説明

ディスクブレーキ装置用リターンスプリングの配置方法

【課題】簡易にリターンスプリングの飛び出し、落下を防止することができ、ブレーキパッドの減りによる機能面の影響の少ないディスクブレーキ装置用リターンスプリングの配置方法を提供する。
【解決手段】折返し部とアーム部とを有し、ディスクブレーキ装置において対向配置されるブレーキパッドをロータから離間させるために、前記ブレーキパッドに対して前記ロータの回入方向と回出方向のそれぞれに配置されるリターンスプリングの配置方法であって、2つの前記リターンスプリングにおける前記折返し部を向かい合わせ、当該向かい合わせた2つの前記リターンスプリングにおける折返し部をそれぞれ連結させた状態で前記ブレーキパッドに配置し、連結した2つの前記リターンスプリングにおける前記アーム部の先端により前記ブレーキパッドにおけるライニング相当部の側面を挟持する。更にアーム部の先端が過度に拡開しないよう拡開抑制部をパッドクリップに設けることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はディスクブレーキ装置に係り、特に、制動解除後のブレーキパッドをロータから離間させるためのリターンスプリング(Vスプリング)の配置方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ディスクブレーキ装置において、ブレーキパッドをロータから離間させるための構成としてリターンスプリングを用いた場合の課題としては、その組付け性の悪さを挙げられる事が多かった。しかし、リターンスプリングは、取外しの際にも課題を有する。具体的には次のような事象である。キャリパ浮動型のディスクブレーキ装置では、キャリパとサポートを接続するスライドピンの一方を外す事で、他方のスライドピンを基準としてキャリパを回動させてブレーキパッドを露出させ、その後にリターンスプリングを取り外す事となる。ここで、キャリパ浮動型のディスクブレーキ装置では、キャリパの回動と共に露出されたブレーキパッドが、リターンスプリングの力により脱落する事を防ぐため、露出された一対のブレーキパッドのプレッシャプレートを一方の手で挟み込み、他方の手でリターンスプリングを取り外すという作業を行っていた。このような工程でリターンスプリングの取外しを行うディスクブレーキ装置としては、例えば特許文献1に開示されたものを挙げることができる。しかし、特許文献1に開示されているようなリターンスプリングの場合、一方の手でブレーキパッドを挟み込み、他方の手でリターンスプリングを外した際、リターンスプリングが飛散してしまい、紛失したり、飛散したリターンスプリングが身体に当たったりする事があった。
【0003】
特許文献1に開示されているリターンスプリングは、一対のブレーキパッドに対してロータの回入側と回出側にそれぞれ配置されるためにいずれか一方のリターンスプリングのみが飛散してしまうという事が生じ得る。このため、こうしたリターンスプリングの飛び出しを抑制し得る構成のリターンスプリングとして特許文献2に開示されているようなものを挙げることができる。特許文献2に開示されているリターンスプリングは、2本一対のリターンスプリングにおける頂点部分を、溶接、または連結部材により連結するというものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−132000号公報
【特許文献2】特開昭57−179435号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記特許文献2に開示されているようなリターンスプリングは、ブレーキパッドにおけるプレッシャプレートに貫通孔をあけて、ここにリターンスプリングの先端を嵌め込むといった配置形態を採っている。このような配置形態では、ブレーキパッドの減りに伴い2つのリターンスプリングの連結部分と先端部との距離が変わった場合、リターンスプリングがうまく機能しなくなってしまう可能性がある。
【0006】
そこで本発明では、より簡易にリターンスプリングの飛び出し、落下を防止することができ、ブレーキパッドの減りによる機能面の影響の少ないディスクブレーキ装置用リターンスプリングの配置方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するための本発明に係るリターンスプリングの配置方法は、折返し部とアーム部とを有し、ディスクブレーキ装置において対向配置されるブレーキパッドをロータから離間させるために、前記ブレーキパッドに対して前記ロータの回入方向と回出方向のそれぞれに配置されるリターンスプリングの配置方法であって、2つの前記リターンスプリングにおける前記折返し部を向かい合わせ、当該向かい合わせた2つの前記リターンスプリングにおける折返し部をそれぞれ連結させた状態で前記ブレーキパッドに配置し、連結した2つの前記リターンスプリングにおける前記アーム部の先端が前記ブレーキパッドにおけるライニング相当部の側面と接触可能であることを特徴とする。
