆動する構成になっている。
【0019】
HST18の出力軸17の広幅伝動ギア26からの動力はHSTカウンタ軸60のカウンタギア61に伝達され、該カウンタギア61から副変速装置24のミッション出力軸27上の伝動ギア62に動力が伝動される。
【0020】
副変速装置24は、ミッション出力軸27上に一体に設けられた大ギア28と中ギア29と小ギア30とミッションカウンタ軸33上に設けられた変速大ギア34、変速中ギア35及び変速小ギア36及び伝動ギア37から構成される。ミッション出力軸27上に、一体に設けられたギア28〜30は副変速レバー22の操作でミッション出力軸27の軸方向に摺動自在に軸装して変速可能に構成している。そして、上記ミッション出力軸27の端部にスプライン係合した出力軸65は、走行ミッションケース12から外側に延長して刈取伝動プーリ(図示せず)を軸着して車速に同調した回転動力を刈取装置9などの回転各部に入力できる構成としている。
【0021】
また、ミッションカウンタ軸33のギア34〜37は不動で、ミッション出力軸27上に、一体に設けられた大ギア28と中ギア29と小ギア30が図示しないシフタにより摺動するので、ミッションカウンタ軸33の変速大ギア34は前記ミッション出力軸27の小ギア30に噛合し、変速中ギア35はミッション出力軸27の中ギア29に噛合し、変速小ギア36はミッション出力軸27の大ギア28にそれぞれ噛合する。さらに伝動ギア37はサイドクラッチ装置25のセンタギア40に常時噛合している。
【0022】
サイドクラッチ装置25は、センタギア40を略中心として、その左右に伸びるサイドクラッチ軸41を一体で備えている。該サイドクラッチ軸41上にはそれぞれスリーブ42L,42Rが遊嵌しており、前記センタギア40にはクラッチギア43L,43Rが係合、解放可能な爪40bL,40bRを備えている。また、クラッチギア43L,43Rはスリーブ42L,42Rと一体的に設けられている。
【0023】
クラッチギア43L,43Rは左右の減速軸63L,63Rにそれぞれ遊嵌している減速ギア64L,64Rに常時噛合しているので、クラッチギア43L,43Rからの動力は減速ギア64L,64Rからギア63aL,63aRを経由してホイールシャフトギア48L,48Rに伝達され、ホイールシャフトギア48L,48Rから走行軸11L,11Rを経由し、駆動スプロケット16L,16Rから左右の走行クローラ3,3に伝達される。
【0024】
爪クラッチ式に噛合したクラッチギア43L,43Rとセンタギア40の爪部40bL,40bRからなる構成をそれぞれサイドクラッチ44L,44Rと呼ぶことにする。
また、スリーブ42L,42Rと走行ミッションケース12との間にそれぞれベアリングスペーサー(図示せず)を介してスプリング46L,46Rが設けられ、このスプリング46L,46Rによりスリーブ42L,42Rとクラッチギア43L,43Rは常時センタギア40側に付勢されている。そして、旋回時に油圧力でシフタ47L,47Rのいずれかを作動させて対応する前記スプリング46L,46Rのいずれかの付勢力に打ち勝つ方向に移動可能な構成になっている。これにより、旋回内側のサイドクラッチ44L又は44Rが切れる。
【0025】
シフタ47L,47Rは直進走行時には作動せず、サイドクラッチ44L,44Rが共に係合した状態であるので、後述の伝達経路で左右の走行クローラ3,3が等速回転する。
【0026】
また所望の旋回方向に操向レバー21を操作することでシフタ47L又は47Rが作動して、旋回内側のサイドクラッチ44L又は44Rの係合と解放が選択される。
センタギア40の外周ギア40aはクラッチ軸70上に遊嵌している円筒状回転体72のギア72aと常時噛合している。該円筒状回転体72と爪係合している円筒体72bとクラッチ軸70にスプライン係合している円筒状回転体71との間で多板式摩擦板からなる直進用クラッチ81を構成している。
【0027】
また、円筒状回転体72の外周には円筒状回転体74が遊嵌しており、該円筒状回転体74にはセンタギア40の第三のギア40cに常時係合しているギア74aを備えている。また円筒状回転体74と円筒状回転体71との間で多板式摩擦板からなる旋回用クラッチ82を構成している。
【0028】
直進用クラッチ81と旋回用クラッチ82との間には圧縮バネ75が配置され、該圧縮バネ75の付勢力は直進用クラッチ81が「入」となるように設置されている。
