説明

ステアバイワイヤ式操舵装置

【課題】 動力伝達機構での動力の伝達・切り離しを短時間かつ確実に行うことができるステアバイワイヤ式操舵装置を提供する。
【解決手段】 転舵用の操舵軸10と機械的に連結されないステアリングホイールと、操舵角センサと、操舵反力モータと、操舵軸駆動用モータおよび操舵反力モータを制御するステアリング制御部とを備える。操舵軸駆動用モータ6から操舵軸10に動力を伝達する動力伝達機構18を設け、その途中に、動力の伝達・切り離しを行う切換手段17を設ける。切換手段17は、軸方向に並べられ軸方向移動可能かつ相対回転可能な入力部材38および出力部材37,21Bと、これら両部材の一方に設けられたクラッチ溝21Baと、両部材の他方に設けられ軸方向移動によりクラッチ溝21Baに径方向に付勢されて係脱するクラッチ転動体54とを有するクラッチ機構51を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、転舵用の操舵軸と機械的に連結されていないステアリングホイールで操舵を行うようにしたステアバイワイヤ式操舵装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種のステアバイワイヤ式操舵装置において、スプラインを有する軸部材を軸方向に移動させることで、動力伝達機構における動力の伝達を切り換えるように構成したものが提案されている(特許文献1)。すなわち、この場合のスプライン係合機構では、外周面に雄スプライン歯を有する軸部材と、内周面に雌スプライン歯を有し前記軸部材に外嵌する筒部材とを、軸方向に相対移動させて雄スプライン歯と雌スプライン歯を係脱させることで、動力の伝達・切断を行っている。
【0003】
また、スプライン係合では、雄スプライン歯と雌スプライン歯を係合させる際の位相合わせが必要であるが、その係合を円滑に行わせる対策として、各スプライン歯の端部に位相案内部として先細り部を設けるものが提案されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特願2009−006254号
【特許文献2】特開2005−205923号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に示されるスプライン係合機構において、軸部材の雄スプライ歯と筒部材の雌スプライン歯を係合させる際には、両スプライン歯の位相が合わないと係合できず、位相合わせを行う必要がある。
また、特許文献2に示されるように、雄スプライン歯や雌スプライン歯の端部に位相案内部として先細り部を設けた場合でも、両スプライン歯を短時間で確実に係合させることは難しい。
【0006】
この発明の目的は、動力伝達機構での動力の伝達・切り離しを短時間かつ確実に行うことができるステアバイワイヤ式操舵装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明のステアバイワイヤ式操舵装置は、転舵用の操舵軸と機械的に連結されていないステアリングホイールと、このステアリングホイールの操舵角を検出する操舵角センサと、前記ステアリングホイールに反力トルクを付与する操舵反力モータと、この操舵反力モータおよび前記操舵軸を駆動する操舵軸駆動用モータを制御するステアリング制御部とを備え、前記操舵角センサの検出する操舵角の信号を含む運転状態検出信号に基づいて前記操舵軸駆動用モータを前記ステアリング制御部で制御するようにしたステアバイワイヤ式操舵装置において、前記操舵軸駆動用モータから前記操舵軸に動力を伝達する動力伝達機構を設けると共に、動力伝達機構の途中に、動力を伝達する状態と遮断する状態とに切り換える切換手段を設け、この切換手段は、軸方向に並べられ互いに端部が接触して軸方向に移動可能かつ相対回転可能な入力部材および出力部材と、これら入力部材および出力部材の一方に軸方向に延びて設けられたクラッチ溝と、前記入力部材および出力部材の他方に設けられ入力部材および出力部材の軸方向移動により前記クラッチ溝に径方向に弾性体により付勢されて係脱するクラッチ転動体とを有するクラッチ機構を備えることを特徴とする。
この構成によると、入力部材と出力部材の間での連結・切り離しの切換動作を、クラッチ溝へのクラッチ転動体の係脱を行うクラッチ機構を用いて行うようにしているので、クラッチ転動体の位相とクラッチ溝の位相が一致したところで、クラッチ溝へクラッチ転動体が係合することになる。そのため、切換動作において位相を揃える必要がなく、時間を短縮して確実に切換動作を行うことができる。
【0008】
この発明において、前記入力部材および出力部材のいずれか一方の部材が軸部材であり、他方の部材が、軸部材とこの軸部材に対して一体に回転可能に結合されかつ前記一方の部材の外周に軸方向相対移動自在に嵌合する嵌合孔を有する部材とでなるものとしても良い。
【0009】
この発明において、前記動力伝達機構として、前記操舵軸駆動用モータの1つである転舵モータから前記操舵軸に動力を伝達して転舵を行なわせる転舵動力伝達機構とは別に、前記操舵軸駆動用モータの他の1つであるトー角調整用モータから前記操舵軸に動力を伝達してトー角調整を行なわせるトー角調整動力伝達機構を設け、前記転舵モータが失陥したとき、前記切換手段のクラッチ機構によって前記トー角調整用モータの動力を転舵動力伝達機構に伝達し、トー角調整用モータで転舵を行うものとしても良い。
