説明

コンバイン

【課題】搬送車輌への積み降ろし作業などが容易なコンバインを提供する。
【解決手段】作業切替ダイヤルが積載位置に切替えられると、制御部は積載モードへと切替る(タイミングl)。積載モードになると制御部は、エンジンの回転速度を、作業時に使用可能な回転速度域よりも低い設定低回転速度に設定すると共に、車高を最上げ位置に設定する。また、制御部は、前処理部を最下降位置に設定すると共に、ナローガイドも作業位置から収納位置へと切替える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンの回転速度を自動的に制御可能なコンバインに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エンジンの回転速度を操作するエンジンコントロールレバーの他に、エンジンの回転速度を自動的に制御する自動制御モードに移行するためのアクセルスイッチを備え、このアクセルスイッチを操作することによってエンジン回転速度の制御を、モード変更可能に構成したコンバインが案出されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−305121号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1記載のコンバインは、収穫作業中のエンジン回転速度を制御する自動制御モードは備えているものの、例えば、コンバインを搬送車輌に積み込む際や、圃場に進入する際などに対応したモードは、有しておらず、このような場合、作業者はわざわざ、エンジン回転速度の自動制御を切り、手動でエンジンの回転速度を設定していた。
【0005】
そこで、本発明は、コンバインの積載作業時や、圃場への進入時に対応した積載モードを備えることで、上記課題を解決したコンバインを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、走行装置(2)に支持された機体(3)と、前記機体(3)の前方に昇降自在に設けられた前処理部(5)と、前記機体(3)に搭載されたエンジン(45)の回転速度を制御する複数の制御モードを有する制御部(74)と、を備えたコンバイン(1)において、
前記制御部(74)の制御モードを、前記コンバイン(1)の行う作業の種類に応じて切替える作業設定手段(60)を備え、
前記制御部(74)は、前記エンジン(45)の回転速度を、収穫作業時に使用可能な回転速度域よりも低い設定回転速度に設定する積載モードを有してなる、ことを特徴とする。
【0007】
また、本発明は、前記機体(3)の車高を昇降する車高調整手段(92)を備え、
前記制御部(74)は、前記積載モードの際に、前記機体(3)の車高を、前記車高調整手段(92)により最下げ位置に設定してなる、と好適である。
【0008】
更に、前記制御部(74)は、前記積載モードの際に、前記前処理部(5)を最上昇位置に設定してなる、と好適である。
【0009】
また、具体的には、前記作業設定手段(60)は、前記積載モードに対応した積載位置と、収穫する穀粒の種類に応じた複数の収穫対象設定位置と、を備え、
前記制御部(74)は、前記収穫する穀粒の種類に応じて前記エンジン(45)の回転速度を変更する複数の制御モードを有してなる、と好適である。
【0010】
更に、前記作業設定手段(60)は、ダイヤル式の入力装置であり、
前記制御部(74)は、前記作業設定手段(60)のダイヤルの開度に応じて手動で前記エンジンの回転速度を設定するマニュアル設定モードを有してなる、と好適である。
【0011】
なお、上記カッコ内の符号は、図面と対照するためのものであるが、これは、発明の理解を容易にするための便宜的なものであり、特許請求の範囲の構成に何ら影響を及ぼすものではない。
【発明の効果】
【0012】
