説明

セラミックハニカムフィルタ及びその製造方法、金型

【課題】触媒による有害物質の除去能力が高く、かつ圧力損失が低い排気ガス用のフィルタを得る。
【解決手段】このフィルタにおいては、流出側セル81と流入側セル82とが交互に配列されている。流出側セル81、流入側セル82共に、ガス(流体)が流れる方向と垂直な四方を主隔壁10で囲まれて形成された矩形形状の断面形状をもつ。流出側セル81においては、それぞれ対向する2つの主隔壁10のそれぞれから副隔壁11、12が突出して設けられ、かつ副隔壁11、12は互いに接触しない設定とされる。このため、副隔壁11、12が形成された流出側セル81内の空間は、副隔壁11、12によって分断されない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス(排気ガス)の浄化に用いられるセラミックハニカムフィルタの構造及びその製造方法に関する。また、その製造方法に用いられる金型に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ガソリンエンジンと比べて燃費が良好でかつCO排出量が少ないディーゼルエンジンは国際的にも新たに注目されている。しかしながら、ディーゼルエンジンの排気ガス中には、PM(Particulate Matter:粒子状物質)とNOx(窒素酸化物)が多いという問題点がある。エンジン単体の技術でPMやNOxを減少させる努力も行われているものの、その効果は不充分である。このため、排気ガスにおけるPMやNOxを除去するためのフィルタが常時使用される。
【0003】
このフィルタとしては、セラミックハニカムフィルタが広く用いられている。セラミックハニカムフィルタ(フィルタ)の構造は、例えば特許文献1に記載されている。図10(a)はこの構造におけるガス流通方向に沿った断面図である。また、図10(b)はそのG−G方向における断面図、図10(c)はそのH−H方向における断面図であり、これらはガスの流通方向に沿った異なる位置でのガスの流通方向に垂直な断面図となっている。
【0004】
この構造においては、主隔壁90で仕切られた多数の流通路80が隣接して平行に設けられたセラミックハニカム構造体の、図中左側から右側に、白矢印で示されるようにガス(排気ガス:流体)が流れる構成とされる。主隔壁90は、多孔質のセラミックスで構成される。ここで、流通路80のうちの一部の流通路においては入口側(左側)に流入口側封止材91が設けられ、他方残余の流通路においては出口側(右側)に流出口側封止材92が設けられる。この構成により、流通路のうちの一部の流通路は、流体の流入側が封止され、かつ、流体の流出側が封止されない流出側セル81として機能する。また、残余の流通路は、流入側が封止されず流出側が封止された流入側セル82として機能する。なお、図10(a)においてはこの流通路が上下方向において平行に多数設けられているが、これと直交する方向においても同様に平行に多数設けられている。
【0005】
この構成においては、流入側セル82の入口側(左側)からガスが進入し、その中を流れる。しかしながら、この流入側セルの出口側は封止されているため、ガスは主隔壁90を通って隣接する流通路(流出側セル81)に流れる。流出側セルにおいては、入口側が封止され、出口側は封止されないため、ガスが出口側から外部に流れる。この構成において、主隔壁90を多孔質のセラミックスで形成すれば、PMを捕集するフィルタとして主隔壁90を使用することができる。
【0006】
一方、流通路の表面(主隔壁90の表面)に触媒を塗布することにより、NOxを塩の形態に変化させてフィルタ内に溜め込む、あるいは化学反応を発生させて他の形態に変化させて排気ガスから除去することができる。すなわち、図10の構成のセラミックハニカムフィルタを用いて、PM、NOxの除去を効率的に行うことができる。特に流出側セル81においては排気ガスからPMが除去されているため、流出側セル81の内部表面にNOx浄化用の触媒を塗布することが好ましい。
【0007】
図10の構成のフィルタを製造するに際しては、金型を用いた押出成形を用いることができる。この場合、図10の構造における流入口側封止材91、流出口側封止材92が形成される前の形態は、原料(セラミックスの原料で構成された坏土)を金型に流す押出成形によって成形体として容易に得ることができる。その後、この成形体を乾燥、切断、焼成した後、あるいは焼成前に流入口側封止材91、流出口側封止材92を形成することによって、図10の構造を得ることができる。その後、触媒を含む液体中にこの構造を浸漬することにより、流通路の内面に触媒を形成することが可能である。
【0008】
