説明

ディーゼルパティキュレートフィルタ

【課題】使用時及びPM再生時におけるクラック等の欠陥発生を抑制したディーゼルパティキュレートフィルタを提供すること。
【解決手段】ここに開示されるディーゼルパティキュレートフィルタ(DPF)60Aは、該DPFの上流側端部(Fr側)および下流側端部(Rr側)のうちの少なくとも一方の外周端部において、局所的に該DPFの外方から中心方向に向けて圧縮力がかかっていることを特徴とする。上記DPFに対する上記圧縮力の負荷手段としては、好適には、該DPFの外周を拘束バンド80で締め付けることにより実現することができる。かかるDPFによると、DPFの使用時またはPM再生時の、DPF内における局所的な温度変化に伴うクラック発生を抑制することができ、さらに煤堆積限界量を向上させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は排ガス用の捕集フィルタに関する。詳しくは、使用時及び再生時における熱応力によるクラック等の欠陥発生が抑制された、ディーゼルパティキュレートフィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
ディーゼル機関から排出される粒子状物質(パティキュレートマター、以下「PM」とも称する。)を捕集するために、ディーゼルエンジン自動車にはディーゼルパティキュレートフィルタ(以下「DPF」ともいう。)が設けられる。一般にDPFは排ガスとの接触面積を高めるために規則的に並んだセルを有するハニカム構造体(ハニカム基材)を備えており、該ハニカム構造体は高耐熱性および多孔質性を有するセラミックス(典型的にはコージェライト、炭化ケイ素等)を主体として構成されていることが多い。このためDPF自体の脆性および耐衝撃性は比較的低く、これを実際の自動車の排気系において使用するためには、該DPFの移動を制限するような保持ケースを用いて、該DPF全体を覆うことが必要となる。一般に、上記DPFを用いた排ガスの浄化システムにおいては、該DPFの外周縁に無機材料(典型的にはアルミナ繊維)から成るマットまたは金属製ネットの様な保持部材(緩衝部材)を巻き付けた上で、これらを金属製触媒コンバータケース(金属シェル)の中に収容することにより触媒コンバータを形成し、これを排気通路に設置して用いる。
特許文献1及び特許文献2には、上記排ガス捕集フィルタ及び該フィルタを収容した触媒コンバータの構成について記載されている。具体的には、特許文献1にはディーゼルパティキュレートフィルタと外方を覆う金属シェルの間に配置される保持シール材から構成されるディーゼルパティキュレートフィルタが開示されている。また、特許文献2にはフィルタ本体外周に設けた補助体と、フィルタとケース間に圧縮状態で配置された保持要素とを係合した排ガス浄化装置が開示されている。
【0003】
ところで、上記DPFの排気系における使用過程において、該DPFの隔壁の表面や細孔において捕集され経時的に堆積した粒子状物質(PM)は、排ガスの流通抵抗の増大及び内燃機関の出力低下をもたらす。このため、DPFに堆積した粒子状物質を適宜除去することにより該DPFを再生(以下「PM再生」ともいう。)し、排ガス流通能力を回復させる必要がある。この再生処理としては酸化触媒を用いた連続再生方法や、ヒーターやバーナーによる加熱再生方式等の技術が知られている。
しかしながら上記PM再生時にはDPF内において不均一な温度上昇が生じ易く、この場合、局所的に熱応力が発生するために該DPF内に割れやクラック等の欠陥が生じ易いという不具合があった。
このようなDPF再生時の熱応力による欠陥発生を抑制するための技術として、例えば特許文献3及び特許文献4に記載された従来技術が知られている。即ち、特許文献3にはセラミックハニカム構造体の外周壁部の熱膨張係数が、セル壁部の径方向の熱膨張係数より小さいセラミックハニカム構造体が開示されている。また、特許文献4には、ガス流入面とガス流出面との両面を結ぶ方向に圧縮応力を負荷させながら使用するセラミックフィルタについて記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4465792号公報
【特許文献2】特開2008−8162号公報
【特許文献2】特開2004−75523号公報
【特許文献3】特開2003−311114号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら上述したような従来のDPFにおいては、使用時(即ちPMを捕集して排ガスから除去する時)及びPM再生時(即ちDPF内に堆積したPMを燃焼により除去する時)におけるクラック等の欠陥発生の抑制に関して、まだまだ改善の余地があり十分なものとはいえない。
特に、捕集されたPMがDPFに多く堆積している状態において、自動車が急減速または急停車した場合などには上記PMが急激燃焼(異常燃焼)する現象が起こり得る。このような上記PMの異常燃焼が起こった場合、DPF全体の温度をPM再生に最適な温度域内に制御することはもはや困難であり、いわばDPFが熱暴走した状態となり得る。このとき、特にDPFの下流側端面付近において局所的に、想定以上の急激な温度上昇が生じ、熱膨張差により発生する熱応力によって該DPFにクラックが生じることが避けられなかった。
【0006】