請求項1に係る発明によると、エンジンの回転速度を、収穫作業が可能な回転速度よりも低い設定回転速度にする積載モードを備えたことによって、作業者は、作業設定手段により制御部を上記積載モードに設定するだけで、容易にエンジンの回転速度を、コンバインの積み降ろしや、圃場への進入などに適した速度にすることができる。これにより、エンジン回転速度の設定が容易になり、作業効率が向上すると共に、エンジンの回転速度が、収穫作業ができないほど低い回転速度に設定されるため、作業者は確実にコンバインの積み降ろしや圃場への進入などの作業を行うことができる。
【0013】
請求項2に係る発明によると、積載モードの際には、車高が自動的に最下げ位置になるため、車高を下げる操作が不要になり、作業効率が向上する。また、車高の下げ忘れを防止することができる。
【0014】
請求項3に係る発明によると、積載モードの際には、前処理部が自動的に最上昇位置となるため、前処理部を上昇させる操作が不要になり、作業効率が向上する。また、前処理部の上げ忘れを防止することができる。
【0015】
請求項4に係る発明によると、作業設定手段に車載位置の他に、収穫する穀粒の種類に応じて複数の収穫対象設定位置を設けたことによって、エンジン回転速度を穀粒の種類に応じた最適な速度に設定することができる。
【0016】
請求項5に係る発明によると、作業設定手段のダイヤルにより、エンジンの回転速度を手動で操作することができるマニュアル設定モードを設けたことによって、作業者は、必要に応じて手動でエンジンの回転速度を設定することができる。また、作業設定手段を、エンジン回転速度の調整ダイヤルとしても兼用することによって、部品点数を削減することができ、コスト削減に寄与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施形態に係るコンバインの側面図。
【図2】本発明の実施形態に係るコンバインの平面図。
【図3】本発明の実施形態に係る脱穀部及び選別部を示す模式図。
【図4】本発明の実施形態に係るコンバインの運転操作部を示す平面図。
【図5】図4に示す運転座席のスイッチパネルを示した拡大図。
【図6】本発明の実施形態に係るコンバインの制御ブロック図。
【図7】本発明の実施形態に係るコンバインのタイミングチャート。
【図8】本発明の実施形態に係るコンバインのタイミングチャート。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面に沿って本発明に係るコンバインの実施形態について説明をする。
【0019】
[コンバインの構成]
図1及び図2に示すように、コンバイン1は、左右一対のクローラ走行装置(走行装置)2によって支持された機体3を有しており、該機体3の前方には、穀稈を刈取り取ると共に、刈取った穀稈を機体後方へと搬送してフィードチェン6に受け渡す前処理部5が設けられている。
【0020】
上記機体3と左右のクローラ走行装置2との間には、車高を調整するための車高調整装置92が設けられており、機体3は、車高シリンダ86,89(図6参照)を伸縮させることにより、圃場の状況に応じて、最上げ位置(図2の点線位置)と、最下げ位置(図2の二点鎖線位置)との間で自由に車高を設定できるようになっている。また、左右の車高シリンダ86,89を独立して伸縮させることにより機体を圃場に対して水平に保持できるようになっている。
【0021】
一方、前処理部5は、その前部に複数設けられて穀稈を分草するデバイダ15、デバイダ15の後方で分草された穀稈を引起す引起装置16、穀稈を刈取るレシプロ式の刈刃を有する刈取り部17、該刈取り部17によって刈取られた穀稈をフィードチェン6に受け渡す穀稈搬送装置19、などから構成されており、昇降シリンダ91(図6参照)が伸縮することによって機体3に対して昇降自在に設けられている。
【0022】
前処理部5の後方側には、フィードチェン6によって搬送された穀稈を脱穀する脱穀部7、排稈を処理するための後処理部9が設けられていると共に、該脱穀部7の下方には、脱穀部7の受網から漏下した被選別物(脱穀された穀粒と夾雑物との混合物)を選別する選別部10(図3参照)が設けられている。
