説明

ディスクブレーキ装置

【課題】サーボ機構の位置をパッドのライニング摩耗に応じ自動的に調整する位置自動調整装置の改善を図ること。
【解決手段】サーボ機構70の位置をパッド12のライニング摩耗に応じ自動的に調整する位置自動調整装置80は、制動時にパッド12からの制動トルクを受けるアンカー部15dにロータ軸方向にて進退可能に螺着されてサーボ機構70に対しロータ軸方向には一体的に移動可能で回転可能に連結される調整ネジ81と、調整ネジ81の外周に巻き付けられて接触し一端81aをアンカー部15dに固定されたロックコイル82を備える。ロックコイル82は、調整ネジ81の前進回転時に弛められて調整ネジ81の回転を許容し後退回転時に締め付けられて調整ネジ81の回転を規制する。ロックコイル82の一端82aとアンカー部15dの取付穴15d1間には調整ネジ81の回転方向にロックコイル82の回転を所定量許容するクリアランスが設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディスクブレーキ装置に係り、特に、操作力に応じてパッドがディスクロータに向けて押動されるように構成されていて、制動時における前記パッドの裏金と前記ディスクロータのロータ周方向での摩擦力を前記ディスクロータに向けたサーボ荷重に変換して前記パッドの裏金に伝えるサーボ機構を備えるとともに、このサーボ機構の位置を前記パッドのライニング摩耗に応じて自動的に調整する位置自動調整装置を備えてなるディスクブレーキ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種のディスクブレーキ装置は、例えば、下記特許文献1に示されていて、このディスクブレーキ装置においては、サーボ機構を備えているため、制動時においてパッドの裏金にサーボ荷重を付加することが可能であり、制動時には小さな操作力にて大きなブレーキ力を得ること(サーボ作用を得ること)が可能であるとともに、位置自動調整装置を備えているため、上記したサーボ作用をパッドのライニング摩耗に拘わらず的確に得ることが可能である。
【特許文献1】特開2005−16728号公報
【0003】
上記した特許文献1に記載されているディスクブレーキ装置には、サーボ機構の位置をパッドのライニング摩耗に応じて無段階に調整可能な位置自動調整装置が示されていて、サーボ機構の位置を最適に調整可能である。しかし、上記した特許文献1に記載されている無段階に調整可能な位置自動調整装置は、キャリパにロータ軸方向にて進退可能に螺着されてサーボ機構の斜面プレートに対して係合・離脱可能なベースプレートと、斜面プレートに一体的に設けられてベースプレート内に進入するフランジ付の管状付設部と、この管状付設部のフランジとベースプレート間に介装した圧縮ばねおよびスラスト軸受等を構成要素としていて、構成が複雑であり改善の余地がある。また、上記した特許文献1に記載されている無段階に調整可能な位置自動調整装置では、オーバーアジャストに対する対策が施されていないため、オーバーアジャストした場合には、制動を解除したときにもパッドのライニングがディスクロータに接して離れないおそれがある。
【発明の開示】
【0004】
本発明は、上記した課題を解消すべくなされたものであり、操作力に応じてパッドがディスクロータに向けて押動されるように構成されていて、制動時における前記パッドの裏金と前記ディスクロータのロータ周方向での摩擦力を前記ディスクロータに向けたサーボ荷重に変換して前記パッドの裏金に伝えるサーボ機構を備えるとともに、このサーボ機構の位置を前記パッドのライニング摩耗に応じて自動的に調整する位置自動調整装置を備えてなるディスクブレーキ装置において、前記位置自動調整装置が、ネジ機構を備えるとともに、このネジ機構の逆転防止用ロック機構を備えていることに特徴がある。前記位置自動調整装置が、制動時に前記パッドからの制動トルクを受けるアンカー部にロータ軸方向にて進退可能に螺着されて前記サーボ機構に対してロータ軸方向には一体的に移動可能で回転可能に連結される調整ネジと、この調整ネジの外周に巻き付けられて内周にて接触し一端を前記アンカー部に固定されて前記調整ネジの前進回転時には弛められて同調整ネジの回転を許容し後退回転時には締め付けられて同調整ネジの回転を規制するロックコイルを備えていることも可能である。
【0005】