【0008】
また、上記のような特徴を有する場合好ましくは、連結した2つの前記リターンスプリングにおける前記アームの先端同士により前記ブレーキパッドにおけるライニング相当部の側面を挟持することを特徴とする。
【0009】
また、上記のような特徴を有するリターンスプリングの配置方法では、2つの前記リターンスプリングの連結は、前記折返し部を鎖状に交差させて成るようにすることができる。
【0010】
このような方法を採用することによれば、リターンスプリングはロータ円周方向の動きを制限され、2つのリターンスプリングを連結するに際して他の部材を必要としない。よって、ディスクブレーキ装置に対してブレーキパッドを組付ける際の部品点数を減らすことができる。また、リターンスプリングが遠くへ飛散することによる紛失等を確実に防ぐことができる。
【0011】
また、ライニングの側面を挟持することで、リターンスプリングはロータ円周方向で移動することなくプレッシャプレートを安定して拡開する。
また、上記のような特徴を有するリターンスプリングの配置方法では、前記アーム部の先端をディスクブレーキ装置におけるパッドクリップに前記リターンスプリングの拡開を抑制させる拡開抑制部を設け、前記リターンスプリングは、前記アーム部の先端が前記拡開抑制部に接触した後は、それ以上の拡開が抑制されるようにすることもできる。
【0012】
このような方法を採用することによれば、リターンスプリングの拡開力(ブレーキパッドにおけるプレッシャプレートへの付勢力)は、その先端がパッドクリップに突きあたることでその拡開の開度を抑制される。よって、リターンスプリングが過度に拡開することによりブレーキパッドが脱落するといった事態を避けることができる。さらに、一方の手がプレッシャプレートを挟み続ける手間が省ける。
【0013】
また、前記拡開抑制部は、新品ブレーキパッドが前記ロータから予め定められた距離以上離れた場合に、当該距離以上前記新品ブレーキパッドを前記ロータから離間させない位置に設け、前記リターンスプリングの拡開抑制を行うようにすると良い。
【0014】
このような特徴を有することにより、ブレーキパッドをロータから適度に離間させることができると共に、ブレーキパッドがサポートから脱落することを防ぐことができるからである。
【発明の効果】
【0015】
上記のような特徴を有するディスクブレーキ装置用リターンスプリングの配置方法によれば、簡易にリターンスプリングの飛び出し、落下を防止することができる。また、キャリパ回動後にプレッシャプレートを押さえ続ける作業も不要となる。よって両手でリターンスプリングを確実に着脱することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明を実施する対象としてのディスクブレーキ装置の例を示す図である。
【図2】第1の実施形態に係るリターンスプリングの配置方法の例を示す図である。
【図3】対を成すリターンスプリングとブレーキパッドにおけるライニングとの関係を説明するための図である。
【図4】第1の実施形態に係るリターンスプリングの配置方法の応用形態を実施するために使用するパッドクリップの構成を示す図である。
【図5】第1の実施形態に係るリターンスプリングの配置方法の応用形態を説明する図である。
【図6】第2の実施形態に係るリターンスプリングの配置方法の例を示す図である。
【図7】第2の実施形態に係るリターンスプリングの配置方法の応用形態を説明する図である。
【図8】発明を実施する際に使用可能なブレーキパッドの例を示す図である。
【図9】発明を実施するにあたり使用可能なリターンスプリングに係る第1の形態を示す図である。
【図10】リターンスプリングの第2の形態を示す図である。
【図11】リターンスプリングの第3の形態を示す図である。
【図12】リターンスプリングの第4の形態を示す図である。
【図13】リターンスプリングの好適形態を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明のディスクブレーキ装置用リターンスプリングの配置方法に係る実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。
まず、図1を参照して、本発明に係る方法を実施するためのディスクブレーキ装置について説明する。なお、図1(A)はディスクブレーキ装置の正面図であり、図1(B)は同図(A)における左側面部分断面を示す図である。
【0018】
図1に示すディスクブレーキ装置10は、キャリパ浮動型のものであり、キャリパ20とサポート40、ブレーキパッド50,60、及びロータ80を基本として構成されている。