また、円筒状回転体71の外周には直進用クラッチ81と圧縮バネ75と旋回用クラッチ82の間をそれぞれ仕切る円盤状プレート76a,76bを備えた円筒体76が一体化して設けられている。
【0029】
油口77から圧油の導入がない場合には圧縮バネ75によって円筒状回転体71と円筒状回転体72との問で常時直進用クラッチ81が係合する「入」方向に付勢されている。
直進用クラッチ81は常時「入」状態を保ち、旋回用クラッチ82は常時「切」状態を保っている。
【0030】
油口77から圧油の導入があると、ピストン73と円筒体76の円盤状プレート76aと76bがバネ75の付勢力に打ち勝って図2の左側方向にシフトし、直進用クラッチ81は解放(「切」状態)となり、旋回用クラッチ82が係合(「入」状態)になる。
【0031】
直進用クラッチ81が「入」の場合は副変速装置24からの駆動力がサイドクラッチ軸41のセンタギア40の外周ギア40aと円筒状回転体72のギア72aを経由して円筒状回転体72、円筒体72b、円筒体76、円筒状回転体71、直進用クラッチ81及びクラッチ軸70を回転させ、該クラッチ軸70と一体のクラッチ出カギア78と、該クラッチ出力ギア78に常時係合している差動歯車機構6のデフケースギア53を回転させる。このとき旋回用クラッチ82が「切」であるのでセンタギア40の第三ギア40cに常時噛合している円筒状回転体74のギア74aの回転動力はクラッチ軸70には伝達されないで円筒状回転体74は空回りする。
【0032】
また、旋回用クラッチ82が「入」の場合は、直進用クラッチ81が「切」となり、クラッチ軸70に遊嵌している円筒状回転体72を空回りさせるが、このときセンタギア40の第三ギア40cからの駆動力が円筒状回転体74のギア74aを経由して円筒状回転体74から旋回用クラッチ82と円筒体76を経由して円筒状回転体71を回転させ、該回転体71の回転でクラッチ軸70を駆動させる。この結果、クラッチ軸70に固定されたクラッチ出力ギア78が回転して、該クラッチ出力ギア78に常時係合している差動歯車装置6のデフケースギア53を回転させる。
【0033】
クラッチ軸70の円筒状回転体72と反対側の軸端には、内拡式ブレーキ68を装着して、走行クローラ3の停止時に作動して軸の回転を停止するようにしている。
差動歯車装置6には、中間ベベルギア52、52の外周に設けたデフケース54と一体のデフケースギア53が設けられており、また、支持軸50には側部ベベルギア51L,51Rが回転可能に支持されており、また、側部ベベルギア51L,51Rの外側には左右のサイドギア55L,55Rがそれぞれ固定している。
【0034】
サイドギア55Lは減速ギア64Lに常時係合し、サイドギア55Rは減速ギア64Rに常時係合しており、また減速ギア64Lとギア63aLは一体であり、減速ギア64Rとギア63aRは一体である。
【0035】
図2から明らかなように、直進用クラッチ81と旋回用クラッチ82を同一軸であるクラッチ軸70に設けることにより両クラッチ81、82を択一的に操作できるので、構成が簡素化でき、安価になる。また両クラッチ81、82の切り替えのタイミングを機械的に調整できるので複雑な制御が不要となる。
【0036】
上記構成からなる走行ミッション装置14のギア機構において、コンバイン1の直進時はサイドクラッチ装置25の左右のサイドクラッチ44L,44Rが共に係合したままであり、エンジン動力は副変速装置24のミッションカウンタ軸33に伝達され、該ミッションカウンタ軸33の出力ギア38を経由してセンタギア40に伝達される。該センタギア40にはサイドクラッチ軸41が共に係合しているので、センタギア40の回転力はクラッチ44L,44Rを介してクラッチギア43L,43Rに伝達され、該クラッチギア43L,43Rに常時係合している減速ギア64L,64Rに伝達され、減速ギア64L,64Rから減速軸63L,63Rの各ギア63aL,63aRとホイールギア48L,48Rをそれぞれ経由して左右の走行クローラ3が共に回転する。
【0037】
副変速レバー22の作動で副変速シフタステー32が副変速装置24のミッション出力軸27のギア28、29、30とそれぞれ対応するミッションカウンタ軸33のギア36、35、34のいずれかの組のギア同士を噛合させて、適切な速度段で直進走行ができる。このとき直進用クラッチ81は「入」で、旋回用クラッチ82は「切」であり、直進時の差動歯車装置6の状態は次の通りである。
