説明

トルクヒンジ

【課題】付勢力の小さな付勢手段を用いた構成でありながら、高トルクでトルクのばらつきも少なく、配線スペースの確保も容易なトルクヒンジを提案すること。
【解決手段】トルクヒンジ10は、その回転軸線Lと重なる位置に貫通孔10Aが設けられ、円環状の第1摩擦板14A、第2摩擦板15Aと、第3摩擦板14B、第4摩擦板15Bの2対の摩擦板を、摩擦板固定部13aの表裏両側に一対ずつ配置して、これらを第1部材のフランジ部11bと、第2部材のフランジ部12aとの間に挟んでいる。フランジ部12aをフランジ部11bの側に付勢して摩擦板同士を圧接するための3つの付勢機構18が、トルクヒンジ10の回転軸線Lから外れた位置において周方向に均等配置されている。各付勢機構18は、円筒状のスリーブ20の外周に装着されたコイルバネ21を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧接状態にした摩擦部材間に生じる摩擦力を利用して予め設定したトルク以下の力では回転しないように構成したトルクヒンジに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、開閉式の蓋やディスプレイ等の各種の部品を角度調整可能に取り付けるためのヒンジとして、開閉時に蓋が急激に動くのを阻止したり、重量の大きいディスプレイが自重で倒れるのを防止するため、回転時に比較的大きいトルクを必要とするように構成したトルクヒンジが用いられている。特許文献1には、この種のトルクヒンジ(ヒンジ装置)が開示されている。
【0003】
特許文献1の車両用ディスプレイのヒンジ装置は、ディスプレイ取付部を有する第1ブラケットと、車体側に固定される固定部を有する第2ブラケットを備えており、第1ブラケットに設けられた第1フランジ部と、第2ブラケットに設けられた第2フランジ部とを対向させ、これらの間に円板状の摩擦部材を介在させている。摩擦部材の中央には貫通孔が空いており、この貫通孔にボルトが挿通されている。ボルトの頭部と摩擦部材との間には平ワッシャーおよび圧縮バネが取り付けられており、ボルトの先端は第1フランジ部の外側に配置されたナットに螺合されている。特許文献1では、このような構成により、ナットに対するボルトの螺合位置を変えて圧縮バネによる付勢力を調整することができるため、摩擦部材と第1フランジ部との間に適切な摩擦力を発生させるようにボルトの螺合位置を調整し、ヒンジ装置を回転させるために必要なトルクを適切な値に設定することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−96073号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、特許文献1のようなトルクヒンジにおいては、圧縮バネ1本のみで摩擦力を発生させているため、高トルクな構成(すなわち、大きな回転力(トルク)が加わってもヒンジの角度が変わらずに保持できる構成)にするためには、バネ定数の大きなバネ部品を用いなければならない。バネ定数の大きいバネ部品を用いる場合、組立作業が難しくなると共に、周辺部品の累積寸法公差などに起因するトルクのばらつきが大きくなってしまう。このため、トルク設定を高精度に管理するためには、周辺部品を含めて高精度な部品を用いなければならないという問題点がある。また、バネ部品自体が大型になるため、ヒンジの厚みが大きくなるという問題点もある。
【0006】
また、特許文献1のようにヒンジ中心をボルトおよび圧縮バネが通る構成では、ディスプレイへの配線をヒンジ中心から外れた部位に通さなければならず、ヒンジの外側に配線スペースを確保しなければならない。また、この場合、ヒンジ操作時に配線が引っ張られて動くおそれがあるため、これを考慮して配線にたるみを設ける必要があり、たるみの分だけ配線スペースを大きくしなければならない。
【0007】
本発明の課題は、このような点に鑑みて、付勢力の小さな付勢手段を用いた構成でありながら、高トルクな構成(回転時の必要トルクを大きくした構成)にすることができ、且つ、トルクのばらつきを小さくすることができ、更に、小型化に有利で、配線スペースの確保も容易なトルクヒンジを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するため、本発明は、2部材を回転軸線回りに予め設定したトルク以上のトルクで相対回転可能に連結するためのトルクヒンジであって、
