説明

ディスクブレーキ装置

【課題】電動パーキングブレーキ装置とサービスブレーキ装置の双方の機能を併せ持つディスクブレーキ装置における引き摺りを抑制する。
【解決手段】ディスクブレーキ装置10において、パーキングブレーキピストン32は、サービスブレーキピストン34を収容し、収容されたサービスブレーキピストン34との間に形成された液室に作動液が供給されることによりサービスブレーキピストン34を推進させてブレーキパッド16に当接させ、ブレーキパッド16をディスクロータ14に押し当てる。パーキングブレーキピストン32は、外周面上に雄ネジ部32cを有する。推進機構20は、雄ネジ部32cに噛み合いするナット42を有する。推進機構20は、モータ56を作動させることによりナット42を駆動してパーキングブレーキピストン32を軸方向に推進させる。ブレーキパッド16に当接させ、ブレーキパッド16をディスクロータ14に押し当てる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディスクブレーキ装置に関し、特に、電動パーキングブレーキ装置とサービスブレーキ装置の双方の機能を併せ持つディスクブレーキ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電動パーキングブレーキ装置とサービスブレーキ装置の双方の機能を併せ持つディスクブレーキが知られている(例えば、特許文献1および2参照)。特許文献1では、モータの作動により雄ネジが回転し、雄ネジに螺合されたナットが軸方向に移動してピストンをディスクロータに向けて押し込む技術が開示されている。また、特許文献2では、ピストンにネジ部を設け、このネジ部に減速機構のギヤを噛み合いさせてモータの回転運動をピストンの軸方向の推進運動に変換する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−205400号公報
【特許文献2】特開平5−321961号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
電動パーキングブレーキが解除されたときにピストンをブレーキパッドから適切に離間させなければ、ディスクロータとブレーキパッドが当接したままとなる虞がある。ディスクロータとブレーキパッドが当接したまま車両が走行すると、電動パーキングブレーキおよびサービスブレーキの双方とも作動していないにもかかわらずディスクロータとブレーキパッドとの間に摩擦が生じて車輪に制動力が与えられる「引き摺り」という現象が発生し、燃費の低下などに繋がり得る。
【0005】
しかしながら、上述の特許文献に記載された技術では、その構造から電動パーキングブレーキを解除してもブレーキパッドから大きく離間させるようピストンを駆動することは困難である。このため、引き摺り抑制の観点で改善の余地があった。
【0006】
本発明はこうした課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、電動パーキングブレーキ装置とサービスブレーキ装置の双方の機能を併せ持つディスクブレーキ装置における引き摺りを抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明のある態様のディスクブレーキ装置は、第1ピストンと、第1ピストンを収容し、収容された第1ピストンとの間に形成された液室に作動液が供給されることにより第1ピストンを推進させてブレーキパッドに当接させ、前記ブレーキパッドをディスクロータに押し当てる第2ピストンと、電動アクチュエータの作動により第2ピストンを第1ピストンの推進方向と平行に推進させて前記ブレーキパッドに当接させ、前記ブレーキパッドを前記ディスクロータに押し当てる推進機構と、を備える。第2ピストンは、ネジ部を有する。前記推進機構は、前記ネジ部に噛み合いするネジ部材を有し、前記電動アクチュエータを作動させることにより前記ネジ部材を駆動して第2ピストンを推進させる。
【0008】
この態様によれば、第2ピストンにネジ部が直接設けられていることから、電動アクチュエータを作動させることにより第2ピストンを適切に推進させることができる。このため、第2ピストンをブレーキパッドから適切に離間させることができ、引き摺りを抑制することができる。
【0009】
前記ネジ部は、第2ピストンの外周面上に設けられ、前記ネジ部材は、前記ネジ部に噛み合いするナットであってもよい。この態様によれば、ネジ部材をピストンの外周面外側に螺合させることができる。このため、推進機構がピストンから軸方向に突出する長さを抑制することができ、ディスクブレーキ装置の大型化を回避することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、電動パーキングブレーキ装置とサービスブレーキ装置の双方の機能を併せ持つディスクブレーキ装置における引き摺りを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本実施形態に係るディスクブレーキ装置の構成を示す断面図である。