【0023】
また、前処理部5の側方には、作業者が着座して運転操作する運転操作部11が設けられていると共に、該運転操作部11の後方側かつ脱穀部7の側方には、上記選別部10によって選別された穀粒を貯留するグレンタンク12が配設されている。グレンタンク12に貯留された穀粒は、排出装置としての排出オーガ13によって機体外に排出されるように構成されている。
【0024】
なお、前処理部5の未刈地側には、機体側方に張り出して植立穀稈を分草案内する作業姿勢(図2点線位置)と、機体側に引き寄せた収納姿勢(図2実線位置)と、に切換え可能に構成されたナローガイド20が設けられている。
【0025】
図3に示すように、上記脱穀部7は、扱室内に回転自在に支持された扱胴21と、その下方に設けられた受網22と、から構成されており、これら扱胴21と受網22との間で穀稈が扱がれることにより脱穀されるようになっていると共に、該受網22の下方には、選別部10の揺動流板23が配設されている。
【0026】
また、上記脱穀部7の下方に配設された選別部10は、機体前後に揺動して揺動選別を行う揺動選別装置25と、排塵選別室26内に選別風を送風する唐箕ファン27と、排塵選別室内から排塵を吸引する吸引ファン29とを有しており、これら揺動選別装置25及び唐箕ファン27によって選別された穀粒は、1番ラセン32を介して揚穀ラセン31によってグレンタンク12に回収されると共に、選別不十分のものは2番ラセン33を介して還元ラセン35によって排塵選別室内に還流されるように構成されている。
【0027】
上記揺動選別装置25は、揺動流板23と、該揺動流板23の後方に連設されたチャフシーブ30と、チャフシーブ30の下方において前後の揺動及び選別風によって篩選別をするグレンシーブ34とを備えており、チャフシーブ30は開度を調整可能な多数の選別フィン30aを有していると共に、そのフィン開度を選別フィン制御モータ78により調節することによって、被選別物の漏下量を調節しかつ、選別風の通風量を制御可能に構成されている(図6も合わせて参照)。
【0028】
ついで、運転操作部11の構成について説明をする。図4に示すように、運転操作部11の中央には運転座席43が配設されており、該運転座席43の下方には、コモンレール式のエンジン45が搭載されている。また、運転座席43の前方には、該エンジン45を始動させるイグニッションキー46が設けられており、イグニッションキー46の機体右側方には機体の左右旋回及び前処理部5の昇降を操作するマルチステアリングレバー47が設けられている。更に、メータパネルを挟んでイグニッションキー46の反対側には、手動で車高及び機体の傾斜を調整する車高手動レバー52、前処理部5の高さ位置を設定する刈高さコントロールダイヤル55が設けられている。
【0029】
一方、運転座席43の側方には、機体3を変速操作する主変速レバー49と、作業目的や刈取り条件に応じて、低速位置(車輌積降し・倒伏)、中速位置(標準)、高速位置(走行)及び中立位置に切換えられる副変速レバー50と、各種の自動スイッチ群からなるスイッチパネル51と、が設けられている。
【0030】
図5に示すように、上記スイッチパネル51には、収穫する穀粒の種類やコンバインの行う作業の種類に応じて切換える作業切替ダイヤル(作業設定手段、収穫対象設定手段)60、選別フィン30aの開度を調整する選別ダイヤル61、ナローガイド20を作業姿勢と格納姿勢とに切換えるナローガイドスイッチ62、機体3の水平自動制御の入切を行う水平自動スイッチ63、脱穀クラッチ82及び刈取りクラッチ83の断接を操作するパワークラッチスイッチ65などが配設されている。
【0031】