この構成によると、転舵モータ、およびこの転舵モータから操舵軸に動力を伝達して転舵を行わせる転舵動力伝達機構とは別に、トー角調整用モータと、このトー角調整用モータから操舵軸に動力を伝達してトー角調整を行わせるトー角調整動力伝達機構を設けており、転舵モータが失陥したとき、前記切換手段のクラッチ機構によって前記トー角調整用モータの動力を転舵動力伝達機構に伝達し、トー角調整用モータで転舵を行う。そのため、車輪を転舵する転舵モータが失陥しても、トー角調整用モータを転舵の駆動源に転用して転舵を行うことができる。また、転舵モータが正常である場合にも、トー角調整用モータは車輪のトー角を調整する駆動源として働くので、転舵モータが失陥したときだけ動作させる補助モータを設ける従来例の場合に比べて経済的な構成とすることができる。
【0010】
この発明において、前記切換手段は前記クラッチ機構と同じ構成であって前記出力部材材が装置ハウジングに対して回転不能で軸方向に移動自在に支持された第2のクラッチ機構を有し、トー角調整用モータで転舵を行うとき、前記切換手段の第2のクラッチ機構によって、前記トー角調整動力伝達機構を固定するものとしても良い。
【0011】
この発明において、前記クラッチ機構における入力部材および出力部材のうち前記クラッチ溝が設けられた部材には、クラッチ溝と軸方向に隣接して部材中心軸と同軸心の断面円形の非溝面が設けられ、外力により入力部材および出力部材が軸方向に移動して、前記非溝面に対向する軸方向位置に前記クラッチ転動体が位置するとき入力部材から出力部材への動力伝達が遮断され、前記クラッチ溝に対向する軸方向位置に前記クラッチ転動体が位置するときクラッチ転動体がクラッチ溝に係合して入力部材から出力部材への動力伝達が可能となるものとしても良い。
【0012】
この発明において、前記クラッチ機構における入力部材および出力部材のうち前記クラッチ溝が設けられた部材には、クラッチ溝と軸方向に隣接して軸受が設けられ、外力により入力部材および出力部材が軸方向に移動して、前記軸受の軌道輪周面に対向する軸方向位置に前記クラッチ転動体が位置するとき入力部材から出力部材への動力伝達が遮断され、前記クラッチ溝に対向する軸方向位置に前記クラッチ転動体が位置するときクラッチ転動体がクラッチ溝に係合して入力部材から出力部材への動力伝達が可能となるものとしても良い。この場合に、前記軸受は例えば転がり軸受であっても良い。
【0013】
この発明において、前記クラッチ転動体は、ばねによって径方向に付勢されるものとしても良い。
【0014】
この発明において、前記クラッチ溝の断面形状は台形であるのが望ましい。
【0015】
この発明において、前記クラッチ溝における前記非溝面または前記軸受の軌道輪周面に隣接する端部の溝底面が、非溝面または軸受の軌道輪周面に向けてなだらかに傾斜するテーパ面とされるのが望ましい。このように、クラッチ溝の端部の溝底面をテーパ面とした場合、クラッチ溝に対するクラッチ転動体の径脱を円滑に行わせることができる。
【0016】
この発明において、前記クラッチ転動体はボールであっても良いし、ピンであっても良い。
【0017】
この発明において、前記クラッチ転動体の設置位置を軸方向に並ぶ複数位置としても良い。このようにクラッチ転動体の設置位置を複数位置とした場合、動力伝達のトルク容量を増加させることができる。
【発明の効果】
【0018】
この発明のステアバイワイヤ式操舵装置は、転舵用の操舵軸と機械的に連結されていないステアリングホイールと、このステアリングホイールの操舵角を検出する操舵角センサと、前記ステアリングホイールに反力トルクを付与する操舵反力モータと、この操舵反力モータおよび前記操舵軸を駆動する操舵軸駆動用モータを制御するステアリング制御部とを備え、前記操舵角センサの検出する操舵角の信号を含む運転状態検出信号に基づいて前記操舵軸駆動用モータを前記ステアリング制御部で制御するようにしたステアバイワイヤ式操舵装置において、前記操舵軸駆動用モータから前記操舵軸に動力を伝達する動力伝達機構を設けると共に、動力伝達機構の途中に、動力を伝達する状態と遮断する状態とに切り換える切換手段を設け、この切換手段が、軸方向に並べられ互いに端部が接触して軸方向に移動可能かつ相対回転可能な入力部材および出力部材と、これら入力部材および出力部材の一方に軸方向に延びて設けられたクラッチ溝と、前記入力部材および出力部材の他方に設けられ入力部材および出力部材の軸方向移動により前記クラッチ溝に径方向に弾性体により付勢されて係脱するクラッチ転動体とを有するクラッチ機構を備えるものとしたため、動力伝達機構での動力伝達と遮断の切り換えを短時間にかつ確実に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】この発明の一実施形態にかかるステアバイワイヤ式操舵装置の概略構成を示すブロック図である。
【図2】同ステアバイワイヤ式操舵装置における操舵軸駆動部の正常動作時の断面図である。
【図3】同操舵軸駆動部における転舵モータ失陥時の断面図である。
【図4】(A)図2のIV部分の拡大断面図であって、同操舵駆動部における正常動作時の状態を示し、(B)は同部分におけるクラッチ機構を示す拡大断面図である。
