説明

ディスクブレーキ

【課題】インナ側、アウタ側各パッド5aの姿勢の安定化を図れ、これら各パッド5aの引き摺り並びに振動(異音、ジャダー)を低減できる構造を実現する。
【解決手段】各パッド側係合部11a、11bと各サポート側係合部10a、10aとの当接部のうち、ロータの正転時にこのロータの回転方向前側で、前記各パッド5aに加わる接線力Ffを支承する部分Afを、これら各パッド5a、5bの図心Oを通る仮想円の、この図心Oに於ける仮想接線Kよりも、前記ロータの径方向に関し内側に位置させる。又、これと共に、同じく前記当接部のうち、前記各パッド5aに加わるモーメントMfを支承する部分Bf、Cfを、前記サポート2の周方向両端部で、且つ、前記仮想接線Kよりも、前記ロータの径方向に関し外側に位置させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、自動車の制動を行なう為に使用するディスクブレーキの改良に関する。具体的には、フローティングキャリパ型のディスクブレーキで、パッドの姿勢の安定化を図れ、このパッドの引き摺り並びに振動(異音、ジャダー)を低減できる構造の実現を図るものである。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両の制動を行う為のディスクブレーキとして従来から、サポートに対しキャリパを軸方向の変位を自在に支持すると共に、このキャリパのうち、ロータに関して片側にのみシリンダ部とピストンとを設けたフローティングキャリパ型のものが、例えば特許文献1〜3に記載される等により広く知られ、且つ、実際に広く使用されている。図7〜9は、このうちの特許文献2に記載されたフローティングキャリパ型のディスクブレーキを示している。
【0003】
このディスクブレーキは、車輪と共に回転するロータ1に隣接して固定されるサポート2にキャリパ3を、一対のガイドピン4、4により、前記ロータ1の軸方向(図7の上下方向、図8の表裏方向、図9の左右方向)の変位を可能に支持している。又、前記サポート2に、インナ側、アウタ側各パッド5、6の両端部を、前記ロータ1の軸方向の変位可能に支持している。又、これら各パッド5、6を跨ぐ状態で、シリンダ部7とキャリパ爪8とを有する前記キャリパ3を配設し、このうちのシリンダ部7に、前記インナ側パッド5を前記ロータ1に対して押圧するピストン9を内蔵している。
【0004】
制動を行なう場合には、前記シリンダ部7内に圧油を送り込み、前記ピストン9により前記インナ側パッド5を、前記ロータ1の内側面に、図7の上から下に向けて(図9の右から左に向けて)押し付ける。すると、この押し付け力の反作用として前記キャリパ3が、図7の上方(図9の右方)に変位し、前記キャリパ爪8がアウタ側パッド6を、前記ロータ1の外側面に押し付ける。この結果、このロータ1が内外両側面側から強く挟持されて、制動が行われる。
【0005】
又、前記サポート2のうちで、前記ロータ1を挟んで両側部分の、このロータ1の周方向に関する両端部に、それぞれサポート側係合部10、10を形成している。又、前記インナ側、アウタ側各パッド5、6を構成するインナ側、アウタ側各プレッシャプレート12、13の、前記ロータ1の周方向に関する両端部に、それぞれパッド側係合部11、11を形成している。そして、これらサポート側、パッド側各係合部10、11の係合に基づき、制動時に前記インナ側、アウタ側各パッド5、6に作用する制動力を支承すると共に、これら各パッド5、6を軸方向の変位を可能に支持している。
【0006】
又、前記インナ側、アウタ側各プレッシャプレート12、13の周方向両端部と前記サポート1との間に、それぞれパッドクリップ14a、14bを配置し、前記インナ側、アウタ側各パッド5、6が前記サポート2に対しがたつく事と、前記サポート側、パッド側各係合部10、11同士が錆び付く事とを防止している。この様なパッドクリップ14a、14bは、ステンレスのばね鋼板等の、耐食性及び弾性を有する金属板を曲げ形成して成るもので、図8に矢印α、αで示す様に、前記インナ側、アウタ側各パッド2、3を前記ロータ1の径方向外方に向かう方向に押圧すると共に、同じく矢印β、βで示す様に、前記各パッド側係合部11、11を前記各サポート側係合部10、10から離れる方向に押圧する。