前記回転軸線に直交する第1摩擦面が設けられた第1摩擦部材と、
前記第1摩擦面に対峙する第2摩擦面が設けられ、前記第1摩擦部材に対して前記回転軸線回りに相対回転可能な第2摩擦部材と、
前記第1摩擦部材を前記第2摩擦部材に向けて付勢して両摩擦部材を圧接することにより、両摩擦部材間に予め設定した摩擦力を発生させるための複数の付勢手段とを有し、
当該複数の付勢手段による付勢位置は、前記回転軸線上から外れた位置であって、且つ、周方向に分散して配置されていることを特徴としている。
【0009】
本発明では、このように、摩擦部材同士を圧接してトルクを生じさせるために複数の付勢手段を用いており、これらをヒンジの回転軸線上から外れた複数の付勢位置に分散配置している。このようにすると、個々の付勢手段については付勢力の小さなものを用いながら、全体としての圧接力を大きくして大きな摩擦力を生じさせることができる。特に、ヒンジ中心から離れた位置に付勢力を加えているため、ヒンジ中心に付勢力を集中させる場合に比べて、ヒンジ中心から遠い部分を大きな力で圧接でき、全体として大きな摩擦力を得ることができる。よって、付勢力の小さな部品(例えば、バネ定数の小さなバネ部品)のみを用いて高トルクなトルクヒンジを形成できる。
【0010】
また、このように、付勢力の小さな部品のみを用いることにより、周辺部品の累積寸法公差に起因するトルクのばらつきを抑制できると共に、組立作業を容易にすることもできる。また、付勢手段を小型化できる(例えば、バネ部品の寸法を小さくできる)ため、ヒンジの小型化に有利である。更に、ヒンジ中心に付勢部材を配置しないため、この部分を配線スペースとして利用できる。従って、ヒンジ操作によって引っ張りや変形が生じないように配線を配置でき、配線スペース自体も小さくできるという利点も得られる。
【0011】
本発明において、前記複数の付勢手段による付勢位置は前記回転軸線を中心とする同心円上において周方向に均等配置されていることが望ましい。このようにすると、摩擦部材を均等に付勢でき、摩擦力の偏りが少なくなるため、全体として大きな摩擦力を得ることができ、高トルクなトルクヒンジが得られる。また、均等に摩擦力が生じるため、磨耗等による劣化への耐久性も高い。
【0012】
また、前記複数の付勢手段による付勢位置が周方向に不均等な配置となっている場合には、各付勢手段による付勢位置及び付勢力を、各付勢位置の前記回転軸線からの距離に付勢力を乗じたモーメントが全体として釣り合うように設定することが望ましい。このようにすると、摩擦部材の相対的な傾きを抑制でき、付勢位置を不均等な配置としながらも、摩擦力の偏りを抑制することができる。従って、全体として大きな摩擦力を得ることができ、高トルクなトルクヒンジが得られる。
【0013】
ここで、各付勢手段を、当該付勢手段による付勢位置において前記回転軸線と平行に延びている円筒状部材と、当該円筒状部材の外周に装着されている付勢部材とを備える構成にすることができる。このようにすると、円筒状部材によって付勢部材の変形を規制して設定どおりの寸法および姿勢に保つことができるため、付勢力を正確に管理でき、付勢力のばらつきを抑制できる。また、付勢部材の取り付けを容易にすることもできる。
【0014】
この場合に、各円筒状部材は、各付勢位置に加えるべき付勢力に応じた長さをしており、各付勢部材が各円筒状部材の長さに応じた長さとなるように取り付けられた構成にすることができる。このように、付勢部材の長さを円筒状部材によって規定することにより、同一の付勢部材を用いながら、複数の付勢位置に異なる付勢力を加えることができる。例えば、コイルバネなどの弾性部材を円筒状部材の長さに応じた圧縮長さとなるように取り付けることにより、円筒状部材の長さ調整によって付勢力を調整することができる。
【0015】