【0019】
キャリパ20は、前記ロータ80を介してインナ側に配置されるシリンダ部22と、アウタ側に配置される爪部26、ロータ80を跨ぐようにしてシリンダ部22と爪部26とを繋ぐブリッジ部24、及びキャリパ20を前記サポート40に保持するためのアーム部30とを有する。なお、インナ側、アウタ側については、図示しない車両を基準として、ロータ80の車両内側をインナ側、反対側をアウタ側と称している。
【0020】
シリンダ部22の内部には、ピストン28が設けられている。このピストン28は、シリンダ部22の内部に導入される作動油により押し出し動作が成される。つまり、ブレーキ操作に伴って送り込まれる作動油が、シリンダ部22の内部に流入することにより、シリンダ部22の内部に配置されたピストン28がロータ80側へ向けて押し出されることとなる。
【0021】
爪部26は、上述したシリンダ部22と対向して設けられるブレーキパッド(アウタ側ブレーキパッド)60の押圧部である。
前記ブリッジ部24は、上述したシリンダ部22と爪部26とを連結する連結部であり、両者の間に介在されるロータ80を跨ぐように配置されている。
【0022】
前記アーム部30は、キャリパ20をサポート40へ固定するための係合部であり、本実施形態の場合、その基端部の接続個所をシリンダ部22としてロータ80の回入側と回出側のそれぞれに一対のアーム部30を延設している。アーム部30の先端には、スライドピン32を挿通固定するための貫通孔(不図示)が形成されている。なお、スライドピン32は、キャリパ20をサポート40に対して摺動可能に支持するための支持部材である。
【0023】
サポート40は、図示しない車両にキャリパ20を保持するための保持部材である。本実施形態に係るサポート40は、ロータ80のインナ側とアウタ側のそれぞれにブレーキパッド保持部を有する。本実施形態に係るサポート40には、取付孔(不図示)と、スライドピン穴(不図示)が形成されている。
【0024】
ブレーキパッド(インナ側ブレーキパッド50、アウタ側ブレーキパッド60)は、ロータ80との間で摩擦力を発生させるライニング54,64と、ライニング54,64が貼り付けられた金属板であるプレッシャプレート52,62を有する。
【0025】
ブレーキパッド50,60には、図2に示すように、リターンスプリング70が組み付けられる。リターンスプリング70は、制動動作が解除された際、ブレーキパッド50,60の引き摺りを防ぐために、ブレーキパッド50,60をロータ80から離間させる役割を担う線条バネである。具体的な構成としては、折返し部72と、その両端に延設されたアーム部(一方のアーム部74aと他方のアーム部74b)、及びアーム部74a,74bの先端側に位置する保持部76a,76bから成る。対を成して設けられるアーム部74a,74bと、その間に設けられる折返し部72とは、略V字型、あるいはU字型を成し、前記アーム部74a,74b及び折返し部72の撓みによって生ずる反発力により、ブレーキパッド50,60をロータ80から離間させる。
【0026】
本実施形態に係るリターンスプリング70は、ロータ80を跨ぐように、一対のブレーキパッド50,60に対して2つ、ロータ80の回入側と回出側にそれぞれ配置される。
また、本実施形態に係るリターンスプリング70は2つで一対として配置される。リターンスプリング70の配置形態としては、ブレーキパッド50,60をサポート40に組付けた後に、保持部76a,76bをライニング54,64の側面(ロータの回入側、あるいは回出側の側面)に引掛け、アーム部74a,74bがキャリパ20の中心方向へ向かって延びるように、すなわち回入側と回出側とにそれぞれ配置される2つのリターンスプリング70の折返し部72が対向するように配置される。また、実施形態に係るリターンスプリング70は、対向する2つの折返し部72を構成する線条材を交差させて、鎖状に連結した状態とし、お互いをロータ80の円周方向に引っ張るようにしながらブレーキパッド50,60のライニング54,64の側面を対を成すリターンスプリング70の保持部76a,76bが挟持するように組付けられる。
【0027】
ここで、本実施形態に係るリターンスプリング70は図3に示すように、連結した2つのリターンスプリング70における保持部76a,76b間の距離lが、ブレーキパッド50,60におけるライニング64(54)の長さLよりも少し短くなるように設定されている。
【0028】
このため、対を成すリターンスプリング70は、鎖状に連結した折返し部72を基点として互いに引っ張り合うような取り付け状態となる。このような構成とすることで、保持部76a,76bには矢印Aで示すブレーキパッド50,60を押し戻す方向の力と、矢印Bで示すライニング54,64を保持する方向の力が作用することとなる。よって、ブレーキパッド50,60のプレッシャプレート52,62に加工を施すことなくリターンスプリング70がロータ80の円周方向に脱落することを防止することができ、かつブレーキパッド50,60を押し戻す作用も維持することができる。