特許文献1に記載の技術においては、主隔壁90における気孔率等を最適化して、フィルタの小型化及び高効率化を達成している。この気孔率等は、セラミックスの原料やスラリー、坏土、焼成の条件を調整することによって行うことができる。
【0009】
一方、特許文献2や特許文献3に記載の技術においては、図10の構成における流通路80を更に細分化する副隔壁を設けることにより、フィルタの高効率化を図っている。
【0010】
ここで、図11(a)(b)は、それぞれ特許文献2、3に記載のセラミックハニカムフィルタにおける図10(b)に対応する箇所の断面図を示す。図11(a)の例では、主隔壁90に囲まれた領域の中に更に副隔壁96、97が交差して設けられることにより、流通路80が更に細分化されている。これにより、流通路80の内面の表面積を増大させ、担持する触媒量を増大させることができる。図11(b)の例では、矩形形状の断面形状をもつ流通路80の対角線に沿って副隔壁98が設けられている。
【0011】
こうした技術を用いて、PMやNOxの除去を高効率で行うことのできるフィルタを得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2004−162544号公報
【特許文献2】特開2003−205245号公報
【特許文献3】特開2008−264631号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
特許文献1に記載の技術においては、主隔壁90に囲まれた領域の表面積が不充分であるために、触媒を担持できる表面積が不充分である。このため、特にNOxの除去が不充分である。すなわち、PM除去は充分であるが、触媒による有害物質の除去が不充分である。
【0014】
これに対して、特許文献2、3に記載の技術においては、図11(a)(b)に示すように副隔壁が設けられたことによって触媒を担持できる面積が増大しているために、NOxの除去能力を向上させることができる。しかしながら、流通路中の空間が細分化されるために、ガスがこの流通路を流れる際の抵抗が大きくなり、フィルタの圧力損失が大きくなる。
【0015】
すなわち、触媒による有害物質の除去能力が高く、かつ圧力損失が低い排気ガス用のフィルタを得ることは困難であった。
【0016】
本発明は、かかる問題点に鑑みてなされたものであり、上記の問題点を解決する発明を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、上記課題を解決すべく、以下に掲げる構成とした。
本発明のセラミックハニカムフィルタは、多孔質の4つの主隔壁で囲まれて形成され、流体を流通させる複数の流通路が隣接して平行に設けられたセラミックハニカム構造体の、前記流通路のうちの一部の流通路は前記流体流入側が封止され、かつ、前記流体流出側が封止されない流出側セル、前記流通路のうちの残余の流通路は流入側が封止されず流出側が封止された流入側セルとし、前記流出側セル及び流入側セルの内面に触媒が担持されたセラミックハニカムフィルタであって、前記流通路において、前記主隔壁から突出しかつ前記主隔壁と一体に成形され、前記流通路内の空間を分断せずに前記流体の流通方向に延伸する副隔壁を、前記流出側セルに具備することを特徴とする。
本発明のセラミックハニカムフィルタは、前記流出側セルを構成する4つの前記主隔壁のうちの対向する2つの主隔壁のそれぞれから、前記副隔壁が、前記流出側セル内において互いに接触しないように突出して形成されたことを特徴とする。
本発明のセラミックハニカムフィルタは、前記流出側セルにおいて、前記流体の流通方向に垂直な断面における対向する2つの隔壁交差部のそれぞれから、前記副隔壁が、前記流出側セル内において互いに接触しないように突出して形成されたことを特徴とする。
本発明のセラミックハニカムフィルタにおいて、前記副隔壁は隣接する前記流通路間の主隔壁よりも薄く形成されたことを特徴とする。
本発明のセラミックハニカムフィルタは、前記流出側セルにおける前記触媒の担持量が、前記流入側セルにおける前記触媒の担持量よりも多いことを特徴とする。
本発明のセラミックハニカムフィルタにおいて、前記副隔壁における前記一方向に延伸して形成される表面には、凹凸が形成されたことを特徴とする。
本発明の金型は、前記セラミックハニカムフィルタにおける前記流通路が複数平行に設けられた構造を具備する成形体を、前記流通路に流体が流れる方向に沿って原料を加圧供給する押出成形によって得るために用いられる金型であって、前記複数の主隔壁を形成する主隔壁成形溝と、前記主隔壁成形溝へ連通した原料供給孔と、前記原料供給孔と前記主隔壁成形溝との交差部よりも主隔壁成形溝側において、前記主隔壁成形溝と接続され、前記副隔壁を形成するための副隔壁成形溝と、が形成されたことを特徴とする。