【図5】(A)は図2のV部分の拡大断面図であって、同操舵駆動部における正常動作時の状態を示し、(B)は同部分におけるクラッチ機構の拡大断面図である。
【図6】(A)は図4(A)と同部分における転舵モータ失陥時の部分拡大断面図、(B)は同部分におけるクラッチ機構の拡大断面図である。
【図7】(A)は図5(A)と同部分における転舵モータ失陥時の部分拡大断面図、(B)は同部分におけるクラッチ機構の拡大断面図である。
【図8】(A)は同実施形態のステアバイワイヤ式操舵装置におけるクラッチ機構を応用した提案例におけるクラッチ離脱状態を示す部分拡大断面図、(B)は同部分におけるクラッチ機構の拡大断面図である。
【図9】(A)は同提案例でのクラッチ結合状態を示す部分拡大断面図、(B)は同部分におけるクラッチ機構の拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
この発明の一実施形態を図面と共に説明する。このステアバイワイヤ式操舵装置は、図1に概略図で示すように、運転者が操舵するステアリングホイール1と、操舵角センサ2と、操舵トルクセンサ3と、操舵反力モータ4と、左右の車輪13にナックルアーム12およびタイロッド11を介して連結された転舵用の軸方向移動自在な操舵軸10と、この操舵軸10を駆動する操舵軸駆動部14と、転舵角センサ8と、ステアリング制御部5aを含むECU(電気制御ユニット)5とを備える。ECU5およびそのステアリング制御部5aは、マイクロコンピュータおよびその制御プログラムを含む電子回路等により構成される。
【0021】
ステアリングホイール1は、転舵用の操舵軸10と機械的に連結されていない。ステアリングホイール1に対して、操舵角センサ2および操舵トルクセンサ3が設けられ、操舵反力モータ4が接続されている。操舵角センサ2は、ステアリングホイール1の操舵角を検出するセンサである。操舵トルクセンサ3は、ステアリングホイール1に作用する操舵トルクを検出するセンサである。操舵反力モータ4は、ステアリングホイール1に反力トルクを付与するモータである。
【0022】
図2は、操舵軸10を駆動する操舵軸駆動部14の正常時の詳細を断面図で示す。この操舵軸駆動部14には、操舵軸10を軸方向に移動させて車輪13の転舵を行う転舵機構15と、車輪13のトー角調整を行うトー角調整機構16と、切換手段17とが設けられている。
【0023】
前記転舵機構15は、操舵軸10を駆動する操舵軸駆動用モータの1つである転舵モータ6と、この転舵モータ6から操舵軸10に動力を伝達して転舵を行なわせる転舵動力伝達機構18とを備える。転舵モータ6は、その出力軸6aが操舵軸10と平行となる姿勢で、操舵軸駆動部14のハウジング19に支持されている。操舵軸10の一部(図2の右側部分)にはボールねじ部10aが形成されている。転舵動力伝達機構18は、転舵モータ6の出力軸6aに固定された出力ギヤ20と、操舵軸10と平行に配置された第1の中間軸37の一部にスプライン嵌合され前記出力ギヤ20に噛み合う第1の中間ギヤ21Aと、前記第1の中間軸37の他部にスプライン嵌合して取付けられる第2の中間ギヤ21Bと、前記操舵軸10のボールねじ部10aに螺合するボールナット23と、このボールナット23に固定され前記第2の中間ギヤ21Bに噛み合う入力ギヤ22とでなる。これにより、転舵モータ6の回転出力は、出力ギヤ20、第1の中間ギヤ21A、第1の中間軸37、第2の中間ギヤ21B、入力ギヤ22を経てボールナット23に伝達され、ボールナット23の回転が操舵軸10の軸方向への移動に変換されて転舵が行なわれる。
【0024】
第1の中間ギヤ21Aは転がり軸受24を介して前記ハウジング19に支持されている。第1の中間ギヤ21Aはキー25を介して第1の中間軸37に嵌合されている。また、第2の中間ギヤ21Bも第1の中間軸37にスプライン嵌合されていることから、第1の中間軸37の軸方向への移動が許容される。第2の中間ギヤ21Bは別の転がり軸受26を介して前記ハウジング19に支持されている。入力ギヤ22も、転がり軸受27を介して前記ハウジング19に支持されている。
【0025】
前記トー角調整機構16は、操舵軸10を駆動する操舵軸駆動用モータの他の1つであるトー角調整用モータ7と、このトー角調整用モータ7から操舵軸10に動力を伝達してトー角調整を行なわせるトー角調整動力伝達機構28とを備える。トー角調整用モータ7は、その出力軸7aが操舵軸10と平行となる姿勢で、操舵軸駆動部14のハウジング19に支持されている。操舵軸10の一部(図2の左側部分)にはスプライン歯10bが形成されている。トー角調整動力伝達機構28は、トー角調整用モータ7の出力軸7aに固定された出力ギヤ29と、操舵軸10と平行で前記第1の中間軸37に隣接して第1の中間軸37と同軸上に配置された第2の中間軸38の一部に嵌合され、前記出力ギヤ29に噛み合う第1の中間ギヤ31Aと、前記第2の中間軸38の他部にスプライン嵌合して取付けられる第2の中間ギヤ31Bと、前記操舵軸10のスプライン歯10bに嵌合するスプラインナット33と、このスプラインナット33に固定され前記第2の中間ギヤ31Bに噛み合う入力ギヤ32とでなる。これにより、トー角調整用モータ7の回転出力は、出力ギヤ29、第1の中間ギヤ31A、第2の中間軸38、第2の中間ギヤ31B、入力ギヤ32を経てスプラインナット33に伝達され、スプラインナット33の回転で操舵軸10が回転されて後述するトー角調整用ねじ部10cの作用で車輪13のトー角調整が行なわれる。操舵軸10のスプライン歯10bとスプラインナット33は、滑り接触しているものであっても転がり接触しているものであっても良い。第1の中間軸37と第2の中間軸38とは、互いに対向する軸端間にスラスト軸39(図4)を配置して押し当てられる。これにより、両中間軸37,38が相対回転可能となるようにされている。
