説明

スタビライザー装置

【課題】簡素な構造でロール抑制機能を有効又は無効に切替可能とする。
【解決手段】スタビライザーバー22において、車体に回動自由に軸支されつつ車幅方向に延びる2分割構造の第1部材22Aの分割箇所には、内周面が多角形状をなす有底円筒形状のカップリング28Aが一体化される。そして、左右のカップリング28Aには、軸方向にスライドするスライド部材28Bが内挿される。スライド部材28Bは、カップリング28Aの内周面に相対回転不能に嵌合する角柱部Aと、カップリング28Aの内周面に内接する内接円より小径の円柱部Bと、これらを滑らかに連結する移行部Cと、を有する。また、カップリング28には、スライド部材28Bを円柱部Bの方向に付勢するコイルバネ28C、及び、エアの供給を受けてスライド部材28Bを角柱部Aの方向に押圧するベロース28Dが配設される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車体のロールを抑制するスタビライザー装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両旋回時の操安性などを向上させるために、左右のサスペンションを略コ字状のバネ鋼で連結することで、バネ鋼の捩れによる反力を利用してロールを抑制するスタビライザー装置が知られている。スタビライザー装置においては、例えば、車両が悪路を走行したときにもロール抑制機能が発揮されてしまい、乗心地を低下させてしまうおそれがある。このため、ロール抑制機能を有効又は無効に切替可能とすべく、特表2010−509124号公報(特許文献1)に記載されるように、左右のスタビライザーバーをクラッチ機構で断接するものが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2010−509124号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来技術におけるスタビライザー装置は、左右のスタビライザーバーを断接するクラッチ機構が複雑であるため、重量及びコストなどの増加を招いてしまうおそれがあった。また、従来技術におけるスタビライザー装置では、クラッチ機構が大型化し、その搭載レイアウトなどに苦労するおそれもあった。
そこで、本発明は従来技術の問題点に鑑み、軽量、安価かつ小型でありながら、ロール抑制機能を有効又は無効に切替可能なスタビライザー装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
このため、スタビライザー装置は、車体に対して回動自由に軸支されつつ車幅方向に延びる2分割構造の第1部材、及び、前記第1部材の車幅外方に位置する端部から車体前後方向に延びてサスペンションのばね下構造体に連結される左右一対の第2部材を有するスタビライザーバーと、前記第1部材の分割箇所を相対回転不能に連結する連結位置、及び、前記第1部材の分割箇所を相対回転可能に分離する分離位置の間でスライドするスライド部材と、前記スライド部材を連結位置又は分離位置にスライドさせるスライド機構と、を有する。
【発明の効果】
【0006】
スライド機構によりスライド部材を連結位置にスライドさせれば、第1部材の分割箇所が相対回転不能に連結されるため、スタビライザーバーによるロール抑制機能が有効になり、操安性を向上させることができる。また、スライド機構によりスライド部材を分離位置にスライドさせれば、第1部材の分割箇所が相対回転可能に分離されるため、スタビライザーバーによるロール抑制機能が無効になり、乗心地を向上させることができる。そして、スライド部材をスライドさせることでロール抑制機能が有効又は無効に切替可能であるため、軽量、安価かつ小型のスタビライザー装置を構築することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】スタビライザー装置が組み込まれたフロントサスペンションの概要図
【図2】断接装置によりスタビライザーバーが連結された状態の要部断面図
【図3】スライド部材の詳細を示す斜視図
【図4】断接装置によりスタビライザーバーが分離された状態の要部断面図
【図5】圧電素子の配設状態の説明図
【図6】制御プログラムの一例を示すフローチャート
【図7】他の断接装置によりスタビライザーバーが連結された状態の説明図
【図8】他の断接装置によりスタビライザーバーが分離された状態の説明図
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、添付された図面を参照し、本発明を実施するための実施形態について詳細に説明する。
図1は、スタビライザー装置が組み込まれたフロントサスペンションの一例を示す。
