説明

スピーカ用中心保持部材、それを使用したスピーカ、およびスピーカ用中心保持部材の製造方法

【課題】製造が容易で、低温再生能力に優れ、かつ耐久性、耐寒性および耐熱性にも優れた中心保持部材を作製する。
【解決手段】化学繊維からなる補強材1の少なくとも一方の表面全体を熱可塑性エラストマー材2で覆い、かつ化学繊維の繊維糸に熱可塑性エラストマー材2を密着配置させた結合体3を形成し、この結合体3を用いてダンパ4やエッジ5を作製するため、耐久性、耐寒性および耐熱性に優れたダンパ4やエッジ5を作製できる。ダンパ4やエッジ5は、低域再生能力に優れており、また経時変化による型くずれが生じにくいため、最低共振周波数の変化率の少ないスピーカを提供できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダンパおよびエッジ等のスピーカ用中心保持部材、それを使用したスピーカ、およびスピーカ用中心保持部材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
スピーカが小型化するに従い、エッジの幅は狭くなり、低域再生帯域を確保するために、より薄い、柔らかい材質が必要となる。近年は、低域再生帯域の確保に加えて、耐入力の増大も求められている。このため、多くの小型スピーカでは、エッジの材料として熱可塑性エラストマーを使用する例が増えている。
【0003】
熱可塑性エラストマーを使用すると、エッジをより薄く、柔らかく成形できるが、それに伴って、耐久性、耐寒性および耐熱性の点で種々の問題が発生している。
【0004】
一方、ダンパでは、フェノール樹脂やメラミン樹脂などを含浸した布材を熱圧成形したものが多く使用されている。小型スピーカ用のダンパでは、低域再生帯域を確保するために、布材に含浸する樹脂の量を少なくし、かつ、布材を薄くして柔らかくする。このような処理をした布材は疲労しやすく、スピーカを使用している間にダンパが初期状態よりも柔らかくなってしまい、スピーカの最低共振周波数の変化率が大きくなるおそれがある。
【0005】
特許文献1では、フェノール樹脂を使用せずに、耐環境性に優れて、製造も容易な振動系支持部材を使用している。この振動系支持部材は、織布または不織布等からなる繊維基材の少なくとも片面に、ホットメルトのウェブをのせ、所定形状に加熱加圧成形したものである。含浸工程がなく、ホットメルトのウェブの重ね合わせにより柔らかさを調整している。
【0006】
特許文献2には、熱可塑性エラストマー材を用いて射出成型してダンパ本体を成形し、2枚のダンパ本体の間にメッシュ材を挟んでインサートモールド成形したダンパが開示されている。
【0007】
特許文献3には、天然繊維または合成繊維からなる基布に硬化性の樹脂を含浸し、更にゴム弾性樹脂をコーティングして加熱成形したスピーカ用ダンパが開示されている。基布を形成する糸の交点の結合部がゴム弾性樹脂のコーティング処理により補強されて、耐久性の向上と柔軟性の付与がなされて、成形時のシワや重なりを抑制して成形性の向上と耐久性の向上を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2001−359190号公報
【特許文献2】特開2003−97641号公報
【特許文献3】特開2000−184494号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1の振動系支持部材は、基材が繊維であり、所望の形状に成形するためにホットメルトのウェブをのせているが、ホットメルトの具体的な材料については何ら開示がなく、加工性、耐久性、耐寒性、耐熱性および低音再生能力がどの程度なのか、不明である。そもそも、特許文献1は、人体への悪影響や環境汚染を考慮に入れた発明であり、加工性、耐久性、耐寒性、耐熱性および低音再生能力などは念頭に置いていない。
【0010】
また、特許文献2のダンパは、熱可塑性エラストマー材を射出成形してサスペンションレバーを有するダンパ本体を成形している。このダンパ本体はいわゆる蝶ダンパの改良品であり、形状が複雑なため、小型化には限界がある。また、ダンパ本体は、メッシュ材の表面全体を覆う構造ではなく、耐久性の面でもそれほど優れているとはいえない。
【0011】
さらに、特許文献3のダンパは、基布に硬化性の樹脂を含浸し、さらにゴム弾性樹脂をコーティングして加熱成形するため、製造工程が複雑で、製造コストが高くなってしまう。