【0007】
上述の様に構成するディスクブレーキの制動時に、前記インナ側、アウタ側各パッド5、6から前記サポート2に加わる力に就いて、図10〜11を用いて説明する。尚、このうちの図10は、キャリパ3(例えば図7〜9参照)を省略してアウタ側から見た状態を、図11は、インナ側パット5をロータ側から見た状態(図10のハ−ハ線で切断して同図の左下側から見た状態)を、それぞれ示している。又、制動時には、図10に矢印で示す様に、前記インナ側、アウタ側各パッド5、6同士が互いに近付く方向に相対変位する。
【0008】
先ず、ロータ1(例えば図7〜9参照)が、例えば図11の矢印X方向(反時計方向)に回転する正転時(前進時)を考える。この正転時には、インナ側、アウタ側各パッド5、6の図心O(インナ側、アウタ側各パッド5、6を構成する摩擦材31の図心O)に制動に基づく接線力Ffが加わると考えると、この接線力Ffが、前記サポート2のうちで、前記ロータ1の回転方向に関する前側(回出側で図11の左側)のサポート側係合部10とパッド側各係合部11との当接部Afで支承される。そして、前記接線力Ffが加わる方向とこの当接部Afの位置との差Sfに基づくモーメント(回転力)Mfが、即ち、前記当接部Afを支点として図11で反時計方向のモーメントMfが、前記インナ側、アウタ側各パッド5、6に加わる。又、このモーメント(回転力)Mfは、前記ロータ1の回転方向に関する前側のパッドクリップ14aの押圧部とパッド側各係合部11との当接部Bf、並びに、前記サポート2のうちで、前記ロータ1の回転方向に関する後側(回入側で、図11の右側)のサポート側係合部10とパッド側各係合部11との当接部Cfで支承される。
【0009】
一方、前記ロータ1が、例えば図11の矢印Y方向(時計方向)に回転する逆転時(後退時)を考える。この逆転時には、同じくインナ側、アウタ側各パッド5、6の図心Oに制動に基づく接線力Frが加わると考えると、この接線力Frは、前記サポート2のうちで、前記ロータ1の回転方向に関する前側(回出側で図11の右側)のサポート側係合部10とパッド側各係合部11との当接部Arで支承される。そして、この接線力Frが加わる方向とこの当接部Arの位置との差Srに基づくモーメント(回転力)Mrが、即ち、前記当接部Arを支点として時計方向のモーメントMrが、前記インナ側、アウタ側各パッド5、6に加わる。又、このモーメント(回転力)Mrは、前記ロータ1の回転方向に関する前側のパッドクリップ14bとパッド側各係合部11との当接部Br、並びに、前記サポート2のうちで、前記ロータ1の回転方向に関する後側(回入側で、図11の左側)のサポート側係合部10とパッド側各係合部11との当接部Crで支承される。
【0010】
ところで、上述した様な構造の場合、インナ側、アウタ側各パッド5、6の姿勢が不安定になり易く、引き摺りや振動を生じ易くなる可能性がある。この点に就いて、以下に説明する。即ち、上述した構造の場合、例えば正転時(前進時)であれば、制動時にインナ側、アウタ側各プレッシャプレート12、13は、前記各当接部Af、Bf、Cfの3点で支持(拘束)される。但し、図11に斜格子で示す様に、これら各支持3点Af、Bf、Cfを結ぶ三角形の面積は小さく{ロータ1の径方向に関する幅が小さく(細く)}、同図の表裏方向に関する支持剛性を確保しにくい。即ち、前記インナ側、アウタ側各パッド5、6が、この図11の表裏方向に、前記支持3点Af、Bf、Cfを結ぶ三角形を揺動中心として揺動し易くなり、これら各パッド5、6の姿勢が不安定になり易い。
【0011】
特に、制動解除時に、前記ロータ1の軸方向に関する振れに伴い、前記インナ側、アウタ側各パッド5、6は、このロータ1の軸方向側面により、このロータ1から離れる方向に押圧されるが、この様に押圧されても、これら各パッド5、6が、前記支持3点Af、Bf、Cfを結ぶ三角形を揺動中心として表裏方向に揺動してしまい、前記ロータ1の軸方向に変位(退避)しにくくなる可能性がある。前記ロータ1の軸方向に関する振れ量は、このロータ1の径方向外側程大きくなる為、前記インナ側、アウタ側各パッド5、6は、前記ロータ1の径方向に関し、前記支持3点Af、Bf、Cfを結ぶ三角形よりも外側に大きく離れた部分が、このロータ1により表裏方向に押圧される傾向となる。