本発明の金型において、前記副隔壁成形溝は、前記主隔壁成形溝を構成する前記金型の表面を前記原料が移動する方向において、上流側から下流側に向かって徐々に溝深さが大きく形成されたことを特徴とする。
本発明のセラミックハニカムフィルタの製造方法は、前記金型を用いて成形体を形成し、当該成形体を焼成して前記セラミックハニカムフィルタを製造することを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明は以上のように構成されているので、触媒による有害物質の除去能力が高く、かつ圧力損失が低い排気ガス用のフィルタを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】第1の実施の形態に係るセラミックハニカムフィルタの断面図である。
【図2】第2の実施の形態に係るセラミックハニカムフィルタの断面図である。
【図3】従来のセラミックハニカムフィルタを製造する際に用いられる金型の斜視図である。
【図4】従来のセラミックハニカムフィルタを製造する際に用いられる金型の上面図(a)及びそのC−C方向の断面図(b)である。
【図5】第1の実施の形態に係るセラミックハニカムフィルタを製造する際に用いられる金型の斜視図である。
【図6】第1の実施の形態にセラミックハニカムフィルタを製造する際に用いられる金型の上面図(a)、そのD−D方向の断面図(b)、E−E方向の断面図(c)である。
【図7】第2の実施の形態に係るセラミックハニカムフィルタを製造する際に用いられる金型の斜視図である。
【図8】第2の実施の形態にセラミックハニカムフィルタを製造する際に用いられる金型の上面図(a)及びそのF−F方向の断面図(b)である。
【図9】本発明の実施の形態に係るセラミックハニカムフィルタのガス流通方向に垂直な断面の拡大図(a)、第1の変形例における同方向の断面の拡大図(b)、第2の変形例におけるX−X方向の断面図(c)、第3の変形例におけるY−Y方向の断面図(d)である。
【図10】従来のセラミックハニカムフィルタの構造を示す断面図である。
【図11】特許文献2(a)、特許文献3(b)に記載のセラミックハニカムフィルタのガス流通方向に垂直な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明について具体的な実施形態を示しながら説明する。ただし、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではない。このセラミックハニカムフィルタ(フィルタ)においても、図10に記載のフィルタと同様に、主隔壁によって多数の流通路が形成され、流通路のうちの一部の流通路は入口側が、残余の流通路は出口側が封止されることにより、前者は流出側セル、後者は流入側セルとして機能する。この流出側セル中には副隔壁が設けられていることにより、流通路内部の表面積は増大している。しかしながら、このフィルタの圧力損失は副隔壁が設けられないフィルタと同程度である。
【0021】
(第1の実施の形態:セラミックハニカムフィルタ)
図1(a)は、第1の実施の形態に係るセラミックハニカムフィルタ(フィルタ)の排気ガスの流れる方向と垂直な方向の断面図である。ここでは、主隔壁10に囲まれた流通路80が多数隣接して形成されている。図1(b)は、図1(a)におけるA−A方向(排気ガスの流れる方向)に対応した断面図となっている。このフィルタにおいては、流出側セル81と流入側セル82とが交互に配列されている。また、流出側セル81、流入側セル82共に、ガス(流体)が流れる方向と垂直な四方を主隔壁10で囲まれて形成された矩形形状の断面形状をもつ。
【0022】
ここで、流出側セル81において、1対の副隔壁11、12が設けられている。流出側セル81においては、それぞれ対向する2つの主隔壁10のそれぞれから副隔壁11、12が突出して設けられ、かつ副隔壁11、12は互いに接触しない設定とされる。このため、副隔壁11、12が形成された流出側セル81内の空間は、副隔壁11、12によって分断されない。副隔壁11、12は排気ガスの流れる方向に沿って延伸して形成され、かつ副隔壁11、12は主隔壁10と一体に成形されている。なお、図1(a)はガス(流体)の流通方向に垂直な断面を示しており、副隔壁11、12は、この流通方向に沿って延伸している。
【0023】
副隔壁11、12は、流出側セル81における排気ガスの流れを阻害しないように構成することが好ましい。このため、副隔壁11、12の図1における厚さは、隣接する流通路間における主隔壁10よりも薄くすることが好ましい。
【0024】
