説明

ディスクブレーキ

【課題】熱による性能低下を抑制することができるディスクブレーキの提供。
【解決手段】内部に取付孔36を有してディスク回転軸線と直交する方向に沿って突出する部分的円筒状部35を有するボス部23を備え、シリンダ部20のボアの底部29とボス部23の部分的円筒状部35とを結んでディスク半径方向の内方に立設される伝熱部50が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動二輪車や四輪自動車等の車両を制動するためのディスクブレーキに関する。
【背景技術】
【0002】
ディスクブレーキにおいて、取付孔を有する車体への取り付け用のボス部を、軽量化のため部分的に円筒状をなす形状に形成したものがある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011−12719号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記のディスクブレーキにおいては、ボアの底部の熱が逃げにくく、性能低下の要因となることがあった。
【0005】
本発明は、熱による性能低下を抑制することができるディスクブレーキの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明は、シリンダ部のボアの底部とボス部の部分的円筒状部とを結んでディスク半径方向の内方に立設される伝熱部を形成した。
【発明の効果】
【0007】
請求項1に係る発明によれば、熱による性能低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明に係る一実施形態のディスクブレーキを示す正面図である。
【図2】本発明に係る一実施形態のディスクブレーキを示す側面図である。
【図3】本発明に係る一実施形態のディスクブレーキを示す下面図である。
【図4】本発明に係る一実施形態のディスクブレーキを示す斜視図である。
【図5】本発明に係る一実施形態のディスクブレーキを示す斜視図である。
【図6】本発明に係る一実施形態のディスクブレーキを示す図1のX−X断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明に係る一実施形態のディスクブレーキを図面に基づいて説明する。
【0010】
本実施形態のディスクブレーキ1は、自動二輪車の前輪制動用のディスクブレーキである。なお、これに限らず、例えば自動二輪車の後輪制動用や四輪自動車の制動用のディスクブレーキにも勿論適用可能である。
【0011】
このディスクブレーキ10は、図1〜図3に示すように、制動対象となる車輪とともに回転するディスク11と、このディスク11に摩擦抵抗を付与するキャリパ12とを備えている。なお、以下においては、車両への取付状態をもって説明し、この取付状態におけるディスク11の円周方向(回転方向)をディスク周方向と称し、ディスク周方向のキャリパ12の中央位置を通りディスク11の半径方向に沿う方向をディスク半径方向と称し、ディスク11の回転軸線方向をディスク軸方向と称す。
【0012】
キャリパ12は、ディスク11を外径側にて跨いだ状態で車両の非回転部に取り付けられるキャリパ本体15を有している。キャリパ本体15は、図1に示すように、ディスク周方向に沿って長い形状をなすとともにディスク11のアウタ側(車輪に対し反対側)に配置されるシリンダ部20と、ディスク周方向に沿って長い形状をなすとともに図3に示すようにディスク11のインナ側(車輪側)に配置されるシリンダ部21と、図2に示すように、シリンダ部20およびシリンダ部21のそれぞれのディスク径方向外側からディスク11の外周側へ延びてシリンダ部20とシリンダ部21とをディスク11の径方向外側で結ぶブリッジ部22と、図3に示すように、アウタ側のシリンダ部20のディスク軸方向の中間位置にてディスク周方向両側に設けられる車体への取り付け用の一対のボス部23,23とを有している。キャリパ本体15は、これらシリンダ部20,21、ブリッジ部22およびボス部23,23が一体的に鋳造により形成された、いわゆるモノブロックタイプとなっている。
【0013】
上記したブリッジ部22は、図1に示すように、ディスク周方向両側に配置される一対のブリッジ構成部25,25と、ディスク周方向におけるこれらの間位置に配置されるブリッジ構成部26とからなっている。その結果、ブリッジ部22には、ディスク周方向一側のブリッジ構成部25とブリッジ構成部26との間と、ディスク周方向他側のブリッジ構成部25とブリッジ構成部26との間とに、それぞれ、ディスク径方向に貫通する図示略の開口部が形成されている。
【0014】
アウタ側のシリンダ部20には、ディスク周方向一側のブリッジ構成部25と中央のブリッジ構成部26との間位置と、ディスク周方向他側のブリッジ構成部25とブリッジ構成部26との間位置とに、それぞれ、ディスク軸方向に沿うボア28が、図3に示すようにディスク11に対向して開口するように形成されている。シリンダ部20が有するこれらのボア28,28は、ディスク11とは反対側の底部29,29の外面29a,29aが連続する同一面に配置されてキャリパ本体15におけるディスク軸方向のアウタ側の外面を構成している。なお、ボア28,28の内周面28a,28aはディスク軸方向に直交する断面が円形状をなしており、ボア28,28の内底面28b,28bはディスク軸方向に直交している。