【0012】
この為、この様なロータ1の押圧に基づき、前記インナ側、アウタ側各パッド5、6は、上述の様に表裏方向に揺動する傾向となり、前記ロータ1の軸方向に変位(退避)しにくくなる。そして、前記インナ側、アウタ側各パッド5、6が十分に変位(退避)しない場合には、これら各パッド5、6の、前記ロータ1に対する引き摺りが過大になる可能性があると共に、これら各パッド5、6が前記揺動に基づき過度に振動する(異音を生じる、ジャダーを生じる)可能性があり、好ましくない。
【0013】
又、上述した構造の場合には、正転時(前進時)と逆転時(後退時)とで前記インナ側、アウタ側各パッド5、6に加わるモーメントMf、Mrが、互いに逆方向になる。そして、何れの回転時にも(正転時も回転時も)、このモーメントMf、Mrが、何れかのパッドクリップ14a、14bに、このパッドクリップ14a、14bの押圧力に対抗する方向(反対方向)に加わる。例えば、正転時であれば、前記モーメントMfが、前記ロータ1の回転方向に関し前側のパッドクリップ14aの弾性力を表す矢印αに対抗する方向に加わる。又、逆転時であれば、前記モーメントMrが、同じく回転方向に関し前側のパッドクリップ14bの弾性力を表す矢印αに対抗する方向に加わる。この為、前記各パッドクリップ14a、14bがへたり易く、これら各パッドクリップ14a、14bにより前記インナ側、アウタ側各パッド5、6を押圧する力(抑え力)が低減し易くなって、この面からも、これら各パッド5、6の姿勢が不安定になる可能性がある。又、上述の様に正転時と逆転時とでモーメントが加わる方向が変わる為、例えば制動開始時に前記ロータ1の回転方向前側となる係合部同士が当接(衝突)し、この当接(衝突)に基づく異音を生じ易くなる可能性もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開平7−77229号公報
【特許文献2】特開平11−63035号公報
【特許文献3】特開2001−234955号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明のディスクブレーキは、上述の様な事情に鑑み、パッドの姿勢の安定化を図れ、このパッドの引き摺り並びに振動(異音、ジャダー)を低減できる構造を実現すべく発明したものである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明のディスクブレーキは、従来から知られているディスクブレーキと同様に、サポートと、一対のパッドと、キャリパとを備える。
このうちのサポートは、車輪と共に回転するロータに隣接して車体に固定されるものである。
又、前記各パッドは、前記ロータの軸方向の変位を可能に前記サポートに支持された状態で、このロータの両側に配置されるものである。
又、前記キャリパは、前記サポートの一部に支持され、前記各パッドを前記ロータの両側面に押し付ける為のものである。
そして、前記サポートの周方向両端部に設けた各サポート側係合部と、前記各パッドを構成するプレッシャプレートの周方向両端部に設けた各パッド側係合部との係合により、制動時に前記各パッドに加わる制動トルクを支承する。又、これと共に、前記サポート側、パッド側各係合部同士の間に、前記各パッドが前記サポートに対しがたつく事を防止する為のパッドクリップをそれぞれ配置している。
【0017】
特に、本発明のディスクブレーキに於いては、前記各パッドクリップを介して互いに当接する、前記各パッド側係合部と前記各サポート側係合部との当接部のうち、前記ロータの正転時(前進時)にこのロータの回転方向前側(回出側)で、前記各パッドに加わる接線力を支承する部分を、このロータの中心と同一の中心とし(ロータの中心をその中心とし)、前記各パッドの図心(ロータ側から見た状態での、パッドの摩擦面の幾何中心=このパッドを構成する摩擦材の幾何中心)を通る仮想円に関する、この図心に於ける仮想接線よりも、このロータの径方向に関し内側に位置させる。又、これと共に、同じく前記当接部のうち、前記各パッドに加わるモーメント(回転力)を支承する部分を、前記サポートの周方向両端部で、且つ、前記仮想接線よりも、前記ロータの径方向に関し外側に位置させる。