本発明によるディスクブレーキ装置においては、制動時にサーボ機構がパッドの裏金とディスクロータのロータ周方向での摩擦力をディスクロータに向けたサーボ荷重に変換してパッドの裏金に伝える。このとき、位置自動調整装置のロックコイルが調整ネジの後退回転を規制してサーボ機構の位置を保持する。また、制動時にパッドのライニングが摩耗して、パッドの裏金がディスクロータ側へ移動するのに伴って、位置自動調整装置の調整ネジが前進回転してサーボ機構の位置をパッドのライニング摩耗に応じて自動的に調整する。
【0006】
このため、制動時においてパッドの裏金にサーボ荷重を付加することが可能であり、制動時には小さな操作力にて大きなブレーキ力を得ること(サーボ作用を得ること)が可能であるとともに、上記したサーボ作用をパッドのライニング摩耗に拘わらず的確に得ることが可能である。また、位置自動調整装置が、上記した調整ネジとロックコイルを備える構成であって、シンプルであり安価に構成することが可能である。
【0007】
また、本発明の実施に際して、前記ロックコイルの一端と前記アンカー部間に、少なくとも前記調整ネジの回転方向に前記ロックコイルの回転を所定量許容するクリアランスを設けた場合には、制動時に位置自動調整装置の調整ネジが過剰に前進回転してサーボ機構の位置をオーバーアジャストしても、そのときには制動の解除に伴って上記したクリアランスに相当する量だけ調整ネジとロックコイルが一体的に後退回転してサーボ機構の位置を後退移動させることが可能であるため、パッドのライニングがディスクロータから離れることが可能であり、パッドのライニングとディスクロータの引き摺りが未然に解消される。
【0008】
また、本発明の実施に際して、前記パッドはその裏金背部に配置したピストンにより操作力に応じてディスクロータに向けて押動されるように構成されていて、前記ピストンと前記位置自動調整装置は連動するように構成されていることも可能である。この場合には、制動時にパッドのライニングが摩耗して、パッドの裏金がディスクロータ側へ移動するのに伴って、ピストンの移動と共に位置自動調整装置の調整ネジが前進回転してサーボ機構の位置をパッドのライニング摩耗に応じて自動的に調整する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下に、本発明の各実施形態を図面に基づいて説明する。図1〜図5は本発明を車両用のディスクブレーキ装置に実施した実施形態を示していて、この実施形態のディスクブレーキ装置は、車輪(図1にはタイヤリムの内径位置Wrが仮想線にて示してある)と一体的に回転するディスクロータ11を挟持可能な一対のインナパッド12およびアウタパッド13と、これら各パッド12,13をそれぞれディスクロータ11の各制動面に向けてロータ軸方向に押動可能なピストン14およびキャリパ15を備えている。
【0010】
また、このディスクブレーキ装置は、ピストン14とキャリパ15にロータ軸方向の押動力を付与するための電気モータ20、歯車伝達機構30、ネジ送り機構40およびクサビ伝達機構50を備えるとともに、各パッド12,13とディスクロータ11間の非制動時における隙間を自動的に調整するための隙間自動調整機構60を備えている。また、このディスクブレーキ装置は、インナパッド12に対応して設けた一対のサーボ機構70(一方が前進制動用で他方が後進制動用である)を備えるとともに、各サーボ機構70に対応して設けた位置自動調整装置80を備えている。
【0011】
インナパッド12は、図2に示したように、裏金12aとライニング12bを有していて、ピストン14によってディスクロータ11に向けて押動・押圧される構成であり、マウンティング(図示省略の支持ブラケットで車体に組付けられるもの)にロータ軸方向へ移動可能に組付けられるようになっていて、制動時の制動トルクはサーボ機構70と位置自動調整装置80を介してキャリパ15のアンカー部15dにて受け止められるようになっている。アウタパッド13は、裏金13aとライニング13bを有していて、キャリパ15の反力アーム部15aによってディスクロータ11に向けて押動・押圧される構成であり、マウンティングにロータ軸方向へ移動可能に組付けられるようになっていて、制動時の制動トルクはマウンティングにて受け止められるようになっている。
【0012】
ピストン14は、キャリパ15のシリンダ部15bに固体潤滑材等からなりピストン14の軸方向移動を円滑とする円筒状の軸受16を介してシリンダ軸方向へ摺動可能かつ回転可能に組付けられていて、キャリパ15間に座板17とともに介装した皿ばね18によりディスクロータ11から離間するピストン軸方向に付勢されている。また、ピストン14には、隙間自動調整機構60の構成要素であるアジャストホイール61とアジャストナット62が一体的に設けられている。