【0029】
このように、リターンスプリング70の保持部76a,76bの距離lをライニング64(54)の長さLよりも短くすることで、リターンスプリング70本来の作用に加え、保持部76a,76bにライニング64(54)の側面を挟持する作用を持たせることが可能となる。また、折返し部72を交差させたことにより、リターンスプリング70を外す際、一方の手によりブレーキパッド50,60を挟み込むようにして抑えながらの作業となった場合でも、取り外されたリターンスプリング70が大きく飛散しない。万が一飛散しても、もう一方のリターンスプリングがつながっているので、遠くには飛散せず、紛失しない。
【0030】
上記のような構成のディスクブレーキ装置10では、シリンダ部22に対して作動油が導入されると、内部に配置されたピストン28が押し出される。押し出されたピストン28は、サポート40に保持されたインナ側ブレーキパッド50のプレッシャプレート52を押圧する。プレッシャプレート52を押圧されたインナ側ブレーキパッド50のライニング54は、ロータ80のインナ側摺動面に圧接される。
【0031】
インナ側ブレーキパッド50がロータ80に圧接されると、ピストン28によるインナ側ブレーキパッド50への押圧力は、キャリパ20に対し反力として作用することとなる。反力を受けたキャリパ20は、スライドピン32がスライド穴から抜け出るように全体がインナ側へとスライドすることとなる。このスライドにより爪部26がロータ80のアウタ側摺動面へ近接することとなり、爪部26の内側面に保持されたアウタ側ブレーキパッド60のライニング64は、ロータ80のアウタ側摺動面に圧接することとなる。
【0032】
ロータ80に押し付けられたインナ側ブレーキパッド50とアウタ側ブレーキパッド60と、ロータ80の主摺動面との間には摩擦力が発生し、双方のブレーキパッド50,60にはロータ80の回出方向へ移動しようとする力が働く。
【0033】
そして、ロータ80の回出方向へ移動しようとするインナ側ブレーキパッド50、アウタ側ブレーキパッド60をサポート40のトルク受け部により受け止めることで、車両に対して制動力を与えることができる。
【0034】
ブレーキ動作が解除され、シリンダ部22に対する作動油の導入が無くなると、ピストン28を介したロータ80に対するブレーキパッド50,60の圧接は解除される。ブレーキパッド50,60の圧接が解除されると、ブレーキパッド50,60に対してはリターンスプリング70による反発力のみが作用することとなる。ブレーキパッド50,60に対してリターンスプリング70による反発力のみが作用すると、ブレーキパッド50,60はロータ80から離間する動きを示し、ロータ80に対するライニング54,64の引き摺りを回避することができる。
【0035】
このようなディスクブレーキ装置10では、2つあるスライドピン32,32のうちの一方(例えば図1(A)中右側)を取り外し、他方(例えば図1(A)中左側)のスライドピン32を基点として、例えば矢印A(図1参照)の方向へキャリパ20を回動させた場合、リターンスプリング70の作用によりブレーキパッド50,60がサポート40の外側へ飛び出す事がある。このため、キャリパ20を取り外す際にはブレーキパッド50,60を一方の手で挟み込む必要がある。
【0036】
一方の手でブレーキパッド50,60を挟み込んだまま他方の手のみでリターンスプリング70を取り外すと、中途半端に取り外したリターンスプリング70が弾性により飛散しようとする。しかし本実施形態に係るリターンスプリング70の場合、未だ組み付け状態にある他方のリターンスプリング70と、取り外した一方のリターンスプリング70が、折返し部72により鎖状に連結されているため、飛散や落下に伴うリターンスプリング70の紛失等を防ぐことが可能となる。
また、他方のリターンスプリング70を取り外し損ねた場合も、両スプリングは連結されたままなので、勢いよく飛散して紛失してしまう可能性が低い。
【0037】
次に、図4、図5を参照して、本実施形態に係るリターンスプリングの配置方法に係る応用形態について説明する。なお図4において図4(A)はパッドクリップの斜視図であり、図4(B)はパッドクリップの側面図である。また、図5はサポートにおけるトルク受け部にパッドクリップ、ブレーキパッド、及びリターンスプリングを組み付けた状態の部分拡大図であり、図5(A)は側面図、図5(B)は上側部分断面図を示す。本形態では、ブレーキパッド50,60を保持、摺動させる役割を担うパッドクリップ90に加工を施すことで、リターンスプリング70の配置形態に工夫を施している。