【0018】
又、この様な本発明のディスクブレーキを実施する場合に、より好ましくは、請求項2に記載した発明の様に、前記各パッド側係合部と前記各サポート側係合部との当接部のうち、前記ロータの逆転時(後退時)にこのロータの回転方向前側(回出側)で、前記各パッドに加わる接線力を支承する部分を、前記仮想接線よりもこのロータの径方向に関し外側に位置させる。又、これと共に、前記各パッド側係合部のうち、前記ロータの正転時にこのロータの回転方向後側(回入側)となるパッド側係合部に、前記仮想接線の方向に関し前記図心に向かう程、このロータの径方向内方に近付く方向に傾斜する傾斜面部を設ける。そして、この傾斜面部を前記パッドクリップにより押圧する。
【発明の効果】
【0019】
上述の様に構成する本発明のディスクブレーキによれば、パッドの姿勢の安定化を図れ、このパッドの引き摺り並びに振動(異音、ジャダー)を低減できる。
即ち、ロータの正転時に各パッドは、サポートに対し、次の3点で支持(拘束)される。先ず、1点は、前記ロータの正転時(前進時)にこのロータの回転方向前側(回出側)で、前記各パッドに加わる接線力が支承される部分となり、この部分は、このロータの径方向に関し、仮想接線よりも径方向内側に位置する。又、残りの2点は、前記各パッドに加わるモーメント(回転力)が支承される部分となり、この部分は、前記サポートの周方向両端部で、且つ、前記仮想接線よりも径方向外側に位置する。この為、これら支持3点を結ぶ三角形を大きく{ロータの径方向に関する幅を大きく(太く)}でき、前記各パッドの表裏方向に関する支持剛性を確保し易くできる。この結果、これら各パッドが表裏方向に、前記支持3点を結ぶ三角形を揺動中心として揺動しにくくなり、これら各パッドの姿勢の安定化を図れる。
【0020】
しかも、前記三角形を構成する支持3点のうちの2点を、前記仮想接線よりも径方向外側に位置させている為、制動解除時に、前記ロータの軸方向に関する振れに伴い、このロータの軸方向各側面により前記各パッドが、このロータから離れる方向に押圧されると、この押圧に基づきこれら各パッドを、このロータから離れる方向に確実に変位(退避)させられる。特に、前記ロータの軸方向に関する振れ量は、このロータの径方向外側程大きくなるが、本発明の場合には、上述の様に支持3点のうちの2点を、前記仮想接線よりも径方向外側に位置させている為、この支持3点を結ぶ三角形と前記ロータにより押圧される部分とを、このロータの径方向に関し重畳乃至は互いに近付けられる。この為、前述の様に支持剛性を確保できる(揺動しにくくできる)事と相俟って、前記各パッドを安定した姿勢のまま確実に後退させる事ができ、これら各パッドと前記ロータとの引き摺り、並びに、これら各パッドの振動(異音、ジャダー)の低減を図れる。
【0021】
又、請求項2に記載した発明の場合には、正転時(前進時)と逆転時(後退時)とで各パッドに加わるモーメントの方向を同じにできると共に、これら各パッドを押圧する各パッドクリップの弾性力を、前記モーメントが加わる方向と同方向に付与できる。この為、これら各パッドを常時同方向(モーメントと同方向)に押圧する事ができ、これら各パッドのがたつきの防止をより確実に図れる。より具体的には、前記各パッドと前記サポートとの当接部(パッド側係合部とサポート側係合部との当接部)を常に同方向に当接させておく事ができ、例えば正転、逆転に拘らず、制動開始時に、前記ロータの回転方向前側となる係合部同士が当接(衝突)して異音が発生する事を防止できる。又、前記各パッドクリップの弾性力が付与される方向と前記モーメントが加わる方向とが同方向になる事で、前記各パッドクリップにより前記各パッドを押圧する力(抑え力)を低減しにくくでき、この面からも、これら各パッドの姿勢の安定化を図れる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の実施の形態の1例を示す、ロータを省略すると共にキャリパを取り外した状態で、アウタ側、且つ、ロータの径方向外側から見た斜視図。
【図2】ロータの径方向外側から見た正投影図。
【図3】図2の右側から見た正投影図。
【図4】図2の上側であるインナ側から見た正投影図。