【0013】
キャリパ15は、上記した反力アーム部15aとシリンダ部15bを有するとともに、連結アーム部15cを有していて、連結アーム部15cにてマウンティングに周知のようにしてロータ軸方向へ移動可能に組付けられている。また、このキャリパ15には、主としてクサビ伝達機構50を収容する第1ハウジング101と、主としてネジ送り機構40を収容する第2ハウジング102と、主として歯車伝達機構30を収容する第3ハウジング103が一体的に組付けられている。
【0014】
電気モータ20は、ブレーキペダル(図示省略)等による制動操作に応じて正方向に回転駆動され制動解除操作に応じて逆方向に回転駆動される回転軸21を有していて、この回転軸21がネジ送り機構40のネジ軸41に対して並列(略平行)に配置されるようにして、第2ハウジング102に組付けられている。
【0015】
歯車伝達機構30は、電気モータ20における回転軸21の回転駆動力をネジ送り機構40の入力要素であるネジ軸41に回転駆動力として減速して伝達するものであり、電気モータ20とネジ送り機構40との間に介装されている。この歯車伝達機構30は、電気モータ20の回転軸21に一体的に組付けた入力歯車31と、第2ハウジング102に回転自在に組付けられて入力歯車31と常時噛合する中間歯車32と、ネジ送り機構40におけるネジ軸41の端部に一体的に形成されて中間歯車32と常時噛合する出力歯車33を備えていて、入力歯車31が出力歯車33より小径とされて減速可能である。
【0016】
ネジ送り機構40は、電気モータ20の回転駆動力をネジ軸方向駆動力に変換してクサビ伝達機構50に伝達するものであり、第2ハウジング102に回転可能に組付けたネジ軸41と、このネジ軸41のネジ部上に組付けられて第2ハウジング102にネジ軸方向へ移動可能かつ回転不能に組付けたボールナット42と、このボールナット42に連結ピン43を介して一体的に連結した連結スリーブ44と、この連結スリーブ44とクサビ伝達機構50のクサビ部材51を一体的に連結する連結ピン45を備えている。
【0017】
クサビ伝達機構50は、ネジ送り機構40から伝達されるネジ軸方向の駆動力(直線的なブレーキ作動入力)をピストン軸方向の駆動力(ブレーキ作動出力)に変換してピストン14に伝達するものであり、ピストン14の端部に組付けたピストン側プレート52と、このピストン側プレート52に対向して配置されて第1ハウジング101に一体的に組付けた反ピストン側プレート53と、これら両プレート52,53間に配置されて各プレート52,53に対してそれぞれ一対のローラ54を介して係合するクサビ部材51を備えている。
【0018】
クサビ部材51は、図2および図3に示したように、反ピストン側を傾斜面とするクサビ面51a,51bを有していて、各クサビ面51a,51bには各ローラ54が転動可能に係合している。ピストン側プレート52は、ピストン14の端部に、ピストン軸方向には一体的に移動可能に、かつピストン軸周りには回転可能に組付けられている。また、ピストン側プレート52は、クサビ部材51のピストン側クサビ面51aに対して平行な係合平面52aを有していて、この係合平面52aにはピストン側の各ローラ54が転動可能に係合している。
【0019】
一方、反ピストン側プレート53は、クサビ部材51の反ピストン側クサビ面51bに対して平行な係合斜面53aを有していて、この係合斜面53aにはピストン側の各ローラ54が転動可能に係合している。反ピストン側プレート53の係合斜面53aは、ネジ送り機構40のネジ軸方向に対して略平行であり、クサビ部材51の移動方向とネジ送り機構40におけるボールナット42および連結スリーブ44の移動方向(ネジ軸方向)は略一致している。
【0020】
また、クサビ伝達機構50は、各ローラ54を回転可能に保持するとともにクサビ部材51をネジ軸方向にて直線移動可能に保持してクサビ部材51の直線移動時には両プレート52,53によりガイドされてネジ軸方向に移動可能なホルダ55を備えている。ホルダ55は、図4に示したように、クサビ部材51と両プレート52,53をネジ軸方向に対して略直交する方向(ローラ軸方向)にて挟持する一対のプレート部55aと、これら一対のプレート部55aを一体的に連結する4本の連結柱55bを備えていて、そのネジ軸方向移動量を第1ハウジング101とこれに固着したストッパボルト56によって規定されている。
【0021】