【0038】
具体的には、サポート40のトルク受け部42における凸状部44を挟持するパッドクリップ90におけるコ字状部92の上片94と下片98を繋ぐ連結片96に、拡開抑制部(ストッパ)なる切り起し片99を設けている。切り起し片99は、図5(A)に示すように、その高さが、ブレーキパッド60(50)を組み付けた状態において、パッドクリップ90の連結片96とブレーキパッド60(50)の切欠き部63との隙間以下の高さを有するものとする。
【0039】
切り起し片99は、図5(B)に示すように、ブレーキパッド50,60におけるプレッシャプレート52,62からΔdだけ外側(ロータ80から離間する側)に設ける。Δdの値を具体的に示すと、2mm以上とすることができる。すなわち、ブレーキパッド50,60を新品とした際の摺動面から、ブレーキパッド50,60を2mm以上であってパッドクリップ90による支持の範囲内に移動させると、リターンスプリング70は、それ以上の拡開を抑制される。
【0040】
このような構成とすることで、ブレーキパッド50,60自体は、切り起し片99の有無に係わらずパッドクリップ90上を摺動することができ、リターンスプリング70における保持部76a,76bの先端は、切り起し片99に引っかかることとなり、切り起し片99はいわゆるストッパとしての役割を担うこととなる。
【0041】
これにより、ブレーキパッド60(50)が新品状態よりもロータ80からかなり離れていて(ロータ80とブレーキパッド60(50)の離間が大きく)リターンスプリング70の拡開力が不要な位置においてはパッドクリップ90に設けられた切り起し片99によりリターンスプリング70の拡開が阻止され、切り起し片99よりも外側へは広がることが無くなる。よって、リターンスプリング70の過剰な拡開によりブレーキパッド50,60がパッドクリップ90の外側へ脱落するといった事態を生じさせることが無い。
【0042】
なお、図4、図5では、ストッパの構成について、連結片の一部を切り起した切り起し片としているが、例えばストッパは、プレス加工によって構成する凸部等であっても良い。
【0043】
次に本発明のディスクブレーキ装置用リターンスプリングの配置方法に係る第2の実施形態について、図6を参照して説明する。なお、図6において図6(A)はリターンスプリングの組付け状態を示す斜視図であり、図6(B)は組付け状態を示す側面図である。
【0044】
本実施形態に係る配置方法も、その基本的な構成は上述した第1の実施形態に係るリターンスプリングの配置方法と同様である。配置に関する相違点は、リターンスプリング70を固定するブレーキパッド60(50)におけるプレッシャプレート62(52)の構成により生ずる。すなわち、本実施形態で使用するディスクブレーキ装置では、ブレーキパッド60におけるプレッシャプレート62のリターンスプリング配置位置に、凹部65を設けている。凹部65は、リターンスプリング70の保持部76a(76b)の先端部77が接触位置に設けられ、その底面は、ブレーキパッド60の下部側へ向けてその深さが深くなる傾斜面とされている。
【0045】
また、本実施形態におけるリターンスプリング70は、先端部77を僅かに外側、すなわちプレッシャプレート62側へ向けて屈曲させている。このような構成とすることで、先端部77を凹部65へ落とし込むことができ、リターンスプリングの脱落防止に際して高い効果を得ることができる。
【0046】
なおこのような配置形態を採る場合においてもリターンスプリング70には、ブレーキパッド60を押し広げる作用に加え、ライニング64を挟持する作用も持たせるようにする。ここで、ブレーキパッド60のプレッシャプレート62に形成する凹部65は、プレッシャプレート62形成時におけるプレス加工により形成することができるため、その製造上の工程数には変わりは無い。
【0047】
次に、第2の実施形態に係るリターンスプリングの配置方法の応用形態について、図7を参照して説明する。なお、図7において図7(A)はリターンスプリングの組付け状態を示す斜視図であり、図7(B)は組付け状態を示す側面図である。
【0048】
本形態に係るリターンスプリングの配置方法は、上記基本形態ではプレッシャプレート62における先端部接触部分のみに設けていた凹部65を、ブレーキパッド上部からリターンスプリングにおける先端部接触部にかけて設ける溝67とし、この溝(凹部)67に、リターンスプリング70の保持部76a(76b)を嵌め込む形態とした。
【0049】
このような形態とした場合には、保持部76aのうち溝67に入り込む部分の割合が大きくなる。このため、リターンスプリング70の脱落防止効果、ライニング64の減りに伴う組付け位置のズレ防止効果が高くなる。
その他の構成、作用、効果については、上述した基本形態に係るリターンスプリングの配置方法と同様である。