【0012】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、製造が容易で、低温再生能力に優れ、かつ耐久性、耐寒性および耐熱性にも優れたダンパおよびエッジ等のスピーカ用中心保持部材、それを使用したスピーカ、およびスピーカ用中心保持部材の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様によれば、スピーカのボイスコイルボビンに取付けられるダンパと、
前記スピーカの振動板に内周側が接合され、前記スピーカのフレームに外周側が接合されるエッジと、を備え、
前記ダンパおよび前記エッジの少なくとも一方は、
熱可塑性の化学繊維からなるシート状の補強材と、
前記補強材の少なくとも一方の表面全体を覆い、かつ前記化学繊維の各繊維糸に密着配置される熱可塑性エラストマーからなるシート部材と、を有することを特徴とするスピーカ用中心保持部材が提供される。
【0014】
また、本発明の一態様によれば、熱可塑性の化学繊維からなるシート状の補強材と熱可塑性エラストマーからなるシート部材とを熱圧成形して、前記補強材の少なくとも一方の表面全体を前記シート部材で覆って、かつ前記化学繊維の各繊維糸に前記熱可塑性エラストマーを密着配置させて結合体を形成する工程と、
ダンパまたはエッジの形状に合わせて前記結合体を成形する工程と、を備えることを特徴とするスピーカ用中心保持部材の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、製造が容易で、低温再生能力に優れ、かつ耐久性、耐寒性および耐熱性にも優れた中心保持部材を作製できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本実施形態に係る中心保持部材の構造を説明する図。
【図2】(a)は図1の結合体3を用いて形成されたダンパ4の平面図、(b)はダンパ4の断面図。
【図3】図1の結合体3を用いて形成されたエッジ5の断面図。
【図4】図1の変形例を説明する図。
【図5】(a)は加圧プレスする前に補強材1の両面に熱可塑性エラストマー材2を重ね合わせた状態を示す断面図、(b)は加圧プレスして得られた結合体3aの断面図。
【図6】本実施形態の製法により作製されたダンパ4およびエッジ5を組み込んだスピーカ10の断面図。
【図7】中心保持部材4eを有するスピーカの一例を示す断面図。
【図8】従来のダンパ4と本実施例のダンパ4をそれぞれ用いたスピーカについて、6Wと8Wの入力を与えて最低共振周波数f0の変化率を測定した結果を示す図。
【図9】(a)は、従来のダンパ4を用いたスピーカについての連続動作試験を行った結果を示す図である、(b)は、本実施例のダンパ4を用いたスピーカについての連続動作試験を行った結果を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0018】
図1は本実施形態に係る中心保持部材の構造を説明する図である。ここで、中心保持部材とは、スピーカのボイスコイルボビンに取付けられるダンパと、スピーカの振動板に内周側が接合されてフレームに外周側が接合されるエッジとの少なくとも一方を指している。
【0019】
図1の中心保持部材は、熱可塑性の化学繊維からなるシート状の補強材1の表面全体を、熱可塑性エラストマーからなるシート部材で覆った構造であり、以下ではこの構造を結合体3と呼ぶ。結合体3は、ダンパ4やエッジ5の形状に合わせて型抜きされる。
【0020】
図2(a)は図1の結合体3を用いて形成されたダンパ4の平面図、図2(b)はダンパ4の断面図である。図3は図1の結合体3を用いて形成されたエッジ5の断面図である。
【0021】
図1に示した熱可塑性エラストマーのシート部材(以下、熱可塑性エラストマー材2と呼ぶ)の厚さは約0.01〜1mmであり、好ましくは0.05〜0.5mmである。厚さが1mmを超えると、熱可塑性エラストマー材2の柔軟性が損なわれてしまい、また、厚さが0.01mm未満になると、補強材1との接合性が悪くなる。
【0022】
熱可塑性エラストマー材2のゴム硬度計を用いて測定した硬さは、約40°〜90°であり、好ましくは65°〜80°である。
【0023】
補強材1の材料である化学繊維は、ポリエステルやアクリル等の繊維であり、熱可塑性エラストマー材2よりも溶融温度が高い方が望ましい。後述するように、熱可塑性エラストマー材2を溶融させて、化学繊維の繊維糸の周りに熱可塑性エラストマー材2を密着固定させるためである。
【0024】
補強材1として例えば平織り織布を用いる場合は、熱可塑性エラストマー材2に対する重量比で約1/2〜1/25(好ましくは1/2.5〜1/15)、体積比で約1/2〜1/30(好ましくは1/4〜1/15)が望ましい。