隙間自動調整機構60は、ピストン14に一体的に形成したアジャストホイール61およびアジャストナット62を備えるとともに、第1ハウジング101に支持ピン63を介して回動可能に組付けられて回動端部に形成した爪64aをアジャストホイール61のラチェット歯61aに係合可能なアジャストレバー64と、このアジャストレバー64の基端部に係合するとともに連結スリーブ44に係合するようにして介装されてアジャストレバー64を図2の時計方向へ付勢するコイルスプリング65と、連結スリーブ44に組付けられて連結スリーブ44が図1および図2の実線位置に復帰するときにアジャストレバー64を実線位置に向けて押動する押動ピン66と、アジャストナット62に回転可能に螺合されかつインナパッド12の裏金12aに設けた突起12a1に係合して回転不能なアジャストボルト67を備えている。
【0022】
なお、アジャストボルト67の突出部外周には、シール用のブーツ68が装着されていて、このブーツ68の外周端は、キャリパ15に形成した環状の溝に嵌合固定されている。また、アジャストホイール61とクサビ伝達機構50のピストン側プレート52間には、ピストン側プレート52とアジャストホイール61間の相対回転を良好とするためのスラスト軸受69が介装されている。
【0023】
この隙間自動調整機構60においては、制動操作に伴って連結スリーブ44が図1および図2の実線位置から仮想線位置まで移動するとき、原位置にあるアジャストレバー64がネジ軸方向駆動力(ブレーキ作動入力)の一部によりコイルスプリング65を介して図2の時計方向に回動され、また制動操作の解除に伴ってアジャストレバー64が押動ピン66に押され図2の反時計方向に回動されて原位置に復帰する。
【0024】
ところで、制動操作に伴ってアジャストレバー64が図2の時計方向に回動されるときには、アジャストレバー64の爪64aがアジャストホイール61のラチェット歯61aに係合してアジャストホイール61を回転させるものの、制動操作の解除に伴ってアジャストレバー64が図2の反時計方向に回動されるときには、アジャストレバー64の爪64aがアジャストホイール61のラチェット歯61aから離間してアジャストホイール61を回転させない。
【0025】
このため、この隙間自動調整機構60においては、制動操作に伴って、アジャストホイール61がアジャストレバー64により回転されてピストン14が一体的に回転し、このピストン14の回転によりアジャストナット62に螺合しているアジャストボルト67がディスクロータ11に向けて突出して、各パッド12,13とディスクロータ11間の非制動時における隙間が自動的に調整される。
【0026】
なお、アジャストレバー64における爪64aの復帰移動量がアジャストホイール61に形成したラチェット歯61aのピッチ相当量以上となったときには、アジャストレバー64の爪64aが原位置に復帰したときに次のラチェット歯61aと係合する。このため、その後の制動操作時には、アジャストレバー64の爪64aが次のラチェット歯61aと係合してアジャストホイール61を回転することで、上記した隙間が調整される。
【0027】
各サーボ機構70は、制動時におけるインナパッド12の裏金12aとディスクロータ11のロータ周方向での摩擦力をディスクロータ11に向けたサーボ荷重に変換してインナパッド12の裏金12aに伝えるものであり、図2および図5にて概略的に示したように、隙間自動調整機構60のアジャストボルト67に一体的に組付けられてロータ軸方向に弾性変形可能なプレート71と、このプレート71に一体的に組付けた第1楔部材72と、インナパッド12の裏金12aに一体的に設けられてその楔面にて第1楔部材72の楔面に転動体73を介して係合する第2楔部材74を備えている。
【0028】
各位置自動調整装置80は、各サーボ機構70の位置、詳細には第1楔部材72の保持位置を各パッド12,13のライニング摩耗に応じて自動的に調整するものであり、制動時にインナパッド12からの制動トルクを受けるキャリパ15のアンカー部15dにロータ軸方向にて進退可能に螺着された調整ネジ81と、この調整ネジ81の軸部外周に巻き付けられて内周にて調整ネジ81の軸部外周に接触し一端82aをアンカー部15dに固定されたロックコイル82を備えている。
【0029】