【0015】
インナ側のシリンダ部21には、ボア28,28のそれぞれと対向するように、ディスク軸方向に沿うボア31が形成されている。これらのボア31,31は、ディスク11とは反対側の底部32,32の外面32a,32aがキャリパ本体15におけるディスク軸方向のインナ側の外面を構成している。なお、ボア31,31の内周面31a,31aはディスク軸方向に直交する断面が円形状をなしており、ボア31,31の内底面31b,31bはディスク軸方向に直交している。
【0016】
なお、インナ側のシリンダ部21のボア31,31の底部32,32には、図示は略すが、アウタ側のボア28,28内およびインナ側のボア31,31内を切削加工のための工具が挿通される底部貫通穴が形成されている。この底部貫通穴が、別体の蓋部材を摩擦攪拌接合することで閉塞され、その結果、底部32,32が形成されている。これに対し、アウタ側のシリンダ部20のボア28,28の底部29,29は、キャリパ本体15の鋳造時に成形されている。
【0017】
ディスク周方向の同側に配置されるボア28,31同士は、同径であって同心つまり同一直線上に並べられて対をなしており、このようなボア28,31の対が、ディスク周方向に離間して二対形成されている。ここで、ディスク周方向の一側で対をなすボア28,31の径は、ディスク周方向の他側で対をなすボア28,31の径よりも若干大径となっている。なお、対向配置されるボア28,31の対は、少なくとも一対あれば良く、三対以上あっても良い。
【0018】
アウタ側の両側のボス部23,23には、軽量化のため部分的に略円筒形をなす部分的円筒状部35,35が形成されている。部分的円筒状部35,35は、それぞれの内部の中央にディスク半径方向に沿って貫通する取付孔36を有している。部分的円筒状部35,35は、それぞれのディスク半径方向の外端部が、取付孔36に挿通される図示略の取付ボルトの図1に示す座部37となり、それぞれのディスク半径方向の内端部が車体側に接合される接合部38となる。つまり、キャリパ12は、図3に示す取付孔36,36に挿通される図示略の取付ボルトで車体側(具体的にはフロントフォーク)に固定される、いわゆるラジアルマウントタイプとなっている。言い換えれば、キャリパ12は、ボス部23,23の部分的円筒状部35,35において取付ボルトの軸力を受ける。
【0019】
また、アウタ側のシリンダ部20には、ディスク周方向の中央位置に、図1に示す連通路39がディスク半径方向に沿って穿設されている。この連通路39には、シリンダ部20およびシリンダ部21内にブレーキ液を給排するための図示略のブレーキホースが接続される。
【0020】
図3に示すように、アウタ側のボア28,28およびインナ側のボア31,31には、それぞれピストン41が摺動可能に配置されている。よってディスク11の両側で同一直線上に配置されて対をなすピストン41,41が、ディスク周方向に所定の間隔をあけて二対設けられている。つまり、キャリパ本体15とピストン41,41,…とを備えるキャリパ12は、対向ピストン型の4ポットキャリパとなっている。なお、ディスク周方向の一側で対をなすピストン41,41の径も、ディスク周方向の他側で対をなすピストン41,41の径より若干大径となっている。
【0021】
図1に示すように、キャリパ本体15には、ディスク軸方向に沿ってシリンダ部20およびシリンダ部21間に橋架される二本のパッドピン43,43がディスク周方向に離間して設けられている。一方のパッドピン43は、一方のブリッジ構成部25とブリッジ構成部26との間に、他方のパッドピン43は、他方のブリッジ構成部25とブリッジ構成部26との間に、それぞれ設けられている。
【0022】
これらのパッドピン43には、ディスク11の両側に配置される図2および図3に示す一対のブレーキパッド45,45が、ディスク軸方向に移動可能となるように支持されている。これらブレーキパッド45,45のそれぞれのディスク11とは反対側には、図3に示すように上記したピストン41,41,…が配置されており、これらピストン41,41,…が、図1に示す連通路39を介して図3に示すボア28,28,31,31内に導入されるブレーキ液圧によってボア28,28,31,31内で摺動してディスク11の方向に移動する。これにより、ピストン41,41,…とディスク11との間に設けられたブレーキパッド45,45がディスク11に押し付けられ、車両に制動力を発生させる。なお、ブレーキパッド45,45の対は、少なくとも一対設けられていれば良く、例えばピストン41と一対一で対応するように複数対設けても良い。
【0023】
そして、本実施形態においては、ボス部23,23が有する上記した部分的円筒状部35,35とシリンダ部20のボア28,28の底部29,29との、近接するもの同士を結んで、シリンダ部20よりもディスク半径方向内方に突出するように、図1〜図6に示すリブ状の伝熱部50,50が立設されている。
【0024】
ディスク周方向一側のボア28、ボス部23および伝熱部50と、ディスク周方向他側のボア28、ボス部23および伝熱部50とは、ボア28の径が若干異なることに伴う部分以外は共通の略鏡面対称の形状をなしているため、以下、ディスク周方向一側のボア28、ボス部23および伝熱部50を例にとり、さらに説明する。
【0025】