(イ)ミッションカウンタ軸33の駆動力がセンタギア40の爪ギア40bL,40bRとを経由してサイドクラッチ装置25のサイドクラッチ44L,44R及びサイドクラッチ軸41のクラッチギア43L,43Rを経由して減速ギア64L,64Rが共に回転しているので、減速ギア64L,64Rがそれぞれ噛合している差動歯車装躍6のサイドギア55L,55Rは回じ方向に共に等速回転する。従って、サイドギア55L,55Rとそれぞれ一体回転する側部ベベルギア51L,51Rを介してデフケース54と該デフケース54と一体のデフケースギア53も回じ方向に回転し、前記側部ベベルギア51L,51Rに噛み合っている中間ベベルギア52,52が支持軸50を中心に回転する。
(ロ)ミッションカウンタ軸33の駆動力がセンタギア40の外周ギア40aから回転円筒体72に伝達され回転円筒体72と爪係合する円筒体72b、直進用クラッチ81、円筒体76のプレート76a、円筒状回転体71、クラッチ軸70、クラッチ出力ギア78及びデフケースギア53に順次動力伝達され、デフケースギア53と同じ回転方向にベベルギア52も回転する。
【0038】
このようにデフケースギア53は上記(イ)、(口)の二系統から回動されるので上記(イ)、(ロ)の二系統からのデフケースギア53への変速比を回じに設定する。従ってサイドクラッチ44L又は44Rを「切」にしたとき、上記(ロ)の伝動系統からの動力がデフケースギア53からサイドギア55L,55Rと減速ギア64L,64R、カウンタギア63aL,63aR、ホイールシャフトギア48L,48Rにそれぞれ伝わるので、ショックが防止される。また、センタギア40と一体の第三ギア40cから、ギア74a、円筒状回転体74に伝達される旋回用の動力は、旋回用クラッチ82で回転している。
【0039】
次に前記ギア機構の左旋回時の作動について説明する。
操向レバー21を左側に傾斜させることで、シフタ47Lを作動させ、サイドクラッチ44Lを「切」にすると、図示しない機構により油口77から圧油が導入され、ピストン73と円筒体76が図2の左方向に移動する。この移動により直進用クラッチ81を「切」として、旋回用クラッチ82を「入」とする。溶接で一体構成されたセンタギア40と第三のギア40cの回転力は旋回用クラッチ82の円筒状回転体74の外周に設けられた対応するギア74a、旋回用クラッチ82、円筒体76、円筒状回転体71、クラッチ軸70、クラッチ出力ギア78、デフケースギア53、側部ベベルギア51L、サイドギア55L、減速軸63Lの減速ギア64L、ギア63aL、ホイールシャフトギア48L、クローラ駆動スプロケット16Lをそれぞれ経由して左の走行クローラ3を駆動させる。
【0040】
この時、センタギア40の動力はクラッチギア43Rから減速軸63Rの減速ギア64R、ギア63aR、ホイールギア48R、クローラ駆動スプロケット16Rをそれぞれ経由して旋回外側の右の走行クローラ3を駆動する。
【0041】
旋回用クラッチ82は、その多板式摩擦板を油圧力を無段階的(連続的)に設定した旋回モードまで制御することができる。なお、この旋回用クラッチ82の摩擦板の油圧力の制御は操縦席20に設けた操向レバー21に付属するポテンショメータ〔図示せず〕で検出される傾動角度の制御で行うことができる。
【0042】
センタギア40の第三のギア40cと円筒状回転体74のギア74aの変速比の関係により、例えば旋回用クラッチ82を完全に接続させた場合にサイドギア55Lの回転数はサイドクラッチ44R側のサイドギア55Rの回転数の1/3になり、急旋回〔スピンターン)状態になるように設定しているので、緩旋回からブレーキ旋回と急旋回への移行が可能になっている。
【0043】
すなわち、左旋回時には旋回外側であるサイドクラッチ44Rが「入」状態であるので、ホイールシャフトギア48Rの回転がクラッチギア43Rから一定回転で伝動されるとともに、クラッチギア43Rの回転はサイドギア55Rを一定回転で伝動する。一方、デフケースギア53の回転数が旋回用クラッチ82の摩擦力が強くなるに従い減速されていくと、それに比例してサイドギア55Lの回転数が減少していく。デフケースギア53の回転数がサイドギア55Rの1/2になると、サイドギア55Lはゼロ回転となり、サイドギア55Lからホイールシャフトギア48Lを経由する回転数がゼロになり、左走行クローラ3にブレーキが利いているのではないが左走行クローラ3が回転しない、いわゆるブレーキ旋回が行われる。