具体的には、主隔壁10の厚さを0.2〜0.45mm、主隔壁10間のピッチを1.2〜2.0mm、副隔壁11、12の厚さは0.1〜0.35mmとすることが好ましい。主隔壁10の厚さが0.2mm未満の場合、ハニカム構造体の強度が低下するので好ましくない。一方、この厚さが0.45mmを超えると、圧力損失が大きくなるので好ましくない。副隔壁11、12の厚さが0.1mm未満の場合、強度が低下し、触媒を担持できる表面積が不十分となり、NOxの除去が不十分となる場合があるので好ましくない。この厚さが0.35mmを超えると圧力損失が大きくなるので好ましくない。図1(a)中において副隔壁11、12が流通路内へ突出する長さHは、その突出する方向における流通路の開口幅W未満である必要があり、開口幅Wの0.1倍から0.8倍の長さが好ましい。この長さが0.1倍未満の場合は触媒できる表面積が不十分となり、0.8倍を超えると圧力損失が大きくなる。また、副隔壁11、12は、その突出する方向と垂直な方向において開口幅Wを等分する位置、例えば、副隔壁11、12の中心が主隔壁10からW/3の距離の位置に配置されることが好ましい。これにより、圧力損失の上昇を小さく抑えることができる。
【0025】
この構成においては、副隔壁11、12が存在しても、単一の流出側セル81内の空間は連結されている。ただし、副隔壁11、12が存在することによって、副隔壁11、12の表面積の分だけ流出側セル81内の表面積が増大する。このため、この流出側セル81においては、担持できる触媒量が多くなり、触媒の効果が大きくなる。すなわち、このフィルタにおいては、高いNOx除去能力が得られる。また、触媒を含む液体に上記の構造を浸漬することにより流通路内面に触媒を形成する場合、副隔壁11、12が設けられた流出側セルにおける触媒の担持量を、流入側セルにおける触媒の担持量よりも多くすることができる。
【0026】
一方で、副隔壁11、12が薄く形成されれば、この流出側セル81内におけるガスの流れに対する抵抗が大きくなり難く、副隔壁11、12が形成されない場合と比べてガスが流通路を流れる際の抵抗は大きくなり難い。このため、フィルタの圧力損失増大が抑制される。すなわち、触媒による有害物質の除去能力が高く、かつ圧力損失の増大が小さい排気ガス用のフィルタとなる。また、副隔壁11、12を薄く形成した場合でも、副隔壁11、12を主隔壁10と一体化して形成することにより、充分な機械的強度が得られる。
【0027】
(第2の実施の形態:セラミックハニカムフィルタ)
図2は、第2の実施の形態に係るセラミックハニカムフィルタ(フィルタ)の断面を、図1と同様に示した図である。このフィルタにおいても、図1の場合と同様に、主隔壁20で囲まれて構成された一つの流通路(流出側セル)において、副隔壁21、22が設けられている。副隔壁21、22は流通路において対向する2つの隔壁交差部(主隔壁20が交差する箇所)からセルの断面における中心側に向かって形成されている。ただし、副隔壁21、22は互いに接触せず、副隔壁21、22によって流通路内の空間は分断されない。副隔壁21、22の流通路内へ突出する長さHは、図2(a)において対向する2つの隔壁交差部の対角線長さTの1/2未満である必要があり、対角線長さTの0.05倍から0.4倍の長さが好ましい。この長さが0.05倍未満の場合は触媒できる表面積が不十分となり、0.4倍を超えると圧力損失が大きくなる。また、副隔壁21、22は排気ガス(流体)の流れる方向に沿って延伸して形成され、かつ副隔壁21、22は主隔壁20と一体に成形されている。
【0028】
図2のフィルタが用いられた場合においても、第1の実施の形態の場合と同様に、ガスが流通路を流れる際の抵抗が大きくなることなしに流通路内の表面積を大きくすることができる。このため、このフィルタにおいては、触媒による有害物質の除去能力が高く、かつ低い圧力損失が得られることは明らかである。また、流通路の断面における対角線に沿って副隔壁21、22を設けるために、これらの表面積を大きくとることができる。
【0029】
(第3の実施の形態:製造方法及びこれに用いる金型)
上記のセラミックハニカムフィルタは、以下に説明する製造方法によって特に容易に製造することができる。この製造方法においては、押出成形を適用できる可塑化された坏土が、金型に加圧供給されることによってハニカム構造の成形体が得られる。その後、この成形体に対して乾燥、切断、焼成が行われることにより、セラミックハニカム構造体とされる。その後、流入側と流出側の封止材が設けられる。この製造方法においては、この際に使用される金型としては、公知の金型が用いられる。原料やその他の製造工程については特許文献1に記載されたものと同様である。
【0030】