部分的円筒状部35は、図4および図5に示すように、ボス部23のディスク半径方向の全長にわたって形成されている。部分的円筒状部35は、図3に示すように、アウタ側のシリンダ部20よりも、ディスク軸方向においてディスク11とは反対側に突出しており、これにより、シリンダ部20とで互いの境界位置近傍にディスク半径方向内方から見て凹む凹状部51を形成する。また、部分的円筒状部35は、アウタ側のシリンダ部20よりも、ディスク回転軸線と直交する方向であるディスク周方向のボア28とは反対側に突出しており、図4および図5に示すように、ディスク回転軸線と直交する方向であるディスク半径方向内方にも突出している。部分的円筒状部35のこのシリンダ部20からディスク半径方向内方へ突出する内方突出部52の突出先端が、上記した車体側への接合部38となる。内方突出部52は、接合部38側の部分が全周にわたって連続する略円筒状をなしている。
【0026】
図3に示すように、伝熱部50は、底部29への連結部53よりも部分的円筒状部35への連結部54の方が、ディスク軸方向においてディスク11側に位置するように傾斜しており、連結部54は部分的円筒状部35の内方突出部52に連結されている。連結部54は、その全体が、ディスク軸方向において、内方突出部52と位置が重なり合っており、取付孔36の中心よりもディスク11とは反対側の範囲に配置されている。言い換えれば、伝熱部50の連結部54は、その全体がディスク軸方向において、内方突出部52のディスク11とは反対側の端部からディスク11側に、取付孔36の中心までの範囲内で配置されている。
【0027】
また、伝熱部50の連結部54は、その全体が、ディスク周方向においても、内方突出部52と位置が重なり合っており、取付孔36の中心よりもディスク周方向のボア28側の範囲に配置されている。言い換えれば、伝熱部50の連結部54は、ディスク周方向において、内方突出部52のボア28側の端部からボア31とは反対側に、取付孔36の中心までの範囲内で配置されている。
【0028】
伝熱部50は、図6に示すように、ディスク半径方向の内方ほど厚さが薄くなる形状をなしており、そのディスク半径方向内側の端面50aが、最も薄く、伝熱部50の厚さ方向の最も中央側に位置している。
【0029】
以上に述べた本実施形態のディスクブレーキ10によれば、制動時にディスク11とブレーキパッド45,45とに摩擦熱が生じることになり、この摩擦熱のうち主にアウタ側のブレーキパッド45に生じる摩擦熱が、このブレーキパッド45からアウタ側のピストン41,41およびブレーキ液を介してアウタ側のシリンダ部20のボア28,28に伝わることになるが、この熱を、ボア28,28の底部29,29側から伝熱部50,50によって良好にボス部23,23の部分的円筒状部35,35に伝達し、接合部38,38から車体側に逃がすことができる。よって、キャリパ12の放熱性能を向上させることができ、熱による性能低下、特にボア28,28の底部29,29の温度上昇による動的性能の低下を抑制することができる。また、ボア28,28内のブレーキ液の温度を低下させることができるため、ベーパーロックの発生を抑制できる。加えて、ボア28,28の温度と、ボア28,28およびピストン41,41の間の図示略のシールの温度とを低下させることができるため、熱間時のブレーキレバーの操作フィーリングを向上させることができ、ブレーキ液の漏れに対する信頼性を向上できる。さらに、ブレーキパッド45,45の温度も低下させることができるため、フェードの発生を抑制し、反りを低減できる。
【0030】
加えて、ディスク円周方向に対し傾斜する伝熱部50がシリンダ部20の外側の走行風をシリンダ部20のディスク11側およびボス部23側に導風するため、キャリパ12の全体の冷却効率を向上できる。また、これによりボス部23自体の温度を低下させることができるため、取付ボルトの軸力の安定化を図ることができ、ボス部23の変形を抑制できる。
【符号の説明】
【0031】
10 ディスクブレーキ
11 ディスク
20 シリンダ部
23 ボス部
28 ボア
29 底部
35 部分的円筒状部
36 取付孔
41 ピストン
45 ブレーキパッド
50 伝熱部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ディスクの両側に配置される少なくとも一対のブレーキパッドと、
前記ディスクの両側に配置されて前記一対のブレーキパッドを前記ディスクに押圧する少なくとも一対のピストンと、
前記ピストンが摺動するボアを有するシリンダ部と、
内部に取付孔を有してディスク回転軸線と直交する方向に沿って突出する部分的円筒状部を有するボス部と、を備えたディスクブレーキにおいて、
前記シリンダ部の前記ボアの底部と前記ボス部の前記部分的円筒状部とを結んでディスク半径方向の内方に立設される伝熱部が形成されていることを特徴とするディスクブレーキ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−211626(P2012−211626A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−77026(P2011−77026)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(509186579)日立オートモティブシステムズ株式会社 (2,205)
【Fターム(参考)】