車体フレームを構成する左右一対のサイドレール(図示せず)の下方には、スプリングブラケット10を介してリーフスプリング12の前端が回動可能に固定される一方、シャックル14及びスプリングブラケット16を介してリーフスプリング12の後端が回動可能に固定される。また、リーフスプリング12の中間をフロントアクスル(図示せず)に連結する連結部材18(ばね下構造体)には、ショックアブソーバ20の下端が固定される。左右の連結部材18は、略コ字状をなすバネ鋼であるスタビライザーバー22により連結される。スタビライザーバー22は、車幅方向に延びる2分割構造の第1部材22Aと、第1部材22Aの車幅外方に位置する端部から車体前後方向に延びて連結部材18に連結される左右一対の第2部材22Bと、を有する。第1部材22Aの中間は、車体フレームに固定されたブラケット24から垂下された左右一対の支持部材26により回動自由に軸支される。ここで、スタビライザーバー22の第1部材22Aは、左右の捩じり特性が略等しくなるように、左右一対の支持部材26の間であって、車幅の中央で2分割されている。
【0009】
スタビライザーバー22における第1部材22Aの分割箇所には、その左右に位置する第1部材22Aを連結又は分離する断接装置28が配設される。
断接装置28は、図2に示すように、第1部材22Aの端部に一体化された有底円筒形状のカップリング28Aと、左右のカップリング28A内を軸方向にスライドするスライド部材28Bと、を有する。カップリング28Aの内周面は、多角形断面、例えば、正六角形断面をなす。スライド部材28Bは、図3に示すように、カップリング28Aの内周面と相対回転不能に嵌合する多角柱形状の角柱部Aと、カップリング28Aの内周面に内接する内接円よりも小径の円柱形状の円柱部Bと、角柱部Aから円柱部Bへと断面が徐々に変化する移行部Cと、を有する。
【0010】
スライド部材28Bの角柱部A側が嵌合するカップリング28Aには、スライド部材28Bを円柱部Bの方向に付勢する、弾性体の一例としてのコイルバネ28Cが配設される。また、スライド部材28Bの円柱部B側が嵌合するカップリング部材28Aには、スライド部材28Bを角柱部Aの方向に押圧する、アクチュエータの一例としてのベローズ28Dが配設される。断接装置28のベローズ28Dには、エアリザーバタンク30から作動流体としてのエアが供給される。エアリザーバ30からベローズ28Dへのエア供給、又は、ベローズ28Dから大気中へのエア放出を行なうために、エアリザーバ30とベローズ28Dとを連通接続するエア配管32に電磁弁34が配設される。ここで、コイルバネ28C及びベローズ28Dが、スライド機構の一例として挙げられる。
【0011】
そして、図2に示すように電磁弁34を制御すると、ベロース28Dから大気中へとエアが放出される一方、コイルバネ28Cによりスライド部材28Bが円柱部Bの方向に付勢されるため、スライド部材28Bが図中の左方へとスライドする。スライド部材28Bが左方へとスライドすると、その角柱部Aが左右のカップリング28Aに嵌合し、左右の第1部材22Aが相対回転不能に連結される。ここで、図2に示すスライド部材28Bの位置が「連結位置」である。このとき、スライド部材28Bの中間が角柱部Aから円柱部Bへと徐々に断面が変化する移行部Cとなっているので、スライド部材28Bを連結位置に円滑にスライドさせることができる。
【0012】
また、図4に示すように電磁弁34を制御すると、エアリザーバ30からベローズ28Dへとエアが供給され、コイルバネ28Cの付勢力に抗してスライド部材28Bが図中右方へとスライドする。スライド部材28Bが右方へとスライドすると、左方のカップリング28Aからスライド部材28Bの角柱部Aが抜け出るので、その内接円よりも小径の円柱部Bが嵌合することとなる。この状態では、カップリング28Aとスライド部材28Bの円柱部Bとは相対回転可能であるため、左右の第1部材22Aが分離される。ここで、図4に示すスライド部材28Bの位置が「分離位置」である。
【0013】
断接装置28を電子制御するために、ステアリングシャフト36の下端に連結されたステアリングギヤ38には、操舵角θを検出するための操舵角センサ40(操舵角検出手段)が取り付けられる。また、左右のリーフスプリング12には、サスペンションに作用する荷重又はこれに関連する状態量を測定するセンサの一例として、リーフに作用する荷重に比例する電圧Vを発生させるピエゾ素子などの圧電素子42が取り付けられる。圧電素子42は、図5に示すように、リーフスプリング12を構成する2つのリーフL1及びL2の間に介在される、フィルム状の素子である。ここでは、右のリーフスプリング12に配設された圧電素子42で発生した電圧をVR、左のリーフスプリング12に配設した圧電素子42で発生した電圧をVLと表すこととする。