【図5】図2の下側であるアウタ側から見た正投影図。
【図6】図2のイ−イ断面図。
【図7】従来構造の1例を、ロータの径方向外側から見た状態で、且つ、一部を切断した状態で示す図。
【図8】図7の下側であるアウタ側から見た図。
【図9】図8のロ−ロ断面図。
【図10】パッドとサポートとに加わる力を説明する為の、図1と同様の図。
【図11】図10のハ−ハ断面図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
図1〜6は、本発明の実施の形態の1例を示している。尚、本例の特徴は、インナ側、アウタ側各パッド5a、6aの姿勢の安定化、延いては、これら各パッド5a、6aの引き摺り並びに振動(異音、ジャダー)の低減を図るべく、これら各パッド5a、6aをサポート2aに支持する部分の構造、並びに、パッドクリップ15a、15bの構造等を工夫した点にある。その他の部分の構成及び作用は、例えば前述の図7〜11に示した従来構造と同様であるから、同等部分に関する図示並びに説明は省略若しくは簡略にし、以下、本例の特徴部分を中心に説明する。
【0024】
本例の場合も、前記サポート2aのうちで、ロータ1(図7〜9参照)を挟んで両側部分の、このロータ1の周方向に関する両端部に、それぞれサポート側係合部10a、10aを形成している。又、前記インナ側、アウタ側各パッド5a、6aを構成するインナ側、アウタ側各プレッシャプレート12a、13aの、前記ロータ1の周方向に関する両端部に、それぞれパッド側係合部11a、11bを形成している。そして、これらサポート側、パッド側各係合部10a、11a、11b同士の係合に基づき、制動時に前記インナ側、アウタ側各パッド5a、6aに作用する制動力を支承すると共に、これら各パッド5a、6aを軸方向の変位を可能に支持している。
【0025】
本例の場合、前記各サポート側係合部10a、10aを、前記ロータ1の径方向外側から順に、凸部16、16と凹部17、17とを備えたものとしている。又、これら各サポート側係合部10a、10aは、前記ロータ1の周方向に関し一方の側(例えば回入側)と他方の側(例えば回出側)とで、互いに対称に形成している。即ち、これら各サポート側係合部10a、10aを、前記ロータ1の中心軸を含み、前記サポート2aの幅方向中央部を通る仮想平面を対称面として、互いに対称に形成している。この為、前記サポート2aの形状が複雑にならず(簡素にでき)、このサポート2aの加工の容易化を図れる他、このサポート2aを車両に組み付ける場合に、この車両の幅方向に関して両側とも同じものにでき(部品の共通化を図れ)、生産性の向上、延いては、コスト低減を図れる。
【0026】
又、前記各パッド側係合部11a、11bのうち、前記ロータ1の正転時(前進時)にこのロータ1の回転方向前側(回出側で、例えば図6の左側)となるパッド側係合部11aを、第一突部18と、第二突部19と、これら第一、第二各突部18、19同士の間の第一凹入部20とを備えたものとしている。又、同じく、前記ロータ1の逆転時(後退時)にこのロータ1の回転方向前側(回出側で、例えば図6の右側)となるパッド側係合部11bを、前記ロータ1の径方向に関して中間部に位置する第三突部21と、同じく外側に位置してこの第三突部21の頂部に対して凹入する第二凹入部22とを備えたものとしている。そして、この様な各パッド各係合部11a、11bと上述の様な各サポート側係合部10a、10aとの間に、前記インナ側、アウタ側各パッド5a、6aが前記サポート2aに対しがたつく事を防止する為の、前記パッドクリップ15a、15bを配置している。
【0027】
本例の場合、前記各パッド側係合部11a、11bのうち、前記ロータ1の正転時にこのロータ1の回転方向前側となるパッド側係合部11aと、このパッド側係合部11aと対向するサポート側係合部10aとの間に、インナ側とアウタ側とで一体とされたパッドクリップ15aを配置している。このパッドクリップ15aは、インナ側クリップ部23と、アウタ側クリップ部24と、これらインナ側、アウタ側各クリップ部23、24同士を連結する連結部25とを備える。又、これらインナ側、アウタ側各クリップ部23、24はそれぞれ、前記パッド側係合部11aを構成する第一突部18の外周面(ロータ1の外周側に対応する面)と当接して前記インナ側、アウタ側各パット5a、6aを前記ロータ1の径方向内方に向けて押圧する第一押圧部26、26と、前記サポート側係合部10aを構成する凸部16の輪郭に沿ってこの凸部16を覆うクランク部27、27と、前記パッド側係合部11aを構成する第二突部19と前記サポート側係合部10aを構成する凹部17とに挟持される平板部28、28とを備える。