まず、副隔壁が設けられない従来の構造(副隔壁が設けられない図10に示された構造)のハニカム構造体を製造する際に用いられる金型の構成を示す斜視図を図3に、その上面図を図4(a)に、C−C方向の断面図を図4(b)に示す。ここで、図3に示す金型においては、図における下側は坏土が圧入される坏土供給側とされ、図における上側は成形体が押出される成形側とされる。なお、図3、4はこの金型を部分的に示しており、実際にはこの金型は図示された範囲外で一体化された状態とされて使用される。この金型を用いて、図10における流入口側封止材91、流出口側封止材92が形成される前の状態の形態のハニカム構造の成形体が得られる。
【0031】
この従来の構造の金型においては、金型部材30中に、主隔壁90に対応した主隔壁成形溝31が形成されている。また、坏土供給側(図3、4中下側)には原料供給孔32が設けられ、ここから原料(坏土)が図4(b)の白矢印の方向に加圧供給される構成とされる。この原料はこの金型において図の上下方向に延伸する主隔壁成形溝31を通過する。主隔壁成形溝31は、上面図(図4(a))における一方向とそれに直交する方向に格子状に形成され、図4(b)中を上下方向に貫通するように形成される。一方、金型部材30の坏土供給側においては、交差する主隔壁成形溝31の交差部に連通して、金型部材30の図4(b)中の下側の表面から穿孔された原料供給孔32が形成されている。このため、主隔壁成形溝31は下面側で原料供給孔32に接続されている。
【0032】
この構成により、原料供給孔32から供給された原料は、原料供給孔32に接続された主隔壁成形溝31を通り、図3、4の上側に向かって移動する。この金型の坏土供給側から成形側までの長さは例えば20mm程度とすることが可能であるが、原料を原料供給孔32から加圧供給し続けることにより、ハニカム構造の成形体を連続的に得ることが可能である。
【0033】
また、図4(a)において、原料の供給が円滑に行われるように、原料供給孔32は、一方向に形成された主隔壁成形溝31とそれに直交する方向に形成された主隔壁成形溝31の交点に形成されている。ただし、全ての交点に対応して形成する必要はなく、かつ原料供給孔32の数が多いと金型の機械的強度が低下するため、1個おきの交点において形成されることもある。
【0034】
金型における溝の形態を、図1、図2に対応した形態とすれば、図1、2の形態の成形体を得ることができ、これを用いてフィルタを製造することができることは明らかである。しかしながら、図1、図2の形態のように、副隔壁に対応した溝も主隔壁に対応する溝と同様に形成した場合には、金型部材30の肉厚に微細な部分が発生し、金型の機械的強度が大きく低下するために、安定した製造が困難となる。
【0035】
このため、本実施の形態に係る製造方法において用いられる金型においては、主隔壁に対応する溝は、図3、4と同様に原料供給孔に接続されるように形成される。しかしながら、副隔壁に対応する溝は、原料供給孔とは直接接続されず、主隔壁に対応する溝に連結するように形成される。
【0036】
図5は図1の形態のフィルタを製造する際に用いられる金型の斜視図、図6(a)はその上面図、図6(b)はそのD−D方向、図6(c)はそのE−E方向の断面図である。なお、図3、4と同様に、これらの図はこの金型を部分的に示している。
【0037】
この金型においては、金型部材40中において、図1における主隔壁10に対応した主隔壁成形溝41が、図3、4の構造における主隔壁成形溝31と同様に形成されている。また、原料供給孔42も同様に下面側に形成されている。主隔壁成形溝41は、押出成形時において原料が移動する方向において金型部材40を貫通するように形成されている。主隔壁成形溝41は図3、4の構造と同様に下面側(原料が供給される側)で原料供給孔42と接続されている。
【0038】
一方、図1における副隔壁11、12に対応した副隔壁成形溝43は、主隔壁成形溝41と接続されるように形成されているが、斜視図(図5)に示されるように、下面側、すなわち原料供給孔42とは直接接続されていない。具体的には、副隔壁成形溝43は、原料供給孔42と主隔壁成形溝41の交点よりも図の上側(原料が移動する方向における下流側:成形側)においてのみ形成されている。また、副隔壁成形溝43を、主隔壁成形溝41を構成する金型部材40の表面に形成された溝と見ることもできる。この場合、図6(c)に示されるように、この表面を原料が移動する方向において、上流側から下流側に向かって徐々に溝深さd4が大きくなるように形成されている。
【0039】
上面図(図6(a))に示されるように、この場合においても、原料供給孔42は、一方向に形成された主隔壁成形溝41とそれに直行する方向に形成された主隔壁成形溝41の交点の1個おきの箇所に形成されている。図6(a)に示されるように、一つの流通路に対応した箇所における2つの副隔壁成形溝43のそれぞれは、最近接する原料供給孔42に近い位置になるように設定される。