【図2】サービスブレーキ作動時のディスクブレーキ装置の状態を示す断面図である。
【図3】パーキングブレーキ作動時のディスクブレーキ装置の状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態(以下、「実施形態」という。)について詳細に説明する。
【0013】
図1は、本実施形態に係るディスクブレーキ装置10の構成を示す断面図である。ディスクブレーキ装置10は、押し当て機構12、ディスクロータ14、および一対のブレーキパッド16を有する。ディスクロータ14は車輪に同軸に固定されており、ディスクロータ14に制動力を与えることにより、車輪に制動力を与えることができる。ブレーキパッド16は、パッド部22および裏金24を有する。一対のブレーキパッド16の各々は、パッド部22が対向してディスクロータ14を挟むように配置される。押し当て機構12は、一対のブレーキパッド16の各々の裏金24を押してパッド部22をディスクロータ14の摩擦摺動面に押し当てることにより、ディスクロータ14に制動力を与える。
【0014】
押し当て機構12は、キャリパユニット18および推進機構20を有する。キャリパユニット18は、キャリパ30、パーキングブレーキピストン32、およびサービスブレーキピストン34を有する。キャリパ30は、車体のマウント(図示せず)に取り付けられる。キャリパ30は、シリンダ部30aおよび爪30cを有する。シリンダ部30aは水平方向に貫通する円形の開口部として形成される。爪30cは、シリンダ部30aの内側の開口部に対向するよう鉛直方向に延在する。
【0015】
パーキングブレーキピストン32は、シリンダ部30aの内径と略同一の外径を有する円柱状に形成されている。パーキングブレーキピストン32は、軸方向に推進可能にシリンダ部30aに収容される。パーキングブレーキピストン32は、円柱状にくり抜かれた有底のシリンダ部32aを有する。パーキングブレーキピストン32は、爪30cにシリンダ部32aの開口部が対向するようシリンダ部30aに収容される。このとき、パーキングブレーキピストン32の端面のうち爪30cに対向する方が先端面32dとなる。
【0016】
サービスブレーキピストン34は、シリンダ部32aの内径と略同一の外径を有する円柱状に形成されている。サービスブレーキピストン34は、軸方向に推進可能にシリンダ部32aに収容される。サービスブレーキピストン34は、円柱状にくりぬかれた有底孔34cを有する。サービスブレーキピストン34は、有底孔34cの開口部が爪30cに対向するようシリンダ部32aに収容される。このとき、サービスブレーキピストン34の端面のうち爪30cに対向する方が先端面34a、爪30cと反対方向側が後端面34bとなる。パーキングブレーキピストン32のシリンダ部32aには、内周面から径外向きに凹む溝が設けられており、この溝にシール36が嵌め込まれている。シール36は、徐々に摩耗してディスクロータ14に近づくパッド部22の位置に応じてサービスブレーキピストン34の位置を変化させつつ、サービスブレーキ解除時に裏金24から先端面34aを適切に離間させる機能を持つ。
【0017】
キャリパユニット18は、パーキングブレーキピストン32の先端面32dおよびサービスブレーキピストン34の先端面34aがそれぞれ一対のブレーキパッド16の裏金24に対向するよう配置される。
【0018】
パーキングブレーキピストン32には、シリンダ部32aと、収容されたサービスブレーキピストン34の後端面34bとの間に液室が形成される。パーキングブレーキピストン32には、この液室に連通する連通孔32bが設けられている。連通孔32bには、ブレーキパイプ44が接続されている。ブレーキパイプ44は、液圧アクチュエータ60のホイールシリンダ(図示せず)に接続されている。液圧アクチュエータ60は、電磁弁へ供給する電流を制御することによりホイールシリンダに収容された作動液(ブレーキオイル)の液圧であるホイールシリンダ圧を増減させる。ホイールシリンダ圧が増圧されると、ブレーキパイプ44および連通孔32bを通じてパーキングブレーキピストン32内部の液室に作動液が供給される。こうしてキャリパユニット18は、サービスブレーキピストン34を推進させてブレーキパッド16の裏金24に押し当て、ブレーキパッド16のパッド部22をディスクロータ14に押し当てる。
【0019】