上記作業切替ダイヤル60は、積載作業時に設定される積載位置、種子用穀粒の収穫時に設定される種子位置、麦収穫時に設定される麦位置、手扱ぎ作業時に設定される手扱ぎ位置及び稲収穫時に設定される稲位置を有しており、これら各作業位置にダイヤルを合わせることによって、エンジン45の回転速度が自動的に制御されるように構成されている。また、作業切替ダイヤル60は、ダイヤルプッシュ式のダイヤルであり、このダイヤルを押すことによって、作業自動スイッチ67が入切され、上記エンジン回転速度の自動制御がオン・オフされる。なお、エンジン回転速度の自動制御がオフ(切)の場合、ダイヤル位置の目盛りに応じてエンジン回転数が制御される(図6も併せて参照)。
【0032】
また、選別ダイヤル61も作業切替ダイヤル60と同様に、ダイヤルプッシュ式のダイヤルであり、このダイヤルを押すことによって、選別自動スイッチ69が入切され、自動モードのときには、上記作業機切替ダイヤル60で設定された穀粒の種類に応じて選別フィン30aの開度を自動的に調整すると共に、自動制御が切のときには、ダイヤル位置の目盛りに応じた開度に選別フィン30aが固定される。
【0033】
更に、パワークラッチスイッチ65は、シーソー型のスイッチであり、(+)側65aを押して行くと脱穀クラッチ82、刈取りクラッチ83の順で接続し、(−)側65bを押して行くと刈取りクラッチ83、脱穀クラッチ82の順で切断され、押している指を離せば中立位置に復帰するように構成されている。
【0034】
なお、上記脱穀クラッチ82は、エンジン45からの動力を脱穀部7に伝達するクラッチであり、刈取りクラッチ83は、該脱穀クラッチ82の伝動後流側に設けられて、エンジン45からの動力を前処理部5に伝達している。また、これら脱穀クラッチ82と刈取りクラッチ83との間には、変速装置として搬送HSTが設けられており、該搬送HSTを介してエンジン45からの動力がフィードチェン6及び前処理部5に伝達される。
【0035】
[制御部の構成]
ついで、本実施形態の制御部の構成について説明をする。図6は、コンバイン1の制御ブロック図であり、コンバイン1の動作を制御する制御部74を構成するマイコン70の入力側には、上述した作業切替ダイヤル60、作業自動スイッチ67、パワークラッチスイッチ65、選別ダイヤル61、選別自動スイッチ69、ナローガイドスイッチ62及び水平自動スイッチ63が接続されていると共に、主変速レバー49の操作位置を検出する主変速レバーポテンショメータ72、マルチステアリングレバー47の前後左右への傾倒操作を検出するマルチステアリングレバー昇降ポテンショ73、車高手動レバー52の前後の傾倒操作を検出する車高手動スイッチ84などが接続されている。
【0036】
一方、マイコン70の出力側には、該マイコン70と共に制御部74を形成し、エンジン45の回転速度を制御するエンジン制御マイコン71、脱穀クラッチ82及び刈取りクラッチ83を断接(オン・オフ)させるための脱穀・刈取りクラッチ制御モータ77、選別フィン30aの開度を調整する選別フィン制御モータ78、ナローガイド20を作業姿勢と格納姿勢とに切換えるナローガイド制御モータ79、左右の車高シリンダ86,89に供給する油圧を調節する左右の車高ソレノイド85,87、及び昇降シリンダ91へ供給する油圧を調節する前処理昇降比例弁90が接続されている。
【0037】
制御部74は、上記作業切替ダイヤル60の設定位置に応じて、詳しくは後述する、稲収穫モード、麦収穫モード、種子収穫モード、手扱ぎ作業モード、積載作業モード及びマニュアル設定モードを有しており、該作業切替ダイヤル60の位置に応じて各制御モードに移行することができる。なお、マニュアル設定モードへは、他の自動制御モードとは異なり、上記作業切替ダイヤル60の設定位置ではなく作業切替ダイヤル60を押し操作されて自動制御モードが解除されることによって移行し、この場合、作業切替ダイヤル60の開度(目盛り位置)に応じてエンジン45の回転速度が設定される。
【0038】