【0028】
一方、前記各パッド側係合部11a、11bのうち、前記ロータ1の逆転時にこのロータ1の回転方向前側となるパッド側係合部11bと、このパッド側係合部11bと対向するサポート側係合部10aとの間には、インナ側とアウタ側とでそれぞれ別体のパッドクリップ15b、15bを配置している。これら各パッドクリップ15b、15bはそれぞれ、前記パッド側係合部11aを構成する第三突部21の傾斜面部29と当接して、前記インナ側、アウタ側各パット5a、6aを前記ロータ1の径方向外方、並びに、これら各パッド5a、6aの中央に向けて押圧する第二押圧部30と、前記サポート側係合部10aを構成する凸部16の輪郭に沿ってこの凸部16を覆うクランク部27とを備える。尚、前記傾斜面部29は、上記ロータ1の径方向に関して、前記第三突部21の頂部よりも内径側に存在し、この径方向内側に向かう程、前記各パッド5a、5bの中央側に向かう方向に傾斜している。
【0029】
更に、本例の場合には、上述の様なパッドクリップ15a、15bを介して互いに当接する、前記各パッド側係合部11a、11bと前記各サポート側係合部10a、10aとの当接部のうち、前記ロータ1の正転時にこのロータ1の回転方向前側で、前記インナ側、アウタ側各パッド5a、5bに加わる接線力Ffを支承する部分Afの位置を、次の様に規制している。即ち、前記ロータ1の中心を中心とし、前記インナ側、アウタ側各パッド5a、5bの図心O(ロータ1側から見た状態での、各パッド5a、5bの摩擦面の幾何中心O=これら各パッド5a、5bを構成する摩擦材31、31の幾何中心O)を通る仮想円の、この図心Oに於ける仮想接線Kよりも、前記ロータ1の径方向に関し内側に位置させている。この為に、本例の場合には、前記ロータ1の正転時にこのロータ1の回転方向前側となるパッド側係合部11aを構成する第二突部19とサポート側係合部10aを構成する凹部17との当接部Afを、前記仮想接線Kよりも内側に位置させると共に、当該当接部Afで前記接線力Ffを支承できる様にしている。
【0030】
又、この様に当接部Afと仮想接線Kとの差(前記ロータ1の径方向に関するオフセット量)Sfに基づきモーメント(回転力)Mfが、前記インナ側、アウタ側各パッド5、6に加わる(当接部Afを支点として、図6の反時計方向のモーメントMfが加わる)が、このモーメントMfを支承する部分Bf、Cfの位置を、次の様に規制している。即ち、このモーメントMfを支承する部分Bf、Cfは、前記サポート2aの周方向両端部で、且つ、前記仮想接線Kよりも、前記ロータ1の径方向に関し外側に位置させている。この為に、本例の場合には、前記ロータ1の正転時にこのロータ1の回転方向前側となるパッド側係合部11aを構成する第一突部18の内周面(ロータ1の内周側に対応する面)とサポート側係合部10aを構成する凸部16の外周面(ロータ1の外周側に対応する面)との当接部Bf、並びに、前記ロータ1の逆転時にこのロータ1の回転方向前側となるパッド側係合部11bを構成する第三突部21の外周面(ロータ1の外周側に対応する面)とサポート側係合部10aを構成する凸部16の内周面(ロータ1の内周側に対応する面)との当接部Cfを、前記仮想接線Kよりも外側に位置させると共に、当該当接部Bf、Cfで前記モーメントMfを支承できる様にしている。
【0031】