また、本発明において、前記回転軸線と重なる位置に形成された貫通孔を有することが望ましい。このようにすると、ヒンジの回転軸線上に配線などを通すことができるため、ヒンジ操作時の配線の動きを抑制できるように配線を配置できる。よって、配線スペースを小さくでき、配線自体も短くできる。また、ヒンジの外部に配線スペースを設ける必要がなくなる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、ヒンジの回転軸線上から外れた複数の付勢位置に複数の付勢手段を分散配置することにより、個々の付勢手段については付勢力の小さなものを用いながら、高トルクなトルクヒンジを形成できる。また、付勢手段を分散配置したことにより、ヒンジ中心部分を配線を通すスペースとして利用できるという利点も得られる。加えて、付勢力の小さな部品(例えば、バネ定数の小さなバネ部品)のみを用いることにより、周辺部品の累積寸法公差に起因するトルクのばらつきを抑制できると共に、組立作業の容易化およびヒンジの小型化に有利である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明を適用したトルクヒンジを備えるプリンターの斜視図である。
【図2】トルクヒンジの分解斜視図である。
【図3】トルクヒンジの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照しながら、本発明を適用したトルクヒンジおよびこれを備えるプリンターの実施形態を説明する。
【0019】
(全体構成)
図1は本発明を適用したトルクヒンジを備えるプリンターの斜視図であり、図2はトルクヒンジの分解斜視図、図3はトルクヒンジの断面図である。プリンター1は、概略直方体状のプリンター本体部2と、プリンター本体部2の前面上端部分に角度調整可能に取り付けられた液晶表示装置3を備えている。液晶表示装置3は、所定の厚みを有する長方形の外装ケース4およびその内部に収容された液晶表示部5を備えている。液晶表示部5は、外装ケース4の上面中央に形成された開口4aから外部に見えるように配置された液晶表示面と、液晶表示面に重ねて配置されたタッチパネルを備えている。
【0020】
液晶表示装置3における外装ケース4の背面下端部には、背面側に向けて突出する左右一対のアームケース6A、6Bが設けられている。一方、プリンター本体部2の外装ケースの前面上端にはアームケース6A、6Bの間隔に対応する幅のアーム取付部7が形成されており、アームケース6A、6Bの間にアーム取付部7が挿入されている。アームケース6A、6Bの内部には、液晶表示装置3の装置フレームを固定するためのアーム部材8(図2、図3参照)が配置されている。一方、アーム取付部7内には、プリンター本体部2側の装置フレーム(図示省略)が配置されており、この装置フレームに対して液晶表示装置3のアーム部材8を回転可能に取り付けるためのトルクヒンジ10がアーム取付部7の左右の端部に配置されている。各トルクヒンジ10は、プリンター本体部2側の装置フレームとアーム部材8を水平な回転軸線Lを中心として相対回転可能に連結している。
【0021】
(トルクヒンジ)
トルクヒンジ10は、全体として回転軸線Lを中心とする概略円筒形をしており、その中央には配線ケーブル9を通すための貫通孔10A(図3参照)が設けられている。貫通孔10Aは、回転軸線Lと重なる位置に設けられ、貫通孔10Aの中心線が回転軸線Lと一致するように形成されている。トルクヒンジ10は、回転軸線L方向の一端側(図3のL1方向)の端部に配置された第1部材11と、他端側(図3のL2方向)の端部に配置された第2部材12と、これらの2部材間に一部分(後述する摩擦板固定部13a)が挟まれるように配置された第3部材13とを備えている。
【0022】
第1部材11は、貫通孔10Aを囲む円筒状の筒状部11aの一端に径方向に延びる円環状のフランジ部11bを設けた形状をしている。一方、第2部材12は、円環状のフランジ部12aと、その内周縁および外周縁からそれぞれ回転軸線L方向(第1部材11とは逆の側)に同軸状に延びる円筒形の内側筒状部12bおよび外側筒状部12cを備えている。図3に示すように、内側筒状部12bの内側に第1部材11の筒状部11aの先端部分が挿入されることにより、第1部材11と第2部材12が同軸状に組み立てられている。図2に示すように、内側筒状部12bと外側筒状部12cとの間には、第2部材12の端面にアーム部材8を取り付けるためのボス部12dや、後述する付勢機構18を囲む隔壁部12eなどが形成されている。
【0023】