これに対し上述した従来技術において、例えば特許文献1や特許文献2に記載されるように、DPF外周にマットやネット等を保持部材として巻き付け、これを圧縮しながら金属ケースに収容することにより、DPFにある程度の圧力(即ち、該DPFの軸芯に直交する面内方向への面圧)を掛けることが可能である。上記保持部材によるDPFへの上記面内方向への圧力負荷により、PM再生時の異常燃焼時にDPF内に発生する熱応力をある程度、緩和することが可能であり、一定のクラック発生抑制効果があると考えられる。
しかしながら上記DPFでは、走行中に保持部材であるマット繊維やネットが劣化することにより、使用初期に負荷されていた面圧が著しく低下し、クラック発生の抑制効果を失い易いという問題があった。また上記保持部材により負荷される面圧の大きさは、ハニカム構造体や保持部材の寸法精度に依存するため、各触媒コンバータによってバラつきがあり、クラック抑制効果が小さい場合があるという問題があった。
【0007】
また一方で、DPFを構成するハニカム構造体の気孔率を下げる、または該ハニカム構造体の壁厚を厚くすることにより、該ハニカム構造体自体の熱容量を増加させ、これにより熱応力に由来するクラックの発生を抑制することが可能である。しかしこの場合、排ガスによる圧力損失が増大し、燃費の悪化を招来するという問題があった。
【0008】
本発明はかかる課題を解決すべく創出されたものであり、圧力損失や燃費等の性能に影響を与えることなくDPFのクラック等の欠陥発生を抑制することを目的とする。また、クラック発生に対する煤堆積限界量(Soot Mass Limit、以下「SML」ともいう。)を向上させることを目的とする。上記SMLの値は大きいほどDPF再生までのインターバルを長く設定することができ、燃費及び信頼性の向上に繋がるため重要である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、様々な角度から検討を加え、上記目的を実現することのできる本発明を創出するに至った。
即ち、ここに開示されるディーゼルパティキュレートフィルタ(DPF)は、ディーゼル機関の排ガスを浄化するために、上記ディーゼル機関の排気通路に設置されて使用される筒状のDPFである。ここで上記排気通路において上記排ガスが上記DPFに流入する側を上流側とし、上記排ガスが上記DPF内を通過して流出する側を下流側としたとき、上記DPFの上記上流側および上記下流側のうちの少なくとも一方の外周端部において、局所的に外方から中心方向に向けて圧縮力が掛けられていることを特徴とする。
かかるDPFによると、該DPFの使用時またはPM再生時において、DPF内にたとえ急激な温度変化があった場合であっても、熱応力が緩和され、クラックの発生が抑制される。また、かかるDPFによるとSMLが向上し、これにより燃費の向上、及び信頼性の向上が図られる。特にウォールフロータイプのDPFを使用する場合には、目封じ材が施され、強度が他の部分と比較して相対的に大きい上記DPFの上流側端部、または下流側端部において上記圧縮力を負荷するため、比較的大きい圧縮力(または圧力)を掛けることが可能となり、より高い熱応力緩和の効果が得られる。さらに、ケース保持用の保持部材とは独立して上記圧縮力を掛けるため、寸法精度に由来するSMLのバラつきおよび低下を抑制することができ、信頼性が向上する。
【0010】
ここで、上記圧縮力がDPF下流側端部の外周端部において局所的に負荷されている場合(即ち該圧縮力がDPF下流側端部の外周端部に局所的に掛けられている場合)、該DPFはPMが堆積した状態でのPMの異常燃焼時において、熱膨張差による熱応力を緩和することができるため、上記DPF下流側端部におけるクラックの発生を抑制することができる。このためクラック発生に対する煤堆積限界量(SML)が向上し、これによりPM燃焼(DPF再生)までのインターバルを長くすることができることから、燃費の向上、及び信頼性の向上が図られる。
【0011】
また、上記圧縮力がDPF上流側端部の外周端部において負荷されている場合(即ち該圧縮力がDPF上流側端部の外周端部に局所的に掛けられている場合)、DPF再生時の急速昇温、およびその後の再生急停止による急冷によって生じる熱応力を緩和することができ、上記DPF上流側端部におけるクラックの発生を抑制することができる。
【0012】
ここに開示されるDPFの好ましい一態様では、上記DPFの外周端部において、上記局所的圧縮力が外周全域に亘って略一様に掛けられていることを特徴とする。
かかるDPFによると、該DPFの外周端部の外周縁において、該DPFの軸心に直交する面の面内方向に対し、満遍なくほぼ均一に圧縮力が掛かることとなる。これにより熱応力によるクラック発生に対して、より高い抑制効果が図られる。
【0013】
ここに開示されるDPFの他の好ましい一態様では、上記略一様の圧縮力は、拘束バンドで上記DPFの外周を締め付けることにより実現されていることを特徴とする。
かかるDPFによると拘束バンド(バンド状器具)により、特に熱応力が発生し易い箇所である下流側端部または上流側端部に対して、選択的に略一様の圧縮力を負荷することができる。このためハニカム構造体の素材や規模などに依存して変化するクラックの発生モード、位置、または程度に応じて、適切な大きさの上記圧縮力を簡便に負荷することができる。またかかる拘束バンドを用いると、DPFの端部に上記圧縮力を負荷しつつ、該DPFの胴部に対しては上記圧縮力を掛けないようにすることが可能である。このため、リングオフクラックなど、DPFの胴部への過度な圧縮力の負荷に由来するクラック発生を防止することができる。
【0014】
ここに開示されるDPFの他の好ましい一態様では、上記DPFの端面から少なくとも20mmよりも近い外周端部領域に上記拘束バンドの一部が重なるように設置されることを特徴とする。