【0026】
第1の中間ギヤ31Aは転がり軸受34を介して前記ハウジング19に支持されている。第1の中間ギヤ31Aはキー30を介して第2の中間軸38に嵌合され、第2の中間ギヤ31Bも第2の中間軸38にスプライン嵌合されていることから、第2の中間軸38の軸方向への移動が許容される。第2の中間ギヤ31Bは別の転がり軸受35A,35Bを介して前記ハウジング19に支持されている。入力ギヤ32も、転がり軸受36を介して前記ハウジング19に支持されている。
【0027】
トー角調整機構16は、前記トー角調整用モータ7およびトー角調整動力伝達機構28とは別に、操舵軸10の両端に形成され左右のタイロッド11がそれぞれ螺合するトー角調整用ねじ部10cを備える。これらのトー角調整用ねじ部10cは互いに逆ねじとした雌ねじ部からなり、操舵軸10の一方向への回転で左右のタイロッド11が互いに突出し、操舵軸10の他方向への回転で左右のタイロッド11が互いに後退するようにされている。トー角調整用ねじ部10cは、例えば台形ねじとされる。また、トー角調整用ねじ部10cには廻り止めが設けられていても良い。
【0028】
切換手段17は、転舵モータ6が失陥したとき、転舵モータ6を前記転舵動力伝達機構18から切り離すと共に、トー角調整動力伝達機構28を固定して、トー角調整用モータ7を駆動源として転舵を行なわせる手段である。この切換手段17は、転舵動力伝達機構18およびトー角調整動力伝達機構28の途中部分に設けられる。切換手段17は、前記第1および第2の中間軸37,38を軸方向に移動させる直動アクチュエータ42と、トー角調整用モータ7の回転出力をトー角調整動力伝達機構28から転舵動力伝達機構18へ切り換え伝達するクラッチ機構51と、トー角調整動力伝達機構28を固定する固定機構43とを備える。直動アクチュエータ42は、例えばリニアソレノイド、油圧シリンダ、またはエアシリンダからなり、その作動ロッド42aが第1の中間軸37の第2の中間軸38に押し当てられる端部とは反対側の端部に押し当てられる。第1の中間軸37と直動アクチュエータ4 2の作動ロッド42aの互いに対向する軸端間には図示しないスラスト軸受が配置され、これにより作動ロッド42aに対して第1の中間軸37が回転自在となるようにされている。
【0029】
切換手段17の前記クラッチ機構51は、図4(A)に拡大して示すように、入力部材となる前記第2の中間軸38と、出力部材となる前記第1の中間軸37およびこの中間軸37に対して一体に回転可能に結合され第2の中間軸38の外周に嵌合する嵌合孔53を有する前記第2の中間ギヤ21Bと、この中間ギヤ21Bの嵌合孔53の一部に軸方向に延びて設けられたクラッチ溝21Baと、入力部材となる前記第2の中間軸38に設けられ前記両中間軸37,38の軸方向移動により前記クラッチ溝21Baに係脱するクラッチ転動体54とを有する。クラッチ溝21Baは断面形状が台形とされる。クラッチ転動体54はボールからなり、図4(B)に断面図で示すように、第2の中間軸38に径方向に貫通して形成される収容孔55内に収容され、ばねなどの弾性体56により外径方向に付勢されている。なお、クラッチ機構51の他の構成として、クラッチ転動体54を中間ギヤ21B側に設け、クラッチ溝21Baを第2の中間軸38側に設けても良い。
【0030】
第2の中間ギヤ21Bの嵌合孔53には、クラッチ溝21Baの軸方向左側に隣接して部材中心軸であるギヤ中心軸と同心の円筒面からなる断面円形の非溝面57が設けられ、図4(A)のように前記非溝面57に対向する位置に前記クラッチ転動体54が位置するとき、第2の中間軸38から第2の中間ギヤ21Bへの動力伝達が遮断される。また、前記クラッチ溝21Baに対向する軸方向位置に前記クラッチ転動体54が位置すると、クラッチ転動体54の位相とクラッチ溝21Baの位相が一致したところで、弾性体56による外径側への付勢でクラッチ転動体54がクラッチ溝21Baに係合して第2の中間軸38から第2の中間ギヤ21Bへの動力伝達が可能となるようにされる。ここでは、第2の中間ギヤ21Bの嵌合孔53に転がり軸受58を設けることで、この転がり軸受58の回転側軌道輪の周面を前記非溝面57としている。これにより、クラッチ転動体54が非溝面57に対向する軸方向位置にある動力伝達が遮断の状態でも、第2の中間軸38に外嵌する第2の中間ギヤ21Bの回転を円滑に行わせることができる。また、クラッチ溝21Baにおける前記非溝面57に隣接する端部の溝底面は非溝面57に向けてなだらかに傾斜するテーパ面とされている。これにより、クラッチ転動体54が非溝面57に対向する位置からクラッチ溝21Baに係合するまでの動作を円滑に行わせることができる。