調整ネジ81は、左ねじを施したネジ部81aと、外周が円形の軸部81bを有していて、軸部81bの先端部に形成した取付穴81b1にてサーボ機構70の第1楔部材72に設けた段付軸部72aに対してロータ軸方向には一体的に移動可能で回転可能にクリップ83を用いて連結されている。ロックコイル82は、右巻のコイルであって他端82bはフリーであり、調整ネジ81の前進回転時(第1楔部材72側からみて右回転時)には調整ネジ81との接触抵抗により弛められて同調整ネジ81の回転を許容し、後退回転時(第1楔部材72側からみて左回転時)には調整ネジ81との接触抵抗により締め付けられて同調整ネジ81の回転を規制する機能を有している。なお、ネジ部81aが右ねじであり、ロックコイル82が左巻きであっても、上記と同様の機能(調整ネジ81の前進回転時に調整ネジ81の回転を許容し、後退回転時に調整ネジ81の回転を規制する機能)が得られるため、ネジ部81aとロックコイル82の構成を変更して実施することも可能である。
【0030】
ロックコイル82の一端82aは、キャリパ15のアンカー部15dに設けた取付穴15d1に嵌合することによりアンカー部15dに固定されているが、取付穴15d1の径がロックコイル82の線径より所定量大きくて、ロックコイル82の一端82aとアンカー部15d間には少なくとも調整ネジ81の回転方向にロックコイル82の回転を所定量許容するクリアランスが設定されている。また、ロックコイル82の一端82aの長さは、各パッド12,13のライニング12b,13bが全て摩耗してもアンカー部15dの取付穴15d1から外れることのない長さに設定されている。
【0031】
また、ロックコイル82の一端82aがアンカー部15dの取付穴15d1から外れることのないように、キャリパ15に保持板84(図5の仮想線参照)を脱着可能に組付けて実施することも可能である。この場合には、各パッド12,13を交換するとき、保持板84をキャリパ15から外し、その後に、ロックコイル82の一端82aをアンカー部15dの取付穴15d1から外し、インナパッド12がディスクロータ11から離れる方向に調整ネジ81を回転することで、各パッド12,13の交換を容易とすることが可能である。なお、ロックコイル82の断面形状は円形でなくて矩形(調整ネジ81の軸部外周と接触する部分が面となる形状)であっても実施可能である。
【0032】
上記のように構成したこの実施形態の電気式ディスクブレーキ装置においては、ブレーキペダル(図示省略)等による制動操作により電気モータ20の回転軸21が回転駆動されると、電気モータ20の回転駆動力が歯車伝達機構30を介してネジ送り機構40のネジ軸41に伝達され、このネジ送り機構40にてネジ軸方向の駆動力に変換される。
【0033】
また、このネジ送り機構40にてネジ軸方向に変換された駆動力は、ボールナット42から連結ピン43、連結スリーブ44、連結ピン45を介してクサビ部材51に伝達され、クサビ伝達機構50にてピストン軸方向の駆動力に変換されて、ピストン側プレート52からスラスト軸受69を介してピストン14に伝達される。
【0034】
このため、ピストン14がその軸方向に駆動されてインナパッド12をディスクロータ11に向けて押動・押圧するとともに、その反力によりキャリパ15の反力アーム部15aがアウタパッド13をディスクロータ11に向けて押動・押圧し、インナパッド12とアウタパッド13がディスクロータ11を挟持する。これにより、各パッド12,13とディスクロータ11間に制動力が発生して、ディスクロータ11が制動される。
【0035】
ところで、この実施形態のディスクブレーキ装置においては、制動時に各サーボ機構70がインナパッド12の裏金12aとディスクロータ11のロータ周方向での摩擦力をディスクロータ11に向けたサーボ荷重に変換してインナパッド12の裏金12aに伝える。このとき、各位置自動調整装置80のロックコイル82が調整ネジ81の後退回転を規制して各サーボ機構70の位置を保持する。また、制動時に各パッド12,13のライニング12b,13bが摩耗して、インナパッド12の裏金12aがディスクロータ11側へ移動するのに伴って、ピストン14の移動と共にプレート71が移動する。プレート71は、一体に組付けられている各位置自動調整装置80の調整ネジ81を前進回転させ、各サーボ機構70の位置を各パッド12,13のライニング摩耗に応じて自動的に調整する。
【0036】
このため、制動時においてインナパッド12の裏金12aにサーボ荷重を付加することが可能であり、制動時には小さな操作力にて大きなブレーキ力を得ること(サーボ作用を得ること)が可能であるとともに、上記したサーボ作用を各パッド12,13のライニング摩耗に拘わらず的確に得ることが可能である。また、各位置自動調整装置80が、上記した調整ネジ81とロックコイル82を備える構成であって、シンプルであり安価に構成することが可能である。
【0037】