また、上記左右の車高ソレノイド85,87及び車高シリンダ86,89などによって車高調整装置92が構成されていると共に、上記昇降シリンダ91及び前処理昇降比例弁90などによって、前処理部5を昇降させる昇降装置93が構成されている。
【0039】
<動作>
次に、コンバイン1の動作を図7及び図8に示すタイムチャートに基づいて説明する。
【0040】
[収穫作業時の動作]
作業者は、非収穫作業状態(車高最下げ位置、脱穀及び刈取りクラッチ82,83切断状態、ナローガイド20収納姿勢)のコンバイン1に乗り込むと、まず、収穫する穀粒の種類に応じて作業切替ダイヤル60を稲位置に合わせ(図7のタイミングa)、制御部(マイコン70及びエンジン制御マイコン71)74を稲収穫モードに切替えてからエンジン45を始動する。そして、副変速レバー50を高速位置にすると共に、主変速レバー49を増速操作して圃場の近傍まで走行する(図7のタイミングb〜c)。この時、エンジン45の回転速度は、主変速レバー49の増速操作に連動して定格回転速度まで上昇する。圃場の近傍まで来ると、作業者は、主変速レバー49を減速操作し、機体3を停止する。この時、エンジン45の回転速度は、アイドリング回転速度となる(図7のタイミングc〜d)。
【0041】
そして、作業者は、副変速レバー50を低速位置にして圃場に進入すると共に、作業を始める前に、車高手動レバー52を手前側に傾倒操作する。すると、マイコン70は、車高手動スイッチ84によって上記車高手動レバーの上げ操作を検知し、左右の車高ソレノイド85,87に電気指令を出力して機体3の車高を最上げ位置(図2の点線位置)にする(図7のタイミングe)。
【0042】
また、作業者は、作業を開始する前に、マルチステアリングレバー47を前方側に傾倒操作する。すると、マイコン70は、前処理昇降比例弁90に電気指令を出力して前処理部5を最下降位置にする(図7のタイミングe)。更に、これら車高及び前処理部5の刈高さ位置の設定が済むと、作業者はナローガイドスイッチ62を押操作して、ナローガイド20を作業姿勢にする。
【0043】
これにより、コンバイン1の作業開始準備が整うと、作業者は、パワークラッチスイッチ(+)65aを押操作する。パワークラッチスイッチ(+)65aが押操作されると、マイコン70は、脱穀・刈取クラッチ制御モータ77を駆動して脱穀クラッチ82を接続し、エンジン45からの動力を脱穀部7に伝動可能な状態にすると共に、エンジン制御マイコン71に電気指令を出力してエンジン45の回転速度を定格回転速度にする(図7のタイミングg)。なお、この定格回転速度は、作業時に使用される回転速度であり、エンジンのトルク曲線上の最大トルク付近の回転速度である。
【0044】
ついで、作業者は、上述した脱穀クラッチ82が接続された状態からパワークラッチスイッチ(+)65aを、更にもう1回、押操作して、刈取りクラッチ83を接続し、エンジン45からの動力を前処理部5にも伝動可能の状態にする(図7のタイミングh)。そして、この脱穀部7及び前処理部5に動力伝達可能な状態で主変速レバー49を操作して、圃場を走行しつつ収穫作業を行う(図7のタイミングi〜j)。
【0045】
なお、収穫作業時の間、エンジン回転速度は、エンジン制御マイコン71によって、主変速レバー49の操作とは独立して上記作業切替ダイヤル60の設定位置に基づいた回転速度に自動的に制御され、例え、作業負荷が増大してもその回転速度がほとんど変動しないように制御される。
【0046】
また、作業者は、収穫作業時に畦際の未刈地を手刈すると、作業切替ダイヤル60を手扱ぎ位置に変更する(図7のタイミングj)。すると、マイコン70は、脱穀・刈取りクラッチ制御モータ77を作動させ、刈取りクラッチ83を切断すると共に、搬送HSTの回転速度を最高回転速度よりも低い手扱ぎ回転速度にする。
【0047】
更に、マイコン70は、フィードチェン6が設けられている機体の一方側(本実施形態では機体左側)の車高シリンダ86を縮ませて機体3を左側に傾ける。作業者は、この状態でフィードチェン6に穀稈を供給して手扱ぎ作業を行う(図7のタイミングj〜k)。