【0044】
さらにデフケースギア53が減速していくと、サイドギア55Rの回転方向に対してサイドギア55Lは逆転回転をして左走行クローラ3が逆回転し、いわゆる急旋回が行われる。
【0045】
サイドギア55Rの回転数に対してサイドギア55Lの逆転回転数は、ギア40cとギア74aの変速比を図3の点Xに設定していると、サイドギア55Lがサイドギア55Rに対して1/3スピンターンまで実行可能な逆転回転数まで設定が可能である。
【0046】
なお、直進用クラッチ81と旋回クラッチ82を中立としブレーキ68を作動させるようにするペダル或いはレバー等のスピン操作具を設けて、このスピン操作具を「入」操作して操向レバー21を左右に傾けると、1:1のスピンターンを行えるようになる。
【0047】
また、右旋回選択時はサイドクラッチ44Rを「切」にすることで、前記左旋回と全く逆の作動が走行ミッション装置14で行われる。
上記したような副変速装置24と旋回用クラッチ82との問に比較的簡単な構成のギア変速装置19を介装し、旋回用クラッチ82の摩擦板の係合圧を調整することで、緩旋回からブレーキ旋回及び1/3或いは1:1の急旋回まで実行可能な状態に切り替えられるようにした。
【0048】
上記変速装置において、差動歯車機構6の差動歯車機構支持軸(デブ軸)50と走行軸11L,11Rの間にそれぞれ減速軸63L,63Rを設け、デフケースギア53よりミッションケース12の左右それぞれ外側位置に減速ギア64L,64Rを設ける。そして、本実施例では図5に示すように減速軸63L,63Rのミッションケース12の中央部側であって、減速ギア64L,64Rの内側(ミッションケース12内の左右方向の中央部側)にカラー67L,67Rをそれぞれ設けている。
【0049】
該カラー67L,67Rの内径部については、カラー67L,67Rの内径部の減速ギア64L,64R側の径(A)をR1とし、中央側の径(B)をR2とすると、R1<R2とする。また、カラー67L,67Rの外径部について、減速ギア64L,64R側の径(C)をR3とし、中央側の径(D)をR4とすると、R3>R4とする。そして、カラー外径部67L,67Rの外径部の大径部(C)の端部を減速ギア64L,64Rの基部の軸方向の幅内に収めた構成である。
【0050】
減速ギア64L,64Rのスラスト方向の固定にカラー67L,67Rを使用することで、減速軸63L,63Rの径を徐々に変化させることが可能となり、減速軸63L,63Rの小径部における応力集中が防止でき、減速軸63L,63R及び減速ギア64L,64Rを小型化が可能となる。その結果、走行ミッションケース12もコンバイン1に組み付けたときの上下、前後方向における小型化が可能になる。また、カラー67L,67Rの外径部の大径部(C)を減速ギア64L,64R内に収めることで、デフケースギア53と減速ギア64L,64Rの幅方向隙間を狭く構成でき、ミッションケース12の幅方向も小型化が可能となる。
【0051】
図7は、コンバインの操縦席20近傍を示し、前側の操縦台69に操向レバー21を立設し、左側のサイドパネル49に主変速レバー23と脱穀レバー31を立設し、足元のフロアープレート66に刈取掻き込み操作具5としてのペダルを設けている。
【0052】
主変速レバー23は、取付ブラケット100を枢支軸87で枢支し取付ブラケット100と前記HST18にロッド86で連結して、前後に回動すると前後進で変速するようにしている。また、取付ブラケット100は、牽制機構97を構成する後側の軸101に枢支した変速規制板92をリンク94で連結している。
【0053】
脱穀レバー31は、枢支軸89に枢支して前後に回動すると脱穀装置10の駆動を断続するが、この脱穀レバー31の取付ブラケット102と前記軸101に枢支した脱穀規制板103をリンク93,95で連結している。
【0054】
さらに、図8に示す如く、軸101には副変速レバー22にリンク98で連結した高速規制板99を連結し、副変速レバー22を高速に変速している場合に高速規制板99が後述する踏込み規制板91のピン105に当接するようにしている。
【0055】