【0050】
上記実施形態ではいずれも、リターンスプリング70の配置に対応するブレーキパッド60の形態について、プレッシャプレート62に保持部として凹状の切欠き(切り欠き部63)を有する形態の例を挙げて説明している。しかしながらブレーキパッド60の形態は、図8に示すように、凹状の切欠きに替えて凸状の出っ張り(耳部68)を有するものとしても良い。
【0051】
また、リターンスプリングの配置方法を実施する対象としてのディスクブレーキの例として、図1にキャリパ浮動型のディスクブレーキ装置10を挙げて説明した。しかしながら本発明に係るリターンスプリングの配置方法は、リターンスプリング70がブレーキパッド50,60のプレッシャプレート52,62からはみ出す事が無いため、オポーズド型のディスクブレーキ(不図示)に対しても採用することができる。
【0052】
また、上記実施形態ではブレーキパッド50,60は鋼板等によって構成されたプレッシャプレート52,62と、このプレッシャプレート52,62に貼付された摩擦部材であるライニング54,64とにより構成されるように説明した。しかしながら本発明のリターンスプリング70の配置方法を実施するにあたっては、ブレーキパッド50,60はプレッシャプレート相当部とライニング相当部を1つの部材により一体形成したものとした場合でも、その効果に何ら影響を与えるものでは無い。
【0053】
次に実施形態に使用可能なリターンスプリングの他の形態について説明する。実施形態に使用するリターンスプリングは例えば、図9に示すように、折返し部72とアーム部74a,74bとの移行個所に傾斜を持たせ、折返し部72を立ち上がらせた状態としたことを特徴としたものを挙げることができる。
【0054】
このような構成とすることにより、2つのリターンスプリング70の交差部を意図的に立体交差とする事ができ、ライニング54,64の減り等によりリターンスプリング70の配置形態がズレたとしても、2つのリターンスプリング70のアーム部74a,74bが重なり合うという事が無い。
【0055】
次に、リターンスプリングに係る第2の実施形態について、図10を参照して説明する。本実施形態に係るリターンスプリング70は、図10に示すように、折返し部72の両端部が撫肩状になっており、その端部から延設されるアーム部74a,74bも、徐々に広がる構成を採っている。このため、第1の実施形態に係るリターンスプリングに比べ、その形態はV字に近似することとなる。
【0056】
このように本実施形態に係るリターンスプリング70は、折返し部72の端部を撫肩状にし、アーム部74a,74bを徐々に広がる形態としたことにより、上記実施形態と同様の効果、すなわち対を成すリターンスプリング70のアーム部74a,74b同士の干渉を防ぐことを可能とした。また、このような撫肩状の形態としたため、ブレーキパッド50,60におけるライニング54,64の減りによりアーム部74a,74bの開度が狭められ、これに伴って保持部76a,76bから折返し部72までの垂直距離Rが伸びた場合であっても、アーム部74a,74b間の距離が全体的に狭められるため、2つのリターンスプリング70の保持部76a,76bによるライニング54,64側面の挟持力が弱まる虞が少ない。
【0057】
次に、リターンスプリングに係る第3の実施形態について、図11を参照して説明する。本実施形態に係るリターンスプリング70は、図11に示すように、折返し部72の両端部から延設される2本のアーム部(一方のアーム部74aと他方のアーム部74b)を交差させる構成を採る。このように、アーム部74a,74bを交差させることで、折返し部72側には閉塞領域75が形成される。そして、本実施形態におけるリターンスプリング70は、前記閉塞領域75同士を鎖状に連結することにより成り立つ。
【0058】
このような構成とすることによれば、上記第1、第2の実施形態に係るリターンスプリングに比べて対向配置されるリターンスプリング70の連結状態が強固になる。よって、リターンスプリング70を取り外した際に飛散して紛失、落下するといった事態を防ぐことができる確率を向上させることができる。
【0059】
次に、リターンスプリングに係る第4の実施形態について、図12を参照して説明する。なお、図12において、図12(A)は対を成すリターンスプリングの平面図であり、図12(B)は対を成すリターンスプリングの側面断面図である。
【0060】
本実施形態に係るリターンスプリング70は、図12に示すように、連結部材77により対を成す2つのリターンスプリング70を連結する構成としている。このような構成の場合、連結する2つのリターンスプリング70を交差させる必要性が無いため、取り付け状態の安定性が高く、組付け性が高い。なお、本発明に係るリターンスプリング70の配置方法を実施するにあたって対を成すリターンスプリング70は、溶接等により接合しても良い。