第3部材13は、貫通孔10Aおよび筒状部11aと重なる部分に円形の開口が形成された円環状の摩擦板固定部13aと、その外周縁から延びている板状部分13bを備えている。板状部分13bは、上述したプリンター本体部2のアーム取付部7内に延びており、プリンター本体部2の装置フレームに支持されたヒンジ取付部材に対して摩擦板固定部13aを固定するための固定部材として機能する。摩擦板固定部13aは、筒状部11aの外周側に同軸状に装着されており、フランジ部11bとフランジ部12aの間に配置されている。
【0024】
トルクヒンジ10は、フランジ部11bと摩擦板固定部13aとの間に配置された第1摩擦板14A(第1摩擦部材)および第2摩擦板15A(第2摩擦部材)を備えている。第1摩擦板14Aおよび第2摩擦板15Aはいずれも円環状の板材であり、フランジ部11bと摩擦板固定部13aとの間に挟まれて、各部材の板面方向が回転軸線Lに対して垂直になるように配置されている。また、トルクヒンジ10は、第1摩擦板14Aおよび第2摩擦板15Aと同一構成の第3摩擦板14B(第1摩擦部材)および第4摩擦板15B(第2摩擦部材)を備えており、これらはフランジ部12aと摩擦板固定部13aとの間に配置されている。これらの2つの摩擦板も、フランジ部12aと摩擦板固定部13aとの間に挟まれて、各部材の板面方向が回転軸線Lに対して垂直になるように配置されている。第1摩擦板14A、第2摩擦板15A、第3摩擦板14B、第4摩擦板15Bの各摩擦板には、貫通孔10Aおよび筒状部11aと重なる部分に円形の開口か形成されており、この開口に筒状部11aを挿入することにより、各摩擦板が筒状部11aの外周側に同軸状に装着されている。
【0025】
第1摩擦板14Aは、第1部材11のフランジ部11bに対し、回転軸線Lを中心とする回転方向に回転不能に取り付けられている。同様に、第3摩擦板14Bは、第2部材12のフランジ部12aに対し、回転軸線Lを中心とする回転方向に回転不能に取り付けられている。一方、第2摩擦板15Aおよび第4摩擦板15Bは、摩擦板固定部13aのフランジ部11b側の面およびフランジ部12a側の各面に対し、回転軸線Lを中心とする回転方向に回転不能に取り付けられている。各摩擦板を取付相手に対して回転不能に取り付けるため、対向する面の一方に複数の凸形状を形成し、他方にこれに対応する複数の凹形状を形成して、これらを嵌合させている。
【0026】
このようにすると、第1部材11および第2部材12に対し、回転軸線Lを中心として摩擦板固定部13aを相対的に回転させたとき、第2摩擦板15Aおよび第4摩擦板15Bは摩擦板固定部13aと一体になって回転する。一方、第1摩擦板14Aと第3摩擦板14Bはそれぞれ第1部材11と第2部材12に回転不能に取り付けられているため、第1摩擦板14Aと第2摩擦板15A、および、第3摩擦板14Bと第4摩擦板15Bの2対の摩擦板が、その板面(すなわち、摩擦面)同士を接触させた状態で回転軸線Lを中心として相対回転することになる。
【0027】
第1摩擦板14Aの第2摩擦板15A側を向いた板面16a(第1摩擦面)と、板面16aに対峙する第2摩擦板15Aの板面17a(第2摩擦面)は、圧接されるとその間に摩擦力が生じるように構成されている。本例では、これらの板面16a、17aを摩擦面として機能させるため、第1摩擦板14Aおよび第2摩擦板15AとしてSUSなどのステンレス鋼板を用いている。なお、第1摩擦板14Aと第2摩擦板15Aの材質はこのようなものに限定されるものではなく、摩擦面として機能させるために適した特性を持つ材質のものであれば適宜使用できる。第3摩擦板14Bおよび第4摩擦板15Bの材質についても同様に、第3摩擦板14Bの第4摩擦板15B側を向いた板面16b(第1摩擦面)と、板面16bに対峙する第4摩擦板15Bの板面17b(第2摩擦面)が摩擦面として機能するように決定されている。
【0028】
ここで、トルクヒンジ10には、第2部材12のフランジ部12aを第1部材11のフランジ部11bの側に向けて付勢して、この付勢力によって上記の2対の摩擦板間に摩擦力を発生させるための付勢機構18(付勢手段)が3箇所に設けられている。これらの付勢機構18は、図2に示すように、回転軸線Lを中心とする同心円上において周方向に均等配置されている。各付勢機構18は、図3に示すように、回転軸線Lと平行な方向に延びているネジ部材19と、ネジ部材19が挿通されており、回転軸線Lと平行な方向に延びている円筒状のスリーブ20(円筒状部材)と、スリーブ20の外周に装着されているコイルバネ21(付勢部材)を備えている。コイルバネ21の端部とネジ部材19の頭部19aとの間にはワッシャー22が配置されている。