【0014】
そして、操舵角センサ40、左右の圧電素子42からの出力信号は、コンピュータを内蔵したコントロールユニット44に入力される。コントロールユニット44は、ROM(Read Only Memory)などの不揮発性メモリに記憶された制御プログラムを実行することで、操舵角θ並びに電圧VR及びVLに応じて断接装置28を電子制御する。
図6は、エンジン始動を契機として、コントロールユニット44が所定時間ごとに繰り返し実行する制御プログラムの一例を示す。なお、コントロールユニット44が制御プログラムを実行することで、制御手段の一例が具現化される。
【0015】
ステップ1(図では「S1」と略記する。以下同様。)では、コントロールユニット44が、操舵角センサ40から操舵角θを読み込む。
ステップ2では、コントロールユニット44が、操舵角が第1の所定値a以下であるか否かを判定する。ここで、第1の所定値aは、スタビライザーバー22の左右の第1部材22Aを分離すべきか否かを判定するための閾値であって、例えば、所定角度よりも大きなロールが発生するコーナの曲率に応じた値をとる。そして、コントロールユニット44は、操舵角θが第1の所定値a以下であると判定すれば処理をステップ3へと進める一方(Yes)、操舵角θが第1の所定値aより大きいと判定すれば処理をステップ7へと進める(No)。
【0016】
ステップ3では、コントロールユニット44が、左右の圧電素子42から電圧VR及びVLを読み込む。
ステップ4では、コントロールユニット44が、左右の電圧の偏差ΔV、即ち、偏差ΔV=|VR−VL|を算出する。ここで、ステップ3及びステップ4の処理が、ストローク差検出手段の一例として挙げられる。
【0017】
ステップ5では、コントロールユニット44が、電圧の偏差ΔVが第2の所定値bより大きいか否かを判定する。ここで、第2の所定値bは、車両が悪路を走行しているか否かを判定するための閾値であって、例えば、悪路走行により左右のサスペンションに発生するストローク差に応じた値をとる。そして、コントロールユニット44は、電圧の偏差ΔVが第2の所定値bより大きいと判定すれば処理をステップ6へと進める一方(Yes)、電圧の偏差ΔVが第2の所定値以下であると判定すれば処理をステップ7へと進める(No)。
【0018】
ステップ6では、コントロールユニット44が、スタビライザーバー22の左右の第1部材22Aを分離すべく、ベローズ28Dから大気中にエアが放出されるように電磁弁34を制御する。これにより、ロール抑制機能がOFF(無効)になる。
ステップ7では、コントロールユニット44が、スタビライザーバー22の左右の第1部材22Aを連結すべく、エアリザーバ30からベローズ28Dにエアが供給されるように電磁弁34を制御する。これにより、ロール抑制機能がON(有効)になる。
【0019】
このようなスタビライザー装置によれば、操舵角θが第1の所定値a以下であり、かつ、左右の圧電素子42の電圧の偏差ΔVが第2の所定値bより大きいときには、スタビライザーバー22の左右の第1部材22Aが分離される。このため、車両が略直進状態であるときに、左右のサスペンションにストローク差が生じる悪路を走行していれば、スタビライザーバー22によるロール抑制機能が無効となることから、悪路走行における乗心地を向上させることができる。
【0020】
また、操舵角θが第1の所定値aより大きいとき、又は、電圧の偏差ΔVが第2の所定値b以下であるときには、スタビライザーバー22の左右の第1部材22Aが連結される。このため、車両が旋回状態であるとき、又は、車両が平坦路を走行しているときには、スタビライザーバー22によるロール抑制機能が有効となることから、操安性を向上させることができる。
【0021】
さらに、断接装置28は、スライド部材28Bをスライドさせることでロール抑制機能が有効又は無効に切替可能であるため、電磁クラッチに比べて簡素な構造となり、軽量、安価かつ小型なものとすることができる。
断接装置28としては、図7及び図8に示すように、スタビライザーバー22における左右の第1部材22Aの分割箇所に軸方向に延びるスプライン28Eを形成し、内周面にスプラインが形成されたスリーブ形状のスライド部材28Fをスライド可能に嵌合するようにしてもよい。この場合、スライド部材28Fは、例えば、アクチュエータの一例としてのエアシリンダ28Gによりスライドする。また、左右の第1部材22Aの端部、及び、スライド部材28Fの端部は、両者の多少のずれを吸収しつつ嵌合させるため、図8に示すように、いわゆる「チャンファ形状」となっていることが望ましい。ここで、エアシリンダ28Gが、スライド機構の他の例として挙げられる。