【0025】
補強材1は、熱可塑性の化学繊維の繊維糸を用いて、布(織布)、不織布またはメッシュ状に成形したものであり、その厚さは約0.04〜0.5mmであり、熱可塑性エラストマー材2とほぼ同程度の厚さである。
【0026】
補強材1と熱可塑性エラストマー材2からなる結合体3は、インサートモールド成形機を用いて形成してもよいが、厚さが薄いことと、熱可塑性エラストマー材2の溶融を利用することを考慮に入れると、補強材1と熱可塑性エラストマー材2を互いに重ねた状態で熱圧冷却金型に入れて加熱および加圧プレスして結合体3を形成する製法を採用するのが望ましい。
【0027】
この製法によれば、熱可塑性エラストマー材2が溶融して、補強材1の繊維糸の周りを包み込み、かつ熱圧冷却金型の形状に沿った形状の結合体3が得られる。すなわち、ダンパ4用の熱圧冷却金型にてダンパ4の外形形状の結合体3を得ることができ、エッジ5用の熱圧冷却金型によりエッジ5の外形形状の結合体3を得ることができる。
【0028】
図4は図1の変形例であり、補強材1の両面側に熱可塑性エラストマー材2を配置して、これら2つの熱可塑性エラストマー材2で補強材1を挟み込むように加圧プレスする例を示している。図4により得られる結合体3aは、図1の結合体3よりも耐久性が向上する。また、図4では、熱可塑性エラストマー材2を2枚用いる分だけ、それぞれの熱可塑性エラストマー材2を薄くできる。
【0029】
図5(a)は加圧プレスする前に補強材1の両面に熱可塑性エラストマー材2を重ね合わせた状態を示す断面図、図5(b)は加圧プレスして得られた結合体3aの断面図である。図5(a)では、補強材1と熱可塑性エラストマー材2が別個の層を形成しているが、図5(b)では、熱可塑性エラストマー材2が溶融して、補強材1の繊維糸の周りを包み込むように熱可塑性エラストマー材2が密着配置され、補強材1と熱可塑性エラストマー材2が一体化していることがわかる。
【0030】
このように、本実施形態の結合体3は、補強材1と熱可塑性エラストマー材2が一体化したものであり、耐久性、耐寒性および耐熱性を向上させることができ、低音再生能力の向上も図れる。
【0031】
熱可塑性エラストマー材2の厚さや硬さをより細かく調整したい場合は、厚さや硬さの異なる2枚の熱可塑性エラストマー材2を用意して、これらを図4のように補強材1の両面に配置して加圧プレスすれば、2枚の熱可塑性エラストマー材2の組合せに応じた厚さと硬さが得られる。上述した図5(a)は、厚さの異なる2枚の熱可塑性エラストマー材2を、補強材1を挟み込むように配置した例を示している。
【0032】
図6は本実施形態の製法により作製されたダンパ4およびエッジ5を組み込んだスピーカ10の断面図である。図6のスピーカ10は、磁気回路11と、フレーム12と、ボイスコイルボビン13と、ボイスコイル14と、振動板15と、ダンパ4と、エッジ5とを有する。
【0033】
磁気回路11は、ポットヨーク21、マグネット22およびポールピース23を有する。磁気回路11はフレーム12に固定され、ボイスコイルボビン13に巻回されたボイスコイル14が磁気回路11のギャップ中に保持される。ダンパ4の内周部はボイスコイルボビン13に固定され、ダンパ4の外周部はフレーム12に接合される。振動板15は、ボイスコイルボビン13の前面に接合される。エッジ5の内周部は振動板15の外周部に接合され、エッジ5の外周部はフレーム12に接合される。
【0034】
なお、図6のダンパ4とエッジ5の一方だけを上述した製法で作製し、他方は従来と同様の製法で作製してもよいし、ダンパ4とエッジ5の両方とも上述した製法で作製してもよい。
【0035】
上述したように、本実施形態では、化学繊維からなる補強材1の少なくとも一方の表面全体を熱可塑性エラストマー材2で覆って、補強材1の繊維糸に熱可塑性エラストマー材2を密着配置させた結合体3を形成し、この結合体3を用いてダンパ4やエッジ5を作製するため、耐久性、耐寒性および耐熱性に優れたダンパ4やエッジ5を作製できる。
【0036】
また、本実施形態の製法で作製したダンパ4やエッジ5は、低域再生能力に優れており、また経時変化による型くずれが生じにくいため、最低共振周波数の変化率の少ないスピーカを提供できる。
【0037】
さらに、本実施形態は、補強材1と熱可塑性エラストマー材2を重ね合わせて熱圧冷却金型に入れて加熱および加圧プレスするだけで、ダンパ4またはエッジ5の外形形状の結合体3を作製できるため、きわめて容易にダンパ4およびエッジ5を作製でき、製造コスト削減が図れ、また小径サイズのダンパ4とエッジ5の作製にも対応可能である。