更に、本例の場合には、前記各パッド側係合部11a、11bと前記各サポート側係合部10a、10aとの当接部のうち、前記ロータ1の逆転時にこのロータ1の回転方向前側で、前記インナ側、アウタ側各パッド5a、5bに加わる接線力Frを支承する部分Arの位置を、前記仮想接線Kよりも前記ロータ1の径方向に関し外側に位置させている。この為に、本例の場合には、前記ロータ1の逆転時にこのロータ1の回転方向前側となるパッド側係合部11bを構成する第二凹入部22とサポート側係合部10aを構成する凸部16との当接部Arを、前記仮想接線Kよりも外側に位置させると共に、当該当接部Arで前記接線力Frを支承できる様にしている。又、これと共に、前記各パッド側係合部11a、11bのうち、前記ロータ1の正転時にこのロータ1の回転方向後側(回出側で、例えば図6の右側)となるパッド側係合部11bに、前記傾斜面部29を設け、この傾斜面部29の端部で周方向に最も突出した部分を、前記第三突部21としている。この傾斜面部29は、前記仮想接線Kの方向に関し前記図心Oに向かう程、前記ロータ1の径方向内方に近付く方向に傾斜している。そして、この様な第三突部21を構成する傾斜面部29を、前記各パッドクリップ15b、15bの第二押圧部30により押圧している。
【0032】
上述の様に構成する本例の場合には、インナ側、アウタ側各パッド5a、6aの姿勢の安定化を図れ、これら各パッド5a、6aの引き摺り並びに振動(異音、ジャダー)を低減できる。
即ち、前記ロータ1の正転時に前記各パッド5a、6aは、前記サポート2aに対し、次の3点Af、Bf、Cfで支持(拘束)される。先ず、1点は、前記ロータ1の正転時(前進時)にこのロータ1の回転方向前側で、前記各パッド5a、6aに加わる接線力Ffが支承される部分Afとなり、この部分Afは、このロータ1の径方向に関し、仮想接線Kよりも径方向内側に位置する。又、残りの2点は、前記各パッド5a、6aに加わるモーメントMfが支承される部分Bf、Cfとなり、この部分Bf、Cfは、前記サポート2aの周方向両端部で、且つ、前記仮想接線Kよりも径方向外側に位置する。この為、これら支持3点を結ぶ三角形(図6で斜格子で示す三角形)を大きく{ロータ1の径方向に関する幅を大きく(太く)}でき、前記各パッド5a、6aの表裏方向に関する支持剛性を確保し易くできる。この結果、これら各パッド5a、6aが表裏方向に、前記支持3点を結ぶ三角形を揺動中心として揺動しにくくなり、これら各パッド5a、6aの姿勢の安定化を図れる。
【0033】
しかも、前記三角形を構成する支持3点Af、Bf、Cfのうちの2点Bf、Cfを、前記仮想接線Kよりも径方向外側に位置させている為、制動解除時に、前記ロータ1の軸方向に関する振れに伴い、このロータ1の軸方向各側面により前記各パッド5a、6aが、このロータ1から離れる方向に押圧されると、この押圧に基づきこれら各パッド5a、6aを、このロータ1から離れる方向に確実に変位(退避)させられる。特に、前記ロータ1の軸方向に関する振れ量は、このロータ1の径方向外側程大きくなるが、本例の場合には、上述の様に支持3点Af、Bf、Cfのうちの2点Bf、Cfを、前記仮想接線Kよりも径方向外側に位置させている為、この支持3点Af、Bf、Cfを結ぶ三角形と前記ロータ1により押圧される部分とを、このロータ1の径方向に関し重畳乃至は互いに近付けられる。この為、前述の様に支持剛性を確保できる(揺動しにくくできる)事と相俟って、前記各パッド5a、6aを安定した姿勢のまま確実に後退させる事ができ、これら各パッド5a、6aと前記ロータ1との引き摺り、並びに、これら各パッド5a、6aの振動(異音、ジャダー)の低減を図れる。
【0034】
しかも、本例の場合には、正転時と逆転時とで各パッド5a、6aに加わるモーメントMf、Mrの方向を同じにできる。即ち、正転時のモーメントMfは、上述の様に当接部Afと仮想接線K(図心Oに加わる接線力Ffの方向)との差Sfに基づき、この当接部Afを支点として図6の反時計方向に加わるが、逆転時のモーメントMrに関しても、当接部Arと仮想接線K(図心Oに加わる接線力Frの方向)との差(前記ロータ1の径方向に関するオフセット量)Srに基づき、この当接部Arを支点として同図の反時計方向に加わる。そして、この様に正転時と逆転時とで各パッド5a、6aに加わるモーメントMf、Mrの方向を同じにできる為、これら各パッド5a、5bを押圧するパッドクリップ15a、15bの弾性力を、前記モーメントMr、Mfが加わる方向と同方向(図6の反時計方向)に付与できる。
【0035】