また、この実施形態においては、ロックコイル82の一端82aとアンカー部15d間に、少なくとも調整ネジ81の回転方向にロックコイル82の回転を所定量許容するクリアランスを設けたため、制動時に各位置自動調整装置80の調整ネジ81が過剰に前進回転して各サーボ機構70の位置をオーバーアジャストしても、そのときには制動の解除に伴って上記したクリアランスに相当する量だけ調整ネジ81とロックコイル82が一体的に後退回転して各サーボ機構70の位置を後退移動させることが可能であるため、各パッド12,13のライニング12b,13bがディスクロータ11から離れることが可能であり、各パッド12,13のライニング12b,13bとディスクロータ11の引き摺りが未然に解消される。
【0038】
上記実施形態においては、一対のサーボ機構70の一方を前進制動用とし他方を後進制動用として実施したが、図6に示した第1変形実施形態のように、各サーボ機構170を前進制動用と後進制動用を兼ねる構成(プレート171に組付けた第1楔部材172をV字状に構成するとともに、インナパッド12の裏金12aに一体的に設けられてその楔面にて第1楔部材172の楔面に転動体173を介して係合する第2楔部材174をV字状に構成する)として実施することも可能である。また、上記した各サーボ機構70に代えて、図7に示した第2変形実施形態のサーボ機構270、図8に示した第3変形実施形態のサーボ機構370または図9に示した第4変形実施形態のサーボ機構470を採用して実施することも可能である。
【0039】
図7に示した第2変形実施形態のサーボ機構270は、隙間自動調整機構のアジャストボルトに一体的に組付けられてロータ軸方向に弾性変形可能なプレート271と、このプレート271に組付けられて調整ネジ81にクリップ83を用いて連結された段付ロッド272と、この段付ロッド272に連結ピン273を介して傾動可能に連結されて一端にてプレート271に係合し他端にてインナパッド12の裏金12aに形成した段部に係合するレバー274を備えている。このサーボ機構270では、制動時にレバー274が連結ピン273を中心として図7の反時計方向に傾動することにより、制動時におけるインナパッド12の裏金12aとディスクロータ11のロータ周方向での摩擦力がディスクロータ11に向けたサーボ荷重に変換されてインナパッド12の裏金12aに伝えられる。
【0040】
図8に示した第3変形実施形態のサーボ機構370は、隙間自動調整機構のアジャストボルトに一体的に組付けられてロータ軸方向に弾性変形可能なプレート371と、このプレート371に組付けられて調整ネジ81にクリップ83を用いて連結された支持部材372と、インナパッド12の裏金12aに連結ピン373を介して傾動可能に連結されて先端(傾動端)にて支持部材372に形成した段部に係合するレバー374を備えている。このサーボ機構370では、制動時にレバー374が連結ピン373を中心として図8の反時計方向に傾動することにより、制動時におけるインナパッド12の裏金12aとディスクロータ11のロータ周方向での摩擦力がディスクロータ11に向けたサーボ荷重に変換されてインナパッド12の裏金12aに伝えられる。
【0041】
図9に示した第4変形実施形態のサーボ機構470は、隙間自動調整機構のアジャストボルトに一体的に組付けられてロータ軸方向に弾性変形可能なプレート471と、このプレート271に組付けられて調整ネジ81にクリップ83を用いて連結された段付ロッド472と、この段付ロッド472に連結ピン473を介して傾動可能に連結されて連結部にてプレート471に係合し一方の先端にてインナパッド12の裏金12aに形成した段部とに係合し他方の先端にてインナパッド12の裏金12a背面に係合するコ字状のリンクレバー474を備えている。このサーボ機構470では、制動時にリンクレバー474が連結ピン473を中心として図9の反時計方向に傾動することにより、制動時におけるインナパッド12の裏金12aとディスクロータ11のロータ周方向での摩擦力がディスクロータ11に向けたサーボ荷重に変換されてインナパッド12の裏金12aに伝えられる。
【0042】