【0031】
クラッチ機構51の前記クラッチ溝21Baは、第1の中間軸37のスプライン歯37aがスプライン嵌合する雌スプライン歯に兼用される。この場合のスプライン嵌合を、上記したクラッチ機構51と同じ構成としても良いが、前記スプライン歯37aは後述するように嵌合状態から嵌合解除へと変化するだけで、嵌合へ移行する動作は行われないので、スプライン嵌合であっても動作の確実性に影響は及ぼさない。第2の中間ギヤ21Bの嵌合孔53には、さらにクラッチ溝21Baの軸方向右側に隣接して、前記スプライン歯37aの退避空間21Bbが設けられる。これにより、クラッチ転動体54がクラッチ溝21Baに係合して第2の中間軸38から第2の中間ギヤ21Bへの動力伝達が可能となった状態で、第2の中間ギヤ21Bは第1の中間軸37から切り離される。
【0032】
切換手段17の前記固定機構43は、ハウジング19に設けられたスプラインハブ44にスプライン嵌合し、第2の中間軸38に隣接して第1および第2の中間軸37,38と同軸上に配置される第3の中間軸45と、この第3の中間軸45を第2の中間軸38を押す進出側に弾性付勢するコイルばね46と、第3の中間軸45に対してトー角調整動力伝達機構28における第2の中間ギヤ31Bを結合・切り離しさせる第2のクラッチ機構52とでなる。第3の中間軸45と第2の中間軸38の互いに対向する軸端間にはスラスト軸受41(図5(A))が配置され、これにより第3の中間軸45に対して第2の中間軸38が回転自在となるようにされている。
【0033】
第2のクラッチ機構52は、図4に示したクラッチ機構51と略同様の構成である。すなわち、図5(A)に拡大して示すように、入力部材となる前記第3の中間軸45と、出力部材となる前記第2の中間軸38およびこの中間軸38に対して一体に回転可能に結合され第3の中間軸45の外周に嵌合する嵌合孔59を有するトー角調整動力伝達機構28の第2の中間ギヤ31Bと、この中間ギヤ31Bの嵌合孔59の一部に軸方向に延びて設けられたクラッチ溝31Baと、入力部材となる前記第3の中間軸45に設けられ前記両中間軸38,45の軸方向移動により前記クラッチ溝31Baに係脱するクラッチ転動体60とを有する。クラッチ溝31Baは断面形状が台形とされる。クラッチ転動体60はボールからなり、図5(B)に断面図で示すように、第3の中間軸45に径方向に貫通して形成される収容孔61内に収容され、ばねなどの弾性体62により外径方向に付勢されている。なお、第2のクラッチ機構52の他の構成として、クラッチ転動体60を中間ギヤ31B側に設け、クラッチ溝31Baを第3の中間軸45側に設けても良い。
【0034】
第2の中間ギヤ31Bの嵌合孔59には、クラッチ溝31Baの図の軸方向左側に隣接して断面円形の非溝面63が設けられ、図5(A)のように前記非溝面63に対向する軸方向位置に前記クラッチ転動体60が位置するとき、第3の中間軸45に対して第2の中間ギヤ31Bが切り離される。また、前記クラッチ溝31Baに対向する軸方向位置に前記クラッチ転動体60が位置すると、クラッチ転動体60の位相とクラッチ溝31Baの位相が一致したところで、弾性体62による外径側への付勢でクラッチ転動体60がクラッチ溝31Baに係合して第3の中間軸45に対して第2の中間ギヤ31Bが結合され、トー角調整動力伝達機構28が固定される。ここでは、第3の中間ギヤ31Bの嵌合孔59に転がり軸受64を設けることで、この転がり軸受64の回転側軌道輪の周面を前記非溝面63としている。これにより、クラッチ転動体60が非溝面63に対向する軸方向位置にある切り離し状態でも、第2の中間軸38に外嵌する第2の中間ギヤ31Bの回転を円滑に行わせることができる。また、クラッチ溝31Baにおける前記非溝面63に隣接する端部の溝底面は非溝面63に向けてなだらかに傾斜するテーパ面とされている。これにより、クラッチ転動体60が非溝面63に対向する位置からクラッチ溝31Baに係合するまでの動作を円滑に行わせることができる。
【0035】
第2のクラッチ機構52の前記クラッチ溝31Baは、第2の中間軸38のスプライン歯38bがスプライン嵌合する雌スプライン歯に兼用される。この場合のスプライン嵌合を、上記したクラッチ機構52と同じ構成としても良いが、前記スプライン歯38bは後述するように嵌合状態から嵌合解除へと変化するだけで、嵌合へ移行する動作は行われないので、スプライン嵌合であっても動作の確実性に影響は及ぼさない。第2の中間軸38が貫通するハウジング19の中間軸貫通孔65には、第2の中間ギヤ31Bにおけるクラッチ溝31Baの軸方向右側に隣接して、前記スプライン歯38bの退避空間65aが設けられる。これにより、クラッチ転動体60がクラッチ溝31Baに係合した状態で、第2の中間ギヤ31Bは第3の中間軸37に連結され、トー角調整動力伝達機構28は固定状態となる。
【0036】
転動モータ6が正常である場合を示す図2の状態は、直動アクチュエータ42が作動しない状態である。このとき、図4(A)に拡大して示すように、第1の中間軸37のスプライン歯37aがクラッチ機構52のクラッチ溝21Ba、つまり転舵動力伝達機構18の第2の中間ギヤ21Bの嵌合孔53のクラッチ溝21Aaにスプライン嵌合している。また、図5(A)に拡大して示すように、第2の中間軸38のスプライン歯38bが第2のクラッチ機構52のクラッチ溝31Ba、つまりトー角調整動力伝達機構28の第2の中間ギヤ31Bのクラッチ溝31Baにスプライン嵌合している。