この為、前記各パッド5a、6aを常時同方向(モーメントMf、Mrと同方向)、即ち、前記各パッドクリップ15a、15bの第一、第二各押圧部26、30により図6の反時計方向に押圧すれば良く、これら各パッド5a、6aのがたつきの防止をより確実に図れる。言い換えれば、前記各パッド5a、6aと前記サポート2aとの当接部(各パッド側係合部11a、11bと各サポート側係合部10a、10aとの当接部)を常に同方向に存在させておく事ができ、正転、逆転に拘らず、制動開始時に、前記ロータ1の回転方向前側となる係合部同士が当接(衝突)して異音が発生する事を防止できる。又、前記各パッドクリップ15a、15bの弾性力が付与される方向と前記モーメントMf、Mrが加わる方向とが同方向になる(反発しない)事で、これら各パッドクリップ15a、15bのへたりを抑えられる。そして、これら各パッドクリップ15a、15bにより前記各パッド5a、6aを押圧する力(抑え力)を低減しにくくでき、この面からも、これら各パッド5a、6aの姿勢の安定化を図れる。
【符号の説明】
【0036】
1 ロータ
2、2a サポート
3 キャリパ
4 ガイドピン
5、5a インナ側パッド
6、6a アウタ側パッド
7 シリンダ部
8 キャリパ爪
9 ピストン
10、10a サポート側係合部
11、11a、11b パッド側係合部
12、12a インナ側プレッシャプレート
13、13a アウタ側プレッシャプレート
14a、14b パッドクリップ
15a、15b パッドクリップ
16 凸部
17 凹部
18 第一突部
19 第二突部
20 第一凹入部
21 第三突部
22 第二凹入部
23 インナ側クリップ部
24 アウタ側クリップ部
25 連結部
26 第一押圧部
27 クランク部
28 平板部
29 傾斜面部
30 第二押圧部
31 摩擦材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪と共に回転するロータに隣接して車体に固定されるサポートと、このロータの軸方向の変位を可能にこのサポートに支持された状態でこのロータの両側に配置された一対のパッドと、前記サポートの一部に支持され、これら各パッドを前記ロータの両側面に押し付ける為のキャリパとを備え、前記サポートの周方向両端部に設けた各サポート側係合部と、前記各パッドを構成するプレッシャプレートの周方向両端部に設けた各パッド側係合部との係合により、制動時に前記各パッドに加わる制動トルクを支承すると共に、前記サポート側、パッド側各係合部同士の間に、前記各パッドが前記サポートに対しがたつく事を防止する為のパッドクリップをそれぞれ配置したディスクブレーキに於いて、
これら各パッドクリップを介して互いに当接する、前記各パッド側係合部と前記各サポート側係合部との当接部のうち、前記ロータの正転時にこのロータの回転方向前側で、前記各パッドに加わる接線力を支承する部分を、このロータの中心と同一の中心とし、前記各パッドの図心を通る仮想円の、この図心に於ける仮想接線よりも、このロータの径方向に関し内側に位置させると共に、同じく前記当接部のうち、前記各パッドに加わるモーメントを支承する部分を、前記サポートの周方向両端部で、且つ、前記仮想接線よりも、前記ロータの径方向に関し外側に位置させた事を特徴とするディスクブレーキ。
【請求項2】
前記各パッド側係合部と前記各サポート側係合部との当接部のうち、前記ロータの逆転時にこのロータの回転方向前側で、前記各パッドに加わる接線力を支承する部分を、前記仮想接線よりもこのロータの径方向に関し外側に位置させると共に、前記各パッド側係合部のうち、前記ロータの正転時にこのロータの回転方向後側となるパッド側係合部に、前記仮想接線の方向に関し前記図心に向かう程、このロータの径方向内方に近付く方向に傾斜する傾斜面部を設け、この傾斜面部を前記パッドクリップにより押圧する、請求項1に記載したディスクブレーキ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2010−223287(P2010−223287A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−69629(P2009−69629)
【出願日】平成21年3月23日(2009.3.23)
【出願人】(000000516)曙ブレーキ工業株式会社 (621)
【Fターム(参考)】