かかるDPFによると、PMの異常燃焼など急激な温度変化により発生する熱応力に由来する外周端部近傍のクラック発生を効果的に抑制することができる。
【0015】
ここに開示されるDPFの他の好ましい一態様では、上記拘束バンドの幅(即ちDPFの外周端部領域を拘束する部分の幅)が5mm以上20mm以下であることを特徴とする。
かかるDPFによると、急激な温度変化により発生する熱応力の主要な発生部位に対し、適切に上記拘束バンドにより圧縮力を負荷することができるため、クラック発生の抑制を図ることができる。
【0016】
ここに開示されるDPFの他の好ましい一態様では、上記圧縮力を掛けることにより上記DPFに負荷される圧力が25℃において1MPa以上5MPa以下であることを特徴とする。
かかるDPFによると内燃機関が高負荷で作動した場合や、DPF内のPM異常燃焼により該DPFが高温(典型的には400℃以上900℃以下)に加熱された場合であっても、上記DPFに対して正の値である上記圧力(または圧縮力)が負荷された状態(より好ましくはDPFの外周部における温度が500℃である場合において0.2MPa以上の圧力が負荷された状態)に保たれ得る。このため、かかる高温状態においても熱応力によるクラック発生を抑制することができる。
【0017】
ここに開示される排ガス浄化装置は、本明細書に開示されたいずれかのDPFを使用することを特徴とする。
かかる排ガス浄化装置によるとSMLが向上するため、PM再生までのインターバルが長くなり、燃費の向上及び信頼性の向上が図られる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】一実施形態に係る排ガス浄化装置の概略図である。
【図2】一実施形態に係る排ガス浄化装置における制御部の構成を模式的に説明した図である。
【図3】一実施形態に係るDPFにおいて使用されるハニカム構造体の斜視図である。
【図4】一実施形態に係るDPFの斜視図である。
【図5】一実施形態に係るDPFにおいて使用される拘束バンドの斜視図である。
【図6】一実施形態に係るDPFの斜視図である。
【図7】一実施形態に係るDPFの斜視図である。
【図8】一実施形態に係る排ガス浄化部の断面図である。
【図9】実施例1、3及び比較例1に係るDPFについて、非定常強制再生試験を行った際に設置した熱電対の設置場所を説明する図である。
【図10】実施例1に係るDPFについて煤堆積量が8.3g/個である場合の、非定常強制再生試験における温度挙動を示した図である(縦軸:温度(℃)、横軸:時間(秒))。
【図11】比較例1に係るDPFについて煤堆積量が6.7g/個である場合の、非定常強制再生試験における温度挙動を示した図である(縦軸:温度(℃)、横軸:時間(秒))。
【図12】比較例1に係るDPF(煤堆積量:6.7g/個)についての非定常強制再生試験後の下流側端面の写真である。
【図13】比較例1に係るDPFについての急冷試験後の上流側端面の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
【0020】
ここで開示されるDPF及び該DPFを備える排ガス浄化装置の一実施形態について図面を用いて説明する。図1及び図2に示すように、本実施形態に係る排ガス浄化装置100は大まかに言って、ディーゼルエンジンを主体とするエンジン部1(エンジン部1にはエンジンを駆動するためのアクセルその他の操作系を含む。)と、該エンジン部1に連通する排気系に設けられる排ガス浄化部40と、該排ガス浄化部40と該エンジン部1との間の制御を司るECU(電子制御ユニット)30とにより構成されている。
【0021】
エンジン部1は、典型的には複数ある燃焼室2と、燃料タンク24に連通する燃料ポンプ23および燃料供給管22を介して供給されてきた燃料を各燃焼室2に噴射する燃料噴射弁3とを備えている。各燃焼室2は、吸気マニホルド4および排気マニホルド5と連通している。吸気マニホルド4は吸気ダクト6を介して、排気ターボチャージャ7のコンプレッサ7aの出口に接続されている。コンプレッサ7aの入口は、吸入空気量検出器8を介してエアクリーナ9に接続されている。吸気ダクト6内にはスロットル弁10が配置されている。吸気ダクト6の周りには、吸気ダクト6内を流れる空気を冷却するための冷却装置11が配置されている。排気マニホルド5は、排気ターボチャージャ7の排気タービン7bの入口に接続されている。排気タービン7bの出口は、排気管12に接続されている。
【0022】
排気マニホルド5と吸気マニホルド4とは、排ガス再循環(以下、EGRと称する。)通路18を介して互いに連結されている。EGR通路18内には、電子制御式の制御弁19が配置されている。また、EGR通路18の周りには、EGR通路18内を流れるEGRガスを冷却するための冷却装置20が配置されている。
【0023】
排気管12内には、排ガス中に燃料を供給(噴射)する燃料供給弁15が配置されており、さらに下流側には排ガス浄化部40が配置されている。排ガス浄化部40は、排ガス中のCOやHCを酸化するための酸化触媒50と、排ガス中のPMを捕集するディーゼルパティキュレートフィルタ(DPF)60を備えている。
【0024】
図2に示すように、ECU30は、エンジン部1と排ガス浄化部40との間の制御を行うユニットであり、デジタルコンピュータを含んでいる。ECU30は、双方向性バスによって互いに接続されたROM(リードオンメモリ)、RAM(ランダムアクセスメモリ)、CPU(マイクロプロセッサ)、入力ポートおよび出力ポートを有している。