【0037】
図3は、直動アクチュエータ42が作動した状態、つまり転舵モータ6が失陥したときの状態を示す。このとき、直動アクチュエータ42の作動ロッド42aが後退して、第1および第2の中間軸37,38は固定機構43を構成する第3の中間軸45に押されて、同図の右側に向けて軸方向に移動する。この移動により、転舵動力伝達機構18では、図6(A)に拡大して示すように、それまでクラッチ機構51のクラッチ溝21Baに嵌合していた第1の中間軸37のスプライン歯37aが嵌合解除され、これに代わって第2の中間軸38のクラッチ転動体54が第2の中間ギヤ21Bのクラッチ溝21Baに係合する。すなわち、転舵機構15の駆動源として、転舵モータ6に代わってトー角調整用モータ7が転舵動力伝達機構18に接続される。一方、トー角調整動力伝達機構28では、図7(A)に拡大して示すように、それまで第2の中間ギヤ31Bのクラッチ溝31Baに嵌合していた第2の中間軸38のスプライン歯38bが嵌合解除され、これに代わって第3の中間軸45のクラッチ転動体54が第2の中間ギヤ31Bのクラッチ溝31Baに係合する。すなわち、トー角調整用モータ7がトー角調整動力伝達機構28から切り離されると共に、トー角調整動力伝達機構28が固定機構43で固定される。
【0038】
ECU5のステアリング制御部5aは、操舵反力モータ4、転舵モータ6、トー角調整用モータ7および切換手段17の直動アクチュエータ42を制御する。すなわち、ステアリング制御部5aは、操舵角センサ2の検出する操舵角の信号、図示しない車速センサの検出する車輪回転速度の信号、および運転状態を検出する各種センサの信号に基づいて目標操舵反力を設定し、実際の操舵反力トルクが目標操舵反力に一致するように操舵トルクセンサ3の検出する操舵トルクの信号をフィードバックして、操舵反力モータ4を制御する。また、ステアリング制御部5aは、転舵モータ6が失陥したとき、切換手段17を構成する直動アクチュエータ42を作動させて、転舵動力伝達機構18からの転舵モータ6の切り離し、トー角調整動力伝達機構28の固定、およびトー角調整用モータ7による転舵を行なわせる。
【0039】
次に、このステアバイワイヤ式操舵装置の操舵軸駆動部14での動作を説明する。転舵モータ6が正常の場合には、図2のように、転舵モータ6の出力軸6aの回転が転舵動力伝達機構18を介してボールナット23に伝達されると共に、トー角調整用モータ7の出力軸7aの回転がトー角調整動力伝達機構28を介してスプラインナット33に伝達される。操舵軸10のボールねじ部10aに螺合するボールナット23の回転は、操舵軸10を軸方向に移動させ、これにより車輪13の操舵が行なわれる。トー角調整動力伝達機構28のスプラインナット33は、操舵軸10のスプライン歯10bにスプライン嵌合しているので、操舵軸10の軸方向移動が許容される。操舵軸10のスプライン歯10bに嵌合するスプラインナット33の回転は操舵軸10を回転させ、この回転により操舵軸10の両端のトー角調整用ねじ部10cに螺合しているタイロッド11が進退して、トー角調整が行なわれる。
【0040】
転舵モータ6が失陥した場合、ECU5のステアリング制御部5aからの指令により、切換手段17を構成する直動アクチュエータ42が作動して、その作動ロッド42aが後退する。これにより固定機構43の第3の中間軸45がコイルばね46の付勢で押し出されて、第1および第2の中間軸37,38が図3のように軸方向右側に移動する。このとき、転舵動力伝達機構18の第2の中間ギヤ21Bのクラッチ溝21Baから第1の中間軸37のスプライン歯37aが嵌合解除される代わりに、第2の中間軸38のクラッチ転動体54が前記中間ギヤ21Bのクラッチ溝21Baに係合し、転舵機構15の駆動源は転舵モータ6からトー角調整用モータ7に切り換えられる。
【0041】
一方、トー角調整動力伝達機構28では、その第2の中間ギヤ31Bのクラッチ溝31Baから第2の中間軸38のスプライン歯38bが嵌合解除される代わりに、固定機構43の第3の中間軸45のクラッチ転動体60が前記中間ギヤ31Bのクラッチ溝31Baに係合し、トー角調整動力伝達機構28は固定状態に保たれる。すなわち、車輪13のトー角は一定に保たれる。
【0042】
上記切換動作では、クラッチ溝21Baへのクラッチ転動体54の係脱を行う第1のクラッチ機構51と、クラッチ溝31Baへのクラッチ転動体60の係脱を行う第2のクラッチ機構52とを用いているので、クラッチ転動体54,60の位相と対応するクラッチ溝21Ba,31Baの位相が一致したところで、クラッチ溝21Ba,31Baへクラッチ転動体54,60が係合することになり、その切換動作において、位相を揃える必要がなく、時間を短縮して確実に切換動作を行うことができる。
【0043】