刈取掻き込み操作具5は、枕刈り作業時に使用し、ワイヤ85を前記走行ミッション装置14のブレーキ68に連結し、踏込むとブレーキ68を作用させてクラッチ軸70の回転を停止させる。また、この刈取掻き込み操作具5に連結する別のワイヤ84を前記軸101の下側に設ける軸104に枢支した踏込み規制板91に連結している。踏込み規制板91はばね99でワイヤ84と逆方向へ引いている。さらに、刈取掻き込み操作具5の踏込みを検出する掻込センサ83を設けて、踏込みを検出するとブザーを鳴らすようにしている。
【0056】
踏込み規制板91にはピン105を設け、主変速レバー23を中立位置にしている状態で前記変速規制板92の規制溝106にピン105が入り込み可能で、規制溝106は一旦ピン105が入り込むと主変速レバー23が前後に回動可能な溝形状となっている。
【0057】
また、脱穀規制板103は、脱穀レバー31が切位置ではピン105に当たって踏込み規制板91の回動を規制するようにしている。
ピン105と変速規制板92と脱穀規制板103と高速規制板99によって、刈取掻き込み操作具5が踏込み可能な状態は、主変速レバー23が中立で脱穀レバー31が脱穀入で副変速レバー22が高速以外の場合になる。
【0058】
図9は、ブレーキ68を駐車ブレーキとして使用する駐車ペダル112の構成を示している。駐車ペダル112の隣にはロック解除ペダル111を設けて、駐車ペダル112を単独で踏込むとロック解除ペダル111が踏込み位置を保持し、ロック解除ペダル111を単独で踏込むと駐車ペダル112の踏込み状態を解除する。駐車ペダル112とロック解除ペダル111は、枢支軸108やブラケット109,110を一体的に構成したペダルフレーム107に組み付けて、フロアープレート66の下面に取り付けているので、メンテナンスの場合にペダルフレーム107を一体で取り外し可能にしている。なお、この駐車ペダル112の踏込みを検出する駐車センサ113を設けている。この駐車センサ113が駐車中を検出すると、刈取掻き込み操作具5の「入」操作を行っても左右サイドクラッチの切作動は行わないように制御して、坂道でのずり落ちを防いでいる。また、駐車中に操向レバー21を左右に傾ける操作を行っても、旋回クラッチ82への出力を行わないようにしている。
【0059】
なお、本実施例では、クラッチ軸70に内拡式ブレーキ68を設けているが、サイドクラッチ装置25のクラッチギア43L,43Rの回転を停止する電磁ブレーキを設けて、刈取掻き込み操作具5の「入」操作時にこの電磁ブレーキを作動させる構成でも本発明と同様の効果を期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】コンバインの全体側面図
【図2】コミッションケースの断面図
【図3】差動歯車装置のギア回転数関係図
【図4】クラッチ軸の部分拡大図
【図5】コミッションケースの部分拡大断面図
【図6】コミッションケースの側面図
【図7】操縦席の拡大側面図
【図8】操縦席の拡大側面図
【図9】操縦席の別部分拡大側面図
【符号の説明】
【0061】
3 走行装置(走行クローラ)
5 刈取掻き込み操作具
9 刈取装置
18 静油圧式無段変速装置(HST)
23 主変速レバー
68 ブレーキ
97 牽制機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンの駆動力を変速して刈取装置(9)と走行装置(3)に伝動する静油圧式無段変速装置(18)と、該静油圧式無段変速装置(18)の出力回転速度を変速操作する主変速レバー(23)と、前記走行装置(3)のブレーキ(68)を作動させる刈取掻き込み操作具(5)と、該刈取掻き込み操作具(5)によるブレーキ(68)の入り操作および切り操作を前記主変速レバー(23)が変速中立位置でのみ操作可能に牽制する牽制機構(97)を設けたことを特徴とするコンバイン。
【請求項2】
刈取掻き込み操作具(5)によってブレーキが入り操作された状態でブザーを鳴動する構成としたことを特徴とする請求項1記載のコンバイン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−178043(P2009−178043A)
【公開日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−17206(P2008−17206)
【出願日】平成20年1月29日(2008.1.29)
【出願人】(000000125)井関農機株式会社 (3,813)
【Fターム(参考)】