【0061】
なお、本発明で用いるリターンスプリングは図13(A)、(B)に示すように、保持部76aと保持部76bとの距離Dを同一とした場合であっても、折返し部72の幅により、アーム部74a,74bの回転(撓み)の基点となる点Oからのアーム部74a,74bの張り出し角度θが異なることとなる。アーム部74a,74bの張り出し角度θは、ブレーキパッド50,60におけるライニング54,64の減りに伴い減少することとなる。
【0062】
ここで、図13(A)に示したリターンスプリングと図13(B)に示したリターンスプリングとでは、折返し部72から保持部76a,76bまでの距離l1を等しくした場合に、張り出し角度θが異なると、アーム部74a,74bの長さに違いが生ずる。
【0063】
このため、ライニング54,64の減り(新品からフル摩耗)に伴って張り出し角度θが減少した場合、減少する距離dが等しい場合であっても、保持部76a,76bの移動距離にはΔR>Δrといった違いが生ずることとなる。この距離の違いは、リターンスプリング70によるライニング54,64側面の挟持力の相違に関連することとなる。よってリターンスプリング70は、折返し部72の幅を広くし、アーム部74a,74bの張り出し角度θの変化による保持部76a,76bの移動距離の変化を少なくすることが望ましい。
【符号の説明】
【0064】
10………ディスクブレーキ装置、20………キャリパ、22………シリンダ部、24………ブリッジ部、26………爪部、28………ピストン、30………アーム部、32………スライドピン、40………サポート、50………インナ側ブレーキパッド(ブレーキパッド)、52………プレッシャプレート、54………ライニング、60………アウタ側ブレーキパッド(ブレーキパッド)、62………プレッシャプレート、64………ライニング、70………リターンスプリング、72………折返し部、74a………一方のアーム部(アーム部)、74b………他方のアーム部(アーム部)、76a,76b………保持部、80………ロータ、90………パッドクリップ、99………拡開抑制部(ストッパ)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
折返し部とアーム部とを有し、ディスクブレーキ装置において対向配置されるブレーキパッドをロータから離間させるために、前記ブレーキパッドに対して前記ロータの回入方向と回出方向のそれぞれに配置されるリターンスプリングの配置方法であって、
2つの前記リターンスプリングにおける前記折返し部を向かい合わせ、当該向かい合わせた2つの前記リターンスプリングにおける折返し部をそれぞれ連結させた状態で前記ブレーキパッドに配置し、
連結した2つの前記リターンスプリングにおける前記アーム部の先端が前記ブレーキパッドにおけるライニング相当部の側面と接触可能であることを特徴とするディスクブレーキ装置用リターンスプリングの配置方法。
【請求項2】
前記接触は、前記アーム部の先端により前記ライニング相当部の側面を挟持することで成されることを特徴とする請求項1に記載のディスクブレーキ装置用リターンスプリングの配置方法。
【請求項3】
2つの前記リターンスプリングの連結は、前記折返し部を鎖状に交差させて成ることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のディスクブレーキ装置用リターンスプリングの配置方法。
【請求項4】
前記アーム部の先端をディスクブレーキ装置におけるパッドクリップに前記リターンスプリングの拡開を抑制させる拡開抑制部を設け、
前記リターンスプリングは、前記アーム部の先端が前記拡開抑制部に接触した後は、それ以上の拡開が抑制されることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1に記載のディスクブレーキ装置用リターンスプリングの配置方法。
【請求項5】
前記拡開抑制部は、新品ブレーキパッドが前記ロータから予め定められた距離以上離れた場合に、当該距離以上前記新品ブレーキパッドを前記ロータから離間させない位置に設け、前記リターンスプリングの拡開抑制を行うことを特徴とする請求項4に記載のディスクブレーキ装置用リターンスプリングの配置方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2010−270799(P2010−270799A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−121373(P2009−121373)
【出願日】平成21年5月19日(2009.5.19)
【出願人】(000000516)曙ブレーキ工業株式会社 (621)
【Fターム(参考)】