図示しないアクセルペダルには、アクセルペダルの踏込み量に比例した出力電圧を発生する負荷センサが接続されている。該負荷センサの出力電圧は、対応するAD変換機を介して入力ポートに入力される。更に入力ポートには、クランクシャフトが所定の角度(例えば15°)回転する毎に出力パルスを発生するクランク角センサが接続される。
【0025】
排ガス浄化部40における温度センサ及び差圧センサからの出力信号は、それぞれ対応するAD変換機を介して入力ポートに入力される。一方、出力ポートは、対応する駆動回路を介して燃料噴射弁3、スロットル弁10の駆動用ステップモータ、制御弁19、燃料タンク24に連通する燃料ポンプ23及び燃料供給弁15に接続されている。このように、燃料噴射弁3、燃料供給弁15等は、ECU30により制御されている。
なお、上述の制御系自体は本発明を特徴付けるものではなく、従来この種の内燃機関(ディーゼルエンジン)で採用されるものでよく、これ以上の詳細な説明は省略する。
【0026】
次に、本発明を特徴付ける排ガス浄化部40に備えられたDPF60について説明する。ここに開示されるDPF60は筒状のハニカム構造体を備える。
図3に示すように、上記ハニカム構造体70は規則的に配列したセル72を有する。ここでハニカム構造体70としては、該ハニカム構造体70の両端面において隣接するセル72が、互いに反対側の端面を目封じされていることを特徴とするウォールフロータイプのハニカム構造体70が好適に用いられる。ウォールフロータイプのハニカム構造体70は、排ガスが上記ハニカム構造体70の多孔質隔壁を介してセル72間を流通する間にPMが捕集されるものであり、捕集効率が良好であり製造も容易である。
上記ハニカム構造体70は、ディーゼル機関が高負荷条件で運転された際に発生する高温(例えば400℃以上)の排ガスに急激に曝されたときにも安定した性状を有するものであればよく、従来、この種のハニカム構造体70に用いられる材料を用いることができる。該材料としては、コージェライト、チタン酸アルミニウム、炭化ケイ素(SiC)などのセラミックス、またはステンレスなどの金属(合金)が挙げられる。この中で、コージェライト及びチタン酸アルミニウムは熱膨張係数が比較的小さく、本明細書に開示された技術により優れた効果、即ち、DPF60外周端部における圧縮力負荷によるクラック発生の抑制効果、が発現し易いため特に好適に用いられ得る。
【0027】
また、ここに開示されるDPF60は上流側端部または下流側端部の少なくとも一方の外周端部において、外方から中心方向に向けて圧縮力が掛けられている。
上記圧縮力を負荷する手段としては、上記DPF60の外周端部において中心方向に向かって圧縮力(または圧力)を負荷することができるものであれば、特に限定されないが、以下に具体的手段を例示する。なお下記の例示は、上記圧縮力の負荷手段を限定する目的で記載したものではない。
上記圧縮力の負荷手段としては、例えば、拘束バンドで上記DPF60の外周を締め付けることが挙げられる。即ち、上記DPF60の外周部に上記拘束バンドを一定の引っ張り力を掛けながら巻き付け、該引っ張り力を維持するようにバンド固定器具(バンドクランプ)により該拘束バンドを固定することにより行うことができる。上記拘束バンドを圧縮力の負荷手段として使用すると、上記DPF60の外周端部において上記圧縮力を外周全域に亘って略一様に掛けることが可能となるため好適である。
また他の例では、ホースクランプまたはホースバンドを上記DPF60の外周部に設置し、付属するねじを締め付ける、または、ばね式固定器具により固定する等により上記DPF60の外周端部において圧縮力を掛けることができる。
上述する圧縮力を掛けるために使用される器具(典型的には上記拘束バンド)の材料としてはチタン、銅、ステンレス、形状記憶合金など、融点が概ね900℃以上(より好適には1000℃以上、さらに好適には1300℃以上)の金属または合金が好適に用いられる。
【0028】
図4は上記DPF60の下流側端部に上記拘束バンドを局所的に巻き付けることにより局所的に上記圧縮力を掛けている一実施態様について説明した図である。即ち、図4に示すDPF60Aでは、該DPF60Aを排気通路においた際に排ガスが流出する側(図中では「Rr側」と記載)の端面近傍の外周縁において、拘束バンド80を局所的に巻き付けることにより上記圧縮力を掛けている。
また図5では上記拘束バンド80の構成について説明する。即ち、上記拘束バンド80は一定の幅及び厚さを有するバンド部82と、該バンド部82を固定するためのバンド固定器具(バンドクランプ)84とを備えている。
【0029】
図6は上記DPF60の上流側端部に局所的に上記圧縮力が負荷されている場合の、DPF60Bについて説明した図である。即ち、ここに開示されるDPF60Bは、該DPF60Bを排気通路においた際に排ガスが流入する側(図中では「Fr側」と記載)の端面近傍の外周縁において、上記拘束バンド80が局所的に巻き付けられることにより、局所的に上記圧縮力が負荷されている。
また図7は上記DPF60の上流側端部および下流側端部の両方に局所的に上記圧縮力が掛けられている場合の、DPF60Cについて説明した図である。即ち、ここに開示されるDPF60Cは、上記上流側(Fr側)及び上記下流側(Rr側)の両端面近傍の外周縁において、上記拘束バンド80が局所的に巻き付けられ、上流側端部および下流側端部の両方に局所的に上記圧縮力が負荷されている。
【0030】