【0048】
一方、上述した通常の穀粒の収穫作業の後に、種子用の穀粒を収穫する場合、作業者は、作業切替ダイヤル60を種子位置に設定する(図7のタイミングk)。マイコン70は、作業切替ダイヤル60が手扱ぎ位置から種子位置へ切替えられたことを検知すると、手扱ぎ作業モードから種子収穫モードとなり、左車高シリンダ86を元の最上げ位置に復帰させると共に、エンジン制御マイコン71に電気指令を出力してエンジン45の回転速度を種子回転速度とする(図7のタイミングk〜l)。なお、種子回転速度とは、定格回転速度よりも低く、かつアイドリング回転速度よりも高い回転速度であり、種子を損傷させずに収穫作業が可能な回転速度である。
【0049】
[積載モード]
また、収穫作業が終わり、コンバイン1を搬送車輌に積み込む際には、作業者は、作業切替ダイヤル60を積載モードに対応した積載位置へと切替えて、制御部74を積載モードとする(図7のタイミングl)。制御モードが積載モードに切替ると、マイコン70は、ナローガイド20を収納姿勢にすると共に、車高を際下げ位置に設定する。また、前処理部5を最上昇位置に上昇させると共に、エンジン45の回転速度を設定低回転速度まで減速する。なお、この設定低回転速度(設定回転速度)とは、アイドリング回転速度近傍の回転速度であり、上述した定格回転速度や、種子回転速度及び手扱ぎ回転速度が設定される収穫作業に使用可能な回転速度域よりも低い回転速度に設定される。
【0050】
そして、作業者は、この状態でコンバイン1を搬送車輌に積み込み、作業を終了する。また、この積載モードは、コンバイン1の積載作業だけでなく、畦の傾斜のきつい圃場へ進入する際などに設定されても良い。
【0051】
ついで、収穫作業時の制御モードについて詳しく説明をする。
【0052】
[稲収穫モード]
作業者は、コンバイン1の運転操作部11に乗込むと、まず、収穫する穀粒に応じて作業切替ダイヤル60を稲位置に合わせ、制御部を稲収穫モードに切替えてからエンジン45を始動する(図8のタイミングm)。
【0053】
そして、作業を開始するにあたり、パワークラッチスイッチ(+)65aを押操作すると、マイコン70は、脱穀・刈取クラッチ制御モータ77を駆動して脱穀クラッチ82を接続し、エンジン45からの動力を脱穀部7に伝動可能な状態にすると共に、選別フィン制御モータ78を駆動させて選別フィン30aを稲標準の開度にする(図8のタイミングn〜o)。
【0054】
また、マイコン70は、上記脱穀クラッチ82を接続すると、エンジン制御マイコン71に電気指令を出力してエンジンの回転速度を定格回転速度にする(図8のタイミングn〜o)。なお、この定格回転速度は、作業時に使用される回転速度であり、エンジンのトルク曲線上の最大トルク付近の回転速度である。
【0055】
[麦収穫モード]
一方、麦を収穫する際には、作業者は、運転操作部に乗込むと、まず、作業切替ダイヤルを麦位置に合わせ、制御部を麦収穫モードに切替えてからエンジンを始動する(図8のタイミングp)。
【0056】
そして、作業を開始するにあたり、パワークラッチスイッチ(+)65aを押操作すると、上記稲作業時と同様に、マイコン70は、脱穀・刈取クラッチ制御モータ77を駆動して脱穀クラッチ82を接続し、エンジン45からの動力を脱穀部7に伝動可能な状態にすると共に、選別フィン制御モータ78を駆動させて選別フィン30aを麦標準の開度にする(図8のタイミングq〜r)。
【0057】
また、マイコン70は、上記脱穀クラッチ82を接続すると、エンジン制御マイコン71に電気指令を出力してエンジン45の回転速度を定格回転速度にする(図8のタイミングq〜r)。
【0058】
[種子収穫モード]
また、種子用の穀粒を収穫する際には、作業者は、運転操作部11に乗込むと、まず、作業切替ダイヤル60を種子位置に合わせ、制御部を種子収穫モードに切替えてからエンジン45を始動する(図8のタイミングs)。
【0059】