【0038】
また、本実施形態の結合体3は、形状が複雑でないため、高価な金型を用意する必要もない。また、従来のような樹脂の含浸工程やコーティング工程も不要であり、製造工程の簡略化が図れる。
【0039】
上述した実施例では、ダンパ4またはエッジ5を作製する例について説明したが、ダンパ4と振動板15が一体構造になったものや、ダンパ4とエッジ5が一体構造になった、いわゆる中心保持部材の作製にも本実施形態の製法を適用することができる。
【0040】
図7は中心保持部材4eを有するスピーカの一例を示す断面図である。図7のスピーカ10aは、ダンパー部4aと振動部4dとを一体構造にした中心保持部材4eを有する。ダンパー部4aの中央部に形成される固定部4bは、スピーカ10aの後方側に配置されており、固定部4bの底面部の中央には透孔4cが形成されている。ダンパー部4aの外周側には振動部4dが一体に形成されており、この振動部4dの先端部にはエッジ5が接合され、ボイスコイルボビン13の前面にはダストキャップ16が取付けられている。
【0041】
図7の中心保持部材4eとエッジ5の少なくとも一方は、上述した製法にて作製可能であり、これにより、耐久性、耐寒性および耐熱性に優れたスピーカ10aが得られる。
【実施例】
【0042】
(第1の実施例)
本発明者は、図6の構造の口径40mmのスピーカに、従来の製法で作製したダンパと上述した製法で作製したダンパ4(以下、本実施例のダンパ4と呼ぶ)をそれぞれ組み込んで、最低共振周波数f0の比較を行った。ダンパ4以外は共通の部材を用い、エッジ5も従来の製法によるものを用いた。
【0043】
比較対象となる従来のダンパ4は、ポリエステル繊維の糸の太さが0.15mm、打ち込み本数が縦糸80本×横糸70本/インチで、厚さ0.25mmの平織りであり、フェノールを含浸させて成形したものである。
【0044】
本実施例のダンパ4は、0.05mmのウレタン系熱可塑性エラストマーに、補強材1としてポリエステル繊維の糸の太さ0.025mm、打ち込み本数が縦糸300本×横糸300本/インチで、厚さ0.044mmの平織りで成形したものである。
【0045】
図8は、従来のダンパ4と本実施例のダンパ4をそれぞれ用いたスピーカについて、6Wと8WのJIS C5552の100時間ノイズ試験を行い、試験前と試験後の最低共振周波数f0を測定し、f0の変化率(%)を示した図である。
【0046】
従来のダンパ4と比べて、本実施例のダンパ4は、変化率が大幅に小さいことがわかる。特に、従来のダンパ4の場合、8Wの入力を与えると、異常音が発生して明らかな音質不良となった。従来のダンパ4も本実施例のダンパ4も、入力が小さいほど変化率は小さくなるが、本実施例のダンパ4は8Wの高入力を与えても、変化率は11.5%にすぎず、十分に実用性があることがわかる。
【0047】
図9(a)は、上述した従来のダンパ4を用いたスピーカについて、6Wの入力を連続的に与えて動作させた試験(連続動作試験)を行った結果を示す図である。図9(b)は、上述した本実施例のダンパ4を用いたスピーカについて、同様の連続動作試験を行った結果を示す図である。これらの図には、1W/1mでのスピーカの音圧周波数特性[dB]の曲線とインピーダンス特性[Ω]の曲線が図示されており、図中の実線は試験前、破線は試験後の曲線を示している。
【0048】
図9(a)に示すように、従来のダンパ4では、連続動作試験前と後では、音圧周波数特性とインピーダンス特性の両方とも大きく変化している。これに対して、本実施例のダンパ4では、図9(b)に示すように、連続動作試験の前後で、音圧周波数特性とインピーダンス特性の両方ともほとんど変化していない。
【0049】
以上の結果から、本実施例のダンパ4は、耐久性の面で従来のダンパ4よりも著しく優れていることがわかる。
【0050】
(第2の実施例)
次に、本発明者は、図6の構造の口径40mmのスピーカに、従来の製法で作製したエッジと上述した製法で作製したエッジ5(以下、本実施例のエッジ5と呼ぶ)をそれぞれ組み込んで、低温動作試験を行った。−30℃の雰囲気下で、5Wのノイズを10分間与えて、50分放置する試験を、計96時間行った。エッジ5以外は共通の部材を用い、ダンパ4も従来の製法によるものを用いた。
【0051】
ウレタン系の材料は、低温時の使用で問題が生じやすいことが知られている。そこで、あえて、従来のエッジ5では、0.05mm厚のウレタン系熱可塑性エラストマー材2(ゴム強度65°)を用いた。本実施例のエッジ5は、0.05mm厚のウレタン系熱可塑性エラストマー材2に、ポリエステル化学繊維からなる補強材1(厚さ0.044mm、繊維糸の太さ0.025mm、打ち込み本数縦糸300本×横糸300本/インチの平織り)を加圧プレスしたものである。本実施例のエッジ5は、熱可塑性エラストマー材2に対する補強材1の体積比は1/5とした。