上記拘束バンド80は、上記DPF60の端面から少なくとも20mmよりも近い外周端部領域に上記拘束バンド80の一部が重なるように設置されることが好ましい。即ち、上記拘束バンド80の上記端面に近い方の端が、上記DPF60の端面から20mm以上離れている状態で巻き付けられることはあまり好ましくない。上記DPF60の端面と該端面に近い方の拘束バンド80の端までの距離が20mmより大きい場合、温度が急激に上昇して熱応力が発生し易いDPF端面近傍の部位と、上記圧縮力の負荷により熱応力緩和が可能である部位との重なりが小さくなるため、クラック発生抑制効果が低下しがちである。またウォールフロータイプのDPF60を用いた場合は、目封じ材が施され相対的に強度が増しているDPFの端面近傍部位と、上記拘束バンド80の巻き付け部位との重なりが小さくなるため、大きい圧縮力を負荷することができなくなり、クラック発生抑制効果が減少する虞がある。
上記DPF60の端面と該端面に近い方の拘束バンド80の端までの距離は15mm以下(さらには10mm以下、さらには5mm以下、例えば0mm以上3mm以下)であるとより好適である。
【0031】
また、上記拘束バンド80の幅は5mm以上20mm以下(より好適には6mm以上15mm以下、さらに好適には8mm以上13mm以下)であることが好ましい。上記拘束バンド80の幅が5mmより細すぎる場合、熱応力が発生するDPF60の部位に対して圧縮力の負荷部位の幅が小さすぎるために、クラック発生抑制効果が減少しがちである。また上記拘束バンド80の幅が50mmより広すぎる場合は、熱応力緩和の効果が飽和しており、さらに圧縮力の負荷に由来する別モードのクラック(例えばリングオフクラック)を誘発する虞がある。ここで上記リングオフクラックは上記DPF60の軸方向の伸縮を拘束した場合に起こり易い。
【0032】
上記圧縮力を掛けることにより上記DPF60に負荷される圧力(または圧縮応力)は、25℃において0.5MPa以上6MPa以下(より好適には1MPa以上5MPa以下、さらに好適には1.5MPa以上4MPa以下、例えば2MPa以上3MPa以下)であることが好適である。25℃における上記圧力が0.5MPaより小さすぎる場合、クラック発生の抑制効果が小さくなる虞がある。またこの場合、後述するように上記圧縮力を負荷する手段が金属製の拘束バンドである場合など、上記圧縮力の負荷器具が上記DPF60よりも熱膨張し易いものであった場合、上記DPF60が高温に加熱された場合に適当な圧縮力が負荷されなくなる虞がある。また25℃における上記圧力が6MPaより大きすぎる場合、DPF60を構成するハニカム構造体の強度を上回って上記圧縮力が負荷される虞があり、クラックまたは割れなどの欠陥発生の要因となり得る。
【0033】
上記圧縮力負荷のために使用する器具(典型的には拘束バンド80)はDPF60の外周縁に直接触れるように設置することが可能である。一方、該器具と該DPF60との間隙には、耐熱性のある(典型的には無機材料を主体とする)マットなどを緩衝材として挟み込んでもよい。上記緩衝材は、DPFと上記器具との接触部位において該器具により負荷される圧縮力を均一化する機能(即ち緩衝機能)を有するだけでなく、断熱機能を有するものであるとより好適である。かかる緩衝材(さらには断熱材)によると、PM再生時などに高温(例えば500℃程度)となる上記DPF60からの伝熱による上記器具の温度上昇を抑制することができ、上記器具の熱膨張による圧縮力低下が抑制される。上記緩衝材としては、アルミナ繊維またはシリカ繊維を主体とするセラミックマット、あるいはセラミックウールなどが好適に用いられる。
【0034】
次に、上記DPF60を用いて形成された排ガス浄化部40の一実施態様を図8に示す。ここに開示される排ガス浄化部40は、上記DPF60及び該DPF60の上流側に設置される酸化触媒(DOC)50、およびこれらが収容されて形成される触媒コンバータ90を備える。上記触媒コンバータ90は、上記DPF60及び酸化触媒50が、それぞれの胴部外周にマットやネットなどの保持部材92が配置された上で触媒コンバータケース94内に圧入収容されて形成される。
上記DPF60において、上記保持部材92は上記拘束バンド80を巻き付けた部位と重ならない部位に巻き付けられることが好ましい。具体的には上記保持部材92は、上記DPF60の両端面から15mm以上30mm以下(より好ましくは20mm以上25mm以下)離れた胴部外周において使用することが好ましい。
上記保持部材92は触媒コンバータケース94の中で上記DPF60、または上記酸化触媒50が移動し、触媒コンバータケース94と衝突することにより発生するDPF60または酸化触媒50のクラック、割れ等を防止することを主たる目的として使用されるものであり、従来、この種の目的で用いられているものを用いることができる。上記保持部材92としては、例えばアルミナ繊維またはシリカ繊維を主体とするセラミックマット、又は金属製ネットなどを好適に用いることができる。
【0035】
ここに開示されるDPF60をPM再生する方法としては、従来知られているような酸化触媒を用いた連続再生方法や、ヒーターやバーナーによる加熱再生方式等の技術により行うことができる。上記図8に示す排ガス浄化部40では、DPF60の上流側に配置された酸化触媒50に対し燃料が添加されることにより、該酸化触媒50において酸化熱が生じ、該酸化熱により下流側のDPF60が加熱される。上記DPF60が十分に高温となると堆積したPMが燃焼し、該DPF60のPM再生がなされる。
【0036】