また、このステアバイワイヤ式操舵装置では、転舵モータ6、およびこの転舵モータ6から操舵軸10に動力を伝達して転舵を行なわせる転舵動力伝達機構18とは別に、トー角調整用モータ7と、このトー角調整用モータ7から操舵軸10に動力を伝達してトー角調整を行なわせるトー角調整動力伝達機構28を設けると共に、転舵モータ6が失陥したとき、転舵モータ6を転舵動力伝達機構18から切り離し、トー角調整動力伝達機構28を固定して、トー角調整用モータ7で転舵を行なわせる切換手段17を、前記転舵動力伝達機構18および前記トー角調整動力伝達機構28の途中部分に設けているので、車輪13を転舵する転舵モータ6が失陥しても、トー角調整用モータ7を転舵の駆動源に転用して転舵を行うことができる。また、転舵モータ6が正常である場合にも、トー角調整用モータ7は車輪13のトー角を調整する駆動源として働くので、転舵モータ6が失陥したときだけ動作させる補助モータを設ける従来例の場合に比べて経済的な構成とすることができる。
【0044】
なお、トー角調整用モータ7によるトー角調整および転舵モータ6の失陥のときの転舵用駆動源としての代替は、車両走行時に行う動作であるため、その最大発生トルクは、据え切り動作時に転舵モータ6に必要なトルクよりもはるかに小さなものである。したがって、トー角調整用モータ7は、転舵モータ6よりも小型のもので良い。
【0045】
この実施形態では、切換手段17のクラッチ機構51において、クラッチ転動体54を軸方向の一箇所に設置した例を示したが、軸方向に並ぶ複数位置にクラッチ転動体54を配置することで、動力伝達のトルク容量を増加させるようにしても良い。切換手段17の固定機構43における第2のクラッチ機構52についても同様である。
【0046】
図8および図9は、上記発明のステアバイワイヤ式操舵装置におけるクラッチ機構51,52を他の動力伝達装置に用いた提案例を示す。この動力伝達装置では、図8(A)に示すように、回転軸70に固定されたギヤ71が、転がり軸受72を介してハウジング73に支持されており、その回転軸70の軸端部に回転軸70をハウジング73に対して選択的に固定するクラッチ機構74が設けられている。クラッチ機構74は、前記回転軸70と、前記ハウジング73にボルト75,76で固定され、回転軸70が軸方向移動自在に嵌合する嵌合孔78を有する筒部材77と、この筒部材77の嵌合孔78に軸方向に延びて設けられたクラッチ溝79と、回転軸70に設けられたクラッチ転動体80とを有する。クラッチ溝79は図8(B)に示すような断面台形の形状とされている。
【0047】
筒部材77内には前記回転軸70の一端に対向する回転軸受け部材81が収容され、ばね82により回転軸70の一端にスラスト軸受83を介して押し当てられている。回転軸70の他端には、図示しない直動アクチュエータなどの加圧手段が設けられ、これによりギヤ71は軸方向に移動自在でかつ回転可能に支持されている。クラッチ転動体80はボールからなり、回転軸70に径方向に貫通して設けられた転動体収容孔70aに収容され、ばね84により外径側に付勢されている。また、筒部材77の嵌合孔78には、前記クラッチ溝79と軸方向に隣接する転がり軸受85が設けられ、この転がり軸受85の回転側軌道輪の周面がクラッチ溝78に隣接する非溝面86とされている。
【0048】
この動力伝達装置では、前記加圧手段により回転軸70が軸方向に加圧されない状態において、図8(A)のように、クラッチ転動体80は前記筒部材77における非溝面86に対向する軸方向位置にある。この状態では、図8(B)のようにクラッチ転動体80がクラッチ溝79に係合していないので、ギヤ71は回転自在となる。この状態から、前記加圧手段により回転軸70が押されて図9(A)のように同図の左側軸方向に移動すると、クラッチ転動体80は筒部材77のクラッチ溝79に対向する軸方向位置に来る。この状態では、図9(B)のようにクラッチ転動体80がクラッチ溝79に係合するので、ギヤ71は回転不能に固定される。
この場合も、クラッチ転動体80とクラッチ溝79の位相が一致したとろで、クラッチ転動体80がクラッチ溝79に係合するので、動力伝達の切換動作において、クラッチ転動体80とクラッチ溝79の位相を揃える必要がなく、切換動作を短時間にかつ確実に行うことができる。
【符号の説明】
【0049】
1…ステアリングホイール
2…操舵角センサ
4…操舵反力モータ
5a…ステアリング制御部
6…転舵モータ
7…トー角調整用モータ
10…操舵軸
10a…ボールねじ部
10b…スプライン歯
10c…トー角調整用ねじ部
11…タイロッド
17…切換手段
18…転舵動力伝達機構
19…ハウジング
21B…転舵動力伝達機構の中間ギヤ
21Ba…クラッチ溝
23…ボールナット
28…トー角調整動力伝達機構
31B…トー角調整動力伝達機構の中間ギヤ
31Ba…クラッチ溝
33…スプラインナット
37…第1の中間軸
38…第2の中間軸
37a,38a,38b…スプライン歯
39,41…スラスト軸受
42…直動アクチュエータ
44…スプラインハブ
45…第3の中間軸
45a…スプライン歯
51,52…クラッチ機構
53…嵌合孔
54…クラッチ転動体
56…弾性体
57…非溝面
58…転がり軸受
59…嵌合孔
60…クラッチ転動体
62…弾性体
63…非溝面
64…転がり軸受

【特許請求の範囲】
【請求項1】