【0052】
上記の低温動作試験を行った結果、従来のエッジ5を使用したスピーカでは、試験開始後12時間以内に振動板15とエッジ5との貼り合わせ部分の付近でエッジ5が破断した。一方、本実施例のエッジ5を使用したスピーカでは、試験開始後96時間を経過しても、エッジ5の破断は起きなかった。
【0053】
以上の本試験の結果より、本実施例のエッジ5は、耐寒性にも優れることがわかる。
【0054】
(第3の実施例)
次に、本発明者は、第2の実施形態と同様に、エッジ5のみが異なる2種類のスピーカを用いて、高温動作試験の比較を行った。80℃雰囲気下で、5Wのノイズ信号を10分間与えて、50分間放置する試験を計96時間行った。
【0055】
本実施例では、柔らかくすると耐寒性よりも耐熱性で問題が生じやすいオレフィン系の材料を、従来のエッジ5と本実施例のエッジ5の基材とした。具体的には、従来のエッジ5では、0.18mm厚のオレフィン系熱可塑性エラストマー材2(ゴム強度65°)を用いた。本実施例のエッジ5は、同じ0.18mm厚のオレフィン系熱可塑性エラストマー材2に、ポリエステル化学繊維からなる補強材1(厚さ0.044mm、繊維糸の太さ0.025mm、打ち込み本数縦糸300本×横糸300本/インチの平織り)を加圧プレスしたものである。本実施例のエッジ5も、熱可塑性エラストマー材2に対する補強材1の体積比は1/5とした。
【0056】
上記の高温動作試験を行った結果、従来のエッジ5を使用したスピーカでは、試験開始後18時間以内に振動板15とエッジ5との貼り合わせ部分の付近でエッジ5が破断した。本実施例のエッジ5を使用したスピーカでは、試験開始後96時間を経過しても、エッジ5の破断は起きなかった。
【0057】
以上の本試験の結果より、本実施例のエッジ5は、耐熱性にも優れることがわかる。
【0058】
本発明の態様は、上述した個々の実施形態や実施例に限定されるものではなく、当業者が想到しうる種々の変形も含むものであり、本発明の効果も上述した内容に限定されない。すなわち、特許請求の範囲に規定された内容およびその均等物から導き出される本発明の概念的な思想と趣旨を逸脱しない範囲で種々の追加、変更および部分的削除が可能である。
【符号の説明】
【0059】
1 補強材
2 熱可塑性エラストマー材
3 結合体
4 ダンパ
5 エッジ
11 磁気回路
12 フレーム
13 ボイスコイルボビン
14 ボイスコイル
15 振動板
21 ポットヨーク
22 マグネット
23 ポールピース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スピーカのボイスコイルボビンに取付けられるダンパと、
前記スピーカの振動板に内周側が接合され、前記スピーカのフレームに外周側が接合されるエッジと、を備え、
前記ダンパおよび前記エッジの少なくとも一方は、
熱可塑性の化学繊維からなるシート状の補強材と、
前記補強材の少なくとも一方の表面全体を覆い、かつ前記化学繊維の各繊維糸に密着配置される熱可塑性エラストマーからなるシート部材と、を有することを特徴とするスピーカ用中心保持部材。
【請求項2】
前記シート部材は、前記補強材の両面全体を覆うように形成されることを特徴とする請求項1に記載のスピーカ超中心保持部材。
【請求項3】
熱可塑性の化学繊維からなるシート状の補強材と熱可塑性エラストマーからなるシート部材とを熱圧成形して、前記補強材の少なくとも一方の表面全体を前記シート部材で覆って、かつ前記化学繊維の各繊維糸に前記熱可塑性エラストマーを密着配置させて結合体を形成する工程と、
ダンパまたはエッジの形状に合わせて前記結合体を成形する工程と、を備えることを特徴とするスピーカ用中心保持部材の製造方法。
【請求項4】
前記結合体を形成する工程では、前記補強材の両面にそれぞれ別個の前記シート部材を配置して熱圧成形して前記結合体を形成することを特徴とする請求項3に記載の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−217281(P2011−217281A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−85474(P2010−85474)
【出願日】平成22年4月1日(2010.4.1)
【出願人】(000114215)ミネベア株式会社 (846)
【Fターム(参考)】