以下、本発明に関するいくつかの実施例につき説明するが、本発明をかかる具体例に示
すものに限定することを意図したものではない。
【0037】
<実施例1>
セル数300cpsi(cells per square inch)、セル壁厚0.3mm、セル壁のピッチ1.47mm、容量3L、全長150mm、外径寸法160mmであり、気孔率が48%のコージェライト製ウォールフローDPFを用意した。該DPFのセル壁表面に所定量のアルミナ及び所定量の貴金属をコートした。
次に上記DPFの下流側端部において、中心方向への圧縮力を負荷するために拘束バンドを巻き付け固定した。具体的には上記DPFの軸方向に直交する端面のうち、該DPFを自動車の排気通路に設置したときに排ガスの流出側となる下流側端面近傍の外周縁に、幅9.6mm、厚さ0.5mmのステンレス製バンド(BAND−IT社製)を巻き付けた。このときDPFの上記下流側端面と、該端面に近い方のバンド端部との距離が5mmより大きくならないように配置した。上記バンドは常温(25℃)において、単位幅当たりS=163.5kg/cmの引っ張り力で締め付け、バンドに付属しているバンド締め具(バンドクランプ)によりバンドを固定することにより、上記引っ張り力を維持したままバンドを上記DPFに装着した。このときバンドクランプ部とDPFとの接触面(あるいは接触点)には少量のセラミックウールを挟み込み緩衝材とした。
【0038】
上述の様に、一定幅を有するバンド材料を用いて円柱形状(筒状)を有するDPFの外周縁の一部に圧縮応力を負荷した場合、バンド装着部においてDPFに掛かる圧力(面圧)(q)は上記単位幅当たりの引っ張り力(S)と、DPFの軸芯に直交する断面の半径(r)を用いて以下の様に算出される。
q=S/r=163.5(kg/cm)/8(cm)=20.4(kg/cm
=2.0MPa
本実施例のように、常温(25℃)において上記圧力(2.0MPa)を負荷した場合、例えPMの異常燃焼などによりバンド装着部のDPF外壁の温度が500℃まで昇温し、拘束バンド(ステンレス製)の熱膨張によりDPFに負荷される圧力が低下した場合であっても、該圧力(500℃)は0.5MPaを下回らないことを確認した。
上記製造方法により製造したバンド装着DPFを実施例1に係るDPFとする。
【0039】
<実施例2>
実施例1に係るDPFの上記製造方法において、バンドの装着部をDPFの下流側端部ではなく、上流側端部のみとしたDPFを製造した。具体的には、上記DPFの端面のうち、該DPFを自動車の排気通路に設置したときに排ガスの流入側となる上流側端面近傍の外周縁に、上記実施例1において用いたのと同様のバンド材を巻き付けて固定した。このときDPFの上記上流側端面と、該端面に近い方のバンド端部との距離は5mmより大きくならないように配置した。上記バンドによる引っ張り力、及び、常温(25℃)におけるバンド装着部において負荷される圧力は上記実施例1と同様とした。かかる製造方法により製造されたバンド装着DPFを実施例2に係るDPFとする。
<実施例3>
実施例1に係るDPFの上記製造方法において、バンドをDPFの下流側端部に加えて上流側端部にも装着(即ち、上流部と下流部の両端部にバンド装着)したDPFを製造した。具体的には実施例1と同様の下流側端部と、実施例2と同様の上流側端部の2箇所にバンドを装着したこと以外は、実施例1及び実施例2に係るDPFと同様の製造方法によりDPFを製造した。かかる製造方法により製造したバンド装着DPFを実施例3に係るDPFとする。
<比較例1>
上記実施例1において、DPFに対してバンドを装着しないこと以外は実施例1と同様にしたDPFを製造した。これを比較例1に係るDPFとする。
【0040】
<煤(PM)堆積試験>
上記DPFにおいてPMが十分量堆積し、該PMを燃焼させることによりDPFを再生させる必要がある状態を再現するため、上記実施例及び比較例に係るDPFをエンジン排気管に装着しPMを捕集させた。具体的には、まず、上記実施例及び比較例に係るDPFの外周に両端20mmを空けて保持用のアルミナマット約50g(厚さ約8mm)を巻き、該アルミナマットを巻いた状態のDPFを金属製コンバータケースに圧入保持した。
次に、上記触媒コンバータに保持されたDPFを2.2Lエンジンの排気管に装着し、エンジン回転数1800rpm、主噴射量15mm/st、トルク55N・m、入りガス温度250℃となるようにエンジンを回転させ、排ガスをDPFに流入させることにより煤の堆積量が所定量(例えばDPF1個当たり煤が5〜10gの範囲内の所定量)となるようにPMをDPFに捕集した。その後、上記DPFを300℃で2時間熱処理することにより堆積したPMから可溶性有機成分(SOF成分)を除去した。
【0041】
<非定常強制再生試験;DPF内温度測定とクラック発生の観測>
煤を所定量溜めたDPFに対し、該DPF内の温度を測定するために所定位置(後に詳述する。)に熱電対を設置し、再度エンジンの排気管に装着した。このとき上記図8に示すように該DPFの上流側である排気通路内に酸化触媒(DOC)を配置した。
上記酸化触媒は、セル数400cpsi、φ160mm×L100mm、容量2Lのハニカム基材に対して、アルミナ及びゼオライトを主体(120g/L)とし、白金2g/L、パラジウム1g/Lを混合したスラリーをコートし、乾燥後、350℃で1時間焼成させることにより製造した。