また、上記実施形態においては、電気的なアクチュエータ(電気モータ20、歯車伝達機構30、ネジ送り機構40およびクサビ伝達機構50を備えるとともに、隙間自動調整機構60を備えるアクチュエータ)にてインナパッド12を押動するように構成して実施したが、油圧的なアクチュエータ(キャリパのシリンダ部にリトラクト機能を有するシールリングを介して組付けられてマスタシリンダ油圧によって押動されるピストンを備えるアクチュエータ)にてインナパッドを押動するように構成して実施することも可能である。また、上記実施形態においては、インナパッド12からの制動トルクをキャリパ15のアンカー部15dにて受けるように構成して実施したが、インナパッドからの制動トルクをマウンティングのアンカー部にて受けるように構成して実施することも可能である。この場合には、マウンティングのアンカー部に位置自動調整機構(80)を設けて実施する。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明によるディスクブレーキ装置の一実施形態を示す部分破断側面図である。
【図2】図1に示した歯車伝達機構、ネジ送り機構、クサビ伝達機構、隙間自動調整機構等と両パッドおよびディスクロータ等との関係を示す断面図である。
【図3】図2に示したクサビ伝達機構部分の拡大断面図である。
【図4】図3の4−4線に沿った断面図である。
【図5】図2に示したサーボ機構と位置自動調整装置の拡大図である。
【図6】サーボ機構の第1変形実施形態を示す図5相当の拡大図である。
【図7】サーボ機構の第2変形実施形態を示す図5相当の拡大図である。
【図8】サーボ機構の第3変形実施形態を示す図5相当の拡大図である。
【図9】サーボ機構の第4変形実施形態を示す図5相当の拡大図である。
【符号の説明】
【0044】
11…ディスクロータ、12…インナパッド、12a…裏金、12b…ライニング、13…アウタパッド、13a…裏金、13b…ライニング、14…ピストン、15…キャリパ、15d…アンカー部、20…電気モータ、21…回転軸、30…歯車伝達機構、40…ネジ送り機構、50…クサビ伝達機構、60…隙間自動調整機構、70…サーボ機構、80…位置自動調整機構、81…調整ネジ、82…ロックコイル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
操作力に応じてパッドがディスクロータに向けて押動されるように構成されていて、制動時における前記パッドの裏金と前記ディスクロータのロータ周方向での摩擦力を前記ディスクロータに向けたサーボ荷重に変換して前記パッドの裏金に伝えるサーボ機構を備えるとともに、このサーボ機構の位置を前記パッドのライニング摩耗に応じて自動的に調整する位置自動調整装置を備えてなるディスクブレーキ装置において、前記位置自動調整装置は、ネジ機構を備えるとともに、このネジ機構の逆転防止用ロック機構を備えていることを特徴とするディスクブレーキ装置。
【請求項2】
操作力に応じてパッドがディスクロータに向けて押動されるように構成されていて、制動時における前記パッドの裏金と前記ディスクロータのロータ周方向での摩擦力を前記ディスクロータに向けたサーボ荷重に変換して前記パッドの裏金に伝えるサーボ機構を備えるとともに、このサーボ機構の位置を前記パッドのライニング摩耗に応じて自動的に調整する位置自動調整装置を備えてなるディスクブレーキ装置において、前記位置自動調整装置は、制動時に前記パッドからの制動トルクを受けるアンカー部にロータ軸方向にて進退可能に螺着されて前記サーボ機構に対してロータ軸方向には一体的に移動可能で回転可能に連結される調整ネジと、この調整ネジの外周に巻き付けられて内周にて接触し一端を前記アンカー部に固定されて前記調整ネジの前進回転時には弛められて同調整ネジの回転を許容し後退回転時には締め付けられて同調整ネジの回転を規制するロックコイルを備えていることを特徴とするディスクブレーキ装置。
【請求項3】
請求項2に記載のディスクブレーキ装置において、前記ロックコイルの一端と前記アンカー部間には少なくとも前記調整ネジの回転方向に前記ロックコイルの回転を所定量許容するクリアランスが設けられていることを特徴とするディスクブレーキ装置。
【請求項4】
請求項2に記載のディスクブレーキ装置において、前記パッドはその裏金背部に配置したピストンにより操作力に応じてディスクロータに向けて押動されるように構成されていて、前記ピストンと前記位置自動調整装置は連動するように構成されていることを特徴とするディスクブレーキ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−139023(P2007−139023A)
【公開日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−331636(P2005−331636)
【出願日】平成17年11月16日(2005.11.16)
【出願人】(301065892)株式会社アドヴィックス (1,291)
【Fターム(参考)】