そして、作業を開始するにあたり、パワークラッチスイッチ(+)65aを押操作すると、上記稲及び麦作業時と同様に、マイコン70は、脱穀・刈取クラッチ制御モータ77を駆動して脱穀クラッチ82を接続し、エンジン45からの動力を脱穀部7に伝動可能な状態にすると共に、選別フィン制御モータ78を駆動させて選別フィン30aを種子標準の開度にする(図8のタイミングt〜u)。
【0060】
更に、マイコン70は、上記脱穀クラッチ82を接続すると、エンジン制御マイコン71に電気指令を出力してエンジン45の回転速度を種子回転速度にする(図8のタイミングt〜u)。
【0061】
なお、上記種子回転速度は、定格回転速度よりも低く、かつアイドリング回転速度よりも高い回転速度であり、種子を損傷させずに収穫作業が可能な回転速度に設定される。
【0062】
また、上記選別フィン30aの開度は、全開位置>種子標準位置>稲標準位置>麦標準位置>全閉位置の順番で小さくなるように設定されており、種子用の穀粒を収穫する場合、発芽率を出来る限り高めるため、選別フィン30aを開き側に設定して選別よりも損傷率の少なさを優先している。即ち、選別フィン30aの開度を大きくすることによって、出来る限り穀粒を1番ラセン32に落としてグレンタンク12に回収し、2番ラセン33及び還元ラセン35によって排塵選別室内に還流する間に穀粒が損傷することを最小限に留めている。
【0063】
なお、脱穀クラッチ82が接続された状態で、パワークラッチスイッチ(−)65bが押操作されると、選別フィン30aのフィン開度は維持されたまま、エンジン45の回転速度だけアイドリング回転速度となり、イグニッションキー46が切位置にされるとエンジン45が停止すると共に、フィン開度も全閉位置となる(図8のタイミングo〜p、タイミングr〜s、タイミングu)。
【0064】
ついで、作業者は、上述した脱穀クラッチ82が接続された状態からパワークラッチスイッチ(+)65aを、更にもう1回、押操作して、刈取りクラッチ82を接続し、エンジン45からの動力を前処理部5にも伝動可能の状態にする。そして、この脱穀部7及び前処理部5に動力伝達可能な状態で主変速レバー49を操作して、圃場を走行しつつ収穫作業を行う。
【0065】
なお、刈取りクラッチ83が接続されても上記フィン開度及びエンジン回転速度は、作業切替ダイヤル60の設定に応じた位置に保持されると共に、エンジン回転速度は、エンジン制御マイコン71によって、上記作業切替ダイヤル60の設定位置に基づいた回転速度に自動的に制御され、例え、作業負荷が増大してもその回転速度がほとんど変動しないように制御される。
【0066】
上述したように、制御部74の制御モードに積載モードを設け、積載モード時には、自動的に制御部74が、エンジン45の回転速度を作業時には使用することができない回転速度域である設定低回転速度に設定すると共に、コンバイン1を非収穫作業状態にすることによって、作業者は、これらの設定を手動で行う必要がなく、作業効率が向上する。また、これらの事前設定を作業者が忘れることも防止することができる。
【0067】
更に、エンジンの回転速度が非常に低い回転速度域に設定されるため、万が一、作業者が主変速レバー49を増速側に誤操作したとしても、エンジン45の回転速度が低すぎて走行HSTの効率が低下し、コンバイン1が突然に加速するようなことがない。
【0068】
また、制御部74の制御モードをコンバイン1の行う作業に応じて切替える作業切替ダイヤル60を、ダイヤル式にしたことにより、容易に制御部74の制御モードを切替えることができると共に、作業切替ダイヤル60にコンバインが切替える品種に応じて、稲位置、麦位置、種子位置などの複数の収穫対象設定位置を設けたことによって、制御部74が作業の種類だけでなく収穫する穀粒の種類を判別可能となった。
【0069】