【0022】
さらに、断接装置28を作動させるアクチュエータとしては、ベローズ28D又はエアシリンダ28Gに限らず、例えば、電磁力によって鉄心が移動するソレノイド、モータとボールネジからなる直線駆動機構などを採用することができる。
本発明は、リーフスプリング12を用いたサスペンションに限らず、コイルバネ、エアバネなどを用いたサスペンションにも適用可能である。また、本発明は、フロントサスペンションに限らず、リヤサスペンションにも適用可能である。
【符号の説明】
【0023】
18 連結部材
22 スタビライザーバー
22A 第1部材
22B 第2部材
28 断接装置
28A カップリング
28B スライド部材
28C コイルバネ
28D ベローズ
28E スプライン
28F スライド部材
28G エアシリンダ
40 操舵角センサ
42 圧電素子
44 コントロールユニット
A 角柱部
B 円柱部
C 移行部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体に対して回動自由に軸支されつつ車幅方向に延びる2分割構造の第1部材、及び、前記第1部材の車幅外方に位置する端部から車体前後方向に延びてサスペンションのばね下構造体に連結される左右一対の第2部材を有するスタビライザーバーと、
前記第1部材の分割箇所を相対回転不能に連結する連結位置、及び、前記第1部材の分割箇所を相対回転可能に分離する分離位置の間でスライドするスライド部材と、
前記スライド部材を連結位置又は分離位置にスライドさせるスライド機構と、
を有することを特徴とするスタビライザー装置。
【請求項2】
前記スタビライザーバーの第1部材は、車幅の中央で2分割されていることを特徴とする請求項1記載のスタビライザー装置。
【請求項3】
操舵角を検出する操舵角検出手段と、
前記サスペンションの左右のストローク差を検出するストローク差検出手段と、
前記操舵角検出手段により検出された操舵角が第1の所定値以下、かつ、前記ストローク差検出手段により検出されたストローク差が第2の所定値より大きいときに、前記スライド部材が分離位置にスライドする一方、それ以外のときに、前記スライド部材が連結位置にスライドするように、前記スライド機構を制御する制御手段と、
を更に有することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のスタビライザー装置。
【請求項4】
前記左右のサスペンションに作用する荷重又はこれに関連する状態量を測定するセンサを更に有し、
前記ストローク差検出手段は、前記センサにより測定された信号の偏差からストローク差を検出することを特徴とする請求項3記載のスタビライザー装置。
【請求項5】
前記第1部材の分割箇所には、内周面が多角形断面をなすカップリングが一体化され、
前記スライド部材の一端は、前記カップリングの内周面に相対回転不能に嵌合する角柱部に形成される一方、前記スライド部材の他端は、前記カップリングの内周面に内接する内接円よりも小径の円柱部に形成されたことを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか1つに記載のスタビライザー装置。
【請求項6】
前記スライド部材の中間は、前記角柱部から円柱部へと徐々に断面が変化する移行部となっていることを特徴とする請求項5記載のスタビライザー装置。
【請求項7】
前記スライド機構は、
前記スライド部材を円柱部の方向に付勢する弾性体と、
前記スライド部材を角柱部の方向に押圧するベローズと、
を有することを特徴とする請求項5又は請求項6に記載のスタビライザー装置。
【請求項8】
前記第1部材の分割箇所には、軸方向に延びるスプラインが形成され、
前記スライド部材は、前記第1部材のスプラインに嵌合する、内周面にスプラインが形成されたスリーブ形状をなしていることを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか1つに記載のスタビライザー装置。
【請求項9】
前記第1部材のスプライン端部、及び、前記スライド部材のスプライン端部は、夫々、チャンファ形状をなしていることを特徴とする請求項8記載のスタビライザー装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−121344(P2012−121344A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−271231(P2010−271231)
【出願日】平成22年12月6日(2010.12.6)
【出願人】(000003908)UDトラックス株式会社 (1,028)
【Fターム(参考)】