【0029】
第1部材11のフランジ部11bには、各付勢機構18に対応する3箇所の各位置にネジ孔23が形成されている。一方、第2部材12のフランジ部12aと、第1摩擦板14Aおよび第3摩擦板14Bの3部材におけるネジ孔23と同軸状に重なる位置には、それぞれ、ネジ孔23よりも一回り大きい貫通孔24a、24b、24cが形成されている。一方、フランジ部12aとフランジ部11bとの間に挟まれた5枚の部材のうち、摩擦板固定部13aおよびこれと共に回転する第2摩擦板15Aおよび第4摩擦板15Bには、それぞれ、周方向に所定の角度範囲で円弧状に延びる長孔25a、25b、25cが貫通孔24a、24b、24cおよびネジ孔23と重なるように形成されている。
【0030】
スリーブ20は、その一端が貫通孔24a、24b、24cおよび長孔25a、25b、25cに挿入されて、挿入された側の端面がフランジ部11bにおけるネジ孔23の縁部分に当接している。スリーブ20の他端は第2部材の内側筒状部12bと外側筒状部12cとの間に延びており、その先端位置は第2部材12の端面(すなわち、内側筒状部12bと外側筒状部12cの先端面)よりも一段低い位置となっている。スリーブ20に装着したコイルバネ21の上にワッシャー22を取り付け、ネジ部材19をスリーブ20内に挿入してネジ孔23にその先端を螺合させると、ワッシャー22を介して、ネジ部材19の頭部19aとフランジ部12aとの間にコイルバネ21が圧縮状態で装着される。
【0031】
スリーブ20の長さは、装着したコイルバネ21の長さをどの寸法まで圧縮するかを考慮して決定されている。本例では、スリーブ20の先端面にワッシャー22が当接するまでネジ部材19を締めることを想定しており、スリーブ20の先端からフランジ部12aまでの距離に等しい長さにコイルバネ21を圧縮して取り付けるようになっている。このため、スリーブ20が、コイルバネ21の装着時の長さを規定するためのスペーサーとして機能している。
【0032】
各付勢機構18は、その付勢位置において加えるべき付勢力が定められると、各付勢機構18で用いられているコイルバネ21の特性(バネ定数など)を考慮して、加えるべき付勢力が得られるように、スリーブ20の長さ(特に、フランジ部12aからの突出長さ)が決定されている。本例では、3つの付勢機構18による3つの付勢位置を、回転軸線Lを中心とする同心円上において周方向に均等配置するように設定しており、各付勢位置において等しい付勢力を加えるように構成している。このため、3つの付勢機構18は、コイルバネ21のバネ定数が同一であり、スリーブ20の長さも同一となっている。
【0033】
各付勢機構18のネジ部材19を規定位置(すなわち、ワッシャー22がスリーブ20の先端に当接する位置)まで締めることにより、各付勢位置において、フランジ部12aがフランジ部11b側に所定の付勢力で付勢され、これらの間に挟まれた部材同士が圧接される。これにより、第1摩擦板14Aが第2摩擦板15A側に付勢されると共に、第3摩擦板14Bが第4摩擦板15B側に付勢され、これらの2組の摩擦板が付勢力に応じた力で圧接されて、付勢力に応じた摩擦力が板面16a、17a間および板面16b、17b間に発生する。よって、このとき、トルクヒンジ10は、摩擦板固定部13aが設けられた第3部材13に対し、第1部材11および第2部材12を回転軸線Lを中心として相対回転させるためには、2組の摩擦面間に生じる摩擦力に応じたトルクが必要となる。
【0034】
図2に示すように、第2部材12における内側筒状部12bと外側筒状部12cの間には、付勢機構18を囲む隔壁部12eが3箇所に形成されており、隣接する隔壁部12eの中間位置にはボス部12dが形成されている。アームケース6A(6B)内に配置されたアーム部材8の端部には、3つのボス部12dに対応する各位置にネジ孔8aが形成されている。また、この端部には、ネジ孔8aとボス部12dとを重ねたときに貫通孔10A(内側筒状部12bによって規定される部分)と重なる位置に円形の開口8bが形成されており、更に、各付勢機構18のネジ部材19の頭部19aとの干渉を避けるための逃げ穴8cが形成されている。開口8bの縁から第2部材12の側に延びる筒状部を内側筒状部12bの内側に嵌め込み、各ネジ孔8aと各ボス部12dとを重ねて固定ネジ26(図3参照)を取り付けることにより、アーム部材8が第2部材12に対して固定される。