【0040】
上記の構成の金型における原料供給孔42から原料を供給した場合、主隔壁成形溝41には原料供給孔42から直接原料が供給され、主隔壁成形溝41中を下面側から上面側に向かって原料が流れる。この際、副隔壁成形溝43には原料供給孔42からは直接原料は供給されないが、主隔壁成形溝41から間接的に原料が供給される。このため、副隔壁成形溝43にも原料が供給され、図1の断面形状をもった成形体が上面側で得られる。
【0041】
その後、この成形体を焼成する前あるいは焼成後に流入口側封止材91、流出口側封止材92を形成することにより、図1に記載のセラミックハニカムフィルタが得られる。
【0042】
すなわち、図5、6に記載の金型を用いた押出成形を行うことによって、第1の実施の形態に係るセラミックハニカムフィルタを容易に製造することができる。
【0043】
また、図7は図2の形態のフィルタを製造する際に用いられる金型の斜視図、図8(a)はその上面図、図8(b)はそのF−F方向の断面図である。なお、図3、4と同様に、これらの図はこの金型を部分的に示している。斜視図(図7)においては、金型における一つの流通路に対応した箇所(破線で囲まれた箇所)のみを向きを変えて拡大した拡大図も同時に示してある。
【0044】
この金型においても、金型部材50において、図2における主隔壁20に対応した主隔壁成形溝51が、図3、4の構造における主隔壁成形溝31と同様に形成されている。また、原料供給孔52も同様に下面側に形成されている。主隔壁成形溝51は図3、4の構造と同様に原料供給孔52と接続されている。
【0045】
一方、図2における副隔壁21、22に対応した副隔壁成形溝53は、主隔壁成形溝51に接続されて形成されているが、斜視図(図7)に示されるように、下面側、すなわち原料供給孔52がある側には形成されていない。具体的には、図7中の拡大図に示されるように、原料供給孔52と主隔壁成形溝51の交差部よりも上側(原料が移動する方向における下流側)においてのみ形成されている。また、主隔壁成形溝51を構成する金型部材50の表面に形成された副隔壁成形溝53は、この表面を原料が移動する方向において、上流側から下流側に向かって徐々に溝が深くなるように形成されている。すなわち、副隔壁成形溝53は、主隔壁成形溝51を構成する側面において図7中の拡大図に示す溝深さd5が徐々に大きくなるように形成されている。ただし、図2の形態とするために、金型の最上面において一つの流通路に対応する箇所における2つの副隔壁成形溝53は接しない設定とされる。
【0046】
この金型を用いて、図2の形態のセラミックハニカムフィルタを安定して製造することが可能である。
【0047】
図5〜8に示された金型を用いて、図1、2に示されたような副隔壁を具備するセラミックハニカムフィルタを製造することができる。この際、原料は原料供給孔42、52において図の下側から加圧供給される。この際の圧力は、図の下側から上側に向かって働くため、主隔壁成形溝41、51に原料が供給される際にこの圧力は有効に働く。しかしながら、副隔壁成形溝43、53は原料供給孔42、52とそれぞれ直接接続されておらず、副隔壁成形溝43、53への原料供給は、主隔壁成形溝41、51から横方向に向かってなされる。このため、副隔壁成形溝43、53を原料で空隙なく充填するためには、原料(坏土)の密度や粘度等を調整することが必要になる。
【0048】
ただし、この充填の際に意図的に空隙を生成させることも可能である。これにより、図1における副隔壁11(12)の表面形状を平面状(直線状)から外れた曲面状(曲線状)とすることも可能である。流通路中における排気ガスの流れを阻害しない限りにおいて、この表面形状を曲線状とすることは、副隔壁11(12)の表面積を増大させて触媒担持量を多くすることができるため、有効である。
【0049】
図9(b)〜(d)は、こうした場合の副隔壁11(12)の形状を示す例である。図9(a)は、図1(a)に示した流出側セル81の排気ガスの流れる方向に垂直な断面の拡大図であり、ここでは副隔壁11(12)を構成する面はいずれも平面状である。図9(b)〜(d)は、これらの面を曲面状とした場合の例である。
【0050】
図9(b)は、主隔壁10の表面と略直交する副隔壁11(12)の側面が、排気ガスの流れる方向に垂直な断面において曲線形状となった例を、図9(a)と同様に示した断面図である。この場合においては、副隔壁11(12)におけるこれらの側面が、主隔壁10から突出した方向に沿ってうねっている。
【0051】