推進機構20は、電動アクチュエータの作動によりパーキングブレーキピストン32をサービスブレーキピストン34の推進方向と平行に推進させてブレーキパッド16の裏金24に押し当て、ブレーキパッド16のパッド部22をディスクロータ14に押し当てる。具体的には、推進機構20は、ネジ部材であるナット42、減速機構50、および電動アクチュエータであるモータ56を有する。
【0020】
キャリパ30のシリンダ部30aには、内周面から径外向きに凹むナット収容部30bが設けられている。ナット収容部30bには2つのスラストベアリング40が同軸に間隔をもって嵌め込まれ固定される。この2つのスラストベアリング40の間にナット42配置され、2つのスラストベアリング40の各々の側面に固定される。こうしてナット42は、シリンダ部30aと同軸に円滑に回転可能にキャリパ30に取り付けられる。スラストベアリング40は、ブレーキパッド16をディスクロータ14に押し当てる反力に耐える強度を持つものが採用される。
【0021】
パーキングブレーキピストン32の外周面上には、先端面32dから軸方向に所定の長さにわたって台形ネジである雄ネジ部32cが設けられている。パーキングブレーキピストン32は、ナット42の同じく台形ネジである雌ネジ部42aに螺合させながらシリンダ部30aに挿入される。このためナット42の雌ネジ部42aは、パーキングブレーキピストン32の雄ネジ部32cに噛み合いする。
【0022】
なお、パーキングブレーキピストン32はキャリパ30に対して回転が阻止されている。具体的には、パーキングブレーキピストン32およびキャリパ30のシリンダ部30aの一方に軸方向に延在する溝が、他方に軸方向に延在する凸部が設けられる。溝が凸部に入るようパーキングブレーキピストン32がシリンダ部30aに挿入される。こうしてキャリパ30に対するパーキングブレーキピストン32の回転が阻止される。パーキングブレーキピストン32が回転しないため、ナット42を回転させてパーキングブレーキピストン32をナット42に螺合させる。
【0023】
減速機構50は、ギヤ52、54を有する。ギヤ52、54は、モータ56の作動によって回転駆動される。ナット42の外周にはギヤ部42bが設けられている。ギヤ52は、このギヤ部42bに噛み合いする。以上より、モータ56の作動によりギヤ54、ギヤ52を介してナット42が回転駆動され、パーキングブレーキピストン32が軸方向に推進する。
【0024】
ディスクブレーキ装置10が設けられる車両には、ブレーキ電子制御ユニット(以下、「ブレーキECU」という)62が設けられている。ブレーキECU62は、各種の演算を実行するCPU、各種の制御プログラムを格納するROM、およびデータ格納やプログラム実行のためのワークエリアとして利用されるRAMを有する。ブレーキECU62は、液圧アクチュエータ60の作動およびモータ56の作動の双方を制御することにより、サービスブレーキの作動およびパーキングブレーキの作動の双方を制御する。
【0025】
図2は、サービスブレーキ作動時のディスクブレーキ装置10の状態を示す断面図である。ブレーキペダル(図示せず)が運転者によって踏み込まれた場合、ブレーキECU62はサービスブレーキの作動要求を取得し、液圧アクチュエータ60を作動させてホイールシリンダ圧を増圧させる。ホイールシリンダ圧が増圧すると、上述のようにブレーキパイプ44、連通孔32bを介してパーキングブレーキピストン32内の液室に作動液が供給され、パーキングブレーキピストン32のシリンダ部32aからサービスブレーキピストン34が押し出される。
【0026】
サービスブレーキピストン34が押し出されると、先端面34aが裏金24に当接し、ブレーキパッド16をディスクロータ14に向けて押し込み、ブレーキパッド16のパッド部22をディスクロータ14に摩擦摺動面に押し当てて制動力を発生させる。このとき、パーキングブレーキピストン32とナット42とはリードの小さいネジにより互いに螺合されているため、ブレーキパッド16の反力によってパーキングブレーキピストン32の押し戻しが阻止される。このため適切に制動力を発生させることができる。
【0027】
ブレーキペダルの踏み込み操作が解除された場合、ブレーキECU62は、サービスブレーキの解除要求を取得し、液圧アクチュエータ60を作動させてホイールシリンダ圧を減圧させる。ホイールシリンダ圧が減圧すると、ブレーキパイプ44、連通孔32bを介してパーキングブレーキピストン32内の液室から作動液が排出され、パーキングブレーキピストン32のシリンダ部32aにサービスブレーキピストン34が引き込まれる。これによりサービスブレーキピストン34の先端面34aがブレーキパッド16の裏金24から離間し、ブレーキパッド16の摩擦摺動面からブレーキパッド16のパッド部22が離間して制動力が解除される。このときも、パーキングブレーキピストン32とナット42とはネジにより互いに螺合されているためパーキングブレーキピストン32の軸方向の動きが阻止され、引き摺りの発生が抑制される。