【0035】
以上のように、本例では、アーム部材8を介して液晶表示装置3を第2部材12に固定する一方、プリンター本体部2の装置フレームに対して第3部材13の板状部分13bを固定することにより、トルクヒンジ10を介して、液晶表示装置3が、プリンター本体部2に対し、水平な回転軸線Lを中心として回転可能に支持された状態を形成することができる。本例のトルクヒンジ10は、回転軸線L上から外れた位置に分散配置された3つの付勢機構18によって2対の摩擦板の間に予め設定した摩擦力を発生させ、これによって回転に必要なトルクが予め設定した値以上となるように構成されている。
【0036】
このようにすると、個々の付勢機構18をバネ定数の小さなコイルバネ21を用いて構成しながら、全体の圧接力を大きくして大きな摩擦力を生じさせることができる。特に、ヒンジ中心から離れた位置に均等に分散させて付勢力を加えているため、ヒンジ中心から遠い部分を大きな力で圧接でき、摩擦力を広い範囲で均等に発生させることができる。このため、全体として大きな摩擦力が得られる。よって、バネ定数の小さなコイルバネ21のみを用いる構成でありながら、高トルクなトルクヒンジ10を形成できる。また、バネ定数の小さなバネ部品は組立作業が容易であると共に、周辺部品の累積寸法公差に起因するトルクのばらつきが小さいため、高精度にトルクを管理できる。また、バネ部品の寸法を小さくできるため、トルクヒンジ10の回転軸線L方向の厚みを小さくできる。更に、ヒンジ中心に付勢機構18を配置しないため、この部分に貫通孔10Aを設けて配線スペースとして利用できる。従って、ヒンジ中心を通るように配線ケーブル9を配置でき、ヒンジの回転によって配線ケーブル9の引っ張りや変形が生じないようにすることができるため、配線を短くすることができ、配線スペース自体も小さくできるという利点が得られる。
【0037】
また、本例のトルクヒンジ10に用いられる付勢機構18は、円筒形のスリーブ20の外周にコイルバネ21を装着しているため、スリーブ20によってコイルバネ21の変形を規制して設定どおりの寸法および姿勢に保つことができる。従って、コイルバネ21による付勢力を正確に管理でき、付勢力のばらつきを抑制できる。また、コイルバネ21を正確な位置に容易に取り付けることができる。
【0038】
(改変例)
(1)上記実施形態では、付勢機構18による付勢位置を3箇所設定しているが、2箇所あるいは4箇所以上としてもよい。2箇所の場合には回転軸線Lを挟んで対称な位置に配置すればよく、4箇所以上のときには、3箇所の場合と同様に同心円上に配置し、且つ、周方向に均等配置すればよい。このように均等配置する場合には、各付勢機構18の付勢力を同一の値に設定することにより、均等に摩擦力を発生させることが望ましい。
【0039】
(2)複数の付勢機構18を不均等に配置しながら、摩擦力の偏りを抑制した構成にすることもできる。例えば、周方向に不均等に配置する場合には、付勢機構18の配置の偏りに応じて各付勢機構18の付勢力を調整することにより、摩擦力の偏りを抑制できる。例えば、各付勢位置の回転軸線Lからの距離に、当該付勢位置に加える付勢力を乗じて算出したモーメントが全体として釣り合うように各付勢機構18の付勢力を設定する。このようにすると、摩擦板同士の相対的な傾きを抑制でき、摩擦力をより均等に生じさせることができる。また、複数の付勢機構18を周方向に均等配置する一方、回転軸線Lからの距離が付勢機構18毎に異なるように構成した場合には、各付勢機構18の付勢力によるモーメントが一定の値になるように、各付勢機構18の付勢力を設定する。このようにした場合にも、摩擦力の偏りを抑制できる。
【0040】