次に、エンジンを回転させ排ガスを排気通路内に流通させることにより酸化触媒(DOC)で酸化熱を発生させ、これにより下流側のDPFを加熱した。具体的にはまずエンジンをバイパス排管に接続し、エンジン回転数2000rpm、トルク100N・m、空気の質量流量(Ga)75±3g/秒となるようにエンジンを回転させたのち、排管をメイン排管に切り替え3分間保持した。その後、燃料添加前の触媒床温度であるベース床温が290℃である状態において、酸化触媒の上流から排気管へ燃料添加を開始し、酸化触媒で燃焼させることによりDPFを加熱した。
その後、DPFの入口における排ガス温度が680℃に達したところで直ちに燃料添加を止め、エンジン回転数を800rpm、空気質量流量(Ga)が9g/秒となるまで低下させた(いわゆるアイドリング状態にした)。上記操作により比較的低流量で酸素濃度の高いガスがDPF内に流入するため、DPF内に堆積したPMが一気に燃焼し、急速にDPF内床温が上昇する。
上記試験条件は、実車走行においてDPFを再生し始めたとき(即ちPMが堆積した状態でDPF入りガス温度が680℃近傍となったとき)に急減速または停車することによりDPF内の煤が一気に燃焼して熱暴走を起こす最悪な条件を模擬している。
上記、非定常強制再生試験時のDPF内の温度挙動、及び該試験が終了した後のクラック発生の有無を観測した。クラック発生の観測については、上記試験後に上記DPFを取り出し、該DPFの全体(特に下流端部付近、及び外周付近)を目視、または顕微鏡(光学顕微鏡または走査型電子顕微鏡)により観察することにより行った。
【0042】
<DPF内温度分布とクラック発生>
上記非定常強制再生試験を行っている時のDPF内部、及び外部における温度変化について測定した。ここで実施例及び比較例に係るDPF内に設置した熱電対の位置(16箇所)は図9に示す通りである。即ち、DPFの上流側(Fr側)端面の近傍に、DPFの軸芯に直交する断面である円の中心から端部に向かって、(1)〜(5)の順で合計5箇所に熱電対を設置した。またDPFの上流側端面と下流側端面の中間地点であるDPFの軸芯に直交する断面(以下「中間断面」ともいう。)において断面の中心から端部に向かって、(6)〜(10)の順で合計5箇所に熱電対を設置した。さらにDPFの下流側(Rr側)端面の近傍に、DPFの軸芯に直交する円形断面の中心から端部に向かって、(11)〜(15)の順で合計5箇所に熱電対を設置した。合わせて、上記DPFに対して排ガスが流入する入口付近のガス温度を測定するため、DPFの外部であって該DPFの上流側端面から約1cmの距離にある(16)の場所に熱電対を設置した。
上記熱電対により測定された非定常強制再生試験時におけるDPFの温度挙動について図10(実施例1)及び図11(比較例1)に示す。
図10は、実施例1に係るDPFにおいて、煤堆積量が8.3g/個と比較的多い場合における温度挙動を示す。図10では試験開始から約110秒後に、入りガス温度(16)が680℃に到達している。この時点で、燃料添加を直ちに止めたことにより、一旦、各箇所における温度は下降する傾向を示した。しかしながら、DPFの中間断面の中央部付近である(6)〜(8)、及び下流側端面の中央部付近である(11)〜(13)においては、温度が再び上昇する傾向を示し、試験開始から160〜220秒付近において温度の極大値を示した。DPF内で最も高い温度を示したのは下流側端面の中心付近である(11)あるいは(12)であり、その最高温度は約900℃に達した。これらの結果から煤が一定量堆積した場合における急速な煤の燃焼において、DPFの下流側端面中心部が最も高温に加熱され易い部位であることが確認された。
【0043】
上記実施例1に係るDPF(煤堆積量:8.3g/個)を上記試験後に取り出して、クラック発生の有無を観察した。その結果、上記DPFのいずれの部位においてもクラック等の欠陥は発生していないことが確認された。即ち、下流側端部にバンドを装着した場合(実施例1)では、DPF内の温度が急上昇し、その最高温度が約900℃に達した場合であっても熱応力によるクラックは発生しないことが確認された。また、本試験条件における煤堆積限界量(SML)は少なくとも8.3g/個であることが確認された。
【0044】
図11は、比較例1に係るDPFにおいて、煤堆積量が6.7g/個である場合における温度挙動を示す。試験開始から約110秒後に、入りガス温度(16)が680℃に到達し、その後、燃料添加を止めたことにより、DPFの中間断面の中央部(6)〜(8)、及び下流側断面の中央部(11)〜(13)において高い温度上昇を示した。最も高い温度を示したのは下流側端面の中心付近である(11)あるいは(12)であり、その最高温度は約850℃であった。
【0045】
上記比較例1に係るDPF(煤堆積量:6.7g/個)を上記試験後に取り出して、クラック発生の有無を観察した。その結果、下流側端面の外周部から中央部にかけてクラックが発生していることが確認された。この時の下流側端面の写真を図12に示す。図12において矢印はクラックが発生した部位を指し示している。
以上の結果より、バンドを装着していない場合においては、DPF内の最高温度が約850℃である場合であっても熱応力によりDPFの下流側端面においてクラックが発生することが確認された。また、本試験条件における煤堆積限界量(SML)は6.7g/個未満であることが明らかとなった。
【0046】
これらの結果より、バンドを下流側端面に装着することにより、PM(または煤)の急激燃焼による下流側端面付近の温度上昇に対して、クラック発生が抑制されることが確認された。またバンドの下流側端面装着により、SMLが向上(少なくとも1.24倍)することが確認された。
【0047】
<急冷試験>