転舵用の操舵軸と機械的に連結されていないステアリングホイールと、このステアリングホイールの操舵角を検出する操舵角センサと、前記ステアリングホイールに反力トルクを付与する操舵反力モータと、この操舵反力モータおよび前記操舵軸を駆動する操舵軸駆動用モータを制御するステアリング制御部とを備え、前記操舵角センサの検出する操舵角の信号を含む運転状態検出信号に基づいて前記操舵軸駆動用モータを前記ステアリング制御部で制御するようにしたステアバイワイヤ式操舵装置において、
前記操舵軸駆動用モータから前記操舵軸に動力を伝達する動力伝達機構を設けると共に、動力伝達機構の途中に、動力を伝達する状態と遮断する状態とに切り換える切換手段を設け、この切換手段は、軸方向に並べられ互いに端部が接触して軸方向に移動可能かつ相対回転可能な入力部材および出力部材と、これら入力部材および出力部材の一方に軸方向に延びて設けられたクラッチ溝と、前記入力部材および出力部材の他方に設けられ入力部材および出力部材の軸方向移動により前記クラッチ溝に径方向に弾性体により付勢されて係脱するクラッチ転動体とを有するクラッチ機構を備えることを特徴とするステアバイワイヤ式操舵装置。
【請求項2】
請求項1において、前記入力部材および出力部材のいずれか一方の部材が軸部材であり、他方の部材が、軸部材とこの軸部材に対して一体に回転可能に結合されかつ前記一方の部材の外周に軸方向相対移動自在に嵌合する嵌合孔を有する部材とでなるステアバイワイヤ式操舵装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2において、前記動力伝達機構として、前記操舵軸駆動用モータの1つである転舵モータから前記操舵軸に動力を伝達して転舵を行なわせる転舵動力伝達機構とは別に、前記操舵軸駆動用モータの他の1つであるトー角調整用モータから前記操舵軸に動力を伝達してトー角調整を行なわせるトー角調整動力伝達機構を設け、前記転舵モータが失陥したとき、前記切換手段のクラッチ機構によって前記トー角調整用モータの動力を転舵動力伝達機構に伝達し、トー角調整用モータで転舵を行うものとしたステアバイワイヤ式操作装置。
【請求項4】
請求項3において、前記切換手段は前記クラッチ機構と同じ構成であって前記出力部材材が装置ハウジングに対して回転不能で軸方向に移動自在に支持された第2のクラッチ機構を有し、トー角調整用モータで転舵を行うとき、前記切換手段の第2のクラッチ機構によって、前記トー角調整動力伝達機構を固定するものとしたステアバイワイヤ式操舵装置。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれか1項において、前記クラッチ機構における入力部材および出力部材のうち前記クラッチ溝が設けられた部材には、クラッチ溝と軸方向に隣接して部材中心軸と同軸心の断面円形の非溝面が設けられ、外力により入力部材および出力部材が軸方向に移動して、前記非溝面に対向する軸方向位置に前記クラッチ転動体が位置するとき入力部材から出力部材への動力伝達が遮断され、前記クラッチ溝に対向する軸方向位置に前記クラッチ転動体が位置するときクラッチ転動体がクラッチ溝に係合して入力部材から出力部材への動力伝達が可能となるものとしたステアバイワイヤ式操舵装置。
【請求項6】
請求項1ないし請求項4のいずれか1項において、前記クラッチ機構における入力部材および出力部材のうち前記クラッチ溝が設けられた部材には、クラッチ溝と軸方向に隣接して軸受が設けられ、外力により入力部材および出力部材が軸方向に移動して、前記軸受の軌道輪周面に対向する軸方向位置に前記クラッチ転動体が位置するとき入力部材から出力部材への動力伝達が遮断され、前記クラッチ溝に対向する軸方向位置に前記クラッチ転動体が位置するときクラッチ転動体がクラッチ溝に係合して入力部材から出力部材への動力伝達が可能となるものとしたステアバイワイヤ式操舵装置。
【請求項7】
請求項6において、前記軸受が転がり軸受であるステアバイワイヤ式操舵装置。
【請求項8】
請求項1ないし請求項7のいずれか1項において、前記クラッチ転動体はばねによって径方向に付勢されているステアバイワイヤ式操舵装置。
【請求項9】
請求項1ないし請求項8のいずれか1項において、前記クラッチ溝の断面形状が台形であるステアバイワイヤ式操舵装置。
【請求項10】
請求項5ないし請求項9のいずれか1項において、前記クラッチ溝における前記非溝面または前記軸受の軌道輪周面に隣接する端部の溝底面が非溝面または軸受の軌道輪周面に向けてなだらかに傾斜するテーパ面とされているステアバイワイヤ式操舵装置。
【請求項11】
請求項1ないし請求項10のいずれか1項において、前記クラッチ転動体がボールであるステアバイワイヤ式操舵装置。
【請求項12】
請求項1ないし請求項10のいずれか1項において、前記クラッチ転動体がピンであるステアバイワイヤ式操舵装置。
【請求項13】
請求項1ないし請求項12のいずれか1項において、前記クラッチ転動体の設置位置を軸方向に並ぶ複数位置としたステアバイワイヤ式操舵装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−235834(P2011−235834A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−110936(P2010−110936)
【出願日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】