これにより、制御部74は、穀粒の種類に応じた稲収穫モード、麦収穫モード、種子収穫モードなどの複数の制御モードを有することができ、エンジン45の回転速度や選別フィン30aの開度などを、穀粒の種類に応じて設定することができる。また、自動制御モードを解除することによって、作業切替ダイヤルの目盛り位置に応じて手動でエンジン45の回転速度を調節することができるため、必要に応じて作業者はエンジン45の回転速度を任意の速度に設定することができる。
【0070】
また、作業機切替ダイヤル60の作業及び品種設定の機能を、エンジン回転速度の調整ダイヤルと兼用したことによって、選別フィン30aの開度を、作業機切替ダイヤル60により設定された穀粒に応じた標準位置から、選別ダイヤル61によって微調整することができると共に、部品点数を低減してコスト削減を行うことができる。なお、この品種設定機能は、選別ダイヤル61に付与しても良く、その場合には、エンジン回転速度を、穀粒の種類から微調整することができる。
【0071】
なお、本実施形態では、自脱式のコンバインについて説明したが、当然に汎用コンバインに対して本発明を適用しても良いと共に、汎用コンバインの場合には、大豆など豆類用に上記作業切替ダイヤル60に大豆位置を設けても良い。この大豆位置の場合、大豆などの穀粒は損傷を受けやすいため、エンジンの回転速度は、種子用の回転速度よりも更に低い大豆回転速度に設定されると共に、選別フィン30aは種子時と同様に設定される。
【0072】
また、本実施形態では作業切替ダイヤル60をダイヤル式の入力装置としたが、スイッチなどどのような入力装置にしても良いと共に、走行装置としてハーフクローラや走行車輪などのどのような形式を採用しても良い。
【符号の説明】
【0073】
1 コンバイン
2 走行装置
3 機体
5 前処理部
45 エンジン
60 作業設定手段(作業切替ダイヤル)
74 制御部(マイコン,エンジン制御マイコン)
92 車高調整手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行装置に支持された機体と、前記機体の前方に昇降自在に設けられた前処理部と、前記機体に搭載されたエンジンの回転速度を制御する複数の制御モードを有する制御部と、を備えたコンバインにおいて、
前記制御部の制御モードを、前記コンバインの行う作業の種類に応じて切替える作業設定手段を備え、
前記制御部は、前記エンジンの回転速度を、収穫作業に使用可能な回転速度域よりも低い設定回転速度に設定する積載モードを有してなる、
ことを特徴とするコンバイン。
【請求項2】
前記機体の車高を昇降する車高調整手段を備え、
前記制御部は、前記積載モードの際に、前記機体の車高を、前記車高調整手段により最下げ位置に設定してなる、
請求項1記載のコンバイン。
【請求項3】
前記制御部は、前記積載モードの際に、前記前処理部を最上昇位置に設定してなる、
請求項1又は2記載のコンバイン。
【請求項4】
前記作業設定手段は、前記積載モードに対応した積載位置と、収穫する穀粒の種類に応じた複数の収穫対象設定位置と、を備え、
前記制御部は、前記収穫する穀粒の種類に応じて前記エンジンの回転速度を変更する複数の制御モードを有してなる、
請求項1乃至3記載のコンバイン。
【請求項5】
前記作業設定手段は、ダイヤル式の入力装置であり、
前記制御部は、前記作業設定手段のダイヤルの開度に応じて手動で前記エンジンの回転速度を設定するマニュアル設定モードを有してなる、
請求項4記載のコンバイン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−193764(P2011−193764A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−62419(P2010−62419)
【出願日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【出願人】(000001878)三菱農機株式会社 (1,502)
【Fターム(参考)】