【0028】
図3は、パーキングブレーキ作動時のディスクブレーキ装置10の状態を示す断面図である。パーキングブレーキレバー、またはパーキングブレーキペダルが運転者によって操作された場合、ブレーキECU62は、パーキングブレーキの作動要求を取得し、モータ56を正回転させて減速機構50を介してナット42を正転させる。これによりパーキングブレーキピストン32がブレーキパッド16に向けて推進し、先端面32dがブレーキパッド16に当接する。パーキングブレーキピストン32がさらに推進すると、ブレーキパッド16がディスクロータ14に向けて押し込まれ、ブレーキパッド16のパッド部22がディスクロータ14の摩擦摺動面に押し当てられて制動力が発生する。
【0029】
パーキングブレーキレバー、またはパーキングブレーキペダルが解除された場合、ブレーキECU62は、パーキングブレーキの解除要求を取得し、モータ56を逆回転させて減速機構50を介してナット42を逆転させる。これにより、パーキングブレーキピストン32が引き戻され、先端面32dがブレーキパッド16から離間して制動力が解除される。本実施形態ではパーキングブレーキピストン32に雄ネジ部32cが直接設けられているため、モータ56を作動させることによりパーキングブレーキピストン32を直接引き戻すことができる。このため、パーキングブレーキピストン32を充分に引き戻すことができ、引き摺りの発生を抑制することができる。
【0030】
また、本実施形態では、パーキングブレーキピストン32の外周に螺合したナット42を回転させることでパーキングブレーキピストン32を軸方向に推進させる。このため、例えばパーキングブレーキピストン32に螺合した雄ネジをパーキングブレーキピストン32より後方で駆動させるなどに比べ、押し当て機構12のピストン軸方向の長さを抑制できる。このため、サービスブレーキ機能とパーキングブレーキ機能の双方を持たせることによるディスクブレーキ装置10の大型化を抑制することができる。
【0031】
本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本実施形態の各要素を適宜組み合わせたものも、本発明の実施形態として有効である。また、当業者の知識に基づいて各種の設計変更等の変形を本実施形態に対して加えることも可能であり、そのような変形が加えられた実施形態も本発明の範囲に含まれうる。
【符号の説明】
【0032】
10 ディスクブレーキ装置、 12 押し当て機構、 14 ディスクロータ、 16 ブレーキパッド、 18 キャリパユニット、 20 推進機構、 22 パッド部、 24 裏金、 30 キャリパ、 30a シリンダ部、 30b ナット収容部、 32 パーキングブレーキピストン、 32a シリンダ部、 32c 雄ネジ部、 32d 先端面、 34 サービスブレーキピストン、 34a 先端面、 34b 後端面、 40 スラストベアリング、 42 ナット、 42a 雌ネジ部、 42b ギヤ部、 50 減速機構、 52,56 モータ、 60 液圧アクチュエータ、 62 ブレーキECU。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1ピストンと、
第1ピストンを収容し、収容された第1ピストンとの間に形成された液室に作動液が供給されることにより第1ピストンを推進させてブレーキパッドに当接させ、前記ブレーキパッドをディスクロータに押し当てる第2ピストンと、
電動アクチュエータの作動により第2ピストンを第1ピストンの推進方向と平行に推進させて前記ブレーキパッドに当接させ、前記ブレーキパッドを前記ディスクロータに押し当てる推進機構と、
を備え、
第2ピストンは、ネジ部を有し、
前記推進機構は、前記ネジ部に噛み合いするネジ部材を有し、前記電動アクチュエータを作動させることにより前記ネジ部材を駆動して第2ピストンを推進させることを特徴とするディスクブレーキ装置。
【請求項2】
前記ネジ部は、第2ピストンの外周面上に設けられ、
前記ネジ部材は、前記ネジ部に噛み合いするナットであることを特徴とする請求項1に記載のディスクブレーキ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−246988(P2012−246988A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−118497(P2011−118497)
【出願日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】