また、図9(c)は、図9(a)におけるX−X方向の断面に対応する断面図である。図9(c)においては、これらの側面がこの断面において曲線状となっている。この場合には、これらの側面は、排気ガスの流れる方向に沿ってうねっている。
【0052】
また、図9(d)は、図9(a)におけるY−Y方向の断面に対応する断面図である。図9(d)においては、副隔壁12の頂部を構成する面が、排気ガスの流れる方向に沿ってうねっている。
【0053】
なお、図9(b)〜(d)は、第1の実施の形態における副隔壁11(12)の変形例であるが、第2の実施の形態における副隔壁21(22)に対しても同様の構成を適用できることは明らかである。また、図9(b)〜(d)の形態を組み合わせることができることも明らかである。こうした場合には、副隔壁11(12)、21(22)の実効表面積が更に増大するため、より多くの触媒を担持させることが可能となる。
【0054】
このうねりによる凹凸の存在により、凹凸が形成された表面(副隔壁の頂部が構成する、ガスの流れ方向に延伸する表面)の表面積が、凹凸がない場合の表面積と比べて1.05〜1.30倍とすることが好ましい。1.05倍未満の場合、触媒を担持できる表面積が不十分となり、NOxの除去が不十分となる場合があるので好ましくない。一方、1.30倍を超える場合、流路抵抗が大きくなり、圧力損失が大きくなる場合があるので好ましくない。
【0055】
(実施例)
実際に、外径270mm、全長300mmで、結晶相の主成分がコーディエライトである上記の構造のセラミックハニカムフィルタ(図1、図2と同様の構成)を上記の製造方法によって製造し、流通路の内面にTiO、WO、Vからなる触媒を担持させてその特性を調べた。以下ではその結果について説明する。
【0056】
主隔壁のピッチ、壁厚を変えた各種のセラミックハニカムフィルタを同様の材料で製造し、副隔壁を形成した場合(実施例)と、形成しない場合の圧力損失と浄化性能を比較した。なお、図1の構造の副隔壁11、12は、開口幅Wを等分する位置、即ち、副隔壁11、12の中心が主隔壁10からW/3の距離の位置に配置した。
【0057】
圧力損失としては、圧力損失テストスタンドを用い、流量が10Nm/minの空気に対する流入側と流出側の圧力の差分を測定した。ここで、比較例1における圧力損失を基準として、この値が150%以上の場合を×、125%以上150%未満の場合を△、100%以上125%未満の場合を○、100%未満の場合を◎とした。
【0058】
浄化性能を評価するために、内部に触媒が塗布されたこのセラミックハニカムフィルタに対して、排気ガス温度300℃、NOxを400ppm含む排気ガスを導入した。この際、例えば特許文献1に記載のように、尿素をこの排気ガスに添加することにより、NOxが分解される。このため、N換算でこの排気ガスのNOx量と同量の尿素を添加し、セラミックハニカムフィルタ出口におけるガス中のNOx量を測定した。この測定されたNOxの量に基づいて、除去されたNOxの率(NOx浄化率)を算出した。比較例1におけるNOx浄化率を基準として、この値が80%未満の場合を×、80%以上100%未満の場合を△、100%以上125%未満の場合を○、125%以上の場合を◎とした。
【0059】
また、実施例においては上記の製造方法を用いたために、副隔壁の頂部が構成するガスの流れ方向に延伸する表面には凹凸が形成された。凹凸がない場合と比較したこの表面積の比率も測定した。凹凸の調整は押出成形圧力を変化させることにより行った。
【0060】
比較例1〜4は、副隔壁を設けない図10に示す構造のハニカムフィルタを、主隔壁のピッチ、壁厚を変えて作製したものである。比較例5は、副隔壁96、97が流通路内の空間を十字形状で分断した形態(図11(a))、比較例6は、副隔壁98が対角線上で流通路内の空間を分断した形態(図11(b))のハニカムフィルタとした。
【0061】
【表1】

【0062】
主隔壁のピッチ、壁厚が等しい実施例1〜3と比較例1、実施例4〜6と比較例2、実施例11〜13と比較例4をそれぞれ比較すると、副隔壁の厚さに関わらず、実施例1〜3、実施例4〜6、実施例11〜13が少ない圧力損失、高い浄化性能を有している。
【0063】
また、凹凸以外のパラメータが同様である実施例1と実施例2、実施例5と実施例6においては、いずれも凹凸の大きな実施例1、実施例6の方が更に高い浄化性能が得られた。
【0064】
すなわち、副隔壁を有した実施例において、比較例よりも低い圧力損失、高い浄化性能が得られることが確認された。この際、実施例においては、副隔壁表面に凹凸を形成させることにより、浄化性能を更に高めることができることも確認された。また、副隔壁を設けた場合でも、流通路内の空間が分断された比較例5、6においては、圧力損失が高くなった。
【0065】