次に、特にDPFの上流側端面におけるクラック発生に対して過酷な条件、即ち、上流側端面における高温からの急速な温度低下を実現し、該端面付近のクラック発生挙動を観測した。
具体的には実施例2、3、及び比較例1に係る合計3種類のDPF(即ち、上流側端部にバンド装着(実施例2)、上流側及び下流側の両端部にバンド装着(実施例3)、バンド非装着(比較例1))に対し、上記煤堆積試験と同様にして所定量の煤(5〜20g/個)を堆積させた。その後、上記非定常強制再生試験と同様に、上記DPF及びDOCをエンジンの排気管に装着し、エンジンを始動させることによりDPFの入りガス温度を680℃まで昇温させ、680℃に達した直後にイグニッションスイッチを切ってエンジンを停止させた。一般にDPFが再生温度(680℃)まで加熱された状態で上記のように直ちにエンジンが停止された場合、DPFの上流側端面近傍が急速に放冷され、上流側外周部において最大温度勾配が生じる。よってこの場合、DPFの上流側端部で熱応力によるクラックが発生し易い状態となる。
【0048】
<クラック発生挙動の観察結果>
上記急冷試験の後、排気通路からDPFを取り出しクラック発生の有無を観測した。その結果、実施例2及び実施例3に係るDPFでは煤の堆積量に関係なく、いずれの場合においてもクラックが発生していないことが確認された。これに対し比較例1に係るDPFでは、煤の堆積量に関係なく、いずれの場合においても上流側端面においてクラックが発生していることが確認された。
図13に比較例1に係るDPFの上記急冷試験の後における上流側端面の写真を示す。図13において矢印で指し示した部位にクラックが発生している。即ち、比較例1に係るDPFは上流側端面の外周に近傍する部分においてクラックが発生していることが判る。
これらの結果より、バンドを上流側端面に装着することにより、高温(680℃)のDPFを急速に放冷した場合であっても、上流側端面のクラック発生を抑制することができることが確認された。
【0049】
また、実施例3に係るDPF(即ち、上流側及び下流側の両端面に圧力を負荷したDPF)では、上記非定常強制再生試験及び上記急冷試験に係る結果より、最大煤堆積量(SML)が向上し、また下流側端面及び上流側端面におけるクラック発生も抑制されることが確認された。
【符号の説明】
【0050】
1 エンジン部
2 燃焼室
12 排気管
30 ECU(電子制御ユニット)
40 排ガス浄化部
50 酸化触媒(DOC)
60 ディーゼルパティキュレートフィルタ(DPF)
60A ディーゼルパティキュレートフィルタ(DPF)
60B ディーゼルパティキュレートフィルタ(DPF)
60C ディーゼルパティキュレートフィルタ(DPF)
70 ハニカム構造体
72 セル
80 拘束バンド
82 バンド部
84 バンド固定具(バンドクランプ)
90 触媒コンバータ
92 保持部材
94 触媒コンバータケース
100 排ガス浄化装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ディーゼル機関の排ガスを浄化するために、前記ディーゼル機関の排気通路に設置されて使用される筒状のディーゼルパティキュレートフィルタであって、
前記排気通路において前記排ガスが前記ディーゼルパティキュレートフィルタに流入する側を上流側とし、前記排ガスが前記ディーゼルパティキュレートフィルタ内を通過して流出する側を下流側としたとき、
前記パティキュレートフィルタの前記上流側および前記下流側のうちの少なくとも一方の外周端部において局所的に外方から中心方向に向けて圧縮力が掛けられていることを特徴とする、ディーゼルパティキュレートフィルタ。
【請求項2】
前記ディーゼルパティキュレートフィルタの外周端部において、前記局所的圧縮力が外周全域に亘って略一様に掛けられていることを特徴とする、請求項1に記載のディーゼルパティキュレートフィルタ。
【請求項3】
前記略一様の圧縮力は、拘束バンドで前記ディーゼルパティキュレートフィルタの外周を締め付けることにより実現されていることを特徴とする、請求項2に記載のディーゼルパティキュレートフィルタ。
【請求項4】
前記ディーゼルパティキュレートフィルタの端面から少なくとも20mmよりも近い外周端部領域に前記拘束バンドの一部が重なるように設置されることを特徴とする、請求項3に記載のディーゼルパティキュレートフィルタ。
【請求項5】
前記拘束バンドの幅が5mm以上20mm以下であることを特徴とする、請求項3または4に記載のディーゼルパティキュレートフィルタ。
【請求項6】
前記圧縮力を掛けることにより前記ディーゼルパティキュレートフィルタに負荷される圧力が25℃において1MPa以上5MPa以下であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一項に記載のディーゼルパティキュレートフィルタ。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載のディーゼルパティキュレートフィルタを備えることを特徴とする、排ガス浄化装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2013−24146(P2013−24146A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−160216(P2011−160216)
【出願日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】