このとき、付勢力の調整は、バネ定数の異なるコイルバネ21を用いる代わりに、スリーブ20の長さを調整することによって行うことができる。例えば、付勢力を大きくする場合にはスリーブ20を短くしてコイルバネ21の圧縮量を大きくし、付勢力を小さくする場合にはコイルバネ21の圧縮量が小さくなるようにスリーブ20の長さを調整すればよい。このようにすると、バネ定数の異なるバネ部品を準備する必要がない。また、バネ定数の異なるバネ部品を用いる場合よりも細かく付勢力を調整できる。
【0041】
(3)上記実施形態の付勢機構18は、付勢部材としてコイルバネ21を用いたものであったが、他の付勢部材を用いることもできる。例えば、皿バネやスプリングワッシャーを複数枚重ねたものを用いることもできる。
【符号の説明】
【0042】
1…プリンター、2…プリンター本体部、3…液晶表示装置、4…外装ケース、4a…開口、5…液晶表示部、6A、6B…アームケース、7…アーム取付部、8…アーム部材、8a…ネジ孔、8b…開口、8c…逃げ穴、9…配線ケーブル、10…トルクヒンジ、10A…貫通孔、11…第1部材、11a…筒状部、11b…フランジ部、12…第2部材、12a…フランジ部、12b…内側筒状部、12c…外側筒状部、12d…ボス部、12e…隔壁部、13…第3部材、13a…摩擦板固定部、13b…板状部分、14A…第1摩擦板(第1摩擦部材)、14B…第3摩擦板(第1摩擦部材)、15A…第2摩擦板(第2摩擦部材)、15B…第4摩擦板(第2摩擦部材)、16a…板面(第1摩擦面)、16b…板面(第1摩擦面)、17a…板面(第2摩擦面)、17b…板面(第2摩擦面)、18…付勢機構(付勢手段)、19…ネジ部材、19a…頭部、20…スリーブ(円筒状部材)、21…コイルバネ(付勢部材)、22…ワッシャー、23…ネジ孔、24a、24b、24c…貫通孔、25a、25b、25c…長孔、26…固定ネジ、L…回転軸線




【特許請求の範囲】
【請求項1】
2部材を回転軸線回りに予め設定したトルク以上のトルクで相対回転可能に連結するためのトルクヒンジであって、
前記回転軸線に直交する第1摩擦面が設けられた第1摩擦部材と、
前記第1摩擦面に対峙する第2摩擦面が設けられ、前記第1摩擦部材に対して前記回転軸線回りに相対回転可能な第2摩擦部材と、
前記第1摩擦部材を前記第2摩擦部材に向けて付勢して両摩擦部材を圧接することにより、両摩擦部材間に予め設定した摩擦力を発生させるための複数の付勢手段とを有し、
当該複数の付勢手段による付勢位置は、前記回転軸線上から外れた位置であって、且つ、周方向に分散して配置されていることを特徴とするトルクヒンジ。
【請求項2】
請求項1において、
前記複数の付勢手段による付勢位置は前記回転軸線を中心とする同心円上において周方向に均等配置されていることを特徴とするトルクヒンジ。
【請求項3】
請求項1において、
前記複数の付勢手段による付勢位置は周方向に不均等に配置されており、
各付勢手段による付勢位置及び付勢力は、各付勢位置の前記回転軸線からの距離に付勢力を乗じたモーメントが全体として釣り合うように設定されていることを特徴とするトルクヒンジ。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかの項において、
各付勢手段は、
当該付勢手段による付勢位置において前記回転軸線と平行に延びている円筒状部材と、
当該円筒状部材の外周に装着されている付勢部材とを備えることを特徴とするトルクヒンジ。
【請求項5】
請求項4において、
各円筒状部材は、各付勢位置に加えるべき付勢力に応じた長さをしており、
各付勢部材が各円筒状部材の長さに応じた長さとなるように取り付けられていることを特徴とするトルクヒンジ。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれかの項において、
前記回転軸線と重なる位置に形成された貫通孔を有することを特徴とするトルクヒンジ。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−64460(P2013−64460A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−204298(P2011−204298)
【出願日】平成23年9月20日(2011.9.20)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】