なお、上記の例では、一つの流通路(流出側セル)に1対の副隔壁を設ける構成としたが、流通路内部の空間を分断せず、ガスが流通路を流れる際の抵抗を大きくせずに、表面積を増大させることができる限りにおいて、この構成は任意である。例えば、副隔壁は1枚でもよく、薄い副隔壁を多数枚設けてもよい。また、1対の副隔壁を設ける場合でも、図1、2のような対称的な構成とする必要もない。
【0066】
また、上記の金型(図6、8等)においては、副隔壁成形溝を上流側から下流側に向かって直線的に溝深さを大きくする設定としたが、押出成形で副隔壁の形状を得ることができる限りにおいて、この構成は任意である。
【符号の説明】
【0067】
10、20、90 主隔壁
11、12、21、22、96、97、98 副隔壁
30、40、50 金型部材
31、41、51 主隔壁成形溝
32、42、52 原料供給孔
43、53 副隔壁成形溝
80 流通路
81 流出側セル
82 流入側セル
91 流入口側封止材
92 流出口側封止材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質の4つの主隔壁で囲まれて形成され、流体を流通させる複数の流通路が隣接して平行に設けられたセラミックハニカム構造体の、前記流通路のうちの一部の流通路は前記流体流入側が封止され、かつ、前記流体流出側が封止されない流出側セル、前記流通路のうちの残余の流通路は流入側が封止されず流出側が封止された流入側セルとし、前記流出側セル及び流入側セルの内面に触媒が担持されたセラミックハニカムフィルタであって、
前記流通路において、前記主隔壁から突出しかつ前記主隔壁と一体に成形され、前記流通路内の空間を分断せずに前記流体の流通方向に延伸する副隔壁を、前記流出側セルに具備することを特徴とするセラミックハニカムフィルタ。
【請求項2】
前記流出側セルを構成する4つの前記主隔壁のうちの対向する2つの主隔壁のそれぞれから、前記副隔壁が、前記流出側セル内において互いに接触しないように突出して形成されたことを特徴とする請求項1に記載のセラミックハニカムフィルタ。
【請求項3】
前記流出側セルにおいて、前記流体の流通方向に垂直な断面における対向する2つの隔壁交差部のそれぞれから、前記副隔壁が、前記流出側セル内において互いに接触しないように突出して形成されたことを特徴とする請求項1に記載のセラミックハニカムフィルタ。
【請求項4】
前記副隔壁は隣接する前記流通路間の主隔壁よりも薄く形成されたことを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載のセラミックハニカムフィルタ。
【請求項5】
前記流出側セルにおける前記触媒の担持量が、前記流入側セルにおける前記触媒の担持量よりも多いことを特徴とする請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載のセラミックハニカムフィルタ。
【請求項6】
前記副隔壁における前記一方向に延伸して形成される表面には、凹凸が形成されたことを特徴とする請求項1から請求項5までのいずれか1項に記載のセラミックハニカムフィルタ。
【請求項7】
請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載のセラミックハニカムフィルタにおける前記流通路が複数平行に設けられた構造を具備する成形体を、前記流通路に流体が流れる方向に沿って原料を加圧供給する押出成形によって得るために用いられる金型であって、
前記複数の主隔壁を形成する主隔壁成形溝と、
前記主隔壁成形溝へ連通した原料供給孔と、
前記原料供給孔と前記主隔壁成形溝との交差部よりも主隔壁成形溝側において、前記主隔壁成形溝と接続され、前記副隔壁を形成するための副隔壁成形溝と、
が形成されたことを特徴とする金型。
【請求項8】
前記副隔壁成形溝は、前記主隔壁成形溝を構成する前記金型の表面を前記原料が移動する方向において、上流側から下流側に向かって徐々に溝深さが大きく形成されたことを特徴とする請求項7に記載の金型。
【請求項9】
請求項7又は8に記載の金型を用いて成形体を形成し、当該成形体を焼成して前記セラミックハニカムフィルタを製造することを特徴とする、セラミックハニカムフィルタの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2013−56312(P2013−56312A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−196899(P2011−196899)
【出願日】平成23年9月9日(2011.9.9)
【出願人】(000005083)日立金属株式会社 (2,051)
【Fターム(参考)】